JP2008045178A - 浸炭用鋼および浸炭部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】真空浸炭やプラズマ浸炭により鋼表面に析出する炭化物の量を従来より増大させて鋼を高強度化することが可能な浸炭用鋼およびその浸炭処理により得られる浸炭部材を提供すること。
【解決手段】重量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.01〜0.20%、Mn:0.20〜2.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.50%、Cr:3.00%超〜6.00%、Mo:0.01〜6.00%、V:0.01〜2.00%であり、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなり、かつ、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)が3.0%を超える浸炭用鋼とする。この浸炭用鋼を真空浸炭またはプラズマ浸炭してなり、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率が40%以上である浸炭部材とする。表面炭素濃度は3.5〜7.0%にあることが好ましい。
【選択図】なし
【解決手段】重量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.01〜0.20%、Mn:0.20〜2.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.50%、Cr:3.00%超〜6.00%、Mo:0.01〜6.00%、V:0.01〜2.00%であり、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなり、かつ、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)が3.0%を超える浸炭用鋼とする。この浸炭用鋼を真空浸炭またはプラズマ浸炭してなり、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率が40%以上である浸炭部材とする。表面炭素濃度は3.5〜7.0%にあることが好ましい。
【選択図】なし
Description
本発明は、浸炭用鋼および浸炭部材に関し、さらに詳しくは、高濃度浸炭処理が可能な浸炭用鋼および高濃度浸炭処理された浸炭部材に関するものである。
近年、自動車等の高性能化に伴い、自動車等に用いられる鋼部材には高強度化が求められている。自動車等に用いられる鋼部材を高強度化するには、通常、鋼に浸炭処理を行なうが、最近、従来より行なわれている共析浸炭よりも高濃度に炭素を導入する高濃度浸炭処理が行なわれるようになっている。
そして、高濃度浸炭処理によれば、鋼表面に炭化物を分散させて耐摩耗性や面疲労強度を向上させて、鋼部材を高強度化させることができるが、その特性は、炭化物の分散状態の影響を強く受け、微細・球状・大量に分散させることで高い強度が得られることが分かっている(非特許文献1)。
下村哲也、森田敏之、井上幸一郎、羽生田智紀、「高濃度浸炭材の疲労強度に及ぼす炭化物析出状態の影響」、電気製鋼、電気製鋼研究会、2006年2月、第77巻、第1号、p.11−18
通常、高濃度浸炭には、従来のガス浸炭よりも高濃度に炭素を導入させることができる真空浸炭やプラズマ浸炭を用いることが多い。
ところが、これまで、真空浸炭やプラズマ浸炭の機構がはっきりしていなかったため、従来の浸炭用鋼では、真空浸炭やプラズマ浸炭により鋼表面に析出する炭化物の量を増やすことができなかった。そのため、浸炭された鋼の強度が十分でなかった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、真空浸炭やプラズマ浸炭により鋼表面に析出する炭化物の量を従来より増大させて鋼を高強度化することが可能な浸炭用鋼およびその浸炭処理により得られる浸炭部材を提供することにある。
本発明者らが鋭意研究した結果、真空浸炭された鋼の表面の炭素濃度が黒鉛と平衡する値となることを突き止めた。そして、今まで用いられていた鋼の組成では、真空浸炭やプラズマ浸炭により鋼表面に析出する炭化物の量を高くすることはできないことが判明した。かかる知見を基礎として、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る浸炭用鋼は、重量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.01〜0.20%、Mn:0.20〜2.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.50%、Cr:3.00超〜6.00%、Mo:0.01〜6.00%、V:0.01〜2.00%であり、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなり、かつ、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)が3.00%以上であることを要旨とする。
この場合、上記浸炭用鋼は、Al:0.01〜0.20%、Nb:0.01〜0.20%、Ti:0.01〜0.20%、N:0.001〜0.05%、および、B:0.0001〜0.01%から選択される1種または2種以上をさらに含有していても良い。
一方、本発明に係る浸炭部材は、上記浸炭用鋼を真空浸炭またはプラズマ浸炭してなり、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率が40%以上であることを要旨とする。
この場合、表面炭素濃度が3.5〜7.0%の範囲内にあることが望ましい。
本発明に係る浸炭用鋼は、特定成分を特定範囲の含有率で含有しており、かつ、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)が3.00%以上である。そのため、真空浸炭やプラズマ浸炭により鋼に高濃度に炭素を導入したときに、鋼表面に析出する炭化物の量が従来よりも増大し、鋼表面が高強度化される。
そして、本発明に係る浸炭部材は、上記浸炭用鋼を真空浸炭またはプラズマ浸炭してなり、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率が40%以上であるため、表面強度に優れる。
同様に、表面炭素濃度が3.5〜7.0%の範囲内にあるものも、表面強度に優れる。
以下に本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明に係る浸炭用鋼は、特定成分の含有率が下記に規定される範囲内とされており、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなり、かつ、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)が3.00%以上である。特定成分の種類、その含有率を規定した理由は、次の通りである。なお、以下の含有率の単位は重量%である。
(1)C:0.10〜0.40%
Cは、鋼のFeと結合して炭化物Fe3Cを形成し、鋼を高強度化する。その効果を得るには、Cの含有率は、0.10%以上、好ましくは0.15%以上とするのが良い。0.10%未満では、心部にフェライトが生成し、強度が低下する。一方、Cの含有率が高くなると、炭化物の生成量が多くなり、加工性、特に被削性が低下する。よって、Cの含有率は、0.40%以下、好ましくは0.25%以下とするのが良い。
Cは、鋼のFeと結合して炭化物Fe3Cを形成し、鋼を高強度化する。その効果を得るには、Cの含有率は、0.10%以上、好ましくは0.15%以上とするのが良い。0.10%未満では、心部にフェライトが生成し、強度が低下する。一方、Cの含有率が高くなると、炭化物の生成量が多くなり、加工性、特に被削性が低下する。よって、Cの含有率は、0.40%以下、好ましくは0.25%以下とするのが良い。
(2)Si:0.01〜0.20%
Siは、焼入性に寄与する元素である。焼入性が低下すると、強度が低下する。焼入性が低下しないようにするためには、Siの含有率は、0.01%以上とするのが良い。一方、Siの含有率が高くなると、炭化物析出量が減少して強度が低下する。そのため、Siの含有率は、0.20%以下、好ましくは0.1%以下とするのが良い。
Siは、焼入性に寄与する元素である。焼入性が低下すると、強度が低下する。焼入性が低下しないようにするためには、Siの含有率は、0.01%以上とするのが良い。一方、Siの含有率が高くなると、炭化物析出量が減少して強度が低下する。そのため、Siの含有率は、0.20%以下、好ましくは0.1%以下とするのが良い。
(3)Mn:0.20〜2.00%
Mnは、鋼を高強度化する働きを有する。その効果を得るには、Mnの含有率は、0.20%以上とするのが良い。0.20%未満では、心部にフェライトが生成し、強度が低下する。一方、Mnの含有率が高くなると、加工性、特に被削性が低下する。よって、Mnの含有率は、2.00%以下、好ましくは1.5%以下とするのが良い。
Mnは、鋼を高強度化する働きを有する。その効果を得るには、Mnの含有率は、0.20%以上とするのが良い。0.20%未満では、心部にフェライトが生成し、強度が低下する。一方、Mnの含有率が高くなると、加工性、特に被削性が低下する。よって、Mnの含有率は、2.00%以下、好ましくは1.5%以下とするのが良い。
(4)P:0.030%以下
Pは、鋼の脆化に影響する元素である。そのため、Pの含有率は、0.030%以下、好ましくは0.020%以下とするのが良い。
Pは、鋼の脆化に影響する元素である。そのため、Pの含有率は、0.030%以下、好ましくは0.020%以下とするのが良い。
(5)S:0.030%以下
Sは、Pと同様に、鋼の脆化に影響する元素である。そのため、Sの含有率は、0.030%以下、好ましくは0.020%以下とするのが良い。
Sは、Pと同様に、鋼の脆化に影響する元素である。そのため、Sの含有率は、0.030%以下、好ましくは0.020%以下とするのが良い。
(6)Cu:0.01〜0.20%
Cuは、Siと同様、炭化物析出量を減少させる元素である。そのため、Cuの含有率は、0.20%以下、好ましくは0.10%以下とするのが良い。一方、Cuの含有率が0.01%未満では、心部にフェライトが生成し、強度が低下する。よって、Cuの含有率は、0.01%以上とするのが良い。
Cuは、Siと同様、炭化物析出量を減少させる元素である。そのため、Cuの含有率は、0.20%以下、好ましくは0.10%以下とするのが良い。一方、Cuの含有率が0.01%未満では、心部にフェライトが生成し、強度が低下する。よって、Cuの含有率は、0.01%以上とするのが良い。
(7)Ni:0.01〜0.50%
Niは、Si、Cuと同様、炭化物析出量を減少させる元素である。そのため、Niの含有率は、0.50%以下、好ましくは0.20%以下とするのが良い。一方、Niの含有率が0.01%未満では、心部にフェライトが生成し、強度が低下する。よって、Niの含有率は、0.01%以上とするのが良い。
Niは、Si、Cuと同様、炭化物析出量を減少させる元素である。そのため、Niの含有率は、0.50%以下、好ましくは0.20%以下とするのが良い。一方、Niの含有率が0.01%未満では、心部にフェライトが生成し、強度が低下する。よって、Niの含有率は、0.01%以上とするのが良い。
(8)Cr:3.00超〜6.00%
Crは、炭化物析出量を増加させる元素である。炭化物析出量を増加させれば、強度が向上する。その効果を得るには、Crの含有率は、3.00%超とするのが良い。3.00%以下では、炭化物析出量が減少し、強度が低下する。一方、Crの含有率が高くなると、加工性、特に被削性が低下する。よって、Crの含有率は、6.00%以下、好ましくは5.00%以下とするのが良い。
Crは、炭化物析出量を増加させる元素である。炭化物析出量を増加させれば、強度が向上する。その効果を得るには、Crの含有率は、3.00%超とするのが良い。3.00%以下では、炭化物析出量が減少し、強度が低下する。一方、Crの含有率が高くなると、加工性、特に被削性が低下する。よって、Crの含有率は、6.00%以下、好ましくは5.00%以下とするのが良い。
(9)Mo:0.01〜6.00%
Moは、焼入性に寄与する元素である。焼入性が低下すると、強度が低下する。焼入性が低下しないようにするためには、Moの含有率は、0.01%以上、好ましくは0.1%以上とするのが良い。0.01未満では、焼入性が低下して強度が低下する。一方、Moの含有率が高くなると、加工性、特に被削性が低下する。よって、Moの含有率は、6.00%以下、好ましくは3.00%以下とするのが良い。
Moは、焼入性に寄与する元素である。焼入性が低下すると、強度が低下する。焼入性が低下しないようにするためには、Moの含有率は、0.01%以上、好ましくは0.1%以上とするのが良い。0.01未満では、焼入性が低下して強度が低下する。一方、Moの含有率が高くなると、加工性、特に被削性が低下する。よって、Moの含有率は、6.00%以下、好ましくは3.00%以下とするのが良い。
(10)V:0.01〜2.00%
Vは、Moと同様、焼入性に寄与する元素である。その効果を得るには、Vの含有率は、0.01%以上とするのが良い。0.01未満では、焼入性が低下して強度が低下する。一方、Vの含有率が高くなると、加工性、特に被削性が低下する。よって、Vの含有率は、2.00%以下、好ましくは1.00%以下とするのが良い。
Vは、Moと同様、焼入性に寄与する元素である。その効果を得るには、Vの含有率は、0.01%以上とするのが良い。0.01未満では、焼入性が低下して強度が低下する。一方、Vの含有率が高くなると、加工性、特に被削性が低下する。よって、Vの含有率は、2.00%以下、好ましくは1.00%以下とするのが良い。
本発明に係る浸炭用鋼において、炭化物の析出量を増大させるためには、上記Cr、Si、Ni、Cuの含有率は、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)が3.00%以上であるのが良い。その理由を以下に述べる。
すなわち、本発明者らが真空浸炭やプラズマ浸炭の機構について調べたところ、浸炭ガスから生成した黒鉛が鋼材表面に付着して、付着した黒鉛が鋼材に吸収される過程で反応が進んでいるということが分かった。このとき、表面に付着した黒鉛と鋼材内部の炭素濃度とは平衡しており、SiやCu、Niが炭素の活量を上げるので、SiやCu、Niが多いと、付着した黒鉛が鋼材に吸収されない方向に平衡が寄る結果、黒鉛から鋼材への吸収がしづらいものとなる。一方、Crは、付着した黒鉛が鋼材に吸収される方向に平衡を寄せる働きがある。
つまり、SiやCu、Niの含有量を減らし、Crの含有量を増やせば、付着した黒鉛が鋼材に吸収される方向に平衡が寄って、黒鉛から鋼材への吸収がしやすくなるからである。よって、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)が特定の値以上となることとした。
本発明に係る浸炭用鋼は、上述した構成元素に加えて、さらに以下の元素から選択される1種または2種以上の元素を任意に含んでいても良い。これらの元素の含有率を特定した理由は、以下の通りである。
<1>Al:0.01〜0.20%
Alは、結晶粒を微細化し強度を向上させる元素である。その効果を得るには、Alの含有率は、0.01%以上とするのが良い。一方、Alの含有率が高くなると、鋼中でアルミナが生じるので強度が低下する。よって、Alの含有率は、0.20%以下とするのが良い。
Alは、結晶粒を微細化し強度を向上させる元素である。その効果を得るには、Alの含有率は、0.01%以上とするのが良い。一方、Alの含有率が高くなると、鋼中でアルミナが生じるので強度が低下する。よって、Alの含有率は、0.20%以下とするのが良い。
<2>Nb:0.01〜0.20%
Nbは、炭化物や窒化物などを形成して加熱時のオーステナイト結晶粒を微細化して靭性の向上に寄与する。その効果を得るには、Nbの含有率は、0.01%以上とするのが良い。一方、Nbの含有率が高くなると、炭化物等の過剰生成によって靭性が低下する。よって、Nbの含有率は、0.20%以下とするのが良い。
Nbは、炭化物や窒化物などを形成して加熱時のオーステナイト結晶粒を微細化して靭性の向上に寄与する。その効果を得るには、Nbの含有率は、0.01%以上とするのが良い。一方、Nbの含有率が高くなると、炭化物等の過剰生成によって靭性が低下する。よって、Nbの含有率は、0.20%以下とするのが良い。
<3>Ti:0.01〜0.20%
Tiは、Nbと同様、炭化物や窒化物などを形成して加熱時のオーステナイト結晶粒を微細化して靭性の向上に寄与する。その効果を得るには、Tiの含有率は、0.01%以上とするのが良い。一方、Tiの含有率が高くなると、炭化物等の過剰生成によって靭性が低下する。よって、Tiの含有率は、0.20%以下とするのが良い。
Tiは、Nbと同様、炭化物や窒化物などを形成して加熱時のオーステナイト結晶粒を微細化して靭性の向上に寄与する。その効果を得るには、Tiの含有率は、0.01%以上とするのが良い。一方、Tiの含有率が高くなると、炭化物等の過剰生成によって靭性が低下する。よって、Tiの含有率は、0.20%以下とするのが良い。
<4>N:0.001〜0.05%
Nは、鋼中で窒化物を生成し、結晶粒の粗大化を抑制する作用を有している。その効果を得るには、Nの含有率は、0.001%以上とするのが良い。Nの含有率が高くなると、窒化物が介在物となって、鍛造時や熱間加工時に割れを起こしやすくなるので、Nの含有率は、0.05%以下とするのが良い。
Nは、鋼中で窒化物を生成し、結晶粒の粗大化を抑制する作用を有している。その効果を得るには、Nの含有率は、0.001%以上とするのが良い。Nの含有率が高くなると、窒化物が介在物となって、鍛造時や熱間加工時に割れを起こしやすくなるので、Nの含有率は、0.05%以下とするのが良い。
<5>B:0.0001〜0.01%
Bは、焼入性を向上させる元素である。その効果を得るには、Bの含有率は、0.0001%以上とするのが良い。0.0001%未満では、焼入性が低下して強度が低下する。一方、Bの含有率が高くなると、鋼中でBNが生じるので強度が低下する。よって、Bの含有率は、0.01%以下とするのが良い。
Bは、焼入性を向上させる元素である。その効果を得るには、Bの含有率は、0.0001%以上とするのが良い。0.0001%未満では、焼入性が低下して強度が低下する。一方、Bの含有率が高くなると、鋼中でBNが生じるので強度が低下する。よって、Bの含有率は、0.01%以下とするのが良い。
次に、本発明に係る浸炭用鋼の製造方法の一例について説明する。本発明に係る浸炭用鋼を得るには、上述した化学組成となるように各原料を秤量する。次いで、高周波誘導炉などの溶解炉で、上述する化学組成となる鋼種を溶製した後、熱間鍛造、熱間圧延などにより所望の形状にする。なお、必要に応じて、固溶化処理、焼きならし処理等を行なっても良い。固溶化処理としては、1000〜1200℃で行ない、焼きならし処理としては、900〜1100℃で行うと良い。
一方、本発明に係る浸炭部材は、本発明に係る浸炭用鋼を真空浸炭またはプラズマ浸炭してなり、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率が40%以上であるものからなる。好ましくは、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率が50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。炭化物体積率が高くなればなるほど強度が向上するからである。
本発明においては、従来より行なわれている共析浸炭よりも高濃度に炭素を導入できる高濃度浸炭処理を行なう。高濃度処理としては、ガス浸炭よりも高濃度に炭素を導入できる真空浸炭やプラズマ浸炭を用いる。浸炭に用いるガスとしては、プロパンやアセチレンなど通常用いられる炭化水素ガスを使用することができる。
これまでも、真空浸炭やプラズマ浸炭により浸炭処理が行なわれることはあったが、真空浸炭やプラズマ浸炭の機構がはっきり分かっていなかったため、炭化物の量を増やすための方法が明確になっていなかった。そのため、従来の浸炭用鋼には、ある程度のSiやNiを含んでおり、鋼材表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率を40%以上にすることができなかった。
これに対し、本発明に係る浸炭用鋼を用いれば、上述する理由により、鋼材表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率を40%以上にすることが可能となっている。
真空浸炭においては、例えば、減圧可能な加熱炉内に所望の形状とした浸炭用鋼を配置し、炉内を減圧・加熱した後、炭化水素ガスを炉内に導入し、炭化水素ガスの熱分解により発生した炭素を浸炭用鋼表面にしみこませる。その後、しみこんだ炭素を浸炭用鋼表面から内部へ拡散させる。浸炭用鋼を浸炭した後は、必要に応じて焼き戻しなどを行なう。
真空浸炭処理の温度は、800〜1100℃、圧力は、1〜1000Paとし、炉内に導入する炭化水素ガスの圧力は、500〜2000Pa、浸炭時間1分〜3時間、拡散時間0分〜3時間とすると良い。また、焼き戻しする温度は、100〜250℃、時間は、30分〜5時間とするとが良い。
また、プラズマ浸炭においては、例えば、処理室に所望の形状とした浸炭用鋼を配置し、排気後にアルゴンなどの希釈ガスとともに炭化水素ガスを導入する。炉内を加熱した後、直流高電圧を印加して保持する。このとき、導入された炭化水素ガスはプラズマ化し、陰極付近で急激に電位が低下する。このため、プラズマ中の炭素は、イオン化した状態で陰極降下によって加速され、鋼表面に衝突して黒鉛を形成し、鋼に浸炭される。
プラズマ浸炭の温度は、800〜1100℃とする。また、炉内に導入する炭化水素ガス濃度は、50〜100%とする。そして、直流高電圧は、100〜200Vとする。
以上により、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率が40%以上とすることで、表面強度に優れるものとなる。
なお、ここでいう炭化物体積率とは、一定範囲の鋼材中における炭化物の体積の割合であり、炭化物体積率は、鋼材表面に対して垂直に切断した断面上の炭化物面積率と同値とした。炭化物面積率は、鋼材表面の一定範囲における炭化物の占める割合である。
そして、本発明に係る浸炭部材は、表面炭素濃度が3.5〜7.0%の範囲内にあることが好ましい。上述のように、本発明に係る浸炭用鋼によれば、鋼材表面の炭化物濃度を高くすることができるため、表面炭素濃度も高くなる。そして、表面炭素濃度を3.5〜7.0%の範囲内とすれば、表面強度に優れるものとなる。
以上により説明した本発明に係る浸炭部材の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、自動車などの車両の歯車、シャフト、等速ジョイント、CVT部品などを例示することができる。
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
表1に示す化学組成となるようにした鋼種を高周波誘導炉で溶製した後、150kgの鋼塊に鋳造した。これを1150℃で熱間鍛造にてφ88mmの丸棒に加工し、所定長さに切断して熱間鍛造にて下記形状のギアとした後、真空浸炭処理を行なった。真空浸炭は、炉内を1Paに減圧し、炉内温度を1050℃にして、浸炭(アセチレンガス供給)2分・拡散10分の操作を3回繰返して行なった。焼入れ後、850℃で、浸炭5分拡散5分の操作を5回繰返し、再焼入れした。浸炭処理後、180℃1時間の焼戻しをし、浸炭処理された各化学組成のギアを用いて下記ギア耐久試験を行ない、ピッチング強度を評価した。
〔ギア形状〕
モジュール2.5、歯数30、ピッチ円径82.753mm、歯幅20mm、ネジレ角25°とした。
モジュール2.5、歯数30、ピッチ円径82.753mm、歯幅20mm、ネジレ角25°とした。
〔ギア耐久試験〕
上記ギアに負荷をかけて回転させ、107回でピッチング破壊に至るピッチ円状での面圧で評価。回転速度は3600回/分とした。
上記ギアに負荷をかけて回転させ、107回でピッチング破壊に至るピッチ円状での面圧で評価。回転速度は3600回/分とした。
〔評価方法〕
炭化物体積率
鋼材表面に対して垂直に切断した試料をナイタール、ピクラル等を用いてエッチングし、断面上の炭化物面積率を求め、炭化物面積率を炭化物体積率と同値とした。
炭化物面積率
SEMで3000倍で撮影した写真を用い、画像解析して定量化した。測定視野の面積は1.2×10−3mm2である。
炭化物体積率
鋼材表面に対して垂直に切断した試料をナイタール、ピクラル等を用いてエッチングし、断面上の炭化物面積率を求め、炭化物面積率を炭化物体積率と同値とした。
炭化物面積率
SEMで3000倍で撮影した写真を用い、画像解析して定量化した。測定視野の面積は1.2×10−3mm2である。
表面炭素濃度
蛍光X線分光法により、鋼表面の炭素の定量分析を行なった。
蛍光X線分光法により、鋼表面の炭素の定量分析を行なった。
表1に、実施例、比較例に係る浸炭用鋼の化学組成を、表2に、実施例、比較例に係る浸炭処理されたギアの試験結果を示す。
表1および表2から、比較例2に係る浸炭用鋼はSi含有率が特定範囲より高く、比較例4に係る浸炭用鋼はNi含有率が特定範囲より高い。また、比較例1〜4に係る浸炭用鋼はCr含有率が特定範囲より低い。そして、比較例1〜4に係る浸炭用鋼は、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)の値が3.00%未満となっている。そのため、浸炭処理されたギア表面に析出する炭化物の量が低く、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率は20%前後であり、表面炭素濃度は2%程度であった。その結果、ピッチング強度に劣ることが分かる。
これに対し、実施例1〜15に係る浸炭用鋼は特定成分の含有率を特定範囲内としており、かつ、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)の値が3.00%以上である。そのため、浸炭処理されたギア表面に析出する炭化物の量は高くなり、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率は40%以上、表面炭素濃度は3.5%以上であった。その結果、ピッチング強度に優れることが分かった。表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率が60%以上、さらには70%以上のものは、特にピッチング強度に優れることが分かった。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
Claims (4)
- 重量%で、
C :0.10〜0.40%、
Si:0.01〜0.20%、
Mn:0.20〜2.00%、
P :0.030%以下、
S :0.030%以下、
Cu:0.01〜0.20%、
Ni:0.01〜0.50%、
Cr:3.00超〜6.00%、
Mo:0.01〜6.00%、
V :0.01〜2.00%であり、
残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなり、かつ、Cr(%)−Si(%)−Ni(%)−Cu(%)が3.0%を超えることを特徴とする浸炭用鋼。 - Al:0.01〜0.20%、
Nb:0.01〜0.20%、
Ti:0.01〜0.20%、
N :0.001〜0.05%、および、
B :0.0001〜0.01%、
から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の浸炭用鋼。 - 請求項1または2に記載の浸炭用鋼を真空浸炭またはプラズマ浸炭してなり、表面から深さ方向10μmの範囲での炭化物体積率が40%以上であることを特徴とする浸炭部材。
- 表面炭素濃度が3.5〜7.0%の範囲内にあることを特徴とする請求項3に記載の浸炭部材。
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2006
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