JP2007248280A - タンパク質の結晶化の判定方法、タンパク質結晶の結晶性判別方法、および該判別に用いる装置 - Google Patents

タンパク質の結晶化の判定方法、タンパク質結晶の結晶性判別方法、および該判別に用いる装置 Download PDF

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Abstract

【課題】ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用する際、試料溶液ドロップ中に生成したタンパク質分子の微細な単結晶について、結晶性に優れた単結晶であるか、結晶学的にタンパク質分子の配向に乱れを有するかを、その場で判定することが可能な非接触的な検出手段の提供。
【解決手段】試料溶液ドロップ中に生成したタンパク質分子の微細な単結晶に対して、該タンパク質分子中に含まれるα−ヘリックス構造に由来する、アミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード:amide I、amide III に起因するストークス線のラマン散乱強度について、直線偏光性の入射レーザー光の偏光方向と、α−ヘリックスのらせん軸方向とのなす角θに対する依存性を偏光ラマン散乱により測定し、その角度分散の大小に基づき、結晶学的なタンパク質分子の配向に乱れの程度を判定する。
【選択図】図6

Description

本発明は、タンパク質の結晶化を判定する方法、タンパク質結晶の結晶性を判別する方法、ならびに、前記判別方法を適用する際に利用される判別装置に関する。具体的には、本発明は、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法、シッティング・ドロップ−蒸気拡散法を適用するタンパク質の結晶化過程において、試料溶液ドロップ中における、タンパク質の微細結晶生成の有無を判定する方法、あるいは、試料溶液ドロップ中において、成長したタンパク質結晶の結晶性の良否をその場で判定する方法に関する。
タンパク質が示す種々の機能、例えば、酵素活性を発揮する分子科学的なメカニズムを解明する上では、対象とするタンパク質の三次元的な構造情報が利用される。具体的には、タンパク質分子上の活性中心に対して、基質物質が結合することで、タンパク質分子と基質物質との間で、何らかの相互作用が発生し、酵素反応が進行する。その分子科学的なメカニズムを解明する上では、タンパク質分子の三次元構造の知見が基礎として利用される。
タンパク質分子の三次元構造を解析する手段として、X線結晶構造解析を利用して、タンパク質結晶中において、対象のタンパク質分子が採っている三次元構造を決定する手法が広い範囲で利用されている。このX線結晶構造解析では、タンパク質結晶を用いて、規則的な結晶の単位格子中に固定化されているタンパク質分子を構成する各原子周囲の電子によって、回折されるX線の強度データに基づき、各原子の周囲に存在する電子密度の三次元的なマップを作成する。作成された電子密度の三次元的なマップから、高い電子密度を示す部分に、それぞれ対応する原子を当て嵌め、タンパク質分子を構成する各原子の座標を特定し、最終的に、タンパク質分子の三次元構造を決定される。そのため、解析に利用されるタンパク質結晶は、良好な結晶性である、少なくとも、各単位格子中に固定されているタンパク質分子は、格子軸方向の並進対称性が高いことが不可欠である。
タンパク質結晶において、格子軸方向の並進対称性が低下している場合、例えば、各単位格子中において、対応する位置を占めるタンパク質分子の微視的な配向に乱れがあると、作成された電子密度の三次元的なマップは、これらのタンパク質分子の微視的な配向を加重平均したものとなる。換言すると、微視的な配向の乱れによって、見掛け上、電子密度が拡がりを有したものとなり、各原子座標の特定が困難となる場合もある。
従来、タンパク質結晶の結晶性の良否は、実際にX線回折を測定し、その回折X線強度データから、三次元電子密度マップを作成する過程で、良好な分解能が得られているか否かを確認する以外に判定を行う手段はなかった。具体的には、作製されたタンパク質結晶の外形、ならびに、その結晶格子定数を測定する段階では、各単位格子中において、対応する位置を占めるタンパク質分子の微視的な配向に乱れがあるか否かは、判定することが困難である。
一方、タンパク質の結晶作製に利用される、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法では、対象タンパク質を溶解する試料溶液ドロップ中に含まれる水溶媒を、蒸気拡散により徐々に除去することにより、タンパク質結晶の析出を引き起こしている。具体的には、水溶液中において、タンパク質分子は、水溶媒により溶媒和され、さらに、タンパク質分子の表面を取り囲むように水溶媒のケージが形成された状態で溶解している。水溶媒が除去され、溶液中に含まれる自由な水分子の活量が低下すると、この自由な水分子と平衡している水溶媒のケージが崩壊し、結果的に、タンパク質分子の析出が誘起される。実際には、水溶媒を徐々に除去すると、相対的にタンパク質分子が濃縮され、熱力学的な溶解度を若干超えた時点では、タンパク質分子の一部は、水溶媒のケージが部分的に崩壊した状態となるが、タンパク質分子複数が凝集し、析出を開始するには至らない、準安定状態となる。この「準安定状態」は、「過飽和状態」に相当しており、溶液中に微視的な擾乱が生じると、水溶媒のケージが部分的に崩壊した状態から、水溶媒のケージが完全に崩壊した状態と、部分的に崩壊した水溶媒のケージが修復された状態とに「不均化」が進み、水溶媒のケージが完全に崩壊した状態のタンパク質分子複数が凝集し、析出を開始する。この析出するタンパク質分子複数が、結晶における規則性を示す凝集状態を構成すると、それが結晶核となり、タンパク質の結晶成長が進行する。
一方、タンパク質分子複数が凝集する際、例えば、近接して、複数の凝集核が発生し、互いに、タンパク質分子の配向が相違する、複数の凝集核が会合した状態となると、全体として、結晶における規則性を示さない析出体が生成される。すなわち、所謂、「アグリゲート」状、あるいは、「多結晶」状の微細な凝集体の会合物となる。
タンパク質分子が析出する際、単一の結晶核を起点として、単結晶へと結晶成長するか、あるいは、所謂、「アグリゲート」状の凝集体の会合物を形成するかは、試料溶液ドロップ中に含まれる水溶媒を、蒸気拡散により徐々に除去する過程において、タンパク質分子の濃度上昇する速度、特には、「過飽和度」が増す速度に依存している。勿論、この「単一の結晶核を起点として、単結晶へと結晶成長する」条件、所謂、「単結晶化条件」は、対象のタンパク質毎に異なっており、タンパク質のX線結晶構造解析を行う際、先ず、対象のタンパク質に適する「単結晶化条件」を特定することが必要となる。
ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用し、タンパク質の結晶化を行う際には、タンパク質分子の熱力学的な溶解度を低下させるため、一般に、結晶化剤が利用されている。具体的には、結晶化剤として、高い水溶解性を有する、親水性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、あるいは、高い溶解度を示し、タンパク質に対して、塩析効果を示す電解質、例えば、硫酸アンモニウムが利用されている。タンパク質の水溶液中に、電解質、例えば、硫酸アンモニウムを高い濃度で溶解すると、生成するイオン種は、水分子により溶媒和された状態となり、その結果、水溶液中に存在する自由な水分子の存在比率が低下する。従って、水溶媒により溶媒和され、さらに、タンパク質分子の表面を取り囲むように水溶媒のケージが形成された状態で溶解することが可能なタンパク質分子の濃度(タンパク質分子の熱力学的な溶解度)が低下する。水溶液中に溶解している電解質濃度を増すとともに、タンパク質分子の熱力学的な溶解度は低下し、該水溶液中に含まれているタンパク質分子の濃度を、タンパク質分子の熱力学的な溶解度が下回ると、析出可能な状態となる。
高い水溶解性を有する、親水性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)を高濃度で溶解する場合も、ポリエチレングリコール(PEG)の分子表面は、水分子により安定に溶媒和された状態となっており、その結果、水溶液中に存在する自由な水分子の存在比率が低下する。従って、水溶液中に溶解している、親水性ポリマーの濃度を増すとともに、タンパク質分子の熱力学的な溶解度は低下し、該水溶液中に含まれているタンパク質分子の濃度を、タンパク質分子の熱力学的な溶解度が下回ると、析出可能な状態となる。
ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法では、試料溶液ドロップ中に含まれる対象タンパク質分子濃度(Cpr-i)と、塩析効果によって低下した対象タンパク質分子の熱力学的な溶解度(Cpr-eq)とを等しくすることが可能な、結晶化剤、例えば、硫酸アンモニウムの境界的濃度(Ccritical)を基準として、水蒸気のリザーバに用いる水溶液中には、試料溶液ドロップ中に含まれる対象タンパク質分子濃度では、塩析効果による対象タンパク質の析出が進行する高い濃度(C1:C1>Ccritical)で、該硫酸アンモニウムを溶解し、一方、試料溶液ドロップ中には、塩析効果による対象タンパク質の析出が起こらない範囲に選択される、当初濃度(C0(0):C0(0)<Ccritical)で硫酸アンモニウムを溶解する。試料溶液ドロップの表面における水分子の活量は、リザーバ用水溶液の表面における水分子の活量より大きなため、対応する水の蒸気圧(気相中の水分子の含有濃度)差が形成されている。そのため、この濃度差(濃度勾配)に起因して、試料溶液ドロップの表面から、リザーバ用水溶液の表面へと、水分子が拡散により輸送され、結果的に、試料溶液ドロップの表面から、水分子の蒸散が進行し、試料溶液ドロップ中に含まれる、対象タンパク質分子濃度(Cpr(t))、硫酸アンモニウム濃度(C0(t))は、経過した時間tとともに、徐々に上昇する。結晶化剤の硫酸アンモニウム濃度(C0(t))における、対象タンパク質分子の熱力学的な溶解度(Cpr-eq(t))は、硫酸アンモニウム濃度(C0(t))の上昇に従って、経過時間tとともに低下する。一方、試料溶液ドロップ中に含まれる、対象タンパク質分子濃度(Cpr(t))は、経過時間tとともに上昇する。試料溶液ドロップ中に含まれる、対象タンパク質分子濃度(Cpr(t))が、対象タンパク質分子の熱力学的な溶解度(Cpr-eq(t))を超え、過飽和状態となり、その差ΔCp-oversat。(t)≡{Cpr(t)−Cpr-eq(t)}が、ある限界値を超えると、試料溶液ドロップ中に、対象タンパク質の結晶核生成が開始する。
生成した結晶核を起点として、結晶成長が進行する過程では、この結晶核の表面の極く近傍では、局所的なタンパク質分子濃度は、熱力学的な溶解度(Cpr-eq(t))と等しいが、結晶核の生成がなされていない領域では、タンパク質分子濃度は、Cpr(t)であり、この濃度差(濃度勾配)に起因する拡散過程で、結晶核の表面に対象タンパク質が輸送され、結晶成長が進行する。また、前記拡散過程により、結晶核の生成がなされていない領域においても、タンパク質分子濃度は、低下していく。拡散過程によるタンパク質分子濃度の低下速度(単位時間当たりの低下量)と比較し、対象タンパク質分子の熱力学的な溶解度(Cpr-eq(t))の低下速度(単位時間当たりの低下量)が大きい場合、当初、結晶核の生成がなされていない領域では、差ΔCpr-oversat。(t)≡{Cpr(t)−Cpr-eq(t)}がさらに大きくなり、別の結晶核が生成される。結果的に、試料溶液ドロップ中に、多数の結晶核の生成が引き起こされる。場合によっては、一旦生成した結晶核相互が会合して、所謂「アグリゲート」状の凝集体の会合物を形成する、あるいは、生成した多数の結晶核から、それぞれ、微小なサイズの単結晶へと成長するため、所望とするサイズを有するタンパク質単結晶まで、結晶サイズの拡大がなされないことも少なくない。
すなわち、「単一の結晶核を起点として、単結晶へと結晶成長する」条件、所謂、「単結晶化条件」のうち、タンパク質のX線結晶構造解析に利用可能な、所定のサイズ以上のタンパク質単結晶の作製がなされる条件を選別することが必要であり、この過程は、「単結晶化条件」の最適化と呼ばれている。実際的には、予備的な検討を行って、一旦生成した結晶核相互が会合して、所謂「アグリゲート」状の凝集体の会合物が形成される条件を除き、少なくとも、生成した多数の結晶核から、それぞれ、微小なサイズの単結晶へと成長する条件を見出し、この「微小な単結晶の形成可能な条件」を手掛かりとし、結晶化条件パラメータ:温度T、pHと該pHを維持するバッファ溶液組成、試料溶液ドロップのサイズ(液滴量)、リザーバ用水溶液中の結晶化剤濃度C1、試料溶液ドロップ中の結晶化剤の初期濃度C0(0)、試料溶液ドロップ中の対象タンパク質分子の初期濃度Cpr(0)=Cpr-iを更に調整して、「単結晶化条件」の最適化を行う。
その際、「予備的な検討」においては、対象タンパク質について、「微小な単結晶の形成可能な条件」を見出す段階では、多くの場合、対象タンパク質分子の熱力学的な溶解度(Cpr-eq)の、添加される結晶化剤、例えば、硫酸アンモニウム濃度に対する依存性に関して、殆ど情報が無い状態から、「微小な単結晶の形成可能な条件」を見出す作業を行う必要がある。従って、温度T、pHと該pHを維持するバッファ溶液組成、試料溶液ドロップのサイズ(液滴量)は、同一の条件に設定した上で、結晶化剤の種類、リザーバ用水溶液中の結晶化剤濃度C1、試料溶液ドロップ中の結晶化剤の初期濃度C0(0)、試料溶液ドロップ中の対象タンパク質分子の初期濃度Cpr(0)=Cpr-iの4種のパラメータに関して、マトリックス状に予めパラメータ(選択肢)を選定して、「微小な単結晶の形成可能な条件」を機械的(自動的)にスクリーニングする手法が広く利用されている。
タンパク質の結晶成長に関しては、Feherらによって、大まかな機構とその制御要因が明らかにされている(非特許文献1)。その際、例えば、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、タンパク質を含有する試料溶液ドロップ中の水分子を徐々に除去し、濃縮を進め、ドロップ中において、その段階で発生するタンパク質分子間の相互作用、特に、タンパク質分子複数の凝集が進み、析出が起こる過程をモニターする手段として、一般的に、静的・動的光散乱法が利用されてきた。具体的には、均一なタンパク質を含有する試料溶液ドロップ中において、タンパク質分子複数の凝集が進み、析出が起こると、すなわち、単一の結晶核を起点として、微細な単結晶へと結晶成長する、あるいは、所謂、「アグリゲート」状の凝集体の会合物が形成されると、これらの微細な粒子は、当然、周囲の溶液とは、屈折率が異なる固相粒子であり、その粒子表面において、光散乱が起こる。従って、凝集、析出が開始すると、微細な粒子に起因する散乱光強度が増大する。更に、微細な粒子の密度が増すとともに、微細な粒子に起因する散乱光強度が増大していく。この現象を利用して、タンパク質を含有する試料溶液ドロップ中において、凝集、析出に起因する、微細な粒子の生成、その密度の変化を、散乱光強度の変化として、検出する手法が利用されている。
この光散乱法を利用する、凝集、析出に起因する、微細な粒子の生成、その密度の変化をモニターする手法は、多様な条件パラメータについて、「微小な単結晶の形成可能な条件」を機械的(自動的)にスクリーニングする「大規模スクリーニング」において、多数の試料溶液ドロップにおいて、微細な粒子の生成、その密度の変化を自動的に監視する手段として利用されている(非特許文献2)。
この光散乱法は、基本的には、均一な溶液と、その中に存在する微細な粒子と屈折率の差違を利用し、その固液界面における、ステップ状の屈折率変化に起因した散乱光をモニターするものであり、生成した微細な粒子の凝集サイズを見積もる手段として利用することは困難である。特に、光散乱法では、タンパク質分子の微細な結晶と、「アグリゲート」状の不定凝集体とを、自動的に弁別する手段として、利用することも困難である。「微小な単結晶の形成可能な条件」を機械的(自動的)にスクリーニングする「大規模スクリーニング」においては、光散乱法を利用する自動的なモニターにおいて、微細な粒子の生成が検出されたものについて、最終的に、顕微鏡観察によって、微細な単結晶か、「アグリゲート」状の凝集体であるか、確認を行う必要がある。
Nucleation and Growth of Protein Crystal; General Principles and Assay, G. Feher and Z. Kam, (1985) Methods in Enzymology, 77−112 理化学研究所 平成14年5月9日 プレスリリース;自動結晶化観察ロボットシステム「TERA」
光散乱法では、高濃度の溶液中に生成するタンパク質分子の凝集系について、レイリー散乱を散乱角が大きな範囲、例えば、散乱角が180゜(後方散乱条件)において観測することにより、当初、高濃度の溶液中にタンパク質分子は均一に溶解している状態と、タンパク質分子の凝集系(微細粒子)が生成した後の状態とでは、そのレイリー散乱光強度が変化することを利用している。この後方散乱配置における、レイリー散乱は、干渉性散乱であり、入射光として、位相の揃った(単一波長性の高い)のレーザー光を利用すると、観測される散乱光も同じ位相を有する結果、位相の揃った(単一波長性の高い)ものとなる。すなわち、微細粒子と、溶液部分とでは、レイリー散乱光の波長分布は等しく、単に、散乱光強度が相違している状態となる。従って、レイリー散乱を利用する、光散乱法では、高濃度の溶液中に生成した微細な粒子が、タンパク質分子の微細な結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるかを弁別することは不可能であった。
一方、試料溶液ドロップに含まれる水溶媒を除去して、濃縮を進める過程では、タンパク質分子の濃度も上昇するが、高濃度で添加されている、結晶化剤の濃度も上昇する結果、場合によっては、タンパク質分子の析出が開始する前に、結晶化剤の濃度が、タンパク質分子や緩衝液成分の共存下における、該結晶化剤の熱力学的な溶解度を超えることもある。その際には、結晶化剤の析出が起こり、試料溶液ドロップ中に、結晶化剤の微細な凝集物の生成が起こる。それ以降、さらに、水溶媒を除去し、濃縮を進めても、結晶化剤の析出量は増すが、結晶化剤の実効的な濃度は増加せず、そのため、タンパク質分子の析出に至らない状態となる。このタンパク質分子の析出に先立ち、結晶化剤の析出が開始した場合も、レイリー散乱を利用する、光散乱法では、高濃度の溶液中に生成した微細な粒子が、タンパク質分子に由来する析出物か、結晶化剤に由来する析出物であるか、その弁別を行うことは困難であった。
試料溶液ドロップ中に生成した微細な粒子(析出物)について、タンパク質分子に由来する析出物か、結晶化剤に由来する析出物であるか、その弁別を簡便に、非接触的に行う手段が望まれている。また、生成した微細な粒子(析出物)が、タンパク質分子に由来する析出物であることを確認した後、このタンパク質分子に由来する析出物の微細な粒子が、タンパク質分子の微細な結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるか、その弁別を簡便に、非接触的に行う手段が望まれている。
本発明は、前記の課題を解決するものであり、本発明の目的は、試料溶液ドロップ中に生成した微細な粒子(析出物)について、タンパク質分子に由来する析出物であることを、その場で確認することが可能な非接触的な検出手段、さらには、タンパク質分子に由来する析出物(微細な粒子)であることを確認した後、タンパク質分子の微細な結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるかを、その場で判定することが可能な非接触的な検出手段を提供することにある。
本発明者らは、例えば、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、タンパク質分子の単結晶を作製する際、試料溶液ドロップ中の水分子を徐々に除去し、濃縮を進める過程において、該ドロップ中で生じる現象を詳細に観察し、検討を行った。まず、水分子の除去は、溶液ドロップ表面から、水分子が徐々に蒸散する過程により生じ、結果的に、自由な水分子の含有比率(活量)は、溶液ドロップの最表面では、最も低く、ドロップの内部に向かうにつれて、上昇している。換言すると、析出が開示しない時点では、相対的に、結晶化剤ならびにタンパク質分子の含有濃度は、溶液ドロップの最表面が、最も高く、ドロップの内部に向かうにつれて、低下している。従って、局所的には、タンパク質分子の熱力学的な溶解度は、ドロップの表面近傍では、最も低下しており、一方、タンパク質分子の実効的な含有濃度は最も高くなっている。同様に、局所的には、結晶化剤の熱力学的な溶解度は、ドロップの表面近傍では、最も低下しており、一方、結晶化剤の実効的な含有濃度は最も高くなっている。
濃縮が進むと、ドロップの表面近傍において、タンパク質分子の実効的な含有濃度Cpr-eff(t)が、実効的濃度C0-eff(t)の結晶化剤存在下におけるタンパク質分子の熱力学的な溶解度Cpr-eq(t)より高くなり、過飽和状態となる。その差ΔCpr-oversat。(t)≡{Cpr-eff(t)−Cpr-eq(t)}が、特定の限界値(閾値)を超えると、タンパク質分子の析出が開始する。その後、ドロップの表面近傍においては、タンパク質分子の実効的な含有濃度Cpr-eff(t)は、タンパク質分子の熱力学的な溶解度Cpr-eq(t)と略等しい値まで低下する。
逆に、ドロップの表面近傍において、結晶化剤の実効的な含有濃度C0-eff(t)が、実効的濃度Cpr-eff(t)のタンパク質分子存在下における結晶化剤の熱力学的な溶解度C0-eq(t)より高くなり、過飽和状態となった場合、場合によっては、タンパク質分子の析出に先立ち、結晶化剤の析出が開始する。その後、ドロップの表面近傍においては、結晶化剤の実効的な含有濃度C0-eff(t)は、結晶化剤の熱力学的な溶解度C0-eq(t)と略等しい値まで低下する。
上記の状況下では、タンパク質分子の析出に先立ち、結晶化剤の析出が開始すると、結晶化剤の析出が優先的に進行し、結晶化剤の実効的な含有濃度C0-eff(t)の上昇は無く、タンパク質分子の析出は、寧ろ抑制された状態となる。結晶化剤として、無色結晶を与える電解質、例えば、硫酸アンモニウム:(NH42SO4を利用すると、ドロップの表面近傍に、斜方晶系の硫酸アンモニウムの微細な単結晶の析出が開始すると、タンパク質分子の析出は、抑制された状態となる。
結晶化条件を探索している段階では、対象タンパク質の単結晶の形状は判明してなく、ドロップの表面近傍に析出してきた、斜方晶系の硫酸アンモニウムの微細な単結晶を、対象タンパク質の微細な単結晶と誤認する可能性がある。勿論、分子サイズは、硫酸アンモニウムとタンパク質分子とでは、桁違いの差違があり、格子定数の測定を行うと、測定される格子定数は、タンパク質分子の単結晶で予測される範囲と明確に相違しており、誤認する可能性は無いが、外形形状の観察だけでは、弁別できないことも少なくない。
本発明者らは、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物は、タンパク質分子に由来する析出物か、結晶化剤に由来する析出物のいずれかである点に着目して、その場において、両者の弁別を行う手段を検討した。その際、検出対象の析出物は、ドロップの表面近傍に存在しているため、光学的な検出方法を適用して、タンパク質分子に由来する析出物か、結晶化剤に由来する析出物かを判定する手段が適すると結論した。タンパク質分子は、大きな分子量を有する有機物であり、特に、アミノ酸残基からなるペプチド鎖が、三次元的な構造を構成しており、その構造に特徴的な分子振動を有することに着目した。試料溶液中に溶解しているタンパク質分子と、タンパク質分子に由来する析出物中に含まれるタンパク質分子との局所的な密度を比較すると、析出物中における局所的な密度が桁違いに高くなっており、タンパク質分子に特有な分子振動に起因するラマン散乱を観測すると、ラマン散乱光強度は、溶液部分と比較し、タンパク質分子に由来する析出物において、桁違いに大きくなることを見出した。勿論、硫酸アンモニウムなどの結晶化剤に由来する析出物中には、タンパク質分子は含まれておらず、タンパク質分子に特有な分子振動に起因するラマン散乱は観測されない。
すなわち、硫酸アンモニウムなどの結晶化剤に由来する析出物では、レイリー散乱は観測されるが、タンパク質分子に特有な分子振動に起因するラマン散乱は観測されないが、タンパク質分子に由来する析出物においては、レイリー散乱と同時に、タンパク質分子に特有な分子振動に起因するラマン散乱も顕著に観測される。また、タンパク質分子に特有な分子振動に起因するラマン散乱光強度は、溶液部分と比較し、タンパク質分子に由来する析出物では、桁違いに大きくなっており、タンパク質分子に特有な分子振動に起因するラマン散乱光強度の変化を追尾すると、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、ドロップの表面近傍にタンパク質分子に由来する微細な析出物が生成する過程をその場でモニターすることが可能であることを見出した。
さらに、タンパク質分子に由来する析出物であることが確認された際、タンパク質分子の微細な単結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるかに関しても、タンパク質分子に特有な分子振動に起因するラマン散乱に関して、「ラマン散乱の偏光解消」を測定することで判定可能であることを見出した。「アグリゲート」状の不定凝集体中では、含有されているタンパク質分子は、全体的には、その配向は、「ランダム」と見做せるが、微細な単結晶中では、含有されているタンパク質分子の配向は、該単結晶の対称性、すなわち、所定の空間群に依存して、「異方性」を示すものとなっている。タンパク質分子の自体、その三次元的構造は「異方的」であり、従って、タンパク質分子の単結晶は、立方晶系に属することはなく、一軸性結晶である、正方晶系、あるいは、二軸性結晶である、斜方晶系、単斜晶系、三斜晶系のいずれかに属する。一軸性結晶の電気分極率テンソル、ならびに、二軸性結晶の電気分極率テンソルは、当然、異方性を示し、これらの光学的異方性を示す単結晶中に固定化されているタンパク質分子に起因するラマン散乱は、「ランダム」系における、「ラマン散乱の偏光解消」とは相違する、「偏光特性」を示す。
すなわち、微細な単結晶中においては、該単結晶の結晶系、対称性(空間群)に応じて、「ランダムな溶液系」で観測される、「ラマン散乱の偏光解消」とは、明確に異なる「偏光特性」を示すが、「アグリゲート」状の不定凝集体中では、寧ろ、「ランダム」な配向と見做すことが可能な「偏光特性」を示す。具体的には、タンパク質分子に特有な分子振動に起因するラマン散乱に関して、空間固定の座標系において、入射光の入射方向と、ラマン散乱光の出射方向とを互いに固定し、入射光の偏光面と、ラマン散乱光を観測する、偏光面との間の相関を検出すると、微細な単結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるかの判別が可能であることを見出した。
さらには、X線結晶構造解析に利用可能なサイズのタンパク質分子の単結晶に関して、その結晶性を確認する際にも、空間固定の座標系において、入射光の入射方向、ラマン散乱光の出射方向とを互いに固定し、入射光の偏光面と、ラマン散乱光を観測する、偏光面との間の相関を詳細に観察すると、単結晶内におけるタンパク質分子の配向に乱れがあり、並進対称性が低下していると、ラマン散乱光強度の入射光の偏光面に対する「偏光角依存性」の低下として、観測可能であることを見出した。
本発明者らは、以上の知見に基づき、下記の本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第一の形態は、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物は、タンパク質分子に由来する析出物か、結晶化剤に由来する析出物であるかを判定する方法である。
本発明の第一の形態にかかるラマン散乱法を利用して、溶液中の微細な析出物を判定する方法は、
蒸気拡散法により、タンパク質分子を含む溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物の種類を、非接触的に判定する方法であって、
該タンパク質分子を含む溶液ドロップ中には、該タンパク質分子とその結晶化を促進する機能を有する結晶化剤が含有されており、
溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物は、該タンパク質分子に由来する析出物であるか、前記結晶化剤に由来する析出物であるかの判定は、
前記ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットに、入射レーザー光を集光照射し、
該微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を検出し、
予め、微細な析出物を含まない溶液ドロップに、前記微小なスポットと同じスポット面積で、入射レーザー光を集光照射し、
該溶液の微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を検出し、
該微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットにおいて検出されたラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分のストークス・ラマンスペクトルと、該溶液の微小なスポットにおいて検出されたラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分のストークス・ラマンスペクトルとを比較し、
該微細な析出物の存在に起因して、ラマン散乱光強度が増大するストークス線を特定し、
該特定されたストークス線が由来する振動モードの振動数が、
該タンパク質分子に特徴的な振動モードの振動数である場合、前記ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物は、該タンパク質分子に由来する析出物である;
該特定されたストークス線が由来する振動モードの振動数が、
前記結晶化剤に特徴的な振動モードの振動数である場合、前記ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物は、前記結晶化剤に由来する析出物である;
と判定する
ことを特徴とする、ラマン散乱法を利用して、溶液中の微細な析出物を判定する方法である。
その際、前記微細な析出物の存在に起因して、ラマン散乱光強度が増大するストークス線を特定する際、少なくとも、
対象タンパク質分子のペプチド主鎖を構成するアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードのうち、二次構造を構成するペプチド主鎖中のアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードに起因するストークス線のラマン散乱光強度の対比を行うことは好ましい。
例えば、対象タンパク質分子のアミノ酸配列に基づき、予め、含まれる二次構造の有無に関して、予測した上で、少なくとも、
β−シートを構成しているβ−ストランド構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (β−strand) 1670cm-1、amide III (β−strand) 1235cm-1;または
α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線のラマン散乱光強度のいずれかの対比を行うことが好ましい。特には、少なくとも、二次構造のなかでも、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線のラマン散乱光強度のいずれかの対比を行うことがより好ましい。
また、本発明の第二の形態は、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、ドロップの表面近傍に析出しているタンパク質分子に由来する析出物は、対象タンパク質分子の微細な単結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるかを判定する方法である。
本発明の第二の形態にかかる偏光ラマン散乱法を利用して、溶液中のタンパク質分子に由来する微細な析出物を判定する方法は、
蒸気拡散法により、タンパク質分子を含む溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物の種類を、非接触的に同定する方法であって、
溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物は、該タンパク質分子の微細な単結晶であるか、該タンパク質分子の「アグリゲート」状の不定凝集体であるかの判定は、
前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットに、入射レーザー光を集光照射し、
該タンパク質分子由来の微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を検出し、
予め、タンパク質分子由来の微細な析出物を含まない溶液ドロップに、前記微小なスポットと同じスポット面積で、入射レーザー光を集光照射し、
該溶液の微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を検出し、
該タンパク質分子由来の微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットにおいて検出されたラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分のストークス・ラマンスペクトルと、該溶液の微小なスポットにおいて検出されたラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分のストークス・ラマンスペクトルとを比較し、
該タンパク質分子由来の微細な析出物の存在に起因して、ラマン散乱光強度が増大するストークス線を特定し、
該特定されたストークス線中に、少なくとも、該タンパク質分子が有するα−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線のいずれかが含まれていることを確認し、
前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットに、直線偏光の入射レーザー光を集光照射し、ラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分を、偏光板を介して検出する際、
偏光板の偏光面の方向を基準として、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)が平行となる状態で観測される偏光ストークス・ラマンスペクトルと、直交する状態で観測される偏光ストークス・ラマンスペクトルとを比較し、
少なくとも、該タンパク質分子が有するα−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線の強度のいずれかが、
前記二つの偏光ストークス・ラマンスペクトル間で有意に相違する場合、前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物は、該タンパク質分子の微細な単結晶である;
前記二つの偏光ストークス・ラマンスペクトル間で有意に相違場合、前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物は、該タンパク質分子の「アグリゲート」状の不定凝集体である;
と判定する
ことを特徴とする偏光ラマン散乱法を利用して、溶液中のタンパク質分子に由来する微細な析出物を判定する方法である。
その際、入射レーザー光を集光照射し、その照射スポット中に、溶液ドロップの表面近傍に析出している、対象タンパク質に由来する微細な析出物が一つ存在する状態において、偏光ラマンスペクトルの測定を行うことが好ましい。
さらに、本発明の第三の形態は、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、作製された対象タンパク質分子の単結晶について、該単結晶の単位結晶格子中に存在する対象タンパク質分子の配向に微視的な乱れが存在するか、否かを判定する方法である。
本発明の第三の形態にかかる偏光ラマン散乱法を利用して、溶液中に存在するタンパク質分子の単結晶の結晶性を判定する方法は、
蒸気拡散法により、タンパク質分子を含む溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子の単結晶の結晶性良否を、非接触的に判定する方法であって、
溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子の単結晶は、良好な結晶性を有する単結晶であるか、結晶性が劣った単結晶であるかの判定は、
前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子の単結晶の表面上に、微小なスポットで、直線偏光の入射レーザー光を集光照射し、
該タンパク質分子の単結晶表面上の微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を、偏光板を介して検出する際、
偏光板の偏光面の方向を基準として、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)が平行となる状態で観測される偏光ストークス・ラマンスペクトルを、
該タンパク質分子の単結晶表面に照射する入射レーザー光の偏光方向と、該タンパク質分子の単結晶が有する一つの結晶軸方向とのなす角度θを変化させて、測定し、
該偏光ストークス・ラマンスペクトル中、
少なくとも、該タンパク質分子が有するα−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線の強度のいずれかに関して、前記角度θに対する依存性を求め、
前記ストークス線の強度における角度θに対する依存性は、
特定の角度θにおいて、ピークを示し、該ピークにおける強度の1/2となる角度θに関する分布の半値幅Δθobs.が、
別途、他のタンパク質分子の良好な結晶性を示す単結晶において測定された、半値幅の代表値Δθcriticalを基準として、
該対象タンパク質分子の単結晶において、測定される半値幅Δθobs.が、Δθobs.≦1.2×Δθcriticalの範囲である場合、該対象タンパク質分子の単結晶は、良好な結晶性の単結晶と判定する;
該対象タンパク質分子の単結晶において、測定される半値幅Δθobs.が、Δθobs.≧2×Δθcriticalの範囲である場合、該対象タンパク質分子の単結晶は、結晶性が劣る単結晶と判定する
ことを特徴とする偏光ラマン散乱法を利用して、溶液中に存在するタンパク質分子の単結晶の結晶性を判定する方法である。
本発明の第一の形態では、対象タンパク質分子に特徴的な分子振動に起因するラマン散乱光をモニターすることにより、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、ドロップの表面近傍に析出してきた微細な析出物が、対象タンパク質分子に由来する析出物であるか否かを簡便に判定することが可能となる。また、本発明の第二の形態では、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、ドロップの表面近傍に析出してきた、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物について、対象タンパク質分子に特徴的な分子振動に起因するラマン散乱光強度を、該微細な析出物に入射するレーザー光の偏光面を変更して測定し、該レーザー光の偏光方向に対する依存性の有無に基づき、対象タンパク質分子の微細な単結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるかを簡便に判定することが可能となる。
さらに、本発明の第三の形態では、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、作製された対象タンパク質分子の単結晶について、対象タンパク質分子に特徴的な分子振動に起因するラマン散乱光強度を、該微細な析出物に入射するレーザー光の偏光面を変更して測定し、該レーザー光の偏光方向に対する依存性を詳細に観測した結果に基づき、該レーザー光の偏光方向に対する依存性における角度分布の拡がりの大小によって、該単結晶の単位結晶格子中に存在する対象タンパク質分子の配向に微視的な乱れが存在するか、否かを簡便に判定することが可能となる。
本発明に関して、より詳しく説明する。
タンパク質分子を含む溶液中においては、複数個のタンパク質が会合して、巨大な分子集合体を構成すると、この巨大な分子集合体は、単色性の高いレーザー光を散乱させる散乱核として機能する。例えば、複数種のエピトープを保持している抗原に対して、各エピトープにそれぞれ特異的に反応する全抗体複数種を反応させると、抗原を中心に、複数の全抗体分子が結合した、イムノグロブリン・タンパク質分子を多数含む巨大な抗原抗体複合体が形成され、溶液中に均一に分布可能な散乱体として機能する。レーザー・イムノアッセイ法では、前記イムノグロブリン・タンパク質分子を多数含む巨大な抗原抗体複合体を、例えば、波長633nmのヘリウム−ネオン・ガスレーザーのように、単色性、指向性、収束性、干渉性の優れたガスレーザー光を光源として、該巨大な分子集合体に起因するレイリー散乱光強度を観測して、巨大な抗原抗体複合体の密度を定量している。
レイリー散乱では、入射されたレーザー光の振動電場によって、振動双極子あるいは分極が生じ、この振動双極子あるいは分極に起因して、光が放散される。このレイリー散乱は、波長依存性が極めて大きいため、レーザー・イムノアッセイ法のように、定量性を要求する散乱光の測定手段では、単色性の高いレーザー光を入射光に利用することで、実質的に波長依存性の影響を排除している。
ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、ドロップの表面近傍に析出してくる微細な析出物は、上記のレーザー・イムノアッセイ法が対象とする巨大な抗原抗体複合体のように、溶液中に溶解している状態ではなく、複数の分子が凝集して、固相を構成して、表面近傍に浮遊している状態の微小な粒子状のものである。すなわち、先ず、少数の分子が会合し、核を形成し、その核を中心として、周囲からさらに、複数個の分子が凝集して、全体として、固相微粒子としての性質を具えているものである。具体的には、少数の分子が会合し、結晶学的な規則性を有する配置を占めて、結晶核を生成し、その表面にさらに分子が凝集し、微細な単結晶へと成長している過程のもの、あるいは、まず、少数の分子が会合し、分子集合体を構成し、この分子集合体複数が相互に凝集し、全体として、結晶学的な規則性を示さない、「アグリゲート」状の凝集体を形成している過程のもの、または、微視的には結晶学的な規則性を有するが、全体としては、長周期の規則性を示していない、「アグリゲート」状の多結晶様凝集体を形成している過程のものである。
ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、ドロップの表面近傍に析出してくる微細な析出物は、上で説明したように、対象タンパク質分子の析出によって形成され、対象タンパク質分子由来の微細な析出物、あるいは、条件によって、結晶化剤が先に析出を開始する結果、生成される結晶化剤由来の微細な析出物のいずれかである。
いずれの微細な析出物に関しても、該析出物自体は、溶媒の水分子を部分的に取り込む可能性はあるが、主要な構成分子は、対象タンパク質分子または結晶化剤自体であり、この固相を構成している析出物中おける含有密度は、周囲の溶液中における濃度より、桁違いに高くなっている。従って、この析出物を散乱体として、対象タンパク質分子または結晶化剤に由来する、振動双極子あるいは分極によって、誘起されるレイリー散乱が観測される。その際、レイリー散乱光強度/入射レーザー光強度の比率から、均一な溶液中に分散している散乱体の密度、ならびに、散乱体の大まかなサイズを見積もることは可能である。しかし、この散乱体として機能している、微細な析出物を構成している、主要な構成分子が、対象タンパク質分子であるか、あるいは、結晶化剤であるかを、レイリー散乱光を利用する測定結果に基づき、判定することが一般的に困難である。
一方、本発明においては、レイリー散乱に代えて、微細な析出物から発するラマン散乱を観測することで、微細な析出物を構成している、主要な構成分子自体の分子振動の振動数に関する情報を得て、微細な析出物を構成している、主要な構成分子が、対象タンパク質分子であるか、あるいは、結晶化剤であるかを、判別している。結晶化剤の分子振動の振動数は、既知であり、一方、対象タンパク質分子自体の分子振動は、そのペプチド鎖を構成するアミノ酸残基の側鎖に存在する原子団、ならびに、ペプチド主鎖を構成しているアミド結合(−CO−NH−)に由来する、特異的な振動数を示す。従って、レーザー・ラマン分光法を適用して、微細な析出物を構成している、主要な構成分子自体の分子振動の振動数を測定することで、該主要な構成分子が、対象タンパク質分子であるか、あるいは、結晶化剤であるかを、一義的に判別することができる。
勿論、微細な析出物の周囲を取り囲んでいる溶液中には、対象タンパク質分子が溶解しているため、微細な析出物を構成している対象タンパク質分子と同様に、ラマン散乱を起こす。但し、微細な析出物中における、対象タンパク質分子の密度は、溶液中に溶解している対象タンパク質分子の濃度より、桁違いに高いため、対象タンパク質分子の固相で構成される、微細な析出物から発するラマン散乱光強度(局所的強度)は、溶液部分から発するラマン散乱光強度よりも、桁違いに高くなっている。
本発明においては、レーザー・ラマン分光法を適用して、通常、入射レーザー光の周波数ν0より、低周波数側のストークス線の周波数(ν0−ν1)を観測して、分子振動の周波数ν1を特定している。
本発明の第一の形態にかかる方法は、主に、X線結晶構造解析に利用する、対象タンパク質分子の結晶化条件を検討する際、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、ドロップの表面近傍に析出してくる微細な析出物が、対象タンパク質分子由来の微細な析出物であるか、あるいは、条件によって、結晶化剤が先に析出を開始する結果、生成される結晶化剤由来の微細な析出物であるかを判定する手法として利用される。従って、対象タンパク質のアミノ酸配列は、予め解明されており、また、十分に精製された対象タンパク質を溶解している溶液に適用される。そのため、対象タンパク質について、レーザー・ラマン分光法を適用して、結晶化剤を含まない溶液中で観測されるラマン散乱を別途測定する。その際、該溶液試料中において測定されるストークス線の周波数(ν0−ν1)に基づき、対象タンパク質分子に特徴的な分子振動の周波数ν1を前もって特定することができる。
加えて、対象タンパク質分子の三次元構造の詳細に関しては、未だ解析はなされていないが、該対象タンパク質のアミノ酸配列に基づき、既に、X線結晶構造解析の結果が報告されている既知のタンパク質中から、高いアミノ酸配列の相同性を有する類似のタンパク質を特定することが可能であることも多い。X線結晶構造解析の解析手法の一つである、分子置換法では、このように高いアミノ酸配列の相同性を有する、類似タンパク質のX線結晶構造解析の結果を参照して、解析対象のタンパク質のX線結晶構造解析を進める。仮に、分子置換法の適用が可能な、X線結晶構造解析の結果が報告されている類似タンパク質が判明している場合には、アミノ酸配列の相同性に基づき、該対象タンパク質のアミノ酸配列中において、二次構造、すなわち、α−ヘリックス構造、あるいは、β−ストランド構造を構成すると推定される部分配列を特定することが可能である。さらには、分子置換法の適用が可能な、X線結晶構造解析の結果が報告されている類似タンパク質が見出されない場合も、所謂、二次構造の推定方法を適用して、該対象タンパク質のアミノ酸配列中において、二次構造、すなわち、α−ヘリックス構造、あるいは、β−ストランド構造を構成すると推定される部分配列のいくつかを特定することが可能である。
タンパク質分子は、それぞれ固有の三次元構造にフォールディングされており、該フォールディングの際、構造的に安定なドメイン部分は、二次構造、すなわち、α−ヘリックス構造、あるいは、β−ストランド構造のいずれかをその構成要素として内在している。換言すると、α−ヘリックス構造、あるいは、β−シートを構成しているβ−ストランド構造は、多くの構造的に安定なドメイン部分に含まれており、それら二次構造は、該対象タンパク質分子全体の三次元構造中において、構造的に固定化された状態となっている。
実際に、タンパク質分子のストークス・ラマンスペクトルの研究により、結晶中、凍結乾燥物の形態、ならびに、溶液中において、レーザー・ラマン分光法を適用すると、タンパク質分子に固有分子振動の振動数の測定が可能であることが検証されている(“Comparison of protein structure in Crystal, in lyophilized state, and in solution by laser Raman scattering”, N. T. Yu (1974) J. Amer. Chem. Soc. 96, 4664)。タンパク質分子の周囲を取り巻く環境は、溶液中と、結晶や凍結乾燥物の形態とでは、相違しており、例えば、タンパク質分子を取り囲む水分子による、溶媒和状態が異なる結果、タンパク質分子の構造中、周辺環境に依存して、構造的変動を受け易い部分が存在することも示唆されている。例えば、二次構造を形成していない、ループ状の部分は、「フレキシブル」であり、周辺環境に依存して、そのペプチド主鎖の微視的な配置は変動することを示唆する結果も報告されている。一方、α−ヘリックス構造、あるいは、β−シートを構成しているβ−ストランド構造などの二次構造を内在する、構造的に安定なドメイン部分のペプチド主鎖の構造は、周辺環境の影響を受けにくく、溶液中と、結晶や凍結乾燥物の形態の間で、本質的に変動が無いことも報告されている。
顕微分光法を、レーザー・ラマン分光法に応用することによって、例えば、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、作製されるタンパク質分子の単結晶について、溶液ドロップの表面に単結晶が析出している状態で、該タンパク質分子の微小な単結晶からのラマン散乱を測定する装置も開発されている(“Following ligand binding and ligand reaction in proteins via Raman crystallography”, P. R. Carey and J. Dong (2004), Biochemistry 43, 8885)。具体的には、反射型の位相差顕微鏡の光学系を利用し、レーザー・ラマン散乱光を、入射レーザー光に対して、後方散乱(散乱角:180°)の配置で観測している。従って、入射レーザー光の後方反射、ならびに、後方散乱(散乱角:180°)されたレイリー散乱と同時に、レーザー・ラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分を、反射型顕微鏡の光学系に導いている。その後、入射レーザー光の後方反射成分、レイリー散乱の後方散乱成分は、ともに、入射レーザー光と同一波長(周波数ν0)の単色性の高い光であり、それは相違する波長(周波数(ν0−ν1))のストークス線から、notchフィルターを利用して、波長分離する。分離されたストークス線(周波数(ν0−ν1))は、ラマン分光器により、その周波数分散を、回折角分散として、二次元CCDプレートを用いて、同時に測定する装置構成が報告されている。その際、溶液ドロップの表面に析出している、タンパク質の単結晶は、同じ顕微鏡の光学系により位相差顕微鏡観察し、該タンパク質の単結晶の光学異方性を利用して、その結晶軸方位を確認する。生成しているタンパク質の単結晶は、0.1〜0.2mm程度のサイズであり、該反射型顕微鏡の光学系を利用して、該単結晶の所望の結晶面上に、入射レーザー光のスポットを集光される構成が採用されている。
種々のタンパク質分子に関して、タンパク質分子自体、あるいは、タンパク質分子と他の分子との複合体とした上で、溶液中、結晶や凍結乾燥物の形態などにおける、レーザー・ラマン散乱の測定結果が報告されており、多くのタンパク質分子において、ストークス・ラマンスペクトル上において、共通して観測される分子振動の代表的な周波数(ν1)とその帰属も報告されている(“Raman Spectroscopy of the FfGene V Protein and Complexes with Poly(dA): Nonspecific DNA Recognition and Binfing”, J. M. Benevides et al., (1996), Biochemistry 35, 9603-9609; “Structural Details of the Thermophilic Bacteriophage PH75 Determined by Polarized Raman Spectroscopy”, M. Tsuboi et al., (2005), Biochemistry 44, 4861-4869)。タンパク質分子を構成するペプチド鎖に共通する分子振動として、アミノ酸残基の側鎖に固有の振動モードと、ペプチド鎖の主鎖を構成するアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードとがあり、それぞれ、各振動モードの代表的な周波数(ν1)が報告されている。
ペプチド主鎖を構成するアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードのうち、二次構造を構成するペプチド主鎖中のアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードも特定されている。例えば、β−シートを構成しているβ−ストランド構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードとして、amide I (β−strand) 1670cm-1、amide III (β−strand) 1235cm-1;また、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードとして、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1と、代表的な振動数が報告されている。
なお、β−シートを構成しているβ−ストランド構造では、β−ストランド鎖間で水素結合が形成されており、この構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (β−strand)は、C=O伸縮振動に由来し、amide III (β−strand)は、C−N伸縮とN−H変角振動に由来している。また、α−ヘリックス構造では、鎖内で水素結合が形成されており、この構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix)は、−NH−と水素結合を形成しているC=O伸縮振動に由来し、amide III (α−helix)は、C=Oと水素結合を形成しているN−H変角とC−N伸縮振動に由来している。
二次構造、特に、α−ヘリックス構造、ならびに、β−シートを構成しているβ−ストランド構造中のアミド結合(−CO−NH−)は、通常、平面と近似できるが、一方、その面内では、局所的な対称性を有していない。すなわち、アミド結合(−CO−NH−)は、該原子団の分極率楕円体は、勿論、等方的ではなく、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトルと、誘起される双極子の方向とは、平行では無く、結果として、ラマン散乱光は、偏光が若干損なわれた状態となる。
しかしながら、α−ヘリックス構造中のアミド結合(−CO−NH−)は、n番目の>NHと、(n−4)番目の>C=Oとが、らせん軸と平行な方向の水素結合を形成しており、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)と、α−ヘリックスのらせん軸方向とが一致した際、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される、amide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度が最大になるという特徴が見出された。図4に示すように、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)と、α−ヘリックスのらせん軸方向とのなす角をθとする。θを変化させると、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される、amide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度は、θの増加とともに、ガウス分布関数:{1/2π(Δθ)21/2・exp(−θ2/2(Δθ)2)で表記可能な依存性を示すという特徴が見出された。
一方、ラマン散乱により観測可能な、アミノ酸残基の側鎖に固有の振動モードのうち、アミノ酸残基の種類の特徴的なものとして、Trpの側鎖上の3−インドリル基に由来する振動モード、Tyrの側鎖上のp−ヒドロキシフェニル基に由来する振動モードなどが挙げられ、その代表的な振動数も報告されている。また、これらアミノ酸残基の側鎖に存在する原子団の振動モードに由来するラマン散乱光の強度は、この原子団を取り巻く周囲環境に依って、大きな影響を受けることも報告されている。換言するならば、溶液中、単結晶中、凍結乾燥物の形態のような不定凝集体中では、タンパク質分子の置かれている状態が相違するため、前記アミノ酸残基の側鎖に存在する原子団の振動モードに由来するラマン散乱光の相対な強度、すなわち、レイリー散乱光強度IRayleigh(ν0):ラマン散乱光強度IRaman(ν0−ν1)比は、その状態に依存して変化する。
(本発明の第一の形態にかかる測定方法の実施形態)
以下に、本発明の第一の形態にかかる測定方法における好適な実施の形態を説明する。
本発明の第一の形態では、溶液ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物は、タンパク質分子に由来する析出物か、結晶化剤に由来する析出物であるかを判定することを目的とするので、結晶化剤の析出物中では、観測されない振動数を有し、対象タンパク質分子に特徴的である振動モードに起因するストークス・ラマン散乱をモニターする。従って、ペプチド主鎖を構成するアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードのうち、二次構造を構成するペプチド主鎖中のアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードに起因するストークス・ラマン散乱をモニターすることが好ましい。具体的には、対象タンパク質分子のアミノ酸配列に基づき、予め、含まれる二次構造の有無に関して、予測した上で、β−シートを構成しているβ−ストランド構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (β−strand) 1670cm-1、amide III (β−strand) 1235cm-1;また、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス・ラマン散乱をモニターすることが好ましい。特には、二次構造のなかでも、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス・ラマン散乱をモニターすることがより好ましい。
実際は、例えば、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、対象タンパク質分子の単結晶の作製を試みる際、試料溶液として利用する、対象タンパク質分子を初期濃度Cpr-eff(0)で溶解し、また、結晶化剤を当初濃度C0-eff(0)で添加している溶液を利用して、予め、該溶液中の対象タンパク質分子について、ストークス・ラマン散乱を測定する。また、リザーバ用の結晶化剤を高濃度C1(C1>C0-eff(0))で溶解し、対象タンパク質分子を含まない溶液を利用して、予め、該溶液中の結晶化剤について、ストークス・ラマン散乱を測定する。測定された二つのストークス・ラマン散乱スペクトルを比較すると、試料溶液中における、対象タンパク質分子の振動モードに起因するストークス・ラマン散乱を特定することができる。該試料溶液中における、対象タンパク質分子の振動モードに起因するストークス線のうち、β−シートを構成しているβ−ストランド構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (β−strand) 1670cm-1、amide III (β−strand) 1235cm-1;また、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線を選別する。
対象タンパク質分子中、その構造的に安定なドメイン部分に、実際に、前記の二次構造、すなわち、α−ヘリックス構造、あるいは、β−シートを構成しているβ−ストランド構造が、その構成要素として内在されている場合には、上記のアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード4種のうち、対応する振動モードに起因するストークス線が存在している。また、α−ヘリックス構造、あるいは、β−シートを構成しているβ−ストランド構造中に含まれるアミド結合(−CO−NH−)は、分子内の水素結合に関与しており、その周波数は、実質的に周辺環境の影響を受けないため、同定は簡単になされる。
本発明の第一の形態にかかる測定方法では、例えば、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、溶液ドロップの表面近傍に析出してくる微細な析出物の有無を検出した後、溶液ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物について、ラマン散乱を測定する。この溶液ドロップの表面近傍に析出してくる微細な析出物の有無の検出は、従来から利用されているレイリー散乱光の増加を検出する光散乱法を利用することも可能である。
すなわち、溶液ドロップの表面近傍における、微細な析出物の析出は、過飽和状態に達した後、スポンテニュアル(偶発的)に発生する現象であり、溶液ドロップの表面のどの領域で起こるかは、予測困難である。従って、レイリー散乱光の増加を検出する光散乱法を適用して、溶液ドロップの表面の広い領域を観察して、レイリー散乱の散乱体として機能する、微細な析出物の出現を検出することが好ましい。レイリー散乱光強度は、散乱体の外形形状、粒子サイズ、存在密度には依存するが、散乱体を構成する物質の種類、散乱体の結晶性に対する依存性は低いので、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物出現と結晶化剤に由来する微細な析出物出現のいずれをも迅速に検出することが可能である。
次いで、溶液ドロップの表面近傍に析出してくる微細な析出物の出現を検出した後、特に、微細な析出物が密に存在する局所的な領域を選択する。本発明に第一の形態では、微細な析出物が密に存在する局所的な領域に対して、入射レーザー光を集光照射し、レーザー・ラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分を検出することが好ましい。後方散乱されるレーザー・ラマン散乱光は、微細な析出物に起因するラマン散乱光と、その周囲に存在する溶液に起因するラマン散乱光との合計となっている。レーザー・ラマン散乱の観測範囲を、微細な析出物が密に存在する局所的な領域中に選択することにより、測定されるラマン散乱光全体中における、微細な析出物に起因するラマン散乱光の比率を相対的に高くする。
実際に、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物中に含まれる対象タンパク質分子の密度Cpr-particleは、溶液中に溶解している対象タンパク質分子の実効的な濃度Cpr-eff(t)よりも、桁違いに高い。その場合であっても、入射レーザー光の照射スポット中に存在する対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が占める面積割合Spr-particle(1≧Spr-particle>0)が低いと、測定されるラマン散乱光全体中における、微細な析出物に起因するラマン散乱光の比率は、その弁別を行うに十分な程度に高くならない。本発明の第一の形態においては、入射レーザー光の照射スポット中に存在する対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が占める面積比率Spr-particleが、Cpr-particle×Spr-particle≧1/2×Cpr-eff(t)×(1−Spr-particle)を満足するように、入射レーザー光の照射スポット面積を選択することが好ましい。
その際、一般に、タンパク質分子の単結晶の密度ρ(g・cm-3)は、ρ≒1(g・cm-3)であるので、対象タンパク質分子の分子量がMprである場合、微細な析出物中に含まれる対象タンパク質分子の密度Cpr-particleは、Cpr-particle≒{1000/Mpr}mol・dm-3程度となる。例えば、対象タンパク質分子の分子量Mprが100kDaであれば、微細な析出物中に含まれる対象タンパク質分子の密度Cpr-particleは、1/100 mol・dm-3程度に相当する。一方、濃縮を開始する前の時点、結晶化剤存在下における、対象タンパク質分子の熱力学的な溶解度Cpr-eq(0)は、通常、1/1000 mol・dm-3(1mM)よりも低い。また、溶液中に溶解している対象タンパク質分子の実効的な濃度Cpr-eff(t)は、通常、Cpr-eq(0)≧Cpr-eff(t)となっている。このような条件では、入射レーザー光の照射スポット中に存在する対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が占める面積比率Spr-particleが、少なくとも、Spr-particle≧0.05を満たすように、入射レーザー光の照射スポット面積を選択することで、前記の要件:Cpr-particle×Spr-particle≧1/2×Cpr-eff(t)×(1−Spr-particle)を満足することが可能となる。
例えば、溶液ドロップの表面近傍に析出している、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が、そのサイズが1μm3程度(例えば、2μm(L)×2μm(W)×0.25μm(T))である際、入射レーザー光の照射スポット中、任意に選択する10μm×10μm相当の範囲中に、1〜2個程度の微細な析出物が存在すると、前記の要件を満足するものとなる。入射レーザー光の照射スポット位置を選択する際、溶液ドロップの表面を顕微鏡観察して、前記の表面密度で対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が存在する、析出物が密に存在している領域を選択することが好ましい。換言するならば、少なくとも、溶液ドロップの表面において、その表面近傍に析出している対象タンパク質分子に由来する微細な析出物相互の間隔が、少なくとも、10μm程度となっている領域を選択することが好ましい。
上述のように、入射レーザー光の照射スポット面積を狭くする必要があり、本発明の第一の形態では、顕微分光法を、レーザー・ラマン分光法に応用する装置構成を選択する。具体的には、図1に模式的に示すような、反射型の位相差顕微鏡の光学系を利用し、レーザー・ラマン散乱光を、入射レーザー光に対して、後方散乱(散乱角:180°)の配置で観測する装置構成を選択する。従って、入射レーザー光の後方反射、ならびに、後方散乱(散乱角:180°)されたレイリー散乱と同時に、レーザー・ラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分を、反射型顕微鏡の光学系に導いている。その後、入射レーザー光の後方反射成分、レイリー散乱の後方散乱成分は、ともに、入射レーザー光と同一波長(周波数ν0)の単色性の高い光であり、それは相違する波長(周波数(ν0−ν1))のストークス線から、notchフィルターを利用して、波長分離する。分離されたストークス線(周波数(ν0−ν1))は、ラマン分光器により、その周波数分散を、回折角分散として、二次元CCDプレートを用いて、同時に測定する装置構成を採用している。
加えて、入射レーザー光の照射スポット位置を選択する際、溶液ドロップの表面を顕微鏡観察して、上記の表面密度で対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が存在する、析出物が密に存在している領域を選択する必要がある。その目的で、ラマン散乱の測定に利用する反射型顕微鏡の光学系には、ビーム・スプリッターで分離され、接眼レンズにより得られる視野像を観測するビデオCCDカメラが付設されている。このビデオCCDカメラにより撮影される顕微鏡視野を観察し、入射レーザー光の照射スポット位置に適する領域を、溶液ドロップの表面から選択する。
利用する反射型顕微鏡の試料ステージ上に、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める際に利用する、温度調節系を具えたサンプル・トレイを固定した状態で測定を実施する。入射レーザー光の照射スポット位置の選択は、該試料ステージをXYZ三軸方向にミクロステップで移動することで、対物レンズのレンズ軸中心上に集光されている、入射レーザー光の焦点深さの調整、照射スポット位置の選択の操作を行う。なお、入射レーザー光は、対物レンズのレンズ軸中心上に集光されており、顕微鏡視野の中心付近に、微細な析出物が複数観測されるように、照射スポット位置の選択・調節を行う。
溶液ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物が、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物である際には、該対象タンパク質分子の振動モードに起因するストークス線のラマン散乱光強度は、溶液部分に存在する対象タンパク質分子の寄与分:Cpr-eff(t)×(1−Spr-particle)と、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物の寄与分:Cpr-particle×Spr-particleの合計となる。一方、溶液ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物が、結晶化剤に由来する微細な析出物である際には、該対象タンパク質分子の振動モードに起因するストークス線のラマン散乱光強度は、溶液部分に存在する対象タンパク質分子の寄与分:Cpr-eff(t)×(1−Spr-particle)のみである。
このラマン散乱光強度差を利用することによって、微細な析出物のサイズが、1μm3程度(例えば、2μm(L)×2μm(W)×0.25μm(T))である段階でも、該微細な析出物が、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物であるか、結晶化剤に由来する微細な析出物であるかを高い確度で判別することが可能である。
その際、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物であっても、対象タンパク質分子の微細な単結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるかは、前もって予測することはできない。その点を考慮すると、溶液中、単結晶中、「アグリゲート」状の不定凝集体中のいずれにおいても、その環境変化に依らず検出可能な、振動モードに起因するストークス線のラマン散乱光強度を利用することが望ましい。この観点から、本発明の第一の形態においては、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線を選別することが好ましい。
なお、レーザー・ラマン散乱を測定する際、利用する入射レーザー光としては、所謂、共鳴ラマン分光に利用可能な波長を選択することが好ましい。一般に、タンパク質分子の励起状態、例えば、最低励起状態のエネルギーは、光吸収スペクトルの測定により、容易に特定することができる。少なくとも、この最低励起状態のエネルギーに達しない波長範囲に、入射レーザー光の波長を選択する。通常、入射レーザー光の波長は、500nmよりも長い波長領域に選択する。勿論、単色性、直線偏光性、コヒーレンスに優れるレーザー光源を利用することが好ましく、発振波長が、500nm〜650nmの範囲にある、希ガスレーザー、例えば、発振波長647.1nmのKr+レーザー、514.5nmのAr+レーザー、632.8nmのHe−Neレーザー、あるいは、波長532nmのNd:YVO4レーザーの第二高調波が好適に利用される。
上に例示する波長が500nmよりも長い、単色性、直線偏光性、コヒーレンスに優れるレーザー光源は、実質的に平行光源であるため、顕微レーザー分光においては、高倍率の対物レンズを用いることによって、波長の2倍程度の微少スポット(照射スポット径:1μm)に集光することも可能である。具体的には、レーザー光のビーム径が1mm程度である際、対物レンズの倍率を、5倍〜100倍の範囲に選択することで、照射スポット径を200μm〜10μmの範囲に選択することができる。
さらに、所謂、Green−Fluoresent Protein、Red−Green−Fluoresent Proteinと称される一群の蛍光タンパク質では、最低励起状態のエネルギーを超えるレーザー光を照射すると特有な蛍光を発する。タンパク質分子に由来する蛍光が発すると、レーザー・ラマン散乱によるストークス線の測定において、大きな干渉成分となる。その点を考慮して、蛍光を誘起する懸念の無い範囲で、共鳴ラマン散乱の測定に好適なレーザー光を選択することが望ましい。
実際には、微細な析出物がレーザー光の照射スポット中に存在しない領域で測定される、レーザー・ラマンスペクトルと、微細な析出物がレーザー光の照射スポット中に存在する状態で測定される、レーザー・ラマンスペクトルとを対比させ、後者では、ラマン散乱光強度が有意に増加しているストークス線を選別する。この選別されたストークス線が、対象タンパク質分子に由来する振動モードに起因するストークス線であるか否かを判定する。これらレーザー・ラマンスペクトルの測定、ならびに、測定されたレーザー・ラマンスペクトルの散乱光強度の比較、すなわち、差スペクトルを求める演算処理は、二次元CCDプレートを用いて、測定されるスペクトルのデジタル化し、付設するデータ処理・解析用コンピュータを用いて行う構成とする。一般に、付設するデータ処理・解析用コンピュータは、測定条件一般の制御機能を有する形態とし、測定自体の再現性を担保可能な装置構成とする。
(本発明の第二の形態にかかる測定方法の実施形態)
以下に、本発明の第二の形態にかかる測定方法における好適な実施の形態を説明する。
本発明の第二の形態では、上記の本発明の第一の形態にかかる測定方法を利用して、溶液ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物が、タンパク質分子に由来する析出物であることを確認した後、対象タンパク質分子の微細な単結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるかを判定する方法である。
本発明の第二の形態では、微細な単結晶中では、対象タンパク質分子は、並進対称性を満足する、均一な配向で単位格子内に固定化されているが、「アグリゲート」状の不定凝集体では、結晶学的な並進対称性は損なわれており、対象タンパク質分子の相対的配向は、不均一になっている点を利用している。
直線偏光を有する入射レーザー光を利用して、後方散乱のラマン散乱光を個々の対象タンパク質分子について観測すると、タンパク質分子の分極率楕円体は、完全な球状でないため、各振動モードに起因するストークス線は、その振動モードに固有のラマン散乱テンソル{αjk}に従って、入射レーザー光の偏光方向とは異なる偏光を示す。
α−ヘリックス構造中に存在するアミド結合(−CO−NH−)間では、n番目の>NHと、(n−4)番目の>C=Oとが、らせん軸と平行な方向の水素結合を形成しており、α−ヘリックス構造に、この水素結合の方向、すなわち、らせん軸方向に平行な偏光方向を有する入射レーザー光を照射する際に観測される、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードに起因するストークス線の強度を検討する。このα−ヘリックス構造のアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードに起因するストークス線は、α−ヘリックスを構成する複数個のアミド結合(−CO−NH−)からのラマン散乱光の総和と近似できる。従って、らせん軸(X軸)方向に平行な偏光方向を有するラマン散乱光強度IXXは、α−ヘリックスを構成する複数個のアミド結合(−CO−NH−)に因る寄与を積算したものとなる。一方、らせん軸(X軸)方向に直交する軸(Y軸、Z軸)方向に平行な偏光方向を有するラマン散乱光強度IYX,IZXは、7アミノ酸残基進む間に、らせんは2巻きするため、個々のアミド結合(−CO−NH−)に因る寄与が互いに相殺された状態となっている。また、らせん軸(X軸)方向に直交する軸(Y軸、Z軸)方向に平行な偏光方向を有するラマン散乱光強度IYX,IZXは、実質的にIYX≒IZXとなっている。すなわち、らせん軸(X軸)方向に平行な偏光方向を有する入射レーザー光を照射する際に観測される、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードに起因するストークス線の強度は、らせん軸(X軸)方向に平行な偏光方向を有するラマン散乱光強度IXXは、らせん軸(X軸)方向に直交する軸(Y軸、Z軸)方向に平行な偏光方向を有するラマン散乱光強度IYX,IZXよりも、顕著に高いもの:IXX≫IYX≒IZXとなっている。
一方、らせん軸(X軸)方向に直交する軸(Y軸、Z軸)方向に平行な偏光方向を有する入射レーザー光を照射する際に観測される、らせん軸(X軸)方向に平行な偏光方向を有するラマン散乱光強度IXY,IXZは、7アミノ酸残基進む間に、らせんは2巻きするため、個々のアミド結合(−CO−NH−)に因る寄与が互いに相殺された状態となっている。また、らせん軸(X軸)方向に平行な偏光方向を有するラマン散乱光強度IXY,IXZは、実質的にIXY≒IXZとなっている。すなわち、らせん軸(X軸)方向に平行な偏光方向を有する、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードに起因するストークス線の強度は、らせん軸(X軸)方向に平行な偏光方向を有する入射レーザー光を照射する際のラマン散乱光強度IXXは、らせん軸(X軸)方向に直交する軸(Y軸、Z軸)方向に平行な偏光方向を有する入射レーザー光を照射する際のラマン散乱光強度IXY,IXZは、顕著に高いもの:IXX≫IXY≒IXZとなっている。
上記のラマン散乱光強度の偏光方向依存性に起因して、図4に示すように、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)と、α−ヘリックスのらせん軸方向とのなす角をθとする。θを変化させると、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度は、θの増加とともに、ガウス分布関数:{1/2π(Δθ)21/2・exp(−θ2/2(Δθ)2)で表記可能な依存性を示すという特徴が示すものとなっている。
対象タンパク質分子中には、複数個のα−ヘリックス構造が内在しており、また、結晶中の単位格子中には、複数個の対象タンパク質分子が存在している。仮に、結晶中の単位格子中に二つの対象タンパク質分子(site A,B)が存在し、各対象タンパク質分子中には二つのα−ヘリックス構造(α1、α2)が存在すると仮定すると、単位格子中に、合計4個のα−ヘリックス構造が存在していることになる。その際、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)を結晶軸の一つ(例えば、b軸)と平行に選択すると、4本のα−ヘリックス構造αA1、αA2、αB1、αB2、のらせん軸方向と、直線偏光の入射レーザー光の偏光方向とのなす角は、{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}となる。単結晶中では、各対象タンパク質分子(site A,B)は、並進対称性を示すので、結晶中に含まれる対象タンパク質分子に由来する、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度は、{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}の配向に起因する強度を積算されたものとなる。
直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)を結晶軸の一つ(例えば、a軸)と平行に選択すると、4本のα−ヘリックス構造αA1、αA2、αB1、αB2、のらせん軸方向と、直線偏光の入射レーザー光の偏光方向とのなす角は、{θA1a、θA2a、θB1a、θB2a}となる。単結晶中では、各対象タンパク質分子(site A,B)は、並進対称性を示すので、結晶中に含まれる対象タンパク質分子に由来する、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度は、{θA1a、θA2a、θB1a、θB2a}の配向に起因する強度を積算されたものとなる。
その際、α−ヘリックス構造に由来するアミド結合(−CO−NH−)に由来するamide III (α−helix)のストークス線について、後方散乱のラマン散乱光中、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向成分を観測すると、例えば、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)を結晶軸のb軸と平行に選択する際のラマン散乱光強度Ibbと、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)を結晶軸のa軸と平行に選択する際のラマン散乱光強度Iaaは、有意な差違を示すものとなる。また、α−ヘリックス構造に由来するアミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線について、後方散乱のラマン散乱光中、例えば、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)を結晶軸のb軸と平行に選択する際、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向成分の強度Ibbと、入射レーザー光の偏光方向(b軸方向)と直交する結晶軸方向(a軸方向)に平行な偏光方向成分の強度Iabとは、有意な差違を示すものとなる。すなわち、α−ヘリックス構造に由来するアミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線は、対象タンパク質分子の単結晶においては、偏光方向依存して、有意なラマン散乱光強度の変化を示すものとなる。
一方、「アグリゲート」状の不定凝集体では、結晶学的な並進対称性は損なわれており、対象タンパク質分子の相対的配向は、不均一になっているため、各タンパク質分子中の複数のα−ヘリックス構造(α1、α2)の相対配置は同じであっても、不定凝集体全体では、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)と、各タンパク質分子i中のα−ヘリックス構造のらせん軸方向のなす角{θi-1a、θi-2a}は、様々となっている。その場合、「アグリゲート」状の不定凝集体全体では、各タンパク質分子i中のα−ヘリックス構造に由来するアミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線が示す偏光方向依存性は、互いに、相殺しあう。結果的に、「アグリゲート」状の不定凝集体全体では、α−ヘリックス構造に由来するアミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線は、偏光方向依存して、ラマン散乱光強度の変化を実質的に示さないものとなる。
勿論、溶液中に溶解している対象タンパク質分子に関しては、その配向は、「ランダム」となっており、上述する機構に起因するラマン散乱光強度の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性は観察されない。
本発明の第二の形態では、上述する機構に起因するラマン散乱光強度の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性の差違を利用して、溶液ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物が、タンパク質分子に由来する析出物であることを確認した後、対象タンパク質分子の微細な単結晶であるか、「アグリゲート」状の不定凝集体であるかの判定基準としている。
本発明の第二の形態では、溶液ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物が、対象タンパク質に由来する微細な析出物であることを確認した上で、この対象タンパク質に由来する微細な析出物に対して、直線偏光を有するレーザー光を照射し、レーザー・ラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分を検出することが好ましい。
仮に、照射スポット中に、対象タンパク質分子の微細な単結晶が二つ以上存在すると、個々の微細な単結晶の結晶軸方向、すなわち、微細な単結晶の配向は、図2に示すように、不規則なもの(ランダムな配向)となっている。この複数個の微細な単結晶は、それぞれ、上述する機構に起因するラマン散乱光強度の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性を示すが、複数個の微細な単結晶全体では、相互で、偏光方向の依存性を相殺する。その不具合を回避するため、入射レーザー光を集光照射し、その照射スポット中に、溶液ドロップの表面近傍に析出している、対象タンパク質に由来する微細な析出物が一つ存在する状態とする。
対象タンパク質に由来する微細な析出物は、溶液中に存在しているため、後方散乱されるレーザー・ラマン散乱光は、該微細な析出物に起因するラマン散乱光と、その周囲に存在する溶液に起因するラマン散乱光との合計となっている。レーザー・ラマン散乱の観測範囲(照射スポット)の面積中、該微細な析出物が占める面積比率を相対的に高く選択することにより、測定されるラマン散乱光全体中における、該対象タンパク質に由来する微細な析出物に起因するラマン散乱光の比率を相対的に高くする。
実際に、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物中に含まれる対象タンパク質分子の密度Cpr-particleは、溶液中に溶解している対象タンパク質分子の実効的な濃度Cpr-eff(t)よりも、桁違いに高い。その場合であっても、入射レーザー光の照射スポット中に存在する対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が占める面積割合Spr-particle(1≧Spr-particle>0)が十分に高くないと、測定されるラマン散乱光全体中における、該微細な析出物に起因するラマン散乱光の比率は、上述の偏光方向の依存性の有無の判別を行うに十分な程度に高くならない。本発明の第二の形態においては、入射レーザー光の照射スポット中に存在する対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が占める面積比率Spr-particleが、少なくとも、Cpr-particle×Spr-particle≧2×Cpr-eff(t)×(1−Spr-particle)を満足するように、入射レーザー光の照射スポット面積と対象タンパク質分子に由来する微細な析出物サイズの比率を選択することが好ましい。
その際、一般に、タンパク質分子の単結晶の密度ρ(g・cm-3)は、ρ≒1(g・cm-3)であるので、対象タンパク質分子の分子量がMprである場合、微細な析出物中に含まれる対象タンパク質分子の密度Cpr-particleは、Cpr-particle≒{1000/Mpr}mol・dm-3程度となる。例えば、対象タンパク質分子の分子量Mprが100kDaであれば、微細な析出物中に含まれる対象タンパク質分子の密度Cpr-particleは、1/100 mol・dm-3程度に相当する。一方、濃縮を開始する前の時点、結晶化剤存在下における、対象タンパク質分子の熱力学的な溶解度Cpr-eq(0)は、通常、1/1000 mol・dm-3(1mM)よりも低い。また、溶液中に溶解している対象タンパク質分子の実効的な濃度Cpr-eff(t)は、通常、Cpr-eq(0)≧Cpr-eff(t)となっている。このような条件では、入射レーザー光の照射スポット中に存在する対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が占める面積比率Spr-particleが、少なくとも、Spr-particle≧0.2を満たすように、入射レーザー光の照射スポット面積を選択することで、前記の要件:Cpr-particle×Spr-particle≧2×Cpr-eff(t)×(1−Spr-particle)を満足することが可能となる。
例えば、溶液ドロップの表面近傍に析出している、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が、そのサイズが25μm3程度(例えば、5μm(L)×5μm(W)×1μm(T))である際、入射レーザー光の照射スポット中、任意に選択する10μm×10μm相当の範囲中に、1個程度の微細な析出物が存在すると、前記の要件を満足するものとなる。入射レーザー光の照射スポット位置を選択する際、溶液ドロップの表面を顕微鏡観察して、前記の粒子サイズ(5μm(L)×5μm(W))の対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が、単独で存在する領域を選択することが好ましい。換言するならば、少なくとも、溶液ドロップの表面において、その表面近傍に析出している対象タンパク質分子に由来する微細な析出物相互の間隔が、少なくとも、15μm程度となっている領域を選択することが好ましい。
上述のように、入射レーザー光の狭い照射スポット面積内に、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が唯一つ存在している状態とする必要があり、本発明の第二の形態では、顕微分光法を、レーザー・ラマン分光法に応用する装置構成を選択する。具体的には、図1に模式的に示すような、反射型の位相差顕微鏡の光学系を利用し、レーザー・ラマン散乱光を、入射レーザー光に対して、後方散乱(散乱角:180°)の配置で観測する装置構成を選択する。従って、入射レーザー光の後方反射、ならびに、後方散乱(散乱角:180°)されたレイリー散乱と同時に、レーザー・ラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分を、反射型顕微鏡の光学系に導いている。その後、入射レーザー光の後方反射成分、レイリー散乱の後方散乱成分は、ともに、入射レーザー光と同一波長(周波数ν0)の単色性の高い光であり、それは相違する波長(周波数(ν0−ν1))のストークス線から、notchフィルターを利用して、波長分離する。分離されたストークス線(周波数(ν0−ν1))は、ラマン分光器により、その周波数分散を、回折角分散として、二次元CCDプレートを用いて、同時に測定する装置構成を採用している。
加えて、ラマン散乱光強度の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性を測定するため、ラマン分光器に入光される光路上に、偏光板を配置し、一方、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に照射する入射レーザー光の光路上に、波長板を配置している。この波長板を利用して、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に固定される座標軸に対して固定されている偏光板の偏光面の方向を基準として、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)を変更する測定方式としている。
少なくとも、本発明の第二の形態では、偏光板の偏光面の方向を基準として、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)が平行となる状態、ならびに、直交する状態として、レーザー・ラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)中、偏光板の偏光面方向の成分(偏光ラマンスペクトル)を測定する。二つの偏光ラマンスペクトルを比較し、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に起因するストークス線のラマン散乱光強度が、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性を示すか否かを判定する。
対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に起因するストークス線のラマン散乱光強度が、二つの偏光ラマンスペクトル間で、測定誤差範囲内で一致している場合には、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性は無いと判定される。すなわち、測定されている照射スポット中に、存在している対象タンパク質分子に由来する微細な析出物は、「アグリゲート」状の不定凝集体であると判定される。
一方、二つの偏光ラマンスペクトル間で、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に起因するストークス線のラマン散乱光強度を比較した際、有意に強度に差違を示すストークス線が見出された場合、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性があると判定される。すなわち、測定されている照射スポット中に、存在している対象タンパク質分子に由来する微細な析出物は、対象タンパク質分子の微細な単結晶であると判定される。
対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に固定される座標軸に対して固定されている偏光板の偏光面の方向が、不適切な場合には、本来、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性があるにも係わらず、偏光板の偏光面の方向を基準として、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)が平行となる状態、ならびに、直交する状態において測定される二つの偏光ラマンスペクトル間で、例外的に有意な差違が観測できないことがある。
例えば、偏光板の偏光面の方向が、偶然に、結晶中に存在する対象タンパク質分子が有している、α−ヘリックス構造のらせん軸方向と角度45°で交差する配置であった場合には、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性を検出することが困難である。また、入射レーザー光の進行方向が、偶然に、結晶中に存在する対象タンパク質分子が有している、α−ヘリックス構造のらせん軸方向と一致する配置であった場合にも、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性を検出することが困難である。
この種の偶発的に入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性の検出に不適当な入射レーザー光の進行方向、あるいは、偏光板の偏光面の方向の選択を回避するため、少なくとも、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に固定される座標軸に対して固定されている偏光板の偏光面の方向、あるいは、入射レーザー光の進行方向を変えて、同様の測定を繰り返すことが好ましい。
対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に固定される座標軸に対して固定されている偏光板の偏光面の方向、あるいは、入射レーザー光の進行方向を変えた上で、二つの偏光ラマンスペクトル間で、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に起因するストークス線のラマン散乱光強度を比較した際、有意に強度に差違を示すストークス線が見出された場合、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性があると判定される。すなわち、測定されている照射スポット中に、存在している対象タンパク質分子に由来する微細な析出物は、対象タンパク質分子の微細な単結晶であると判定される。
対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に固定される座標軸に対して、入射レーザー光の進行方向を変える操作は、実際には、入射レーザー光の進行方向を変更する代わりに、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に固定される座標軸を、入射レーザー光の進行方向に対して、回転させることでなされる。具体的には、図1に例示するように、反射型の位相差顕微鏡の光学系に対して、その試料ステージ分を、XYZの三軸移動に加えて、二軸回転(θ、φ)も行うことが可能な可動ステージとする。すなわち、XYZ(θ、φ)の全方位可動ステージに、さらに、上述する温度調節系を具えたサンプル・トレイを付設した状態とする。
二つの偏光ラマンスペクトルを対比し、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に起因するストークス線のラマン散乱光強度の比較する際、少なくとも、対比するストークス線複数中には、対象タンパク質分子が有する、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線を含める。
加えて、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に起因するストークス線のラマン散乱光強度と、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物が存在していない溶液部分で測定される、対象タンパク質分子に起因するストークス線のラマン散乱光強度と予め比較し、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に起因するストークス線のラマン散乱光強度が、有意に強くなっているものも、上記の対比に利用することが好ましい。
実際には、微細な析出物がレーザー光の照射スポット中に存在しない領域で測定される、レーザー・ラマンスペクトルと、微細な析出物がレーザー光の照射スポット中に存在する状態で測定される、レーザー・ラマンスペクトルとを対比させ、後者では、ラマン散乱光強度が有意に増加しているストークス線を選別する。この選別されたストークス線が、二つの偏光ラマンスペクトル間で、ラマン散乱光強度に差違があるか否かを判定する。これら偏光ラマンスペクトルの測定、ならびに、測定された偏光ラマンスペクトルの散乱光強度の比較、すなわち、差スペクトルを求める演算処理は、二次元CCDプレートを用いて、測定されるスペクトルのデジタル化し、付設するデータ処理・解析用コンピュータを用いて行う構成とする。一般に、付設するデータ処理・解析用コンピュータは、測定条件一般の制御機能を有する形態とし、測定自体の再現性を担保可能な装置構成とする。
(本発明の第三の形態にかかる測定方法の実施形態)
以下に、本発明の第三の形態にかかる測定方法における好適な実施の形態を説明する。
本発明の第三の形態では、上記の本発明の第一の形態にかかる測定方法を利用して、溶液ドロップの表面近傍に析出しているタンパク質分子に由来する微細な析出物が、対象タンパク質分子の微細な単結晶であることを確認した後、対象タンパク質分子の微細な単結晶の結晶性の良否を判定する方法である。
本発明の第三の形態では、対象タンパク質分子の微細な単結晶において、良好な結晶性である際には、対象タンパク質分子は、並進対称性を完全に満足する、極めて均一な配向で単位格子内に固定化されているが、結晶性が劣る際には、全体的には、結晶学的な並進対称性は保持されているものの、微視的には、対象タンパク質分子の相対的配向は、若干の乱れを有している点を利用している。
対象タンパク質分子中には、複数個のα−ヘリックス構造が内在しており、また、結晶中の単位格子中には、複数個の対象タンパク質分子が存在している。仮に、結晶中の単位格子中に二つの対象タンパク質分子(site A,B)が存在し、各対象タンパク質分子中には二つのα−ヘリックス構造(α1、α2)が存在すると仮定すると、単位格子中に、合計4個のα−ヘリックス構造が存在していることになる。その際、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)を結晶軸の一つ(例えば、b軸)と平行に選択すると、4本のα−ヘリックス構造αA1、αA2、αB1、αB2、のらせん軸方向と、直線偏光の入射レーザー光の偏光方向とのなす角は、{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}となる。
良好な結晶性の単結晶中では、単位格子中に存在する各対象タンパク質分子(site A,B)は、それぞれ、完全な並進対称性を示す。すなわち、単結晶中に存在する、多数の単位格子のいずれにおいても、4本のα−ヘリックス構造αA1、αA2、αB1、αB2、のらせん軸方向と、直線偏光の入射レーザー光の偏光方向とのなす角は、{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}の値となっている。良好な結晶性の単結晶中に含まれる対象タンパク質分子に由来する、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度は、{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}の配向に起因する強度を積算されたものとなる。
一方、結晶性が劣る単結晶中では、単位格子中に存在する各対象タンパク質分子(site A,B)は、全体的には、結晶学的な並進対称性は保持しているが、単結晶中に存在する、多数の単位格子の相当部分では、僅かながら、対象タンパク質分子の配向に乱れが存在している。すなわち、この配向に乱れに起因して、単結晶中に存在する、多数の単位格子の相当部分では、4本のα−ヘリックス構造αA1、αA2、αB1、αB2、のらせん軸方向と、直線偏光の入射レーザー光の偏光方向とのなす角は、理想的な値{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}から若干偏移して、{(θA1b±ΔθA1b)、(θA2b±ΔθA2b)、(θB1b±ΔθB1b)、(θB2b±ΔθB2b)}の範囲で様々な値を示す状態となっている。従って、結晶性が劣る単結晶中に含まれる対象タンパク質分子に由来する、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度は、{(θA1b±ΔθA1b)、(θA2b±ΔθA2b)、(θB1b±ΔθB1b)、(θB2b±ΔθB2b)}の範囲で様々に変動する配向に起因する強度を積算されたものとなる。
まず、良好な結晶性の単結晶について、個々のα−ヘリックス構造に含まれるアミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度を考える。例えば、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)と、結晶のb軸方向とのなす角をθとすると、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)と、α−ヘリックスαA1のらせん軸方向とのなす角は、(θ−θA1b)となる。θを変化させると、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の分布は、θの増加とともに、ガウス分布関数:{1/2π(δθ)21/2・exp{−(θ−θA1b2/2(δθ)2}で表記可能な依存性を示す。
同様に、結晶性が劣る単結晶について、個々のα−ヘリックス構造に含まれるアミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度を考える。例えば、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)と、結晶のb軸方向とのなす角をθとすると、直線偏光の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)と、α−ヘリックスαA1のらせん軸方向とのなす角は、(θ−θA1b±ΔθA1b)となる。θを変化させると、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の分布は、θの増加とともに、(θA1b±ΔθA1b)の範囲で様々に変動する配向それぞれは、ガウス分布関数:{1/2π(δθ)21/2・exp{−(θ−θA1b±ΔθA1b2/2(δθ)2}で表記可能な依存性を示す。その際、(θA1b±ΔθA1b)の範囲で様々に変動する配向の確率分布も、ガウス分布関数:{1/2π(ΔθA1b21/2・exp{−(θ−θA1b2/2(ΔθA1b2}で表記可能な依存性と近似する。(θA1b±ΔθA1b)の範囲で様々に変動する配向全体を平均すると、θを変化させた際に、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の分布は、θの増加とともに、近似的に、ガウス分布関数:{1/2π(δθ+ΔθA1b21/2・exp{−(θ−θA1b2/2(δθ+ΔθA1b2}で表記可能な依存性を示す。
この状況を、模式的に図に示すと、図6の示すようになる。すなわち、良好な結晶性の単結晶においては、半値幅は、δθと小さく、鋭い(狭い)分布を示すが、結晶性が劣る単結晶では、半値幅は、(δθ+ΔθA1b)と大きくなり、広がった分布を示す。
良好な結晶性の単結晶中に含まれる対象タンパク質分子に由来する、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度は、{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}の配向に起因する強度を積算されたものとなる。従って、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の分布は、近似的に、{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}の角で、{1/2π(δθ)21/2のピーク値を有する、半値幅δθの4つのガウス分布関数を足しあわせたものと見做せる。
一方、結晶性が劣る単結晶中に含まれる対象タンパク質分子に由来する、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線の強度は、{(θA1b±ΔθA1b)、(θA2b±ΔθA2b)、(θB1b±ΔθB1b)、(θB2b±ΔθB2b)}の範囲で様々に変動する配向に起因する強度を積算されたものとなる。従って、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の分布は、近似的に、{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}の角で、{1/2π(δθ+ΔθA1b21/2、{1/2π(δθ+ΔθA2b21/2、{1/2π(δθ+ΔθB1b21/2、{1/2π(δθ+ΔθB2b21/2のピーク値をそれぞれ有する、それぞれ半値幅(δθ+ΔθA1b)、(δθ+ΔθA2b)、(δθ+ΔθB1b)、(δθ+ΔθB2b)の4つのガウス分布関数を足しあわせたものと見做せる。
すなわち、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線に関して、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の偏光方向依存性は、良好な結晶性の単結晶と結晶性が劣る単結晶とを比較すると、入射レーザー光の偏光方向と、結晶軸とのなす角θに対するラマン散乱強度分布は、そのピークを示す角度は、{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}と実質的に同じものとなる。一方、このピークを示す角度{θA1b、θA2b、θB1b、θB2b}の前後の広がり(半値幅)に関しては、良好な結晶性の単結晶と結晶性が劣る単結晶とを比較すると、結晶性が劣る単結晶では、良好な結晶性の単結晶よりも有意に広いものとなる。
例えば、既に、X線結晶構造解析がなされ、単位格子内に存在するタンパク質分子の配向に乱れが無い点が確認されている、別種のタンパク質分子の「良好な結晶性の単結晶」において、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線に関して、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の偏光方向依存性を測定し、「良好な結晶性の単結晶」において見出される「ピークを示す角度の前後の広がり(半値幅)」の代表値Δθcriticalを求めておく。
対象タンパク質分子の「単結晶」において、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線に関して、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の偏光方向依存性を測定し、該対象タンパク質分子の「単結晶」で観測される測定される「ピークを示す角度の前後の広がり(半値幅)」の実測値Δθobs.を求める。
該対象タンパク質分子の「単結晶」で観測される測定される「ピークを示す角度の前後の広がり(半値幅)」の実測値Δθobs.が、別種のタンパク質分子の「良好な結晶性の単結晶」において見出される「ピークを示す角度の前後の広がり(半値幅)」の代表値Δθcriticalと同程度、あるいは、狭い場合には、該対象タンパク質分子の「単結晶」は、「良好な結晶性の単結晶」と判定することが可能である。具体的には、Δθobs.≦1.2×Δθcriticalの範囲であれば、該対象タンパク質分子の「単結晶」は、「良好な結晶性の単結晶」と判定することが可能である。
逆に、該対象タンパク質分子の「単結晶」で観測される測定される「ピークを示す角度の前後の広がり(半値幅)」の実測値Δθobs.が、別種のタンパク質分子の「良好な結晶性の単結晶」において見出される「ピークを示す角度の前後の広がり(半値幅)」の代表値Δθcriticalよりも有意に広い場合には、該対象タンパク質分子の「単結晶」は、「結晶性が劣る単結晶」と判定することが可能である。具体的には、Δθobs.≧2×Δθcriticalの範囲であれば、該対象タンパク質分子の「単結晶」は、「結晶性が劣る単結晶」と判定することが可能である。
なお、前記の判定基準のいずれも満たさない、2×Δθcritical>Δθobs.>1.2×Δθcriticalの範囲に関しては、「結晶性がやや劣る単結晶」に相当する。この範囲のものに関しては、実際に、X線結晶構造解析を実施しないと、単位格子中に存在するタンパク質分子の配向乱れの程度を判断することは困難である。
本発明の目的では、実際に、X線結晶構造解析を実施しなくとも、単位格子中に存在するタンパク質分子の配向乱れが顕著であるものを予め排除する上で利用する「第一の判定基準」と、実際に、X線結晶構造解析を実施しなくとも、単位格子中に存在するタンパク質分子の配向乱れは十分に小さいと推定する上で利用する「第二の判定基準」を設けることである。従って、Δθobs.≧2×Δθcriticalの範囲であれば、該対象タンパク質分子の「単結晶」は、「結晶性が劣る単結晶」と判定する「第一の判定基準」と、Δθobs.≦1.2×Δθcriticalの範囲であれば、該対象タンパク質分子の「単結晶」は、「良好な結晶性の単結晶」と判定する「第二の判定基準」とを設けることが好ましい。
あるいは、別種のタンパク質分子の「良好な結晶性の単結晶」において、アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線に関して、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の偏光方向依存性を測定し、「良好な結晶性の単結晶」において見出される「ピークを示す角度の前後の広がり(半値幅)」の代表値Δθcriticalを求め、「ピークを示す角度θpeak」から、この代表値Δθcriticalの1/2(0.5)倍隔たった角度{θpeak±(0.5×Δθcritical)}に入射レーザー光の偏光方向を設定した際のラマン散乱光強度Itypical(θpeak±(0.5×Δθcritical))を測定する。また、「ピークを示す角度θpeak」から、この代表値Δθcriticalの1倍隔たった角度{θpeak±(1×Δθcritical)}に入射レーザー光の偏光方向を設定した際のラマン散乱光強度Itypical(θpeak±(1×Δθcritical))を測定する。加えて、「ピークを示す角度θpeak」に入射レーザー光の偏光方向を設定した際のラマン散乱光強度Itypical(θpeak)を測定する。その測定結果に基づき、二つの強度比:R1≡I(θpeak±(0.5×Δθcritical))/Itypical(θpeak)と、R2≡I(θpeak±(1×Δθcritical))/I(θpeak)を算定する。
アミド結合(−CO−NH−)に由来するamide I (α−helix)、あるいはamide III (α−helix)のストークス線に関して、該対象タンパク質分子の「単結晶」についても、後方散乱で、入射レーザー光の偏光方向と同じ偏光方向において観測される強度の偏光方向依存性を測定し、「ピークを示す角度θpeak」に入射レーザー光の偏光方向を設定した際のラマン散乱光強度Iobs.(θpeak)を測定する。また、「ピークを示す角度θpeak」から、前記代表値Δθcriticalの1倍隔たった角度{θpeak±(1×Δθcritical)}に入射レーザー光の偏光方向を設定した際のラマン散乱光強度Iobs.(θpeak±(1×Δθcritical))を測定する。そして、その測定結果に基づき、強度比:Robs.≡Iobs.(θpeak±(1×Δθcritical))/Iobs.(θpeak)を算定する。
該対象タンパク質分子の「単結晶」が、「良好な結晶性の単結晶」と判定する「第二の判定基準」;Δθobs.≦1.2×Δθcriticalの範囲であれば、Robs.≦R2となっている。また、該対象タンパク質分子の「単結晶」は、「結晶性が劣る単結晶」と判定する「第一の判定基準」;Δθobs.≧2×Δθcriticalの範囲であれば、Robs.≧R1となっている。前記の判定基準のいずれも満たさない、「結晶性がやや劣る単結晶」に相当する:2×Δθcritical>Δθobs.>1.2×Δθcriticalの範囲であれば、R1>Robs.>R2となっている。
判定基準として、この強度比:Robs.≡Iobs.(θpeak±(1×Δθcritical))/Iobs.(θpeak)に対する基準を採用することもできる。
本発明の第三の形態では、入射レーザー光の狭い照射スポット面積内から測定されるラマン散乱光は、実質的に、対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶に由来するものであることが必要である。換言するならば、溶液ドロップの表面近傍に析出している、対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶を一つ選択し、この微細な単結晶のいずれかの表面内に、入射レーザー光の狭い照射スポット面積が収まることが必要となる。入射レーザー光の照射スポットの形状が、半径10μmの円形状とすると、測定対象の微細な単結晶のサイズは、例えば、25000μm3程度(例えば、50μm(L)×50μm(W)×10μm(T))とする。その際、微細な単結晶は、溶液中で、図2に例示するように、傾いた配置を採ることもあるが、その表面(例えば、50μm(L)×50μm(W))の中央に入射レーザー光の照射スポットが来るように、照射スポット位置を選択することが好ましい。
上述のように、入射レーザー光の狭い照射スポットは、測定する対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶の一つに対して、その結晶の表面内の位置している状態とする必要があり、本発明の第三の形態でも、顕微分光法を、レーザー・ラマン分光法に応用する装置構成を選択する。具体的には、図1に模式的に示すような、反射型の位相差顕微鏡の光学系を利用し、レーザー・ラマン散乱光を、入射レーザー光に対して、後方散乱(散乱角:180°)の配置で観測する装置構成を選択する。従って、入射レーザー光の後方反射、ならびに、後方散乱(散乱角:180°)されたレイリー散乱と同時に、レーザー・ラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分を、反射型顕微鏡の光学系に導いている。その後、入射レーザー光の後方反射成分、レイリー散乱の後方散乱成分は、ともに、入射レーザー光と同一波長(周波数ν0)の単色性の高い光であり、それは相違する波長(周波数(ν0−ν1))のストークス線から、notchフィルターを利用して、波長分離する。分離されたストークス線(周波数(ν0−ν1))は、ラマン分光器により、その周波数分散を、回折角分散として、二次元CCDプレートを用いて、同時に測定する装置構成を採用している。
加えて、ラマン散乱光強度の入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性を測定するため、ラマン分光器に入光される光路上に、偏光板を配置し、一方、対象タンパク質分子に由来する微細な析出物に照射する入射レーザー光の光路上に、波長板を配置している。この波長板を利用して、対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶に固定される座標軸、特に、結晶軸方向に対して、偏光板の偏光面の方向を選択した上で、偏光板の偏光面方向と、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)とのなす角度を変更して、測定方式としている。
対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶に固定される座標軸(結晶軸)に対して固定されている偏光板の偏光面の方向が、不適切な場合には、本来、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性があるにも係わらず、偏光板の偏光面の方向を基準として、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)が平行となる状態において測定される偏光ラマンスペクトルは、例外的に偏光面方向の依存性が観測できないことがある。
例えば、入射レーザー光の進行方向が、偶然に、結晶中に存在する対象タンパク質分子が有している、α−ヘリックス構造のらせん軸方向と一致する配置であった場合にも、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性を検出することが困難である。
この種の偶発的に入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)依存性の検出に不適当な入射レーザー光の進行方向、あるいは、偏光板の偏光面の方向の選択を回避するため、少なくとも、対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶に固定される座標軸(結晶軸)に対して固定されている偏光板の偏光面の方向、あるいは、入射レーザー光の進行方向を変えて、同様の測定を繰り返すことが好ましい。
対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶に固定される座標軸(結晶軸)に対して、入射レーザー光の進行方向を変える操作は、実際には、入射レーザー光の進行方向を変更する代わりに、実際には、対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶に固定される座標軸(結晶軸;結晶の配置)を、入射レーザー光の進行方向に対して、回転させることでなされる。具体的には、図1に例示するように、反射型の位相差顕微鏡の光学系に対して、その試料ステージ分を、XYZの三軸移動に加えて、二軸回転(θ、φ)も行うことが可能な可動ステージとする。すなわち、XYZ(θ、φ)の全方位可動ステージに、さらに、上述する温度調節系を具えたサンプル・トレイを付設した状態とする。
偏光ラマンスペクトルの偏光方向依存性を測定し、対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶に起因するストークス線のラマン散乱光強度の比較する際、少なくとも、対比するストークス線複数中には、対象タンパク質分子が有する、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線を含める。
加えて、対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶に起因するストークス線のラマン散乱光強度と、対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶が存在していない溶液部分で測定される、対象タンパク質分子に起因するストークス線のラマン散乱光強度と予め比較し、対象タンパク質分子に由来する微細な単結晶に起因するストークス線のラマン散乱光強度が、有意に強くなっているものも、上記の偏光面方向依存性の対比に利用することもできる。
実際には、微細な単結晶の表面上にレーザー光の照射スポット中に存在しない領域で測定される、レーザー・ラマンスペクトルと、微細な単結晶の表面上にレーザー光の照射スポット中に存在する状態で測定される、レーザー・ラマンスペクトルとを対比させ、後者では、ラマン散乱光強度が有意に偏光面方向の依存性を示すストークス線を選別する。この選別されたストークス線が、入射レーザー光の偏光面を代えて測定した偏光ラマンスペクトル間で、ラマン散乱光強度に差違があるか否かを判定する。これら偏光ラマンスペクトルの測定、ならびに、測定された偏光ラマンスペクトルの散乱光強度の比較、すなわち、差スペクトルを求める演算処理は、二次元CCDプレートを用いて、測定されるスペクトルのデジタル化し、付設するデータ処理・解析用コンピュータを用いて行う構成とする。一般に、付設するデータ処理・解析用コンピュータは、測定条件一般の制御機能を有する形態とし、測定自体の再現性を担保可能な装置構成とする。
例えば、良好な結晶性を示す単結晶の作製条件(単結晶化条件)が知られているタンパク質のうち、α−ヘリックス構造を含んでいるリゾチームに関して、その溶液と、単結晶において、図1に模式的に示すような、反射型の位相差顕微鏡の光学系を利用し、レーザー・ラマン散乱光を、入射レーザー光に対して、後方散乱(散乱角:180°)の配置で観測した結果を図3に示す。なお、入射レーザー光の偏光面と、モニターするラマン散乱光の偏光面は、平行とした結果を示している。
リゾチームの単結晶は、下記表1に記載する正方晶系の結晶であり、入射レーザー光をサイズ10μm程度の該単結晶の表面上に集光し、結晶軸に対して偏光方向を固定した直線偏光の入射レーザー光を用いて測定した結果である。
Figure 2007248280
リゾチームの単結晶において、顕著に見出されるストークス線と、単結晶と溶液の双方で見出されるストークス線の区別が可能であることを査証している。
図5は、正方晶系を示す、リゾチームの単結晶について、入射レーザー光の進行方向は、サイズ100μm程度の該単結晶のc軸方向と概ね一致させ、直線偏光の入射レーザー光の偏光面を、波長板により回転させ、互いに直交する条件で測定した、二つの偏光ラマンスペクトルを対比する結果である。該単結晶においては、直線偏光の入射レーザー光の偏光面に依存して、ラマン散乱光強度が変化することを査証している。
本発明の測定方法に適用される偏光ラマンスペクトルの測定装置は、例えば、図1にその構成を模式的に示すように、顕微ラマンスペクトル測定装置と、対象タンパク質分子の結晶化を目的として、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程で、溶液ドロップの表面近傍に析出してくる微細な析出物、特に、対象タンパク質分子の微細な単結晶に対するその場測定可能とする専用の試料ステージとを組み合わせたものである。
該試料ステージは、濃縮を進める過程の溶液ドロップを保持する試料溶液トレイを保持し、その溶液ドロップの温度を調製する、温度調節系と、溶液ドロップの表面近傍に析出する微細な析出物、特に、対象タンパク質分子の微細な単結晶に対して、入射レーザー光の照射スポットの位置合わせ、焦点合わせするための、XYZの三軸移動に加えて、二軸回転(θ、φ)も行うことが可能な可動ステージとする。すなわち、XYZ(θ、φ)の全方位可動ステージに、さらに、上述する温度調節系を具えたサンプル・トレイを付設した状態とする。
入射レーザー光の光源部は、所謂、共鳴ラマン分光に利用可能な波長を選択することが好ましい。通常、入射レーザー光の波長は、500nmよりも長い波長領域に選択する。勿論、単色性、直線偏光性、コヒーレンスに優れるレーザー光源を利用することが好ましく、発振波長が、500nm〜650nmの範囲にある、希ガスレーザー、例えば、発振波長647.1nmのKr+レーザー、514.5nmのAr+レーザー、632.8nmのHe−Neレーザー、あるいは、波長532nmのNd:YVO4レーザーの第二高調波が好適に利用される。また、直線偏光の入射レーザー光の偏光面を、種々に変更するため、入射レーザー光を、反射型の顕微鏡に導入する光路上に、波長板を設けている。
一方、ラマン散乱光の検出部は、反射型の顕微鏡から取り出される散乱光の光路上に、偏光板を配置し、ラマン分光器へ導く構成とされている。入射レーザー光と同一波長(周波数ν0)の単色性の高い光成分と、波長(周波数(ν0−ν1))のストークス線とは、notchフィルターを利用して、波長分離し、入射レーザー光の波長より長波長である、波長(周波数(ν0−ν1))のストークス線のみをラマン分光器へ導く。分離されたストークス線(周波数(ν0−ν1))は、ラマン分光器により、その周波数分散を、回折角分散として、二次元CCDプレートを用いて、同時に測定する装置構成を採用している。
なお、溶液ドロップの表面近傍に析出してくる微細な析出物、特に、対象タンパク質分子の微細な単結晶に対する、入射レーザー光の照射スポットの位置合わせ、焦点合わせする際、顕微鏡視野のモニターのため、ラマン散乱の測定に利用する反射型顕微鏡の光学系には、ビーム・スプリッターで分離され、接眼レンズにより得られる視野像を観測するビデオCCDカメラが付設されている。
偏光ラマンスペクトルの測定、ならびに、測定された偏光ラマンスペクトルの散乱光強度の比較、すなわち、差スペクトルを求める演算処理、偏光方向依存性の解析は、二次元CCDプレートを用いて、測定されるスペクトルのデジタル化し、付設するデータ処理・解析用コンピュータを用いて行う構成とする。一般に、付設するデータ処理・解析用コンピュータは、測定条件一般の制御機能を有する形態とし、測定自体の再現性を担保可能な装置構成とする。
また、反射型顕微鏡の光学系自体は、対物レンズは、入射レーザー光の照射スポット・サイズに応じて、その都度、適合する倍率の対物レンズを選択する。入射レーザー光の波長(周波数ν0)と、観測されるラマン散乱光の波長(周波数(ν0−ν1))との差違は、400cm-1〜2500cm-1の程度であり、対物レンズ自体の焦点距離に関しては、色収差は特に問題とならない。
入射レーザー光の波長:周波数ν0は、20,000cm-1〜15,000cm-1の範囲(500nm〜660nmの範囲)であるため、分子振動モードの周波数(ν1)に対応する、400cm-1〜2500cm-1の程度の領域は、その周波数分散を、回折角分散として、二次元CCDプレートを用いて、同時に測定することが可能である。一方、特定の分子振動モードの周波数(ν1)のラマン散乱光強度を選択的に測定する目的では、該特定の分子振動モードの半値幅に相当する、周波数(Δν1)窓を有する、狭帯域光学フィルターの使用も可能である。具体的には、分子振動モードの半値幅に相当する周波数窓:Δν1=3〜10cm-1、検出対象のストークス線のピーク波長:周波数(ν0−ν1)=19,500〜13,500cm-1の割合は、1/4000〜1/1500となる。従って、単一の分子振動モードの周波数(ν1)のラマン散乱光を分離モニターする用途では、狭帯域光学フィルターの波長窓幅として、Δλが、0.15〜0.40nm程度のものが利用可能である。また、その透過中心波長λをチューニングする必要があり、前記の波長窓幅Δλを有するファブリペロー型干渉分光器が、その候補として挙げられる。透過中心波長λをチューニング可能な狭帯域光学フィルターを利用する際には、各ストークス線の強度は、波長スキンを行いつつ、測定するため、二次元CCDプレートではなく、光電子増幅管を用いた検出を行うことが可能となる。
また、入射レーザー光の単色性は、前記分子振動モードの周波数(ν1)の半値幅と比較して、十分に波長分散が小さなレーザー光であり、同時に、直線偏光性に優れている限り、種々のレーザーが利用可能である。例えば、半導体レーザーにおいて、その発振波長が、500nm〜660nmの範囲であり、また、発振波長の半値幅は、0.15〜0.40nmの範囲よりも、有意に狭い、すなわち、少なくとも、0.15nm以下であるものうち、直線偏光性に優れているものを利用することも可能である。なお、用いる半導体レーザー光のビーム拡がりは、ノッチ・フィルターを利用する分離を可能とする上では、実効的に気体レーザーと同程度であることが必要である。あるいは、前記の要件を満足する限り、ポンプ光として半導体レーザーを利用する、固体レーザーの利用も可能である。
本発明にかかる測定方法は、例えば、ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、タンパク質分子の単結晶化の条件を最適化する過程において、溶液ドロップ中における、タンパク質分子の微細な単結晶の生成、ならびに、生成したタンパク質分子の単結晶の結晶学的な結晶性の良否をその場観察する手段として、有用である。
本発明にかかるタンパク質の結晶化の判定方法、タンパク質結晶の結晶性判別方法において利用される顕微ラマン分光測定に適する測定装置構成の一例を模式的に示す図である。 溶液中に存在するタンパク質結晶を対象とする、偏光ラマン散乱の測定原理を説明する図である。 溶液中に溶解するリゾチーム・タンパク質のストークス・ラマンスペクトルと、リゾチーム・タンパク質単結晶のストークス・ラマンスペクトルと対比する図である。 α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線のラマン散乱強度に対する、入射レーザー光の偏光方向の依存性を説明する図である。 リゾチーム・タンパク質単結晶の結晶軸に対して、異なる偏光方向を有する入射レーザー光を用いて測定された二つのストークス・ラマンスペクトルを対比して示す図である。 結晶中のタンパク質分子中に含まれるα−ヘリックスのらせん軸方向と、入射レーザー光の偏光方向とのなす角θに依存する、アミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード:amide I、あるいはamide III に起因するストークス線のラマン散乱強度の変化、ならびに、結晶中のタンパク質分子の配向の乱れに由来する前記角θ依存性の見掛け上の広がりを説明する図である。

Claims (10)

  1. 蒸気拡散法により、タンパク質分子を含む溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物の種類を、非接触的に判定する方法であって、
    該タンパク質分子を含む溶液ドロップ中には、該タンパク質分子とその結晶化を促進する機能を有する結晶化剤が含有されており、
    溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物は、該タンパク質分子に由来する析出物であるか、前記結晶化剤に由来する析出物であるかの判定は、
    前記ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットに、入射レーザー光を集光照射し、
    該微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を検出し、
    予め、微細な析出物を含まない溶液ドロップに、前記微小なスポットと同じスポット面積で、入射レーザー光を集光照射し、
    該溶液の微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を検出し、
    該微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットにおいて検出されたラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分のストークス・ラマンスペクトルと、該溶液の微小なスポットにおいて検出されたラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分のストークス・ラマンスペクトルとを比較し、
    該微細な析出物の存在に起因して、ラマン散乱光強度が増大するストークス線を特定し、
    該特定されたストークス線が由来する振動モードの振動数が、
    該タンパク質分子に特徴的な振動モードの振動数である場合、前記ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物は、該タンパク質分子に由来する析出物である;
    該特定されたストークス線が由来する振動モードの振動数が、
    前記結晶化剤に特徴的な振動モードの振動数である場合、前記ドロップの表面近傍に析出している微細な析出物は、前記結晶化剤に由来する析出物である;
    と判定する
    ことを特徴とする、ラマン散乱法を利用して、溶液中の微細な析出物を判定する方法。
  2. 前記微細な析出物の存在に起因して、ラマン散乱光強度が増大するストークス線を特定する際、少なくとも、
    対象タンパク質分子のペプチド主鎖を構成するアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードのうち、二次構造を構成するペプチド主鎖中のアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モードに起因するストークス線のラマン散乱光強度の対比を行う
    ことを特徴とする請求項1に記載のラマン散乱法を利用して、溶液中の微細な析出物を判定する方法。
  3. 前記対象タンパク質分子のアミノ酸配列に基づき、予め、含まれる二次構造の有無に関して、予測した上で、少なくとも、
    β−シートを構成しているβ−ストランド構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (β−strand) 1670cm-1、amide III (β−strand) 1235cm-1;または
    α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード;amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線のラマン散乱光強度のいずれかの対比を行う
    ことを特徴とする請求項2に記載のラマン散乱法を利用して、溶液中の微細な析出物を判定する方法。
  4. 少なくとも、二次構造のなかでも、α−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線のラマン散乱光強度のいずれかの対比を行う
    ことを特徴とする請求項3に記載のラマン散乱法を利用して、溶液中の微細な析出物を判定する方法。
  5. 蒸気拡散法により、タンパク質分子を含む溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物の種類を、非接触的に同定する方法であって、
    溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物は、該タンパク質分子の微細な単結晶であるか、該タンパク質分子の「アグリゲート」状の不定凝集体であるかの判定は、
    前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットに、入射レーザー光を集光照射し、
    該タンパク質分子由来の微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を検出し、
    予め、タンパク質分子由来の微細な析出物を含まない溶液ドロップに、前記微小なスポットと同じスポット面積で、入射レーザー光を集光照射し、
    該溶液の微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を検出し、
    該タンパク質分子由来の微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットにおいて検出されたラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分のストークス・ラマンスペクトルと、該溶液の微小なスポットにおいて検出されたラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分のストークス・ラマンスペクトルとを比較し、
    該タンパク質分子由来の微細な析出物の存在に起因して、ラマン散乱光強度が増大するストークス線を特定し、
    該特定されたストークス線中に、少なくとも、該タンパク質分子が有するα−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線のいずれかが含まれていることを確認し、
    前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物とその周囲を取り巻く溶液とを含む微小なスポットに、直線偏光の入射レーザー光を集光照射し、ラマン散乱光の後方散乱(散乱角:180°)成分を、偏光板を介して検出する際、
    偏光板の偏光面の方向を基準として、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)が平行となる状態で観測される偏光ストークス・ラマンスペクトルと、直交する状態で観測される偏光ストークス・ラマンスペクトルとを比較し、
    少なくとも、該タンパク質分子が有するα−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線の強度のいずれかが、
    前記二つの偏光ストークス・ラマンスペクトル間で有意に相違する場合、前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物は、該タンパク質分子の微細な単結晶である;
    前記二つの偏光ストークス・ラマンスペクトル間で有意に相違場合、前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子由来の微細な析出物は、該タンパク質分子の「アグリゲート」状の不定凝集体である;
    と判定する
    ことを特徴とする、偏光ラマン散乱法を利用して、溶液中のタンパク質分子に由来する微細な析出物を判定する方法。
  6. 偏光ストークス・ラマンスペクトルの測定を行う際、
    入射レーザー光を集光照射し、その照射スポット中に、溶液ドロップの表面近傍に析出している、対象タンパク質に由来する微細な析出物が一つ存在する状態において、偏光ラマンスペクトルの測定を行う
    ことを特徴とする請求項5に記載の偏光ラマン散乱法を利用して、溶液中のタンパク質分子に由来する微細な析出物を判定する方法。
  7. 蒸気拡散法により、タンパク質分子を含む溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子の単結晶の結晶性良否を、非接触的に判定する方法であって、
    溶液ドロップを濃縮する過程において、ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子の単結晶は、良好な結晶性を有する単結晶であるか、結晶性が劣った単結晶であるかの判定は、
    前記ドロップの表面近傍に析出している、タンパク質分子の単結晶の表面上に、微小なスポットで、直線偏光の入射レーザー光を集光照射し、
    該タンパク質分子の単結晶表面上の微小なスポットから発するラマン散乱光の、後方散乱(散乱角:180°)成分を、偏光板を介して検出する際、
    偏光板の偏光面の方向を基準として、入射レーザー光の電界ベクトル方向(偏光方向)が平行となる状態で観測される偏光ストークス・ラマンスペクトルを、
    該タンパク質分子の単結晶表面に照射する入射レーザー光の偏光方向と、該タンパク質分子の単結晶が有する一つの結晶軸方向とのなす角度θを変化させて、測定し、
    該偏光ストークス・ラマンスペクトル中、
    少なくとも、該タンパク質分子が有するα−ヘリックス構造に特徴的なアミド結合(−CO−NH−)に由来する振動モード中、amide I (α−helix) 1655cm-1、amide III (α−helix) 1265cm-1、amide III (α−helix) 1340cm-1に相当する振動モードに起因するストークス線の強度のいずれかに関して、前記角度θに対する依存性を求め、
    前記ストークス線の強度における角度θに対する依存性は、
    特定の角度θにおいて、ピークを示し、該ピークにおける強度の1/2となる角度θに関する分布の半値幅Δθobs.が、
    別途、他のタンパク質分子の良好な結晶性を示す単結晶において測定された、半値幅の代表値Δθcriticalを基準として、
    該対象タンパク質分子の単結晶において、測定される半値幅Δθobs.が、Δθobs.≦1.2×Δθcriticalの範囲である場合、該対象タンパク質分子の単結晶は、良好な結晶性の単結晶と判定する;
    該対象タンパク質分子の単結晶において、測定される半値幅Δθobs.が、Δθobs.≧2×Δθcriticalの範囲である場合、該対象タンパク質分子の単結晶は、結晶性が劣る単結晶と判定する
    ことを特徴とする、偏光ラマン散乱法を利用して、溶液中に存在するタンパク質分子の単結晶の結晶性を判定する方法。
  8. 前記蒸気拡散法により、タンパク質分子を含む溶液ドロップを濃縮する過程は、
    ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程である
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のラマン散乱法を利用して、溶液中の微細な析出物を判定する方法。
  9. 前記蒸気拡散法により、タンパク質分子を含む溶液ドロップを濃縮する過程は、
    ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程である
    ことを特徴とする請求項5または6に記載の偏光ラマン散乱法を利用して、溶液中のタンパク質分子に由来する微細な析出物を判定する方法。
  10. 前記蒸気拡散法により、タンパク質分子を含む溶液ドロップを濃縮する過程は、
    ハンギング・ドロップ−蒸気拡散法を利用して、濃縮を進める過程である
    ことを特徴とする、請求項7に記載の偏光ラマン散乱法を利用して、溶液中に存在するタンパク質分子の単結晶の結晶性を判定する方法。

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