次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.印刷制御:
A−1.ハードウェアおよびソフトウェア構成:
A−2.インクセットの設定:
A−3.色変換プロファイル作成指針の設定:
A−4.色変換プロファイルの作成:
A−5.色変換および印刷:
B.各種コンバータ:
B−1.分光プリンティングモデルコンバータ:
B−2.色コンバータ:
B−3.粒状性コンバータ:
B−4.平滑性コンバータ:
C.まとめおよび変形例:
C−1.変形例1:
C−2.変形例2:
A.印刷制御
A−1.ハードウェアおよびソフトウェア構成
図1は、本発明の印刷制御装置が実行する印刷制御処理の概略的な流れを示している。同図において、ステップS100(A−2節にて説明)においては、印刷制御装置が印刷対象の画像データの印刷に適したインクセットを選択し、使用するインクセットとして設定する。ステップS200(A−3節にて説明)においては、印刷装置に搭載されたインクの種類やユーザーからの指示に基づいて色変換プロファイル作成の必要性の有無、および、色変換プロファイル作成する場合の作成指針を設定する。ステップS300(A−4節にて説明)においては、ステップS200にて設定された作成指針に基づいて色変換プロファイルを作成する処理を行う。ステップS300における色変換プロファイルの作成においては、インク量セットを各指標値に変換する各種コンバータ(B−1〜B4節にて説明)を使用する。さらに、ステップS400(A−5節にて説明)においては作成された色変換プロファイルを使用して色変換を行い、その変換結果に基づいて印刷装置を制御することにより印刷を実行させる。
図2は、印刷制御装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成を示している。なお、本発明の印刷制御装置の主要部は実体的にはコンピュータ10にて実行されている。具体的には、コンピュータ10が備えるCPU12が、ハードディスクトライブ(HDD)11等に記憶されたプログラムデータ11aを読み込み、当該プログラムデータ11aをRAM13上に展開しながらプログラムデータ11aにしたがった演算を実行させる。そして、当該演算によって本発明の印刷装置としてのプリンタ20をUSBインターフェース(I/F)14等を介して制御することにより、本発明の印刷制御装置を構成する各種手段を実現する。むろん、コンピュータ10とプリンタ20が赤外線や無線LAN等の他のインターフェースに接続されていてもよい。コンピュータ10は、ビデオインターフェース(I/F)15を介してディスプレイ30と接続されており、また入力インターフェース(I/F)16を介してキーボード40aとマウス40bが接続されている。
プリンタドライバPDは、ディスプレイ30にUI画面を表示させキーボード40aとマウス40bを介してユーザーからの指示を受け付けるUI部PD1と、印刷対象の画像データを取得する画像データ取得部PD2を備えている。また、プリンタドライバPDは、インクカートリッジの搭載状況をはじめとするプリンタ情報をプリンタ20から取得するプリンタ情報取得部PD3と、印刷対象の画像データの印刷に適したインクセットを設定するインクセット設定部PD4と、プリンタ情報やユーザーからの指示に基づいて色変換プロファイルの作成指針を設定するプロファイル作成指針設定部PD5を備えている。なお、本実施形態において色変換プロファイルCPはルックアップテーブルである。
プリンタドライバPDは、色変換プロファイルの作成指針にしたがって色変換プロファイルを作成するプロファイル作成部PD6を備えている。プロファイル作成部PD6が色変換プロファイルを作成する際に、分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCと粒状性コンバータGCと平滑性コンバータSCを利用する。さらに、プリンタドライバPDは、作成された色変換プロファイルを使用して色変換を行う色変換部PD7と、色変換を行った画像データにハーフトーン処理やマイクロウィーブ処理を行って印刷データを生成する印刷データ生成部PD8を備えている。プリンタドライバPDを構成する各モジュールPD1〜PD8,RC,CC,GC,SCの詳細は、後に処理の流れとともに説明する。
図3は、本発明の印刷制御装置によって制御されるプリンタ20の構成を示している。同図において、プリンタ20はCPU23とRAM24とROM25を備えている。ROM25に記憶されたプログラムデータ25aをRAM24に展開しつつCPU23がプログラムデータ25aにしたがった演算を行うことによりプリンタ20を制御するためのファームウェアFWが実行される。ファームウェアFWは、コンピュータ10からUSBI/F26を介して入力された印刷データに基づいて紙送り機構27やキャリッジモータ28や印刷ヘッド29への駆動信号を生成する。プリンタ20はキャリッジ21を備えており、キャリッジ21が複数の種類のインクのインクカートリッジ22a,22a・・・を搭載する。インクカートリッジ22a,22b・・・は本発明の色材容器に相当する。キャリッジ21は、インクカートリッジ22a,22a・・・から供給されるインクを多数のインクノズルから吐出する印刷ヘッド29を備えている。
印刷ヘッド29は、キャリッジモータ28の駆動によってキャリッジ21とともに往復動させられ、当該往復動によるインクノズルと印刷用紙との相対移動によって主走査方向のラスターを形成することができる。一方、紙送り機構27が印刷用紙を上記主走査方向と直交する副走査に移動させることにおり、印刷用紙上に平面画像を印刷することが可能となっている。本実施形態におけるプリンタはインクジェット方式のプリンタであるが、インクジェット方式の他にも種々のプリンタに対して本発明を適用可能である。例えば、色材としてトナーを使用するレーザプリンタにおいても本発明を適用することができる。
キャリッジ21はインクカートリッジ22a,22a・・・が取り付け可能なカートリッジホルダ21a,21a・・・を備えており、各インクカートリッジ22a,22a・・・をカートリッジホルダ21a,21a・・・に挿入して固定することができる。本実施形態においてカートリッジホルダ21a,21a・・・は8個備えられているものとし、最大限、8個のインクカートリッジ22a,22a・・・を搭載することが可能となっている。各インクカートリッジ22a,22a・・・においては顔料または染料の色材を液体に混合することにより形成したインクを収容している。
各インクカートリッジ22a,22a・・・においてはそれぞれ異なる種類のインクが収容されており、各インクによる減方混色によってカラー画像を再現する。インクカートリッジ22a,22a・・・には各インクの種類を識別するための識別データと、各インクの残量を特定する残量データを記憶する不揮発性のROM22a1,22a1・・・が備えられている。インクカートリッジ22a,22a・・・をカートリッジホルダ21a,21a・・・に搭載することにより、カートリッジホルダ21a,21a・・・に備えられた図示しない端子がROM22a1,22a1・・・と電気的に接続し、CPU23とRAM24にて実行されるファームウェアFWのステータス調査部FW1が各インクカートリッジ22a,22a・・・に収容されたインクの種類および残量を取得することが可能となっている。ステータス調査部FW1は、USBI/F26を介してコンピュータ10にインクの搭載状況を伝達する。
また、インクカートリッジ22a,22a・・・をカートリッジホルダ21a,21a・・・に搭載することにより、インクカートリッジ22a,22a・・・内のインク供給経路とカートリッジホルダ21a,21a・・・から印刷ヘッド29のインクノズルまでのインク供給経路とが接続する。本実施形態において、カートリッジホルダ21a,21a・・・はすべて同じ形状となっており、インクカートリッジ22a,22a・・・もすべて同じ形状となっている。従って、ユーザーの好みに応じて、どのインクカートリッジ22a,22a・・・も、どのカートリッジホルダ21a,21a・・・に搭載することができる。従って、各カートリッジホルダ21a,21a・・・に対する搭載位置の差は区別しないものとして、13種類のインクを8個のカートリッジホルダ21a,21a・・・へ搭載する場合に発生し得るインクセットの組み合わせ個数は、13C8+13C7+13C6+13C5+13C4+13C3+13C2+13C1=7098個にも上る。ただし、少なくとも一部のインクのインクカートリッジ22a,22a・・・をユーザーが任意に搭載することができればよく、一部のカートリッジホルダ21a,21a・・・には特定のインクのインクカートリッジ22a,22a・・・しか搭載できないようにしてもよい。例えば、再現できる色再現ガマットが最低限確保できるインクの組み合わせについては、特定のカートリッジホルダ21a,21a・・・に必ず搭載されるように制限してもよい。
A−2.インクセットの設定
図4は、インクセット設定処理の流れを示している。同図において、ステップS110においては、UI部PD1がUI画面をディスプレイ30に表示させキーボード40aとマウス40bを介して印刷指示を受け付けるとともに、画像データ取得部PD2が印刷対象の画像データを例えばHDD11や他のアプリケーションプログラムから取得する。本実施形態において、印刷対象の画像データとしてsRGB色空間のRGB座標で各画素の色が特定された画像データが指定されたものとする。印刷対象の画像データが取得できると、ステップS120においてプリンタ情報取得部PD3がUSBI/F14を介して、プリンタ20で実行中のステータス調査部FW1と通信を行うことにより、プリンタ情報を取得する。本実施形態では、上述したカートリッジホルダ21a,21a・・・におけるインクカートリッジ22a,22a・・・の搭載状況が取得される。
図5は、カートリッジホルダ21a,21a・・・におけるインクカートリッジ22a,22a・・・の搭載状況の一例を模式的に説明している。同図において、当該プリンタ20の機種に搭載可能なインクカートリッジ22a,22a・・・は、M(マゼンタ)インクとlm(ライトマゼンタ)インクとC(シアン)インクとlc(ライトシアン)インクとY(イエロー)インクとK(ブラック)インクとlk(グレー)インクとllk(ライトグレー)インクとR(レッド)インクとO(オレンジ)インクとG(グリーン)インクとB(ブルー)インクとdy(ダークイエロー)インクをそれぞれ収容したものとなっている。各インクカートリッジ22a,22a・・・には、上述したROM22a1,22a1・・・が備えられている、それぞれ収容するインクの種類が識別可能なデータが書き込まれている。
従って、ステップS120では、ステータス調査部FW1が搭載されたインクカートリッジ22a,22a・・・のROM22a1,22a1・・・にアクセスすることにより、搭載されたインクカートリッジ22a,22a・・・に収容されたインクの情報を取得することができる。なお、非搭載のカートリッジホルダ21a,21a・・・においてはROM22a1,22a1・・・に対してアクセスすることができないため、アクセスできないことをもって非搭載であることを認識することができる。また、搭載されている場合であっても、ROM22a1,22a1・・・にインク残量がない旨が記録されている場合には、そのことをもって非搭載であることを認識してもよい。
上記の13種類のインクを収容した各インクカートリッジ22a,22a・・・は独立しており、それぞれ個別に購入することが可能となっている。ユーザーは、好みのインクカートリッジ22a,22a・・・を購入し、カートリッジホルダ21a,21a・・・に搭載する。なお、本実施形態ではCMYKRlclmインク(7種類)で構成されるインクセットがカートリッジホルダ21a,21a・・・に搭載されているものとする。
ステップS130においては、HDD11に記憶されている色再現ガマットデータGDを取得し、現在、プリンタ20にて使用可能となっているCMYKRlclmからなるインクセットの色再現ガマットを取得する。なお、本実施形態の色再現ガマットデータGDにおいては各インクセットの色再現ガマットがCIELAB色空間におけるL*a*b*値によって特定されているものとする。また、色再現ガマットデータGDは、各インクセットを使用して標準的な印刷用紙に印刷し、標準的な観察光源にて観察した場合の色再現ガマットのみを記憶したものであってもよいし、より厳密に、印刷する印刷用紙の種類ごと各インクセットの色再現ガマットや、観察する観察光源ごとの各インクセットの色再現ガマットを記憶したものであってもよい。本実施形態の場合、7098組のインクセットごとに色再現ガマットがCIELAB色空間におけるL*a*b*値によって特定されていることとなる。
色再現ガマットデータGDは、プリンタドライバPDのインストール時にHDD11に記憶されている。ステップS140においては、ステップS110にて取得した印刷対象の画像データの各画素のRGB値を取得し、各画素のRGBを順次CIELAB色空間におけるL*a*b*値に変換する。印刷対象の画像データが表されるsRGB色空間とCIELAB色空間とのCIE基準に準じたsRGBプロファイルSPによって規定されており、HDD11からsRGBプロファイルSPを読み出してRGB値をL*a*b*値に変換することができる。なお、色補正を行うプロファイルを作成する場合、色補正を考慮したL*a*b*値に変換するようにしてもよい。ステップS150においては、印刷対象の画像データのすべての画素のL*a*b*値がCMYKRlclmのインクセットの色再現ガマット内にあるかどうかを判定する。
図6は、ステップS150における判定の様子を模式的に示している。同図においては、CIELAB色空間中のある明度(L*)にけるa*b*平面を示しており、CMYKRlclmインクセットの色再現ガマットを実線によって示している。また、印刷対象の画像データの画素のうち当該明度の画素のa*b*値の分布範囲を破線で示している。同図の例では、CMYKRlclmインクセットの色再現ガマットが画像データの画素の分布範囲を完全にはカバーしておらず、グリーン(緑)方向の色がCMYKRlclmインクセットでは再現できないことが示されている。色再現ガマットと画像データが取り得る色域との比較はすべての明度(L*)について行われる。
なお、色再現ガマットの比較は非機器依存色空間で行うことが望ましく、sRGB色空間やXYZ色空間でも行うようにしてもよい。ここで印刷対象の画像データのすべての画素のL*a*b*値がプリンタ20に搭載されているインクセットの色再現ガマット内に存在すると判断された場合、インクセット設定部PD4はプリンタ20に搭載されているインクセットを印刷に使用するインクセットとして設定する(ステップS190)とともに、ステップS200の色変換プロファイル作成指針設定処理に進む。一方、同図の例のように、印刷対象の画像データのすべての画素のL*a*b*値がCMYKRlclmのインクセットの色再現ガマット内にないと判断された場合、ステップS160にて印刷対象の画像データの印刷に最適な色再現ガマットを有するインクセットを色再現ガマットデータGDにて選択する。
色再現ガマットデータGDは、組み合わせられ得るすべて(7098個)のインクセットについての色再現ガマットを特定する情報を格納しているため、印刷対象の画像データの印刷に適した色再現ガマットを有するインクセットを選択することができる。この選択の具体的な手順の一例を以下に示す。まずL*a*b*値が各インクセットの色再現ガマットの内側に存在する画素数の、画像データ全体の画素数に対する比率をカバー率として算出する。そして、カバー率の高い順に各インクセットをソートする。カバー率が100%のインクセットでは、印刷対象の画像データのすべての画素のL*a*b*値が色再現ガマット内に存在することとなり、良好な色再現性を実現することができる。従って、基本的にはカバー率が100%のインクセットであれば、どのインクセットを使用しても問題はない。
ただし、プリンタ20のカートリッジホルダ21a,21a・・・に搭載されていないインクカートリッジ22a,22a・・・をユーザーが所有している確証はないため、現在搭載されているインクセット(CMYKRlclm)からできるだけ変動が少ないインクセットを選択する。本実施形態では、現在、使用可能となっているインクセット(CMYKRlclm)にGインクを追加したインクセットが最適なインクセットとして選択される。むろん、カバー率100%を満足し、かつ、最もインク数が少ないインクセットを最適なものとして選択するようにしてもよいし、最も色再現ガマットに余裕のあるインクセットを最適なものとして選択するようにしてもよい。逆に、カバー率100%を満足し、かつ、最も色再現ガマットが小さいインクセットを最適なものとして選択するようにしてもよい。格子点の数が同じであれば、色再現ガマットが小さいほど格子点の密度が高くなるため、階調性の良好な色変換プロファイルCPを作成することができる。一方、カバー率100%を満足するインクセットが一つも選択されない場合には、もっともカバー率が高いインクセットが最適なインクセットとして選択される。次のステップS170においては、UI部PD1がUI画面をディスプレイ30に警告・通知画面を表示させる。
図7は、警告・通知画面の一例を示している。同図において、現在、インクカートリッジ22a,22a・・・がカートリッジホルダ21a,21a・・・に搭載されたインクセット(CMYKRlclm)の表示と、当該インクセットでは印刷対象の画像データの色が正確に再現できない旨が示されている。また、ステップS160において選択された最適なインクセットを推奨する表示がされている。さらに、インクを交換する場合には、インクカートリッジを交換した上でリトライボタンをクリックする旨が示されている。当該画面の下部には、ユーザーが無視またはリトライまたはキャンセルのいずれかを選択するボタンが設けられている。
ステップS180では、マウス40bを介して選択ボタンの押下を検出し、無視ボタンが押下されればプリンタ20に搭載されているインクセットを印刷に使用するインクセットとして設定(ステップS190)するとともに、ステップS200の色変換プロファイル作成指針設定処理に進む。リトライボタンが押下されればステップS120に戻り、交換後のインクセットについてステップS120〜S160までの処理が同様に行われる。従って、ユーザーが推奨通りのインクカートリッジ22a,22a・・・がカートリッジホルダ21a,21a・・・に搭載した場合には、次回、推奨されたインクセットがステップS190にて印刷に使用するインクセットとして設定された上でステップS200に進むこととなる。キャンセルボタンが押下されてばそのまま処理を終了させる。
A−3.色変換プロファイル作成指針の設定
図8は、色変換プロファイル作成指針の設定処理(ステップS200)の流れを示している。ステップS210においては、UI部PD1がUI画面をディスプレイ30に表示させ、印刷に使用する印刷用紙の種類と、印刷物を観察する観察光源を指定を受け付ける。
図9は、ステップS210にて表示されるUI画面を示している。同図において、印刷に使用する印刷用紙の種類と、印刷物を観察する観察光源も指定することが可能となっている。ここでは、印刷用紙として光沢紙、観察光源としてD65光が選択されたものとして以下説明する。決定ボタンがマウス40bによってクリックされたことをUI部PD1が認識すると、ステップS220においてプロファイル作成指針設定部PD5がHDD11にすでに記憶されている既存の色変換プロファイルを取得する。
ステップS230においては、プロファイル作成指針設定部PD5が色変換プロファイル作成の必要性を判定する。ここでは、ステップS100のインクセット設定処理にて設定されたインクセット、および、指定された印刷用紙と観察光源が、ステップS220にて取得したいずれかの色変換プロファイルのインクセットと印刷用紙と光源に一致するか否かを判定する。すでに同一のインクセットと印刷用紙と光源の色変換プロファイルがHDD11に存在する場合には、新たに色変換プロファイルを作成する必要がないとして、そのまま図1のステップS400にて印刷を実行する。一方、既存のいずれの色変換プロファイルにもインクセットと印刷用紙と観察光源が一致しない場合には、色変換プロファイルを作成する必要があると判定する。色変換プロファイルを作成する必要があると判定されると、ステップS240においてUI部PD1がUI画面をディスプレイ30に表示させキーボード40aとマウス40bを介してユーザーからの色変換プロファイル作成指針の指定を受け付ける。
図10は、ステップS240にて表示されるUI画面を示している。同図において、プロファイル作成指針設定部PD5が色変換プロファイル作成指針を決定するための以下の選択肢が用意されている。
・モード1:粒状性重視
・モード2:色恒常性重視
・モード3:階調性重視
・モード4:色再現ガマット重視
・モード5:ランニングコスト重視
・モード6:画質重視
・モード7:自動判定
ユーザーがいずれかを選択すると、ステップS250にてプロファイル作成指針設定部PD5が下記の式(1)における重み係数w
1〜w
5を設定する。
上記の(1)式においては、Epは評価関数を示し、評価関数Epが小さければ小さいほど総合的な印刷パフォーマンスが高くなるという性質を有している。ψは、設定されたインクセット(本実施形態ではCMYKGlclm)の各インクのインク量の組み合わせを意味するインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を表している。上記の(1)式の第1項は印刷物の粒状性の性能を要求する項であり、第2項は印刷色の光源変動に対する色恒常性の性能を要求する項であり、第3項は印刷物の階調性の性能を要求する項であり、第4項は色再現ガマットの性能を要求する項であり、第5項は各インク量dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlmを加算したものであり印刷時に消費するインクのランニングコストの性能を要求する項である。
第5項も、インク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)に依存するため、ψの関数であるということができる。なお、TDutyは記録媒体に付着可能なインク量の制限に対応した値である。インク量は少ないほどランニングコストが良好となるため、(1)式の第5項が小さくなるほど最適であるといえる。いずれの項も同一の大きさで正規化されたスカラーであり、値が小さいほどパフォーマンスが高い。また、各パフォーマンス要素に対応する第1項〜第5項を個別の重み係数w1〜w5によって重みを調整しつつ線形結合することにより、総合的な印刷パフォーマンスが評価可能な評価関数Epを定義している。すなわち、重み係数w1〜w5は、どのパフォーマンス要素を重視するかを調整する値を意味している。
ここで、モード1が選択された場合には、重み係数w1をデフォルト値から大きく設定し、他の重み係数w2〜w5をデフォルト値から一様に小さくする。これにより、粒状性の性能の評価関数Epへの寄与を高くすることができる。同様に、モード2〜5が選択された場合には、それぞれ重み係数w2〜w5をデフォルト値から大きく設定し、他の重み係数w1〜w5をデフォルト値から一様に小さくする。これにより、各パフォーマンス要素の評価関数Epへの寄与を高くすることができる。さらに、モード6が選択された場合には、重み係数w1〜w4をデフォルト値から全体的に大きく設定し、重み係数w5のみをデフォルト値から小さくする。これにより、画質に関する第1項〜第4項に対応するパフォーマンス要素の評価関数Epへの寄与を全体的に高くすることができる。なお、デフォルト値は、各パフォーマンス要素の重視度のバランスが取れた値とされる。
モード7が選択された場合には、これまでに取得した情報に基づいてプロファイル作成指針設定部PD5が最適な重み係数w1〜w5を設定する。ここでは、種々の判断手法に基づいて最適な重み係数w1〜w5を設定することができる。例えば、ステップS210にて指定された印刷用紙が高級であるほど、ユーザーの画質への要求が高いと考えることができる。このような場合は、モード6が明示的に指定された場合よりも顕著ではないものの、重み係数w1〜w4をデフォルト値から全体的に大きく設定し、重み係数w5のみをデフォルト値から小さくする。本実施形態においては、ステップS210にて光沢紙が選択されているため、重み係数w1〜w4をデフォルト値から全体的に大きく設定されることとなる。
反対に、指定された印刷用紙が低級であるほど、ユーザーの画質への要求が低いと考えることができる。この場合は、モード5が明示的に指定された場合よりも顕著ではないものの、重み係数w1〜w4をデフォルト値から全体的に小さく設定し、重み係数w5のみをデフォルト値から大きくする。
また、プリンタ20の製造元が特定のインクセットを推奨する場合も考えられる。例えば、鮮やかな色が再現できるインクセットとして、CMYKRGBlkからなるインクセットが推奨されることが考えられる。推奨通りのCMYKRGBlkがプリンタ20に搭載されている場合、高彩度の色再現ガマットを重視する必要があるため、重み係数w4を大きく設定すべきである。また、モノトーン印刷に適したインクセットとして、YKlklclmからなるインクセットが推奨されることが考えられる。推奨通りのYKlklclmがプリンタ20に搭載されている場合、階調性を重視する必要があるため、重み係数w3を大きく設定すべきである。このように、特定のインクセットと重み係数w1〜w5との対応関係をプリセットしておいてもよい。
さらに、各インクカートリッジ22a,22a・・・のROM22a1,22a1・・・からインク残量も読み取り可能であるため、モード7では、印刷に使用すると指定されたインクのインク残量に応じて最適な重み係数w1〜w5を自動設定してもよい。印刷に使用すると指定されたインクのいずれかのインク残量が少ない場合には、インクの消費量を極力抑えるべきであるため、重み係数w5をデフォルト値よりも大きめに設定すべきである。さらに、印刷枚数や印刷対象の画像データが示す色も考慮して、重み係数w5を大きくする程度を決定するようにしてもよい。例えば、印刷枚数が少ない場合には、重み係数w5をあまり大きくしなくても印刷を完了させることができる。
さらに、ステップS110にて印刷対象として指定された画像データに応じて重み係数w1〜w4を設定することもできる。例えば、印刷対象の画像データがグレースケール画像やセピア画像を示す場合、画像を階調のみで表現する必要があるため、モード3と同様に重み係数w3をデフォルト値から大きく設定し、他の重み係数w1,w2,w4,w5をデフォルト値から一様に小さくするようにしてもよい。また、色彩のずれも目立ちやすいため、モード2と同様に重み係数w2をデフォルト値から大きく設定し、他の重み係数w1,w3〜w5をデフォルト値から一様に小さくするようにしてもよい。むろん、印刷対象の画像データが文書であるか写真であるかに応じて重み係数w1〜w5を設定することも可能である。さらに、ステップS180にて、無視ボタンが押下された場合には、重み係数w4を大きく設定し、できるだけ色再現ガマットを広くするようにしてもよい。以上のようにして重み係数w1〜w5が設定されると、評価関数Epが確定されたこととなり、以下に説明する色変換プロファイルの作成処理(ステップS300)における作成指針が設定されたこととなる。
A−4.色変換プロファイルCPの作成
図11はプロファイル作成部PD6が実行する色変換プロファイルCPの作成処理の流れを示し、図12は色変換プロファイルCPの作成手順を模式的に示している。図11に示すステップS310においては、色変換プロファイルCPの作成条件を取得し、分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCに設定する。分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCは、インク量セットから絶対色空間であるCIELAB色空間での色(L*a*b*)を予測するものであるが、再現される色は印刷用紙と観察光源に依存することとなる。そこで、ステップS210において指定された印刷用紙(光沢紙)と観察光源(D65)を分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCに設定する。
ステップS320においては、初期のインクプロファイルIPを作成する。なお、インクプロファイルIPは、CIELAB色空間(L*a*b*)と、本実施形態で印刷に使用するインク量空間であるCMYKGlclm空間(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)との対応関係を複数の代表的な格子点について規定したプロファイルである。初期のインクプロファイルIPの作成においては、例えば印刷に使用するインク量空間から173組のランダムなインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を生成する。また、初期の格子点に対応するインク量セット(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm)が得られれば、これらのインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)でステップS210にて指定された印刷用紙に印刷を行い、さらに指定された光源のもとで観察したときの色(L*a*b*)を分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCの予測によって得ることができる。従って、得られた色(L*a*b*)とインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)の対応関係を各格子点について記述することにより初期のインクプロファイルIPを作成することができる。なお、初期の173組のインク量セットは、後述する処理によって最適化されていくため、初期の段階においてどのように生成してもよい。
次に、ステップS330においては、ステップS200にて設定した評価関数Epおよび重み係数w1〜w5をプロファイル作成部PD6が取得する。次のステップS340においては、初期のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を順次最適化していく。具体的には、各格子点について総合的な印刷パフォーマンスを示す評価関数Epを極小化させるインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を順次算出していく。例えば、インク量空間における初期のインク量セットの位置から局所的にインク量セットを移動させ、その際に評価関数Epを極小化させるインク量セットを各格子点について算出していく。
これにより、インク量空間における格子点の位置が評価関数Epを極小化させる方向に修正されたこととなる。さらに、修正後の位置から同様に局所的にインク量セットを移動させ、その際に評価関数Epを極小化させるインク量セットを各格子点について算出していく。以上のような処理を繰り返し(例えば200回)実行することにより、最終的には各格子点についての評価関数Epが極めて小さくなる(総合的な印刷パフォーマンスが高い)格子点に最適化することができる。なお、以上の処理を規定回数行うことをもって格子点の最適化を完了させてもよいし、評価関数Epの値が所定の閾値を下回ることをもって格子点の最適化を完了させてもよい。
この最適化処理においては順次更新されるインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)について評価関数Epを算出することが必要となるが、その際に、後述する各コンバータRC,CC,GC,SCを利用することによって、逐次、各インク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)に対応する分光反射率R(λ)や粒状性指数GIや色恒常性指数CIIや平滑程度評価指数SIや色差ΔEやインク総量が算出され、評価関数Epが求められることとなる。最適化を行う際にもステップS210にて設定された印刷用紙と観察光源のもとで分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCが色(L*a*b*)の予測を行う。なお、本実施形態において、特開2006−197080号公報に開示された格子点の最適化の手法を適用することもできる。この場合、インク量空間にて評価関数Epを0とする方向の仮想的な力を各格子点に作用させ、当該力によってインク量空間における格子点の位置を定常状態に収束させればよい。
以上のようにして各格子点が最適化されると、ステップS350おいて、最適化された格子点のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)に対応した色(L*a*b*)を分光プリンティングモデルコンバータRCおよび色コンバータCCによって算出する。ここでも、ステップS210にて設定された印刷用紙(光沢紙)と観察光源(D65光)のもとで分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCが色(L*a*b*)の予測を行う。そして、互いに対応するL*a*b*値とインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)との対応関係を記述したインクプロファイルIPをプロファイル作成部PD6が作成する。
ステップS360においては、プロファイル作成部PD6がインクプロファイルIPに基づいて色変換プロファイルCPを作成する。図12に示すように色変換プロファイルCPは、例えばsRGB色空間で各画素の色が表された画像データをプリンタ20におけるインク量空間の画像データに変換するプロファイルである。sRGB色空間はCIE標準に基づいてCIELAB色空間との対応関係(sRGBプロファイルSP)が定められているため、インクプロファイルIPに規定された各格子点のL*a*b*値によってsRGB色空間のRGB値とインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)との対応関係を特定し、プロファイル化することができる。また、sRGB色空間のRGB値とインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)との対応関係を特定する際に、意図的に補正量を与えて、色補正を行う色変換プロファイルを作成するようにしてもよい。sRGBプロファイルSPについても平滑程度評価指数SIによる最適化を行っておくことが望ましい(特開2006−197080号公報、参照。)。
なお、CIELAB色空間におけるsRGB色空間のガマットとプリンタ20の色再現ガマットが異なるため、適宜ガマットマッピングが行われる。このガマットマッピングにおいては、sRGB色空間よりも使用するインクセットによるプリンタ20の色再現ガマットの方が狭い場合、sRGB色空間の内側かつ色再現ガマットの外側の色をプリンタ20の色再現ガマット内に圧縮(改変)することが行われる。しかし、本実施形態では、ステップS180にて無視ボタンが押下された場合を除き、印刷対象の画像データの各画素が示す色がCMYKGlclmを使用したときのプリンタ20の色再現ガマット内にあることがステップS100のインクセット設定処理にて確認されているため、印刷対象の画像データの印刷結果がガマットマッピングにおける色圧縮の影響を少なくすることができる。またステップS160において、色再現ガマットに最も余裕のあるインクセットを最適なものとして選択するようにしておけば、ガマットマッピングによる色圧縮の影響をより抑えることができる。プロファイル作成部PD6は、作成した色変換プロファイルCPに、印刷用紙(光沢紙)と観察光源(D65光)を特定したヘッダを添付してHDD11に記憶する。
以上のようにして作成された色変換プロファイルCPにおいては、sRGB色空間におけるRGB値とインク量空間におけるインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)との対応関係を複数(例えば173個)の格子点について規定することができる。さらに、色変換プロファイルCPにおいては、粒状性と色恒常性と階調性と色再現ガマットとランニングコストが各重み係数w1〜w5に応じた良好度合いとなるインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を持つ格子点が規定されることとなる。上述した最適化を行うことにより、インク量空間における格子点の座標(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)は粒状性と色恒常性と階調性と色再現ガマットとランニングコストが良好となる領域に徐々に移動していき、最終的に最適な位置に移動させることができるからである。印刷画像にて再現すべき色の色域が大きく変動することはないが、当該色域に対応するインク量空間の領域の自由度ははるかに大きいと言える。すなわち、CIELAB色空間にて一のL*a*b*値を定めたとしても、ある光源下で当該L*a*b*値が再現可能な印刷結果を実現するインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を一意に定めることはできない。
例えば、KインクとCMYインクは分版可能な関係にあるため、ある光源において分版比率を変更しても同一のL*a*b*を再現することができる。CインクとlcインクやMインクとlmインクの関係についても同様である。例えば、KインクとCMYインクとの分版比率はCIELAB色空間におけるL*a*b*値を定めても一意に定めることができないが、ハイライト領域において濃いKインクを発生させると粒状性が目立つこととなる。従って、粒状性の面では、ハイライト領域のL*a*b*値に対してはdkを抑えることにより、インク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を最適化することができると言える。その一方で、Kインクのインク量dkを抑え、分光反射率がフラットでないCMYインクによるコンポジットグレーを多用すれば、色恒常性が損なわれることとなる。このように、複数のパフォーマンス要素を同時に満足させることは困難であり、そのような妥協点を解とする分版規則を多次元のインク量空間において規定するのは実質的に不可能である。さらに、どのパフォーマンス要素をどれだけ重視するかということを設定可能とした場合、より分版規則を規定するのは困難となる。
これに対して、各パフォーマンス要素の重視度合いを重み係数w1〜w5によって設定された総合的な印刷パフォーマンスの指標となる評価関数Epを使用して各格子点を最適化することにより、上述した複雑な分版規則を規定することなく好適なインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を探し出すことができる。また、ユーザーの指定に応じて重み係数w1〜w5が設定されるため、ユーザーの意図に応じた印刷パフォーマンスが実現できる色変換プロファイルCPを作成することができる。色変換プロファイルCPが作成できると、ステップS400にて色変換処理および印刷処理が実行される。
A−5.色変換および印刷
図13は、色変換処理および印刷処理の流れを示している。ステップS410においては、色変換部PD7がステップS110にて印刷対象として指定された画像データと、ステップS210にて指定された印刷用紙と観察光源を取得する。本実施形態では、sRGBの画像データを光沢紙に印刷し、D65光にて観察するように指定されている。ステップS420では、ステップS410にて取得した画像データおよび印刷用紙と観察光源に対応した色変換プロファイルCPをHDD11から取得する。本実施形態では、ステップS260にて該当する色変換プロファイルCPが作成されているため、当該色変換プロファイルCPが取得される。なお、ステップS150においてプロファイル作成指針設定部PD5が色変換プロファイルCP作成の必要性がないと判断した場合には、ステップS420で該当する既存の色変換プロファイルCPがHDD11に存在していることとなるため、既存の色変換プロファイルCPがHDD11から取得されることとなる。
ステップS430においては、ステップS410にて取得した印刷対象の画像データを、ステップS420にて取得した色変換プロファイルCPによって色変換する。具体的には、画像データの各画素のRGB値を取得し、当該RGB値に対応付けられたインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を色変換プロファイルCPによって順次取得していく。色変換プロファイルCPは、代表的な格子点についてのみ対応関係を規定するが、格子点間のRGB値に対応するインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)は補間演算によって求めることができる。すべての画素についてインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)は補間演算によって求められると、各画素がインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)で表された色変換データに変換できたこととなる。
本発明においては、印刷に使用するインクセットを取得し、そのインクセットに適合する色変換プロファイルCPを選択し、適合するものがなければプロファイル作成部PD6が当該インクセットに対応した色変換プロファイルCPを作成するようにしている。従って、予め考えられ得るすべてのインクセット(13種類のインクを8個のカートリッジホルダ21a,21a・・・へ搭載する場合、7098種類のインクセットが考えられ得る。)に対応する色変換プロファイルCPを用意しておく必要がなく、かつ、ユーザーが使用したい任意のインクセットでの印刷を可能にすることができる。
次のステップS440においては、印刷データ生成部PD8がインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)の画素情報を有する色変換データを取得し、当該色変換データにハーフトーン処理を実行する。ここでは、ディザ法や誤差拡散法等を適用することができ、各画素がインク吐出をする/しないか、あるいは、大ドットを吐出する/中ドットを吐出する/小ドットを吐出する/いずれも吐出しないか等を特定する情報を有するハーフトーンデータに変換する。ステップS450においては、印刷データ生成部PD8がハーフトーンデータを取得し、当該ハーフトーンデータに基づいてマイクロウィーブ処理を実行する。
具体的には、ハーフトーンデータの各画素を、どの主走査/副走査タイミングにおけるどのインクノズルに担当させるかを特定した印刷データを生成する。ステップS450においては、印刷データ生成部PD8が印刷条件等のプリンタ20の制御情報を添付した印刷データをUSBI/F14を介して、プリンタ20に出力する。ステップS460においては、プリンタ20のファームウェアFWが印刷データを取得するとともに、当該印刷データに基づいて紙送り機構27やキャリッジモータ28や印刷ヘッド29への駆動信号を生成する。これにより、印刷用紙上の各位置に色変換データの各画素が有するインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)に応じた量のインクを吐出することができ、印刷画像を形成することができる。
この印刷画像における各インクの割合(被覆率)、および、印刷中のインク吐出量の割合は、色変換プロファイルCPに規定された格子点のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)が反映されたものとなる。従って、色変換プロファイルCPに規定された格子点のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)と同様に、ユーザーが所望する総合的な印刷パフォーマンスを満足する印刷および印刷画像を得ることができる。すなわち、印刷中においてはユーザーの期待に応じたインクのランニングコストを実現することができ、印刷後の印刷画像においてはユーザーが期待に応じた粒状性や色恒常性や階調性や色再現ガマットを実現することができる。さらに、上述したようにユーザーが使用したいインクセットで印刷を行うことができるため、ユーザーの満足度の高い印刷を実現することができる。印刷対象の画像データの印刷に適正な色再現ガマットが確保できるインクセットを通知することができるため、ユーザーによるインク選択のミスを防止することができる。
B.各種コンバータ
B−1.分光プリンティングモデルコンバータ
分光プリンティングモデルコンバータCCは、本実施形態のプリンタ20で使用され得る任意のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm,dlk,dllk,ddy,dr,do,dg,db)で印刷を行った場合の分光反射率R(λ)を予測するコンバータである。分光プリンティングモデルコンバータCCは、インク量空間における複数の代表点について実際にカラーパッチを印刷し、分光反射率R(λ)を測定することにより得られた分光反射率データRDをHDD11から読み出して使用する。そして、この分光反射率データRDを使用したセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Cellular Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)による予測を行うことにより、正確に任意のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm,dlk,dllk,ddy,dr,do,dg,db)で印刷を行った場合の分光反射率R(λ)を予測する。
図14は、分光反射率データDを示している。同図に示すように分光反射率データDはインク量空間(本実施形態では13次元であるが、図の簡略化のためCM面のみ図示。)における複数の格子点のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm,dlk,dllk,ddy,dr,do,dg,db)について実際に印刷/測定をして得られた分光反射率R(λ)が記述されたルックアップテーブルとなっている。例えば、各インク量軸を均等に分割する5グリッドの格子点を発生させる。ここでは513個もの格子点が発生し、膨大な量のカラーパッチの印刷/測定をすることが必要となるが、実際にはプリンタ20にて同時に搭載可能なインク数や同時に吐出可能なインクデューティの制限があるため、印刷/測定をする格子点の数は絞られることとなる。
さらに、一部の格子点のみ実際に印刷/測定をし、他の格子点については実際に印刷/測定を行った格子点の分光反射率R(λ)に基づいて分光反射率R(λ)を予測することにより、実際に印刷/測定を行うカラーパッチの個数を低減させてもよい。分光反射率データRDは、プリンタ20が印刷可能な印刷用紙ごとに用意されている必要がある。厳密には、分光反射率R(λ)は印刷用紙上に形成されたインク膜による分光透過率と印刷用紙の反射率によって決まるものであり、印刷用紙の表面物性(インク膜形状が依存)や反射率の影響を大きく受けるからである。分光反射率データRDの作成には、分光反射率計が必要となるため、一般のユーザーが分光反射率データRDを用意することができないため、予めプリンタ20の製造元が分光反射率データRDを用意し、プリンタドライバPDのインストール等によりHDD11に記憶される。次に、分光反射率データRDを使用したセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルによる予測を説明する。
分光プリンティングモデルコンバータCCは、プロファイル作成部PD6の要請に応じて分光反射率データRDを使用したセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルによる予測を実行する。この予測にあたっては、まずプロファイル作成部PD6から予測条件を取得し、この予測条件を設定する。具体的には、ステップS210にてユーザーが指定した印刷用紙について作成した分光反射率データRDを予測に使用するように設定するとともに、ステップS210にてユーザーが指定したインクセットについて予測するように設定する。本実施形態では、光沢紙が選択されているため、光沢紙にカラーパッチを印刷することにより作成した分光反射率データRDが設定される。インクセットとしてはCMYKGlclmが設定されているため、CMYKGlclm以外のインク量dlk,dllk,ddy,dr,doを使用しないように(dlk=dllk=ddy=dr=do=db=0)とする制限を加える。これにより、分光プリンティングモデルコンバータCCの予測の作業空間が実質的に6次元に抑えられたこととなる。
以上のようにして分光反射率データRDの設定ができると、任意のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)で印刷したときの分光反射率R(λ)の予測を行う。予測すべきインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)は、プロファイル作成部PD6から順次入力される。例えば、ステップS340における最適化では、各格子点のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)が順次入力され、最終的には最適化された各格子点のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)が入力されることとなる。分光プリンティングモデルコンバータCCは、プロファイル作成部PD6からのインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)の入力に応じて、予測した分光反射率R(λ)を色コンバータCCに渡す。
セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルは、よく知られた分光ノイゲバウアモデルとユール・ニールセンモデルとに基づいている。なお、以下の説明では、説明の簡略化のためCMYの3種類のインクを用いた場合のモデルについて説明するが、同様のモデルを本実施形態のCMYKlclmやORGBdylkllkを含む任意のインクセットを用いたモデルに拡張することは容易である。また、セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルについては、Color Res Appl 25, 4-19, 2000およびR Balasubramanian, Optimization of the spectral Neugebauer model for printer characterization, J. Electronic Imaging 8(2), 156-166 (1999)を参照。
図15は、分光ノイゲバウアモデルを示す図である。分光ノイゲバウアモデルでは、任意のインク量セット(d
c,d
m,d
y)で印刷したときの印刷物の分光反射率R(λ)は、以下の(2)式で与えられる。
ここで、a
iはi番目の領域の面積率であり、R
i(λ)はi番目の領域の分光反射率である。添え字iは、インクの無い領域(w)と、シアンインクのみの領域(c)と、マゼンタインクのみの領域(m)と、イエローインクのみの領域(y)と、マゼンタインクとイエローインクが吐出される領域(r)と、イエローインクとシアンインクが吐出される領域(g)と、シアンインクとマゼンタインクが吐出される領域(b)と、CMYの3つのインクが吐出される領域(k)をそれぞれ意味している。また、f
c,f
m,f
yは、CMY各インクを1種類のみ吐出したときにそのインクで覆われる面積の割合(「インク被覆率(Ink area coverage)」と呼ぶ)である。
インク被覆率fc,fm,fyは、図15(B)に示すマーレイ・デービスモデルで与えられる。マーレイ・デービスモデルでは、例えばシアンインクのインク被覆率fcは、シアンのインク量dcの非線形関数であり、例えば1次元ルックアップテーブルによってインク量dcをインク被覆率fcに換算することができる。インク被覆率fc,fm,fyがインク量dc,dm,dyの非線形関数となる理由は、単位面積に少量のインクが吐出された場合にはインクが十分に広がるが、多量のインクが吐出された場合にはインクが重なり合うためにインクで覆われる面積があまり増加しないためである。他の種類のMYインクについても同様である。
分光反射率に関するユール・ニールセンモデルを適用すると、上記(2)式は以下の(3a)式または(3b)式に書き換えられる。
ここで、nは1以上の所定の係数であり、例えばn=10に設定することができる。(3a)式および(3b)式は、ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)を表す式である。
本実施形態で採用するセル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Cellular Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)は、上述したユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルのインク量空間を複数のセルに分割したものである。
図16(A)は、セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデルにおけるセル分割の例を示している。ここでは、説明の簡略化のために、CMインクのインク量dc,dmの2つの軸を含む2次元インク量空間でのセル分割を描いている。なお、インク被覆率fc,fmは上述したマーレイ・デービスモデルにてインク量dc,dmと一意の関係にあるため、インク被覆率fc,fmを示す軸と考えることもできる。白丸は、セル分割のグリッド点(「ノード」と呼ぶ)であり、2次元のインク量(被覆率)空間が9つのセルC1〜C9に分割されている。各ノードに対応するインク量セット(dc,dm)は、分光反射率データRDに規定された格子点に対応するインク量セットとされている。すなわち、上述した分光反射率データRDを参照することにより、各ノードの分光反射率R(λ)を得ることができる。従って、各ノードの分光反射率R(λ)00,R(λ)10,R(λ)20・・・R(λ)33は、分光反射率データRDから取得することができる。
実際には、本実施形態ではセル分割もCMYKGlclmの7次元インク量空間で行うとともに、各ノードの座標も7次元のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)によって表される。そして、各ノードのインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)に対応する格子点の分光反射率R(λ)が分光反射率データRD(光沢紙のもの)から取得されることとなる。なお、分光反射率データRDは、インク量空間における格子点のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm,dlk,dllk,ddy,dr,do,dg,db)についての分光反射率R(λ)が記述されているため、CMYKGlclmのインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)で指定されるノードの分光反射率R(λ)も与えることができる。
図16(B)は、セル分割モデルにて使用するインク被覆率fcとインク量dcとの関係を示している。ここでは、1種類のインクのインク量の範囲0〜dcmaxも3つの区間に分割されており、各区間毎に0から1まで単調に増加する非線形の曲線によってセル分割モデルにて使用する仮想的なインク被覆率fcが求められる。他のインクについても同様にインク被覆率fm,fyが求められる。
図16(C)は、図16(A)の中央のセルC5内にある任意のインク量セット(d
c,d
m)にて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)の算出方法を示している。インク量セット(d
c,d
m)にて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)は、以下の(3)式で与えられる。
ここで、(4)式におけるインク被覆率f
c,f
mは図16(B)のグラフで与えられる値である。また、セルC5を囲む4つのノードに対応する分光反射率R(λ)
11,(λ)
12,(λ)
21,(λ)
22は分光反射率データRDを参照することにより取得することができる。これにより、(4)式の右辺を構成するすべての値を確定することができ、その計算結果として任意のインク量セット(d
c,d
m)にて印刷を行った場合の分光反射率R(λ)を算出することができる。波長λを可視光域にて順次シフトさせていくことにより、可視光領域における分光反射率R(λ)を得ることができる。インク量空間を複数のセルに分割すれば、分割しない場合に比べてサンプルの分光反射率R(λ)をより精度良く算出することができる。予測した分光反射率R(λ)は、色コンバータCCに出力される。次に、色コンバータCCについて説明する。
B−2.色コンバータ
図17は、色コンバータCCが分光反射率R(λ)に基づいて色を特定する処理を模式的に示している。同図において、分光プリンティングコンバータRCが予測した分光反射率R(λ)の各波長λにおいて所望の光源のスペクトルを乗算することにより、印刷物からの反射光のスペクトルを予測する。本実施形態ではD65光が設定されているため、D65光のスペクトルが使用される。次に、反射光のスペクトルに対して所望の観察条件での感度関数x(λ),y(λ),z(λ)を畳み込み、正規化をすることにより、三刺激値XYZを算出する。本実施形態においては、特に示さない限りCIE1931 2°観測者の観察条件で三刺激値XYZを算出するものとする。さらに、色コンバータCCは、三刺激値XYZにCIE標準の変換式を適用することにより、CIELAB表色系のL*a*b*値を算出する。このように、分光プリンティングコンバータRCと色コンバータCCを順次使用することによりプロファイル作成部PD6が予測を要請するインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)にて印刷を行った場合のL*a*b*値を得ることができ、予測したL*a*b*値を平滑性コンバータSCに受け渡すことができる。
さらに、色コンバータCCは、三刺激値XYZに対して色順応変換を行うことが可能となっている。例えば、D50光にて算出した三刺激値XYZにCIECAT02に基づく色順応変換式を適用することにより、例えばD50光の下での色の見えを、D65光の対応色で表現したL*a*b*値に変換することができる。なお、CIECAT02については、例えば"The CIECAM02 Color Appearance Model", Nathan Moroney et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp.23-27, および、"The performance of CIECAM02", Changjun Li et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp.28-31に記載されている。ただし、色順応変換としては、フォン・クリースの色順応予測式などの他の任意の色順応変換を用いることも可能である。
この色順応変換によって得られたL
*a
*b
*値をCV
L1→Lsと表記するものとする。この下付き文字「L1→Ls」は、光源L1の下での色の見えを、標準光源Lsの対応色で表現したL
*a
*b
*値であることを意味している。色コンバータCCは、少なくとも2以上の比較用光源L1,L2の下での見えを、標準光源Lsの対応色で表現した色彩値CV
L1→Ls,CV
L2→Lsを求めるとともに、これらに基づいて色恒常性指数CIIを算出する。本実施形態では、ステップS210にて観察光源がD65光と設定されているため、標準光源LsがD65光とされる。比較用光源L1,L2は、例えばD50光やF11光とされる。色恒常性指数CIIは、例えば下記の式(5)によって算出することができる。
色恒常性指数CIIについては、Billmeyer and Saltzman's Principles of Color Technology, 3rd edition, John Wiley & Sons, Inc, 2000, p.129,p. 213-215を参照。なお、(5)式の右辺は、CIE1994年色差式において、明度と彩度の係数kL,kCの値を2に設定し、色相の係数kHの値を1に設定した色差ΔE
*94(2:2)に相当する。CIE1994年色差式では、(5)式の右辺の分母の係数SL,Sc,SHは以下の(6)式で与えられる。
なお、色恒常性指数CIIの算出に使用する色差式としては、他の式を用いることも可能である。色恒常性指数CIIは、あるカラーパッチを異なる観察条件下で観察したときの色の見えの差として定義されている。従って、印刷したときに色恒常性指数CIIが小さくなるインク量セットは、異なる観察条件での色の見えの差が小さいという点で好ましい。また、色彩値CVL1→Ls,CVL2→Lsは、同一の標準観察条件におけるそれぞれの対応色の測色値なので、それらの色差である色恒常性指数CIIは色の見えの違いをかなり正確に表現する値となる。色コンバータCCは、プロファイル作成部PD6が予測を要請するインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)にて印刷を行った場合のL*a*b*値とともに、色恒常性指数CIIもプロファイル作成部PD6に返す。次に、粒状性コンバータGCおよびその準備について説明する。
B−3.粒状性コンバータ
粒状性コンバータGCはプロファイル作成部PD6が予測を要請するインク量セット(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm,dlk,dllk,ddy,dr,do,dg,db)にて印刷を行った場合の粒状性指数GIを予測し、当該粒状性指数GIをプロファイル作成部PD6に返す処理を行う。なお、本実施形態では、CMYKGlclmのみ印刷に使用するため、他のインク量は常にdlk=dllk=ddy=dr=do=db=0が入力される。ニューラルネットワークNNGを印刷に使用され得るすべてのインクのインク量dc,dm,dy,dk,dlc,dlm,dlk,dllk,ddy,dr,do,dg,dbが入力可能な構造としておくことにより、印刷に使用しないインクのインク量を0として入力することにより印刷に使用する任意のインクセットにおける粒状性指数GIを得ることができる。
図18は、ニューラルネットワークNNGを示している。同図において、各インクのインク量dc,dm,dy,dk,dlc,dlm,dlk,dllk,ddy,dr,do,dg,dbがニューラルネットワークNNGの入力層に入力可能となっており、出力層では粒状生成数GIを出力することが可能となっている。このような、ニューラルネットワークNNGをHDD11に予め用意しておけば、プロファイル作成部PD5に要請されたインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を粒状生成数GIにコンバートし、当該粒状生成数GIをプロファイル作成部PD5に返すことができる。
なお、粒状性指数GIが以下の(7)式で定義されるものとする。
粒状性指数GIについては、例えば、Makoto Fujino,Image Quality Evaluation of Inkjet Prints, Japan Hardcopy '99, p.291-294を参照。なお、(7)式のa
Lは明度補正項、WS(u)は画像のウイナースペクトラム、VTFは視覚の空間周波数特性、uは空間周波数である。
上記の(7)式において、粒状性指数GIはカラーパッチをスキャナ等で撮像した画像データを画像平面に関してフーリエ変換することにより、画像に存在する空間波のパワースペクトルを得るとともに、当該パワースペクトルに対して視覚の空間周波数特性VTFを畳み込むことにより算出される。なお、画像データは明度の画像データを使用するのが一般的である。このように粒状性指数GIは、カラーパッチ内に存在する明度の空間波の大きさを空間周波数特性VTFによる重み付けを考慮して全空間周波数に関して累積した値であるといえる。したがって、目立ちやすい粒状性を定量化することができる。なお、明度補正項aLによって全体の明度の粒状性指数GIへの寄与を減殺している。
印刷に使用され得るCMYKlclmlkllkORGBdyインクのインク量空間における代表的なインク量セット(dc,dm,dy,dk,dlc,dlm,dlk,dllk,ddy,dr,do,dg,db)について実際にカラーパッチを印刷し、粒状性指数GIを上記の(7)式によって算出することにより、ニューラルネットワークNNGの学習データを用意する。そして、当該学習データによって学習を行うことによって、図18に示すニューラルネットワークNNGの構造を決定する層数や中間ユニットの数や各重み係数やバイアスを順次最適化していく。ニューラルネットワークNNGの学習においてはバックプロバケーション法を使用するのが一般的である。なお。本実施形態においてはすべての種類のインク量が入力可能なニューラルネットワークNNGを例示したが、各インクセットごとに個別のニューラルネットワークNNGを用意してもよい。本実施形態においては、ニューラルネットワークNNGがプリンタドライバPDのインストールによってHDD11に用意されており、粒状性コンバータGCが使用することが可能となっている。粒状性コンバータGCは、得られた粒状性指数GIをプロファイル作成部PD6に返す。
B−4.平滑性コンバータ
図19は、平滑性コンバータSCが算出する平滑程度評価指数SIを模式的に説明している。平滑性コンバータSCは、プロファイル作成部PD6が予測を要請する格子点のインク量セットで印刷したときの色のCIELAB色空間における平滑程度を評価する処理を行う。平滑性コンバータSCは、本実施形態ではプロファイル作成部PD6が予測を要請する格子点のインク量セットで印刷したときの色をD65光にて観察したときのL*a*b*値が色コンバータCCから入力されており、このL*a*b*値のCIELAB色空間における平滑程度が定量化される。
同図において、○はCIELAB空間における複数の格子点の位置を示し、●は当該格子点のうち注目する格子点(評価関数E
pの算出対象の格子点)を示している。注目する格子点の位置ベクトルをLpとし、当該格子点に隣接する6個の格子点の位置ベクトルをL
a1〜L
a6とすると、平滑程度評価指数SIは下記の式(8)によって表される。
平滑程度評価指数SIは、注目する格子点から互いに逆向きのベクトルの距離が等しく、方向が正反対に近いほど値が小さくなるようにしてある。
図19(B)に示すように、隣接する格子点を結ぶ線(ベクトルL a1〜ベクトルLp〜ベクトルL a2が示す格子点を通る線等)が直線に近く、また格子点が均等に配置されるほどCIELAB色空間における格子点の配置が平滑化される傾向にあるので、式(8)に示す平滑程度評価指数SIが小さくなればなるほど、平滑程度が高くなるということができる。CIELAB色空間におけるL*a*b*値は、本実施形態のインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)を分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCによって順次変換することにより得ることができるため、平滑程度評価指数SIはインク量セットの関数であるということができる。平滑程度評価指数SIは小さい方が良好な階調性が期待できる。平滑性コンバータSCは、平滑程度評価指数SIを算出すると、平滑程度評価指数SIをプロファイル作成部PD6に返す。
図20は、本実施形態のインクセットCMYKOlclmでプリンタ20が印刷を行う場合の色再現ガマットをCIELAB色空間において示している。同図に示すように、プリンタ20の色再現ガマットは予めプリンタ20のハードウェア仕様やインクセットによって定められており、この範囲において色を再現することができる。平滑性コンバータSCは、HDD11の色再現ガマットデータGDから色再現ガマットを取得し、当該色再現ガマットの外面上や稜線上や頂点上のL*a*b*値と、色コンバータCCが算出した一部の格子点のL*a*b*値との色差ΔEを算出する。
色差ΔEの算出の対象は、格子点のうちインク量空間の外縁に存在するものとされ、内側の格子点については色差ΔE=0とする。インク量空間の外縁に存在する格子点を分光プリンティングモデルコンバータRCによって変換したL*a*b*値も同様にCIELAB空間において外縁に存在すると考えられるからである。これにより、格子点のうちインク量空間の外縁に存在するものを分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCによって順次変換したL*a*b*値の、プリンタ20が再現可能な色再現ガマットの外面上や稜線上や頂点上までの色ずれを定量化することができる。平滑性コンバータSCは、色差ΔEをプロファイル作成部PD6に返し、当該色差ΔEが最適化に使用される。
この色差ΔEは式(1)の評価関数Epに加算されており、評価関数Epを極小化するように最適化(ステップS340)することにより、CIELAB色空間における外縁の格子点は色再現ガマットの外面上や稜線上や頂点上に近づくように移動することとなる。これにより、色再現ガマットを最大限に利用するインクプロファイルIPおよび色変換プロファイルCPを作成することができる。一方、色再現ガマットの内側の格子点については色差ΔE=0とされるため、CIELAB色空間における特定の色に拘束されることはない。しかし、平滑程度評価指数SIを加算した評価関数Epが極小化するように最適化を行うことによって、上述した色再現ガマットの内側にて平滑的に分布するように各格子点を移動させることができる。
本実施形態では、印刷対象の画像データの各画素が示す色がCMYKGlclmを使用したときのプリンタ20の色再現ガマット内にあることがステップS100のインクセット設定処理にて確認されているため、ステップS180にて無視ボタンが押下された場合を除き、印刷対象の画像データの各画素が示す色は基本的に図20に図示する色再現ガマット内にあることとなる。このようにして、ステップ340における最適化では、CIELAB色空間における格子点の最適化されることとなる。なお、図20のCIELAB色空間では可視化することができないが、CIELAB色空間における格子点の最適化されると同時に、ステップS340では他の粒状性指数GIや色恒常性指数CIIやインクのランニングコストも良好となるようインク量セット(dc,dm,dy,dk,dg,dlc,dlm)が最適化されることとなる。
C.まとめおよび変形例
C−1.変形例1
A節において説明したように、本発明においては、プロファイル作成部PD6が印刷に使用するインクセットに対応した色変換プロファイルCPを作成するようにしている。その際に、印刷対象の画像データの各画素が示す色が含まれる色再現ガマットを有するインクセットを選択して、そのインクセットについて色変換プロファイルCPを作成するため、印刷対象の画像データの各画素が示す色を正確に再現することができる。また、上述した実施形態において、印刷対象の画像データをユーザーから受け付けることにより、当該画像データが含む画素が示す色については色再現ガマットを確保すべき旨の印刷パフォーマンスへの要求が間接的に受け付けられると考えることができる。従って、印刷対象の画像データの指定を受け付けるステップS110の処理が本発明の要求受付手段が実行する処理に相当すると考えることができる。同様に、印刷パフォーマンスとしての色再現ガマットが確保できるようにインクセットの選択を行うインクセット設定部PD4は本発明の選択部に相当するということができる。
なお、上述した実施形態において、作成した色変換プロファイルCPをユーザーの指示で削除できるようにしても良い。また、インクプロファイルIPに基づいて作成した色変換プロファイルCPを使用して色変換を行うようにしたが、入力された画像データの色空間に関するソースプロファイルとインクプロファイルIPとを使用して当該画像データをインク量の画像データに換算するようにしてもよい。また、本発明において作成される色変換プロファイルCPは、インク量とsRGB色空間との関係を記載したものに限られず、インク量とLab色空間と(上記実施形態のインクプロファイルIP)との関係を記述したものや、インク量とXYZ色空間との関係を記述したものなど、インク量と他の色空間との関係を記載したものでもよい。ところで、重み係数w4が小さいときステップS340における格子点の色再現ガマットの外面上や稜線上や頂点上への拘束力が弱まるため、色再現ガマットデータGDが示す色再現ガマットよりも、実際に作成されるインクプロファイルIPが示す色再現ガマットの方が狭くなることも考えられる。従って、インクプロファイルIPが作成された時点で、インクプロファイルIPの色再現ガマットが印刷対象の画像データの各画素が示す色の色域よりも狭くなっていないことを確認するようにしてもよい。
図21は、最適化(ステップS340の後)のインクプロファイルIPの格子点の分布領域と、印刷対象の画像データの色の分布領域とをCIELAB色空間にて比較する様子を示している。同図に示すように、実際に作成されたインクプロファイルIPの格子点の分布領域の方が広い場合には、印刷対象の画像データの色を十分に表現することができる。逆に、実際に作成されたインクプロファイルIPの格子点の分布領域の方が狭い場合には、現在のインクセットでの色再現ガマットを最大限利用するインクプロファイルIPが作成できるよう、色再現ガマットに関する重み係数w4を上方修正して、インクプロファイルIPを再作成することが望ましい。
上述した実施形態においては、少なくともプリンタ20の色再現ガマットの方が画像データの色域よりも広くなるインクセットであれば、当該画像データの印刷に適するインクセットであると判定したが、さらに適するインクセットとして判定する要件を厳しくしてもよい。例えば、プリンタ20の色再現ガマットが画像データの色空間(上記実施形態ではsRGB色空間)よりもわずかに広く、かつ、ほぼ同様の形状をしているインクセットのみを適切なインクセットとして選択されるようにすることもできる。このようにすることにより、プリンタ20の色再現ガマットの方が画像データの色域よりも広くなるインクセットを絞り込むことができるとともに、ガマットマッピングによる色再現ガマット外縁付近の色の補正量を抑制することができる。従って、もとの画像データの色通りの色をプリンタ20にて再現したい場合には、有効である。さらに、色再現ガマットのカバー率が100%となるインクセットが複数存在した場合に、これらのインクセットをユーザーに示し、選択を受け付けるようにしてもよい。さらに、重み係数w1〜w5が予め設定されているものとし、色再現ガマットのカバー率が100%となるインクセットが検出された時点で、色変換プロファイルCPの作成を開始するようにしてもよい。色再現ガマットのカバー率が100%となるインクセットが一つのみ検出された場合には、その時点で当該インクセットについて色変換プロファイルCPの作成を開始してもよい。一方、複数検出された場合にはカバー率やインク数等に基づいた所定の優先順位でインクセットを選択し、色変換プロファイルCPの作成を順次開始するようにしてもよい。
図22は、本発明の印刷制御を実行する印刷装置としてのプリンタの構成を示している。同図において、プリンタ120のファームウェアFWがプリンタドライバの各モジュールPD1〜PD8を実行するように構成されている。そして、プリンタ120が自ら印刷対象として指定された画像データに適したインクセットを選択し、選択されたインクセットを使用して好適な色再現ガマットで印刷を行うことができる。このように、プリンタ120単体で印刷が可能なダイレクトプリンタにおいても本発明を実現することができる。
C−2.変形例2
以上においては、印刷パフォーマンスとしての色再現ガマットに関する要求に応じて、使用するインクセットを選択する実施形態を例示したが、他の印刷パフォーマンスに関する要求に応じてインクセットを選択するようにしてもよい。例えば、粒状性や階調性や色恒常性等に関するユーザーの要求を受け付けて、当該要求に応じてインクセットを選択するようにしてもよい。以下、インクセット設定部PD4が粒状性に関するユーザーの要求に応じて使用するインクセットを選択する変形例について詳細に説明する。
図23は、本変形例にかかるインクセット設定処理の流れを示している。同図において、ステップS1110においては、UI部PD1がUI画面をディスプレイ30に表示させキーボード40aとマウス40bを介して印刷指示を受け付けるとともに、画像データ取得部PD2が印刷対象の画像データを例えばHDD11や他のアプリケーションプログラムから取得する。次のステップS1120においては、粒状性についての要求をユーザーから受け付けるための表示を行う。なお、インクセット設定処理を実行するインクセット設定部PD4が本発明の要求受付手段と選択手段を構成する。
図24は、ステップS1120にて表示されるUI画面の例を示している。同図においては、『粒状感を抑制するインクを使用させますか?』というメッセージが表示され、この要求(“はい”,“いいえ”)を指示するためのチェックボックスが設けられている。当該チェックボックスにチェックを入れると、ターゲット色の指定方法について以下のa〜cの選択を受け付けるチェックボックスが有効となる。
a.画像の色で指定
b.カラーチャートで指定
c.色彩値で指定
ステップS1120においては、決定ボタンのクリックに応じて上記UI画面におけるユーザーの各指定を取得する。ステップS1130においては、『粒状感を抑制するインクを使用させますか?』とのメッセージに対応するチェックボックスの“はい”がチェックされたか否かを判定し、“いいえ”がチェックされた場合には、前実施形態のインクセット設定処理(図4)のステップS190に進む。すなわち、現在搭載中のインクセットを使用して印刷するようにする。一方、チェックされた場合には、ステップS1140にて上記のa〜c.のいずれが指定されたかを判定する。ここで、a.が指定された場合には、ステップS1150にて、画像の色によってターゲット色の指定を受け付けるためのUI画面を表示させる。
図25は、ステップS1150において表示されるUI画面を示している。同図において、画像プレビュー領域が設けられており、当該画像プレビュー領域において所定のサンプル画像が表示されている。このサンプル画像は、予め印刷対象として指定された画像データであってもよいし、プリンタドライバPDのインストール時等にHDD11に記憶されたサンプルの画像データであってもよい。また、どのようなサンプル画像を表示させるかをユーザーに選択させるようにしてもよい。例えば、風景写真のサンプルが良いのか、人物写真のサンプルが良いのか等をユーザーに問い合わせるようにしてもよい。上記UI画面においては『粒状感を抑制したい色をポインタで選択して下さい。』というメッセージが表示され、上記画像プレビュー領域においてはマウス40bの動作に応じて位置が変動するポインタが表示されている。
そして、当該ポインタのドラッグ位置とドロップ位置によって矩形領域を指定することが可能となっている。ステップS1160においては、指定された矩形領域に含まれる色の平均値を算出する。ここでは、ビデオI/F15がディスプレイ30に出力している矩形領域のRGB値を取得し、当該RGB値をディスプレイ30のICCプロファイル(sRGBプロファイルSP)を使用してL*a*b*値に変換する。そして、矩形領域についてL*a*b*値の平均値をターゲット色として取得する。このようにすることにより、直感的にターゲット色を指定することができる。例えば、空の粒状感を抑制したい場合には、単純に空の領域を指定すればよい。なお、ターゲット色を指定する領域は矩形に限られず、円形等を採用することができるし、複数の領域を指定できるようにしてもよい。
一方、ステップS1120にて、b.が指定された場合には、ステップS1170にてカラーパッチ(色見本)の識別番号を受け付けるためのUI画面を表示させる。カラーパッチの識別番号とは、図示しないカラーチャートにおいて各カラーパッチとともに印刷された各カラーパッチ固有の番号であり、当該識別番号を入力することによりユーザーが指定したカラーパッチの色を一意に特定することが可能となっている。HDD11においては、各カラーパッチについて識別番号と色彩値(L*a*b*値)との対応関係を格納したデータベースが備えられており、識別番号を受け付けることによりユーザーが指定するL*a*b*値をターゲット色として取得することができる。なお、カラーチャートは予めプリンタ20のメーカー等から提供されており、プリンタ20が再現可能な色再現ガマット全体を網羅するように色が付された複数のカラーパッチが配置されている。なお、本変形例においてカラーチャートは印刷媒体として提供されるものとしたが、複数のカラーパッチをユーザーに提示することができればよく、ディスプレイ30にカラーチャートを表示させ、マウス40bによって指定を受け付けるようにしてもよい。
一方、ステップS1120にて、c.が指定された場合には、ステップS1180にて色彩値(L*a*b*値)を入力指定するためのUI画面(テキストボックス)を表示させ、入力されたL*a*b*値をターゲット色として取得する。以上のように、ステップS1160,S1170,S1180にてターゲット色としてL*a*b*値を取得すると、ステップS1190にて使用するインクの制限を受け付けるためのUI画面を表示させる。
図26は、ステップS1190において表示されるUI画面を示している。同図において、『使用させたいインクはありますか?』というメッセージが表示され、このメッセージに対応する指示をするためのチェックボックスが設けられている。当該チェックボックスにチェックを入れると、使用され得るすべてのインクについてチェックを入れるためのチェックボックスが有効となる。さらに、『使用させたくないインクはありますか?』というメッセージが表示され、このメッセージに対応する指示をするためのチェックボックスも設けられている。当該チェックボックスにチェックを入れると、使用され得るすべてのインクについてチェックを入れるためのチェックボックスが有効となる。これにより、ユーザーが所持していないようなインクを使用対象から除外することができる。ステップS1200においては、上記UI画面におけるユーザーの指示を取得する。
ステップS1210においては、ステップS1200にて取得した制限のもとで使用可能なインクセットを特定する。例えば、使用させたいインクとしてKインクが指定され、使用させたくないインクとしてlkllkdyインクが指定された場合には、Kインクを必ず含み、かつ、lkllkdyインク以外のCMYKORGBlclmインクの組み合わせで構成されるインクセット(29組)が特定される。ステップS1220においては、ステップS1160,S1170,S1180にて取得したターゲット色のL*a*b*値となるインク量セットを特定する。インク量セットを特定するにあたっては、B節で説明した色コンバータCCと分光プリンティングモデルコンバータRCとを利用する。B節においては、任意のインク量セットから分光反射率R(λ)を算出し、さらに当該分光反射率R(λ)に所定の光源の分光分布を作用させることにより当該光源下におけるL*a*b*値を算出する手順を説明したが、ステップS1220ではターゲット色のL*a*b*値が再現可能なインク量セットを算出する。
例えば、ステップS1210において特定した各インクセットによって供給可能なすべてのインク量セットを分光プリンティングモデルコンバータRCと色コンバータCCに順次代入し、ターゲット色のL*a*b*値となるインク量セットのみを特定する。このとき、ユーザーから使用させたいインクとして指定されたKインクについてはインクを必ず使用するように制限され(dk≠0とする。)、ユーザーから使用させたくないインクとして指定されたlkllkdyインクについてはインクを使用しないように制限される(dlk=dllk=ddy=0とする。)こととなる。なお、ステップS1220で使用する光源はユーザーから指定されてもよいし、標準的なものを適用してもよい。ステップS1230においては、ステップS1220にて特定されたインク量セットを粒状性コンバータGC(ニューラルネットワークNNG)に代入して、当該インク量セットで印刷した場合の粒状性指数GIを算出する。
図27は、ステップS1230にて算出した粒状性指数GIを一覧化して示している。同図において、ターゲット色のL*a*b*値が再現可能なインク量セットは複数特定されており、それらのそれぞれについて粒状性指数GIが算出されている。ステップS1240においては、一覧化されたインク量セットのうち粒状性指数GIが最も小さくなるものを特定する。これにより、ターゲット色のL*a*b*値の再現可能な各インク量セットのうち最も粒状感が抑制されるインク量セットが特定できる。ここで、図27に一覧化された各インク量セットについて印刷パフォーマンスとしての粒状性指数GIが予測されているとともに、各インク量セットにてインク量が0でないインクを少なくとも含むインクセットによって印刷をした場合の粒状性指数GIが予測されているということができる。ステップS1250においては、ステップS1240にて特定した最も粒状感が抑制されるインク量セットが提供可能なインクセットを特定する。例えば、図27のように最も粒状感が抑制されるインク量セットが0でないCMYKlclmのインク量から構成される場合には、少なくともCMYKlclmを構成要素として含むインクセットが当該インク量セットを提供可能なインクセットに該当する。
プリンタ20は8個のインクカートリッジ22が同時に搭載可能であるため、CMYKlclmに任意の0〜2種類のインクを加えたインクセットが上記インク量セットを提供可能なインクセットとして特定されることとなる。ただし、ステップS1190にてユーザーから使用させたくないインクとして指定されたインクについてはインクセットの構成要素から除外されるように制限する。上述した例では、lkllkdyインクについてはインクセットの構成要素から除外される。ステップS1260においては、ステップS1250において特定されたインクセットが複数あるか否かを判定し、単数である場合にはステップS1250において特定されたインクセットをそのまま最終的に印刷に使用させるインクセットとして選択する(ステップS1270)。例えば、最も粒状感が抑制されるインク量セットが0でない8種類のインク量から構成される場合には、単数のみのインクセットによって当該インク量セットが提供可能となる。一方、ステップS1250において特定されたインクセットが複数ある場合には、ステップS1250において選択されたインクセットのいずれかひとつをユーザーに選択させるためのUI画面を表示させる(ステップS1280)。そして、ステップS1290では、ユーザーによるインクセットの指定を受け付け、指定されたインクセットを最終的に印刷に使用させるインクセットとして選択する。
以上のようにインクセットが最終的に選択されると、上述した実施形態と同様に色変換プロファイル作成指針の設定処理(図8のステップS200)を実行し、さらに色変換プロファイルCPの作成処理(図11のステップS300)を順次実行していく。このようにすることにより、ユーザーが指定したターゲット色について粒状感を抑制することができるインクセットによって印刷を実行させることができる。また、ユーザーが使用したい/したくないインクの制限も反映させることができるため、ユーザーの意図に即したインクセットを印刷に使用させることができる。
以上においては、予めターゲット色が再現可能なインク量セットを絞り込み、そのなかから最も粒状感が抑制できるインク量セットを選択する実施形態を説明したが、ターゲット色への近似度と粒状感の抑制度とを同時に評価し、ターゲット色への近似度と粒状感の抑制度が双方とも良好なインク量セットを特定するようにしてもよい。上記の式(1)にて与えられる評価関数EPは、粒状性と色恒常性と階調性と色再現ガマットとランニングコストとを同時に評価可能な指標値であったが、当該評価関数EPを利用してターゲット色への近似度と粒状感の抑制度とを同時に評価することができる。具体的には、上記の式(1)において、色恒常性と階調性とランニングコストについての重み係数w2,w3,w5をいずれも0に設定し、粒状性と色再現ガマットについての重み係数w1,w4を例えば双方とも0.5に設定する。また、B−4節においては色再現ガマットを確保するために、色再現ガマットの外面上や稜線上の色に対する色差ΔEを使用するようにしたが、ここではユーザーが粒状感を抑制したいと指定したターゲット色に対する色差ΔEを使用する。これにより、任意のインク量セットφで印刷した場合の色がターゲット色に近似しているか否かを評価関数EPによって評価することができる。
以上のように評価関数EPが用意できると、当該評価関数EPを極小化させるインク量セットφを算出する。例えば、共役勾配法等によって評価関数EPを極小化させるインク量セットφの最適解を算出することができる。これにより、ターゲット色への近似度と粒状感の抑制度とが最も良好となるインク量セットφを算出することができる。以上のようにして、極小解としてのインク量セットφが算出できると、当該インク量セットφが提供可能なインクセットを特定する。ここでの処理は、上述したステップS1250と同様である。すなわち、極小解として得られたインク量セットφにおいて0でない値を有するインクを構成要素として少なくとも含むインクセットを特定すればよい。この場合も、複数のインクセットが特定された場合には、ユーザーに選択させるようにすればよい。このように、評価関数EPを利用してターゲット色への近似度と粒状感の抑制度を同時に評価することにより、処理を簡略化させることができる。
ところで、インクセット設定処理においてユーザーが粒状感を抑制するように要求した場合、粒状感が抑制される印刷をユーザーが期待していると判断することができ、次に実行する色変換プロファイル作成指針の設定処理(図8のステップS200)においても、粒状性を重視した色変換プロファイルCPの作成指針が設定されるようにするのが望ましい。すなわち、色変換プロファイルCPの作成処理(図11のステップS300)で使用する評価関数EPにおいても粒状性についての重み係数w1を大きく設定するのが望ましい。これにより、ターゲット色について粒状感が抑制できるインクセットが選択されるとともに、さらに当該インクセットにおいて粒状感が抑制できるインク量セットによる印刷が可能な色変換プロファイルCPを作成することができる。さらに、粒状性を重視すべき色もターゲット色の指定によって明らかとなっているため、当該ターゲット色の近辺について特に粒状感を抑制させるようにしてもよい。例えば、色変換プロファイルCPの作成処理(図11のステップS300)で使用する評価関数EPにおいて、粒状性についての重み係数w1がターゲット色の近辺の色域において大きくなるようにすれば、ターゲット色の近辺について特に粒状感が抑制できる色変換プロファイルCPを作成することができる。
以上においては、粒状感を抑制すべき旨の印刷パフォーマンスへの要求が受け付けられた場合のインクセット設定処理について例示したが、他の印刷パフォーマンスへの要求に基づいてインクセットを選択することも可能である。例えば、階調性を向上すべき旨の印刷パフォーマンスへの要求を受け付け可能とし、階調性についての重み係数w3を大きく設定した評価関数EPを極小化させるインク量セットを求め、当該インク量セットが供給可能なインクセットを選択させることも可能である。同様に、ランニングコストや色恒常性を重視したインクセットを選択することもできる。
10…コンピュータ、11…HDD、12…CPU、20…プリンタ、PD…プリンタドライバ、PD1…UI部、PD2…画像データ取得部、PD3…プリンタ情報取得部、PD4…インクセット設定部、PD5…プロファイル作成指針設定部、PD6…プロファイル作成部、PD7…色変換部、PD8…印刷データ生成部、RC…分光プリンティングコンバータ、CC…色コンバータ、GC…粒状性コンバータ、SC…平滑性コンバータ、IP…インクプロファイル、CP…色変換プロファイル、SP…sRGBプロファイル、RD…分光反射率データ。