JP2009148211A - D−アラビトールの発酵製造方法及びその実施に用いる微生物 - Google Patents
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Abstract
【課題】油脂産業において大量に副生成するグリセロールを有効利用し、これを主原料として機能性糖質であるD−アラビトールを安価で効率良く発酵生産する方法、及びそれを効率的に実施するために用いる微生物の提供。
【解決手段】グリセロールを炭素源とした液体培地において、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、ピヒア・スチピチス(Pichia stipitis)、メチニコビア・ゾベリ(Metschnikowia zobelli)又はメチニコビア・ルナタ(Metschnikowia lunata)から選択される少なくとも1種の微生物を培養する、D−アラビトールの製造方法。
【選択図】なし
【解決手段】グリセロールを炭素源とした液体培地において、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、ピヒア・スチピチス(Pichia stipitis)、メチニコビア・ゾベリ(Metschnikowia zobelli)又はメチニコビア・ルナタ(Metschnikowia lunata)から選択される少なくとも1種の微生物を培養する、D−アラビトールの製造方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、グリセロール、特に油脂産業等の副産物として大量に生成される安価なグリセロールを主原料として微生物培養の培地に用いることで、機能性糖質であるD−アラビトールを効率的に発酵生産するD−アラビトールの製造方法、及びその方法を効率良く実施するために用いる微生物に関するものである。
D−アラビトールは、従来D−アラビノースの化学的還元方法によって製造されてきた糖アルコールである。出発原料であるD−アラビノース自体が高価な糖であり、その結果D−アラビトールも非常に高価なものとなっていた。しかしながら、D−アラビトールは、主として化学試薬として用いられる需要の少ない化合物であることから、従来コスト高に関してはあまり重要視されてはいなかった。
しかし、昨今、糖アルコールの機能に対する関心が高まってきており、今後の需要拡大が予想されている。例えばその引き金となったキシリトールは、ショ糖よりもカロリーが低く、かつショ糖に匹敵する甘味を呈するため低カロリー甘味料として将来有望であるだけでなく、抗う蝕性を有することから虫歯予防甘味料としても利用されている。さらに、キシリトールは血糖値を上昇させないため、糖尿病治療の際の輸液としても利用されている。
同様に、D−アラビトールもそれ自体、保湿効果のある機能性素材として、また抗う蝕性を有する甘味料としての有用性が見出されている。さらに、D−アラビトールは、既に大きな需要のある上記キシリトール製造の出発原料としても利用できることが報告されており(特許文献1、2、非特許文献1)、極めて有用な糖質として今後の需要拡大が見込まれている。
しかし上述の通り、D−アラビトールは非常に高価であるため、昨今の需要の高まりに応じて、高価なD−アラビノースを出発原料としない方法、例えば、安価な原料を用いた発酵法の検討が進められている。グルコース、フルクトース等の極めて安価な糖質を原料とするD−アラビトールの生産に関する微生物として、例えばデバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)(非特許文献2)、メチニコビア(Metschnikowia)属(特許文献3)、キャンディダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)(特許文献4)等に属する酵母菌が報告されている。これらの発酵法は経済性が高く、グルコースやフルクトースから特異的に、D−アラビトールのみを生産できることから、反応後、D−アラビトールを非常に容易に分離できる。
一方、昨今地球温暖化防止対策、持続可能な社会の育成という観点から、バイオマスエネルギーの利用促進が進められ、バイオエタノールの生産原料として膨大な量の糖質が利用されるようになり、糖質原料の価格高騰が進んでいる。今やグルコースは決して安価な原料とは言えない状況にある。対照的に、同じ再生可能な天然資源として植物油を原料とする素材開発、バイオディーゼルの生産等の分野においては、副産物として大量にグリセロールが生産されている。これら余剰のグリセロールは、今後も増加の一途をたどると予想され、その処理、又は有効利用方法の開発が望まれている。
最近では上述の時代背景も相まって、グリセロールを発酵原料として機能性物質を生産する研究も活発に進められている。ここで注目すべき報告例として、グリセロールを原料として上記D−アラビトールを発酵生産する製造方法に関する古い報告例(特許文献5、非特許文献3)が挙げられる。ここでは、キャンディダ・ポリモルファ(Candida polymorpha)、サッカロミセス・ルキシー(Saccharomyces rouxii)、トルロプシス・ハマタ(Torulopsis famata)に属する微生物を用い、グリセロールを主たる炭素原料とした培地中でD−アラビトールの発酵生産を行っているが、その生産量は十分とは言えなかった。また上記3例以外の微生物によるグリセロールを原料としたD−アラビトールの発酵生産例は無い。
上記事情を鑑みて、本発明では、より安価な原料であるグリセロール、特に油脂産業において大量に副生成するグリセロールを主原料として用いることで、機能性糖質であるD−アラビトールを安価で効率良く発酵生産する方法、及びそれを効率的に実施するために用いる微生物の提供を目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、環境中からスクリーニングしてきた微生物及びその類縁菌等を用い、主原料としてグリセロールを添加した液体培地で培養することで、D−アラビトールを従来の発酵生産方法よりも高い収量で安価に生産できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔9〕に示される。
〔1〕グリセロールを炭素源とした液体培地において、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、ピヒア・スチピチス(Pichia stipitis)、メチニコビア・ゾベリ(Metschnikowia zobelli)又はメチニコビア・ルナタ(Metschnikowia lunata)から選択される少なくとも1種の微生物を培養する、D−アラビトールの製造方法。
〔2〕キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)が、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)である、〔1〕に記載のD−アラビトールの製造方法。
〔3〕微生物が、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)である、〔1〕に記載のD−アラビトールの製造方法。
〔4〕グリセロールが、植物油の分解又はエステル交換の副生成物である、〔1〕から〔3〕のいずれか1つに記載のD−アラビトールの製造方法。
〔5〕37℃で生育が可能である、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
〔6〕ビタミン欠乏培地で生育が可能である、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
〔7〕L-アラビニトール資化性を有する、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
〔8〕37℃で生育が可能であり、ビタミン欠乏培地で生育が可能であり、かつL-アラビニトール資化性を有する、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
〔9〕微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)。
〔1〕グリセロールを炭素源とした液体培地において、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、ピヒア・スチピチス(Pichia stipitis)、メチニコビア・ゾベリ(Metschnikowia zobelli)又はメチニコビア・ルナタ(Metschnikowia lunata)から選択される少なくとも1種の微生物を培養する、D−アラビトールの製造方法。
〔2〕キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)が、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)である、〔1〕に記載のD−アラビトールの製造方法。
〔3〕微生物が、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)である、〔1〕に記載のD−アラビトールの製造方法。
〔4〕グリセロールが、植物油の分解又はエステル交換の副生成物である、〔1〕から〔3〕のいずれか1つに記載のD−アラビトールの製造方法。
〔5〕37℃で生育が可能である、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
〔6〕ビタミン欠乏培地で生育が可能である、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
〔7〕L-アラビニトール資化性を有する、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
〔8〕37℃で生育が可能であり、ビタミン欠乏培地で生育が可能であり、かつL-アラビニトール資化性を有する、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
〔9〕微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)。
本発明によれば、安価な原料であるグリセロール、特に油脂産業等の副産物、あるいは産業廃棄物として大量に生成される安価なグリセロールを主原料として、付加価値の高いD−アラビトールを生産することができる。これまで、グルコース、フルクトース、スクロース等の糖質を原料とする製造技術の報告はあったが、さらに安価な原料であるグリセロールを用いることで、より低価格でD−アラビトールを市場に提供することができる。
グリセロールを原料としてD−アラビトールを生産する能力を有する微生物は、これまでに、キャンディダ・ポリモルファ(Candida polymorpha)、サッカロミセス・ルキシー(Saccharomyces rouxii)、トルロプシス・ハマタ(Torulopsis famata)に属する微生物の3例が報告されているが、本発明で用いる微生物はこれらを上回る収量でD−アラビトールを生産することが可能であり、また低純度のグリセロールからも生産可能である。
特に、昨今の時代背景から、上記糖質の価格高騰が予想されるのに対して、余剰グリセロールの生成量は増加の一途をたどると予想されることから、本発明を利用することによるD−アラビトールの価格低下に対する効果は極めて大きい。
また同時に、本発明は、これまで利用方法の限られていた、産業界における余剰グリセロールの処理及び有効利用に向けた一つの方法を提供するものであり、天然資源の効率的循環に大きく貢献するものである。
グリセロールを原料としてD−アラビトールを生産する能力を有する微生物は、これまでに、キャンディダ・ポリモルファ(Candida polymorpha)、サッカロミセス・ルキシー(Saccharomyces rouxii)、トルロプシス・ハマタ(Torulopsis famata)に属する微生物の3例が報告されているが、本発明で用いる微生物はこれらを上回る収量でD−アラビトールを生産することが可能であり、また低純度のグリセロールからも生産可能である。
特に、昨今の時代背景から、上記糖質の価格高騰が予想されるのに対して、余剰グリセロールの生成量は増加の一途をたどると予想されることから、本発明を利用することによるD−アラビトールの価格低下に対する効果は極めて大きい。
また同時に、本発明は、これまで利用方法の限られていた、産業界における余剰グリセロールの処理及び有効利用に向けた一つの方法を提供するものであり、天然資源の効率的循環に大きく貢献するものである。
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。
〈D−アラビトールの製造に使用できる微生物〉
本発明を実施するために使用する微生物としては、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、ピヒア・スチピチス(Pichia stipitis)、メチニコビア・ゾベリ(Metschnikowia zobelli)、またはメチニコビア・ルナタ(Metschnikowia lunata)から選択される少なくとも1種の微生物が挙げられる。また、これらの微生物を常法に基づき得られた変異株も包含する。
〈D−アラビトールの製造に使用できる微生物〉
本発明を実施するために使用する微生物としては、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、ピヒア・スチピチス(Pichia stipitis)、メチニコビア・ゾベリ(Metschnikowia zobelli)、またはメチニコビア・ルナタ(Metschnikowia lunata)から選択される少なくとも1種の微生物が挙げられる。また、これらの微生物を常法に基づき得られた変異株も包含する。
さらに、本発明者らは、上記キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)の中でも、沖縄県那覇市で採取した植物(花)サンプルから新規に発見されたキャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)が、グリセロールからD−アラビトールを選択的に生産する能力を有することを見出し、本発明でより有効に利用できることを突き止めた。従って、本発明の方法においては、このキャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)を、上記他の微生物と組み合わせて、又は単独で用いることもできる。以下、この新規株の菌学的性質について説明する。
〈17-2A株の菌学的性質〉
17-2A株は、YM寒天培地上にて25℃、4日間培養することで、直径が2〜3mm程度のコロニーを形成する(形:円形、***状態:クッション形、周縁:ほぼ全縁、表面の形状:平滑または僅かに皺状、色調:白色からクリーム色、光沢および性状:白亜状、バター様)。さらに、光学顕微鏡による微視的形態性状観察によれば、上記培養4日後の本菌株の栄養細胞は楕円形であり、多極出芽により増殖することが確認される。また、偽菌糸の形成も認められる。なお、培養1ヶ月経過した培地上で有性生殖器官の形成は認められない。
17-2A株は、YM寒天培地上にて25℃、4日間培養することで、直径が2〜3mm程度のコロニーを形成する(形:円形、***状態:クッション形、周縁:ほぼ全縁、表面の形状:平滑または僅かに皺状、色調:白色からクリーム色、光沢および性状:白亜状、バター様)。さらに、光学顕微鏡による微視的形態性状観察によれば、上記培養4日後の本菌株の栄養細胞は楕円形であり、多極出芽により増殖することが確認される。また、偽菌糸の形成も認められる。なお、培養1ヶ月経過した培地上で有性生殖器官の形成は認められない。
17-2A株は、リボソームRNA遺伝子の26SrDNA-D1/D2領域の塩基配列(rDNA配列)を決定し、アポロンDB-FU(Ver.1.0)並びに国際塩基配列データベースを用いてBLAST相同性検索(S.F., Altschulら、Nucleic Acids Research, 25, 3389-3402 (1997))を行ったところ、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)のrDNA配列と99.8 %一致した。本菌株の分子系統樹を図1に示す。さらに、本菌株の生理性状試験の結果(表1)を合わせて、本菌株をキャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A株と命名した。本菌株は、平成19(2007)年10月30日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD)(茨城県つくば市東1−1−3)に受託番号FERM P-21420として寄託されている。従来のキャンディダ・クエルシトルーサは、L−アラビニトールの資化能を示さず、ビタミン欠乏培地での生育及び37℃での生育を示さない(Kurtzman, C. P. and Fell, J. W. 1998. The Yeasts, a taxonomic study, 4th edition, Elsevier, Amsterdam, Netherlands)。これに対して本菌株は、L−アラビニトール資化能を有し、ビタミン欠乏培地での生育及び37℃での生育を示す。従って、本菌株は、L−アラビニトール資化能を有することにより利用可能な栄養源の種類が増え、ビタミン欠乏培地での生育を示すことにより貧栄養培地中での培養が可能となる。さらに、37℃での生育を示すことにより、一般的に発熱を伴う、微生物を用いた発酵生産において、従来のキャンディダ・クエルシトルーサを用いた場合のように冷却の工程を必要とせず、コストを軽減できる。以上のように、本菌株は、発酵生産を行う上で優れた利点を有する。
〈D−アラビトールの製造方法〉
本発明のD−アラビトールの製造方法は、上記の微生物を、グリセロールを炭素源とした培地で培養することにより行う。該方法の詳細を以下に記載する。
〈培地、培養条件〉
本発明では、上記の微生物の少なくとも1種又は2種以上を、液体培地中で好気的に培養することが望ましい。
前記液体培地は、溶媒、例えば水に、炭素源、窒素源、無機塩類、ビタミン等の栄養素を添加したものを用いることができる。
本発明のD−アラビトールの製造方法においては、主な炭素源として、グリセロールを使用する。前記グリセロールは、市販の高純度のグリセロール試薬を用いることができるが、本発明においては特に、油脂産業などにおいて植物油の分解又はエステル交換の副生成物として生成する廃グリセロールをそのまま用いることが可能である。さらに、活性炭処理などによって廃グリセロールに含有する微生物生産阻害物(微量金属など)を除去して培養液に使用すればなお良い。具体的には、上記廃グリセロールに活性炭素(和光純薬工業製、顆粒状)(例えば廃グリセロール1Lに対して200〜500g)を加え、室温にて60分以上撹拌後、ろ過によって活性炭素を除去したろ液分を活性炭処理済み廃グリセロールとして用いることが望ましい。液体培地に添加されるグリセロール純分の濃度条件は50〜500 g/L、好ましくは100〜400g/L、さらに好ましくは150〜350g/L、最も好ましくは200〜300g/Lの範囲で使用されることが好ましい。グリセロールを、例えば初期に100〜400g/L添加し、その後培養2〜4日間隔で100〜200g/Lずつ段階的に追加することもできる。また、グリセロールに加えて、本発明の実施に用いる微生物が資化可能な一般的に用いられる糖類、例えばグルコース、ガラクトース、スクロース等、または糖蜜などを10〜50g/L程度添加することで炭素源として併用しても良い。
本発明のD−アラビトールの製造方法は、上記の微生物を、グリセロールを炭素源とした培地で培養することにより行う。該方法の詳細を以下に記載する。
〈培地、培養条件〉
本発明では、上記の微生物の少なくとも1種又は2種以上を、液体培地中で好気的に培養することが望ましい。
前記液体培地は、溶媒、例えば水に、炭素源、窒素源、無機塩類、ビタミン等の栄養素を添加したものを用いることができる。
本発明のD−アラビトールの製造方法においては、主な炭素源として、グリセロールを使用する。前記グリセロールは、市販の高純度のグリセロール試薬を用いることができるが、本発明においては特に、油脂産業などにおいて植物油の分解又はエステル交換の副生成物として生成する廃グリセロールをそのまま用いることが可能である。さらに、活性炭処理などによって廃グリセロールに含有する微生物生産阻害物(微量金属など)を除去して培養液に使用すればなお良い。具体的には、上記廃グリセロールに活性炭素(和光純薬工業製、顆粒状)(例えば廃グリセロール1Lに対して200〜500g)を加え、室温にて60分以上撹拌後、ろ過によって活性炭素を除去したろ液分を活性炭処理済み廃グリセロールとして用いることが望ましい。液体培地に添加されるグリセロール純分の濃度条件は50〜500 g/L、好ましくは100〜400g/L、さらに好ましくは150〜350g/L、最も好ましくは200〜300g/Lの範囲で使用されることが好ましい。グリセロールを、例えば初期に100〜400g/L添加し、その後培養2〜4日間隔で100〜200g/Lずつ段階的に追加することもできる。また、グリセロールに加えて、本発明の実施に用いる微生物が資化可能な一般的に用いられる糖類、例えばグルコース、ガラクトース、スクロース等、または糖蜜などを10〜50g/L程度添加することで炭素源として併用しても良い。
窒素源としては、微生物により利用可能な窒素化合物、例えば有機物(酵母エキス、ペプトン、麦芽エキス、カザミノ酸、コーンスチープリカー、アミノ酸、尿素など)、無機物(硝酸ナトリウム等の硝酸塩、アンモニウム塩など)のいずれかを単独、または混合して使用でき、発酵生産性を高める観点から酵母エキスを好適に用いることができる。
無機塩類は、ミネラル分として、リン酸塩類、カルシウム塩類(例えば塩化カルシウム)、マグネシウム塩類、マンガン塩類、鉄分、亜鉛分などのいずれかを単独、または混合して使用してもよい。さらに、各種のビタミン、消泡剤なども必要に応じて適宜選択添加することができ、その使用は常法の通りにすればよい。
本発明の方法においては、上記窒素源の濃度を、0.1〜20g/L、好ましくは1〜10g/L、さらに好ましくは5〜9g/L、最も好ましくは6〜8g/Lの範囲とすることが、発酵生産性を高める観点から好ましい。また、上記カルシウム塩類の濃度を、0.1〜20g/L、好ましくは0.2〜10g/L、さらに好ましくは0.5〜2g/Lの範囲とすることが、発酵生産性を高める観点から好ましい。
以下、上記のようなD−アラビトールを生産するために使用する培地を、「D−アラビトール製造培地」と言う。
無機塩類は、ミネラル分として、リン酸塩類、カルシウム塩類(例えば塩化カルシウム)、マグネシウム塩類、マンガン塩類、鉄分、亜鉛分などのいずれかを単独、または混合して使用してもよい。さらに、各種のビタミン、消泡剤なども必要に応じて適宜選択添加することができ、その使用は常法の通りにすればよい。
本発明の方法においては、上記窒素源の濃度を、0.1〜20g/L、好ましくは1〜10g/L、さらに好ましくは5〜9g/L、最も好ましくは6〜8g/Lの範囲とすることが、発酵生産性を高める観点から好ましい。また、上記カルシウム塩類の濃度を、0.1〜20g/L、好ましくは0.2〜10g/L、さらに好ましくは0.5〜2g/Lの範囲とすることが、発酵生産性を高める観点から好ましい。
以下、上記のようなD−アラビトールを生産するために使用する培地を、「D−アラビトール製造培地」と言う。
〈D−アラビトール製造方法の例〉
例えばD-グルコース10 g/L、酵母エキス3 g/L、麦芽エキス3 g/L、ペプトン5 g/Lを含む寒天培地で生育させた前記微生物の菌体を、D−アラビトール製造培地に直接接種するか、又は別に前培養によって得られる種培養液を、D−アラビトール製造培地に接種することにより行う。この種培養液の調製は、例えば殺菌したグリセロール10 g/L、酵母エキス3 g/L、麦芽エキス3 g/L、ペプトン5 g/Lを含む液体培地に、上記寒天培地上の菌体を1白金耳接種して25〜30℃で20〜30時間好気的に培養することにより行われる。D−アラビトールを製造するための培養(本培養)の培養温度は、20〜40℃で行われるが、好ましくは25〜34℃の範囲である。D−アラビトール製造培地のpHは通常3〜10、好ましくは5〜8で調整される。培養期間は使用するグリセロールの濃度により異なるため、3〜14日の範囲でグリセロール消費量に対する菌体増殖量とD−アラビトール生産量が定常状態に落ち着く最も効果的な時期に終了させることが望ましい。
例えばD-グルコース10 g/L、酵母エキス3 g/L、麦芽エキス3 g/L、ペプトン5 g/Lを含む寒天培地で生育させた前記微生物の菌体を、D−アラビトール製造培地に直接接種するか、又は別に前培養によって得られる種培養液を、D−アラビトール製造培地に接種することにより行う。この種培養液の調製は、例えば殺菌したグリセロール10 g/L、酵母エキス3 g/L、麦芽エキス3 g/L、ペプトン5 g/Lを含む液体培地に、上記寒天培地上の菌体を1白金耳接種して25〜30℃で20〜30時間好気的に培養することにより行われる。D−アラビトールを製造するための培養(本培養)の培養温度は、20〜40℃で行われるが、好ましくは25〜34℃の範囲である。D−アラビトール製造培地のpHは通常3〜10、好ましくは5〜8で調整される。培養期間は使用するグリセロールの濃度により異なるため、3〜14日の範囲でグリセロール消費量に対する菌体増殖量とD−アラビトール生産量が定常状態に落ち着く最も効果的な時期に終了させることが望ましい。
〈D−アラビトールの定量、回収、精製〉
培養液中のD−アラビトールの生成量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やガスクロマトグラフィーなどの周知の方法を用いて測定することができる。得られた培養液中からのD−アラビトールの単離、精製に関しては、ろ過、遠心分離、イオン交換または吸着クロマトグラフィー、溶媒抽出、結晶化などの通常用いられる操作を必要に応じて適宜組み合わせて行われる。例えば、遠心分離などにより培養液から菌体を除去し、次いでこの液を活性炭で処理して着色物質などを除き、さらにイオン交換樹脂により脱塩した後、濃縮したシロップから例えばエタノール、アセトンなどの有機溶媒の存在、非存在下で晶析することにより、純粋なD−アラビトールの結晶を得ることができる。
以下に、実施例および比較例を示して本発明を説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。また、濃度(g/L)で示す場合には、全て培養液1Lに対する物質の純分の濃度を意味する。また、以下に特に記載しない限り、全ての培養を好気的条件下で行った。
培養液中のD−アラビトールの生成量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やガスクロマトグラフィーなどの周知の方法を用いて測定することができる。得られた培養液中からのD−アラビトールの単離、精製に関しては、ろ過、遠心分離、イオン交換または吸着クロマトグラフィー、溶媒抽出、結晶化などの通常用いられる操作を必要に応じて適宜組み合わせて行われる。例えば、遠心分離などにより培養液から菌体を除去し、次いでこの液を活性炭で処理して着色物質などを除き、さらにイオン交換樹脂により脱塩した後、濃縮したシロップから例えばエタノール、アセトンなどの有機溶媒の存在、非存在下で晶析することにより、純粋なD−アラビトールの結晶を得ることができる。
以下に、実施例および比較例を示して本発明を説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。また、濃度(g/L)で示す場合には、全て培養液1Lに対する物質の純分の濃度を意味する。また、以下に特に記載しない限り、全ての培養を好気的条件下で行った。
(実施例1)
(廃グリセロールを用いたD−アラビトール生産)
(廃グリセロールを用いたD−アラビトール生産)
グリセロールからD−アラビトールを生産する微生物として、キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を使用した。
上記の菌株を、D-グルコース10g/L、酵母エキス3g/L、麦芽エキス3g/L、ペプトン5g/L、寒天20g/Lを含む寒天培地で培養し、菌体1白金耳を種培養培地(グリセロール10g/L、酵母エキス3g/L、麦芽エキス3g/L、ペプトン5g/L、121℃で20分間滅菌)5mLを含む試験管に接種し、28℃、150rpmで24時間振とう培養し、これを種培養液とした。
この種培養液1 Lを、D−アラビトール製造培地(活性炭処理済み廃グリセロール250 g/L、酵母エキス6 g/L、リン酸二水素カリウム1g/L、pH6.5、121℃で20分間滅菌)30mLを含む300mL容三角フラスコに接種し、28℃、250rpmで7日間振とう培養した。なお、ここで用いた活性炭処理済み廃グリセロールとは、植物油脂のエステル交換反応で副生成する廃グリセロール液(ライオン株式会社製廃グリセロール グリセロール分85質量%)を2倍に希釈し、これに活性炭(和光純薬工業製、顆粒状)を40質量%(対グリセロール)加えて室温、1時間撹拌し、ろ過によって活性炭を除去したろ液のことである。以下、特に記載がない場合、「活性炭処理済みグリセロール」と記載する場合には、前記処理を行ったグリセロールを意味するものとする。なお、活性炭処理の前後において、グリセロールの濃度に変化は無かった。
培養液中に生成したアラビトール濃度の測定は、一部採取した培養液から遠心分離により菌体を除去した後、その上清を適宜希釈し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供することにより測定した。HPLC分析はShodex Sugar SC1011をカラムに用い、カラム温度80℃、移動相に純水を用い、流速1.0 mL/分の条件で測定した。検出器は、示差屈折率(RI)検出器を使用した。例として、キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株の培養液上清のHPLCチャートを図1に示す。これを見ると、培地成分、炭素源であるグリセロール以外には、D−アラビトールのピークのみが検出されており、選択的にD−アラビトールのみを生産していることが示された。なお、D−アラビトールの生成量は、D−アラビトール標準品(和光純薬工業製、商品名D-(+)-アラビトール)を使用して作成した検量線を基にして算出した。
(実施例2〜実施例7)
グリセロールからD−アラビトールを生産する微生物として、メチニコビア・ゾベリNBRC1680株(実施例2)、メチニコビア・ルナタNBRC1605株(実施例3)、デバリオミセス・ハンゼニイ バー ファブリ(Debaryomyces hansenii var. fabryi)NBRC0015株(実施例4)、デバリオミセス・ハンゼニイ バー ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii var. hansenii)NBRC0083株(実施例5)、ピヒア・スチピチスNBRC1687株(実施例6)又はキャンディダ・クエルシトルーサ17-2A(FERM P-21420)株(実施例7)を使用し、実施例1と同様にして行った。
(実施例2〜実施例7)
グリセロールからD−アラビトールを生産する微生物として、メチニコビア・ゾベリNBRC1680株(実施例2)、メチニコビア・ルナタNBRC1605株(実施例3)、デバリオミセス・ハンゼニイ バー ファブリ(Debaryomyces hansenii var. fabryi)NBRC0015株(実施例4)、デバリオミセス・ハンゼニイ バー ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii var. hansenii)NBRC0083株(実施例5)、ピヒア・スチピチスNBRC1687株(実施例6)又はキャンディダ・クエルシトルーサ17-2A(FERM P-21420)株(実施例7)を使用し、実施例1と同様にして行った。
(実施例8、9)
(純グリセロールを用いたD−アラビトール生産)
市販の純粋なグリセロール試薬(和光純薬工業製)を用い、キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株(実施例8)及びキャンディダ・クエルシトルーサ17-2A(FERM P-21420)株(実施例9)のD−アラビトール生産性を調べた。培養、分析に関しては実施例1と同様に行った。
(純グリセロールを用いたD−アラビトール生産)
市販の純粋なグリセロール試薬(和光純薬工業製)を用い、キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株(実施例8)及びキャンディダ・クエルシトルーサ17-2A(FERM P-21420)株(実施例9)のD−アラビトール生産性を調べた。培養、分析に関しては実施例1と同様に行った。
(比較例1、2)
(既存D−アラビトール生産菌による廃グリセロールからのD−アラビトール生産)
比較例として、グルコースを炭素源としてD−アラビトールを生産することが従来の報告(特許文献3)により知られているメチニコビア・パルチェリマ(Metschnikowia pulcherrima)NBRC1678株(比較例1)、メチニコビア・ロイカウフィ(Metschnikowia reukaufii)NBRC1679株(比較例2)を用いて、廃グリセロールからのD−アラビトール生産性を調べた。培養、分析に関しては実施例1と同様に行った。
(比較例3〜比較例6)
(他のキャンディダ属酵母による廃グリセロールからのD−アラビトール生産)
比較例として、図1においてキャンディダ・クエルシトルーサと分子系統学上で近縁と考えられたキャンディダ・フラジ(Candida fragi)NBRC10759(比較例3)、キャンディダ・ナタレンシス(Candida natalensis)NBRC1981(比較例4)、さらにキャンディダ・ファンデルワルチ(Candida vanderwaltii)NBRC10319(比較例5)、キャンディダ・アジマ(Candida azyma)NBRC10406(比較例6)を用いて、廃グリセロールからのD−アラビトール生産性を調べた。培養、分析に関しては実施例1と同様に行った。
(既存D−アラビトール生産菌による廃グリセロールからのD−アラビトール生産)
比較例として、グルコースを炭素源としてD−アラビトールを生産することが従来の報告(特許文献3)により知られているメチニコビア・パルチェリマ(Metschnikowia pulcherrima)NBRC1678株(比較例1)、メチニコビア・ロイカウフィ(Metschnikowia reukaufii)NBRC1679株(比較例2)を用いて、廃グリセロールからのD−アラビトール生産性を調べた。培養、分析に関しては実施例1と同様に行った。
(比較例3〜比較例6)
(他のキャンディダ属酵母による廃グリセロールからのD−アラビトール生産)
比較例として、図1においてキャンディダ・クエルシトルーサと分子系統学上で近縁と考えられたキャンディダ・フラジ(Candida fragi)NBRC10759(比較例3)、キャンディダ・ナタレンシス(Candida natalensis)NBRC1981(比較例4)、さらにキャンディダ・ファンデルワルチ(Candida vanderwaltii)NBRC10319(比較例5)、キャンディダ・アジマ(Candida azyma)NBRC10406(比較例6)を用いて、廃グリセロールからのD−アラビトール生産性を調べた。培養、分析に関しては実施例1と同様に行った。
実施例1〜9および比較例1〜6において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表2にまとめた。実施例において、用いたすべての菌株で廃グリセロールからD−アラビトールの生成が6.6〜41.7g/Lの範囲で確認された。キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株ならびにキャンディダ・クエルシトルーサ17-2A(FERM P-21420)株においては、簡便な活性炭処理により廃グリセロールから純グリセロールを使用した場合とほぼ同等のD−アラビトールを生成することが示された。
また比較例においては、グルコースからD−アラビトールを生産できることが既知である2菌株、キャンディダ・クエルシトルーサと分子系統学上で近縁と考えられた2菌株、及びキャンディダ属に属するそれ以外の2菌株、全ての検討で、廃グリセロールからD−アラビトールを生成することができなかった。
また比較例においては、グルコースからD−アラビトールを生産できることが既知である2菌株、キャンディダ・クエルシトルーサと分子系統学上で近縁と考えられた2菌株、及びキャンディダ属に属するそれ以外の2菌株、全ての検討で、廃グリセロールからD−アラビトールを生成することができなかった。
(実施例10)
(D−アラビトール生産におけるグリセロール濃度の影響)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を用い、150〜350g/Lのグリセロール濃度のD−アラビトール製造培地を用いた場合の、D−アラビトール生産性を調べた。市販の純粋なグリセロール試薬(和光純薬工業製)を炭素源として用い、その他は実施例1と同様に行った。
実施例10において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表3にまとめた。用いた全てのグリセロール濃度において、D−アラビトールの生成が7.9〜45.0 g/Lの範囲で確認され、特にグリセロール濃度250g/Lで培養を行った時にD−アラビトールの生産量が最大となった。
(D−アラビトール生産におけるグリセロール濃度の影響)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を用い、150〜350g/Lのグリセロール濃度のD−アラビトール製造培地を用いた場合の、D−アラビトール生産性を調べた。市販の純粋なグリセロール試薬(和光純薬工業製)を炭素源として用い、その他は実施例1と同様に行った。
実施例10において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表3にまとめた。用いた全てのグリセロール濃度において、D−アラビトールの生成が7.9〜45.0 g/Lの範囲で確認され、特にグリセロール濃度250g/Lで培養を行った時にD−アラビトールの生産量が最大となった。
(実施例11)
(D−アラビトール生産における窒素源の影響)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を用い、D−アラビトール製造培地において各種窒素源を用いた場合の、D−アラビトール生産性を調べた。供試窒素源の濃度を5g/Lとし、さらに微量元素等の栄養源を補うために酵母エキスを1g/Lとなるように添加した。その他は実施例1と同様に行った。
実施例11において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表4にまとめた。用いた全ての窒素源濃度において、D−アラビトールの生成が3.7〜45.0 g/Lの範囲で確認され、特に酵母エキスを用いた時にD−アラビトールの生産量は最大となった。
(D−アラビトール生産における窒素源の影響)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を用い、D−アラビトール製造培地において各種窒素源を用いた場合の、D−アラビトール生産性を調べた。供試窒素源の濃度を5g/Lとし、さらに微量元素等の栄養源を補うために酵母エキスを1g/Lとなるように添加した。その他は実施例1と同様に行った。
実施例11において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表4にまとめた。用いた全ての窒素源濃度において、D−アラビトールの生成が3.7〜45.0 g/Lの範囲で確認され、特に酵母エキスを用いた時にD−アラビトールの生産量は最大となった。
(実施例12)
(D−アラビトール生産におけるpHの影響)
キャンディダ・クエルシトルーサFERM P-21420株を用い、D−アラビトール製造培地における各pH条件下でのD−アラビトール生産性を調べた。D−アラビトール製造培地のpHを3〜9に調整し、それ以外は実施例1と同様に行った。
実施例12において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表5にまとめた。培養試験を行った全てのpHにおいて、D−アラビトールの生成が12.6〜35.6 g/Lの範囲で確認され、特にpH5〜9の範囲の時、効果的にD−アラビトールを生産した。
(D−アラビトール生産におけるpHの影響)
キャンディダ・クエルシトルーサFERM P-21420株を用い、D−アラビトール製造培地における各pH条件下でのD−アラビトール生産性を調べた。D−アラビトール製造培地のpHを3〜9に調整し、それ以外は実施例1と同様に行った。
実施例12において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表5にまとめた。培養試験を行った全てのpHにおいて、D−アラビトールの生成が12.6〜35.6 g/Lの範囲で確認され、特にpH5〜9の範囲の時、効果的にD−アラビトールを生産した。
(実施例13)
(D−アラビトール生産における酵母エキス濃度の影響)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を用い、D−アラビトール製造培地における2〜8g/Lの酵母エキス濃度でのD−アラビトール生産性を調べた。D−アラビトール製造培地中の酵母エキスの濃度以外は実施例1と同様に行った。
実施例13において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表6にまとめた。用いた全ての酵母エキス濃度において、D−アラビトールの生成が13.5〜45.0g/Lの範囲で確認され、特に酵母エキス濃度を6〜8g/Lの範囲で用いた時にD−アラビトールの生産量は大きくなった。
(D−アラビトール生産における酵母エキス濃度の影響)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を用い、D−アラビトール製造培地における2〜8g/Lの酵母エキス濃度でのD−アラビトール生産性を調べた。D−アラビトール製造培地中の酵母エキスの濃度以外は実施例1と同様に行った。
実施例13において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表6にまとめた。用いた全ての酵母エキス濃度において、D−アラビトールの生成が13.5〜45.0g/Lの範囲で確認され、特に酵母エキス濃度を6〜8g/Lの範囲で用いた時にD−アラビトールの生産量は大きくなった。
(実施例14)
(D−アラビトール生産におけるカルシウムの影響)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を用い、D−アラビトール製造培地におけるカルシウム存在下でのD−アラビトール生産性を調べた。D−アラビトール製造培地に塩化カルシウム二水和物を0〜2g/Lとなるように添加し、それ以外は実施例1と同様に行った。
実施例13において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表6にまとめた。用いた全ての塩化カルシウム濃度において、D−アラビトールの生成が45.0〜58.2 g/Lの範囲で確認され、特に0.5g/L以上の塩化カルシウム二水和物を添加した時、効果的にD−アラビトールを生産した。
(D−アラビトール生産におけるカルシウムの影響)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を用い、D−アラビトール製造培地におけるカルシウム存在下でのD−アラビトール生産性を調べた。D−アラビトール製造培地に塩化カルシウム二水和物を0〜2g/Lとなるように添加し、それ以外は実施例1と同様に行った。
実施例13において得られたD−アラビトールの生産量の分析結果を表6にまとめた。用いた全ての塩化カルシウム濃度において、D−アラビトールの生成が45.0〜58.2 g/Lの範囲で確認され、特に0.5g/L以上の塩化カルシウム二水和物を添加した時、効果的にD−アラビトールを生産した。
(実施例15)
(キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株、ならびにキャンディダ・クエルシトルーサ17-2A(FERM P-21420)株における発酵槽を使用した廃グリセロールからのD−アラビトール生産)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株ならびにキャンディダ・クエルシトルーサ17-2A(FERM P-21420)株を、実施例1の種培養と同様の条件で培養し、これを種培養液1とした。この種培養液1 mLを、種培養培地2(D-グルコース10 g/L、酵母エキス3 g/L、麦芽エキス3 g/L、ペプトン5 g/L、121℃で20分間滅菌)30 mLを含む300 mL容三角フラスコ2本にそれぞれ接種し、28℃、250 rpmで1日間振とう培養した。
(キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株、ならびにキャンディダ・クエルシトルーサ17-2A(FERM P-21420)株における発酵槽を使用した廃グリセロールからのD−アラビトール生産)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株ならびにキャンディダ・クエルシトルーサ17-2A(FERM P-21420)株を、実施例1の種培養と同様の条件で培養し、これを種培養液1とした。この種培養液1 mLを、種培養培地2(D-グルコース10 g/L、酵母エキス3 g/L、麦芽エキス3 g/L、ペプトン5 g/L、121℃で20分間滅菌)30 mLを含む300 mL容三角フラスコ2本にそれぞれ接種し、28℃、250 rpmで1日間振とう培養した。
この種培養2液の全量を、D−アラビトール製造培地(活性炭処理済み廃グリセロール250 g/L、酵母エキス6 g/L、リン酸二水素カリウム1 g/L、pH6.5、121℃で20分間滅菌)800 mLを含む2000 mL容発酵槽に接種し、28℃、800 rpm、通気量1 vvmで7日間培養した。培養液の分析に関しては実施例1と同様に行った。それぞれの菌株について、菌体増殖量及びD−アラビトール生産量を培養時間に沿って追跡したグラフを図3及び4に示す。
培養7日目でのD−アラビトール生成量は、NBRC1022株で50.1 g/L、17-2A(FERM P-21420)株で45.0 g/Lを示した。
(実施例16)
(キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株における発酵槽を使用したカルシウム添加条件での廃グリセロールからのD−アラビトール生産)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を、実施例14の種培養1、2と同様の条件で培養した。
この種培養2液の全量を、D−アラビトール製造培地(活性炭処理済み廃グリセロール250 g/L、酵母エキス6 g/L、リン酸二水素カリウム1 g/L、塩化カルシウム二水和物2g/L、pH6.5、121℃で20分間滅菌)800 mLを含む2000 mL容発酵槽に接種し、28℃、800 rpm、通気量1 vvmで7日間培養した。培養液の分析に関しては実施例1と同様に行った。それぞれの菌株について、菌体増殖量及びD−アラビトール生産量を培養時間に沿って追跡したグラフを図5に示す。
培養7日目でのD−アラビトール生成量は、65.3 g/Lを示した。これは、従来の報告(非特許文献2)で示された、キャンディダ・ポリモルファATCC20213株を用いた純グリセロールからのD−アラビトール生成量(30.4 g/L)の2倍以上であり、極めて効率良くD−アラビトールが生産されることが確認された。以上より、本発明によれば安価な廃グリセロールを原料に用いて、高い収量でD−アラビトールを生産できる。
(実施例16)
(キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株における発酵槽を使用したカルシウム添加条件での廃グリセロールからのD−アラビトール生産)
キャンディダ・クエルシトルーサNBRC1022株を、実施例14の種培養1、2と同様の条件で培養した。
この種培養2液の全量を、D−アラビトール製造培地(活性炭処理済み廃グリセロール250 g/L、酵母エキス6 g/L、リン酸二水素カリウム1 g/L、塩化カルシウム二水和物2g/L、pH6.5、121℃で20分間滅菌)800 mLを含む2000 mL容発酵槽に接種し、28℃、800 rpm、通気量1 vvmで7日間培養した。培養液の分析に関しては実施例1と同様に行った。それぞれの菌株について、菌体増殖量及びD−アラビトール生産量を培養時間に沿って追跡したグラフを図5に示す。
培養7日目でのD−アラビトール生成量は、65.3 g/Lを示した。これは、従来の報告(非特許文献2)で示された、キャンディダ・ポリモルファATCC20213株を用いた純グリセロールからのD−アラビトール生成量(30.4 g/L)の2倍以上であり、極めて効率良くD−アラビトールが生産されることが確認された。以上より、本発明によれば安価な廃グリセロールを原料に用いて、高い収量でD−アラビトールを生産できる。
Claims (9)
- グリセロールを炭素源とした液体培地において、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、ピヒア・スチピチス(Pichia stipitis)、メチニコビア・ゾベリ(Metschnikowia zobelli)又はメチニコビア・ルナタ(Metschnikowia lunata)から選択される少なくとも1種の微生物を培養する、D−アラビトールの製造方法。
- キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)が、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)である、請求項1に記載のD−アラビトールの製造方法。
- 微生物が、キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)である、請求項1に記載のD−アラビトールの製造方法。
- グリセロールが、植物油の分解又はエステル交換の副生成物である、請求項1から3のいずれか1項に記載のD−アラビトールの製造方法。
- 37℃で生育が可能である、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
- ビタミン欠乏培地で生育が可能である、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
- L-アラビニトール資化性を有する、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
- 37℃で生育が可能であり、ビタミン欠乏培地で生育が可能であり、かつL-アラビニトール資化性を有する、微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)。
- 微生物キャンディダ・クエルシトルーサ(Candida quercitrusa)17-2A(FERM P-21420)。
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