JP2006522611A - より優れた触媒効果を持つブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド及び使用方法 - Google Patents

より優れた触媒効果を持つブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド及び使用方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、より優れたコカイン加水分解活性を持つブチリルコリンエステラーゼ及びそれをコード化する対応核酸を提供する。本発明は更にコカイン・ベースのブチリルコリンエステラーゼ基質の加水分解法、及び本発明の変異体によるコカイン誘発症状の治療方法も提供する。

Description

発明の詳細な説明
本発明は、合衆国国立衛生研究所による認可番号1R01 DA011707の下に政府の支援を得て行なわれた。合衆国政府は本発明に何らかの権利を有している。
発明の背景
本発明は一般的にコンピューター化学及び分子モデリングの分野に関し、更に具体的には、より優れた触媒効果を持つブチリルコリンエステラーゼ・ポリペプチド変異体に関する。
コカインの乱用は米国では重大な社会及び医学的問題であり、慢性の使用者が推定で360万人いる事からもそれは窺える。コカインの乱用は長期的な依存症となり、生命を脅かすような過剰摂取にも至る。しかしコカインの強化作用及び毒性作用に対抗できるような有効な拮抗薬は現在存在しない。
コカイン中毒を治療する拮抗薬の発見が難しい主な理由の一つは、コカインの作用機構にある。特にコカインは神経伝達物質の再摂取を阻害するので、報酬経路の刺激過剰が起きやすい。コカインの強化作用の基礎になっているのがこの刺激過剰である。更にコカインは、高濃度の場合、中枢神経及び心臓血管システムの複数の受容体と相互作用を起こし、過剰摂取に伴う毒性が誘発される。こういう複数の作用機構の故に、コカインの強化作用と毒性作用の両方を治療する選択的な拮抗薬を見つけるのは困難である。更に、コカインと受容体との結合を阻害する拮抗薬は、コカイン同様、多くの有害な作用を引き起こす傾向にある。
最近、血液中のコカインを遮断及び中性化する代替治療方法が提案されている。例えば、ドーパミンD1、D2、D3拮抗薬は、ラットに於いてコカインの強化力に影響を及ぼすが、こういう拮抗薬の有効用量の範囲は狭く、コカイン作用力の低下の程度もかなり小さい。更にこういうドーパミン拮抗薬は、コカインの自己投与行動に影響を及ぼすレベルを用量が僅かに超えただけで、ドーパミンによって制御をうける他の作用を大幅に低下させてしまう。
別の治療方法は、抗体を使ってコカインの影響から部分的に体を保護する方法である。コカインとの結合後、抗体が化学量論的に枯渇するのも免疫化法の限界である。血液中でコカインを代謝する触媒的抗体を利用すれば、コカインを代謝し放出する事により更に多くのコカインと結合できるので、この問題を部分的に緩和することが可能である。しかし現在見出されている最も優れた触媒的抗体でも、ヒトの内因性血清エステラーゼよりはるかに緩やかな速度でしかコカインを代謝できない。
インビボでは、コカインは主に次の3つの経路で代謝される。(1)肝臓のNデメチレーションによりノルコカインを形成、(2)血清及び肝臓のエステラーゼによりエクゴニン・メチル・エステルを形成、及び(3)非酵素的加水分解によりベンゾイルエクゴニンを形成。ヒトでは、ノルコカインは代謝物の量としては僅かであり、ベンゾイルエクゴニン及びエクゴニン・メチル・エステルとして投与量の約90%が代謝される。コカインの代謝物は急速に***され、コカインの毒性や強化作用は示さないようである。血清中のブチリルコリンエステラーゼのレベルが低いと、コカインの過剰摂取後、生理学的に有害作用が生じる。これもブチリルコリンエステラーゼが血漿中コカインの加水分解活性に関係している証拠である。ブチリルコリンエステラーゼ遺伝子に欠陥のある個人から得た血漿には、インビトロでコカインを加水分解する能力はほとんど又は全くないし、ブチリルコリンエステラーゼ遺伝子に欠陥コピーと野生型コピーを1つずつ含む個人の血漿では、コカインの加水分解は通常の半分の速度で進行する。従って、ブチリルコリンエステラーゼ遺伝子に欠陥のある個人は、コカインに対して致命的な反応をする危険性が高い。最近ブチリルコリンエステラーゼの投与によりマウス及びラットをコカインからある程度保護する事が証明された。
ブチリルコリンエステラーゼの投与がインビボでコカインの毒性にある程度の効果を示すのは事実であるが、コカインの加水分解用触媒としては決して有効ではない。野生型ブチリルコリンエステラーゼはコカイン加水分解の活性が低いので、治療用としては、純度の高い酵素を限界量以上に大量に使用しなければならない。
ヒトにも多くの種類のブチリルコリンエステラーゼが存在し他の種にも様々な変種が存在するが、優れたコカイン加水分解活性を示すものは一つも存在しない。様々な組み換えブチリルコリンエステラーゼが試みられたが、コカイン加水分解の活性に増加のみられた変異体はA328Yと名付けられた一つだけであった。ブチリルコリンエステラーゼの臨床評価を行なうには、コカイン加水分解の活性を増大させるブチリルコリンエステラーゼ変異体を更に探す必要がある。
従って、野生型ブチリルコリンエステラーゼよりはるかに効果的にコカインを加水分解できる組み換えブチリルコリンエステラーゼ・ポリペプチドが必要である。本発明はこういうニーズを満たし、それに関連した利点も提供している。
発明の要約
本発明は、より優れたコカイン加水分解活性を持つブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド及びそれをコード化する対応核酸を提供する。本発明は更にコカイン・ベースのブチリルコリンエステラーゼ基質の加水分解法、及び本発明の変異体によるコカイン誘発症状の治療方法も提供する。
(発明の詳細な説明)
本発明は、ヒトの天然のブチリルコリンエステラーゼと比較してコカイン加水分解活性が向上しているブチリルコリンエステラーゼ変異体のポリペプチド、及びそれをコード化している核酸に関する。本発明は、コカイン・ベースのブチリルコリンエステラーゼ基質を加水分解する方法、及びコカイン誘発症状の治療方法にも関する。
コリンエステラーゼは、神経伝達物質アセチルコリン及び種々のエステル含有化合物を加水分解する汎存性で多形性のカルボキシラーゼB型酵素である。2種類の主要コリンエステラーゼは、アセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼである。ブチリルコリンエステラーゼは以下に示すように様々な種類のコリンの加水分解を触媒する。
BChE
アセチルコリン + HO ――――> コリン + 対応する酸
ブチリルコリンエステラーゼは、基質としてブチリルコリン及びベンゾイルコリンを優先的に使用する。ブチリルコリンエステラーゼは哺乳類の血漿、肝臓、膵臓、腸の粘膜、及び中枢神経系統の白質の中に存在している。ブチリルコリンエステラーゼをコード化しているヒトの遺伝子は染色体3上にあり、天然に起きるブチリルコリンエステラーゼの遺伝子変異体は30以上知られている。ブチリルコリンエステラーゼ・ポリペプチドは574のアミノ酸を含み、1,722の塩基配列によりコード化されている。天然に起きるポリペプタイド変異体は非定型対立遺伝子で、変異体A(SEQ ID NO:45)、変異体J(SEQ ID NO:46)、及び変異体K(SEQ ID NO:47)と呼ばれ、図4に示してある。変異体AはD70G突然変異でまれ(0.5%対立形質頻度)であり、J変異体はE497V突然変異で一家族にしか見出されていない。K変異体はヌクレオチド1615の点突然変異でA539T突然変異であり、白人種では対立遺伝子頻度は約12%である。
天然に起きるヒトのブチリルコリンエステラーゼ変異体の他にも、数多くの種における変異体が知られている。ネコのブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸配列は、ヒトのブチリルコリンエステラーゼと88%同じである(図4参照)。異なっている70のアミノ酸のうち3つは活性部位溝に位置しており、A227L、P285L、そしてF398Iと呼ばれる。同様に、ウマのブチリルコリンエステラーゼもヒトのブチリルコリンエステラーゼと比べて活性部位の3つのアミノ酸が異なっており、A227V、P285L、そしてF398Iと呼ばれている(図4を参照)。ラットのブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸配列活性部位溝に6つの異なるアミノ酸が含まれており、A227K、V280L、T284S、P285I、L286R、そしてV288Iと呼ばれる(図4参照)。
天然に起きるヒトのブチリルコリンエステラーゼ変異体、他の種の変異体、そして組み換え突然変異体は、キシー(Xie)等、分子薬理学(Molecular Pharmacology) 55:83−91(1999)に記述されている。コカイン加水分解活性を増すために試験されたヒトの組み換えブチリルコリンエステラーゼ突然変異体には、次のような1つ又は複数の変更が含まれている:N68Y/Q119/A277W、Q119/V288F/A328Y、Q119Y、E197Q、V288F、A328F、A328Y、F329A、及びF329S。これらの突然変異体の中で、コカイン加水分解活性の増大を示したブチリルコリンエステラーゼ突然変異体はA328Y突然変異体だけであり、328の位置にアラニン(A)の代わりにチロシン(Y)があり、ヒトのブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性が4倍増大していた(キシー(Xie)等、前出、1999)。
本発明は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド、及びSEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの機能的断片を提供する。
SEQ ID NO:2として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を24倍増大させる。SEQ ID NO:4として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を10倍増大させる。SEQ ID NO:6として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を16倍増大させる。SEQ ID NO:8として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を8倍増大させる。SEQ ID NO:10として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を100倍増大させる。SEQ ID NO:12として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を100倍増大させる。SEQ ID NO:14として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を97倍増大させる。SEQ ID NO:16として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を91倍増大させる。SEQ ID NO:18として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を68倍増大させる。SEQ ID NO:20として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を増大させる。SEQ ID NO:22として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を増大させる。SEQ ID NO:24として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を増大させる。SEQ ID NO:26として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を増大させる。SEQ ID NO:28として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を4倍増大させる。SEQ ID NO:30として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を4倍増大させる。SEQ ID NO:32として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を2倍増大させる。SEQ ID NO:34として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を3倍増大させる。SEQ ID NO:36として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を2倍増大させる。SEQ ID NO:38として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を2倍増大させる。SEQ ID NO:40として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を1.5倍増大させる。SEQ ID NO:42として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を2.5倍増大させる。SEQ ID NO:52として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を100倍増大させる。
本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドは、天然に生じる既知の如何なる変異体よりも高率でコカインを加水分解するので、臨床的に重要な意味を持っている。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドが治療上重要な意味を持っているのは、コカイン毒性の致命的症状に他よりもはるかに敏速に反応できるこのコカイン加水分解活性の増大の故である。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドには、コカイン加水分解活性にとって重要であると決定された位置に2つ又はそれ以上のアミノ酸の変更がある。
「ブチリルコリンエステラーゼ」という用語は、本出願で使用される限り、SEQ ID NO:44として示されている天然に生じるヒトのブチリルコリンエステラーゼ配列を有しているポリペプチドを意味する。
「ブチリルコリンエステラーゼ変異体」という用語は、本出願で使用される限り、構造的にブチリルコリンエステラーゼに似ているが、SEQ ID NO:44として示されているブチリルコリンエステラーゼとはアミノ酸が少なくとも1つ異なっている分子を意味する。ブチリルコリンエステラーゼ変異体はSEQ ID NO:44として示されているブチリルコリンエステラーゼと構造的に似ているが、優れたコカイン加水分解活性を示す。例えば、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドのコカイン加水分解活性は、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、24、28、32、36、40、80、100倍、あるいはそれ以上増大する場合がある。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドは、ブチリルコリンエステラーゼと比べて1、2、3、4、5、あるいはそれ以上のアミノ酸が変更している場合がある。具体的な例として、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの328及び332の位置にアミノ酸としてそれぞれトリプトファンとメチオニンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:2及び1と呼ばれる。他の具体的な例としては、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの328及び332の位置にアミノ酸としてそれぞれトリプトファンとプロリンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:4及び3と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの328及び331の位置にアミノ酸としてそれぞれトリプトファンとロイシンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:6及び5と本出願で記述されそう呼ばれている。ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの328及び332の位置にアミノ酸としてそれぞれトリプトファンとセリンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:8及び7と本出願で記述されそう呼ばれている:ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの199、227、287、328及び332の位置にアミノ酸としてそれぞれセリン、アラニン、グリシン、トリプトファンそしてメチオニンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:10及び9と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの199、227、287、及び328の位置にアミノ酸としてそれぞれセリン、アラニン、グリシン、そしてトリプトファンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:12及び11と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの199、287、及び328の位置にアミノ酸としてそれぞれセリン、グリシン、そしてトリプトファンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:14及び13と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227、287、及び328の位置にアミ酸としてそれぞれアラニン、グリシン、そしてトリプトファンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:16及び15と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227及び328の位置にアミノ酸としてそれぞれアラニンとトリプトファンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:18及び17と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの332の位置にアミノ酸としてそれぞれセリンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:20及び19と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの332の位置にアミノ酸としてそれぞれメチオニンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:22及び21と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの332の位置にアミノ酸としてそれぞれプロリンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:24及び23と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの331の位置にアミノ酸としてそれぞれロイシンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:26及び25と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227の位置にアミノ酸としてそれぞれアラニンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:28及び27と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227の位置にアミノ酸としてそれぞれグリシンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:30及び29と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227の位置にアミノ酸としてそれぞれセリンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:32及び31と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227の位置にアミノ酸としてそれぞれプロリンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:34及び33と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227の位置にアミノ酸としてそれぞれチロシンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:36及び35と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227の位置にアミノ酸としてそれぞれシステインがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:38及び37と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227の位置にアミノ酸としてそれぞれメチオニンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:40及び39と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの199の位置にアミノ酸としてそれぞれセリンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:42及び41と本出願で記述されそう呼ばれている;ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの227、287、328、及び332の位置にアミノ酸としてそれぞれアラニン、グリシン、トリプトファン、そしてメチオニンがあり、そのアミノ酸配列及びコード化している核酸配列はそれぞれSEQ ID NO:52及び51と本出願で記述されそう呼ばれている。
「ポリペプチド」という用語は、本出願で使用される限り、2又はそれ以上のアミノ酸が共有結合したものを意味する。本発明のポリペプチドには、2,3個又は数個のアミノ酸を持つ小さいポリペプチドも数百又はそれ以上のアミノ酸を持つ大きいポリペプチドも含まれる。2つ又はそれ以上のアミノ酸残基の共有結合は、普通、アミド結合である。しかしアミノ酸は、ポリペプチド業界及び化学当業者には周知の他の種々の方法で結合させる事ができる。従ってポリペプチドには、全体的又は部分的に、アミノ酸間にアミド結合のない分子、アミノ酸類似体、そしてミメティックスが含まれる。同様に、環状ペプチドや他の立体配座的に拘束されている構造もこの用語には含まれる。ポリペプチドは天然に生じる方法で修飾する事も可能である。翻訳後の修飾もその中に含まれるが、例えば、リン酸化、脂質化、プレニデーション、硫酸化、ヒドロキシル化、アセチル化、炭水化物の追加、補欠分子族又は補助因子の追加、ジスルフィド結合の形成、蛋白質の加水分解、巨大分子錯体の構成などである。
以下に述べるように、参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドと実質的に同じアミノ酸配列を持ち、同じようなコカイン加水分解活性を示す限り、本発明のポリペプチドには、例えば、D立体異性体のような天然に生じるアミノ酸の修飾体、天然には存在しないアミノ酸、アミノ酸類似体、ミメティック等も含まれる。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドには、2つ又はそれ以上のアミノ酸の変更があっても良い。更に、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドには、コカインの加水分解活性には余り影響を与えないが、生物学的安定性の増大のような好ましい特性を付与する修飾が1つ又はそれ以上加わっても良い。
本発明のアミノ酸は、参照アミノ酸配列で規定されているポリペプチドに匹敵する機能及び生物活性を持っている限り、それと類似の配列つまり同一ではない配列であっても良い事は了解済みである。本発明の変異体ポリペプチドには、参照アミノ酸配列と比べて少なくとも約75%、80%、82%、84%、86%、又は88%、あるいは少なくとも約90%、91%、92%、93%、又は94%同一の実質的に同じアミノ酸配列も含まれる。あるいは参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの生物活性を維持している限り、95%以上、96%、97%、98%、又は99%同一のアミノ酸を有していても良い。しかし、スプライス変異体等の故に配列の同一性が上述のレベル以下であるポリペプチド又はコード化核酸、あるいは保存的アミノ酸置換又は変性コドン置換で修飾されているポリペプチド又はコード化核酸も本発明の範囲に含まれている事も了解済みである。
本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体の生物活性は、本出願で記述されている限りコカイン加水分解の活性である。例えば、SEQ ID NO:2と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/Y332Mは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約24倍増大している。SEQ ID NO:4と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/Y332Pは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約10倍増大している。SEQ ID NO:6と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/V331Lは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約16倍増大している。SEQ ID NO:8と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/Y332Sは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約7倍増大している。SEQ ID NO:10と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/Y332M/S287G/F227A/A199Sは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約100倍増大している。SEQ ID NO:12と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/S287G/F227A/A199Sは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約100倍増大している。SEQ ID NO:14と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/S287G/A199Sは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約97倍増大している。SEQ ID NO:16と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/S287G/F227Aは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約91倍増大している。SEQ ID NO:18と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/F227Aは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約68倍増大している。SEQ ID NO:20と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体Y332Sは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて増大している。SEQ ID NO:22と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体Y332Mは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて増大している。SEQ ID NO:24と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体Y332Pは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて増大している。SEQ ID NO:26と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体V331Lは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて増大している。SEQ ID NO:28と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体F227Aは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約4倍増大している。SEQ ID NO:30と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体F227Gは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約4倍増大している。SEQ ID NO:32と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体F227Sは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約2倍増大している。SEQ ID NO:34と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体F227Pは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約3倍増大している。SEQ ID NO:36と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体F227Tは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約2倍増大している。SEQ ID NO:38と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体F227Cは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約2倍増大している。SEQ ID NO:40と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体F227Mは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約1.5倍増大している。SEQ ID NO:42と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体A199Sは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約2.5倍増大している。そしてSEQ ID NO:52と呼ばれる(本出願ではAME−359とも呼ばれる)ブチリルコリンエステラーゼ変異体A328W/Y332M/S287G/F227Aは、コカイン加水分解活性がブチリルコリンエステラーゼと比べて約100倍増大している。
ブチリルコリンエステラーゼと比較してコカイン加水分解活性が正確にどれだけ増大したかは選択したアッセイ次第であり、それは当業者には良く知られている。従って、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体の全てがコカイン加水分解活性を増大させたが、本出願に述べられている値は近似値であり、アッセイの種類が異なれば値も変わってくる場合がある。
一次アミノ酸の僅かな修飾により、配列は類似で同一ではないが、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドに匹敵する機能性又は生物活性を維持するポリペプチドが得られる事は良く知られている。こういう修飾は部位特異的変異のように人為的な場合もあれば、自然突然変異のように偶発的な場合もある。例えば、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの一次構造のほんの一部が、参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドのコカイン加水分解活性を有する場合がある。ブチリルコリンエステラーゼ変異体の生物学的機能のうち少なくとも1つが維持されている限り、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの配列の中のそういう機能的断片も本定義に含まれる。本発明のポリペプチドには、他のポリペプチド、炭水化物、脂質、又は化合的修飾のような種々の分子を結合できる事は良く了解されている。
「機能的断片」という用語は、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドとの関連で使用される場合は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの一部を占めるポリペプチド断片を意味し、本出願で記載されているように、参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの特徴である生物活性を有するものである。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの機能的断片であるアミノ酸の長さは、約5つのアミノ酸から参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの全長である蛋白質配列まで様々である。ある実施例では、アミノ酸の長さは、例えば、少なくとも約10のアミノ酸、少なくとも約15、少なくとも約20、少なくとも約25、少なくとも約30、少なくとも約35、少なくとも約40、少なくとも約45、少なくとも約50、少なくとも約75、少なくとも約100、少なくとも約150、少なくとも約200、少なくとも約250、あるいはそれ以上のアミノ酸からブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド配列の全体までが含まれる。機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの隣接したアミノ酸配列である場合もあり、その中には、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの基質結合ドメインに対応する隣接したアミノ酸配列も含まれる。機能的活性を示す本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの機能的断片には、例えば、本発明のポリペプチドの少なくとも8、10、15、20、30、又は40のアミノ酸、より可能性が高いのは少なくとも50、75、100、200、300、400、あるいはそれ以上のアミノ酸、更にポリペプチドの全長マイナス1つのアミノ酸まで含まれる場合がある。本発明のポリペプチドの機能的断片の適切な長さ及びアミノ酸配列は、機能的断片の使用目的に従って、当業者が決定できる。例えば、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の機能的断片は、最初のペプチドのコカイン加水分解活性の一部又は全部を維持しているブチリルコリンエステラーゼ変異体の一部であっても良い。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの機能的断片は、酵素の触媒活性にとって重要な活性部位残基を含んでいる場合がある。ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの加水分解活性にとって重要な部位は、業界では周知の様々な方法を使って決定又は予測できる。アセチルコリンエステラーゼやカルボキシルエステラーゼのように配列が極めて類似しており、触媒反応が生化学的に類似している関連酵素を通して、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの触媒活性にとって重要な部位の情報を得る事ができる。例えば、構造モデリングにより酵素の活性部位が分かる。それは一次構造では互いに離れているアミノ酸残基が形成する溝、割れ目、裂け目などの三次構造である。従って、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの機能的断片には、コカイン加水分解活性にとって重要なブチリルコリンエステラーゼ酵素の部位を構成するアミノ酸残基、例えば活性部位の溝に沿って存在するアミノ酸残基なども含まれる。
ブチリルコリンエステラーゼ酵素の構造モデリングの他に、生化学的データも、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの機能的断片を調製する際に、コカイン加水分解活性にとって重要なブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの部位を決定又は予測するのに使用できる。この点に関して、コカイン加水分解活性が変化した天然のブチリルコリンエステラーゼ酵素の特徴付けを行なえば、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの触媒活性にとって重要な部位の同定に役立つ場合がある。同様に、部位特異的変異の研究も、触媒的に重要なアミノ酸残基に関するデータを提供できる場合がある。この点は、例えば、参照として本出願に編入されているシュバルツ(Schwartz)等、Pharmac. Ther. 67:283−322(1992)に記載されている。特に、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの機能的断片には、SEQ ID NO:14として示されているブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸位置82、112、128、231、329、332、430、及び440に対応する活性部位の残基も含まれる。従って、機能的断片は、例えば、アミノ酸残基の長さが360で、参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの残基80から440までを含む場合もある。
従って、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの機能的断片には、コカイン加水分解活性にとって重要であると決定又は予測されるブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸配列の領域又は部位が含まれる。上述したように、構造的方法、生化学的方法、あるいはモデリング方法を使って、コカイン加水分解活性にとって重要な部位を予測又は決定できるが、これは、明確な範囲ではなく概括的な範囲となる。部位には、コカイン加水分解活性にとって重要であると予測されるブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸配列のうち、2つ乃至それ以上の連続したアミノ酸の位置が含まれる場合もある。本発明の実施に当たり、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの機能的断片として有効なブチリルコリンエステラーゼの部位は、約30のアミノ酸であって、好ましくは2乃至20、あるいは5乃至15の長さであっても良い。
本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片は、参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体アミノ酸配列と比較して保存的アミノ酸置換を含む事もできる。コード化されたアミノ酸の保存的置換には、例えば、次のようなグループに属するアミノ酸も含まれる:(1)非極性アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシン)、(2)極性中性アミノ酸(システイン、メチオニン、セリン、スレオニン、アスパラギン、及びグルタミン)、(3)極性酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、(4)極性塩基アミノ酸(リジン、アルギニン、及びヒスチジン)、(5)芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、及びヒスチジン)。
SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52と同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を持つブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド、又はその機能的断片は、化学的に修飾する事も可能である。但し、そのポリペプチドは、参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの生物活性を維持していなければならない。例えば、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの化学的修飾には、アルキル化、アシル化、カルバミル化、ヨード化等が含まれる。更に、修飾ポリペプチドには、遊離アミノ酸を例えばアミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基、フォルミル基等を形成するように誘導したペプチドも含まれる。遊離のカルボキシル基の修飾には、塩、メチル及びエチルエステル、又は他のタイプのエステル、あるいはヒドラジドがある。遊離のヒドロキシル基を修飾してO−アシル又はO−アルキル誘導体を形成する事も可能である。ヒスチジンのイミダゾールの窒素は、誘導してN−イム−ベンジルヒスチジンを形成できる。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドに、当業者には良く知られている他の種々の修飾を行う事も可能である。但し、参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの生物活性が実質的に同じでなければならない。
SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52と同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を持つ単離されたポリペプチド、又はその機能的断片は、20の標準アミノ酸の類似体の1つ又はそれ以上で置換する事もできる。例えば、4−ヒドロキシプロリン、5−ヒドロキシリジン、3−メチルヒスチジン、ホモセリン、オルニチン、カルボキシグルタミン酸塩等である。そしてペプチド結合していないアミノ酸を含む場合もある。
SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52と同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を持つブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド、又はその機能的断片には、ブチリルコリンエステラーゼ酵素の機能を提供するように官能基を導入するミメティックスも含まれる。従って、ミメティックスには、ポリペプチドの機能を模倣する部分を含む化合物も含まれる。例えば、あるポリペプチドが同じような機能活性を持ち同じような電荷の化学成分を含んでいる場合、ミメティックスは化学的機能を維持するため、同じような電荷の化学成分を同じような空間的方向性と拘束された構造に配置する。ミメティックスは、例えば、ペプチドを模倣する官能基を持っているペプチドミメティックス、ペプトイド、その他ポリβアミノ酸のようなペプチド様ポリマー、非ポリマー化合物等である。
本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドは業界で良く知られている様々な方法を使って調製できる。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体を調製するのに、ランダム変異誘発を利用する事もできる。あるいは、本出願で開示しているように、構造的方法、生化学的方法、及びモデリング方法で得られた情報に基づいて部位特異的変異を行わせ、コカイン加水分解活性にとって重要であると推測されたアミノ酸を標的にする事もできる。例えば、ブチリルコリンエステラーゼの活性部位に於けるコカインの分子モデリングを利用すれば、酵素と基質の適合性に基づいて、より優れた触媒効果を持つアミノ酸の変更が予測できる。本出願に記載されているように、コカイン加水分解活性にとって重要であると推測された残基には、溝にある8つの疎水性残基と3つの触媒性残基が含まれる。更に、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の機能的構造にとって重要なアミノ酸残基には、分子間鎖ジスルフィド結合に関係するシステイン残基である65Cys−92Cys、252Cys−263Cys、及び400Cys−519Cysが含まれる、それらはコカイン加水分解活性を有するブチリルコリンエステラーゼ変異体の調製の際には一般に変更されない事は了解済みである。
ブチリルコリンエステラーゼの変異誘発又はブチリルコリンエステラーゼ変異体の発現の後、業界で良く知られている方法を使って、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の精製と機能的な特徴付けが行われる。以下に開示するように、ブチリルコリンエステラーゼ変異体は適切な宿主細胞株を使って発現させ、その後精製し、コカイン加水分解活性の特徴付けを行う。コカイン加水分解活性を有意に増加させると特徴付けられるブチリルコリンエステラーゼ変異体は、その後、コカイン・ベースの基質の加水分解と以下で述べるようにコカイン誘発症状を治療する方法に使用される。
本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体はコカイン加水分解活性を示す。本出願で開示されているように、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ブチリルコリンエステラーゼと比較してより高いコカイン加水分解活性を示し、コカイン誘発症状の治療に利用できる。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体と比べて僅かに修飾されたポリペプチドも、同等のコカイン加水分解活性が維持されている限り、本発明の中に含まれる。更に、コカイン加水分解活性の一部又は全体を維持しているブチリルコリンエステラーゼ変異体の機能的断片も、同様に、本発明に含まれる。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体の機能的断片をコード化している核酸の機能的断片も、同様に、本発明に含まれる。
本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体の機能的断片は組み換えにより調製することが可能であり、ブチリルコリンエステラーゼ変異体又はその機能的断片をコード化している核酸分子を発現させ、それを本出願で記載されている通常の生化学的方法を使って単離するプロセスもこれには関係している。機能的断片は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の全体を酵素的又は化学的に切断しても調製できる事は周知である。酵素的又は化学的な切断方法及び生成したペプチド断片の精製方法は、業界では良く知られている(例えば、次を参照:ドイチャー(Deutscher)、酵素学の方法(Methods in Enzymology)、Vol. 182、「蛋白質精製の手引き(Guide to Protein Purification)」、サンディエゴ(San Diego):アメリカン・プレス・インク(American Press, Inc.)(1990)、参照として本出願に編入)。
更に、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の機能的断片は化学合成によっても作る事ができる。そういう分子は、D立体異性体、天然にはないアミノ酸、アミノ酸類似体、及びミメティックスで修飾し、機能活性、安定性、あるいは生物的利用能を最適化させる事もできる。修飾されたアミノ酸及びその使用方法の例は、ソーヤー(Sawyer)、ペプチド・ベースの医薬品デザイン(Peptide Based Drug Design)、ACS、ワシントン(1995)及びグロス・アンド・マイエンホーファー(Gross and Meienhofer)、ペプチド:分析、合成、生物学(The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology)、アカデミック・プレス・インク(Academic Press, Inc.)、ニューヨーク(1983)に示されており、いずれも参照のため本出願に編入される。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体のランダム断片を調製し、本出願に記載されているアッセイで試験する事もできる。本発明の参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体のアミノ酸配列と比べて、より好ましい境界や修飾を施した断片を調製する事もできる。あるいは、本出願記載の構造的方法、生化学的方法、及びモデリング方法で得た情報を使って、親異性体のコカイン加水分解活性を維持しているように見えるブチリルコリンエステラーゼ変異体の断片だけを調製する事もできる。本出願に記載されているように、コカイン加水分解活性にとって重要だと推測される残基には、溝にある8つの疎水性残基と3つの触媒的残基も含まれる。更に、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の機能構造には分子鎖間のジスルフィド結合に関係しているシステイン残基である65Cys−92Cys、252Cys−263Cys、及び400Cys−519Cysが含まれる。従って、機能的断片は、同等のコカイン加水分解活性を維持するように、コカイン加水分解活性にとって重要な残基の大半あるいは全部あるいは機能構造を持つように設計された参照ブチリルコリンエステラーゼ変異体のトランケート型、部位、又は断片であっても良い。同様に、機能的断片には、構造的又は機能的に重要な参照変異体の残基に似た非ペプチド構造要素を含んでも良い。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体には、ブチリルコリンエステラーゼ変異体又はその機能的断片を治療用蛋白質のような異種の蛋白質に結合する事によって生じる融合蛋白質、及びそういう融合蛋白質をコード化する核酸の融合構造物も含まれる。ブチリルコリンエステラーゼ変異体又はその機能的断片にハイブリダイズできる核酸の断片は、例えば、ハイブリダイゼーション・プローブとして有効であり、本発明の特許請求に含まれている。
従って、本発明は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含む21のブチリルコリンエステラーゼ変異体、及びその機能的断片を提供する。本出願に記載されているように、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体はいずれもブチリルコリンエステラーゼよりも優れたコカイン加水分解活性を示す。
本発明は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化しているSEQ ID NO:1,3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、及び51として示される21の核酸、及びその断片も提供する。従って、本発明は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸を提供する。
本発明の核酸分子又はその断片は、中等度にストリンジェントな条件又は極めてストリンジェントな条件下で対象の核酸分子と選択的にハイブリダイズする機能を維持する限り、1つ又はそれ以上の追加、削除、又は置換を参照配列に施す事ができ、その点は了解済みである。中等度にストリンジェントな条件は、42℃で50%のホルムアミド、5Xデンハーツ溶液、5X SSPE、0.2%SDSの中でフィルタ結合の核酸をハイブリダイズさせ、その後50℃で0.2X SSPE、0.2%SDSで洗浄するのと同等のハイブリダイゼーション条件を言う。極めてストリンジェントな条件は、42℃で50 %のホルムアミド、5Xデンハーツ溶液、5X SSPE、0.2%SDSの中でフィルタ結合の核酸をハイブリダイズさせ、その後65℃で0.2X SSPE、0.2%SDSで洗浄するのと同等のハイブリダイゼーション条件を言う。他の適切な中等度にストリンジェント又は極めてストリンジェンな緩衝液及び条件は、当業者には良く知られており、例えば、サムブルック(Sambrook)等、分子クローン化:実験室手引書(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、第2版、コールド・スプリング・ハーバー・プレス(Cold Spring Harbor Press)、ニューヨーク州プレインビュー(Plainview, New York)(1989)及びアウスベル(Ausubel)等、分子生物学に於ける現在のプロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、ニューヨーク(2000)等に記載されている。従って、2つの核酸の配列が実質的に相補的であるために同一である必要はない。、特異的なハイブリダイゼーションが可能かあるいは他の同じような配列との間に検出可能な交叉感受性を引き起こすことなく特異的なハイブリダイゼーションが可能であれば良い。
一般に、参照配列と実質的に同じヌクレオチド配列を持つ核酸分子は、2つの配列の長さを比較した場合、約60%以上同一であり、例えば参照配列の約65%以上、70%、75%同一で、例えば参照配列の約80%以上、85%、90%、95%、97%、又は99%同一である。2つの核酸分子配列の同一性比較は当業者によって、例えばデフォルト・パラメーターを使ったBLAST 2.0コンピューター・アラインメント等で決定される。BLAST 2.0検索は、タティアナ(Tatiana)等、FEMS Microbiolo Lett. 174:247−250 (1999)に記載されているように、ncbi.nlm.nih.gov/gorf/bl2.htmlで入手できる。
本出願で使用される「断片」という用語は、特許請求範囲のポリペプチドをコード化する核酸に関する限り、本発明のポリペプチドをコード化する核酸の一部又はその断片と実質的に同じ配列を持つ核酸を意味する。核酸断片は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸又はブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸に相補的なヌクレオチド配列と選択的にハイブリダイズする十分な長さと配列を有している。従って、断片には、配列決定とポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に必要なプライマー、及び核酸ブロットや溶液ハイブリダイゼーションに必要なプローブも含まれるようにする。
同様に、「機能的断片」という用語は、ブチリルコリンエステラーゼ又はブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸に関する限り、参照変異体ポリペプチドのコカイン加水分解活性の一部又は全部を維持しているブチリルコリンエステラーゼ変異体のうち、その一部をコード化する核酸の一部を意味する。機能活性を示している本発明のポリペプチドの機能的断片には、例えば、そのポリペプチドのアミノ酸残基のうち少なくとも6つの隣接したアミノ酸残基、少なくとも8、10、15、20、30、又は40のアミノ酸、更に可能性が高いのは、本発明のポリペプチドの少なくとも50、75、100、200、300、400、あるいはそれ以上のアミノ酸から、全長のポリペプチドから1つのアミノ酸を差し引いた長さまで含まれる。
本出願で使用される「コカイン加水分解活性」という用語は、コカインの加水分解率により測定されるブチリルコリンエステラーゼ又はブチリルコリンエステラーゼ変異体の触媒作用を意味する。
本出願で使用される「有効量」という用語は、コカインの毒性又はコカイン誘発症状の重篤度を和らげる事のできる本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体の量を意味する。重篤度の軽減には、例えば、症状、生理学的インジケーター、生化学的マーカー、あるいは代謝インジケーターの休止又は減少が含まれる。コカインの過剰摂取の症状には、例えば、心臓の不整脈、発作、血圧上昇等が含まれる。重篤度の軽減には発症の遅延も含まれる。本出願で使用される「治療」という用語は、コカイン誘発症状の重篤度を軽減させる行為を意味する。
本出願で使用される「コカイン・ベースの基質」という用語は、ブチリルコリンエステラーゼ又はブチリルコリンエステラーゼ変異体で加水分解される(−)コカイン又は(−)コカインと構造的に十分類似の他の分子を意味し、例えば、(+)コカイン、アセチルコリン、ブチリルチオコリン、ベンゾイルコカイン、ナルコカイン等が含まれる。
SEQ ID NO:1で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:2として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:1で示される核酸は、図3に示されるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基328と332をコード化するコドンの位置がそれぞれ異なる。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:13)では、コドンgctとtatはアミノ酸位置328でアラニン、アミノ酸位置332でチロシンをそれぞれコード化する。それに対して、SEQ ID NO:2として示されるA328W/Y332Mブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンtggとatgはアミノ酸位置328でトリプトファン、アミノ酸位置332でメチオニンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:3で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:4として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:3で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:13と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基328と332をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:13)では、コドンgctとtatはアミノ酸位置328でアラニン、アミノ酸位置332でチロシンをそれぞれコード化する。それに対して、SEQ ID NO:4として示されるA328W/Y332Pブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンtggとccaはアミノ酸位置328でトリプトファン、アミノ酸位置332でプロリンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:5で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:6として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:5で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基328と331をコード化するコドン位置が異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンgctとgtcはアミノ酸位置328でアラニン、アミノ酸位置331でバリンをそれぞれコード化する。それに対して、SEQ ID NO:6として示されるA328W/V331Lブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、対応するコドンはアミノ酸位置328でトリプトファン、アミノ酸位置331でロイシンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:7で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:8として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:7で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基328と332をコード化するコドン位置が異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンgctとtatはアミノ酸位置328でアラニン、アミノ酸位置332でチロシンをそれぞれコード化する。それに対して、SEQ ID NO:8として示されるA328W/Y332Sブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンtggとtcgはアミノ酸位置328でトリプトファン、アミノ酸位置332でセリンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:9で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:10として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:9で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基199、227、287、332、及び328をコード化するコドン位置が異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンgca、ttt、tca、gct、そしてtatはアミノ酸位置199でアラニン、アミノ酸位置227でフェニルアラニン、アミノ酸位置287でセリン、アミノ酸位置328でアラニン、及びアミノ酸位置332でチロシンをそれぞれコード化する。それに対して、SEQ ID NO:10として示されるA328W/Y332M/S287G/F227A/A199Sブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンtca、gcg、ggt、tgg、そしてatgはアミノ酸位置199でセリン、アミノ酸位置227でアラニン、アミノ酸位置287でグリシン、アミノ酸位置328でトリプトファン、及びアミノ酸位置332でメチオニンをそれぞれコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:11で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:12として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:11で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基199、227、287、及び328をそれぞれコード化するコドン位置が異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンgca、ttt、tca、そしてgctはアミノ酸位置199でアラニン、アミノ酸位置227でフェニルアラニン、アミノ酸位置287でセリン、及びアミノ酸位置328でアラニンをそれぞれコード化する。それに対して、SEQ ID NO:12として示されるA328W/S287G/F227A/A199Sブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンtca、gcg、ggt、そしてtggはアミノ酸位置199でセリン、アミノ酸位置227でアラニン、アミノ酸位置287でグリシン、及びアミノ酸位置328でトリプトファンをそれぞれコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:13で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:14として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:13で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基199、287、及び328をそれぞれコード化するコドン位置が異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンgca、tca、そしてgctはアミノ酸位置199でアラニン、アミノ酸位置287でセリン、及びアミノ酸位置328でアラニンをそれぞれコード化する。それに対して、SEQ ID NO:14として示されるA328W/S287G/A199Sブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンtca、ggt、そしてtggはアミノ酸位置199でセリン、アミノ酸位置287でグリシン、及びアミノ酸位置328でトリプトファンをそれぞれコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:15で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:16として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:15で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227、287、及び328をそれぞれコード化するコドン位置が異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンttt、tca、そしてgctはアミノ酸位置227でフェニルアラニン、アミノ酸位置287でセリン、及びアミノ酸位置328でアラニンをそれぞれコード化する。それに対して、SEQ ID NO:16として示されるA328W/S287G/F227Aブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンgcg、ggt、そしてtggはアミノ酸位置227でアラニン、アミノ酸位置287でグリシン、及びアミノ酸位置328でトリプトファンをそれぞれコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:17で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:18として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:17で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227と328をコード化するコドンがそれぞれ異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、ヌクレオチドのコドンtttとgctはアミノ酸位置227でフェニルアラニン、アミノ酸位置328でアラニンをそれぞれコード化する。それに対して、SEQ ID NO:18として示されるA328W/F227Aブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンgcgとtggはアミノ酸位置227でアラニン、アミノ酸位置328でトリプトファンをそれぞれコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:19で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:20として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:19で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基332をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtatはアミノ酸位置332でチロシンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:20として示されるY332Sブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンtcgはアミノ酸位置332でセリンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:21で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:22として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:21で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基332をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtatはアミノ酸位置332でチロシンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:22として示されるY332Mブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンatgはアミノ酸位置332でメチオニンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:23で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:24として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:23で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基332をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtatはアミノ酸位置332でチロシンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:24として示されるY332Pブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンccaはアミノ酸位置332でプロリンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:25で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:26として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:25で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基331をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンgtcはアミノ酸位置331でバリンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:26として示されるV331Lブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンttgはアミノ酸位置331でロイシンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:27で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:28として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:27で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtttはアミノ酸位置227でフェニルアラニンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:28として示されるF227Aブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンgcgはアミノ酸位置227でアラニンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:29で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:30として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:29で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtttはアミノ酸位置227でフェニルアラニンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:30として示されるF227Gブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンgggはアミノ酸位置227でグリシンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:31で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:32として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:31で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtttはアミノ酸位置227でフェニルアラニンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:32として示されるF227Sブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンagtはアミノ酸位置227でセリンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:33で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:34として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:33で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtttはアミノ酸位置227でフェニルアラニンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:34として示されるF227Pブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンccgはアミノ酸位置227でプロリンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:35で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:36として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:35で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtttはアミノ酸位置227でフェニルアラニンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:36として示されるF227Tブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンactはアミノ酸位置227でトレオニンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:37で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:38として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:37で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtttはアミノ酸位置227でフェニルアラニンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:38として示されるF227Cブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンtgtはアミノ酸位置227でシステインをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:39で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:40として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:39で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンtttはアミノ酸位置227でフェニルアラニンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:40として示されるF227Mブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンatgはアミノ酸位置227でメチオニンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:41で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:42として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:41で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基199をコード化するコドンが異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンgcaはアミノ酸位置199でアラニンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:42として示されるA199Sブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンtcaはアミノ酸位置199でセリンをコード化する。
本発明は更に核酸を提供する。SEQ ID NO:51で示される核酸又はその断片は、SEQ ID NO:52として示されるのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する。表1に示すように、SEQ ID NO:52で示される核酸は、図3に示されSEQ ID NO:43と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸とは、アミノ酸残基227、287、332、及び328をそれぞれコード化するコドン位置が異なっている。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)では、コドンttt、tca、gct、そしてtatはアミノ酸位置199でアラニン、アミノ酸位置227でフェニルアラニン、アミノ酸位置287でセリン、アミノ酸位置328でアラニン、及びアミノ酸位置332でチロシンをコード化する。それに対して、SEQ ID NO:52として示されるA328W/Y332M/S287G/F227Aブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸では、コドンgcg、ggt、tgg、そしてatgはアミノ酸位置227でアラニン、アミノ酸位置287でグリシン、アミノ酸位置328でトリプトファン、及びアミノ酸位置332でメチオニンをそれぞれコード化する。
表1.アミノ酸位置199、227、287、328、331、及び332に対応するヌクレオチド配列。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ(SEQ ID NO:43)と異なるコドン配列が以下に示してある。
Figure 2006522611
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ブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ライブラリーすなわち分子のコレクションをスクリーニングする事により得られる。ライブラリーには2,3の分子から大量の異なる分子まで含まれており、僅か2分子から1013又はそれ以上の分子に至るまで様々である。従って、ライブラリーのサイズは2から10、10から10、10から10、10から10、10から10、10から1010、1010から1013分子まで様々である。ライブラリーを構成している分子は、RNA、cDNA、オリゴヌクレオチド等の核酸分子、ペプチド又はポリペプチド(変異体、修飾されたペプチド、1又はそれ以上のアミノ酸類似体などのペプチドも含まれる)等である。更に、ライブラリーを構成している分子は、酵素やその断片のようなペプチドやポリペプチドの活性を模倣するペプチド様分子(本出願ではペプチドミメティックスと呼ぶ)の場合もある。更に、ライブラリーはユーザーの目的及びニーズにより多様な場合又は重複している場合もある。ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドを得るのに適したライブラリーのサイズ及び多様性については、当業者には周知である。
コカイン加水分解活性の増大したブチリルコリンエステラーゼ変異体を十分含めるほどの多様性を持つライブラリーは、業界では周知の種々の方法を使って調製できる。例えば、約573のアミノ酸位置のそれぞれに19のアミノ酸のうち参照ブチリルコリンエステラーゼにはないアミノ酸を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーを作成し、その中からコカイン加水分解活性の増大したものをスクリーニングすれば、ブチリルコリンエステラーゼ変異体のライブラリーが調製される。
あるいは、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドは、本出願記載のブチリルコリンエステラーゼに関連する構造、生化学、及びモデリングの情報を使って調製したフォーカストライブラリーからも得る事ができる。コカイン加水分解活性にとって重要な残基又は部位の決定又は予測に関する情報、あるいはブチリルコリンエステラーゼの構造的機能に関する情報は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体のフォーカストライブラリーのデザインに当たっては全て有用である事は、了解済みである。従って、コカイン加水分解活性にとって重要であると決定又は予測される部位にあるブチリルコリンエステラーゼ変異体のアミノ酸の変更にフォーカス(集中)できる。コカイン加水分解活性にとって重要であると決定又は予測される部位にあるアミノ酸の変更に的を絞ることにより、ブチリルコリンエステラーゼのフォーカストライブラリーをスクリーニングし、コカイン加水分解活性の増大したブチリルコリンエステラーゼ変異体を同定する。
ブチリルコリンエステラーゼのコカイン加水分解活性にとって重要な部位は、決定又は予測可能である。配列が極めて似ており、生化学的にも触媒作用が類似しているアセチルコリンエステラーゼやカルボキシルエステラーゼのような関連酵素を通して、ブチリルコリンエステラーゼのコカイン加水分解活性にとって重要な部位の情報を得る事ができる。例えば、構造モデリングは酵素の活性部位を明らかにする。それは一次構造では互いに離れているアミノ酸残基が形成する溝、割れ目、裂け目などの三次構造である。従って、コカイン加水分解活性にとって重要なブチリルコリンエステラーゼ酵素の部位を構成するアミノ酸残基には、活性部位の溝に沿って存在する残基も含まれる。ブチリルコリンエステラーゼの構造モデリングに関しては、例えば、参照として本出願に編入されているハレル(Harel)等、Proc. Nat. Acad. Sci. USA 89:10827−10831(1992)及びソレク(Soreq)等、Trends Biochem. Sci. 17(9):353−358(1992)に記載されている。
ブチリルコリンエステラーゼの構造モデリング以外にも、コカイン加水分解活性にとって重要なブチリルコリンエステラーゼ酵素の部位を決定又は予測するのに、生化学的データも使用できる。この点に関して、コカイン加水分解活性が変化した天然のブチリルコリンエステラーゼ変異体の特性付けをすれば、ブチリルコリンエステラーゼの触媒活性にとって重要な部位の同定にそれを利用できる。同様に、部位特異的変異の研究も、触媒的に重要なアミノ酸残基に関するデータを提供できる場合がある。この点は、例えば、参照として本出願に編入されているシュバルツ(Schwartz)等、Pharmac. Ther. 67:283−322 (1992)等に記載されている。
コカイン加水分解活性が増大したブチリルコリンエステラーゼ変異体を調製するに当たり、コカイン加水分解活性にとって重要なブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸配列又は特定のアミノ酸残基の部位を決定又は予測するのに、各情報を単独で使用する場合も組み合わせて使用する場合も可能である。例えば、コカイン加水分解活性にとって重要なブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸配列の部位又は特定のアミノ酸残基の部位を決定するのに、構造モデリングに基づく情報と生化学的データに基づく情報を組み合わせる事ができる。触媒的に活性な部位を予測するのに、種々の方法で得た情報を組み合わせる事ができるのであるから、その部位は厳密に規定されるものではなく推定である事は、当業者には周知である。従って、ブチリルコリンエステラーゼ変異体は、一般に、コカイン加水分解活性にとって重要であると決定又は予測される部位の外側にアミノ酸の変更が存在する場合もある。同様に、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体にも、コカイン加水分解活性にとって重要であると決定又は予測された部位の外側にアミノ酸の変更が存在する場合もある。更に、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は、コカイン加水分解活性を大幅には変更しない他の修飾を行なう場合がある。コカイン加水分解活性にとって重要であると決定又は予測された部位の数は、使用される予測方法により必ずしも一様ではない。
コカイン加水分解にとって重要な部位又は特定のアミノ酸残基の決定に際し、適切な方法でいくつかの部位又は特定の残基が同定されたならば、各部位又は特定の位置をアミノ酸位置の一部又は全体に亘ってランダム化し、各部位の1つ又はそれ以上の位置に於いて、野生型のアミノ酸プラス他の19の天然アミノ酸の中の1つ又はそれ以上を含む変異体のライブラリーを作成する。表2に要約されているように、コカイン加水分解にとって重要なブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸配列の部位は、例えば、SEQ ID NO:44と呼ばれるヒトのブチリルコリンエステラーゼに対応するアミノ酸残基68乃至82、110乃至121、194乃至201、224乃至234、277乃至289、327乃至、332、及び429乃至442である。
ペプチド、ペプトイド、ペプチドミメティックスのような種々のタイプの分子からなる様々な母集団を含むライブラリーを作成する方法は、業界では良く知られている(例えば、エッカー・アンド・クルック(Ecker and Crooke)、生物工学(Biotechnology)、13:351−360(1995)、及びブロンデル(Blondelle)等、Trends Anal. Chem. 14:83−92(1995)、及びそこに引用されている文献を参照。いずれも参照として本出願に編入されている。更に、グッドマン・アンド・ロー(Goodman and Ro)、「バーガーの医薬化学及び医薬品の発見(Burger’s Medicinal Chemistry and Drug Discovery)」の医薬品デザインのためのペプチドミメティックス(Peptidemimetics for Drug Design)、Vol. 1(M.E.ウルフ(M.E.Wolf)版、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons) 1995)、803−861頁、及びゴードン(Gordon)等、J. Med. Chem. 37:1385−1401(1994)も参照。いずれも参照として本出願に編入されている)。分子がペプチド、蛋白質、あるいはその断片の場合、その分子はインビトロで直接生成する事もできるし、インビトロで生成された核酸から発現させる事も可能である。合成ペプチド化学の方法は、業界では良く知られている。
本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化している核酸発現ライブラリーを作成し、その後それをスクリーニングする事によっても生成できる。そういうライブラリーを作成する方法は、業界では良く知られている(例えば、サムブルック(Sambrook)等、前出、1989を参照)。核酸のライブラリーは、DNA、RNA、又はその類似体で構成しても良い。RNA分子を含むライブラリーは、例えば、RNA分子を化学的に合成する事によっても作成できる。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸は、ユーザーの望む方法で入手できる。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸を得る方法については、当業者には周知である。例えば、ブチリルコリンエステラーゼ変異体は、当業者には周知の方法を使って、ブチリルコリンエステラーゼをコード化する核酸を変異誘発する事により作成できる(分子クローン化:実験室手引書(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、サムブルック(Sambrook)等、前出、1989)。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ブチリルコリンエステラーゼの各アミノ酸位置で天然アミノ酸のあらゆる可能性をコード化する核酸を含むようにランダム化し多様性を十分持たせた核酸ライブラリーから得る事ができる。あるいは、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は、コカイン加水分解活性にとって重要であると予測又は予め決定された位置に望みのアミノ酸を含むようにした核酸ライブラリーからも得られる。
部位特異的変異などを使って、ブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸分子に1つ又はそれ以上の突然変異を導入する事により、修飾された核酸分子を作成する事ができる(ウー(Wu)等、Meth. In Enzzymol、Vol. 217、サンディエゴ、アカデミック・プレス(San Diego, Academic Press)(1993);ヒグチ(Higuchi)、イニス(Innis)等版の「組み換えPCR(Recombinant PCR)」、PCRプロトコールス(PCR Protocols)、サンディエゴ、アカデミック・プレス(San Diego, Academic Press)(1990)を参照。いずれも参照として本出願に編入されている)。こういう変異誘発は、目的とする特定のアミノ酸変更を導入するのに利用できる。
オリゴヌクレオチド特異的変異を使ったブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーの効果的な合成方法及び発現は、既に実現されており、ウー(Wu)等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、95:6037−6042(1998)、ウー(Wu)等、J. Mol. Biol.、294:151−162(1999)、及びクンケル(Kunkel)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、82:488−492(1985)( いずれも参照として本出願に編入されている)に記載されている。オリゴヌクレオチド特異的変異は、表現型とは独立に、組織的に突然変異を導入する有効な方法として良く知られており、定向進化法として蛋白質工学には不可欠である。オリゴヌクレオチド特異的変異を行なうには、目的とする突然変異をコード化する核酸ライブラリーを野生型配列のウラシル含有一本鎖テンプレートとハイブリダイズさせる。この方法は柔軟性があり、制限酵素を使わずに正確に突然変異を導入する事ができるし、コドン・ベースの変異誘発を使ってオリゴヌクレオチドを合成するならば、費用も比較的安価である。
コドン・ベースの合成又は誘発変異は、遺伝的重複を避けしかも既知のアミノ酸配列に大量の変更を迅速かつ効果的に与える方法として、あるいは多様なランダム配列の母集団を提供する方法として、業界では良く知られた方法の一つである。この方法は米国特許番号5,264,563及び5,523,388の主題であり、グレイサー(Glaser)等、J. Immunology 149:3903−3913(1992)にも記載されている。要約すると、例えば、遺伝子コードのアミノ酸を特定する20の全コドンをランダム化するため、別々の反応容器で結合反応を行なわせる。特定のコドン位置のランダム化は各反応容器の生成物を混合する事により起きる。混合の後、20の全アミノ酸の等量混合物をコード化しているコドンに対応するランダム反応生成物は、次の位置で各ランダム化コドンの合成を行なうために、別々の反応容器に分けられる。20のコドンを等量に含む20の容器を使えば、20の全アミノ酸の頻度を等しくする事もできる。この方法を使えば、ブチリルコリンエステラーゼの全配列又はコカイン加水分解活性にとって重要であると決定又は予測される部位又は特定の位置のフォーカストライブラリーが作成できる。
上述の合成方法の変形もある。例えば、目的とする位置に予め決められたコドンを合成する方法、あるいはウー(Wu)等、前出、1998が記載しているように、1つ又はそれ以上のコドン位置に予め決められた配列を合成する方法もそれに含まれる。この合成方法には2つの反応容器が使用される。予め決められたコドン又は親コドンは1つの容器で合成され、ランダム・コドン配列は2つ目の容器で合成される。2番目の容器は、完全にランダム化したアミノ酸をある位置で特定するコドン合成のために、上述のように複数の反応容器に分けられる。あるいは、NNG/Tヌクレオチド又はNNX/X(ここでNは4種類のヌクレオチドの混合物)の結合などにより、縮重コドンの母集団を2番目の反応容器で合成する事もできる。予め決められたコドン又はランダム・コドンの合成の後、2つの反応容器の反応性生物は混合され、次のコドン位置に於ける合成のために、更に2つの容器に分けられる。
多種類の変異体配列を生成するのに利用される上述のコドン・ベース合成の修正方法が、同様に、本出願に記載されているブチリルコリンエステラーゼのライブラリー作成にも利用できる。この修正方法は合成を親配列の方向に偏らせる上述の二容器方法に基づいており、ユーザーはこの方法に基づいて、ランダムなコドン変更を有するコドン位置を特定数含んでいる母集団に変異体を分ける事ができる。
この合成方法は、各コドン位置の合成後、反応容器を新しい2つの容器に分け続ける事により行なわれる。2つの容器に分けた後、連続した2組の反応容器に入っている反応生成物を2番目の容器からまず混合する。この混合により、ランダム変更のコドン位置を同数持つ反応生成物が一つに合わされる。最初と最後の容器の生成物、及び連続した2組の反応容器から得られる新しい混合生成物を2つの容器に分ける事により、合成は進行する。新しい容器の1つでは親コドンが合成され、2番目のコドンではランダム・コドンが合成される。例えば、最初のコドン位置の合成は、1つの反応容器での親コドンの合成と2番目の反応容器でのランダム・コドンの合成を伴う。第2のコドン位置での合成では、最初の2つの反応容器がそれぞれ2つの容器に分けられるので、2組の容器が使われる。各組に於いて、1つの容器で親コドンが合成され、2番目の容器ではランダム・コドンが合成される。直線に並べた場合、第2と第3の容器の反応生成物が混合され、1つのコドン位置にランダム・コドン配列を有する生成物が一つに合わされる。この混合により生成物の母集団は3つに減り、それが次の合成段階の出発母集団となる。同様に、第3、第4、及び残りの位置に関しても、以前の位置の各反応生成物の母集団が2つに分けられ、親コドンとランダム・コドンが合成される。
上述のコドン・ベース合成の修正方法の後、1、2、3、及び4の位置並びにその他の位置にランダム・コドン変更を含む母集団が互いに分離され、個人のニーズに合わせて利用される。更に、親配列合成だけを含む容器も同様にランダム・コドン合成から分離されるので、この合成方法に従えば、ランダム化された配列の方が親配列よりも濃縮される事になる。
コカイン加水分解活性にとって重要であると予測されるブチリルコリンエステラーゼの1つ又はそれ以上の部位にアミノ酸変更を有するブチリルコリンエステラーゼ変異体に関して、それをコード化する核酸のライブラリー合成にこの方法が利用される。
あるいは、ブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸ライブラリーは、遺伝子シャフリングを使っても作成できる。遺伝子シャフリング又はDNAシャフリングは、組み換えにより多様性を作り出す定向進化法の一方法である(例えば、ステマー(Stemmer)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:10747−10751(1994)、ステマー(Stemmer)、ネイチャー(Nature) 370:389−391(1994)。クラメリ(Crameri)等、ネイチャー(Nature) 391:288−291(1998)、ステマー(Stemmer)等、米国特許番号5,830,721、1998年11月3日提出を参照)。遺伝子シャフリング又はDNAシャフリングは、選択された突然変異遺伝子プールのインビトロ相同組み換えを使った方法である。遺伝子は、例えばDNA分解酵素を使って無作為に断片化され、PCRで再構築される。DNAシャフリングは、多様性を得るため、異なる有機体の相同遺伝子を使って行なう事もできる(クラメリ(Crameri)等、前出、1998)。断片化と再構築は複数回行っても良い。再構築されて得られる遺伝子は、本発明の組成及び方法に使用可能なブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーを構成する。
本発明は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52として示されているのと同じ又は実質的に同じアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化しているSEQ ID NO:1,3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、及び51として示される21の核酸、及びその断片も提供する。
本発明の核酸でコード化したブチリルコリンエステラーゼ変異体は、種々の真核細胞で発現可能である。例えば、哺乳類の細胞、昆虫の細胞、植物の細胞、酵母を含まない菌類の細胞などで核酸を発現させる事ができる。本発明の核酸ライブラリーでコード化したブチリルコリンエステラーゼ変異体の発現に有効な哺乳類の細胞株は、例えば、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO)、ヒトのT293、ヒトのNIH 3T3細胞株などである。本発明の核酸ライブラリーでコード化したブチリルコリンエステラーゼ変異体の発現は、安定形質移入によっても一過性細胞形質移入によっても達成できる(実施例III、表3を参照)。
ゲノムの同一部位に変異体の核酸又は異種の核酸を取り込めば、特定の変異体の核酸又は異種核酸の発現だけが異なる同質遺伝子型の細胞株が形成される。単一部位への取り込みは、mRNAの転写に影響を及ぼすゲノムの複数部位への組み込みから生じる位置効果、及び細胞当たり複数の核酸を持つ種の複数のコピー又は発現の取り込みから生じる複雑化を最小限に抑える事ができる。変異体の核酸又は異種の核酸をゲノムの特定の場所に挿入するのに使用可能な業界で知られている技術には、例えば、相同組み換え、レトロウイルス標的、リコンビナーゼ媒介標的などがある。
ゲノムの単一部位に変異体の核酸又は異種核酸を挿入する一つの方法はCreリコンビナーゼの使用であり、真核生物のゲノム、その中でも部位特異的組み換え配列を含む部位に外因性のDNAを挿入する(サウア・アンド・ヘンダーソン(Sauer and Henderson)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5166−5170(1988)、フクシゲ・アンド・サウア(Fukushige and Sauer)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:7905−7909(1992)、べスケ・アンド・サウア(Bethke and Sauer)、Nuc. Acids Res.、25:2828−2834(1997))。ゲノムの特定の部位に外因性DNAを挿入するには、Creリコンビナーゼの他にFlpリコンビナーゼも使用できる(ディメッキ(Dymecki)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:6191−6196(1996))。Flpリコンビナーゼの標的部位は、8塩基対のスペーサーで分離された13塩基対のリピートで構成されている:5’ GAAGTTCCTATTC[TCTAGAAA]GTATAGGAACTTC3’。本出願に記載されているように、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼは、Flpリコンビナーゼ及びヒトの293T細胞株を使って、ヒトのブチリルコリンエステラーゼの中でも特に表2に掲げられている部位に対応する変異体ライブラリーを哺乳類の細胞に形質移入する事により得られた。本発明の方法では、ゲノムの特定の場所に核酸を挿入するのに、部位特異的リコンビナーゼと対応する組み換え部位を自由に組み合わせて良い事は了解済みである。
適切なリコンビナーゼはベクターにコード化し、それをブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸のベクターと一緒に形質移入する事ができる。あるいは、ブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸の発現ベクターに、リコンビナーゼの発現要素を取り込む事もできる。リコンビナーゼをコード化する核酸とブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸を同時に形質移入する方法以外にも、リコンビナーゼをコード化するベクターを細胞に形質移入する方法もある。細胞はリコンビナーゼの発現により選択できる。リコンビナーゼを安定的に発現する細胞には、その後、変異体の核酸をコード化する核酸を形質移入する事ができる。
本出願に記載されているように、Creリコンビナーゼを媒介として正確に部位特異的なDNA組み換えを行なえば、ブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する外因性DNAの単一コピーが含まれる哺乳類の安定した形質転換株を作成できる。以下の例証の通り、Creリコンビナーゼ媒介の標的事象の頻度は、修正ダブルロックス(doublelox)戦略を使えば、大幅に増大できる。ダブルロックス(doublelox)戦略は、lox部位の中心部分にあるヌクレオチドをいくらか変更すると、Creリコンビナーゼ媒介組み換えの部位選択的特異性が変わり、しかも組み換えの効率には殆ど影響がないという観察結果に基づいている(ホウス(Hoess)等、Nucleic Acids Res. 14:2287−2300(1986))。loxP及び変更loxP 部位(lox511と呼ばれる)を標的ベクターと宿主細胞のゲノムの両方に取り込めば、二重交叉により部位特異的な組み換えが生じる。ダブルロックス(doublelox)方法を使えば、部位特異的な組み込み体の回収が、単一交叉の挿入組み換えの20倍に増大し、非正統組み換えの頻度を超えるほどに部位特異的組み換えの絶対頻度が増大する(べスケ・アンド・サウア(Bethke and Sauer)、Nuc. Acids Res.、25:2828−2834(1997))。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーを哺乳類の細胞株で発現させた後、無作為に選択したクローンの配列を決め、コカイン加水分解活性増大のスクリーニングを行なう。選択されたクローンの配列決定法は当業者には良く知られており、例えば、サムブルック(Sambrook)等、前出、1989、及びアウスベル(Ausubel)等、前出、2000等に記載されている。ブチリルコリンエステラーゼ変異体のコカイン加水分解活性を測定する適切な方法の選択は、入手可能なブチリルコリンエステラーゼ変異体の量など様々な要因に基づいて決定される。ブチリルコリンエステラーゼ変異体のコカイン加水分解活性は、例えば、分光光度法、ブチリルコリンエステラーゼ変異体を均一に捕捉するためにポリクローン性抗ブチリルコリンエステラーゼ抗体を使うマイクロタイター・ベースのアッセイ、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)等で測定される。
ブチリルコリンエステラーゼと比較したブチリルコリンエステラーゼ変異体のコカイン加水分解活性の増大は、触媒効果の比較により決定できる。コカイン加水分解活性増大を示しブチリルコリンエステラーゼ変異体を発現させるクローンの配列を決め、突然変異の正確な場所と性質を確認する。ブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーが全てスクリーニングされたかどうかを確認するため、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の同一のアミノ酸変更をコード化するクローンが複数回同定されるまで、各ライブラリーのスクリーニングを継続する。
コカイン加水分解活性増大を示しブチリルコリンエステラーゼ変異体を発現させるクローンは、大量のブチリルコリンエステラーゼを精製するのに適した大規模な培養の確立に使用できる。興味のあるブチリルコリンエステラーゼ変異体を発現ベクターにクローン化し、ある細胞株に形質移入を行い、後にその規模を拡大する。当業者には、特定のアプリケーションにどのタイプの発現ベクターが適しているかは周知である。コカイン加水分解活性増大を示すブチリルコリンエステラーゼ変異体は、例えば、特定の化学薬品に抵抗力のある遺伝子を持つ発現ベクターにクローン化すれば、形質移入した細胞を積極的に選択できる。例えば哺乳類の細胞株への形質移入に適した発現ベクターには、哺乳類の細胞で選択されるサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターのようなプロモーターが含まれる場合もある。本出願に記載されている通り、ブチリルコリンエステラーゼ変異体は哺乳類の発現ベクターにクローン化し、チャイニーズハムスターの卵巣細胞(CHO)に形質移入される。ブチリルコリンエステラーゼ変異体の発現に適した発現ベクターは業界では良く知られており、市販品が入手可能である。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体を発現するクローンを選択し、コカイン加水分解活性の試験を行う。コカイン加水分解活性増大を示すクローンを含む細胞は、通常の細胞培養システムを使って増殖させ、関心のあるブチリルコリンエステラーゼ変異体を大量に生産する。濃縮された組み換えブチリルコリンエステラーゼ変異体は回収され、業界で良く知られている方法で精製を行う。例えば、マッソン(Masson)等、生化学(Biochemistry) 36:2266−2277(1997)(参照として本出願に編入)等にその方法が記載されている。
インビトロでコカイン加水分解活性の増大を示すブチリルコリンエステラーゼ変異体は、コカインの毒性及び中毒の治療にインビボで利用できる。コカイン加水分解活性増大を示すブチリルコリンエステラーゼ変異体を使ったコカイン毒性の治療効果は、本出願に記載されている急性過剰投与動物モデル(実施例VIを参照)を使って試験できる。更に、以下に記載するように、強化及び識別の動物モデルを使って、ブチリルコリンエステラーゼ変異体によるコカイン中毒の治療効果を予測する。過剰投与及び強化と識別モデルに適した動物は業界では良く知られており、例えば、げっ歯類や霊長類モデル等もそれに含まれる。1つ又はそれ以上の動物モデルに於いてコカインの毒性又はコカイン中毒のいずれかに効果を示したブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の有効量を個人に投与する事により、コカイン誘発症状の治療に使用できる。
血清半減期が延長したブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の試験又はコカイン誘発症状を示す個人の治療に有効である。ブチリルコリンエステラーゼ変異体の血清半減期を延長させる有効な方法には、例えば、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の四量体への変換、ポリエチレングリコール(PEG)やデキストラン等の合成ポリマー及び天然のポリマーをトランケートしたブチリルコリンエステラーゼ変異体へ共有結合させる方法、リポソーム形成、Ig融合蛋白としての酵素の発現等が含まれる。尚、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の四量体への変換は、COLQ遺伝子を宿主細胞に同時形質移入し、ポリLプロリンを形質移入された細胞の培地に添加すれば達成できる。ブチリルコリンエステラーゼ変異体の血清半減期を延長させる業界で良く知られたこういう方法又は他の方法は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体を動物で試験したり、コカイン誘発症状を示す個人で試験したりするのに有効である。
本発明は、コカイン・ベースのブチリルコリンエステラーゼ基質を加水分解する方法も提供しており、それには、コカインを加水分解して代謝産物にする条件下で、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52として示されているグループから選択されたブチリルコリンエステラーゼ変異体をブチリルコリンエステラーゼ基質に接触させる方法も含まれる。本出願で各変異体について記載している通り、ブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ブチリルコリンエステラーゼと比較しコカイン加水分解活性を増大させる。
更に本発明はコカイン誘発症状を治療する方法も提供しており、それには、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、及び52として示されているグループから選択されたブチリルコリンエステラーゼ変異体の有効量を個人に投与する方法も含まれる。本出願で各変異体について記載している通り、ブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ブチリルコリンエステラーゼと比較しコカイン加水分解活性を増大させる。
本出願記載の通り、コカイン加水分解活性増大を示すブチリルコリンエステラーゼ変異体は、コカイン・ベースのブチリルコリンエステラーゼ基質をインビトロでもインビボでも加水分解できる。コカイン・ベースのブチリルコリンエステラーゼ基質は、例えば、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリー・クローンの培養物から分離された上澄み液に基質を添加する方法等により、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体とインビトロで接触させる事ができる。あるいは、基質と接触させる前に、ブチリルコリンエステラーゼ変異体を精製しても良い。コカイン・ベースの基質を本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体に接触させる適切な培地条件は、当業者によって容易に決定される。例えば、pH7.4の10mMトリスに入った100μMのコカインは、37℃で、ブチリルコリンエステラーゼ変異体と接触させる事ができる。以下に記載されているように、培養上澄み液から得られるブチリルコリンエステラーゼ変異体は、基質と接触する前に、抗体のような捕捉剤で固定しても良い。そうすれば、培養上澄み液の成分を除去する事ができ、固定された変異体を汚染物のない状態で基質と接触させる事ができる。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体をコカイン・ベースの基質に接触させた後、業界で良く知られた種々の方法及び本出願記載の方法、例えば、高速液体クロマトグラフィやアイソトープ・トレーサー・コカイン加水分解アッセイ等を使って、コカイン加水分解活性を測定する。
本発明は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の治療有効量を投与する事によりコカイン過剰摂取及びコカイン中毒を治療する方法も提供する。コカイン誘発症状の治療には、本発明の方法を予防的に使用するアプリケーションも含まれ、将来のある時点でコカインに接触する事が予測されている個人に本発明の変異体が投与される。予防的な本発明の実施例では、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の治療有効量がコカインと接触する前に投与される。A328W/Y332M/S287G/F227A変異体(SEQ ID NO:52)に関して図8及び12に示されているように、本発明の変異体で予め治療しておけば、コカインの毒性を減少させ、コカイン誘発毒性に伴う発症時間を遅らせる事ができ、治療効果が発揮される。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体の有効量は、例えば、急性の過剰摂取の治療なのか慢性の中毒の治療なのか、投与経路及び形態、投与される分子の効力及び生物活性の半減期、個人の体重及び健康状態、以前の療法又は併用療法などの条件により決定される。特定のアプリケーションに関して有効量であると考えられる適切な量は、本出願記載の内容及び手引きを使って、当業者が決定できる。例えば、本出願記載のインビトロ又はインビボによるブチリルコリンエステラーゼ・アッセイからその量を外挿する事が可能である。個人の健康状態は治療期間中ずっとモニターする必要があり、それに従って投与される化合物の量を調節しなければならない事は、当業者は良く認識している。
コカイン過剰摂取に関し、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体の治療有効量は、治療条件次第ではあるが、例えば、約0.1mg/kg体重乃至0.15mg/kg体重、例えば、約0.15mg/kg乃至0.3mg/kg、約0.3mg/kg乃至0.5mg/kg、より望ましいのは約1mg/kg乃至5mg/kgである。例えば、コカイン過剰摂取の症状を示している個人にブチリルコリンエステラーゼ変異体を投与する場合は、1度だけの多量投与が適切であるが、慢性のコカイン中毒症状を示している個人には少量ずつ1回乃至数回一日あたり、一週あたり、一月あたり、あるいは更に頻度を下げて投与するのが望ましい。同様に、徐放型製剤であれば、慢性のコカイン中毒の治療を受けている個人に、ブチリルコリンエステラーゼ変異体を少量ずつ継続投与する事が可能である。ブチリルコリンエステラーゼ変異体の用量は、その変異体の触媒活性に基づいて調整しなければならない事は了解済みである。例えば、コカイン加水分解活性が極めて高い変異体の場合は、コカイン加水分解活性の低い変異体に必要な用量よりも少ない量を投与しなければならない。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体による治療開始時間は、コカイン・ベースの基質、例えばコカインと接触する前でも良いし、コカイン・ベースの基質に接触した後でも良い。コカイン過剰摂取の治療の場合は、治療効果を最大にするため、接触後できるだけ早急に本発明の変異体を投与するのが望ましい。A328W/Y332M/S287G/F227A(SEQ ID NO:52)と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体に関して図9が示しているように、接触後8分に投与された場合はコカイン誘発毒性の治療効果が完全に維持されており、それ以降に投与された場合は、生理学的に不可逆的なコカイン毒性の症状が開始する事によりその効果は減少する。しかしながら、図9が示すように、コカイン誘発毒性に伴う症状が開始した後に投与された場合でも、本発明の変異体による治療は有効である。従って、コカイン誘発毒性の治療に関して、本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は接触以前に投与しても良いし、接触後例えば数秒又は数分以内でも良い。これには、約1分以内後、約2分以内後、約3分以内後、約4分以内後、約5分以内後、約6分以内後、約7分以内後、約8分以内後、約9分以内後、約10分以内後、約11分以内後、約12分以内後、約13分以内後、約14分以内後、約15分以内後、約16分以内後、約17分以内後、約18分以内後、約19分以内後、約20分以内後、約21分以内後、約22分以内後、約23分以内後、約24分以内後、約25分以内後、約30分以内後、約35分以内後、約40分以内後、約45分以内後、約50分以内後、約55分以内後、約60分以内後、約90分以内後、約120分以内後も含まれる。
毒性に対する有効治療時間を制限しているのは、生理学的症状の不可逆性とコカイン誘発毒性に伴う損傷だけである事は了解済みである。図9が示すように、特定の症状が始まった時、特に軽い痙攣が最初に起きた時にも治療効果は維持されていたし、更に重篤な症状が発現した時、特に第2の痙攣の時にもその効果は有意に維持されていた。治療効果は一般に接触後の時間に関係しているが、症状の進行にも対応しているので、その点も考慮しなければならない事も更に了解済みである。例えば、接触後の症状の進行を観察し、進行時間よりもむしろ症状の進行に関する観察を基に特定の治療パラメーターを選択するのが良い。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体は静脈内又は動脈内のように全身に投与する事ができる。ブチリルコリンエステラーゼ変異体は、業界の一般技術者に知られている製剤技術を使い、薬学的に受け入れられている製剤として、単離され実質的に精製されたポリペプチド及びポリペプチド断片の形で提供しても良い。こういう製剤は通常の経路で投与しても良い。例えば、局所、経皮、腹腔内、頭内、脳室内、大脳内、膣内、子宮内、経口、直腸内、腸管外(例えば静脈内、髄腔内、皮下、筋肉内)等の経路である。更に、ブチリルコリンエステラーゼ変異体を生物分解性のポリマーに取り込む事により、コカイン中毒症状を呈している個人の治療に有効な化合物の継続放出が可能となる。生物分解性のポリマー及びその使用方法に関しては、例えば、参照として本出願に編入されているブレム(Brem)等、J. Neurosurg. 74:441−446(1991)に詳細が記載されている。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体は、薬学的に受け入れられている媒体と一緒に、溶液又は懸濁液として投与しても良い。そういう薬学的に受け入れられている媒体は、例えば、水、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、普通の生理食塩水、リンガー液、その他の生理学的な緩衝生理食塩水、又は他の溶媒、あるいはグリコール、グリセロール、オリーブ油などのオイル、注射可能有機エステルなどの賦形剤であっても良い。薬学的に受け入れられている媒体には、これ以外にも、例えばブチリルコリンエステラーゼ変異体を安定させる又は吸収を増大させる生理学的に認められた化合物も含まれる。そういう生理学的に認められた化合物には、例えば、ブドウ糖、ショ糖、デキストラン等の炭水化物、アスコルビン酸やグルタチオン等の抗酸化剤、微生物の膜を破壊するEDTA等のキレート剤、カルシウムやマグネシウム等の二価の金属イオン、低分子量蛋白質、脂質やリポソーム、あるいは他の安定剤や賦形剤などが含まれる。
腸管外投与に適した製剤には、上述の薬学的に受け入れられる媒体等の水溶性及び非水溶性の無菌注射剤も含まれる。溶液には、例えば、緩衝液、静菌薬、受容者の血液と製剤を等張にするための溶質等を加えても良い。製剤には、この他にも例えば、懸濁剤や濃化剤などを含んだ水溶性及び非水溶性の無菌懸濁液も含まれる。製剤は、単位用量又は複数用量を例えば封印されたアンプルや小瓶の形で提供し、使用直前に無菌液体の担体の添加を必要とする凍結乾燥状態で保存しておいても良い。即席の注射液又は懸濁液は、以前に述べた種類の無菌粉末、顆粒、及び錠剤から調製しても良い。
本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は、他の治療薬と一緒に併用療法に用いる事もできる。ブチリルコリンエステラーゼ変異体を含む併用療法は、それぞれ安定した形の変異体及び追加の治療薬を含む製剤で構成される。あるいは、併用療法は、ブチリルコリンエステラーゼ変異体を治療用蛋白質のような異種の蛋白質と結合させる融合蛋白質で構成されていても良い。
本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ペプチド又は変異体をコード化する核酸を個人に投与しても良い。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化する核酸は、ポリペプチドや変異体の治療有効量を投与する方法として業界で良く知られている種々の遺伝子療法と併用すれば有効である。本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は、治療有効量を達成するため、本出願記載の内容及び手引きを使って、業界で良く知られた方法として送達及びコード化された配列の発現に利用されているベクターや送達システムに取り込んでも良い。業界で良く知られている適用可能なベクター及び送達システムには、例えば、レトロウイルス・ベクター、アデノウイルス・ベクター、アデノ関連性ウイルス、標的化のためのリガンド結合粒子及び核酸、単離DNA及びRNA、リポソーム、ポリリジン、肝細胞療法を含む細胞療法、ブチリルコリンエステラーゼ変異体を発現させるように修飾した細胞の移植、その他当業者には周知の遺伝子送達方法及び修飾方法が含まれ、本出願に参照として編入されているシェイ(Shea)等、ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology) 17:551−554(1999)等に記載されている。
コード化された核酸配列を発現させる事によりブチリルコリンエステラーゼ変異体の送達を行なう具体的な方法は、業界では良く知られており、例えば、米国特許番号5,399,346、5,580,859、5,589,466、5,460,959、5,656,465、5,643,578、5,620,896、5,460,959、5,506,125、欧州特許出願番号EP 0 779 365 A2; PCT No. WO 97/10343; PCT No. WO 97/09441; PCT No. WO 97/10343 (いずれも参照として本出願に編入されている)等に記載されている。業界で知られている方法は他にも種々存在し、コード化された核酸配列を発現させる事によりブチリルコリンエステラーゼ変異体の送達を行なう方法として、同様に適用可能である。
ブチリルコリンエステラーゼは、コカイン過剰摂取やコカイン中毒のようなコカイン誘発症状の治療以外にも、コカイン過剰摂取の影響が開始するのを避けるため、コカインが血液中に入る前に予防的に投与しても良い。コカイン加水分解活性の増大を示す本発明のブチリルコリンエステラーゼ変異体は、コカイン誘発物質の存在及び量を効果的に決定する手段として、診断的な価値も有しているのではないかと考えられている。
本発明の種々の実施例の活性に実質的な影響を及ぼさない改良も、本出願記載の本発明の定義の中に含まれる事は了解済みである。従って、以下の実施例はあくまでも例証であり、本発明を制限するものではない。
実施例I コカイン加水分解アッセイの開発
この実施例は、何百というブチリルコリンエステラーゼ変異体を同時にしかも効果的に分析するためのコカイン加水分解アッセイの開発を記述するものである。
アイソトープ・トレーサーコカイン加水分解アッセイの開発
新しいコカイン加水分解アッセイの正当性を確認するため、まず、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を使って、以前記載されているように(キシー(Xie)等、分子薬理学(Molecular Pharmacology) 55:83−91(1999))、ブチリルコリンエステラーゼによるコカインの加水分解を測定した。pH7.4の10mMトリスに100μMのコカインを含む反応液にウマのブチリルコリンエステラーゼ(ICN ファーマスーティカルズ・インク(ICN Pharmaceuticals, Inc.)、カリフォルニア州コスタメサ(Costa Mesa, CA))を添加し、37℃で2−4時間培養した。培養後、pHを3に調整し、サンプルを濾過した。その後、0.05Mリン酸カリウム(pH3.0)とアセトニトリルの80:20混合物で予め均衡化したHypersil逆相カラム(ヒューレット・パッカード(Hewlett Packard)、デラウェア州ウィルミントン(Wilmington, DE))にサンプルを注いだ。均一溶出液でコカイン、ベンゾイルエクゴニン、そして安息香酸を溶出し220nmで定量化した。エクゴニン・メチルエステル及び安息香酸の形成測定は、反応液中のブチリルコリンエステラーゼの量と反応時間に依存している。
アイソトープ・トレーサー・アッセイの最後に、pH3.0に於ける生成物と基質の溶解性の違いを利用するため、反応混合物の一部を酸性化した。pH3では、[3H]安息香酸(pKa=4.2)は2,5−ジフェニルオキサゾール(PPO)と[1,4−ビス−2−(4−メチル−5−フェニルオキサゾリル)−ベンゼン](POPOP)で構成されるシンチレーションカクテル(PPO−ジメチル−POPOP液体シンチレーター、リサーチ・プロダクツ・インターナショナル・コーポレーション(Research Products International Corp.)、イリノイ州マウント・プロスペクト(Mt. Prospect, IL))に溶解するが、[3H]コカインは溶解しない。酸性化された反応混合物によって酵素ブランクから発せられるシグナルは、液体シンチレーター中の全dpmの2%未満であり、コカインがPPO−ジメチル−POPOPには溶解しないという結論に一致していた。
アイソトープ・トレーサー・コカイン加水分解アッセイは、既に確立されているHPLCアッセイと直接比較する事により正当性が確認され、アイソトープ・アッセイの正確性はウマのブチリルコリンエステラーゼのK値を測定することにより証明された。安息香酸の形成速度を測定する事により決定されるコカインの加水分解率は、様々な量のブチリルコリンエステラーゼを含む反応物のHPLC及びアイソトープ・トレーサー・アッセイにより定量化された。[H]安息香酸の形成はアッセイ・インキュベーションの長さと添加されたブチリルコリンエステラーゼの量に依存している。既に確立されたHPLCアッセイとアイソトープ・トレーサー・アッセイの間の相関関係は、HPLCで測定された安息香酸の形成とアイソトープ・アッセイで測定された安息香酸の形成の定量値を図上に記入する事により証明された(図5Aを参照;r=0.979)。アイソトープ・アッセイの正確さと感度を証明するため、図5Bに示されるように、ウマのブチリルコリンエステラーゼによるコカイン加水分解をラインウィーバー−ブルク二重逆数プロットを使って測定しKを決定した。速度は、37℃で2時間インキュベートした後、形成されたcpm安息香酸x10−5として計算された。このデータに基づけば、コカイン加水分解のKは約37.6μM(X切片=−1/K)であり、以前に公表されたウマのブチリルコリンエステラーゼの値である38μM(ガトリー(Gatley)、前出、1991)及び45±5μM(キシー(Xie)等、前出、1999)に近似していた。
活性ブチリルコリンエステラーゼの固定
ブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーの各クローンから分離された上澄み液には、ブチリルコリンエステラーゼ酵素の濃縮物が含まれている。従って、各ブチリルコリンエステラーゼ変異体から分離された培養上澄み液の等量を測定して得られるコカイン加水分解活性は、発現レベルと酵素活性を反映している。酵素濃縮物の等量を比較し、望ましい活性を持った変異体を迅速に同定するため、抗体のような捕捉剤を使って培養上澄み液のブチリルコリンエステラーゼを固定する。そういう捕捉剤は、以前ワトキンス(Watkins)等、Anal. Biochem. 253:37−45(1997)に記載されているように、低濃度のブチリルコリンエステラーゼで飽和されうる。その結果、希釈サンプルのブチリルコリンエステラーゼは濃縮され、培養上澄み液の最初の濃度に関係なく、異なるブチリルコリンエステラーゼ変異体クローンの均一な量が固定される。その後、アッセイに影響を及ぼす可能性のある結合していないブチリルコリンエステラーゼや他の培養上澄み液成分(無関係な血清や重要なエステラーゼ活性を持つ細胞由来の蛋白質など)は洗浄・除去され、固定されたブチリルコリンエステラーゼの活性が、上述のように安息香酸の形成を測定する事により決定される。
上述のアッセイの効率を評価するため、ヒトのブチリルコリンエステラーゼ及びヒトのブチリルコリンエステラーゼのトランケートされた溶解性単量体の捕捉効率(ブロング(Blong)等、Biochem. J. 327:747−757(1997))が、市販のラビット抗ヒトコリンエステラーゼ・ポリクローナル抗体(DAKO、カリフォルニア州カーピンテリア(Carpinteria, CA))を使って、マイクロタイター形式で証明された(図6)。ブチリルコリンエステラーゼ捕捉の最適条件を決定するため、マイクロタイター・プレートをラビット抗ヒトコリンエステラーゼを増加させながらコーティングし、ブロックし、様々な量の培養上澄み液と一緒にインキュベートした。捕捉された活性ブチリルコリンエステラーゼの量は、ジチオビスニトロ安息香酸の存在下405nmでブチルチオコリン加水分解を測定するアッセイを使って、比色測定法により決定された(キシー(Xie)等、前出、1999)。その後、野生型のヒト・ブチリルコリンエステラーゼか単量体のトランケート・タイプのいずれかを発現する細胞の希釈培養上澄み液で捕捉されたブチリルコリンエステラーゼ活性が測定された。ラビット抗ヒトコリンエステラーゼ捕捉抗体は25μlの培養上澄み液に存在するブチリルコリンエステラーゼで飽和された。完全野生型の酵素を含む上澄み液の方が、より高いブチリルコリンエステラーゼ活性を示した(図6、黒丸と白丸を比較)。結合しなかった物質はpH7.4の100mMトリスで洗浄・除去し、捕捉された活性ブチリルコリンエステラーゼの量はブチリルチオコリン加水分解を測定する事により定量化された。ブチリルコリンエステラーゼは、マイクロタイター・プレート上でポリクローン性抗ブチリルコリンエステラーゼ抗体を飽和するのに十分な量が、培養上澄み液中に発現されていた。。更に、捕捉された酵素が活性である事は、ブチリルチオコリンの加水分解により証明された。
アイソトープ・トレーサー・アッセイ及び固定されたブチリルコリンエステラーゼによるコカイン加水分解の測定
マイクロタイター形式でコカイン加水分解活性を測定するため、活性ブチリルコリンエステラーゼ固定の最適条件とコカイン・アイソトープ・トレーサー・アッセイが用いられた。上述のように、アッセイの特徴はコカイン加水分解活性のKを決定する事である。アッセイの感度又はアッセイ・シグナルを高めるため、少なくとも3つの方法が用いられた。
まず、アッセイ培養時間を長くする事により、使用されるシグナルが正比例的に増大する。第2に、放射性元素で標識化したコカイン基質の比活性を増大させる事により、アッセイの感度は高められる。第3に、以前同定されたコカイン加水分解の効率が4倍高いブチリルコリンエステラーゼ突然変異体を使用する事である(キシー(Xie)等、前出、1999)。アッセイ培養時間を2倍にし、コカインの比活性を10倍にすれば、シグナルは約80倍増大できる。
実施例II ブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーの合成及び特長付け
この実施例は、哺乳類の細胞で発現されるブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーの合成と特徴付けを説明する。
ブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーの合成を促進するため、DNAコード化した野生型ヒト・ブチリルコリンエステラーゼ、酵素的に活性でトランケートされたヒト・ブチリルコリンエステラーゼの単量体、そしてコカイン加水分解活性が4倍向上しているA328Y突然変異体のユニークな制限部位を使って、修飾されたダブルロックス(doublelox)標的ベクターにクローン化する。予備アッセイでは、野生型のヒト・ブチリルコリンエステラーゼがより効率的に捕捉されたので、ブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリー合成の最初のDNAテンプレートとして選ばれる。
コドン・ベース変異誘発によるブチリルコリンエステラーゼ変異体フォーカストライブラリーの合成
様々な情報を使って、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の最初のライブラリーを個別の部位にフォーカス(集中)する。例えば、ブチリルコリンエステラーゼとシビレエイアセチルコリンエステラーゼ(AChE)は高いレベルの類似体である(53%同一)。更に、シビレエイ AChEの4から534までの残基は、ブチリルコリンエステラーゼの2から532までの残基と整合しており、削除も挿入もない。触媒的な3つの残基(ブチリルコリンエステラーゼ残基Ser198、Glu325、及びHis438)と分子間鎖のジスルフィド結合は全て同じ位置にある。これらの蛋白質の類似性が高いので、シビレエイ AChEの2.8ÅX線精密構造(サスマン(Sussman)等、サイエンス(Science) 253:872−879(1991))が、ブチリルコリンエステラーゼ構造をモデル化するのに使われている(ハレル(Harel)等、前出、1992)。
コリンエステラーゼの研究は、触媒的な3つの残基及びリガンド結合に関係している他の残基が、疎水性残基の多い深くて狭い活性部位の溝に位置している事を明らかにした(ソレク(Soreq)等、Tends Biochem. Sci. 17:353−358(1992)による総説がある)。活性部位の溝(図2で疎水性の活性部位溝の残基には影を付けてある)に沿って並んでいると決定されたアミノ酸を含むため、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の7つのフォーカストライブラリー部位が選択された(図2、下線部残基)。
ブチリルコリンエステラーゼの構造モデルに加えて、ブチリルコリンエステラーゼの生化学的データもライブラリー・デザイン・プロセスに統合された。例えば、変更されたコカイン加水分解活性を持つ天然のブチリルコリンエステラーゼの特徴付けや部位特異的変異の研究が、コカイン加水分解活性にとって重要なアミノ酸の位置及び区域に関する情報を提供する(シュバルツ(Schwartz)等、Pharmac. Ther. 67:283−322(1995)で検討された)。更に、異なる種から得られるブチリルコリンエステラーゼの配列及びコカイン加水分解データの比較も、そういうブチリルコリンエステラーゼのコカイン加水分解活性の比較に基づいて、コカイン加水分解活性にとって重要な部位に関する情報を提供する。以前同定されたA328Y突然変異体も部位6に対応するライブラリーに含まれており、ライブラリー合成及び哺乳類の細胞での発現の質、並びにマイクロタイター・ベースのコカイン加水分解アッセイの感度を証明するためのコントロールとして使用される。
表2.触媒効率にとって重要であると予測されるブチリルコリンエステラーゼの部位
Figure 2006522611
フォーカストライブラリー合成用に選択されたブチリルコリンエステラーゼの7つの部位は8つの芳香族活性部位溝の残基(W82、W112、Y128、W231、F329、Y332、W430、及びY440)及び3つの触媒的残基のうちの2つを含む残基が含まれている。65Cys−92Cys、252Cys−263Cys、及び400Cys−519Cysの間にある分子鎖間のジスルフィド結合の統合は、ブチリルコリンエステラーゼの機能構造のため維持される。更に、残基17、57、106、241、256、341、455、481、485、及び486に位置している推定上のグリコシル化部位(N−X−S/T)もライブラリー合成には避けられる。合計すると、7つのフォーカストライブラリーには79の残基があり、ブチリルコリンエステラーゼの直線配列の約14%を占めており、約1500のブチリルコリンエステラーゼ変異体の発現を行なう。
突然変異の対象となるヒト・ブチリルコリンエステラーゼの7つの部位に対応する核酸ライブラリーは、上述のように、そして図7に図示されているように、コドン・ベースの変異誘発によって合成される。要約すると、複数のDNA合成カラムが、以前(グレイサー(Glaser)等、前出、1992)によって記載されているように、βシアノエチル・ホスホラミダイト化学によってオリゴヌクレオチド合成に使用される。第1段階では、ブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸をコード化しているトリヌクレオチドが1つのカラムで合成され、第2のカラムはトリヌクレオチドNN(G/T)の合成に使用される。ここでNはdA、dG、dC、及びdTシアノエチル・ホスホラミダイトの混合物である。トリヌクレオチドNN(G/T)を使えば、変性をほとんど伴わずに徹底した変異誘発を行なう事ができるが、これはあらゆる位置で20の全アミノ酸の発現を組織的に行なう事により実現される。
最初のコドンの合成の後、2つのカラムの樹脂は混合され、分けられ、4つのカラムに置き換えられる。コドン毎に追加の合成カラムを加え、図7に示されている方法でカラムの樹脂を混合する事により、変異誘発の程度に従って、変性したオリゴヌクレオチドが分離される。コドン・ベース変異誘発の樹脂混合方式は、複数のオリゴヌクレオチドの合成を不要にするので、プロセスは迅速化され、割安になる。現在の研究では、単一のアミノ酸の突然変異をコード化するオリゴヌクレオチドのプールが、ブチリルコリンエステラーゼのフォーカストライブラリーの合成に使われる。
オリゴヌクレオチド特異的変異誘発(クンケル(Kunkel)、前出、1985)を使って、単一のアミノ酸突然変異を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化しているオリゴヌクレオチドが、ダブルロックス(doublelox)標的ベクターにクローン化される。変異誘発の効率を高め、野生型ブチリルコリンエステラーゼを発現するクローン数を減らすため、ライブラリーは2段階プロセスで合成される。第1段階では、各ライブラリー部位に対応するブチリルコリンエステラーゼのDNA配列をハイブリダイゼーション変異誘発により欠失させる。第2段階では、各欠失突然変異体(1つの欠失突然変異体が各ライブラリーに対応)用に、ウラシル含有一本鎖DNAが分離され、オリゴヌクレオチド特異的変異によるライブラリー合成のテンプレートとして使われる。この方法は抗体ライブラリーの合成に良く使われており、変異誘発性オリゴヌクレオチドの異なるDNA配列から生じやすいアニーリングの偏りを排除する事により、均一な変異誘発をもたらす。更に、2段階プロセスにより、ライブラリーの変異体と比べ野生型配列の頻度が少なくなり、その結果、野生型ブチリルコリンエステラーゼをコード化するクローンの反復スクリーニングが不要になるので、ライブラリーのスクリーニング効率が上昇する。
ライブラリーの質及び変異誘発の効率は、各ライブラリーで無作為に選択される約20のクローンからDNA配列が得られる所に特徴がある。変異誘発は各ライブラリーの複数の位置で起きている事、そして複数のアミノ酸が各位置で発現している事をDNA配列が証明している。更に、ライブラリーには様々なクローンが含まれており、僅かな数のクローンにより独占されてはいない事を無作為に選択されたクローンのDNA配列が証明している。
部位特異的組み込みのための形質移入パラメーターの最適化
Creリコンビナーゼ媒介の部位特異的組み込みのための形質移入パラメーターの最適化は、モデル・システムとしてブレオマイシン耐性蛋白(BRP)DNAを使って実現された。
Creリコンビナーゼは、バクテリオファージP1の配列特異的な組み換えにとって必要かつ十分な38−kDaリコンビナーゼであり、良く知られている(アブレムスキ(Abremski)等、細胞(Cell) 32:1301−1311(1983))。組み換えは2つの34塩基対loxP配列間で起き、それぞれ中心部位の周りに位置する2つの逆13塩基対リコンビナーゼ認識配列で構成される(スターンバーグ・アンド・ハミルトン(Sternberg and Hamilton)、J. Mol. Biol. 150:467−486(1981a);スターンバーグ・アンド・ハミルトン(Sternberg and Hamilton)、J. Mol. Biol. 150:487−507(1981b))。DNA開裂及び鎖交換は、中心部位の端の鎖の上又は下で起きる。Creリコンビナーゼは真核生物で部位特異的な組み換えの触媒も行なう。これには、酵母(サウア(Sauer)、Mol. Cell. Biol. 7:2087−2096(1987))及び哺乳類の細胞(サウア・アンド・ヘンダーソン(Sauer and Henderson)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5166−5170(1988)、フクシゲ・アンド・サウア(Fukushige and Sauer)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:7905−7909(1992)、べスケ・アンド・サウア(Bethke and Sauer)、Nuc. Acids Res.、25:2828−2834(1997))も含まれる。
リン酸カルシウムによる13−1細胞の形質移入は、プレートの生存可能細胞の1%で行なわれる(標的取り込み)事が以前証明されている(べスケ・アンド・サウア(Bethke and Sauer)、Nuc. Acids Res.、25:2828−2834(1997))。従って、リン酸カルシウムを使って、13−1細胞に4μgpBS185及び10、20、30、又は40μgのpBS397−fl(+)/BRPを形質移入する研究がまず行なわれた。形質移入当たりのDNAの総合値は、無関係のpBluescript II KS DNA(ストラタジーン(Stratagene)、カリフォルニア州ラホヤ(La Jolla, CA))を使って一定に保たれ、形質転換株は400μg/mlのジェネティシンを含む培地にプレートを置き換える事により48時間後に選択された。コロニーは標的取り込みの効率を決定するため10日後に数えられた。最適な標的取り込みは、普通、30μgの標的ベクターと4μgのCreリコンビナーゼ・ベクターpBS185を使った時に観察され、これは以前の報告(、べスケ・アンド・サウア(Bethke and Sauer)、Nuc. Acids Res.、25:2828−2834(1997))の20μgの標的ベクターと5μgのpBS185と一致している。観察された標的取り込みの頻度は一般に1%未満であった。リン酸カルシウムを使う方法は使用されるDNA量と緩衝液のpHに敏感ではあるが、それでも観察された標的取り込みの効率は蛋白質ライブラリーの発現に十分であった。
表3に示されるように、いくつかの細胞株と他の形質移入方法が特徴付けられている。本出願で開示されているように、そしてディメッキ(Dymecki)、前出、1996に記載されているように、Flpリコンビナーゼもゲノムの特定の部位に外因性のDNAを挿入する方法として利用できる。Flpの標的部位は、8塩基対のスペーサーで分離された13塩基対のリピートで構成されている:5’GAAGTTCCTATTC[TCTAGAAA]GTATAGGAACTTC3’。ブチリルコリンエステラーゼの327から332までのアミノ酸(表2の部位6)の部位に対応する変異体ライブラリーが、Flpリコンビナーゼ及び293T細胞株を使って哺乳類の細胞に形質移入された。SEQ ID NO:2、4、及び8と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体が、Flpリコンビナーゼ及び293Tヒト細胞株を使った本出願に記載されている方法により同定され、特徴付けが行われた。
一般に、脂質媒介の形質移入の方が、リン酸カルシウムやDEAEデキストラン形質移入のように化学的な環境を変える方法よりも効率が良い。更に、脂質媒介の形質移入の方が、DNA調製の際の汚染物、塩濃度、そしてpHの影響を受けにくいので、一般により再現性のある結果を提供する(フェルグナー(Felgner)等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:7413−7417(1987))。従って、GenePORTER形質移入剤(ジーン・セラピー・システムズ(Gene Therapy Systems)、カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego, CA))と呼ばれる中性脂質のジオレオイル・ホスファチジルエタノールアミンとカチオン性脂質が、代替形質移入方法として評価されている。内毒素を含まないDNAが、EndoFree Plasmid Maxiキット(キアゲン(QIAGEN)、カリフォルニア州バレンシア(Valencia, CA))を使って、標的ベクターpBS397−fl(+)/BRP及びCreリコンビナーゼ・ベクターpBS185のために調製された。次に、5μgのpBS185と様々な量のpBS397−fl(+)/BRPを血清フリーの培地で希釈し、GenePORTER形質移入剤と混合した。次にDNA脂質混合物は、約5x10細胞/100mm皿で構成される13−1細胞の60−70%融合性単層に添加され、37℃で培養された。5時間後牛胎児血清が10%まで添加され、翌日形質移入培地は除去され、新しい培地で置き換えられた。
様々な量の標的ベクターで細胞に形質移入した場合、標的組み込み効率は0.1%乃至1.0%であり、標的組み込み効率の最適化は、標的ベクターとCreリコンビナーゼ・ベクターをそれぞれ5μg使用した時観察された。最適条件下で13−1宿主細胞に脂質ベースの形質移入をした場合の標的組み込み効率は0.5%で、この結果は一貫して観察された。0.5%標的組み込みは以前の報告にある1.0%効率(べスケ・アンド・サウア(Bethke and Sauer)、Nuc. Acids Res.、25:2828−2834(1997))を僅かに下回るだけで、大量の蛋白質ライブラリーの発現には十分であり、哺乳類の細胞で蛋白質変異体を発現させる事ができる。
表3 安定形質移入又は一過性細胞形質移入のいずれかを使って、細胞当たり単一のブチリルコリンエステラーゼ変異体を発現
Figure 2006522611
これらの結果は、NIH313 13−1細胞への形質移入条件の最適化を示している。少量のDNAを必要とし、再現性のある標的効率が5%である脂質ベースの簡単な形質移入方法の条件がここに確立された。
哺乳類細胞に於けるブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーの発現
ブチリルコリンエステラーゼ変異体の7つのライブラリーは、ダブルロックス(doublelox)標的ベクターと上述の形質移入のための最適条件を使って、それぞれ哺乳類の宿主細胞株に形質転換される。Creリコンビナーゼ媒介の形質転換の後、クローンを分離するため、限界希釈法により、宿主細胞を96ウェルの培養器で培養する。クレ/lox標的部位に組み込まれたブチリルコリンエステラーゼ変異体を持つ細胞は、ジェネティシンで選別される。その後、各ライブラリーから無作為に選別された20−30のクローンから、ブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化するDNAの配列を決定し、上述のように分析する。総細胞DNAは、Dneasy Tissue キット(キアゲン(Qiagen)、カリフォルニア州バレンシア(Valencia, CA))を使って、関心のある各クローンの約10の細胞から分離される。次に、ブチリルコリンエステラーゼの遺伝子は、Pfu Turbo DNAポリメラーゼ(ストラタジーン(Stratagene)、カリフォルニア州ラホヤ(La Jolla, CA))を使って増幅され、PCR生成物の一部は、ネスティッド・オリゴヌクレオチド・プライマーを使って、蛍光ジデオキシヌクレオチド・ターミネーション法(パーキン−エルマー(Perkin−Elmer)、コネチカット州ノーウォーク(Norwalk, CT))により無作為に選択されたクローンから、ブチリルコリンエステラーゼ変異体をコード化するDNAの配列決定に使用される。
前に記述したように、配列決定によりライブラリーの均一な導入が証明される。哺乳類の形質転換株の多様性は、バクテリアの形質転換後のダブルロックス(doublelox)標的ベクターに於けるライブラリーの多様性に類似している。
表4.コカイン加水分解酵素活性の増大したブチリルコリンエステラーゼ変異体(WT=1)の相対活性、及び対応するコドン変更
Figure 2006522611
本出願記載の通り、ブチリルコリンエステラーゼの部位5に対応するライブラリーが発現し、各変異体はマイクロタイター・アッセイを使って[H]コカインの加水分解を測定する事によりスクリーニングされた。活性の向上した変異体の触媒効果(Vmax/K)はマイクロタイター・アッセイを使って特徴付けされ、相対K及びVmaxが決定された。コカイン加水分解酵素活性が増大した21のブチリルコリンエステラーゼ変異体が次のように同定された:
Figure 2006522611
実施例III コカイン加水分解活性増大を示すブチリルコリンエステラーゼ変異体の特徴付け
この実施例は、以下に記載するマイクロタイター・アッセイでコカイン加水分解活性を増大したブチリルコリンエステラーゼ変異体の分子特徴づけを記載する。マイクロタイター・アッセイで測定されたコカイン加水分解活性は、関心のあるブチリルコリンエステラーゼ変異体を大量に使用する事により更に確認された。マイクロタイター・アッセイ以外にも、生成物の溶液相をHPLCアッセイで測定する事によってもそれは証明され、ブチリルコリンエステラーゼ変異体のコカイン加水分解活性の増大、及び加水分解の増大がベンゾイルエステル基で起きている事も確認された。
野生型ブチリルコリンエステラーゼと最高の変異体の運動定数が決定され、変異体の触媒効果を野生型ブチリルコリンエステラーゼの触媒効果と比較するのに利用される。(−)コカインのK値は37℃で決定される。K値はシグマ・プロット(Sigma Plot)(ヤンデル・サイエンティフィック(Jandel Scientific)、カリフォルニア州サンラファエル(San Rafael, CA))を使って計算される。ブチリルコリンエステラーゼの活性部位の数は、以前マッソン(Masson)等、生物化学(Biochemistry) 36:2266−2277(1997)で記載されているように、点滴液としてヨウ化エコチオパート又はジイソプロピル・フルオロリン酸塩を使って、残基活性法により決定される。あるいは、ブチリルコリンエステラーゼの活性部位の数は、ELISAを使って培養上澄み液に存在するブチリルコリンエステラーゼ又はブチリルコリンエステラーゼ変異体を定量する事により推定される。ELISA定量アッセイには、精製されたヒトのブチリルコリンエステラーゼが使用される。触媒速度定数KcatはVmaxを活性部位の濃度で割る事により計算される。最後に、各ブチリルコリンエステラーゼ変異体に関してKcat/Kを決定する事により、最高の変異体の触媒効果と野生型ブチリルコリンエステラーゼのそれを比較する。
コカイン加水分解活性増大のブチリルコリンエステラーゼ変異体を発現させる全クローンを更に特徴付けるため、変異体をコード化しているDNAの配列が決定される。DNA配列決定により突然変異の正確な場所及び特徴が明らかとなり、同定されたブチリルコリンエステラーゼ変異体の総数が算出される。各ライブラリーのスクリーニングは、同一のブチリルコリンエステラーゼ突然変異体をコード化しているクローンが複数回同定される時、つまりライブラリーが全てスクリーニングされた時完了する。
実施例IV 組み合わせブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーの合成及び特徴付け

この実施例は、哺乳類の細胞で発現するブチリルコリンエステラーゼ変異体の組み合わせライブラリーの合成及び特徴付けを説明する。
単一アミノ酸の突然変異を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ライブラリーをスクリーニングする事により同定される有益な突然変異は、ブチリルコリンエステラーゼのコカイン加水分解活性を更に改善するため、インビトロで組み合わされる。生化学的相加効果と称される有益な突然変異のこの有益な組み合わせは、多数観察されている。例えば、有益な突然変異の蓄積とその後の組み合わせを通して段階的に抗体親和性を高める反復プロセスにより、2,500種未満の変異体を含む変異体ライブラリーを使って、親和性が500倍増大した抗体が同定されている。しかし、生化学的相加効果の原理は抗体親和性の改善だけに限定されるものではない。熱安定性、触媒効率、殺虫剤への抵抗力の増大など他の物理学的特性の改善にも利用されている。
ブチリルコリンエステラーゼの7つのフォーカストライブラリーをスクリーニングして最高の突然変異を同定し、それを使って組み合わせライブラリーを合成する。組み合わせライブラリーの変異体の数は僅かであると予測される。通常、最初のライブラリーから得られる変異体のほんの一部である。例えば、8つの部位に於ける単一突然変異の組み合わせ分析には、2つまり256のユニークな変異体を含むライブラリーが必要である。組み合わせライブラリーはオリゴヌクレオチド特異的変異により合成され、特徴付けられ、哺乳類の宿主細胞株で発現する。変異体はスクリーニングされ、上述のように特徴付けられ、DNAの配列決定により相加的突然変異が明らかとなる。
実施例V ブチリルコリンエステラーゼ変異体の発現及び精製
この実施例は、哺乳類の細胞株での発現、及びその後のブチリルコリンエステラーゼ変異体の精製を説明する。
触媒的に最も活性なブチリルコリンエステラーゼ変異体及び野生型ブチリルコリンエステラーゼを発現するクローンを使って、大量培養を確立する。インビボ研究に必要な大量の酵素を精製するためである。以下に記載するように、インビボでラットの毒性及び中毒研究を完了するには、野生型ブチリルコリンエステラーゼ及び最上の変異体がそれぞれ約100mgずつ必要であると推測される。
関心のあるブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ユニークな制限部位を使って、pCMV/Zeoベクター(インビトロゲン(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad, CA))へクローン化される。変異体のクローン化は、制限マッピング及びDNA配列決定を使って確認される。その後、変異体は形質移入されたチャイニーズハムスターの卵巣細胞CHO KI (ATCC CCL 61)で発現させる。CHO細胞が発現に選ばれた理由は、ブチリルコリンエステラーゼが糖蛋白質であり、こういう細胞が以前ヒトの治療用組み換え糖蛋白質の発現(グーチー(Goochee)等、生物工学(Biotechnology) 9:1347−1355(1991)、ジェンキンス・アンド・カーリング(Jenkins and Curling)、Enzyme Microb. Technol. 16:354−364(1994))や活性を失うことなく組み換えブチリルコリンエステラーゼ(マッソン(Masson)等、前出、1997)を発現することができたからである。まず、CHO細胞を全てのブチリルコリンエステラーゼ変異体で一過性的に形質移入し、機能的ブチリルコリンエステラーゼの発現を確認する。その後、細胞は安定的に形質移入され、抗体ゼオシン(インビトロゲン(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad, CA))を使って、ブチリルコリンエステラーゼ変異体を発現するクローンを選別する。コロニーは無菌綿棒で採取し、24ウェル・プレートへ移す。ブチリルコリンエステラーゼの発現が測定され、最高の活性を示すコロニーはさらに増殖させる。ブチリルコリンエステラーゼ変異体の反応速度定数を決定し、CHO細胞の発現がNIH3T3細胞で発現するブチリルコリンエステラーゼ変異体と比べて酵素活性を落としていない事を確認する。
細胞はT715フラスコで増殖させ、約5x10の細胞が得られるまで複数の3Lスピナーフラスコで更に増殖させる。その後、細胞株はCELL−PHARM System 2000ホローファイバー細胞培養システム(ユニシン・テクノロジーズ(Unisyn Technologies)、マサチューセッツ州ホプキントン(Hopkinton, MA))へ移し、ブチリルコリンエステラーゼの生産と回収を継続する。ホローファイバーは高密度の細胞を提供し、そこから毎日60−120mlの濃縮ブチリルコリンエステラーゼが採収される。追加評価に必要な量のブチリルコリンエステラーゼを生産するには1ヶ月かかると予測される。
ホローファイバー・システムで得られた濃縮組み換えブチリルコリンエステラーゼは、実質的に以前記載されている方法(マッソン(Masson)等、前出、1997)で精製される。血清フリーの培地は遠心分離して粒子を除去し、イオン強度は2倍の水で希釈する事により減少させ、その後サンプルはプロカインアミド・セファロース・アフィニティーカラムへ移す。ブチリルコリンエステラーゼはプロカインアミドで溶出し、イオン交換クロマトグラフィで更に精製してから濃縮する。CHO細胞で発現した組み換えブチリルコリンエステラーゼ突然変異体は、この精製法を使って以前99%まで精製され、50%の収率を達成している(ロックリッジ(Lockridge)等、生化学(Biochemistry) 36:786−795(1997))。酵素は0.22μmの膜でフィルター殺菌し、4℃で保存する。この条件下で、18ヶ月後、ブチリルコリンエステラーゼは最初の活性の90%を保持している(リンチ(Lynch)等、Toxicology and Applied Pharmaco. 55:83−91(1999))。
実施例VI 野生型ブチリルコリンエステラーゼ及びブチリルコリンエステラーゼ変異体の評価
インビトロでコカイン加水分解活性の増大を示すブチリルコリンエステラーゼ変異体は、インビボで更に強力なコカイン毒性及び中毒の治療効果を示す。インビボに於けるブチリルコリンエステラーゼ変異体の特徴付けを行うため、急性過剰摂取のモデルが使用され、毒性に対するブチリルコリンエステラーゼ変異体の効果が測定される。一方、強化及び識別モデルは、ブチリルコリンエステラーゼ変異体の中毒治療効果を予測するのに使用される。ヒトのブチリルコリンエステラーゼ変異体の薬物動態学にこのモデルが最適だとは期待できないけれども、ラットのコカイン・モデルの特徴付けは十分行なわれており、精製ブチリルコリンエステラーゼの量は、霊長類のモデルよりもはるかに少量で足りる。野生型のブチリルコリンエステラーゼもコカイン加水分解活性を増大したブチリルコリンエステラーゼ変異体も、用量依存の反応を示す事が予想される。更に、コカイン加水分解活性を最適化したブチリルコリンエステラーゼ変異体は、野生型のブチリルコリンエステラーゼよりもはるかに少量で効果を上げる事ができる。
コカイン毒性の改善
ブチリルコリンエステラーゼ変異体のコカインへの効果は、メッツ(Mets)等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:10176−10181(1998)により過剰摂取ラットモデルを使って以前記載され、評価が行なわれている。このモデルはカテコールアミンの同時注入法を使う。様々なレベルの内因性カテコールアミンがコカイン毒性に影響を及ぼす事が証明されているからである(メッツ(Mets)等、Life Sci. 59:2021−2031(1996))。カテコールアミンのレベルを標準化した場合、コカイン1mg/kg/分の注入は、LD50=10mg/kg及びLD90=16mg/kgを示す。
この研究では、1グループ6匹のラットを含む6つのグループが使用された。ラットはスプラグ−ドーレイ(Sprague−Dawley)の雄で、明暗を12時間周期で維持している飼育器に入れた時点では体重250〜275gである。ラットは食事も水もいつでも自由に摂取できる。治療前に、ラットには大腿動脈及び静脈カテーテルを付け、回復期間を与えた。その後、カテコールアミンとコカイン(1mg/kg/分)の同時注入の15分前に、様々な量のブチリルコリンエステラーゼ変異体(0.35、1.76、又は11.8mg/kg)又は等量の生理食塩水でラットを処理する。ラットが早く死んでしまう場合は別であるが、LD90のコカインの注入には16分かける。野生型ブチリルコリンエステラーゼと以前記載した触媒的抗体(メッツ(Mets)等、前出、1998)の相対触媒効果に基づけば、ブチリルコリンエステラーゼの用量を増やせば、対照の生理食塩水の場合と比べて生存率が増大する事、及びブチリルコリンエステラーゼの最高用量(11.8mg/kg)は全てのラットを保護できる事が予想される。インビトロで10倍効果的にコカインを加水分解するブチリルコリンエステラーゼ変異体は、更に低い用量(例えば1mg/kg)で全ラットを保護できる事が予想される。
コカイン乱用の改善
コカインの識別的及び強化的薬理学効果は、麻薬の乱用を代表するコカインの作用を最も正確に反映すると思われる。従って、ブチリルコリンエステラーゼ変異体は、ラットのコカイン強化モデルとコカイン識別モデルの両方で評価される。
コカイン強化効果のラットモデルは、コカインの他の治療方法を評価するのに広範に用いられている(クーブ(Koob)等、Neurosci. Lett. 79:315−320(1987)、ハブナー・アンド・モレトン(Hubner and Moreton)、精神薬理学(Psychopharmacology) 105:151−156(1991)、ケイン・アンド・クーブ(Caine and Koob)、J. Pharmacol. Exp. Ther. 270:209−218(1994)、リチャードソン(Richardson)等、Brain Res. 619:15−21(1993))。
スプラグ−ドーレイ(Sprague−Dawley)ラットの雄は上述のように維持される。照明、引っ込み式レバー、ジッパー・メカニズム、赤と黄色と緑の刺激光、そして薬物送達用の空気式シリンジ・ポンプ装置(IITC ライフ・サイエンシス・インク(IITC Life Sciences, Inc.)、カリフォルニア州ウッドランドヒルズ(Woodland Hills, CA))を備えた6つのオペラントチャンバーをインプット及びアウトプット・カード(メド・アソシエーツ・インク(Med Associates, Inc.)、バーモント州セントアルバンス(St. Albans, VT))を使ってIBM互換性のコンピューターに接続する。チャンバーは空調と音量調節装置を備えた部屋に格納する(メド・アソシエーツ(Med Associates)。オペラントチャンバー内の予定の状況及び刺激アレイをコントロールするカスタム化された自己投与プログラムは、DOS用のMed−PCプログラミング言語を使って記述する。
コカインの強化効果は、静脈内投与がラットの反応に基づいて行なわれる条件の下に、ラットが得る注入の数を測定するモデルを使って評価される(メッツ(Mets)等、前出、1998)。ラットは、オペラント条件付けチャンバーで、レバーを押して0.5mlの加糖ミルク溶液を得るように訓練される。定率1(FR1)スケジュール強化でレバープレス反応を獲得した後は、反応要求を連続的にFR5スケジュールへ増大させる。このスケジュールで3日連続安定したミルク維持反応率を示すようになったならば(1時間セッションで強化刺激送達の変動が10%未満)、左の頸静脈内にカテーテルを導入する手術を行い、ラットには最低2日間の回復期間が与えられる。
手術後の最初のオペラント訓練セッションに於いて、1時間のセッションで、ミルクとコカインの静脈内ボーラス(0.125mg/kg/注入)を5秒間同時に得るためのレバーにラットを反応させる。次にミルクをチャンバーから除き、次の3日間、6時間継続の自己投与セッションに於いて、ラットにはコカインの3つの用量(0.125、0.25、又は0.5mg/kg/注入)のうち1つへのアクセスが許される。従って、ラットはセッション当たり各用量に2回ずつアクセスでき、用量は少量から多量へ増加し、それが反復される(すなわち0.125、0.25、0.5、0.125、0.25、0.5mg/kg/注入)。1時間毎の用量期間中、10秒間のタイムアウトを伴う最初のFR5は維持される。更に、各1時間セッションの持ち越し効果を最小限にするため、各用量期間の後10分間のタイムアウト期間が設けられる。
ラットが3日間連続で一貫してコカイン自己投与を示すようになったならば(6時間のセッション当たり160以上の注入で15%未満の変動)、より少量のコカインと生理食塩水が入手可能な1日のセッションのスケジュールに移行させる。各セッションは2つの期間に分けられ、各期間で生理食塩水と3用量のコカインを入手可能とする。各セッションの最初の期間には、一連の低用量(0〜0.0625mg/kg/注入)へのアクセスが可能であり、第2の期間ではより広範な用量(0.05mg/kg/注入)へのアクセスが可能である。
コカインの自己投与率が安定化した後、ラットは6つのグループに分けられ、1日の自己投与セッションが始まる30分前に、0.35、1.76、11.8mg/kgの野生型ブチリルコリンエステラーゼか最適化されたブチリルコリンエステラーゼ変異体、あるいは等量の生理食塩水が、各グループ(n=6ラット)に投与される。ラットのコカイン自己投与行動が基準線に戻るまで、前処理の効果を数日間モニターする。
定率(FR)スケジュールを使った場合、注入回数はセッション期間によって限定されているだけであるので、それは最適化されたブチリルコリンエステラーゼ変異体の効力と野生型ブチリルコリンエステラーゼのそれとを比較する従属変数として使用される。様々な濃度の野生型ブチリルコリンエステラーゼ又は最適化されたブチリルコリンエステラーゼ変異体を投与した後、用量応答曲線を混合因子MANOVAを使って分析する。ブチリルコリンエステラーゼ濃度(0.35、1.76、11.8mg/kg)は対象個体間因子として与えられ、コカインの用量(0、0.015、0.03、0.06、0.125、0.25、0.5mg/kg/注入)は対象固体内因子として与えられる。各コカイン用量に於けるブチリルコリンエステラーゼ処理グループ全体の比較には、Tukey HSD post−hoc処置(グラベッター(Gravetter), F. J. 及びウォールノウ(Wallnau), L. B.、行動科学のための統計(Statistics for Behavioral Science)(第5版、2000、ワズワース出版(Wadsworth Publ.)、カリフォルニア州ベルモント(Belmont, CA)を参照)が使われ、統計的有意性の基準はp<0.05に設定される。ブチリルコリンエステラーゼの用量が多い場合(11.8mg/kg)は、ラットが得る注入回数は未処置(生理食塩水)の対照グループよりも少ない事が予想される。更に、コカイン加水分解活性増加を示すブチリルコリンエステラーゼ変異体で処理されたラットは、野生型ブチリルコリンエステラーゼで処理されたラットよりも少ない用量(0.35mg/kg)で注入回数が減少する事が予想される。
医薬品識別は臨床におけるコカインの自覚効果に関係しており、前処理後のコカイン識別への拮抗は治療効果の可能性の明白な証拠であると考えられる(ホルツマン(Holzman)、薬物学の近代的方法、薬物乱用の試験及び評価(Modern Methods in Pharmacology, Testing and Evaluation of Drug Abuse)、ワイリー・リス・インク(Wiley−Liss Inc.)、ニューヨーク(1990)、スピールマン(Spealman)、NIDA Res. Mon. 119:175−179(1992))。薬物の識別刺激効果を確立・評価するのに最も良く使われている方法は、コントロールされたオペラント処置に於いて、注入された薬物を刺激物として使い、2つのレバーへの反応の分布をコントロールするように動物を訓練する方法である。「薬物関連」レバーへの反応の分布を薬物の用量の関数として示す用量効果曲線は、容易に作成できる。こういうコカイン用量効果曲線は、拮抗剤の投与により変更できる。曲線を変更させる量及び動物が最初のコカイン感受性に戻る時間は、野生型ブチリルコリンエステラーゼ及び最適化された変異体が治療に使用可能であるかどうかを評価するに当たり、有益なデータとなる。ラットモデルに於けるコカインの識別刺激効果は、ドーパミン再摂取阻害剤の治療可能性及びドーパミン受容体の作用薬及び拮抗薬を評価するのに使われている(ウィトキン(Witkin)等、J. Pharmacol. Exp. Ther. 257:706−713(1989)、カンタク(Kantak)等、J. Pharmacol. Exp. Ther. 274:657−665(1995)、バレット・アンド・アペル(Barret and Appel)、精神薬理学(Psychopharmacology) 99:13−16(1989)、カラハン(Callahan)等、精神薬理学(Psychopharmacology) 103:50−55(1991))。
訓練し識別刺激としてコカインを試験する多重試験方式は、バータルミオ(Bertalmio)等、J. Pharmacol. Mehtods 7:289−299(1982)及びシェクター(Schecter)、Eur. J. Pharmacol. 326:113−118(1997)に以前記載されているように、ブチリルコリンエステラーゼのラットへの効果を評価するのに使用される。コカインの用量反応曲線は、ブチリルコリンエステラーゼ又は最適化されたブチリルコリンエステラーゼ変異体の存在の下に、単一のセッションで入手される。その後、ラットが最初のコカイン感受性に戻る様子を週2回ずつ追跡し、ブチリルコリンエステラーゼ作用の持続期間を評価する。
食物強化オペラント処置で訓練するため、自由に食事を摂っていた実験の最初の体重の80%までラットの食事を制限する。2つの光刺激物と2つの引き込み式レバー(それぞれミルク送達システムの両サイドに配置)を備えたオペラント条件付けチャンバーに各ラットを配置し、レバーの1つを押して0.5mlの加糖濃縮ミルクにアクセスできるように訓練する。ラットがそのレバーに反応するのを学習したら、多重試験方法を開始する。各セッションは6つの試験で構成され、それぞれ15分継続する。最初の10分はブラックアウトで光も反応も全くない。この10分期間により、その後の試験段階に於いて薬物吸収が可能となる。最後の5分はミルク強化期間(FR5)である。ラットがこの5分反応期間(シグナル期間)に一貫して敏速に反応するようになったら、その時点でコカインを導入する。
まず、6週間のセッションのうち3週間の開始10分前に、10mg/kgのコカインが投与される。このセッション期間中、以前突き出ていた「コカインなし」(生理食塩水)のレバーが引っ込められ、他の「コカイン関連」のレバーがミルク送達コップの反対側に突き出される。コカインがセッション前に投与されているならば、この第2のレバーへの反応(最初は単一の反応、最終的には5回の反応)ではミルクが提供される。ラットは、投与されたコカインの内受容効果を検知したならば、この第2のレバーに応答するように訓練されつつある。コカインの内受容効果は30分を超えるとは考えられないので、コカイン投与後のセッションは15分の試みが2回だけである。この時点で、ラットはその週の3日間コカインの注入を受けない。そういう日は、シグナル期間の6回の試み中、入手可能なコカインなしのレバーに反応する事によりミルク(FR5)で強化される。その週の残りの3日間、ラットにはセッションが始まる前に10 mg/kgのコカインが投与され、シグナル期間の各2回の試み中、入手可能なコカイン・レバーに反応する事により強化が行なわれる。
その後、毎日のセッションはコカインの投与なしに1乃至4回の試みで開始され、その後10mg/kgのコカインの投与が行なわれる。従って、各セッションは、食物を得るのにコカイン専用のレバーに応答する必要がある2回の試みで終了する。この段階では、「正しい」レバーだけが出ているけれども、ラットが一日のセッション内にコカインなしのレバーからコカインのレバーにスイッチする事を学んだら直ぐ、両方のレバーがセッション期間中ずっと入手可能になるという重要なステップが取られる。その後、各セッションは10分のブラックアウトで始まり、それから両レバーが5分間提供される。1日のセッションのうち最初の1乃至4回の試み中コカインは与えられず、この5分間はコカインなしのレバーに5回連続して応答すると食物が与えられる。ラットが1つのレバーからもう1つのレバーにスイッチした場合、あるいは間違ったレバーに応答したら、強化は受けられず、レバーは両方とも10秒間引っ込められる。10秒後レバーは再び提供され試験が再開される。第2、第3、第4の試みの始めに、10mg/kgのコカインが与えられ、ラットは試験用の箱に戻される。電気がつき次の2回の試み用にレバーが提供されると、ミルクを得るにはコカインのレバーに5回連続して反応する必要がある。これは、コカインの内受容効果をレバーが正しいと告げる合図として用いる事により、コカインなしのレバーからコカインレバーへ反応をスイッチするのをラットが学んでいる事を証明する事になる。
ラットが3回の連続セッションで80%正しいレバーを選択する基準を満たしたならば、コカイン用量効果曲線が得られる。試験セッションの最初の試みには生理食塩水が与えられる。それ以降の試みでは、各試みの始めの10分間のブラックアウトの最初に、0.1、0.3、1.0、3.2、そして10mg/kgのコカインが投与される。これらの試みの間、いずれのレバーに5回連続反応してもミルクが提供されるが、FRが完了する前に1つのレバーからもう1つのレバーにスイッチすれば、レバーは10秒間引っ込められる。ラットはセッションの始めはコカインなしに反応するが、次第にコカインのレバーに反応する割合が増加し、最終的には全ての反応がそのレバーに集中するようになる事が予想される。従って、レバー選択の用量反応曲線対投与されるコカインの用量は、各試験セッション中に確立される。
コカインが識別刺激として確立したならば、ラットは異なるグループに分けられ(グループ当たりn=6)、野生型ブチリルコリンエステラーゼか最適化変異体を0.35、1.76、又は11.8mg/kg摂取する。コカインの識別刺激効果は、酵素投与の30分後及びその後毎日決定され、これはコカインへの感受性が再確立されるまで続けられる。ブチリルコリンエステラーゼ投与後の最初の試験セッションに於いて、少量の用量を投与してもコカイン・レバーの選択がない場合は、より多くのコカインが投与される。10又は32mg/kgのコカインを投与してもラットがコカイン専用のレバーを選択しないならば、100mg/kgのコカインが投与される。コカインの用量反応曲線は1回のセッションで得られるので、コカインの識別刺激効力を減少させる2つのタイプのブチリルコリンエステラーゼの相対能力に関する情報がこれで提供される。インビトロでコカイン加水分解活性を増大させるブチリルコリンエステラーゼ変異体の方が、優れた効力を示す。
実施例VII コカイン毒性に関するブチリルコリンエステラーゼ変異体による治療効果のインビボでの確認
この実施例は、本発明が提供するブチリルコリンエステラーゼ変異体がコカイン毒性に及ぼす治療効果をインビボで確証する内容を記述する。
イソフラン麻酔薬(最大20分)の下、350mgのSprague Dawley(登録商標)SD(登録商標)ラットの雄(ハーラン・スプラグ・ドーレイ社(Harlan Sprague Dawley, Inc.)に一側性/両側性頸静脈カニュレー挿入が行なわれた。ラットには、試験を行う前に24時間の回復期間が与えられた。A328W/Y332M/S287G/F227A(SEQ ID NO:52)と呼ばれるブチリルコリンエステラーゼ変異体がコカイン毒性に及ぼす治療効果をインビボで確認するため、野生型BChE (10−50mg/kg)又はA328W/Y332M/S287G/F227A(0.1−0.5 mg/kg)を静脈注射し、200mlの生理食塩水で洗浄した。1分後、カニューレを注入ポンプ(ハーバード・アパレイタス(Harverd Apparatus))に接続し、コカイン(塩酸塩)を6ml/時間(2 mg/kg/分)の速度で15分、合計用量30 mg/kg注入した。軽い痙攣、強い痙攣、そして死亡を記録した。パイロット試験では、コカインの致死量は約25 mg/kgと決定された。第2シリーズの研究では、30 mg/kgのコカインの注入後、0.5 mg/kgのA328W/Y332M/S287G/F227A変異体が様々な時間に投与され、観察結果が記録された。図8はA328W/Y332M/S287G/F227A変異体(黒丸)又は野生型BChE(白丸)で前処理した効果を示しているが、それによると、A328W/Y332M/S287G/F227A変異体はコカインに対して統計的に有意な保護を示している(カイ二乗検定、p<0.001)。
図9は更にコカイン誘発毒性に対する変異体の治療効果を証明しており、A328W/Y332M/S287G/F227A変異体はコカイン注入の8分目(すなわち最初の軽い痙攣起きた後)に投与すれば完全な保護を提供し、それより以後に投与すれば保護能力が減少する事を示している。
薬物動態学の研究として、カニューレを挿入されたラットに1mg/kgの野生型BChE及びA328W/Y332M/S287G/F227A変異体を注入し、指定された時間に血漿が集められた。血漿はブチリルチオコリンを基質として使い、BChEの標準アッセイ法を基に、BChEの分析に用いられた。別の研究では、10mg/kgのコカイン静脈内ボーラス、そしてその後直ぐにA328W/Y332M/S287G/F227A変異体(0.01、0.02、又は0.5mg/kg)が投与され、指定された時間に血漿が集められた。これらサンプルの血液内のコカインレベルは、ELISA(イミュナリシス(Immunalysis)、カリフォルニア州ポモナ(Pomona, CA))で決定された。図10は、1mg/kgの静脈内ボーラス投与の結果であり、野生型BChE及びA328W/Y332M/S287G/F227A変異体の血漿レベルを示している。野生型BChEプールI及びプールIIはそれぞれ白の四角と白丸で示してあり、A328W/Y332M/S287G/F227A変異体プールI及びプールIIは黒の四角と黒丸で示してある。BChEの活性は、ブチリルチオコリンを基質として使った酵素アッセイにより決定された。
図11は、静脈ボーラスを投与されたコカインのA328W/Y332M/S287G/F227A変異体処置後の血漿レベルを示している。コカインは10mg/kg投与され(白丸)、A328W/Y332M/S287G/F227A変異体は即座に0.01mg/kg及び0.05mg/kg(それぞれ黒丸及び黒の四角)が投与された。血漿サンプルは指定された時間に集められ、ELISAによってコカイン・レベルの分析に用いられた。
図12は、A328W/Y332M/S287G/F227A変異体が軽い痙攣が起きる時間に与える影響を示している。30mg/kgのコカインの注入(2mg/kg/分で15分間)の1分前に、所定の量の変異体が投与された。図12のデータは平均値±sem. *p<0.001対コントロール、0.1mg/kg又は0.2mg/kg;分散分析(ANOVA)とその後のボンフェロニ事後試験として示されている。
この実施例は、A328W/Y332M/S287G/F227A(SEQ ID NO:52)が、コカインの前処理及び事後処理として、コカインの毒性に治療効果のある事を証明している。
本出願を通して、種々の出版物が参照されている。本発明が属している最新技術を更に詳しく記述するため、こういう出版物の開示内容は全て参照として本出願に編入されている。
本発明は開示された実施例に関連して記述されているが、具体的な実験は本発明の例証に過ぎない事は当業者には周知である。本発明の精神から逸脱する事なく種々の改良を行うことができる事は理解されるべきである。従って、本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。
図1は、ヒトのブチリルコリンエステラーゼの各部位を変更した全てのブチリルコリンエステラーゼ変異体において変更された各部位ののアミノ酸及び核酸配列を示している。 図2は、ヒトのブチリルコリンエステラーゼのアミノ酸配列(SEQ ID NO:44)を示している。 図3は、ヒトのブチリルコリンエステラーゼの核酸配列(SEQ ID NO:43)を示している。 図4は、ヒトのブチリルコリンエステラーゼ野生型(SEQ ID NO:44)、ヒトの変異体A(SEQ ID NO:45)、ヒトの変異体J(SEQ ID NO:46)、ヒトの変異体K(SEQ ID NO:47)、ウマの変異体(SEQ ID NO:48)、ネコの変異体(SEQ ID NO:49)、及びラットの変異体(SEQ ID NO:50)のアミノ酸配列を示している。 図5の(A)はHPLCアッセイ及びアイソトープ・トレーサー・アッセイ間の相関関係を示したもので、両方法により形成される安息香酸の量を表示したものであり、(B)はラインウィーバー−ブルク二重逆数プロットを使って測定したウマ・ブチリルコリンエステラーゼのコカイン加水分解活性Kである。 図6は、コカイン加水分解の活性測定に必要な野生型(黒丸)及びトランケート型(白丸)の固体相固定化を示している。 図7は、フォーカストライブラリー合成用の多重合成カラムの使用及びコドン・ベースの変異誘発を示している。 図8は、コカイン誘発の毒性に対してAME−359(黒丸)又は野生型(白丸)で前処理した場合の効果を示している。AME−359はコカインに対して統計的に有意な保護を提供した(χ二乗検定;p<0.001)。 図9は、コカイン誘発の毒性に対してAME−359で治療した場合の効果を示している。AME−359はコカインの注入から8分以内(特に最初の軽度の痙攣時)に投与した場合に完全な保護を提供したが、それ以降に投与した場合は保護能力が減少した事を示している。 図10は、1mg/kgの静脈内ボーラス投与の結果であり、野生型BChE及びAME−359の血漿レベルを示している。野生型BChEプールI及びプールIIはそれぞれ白の四角と白丸で示してあり、AME−359プールI及びプールIIは黒の四角と黒丸で示してある。BChEの活性は、ブチリルチオコリンを基質として使った酵素アッセイにより決定された。 図11は、静脈内ボーラス投与されたコカインのAME−359処置後の血漿レベルを示している。コカインは10mg/kg投与され(白丸)、AME−359は即座に0.01mg/kg及び0.05mg/kg(それぞれ黒丸及び黒の四角)が投与された。 図12は、コカイン誘発の痙攣に対してA328W/Y332M/S287G/F227Aと名付けられたブチリルコリンエステラーゼの予防効果を示している。30mg/kgのコカインの注入(2mg/kg/分で15分間)の1分前に、所定の量の変異体が投与された。データは平均値±sem.*p<0.001対コントロール、0.1mg/kg又は0.2mg/kg;分散分析(ANOVA)とその後のボンフェロニ事後試験として示されている。
【配列表】
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Claims (12)

  1. SEQ ID NO:52として示されるアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片。
  2. SEQ ID NO:52として示されるアミノ酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドをコード化する核酸。
  3. SEQ ID NO:51として示される核酸配列を含むブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドをコード化する核酸。
  4. コカイン誘発症状を治療する方法であって、請求項1に記載のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドの有効量を個人に投与する方法を含む方法。
  5. 前記コカイン・ベースの物質はコカインである、請求項4に記載の方法、。
  6. 前記個人はコカイン過剰摂取の症状を呈している、請求項5に記載の方法。
  7. 前記個人はコカイン中毒の症状を呈している、請求項5に記載の方法。
  8. コカイン・ベースのブチリルコリンエステラーゼ基質を加水分解する方法であって、コカインを代謝物へ加水分解する条件で、前記ブチリルコリンエステラーゼ基質を請求項1に記載のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドと接触させる方法を含み、前記ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドは、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を100倍又はそれ以上増大している方法。
  9. コカイン誘発症状を治療する方法であって、請求項1に記載のブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチド又はその機能的断片の有効量を個人に投与する方法を含み、前記ブチリルコリンエステラーゼ変異体ポリペプチドは、ブチリルコリンエステラーゼと比べてコカイン加水分解活性を100倍又はそれ以上増大している方法。
  10. 前記コカイン・ベースの物質はコカインである、請求項9に記載の方法。
  11. 前記個人はコカイン過剰摂取の症状を呈している、請求項10に記載の方法。
  12. 前記個人はコカイン中毒の症状を呈している、請求項10に記載の方法。
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