図1は、本発明の実施の形態によるレーザ加工装置100の一構成例を示したブロック図である。このレーザ加工装置100は、対象物Wにレーザ光Lを照射することにより表面加工を行うための装置であり、レーザ制御部1、レーザ出力部2及び入力部3を備えている。本実施の形態において説明する表面加工には、剥離などの加工の他、文字やバーコードを対象物Wの表面に印字するマーキングなどの各種加工が含まれるものとする。
入力部3は、このレーザ加工装置100の動作に関する入力操作をユーザが行うための入力手段である。この例では、入力部3には液晶表示器からなる表示部(不図示)が備えられており、表示部の表示画面に各種情報を表示させることができる。表示部の表示画面上にはタッチパネルが取り付けられており、ユーザがタッチパネルに指を触れることにより、表示画面に表示されたボタンを選択する操作を行うことができるようになっている。ただし、このような構成に限らず、ユーザが押操作するための操作キーが入力部3に備えられたような構成であってもよいし、パーソナルコンピュータなどの入力装置が入力部3として用いられるような構成であってもよい。
レーザ制御部1は、レーザ出力部2の動作を制御するための制御装置であり、制御部4、メモリ部5、励起光発生部6及び電源7を備えている。制御部4は、プロセッサからなり、励起光発生部6やレーザ出力部2に備えられた各部の制御を行う。メモリ部5は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの半導体メモリからなり、制御部4が実行するコンピュータプログラムの他、入力部3からの入力信号に基づく当該レーザ加工装置100の動作設定などが記憶される。励起光発生部6は、電源7から駆動電圧が印加され、レーザ出力部2に供給するレーザ励起光を発生する。
図2は、励起光発生部6の一構成例を示した斜視図である。この励起光発生部6は、レーザ励起光源10及び集光部11をケーシング12内に固定することにより形成されている。レーザ励起光源10は、複数のレーザダイオードを一直線状に並べることにより形成されたレーザダイオードアレイを備えており、各レーザダイオードからレーザ光が放射されることにより、光軸が互いに平行な複数のレーザ光が集光部11に入射するようになっている。
集光部11は、集光レンズからなり、レーザ励起光源10から入射した複数のレーザ光を集光することによりレーザ励起光として出力する。集光部11から出力されるレーザ励起光は、光ファイバケーブル13を介してレーザ出力部2へ送られ、後述するように、このレーザ励起光を用いてレーザ出力部2内でレーザ媒質8が励起されることにより、対象物Wに照射するためのレーザ光Lが発生するようになっている。
レーザ出力部2は、レーザ発振部50及び走査部9を備えている。レーザ発振部50は、レーザ制御部1から光ファイバケーブル13を介して入力されるレーザ励起光をレーザ媒質8に入射させることにより、レーザ媒質8を励起させてレーザ光Lを照射するレーザ照射手段である。この例では、いわゆるエンドポンピングによる励起方式を採用しており、ロッド状に形成された固体のレーザ媒質8に対して一端部からレーザ励起光を入射させることにより、他端部からレーザ光Lが照射されるようになっている。
固体のレーザ媒質8としては、例えばNd:YAGやNd:YVO4などを用いることができる。この例では、Nd:YVO4がレーザ媒質8として使用され、発生するレーザ光Lの波長が1064nmに設定されている。レーザ発振部50にはQスイッチ(不図示)が備えられており、このQスイッチによるオン/オフ切替によって、レーザ光Lがパルス発振PW(Pulse Wave)により断続的に照射されるようになっている。
レーザ発振部50から照射されたレーザ光Lは、ビームエキスパンダ53、走査部9及び集光部15を介して、レーザ出力部2から対象物Wに向けて出力される。集光部15は、レーザ光Lを対象物Wに向けて所定の集光角で集光させるための集光レンズであり、例えばfθレンズからなる。ビームエキスパンダ53は、後述するように2つのレンズを備えており、これらのレンズの相対距離を変化させることにより、集光部15を介して対象物Wへ集光されるレーザ光Lの焦点位置を光軸方向に移動させることができる。このとき、ビームエキスパンダ53及びその動作を制御する制御部4は、レーザ光Lの焦点位置を光軸方向に移動させる焦点移動制御手段を構成している。
走査部9には、1対のガルバノミラー14a,14bと、これらのガルバノミラー14a,14bがそれぞれ回動軸に固定されたガルバノモータ51a,51bと、ガルバノモータ51a,51bを駆動させるためのスキャナ駆動回路52とが備えられている。ビームエキスパンダ53を通過したレーザ光Lは、1対のガルバノミラー14a,14bで順次に反射された後、集光部15を介して対象物Wに照射される。各ガルバノモータ51a,51bは、回動軸が互いに直交するように配置されており、これらの直交する回動軸に各ガルバノミラー14a,14bが取り付けられている。
これにより、対象物に照射されるレーザ光Lは、一方のガルバノモータ51aを駆動させてガルバノミラー14aを回動させることにより走査される方向(X方向)と、他方のガルバノモータ51bを駆動させてガルバノミラー14bを回動させることにより走査される方向(Y方向)とが直交している。したがって、走査部9及びその動作を制御する制御部4は、対象物Wに向けて照射するレーザ光Lの光軸に対して直交するX方向及びY方向にレーザ光Lを走査させる走査手段を構成している。この場合、上記焦点移動制御手段を構成しているビームエキスパンダ53及び制御部4は、対象物Wに向けて照射するレーザ光Lの光軸に対して平行なZ方向にレーザ光Lを走査させる手段と定義することもできる。
この例では、集光部15が、レーザ光Lの出射方向に対して、ガルバノミラー14a,14bよりも後に配置されているような構成が示されているが、このような構成に限らず、ビームエキスパンダ53とガルバノミラー14a,14bの間に配置された構成であってもよい。例えば、ビームエキスパンダ53の出射レンズ18を集光部15として兼用することも可能である。このように、ビームエキスパンダ53とガルバノミラー14a,14bの間に集光部15を配置することにより、ガルバノミラー14a,14bよりも後に集光部15を配置するような構成と比べて、より小さな光学系に設計することが可能であり、より高精度なスポット集光が可能となる。
図3は、走査部9の一構成例を示した斜視図である。図4は、図3に示した走査部9を異なる角度から見た斜視図である。図5は、図3に示した走査部9の側面図である。図3及び図4では、走査部9とともにビームエキスパンダ53、ガイド用光源60、ハーフミラー62、ポインタ用光源64及び固定ミラー66も併せて図示している。また、図5では、走査部9とともにポインタ用光源64を併せて図示している。なお、図3〜図5では、説明を簡略化するために集光部15の構成を省略して示している。
レーザ発振部50から照射されたレーザ光Lは、ハーフミラー62を通過して一直線状にビームエキスパンダ53に入射し、このビームエキスパンダ53でビーム径が調整された後、1対のガルバノミラー14a,14bで反射されて対象物Wへ照射される。このとき、1対のガルバノミラー14a,14bでレーザ光Lを走査することによって焦点位置が移動する領域を作業領域WSとし、この作業領域WSを対象物Wの表面に合わせることにより、エネルギー密度が高い焦点位置を対象物Wの表面に合わせて良好に表面加工を行うことができる。
レーザ光Lのエネルギー密度は、焦点位置に対してZ方向の両側に向かうにつれて徐々に低くなる。焦点位置を中心にして所定値以上のエネルギー密度が得られるZ方向の範囲は、焦点深度と呼ばれており、一般的には、焦点位置におけるエネルギー密度に対して半分以上のエネルギー密度が得られるZ方向の範囲として定義される。焦点深度は、焦点位置における集光角に依存しており、集光角が大きいほど焦点深度が小さくなる。
ガイド用光源60は、ガイド光Gを照射して作業領域WS内に所定のガイドパターンを表示させる。すなわち、ガイド用光源60からのガイド光Gがハーフミラー62で反射されてビームエキスパンダ53を通過し、1対のガルバノミラー14a,14bで反射されることにより、作業領域WS内にガイドパターンが表示される。このガイドパターンは、ハーフミラー63からレーザ光Lと同じ光路を通るガイド光Gによって、レーザ光Lの焦点位置を中心とした一定領域を表す図形として表示される。
ポインタ用光源64は、レーザ光Lの焦点位置を可視的に示すためのポインタ光Pを照射している。ポインタ光Pは、ガルバノミラー14bの裏面に形成されたポインタ用ミラー14d及び固定ミラー66で順次に反射され、レーザ光Lの焦点位置においてレーザ光Lの光軸と交差するように、作業領域WSに向けて照射される。したがって、対象物Wの表面にガイド光Gによるガイドパターンを表示させた状態で、そのガイドパターンの中心にポインタ光Pが照射されるようにレーザ出力部2の設置位置を調整することにより、作業領域WSを対象物Wの表面に合わせることができる。
図6及び図7は、ビームエキスパンダ53の動作によってレーザ光Lの焦点位置が移動する態様を示した側面図であり、図6は焦点位置がレーザ出力部2に対して遠い場合、図7は焦点位置がレーザ出力部2に近い場合を示している。図8は、ビームエキスパンダ53の一構成例を示した正面図及び断面図である。なお、図6及び図7では、説明を簡略化するために集光部15の構成を省略して示している。
ビームエキスパンダ53には、レーザ発振部50からのレーザ光Lが入射する入射レンズ16と、入射レンズ16を通過したレーザ光Lを走査部9に向けて出射する出射レンズ18とが備えられている。入射レンズ16及び出射レンズ18は、互いに平行に配置され、モータ等を含む駆動手段(不図示)が入射レンズ16を平行移動させることにより、出射レンズ18との相対距離を変化させることができるようになっている。ただし、出射レンズ18を固定した状態で入射レンズ16を移動させるような構成に限らず、入射レンズ16を固定した状態で出射レンズ18を移動させるような構成であってもよいし、入射レンズ16及び出射レンズ18をそれぞれ移動させるような構成であってもよい。
入射レンズ16と出射レンズ18との相対距離が変化すると、出射レンズ18から出射されるレーザ光Lの集光角が変化することにより、レーザ光Lの光軸方向に焦点位置が移動し、レーザ出力部2に対する作業領域WSの距離が変化する。具体的には、入射レンズ16と出射レンズ18との相対距離が短くなると、図6に示すように焦点位置がレーザ出力部2から遠くなり、入射レンズ16と出射レンズ18との相対距離が長くなると、図7に示すように焦点位置がレーザ出力部2に近くなる。
図9は、集光角2θとスポット径2rの関係について説明するための模式図である。集光角2θは、焦点位置における中心点に対するレーザ光Lの漸近線の拡がり角であり、スポット径2rは、焦点位置におけるレーザ光Lのビーム径である。一般的に、集光角2θとスポット径2rとの間には、下記の関係式が成立する。ここで、λはレーザ光Lの波長であり、πは円周率である。
r=λ/πθ
このように、rはθに反比例し、λに比例している。したがって、集光角2θが大きくなるほどスポット径2rが小さくなり、波長λが短くなるほどスポット径2rが小さくなる。すなわち、集光角2θを大きくし、又は、波長λを短くすれば、スポット径2rを小さくすることができるので、焦点位置におけるエネルギー密度をより高くして、加工性能を向上させることができる。一般的に、固体のレーザ媒質を用いた場合の方が、気体のレーザ媒質を用いる場合よりも発生するレーザ光Lの波長λが短いので、本実施の形態のように固体のレーザ媒質8を用いた場合には、集光角2θを大きくすることによってスポット径2rを比較的小さくすることができる。
本実施の形態では、図6〜図8で説明したようなビームエキスパンダ53によるレーザ光Lの焦点位置の移動制御を周期的に行うことができるようになっている。より具体的には、走査部9によりレーザ光LをX方向又はY方向へ走査させているときに、ビームエキスパンダ53の入射レンズ16及び出射レンズ18間の相対距離を周期的に変化させることにより、レーザ光Lの焦点位置をZ方向に所定の振幅で周期的に移動させることができるようになっている。
図10は、走査部9による走査中にビームエキスパンダ53を用いてレーザ光Lの焦点位置Sを周期的に移動させる際の態様を模式的に示した図である。図10に示すように、対象物Wの表面に沿ってX方向又はY方向にレーザ光Lを走査させているときに、ビームエキスパンダ53によりレーザ光Lの焦点位置SをZ方向に周期的に移動させると、焦点位置Sが周期的に対象物Wの表面上を通過する。
レーザ光LのX方向又はY方向への走査速度に対してZ方向への焦点位置Sの移動速度を十分に速くすれば、対象物Wの表面上に短い間隔で周期的に焦点位置Sを合わせることができる。レーザ光Lは焦点位置Sにおいてある程度のビーム径を有しているので、対象物Wの表面上に周期的に焦点位置Sが合わせられるような加工態様であっても、その間隔がビーム径よりも短ければほぼ均一な太さで連続的に加工痕を形成することができる。
本実施の形態のように、レーザ光Lの焦点位置SをZ方向に周期的に移動させながらX方向又はY方向に走査させれば、図10に示した例のように対象物Wの表面に多少の凹凸がある場合であっても、焦点位置Sを周期的に表面上に合わせることができるので、連続的な加工痕を確実に形成することができる。したがって、例えば対象物Wの表面に印字を行うような場合に、当該表面に多少の凹凸があるときでも、一部だけ加工痕が形成されず良好に印字できないといった事態が生じるのを防止できる。このように、本実施の形態では、レーザ光LをX方向又はY方向に走査させるという従来の構成に、Z方向にも周期的に焦点位置Sを移動させる構成を追加しただけの簡単な構成で、対象物Wに対する加工を良好に行うことができる。
ここで、固体のレーザ媒質8を用いた場合には、レーザ光Lの集光角2θを大きくすることにより加工性能を向上させることができるが、この場合、レーザ光Lの光軸方向(Z方向)への焦点位置Sのずれに伴う対象物Wの表面上でのビーム径の変動量が大きくなり、凹凸のある対象物Wの表面に部分的に加工痕が形成されないといった現象が生じやすい。このような場合に、本実施の形態のようにレーザ光Lの焦点位置SをZ方向に周期的に移動させながらX方向又はY方向に走査させれば、対象物Wの表面に多少の凹凸がある場合であっても、焦点位置Sを周期的に表面上に合わせることができ、対象物Wに対する加工を良好に行うことができる。
図11は、入力部3の表示画面に表示される条件設定画面の一例を示した図である。この条件設定画面は、走査部9によるX方向及びY方向へのレーザ光Lの走査態様、並びに、ビームエキスパンダ53によるZ方向への焦点位置の移動態様をユーザが設定するための画面であり、パワー設定表示領域31、スキャンスピード設定表示領域32、パルス繰返し周波数設定表示領域33及びスポットバイブレーション設定表示領域34が含まれる。
本実施の形態では、励起光発生部6から発生するレーザ励起光の光量を変化させることにより、レーザ出力部2から出力されるレーザ光Lのエネルギーを調整することができるようになっており、その設定をパワー設定表示領域31に表示させることができる。ユーザは、入力部3を操作することにより、予め定められた標準エネルギーに対する比率を数値入力することができ、その入力された数値がパワー設定表示領域31に表示されるようになっている。
スキャンスピード設定表示領域32には、走査部9によるX方向及びY方向へのレーザ光Lの走査速度が表示される。ユーザは、入力部3を操作することにより、走査部9によるX方向及びY方向へのレーザ光Lの走査速度を数値入力することができ、その入力された数値がスキャンスピード設定表示領域32に表示される。スキャンスピード設定表示領域32に対する数値入力を行う際、入力部3は、走査部9によるレーザ光Lの走査速度をユーザが設定するための走査速度設定手段を構成している。
パルス繰返し周波数設定表示領域33には、レーザ発振部50からパルス発振PWにより断続的に照射されるレーザ光Lの照射周波数が表示される。ユーザは、入力部3を操作することにより、レーザ光Lの照射周波数を数値入力することができ、その入力された数値がパルス繰返し周波数設定表示領域33に表示される。図11の例のように照射周波数を100kHzに設定した場合には、照射周期が10μsecであり、10μsecごとに1回ずつ断続的にレーザ光Lが照射される。パルス繰返し周波数設定表示領域33に対する数値入力を行う際、入力部3は、レーザ発振部50によるレーザ光Lの照射周期をユーザが設定するための照射周期設定手段を構成している。
このように、本実施の形態では、断続的に照射されるレーザ光Lの照射周期及びX方向又はY方向への走査速度をユーザが任意に設定することができる。したがって、レーザ光Lの照射周期を比較的短くし、X方向又はY方向への走査速度を比較的遅くすれば、連続的に加工痕を形成することができる一方、レーザ光Lの照射周期を比較的長くし、X方向又はY方向への走査速度を比較的速くすれば、間隔を隔てて加工痕を形成することができる。
対象物Wの表面に印字を行うような場合には、連続的に加工痕が形成されるようにレーザ光Lの照射周期及びX方向又はY方向への走査速度を設定することにより、良好に印字を行うことができる。一方、対象物Wの表面を剥離することによりシボ加工のような表面加工を行う場合には、間隔を隔てて加工痕が形成されるようにレーザ光Lの照射周期及びX方向又はY方向への走査速度を任意に設定することにより、種々の態様で表面加工を行うことができる。したがって、種々の加工態様を実現することができ、多様な用途に使用可能なレーザ加工装置100を提供することができる。
スポットバイブレーション設定表示領域34には、ビームエキスパンダ53によるZ方向への焦点位置の移動態様が表示される。このスポットバイブレーション設定表示領域34には、Z方向へ周期的に焦点位置を移動させるときの振幅及び周波数を表示する数値表示領域35と、上記振幅及び周波数の組み合わせからなる移動パターンを表示するパターン表示領域36とが含まれる。ユーザは、入力部3を操作することにより、上記振幅及び周波数を数値入力することができ、この場合には、入力された数値が数値表示領域35に表示される。また、ユーザは、入力部3を操作することにより、上記移動パターンを選択することもでき、この場合には、選択された移動パターンがパターン表示領域36に表示される。
この図11に示した例では、ビームエキスパンダ53によるZ方向への焦点位置の移動周波数が1000Hzに設定されており、1msecの周期で焦点位置が移動する。走査部9によるレーザ光Lの走査速度は10mm/sに設定されているので、対象物Wの表面が水平であれば、走査部9によりレーザ光Lが10μm走査されるごとに焦点位置が当該表面上を通過することとなる。
通常、レーザ光のビーム径は25〜100μm程度に設定されるので、上記のような設定によれば、ビーム径と比べて十分に短い間隔で対象物Wの表面上に焦点位置を合わせることができ、例えば対象物Wの表面に印字を行うような場合でも、ほぼ均一な太さで連続的に加工痕を形成することができる。また、Z方向への焦点位置の振幅が1.0mmに設定されているので、対象物Wの表面に凹凸がある場合であっても、その凹凸の高低差が1.0mm程度までであれば、部分的に加工痕が形成されないといった事態が生じることはなく、対象物Wに対する加工を良好に行うことができる。
スポットバイブレーション設定表示領域34に対する入力を行う際、入力部3は、ビームエキスパンダ53によりZ方向に焦点位置を移動させるときの振幅及び周期をユーザが設定するための焦点位置設定手段を構成している。レーザ制御部1のメモリ部5には、ビームエキスパンダ53によりZ方向に焦点位置を移動させるときの振幅及び周期の組み合わせが異なる複数の移動パターンが記憶されており、ユーザは、入力部3を操作することにより、上記複数の移動パターンのいずれかを選択することができる。
図12は、制御部4の一構成例を示した機能ブロック図である。制御部4は、入力部3に対するユーザ操作により入力された条件設定に基づいて励起光発生部6、レーザ発振部50、ビームエキスパンダ53及び走査部9を制御することにより、対象物Wに対する表面加工を制御する。制御部4は、パワー設定部41、照射周期設定部42、走査速度設定部43、焦点位置設定部44、レーザ照射制御部45、レーザ走査制御部46及び焦点位置制御部47によって構成され、これらの各機能部は制御部4により実行されるコンピュータプログラムとして実現される。
パワー設定部41は、ユーザがパワー設定表示領域31に入力した数値をメモリ部5に記憶することにより、レーザ光Lのエネルギーを設定する。照射周期設定部42は、ユーザがパルス繰返し周波数設定表示領域33に入力した数値をメモリ部5に記憶することにより、パルス発振PWにより断続的に照射するレーザ光Lの照射周波数を設定する。レーザ照射制御部45は、パワー設定部41及び照射周期設定部42により設定された条件に基づいて励起光発生部6及びレーザ発振部50を制御することによって、レーザ発振部50からレーザ光Lを照射させる。
走査速度設定部43は、ユーザがスキャンスピード設定表示領域32に入力した数値をメモリ部5に記憶することにより、走査部9によるレーザ光Lの走査速度を設定する。レーザ走査制御部46は、走査速度設定部43により設定された条件に基づいて走査部9を制御することによって、対象物Wに照射されるレーザ光LをX方向又はY方向に走査させる。
焦点位置設定部44は、数値入力設定部48及びパターン入力設定部49を備えている。数値入力設定部48は、ユーザが数値表示領域35に入力した数値をメモリ部5に記憶することにより、ビームエキスパンダ53を用いてレーザ光Lの焦点位置をZ方向へ周期的に移動させるときの振幅及び周波数を設定する。一方、パターン入力設定部49は、メモリ部5に記憶されている複数の移動パターン5aの中から、ユーザにより選択された移動パターン5aを指定する。これにより、指定された移動パターン5aに対応する振幅及び周波数が、レーザ光Lの焦点位置をZ方向へ周期的に移動させるときの振幅及び周波数として設定される。焦点位置制御部47は、数値入力設定部48又はパターン入力設定部49により設定された条件に基づいてビームエキスパンダ53を制御することによって、対象物Wに照射されるレーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させる。
図13は、対象物Wに対する表面加工を行う際の制御部4による処理の一例を示したフローチャートである。図11に示したような条件設定画面においてユーザによる設定操作が行われた後、対象物Wに対する表面加工を指示する操作が行われると、制御部4は、レーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させるための設定が行われているか否かを判定する(ステップS101)。そして、レーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させるための設定が行われていなければ(ステップS101でNo)、制御部4は、走査部9によるX方向又はY方向の走査のみを行って対象物Wの表面にレーザ光Lを照射する(ステップS106)。ただし、Z方向に焦点位置を周期的に移動させるような設定が行われていない場合であっても、X方向及びY方向に加えてZ方向にも焦点位置を移動させることにより、3次元的にレーザ光Lを走査させることは可能である。
一方、レーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させるための設定が行われている場合には(ステップS101でYes)、制御部4は、設定されている条件に基づいてビームエキスパンダ53を制御することにより、レーザ光Lの焦点位置をZ方向に周期的に移動させる。このとき、ユーザが数値表示領域35に対する入力を行っている場合には(ステップS102でYes)、制御部4は、走査部9によりX方向又はY方向にレーザ光Lを走査しつつ、入力されている振幅及び周波数でレーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させる。
ユーザが数値表示領域35に対する入力ではなくパターン表示領域36において移動パターンの選択を行っている場合には(ステップS102でNo)、選択されている移動パターンに対応する振幅及び周波数がメモリ部5から読み出される(ステップS104)。そして、走査部9によりX方向又はY方向にレーザ光Lを走査しつつ、読み出された振幅及び周波数でレーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させることにより、対象物Wの表面に選択された移動パターンでレーザ光Lを照射する(ステップS105)。
図14は、レーザ光Lの焦点位置をZ方向へ周期的に移動させるときの移動パターンの一例を示した図である。図14(a)〜(c)の例では、いずれも一定の振幅及び周波数でレーザ光Lの焦点位置がZ方向に移動しているが、X方向又はY方向へのレーザ光Lの走査速度やZ方向への焦点位置の移動速度が異なっている。図14(a)に示した例では、Z方向への焦点位置の移動速度が一定であり、Z方向において移動する向きだけが周期的に反転している。
図14(b)に示した例では、Z方向への焦点位置の移動速度が変化しながら、Z方向において移動する向きが周期的に反転している。具体的には、Z方向において移動する向きが反転するときに焦点位置の移動速度が最も遅く、それらの中間点における移動速度が最も速くなるように、加速度が一定に保持されている。図14(c)に示した例では、レーザ光Lの焦点位置をZ方向へ周期的に移動させるだけでなく、X方向又はY方向へのレーザ光Lの走査方向も周期的に反転するように設定されている。
このように、メモリ部5には各種の移動パターンが記憶されており、ユーザは、必要に応じて入力部3を操作し、所望の移動パターンを選択することにより、選択した移動パターンに応じた態様で対象物Wの表面に所望の加工を施すことができる。
本実施の形態では、レーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させるときの振幅及び周波数をユーザが任意に設定することができる。したがって、対象物Wの表面に比較的大きな凹凸がある場合であっても、焦点位置のZ方向への振幅を大きく設定すれば、Z方向に周期的に移動する焦点位置を確実に表面上に合わせることができる。焦点位置のZ方向への移動速度が仮に一定であれば、振幅を大きくすると焦点位置が対象物Wの表面上に合う周期が長くなるが、本実施の形態では、周波数をユーザが設定することができるので、上記周期が長くなることによって連続的に加工痕を形成することができなくなるのを防止できる。
また、本実施の形態では、レーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させるときの振幅及び周波数の組み合わせが異なる複数の移動パターンをメモリ部5に記憶しておき、それらの移動パターンのいずれかをユーザが任意に選択することができる。したがって、予め記憶されている移動パターンのいずれかをユーザが選択するだけの簡単な構成で、種々の加工態様を実現することができる。
図15は、入力部3の表示画面に表示される条件設定画面の変形例を示した図である。図16は、図15に示した設定における焦点位置Sの移動態様を示した図である。図15に示した条件設定画面には、図11に示した条件設定画面と同様に、パワー設定表示領域31、スキャンスピード設定表示領域32、パルス繰返し周波数設定表示領域33及びスポットバイブレーション設定表示領域34が含まれる。
パワー設定表示領域31、スキャンスピード設定表示領域32及びパルス繰返し周波数設定表示領域33の態様は図11の場合と同じであり、ユーザは、入力部3を操作することにより、これらの表示領域に対する入力を行うことができる。この例のように照射周波数を1kHzに設定した場合には、照射周期が1msecであり、1msecごとに1回ずつ断続的にレーザ光Lが照射される。
スポットバイブレーション設定表示領域34には、図11と同様に数値表示領域35及びパターン表示領域36が含まれる他、さらに位相表示領域37が含まれている。ユーザは、入力部3を操作することにより位相を数値入力することができ、入力された数値が位相表示領域37に表示されるようになっている。位相を入力した場合には、レーザ光Lの焦点位置SがZ方向に周期的に移動するときに、入力された位相ごとに断続的にレーザ光Lがレーザ発振部50から照射されるように、Z方向に移動する焦点位置Sの振幅及び周波数が決定される。この例では、レーザ光Lの照射周波数が1kHzに設定された状態で、位相表示領域37に位相90°が入力されることにより、焦点位置SがZ方向に移動するときの振幅が1mm、周波数が500Hzに自動的に決定されている。
このように、ビームエキスパンダ53によるZ方向への焦点位置Sの移動周波数が500Hzに設定された場合には、2msecの周期で焦点位置Sが移動する。走査部9によるレーザ光Lの走査速度は100mm/sに設定されているので、対象物Wの表面が水平であれば、走査部9によりレーザ光Lが200μm走査されるごとに焦点位置Sが当該表面上を通過することとなる。上述の通り、レーザ光のビーム径は25〜100μm程度に設定されるので、上記のような設定によれば、対象物Wの表面に間隔を隔てて加工痕を形成することができる。
この例のように位相表示領域37に対して位相を入力した場合には、レーザ光Lの焦点位置SをZ方向に移動させるときの周期を、断続的に照射されるレーザ光Lの照射周期と同期させることができる。これにより、対象物Wの表面に断続的に形成される各加工痕の形状に規則性を持たせることができ、種々の加工態様を実現することができる。
図17は、位相表示領域37に対して位相45°を入力したときの焦点位置Sの移動態様を示した図である。図16のように位相を90°に設定した場合には、レーザ光Lの照射周期に同期させて、所定の振幅でZ方向に周期的に移動するレーザ光Lの焦点位置Sと、この焦点位置Sから振幅範囲内で最も遠い位置とで、交互に加工痕を形成することができる。これに対して、図17のように位相を45°に設定した場合には、上記焦点位置S及び焦点位置Sから振幅範囲内で最も遠い位置の他に、それらの各位置の中間点においても加工痕を形成することができる。
このように、ユーザが位相の値を適宜に設定することにより、対象物Wに対して種々の加工態様を実現することができる。図16や図17に示したようなX方向に沿った加工痕をY方向に複数列形成すれば、対象物Wの表面全体にシボ加工やてかり防止加工を施すことができる。このとき、各列の加工痕が重ならないようにY方向への移動量を設定することもできるし、各列の加工痕が一部重なるようにY方向への移動量を設定することにより重ね加工を行うこともできる。
以上の実施の形態では、固体のレーザ媒質8を用いてレーザ光Lを照射させるような構成について説明したが、このような構成に限らず、例えばCO2やArなどの気体のレーザ媒質を用いてレーザ光Lを照射させるような構成であってもよい。また、レーザ光Lをパルス発振PWにより断続的に照射するような構成に限らず、連続発振CW(Continues Wave)により連続的にレーザ光Lを発生するような構成であってもよい。また、本実施の形態では、固体レーザを主として説明したが、レーザの励起方法としては、他にファイバーレーザを用いるような方法を採用してもよい。