本発明に係る焼結機は、循環移動するパレットと、そのパレット上に粉鉱石と炭材を含む焼結原料を装入して装入層を形成する原料供給装置と、その焼結原料中の炭材に点火するための点火炉と、上記パレットの下方にウインドボックスを備える焼結機において、上記点火炉の下流側に、気体燃料供給装置が配設されてなることを特徴とするものである。ここで、上記気体燃料供給装置は、気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈し、燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料を得る装置であり、パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、上記希釈気体燃料と空気とを装入層内に吸引し、該希釈気体燃料を装入層内において燃焼させると同時に、装入層内に吸引した空気により、該装入層内の炭材を燃焼させ、発生する燃焼熱によって、焼結原料を焼結し、焼結ケーキを生成させるために、本本発明においては極めて重要な役割を担うものである。
上記気体燃料供給装置としては、具体的には、図5に示したように、パレットの幅方向に沿って、複数の気体燃料供給パイプを配設し、そのパイプには、気体燃料を吐出するスリットあるいは開口を設けるかまたはノズルを配設した構造を有するもの、あるいは、図6に示したように、パレットの進行方向に沿って、複数の気体燃料供給パイプを配設し、そのパイプには、気体燃料を吐出するスリットあるいは開口を設けるかまたはノズルを配設した構造を有するものであるが好ましい。
また、上記気体燃料供給装置は、例えば、気体燃料供給パイプやノズル等に流量制御手段を設けることにより、パレット幅方向における気体燃料の供給量を制御することができることが好ましい。特に、パレット幅方向のサイドウォール近傍では、横風の影響を受けて、供給した気体燃料が機側方向に流されたり、機外に漏出したりして、気体燃料濃度が希薄になるおそれが高いので、そのサイドウォール近傍に気体燃料を多く供給できるようにしたものであることが好ましい。
また、上記気体燃料供給装置は、気体燃料を、装入層の上方で、大気中に高速で吐出させ、それによって周囲の空気と短時間で混合し、その気体燃料の燃焼下限濃度以下の濃度に希釈し、その後、装入層中にその希釈気体燃料を導入する必要がある。
上記のように、気体燃料を燃焼下限濃度以下の濃度に希釈する理由は、下記による。
表1は、本発明で用いることができる代表的な気体燃料の燃焼下限濃度、供給濃度等を示したものである。焼結原料中に気体燃料を供給する時のガス濃度は、火災の発生を防止するためには、燃焼下限濃度より低いほど安全である。この点、都市ガスは、Cガス(コークス炉ガス)と燃焼下限濃度が近似しているが、熱量がCガスよりも高いことから、供給濃度を低くできる。したがって、安全性を確保する観点からは、供給濃度を低くすることができる都市ガスの方がCガスより優位である。しかも、都市ガスは、後述するように、成分として、人体に有害なCO(一酸化炭素)を含まず、また、水素も含有していない。
表2は、気体燃料中に含まれる燃焼成分(水素,CO,メタン)と、それら成分の燃焼下限・上限濃度、層流、乱流時の燃焼速度等を示したものである。焼結中における火災発生を防止する、すなわち、焼結中に供給している気体燃料による火災発生を防止するためには、逆火防止を図る必要があるが、そのためには、少なくとも層流燃焼速度以上、好ましくは乱流燃焼速度以上の高速で気体燃料を吐出させれば良い。例えば、都市ガスの主要燃焼成分であるメタンを気体燃料とする場合には、3.7m/sを超える速度で吐出させれば、逆火の恐れはないわけである。一方、水素ガスは、乱流燃焼速度がCOやメタンと比較して速いため、安全を確保するためには、その分、高速で吐出させる必要がある。この点から、表1に示した気体燃料を比較すると、水素成分を含まない都市ガスは、水素成分を59vol%も含有しているCガスと比較して、吐出速度を遅くすることができる点で有利である。しかも、都市ガスは、CO成分を含まないので、ガス中毒を起こすおそれもなく安全である。したがって、安全性を確保する観点からは、都市ガスは、気体燃料として使用する上で好ましい特性を有すると言うことができる。天然ガスも同様のことが言える。なお、Cガスも、気体燃料として使用することができるが、その場合には、ガス吐出速度を高める(速める)こと、および、CO対策を別途講ずることが必要となる。
表3は、気体燃料を供給する形式による得失を評価した結果を示したものである。表中、直上吹込みとは、都市ガスやCガス等の気体燃料を、そのまま供給(吐出)して周囲の大気を巻き込ませることにより所定の濃度に希釈し、装入層中に吸引(導入)させる形式、予混合吹込みとは、あらかじめ大気と気体燃料とを混合して所定の濃度まで希釈したものを装入層上に供給し、装入層中に吸引(導入)させる、いわゆるプレミックス形式をさす。直上吹込み形式では、上述した乱流燃焼速度以上の速度で気体燃料を吐出すれば、逆火防止は容易であるが、予混合吹込み形式では、濃度偏差が発生したとき、逆火を起こす可能性がある。一方、直上吹込み形式では、気体燃料を周囲の大気と混合し希釈させる際、濃度ムラが発生しやすいため、異常燃焼を起こす可能性が、予混合吹込み形式に比べて大きい。しかし、設備コストを含めて総合的に評価した場合には、都市ガスの直上吹込みが最も優位である。
また、本発明では、上記気体燃料供給装置により、気体燃料を、装入層の上方で、大気中に高速で吐出させ、それによって周囲の空気と短時間で混合し、その気体燃料が有する燃焼下限濃度以下の濃度に希釈し、その後、装入層中にその希釈気体燃料を導入する必要がある理由は、下記による。
図7(a)に示したように、内径300mmφ×高さ400mmの焼結鍋に焼結ケーキを充填し、その焼結ケーキの中央部の上から深さ90mmの位置にノズルを埋め込んで、対空気で1vol%となるよう100%濃度のメタンガスを吹き込み、焼結ケーキ内の円周方向および深さ方向におけるメタンガス濃度を測定した結果を表4に示した。一方、図7(b)に示したように、同じノズルを用いて、焼結ケーキの上方350mmの位置からメタンガスを供給した場合について、上記と同様にしてメタンガス濃度の分布を測定した結果を表5に示した。これらの結果から、メタンガスを焼結ケーキ中に直接導入した場合には、メタンガスの横方向の拡散が不十分であるのに対して、メタンガスを焼結ケーキ上方で供給した場合には、焼結ケーキ内のメタンガス濃度はほぼ均一であり、十分に横方向に拡散していることがわかる。以上の結果から、気体燃料は、焼結ケーキの上方で空気中に供給することにより、装入層内に導入される前に、均一に希釈しておくことが好ましいことがわかる。
次に、本発明においては、気体燃料供給装置の気体燃料供給パイプに設けられたスリットやノズルからの気体燃料の吐出速度は、逆火を防止する観点から高速で吐出させる必要があり、具体的には、その気体燃料の燃焼速度の2倍以上の速度、より好ましくは、その気体燃料の乱流燃焼速度の2倍以上の速度で吐出させることが望ましい。すなわち、本発明の焼結操業においては、焼結パレット内に燃焼・溶融帯を形成する、あるいは形成しつつある焼結層が存在し、常に火種を有する状態において、装入層の上方で、気体燃料の吐出操作が行われる。上記気体燃料は、装入層表層に吸引・導入される段階までに、希釈されて大気中での燃焼下限濃度以下となっているが、逆火の可能性が常に付きまとうことになる。そこで、気体燃料側に着火しても、逆火しないようにするために、気体燃料の吐出速度は、その気体燃料が有する燃焼速度の2倍以上、より好ましくは、乱流燃焼速度の2倍以上の速度で吐出させるのが望ましい。
上記気体燃料の吐出速度を得るためには、前記ノズル、開口部またはスリットからの気体燃料の吐出圧力を、雰囲気圧力に対して300mmAq以上40000mmAq未満とすることが好ましい。
また、気体燃料配管から気体燃料を吐出させる開口部の大きさは、3〜0.5mmφの範囲とすることが好ましい。その理由は、上記のように、気体燃料への逆火を防止するためには、気体燃料の吐出速度を燃焼速度を超える速度とすることが好ましいが、吐出部の開口面積が大きいと、着火した場合に消火し難く、逆火を起こす可能性があるが、ノズル径が3mmφ程度以下であれば、着火しても逆火に至らないことが判明したからである。好ましくは、2mmφ以下である。一方、逆火防止の観点からは、開孔径は小さい程好ましいが、開口部の詰まり防止、加工性等の考慮し、開孔径の下限は、0.5mmφ程度とするのが好ましい。
上記気体燃料を、空気中に吐出させる方向については、種々の形態を採用することができ、例えば、図8のように、気体燃料を、装入層に向かって下方(鉛直下方)に吐出させることにより、その一部を装入層表面で反射させて希釈させる方法、図9のように、気体燃料を、装入層表面に平行(水平方向)に吐出させることにより装入層に導入されるまでの経路を長くして空気と混合させ。希釈を促進させる方法、あるいは、図10のように、気体燃料を、邪魔板(反射板)に向かって吐出し、反射させることにより希釈を促進する方法、図11のように、気体燃料供給パイプに設けられた気体吐出用スリット、開口あるいはノズルの向きを、装入層表面に向けて、その垂直方向に対して±90度の範囲で多方向に分散させて希釈を促進する方法などを採用することができる。さらに、上記図11の変形態様として、気体燃料供給パイプの軸を中心に回転可能とし、吐出方向を揺動させる構造とすることもできる。
なお、上記気体燃料供給装置での気体燃料の吐出は、装入層表面上方300mm以上の高さで行うことが好ましい。図12は、ノズル径が2mmφと1mmφの2種類のノズルからメタンガス(濃度:100%)を流速20〜300m/sの範囲で変化させて鉛直下方方向に吐出した時の、メタンガスの拡がりを測定した結果であり、ノズル先端から0.2m、0.4m、0.6mおよび0.8mの位置での拡がりを示したものである。これらの図から、ノズルの径は小さいほど、また、吐出させる気体燃料の速度は速いほど、周囲の空気との混合が起こりやすく希釈が促進されること、特に、増速による希釈促進効果は、ノズル先端からの距離が0.4mで大きくなっていることがわかる。そこで、本発明は、この結果と、吐出された気体燃料の装入層表面における跳ね返りを考慮し、気体燃料の大気中への供給は、装入層表面上方300mm以上の高さで行うこととする。
また、上記のように、吐出させる気体燃料の速度は速いほど、周囲の空気との混合が起こりやすく希釈が促進されるため、吐出速度は速いほど好ましい。さらに、何らかの火種によって、気体燃料供給装置から供給された気体燃料に着火した場合、ノズル等から吐出させる気体燃料の流速が遅いと、逆火を起こして、気体燃料供給装置や気体燃料供給パイプ内で爆発・燃焼を起こすおそれがある。この危険性を回避するためには、使用する気体燃料が有する燃焼速度の2倍以上の速度で吐出させることが好ましい。より好ましくは、その気体燃料の乱流燃焼速度の2倍以上の速度である。因みに、メタンガスの層流燃焼速度は、約0.4m/s、乱流燃焼速度は、約4m/sである。
次に、本発明の気体燃料供給装置の横風対策について説明する。
上述したように、気体燃料供給装置から装入層の上方で大気中に供給される気体燃料は、希釈されたのち、パレット下方に配設されたウインドボックスにより吸引され、通常、その全量が周囲の空気と共に装入層内に導入されるが、パレット進行方向に対して横方向からの横風を受けた場合、特に、風速が大きくなると、上記供給された気体燃料は機側方向に流されてしまう。図13は、横風が気体燃料の濃度分布に及ぼす影響を、風速2m/sと5m/sの場合について解析した結果を示したものである。この結果から、何も対策を講じていない場合、風速2m/sの横風でも、気体燃料が散逸し、装入層内に導入される気体燃料の濃度分布にも悪影響が出ていることがわかる。
そこで、横風の影響の軽減を図るため、気体燃料供給装置の両サイドに、高さ2mのついたてを設置したときの効果を解析し、その結果を風速5m/sの場合について、図14に示した。図14(a)は、2mの高さのついたてを設置したときの結果であり、5m/sの風速では、ついたて内部に渦流が形成されて気体燃料の散逸が起こり、その効果が十分に得られないことがわかる。また、図14(b)は、2mの高さのついたて上部1mを空隙率30%の材料で構成したときの結果であり、空隙を設けることにより、空気の渦の形成が抑制されて、気体燃料の散逸が防止できていることがわかる。
上記解析結果から、横風による気体燃料の散逸を防止するためには、気体燃料供給装置の両サイドに、横風防止用のついたて効果を有するものを設置することが有効であること、また、そのついたての設置による渦の形成は、ついたてに面積率で30%程度の空隙を設けることにより軽減できることが明らかとなった。
さらに、発明者らは、気体燃料供給装置の上方に、フードを設けることによる横風の影響抑制について検討した。その結果、フードの設置は、横風対策として、ついたて以上の効果があることがわかった。ただし、このフードは、上方中央部を開口または適当な透過率(空隙率)を有するものとし、この部分から、大気を取り入れることができる構造のものとする必要がある。これにより、フード内部で、気体燃料供給配管から吐出された気体燃料と混合し、希釈気体燃料とするためである。上記開口部は、パレット幅が5mの焼結機の場合には、約1m程度とすれば、フードの圧力損失は、ほとんど無視することができる。また、開口部分に空隙を設ける場合には、透過率を80%程度であれば、数mmAq程度の圧損に抑えることができることがわかった。さらに、上記フード内に、整流板を設置することにより、フード内の渦流を抑制する効果があること、フード上部(周囲)に設けるついたての空隙率は、30〜40%の範囲が最も有効であることが、解析の結果からわかった。
また、フードの下端と、焼結ベッド表面(焼結層表面)との間には、必然的に間隙が生じるが、この間隙部分のシールが十分でないと、例えば、透過率が20〜30%あると、この部分からフード内部に空気を巻き込み、気体燃料の濃度分布の偏りを増大させることがわかった。したがって、フード下端からの空気の侵入を防止することは重要であり、フード下端と焼結ベッド表面の間、あるいは、フード下端とパレットサイドウォールの間に、図15に示したようなチェーンカーテン、ワイプレシール、シールブラシ等のシール材を設置するか、密着シールを設置するか、あるいは、図16に示したようなエアカーテンを設置すること等が好ましい。なお、上記シール材は、耐熱性があり、かつ、可撓性ないしは変形の自由度が大きく、焼結層の表面を傷つけないものであることが好ましい。
5m/sの横風がある場合について、上記フードの効果を、有限体積法による数値流体解析コード(プログラム)を用いて解析した結果について説明する。図17は、計算に用いた気体燃料供給装置とその上方に設けたフードを示したものである。焼結機のパレット幅は5mとし、気体燃料を吐出するためのガス吹き配管は、焼結鉱ベッド(装入層)上500mmの高さに、600mm間隔で、パレット進行方向に平行に配列し、そのガス吹き配管およびその上部には整流板を設置し、また、その上部には、フードを配設し、上方中央部には、幅1000mmの開口部(空隙率は100%と80%の場合について計算)を設けた構造とした。さらに、上記フードの側面上方には、横風を減衰させるための透過率を有する(ここで、透過率のないフェンスを使用すると、フェンス下流側に渦が形成され、帰って望ましくない。横風と渦の形成を抑制する目的の場合、透過率としては、30〜40%が望ましい。)フェンスを設け、フード下端の透過率は、チェーンカーテンを設置したことを想定し、20%とした。
図18は、気体燃料の濃度分布についての解析結果を示したものである。この結果から、フードの側壁上部を傾斜構造とし、フード上部を絞ることにより、気体燃料の濃度分布が改善させること、開口部の空隙率は100%の場合と80%の場合では差は小さいこと、整流板の設置により渦流の発生は抑制されることがわかる。図19は、圧力分布についての解析結果を示したものであり、フード上方を傾斜構造とすることによる圧力損失は小さいこと、整流板の設置により渦流の発生は抑制されることがわかる。図20は、ガス流速分布についての解析結果であり、これから、フード下端に透過率があると、空気の流入により偏流が生じることがわかる。さらに、図21は、ガス流速のベクトル線図を示したものであり、フード上部を傾斜構造としたことと整流板の設置により、渦流が抑制されていることがわかる。
また、図18〜図21から共通して言えることは、フードを設置しても、風上と風下とで空気巻き込み量の差があり、この問題を解決するには、別の手段を講ずる必要があることがわかった。この手段としては、上流側と下流側で、気体燃料の吐出量を変更する、あるいは、上記計算モデルよりも、さらに、フード上方の絞りを大きくすることが有効である。
次に、上記知見に基いて、実機焼結機の気体燃料供給装置に設ける横風防止策の適用例について説明する。図22は、その1例を示したものであり、上方に開口部を有するフードを気体供給装置の上方に設置し、その上部に渦形成防止用の透過率30%のフェンスを設置すると共に、フード下端にフードとパレットの間隙からの横風の侵入を防止するためのチェーンカーテン(ワイプレシール)を吊下し、さらに、両側端のガス吹き配管に整流板を設置した例を示したものである。図23は、上記図22の変形例であり、フード内の気体燃料供給パイプに沿って整流板を設置した例を示したものである。また、図24は、上記図23のフードの上方部を開放し、その代りとして整流板を設置した例である。なお上記整流板の設置間隔は、適宜変更するのが好ましい。また、図25は、図24のフードの上方を完全に開放し、整流板のみを上方に設置した例であり、図26は、フード内に、整流板と、気体燃料の混合を促進するために邪魔板とを併用した例を示したものである。また、先述した、図17の横風防止策を適用してもよい。上記に例示したフードは、いずれも横風の影響を抑制する効果を有するものである。
また、本発明では、前記気体燃料として、可燃性ガスに含まれる燃焼成分の濃度を、大気中の常温における燃焼下限濃度の75%以下まで希釈した気体燃料として使用するのが好ましく、より好ましくは燃焼下限濃度の60%以下、さらに好ましくは燃焼下限濃度の25%以下の濃度にまで希釈したものを使用する。燃焼下限濃度以下の75%以下に希釈した可燃性ガスを使用する理由は、下記の二つである。
(a)装入層上部への可燃性ガスのそのままでの供給は、時として、爆発的燃焼を招くおそれがあり、少なくとも常温では、火種があっても燃焼しない状態とする必要がある。
(b)装入層中で完全に燃焼せずに未燃焼のままウインドボックスの下流にある電気集塵器等に達したとしても、電気集塵器の放電で燃焼するおそれがないことが必要である。
また、希釈気体燃料の濃度は、後述するように、焼結原料中の総炭材(固体燃料+気体燃料)の燃焼に必要な空気(酸素)の不足を招いて、燃焼不足を起こさない程度に希釈されたものを用いる必要がある。
ただし、希釈気体燃料は、燃焼下限濃度の2%以上の濃度であるのが好ましい。2%未満の濃度では、燃焼による発熱によっても、焼結鉱の強度の向上と歩留まりの改善が得られないからである。また、希釈気体燃料は、その濃度を炭材量(固体燃料)に応じて調節するのが好ましい。さらに、希釈気体燃料は、濃度を調整することにより、装入層中の所定の位置で燃焼を起こさせることができる。
本発明に係る焼結鉱の製造方法では、装入層中の炭材に点火された後に、希釈された気体燃料を装入層中へ供給(導入)する。その理由は、点火直後の位置で希釈気体燃料を供給しても、装入層の表層上で燃焼するだけであり、焼結層に何ら影響を与えることはないからである。したがって、装入層上部の焼結原料が焼成されて、焼結ケーキの層が形成された後に、希釈気体燃料を装入層へ供給する必要がある。なお、希釈気体燃料の供給は、装入層の表面に焼結ケーキの層が形成されていれば、焼結が完了するまでの任意の位置で行うことができる。希釈気体燃料の供給を焼結ケーキの層が形成された後に行う上記以外の理由は、下記の通りである。
(a)装入層の上部に焼結ケーキが生成していない状態で希釈気体燃料の供給を行うと、該装入層上で爆発的な燃焼を起こす危険性がある。
(b)希釈気体燃料の供給は、焼結鉱の歩留りを向上させる必要のある部分に対して行う、即ち、焼結鉱の強度を上昇させたい部分で燃焼を起こすよう供給するのが好ましい。
装入層最高到達温度または高温域保持時間のいずれかまたは両方を調整するためには、燃焼・溶融帯の厚みが少なくとも15mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上となった状態において、希釈気体燃料の供給を行うことが好ましい。燃焼・溶融帯の厚みが15mm未満では、焼結層(焼結ケーキ)を通して吸引される空気と希釈気体燃料による冷却効果によって、気体燃料を燃焼させてもその効果が不十分となり、燃焼・溶融帯の厚みの拡大を図れないからである。一方、前記燃焼・溶融帯の厚みが15mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上となる段階で希釈気体燃料を供給すると、燃焼・溶融帯の厚みが大きく拡大し、高温域保持時間を延長することができ、ひいては冷間強度の高い焼結鉱を得ることができる。
なお、前記燃焼・溶融帯の厚みの確認は、例えば、透明石英製窓付き竪型管状試験鍋を用いて行うことができる。この試験鍋は、希釈気体燃料の供給位置の決定に有効な手段である。
また、希釈気体燃料の装入層への導入は、燃焼前線が表層下に下がり、燃焼・溶融帯が表層から100mm以上、好ましくは200mm以上下がった位置、すなわち、装入層の中・下層領域を対象として行うのが好ましい。つまり、希釈気体燃料は、装入層の表層に生成した焼結ケーキ領域(焼結層)を燃焼することなく通過し、燃焼前線が表層から100mm以上移動した段階で燃焼するように供給するのが好ましい。その理由は、燃焼前線が表層から100mm以上下がった位置であれば、焼結層を通して吸引される空気による冷却の悪影響が軽減され、燃焼・溶融帯の厚みの拡大を図ることができるからである。さらに、表層から200mm以上下がった位置であれば、空気による冷却の影響がほぼ解消されて、燃焼・溶融帯の厚みを30mm以上に拡大することができる。また、希釈気体燃料の供給は、歩留り低下の大きいパレット幅方向両端部のサイドウォール近傍で行うことがより好ましい。
なお、希釈気体燃料生成装置は、焼結機の規模にもよって異なるが、例えば、気体燃料供給量が1000〜5000m3(標準)/h、生産量が約1.5万t/日で、機長が90mの規模の焼結機では、点火炉の下流側約5m以降の位置に配置するのが好ましい。
本発明に係る製造装置では、希釈気体燃料の供給位置(装入層への導入位置)は、パレット進行方向における点火炉出側で、焼結ケーキが生成した後のいわゆる燃焼前線が表層下に進行した位置(例えば、表層下100mm以上、好ましくは200mm程度以下で気体燃料の燃焼が起こる位置)から焼結が完了するまでの間の1ヶ所以上の任意の位置で行うことが好ましい。このことは、上述したように、燃焼前線が装入層の表層下に移った段階で該気体燃料の導入を開始することを意味しており、その結果、気体燃料の燃焼が装入層の内部で起り、そして次第により下層に移るので、爆発のおそれがなく、安全な焼結操業が可能になることを意味している。
本発明に係る製造方法では、装入層中への希釈気体燃料の導入は、生成した焼結ケーキの再加熱を促進するものであることも意味している。即ち、この希釈気体燃料の供給は、もともと高温域保持時間が短く熱不足となりやすく、焼結鉱の冷間強度が低い部分に対して、固体燃料に比べて反応性の高い気体燃料を供給することによって、不足しやすいこの部分の燃焼熱を補填し、燃焼・溶融帯の再生−拡大を図るという意義を担うものだからである。
また、本発明に係る焼結鉱の製造方法では、点火後の装入層上部からの希釈気体燃料の供給は、装入層内する導入された希釈気体燃料の少なくとも一部が未燃焼のまま、燃焼・溶融帯にまで到達して、燃焼熱の補填を図りたい目標位置で燃焼するようにするのが好ましい。それは、希釈気体燃料の供給、即ち装入層中への導入効果を単に装入層上部のみならず、厚み方向の中央部である燃焼・溶融帯にまで波及させることがより効果的と考えられるからである。つまり、気体燃料の供給が、熱不足(高温域保持時間の不足)になりやすい装入層の上層部で行われると、十分な燃焼熱を提供することになり、この部分の焼結ケーキの品質を改善することができ、さらに、希釈気体燃料の供給作用を中層部以下の帯域にまで及ぶようにすると、本来の炭材による燃焼・溶融帯の上に希釈気体燃料による再燃焼・溶融帯を形成するのと等しい結果となり、燃焼・溶融帯の上下方向の拡幅につながるので、最高到達温度を上げることなく、高温域保持時間の延長を果すことが可能になるので、パレットの移動速度を落すことなく十分な焼結が実現できるからである。その結果、装入層全体の焼結ケーキの品質改善(冷間強度の向上)をもたらし、ひいては成品焼結鉱の品質(冷間強度)と生産性の向上につながる。
本発明は、前記希釈気体燃料の供給を、その供給の作用・効果を装入層中のどこに及ぼすかという観点から、その供給位置を決定する点に第1の特徴があり、またこの燃料の供給とともに、装入層内における最高到達温度や高温域保持時間を、熱量一定基準の下で固体燃料の量に応じてどの程度に制御するかという点に第2の特徴がある。
従って、本発明において、希釈気体燃料を装入層中へ導入(供給)するに当っては、その供給位置を調整するだけでなく、燃焼・溶融帯自体の形態を制御し、ひいては、燃焼・溶融帯における最高到達温度および/または高温域保持時間をも制御するようにすることが好ましい構成である。
一般に、点火後の装入層では、パレットの移動に伴って燃焼(火炎)前線が次第に下方にかつ前方(下流側)に拡大していく中で、燃焼・溶融帯の位置が図4(a)に示すように変化する。そして、図4(b)に示すように、焼結層内の焼結過程で受ける熱履歴は、上層、中層、下層で異なり、上層〜下層間では、高温域保持時間(約1200℃以上となる時間)は大きく異なる。その結果、パレット内の位置別焼結鉱の歩留まりは、図4(c)に示すような分布を示す。即ち、表層部(上層部)の歩留は低く、中層、下層部で高い歩留分布となる。そこで、本発明方法に従って、前記気体燃料を供給すると、燃焼・溶融帯は、上下方向の厚みやパレット進行方向の幅などが拡大し、これが成品焼結鉱の品質向上に反映されるのである。そして、高い歩留分布となる中層部や下層部は、さらに高温域保持時間を制御できるため、歩留をより上昇させることができる。
前記気体燃料の供給(導入)位置を調整することにより、燃焼・溶融帯の形態、即ち、燃焼・溶融帯の高さ方向の厚さおよび/またはパレット進行方向の幅を制御できると共に、最高到達温度や高温域保持時間を制御することができる。これらの制御は、本発明の効果をより一層際立たせて、燃焼・溶融帯の上下方向の厚さやパレット進行方向の幅の拡大や、最高到達温度、高温域保持時間の制御を通じて、常に十分な焼成を果し、成品焼結鉱の冷間強度の向上に有効に寄与する。
また、本発明において、装入層中への希釈気体燃料の供給(導入)は、成品焼結鉱全体の冷間強度を制御するためであると言うこともできる。すなわち、希釈気体燃料を供給するそもそもの目的は、焼結ケーキ、ひいては焼結鉱の冷間強度を向上させることにあり、とくに、気体燃料の供給位置制御や、焼結原料が燃焼・溶融帯に滞在する時間である高温域保持時間の制御、最高到達温度の制御を通じて、焼結鉱の冷間強度(シャッターインデックスSI)を75〜85%程度、好ましくは80%以上、より好ましく90%以上にすることである。
この強度レベルは、本発明では、とくに前記希釈気体燃料の濃度、供給量、供給位置および供給範囲を、好ましく焼結原料中の炭材量を考慮した(投入熱量を一定にする条件下で)上で調整することによって、安価に達成することができる。なお、焼結鉱の冷間強度の向上は、一方で、通気抵抗の増大と生産性の低下を招くことがあるが、本発明では、そうした問題を最高到達温度や高温域保持時間をも制御することによって解消した上で、焼結鉱の冷間強度を向上させる。なお、実機焼結機によって製造された焼結鉱の冷間強度SI値は、鍋試験で得られる値よりもさらに10〜15%高い値を示す。
本発明の製造方法において、パレット進行方向における前記希釈気体燃料の装入層中への導入位置は、装入層中に生成した焼結ケーキから湿潤帯までの間の任意の帯域における焼結鉱の冷間強度をどのようにするかということを基準とする。この制御のために、本発明では、気体燃料供給装置の規模(大きさ)、数、位置(点火炉からの距離)、ガス濃度を、好ましくは焼結原料中の炭材量(固体燃料)に応じて調整することにより、主として燃焼・溶融帯の大きさ(上下方向の厚さおよびパレット進行方向の幅)のみならず、高温到達温度、高温域保持時間をも制御し、このことによって、装入層中に生成する焼結ケーキの強度を制御する。
本発明の上記製造方法において、装入層中に供給する気体燃料としては、高炉ガス、コークス炉ガス、高炉・コークス炉混合ガス、都市ガス、天然ガスあるいはメタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス、またはこれらの混合ガスのいずれかを用いることが好ましい。これらは、いずれも燃焼成分を含有しており、これらの気体燃料のいずれかを空気中に高速で吐出させて空気と混合して希釈し、燃焼下限濃度の75%程度以下の希釈気体燃料として装入層中に供給(導入)する。
さらに、本発明では、装入層中に供給する気体燃料として、上記気体燃料以外に、気体状態での着火温度が、焼結ベッド表層の温度より高い、アルコール類、エーテル類、石油類、その他の炭化水素系化合物類等の液体燃料を気化させたものを用いることもできる。本発明で用いることができる液体燃料とその特性について、表6に示した。斯かる液体燃料を気化させた気体燃料は、着火温度が、上述した気体燃料と比較して着火温度が高いため、焼結ベッド表層の温度より高い、装入層のより内部で燃焼するため、吹き込む位置での燃焼・溶融帯のすその温度の拡大に有効である。特に、着火温度が500℃近いものは、その効果が大きい。なお、液体燃料を気化した気体燃料を用いる場合には、気体供給配管は、気化した燃料が再液化しないよう、該液体燃料の沸点以上着火温度未満の温度に保持することが好ましい。
なお、本発明のおいては、上記気体燃料の中でも、CO含有量が50massppm以下のものを用いることが好ましい。それは、COガスは、人体に対して有害であり、装入層上に供給された気体燃料が全量装入層中に導入されないで、機外に漏洩した場合には、人災を起こす可能性があるからである。具体的には、都市ガス13Aやプロパンガスを用いることがより安全性だけでなく、コストの面からも好ましい。
また、本発明の方法によって焼結鉱を製造するに当たっては、循環移動するパレットと、そのパレット上に粉鉱石と炭材を含む焼結原料を装入して装入層を形成する原料供給装置と、その焼結原料中の炭材に点火するための点火炉と、上記パレットの下方にウインドボックスを備える焼結機において、上記点火炉の下流側に、装入層上方で気体燃料を空気中に供給して燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料としてから装入層に導入するための気体燃料供給装置が配設されてなることを特徴とする焼結機を用いる。
本発明の焼結機における前記気体燃料供給装置は、焼結機の幅方向に沿って、パレットの両サイドウォールを跨がるように配設されるのが好ましい。前記気体燃料供給装置は、気体燃料を供給する配管を、複数本、好ましくは3〜15本、パレット進行方向に対して平行方向に、あるいは垂直方向に配列し、そのそれぞれの配管には、気体燃料を大気中に高速で供給するためのスリットや噴出穴、あるいはノズルを複数取り付けたものにて構成されることが好ましい。
なお、前記気体燃料供給装置は、点火炉の下流側かつ燃焼・溶融帯が装入層中を進行する過程におけるパレット進行方向のいずれかの位置に一つ以上配設され、装入層中への前記気体燃料の供給は、該装入層中の炭材への点火後の位置で行われるのが好ましい。即ち、この装置は、点火炉の下流側で、燃焼前線が表層下に進行した以降の任意の位置に一つないし複数個配設されるものであり、目標とする成品焼結鉱の冷間強度を調整する観点から、大きさ、位置、数が決められる。また、この気体燃料供給装置は、両サイドウォール近傍の低歩留り部の位置に配設すること、前記気体燃料は、燃焼下限濃度の75%以下かつ2%以上、あるいは燃焼下限濃度の60%以下かつ2%以上、あるいは燃焼下限濃度の25%以下かつ2%以上の濃度に希釈された可燃性ガスを用いることが好ましい。
図27は、本発明に係る焼結鉱の製造装置の一実施形態を示したものであるが、本発明は、この例示の形態に限定されるものではない。この図27に示した例は、点火炉10のパレット進行方向の下流側に当たる装入層の上辺に、高炉ガスとコークス炉ガスとの混合ガス(Mガス)等の気体燃料を大気中に吐出し、所望の濃度の希釈気体燃料とするための気体燃料供給装置12を1基だけ配設したものである。その気体燃料供給装置12は、パレットの幅方向に沿って複数の気体燃料供給パイプ12aを配設し、そのパイプには、気体燃料を高速で大気中に吐出するノズル12bを下向きにかつパレット幅方向に複数個配列させたものを、図示しないサイドウォールの上から装入層を覆うように配設してなるものである。この気体燃料供給装置12から供給された前記Mガスは、周辺の空気と混合して希釈気体燃料となり、その後、パレット8下のウインドボックス(図示されていない)の吸引力を利用して、装入層の上から表層に生成した焼結ケーキを経て、装入層の深部(下層)にまで導入される。なお、この気体燃料供給装置12は、特に、パレット両側端(図4(c)の歩留り60%の領域)の歩留り向上を図りたいときは、パレットの両サイドウォール近傍に気体燃料を多く供給できるよう、前記ノズル12aを重点的に配置することが好ましい。
この気体燃料供給装置12から供給する気体燃料としては、例えば、高炉ガス(Bガス)、コークス炉ガス(Cガス)、高炉ガスとコークス炉ガスとの混合ガス(Mガス)、都市ガス、天然ガス(LNG)またはメタン、エタン、プロパン、ブタンガス、あるいはこれらの混合ガスなどが用いられる。これらの気体燃料は、点火炉10とは別途に独立した配管系の下で供給してもよく、また、点火炉用燃料配管と同じ種類として、点火炉10へのガス供給管(図示せず)の延長上に接続するように構成してもよい。
下記の表7は、本発明で使用する各種気体燃料の燃焼下限濃度と、その気体燃料の吹き込み上限濃度(燃焼下限濃度の75%、60%、25%)を示したものである。
例えば、プロパンガスは、燃焼下限濃度は2.2vol%であるから、75%に希釈したガス濃度上限は1.7vol%、60%に希釈したガス濃度上限は1.3vol%、25%に希釈したガス濃度は0.6vol%のものを用いるということである。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。なお、希釈したガス濃度の下限、即ち、気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は、プロパンガスの場合は0.05vol%である。
好ましい範囲(1): 2.2vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(2): 1.7vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(3): 1.3vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(4): 0.6vol%〜0.05vol%
また、Cガスは、燃焼下限濃度は5.0vol%であるから、75%に希釈したガス濃度上限は3.8vol%、60%に希釈したガス濃度上限は3.0vol%、25%に希釈したガス濃度は1.3vol%のものを用いるということである。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。なお、Cガスの場合、気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は0.24vol%である。
好ましい範囲(1): 5.0vol%〜0.24vol%
好ましい範囲(2): 3.8vol%〜0.24vol%
好ましい範囲(3): 3.0vol%〜0.24vol%
好ましい範囲(4): 1.3vol%〜0.24vol%
また、LNGガスは、燃焼下限濃度は4.8vol%であるから、75%に希釈したガス濃度上限は3.6vol%、60%に希釈したガス濃度上限は2.9vol%、25%に希釈したガス濃度は1.2vol%のものを用いるということである。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。なお、LNGガスの気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は0.1vol%である。
好ましい範囲(1): 4.8vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(2): 3.6vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(3): 2.9vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(4): 1.2vol%〜0.1vol%
また、高炉ガスは、燃焼下限濃度は40.0vol%であるから、75%に希釈したガス濃度上限は30.0vol%、60%に希釈したガス濃度上限は24.0vol%、25%に希釈したガス濃度は10.0vol%のものを用いるということである。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。なお、高炉ガスの気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は0.24vol%である。
好ましい範囲(1): 40.0vol%〜1.25vol%
好ましい範囲(2): 30.0vol%〜1.25vol%
好ましい範囲(3): 24.0vol%〜1.25vol%
好ましい範囲(4): 10.0vol%〜1.25vol%
次に、表8は、Cガス、LNG、Bガス中に燃焼成分として含まれる水素、CO、メタン、エタン、プロパンの含有量と発熱量を示したものである。
以下、本発明に係る焼結鉱の製造方法を開発する契機となった実験について説明する。
この実験は、図28に示す実験装置、即ち、透明石英製窓付き竪型管状の試験鍋(150mmφ×400mmH)を用い、使用する気体燃料として、高炉ガス・コークス炉ガスの混合ガス(Mガス)を用い、出願人会社の焼結工場で使用しているのと同じ焼結原料、即ち、表9に示す焼結原料を使って、下方吸引圧力11.8kPa一定の条件で焼結鍋試験を行った例である。ここで、前記Mガスの燃焼成分の濃度は、空気で希釈して、0.5vol〜15vol%の範囲内で変動させた。なお、この実験に用いたMガスの燃焼下限濃度は12vol%である。
図28は、また、前記試験鍋の透明石英窓から燃焼溶融帯をビデオ観察した様子、とくに燃焼前線の移動に伴う燃焼帯の下降状況を示している。この図からわかるように、試験鍋内原料堆積層中に、燃焼下限濃度(12vol%)を超える15vol%のMガスを含む気体燃料を吹き込んだ場合、気体燃料は装入層表面ですぐに燃焼を開始し、装入層の下層にまでは届かず吹込みの効果が得られなかった。これに対して、本発明に従い、前記気体燃料の燃焼下限濃度(12vol%)の75%以下である3vol%まで空気で希釈した気体燃料を用いた場合、原料堆積層表面で燃焼することがなく、装入層内深く、即ち、燃焼・溶融帯相当域まで到達し、燃焼した。その結果、空気のみで焼結したときの、燃焼帯(燃焼・溶融帯とも呼ぶ)の厚みは70mmであったのに対し、Mガスを希釈して用いた場合には、燃焼帯の厚み幅を150mm、即ち2倍以上に拡大させることができた。この燃焼帯の厚みの拡大は、高温域保持時間の延長が達成されることをも意味する。
しかも、この試験鍋による実験においては、実機焼結機におけるパレットの移動に伴う燃焼前線の進行速度に相当する燃焼帯の降下速度(この逆数が焼結時間である)は、希釈気体燃料の供給によって速くなり、しかも、コークスを増量したときや高温空気を吹き込んだときと同じように、燃焼帯の上下方向の厚み幅を拡大させることができた。このように、焼結原料の装入層中に適切に希釈された気体燃料を吹き込んだ場合、従来のような固体燃料、液体燃料、希釈しない可燃性ガスを使う場合と比較すると、燃焼帯幅の拡大効果が著しくなり、しかも、コークスを増量したときのような燃焼前線の降下速度の低下を招くことがなく、大気焼結の場合とほとんど変わらず同じ速度で進むことがわかった。
図29(a)〜(d)は、上記焼結鍋試験結果をまとめたものである。この結果によれば、本発明に従って原料装入層中に適切に希釈されたMガスを吹き込んだ場合、焼結時間はほとんど変化しないにも拘らず、歩留が若干向上し(図29(a))、焼結生産性も増加している(図29(b))。しかも、高炉の操業成績に大きく影響する冷間強度の管理指標であるシャッター強度(SI)は10%以上(図29(c))も改善し、還元粉化特性(RDI)は8%も改善している(図29(d))。
本発明では、装入層中に導入する前記気体燃料として、希釈された可燃性ガスを用いるが、以下に、その希釈の程度について説明する。表10は、高炉ガス、コークス炉ガスおよび両者の混合ガス(Mガス)、プロパン、メタン、天然ガスの燃焼下限濃度および燃焼上限濃度を示している。例えば、このような燃焼限界をもつガスが、装入層内で燃焼せずに排風機に向かうと、途中の電気集塵機などで爆発や燃焼の危険が生じる。そこで、発明者らは、試行錯誤の結果、上記危険がない濃度、即ち、燃焼下限以下の濃度に希釈した気体燃料を装入層中に導入することとし、さらに、より安全性を高めるべく、その燃焼下限濃度の75%以下の濃度の希釈気体燃料を用いた実験を数多く行った結果、何の問題も生じないことが確認できた。
例えば、大気中で常温において高炉ガスが燃焼する濃度範囲は、表10に示すとおり、燃焼下限が40vol%(即ち、40vol%未満では燃焼しない)であり、また、その燃焼上限は71vol%である。これは、71vol%を超えると、高炉ガス濃度が濃くなりすぎて、この場合もまた燃焼しない状態となることを意味している。以下に、この数値の根拠について図面に基づき説明する。
図30は、高炉ガスの前記燃焼限界を求める方法の一例を示すものである。図中の高炉ガスに含まれる燃焼成分(可燃性ガス)とその他(イナート:不活性ガス)の割合については、H2とCO2およびCOとN2との組み合わせで検討すると以下のとおりである。
(1)「H2とCO2」部分の組み合わせについての、(イナートガス)/(可燃性ガス)の比は、20.0/3.5=5.7である。
そこで、この燃焼限界図の(イナートガス)/(可燃性ガス)の比を示す横軸の、5.7の軸と交差するH2+CO2曲線の交わる部分(燃焼限界)を求めた。下限は32vol%、上限は64vol%となる。即ち、H2+CO2の燃焼限界の下限は32vol%、上限は64vol%となる。
(2)一方、残りの燃焼成分である「COとN2」の組み合わせの場合における、(イナートガス)/(可燃性ガス)の比は、53.5/23.0=2.3であるから、同様にして、同図から横軸2.3と、CO+N2の曲線と交わる点から下限:44vol%、上限:74vol%が求まる。従って、この場合の燃焼限界の下限は44vol%、上限が74vol%である。
(3)さらに、両燃焼成分を含む高炉ガスの燃焼下限は、図30中左方最下段の式で求めることができる。また、同式で前記(1)、(2)の上限値をあてはめれば燃焼上限が求まる。このようにして高炉ガスの燃焼下限ならびに燃焼上限を求めることができる。
また、本発明において、気体燃料の燃焼下限に着目したもう一つの理由は、燃焼限界には温度依存性がある点である。燃料便覧(社団法人燃料協会編)では、温度の影響として、温度が高いときには、熱の逸散速度が遅くなるので、熱の発生、逸散両速度曲線の交わりは深くなって、爆発範囲(燃焼範囲)は左右に広がってくる、と説明している。すなわち、燃焼限界は、上述のようにして求められるものの、該燃焼限界には温度依存性があって、メタンガスの燃焼範囲の温度による影響として、燃料便覧(社団法人燃料協会編)では、表11に記載の例が示されている。これを燃焼下限濃度の温度依存性として作図すると、おおよそ図31に示すようになる。図中●印は、表11に記載されたメタンガスの例である。
また、図32は、大気中常温下における気体燃料の燃焼成分(燃焼ガス)濃度と温度との関係を示すものである。燃焼限界は、上述のようにして求められるものの、該燃焼限界には温度依存性があって、その温度依存傾向を例示すると、常温での燃焼下限値(図中では燃焼ガス濃度に相当)がおおよそ40vol%であっても、200℃領域では26〜27vol%と変化し、1000℃領域では数%、1200℃領域では1vol%未満でも燃焼する。
このことから、装入層に供給する気体燃料の濃度(燃焼成分の含有量)は、常温の燃焼下限よりもさらに低い濃度とすればより安全であり、その希釈ガスの濃度さえ適正範囲に調整しておけば、気体燃料の、装入層内の厚み方向での燃焼位置制御の自由度も高くなることがわかった。
そして、気体燃料の燃焼には、このように、温度依存性があり、例えば、燃焼範囲は雰囲気温度が高温になればなるほど広がり、焼結機の燃焼・溶融帯近傍の温度場ではよく燃焼するものの、焼結機の下流側にある電気集塵機内などの200℃程度の温度場では、本発明の好適実施例で示すような気体燃料の濃度では燃焼しないこともわかった。
ところで、焼結鉱の製造に当たって、焼結原料の装入層中に供給される前記希釈気体燃料は、パレット下のウインドボックスによって吸引され、該装入層中の固体燃料(粉コークス)の燃焼により形成される燃焼・溶融帯の高温域で燃焼する。従って希釈気体燃料の供給は、装入層への投入熱量を一定にするという条件下において、前記希釈気体燃料の濃度や供給量などを制御すれば、焼結原料中の粉コークス量を調整(減少)することができる。また、希釈気体燃料の濃度調整は、この気体燃料の燃焼を装入層中の予期した位置(濃度領域)で起こるように制御することを意味している。
この意味において、従来技術の下での装入層中の燃焼・溶融帯とは、固体燃料(粉コークス)のみが燃焼する帯域であるが、本発明の場合、その粉コークスに加えてさらに気体燃料も並行して燃焼させる帯域ということができる。従って、本発明において、その希釈気体燃料の濃度や供給量、その他の供給条件は、燃料の一部として粉コークスがあることを前提として、これとの関係において好適に変化させると、最高到達温度および/または高温域保持時間の望ましい制御が可能となり、焼結ケーキの強度向上をもたらすことになる。
本発明方法において、希釈された気体燃料を用いるさらにもう一つの理由は、上述した焼結・溶融帯の形態制御を通じて焼結ケーキの強度、歩留りを制御するためである。それは、この焼結ケーキを高温帯域(燃焼・溶融帯域)にどれくらいの時間保持するか、また、どれくらいの温度にまで到達させるかという制御を行う上で、この希釈気体燃料の役割が有効に機能するからである。言い換えると、前記希釈気体燃料の使用は、焼結原料の高温域保持時間が長くかつ最高到達温度が適度に高くなるように制御することを意味している。そして、このような制御は、焼結原料中の固体燃料量(粉コークス量)に応じて、燃焼雰囲気中で支燃性ガス(空気または酸素)の量が過不足を起さないように希釈調整された前記気体燃料を用いることを意味している。この点、従来技術では、焼結原料の固体燃料量と無関係に、しかも可燃性ガスを濃度調整することなしに吹き込むために、固体燃料や可燃性ガスの量に見合う量の支燃性ガス(酸素)が供給されないため、燃焼不良を起こしたり、逆に部分的に過燃焼を起こしたりして、強度のバラツキを招いていたのである。つまり、本発明は、気体燃料を希釈しかつ濃度調整をすることで、このような問題点を回避しているのである。
次に、気体燃料の種類による希釈気体燃料の影響について示す。図33は、数種類の気体燃料を燃焼下限濃度以下に希釈した希釈気体燃料を使用した本発明焼結法と、気体燃料の吹き込みなしの従来焼結法とを比較した実験結果を示すものである。なお、希釈気体燃料の吹き込みをしない従来焼結例では、粉コークス添加量を5mass%とし、一方、希釈気体燃料を吹き込む本発明例では、粉コークス0.8mass%相当の希釈気体燃料を吹き込むため、総熱量を一定とするために、粉コークス添加量を4.2mass%とした。この図からわかるように、希釈気体燃料を使用した場合は、いずれの例においても、シャッター強度、成品歩留、生産性の向上が認められた。このように、希釈気体燃料使用例において、シャッター強度、成品歩留等が向上した理由は、燃焼状況として示した燃焼・溶融帯の拡大と、それによる高温域保持時間の延長によるものと考えられる。
図34は、気体燃料として、プロパンガスを用いた場合の吹きこみガス濃度の影響を示す図であり、希釈気体燃料の濃度と、シャッター強度(a)、歩留(b)、焼結時間(c)、生産率(d)との関係を示したものである。この図からわかるように、プロパンガスの場合、これを希釈気体燃料として使用する場合は、シャッター強度向上のためには0.05vol%の添加で効果が生じ、歩留りもほぼ同様な改善効果を示す。明確な作用効果が出るのは、プロパンガスでは0.1vol%から、好ましくは0.2vol%である。この結果を、Cガスを吹き込みガスとして用いた場合に換算すると、Cガスでは0.24vol%の添加で効果を生じ、好ましくは0.5vol%以上、明確な改善効果は1.0vol%以上で生ずることになる。したがって、プロパンガスでは、少なくとも0.05vol%以上、好ましくは0.1vol%以上、より好ましくは0.2vol%以上となる。一方、Cガスでは、少なくとも0.24vol%以上、好ましくは0.5vol%以上、より好ましくは1.0vol%以上であり、上限は燃焼下限濃度の75%である。なお、プロパンガスの場合、0.4vol%の添加でほぼ効果は飽和しており、この時のガス濃度は、燃焼下限濃度の25%に相当する。
次に、本発明方法に従って、焼結原料中の炭材量を考慮し、前記気体燃料の供給を行って製造した焼結鉱の冷間強度と還元粉化特性(RDI)について説明する。「鉱物工学」(今井秀喜、武内寿久禰,藤木良規編、1976、175、朝倉書店)によると、焼結反応は、図35の模式図のようにまとめられる。また、表12に、焼結過程で生成する各種鉱物の引張強度(冷間強度)と被還元性の値を示す。図35から明らかなように、焼結過程では、1200℃で融液が生成し始め、焼結鉱の構成鉱物の中で最も高強度であり、被還元性も比較的高いカルシウムフェライトが生成する。さらに昇温が進んで約1380℃を超えると、冷間強度と被還元性とが最も低い非晶質珪酸塩(カルシウムシリケート)と、還元粉化しやすい二次ヘマタイトとに分解することとなる。したがって、焼結鉱の冷間強度の向上とRDIを改善するには、カルシウムフェライトを分解させずに、これを安定的に生成させ続けられるかどうかが課題となる。
また、上記刊行物「鉱物工学」によると、焼結鉱の還元粉化の起点となる二次ヘマタイトの析出挙動について、図36により説明している。その説明によると、鉱物合成試験の結果では、還元粉化の起点となる骸晶状二次ヘマタイトは、Mag.ss+Liq.域まで昇温し冷却したのちに析出するため、状態図上では、(1)の経路でなく、(2)の経路を介して焼結鉱を製造することで、還元粉化性を抑制できるとしている。したがって、低RDI焼結鉱と高強度焼結鉱とを兼備する焼結鉱を製造するには、1200℃(カルシウムフェライトの固相線温度)と約1380℃(転移温度)の範囲内に、如何にして長時間保持したヒートパターンを装入層内において実現するかが重要となる。よって、添加する炭材量を気体燃料の供給により調整し、装入層内の最高到達温度を1200℃超え1380℃未満の範囲とすることが重要であり、好ましくは1205〜1350℃の範囲とするのが望ましいことがわかる。
次に、発明者らは、燃焼帯の上下方向の厚さ(幅)と希釈燃料ガスとの関係を知るために、透明石英製窓付き竪形管状試験鍋を用い、焼結機クーラーの排ガスで希釈したプロパンガスを、この鍋の上方から焼結原料の装入層中に吹き込む実験を行った。この実験で使用した焼結原料は、出願人会社で使用している一般的なものであり、吸引圧力は1200mmAq一定とした。この実験で、吹き込むプロパンガスは、0.5vol%と2.5vol%の濃度に希釈したものを用いた。なお、投入熱量を換算すると、0.5vol%のプロパンガス吹き込みは、粉コークス1mass%配合にほぼ相当する。
図37は、この実験におけるプロパンガス吹込み時の燃焼帯の形態を観察した結果を示す写真である。この図に示すように、燃焼下限濃度(理論値、対空気)に近い2.5vol%に希釈したプロパンガスでは、吹込み直後に原料装入層上で燃焼し、気体燃料が装入層内に入っていかず気体燃料供給の効果が得られなかった。これに対し、プロパンガスの希釈濃度が空気に対して0.5vol%濃度のものを用いると、装入層上部で燃焼することなく、装入層内まで入っていき、しかも装入層内で速い速度で燃焼した。その結果、大気条件で焼結したときの燃焼帯の上下方向幅(厚さ)は約70mmであったのに対し、このような希釈プロパンガスを吹込んだ時の燃焼帯の幅は150mmと、2倍以上に拡大した。これは、高温域保持時間が延長されたことに相当する。
したがって、燃焼帯の厚みの拡大効果は、プロパンの燃焼下限濃度の1/5の濃度である0.5vol%でも発現することがわかった。逆に、本発明にかかる気体燃料吹込み技術では、希釈された気体燃料でないと、装入層内における燃焼制御が困難であることもわかる。
さらに、この実験においては、燃焼帯の降下速度(この逆数が高温域保持時間)についても検討した。その結果、単にコークスを増量した場合や高温の空気を吹き込んだ場合には、降下速度が大きく低下して、生産性が低下するが、希釈した気体燃料を用いた場合には、固体燃料を増量した例と比較して燃焼速度を速くすることができるため、燃焼帯の降下速度は大気焼結の場合とほとんど差異が認められなかった。
次に、発明者らは、希釈気体燃料の装入層中への供給位置の影響について調査するため、気体燃料としてコークス炉ガス(Cガス)を2%に希釈して用い、希釈気体燃料の吹込み位置を、装入層表面から100〜200mmの位置、200〜300mmの位置、300〜400mmの位置と変化させて焼結鍋実験を行い、その結果を図38に示した。
ここで、図38の横軸における吹込み位置100〜200mmとは、図中、明るく(白く)示されている燃焼・溶融帯が装入層表面から100mm位置に移動した時から、試験鍋上方より希釈気体燃料の供給を開始し、その燃焼・溶融帯が200mmの位置に到達するまでの間、希釈気体燃料を吹き込んで燃焼させた例であり、その場合の燃焼・溶融帯(図中、燃焼・溶融帯は、明るく(白く)示されている)の進行状況を観察した結果を縦軸に示している。同様に、吹込み位置200〜300mmとは、燃焼・溶融帯が200mm位置に達した段階から300mmに到達するまでの間、希釈気体燃料を供給して燃焼させた例、そして吹込み位置300〜400mmとは、燃焼・溶融帯が300mm位置に達した段階から400mmに到達するまでの間、希釈気体燃料を供給して燃焼させた例を示したものである。また、比較として、希釈気体燃料の吹込みを行わない従来法の場合についても、燃焼・溶融帯の進行状況を調査した。なお、試験鍋の燃焼用空気の供給は、通常の焼結操業と同様に上方から下方に流れるので、気体燃料添加時は、この燃焼用空気に気体燃料が所定濃度になるように添加され、供給される。
図38からわかるように、燃焼・溶融帯が装入層表面から100〜200mm領域で希釈気体燃料を供給した場合には、従来法に比べ燃焼・溶融帯の厚さがわずかに大きくなる程度にとどまっている。これに対して、燃焼・溶融帯が200〜300mm領域で希釈気体燃料を供給した場合には、従来法に比べ明確に燃焼・溶融帯の厚みが増しており、300〜400mm領域も従来法に比べ明確な差を有していることがわかる。
以上のことから、希釈気体燃料の吹込みは、燃焼・溶融帯の位置が装入層表面から200mm以下の領域となる部分に対して行われることが好ましい。そして、装入層表面から200mm未満の領域については、無理に気体燃料を供給しなくても、200mm以下の領域において気体燃料を供給することにより、この領域の焼結鉱のシャッター強度を大幅に向上できることから、成品焼結鉱の歩留りを全体として向上させることができる。したがって、気体燃料コストの低減を図ることもできる。
図39は、装入層表面から200mmまでの上層部と、200mm以下の中、下層部の燃焼状況を模式的に示したものである。この図に示した矢印Aは、焼結の進行方向(燃料方向)を示し、図39(a)は上層部(<200mmまで)における粉コークスと気体燃料との燃焼位置を示している。この場合、粉コークスの燃料により形成される燃焼帯が装入層の上部では元々狭く、この粉コークスの燃焼帯と、この燃焼帯域で燃焼する気体燃料の燃焼点とが互いに接近しているため、同図の右側に記載したような温度パターンとなる。なお、この温度分布において、粉コークス(固体燃料)の燃焼域をハッチング部分として示してあり、その上方で燃焼する気体燃料の温度域を非ハッチング部分として示してある。この図からわかるように、装入層上部では、コークスと気体燃料との燃焼が同時期に起るため(両者が互いに接近して燃焼することになる)、図中のT1、T2で示す間の高温域保持時間(約1200℃相当)が図示のように狭いものになる。すなわち、ハッチング部分で示すコークス燃焼域がわずかに拡大する程度の温度分布となる。このことは、装入層中への前記気体燃料の供給は、燃焼・溶融帯の厚みが15mm以上になってから行うことが好ましいとしたように、元々の高温域保持時間が狭い時、気体燃料の吹込み効果が低いとしたことと一致する。
一方、図39(b)は、中層、下層部分に気体燃料を供給した場合であり、中層、下層域では燃焼帯が上層から下方へ移行するに従って装入層の温度上昇もあって、燃焼帯幅が拡大し、図39(a)の場合よりも離れた位置で燃焼するようになる。その結果、図39(b)の右側に示すような温度分布となる。即ち、気体燃料の燃焼点は、ハッチングして示す固体燃料(コークス)燃焼点より離れているため、合成された温度分布曲線はすそ野の大きい温度分布になる。従って、T3、T4で示される固体燃料と気体燃料の燃焼に基づく高温域保持時間が延長されて、得られる焼結鉱のシャッター強度が向上するのである。
なお、図39(b)のケースにおいて、高温域保持時間を制御する(延長する)ための気体燃料の着火温度は、400℃〜800℃が好ましく、より好ましくは500〜700℃である。この理由は、着火温度を400℃未満にすると、高温域の拡大につながらず、単に低温域分布を拡大するに止まるだけであり、一方、800℃を超えると固体燃料の燃焼による高温域保持時間と接近しすぎて、最高到達温度の上昇を招くだけで、高温域保持時間の延長の効果が小さいためである。
次に、希釈気体燃料を供給して装入層中の最高到達温度(層内温度)を制御する方法の一例を説明する。図40は、焼結時における装入層内の温度分布を模式的に示すものであり、従来焼結法に相当する固体燃料(粉コークス)5mass%添加における温度分布例を基準として、Cガスを希釈して吹き込み、その分、コークス量を減らした本発明に係る焼結法を説明するものである。ここで、コークスを5mass%添加して焼結した従来焼結法の層内温度と時間との関係を示したのが曲線aである。一般に、高温域保持時間を延長するには、粉コークスの使用量を増加させることが行われているが、例えば、粉コークスを10mass%添加した場合の曲線を破線bで示したように、コークスの増量により高温域保持時間は(0−A)から(0´−B)に拡大するものの、最高到達温度も約1300℃から約1370℃〜1380℃にまで上昇することになり、低RDI焼結鉱でかつ高強度焼結鉱を得ることはできなくなる。
この点、本発明法に従う焼結操業方法(曲線c)では、粉コークスの使用量を4.2mass%に抑える一方で、希釈Cガスを吹込むため、最高到達温度は1270℃に抑えることができると同時に、高温域保持時間は(0−C)に拡大するため、従来法では実現できなかった低RDI、高強度焼結鉱の製造という当初の目的を十分に果すことができる。
要するに、従来焼結法は、高温域保持時間か最高温度制御のいずれか一方に着目した操業方法であった。これに対して、本発明法は、粉コークス使用量の調整(例えば、4.2mass%に抑制)の下で、最高到達温度を(1205〜1350℃)に調整する一方、希釈気体燃料の吹込みにより、高温域保持時間をも調整する操業方法である。なお、図40の曲線dは、固体燃料使用量を単に4.2mass%に下げた例を示すものであり、最高到達温度も低く、高温域保持時間も短い。
図41は、従来焼結法として、粉コークス5mass%を用いた例、および本発明の適合例として、粉コークス使用量を4.2mass%として濃度を2.0vol%にした希釈Cガス吹込みを併用した例における燃焼状況を示したものである。この図のサーモビアからわかるように、従来法では、1400℃を超える燃焼状況が生じている。一方、粉コークスの使用量を4.2mass%にとどめ、濃度2vol%のCガス吹込みを行った本発明の場合、1400℃領域はなくなり、最高到達温度は1350℃以下に抑えることができると同時に、高温域保持時間の延長が実現できていることがわかる。
図42は、投入熱量一定条件下において、希釈されたプロパンガスの吹込みによる、装入層内温度(a)、排ガス温度(b)、通過風量(c)、排ガス組成(d)の経時変化を示すものである。なお、装入層内温度は、上記試験鍋において、装入層表面下400mm(装入層厚:600mm)の位置に装入した熱電対で測定した値であり、また、試験鍋の円周方向では、中心部と壁から5mmの2箇所で測定した。これらの図から、希釈したプロパンガスを吹き込むことで、焼結原料が1205℃以上に加熱され、溶融している時間(高温域保持時間)は2倍以上に増加しているが、最高到達温度は上昇していないことが確認された。また、希釈気体燃料として、プロパンガスを吹き込むことで、排ガス中の酸素濃度が低下しており、酸素が効率的に燃焼反応に使われていることを推測させる。
また、図43は、希釈されたプロパンガスを吹き込んだ(0.5vol%)時とコークスを増量(10mass%)した時における、装入層内温度(a)、(a’)と、排ガス濃度(b)、(b’)の経時変化を対比して示したものである。これらの図より、粉コークスの使用割合を倍増させた場合、1200℃以上の高温域保持時間は、濃度0.5vol%に希釈されたプロパンガス吹込み時とほぼ同等であるが、最高到達温度が1350℃を超えている。また、粉コークスの量を増加させることで、排ガス中のCO2濃度が20vol%から25vol%に大きく上昇し、CO濃度も増加しており、粉コークスが燃焼に寄与する割合が低下していることが確認された。
次に、表13に示す条件で焼結実験を行い、操業状況や焼結鉱の品質に及ぼす影響を調査した。実験No.1は、焼結原料中のコークスを5mass%配合した現状ベース条件、実験No.2は、粉コークスを1mass%低下させて4mass%とし、その代わりに0.5vol%のプロパンガスを吹き込んだ投入熱量一定条件、実験No.3は、粉コークスを10mass%配合した条件、実験No.4は、保熱炉(特開昭60−155626号公報)との差異を検証する目的で450℃の高温ガスを吹き込む条件である。
図44は、これらの試験における各種の特性試験結果をまとめたものである。この図から明らかなように、希釈されたプロパンガス吹込みにより焼結時間が若干延長するものの、歩留やシャッター強度(SI)、生産率がともに改善されるとともに、還元粉化性(RDI)も被還元性(RI)も大きく改善されており、希釈気体燃料の吹込みを適正化することにより、生産率や歩留の改善の他、焼結鉱の高品質化が可能になることが確認された。
これに対し、粉コークスを10mass%まで増加させただけの場合は、焼結時間が延長するだけでなく、最高到達温度が必要以上に上昇するため、却って低強度の非晶質珪酸塩が多く生成して、シャッター強度と歩留がいずれも大きく低下した。また、450℃の高温ガスを吹き込むケースでは、シャッター強度と歩留の改善効果が小さく、これまでの商業設備における結果とほぼ一致した。
以上説明したことからわかるように、希釈された気体燃料を用いる場合、このガスが装入層内で燃焼して、該層内の燃焼帯の拡大をもたらすとともに、焼結原料中のコークスによる燃焼熱と、希釈されたプロパンガスの燃焼熱との相乗的な作用により、広い燃焼帯が形成される。その結果、最高燃到達温度が過剰に上ることなく、高温域保持時間を延長することができる。
次に、発明者らは、希釈された気体燃料の吹き込みによる、成品焼結鉱の被還元性、冷間強度等への影響について、従来法(5mass%、10mass%コークス、熱風吹込み)と対比して調査した。測定した項目は、成品焼結鉱中の鉱物組成割合(冷間強度と被還元性に影響)、見掛け比重(冷間強度に影響)、0.5mm以下の気孔径分布(被還元性に影響)である。
図45は、粉末X線回折法によって定量化した、成品焼結鉱中の鉱物相の組成割合を調査した結果を示したものである。この図から、投入熱量一定(コークス4mass%+プロパン0.5vol%)として固体燃料と希釈プロパンガスを併用した場合には、カルシウムフェライトが安定して生成していることがわかる。そして、このことが、被還元性の向上と冷間強度の増加をもたらすものと考えられる。
図46は、プロパンガスの吹き込み有無による、成品焼結鉱の見掛け比重の変化を、また、図47は、プロパンガスの吹き込み有無による、水銀圧入式ポロシメーターによる0.5mm以下の気孔径分布の変化を測定した結果を示すものである。図46より、希釈されたプロパンガスの吹込みにより、見掛け比重が大きくなっていることがわかる。これは、プロパンガス吹込みにより、造粒粒子外側からも加熱が行われる結果、融液流動が促進され、0.5mm以上の気孔率が低下したためと考えられ、この結果は、冷間強度の向上に寄与することとなる。また、図47より、投入熱量一定として希釈プロパンガスを吹き込むことにより、0.5mm以下の気孔径分布が増加していることがわかる。これは、焼結原料粒子中の熱源が減少することで、被還元性に影響を及ぼす鉱石由来の500μm以下の微細気孔が残留しやすくなったためであり、その結果、高被還元性焼結鉱の製造が可能となるものと考えられる。
図48は、コークスのみを使用した場合(a)とコークスと希釈気体燃料を併用した場合(b)の焼結挙動を模式図に示したものである。この図に示すように、従来のコークスのみを利用する焼結では、粉コークス燃焼によって擬似粒子内部から加熱していたのに対し、本発明のように、コークス+気体燃料の併用方法では、気体燃料の燃焼により擬似粒子外部からも加熱されるようになるため、鉱石内の微細気孔が残留しやすくなり、RDIが低い割に、還元率(RI)を比較的高くできるものと推察される。
図49は、希釈した気体燃料を吹き込んだ場合における焼結鉱の気孔分布の変化を模式的に示したものである。この図に示すとおり、焼結鉱の生産性の向上には、歩留と冷間強度に影響を及ぼす0.5〜5mm径の気孔の合体を促進してその数を減少させること、および、通気性に影響を及ぼす5mm径以上の気孔の割合を増加させることが有効である。また、焼結鉱の被還元性の向上には、主に鉄鉱石中に存在する0.5mm以下の微細気孔を多く残留させた気孔構造とすることが望ましい。この点、本発明によれば、希釈した気体燃料吹込みにより、理想的な焼結鉱の気孔構造に近づけることが可能であると考えられる。
図50は、所望の冷間強度を維持できる限界コークス比を把握する試験の結果を示すものである。ここで、上記限界コークス比とは、シャッター強度(SI)が、希釈されたプロパンガス不使用の場合に得られる最大値(73%)と同等となるコークス添加量と定義する。この図に示すように、希釈された0.5vol%のプロパンガス吹込みにより、現状と同じ冷間強度(シャッター強度73%)を得ることができるコークス比は、図50(a)に示すように、5mass%から3mass%に低減(約20kg/t)している。また、図50(b)、(c)に示すように、74%の歩留りおよび1.86t/hr・m2の生産率を得るためのコークス比は、それぞれ5mass%から3.5mass%に低下していることがわかる。
以上説明したところから明らかなように、本発明は、パレットの進行に伴って、燃焼・溶融帯が装入層の表層から下層へ移る間に、含有する炭材量に応じて適切に希釈された気体燃料を、適所を選んで供給することにより、装入層内の燃焼・溶融帯の機能を拡大するような作用を生じさせることができ、焼結鉱の品質改善、生産性の向上を図ることができる。