JP2008116204A - ゼンマイ、これを利用した駆動装置並びに機器、およびゼンマイの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】カーボンナノチューブを用いるゼンマイ材料およびゼンマイ製造方法を確立でき、動力源として用いられるゼンマイ、およびこれを備える駆動装置並びに機器において、信頼性向上、小型化、および製造容易化を図ること。
【解決手段】グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材からゼンマイを構成する。このゼンマイの複合材により、引張強度大で低ヤング率を実現でき、小型化を図りつつ長時間動作可能なゼンマイを提供できる。また、グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブを媒質に均一に分散させ、押出成形などで成形することにより、均一な品質のゼンマイを容易に製造できる。
【選択図】図9
【解決手段】グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材からゼンマイを構成する。このゼンマイの複合材により、引張強度大で低ヤング率を実現でき、小型化を図りつつ長時間動作可能なゼンマイを提供できる。また、グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブを媒質に均一に分散させ、押出成形などで成形することにより、均一な品質のゼンマイを容易に製造できる。
【選択図】図9
Description
本発明は、動力源として使用されるゼンマイ、これを利用した駆動装置並びに機器、およびゼンマイの製造方法に関する。
従来、時計、オルゴール等の精密機械の駆動装置にゼンマイが動力源として使用されている。
このようなゼンマイの材料としては、従来、加工硬化型あるいは時効硬化型の合金を用いている(特許文献1)。このような合金材料を用いる場合、ゼンマイの張り付き、こすれ等を防止するため、ゼンマイ表面にテフロン(登録商標)処理を行っていた。
また、ゼンマイを小型化するためにはヤング率が小さく引張強度が大きい材料が好ましく、そのような材料として、アモルファス(非晶質)金属材料が検討されている(特許文献2)。
また近年、カーボンナノチューブを用いたゼンマイ(調速用のヒゲゼンマイ)も提案されている(特許文献3)。
このようなゼンマイの材料としては、従来、加工硬化型あるいは時効硬化型の合金を用いている(特許文献1)。このような合金材料を用いる場合、ゼンマイの張り付き、こすれ等を防止するため、ゼンマイ表面にテフロン(登録商標)処理を行っていた。
また、ゼンマイを小型化するためにはヤング率が小さく引張強度が大きい材料が好ましく、そのような材料として、アモルファス(非晶質)金属材料が検討されている(特許文献2)。
また近年、カーボンナノチューブを用いたゼンマイ(調速用のヒゲゼンマイ)も提案されている(特許文献3)。
しかしながら、特許文献1のように加工硬化型あるいは時効硬化型の合金を用いる場合は、材料が多成分系であるため、材料の不均一が発生しやすい。また、このような合金材料には、物性値の温度変化が大きいという欠点があった。
一方、特許文献2のようにアモルファス金属材料を用いる場合には、非晶化する際の製造工程においてピンホールが入りやすく、実用化・量産化に向けて課題があった。このため、アモルファス金属材料は、ゼンマイのリボン状やワイヤ状などの線状形状に適するとは言い難いものであった。
そして、特許文献3のカーボンナノチューブを使用するゼンマイについては、カーボンナノチューブの使い方や製造方法の確立が待たれ、実用化に至っていなかった。
なお、特許文献1、2の各ゼンマイ材料により製造されたゼンマイの特性について、下記の表に示す。
一方、特許文献2のようにアモルファス金属材料を用いる場合には、非晶化する際の製造工程においてピンホールが入りやすく、実用化・量産化に向けて課題があった。このため、アモルファス金属材料は、ゼンマイのリボン状やワイヤ状などの線状形状に適するとは言い難いものであった。
そして、特許文献3のカーボンナノチューブを使用するゼンマイについては、カーボンナノチューブの使い方や製造方法の確立が待たれ、実用化に至っていなかった。
なお、特許文献1、2の各ゼンマイ材料により製造されたゼンマイの特性について、下記の表に示す。
そこで本発明の目的は、上記問題をいずれも解決できるゼンマイ材料およびゼンマイ製造方法を確立し、信頼性が高く製造が容易なゼンマイ、これを備える駆動装置並びに機器、およびゼンマイの製造方法を提供することにある。
本発明のゼンマイは、動力源として使用されるゼンマイであって、少なくともグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材から構成されていることを特徴とする。
この発明によれば、グラファイト(黒鉛)、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブ(カーボンナノファイバー)が用いられたゼンマイ材料としての複合材の構成を実現でき、この複合材からゼンマイを構成することで、以下のような種々多様な利点が得られる。
[1.材料設計自由度の向上]
前記複合材においては、他の材料に比べて引張強度およびヤング率を広範囲に設定できる。
すなわち、グラファイトとアモルファスカーボンとの配合比および焼成条件を変えることで広範囲に亘るヤング率を実現でき、これらグラファイトおよびアモルファスカーボンにカーボンナノチューブを複合化することで、グラファイトおよびアモルファスカーボンにより可変となるヤング率の範囲全域に亘って引張強度を向上させることが可能となる。
これにより、本発明の複合材を引張強度が要請されるゼンマイ材料として使用でき、当該複合材における引張強度やヤング率を広範囲に設定できることにより、ゼンマイ材料の設計の自由度が格段に向上することになる。
ここで、グラファイトおよびアモルファスカーボンのみによる複合材の引張強度は約0.05〜約0.7GPa程度、ヤング率は約10〜約200GPa程度であり、これにカーボンナノチューブを加えた複合材とすることにより、グラファイトおよびアモルファスカーボンのみによるヤング率を可変させる特長はそのままに、引張強度を約1.0〜約1.5GPaまで大幅に向上させることが可能となる。
なお、一般炭素材の強度は0.02〜0.1GPa程度、ヤング率は4〜20GPa程度である。本発明の複合材のヤング率と引張強度の関係を図8に示す。
前記複合材においては、他の材料に比べて引張強度およびヤング率を広範囲に設定できる。
すなわち、グラファイトとアモルファスカーボンとの配合比および焼成条件を変えることで広範囲に亘るヤング率を実現でき、これらグラファイトおよびアモルファスカーボンにカーボンナノチューブを複合化することで、グラファイトおよびアモルファスカーボンにより可変となるヤング率の範囲全域に亘って引張強度を向上させることが可能となる。
これにより、本発明の複合材を引張強度が要請されるゼンマイ材料として使用でき、当該複合材における引張強度やヤング率を広範囲に設定できることにより、ゼンマイ材料の設計の自由度が格段に向上することになる。
ここで、グラファイトおよびアモルファスカーボンのみによる複合材の引張強度は約0.05〜約0.7GPa程度、ヤング率は約10〜約200GPa程度であり、これにカーボンナノチューブを加えた複合材とすることにより、グラファイトおよびアモルファスカーボンのみによるヤング率を可変させる特長はそのままに、引張強度を約1.0〜約1.5GPaまで大幅に向上させることが可能となる。
なお、一般炭素材の強度は0.02〜0.1GPa程度、ヤング率は4〜20GPa程度である。本発明の複合材のヤング率と引張強度の関係を図8に示す。
[1−1.ゼンマイの長時間動作と小型化との両立]
上述のように本発明における前記複合材は材料設計の自由度が高いことから、ヤング率を小さく、引張り強度を大きくすることが可能となる。
ところで、ゼンマイが蓄える機械エネルギーを調整するにあたり、ゼンマイの厚みを薄くしてゼンマイの全長を長くすることでゼンマイの最大巻数を多くしたり、逆に、ゼンマイの全長を短くしてゼンマイの厚みを厚くすることで出力トルクの値を大きくしたりすることが考えられえるが、このような方法だけでは、ゼンマイのエネルギーを大とする場合にゼンマイが必然的に大型化してしまう。
これに対して、本発明では前記複合材のヤング率を小さく、引張強度を大きくすることが可能であることから、ゼンマイの巻数や厚みに因らず、ゼンマイの機械エネルギーを大にできる。これにより、香箱を含めたゼンマイの小型化が可能となり、香箱等の形状寸法を変更することなく、ゼンマイに蓄積可能なエネルギー体積密度を向上することが可能となる。すなわち、同じ巻数時における出力トルクが大きいので、持続時間が長くなり、より長時間動作させることが可能となる。またゼンマイの厚みを小さくしても必要な出力トルクが得られるため,ゼンマイの巻数を増やすことができる。
このように、本発明では前記複合材による機械エネルギー増大により、動力用ゼンマイとしての長時間動作および小型化という相反する要求を両方満足させることが可能となる。
上述のように本発明における前記複合材は材料設計の自由度が高いことから、ヤング率を小さく、引張り強度を大きくすることが可能となる。
ところで、ゼンマイが蓄える機械エネルギーを調整するにあたり、ゼンマイの厚みを薄くしてゼンマイの全長を長くすることでゼンマイの最大巻数を多くしたり、逆に、ゼンマイの全長を短くしてゼンマイの厚みを厚くすることで出力トルクの値を大きくしたりすることが考えられえるが、このような方法だけでは、ゼンマイのエネルギーを大とする場合にゼンマイが必然的に大型化してしまう。
これに対して、本発明では前記複合材のヤング率を小さく、引張強度を大きくすることが可能であることから、ゼンマイの巻数や厚みに因らず、ゼンマイの機械エネルギーを大にできる。これにより、香箱を含めたゼンマイの小型化が可能となり、香箱等の形状寸法を変更することなく、ゼンマイに蓄積可能なエネルギー体積密度を向上することが可能となる。すなわち、同じ巻数時における出力トルクが大きいので、持続時間が長くなり、より長時間動作させることが可能となる。またゼンマイの厚みを小さくしても必要な出力トルクが得られるため,ゼンマイの巻数を増やすことができる。
このように、本発明では前記複合材による機械エネルギー増大により、動力用ゼンマイとしての長時間動作および小型化という相反する要求を両方満足させることが可能となる。
[1−2.低ヤング率]
また、本発明における前記複合材では、引張強度を大きく、かつヤング率を小さくすることが可能であることから、これら引張強度大と低ヤング率との相乗効果により、ゼンマイが蓄える最大機械エネルギーをより大きくできる。これにより、一層の小型を図ることができる。
さらに本発明では前記複合材のヤング率が小さいことから、ゼンマイの靱性を確保できる。
加えて、このヤング率が小さいことにより、ゼンマイの巻数に対する出力トルク勾配(トルクカーブ)を小さくできる。つまり、ゼンマイの巻数が変化してもその際の出力トルクの変動が小さいので、動力源用ゼンマイによる駆動が安定し、駆動精度を向上させることができる。
また、本発明における前記複合材では、引張強度を大きく、かつヤング率を小さくすることが可能であることから、これら引張強度大と低ヤング率との相乗効果により、ゼンマイが蓄える最大機械エネルギーをより大きくできる。これにより、一層の小型を図ることができる。
さらに本発明では前記複合材のヤング率が小さいことから、ゼンマイの靱性を確保できる。
加えて、このヤング率が小さいことにより、ゼンマイの巻数に対する出力トルク勾配(トルクカーブ)を小さくできる。つまり、ゼンマイの巻数が変化してもその際の出力トルクの変動が小さいので、動力源用ゼンマイによる駆動が安定し、駆動精度を向上させることができる。
[2.各材料の均一]
本発明の複合材を構成するグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブは、調合時に媒質に分散され均一となるので、ゼンマイの所望の特性を実現でき、信頼性を向上させることができる。
本発明の複合材を構成するグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブは、調合時に媒質に分散され均一となるので、ゼンマイの所望の特性を実現でき、信頼性を向上させることができる。
[3.成形容易]
本発明において、グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブを調合した焼成前の部材は、押出成形などにより、ゼンマイに必要とされる厚みの線状体に容易に成形できる。
本発明において、グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブを調合した焼成前の部材は、押出成形などにより、ゼンマイに必要とされる厚みの線状体に容易に成形できる。
[4.非磁性]
グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブはいずれも炭素材であって非磁性のため、機器内にゼンマイをレイアウトする際の制約が緩和される。すなわち、発電機などを有する電磁気回路とゼンマイとを近接配置することが可能となる。また、ゼンマイが外部磁界に引っ張られゼンマイの特性が低下することを防止できる。
グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブはいずれも炭素材であって非磁性のため、機器内にゼンマイをレイアウトする際の制約が緩和される。すなわち、発電機などを有する電磁気回路とゼンマイとを近接配置することが可能となる。また、ゼンマイが外部磁界に引っ張られゼンマイの特性が低下することを防止できる。
[5.耐食性および潤滑性]
グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブは炭素材であり耐食性に優れるため、ゼンマイ表面への保護膜形成を不要にできる。
また、これらグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの炭素材としての自己潤滑性により、ゼンマイの素線同士の貼り付き、こすれ等が生じず、この点でも信頼性を向上させることが可能となる。
グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブは炭素材であり耐食性に優れるため、ゼンマイ表面への保護膜形成を不要にできる。
また、これらグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの炭素材としての自己潤滑性により、ゼンマイの素線同士の貼り付き、こすれ等が生じず、この点でも信頼性を向上させることが可能となる。
[6.軽量]
炭素材であるグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブによる前記複合材は密度が小さく、軽量であるから、本発明のゼンマイを機器等に組み込んだ際に、その機器の携帯性に貢献できる。
また、軽量のため落下衝撃時にも有利であるとともに、機器携帯時の姿勢の変化によりゼンマイ特性が変化せず、ゼンマイの自重による変形を考慮して設計することを不要にできる。
炭素材であるグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブによる前記複合材は密度が小さく、軽量であるから、本発明のゼンマイを機器等に組み込んだ際に、その機器の携帯性に貢献できる。
また、軽量のため落下衝撃時にも有利であるとともに、機器携帯時の姿勢の変化によりゼンマイ特性が変化せず、ゼンマイの自重による変形を考慮して設計することを不要にできる。
[7.温度特性]
グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブによる前記複合材はアモルファス金属材料等と比べて熱膨張係数が小さく熱安定性が高く、耐熱性に非常に優れている。当該複合材は、機械特性・物理特性それぞれにおいて温度特性に優れ、温度変化に伴うヤング率の変化が少ないため、ゼンマイによる駆動が安定し、駆動精度を向上させることができる。
グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブによる前記複合材はアモルファス金属材料等と比べて熱膨張係数が小さく熱安定性が高く、耐熱性に非常に優れている。当該複合材は、機械特性・物理特性それぞれにおいて温度特性に優れ、温度変化に伴うヤング率の変化が少ないため、ゼンマイによる駆動が安定し、駆動精度を向上させることができる。
[8.環境保護]
前記複合材の組成は、自然界を循環する再生可能な炭素材のみであるから、金属材料等を使用する場合と比べて環境保護に貢献できる。
前記複合材の組成は、自然界を循環する再生可能な炭素材のみであるから、金属材料等を使用する場合と比べて環境保護に貢献できる。
本発明のゼンマイでは、前記カーボンナノチューブの軸線方向が、ゼンマイの巻かれている周方向に揃えられていることが好ましい。
この発明によれば、筒状体であるカーボンナノチューブがゼンマイの周方向に沿って配向されているため、引張強度をより大きくできる。
この発明によれば、筒状体であるカーボンナノチューブがゼンマイの周方向に沿って配向されているため、引張強度をより大きくできる。
本発明のゼンマイでは、前記複合材の重量組成において、アモルファスカーボンは、グラファイトよりも大であることが好ましい。
この発明によれば、重量組成において、複合材におけるグラファイトの構成比がアモルファスカーボンの構成比よりも小さいことによりヤング率を小さくできるので、構造材としてのゼンマイの靭性をより良好に確保できる。
この発明によれば、重量組成において、複合材におけるグラファイトの構成比がアモルファスカーボンの構成比よりも小さいことによりヤング率を小さくできるので、構造材としてのゼンマイの靭性をより良好に確保できる。
本発明のゼンマイでは、ゼンマイ素線の断面積には、ゼンマイ素線の長さ方向において変化を持たせることが好ましい。
この発明によれば、ゼンマイ素線の長さ方向においてゼンマイ素線の断面積に変化を持たせることができ、これにより、ゼンマイの出力トルクをコントロールすることが可能となる。すなわち、ゼンマイの出力トルクは一般に巻数に比例するが、例えばゼンマイの内端近傍における断面積を外端側における断面積よりも大きくすることなどによって、巻き戻しの開始から終了までの出力トルクの変動幅を小さくすることが可能となる。
なお、前記複合材の原料調合後、押出成形などを実施して線状体を成形し、この際の吐出速度、圧力などの条件を変えることにより、ゼンマイ素線の断面積を容易に制御できる。
この発明によれば、ゼンマイ素線の長さ方向においてゼンマイ素線の断面積に変化を持たせることができ、これにより、ゼンマイの出力トルクをコントロールすることが可能となる。すなわち、ゼンマイの出力トルクは一般に巻数に比例するが、例えばゼンマイの内端近傍における断面積を外端側における断面積よりも大きくすることなどによって、巻き戻しの開始から終了までの出力トルクの変動幅を小さくすることが可能となる。
なお、前記複合材の原料調合後、押出成形などを実施して線状体を成形し、この際の吐出速度、圧力などの条件を変えることにより、ゼンマイ素線の断面積を容易に制御できる。
本発明の駆動装置は、前述のゼンマイを動力源として備えることを特徴とする。
この発明によれば、前述のゼンマイを備えることにより、前述した効果と同様の種々の効果を享受できる。
その一例として、小型軽量でありながら機械エネルギーを大きくできるゼンマイを備えるため、駆動装置の小型化および軽量化を促進できる。
また、前記複合材の採用により、ゼンマイの材料設計および製造が容易化されるので、駆動装置の製造コストを削減できるとともに、信頼性を向上させることができる。
そして、ゼンマイが低ヤング率で引張強度が大きく、また温度特性に優れることから、駆動精度を向上させることが可能となる。
この発明によれば、前述のゼンマイを備えることにより、前述した効果と同様の種々の効果を享受できる。
その一例として、小型軽量でありながら機械エネルギーを大きくできるゼンマイを備えるため、駆動装置の小型化および軽量化を促進できる。
また、前記複合材の採用により、ゼンマイの材料設計および製造が容易化されるので、駆動装置の製造コストを削減できるとともに、信頼性を向上させることができる。
そして、ゼンマイが低ヤング率で引張強度が大きく、また温度特性に優れることから、駆動精度を向上させることが可能となる。
本発明の機器は、前述の駆動装置を備えることを特徴とする。
この発明によれば、前述の駆動装置を備えることにより、前述した効果と同様の種々の効果を享受できる。
また、本発明の機器として、計時部と、前記計時部により得られた計時情報を表示する計時情報表示部とを備える時計であることが好ましい。すなわち、ゼンマイを動力源として備える機械式時計や電子制御式時計が好適である。
なお、本発明の機器としては、時計のほかに、オルゴールなどの精密機器を例示できる。前述したように小型軽量で信頼性に優れるゼンマイを有する駆動装置をこれら時計、オルゴールのような精密機器に組み込むことで、前述した効果をより大きくできる。
この発明によれば、前述の駆動装置を備えることにより、前述した効果と同様の種々の効果を享受できる。
また、本発明の機器として、計時部と、前記計時部により得られた計時情報を表示する計時情報表示部とを備える時計であることが好ましい。すなわち、ゼンマイを動力源として備える機械式時計や電子制御式時計が好適である。
なお、本発明の機器としては、時計のほかに、オルゴールなどの精密機器を例示できる。前述したように小型軽量で信頼性に優れるゼンマイを有する駆動装置をこれら時計、オルゴールのような精密機器に組み込むことで、前述した効果をより大きくできる。
本発明の動力源として使用されるゼンマイの製造方法は、炭素化し得る有機物体とカーボンナノチューブとを均一に分散させる原料調合工程と、前記分散させた有機物体とカーボンナノチューブとを押出成形により線状体に成形する押出成形工程と、前記線状体にゼンマイ形状を賦与する形状賦与工程と、前記ゼンマイ形状が付与された線状体を不活性雰囲気中で加熱処理し炭素化させる炭素化工程と、を備えることを特徴とする。
この発明によれば、原料調合工程において有機物体にカーボンナノチューブを配合することで、低ヤング率かつ高引張強度を実現できる。これにより、ゼンマイの靭性を確保できるとともに、小型でありながら機械エネルギー大のゼンマイを提供できる。
なお、原料調合工程において、フラン樹脂等の接合剤や、可塑剤等を使用してもよい。
ここで、有機物体としては、グラファイト、アモルファスカーボン等の炭素材のうち2つ以上の採用が好ましい。これにより、引張強度およびヤング率の取り得る値が広範囲に亘るので材料設計の自由度を高くでき、機械特性・物理特性それぞれにおいて良好な温度特性が得られる。
なお、原料調合工程において、フラン樹脂等の接合剤や、可塑剤等を使用してもよい。
ここで、有機物体としては、グラファイト、アモルファスカーボン等の炭素材のうち2つ以上の採用が好ましい。これにより、引張強度およびヤング率の取り得る値が広範囲に亘るので材料設計の自由度を高くでき、機械特性・物理特性それぞれにおいて良好な温度特性が得られる。
また、前記押出成形工程における押出成形時の圧力、吐出速度等の条件により、線状体の断面積の大きさを制御可能となるので、通常、巻数に比例するゼンマイの出力トルクをコントロールすることが可能となる。なお、炭素材はこの押出成形に適するため、加工性を良好にできる。
さらに、本発明におけるゼンマイ材料は、有機物体にカーボンナノチューブが配合され、耐熱性に非常に優れるため、高温での焼成が可能であり、強固に焼き締めることが可能となる。
以上のように、有機物体およびカーボンナノチューブを用いるゼンマイ製造方法が確立されたので、この製造方法によりゼンマイを製造することで、小型軽量化、動作時間の長時間化、製造の容易化、信頼性向上などの種々多様な利点を有するゼンマイを提供できる。
さらに、本発明におけるゼンマイ材料は、有機物体にカーボンナノチューブが配合され、耐熱性に非常に優れるため、高温での焼成が可能であり、強固に焼き締めることが可能となる。
以上のように、有機物体およびカーボンナノチューブを用いるゼンマイ製造方法が確立されたので、この製造方法によりゼンマイを製造することで、小型軽量化、動作時間の長時間化、製造の容易化、信頼性向上などの種々多様な利点を有するゼンマイを提供できる。
本発明によれば、アモルファスカーボンおよびカーボンナノチューブが用いられたゼンマイ材料、あるいは有機物体およびカーボンナノチューブを用いるゼンマイ製造方法を確立でき、動力源として用いられるゼンマイ、これを備える駆動装置および機器における小型軽量化、信頼性向上、および製造容易化などにそれぞれ貢献できる。
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態は、本発明に係るゼンマイを利用した駆動装置に係るものである。
図1は、ゼンマイを動力源として利用した電子制御式機械時計の駆動装置を示す平面図であり、図2及び図3はその断面図である。
本実施形態は、本発明に係るゼンマイを利用した駆動装置に係るものである。
図1は、ゼンマイを動力源として利用した電子制御式機械時計の駆動装置を示す平面図であり、図2及び図3はその断面図である。
[1.駆動装置の構成]
電子制御式機械時計の駆動装置1は、動力源として使用されるゼンマイ31、香箱歯車32、香箱真33及び香箱蓋34からなる香箱30を備えている。
ゼンマイ31は、外端が香箱歯車32、内端が香箱真33に固定される。
香箱真33は、地板2と輪列受3に支持され、角穴車4と一体で回転するように角穴ネジ5により固定されている。
角穴車4は、時計方向には回転するが反時計方向には回転しないように、コハゼ6と噛み合っている。なお、角穴車4を時計方向に回転しゼンマイ31を巻く方法は、機械時計の自動巻または手巻機構と同様であるため、説明を省略する。
電子制御式機械時計の駆動装置1は、動力源として使用されるゼンマイ31、香箱歯車32、香箱真33及び香箱蓋34からなる香箱30を備えている。
ゼンマイ31は、外端が香箱歯車32、内端が香箱真33に固定される。
香箱真33は、地板2と輪列受3に支持され、角穴車4と一体で回転するように角穴ネジ5により固定されている。
角穴車4は、時計方向には回転するが反時計方向には回転しないように、コハゼ6と噛み合っている。なお、角穴車4を時計方向に回転しゼンマイ31を巻く方法は、機械時計の自動巻または手巻機構と同様であるため、説明を省略する。
香箱歯車32の回転は、7倍に増速されて二番車7へ、順次6.4倍増速されて三番車8へ、9.375倍増速されて四番車9へ、3倍増速されて五番車10へ、10倍増速されて六番車11へ、10倍増速されてロータ12へと、合計126,000倍の増速をし、これらの歯車が輪列を構成している。
二番車7には筒かな7aが、筒かな7aには分針13が、四番車9には秒針14がそれぞれ固定されている。従って、二番車7を1rphで、四番車9を1rpmで回転させるためには、ロータ12は5rpsで回転するように制御すればよい。このときの香箱歯車1bは、1/7rphとなる。
二番車7には筒かな7aが、筒かな7aには分針13が、四番車9には秒針14がそれぞれ固定されている。従って、二番車7を1rphで、四番車9を1rpmで回転させるためには、ロータ12は5rpsで回転するように制御すればよい。このときの香箱歯車1bは、1/7rphとなる。
この電子制御式機械時計は、ロータ12、ステータ15、コイルブロック16から構成される発電機20を備え、この発電機20は香箱30の近傍に配置されている。
ロータ12は、ロータ磁石12a、ロータかな12b、ロータ慣性円板12cから構成される。ロータ慣性円板12cは、香箱30からの駆動トルク変動に対しロータ12の回転数変動を少なくするためのものである。ステータ15は、ステータ体15aに4万ターンのステータコイル15bを巻線したものである。
コイルブロック16は、磁心16aに11万ターンのコイル16bを巻線したものである。ここで、ステータ体15aと磁心16aはPCパーマロイ等で構成されている。また、ステータコイル15bとコイル16bは、各々の発電電圧を加えた出力電圧が出るように直列に接続されている。
このような発電機20によって発電された交流出力は、駆動装置1の調速、脱進等の制御用に組み込まれる制御回路(図示せず)に供給される。
ロータ12は、ロータ磁石12a、ロータかな12b、ロータ慣性円板12cから構成される。ロータ慣性円板12cは、香箱30からの駆動トルク変動に対しロータ12の回転数変動を少なくするためのものである。ステータ15は、ステータ体15aに4万ターンのステータコイル15bを巻線したものである。
コイルブロック16は、磁心16aに11万ターンのコイル16bを巻線したものである。ここで、ステータ体15aと磁心16aはPCパーマロイ等で構成されている。また、ステータコイル15bとコイル16bは、各々の発電電圧を加えた出力電圧が出るように直列に接続されている。
このような発電機20によって発電された交流出力は、駆動装置1の調速、脱進等の制御用に組み込まれる制御回路(図示せず)に供給される。
[2.香箱およびゼンマイの構成]
図4(A)には、前述したゼンマイ31が香箱30内で巻締められた状態が示され、図4(B)には、ゼンマイ31が香箱内で巻戻った後の状態が示されている。
ゼンマイ31は、上述したように、その内端311が香箱真33に巻き付けられているとともに、外端312が香箱の内側面に接合固定されている。
図4(B)の状態において、外力によって香箱30を香箱真33に対して回転させると、ゼンマイ31が巻締まる。巻締め後、香箱30の拘束状態を解放すると、ゼンマイ31の巻戻りとともに、香箱30が回転する。そして、香箱30の外周に形成される香箱歯車32によって上述した二番車7等の輪列を回転させて分針13、秒針14等が動作する。
図4(A)には、前述したゼンマイ31が香箱30内で巻締められた状態が示され、図4(B)には、ゼンマイ31が香箱内で巻戻った後の状態が示されている。
ゼンマイ31は、上述したように、その内端311が香箱真33に巻き付けられているとともに、外端312が香箱の内側面に接合固定されている。
図4(B)の状態において、外力によって香箱30を香箱真33に対して回転させると、ゼンマイ31が巻締まる。巻締め後、香箱30の拘束状態を解放すると、ゼンマイ31の巻戻りとともに、香箱30が回転する。そして、香箱30の外周に形成される香箱歯車32によって上述した二番車7等の輪列を回転させて分針13、秒針14等が動作する。
[3.ゼンマイの構成]
前記香箱30から取り外したゼンマイ31は、図5に示すように、香箱真33に対する巻取り方向とは、反対側にクセ付され、平面略S字状の自由展開形状を有している。
そして、湾曲方向が変化する変曲点315は、内端311の近傍に形成され、変曲点315から内端311までは、ゼンマイ31を香箱真33に固定するために利用される。
ゼンマイ31の寸法は、幅約1mm、厚さ約0.1mm、全長約300mmとなっている。
また、ゼンマイ31の断面積形状は、本実施形態では直径約0.2mmの円形であるが、このほか、楕円、長方形など任意であってよい。
なお、ゼンマイ31の素線の太さに関し、図示を省略するが内端311側における素線の断面積が外端312側における素線の断面積よりも大きくなっている。
前記香箱30から取り外したゼンマイ31は、図5に示すように、香箱真33に対する巻取り方向とは、反対側にクセ付され、平面略S字状の自由展開形状を有している。
そして、湾曲方向が変化する変曲点315は、内端311の近傍に形成され、変曲点315から内端311までは、ゼンマイ31を香箱真33に固定するために利用される。
ゼンマイ31の寸法は、幅約1mm、厚さ約0.1mm、全長約300mmとなっている。
また、ゼンマイ31の断面積形状は、本実施形態では直径約0.2mmの円形であるが、このほか、楕円、長方形など任意であってよい。
なお、ゼンマイ31の素線の太さに関し、図示を省略するが内端311側における素線の断面積が外端312側における素線の断面積よりも大きくなっている。
ここで、ゼンマイ31は、グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材から構成され、この複合材は、引張強度が大きくかつヤング率が小さいものとなっている。
このゼンマイ31の複合材の重量組成において、アモルファスカーボンは、グラファイトよりも大とされている。また、カーボンナノチューブは、その軸線方向がゼンマイ31の巻かれている周方向に揃うように配向されている。
このゼンマイ31の複合材の重量組成において、アモルファスカーボンは、グラファイトよりも大とされている。また、カーボンナノチューブは、その軸線方向がゼンマイ31の巻かれている周方向に揃うように配向されている。
このように引張強度が大きくかつヤング率が小さな材料がゼンマイ31に使用されているのは、動力源として使用されるゼンマイ31の長時間動作化に鑑み、以下のように導かれるためである。
[4.ゼンマイ材料設計の考え方]
〔4-1 巻数と出力トルクとの比例関係に基づくゼンマイ厚みおよび全長の調整〕
従来、駆動装置の動力源とされるゼンマイの巻数と出力トルクとの関係は、図6のG6の如く比例関係に近似するとみなせることが知られている。すなわち、ゼンマイが出力するトルクをT、ゼンマイの巻締め回数(巻数)をN、ヤング率をE、ゼンマイの全長をLとし、ゼンマイが厚さt、幅bの矩形状の断面を有するとすると、
T=(Et3bπ/6L)×N …(1)
という式で表される。
〔4-1 巻数と出力トルクとの比例関係に基づくゼンマイ厚みおよび全長の調整〕
従来、駆動装置の動力源とされるゼンマイの巻数と出力トルクとの関係は、図6のG6の如く比例関係に近似するとみなせることが知られている。すなわち、ゼンマイが出力するトルクをT、ゼンマイの巻締め回数(巻数)をN、ヤング率をE、ゼンマイの全長をLとし、ゼンマイが厚さt、幅bの矩形状の断面を有するとすると、
T=(Et3bπ/6L)×N …(1)
という式で表される。
一方、ゼンマイの全長L、厚さt、幅bは、ゼンマイが収納される香箱サイズによって決定され、香箱内半径をR、香箱真半径をrとすると、ゼンマイの全長Lは、
L=π(R2−r2)/2t …(2)
という式によって導かれ、ゼンマイの全長Lおよび厚さtは反比例の関係にあるということが判る。
L=π(R2−r2)/2t …(2)
という式によって導かれ、ゼンマイの全長Lおよび厚さtは反比例の関係にあるということが判る。
ゼンマイに蓄えられる機械エネルギーは、(1)式の出力トルクTを巻数Nで積分することにより与えられ、(1)式がゼンマイの全長Lおよび厚さtの関数とも考えられるので、従来は、L、tを調整することによってゼンマイのエネルギーを調整していた。例えば、ゼンマイの全長Lを大きくしてゼンマイの最大巻数Nmaxを大きくするか、ゼンマイの厚さtを厚くして出力トルクTの値を高くしていた。
しかしながら、このような方法によりゼンマイの機械エネルギーを大きくするのでは、(2)式から判るように、ゼンマイの厚さtおよび全長Lが香箱内部の収納空間の容積によって制限されてしまうので、ゼンマイを長時間動作可能とするには、必然的に香箱の収納空間を大きくとらなければならず、ゼンマイを含む駆動装置が大型化してしまう。
しかしながら、このような方法によりゼンマイの機械エネルギーを大きくするのでは、(2)式から判るように、ゼンマイの厚さtおよび全長Lが香箱内部の収納空間の容積によって制限されてしまうので、ゼンマイを長時間動作可能とするには、必然的に香箱の収納空間を大きくとらなければならず、ゼンマイを含む駆動装置が大型化してしまう。
〔4-2 ゼンマイの撓みとゼンマイの機械エネルギーとの相関〕
ここで、上述した式(1)の関係が成立するゼンマイ31(厚さt、幅b、長さL)のたわみは、図7に示されるように、内端311が香箱真33に剛接合され、他の端部となる外端312が自由端とされる片持ち支持梁のたわみとして近似的に求められる。図7におけるたわみ角α(rad)は、ゼンマイ31のたわみ半径をrとすると、
r=L/α …(3)
と表すことができる。
ここで、上述した式(1)の関係が成立するゼンマイ31(厚さt、幅b、長さL)のたわみは、図7に示されるように、内端311が香箱真33に剛接合され、他の端部となる外端312が自由端とされる片持ち支持梁のたわみとして近似的に求められる。図7におけるたわみ角α(rad)は、ゼンマイ31のたわみ半径をrとすると、
r=L/α …(3)
と表すことができる。
一方、ゼンマイ31の巻数Nは、上述したたわみ角αによって、
N=α/2π …(4)
と表される。
従って、上述した式(1)は(3)、(4)式から、
T=(bt3E/12L)×α …(5)
と変形される。
N=α/2π …(4)
と表される。
従って、上述した式(1)は(3)、(4)式から、
T=(bt3E/12L)×α …(5)
と変形される。
そして、ゼンマイ31のたわみによって蓄えられるエネルギーUは、ゼンマイ31に作用する曲げモーメント、すなわち、ゼンマイ31の出力トルクTをαについて積分することによって求められ、
U=∫Tdα=∫(bt3E/12L)×αdα =(bt3E/24L)×α2 …(6)
となる。
従って、長さLのゼンマイが蓄え得る最大エネルギーUmaxは、図7におけるゼンマイ31の最大たわみ角αmaxとすると、
Umax=(bt3E/24L)×αmax2 …(7)
と表される。
U=∫Tdα=∫(bt3E/12L)×αdα =(bt3E/24L)×α2 …(6)
となる。
従って、長さLのゼンマイが蓄え得る最大エネルギーUmaxは、図7におけるゼンマイ31の最大たわみ角αmaxとすると、
Umax=(bt3E/24L)×αmax2 …(7)
と表される。
〔4-3 ゼンマイに作用する曲げ応力と出力トルクとの相関〕
ここで、ゼンマイ31に作用する曲げ応力σは、ゼンマイ31に作用する曲げモーメント、すなわち、たわみ状態にあるゼンマイ31が出力し得る出力トルクTの関数として表され、ゼンマイ31の中立軸Aからの厚さ方向変位をy、ゼンマイ31の断面二次モーメントをIzとすると、
σ=T×y/Iz …(8)
と表される。
従って、図7におけるゼンマイ31の上面に作用する引張方向の最大曲げ応力σbは、(8)式より、
σb=T・(t/2)/Iz …(9)
と算出される。
ここで、ゼンマイ31に作用する曲げ応力σは、ゼンマイ31に作用する曲げモーメント、すなわち、たわみ状態にあるゼンマイ31が出力し得る出力トルクTの関数として表され、ゼンマイ31の中立軸Aからの厚さ方向変位をy、ゼンマイ31の断面二次モーメントをIzとすると、
σ=T×y/Iz …(8)
と表される。
従って、図7におけるゼンマイ31の上面に作用する引張方向の最大曲げ応力σbは、(8)式より、
σb=T・(t/2)/Iz …(9)
と算出される。
一方、ゼンマイ31の断面は、厚さt、幅bの矩形状をなすと仮定すると、
Iz=bt3/12 …(10)
と算出され、(9)、(10)式より、
T=(bt2/6)×σb …(11)
と表される。
従って、(1)、(11)式より、
T=(Et3bπ/6L)×N=(bt2/6)×σb …(12)
と表され、(7)式における最大たわみ角αmaxを与えるゼンマイの最大巻数Nmaxは、(4)式より、
Nmax=αmax/2π …(13)
となる。よって、(12)、(13)式より、
αmax=2Lσb/Et …(14)
という関係が導き出せる。
従って、最大たわみ角αmaxは、ゼンマイ31の引張方向の最大曲げ応力σb、すなわち、ゼンマイ31に用いられるゼンマイ材料の最大引張応力σmaxによって決定され、上述した(7)式は、
Umax=(bt3E/24L)×(2Lσmax/Et)2 =(btL/6)×(σmax2/E) …(15)
と算出されることが判る。
Iz=bt3/12 …(10)
と算出され、(9)、(10)式より、
T=(bt2/6)×σb …(11)
と表される。
従って、(1)、(11)式より、
T=(Et3bπ/6L)×N=(bt2/6)×σb …(12)
と表され、(7)式における最大たわみ角αmaxを与えるゼンマイの最大巻数Nmaxは、(4)式より、
Nmax=αmax/2π …(13)
となる。よって、(12)、(13)式より、
αmax=2Lσb/Et …(14)
という関係が導き出せる。
従って、最大たわみ角αmaxは、ゼンマイ31の引張方向の最大曲げ応力σb、すなわち、ゼンマイ31に用いられるゼンマイ材料の最大引張応力σmaxによって決定され、上述した(7)式は、
Umax=(bt3E/24L)×(2Lσmax/Et)2 =(btL/6)×(σmax2/E) …(15)
と算出されることが判る。
〔4-4 最大引張応力およびヤング率とゼンマイの最大エネルギーとの相関〕
(15)式から、図7のゼンマイ31に蓄えられる最大エネルギーUmaxは、ゼンマイ31の厚さt、幅b、長さLのみならず、ゼンマイ31を構成する材料の最大引張応力σmax、ヤング率Eによって変化することが判る。
従って、ゼンマイ31に蓄えられるエネルギーUmaxをより大きくするには、最大引張応力σmaxが大きくかつヤング率Eが小さい性質の材料をゼンマイ31に採用するのが好ましいということが判る。
(15)式から、図7のゼンマイ31に蓄えられる最大エネルギーUmaxは、ゼンマイ31の厚さt、幅b、長さLのみならず、ゼンマイ31を構成する材料の最大引張応力σmax、ヤング率Eによって変化することが判る。
従って、ゼンマイ31に蓄えられるエネルギーUmaxをより大きくするには、最大引張応力σmaxが大きくかつヤング率Eが小さい性質の材料をゼンマイ31に採用するのが好ましいということが判る。
[5.ゼンマイ材料の構成]
以上を踏まえ、本実施形態では、ゼンマイ31の原料として下記を使用する。
フラン樹脂 20重量%
グラファイト粉末 10重量%
アモルファスカーボン粉末 40重量%
カーボンナノチューブ 20重量%
ジオクチルフタレート 10重量%
以上を踏まえ、本実施形態では、ゼンマイ31の原料として下記を使用する。
フラン樹脂 20重量%
グラファイト粉末 10重量%
アモルファスカーボン粉末 40重量%
カーボンナノチューブ 20重量%
ジオクチルフタレート 10重量%
ゼンマイ31材料の重量組成において、グラファイトの構成比がアモルファスカーボンの構成比よりも大きくなると脆くなるため、アモルファスカーボンの構成比をグラファイトの構成比よりも大きくすることにより、ゼンマイ31が構造材として確実に機能するようにしている。
ここで、図8に、各種材料のヤング率と引張強度との関係を示す。図8に「PFC」と示したのは、プラスチックのように成形自在なカーボン(Plastic Formed Carbon)であり、このPFCは、グラファイトとアモルファスカーボンとの配合比および焼成条件を変えることで広範囲の特性の材料が得られるという利点がある。ただし、ゼンマイとして使うには引張強度不足であった。
このPFCとしてのグラファイトおよびアモルファスカーボンのみによる複合材の引張強度は約0.05〜約0.7GPa程度、ヤング率は約10〜約200GPa程度であり、すなわち、グラファイトとアモルファスカーボンとの配合比および焼成条件を変えることで広範囲に亘るヤング率を実現できる。このようなグラファイトおよびアモルファスカーボンの複合材による特徴を活かし、さらにカーボンナノチューブを加えた複合材とすることで、グラファイトおよびアモルファスカーボンにより可変となるヤング率の範囲全域に亘って引張強度を向上させることが可能となる(図8の太い実線「本発明」参照)。
すなわち、広範囲に亘るヤング率および引張強度が実現でき、材料設計の自由度が広がる。
このPFCとしてのグラファイトおよびアモルファスカーボンのみによる複合材の引張強度は約0.05〜約0.7GPa程度、ヤング率は約10〜約200GPa程度であり、すなわち、グラファイトとアモルファスカーボンとの配合比および焼成条件を変えることで広範囲に亘るヤング率を実現できる。このようなグラファイトおよびアモルファスカーボンの複合材による特徴を活かし、さらにカーボンナノチューブを加えた複合材とすることで、グラファイトおよびアモルファスカーボンにより可変となるヤング率の範囲全域に亘って引張強度を向上させることが可能となる(図8の太い実線「本発明」参照)。
すなわち、広範囲に亘るヤング率および引張強度が実現でき、材料設計の自由度が広がる。
上記原料中、グラファイト粉末、アモルファスカーボン粉末、およびアモルファスカーボンそれぞれの大きさは、本実施形態では下記の通りである。
グラファイト粉末 平均粒径2μm
アモルファスカーボン粉末 平均粒径2μm
カーボンナノチューブ 直径10nm、長さ10μm
グラファイト粉末 平均粒径2μm
アモルファスカーボン粉末 平均粒径2μm
カーボンナノチューブ 直径10nm、長さ10μm
カーボンナノチューブの直径は、1nm〜50nmが好ましい。すなわち、カーボンナノチューブの直径が1nm未満の場合はゼンマイ31を動力源として用いるための補強効果が得られず、50nm超の場合は、後の押出成形工程S2で得られる線状体中の主体質材の配向を阻害してしまう。
また、カーボンナノチューブの長さは0.5μm〜50μmが好ましい。すなわち、カーボンナノチューブの長さが0.5μm未満の場合はゼンマイ31を動力源として用いるための補強効果が得られず、50μm超の場合は、カーボンナノチューブ自体の配向が難しくなり、やはり主体質材の配向を阻害するため強度の向上が得られない。
また、カーボンナノチューブの長さは0.5μm〜50μmが好ましい。すなわち、カーボンナノチューブの長さが0.5μm未満の場合はゼンマイ31を動力源として用いるための補強効果が得られず、50μm超の場合は、カーボンナノチューブ自体の配向が難しくなり、やはり主体質材の配向を阻害するため強度の向上が得られない。
[6.ゼンマイの製造方法]
上記の原料を使用してゼンマイ31を製造する。
図9は、ゼンマイ31の製造工程を示す。
〔6-1 原料調合工程〕
原料調合工程S1では、上記の原料、すなわち熱硬化性樹脂であるフラン樹脂、グラファイト粉末、アモルファスカーボン粉末、カーボンナノチューブ、および可塑剤としてのジオクチルフタレートをヘンシェル・ミキサーを用いて均一に分散させる。ここで、上記のグラファイト粉末およびアモルファスカーボン粉末の各平均粒径、カーボンナノチューブの大きさにより、各原料が均一となりやすい。
そして、このように均一に分散した原料に対して混錬を繰り返し、シート状組成物を得る。なお、混錬の際には、表面温度を約120℃に保ったミキシング用二本ロールを用いる。
図9は、ゼンマイ31の製造工程を示す。
〔6-1 原料調合工程〕
原料調合工程S1では、上記の原料、すなわち熱硬化性樹脂であるフラン樹脂、グラファイト粉末、アモルファスカーボン粉末、カーボンナノチューブ、および可塑剤としてのジオクチルフタレートをヘンシェル・ミキサーを用いて均一に分散させる。ここで、上記のグラファイト粉末およびアモルファスカーボン粉末の各平均粒径、カーボンナノチューブの大きさにより、各原料が均一となりやすい。
そして、このように均一に分散した原料に対して混錬を繰り返し、シート状組成物を得る。なお、混錬の際には、表面温度を約120℃に保ったミキシング用二本ロールを用いる。
〔6-2 押出成形工程〕
押出成形工程S2では、上記原料調合工程S1で得られたシート状組成物から、プランジャー型油圧押出成形機によって約3m/秒の吐出速度で真空押出成形を行う。これにより、直径約0.3mmの線状体が得られる。
ここで、押出成形時の圧力、吐出速度等を変えることによって線状体の断面積に変化を持たせることが可能で、線状体の長さ方向において当該線状体の断面積を任意に設定できるものである。
押出成形工程S2では、上記原料調合工程S1で得られたシート状組成物から、プランジャー型油圧押出成形機によって約3m/秒の吐出速度で真空押出成形を行う。これにより、直径約0.3mmの線状体が得られる。
ここで、押出成形時の圧力、吐出速度等を変えることによって線状体の断面積に変化を持たせることが可能で、線状体の長さ方向において当該線状体の断面積を任意に設定できるものである。
〔6-3 形状賦与工程〕
次いで、形状賦与工程S3では、上記押出成形工程S2で得られた線状体を渦巻形状をした炭素質支持基材(冶具)に巻きつけ、形状付けを行う。これにより、当該線状体に安定したゼンマイ形状が賦与される。
次いで、形状賦与工程S3では、上記押出成形工程S2で得られた線状体を渦巻形状をした炭素質支持基材(冶具)に巻きつけ、形状付けを行う。これにより、当該線状体に安定したゼンマイ形状が賦与される。
〔6-4 焼成(炭素化)工程〕
焼成(炭素化)工程S4では、支持基材(冶具)に巻きつけられた状態の線状体を180℃(±5℃前後)に加熱されたクリーンオーブンにて、大気圧で約10時間加熱する。この線状体への加熱により、炭素前駆体が得られる。この炭素前駆体は、原料として調合されたフラン樹脂やジオクチルフタレートが加熱により除去されることでポーラス状となっている。
焼成(炭素化)工程S4では、支持基材(冶具)に巻きつけられた状態の線状体を180℃(±5℃前後)に加熱されたクリーンオーブンにて、大気圧で約10時間加熱する。この線状体への加熱により、炭素前駆体が得られる。この炭素前駆体は、原料として調合されたフラン樹脂やジオクチルフタレートが加熱により除去されることでポーラス状となっている。
さらに、この炭素前駆体を真空で約2000℃まで加熱することにより、炭素前駆体が炭素化・緻密化される。このように到達温度約2000℃で加熱することによって、ポーラス状であった炭素前駆体を確実に焼き締め緻密化することができる。
ここで、炭素化する際の到達温度は、約1500〜約2000℃の範囲で適宜設定できる。
ここで、炭素化する際の到達温度は、約1500〜約2000℃の範囲で適宜設定できる。
なお、炭素前駆体を得る際の加熱温度約180℃から、炭素化させる際の加熱温度約2000℃に到達するまでの昇温速度は10℃/分程度に設定でき、この昇温時に高温状態が保持されることから、保持時間は設定しなくてもよいが、例えば1時間程度に設定してもよい。
また、加熱終了後の冷却は炉冷でよい。
また、加熱終了後の冷却は炉冷でよい。
この焼成(炭素化)工程S4の結果、グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材から構成された所望形状のゼンマイ31が得られた。
このようにして得られたゼンマイ31のヤング率は約100GPa、引張強度は約1.5GPaであった。
以上で得られたゼンマイ31の特性について、ゼンマイ31とは材料が異なる前述の特許文献1,2の各ゼンマイの特性と対比し、次表に示す。
このようにして得られたゼンマイ31のヤング率は約100GPa、引張強度は約1.5GPaであった。
以上で得られたゼンマイ31の特性について、ゼンマイ31とは材料が異なる前述の特許文献1,2の各ゼンマイの特性と対比し、次表に示す。
[7.本実施形態による効果]
以上のような本実施形態によれば、電子制御式機械時計の駆動装置の動力源として使用されるゼンマイ31の材料としてグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材を採用したことから、次のような各種の効果が得られる。
以上のような本実施形態によれば、電子制御式機械時計の駆動装置の動力源として使用されるゼンマイ31の材料としてグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材を採用したことから、次のような各種の効果が得られる。
(1)上述の如く、グラファイト、アモルファスカーボンおよびカーボンナノチューブが用いられたゼンマイ材料および製造方法が確立された。
このゼンマイの複合材においては、他の材料に比べて引張強度およびヤング率を幅広く設定できるので、ゼンマイ31材料の設計の自由度が格段に向上することになる。
この材料設計の自由度向上により、ヤング率が小さく、かつ引張強度が大きいゼンマイ31を実現できる。この複合材は、引張強度が要請されるゼンマイ31材料として好適に使用できる。
このゼンマイの複合材は、カーボンナノチューブの配合により引張強度が大幅に向上されているので、ゼンマイ31の巻数や厚みに因らず、ゼンマイ31の機械エネルギーを大にでき、香箱30を含めたゼンマイ31の小型化が可能となる。これにより、同じ巻数時におけるゼンマイの出力トルクを大きく、持続時間を長くできるので、ゼンマイ31を含む駆動装置を小型化しつつ長時間動作させることが可能となる。
すなわち、ゼンマイ31は、小型化および長時間動作化が重要な腕時計の駆動装置の動力源として好適となる。
このゼンマイの複合材においては、他の材料に比べて引張強度およびヤング率を幅広く設定できるので、ゼンマイ31材料の設計の自由度が格段に向上することになる。
この材料設計の自由度向上により、ヤング率が小さく、かつ引張強度が大きいゼンマイ31を実現できる。この複合材は、引張強度が要請されるゼンマイ31材料として好適に使用できる。
このゼンマイの複合材は、カーボンナノチューブの配合により引張強度が大幅に向上されているので、ゼンマイ31の巻数や厚みに因らず、ゼンマイ31の機械エネルギーを大にでき、香箱30を含めたゼンマイ31の小型化が可能となる。これにより、同じ巻数時におけるゼンマイの出力トルクを大きく、持続時間を長くできるので、ゼンマイ31を含む駆動装置を小型化しつつ長時間動作させることが可能となる。
すなわち、ゼンマイ31は、小型化および長時間動作化が重要な腕時計の駆動装置の動力源として好適となる。
(2)また、ゼンマイ材料の設計自由度向上により、前記複合材のヤング率を小さくすることが可能であるため、ゼンマイ31の靱性を確保できる。
加えて、このヤング率が小さいことにより、ゼンマイ31のトルクカーブの傾きを小さくできる。例えば、図6のG5のように、巻数はG6の場合と同じでもトルクカーブの傾きが小さければ、ゼンマイ31の巻数が変化してもその際の出力トルクの変動を小さくできるので、駆動精度を向上させることができる。
加えて、このヤング率が小さいことにより、ゼンマイ31のトルクカーブの傾きを小さくできる。例えば、図6のG5のように、巻数はG6の場合と同じでもトルクカーブの傾きが小さければ、ゼンマイ31の巻数が変化してもその際の出力トルクの変動を小さくできるので、駆動精度を向上させることができる。
(3)前記複合材を構成するグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブは、原料調合時にフラン樹脂やジオクチルフタレートを媒質として分散され均一となるので、ゼンマイ31の所望の特性を実現でき、信頼性を向上させることができる。
(4)炭素材であるグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブは押出成形に適し、これらグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブが調合されたシート状組成物から押出成形することにより、ゼンマイ31に必要とされる所望の厚みの線状体を容易に成形できる。
(5)グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブはいずれも非磁性のため、電子制御式機械時計のムーブメントにゼンマイ31を容易にレイアウトできる。すなわち、発電機20とゼンマイ31とを近接配置することなどが可能となり、耐磁構造を不要にできる。また、ゼンマイ31が外部磁界に引っ張られゼンマイ31の特性が低下することを防止できる。
(6)グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブはいずれも耐食性に優れるため、ゼンマイ31表面への保護膜形成を不要にできる。
また、これらグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの自己潤滑性により、ゼンマイ31の素線同士の貼り付き、こすれ等を防止できる。
また、これらグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの自己潤滑性により、ゼンマイ31の素線同士の貼り付き、こすれ等を防止できる。
(7)グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブが炭素材のため、前記複合材は密度が小さく軽量であるから、腕時計や懐中時計としての携帯性に貢献できる。また、軽量のため耐衝撃性に優れるとともに、ゼンマイ31の自重による変形を考慮して設計することを不要にできる。
(8)グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブによる前記複合材はアモルファス金属材料等と比べて熱安定性が高く、耐熱性に非常に優れている。当該複合材は、機械特性・物理特性それぞれにおいて温度特性に優れ、温度変化に伴うヤング率の変化が少ないため、ゼンマイ31による駆動が安定し、駆動精度を向上させることができる(歩度狂いが小さい)。
(9)ゼンマイ31の材料となる前記複合材は炭素材により構成されるため、金属材料等を使用する場合と比べて環境保護に貢献できる。
(10)筒状体であるカーボンナノチューブがゼンマイ31の周方向に沿って配向されているため、ゼンマイ31の引張強度をより大きくできる。
(11)前記複合材の重量組成において、アモルファスカーボンがグラファイトよりも大であることから、ゼンマイ31のヤング率を小さくでき、構造材としてのゼンマイ31の靭性をより良好に確保できる。
(12)押出成形工程S2における押出成形時に線状体の断面積の大きさを容易に制御することができ、ゼンマイ31の素線の断面積に変化を持たせることが可能となるので、通常、巻数に比例するゼンマイ31の出力トルクをコントロールすることが可能となる。
本実施形態では、ゼンマイ31の内端311近傍における断面積が外端312側における断面積よりも大きく設定されているので、巻き戻しの開始から終了までの出力トルクの変動幅を小さくすることが可能となる。
本実施形態では、ゼンマイ31の内端311近傍における断面積が外端312側における断面積よりも大きく設定されているので、巻き戻しの開始から終了までの出力トルクの変動幅を小さくすることが可能となる。
(13)前記複合材の採用により、ゼンマイ31の材料設計および製造が容易化されるので、駆動装置の製造コストを削減でき、信頼性を向上させることができる。
(14)前記複合材は、有機物体にカーボンナノチューブが配合され、耐熱性に非常に優れるため、高温での焼成が可能であり、炭素前駆体を強固に焼き締めることが可能となる。
〔本発明の変形例〕
なお、本発明は、前述の実施形態に限定されない。
前記実施形態では、ゼンマイを動力源とする駆動装置を備えるとともに、ゼンマイの機械エネルギーを輪列を介して発電機に伝達することで発電し、電子制御回路により駆動装置の調速を行う電子制御式機械時計を示したが、これに限らず、制御系がテンプ等の調速機および脱進機によって構成される機械式時計の駆動装置の動力源として、本発明のゼンマイを用いてもよい。本発明のゼンマイはヤング率が小さくトルク変動が小さいため、機械式時計の駆動装置の駆動精度を向上させることができる。
なお、本発明は、前述の実施形態に限定されない。
前記実施形態では、ゼンマイを動力源とする駆動装置を備えるとともに、ゼンマイの機械エネルギーを輪列を介して発電機に伝達することで発電し、電子制御回路により駆動装置の調速を行う電子制御式機械時計を示したが、これに限らず、制御系がテンプ等の調速機および脱進機によって構成される機械式時計の駆動装置の動力源として、本発明のゼンマイを用いてもよい。本発明のゼンマイはヤング率が小さくトルク変動が小さいため、機械式時計の駆動装置の駆動精度を向上させることができる。
また、本発明のゼンマイをオルゴールの駆動装置の動力源として使用した例も示す。
図10は、本発明の変形例に係る機器としてのオルゴールの要部を示す。
オルゴールは、動力源としてのゼンマイ41が収容された香箱車40と、香箱車40の香箱歯車42と噛み合ってゼンマイ41を巻上げる巻上げ車43と、同じく香箱歯車42と噛み合ってゼンマイ41の機械的エネルギーを伝達する増速歯車50と、増速歯車50のカナ51と噛み合う減速歯車60(二点鎖線で図示)と、この減速歯車60を介して駆動されて音響を発生する音響発生手段70と、増速歯車50で伝えられる機械的エネルギーを電気的エネルギーに変換する発電機75と、発電機75の回転速度を一定に調速する図示しない回転制御手段とを備えている。
このようなオルゴールは、電子機器としての例えば図示しない時計(クロック)に用いられるものであって、時報を鳴らす代わりとして所定時間曲を奏でるように構成されている。
図10は、本発明の変形例に係る機器としてのオルゴールの要部を示す。
オルゴールは、動力源としてのゼンマイ41が収容された香箱車40と、香箱車40の香箱歯車42と噛み合ってゼンマイ41を巻上げる巻上げ車43と、同じく香箱歯車42と噛み合ってゼンマイ41の機械的エネルギーを伝達する増速歯車50と、増速歯車50のカナ51と噛み合う減速歯車60(二点鎖線で図示)と、この減速歯車60を介して駆動されて音響を発生する音響発生手段70と、増速歯車50で伝えられる機械的エネルギーを電気的エネルギーに変換する発電機75と、発電機75の回転速度を一定に調速する図示しない回転制御手段とを備えている。
このようなオルゴールは、電子機器としての例えば図示しない時計(クロック)に用いられるものであって、時報を鳴らす代わりとして所定時間曲を奏でるように構成されている。
これらの構成部材のうち、音響発生手段70は、従来のオルゴールと略同じ構造であって、減速歯車60と噛み合うカナ71に設けられた回転円板72を備え、回転円板72の上面に植設された複数のピン73で櫛歯状の振動板74を弾くことにより曲を奏でるものである。
発電機75は、ロータ751およびコイルブロック752を備えている。
ロータ751は、増速歯車50の歯車52と噛み合うロータカナ751Aと、ロータカナ751Aと一体に回転するロータ磁石751Bとで構成されている。
コイルブロック752は、コ字形のステータ752Aに第1コイル752Bおよび第2コイル752Cを巻線したものであり、ステータ752Aにはロータ751に隣接した一対のコアステータ部752Dが設けられている。そして、第1コイル752Bは発電および制動用として使用され、第2コイル752Cはロータ751の回転検出用として専ら使用されている。
ロータ751は、増速歯車50の歯車52と噛み合うロータカナ751Aと、ロータカナ751Aと一体に回転するロータ磁石751Bとで構成されている。
コイルブロック752は、コ字形のステータ752Aに第1コイル752Bおよび第2コイル752Cを巻線したものであり、ステータ752Aにはロータ751に隣接した一対のコアステータ部752Dが設けられている。そして、第1コイル752Bは発電および制動用として使用され、第2コイル752Cはロータ751の回転検出用として専ら使用されている。
このようなオルゴールでは、十分に巻き上げらたゼンマイ41が解けだすと、香箱歯車42が回転し、この回転が増速歯車50および減速歯車60を介して回転円板72に伝達され、回転円板72の回転によって曲が奏でられる。
一方、香箱歯車42の回転は、増速歯車50を介してロータ751にも伝達されるから、発電機75での発電が行われる。
回転制御手段(図示せず)はICからなる電子回路であり、発電機75のロータ751にショートブレーキをかけ、回転検出信号の周波数と基準信号の周波数との差分をなくすようにロータ751を低速側に調速する。
また、第2コイル752Cに流れる電流が大きいほど大きくブレーキがかけられるため、回転検出信号と基準信号との差分が大きい時には、大きい電流を流してブレーキ量を大きくし、差分が小さくなった時には、小さい電流を流してブレーキを小さくすればよく、その差分に応じたブレーキ量の制御を制御回路76および制動回路77により行っている。
次いで、ロータ751の回転がショートブレーキによって十分に低速になると、検出信号の周波数が基準信号の周波数を下回るが、このような場合には、ショートブレーキをかけるのを一旦止めてロータ751を高速側に調速する。
つまり、回転円板72は、増速歯車50および減速歯車60を介してロータ751の回転と連動するので、ロータ751の回転を高速側から低速側へ、また低速側から高速側へと繰り返し調速すれば、その回転をほぼ一定速度にできる。従って、ロータ751が一定速度に調速されることで回転円板72の回転も一定速度となり、一定のテンポで曲を奏でることになる。
回転制御手段(図示せず)はICからなる電子回路であり、発電機75のロータ751にショートブレーキをかけ、回転検出信号の周波数と基準信号の周波数との差分をなくすようにロータ751を低速側に調速する。
また、第2コイル752Cに流れる電流が大きいほど大きくブレーキがかけられるため、回転検出信号と基準信号との差分が大きい時には、大きい電流を流してブレーキ量を大きくし、差分が小さくなった時には、小さい電流を流してブレーキを小さくすればよく、その差分に応じたブレーキ量の制御を制御回路76および制動回路77により行っている。
次いで、ロータ751の回転がショートブレーキによって十分に低速になると、検出信号の周波数が基準信号の周波数を下回るが、このような場合には、ショートブレーキをかけるのを一旦止めてロータ751を高速側に調速する。
つまり、回転円板72は、増速歯車50および減速歯車60を介してロータ751の回転と連動するので、ロータ751の回転を高速側から低速側へ、また低速側から高速側へと繰り返し調速すれば、その回転をほぼ一定速度にできる。従って、ロータ751が一定速度に調速されることで回転円板72の回転も一定速度となり、一定のテンポで曲を奏でることになる。
このような本変形例において動力源として用いられたゼンマイ41は、前記実施形態と略同様の製造方法により、前記実施形態のゼンマイ31と略同様に構成されている。
従って、本変形例によっても、前記実施形態と略同様の効果を奏する。
従って、本変形例によっても、前記実施形態と略同様の効果を奏する。
以上では、駆動装置に動力源として利用されるゼンマイを例示したが、本発明のゼンマイを構成する前記複合材、および前記のゼンマイ製造方法は、機械式時計の調速機を構成するテンプを付勢するヒゲゼンマイにも利用できる。
さらには、本発明のゼンマイ複合材と同様の複合材から、本発明のゼンマイ製造方法と同様の方法により、水晶発振式の電子時計の水晶振動子を付勢状態で固定するバネや、コハゼ(コハゼバネ)なども製造可能である。前記実施形態の角穴車4と噛合するコハゼ6を本発明のゼンマイ複合材から構成してもよい。
さらには、本発明のゼンマイ複合材と同様の複合材から、本発明のゼンマイ製造方法と同様の方法により、水晶発振式の電子時計の水晶振動子を付勢状態で固定するバネや、コハゼ(コハゼバネ)なども製造可能である。前記実施形態の角穴車4と噛合するコハゼ6を本発明のゼンマイ複合材から構成してもよい。
本発明のゼンマイ複合材は、少なくともグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブを含んで構成されていればよく、その重量組成などの配合比や態様などが前記実施形態に限定されないことは勿論である。
また、本発明のゼンマイの形状、素線の幅、厚み、断面積、全長、最大巻数、ヤング率、引張強度の値などについても、前記実施形態に限定されることなく適宜決められる。前述のゼンマイ31,41は平面視円形の螺旋形状であったが、これに限らず、例えば平面視楕円形の螺旋形状であってもよい。
さらに、本発明のゼンマイ製造方法において、各原料を分散させる方法や線状体を成形する方法、そして加熱温度等の焼成条件などについても、前記実施形態には何ら限定されない。
また、本発明のゼンマイの形状、素線の幅、厚み、断面積、全長、最大巻数、ヤング率、引張強度の値などについても、前記実施形態に限定されることなく適宜決められる。前述のゼンマイ31,41は平面視円形の螺旋形状であったが、これに限らず、例えば平面視楕円形の螺旋形状であってもよい。
さらに、本発明のゼンマイ製造方法において、各原料を分散させる方法や線状体を成形する方法、そして加熱温度等の焼成条件などについても、前記実施形態には何ら限定されない。
1・・・駆動装置、20・・・発電機、30・・・香箱、31・・・ゼンマイ、311・・・内端、312・・・外端、S1・・・原料調合工程、S2・・・押出成形工程、S3・・・形状賦与工程、S4・・・焼成(炭素化)工程。
Claims (8)
- 動力源として使用されるゼンマイであって、
少なくともグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材から構成されている
ことを特徴とするゼンマイ。 - 請求項1に記載のゼンマイにおいて、
前記カーボンナノチューブの軸線方向が、ゼンマイの巻かれている周方向に揃えられている
ことを特徴とするゼンマイ。 - 請求項1または2に記載のゼンマイにおいて、
前記複合材の重量組成において、
アモルファスカーボンは、グラファイトよりも大である
ことを特徴とするゼンマイ。 - 請求項1から3のいずれかに記載のゼンマイにおいて、
ゼンマイ素線の断面積には、ゼンマイ素線の長さ方向において変化を持たせる
ことを特徴とするゼンマイ。 - 請求項1から4のいずれかに記載のゼンマイを動力源として備える
ことを特徴とする駆動装置。 - 請求項5に記載の駆動装置を備える
ことを特徴とする機器。 - 請求項6に記載の機器は、
計時部と、前記計時部により得られた計時情報を表示する計時情報表示部とを備える時計である
ことを特徴とする機器。 - 炭素化し得る有機物体とカーボンナノチューブとを均一に分散させる原料調合工程と、
前記分散させた有機物体とカーボンナノチューブとを押出成形により線状体に成形する押出成形工程と、
前記線状体にゼンマイ形状を賦与する形状賦与工程と、前記ゼンマイ形状が付与された線状体を不活性雰囲気中で加熱処理し炭素化させる炭素化工程と、を備える
ことを特徴とする動力源として使用されるゼンマイの製造方法。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2006296818A JP2008116204A (ja) | 2006-10-31 | 2006-10-31 | ゼンマイ、これを利用した駆動装置並びに機器、およびゼンマイの製造方法 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2011064687A (ja) * | 2009-09-21 | 2011-03-31 | Rolex Sa | 時計てんぷ用の平ひげぜんまい、およびてん輪/ひげぜんまいアセンブリ |
-
2006
- 2006-10-31 JP JP2006296818A patent/JP2008116204A/ja not_active Withdrawn
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