JP2008011847A - 子実の処理方法 - Google Patents

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和紀 乙部
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Abstract

【課題】 急激な吸水及び脱水による子実の生理的・物理的ダメージを回避でき、また、貯蔵中及び土壌中における子実の保存性を向上させることができ、同時に、子実からの水溶性物質溶脱を防止することができ、さらには、水を使わずに栽培用子実に薬剤を付加することができる子実の処理手段を提供する。
【解決手段】 シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーの皮膜で子実表面の全部又は一部を被覆することを特徴とする子実の処理方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、子実の吸水および脱水速度を制御すると同時に子実の貯蔵中または土壌中での保存性を向上させ、さらには子実内の可溶性成分溶脱の抑制、ならびに子実保護や生長促進を目的とする薬剤の添加を可能とする子実の処理方法ならびにその方法によって処理された子実に関する。
子実は吸水しなければ発芽できないことは自明であるが、大豆などのマメ科植物では子実の吸水のしかたにより生理的・物理的ダメージを受けて生長阻害が生じることが知られている。たとえば大豆栽培においては、播種後の降雨・冠水により胚組織の吸水が急激に進展し、胚組織の破壊が生じることにより生理的・物理的障害が発生して発芽率が落ちることが知られており、子実の吸水制御方法に対するニーズが存在する(有原丈二、「紙おむつ発芽法で湿害回避」、現代農業2001年7月号、174-175;中山則和ほか、「ダイズ種子の吸水速度調節が冠水障害の発生に与える影響」、日本作物学会紀事74(3)、325-329(2005))。加えて、収穫・乾燥作業などにより種皮に僅かでも損傷が生じた場合には、損傷部位から急激に水が種皮組織に侵入するために種皮が膨潤して胚組織から剥離し、上記障害がさらに起きやすくなることから、種皮損傷による発芽率低下の影響を緩和する方法に対するニーズが存在する(安江多輔ほか.「ダイズ種子の裂皮発生機構に関する研究.第3報 裂皮が種子の発芽及び出芽に及ぼす影響」、日本作物学会紀事52(別1)、71-72(1983))。
このような大豆栽培における急激な吸水による発芽率低下の抑制策や土壌保水量制御策として、裂皮子実の選別排除、播種前の子実水分調整(含水率を上げる)、播種タイミングの調整(降雨直後の播種や播種直後の降雨を回避できる時期を選ぶ)、圃場排水環境の整備などが実施されている。また、乾燥条件への対策により発芽率向上を目指した技術として、保水性(吸水性)ポリマーによる子実被覆処理が考案されている(特許文献1、特許文献2)。
しかし、従来の吸水制御技術には次のような問題がある:(1)裂皮子実の選別は目視によるため、僅かな裂皮は見逃す可能性が高く、裂皮子実をすべて除去することは不可能である;(2)圃場排水能力が十分でない場合には不測の降雨による子実の冠水が避け難い;(3)子実の吸水後に乾燥状態が続いた場合に排水性良好な圃場は過乾燥になる恐れがあり、子実の急激な乾燥による発芽不良が生じる場合がある;(4)子実水分調整時のカビ粒・腐敗粒発生率の上昇に伴う保存性の低下が生じる。以上の問題により、現状では急激な吸水ならびに乾燥に起因する発芽率低下対策は万全とは言い難い。さらに、乾燥対策技術としての子実水分制御技術は豊富に存在し、乾燥時の水分補給あるいは保水性向上を目的とした保水性(吸水性)ポリマーによる子実被覆技術が数多く考案されている一方で、急激な吸水に対する対応技術を兼ね備えた子実水分制御技術は存在していないのが現状である。
ところで、栽培用子実に薬剤(殺菌剤、殺虫剤、栄養剤、生長促進剤等)を付加して播種する方法は、収量確保の観点から一般的に実施されており、薬剤を添着した栽培用子実もすでに市販されている。しかし、薬剤の付加方法として一般的に行われているのは、薬剤の粉体と子実に水分を与えて両者を固着させる方法であることから、子実が水分を吸収しやすいために保存性が低下するダイズ等の豆類においては適用が困難である。さらに、薬剤の種類によっては有効成分が加水分解しやすいものがあり、水を使う方法ではこのような薬剤を添着すると薬剤の効果を損なう恐れがある。
また、豆類のような食用に供される子実の場合、煮豆、味噌、納豆等のように、一般的に加熱調理されて加工されるが、加熱に先立って水を子実に吸収させる工程が必要である。このとき、子実の急激な吸水により子実組織が破壊されて子実内の水溶性成分である電解質、タンパク質、糖質、有機酸類、ペプチド、ポリフェノール、ポリアミン、又はこれら物質間の化合物等が水中に溶脱しやすくなる。また、このような組織破壊がおこらない場合でも、子実表面から徐々に前記物質の溶脱がおこることは阻止できない。従来は、この吸水工程における組織破壊を抑制するために、吸水速度を制限するための高浸透圧水溶液を調製して吸水工程に供していた。しかし、この方法では子実からの水溶性物質の水溶液への溶脱を阻止することは困難である。
特開2000-135005号公報 特開2005-58221号公報
以上述べたように、子実を植物の栽培や食品として利用するに当たり幾つかの問題があった。
本発明は、これらの問題を解決するための新たな子実の処理手段を提供することを目的とする。
本発明者は、上記従来技術の問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーの皮膜で子実表面の全部又は一部を被覆することにより、1)急激な水の出入りが起こりやすい種皮の裂皮部位を覆うと共に種皮表面からの過度な水分子の出入りをも制限し、同時に生長に要する種皮経由での酸素透過量と適度な水分子透過量を確保しつつ、子実組織の急激な吸水・脱水とそれに伴う物理的・生理的障害を防止できること、2)子実の吸水に伴う膨潤を利用してポリマー皮膜を伸張させ、皮膜の厚み減少や亀裂の発生を通じて酸素透過量と水分子透過量の増大をはかり、子実の吸水に伴う生理活性上昇による酸素ならびに水の要求性増大をカバーできること、3)子実表面への病原体の接近を阻止すると同時に子実からの栄養素溶出を阻止することにより病原体の感染・増殖を阻止すると共に、子実から大気中への昆虫誘引物質放出を抑制することで、貯蔵中ならびに土壌中における保存性を向上できること、4)子実をポリマーで処理する前、又は処理後に子実を保護する薬剤の粉体をポリマーに含ませることにより、水を使うことなく栽培用子実に薬剤を付加できること、5)伸張性が高く透水性のある当該ポリマーで食用の子実を被覆することで、加熱調理に先立つ吸水工程において、子実への吸水を行わせると同時に、長時間の水への浸せき下においても子実内の水溶性物質の溶脱を防止できること、を見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)を提供するものである。
(1)シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーの皮膜で子実表面の全部又は一部を被覆することを特徴とする子実の処理方法。
(2)シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーが、ジメチルシロキサンを含有することを特徴とする(1)に記載の子実の処理方法。
(3)ポリマーに粉体を含ませる処理を行うことを特徴とする(1)又は(2)に記載の子実の処理方法。
(4)子実が、マメ科植物の子実であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の子実の処理方法。
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載の処理方法によって処理された子実。
本発明により、急激な吸水及び脱水による子実の生理的・物理的ダメージを回避でき、また、貯蔵中及び土壌中における子実の保存性を向上させることができ、同時に、子実からの水溶性物質溶脱を防止することができる。さらには、水を使わずに栽培用子実に薬剤を付加することができるために子実の保存性が確保できる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の子実の処理方法は、シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーの皮膜で子実表面の全部又は一部を被覆することを特徴とするものである。
シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーの皮膜で子実表面を被覆することにより、1)急激な水の出入りが起こりやすい種皮の裂皮部位を覆うと共に種皮表面からの過度な水分子の出入りをも制限し、同時に生長に要する種皮経由での酸素透過量と適度な水分子透過量を確保しつつ、子実組織の急激な吸水・脱水とそれに伴う物理的・生理的障害を防止でき、2)子実の吸水に伴う膨潤を利用してポリマー皮膜を伸張させ、皮膜の厚み減少や亀裂の発生を通じて酸素透過量と水分子透過量の増大をはかり、子実の吸水に伴う生理活性上昇による酸素ならびに水の要求性増大をカバーでき、3)子実表面への病原体の接近を阻止すると同時に子実からの栄養素溶出を阻止することにより病原体の感染・増殖を阻止すると共に、子実から大気中への昆虫誘引物質放出を抑制することで、貯蔵中ならびに土壌中における保存性を向上でき、4)子実をポリマーで処理する前、又は処理後に子実を保護する薬剤の粉体をポリマーに含ませることにより、水を使うことなく栽培用子実に薬剤を付加でき、5)伸張性が高く透水性のある当該ポリマーで食用の子実を被覆することで、加熱調理に先立つ吸水工程において、子実への吸水を行わせると同時に、長時間の水への浸せき下においても子実内の水溶性物質の溶脱を防止できる。
上述した被覆処理により上記1)、2)、4)及び5)の効果を奏することは、後述する実施例に示すジメチルシロキサンを含有するポリマーを用いた実験によって確認されている。また、3)の効果を奏すると推測する理由は以下の通りである。
穀類の子実に寄生する代表的な有害昆虫であるタネバエの摂食刺激物質(誘引物質)が植物や穀粉から放出されていることは既知であり、代表的な誘引物質として2−フェニールエタノールならびにこれと協力作用を示すn−吉草酸が知られている(Ishikawa,Y.,T.Ikeshoji and Y.Matsumoto.Field trapping of the onion and seed-corn flies with baits of fresh and aged onion pulp.Appl.Entomol.Zool.16,490-493(1981))。これらの物質は何れも分子量が100以上と大きいために、シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーの皮膜を通過して皮膜外には放出され得ないので、該皮膜はこのような害虫の誘引を阻止する効果がある。さらに、該皮膜により低分子量の物質以外は子実表面から放出されないため、菌類の栄養源となる糖類分子は該皮膜を通過せず、結果として皮膜表面での菌糸増殖を阻害する効果がある。以上のように、該皮膜で子実を被覆することにより、貯蔵中または土壌中における子実の保存性向上をはかることができる。
本発明における子実とは、植物の栽培や食料などとして利用されている種子、果実などを意味する。種子には、発芽能を持つ種子のほか、発芽能を持たない未成熟種子も含まれる。
シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーとしては、ジメチルシロキサン、ビニルメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、フェニルメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、トリクロロプロピルメチルシロキサン、オクチルメチルシロキサン、トリフロロプロピルメチルシロキサン、アミノアルキルアルコキシシロキサンなどに代表されるモノマーまたはコポリマーの重合物であり、かつそれぞれの末端が(メタ)アクリレート、カルボキシル、ヒドロキシル、アミノプロピル、シラノール、ビニル、エポキシプロポキシプロピル、エポキシシクリヘキシル、カルビノール、メルカプトプロピルのいずれかである重合物が例として挙げられる。なお、本明細書にいう「〜(メタ)アクリレート」とは、「〜アクリレートおよび/または〜メタクリレート」を意味し、たとえば、トリメチルシロキシジメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキシプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキシメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどがあげられる。また、シロキサン骨格を一部に含むスチレン誘導体、フマル酸ジエステルなどもシロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーに含まれ、スチレン誘導体としてはたとえば、トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリルスチレン、(トリメチルシロキシ)ジメチルシリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シロキシジメチルシリルスチレン、[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシロキシ]ジメチルシリルスチレン、(トリメチルシロキシ)ジメチルシリルスチレン、ヘプタメチルトリシロキサニルスチレン、ノナメチルテトラシロキサニルスチレン、ペンタデカメチルヘプタシロキサニルスチレン、ヘンエイコサメチルデカシロキサニルスチレン、ヘプタコサメチルトリデカシロキサニルスチレン、ヘントリアコンタメチルペンタデカシロキサニルスチレン、トリメチルシロキシペンタメチルジシロキシメチルシリルスチレン、トリス(ペンタメチルジシロキシ)シリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、ビス(ヘプタメチルトリシロキシ)メチルシリルスチレン、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、トリメチルシロキシビス[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、ヘプタキス(トリメチルシロキシ)トリシリルスチレン、ノナメチルテトラシロキシウンデシルメチルペンタシロキシメチルシリルスチレン、トリス[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、(トリストリメチルシロキシヘキサメチル)テトラシロキシ[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]トリメチルシロキシシリルスチレン、ノナキス(トリメチルシロキシ)テトラシリルスチレン、ビス(トリデカメチルヘキサシロキシ)メチルシリルスチレン、ヘプタメチルシクロテトラシロキサニルスチレン、ヘプタメチルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、トリプロピルテトラメチルシクロテトラシロキサニルスチレン、トリメチルシリルスチレンなどがあげられる。また、フマル酸ジエステルとしては、ビス(3−(トリメチルシリル)プロピルフマレート、ビス(3−(ペンタメチルジシロキサニル)プロピル)フマレート、ビス(3−(1,3,3,3−テトラメチル−1−(トリメチルシリル)オキシ)ジシロキサニル)プロピル)フマレート、ビス(トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル)フマレートなどを挙げることができる。
ポリマーには、粉体を含ませる処理を行ってもよい。この処理は、ポリマーの子実被覆処理前に行ってもよく、被覆処理後に行ってもよい。ポリマーに含ませる粉体の種類は特に限定されないが、粉状の農薬、粉状の栄養剤、粉状の合成肥料、粉状の生長促進剤、粉状の微生物担持体、多孔質粉体、粉状食品、粉状高分子化合物等を例示でき、より具体的には、チウラム水和剤、チオファネートメチル粉剤、ベノミル水和剤、キチン・キトサン粉末、海藻エキス粉末、魚かす粉末、過酸化カルシウム、消石灰、過リン酸石灰、根粒菌担持粉末、ゼオライト、シリカ、小麦粉、デンプン、粉砂糖、抹茶、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースなどを例示できる。
ポリマー皮膜の厚さは特に限定されないが、吸水速度制御に用いる場合には、100μm以下であることが好ましい。皮膜厚を100μm以下にすることにより、種子の吸水に伴う膨潤を利用してポリマー皮膜を伸張させ、皮膜の厚み減少や亀裂の発生を通じて酸素透過量と水分子透過量の増大をはかることができる。粉体を子実に付加する場合には、皮膜の厚さに特に制限はない。
処理対象とする子実は特に限定されないが、急激な吸水を行うと物理的・生理的障害を被ることが知られているマメ科植物の子実、あるいは栽培時に殺菌剤、殺虫剤、栄養剤、生長促進剤等の薬剤付加を必要とする植物の子実を対象とすることが好ましい。マメ科植物の種子としては、ダイズ、ササゲ、エンドウ、ラッカセイ、インゲンマメ、アズキ、ソラマメ、レンズマメ等を例示できる。その他の子実としてはニンジン、ホウレンソウ、キャベツ、レタス、ハクサイ、トマト、オクラ、ナス、キュウリ、カボチャ、トウモロコシ等をあげることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
はじめに図1には、冠水条件下におけるポリマー被覆大豆と無処理大豆(コントロール)の吸水量の経時的変化を示す。ジメチルシロキサン含有ポリマー(ビニル末端ポリジメチルシロキサン)と架橋促進剤(エチルトリアセトキシシラン)を重量比で10:1の割合で混合し、重量にして10倍量の大豆子実(品種名:富貴)をそこに加えて子実表面にポリマーを十分なじませてから、20℃で24時間静置してポリマー被覆子実を調製した。この処理により、子実表面には約60μmの厚さのポリマー皮膜ができていることをレーザー膜厚測定器により確認した。ポリマー被覆子実と無処理子実を各10粒無作為に選び出し、各粒の吸水処理前の重量を計測してから20℃の室温下で冠水処理を行って1時間おきに子実重量を計測した。ここで比吸水量は、吸水前の子実重量に対する吸収水分重量の比で表し、各10粒の平均値で示した。本方法によれば、ポリマー皮膜厚さ約60μmの場合、冠水状態に置いた子実の吸水速度はポリマー被覆していない場合と比較して20分の1程度に低減することができる。
次に、ポリマー被覆大豆と無処理大豆との冠水下における膨潤特性を比較したところ、無処理大豆は冠水後6時間で最大の大きさ(吸水限界)に到達したのに対して、ポリマー被覆大豆は48時間で吸水限界に達しており、この時点ではすでにポリマーが裂けて子実から剥離していた。ポリマーの伸張限界値は事前の測定により400%であったことから、子実を球として近似計算を行うと、子実半径が2倍になった時点で表面積は4倍(400%)となり、伸張限界に達すると見積もられる。また、ポリマー被膜は子実表面に密着しており、伸張に伴う空隙の発生はないものと考えられることから、表面積が4倍になるとポリマー被膜の厚みは4分の1になると見積もられる。ポリマー内における水分子の拡散速度が水分子の透過性に等しいことから、ポリマー内での分子拡散速度が被膜厚さに比例することを考慮すると、水の浸透速度(すなわち吸水速度)は4倍になる。同時に、表面積が4倍になったことで吸収に寄与する面積が4倍になる効果も併せて考慮すると、子実半径が2倍になることにより吸水速度は16倍になると見積もられる。一方、図1より無処理大豆の曲線の傾きがポリマー被覆大豆の吸水曲線の傾きの約20倍であることが示されており、この結果から推察されるポリマー被覆大豆の吸水限界到達時間は120時間となる。実験ではこの4分の1程度の時間で吸水限界に達していたことから、吸水量が途中から急激に増したことは明らかであり、この急激な吸水量上昇は子実膨潤に伴うポリマー被膜厚の減少とポリマーの亀裂効果によると言える。
続いて、大豆子実水分が9.8%の低水分子実を使用して、ポリマー被覆処理が冠水による組織破壊や生理的障害を防止する効果を調べた。大豆の子実水分が10%以下の場合には、冠水による急激な吸水が胚組織の亀裂を引き起こし、溶出固形物の溶脱と発芽不良を招くことが知られている。前述したポリマー被覆処理を実施した子実と無処理子実各12粒を、5mLの純水と共に12穴培養ディッシュに入れて20℃下で5日間冠水処理を実施した。処理後の発芽率を調査した結果、無処理子実では発芽率が6割以下であったのに対して、ポリマー被覆子実は8割以上であった。また、無処理子実の4割で溶出固形物による水の白濁と腐敗が見られたのに対し、ポリマー被覆子実で白濁や腐敗が見られたのは1割程度であった。以上の結果から、子実のポリマー被覆により吸水が緩やかになることで、低水分子実であっても冠水による胚組織の亀裂発生とそれに伴う固形物溶脱の発生を抑制でき、発芽障害や溶出物による細菌増殖・腐敗を防止する効果が得られることが示された。
次に、図2には乾燥条件下におけるポリマー被覆大豆と無処理大豆(コントロール)の脱水量の経時的変化を示す。ここで示す比脱水量は、吸水状態での子実重量に対する蒸発水分重量の比で表し、12時間吸水処理した子実各10粒を20℃、相対湿度30%で乾燥した際の平均値を示した。図2より、本方法によりポリマー被覆された子実が吸水した後に乾燥条件にさらされても、子実を被覆したポリマー層により蒸散が抑制されることで、子実の水分保持時間を4倍程度伸ばすことができることが示された。
〔実施例2〕
子実への薬剤付加方法としての実施例として、大豆子実への過酸化カルシウム剤添着実施例をあげる。過酸化カルシウムは水と反応することにより酸素ガスを発生することが知られており、一般的にはこれを稲子実に付加して水田に直播することにより子実の発芽・苗立ちを安定させる成長促進剤として利用している。しかし、従来法では水を噴霧して子実に固着させる必要があったために、子実粒が大きな大豆には施用が困難であるとともに、水分による大豆子実へのダメージ(シワの発生や保存性低下)が問題であった。大豆(品種名;タチナガハ)10粒を、ジメチルシロキサン含有ポリマー(シラノール末端ジメチルシロキサン)1gと架橋剤(テトラエトキシシラン)0.05gの混合物に投入して撹拌し、子実表面にポリマーを十分に塗抹した後、過酸化カルシウム粉末(正味含有量15%)20gを入れたふた付き容器に塗抹済み子実を投入して激しく撹拌して粉末を付加した。対照として、従来法の水噴霧による固着方法と、何もつけずに粉末と子実を混ぜる方法による粉末の付加試験を行い、1日後の粒重比較を行った。次表に示すように、子実表面にポリマーを塗抹した子実には、粒重の10%程度の過酸化カルシウム粉末を付加することができ、袋詰め作業などを行っても剥がれ落ちないほどの安定性があることが確認された。一方、従来法では乾燥するに従って付加した粉末が容易に剥がれ落ちて、最終的な付加量は大きく減少するとともに、触れると剥がれ落ちるなど付着が不安定であった。
Figure 2008011847
次に、食品用子実の水溶性物質溶脱の抑制効果の実施例を示す。大豆(品種名;タチナガハ)40gを、ジメチルシロキサン含有ポリマー(シラノール末端ジメチルシロキサン)2gと架橋剤(テトラエトキシシラン)0.1gの混合物に投入して撹拌した後、樹脂平板上に個別に離して展開した状態で1日硬化させた。このうち10粒を100mLビーカーに入れ、50mLの蒸留水を注いで室温下(25℃)にて3日間静置した。対照として、無処理の大豆10粒を同じ要領で処置したものを調製した。それぞれの試験区は2反復作成し、3日後の浸せき水の導電率と腐敗の有無を水溶性物質の溶脱指標として比較した。次表に示すように、ポリマー被覆子実ではポリマー皮膜が伸張しながら子実表面を完全に覆うために、水分子は子実内部に浸透しても、子実自体からの水溶性物質溶脱は、無処理の場合と比較して大きく抑制されていることが明らかとなった。また、腐敗が見られないことから、腐敗のもととなる細菌の栄養となる糖質やタンパク質、ペプチドなどの分子量の大きな物質も溶脱していないことが示された。
Figure 2008011847
本発明の子実処理方法は、農業分野においては、たとえば大豆など豆類生産や転換畑作物生産分野、土木建築分野においては、たとえば保護剤等を付加した栽培用子実の製造販売分野、食品製造分野においては、たとえば煮豆や納豆などの加工工程等で利用が見込まれる。本発明によれば、たとえば大豆などの水管理が難しい作物であっても、晴雨の別なく播種が可能となると共に、苗立ちの安定性確保とそれに伴う収量確保につながる。また、苗立ち前の水管理が容易になるため、家庭菜園向けのポリマー被覆処理種子としても普及が見込まれる。さらには殺菌剤や殺虫剤の栽培用子実への添着が促進されることにより、環境負荷となる薬剤の使用量を抑制できることから、経済性のみならず、環境への配慮も可能となる。食品への利用についても、食味の向上のみならず、豆類を人間が摂取した場合に健康維持に寄与すると言われている水溶性物質を保持した高付加価値食品の製造にも利用可能であるとともに、吸水工程で排出される子実からの富栄養溶脱物質を含んだ水による河川水質の低下を抑制する技術への利用も可能である。
冠水条件下におけるポリマー被覆大豆と無処理大豆の吸水量の経時的変化を示す図。 乾燥条件下におけるポリマー被覆大豆と無処理大豆の脱水量の経時的変化を示す図。

Claims (5)

  1. シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーの皮膜で子実表面の全部又は一部を被覆することを特徴とする子実の処理方法。
  2. シロキサン骨格を有する有機ケイ素ポリマーが、ジメチルシロキサンを含有することを特徴とする請求項1に記載の子実の処理方法。
  3. ポリマーに粉体を含ませる処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の子実の処理方法。
  4. 子実が、マメ科植物の子実であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の子実の処理方法。
  5. 請求項1乃至4のいずれか一項に記載の処理方法によって処理された子実。
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