JP2007167885A - プレス工具の表面処理方法および該方法で表面処理されたプレス工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明によって提供される表面処理方法は、プレス工具(10)における少なくともプレス加工時に摩擦の生じる部分(12)の表面に石炭灰(P)を投射することにより該表面を硬化することを包含する。好ましくは、少なくとも厚さ5μmの硬化層が形成されるように前記石炭灰を投射する。使用する石炭灰は平均粒径20μm以下に調整されたフライアッシュが好ましい。
【選択図】図1
Description
打抜工具では、加工時において、その表面の一部(例えばスティック状部分の先端部)が被加工材(ワーク)と高圧又は高速条件下で接触する。近年、被加工材(例えば鋼板)の厚みが増大する傾向にあり、そのような被加工材(ワーク)の打ち抜き加工に使用される工具の長寿命化を実現するには、工具のワーク接触面における物理的強度、特に耐摩耗性を向上させることが要求される。
かかる目的のために、従来、例えば、工具における被加工材接触面に対し、炭化チタン、窒化チタン等から成る硬質皮膜をイオンプレーティング装置等を使用することによって形成する処理が行われている(特許文献1)。しかし、このような成膜処理は手間がかかるうえにコストが高く、そのような成膜処理を工具に施すことはプレス加工全体のコスト増の要因ともなり得た。
本発明者は、石炭灰という安価で比較的軟質な無機微粒子をプレス工具の表面に高速投射することによって、当該プレス工具の表面を硬化させ耐摩耗性を容易に向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の表面処理方法によると、耐摩耗性に優れ、結果的に長寿命のプレス工具を、安価な石炭灰を材料に使用することによって低コストで作製することができる。
従って、本発明は他の側面として、ここで開示されるいずれかの態様の表面処理方法によって硬化された表面を有するプレス工具を提供する。
従って、本発明によって提供される表面処理方法の好適な一態様は、プレス工具の一典型例である打抜工具(典型的にはパンチ)における少なくともプレス加工時に被加工材との接触等により摩擦の生じる部分の表面に石炭灰を投射することにより該表面を硬化することを包含する、打抜工具表面処理方法である。また、そのような表面処理方法によって硬化された表面を有する打抜工具(パンチ等)を提供する。
かかる態様の表面処理方法によると、従来の硬質微粒子(例えば鉄系投射材)を使用した投射処理(例えばエアーブラスト)では得られない表面改質を実現することができる。即ち、石炭灰の衝突によって工具表面を硬化し得ることに加え、投射された石炭灰が工具表面にて破砕されることにより石炭灰構成成分(シリカ、アルミナ、酸化第二鉄、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、等)の一部(例えば酸化カルシウム)が当該工具表面に付着し得、該付着物から成る耐摩耗性硬質皮膜が形成され得る。これにより、特に耐摩耗性に優れる長寿命の打抜工具その他のプレス工具を製造することができる。
特に好ましくは、前記投射に使用する石炭灰は、平均粒径が20μm以下に調整(典型的には分級された)フライアッシュであることを特徴とする。このような粒径に粒度調整されたフライアッシュを使用すると、全体に均質で特に耐摩耗性に優れる表面を有する打抜工具その他のプレス工具を製造することができる。
例えば、一般的なダイス鋼から成る打抜工具(パンチ等)である場合、石炭灰の投射圧力、例えばエアーブラストの場合における放射する流体(典型的には空気、又は窒素、アルゴン等の不活性ガス)の圧力は、0.1MPa以上2MPa程度が適当であり、0.1〜1.5MPa程度が好ましく、0.5〜1MPa程度が特に好適である。
これにより、図1及び投射部位の断面図である図2に模式的に示すように、工具(パンチ)10における被加工材との接触部分(即ち板材のような被加工材の打ち抜き加工に直接利用される作業部位)である先端部12の表面に、所望する硬化層13を形成することができる。好ましくは、少なくとも厚さ5μmの硬化層13が形成されるように石炭灰Pを投射する。なお、従来一般的なブラストを行う場合と同様、ブラスト装置20に適当な粉塵回収装置(集塵装置)を装備することにより、投射された石炭灰Pを容易に回収することができる。
このように、本発明の表面処理方法によると、煩雑で高コストの硬質皮膜形成処理を行うことなく、一般的で簡単なブラスト装置構成と低コストで入手し得る石炭灰の利用によって、プレス工具の耐摩耗性向上を図ることができる。
実施例1として、図1に示すようなSKD11製のパンチ(長さ7cm、本体部の直径1cm、打ち抜き加工に直接利用される本体先端部の作業部位の長さ2cm、直径0.8cm)を使用し、その先端部に原粉を分級して得られた平均粒径が約7μmの粒度分布のフライアッシュ((社)日本粉体工業技術協会より入手)を市販のエアーブラスト装置(株式会社不二製作所:商品名ニューマブラスターDPV-1)を用いて投射(噴射)した。
具体的には、装置のノズル(口径約1mm)から投射圧力(本実施例では空気加圧圧力)0.7MPaでフライアッシュをパンチ先端部表面全体にほぼ均一になるように約10秒間投射(噴射)した。ノズル先端から基材表面までの距離は10〜50mmとした。
比較例として、市販の平均粒径が約4μmの炭化ケイ素(SiC)粉末(比較例1)、および、市販の平均粒径が約8.7μmの炭化タングステン(WC)粉末(比較例2)を使用して同条件にて投射処理を行った。
即ち、図3はフライアッシュ投射処理済みのパンチ(実施例1)の連続打ち抜き9000回後の状態を示す。また、図4はSiC粉末投射処理済みのパンチ(比較例1)の連続打ち抜き9000回後の状態を示す。また、図5はWC粉末投射処理済みのパンチ(比較例2)の連続打ち抜き9000回後の状態を示す。そして、図6はいかなる投射処理も行っていないパンチ(比較例3)の連続打ち抜き1920回後の状態を示す。
各図の(B)はパンチ先端付近の状態を示す実体顕微鏡写真であり、(A)はパンチ先端表面を拡大して示す光学顕微鏡写真であり、(C)はパンチ側面の打ち抜き加工境界部を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
図9の(A)及び(B)は、SiC粉末投射処理済みのパンチ(比較例1)の連続打ち抜き9000回後のパンチ先端表面のSEM像である。また、図10の(A)及び(B)は、SiC粉末投射処理済みのパンチ(比較例1)の連続打ち抜き9000回後のパンチ先端の断面のSEM像である。
図11の(A)及び(B)は、WC粉末投射処理済みのパンチ(比較例2)の連続打ち抜き9000回後のパンチ先端表面のSEM像である。また、図12の(A)及び(B)は、WC粉末投射処理済みのパンチ(比較例2)の連続打ち抜き9000回後のパンチ先端の断面のSEM像である。
また、SiC粉末投射処理済みの比較例1のパンチおよびWC粉末投射処理済みの比較例2のパンチでは、連続打ち抜き9000回後において、パンチ先端部の硬化層が著しく除去されており、特に比較例1のパンチでは先端部の損傷が激しく母材の出現及び一部欠損が認められた(図4の(A)及び図9参照)。
その一方、フライアッシュを投射した実施例1に係るパンチでは、各比較例のパンチほどの損傷は認められず、パンチ先端部においても硬化層が比較的保持されていた。このことは、本発明の表面処理方法によってパンチ等のプレス工具の耐摩耗性を容易に向上させることができ、これらプレス工具の長寿命化を実現し得ることを裏付けるものである。
また、本発明は、石炭灰の新たな用途を開拓したものであり、資源リサイクルに貢献している。
12 先端部
13 硬化層
20 ブラスト装置
Claims (5)
- プレス工具における少なくともプレス加工時に摩擦の生じる部分の表面に石炭灰を投射することにより該表面を硬化すること、
を包含する、プレス工具の表面処理方法。 - 前記表面に少なくとも厚さ5μmの硬化層が形成されるように前記石炭灰を投射する、請求項1に記載の表面処理方法。
- 前記投射された石炭灰の成分の一部が前記表面に付着し得る圧力で該石炭灰を該表面に投射する、請求項2に記載の表面処理方法。
- 前記投射に使用する石炭灰は、平均粒径が20μm以下に調整されたフライアッシュである、請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理方法によって硬化された表面を有するプレス工具。
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