JP2005505231A - 表面トランスフェクションおよび発現法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、表面上にトランスフェクション複合体中に固定化され、細胞をトランスフェクトする核酸に細胞を直接塗布する段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法に関する。好ましくは、核酸をアレイ状に固定化する。本発明の別の局面では、この方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現をさらに含む。本発明のさらに別の局面では、この方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を検出する段階をさらに含む。
Description
【0001】
本出願は、2000年11月3日に出願された米国仮特許出願第60/245,892号、および2001年7月13日に出願された第60/305,552号、ならびに2001年9月21日に出願された米国特許出願第09/960,454号の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は細胞トランスフェクション法、特に表面に固定化され、後に細胞をトランスフェクトする核酸への細胞の塗布に関する。一つの態様では核酸はアレイ状に固定化される。
【0003】
発明の背景
ヒトゲノムプロジェクトおよび他のゲノムプロジェクトで得られた大量の情報は、細胞生物学を始めとする従来の多くの分野における研究を加速させており、バイオインフォマティクスやプロテオミクスなどの全く新しい分野を生み出している。ヒトゲノムプロジェクトによりもたらされるヌクレオチド情報の機能解析は、次の数十年間に解明すべき研究上の疑問を提供している。またヒトゲノムの全配列は2003年までに公開される予定である。ヒトゲノムの特性解析における、このような第一段階は、これらの遺伝子群の機能を理解するための多くの機会を提供する。
【0004】
さまざまなゲノム配列決定プロジェクトの一つの重要な拡大領域は、cDNAクローンの5’端および3’端に存在する短いヌクレオチド配列の決定であり、またゲノムDNAから得られる配列との比較用でもある発現配列タグ(EST)配列の作製である(GillおよびSanseau、(2000) Biotechnol Annu Rev 5:25〜44)。ESTデータベース内に配列が存在することは、遺伝子の一部が特定の細胞内で、またある程度の量の相対レベルでmRNAに転写されることを意味する。ESTの配列決定は、組織特異的な遺伝子発現および病理学的な遺伝子発現の調節にかなりの知見を提供している。個々の生物医学分野の多くの研究者にとっては、ESTの特性が部分的に明らかになれば、対象遺伝子群のクローニングおよび発現が大きく進む。というのは、ESTの多くが公的または民間の供給先から容易に入手できるからである。
【0005】
遺伝子発現の調節を理解するために現在開発中のいくつかの手法は、大規模なゲノムデータベースおよび利用可能なESTを利用している。このような主な新しい手法の一つが、遺伝子発現を定量することで遺伝子の転写調節を調べるDNAマイクロアレイの使用である(Bittnerら、(1999) Nat Genet. 22(3):213〜215:Graves DJ、(1999) Trends Biotechnol. 17(3):127〜34;WatsonおよびAkil、(1999) Biol Psychiatry 45:533〜543;BrownおよびBotstein、(1999) Nat Genet 21:33〜37;Dugganら、(1999) Nat Genet 21:10〜14;Young、(2000) Cell 102:9〜15)。このアプローチでは、極めて少量のDNAを、ガラス製の顕微鏡用スライドの表面に塗布する(Schenaら、(1995) Science 270:467〜470)。典型的には、DNA試料は既知遺伝子またはEST配列に対応する短いPCR増幅断片である。10 ngのDNAを含む約100ナノリットルのDNA溶液をガラス製スライドに塗布して固定化する。DNAの塗布は自動化することが可能であり、自動化装置は10,000の各DNA試料を1枚の顕微鏡用スライド上に、容易に同定可能なパターンであるアレイ状にスポットすることができる。この過程全体が自動的に行われるので、スライドの複製を数千枚作製することができる。遺伝子発現を解析する際には、さまざまな試料から得られたmRNA調製物に由来する蛍光標識cDNAとハイブリッドをスライド上で形成させる。洗浄後、ガラス製スライドとハイブリッドを形成した蛍光DNAの量が、各PCR断片に相補的なmRNAの量の指標となる。蛍光強度はアレイスキャナーで定量され、cDNAの標識に使用されたフルオロフォアの波長における蛍光シグナルが決定される。
【0006】
この手法は、血清刺激後の繊維芽細胞に含まれる8,600の各遺伝子の転写反応の特性解析に(Iyerら、1999)、またウイルス感染、電離放射線、および癌の化学療法剤が転写調節に及ぼす作用に応用されている(BrownおよびBotstein、(1999) Nat Genet 21:33〜37;Zhu Hら、(1998) Proc Natl Acad Sci U.S.A. 95(24):14470〜5;Amundson SAら、(1999) Oncogene 18(24):3666〜72;Huang Fら、(1999) Oncogene 18(23):3546〜52)。
【0007】
アレイ状のDNA配列を用いることで潜在的に作製可能な情報が大量にあるにもかかわらず、このような情報は、細胞内に既に存在する核酸配列の有無の検出に限られている。したがってDNAマイクロアレイは現在、遺伝子発現の判定に使用されている。転写変化の特性が明らかにされると、関連EST遺伝子に関する情報は、他の既知遺伝子に対する相同性の探索に制限される場合が多く;仮にこのような相同性が存在しても、配列にコードされたタンパク質が機能するか否かは不明であるが、推定することだけはできる。したがって特定遺伝子、特に既知遺伝子に対する有意な相同性を示さないタンパク質をコードする遺伝子の機能に関して何ら知見を提供しない現在の方法には限界がある。タンパク質の機能、特に特性が明らかにされていない遺伝子がコードするタンパク質の機能を決定する際の本質的な情報には、タンパク質を発現させること、および特性を解析することが必要である。マイクロアレイDNAを用いる現在の手法の別の大きな限界は、細胞調節の主な局面が、このような手法で決定できないという点である。というのは細胞機能の大半の調節は、遺伝子の転写調節によってではなく、既存のタンパク質構造の修飾によってなされるからである。
【0008】
遺伝子産物の機能に関する特性解析を目的とした高スループットのスクリーニングアッセイ法の開発が求められており;好ましくは、このような手法は、DNAマイクロアレイ法の進歩を利用するものでもある。
【0009】
発明の概要
典型的には、遺伝子機能の決定には、調査対象の遺伝子による細胞のトランスフェクションが関与する。細胞のトランスフェクションは現在、細胞成長用培地に核酸複合体を添加することで行われており;このため、細胞をトランスフェクトする核酸複合体には空間的制限がない。本発明の目的は、タンパク質の機能に関する特性解析を可能とするが、DNAマイクロアレイハイブリダイゼーションのために開発された技術の進歩も利用する方法を提供することである。
【0010】
以上の目的は、トランスフェクションの開始前および開始時に核酸が空間的に制限される新しいトランスフェクション法を提供する本発明に合致する。したがって本発明は、固定化された核酸に細胞を直接プレーティングして、固定化された核酸によって細胞をトランスフェクトする方法を提供する。核酸は、細胞が成長可能な表面上に固定化され、通常の細胞培養条件下において当初固定化された領域に制限される。本発明のいくつかの局面では、核酸の空間的配置はアレイであり;好ましい態様ではアレイはマイクロアレイである。いくつかの態様では、アレイは規則的に並べられたアレイであり;他の態様ではランダムなアレイである。本発明の好ましい態様では、マイクロアレイは容易に購入できるDNAアレイヤーによって作製される。
【0011】
一つの局面では、本発明の方法は、トランスフェクトした核酸の発現をさらに提供し;さらに別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトした核酸の発現の検出をさらに含む。本発明のこの別の局面では、トランスフェクトした核酸の作用は、例えば適切な蛍光レポーターコンストラクトをトランスフェクトされた細胞内で用いることで、また市販のスキャナーで蛍光を検出することで容易に測定される。核酸は、EST、PCR産物、ゲノムDNA、cDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、およびアンチセンスコンストラクトを含むがこれらに限定されず;このような核酸は発現ベクター中に存在する場合がある。さまざまな局面における本発明は、表面トランスフェクションおよび発現法(Surface Transfection and Expression Prodedure;STEP)と呼ばれる。
【0012】
現在STEPは、多くが真核発現ベクター中にある、数多くの既存のセットのESTに直ちに応用することができる。またSTEPは、タンパク質の機能を完全長のcDNAの利用可能性に無関係に調べることが可能なアンチセンス法を利用することができる。ESTアレイに対するディファレンシャルハイブリダイゼーションのように、さまざまな細胞調節経路に広くSTEPは応用可能であり、またゲノミクスとプロテオミクスをつなぐ重要かつ有用な手法である。
【0013】
したがって本発明は、表面上に固定化されたトランスフェクション複合体を提供する段階(複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤、ならびに細胞を含む);ならびに細胞がトランスフェクトされる条件下で、固定化されたトランスフェクション複合体中の核酸に細胞を接触させる段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法を提供する。いくつかの態様では、複合剤は、受容体に対するリガンド、DNA結合分子、および膜透過性分子からなる群より選択される。他の態様では、トランスフェクション複合体は、第一および第二の複合剤を含み(第一の複合剤は受容体に対するリガンドを含み、また第二の複合剤はDNA結合タンパク質を含む);さらに他の態様では、トランスフェクション複合体は、膜透過性分子を含む第三の複合剤をさらに含む。いくつかの好ましい態様では、リガンドは受容体に対するものであり(エンドサイトーシスで細胞に取り込まれる)、DNA結合分子は陽イオン性タンパク質であり、また膜透過性分子は陽イオン性脂質である。他の好ましい態様では、第一の複合剤はトランスフェリンを含み、また第二の複合剤はポリリシンを含む。他の好ましい態様では、第一の複合剤はウイルスタンパク質を含み、また第二の複合剤はポリリシンまたはヒストンを含み;さらにより好ましい態様では、ウイルスタンパク質はペントンタンパク質、HIVタンパク質GP120、ウマ鼻炎Aウイルスタンパク質VP1、ヒトアデノウイルスタンパク質E3、およびエプスタイン・バーウイルスタンパク質GP350からなる群より選択される。他の態様では、トランスフェクション複合体は少なくとも二種の複合剤を含む(少なくとも二種の複合剤は共有結合で相互に連結される)。いくつかの好ましい態様では、複合剤は、陽イオン性タンパク質に共有結合で連結されたリガンドを含み;他の好ましい態様では、複合剤は、共有結合でポリリシンに連結されたトランスフェリンを含む。さらに他の好ましい態様では、複合剤は、共有結合でポリリシンまたはヒストンに結合されたウイルスタンパク質を含む。さらに他の好ましい態様では、トランスフェクション複合体は第三の複合剤をさらに含む(第三の複合剤は膜透過性分子(好ましくは陽イオン性脂質)を含む)。さらに他の好ましい態様では、複合剤は、トランスフェリン、ポリリシン、およびリポフェクタミン(登録商標)を含む(トランスフェリンは共有結合でポリリシンに連結される)。他の態様では、トランスフェクション複合体は、標的分子、転写分子、核酸分解阻害剤、ならびに細胞の成長および完全性のモジュレーターからなる群より選択される少なくとも一種の別の薬剤をさらに含む。他の態様では核酸は、EST、PCR産物、ゲノムDNA、cDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、およびアンチセンスコンストラクトからなる群より選択され;このような核酸は発現ベクター中に存在する場合がある。さらに別の態様では、少なくとも一種のトランスフェクション複合体は一種の核酸を含む。別の態様では、少なくとも一種のトランスフェクション複合体は複数種の核酸を含む。
【0014】
本発明の別の局面では、固定化されたトランスフェクション複合体は、表面上に固定化されたトランスフェクション複合体のアレイを形成する(トランスフェクション複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤を含む)。いくつかの態様ではアレイはマイクロアレイである。いくつかの態様ではアレイは整然と並んでおり;他の態様ではアレイはランダムな状態である。さらに別の局面では、表面は、平面、凹型、凸型、球形、および立方形からなる群より選択される配置となる。いくつかの態様では、表面はマルチウェルの組織培養プレートであり;好ましい態様では、表面は96ウェルまたは384ウェルのプレートである。さらに別の局面では、表面はスライド、ビーズ、立方体、チップ、フィルム、および膜からなる群より選択される。本発明の別の局面では、表面はガラス、プラスチック、フィルム、および膜からなる群より選択される材料から作製される。本発明の別の局面では、表面は核酸および細胞の両方が接着する化合物で事前にコーティングされる。一つの態様では、化合物はポリリシン、フィブロネクチン、およびラミニンからなる群より選択される。
【0015】
本発明の他の態様では、細胞は真核細胞である。いくつかの態様では、細胞は哺乳類細胞である。他の態様では、細胞は培養細胞、および供給源から得られた直後の細胞からなる群より選択される。さらに他の態様では、細胞は一次培養物、細胞系列、および三次元培養細胞からなる群より選択される培養細胞である。さらに別の態様では、細胞はインビボの細胞であり;細胞は組織細胞、器官細胞、および腫瘍細胞からなる群より選択される場合がある。
【0016】
本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内で核酸を発現させる段階をさらに含む。本発明のさらに他の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を検出する段階をさらに含む。いくつかの態様では、発現を検出する段階は経時的にモニタリングされる。他の態様では、発現を検出する段階は完全な細胞で調べられる。他の態様では、核酸は少なくとも一種の蛍光レポータータンパク質をコードし、また発現は蛍光顕微鏡で検出される。さらに他の態様では、核酸は少なくとも一種の発光レポータータンパク質をコードし、発現は光学的検出装置で検出される。
【0017】
本発明は、トランスフェクション複合体を表面上に固定化する段階(複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤を含む)、および細胞がトランスフェクトされる条件下で、表面上のトランスフェクション複合体中で固定化された核酸に細胞を接触させる段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法も提供する。トランスフェクション複合体、表面上に固定化された複合体の形状、および細胞の態様については上述した。本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内で核酸を発現させる段階をさらに含み、また本発明の他の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を上述の態様で検出する段階をさらに含む。
【0018】
本発明は、核酸を少なくとも一種の複合剤と混合して核酸および複合剤を含む、少なくとも一種のトランスフェクション複合体を形成させる段階;少なくとも一種のトランスフェクション複合体を表面上に固定化して固定化された核酸を形成させる段階;および細胞がトランスフェクトされる条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階を含む細胞をトランスフェクトする方法も提供する。トランスフェクション複合体、表面上に固定化されたトランスフェクション複合体の形状、表面、および細胞の態様については上述した。本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内において核酸を発現させる段階をさらに含み、また本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を上述の態様で検出する段階をさらに含む。
【0019】
本発明はまた、トランスフェリンをポリリシンに共有結合で連結する段階;核酸および少なくとも一種の陽イオン性脂質を、共有結合で連結されたポリリシンおよびトランスフェリンと混合してトランスフェクション複合体を形成させる段階;トランスフェクション複合体を表面に固定化して、固定化された核酸を形成させる段階;ならびに固定化された核酸に細胞を接触させて、トランスフェクトされた細胞を作る段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法も提供する。本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内で核酸を発現させる段階をさらに含み;また本発明のさらに別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を検出する段階をさらに含む。トランスフェクション複合体、表面上に固定化された核酸の状態、表面、および細胞の態様については上述した。
【0020】
本発明はまた、ランダムアレイ状に表面上に固定化されたトランスフェクション複合体を提供する段階(トランスフェクション複合体は、核酸、および少なくとも一種の複合剤、ならびに細胞を含む);および細胞がトランスフェクトされる条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法も提供する。トランスフェクション複合体、表面上に固定化された核酸の状態、表面、および細胞の態様については上述した。本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内において核酸を発現させる段階をさらに含み、また本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を上述の態様で検出する段階をさらに含む。
【0021】
本発明の別の局面は、核酸を少なくとも一種の複合剤と混合して少なくとも一種のトランスフェクション複合体を形成させる段階;および、核酸を十分固定化する条件下で、少なくとも一つのトランスフェクション複合体を表面に接触させる段階を含む、核酸を表面上に固定化する方法を提供する。トランスフェクション複合体、表面上に固定化された核酸の状態、および表面の態様については上述した。本発明はまた、固定化された核酸を含む表面も提供する(核酸は上述の任意の方法で作製される少なくとも一種のトランスフェクション複合体中に固定化される)。したがって、いくつかの態様では、表面は固定化された核酸をアレイ状に含み;いくつかの好ましい態様では、アレイはマイクロアレイである。いくつかの態様では、アレイは規則的に並べられた状態であり;他の態様では、アレイはランダムな状態である。トランスフェクション複合体、および表面の態様については上述した。
【0022】
別の局面では、本発明はまた、上述の任意の方法で作製されるトランスフェクション複合体も提供する。本発明はまた、上述の任意の一つまたは複数のトランスフェクション複合体を含む組成物も提供する。本発明は上述のいずれか一種または複数のトランスフェクション複合体を含む、1個または複数の容器を含むキットをさらに提供する。
【0023】
本発明はまた、本発明のトランスフェクション複合体が任意の複数の応用に用いられる別の局面も提供する。このような複数の局面については以下のパラグラフで説明する。このような別の局面では、トランスフェクション複合体、複合剤、核酸、トランスフェクション複合体の表面への固定化、表面、および細胞の態様は一般的に上述した通りである。
【0024】
別の局面では、発明は以下の段階を含むタンパク質−タンパク質結合対を検出する方法を提供する:第一および第二の核酸、ならびに少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体(第一の核酸は第一のタンパク質をコードし、また第二の核酸は第二のタンパク質をコードし、また核酸は少なくとも一種の発現ベクター中に存在する)、および細胞を提供する段階;細胞が第一および第二の核酸で同時トランスフェクトされて、第一および第二の核酸が発現される条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階;ならびにタンパク質−タンパク質複合体の存在を検出する段階(少なくとも一種のタンパク質は少なくとも一種の核酸にコードされたタンパク質である)。
【0025】
さらに別の局面では、本発明は以下の段階を含む受容体タンパク質に対するリガンドを同定する方法を提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体は第一および第二の核酸ならびに第一および第二の複合剤を含み、第一の核酸が受容体をコードし、第二の核酸がタンパク質をコードし、第一および第二の核酸が少なくとも一種の発現ベクター中に存在し、また第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含む)、および細胞を提供する段階;および、細胞を核酸とともに同時トランスフェクトして、核酸を発現させる条件下で複合体に細胞を接触させる段階;ならびにリガンド−受容体結合対の存在を検出する段階(受容体タンパク質は第一の核酸にコードされる)。
【0026】
別の局面では、本発明は以下の段階を含むDNA結合タンパク質を同定する方法を提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体は第一および第二の核酸ならびに少なくとも一種の複合剤を含み、第一の核酸がタンパク質をコードして発現ベクター中に存在し、また第二の核酸は発現ベクター中に存在しない)、および細胞を提供する段階;細胞を核酸と同時トランスフェクトして核酸を発現させる条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階;ならびに第二の核酸と、第二の核酸に結合するタンパク質間の結合の存在を検出する段階。
【0027】
別の局面では、本発明は以下の段階を含む分析対象物の作用を解析する方法を提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤を含み、核酸はタンパク質をコードし、また核酸は発現ベクター中に存在する)、および細胞を提供する段階;細胞が核酸でトランスフェクトされて核酸が発現される条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階;分析対象物が、トランスフェクトした核酸にコードされたタンパク質と相互作用する条件下で、トランスフェクトされた細胞に分析対象物を添加する段階;ならびに分析対象物がタンパク質に及ぼす作用を検出する段階。
【0028】
さらに別の局面では、本発明は以下の段階を含む翻訳後修飾されたタンパク質を同定する方法を提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(トランスフェクション複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤を含み、核酸はタンパク質をコードし、また核酸は発現ベクター中に存在する)、および細胞を提供する段階;細胞が核酸でトランスフェクトされて核酸が発現される条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階;ならびにタンパク質の翻訳後修飾を検出する段階。
【0029】
本発明はまた以下の段階を含む核酸を表面に固定化する方法も提供する:核酸を少なくとも二種の複合剤と混合して少なくとも一種のトランスフェクション複合体を形成させる段階(複合剤はポリ多糖、脂質、およびデンドリマーからなる群より選択される);ならびに核酸を十分固定化する条件下で、少なくとも一種のトランスフェクション複合体を表面に接触させる段階。このようなトランスフェクション複合体は次に、上述の任意の方法による細胞のトランスフェクションに使用される場合があり;一群のトランスフェクション複合体は、上述のトランスフェクション複合体のアレイを形成するために使用される場合もある。本発明は核酸、ならびにポリ多糖、脂質、およびデンドリマーからなる群より選択される複合剤を含むトランスフェクション複合体;ならびにこのように固定化されたトランスフェクション複合体を含む表面をさらに提供する。
【0030】
本発明はまた以下の段階を含む細胞をトランスフェクトする方法も提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体は核酸ならびに第一および第二の複合剤を含み、第一の複合剤は受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤はDNA結合分子を含む)、および細胞を提供する段階;ならびに細胞が能動輸送過程でトランスフェクトされる条件下で、表面上に固定化されたトランスフェクション複合体に細胞を接触させる段階。
【0031】
定義
本発明の理解を深めるために、本明細書で用いられるいくつかの用語および表現を以下に挙げる。
【0032】
「タンパク質キナーゼ」という用語は、ヌクレオチド三リン酸に由来するリン酸基の、タンパク質中のアミノ酸側鎖への付加を触媒するタンパク質を意味する。キナーゼは、既知の最大の酵素スーパーファミリーを構成し、また標的タンパク質はさまざまである。キナーゼは、チロシン残基をリン酸化するタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)、およびセリン残基および/またはスレオニン残基をリン酸化するタンパク質セリン/スレオニンキナーゼ(STK)に分類することができる。一部のキナーゼは、セリン/スレオニン残基およびチロシン残基の両方に対して二重の特異性をもつ。ほぼすべてのキナーゼは、保存された250〜300アミノ酸からなる触媒ドメインを含む。このドメインはさらに11のサブドメインに分けられる。N末端のサブドメインI〜IVは、ATPドナー分子に結合して配向する二か所の突出部をもつ構造に折りたたまれ、またサブドメインVは二つの突出部全体に広がる。C末端のサブドメインVI〜XIはタンパク質基質に結合し、γ−リン酸をATPからセリン残基、スレオニン残基、またはチロシン残基のヒドロキシル基へ移す。11の各サブドメインは特異的な触媒残基、すなわちサブドメインに特徴的なアミノ酸モチーフを含む。例えばサブドメインIは、8−アミノ酸のグリシンに富むATP結合コンセンサスモチーフを含み、サブドメインIIは、触媒活性を最大とするために必要な重要なリシン残基を含み、またサブドメインVI〜IXは高度に保存された触媒中心を含む。STKおよびPTKは、ヒドロキシアミノ酸に対する特異性をもたらす場合があるサブドメインVIおよびVIII中に明瞭な配列モチーフも含む。一部のSTKおよびPTKは、両のファミリーの構造特性を有する。またキナーゼは、キナーゼドメインに隣接するか、またはキナーゼドメイン中にある付加的なアミノ酸配列(一般的には5〜100塩基)によって分類される場合もある。
【0033】
非貫通型PTKは、形質膜受容体の細胞質ドメインとシグナル伝達複合体を形成する。非貫通型PTKを介してシグナルを伝達する受容体には、サイトカイン、ホルモン、および抗原特異的なリンパ球の受容体などがある。PTKの多くは、PTKの活性化が正常な細胞制御の支配を受けなくなった癌細胞内の癌遺伝子産物として当初同定された。既知の癌遺伝子の約3分の1が実際にPTKをコードしている。また、細胞の形質転換(発癌)はチロシンリン酸化活性の上昇を伴う場合が多い(例えばCarbonneau、H.およびTonks、Annu.Rev.Cell Biol. 8:463〜93 (1992)を参照)。したがってPTK活性の調節は、ある種の癌を制御する重要な方法となる場合がある。
【0034】
「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合で連結されたアミノ酸を含む化合物を意味し、互換的に使用される。
【0035】
本明細書で用いられる「アミノ酸配列」は、タンパク質分子のアミノ酸配列を意味する。「アミノ酸配列」は、タンパク質をコードする核酸配列から推定することができる。しかし「ポリペプチド」または「タンパク質」などという用語は、アミノ酸配列を推定アミノ酸配列に制限することを意味せず、アミノ酸の欠失、付加、およびグリコシル化および脂質部分の付加などの修飾などの、推定アミノ酸配列の翻訳後修飾を含む。
【0036】
(「任意のタンパク質の一部分」のように)タンパク質に関して用いられる「一部分」という用語は、タンパク質の断片を意味する。タンパク質の断片の大きさは、4アミノ酸残基から、全アミノ酸配列から1アミノ酸を引いたものまでの範囲である場合がある。
【0037】
ポリペプチドに関して用いられる「キメラ」という用語は、同時にクローニングされていて、また翻訳後に一つのポリペプチド配列として作用する、さまざまな遺伝子から得られる2個またはそれ以上のコード配列の発現産物を意味する。キメラポリペプチドは「ハイブリッド」ポリペプチドとも呼ばれる。コード配列は、同じ生物種または異なる生物種から得られる配列を含む。
【0038】
ポリペプチドに関して用いられる「融合」という用語は、外因性タンパク質断片(融合パートナー)に連結された対象タンパク質を含むキメラタンパク質を意味する。融合パートナーは、対象ポリペプチドの可溶性促進を含む、さまざまな機能を果たす場合があるほか、宿主細胞もしくは上清、またはこの両方に由来する組換え融合ポリペプチドの精製を可能とする「アフィニティタグ」となる。望ましいならば融合パートナーは、精製後または精製中に対象タンパク質から除去することができる。
【0039】
ポリペプチドに関して用いられる「相同物」または「相同である」という用語は、二つのポリペプチド間における高度の配列同一性、もしくは三次元構造間における高度の類似性、または活性部位および作用機序間における高度の類似性を意味する。好ましい態様では、相同物は標準配列に対して60%を上回る配列同一性、またより好ましくは75%を上回る配列同一性、またさらにより好ましくは90%を上回る配列同一性を有する。
【0040】
ポリペプチドに対して用いられる「実質的同一性」という用語は、二つのペプチド配列が、デフォルトのギャップウェイトを用いたプログラムGAPまたはBESTFITなどで最適にアライメントさせたときに、少なくとも80%の配列同一性を有し、好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有し、より好ましくは少なくとも95パーセント、またはそれ以上の配列同一性(例えば99パーセントの配列同一性)を有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基の位置は保存的なアミノ酸置換によって異なる。
【0041】
ポリペプチドに関して用いられる「バリアント」および「変異体」という用語は、1個または複数のアミノ酸が別のアミノ酸(通常は関連するポリペプチド)と異なるアミノ酸配列を意味する。バリアントは「保存的」変化を有する場合がある。この場合、置換されたアミノ酸は類似の構造的特性または化学的特性を有する。保存的なアミノ酸置換の一つのタイプは、類似の側鎖を有する残基の可換性を意味する。例えば脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり;脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループはセリンおよびスレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループはアスパラギンおよびグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループはフェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループはリシン、アルギニン、およびヒスチジンであり;また硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループはシステインおよびメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換のグループは、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、およびアスパラギン−グルタミンである。さらに希には、バリアントは「非保存的」変化(例えばグリシンとトリプトファンの置換)を有する場合がある。類似のわずかな差違はアミノ酸の欠失または挿入(言い替えると付加)、またはこれらの両方を含む場合もある。どのアミノ酸残基が、またいくつのアミノ酸残基が、生物学的活性を失うことなく置換、挿入、または欠失が起こる場合があるのかを判定する際の手引きは、当技術分野で周知のコンピュータプログラム(例えばDNAStarソフトウェア)を用いて明らかになる場合がある。バリアントは、機能アッセイ法で検討することができる。好ましいバリアントは10%未満の変化、また好ましくは5%未満の変化、またさらにより好ましくは2%未満の変化(置換や欠失など)を有する。
【0042】
「遺伝子」という用語は、RNA、またはポリペプチド、もしくはその前駆体(例えばプロインスリン)の産生に必要なコード配列を含む核酸(例えばDNAもしくはRNA)配列を意味する。機能性ポリペプチドは、完全長のコード配列、またはポリペプチドの所望の活性もしくは機能特性(例えば酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達など)が保持されている限りは、コード配列の任意の一部分にコードされる場合がある。遺伝子に関して用いられる「一部分」という用語は遺伝子の断片を意味する。断片の大きさは、数ヌクレオチドから、遺伝子配列全体から1ヌクレオチド引いたものまでの範囲にある場合がある。したがって「少なくとも遺伝子の一部分を含むヌクレオチド」という用語は、遺伝子の断片または遺伝子全体を含む場合がある。
【0043】
「遺伝子」という用語は構造遺伝子のコード領域も含み、5’端および3’端において、遺伝子が完全長のmRNAの長さ対応するように、いずれかの末端から約1 kbの距離をおいて、コード領域に隣接して位置する配列を含む。コード領域の5’側に位置し、またmRNA上に存在する配列は5’非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3’側すなわち下流に位置し、またmRNA上に存在する配列は3’非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語は、cDNA状の遺伝子およびゲノム状の遺伝子の両方を含む。ゲノム状の遺伝子、または遺伝子のクローンは「イントロン」または「介在領域」もしくは「介在配列」と呼ばれる非コード配列で分断されたコード領域を含む。イントロンは核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり;イントロンはエンハンサーなどの調節領域を含む場合がある。イントロンは核転写物すなわち一次転写物から除去すなわち「スプライスアウト(splice out)」される;したがってイントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物上には存在しない。mRNAは翻訳中に機能して、新生ポリペプチド中の配列、またはアミノ酸の順序を特定する。
【0044】
イントロンを含むことに加えて、ゲノム状遺伝子は、RNA転写物上に存在する配列の5’端および3’端の両方に位置する配列を含む場合もある。このような配列は「隣接」配列もしくは領域と呼ばれる(このような隣接配列はmRNA転写物上に存在する非翻訳配列に対して5’側または3’側に位置する)。5’隣接領域は、遺伝子の転写を制御したり影響を及ぼしたりするプロモーターおよびエンハンサーなどの調節配列を含む場合がある。3’隣接領域は転写の終了、転写後の切断、およびポリアデニル化を誘導する配列を含む場合がある。
【0045】
「異種遺伝子」という用語は、天然の環境では存在しない(すなわち人工的な変化を受ける)因子をコードする遺伝子を意味する。例えば異種遺伝子は、別の種に導入された、ある一つの種に由来する遺伝子を含む。異種遺伝子はまた、いくつかの方法で変化を受けた(例えば変異が加えられた、複数のコピーが添加された、非天然のプロモーター配列もしくはエンハンサー配列に連結された)生物体にとって天然の遺伝子も含む。異種遺伝子は、cDNA状の植物遺伝子を含む植物遺伝子配列を含む場合があり;このようなcDNA配列は、センス方向(mRNAを生じる)またはアンチセンス方向(mRNA転写物に相補的なアンチセンスRNA転写物を生じる)のいずれかの方向で発現される場合がある。異種遺伝子は、異種遺伝子配列が典型的には、天然の状態では異種遺伝子にコードされるタンパク質の遺伝子、または染色体中の植物遺伝子配列と結合した状態ではみられないプロモーター、または天然には認められない染色体の一部分(例えば遺伝子が通常発現されない座位で発現される遺伝子)と結合するプロモーターなどの調節領域を含むヌクレオチド配列に連結されるという点で、内因性の植物遺伝子と区別される。
【0046】
「ポリヌクレオチド」という用語は、2個またはそれ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、好ましくは3個を越える、また通常は10個を越えるデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを意味する。正確な大きさは諸因子によって変わり、オリゴヌクレオチドの最終的な機能または用途によって変わる。ポリヌクレオチドは化学合成、DNAの複製、逆転写、またはこれらの組み合わせを含む任意の様式で生じる場合がある。「オリゴヌクレオチド」という用語は、通常長さが30ヌクレオチド未満の長さの短い一本鎖のポリヌクレオチド鎖を一般に意味するが、「ポリヌクレオチド」という用語と互換的に使用される場合もある。
【0047】
「核酸」という用語は、上述したヌクレオチドのポリマーすなわちポリヌクレオチドを意味する。この用語は一つの分子、または分子集団を指して使用される。核酸は一本鎖状態または二本鎖状態の場合があり、上述したようなコード領域、およびさまざまな制御領域の領域を含む場合がある。
【0048】
「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」、もしくは「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」、または特定のポリペプチド「をコードする核酸配列」という用語は、遺伝子のコード領域、または言い替えると遺伝子産物をコードする核酸配列を含む核酸配列を意味する。コード領域はcDNA、ゲノムDNA、またはRNAのいずれかの状態で存在する場合がある。DNAの状態で存在する場合、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、または核酸は一本鎖(すなわちセンス鎖)または二本鎖の場合がある。エンハンサー/プロモーター、スプライス部位、ポリアデニル化シグナルなどの適切な制御領域は、転写の適切な開始、および/または一次RNA転写物の正確なプロセシングを可能とする必要がある場合、遺伝子のコード領域の近傍に位置する場合がある。または、本発明の発現ベクターに使用されるコード領域は、内因性のエンハンサー/プロモーター、スプライス部位、介在配列、ポリアデニル化シグナルなど、または内因性および外因性の制御領域の両方の組み合わせを含む場合がある。
【0049】
核酸分子に関して用いられる「組換え体」という用語は、分子生物学的手法の手段によってともに連結された核酸のセグメントを含む核酸分子を意味する。タンパク質またはポリペプチドに関して用いられる「組換え体」という用語は、組換え体核酸分子を用いて発現されるタンパク質分子を意味する。
【0050】
「相補的である」および「相補性」という用語は、塩基対規則によって関連づけられるポリヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)を意味する。例えば配列「A−G−T」は配列「T−C−A」に相補的である。相補性は、核酸塩基の一部が塩基対規則にしたがって一致する場合に「部分的」である場合がある。または核酸間には「完全な」もしくは「全体的な」相補性がある場合がある。核酸鎖間における相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に有意に影響する。これは核酸間の結合に依存する増幅反応、ならびに検出法に特に重要である。
【0051】
核酸に関して用いられる「相同性」という用語は相補性の程度を意味する。相同性には部分的な相同性、または完全な相同性(すなわち同一性)の場合がある。「配列同一性」は、二つまたはそれ以上の核酸、またはタンパク質間における関連性の尺度を意味し、また総比較長に対するパーセンテージとして与えられる。同一性の計算では、同一な、また個々の、より長い配列中の同じ相対位置にあるヌクレオチド残基またはアミノ酸残基を考慮に入れる。同一性の計算は「GAP」(Genetics Computer Group、Madison、Wis.)、および「ALIGN」(DNAStar、Madison、Wis.)などのコンピュータプログラムに含まれるアルゴリズムによって実施することができる。部分的に相補的な配列は、完全に相補的な配列が標的配列とハイブリッドを形成することを少なくとも部分的に阻害する(または競合する)配列であり、「実質的に相同である」という機能的な用語で表現される。標的配列に対する完全に相補的な配列のハイブリダイゼーションの阻害は、低ストリンジェンシーの条件下でハイブリダイゼーションアッセイ法(サザンブロットまたはノーザンブロットや溶液ハイブリダイゼーションなど)で調べることができる。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェンシーの条件下で、標的に完全に相補的な配列の結合(すなわちハイブリダイゼーション)を競合し、これを阻害する。低ストリンジェンシーの条件が非特異的な結合が可能であるような条件であるとは言えない。すなわち低ストリンジェンシーの条件は、二つの配列の相互の結合が特異的(すなわち選択的)な相互作用であることを必要とする。非特異的な結合が存在しないことは、部分的な程度の相補性さえ欠く(例えば約30%未満の同一性)第二の標的を用いて検討することが可能であり;非特異的な結合の非存在下では、プローブは第二の非相補的標的とハイブリッドを形成しない。
【0052】
以下に挙げる用語は、二つまたはそれ以上のポリヌクレオチド間の配列の関連性を記述する際に用いられる:「標準配列」、「配列同一性」、「配列同一性のパーセンテージ」、および「実質的な同一性」。「標準配列」は、配列比較の基礎として用いられる特定の配列であり;標準配列は、より長い配列の一部、例えば配列表に記載された完全長のcDNA配列のセグメントの場合があるほか、完全な遺伝子配列を含む場合がある。一般に標準配列は長さが少なくとも20ヌクレオチド、頻繁には長さが少なくとも25ヌクレオチド、また多くは長さが少なくとも50ヌクレオチドである。二つのポリヌクレオチドはそれぞれ、(1)二つのポリヌクレオチド間で類似した配列(すなわち完全なポリヌクレオチド配列の一部分)を含み、また(2)二つのポリヌクレオチド間で異なる配列をさらに含む場合があるので、二つ(またはこれ以上)のポリヌクレオチド間の配列比較は典型的には、二つのポリヌクレオチドの配列を「比較ウィンドウ」に対して比較して、配列類似性の局所領域を同定および比較することで行われる。本明細書で用いられる「比較ウィンドウ」は、少なくとも20個の連続ヌクレオチドの位置の概念的なセグメントを意味する(ポリヌクレオチド配列は少なくとも20個の連続ヌクレオチドの標準配列と比較される場合があり、また比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド配列の一部分は、二つの配列の最適なアライメントのために標準配列(付加もしくは欠失を含まない)と比較したときに20%またはそれ未満の付加または欠失(すなわちギャップ)を含む場合がある)。比較ウィンドウをアライメントする配列の最適なアラインメントは、スミス(Smith)およびウォーターマン(Waterman)(SmithおよびWaterman、Adv.Appl.Math. 2:482 (1981))の局所相同性アルゴリズム、ニードルマン(Needleman)およびヴンシュ(Wunsch)(NeedlemanおよびWunsch、J.Mol.Biol. 48:443 (1970))の相同性アラインメントアルゴリズム、ピアソン(Pearson)およびリップマン(Lipman)(PearsonおよびLipman、Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.) 85:2444 (1988))の類似性検索法、以上のアルゴリズムのコンピュータを用いた実行(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0、Genetics Computer Group、575 Science Dr.、Madison、Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、または推定で実施することが可能であり、またさまざまな方法で作製される最高のアライメント(すなわち比較ウィンドウに対して最高のパーセンテージの相同性を得る)が選択される。「配列同一性」という用語は、二つのポリヌクレオチド配列が比較ウィンドウに対して同一であること(すなわち個々のヌクレオチドベースで同一であること)を意味する。「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウに対して二つの最適にアライメントされた配列を比較して、両配列に存在する同一の核酸塩基(例えばA、T、C、G、U、またはI)の位置の数を決定して一致した位置の数を得て、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の全位置数(すなわちウィンドウのサイズ)で割って、またその結果を100倍して配列同一性のパーセンテージを得ることで計算される。本明細書で用いられる「実質的な同一性」という用語はポリヌクレオチド配列の特徴を意味する(ポリヌクレオチドは少なくとも20ヌクレオチドの位置を有する比較ウィンドウの標準配列に対して、高頻度では少なくとも20〜25ヌクレオチドを有するウィンドウの標準配列に対して比較したときに少なくとも85%の配列同一性を有し、好ましくは少なくとも90〜95%の配列同一性を有し、より一般的には少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む(配列同一性のパーセンテージは、標準配列を比較ウィンドウに対して標準配列全体の20%またはそれ未満の欠失もしくは付加を含む場合があるポリヌクレオチド配列と比較することで計算される))。標準配列は、より長い配列の一部、例えば本発明で請求される組成物の完全長配列のセグメントの場合がある。
【0053】
cDNAクローンまたはゲノムクローンなどの二本鎖核酸配列に関して用いられる「実質的に相同である」という用語は、上述した低〜高ストリンジェンシーの条件下で、二本鎖核酸配列のいずれか、または両方の鎖とハイブリッドを形成可能な任意のプローブを意味する。
【0054】
一本鎖核酸配列に関して用いられる「実質的に相同である」という用語は、上述の低〜高ストリンジェンシーの条件下で、一本鎖核酸配列とハイブリッドを形成可能な(すなわち一本鎖核酸配列の相補物である)任意のプローブを意味する。
【0055】
「ハイブリダイゼーション」という用語は相補的な核酸の対合を意味する。ハイブリダイゼーション、およびハイブリダイゼーションの強度(すなわち核酸間の結合の強度)は、核酸間の相補的な程度、関与する条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのTm、および核酸間のG:C比などの諸因子の影響を受ける。構造内に相補的核酸の対合を含む一つの分子は「自己ハイブリッドを形成している」と表現される。
【0056】
「Tm」という用語は核酸の「溶解温度」を意味する。溶解温度は、二本鎖核酸分子の集団の半分が解離して一本鎖になる温度である。核酸のTmを計算するための方程式は当技術分野で周知である。標準的な参考文献に記載されているように、Tm値の単純な推定値は以下の方程式で計算することができる:Tm=81.5+0.41(%G+C)(この式で核酸は1 M NaClの水溶液中に存在する)(例えばAndersonおよびYoung、「核酸のハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization)」(1985)中の定量的フィルターハイブリダイゼーション(Quantitative Filter Hybridization)を参照)。他の参考文献には、Tmの計算に構造および配列の特徴を考慮した、さらに詳細な計算法が記載されている。
【0057】
本明細書で用いられる「ストリンジェンシー」という用語は、核酸のハイブリダイゼーションが達成される温度、イオン強度、および他の化合物(有機溶媒など)の存在の条件を意味する。「高ストリンジェンシー」条件では、核酸塩基の対合は、高い出現頻度の相補的塩基配列を有する核酸断片間でのみ起きる。したがって「低」ストリンジェンシーの条件が、遺伝的に多様な生物に由来する核酸では必要とされることが多い(相補的配列の出現頻度が通常低いため)。
【0058】
核酸のハイブリダイゼーションに関して用いられる「低ストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブを使用する場合、5×SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2・H2O、および1.85 g/l EDTA、NaOHでpH 7.4に調整)、0.1% SDS、5×デンハルト試薬[50×デンハルトは500 mlあたり5 gのFicoll(Type 400、Pharmacia)、5 gのBSA(Fraction V;Sigma)を含む]、および100 μg/ml 変性サケ***DNAを含む溶液中における42℃における結合またはハイブリダイゼーションと、これに続く、5×SSPE、0.1% SDSを含む溶液中における42℃における洗浄に相当する条件を含む。
【0059】
核酸のハイブリダイゼーションに関して用いられる「中ストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブを使用する場合、5×SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85 g/l EDTA、NaOHでpH 7.4に調整)、0.5% SDS、5×デンハルト試薬、および100 μg/ml 変性サケ***DNAを含む溶液中における42℃における結合またはハイブリダイゼーションと、これに続く、1.0×SSPE、1.0% SDSを含む溶液中における42℃における洗浄に相当する条件を含む。
【0060】
核酸のハイブリダイゼーションに関して用いられる「高ストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブを使用する場合、5×SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85 g/l EDTA、NaOHでpH 7.4に調整)、0.5% SDS、5×デンハルト試薬、および100 μg/ml 変性サケ***DNAを含む溶液中における42℃における結合またはハイブリダイゼーションと、これに続く、0.1×SSPE、1.0% SDSを含む溶液中における42℃における洗浄に相当する条件を含む。
【0061】
多くの同等の条件が、低ストリンジェンシー条件を含むように使用される場合があることはよく知られており;プローブの長さおよび性質(DNA、RNA、塩基組成)、および標的の性質(DNA、RNA、塩基組成、溶液中に存在するか固定化されているか、など)、ならびに塩および他の化合物の濃度(例えばホルムアミド、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコールの有無)などの因子が考慮され、またハイブリダイゼーション溶液は、上述条件とは異なるが同等の低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件となるように変動する場合がある。また当技術分野では、高ストリンジェンシーの条件(例えばハイブリダイゼーションを起こす温度が高く、および/または洗浄段階の回数が多く、またハイブリダイゼーション溶液中にホルムアミドが使用されるといった条件)においてハイブリダイゼーションを促進する条件が知られている。
【0062】
「増幅」は、テンプレートの特異性が関与する核酸複製の特別の場合である。これは非特異的なテンプレートの複製(すなわちテンプレートに依存するが特定のテンプレートには依存しない複製)と対照をなす。テンプレートの特異性は、この場合、複製の忠実性(すなわち適切なポリヌクレオチド配列が合成されること)、およびヌクレオチド(リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチド)の特異性とは区別される。テンプレートの特異性は「標的」特異性に関して使われることが多い。標的配列は、他の核酸から選び出されるように探索されるという意味における「標的」である。増幅法は、このような選び出しのために主に設計されている。
【0063】
テンプレートの特異性は、酵素を選択することで多くの増幅法で達成される。増幅用酵素は、使用条件下で核酸の異種混合物中の核酸の特定の配列のみを処理する酵素である。例えばQ_レプリカーゼの場合、MDV−1 RNAが同レプリカーゼに対する特定のテンプレートである(Kacianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、69:3038 (1972))。他の核酸は、この増幅用酵素では複製されない。同様にT7 RNAポリメラーゼの場合、同増幅用酵素は、それ自身のプロモーターに対してストリンジェントな特異性を有する(Chamberlinら、Nature、228:227 (1970))。T4 DNAリガーゼの場合、同酵素は、二つのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質と、テンプレート間に連結部位においてミスマッチが存在する場合に連結しない(WuおよびWallace、Genomics、4:560 (1989))。またTaqおよびPfuポリメラーゼは高温で機能可能なので、結合した配列、したがってプライマーで特定される配列に高い特異性を示すことがわかっており;高温は、標的配列とプライマーのハイブリダイゼーションに適しているが、非標的配列とのハイブリダイゼーションには適していない熱力学的条件となる(H.A.Erlich編、「PCR技術(PCR Technology)」、Stockton Press (1989))。
【0064】
「増幅可能な核酸」という用語は、任意の増幅法で増幅可能な核酸を意味する。この用語は「増幅可能な核酸」が通常「試料テンプレート」を含むことを意図する。
【0065】
「試料テンプレート」という用語は「標的」の存在に関して分析対象となる試料に由来する核酸を意味する(後述)。これとは対照的に「バックグラウンドテンプレート」は、試料中に存在する場合もあれば存在しない場合もある、試料テンプレート以外の核酸に関して用いられる。バックグラウンドテンプレートは意図せず存在する場合が極めて多い。これはキャリーオーバーの結果である場合であったり、試料中から精製されて除かれることが求められる核酸混入物が存在するためであったりする。例えば、検出される核酸以外の生物由来の核酸がバックグラウンドとして試験試料中に存在する場合がある。
【0066】
「プライマー」という用語は、精製された制限酵素切断物中に天然に存在するオリゴヌクレオチド、または合成的に作製されるオリゴヌクレオチドを意味し、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件(すなわちヌクレオチドおよび誘導性薬剤(DNAポリメラーゼなど)が存在すること、ならびに適切な温度およびpHであること)で配置された場合に合成開始点として作用することができる。プライマーは好ましくは、増幅効率を最大とするために一本鎖であるが二本鎖の場合もある。二本鎖の場合、最初にプライマーを処理して鎖を分離してから伸長産物の調製に使用する。好ましくはプライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、誘導性薬剤の存在下で伸長産物の合成を開始するために十分長くてはならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマーの供給源、および使用される方法などの諸因子によって変わる。
【0067】
「プローブ」という用語は、精製された制限酵素切断物中に天然に存在するオリゴヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)、または合成的に、組換え的に、PCR増幅により作製されるオリゴヌクレオチドを意味し、別の対象オリゴヌクレオチドとハイブリッドを形成することができる。プローブは一本鎖または二本鎖の場合がある。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定、および単離に有用である。本発明で使用される任意のプローブが任意の「レポーター分子」で標識されて、酵素系(例えばELISA、ならびに酵素ベースの組織化学的アッセイ法)、蛍光系、放射系、および発光系を含むがこれらに限定されない任意の検出系で検出可能であることが対象となる。本発明が、任意の特定の検出系または標識に制限されることは意図されない。
【0068】
ポリメラーゼ連鎖反応に関して用いられる「標的」という用語は、ポリメラーゼ連鎖反応に使用されるプライマーが結合する核酸領域を意味する。したがって「標的」は他の核酸配列から選び出されることが求められる。「セグメント」は標的配列中の核酸領域と定義される。
【0069】
「ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)」という用語は、ゲノムDNA混合物中の標的配列のセグメントの濃度をクローニングまたは精製を行うことなく上昇させる方法について説明したマリス(K.B.Mullis)による米国特許第4,683,195号、第4,683,202号、および第4,965,188号の方法を意味する。標的配列を増幅するPCR過程には、大過剰の二種のオリゴヌクレオチドプライマーを、所望の標的配列を含むDNA混合物中に導入する段階と、これに続くDNAポリメラーゼの存在下における一連の正確な熱サイクルが含まれる。二種のプライマーは、二本鎖状の標的配列の個々の鎖に対して相補的である。増幅を達成するためには、混合物を変性させた後に、プライマーを標的分子中の相補的配列にアニーリングさせる。アニーリング後に、新しい相補鎖の対を形成させるようにポリメラーゼでプライマーを伸長させる。変性、プライマーのアニーリング、およびポリメラーゼによる伸長の各段階を数回繰りかえすこと(すなわち変性、アニーリング、および伸長が一つの「サイクル」となり;数多くの「サイクル」を実施することができる)で、所望の標的配列の高濃度の増幅セグメントを得ることができる。所望の標的配列の増幅セグメントの長さは、相互のプライマーの相対位置で決定されるので、この長さは制御可能なパラメータの一つである。この過程には反復性の局面があることから、上記の方法は「ポリメラーゼ連鎖反応」と呼ばれる(以降「PCR」と記載)。標的配列の所望の増幅セグメントは、混合物中で(濃度に関して)主要な配列となるので「PCRによって増幅された」と表現される。
【0070】
PCRでは、ゲノムDNA中の1コピーの特定の標的配列を、複数の異なる方法(例えば標識プローブを用いたハイブリダイゼーション;ビオチン化プライマーの取り込みと、これに続くアビジン−酵素コンジュゲートによる検出;32P−標識デオキシヌクレオチド三リン酸(dCTPまたはdATPなど)の増幅セグメント中への取り込み)によって検出可能なレベルまで増幅することが可能である。ゲノムDNAに加えて、任意のオリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチド配列が、適切な一連のプライマー分子を用いることで増幅可能である。特にPCR過程そのもので作製される増幅セグメントは、それ自体が後続のPCR増幅のための効率のよいテンプレートとなる。
【0071】
「PCR産物」、「PCR断片」、および「増幅産物」という用語は、2回またはそれ以上のPCRの変性、アニーリング、および伸長の各段階のサイクルの完了後に結果として得られる化合物の混合物を意味する。これらの用語は、一つまたは複数の標的配列の一つまたは複数のセグメントが増幅される場合を含む。
【0072】
「増幅用試薬」という用語は、プライマーを除く、核酸テンプレートの増幅に必要な試薬(デオキシリボヌクレオチド三リン酸や緩衝液など)、および増幅用酵素を意味する。典型的には、他の反応成分と増幅用試薬が、反応容器(試験管やマイクロウェルなど)中に入れられ含まれている。
【0073】
「逆転写酵素PCR」または「RT−PCR」という用語は、出発材料がmRNAである場合の、ある種のPCRを意味する。出発材料のmRNAは逆転写酵素による酵素的処理によって相補的DNAすなわち「cDNA」に変換される。このcDNAが次に「PCR」反応の「テンプレート」として使用される。
【0074】
「遺伝子発現」という用語は、遺伝子にコードされた遺伝情報がRNA(例えばmRNA、rRNA、tRNA、またはsnRNA)に遺伝子の「転写」を介して(すなわちRNAポリメラーゼによる酵素的作用を介して)変換される過程、またmRNAの「翻訳」を介してタンパク質に変換される過程を意味する。遺伝子発現は、この過程の多くの段階で調節することができる。「上方制御」または「活性化」は、遺伝子発現産物(RNAまたはタンパク質)の産生を高める調節を意味し、一方「下方制御」または「抑制」は、産生を抑える調節を意味する。上方制御または下方制御に関与する分子(例えば転写因子)は、それぞれ「活性化因子」および「抑制因子」と呼ばれることが多い。
【0075】
「動作可能な組み合わせで」、「動作可能な順序で」、および「動作可能に連結された」という用語は、任意の遺伝子の転写、および/または所望のタンパク質分子の合成を誘導する能力をもつ核酸分子が作製されるように核酸配列が連結されることを意味する。この用語は、機能性タンパク質が作製されるようにアミノ酸配列が連結されることも意味する。
【0076】
「調節領域」という用語は、核酸配列の発現のいくつかの局面を制御する遺伝因子を意味する。例えばプロモーターは、動作可能に連結されたコード領域の転写の開始を促す調節領域である。他の調節領域には、スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、終結シグナルなどがある。
【0077】
真核生物の転写制御シグナルには「プロモーター」領域および「エンハンサー」領域が含まれる。プロモーターおよびエンハンサーは、転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用する短い一連のDNA配列を含む(Maniatisら、Science 236:1237、1987)。プロモーター領域およびエンハンサー領域は、酵母、昆虫、哺乳類、および植物の細胞内の遺伝子を含む、さまざまな真核生物供給源から単離されている。プロモーター領域およびエンハンサー領域は、ウイルスからも単離されており、またプロモーターなどの類似の制御領域は原核生物でも認められている。特定のプロモーターおよびエンハンサーの選択は、対象タンパク質を発現させるために使用される細胞種によって変わる。真核生物の一部のプロモーターおよびエンハンサーは広い宿主域をもつが、他のプロモーターおよびエンハンサーは限定された一群の細胞種で機能する(例えばVossら、Trends Biochem.Sci. 11:287、1986;およびManiatisら、前記、1987の総説を参照)。
【0078】
本明細書で用いられる「プロモーター領域」、「プロモーター」、または「プロモーター配列」という用語は、DNA重合体のタンパク質コード領域の5’端(すなわち前方)に位置するDNA配列を意味する。天然の大半のプロモーターの位置は転写領域の前方にある。プロモーターはスイッチとして機能して、遺伝子の発現を活性化する。遺伝子が活性化される場合、転写される、または転写に関与すると表現される。転写には遺伝子からmRNAを合成する段階が含まれる。したがってプロモーターは転写調節領域として作用し、また、遺伝子をmRNAに転写するための開始部位も提供する。
【0079】
プロモーターは組織特異的な場合もあれば細胞特異的な場合もある。プロモーターに関して用いられる「組織特異的」という用語は、対象ヌクレオチド配列の、特定の種類の組織(例えば種子)における選択的な発現を誘導可能なプロモーターを意味し、異なる種類の組織(例えば葉)における同じ対象ヌクレオチド配列の発現は相対的に起こらない。プロモーターの組織特異性は例えば、レポーター遺伝子をプロモーター配列に動作可能に連結してレポーターコンストラクトを作り、このレポーターコンストラクトを、結果として生じるトランスジェニック植物のあらゆる組織中にレポーターコンストラクトが組み込まれるように植物ゲノム中に導入し、またレポーター遺伝子の発現をトランスジェニック植物のさまざまな組織中で検出すること(例えばmRNA、タンパク質、もしくはレポーター遺伝子にコードされたタンパク質の活性を検出すること)で評価することができる。他の組織におけるレポーター遺伝子の発現レベルに対して一種もしくは複数の組織におけるレポーター遺伝子の発現が高レベルで検出されることは、対象プロモーターが、高レベルの発現が検出された組織に特異的であることを意味する。プロモーターに関して用いられる「細胞種に特異的」という用語は、対象ヌクレオチド配列の発現が同じ組織内の異なる種類の細胞で相対的に発現がみられない特定の種類の細胞内で対象ヌクレオチド配列の選択的な発現を誘導可能なプロモーターを意味する。プロモーターに関して用いられる「細胞種に特異的」という用語は、組織内のある領域中における対象ヌクレオチド配列の選択的発現を促進可能なプロモーターも意味する。プロモーターの細胞種特異性は、当技術分野で周知の方法(例えば免疫組織化学的染色)で評価することができる。簡単に説明すると、組織切片をパラフィンに包埋し、このパラフィン切片を、発現がプロモーターによって制御される対象ヌクレオチド配列にコードされたポリペプチド産物に特異的な一次抗体と反応させる。一次抗体に特異的な、標識した(例えばペルオキシダーゼを結合させた)二次抗体を、切片化した組織に結合させることで、特異的な結合(例えばアビジン/ビオチン結合)を顕微鏡で検出することができる。
【0080】
プロモーターには構成的プロモーターまたは調節可能なプロモーターがある。プロモーターに関して用いられる「構成的」という用語は、プロモーターが、刺激(例えば熱ショック、化学物質、光など)の非存在下で動作可能に連結された核酸配列の転写を誘導可能であることを意味する。典型的には構成的プロモーターは、実質的に任意の細胞および任意の組織中で導入遺伝子の発現を誘導することができる。例示的な構成的な植物プロモーターには、SDカリフラワーモザイクウイルス(CaMV SD;例えば参照として本明細書に組み入れられる米国特許第5,352,605号を参照)、マンノピンシンターゼ、オクトピンシンターゼ(ocs)、スーパープロモーター(例えば国際公開公報第95/14098号を参照)、およびubi3(例えばGarbarinoおよびBelknap、Plant Mol.Biol. 24:119〜127 (1994)を参照)のプロモーターなどがあるがこれらに限定されない。これらのプロモーターは、形質転換植物の組織内における異種核酸配列の発現誘導に良好に使用されている。
【0081】
これとは対照的に「調節可能な」プロモーターまたは「誘導型」プロモーターは、刺激(例えば熱ショック、化学物質、光など)の存在下で動作可能に連結された核酸配列の転写レベルを、刺激の非存在下で動作可能に連結された核酸配列の転写とは異なるレベルで誘導可能なプロモーターである。
【0082】
エンハンサーおよび/またはプロモーターは「内因性」または「外因性」すなわち「異種」のプロモーターの場合がある。「内因性」のエンハンサーまたはプロモーターは、天然の状態でゲノム中の任意の遺伝子に連結されている。「外因性」すなわち「異種」のエンハンサーまたはプロモーターは、連結されたエンハンサーまたはプロモーターによって遺伝子の転写を誘導する遺伝的操作(すなわち分子生物学的手法)によって遺伝子の近傍に配置される。例えば、第一の遺伝子に動作可能な組み合わせで連結される内因性プロモーターは、単離され、除去され、また第二の遺伝子と動作可能な組み合わせで配置されることで、第二の遺伝子と動作可能な組み合わせの状態の「異種プロモーター」となる場合がある。さまざまなこのような組み合わせが対象となる(例えば第一および第二の遺伝子は同じ種に由来する場合があるほか、異なる種に由来する場合がある)。
【0083】
発現ベクター上に「スプライシングシグナル」を存在させることで、真核生物の宿主細胞内で組換え転写物が高レベルで発現する場合が多い。スプライシングシグナルは、一次RNA転写物からのイントロンの除去に関与し、スプライスドナー部位およびアクセプター部位を含む(Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York (1989) 16.7〜16.8)。一般に使用されるスプライスドナー部位およびアクセプター部位はSV40の16S RNAに由来するスプライス部位である。
【0084】
真核細胞における組換えDNA配列の効率的な発現には、結果として得られる転写物の効率的な終結およびポリアデニル化を誘導するシグナルの発現が必要である。転写終結シグナルは一般にポリアデニル化シグナルの下流に存在し、長さは数百ヌクレオチドである。本明細書で用いられる「ポリ(A)部位」または「ポリ(A)配列」という用語は、新生RNA転写物の終結およびポリアデニル化の両方を誘導するDNA配列を意味する。組換え転写物の効率的なポリアデニル化が望ましい。というのは、ポリ(A)テールを欠く転写物は不安定で速やかに分解されてしまうからである。発現ベクターに使用されるポリ(A)シグナルは「異種」または「内因性」の場合がある。内因性ポリ(A)シグナルは、ゲノム中の所定の遺伝子のコード領域の3’端に天然に存在する。異種ポリ(A)シグナルは、ある遺伝子から単離され、別の遺伝子の3’端に位置するシグナルである。一般に使用されている異種ポリ(A)シグナルはSV40のポリ(A)シグナルである。SV40のポリ(A)シグナルは237 bpのBamHI/BclI制限酵素断片中に含まれ、終結およびポリアデニル化の両方を誘導する(Sambrook、前記、16.6〜16.7)。
【0085】
「ベクター」という用語は、DNAのセグメントを一つの細胞から別の細胞へ輸送する核酸分子を意味する。「輸送体」という用語は、ときに「ベクター」と互換的に使用される。
【0086】
「発現ベクター」または「発現カセット」という用語は、所望のコード配列、および特定の宿主生物内における、動作可能に連結されたコード配列の発現に必要な適切な核酸配列を含む組換えDNA分子を意味する。原核生物における発現に必要な核酸配列には通常プロモーター、オペレーター(選択的)、およびリボソーム結合部位などがある(他の配列が伴う場合もある)。真核細胞はプロモーター、エンハンサー、ならびに終結およびポリアデニル化のシグナルを用いることが知られている。
【0087】
「トランスフェクション複合体」という用語は、細胞内に侵入して遺伝子発現に変化を生じる核酸を含む分子集合体を意味する。核酸分子の数、および核酸分子の種類は、一つの集合体当たり複数の場合がある。典型的には、トランスフェクション複合体は一種または複数の複合剤と核酸を含む。
【0088】
「複合剤(complexing agent)」という用語は、その作用が調査対象となる核酸以外の、トランスフェクション複合体中の化合物を意味し;典型的には、このような薬剤は核酸によるトランスフェクションを促進する。いくつかのクラスの複合剤は静電気的、疎水的、および/または立体的な相互作用を介して核酸に結合して分子集合体を形成し;他のクラスは他の分子に結合する。このような薬剤の例には、受容体に対するリガンド、DNA結合分子、および膜透過性分子などが含まれるがこれらに限定されない。他の複合剤には標的分子、転写分子、核酸分解阻害剤、ならびに細胞の成長および完全性のモジュレーターなどが含まれるがこれらに限定されない。
【0089】
「受容体に対するリガンド」という用語は、細胞膜に結合するタンパク質、糖、または脂質などの第二の分子に結合可能な第一の分子であるリガンドを意味する。STEPに関して用いられる場合、このリガンドは、原形質膜に局在して、細胞によりエンドサイトーシスで取り込まれる受容体に結合し;好ましくは受容体はタンパク質である。このようなリガンドの例にはトランスフェリン、LDL受容体に結合する低密度リポタンパク質粒子、およびインテグリンに結合することが知られているウイルスタンパク質などがあるがこれらに限定されない。他の例には他のタンパク質、糖質、ホルモン、小分子、および薬剤などがあるがこれらに限定されない。
【0090】
「DNA結合分子」という用語は、核酸と複合体を形成して、その電荷を中和してサイズをコンパクトにする分子(例えば陽イオン性タンパク質)を意味し;このような分子は典型的には静電気的、疎水的、および/または立体的な相互作用を介して核酸に結合して分子集合体を形成する。DNA結合分子はへリックス−ループ−へリックスタンパク質(HLH)、ジンクフィンガータンパク質、DNAインターカレーター(芳香族分子など)、他の核酸、重金属(白金など)、抗生物質(クロモマイシンA(3)およびミトラマイシン(MTR)など)、ならびにDNA結合ペプチド(アデノウイルスのDNA結合ペプチドmuなど)を含むがこれらに限定されない。特に有利なDNA結合分子は陽イオン性タンパク質である。
【0091】
「陽イオン性タンパク質」という用語は、水溶液中でpH 7でゼロを上回る静電荷をもつタンパク質またはポリペプチドを意味し;同じ条件下でゼロ未満の静電荷をもつタンパク質またはポリペプチドである「陰イオン性タンパク質」と対照をなす。本発明では「陽イオン性タンパク質」は「複合剤」のサブクラスである「DNA結合分子」のサブクラスである。
【0092】
「膜透過性分子」という用語は、細胞膜を透過し、またSTEPによるトランスフェクションを促進する分子を意味する。基礎となる機構を理解する必要はなく、また本発明は任意の特定の機構に制限されないが、このような分子は、トランスフェクション複合体中の核酸の膜を介した宿主細胞内への輸送を改善することによってトランスフェクションを促進すると考えられている。特に有利な膜透過性分子は陽イオン性脂質である。
【0093】
「陽イオン性脂質」という用語は、脂溶性でpH 7で正に帯電した領域を含む疎水性分子を意味する。本発明ではリポフェクタミン(商標)、リポフェクチン(登録商標)、リポフェクタミンプラス(商標)、セルフェクチン(登録商標)、およびリポフェクターゼ(商標)(Life Technologiesから入手可能)を含むがこれらに限定されない、さまざまな陽イオン性脂質を意図する。本発明では「陽イオン性脂質」は「複合剤」のサブクラスの「膜透過性分子」のサブクラスである。
【0094】
「標的分子」という用語は、核酸を含むトランスフェクション複合体、またはその一部を、核酸の発現または作用が達成される適切な細胞区画へ標的輸送するための分子を意味し;例えば核酸がDNAの場合、適切な区画は細胞核、ミトコンドリア、または色素体の場合があり;核酸がRNAの場合、適切な区画は細胞質、ミトコンドリア、または色素体の場合がある。このような分子は、タンパク質を細胞の核へ標的輸送する核局在化シグナル(NLS)を含むタンパク質(例えばSV−40のT抗原)を含むがこれらに限定されない。
【0095】
「転写/翻訳分子」という用語は、DNAの転写またはRNAの翻訳を促進するを分子を意味する。このような分子には、非制限的な例として転写因子、DNA弛緩因子または巻き戻し因子(例えばヘリカーゼ)、およびDNAポリメラーゼ(例えばTFIIAやTFIID)を含むタンパク質などがあるがこれらに限定されない。
【0096】
「核酸分解阻害剤」という用語は、ヌクレアーゼ阻害剤として作用する分子を意味する。このような分子は、トランスフェクトした核酸の分解を妨げることでSTEPを促進する。このような分子の例には、タンパク質(例えばDMI22)および非タンパク質の薬剤などが含まれるがこれらに限定されない。
【0097】
「細胞の健全性および完全性のモジュレーター」という用語は、細胞の接着、成長、増殖、および/または分化を調節する分子を意味し;好ましくは、このような調節は、これらの特性を高める。このような分子は、STEPによりトランスフェクトされた細胞の健全性および完全性を調節することで、また好ましくは促進することでSTEPを促進する。このような分子の例にはタンパク質が含まれるがこれらに限定されない。
【0098】
「デンドリマー」という用語は、天然または合成の分枝状分子(例えばポリペプチド、核酸、または合成化合物)を意味する。
【0099】
「核酸の種類」という用語は、配列の差または物理的状態の差にみられたり、さまざまな発現ベクター中にみられたり、またはDNAおよびRNAの存在によってみられたり、もしくは直鎖状およびスーパーコイル状のDNAの存在によってみられたり、もしくはさまざまなタンパク質をコードするコード領域の存在によってみられたり、またはさまざまな制御領域の存在、もしくは、これらの間で異なる制御領域にみられたりする、別の核酸と区別することが可能な核酸の特徴または特性を意味する。
【0100】
核酸に関して用いられる「固定化された」という用語は、核酸が表面上に空間的に制限されていて、この制限によって、核酸が、表面が位置する溶液中に入ることが妨げられ、また溶液中で遊離状態となることが妨げられることを意味し;安定は複合体の形成が関与する(複合体は核酸を含み、複合体の形成には、静電気的相互作用が少なくとも部分的に関与する)。核酸を含む複合体に関して用いられる「安定な」という用語は、複合体が一定時間(通常少なくとも72〜96時間)、溶液(組織用培地または細胞用培地)中で維持されることを意味する。固定化されたトランスフェクション複合体は表面が乾燥しても安定であり;乾燥状態で安定性が保たれる期間は通常少なくとも数週間〜数か月間である。
【0101】
「アレイ」という用語はパターンを意味し、好ましくはこのようなパターンは複製可能であり、および/または適切な検出装置で検出可能である。本発明の固定化されたトランスフェクション複合体に関して用いられる場合、アレイは、固定化されたトランスフェクション複合体を含む「スポット」を含む。スポットは、固定化されたトランスフェクション複合体の一つの試料の位置であり;スポットは、一種または複数の試料を位置に塗布することで作製することができる。各スポットは、固定化されたトランスフェクション複合体の一種の試料を含むが、トランスフェクション複合体の一種の試料は一種〜複数種の核酸を含む場合がある。また、アレイ中の異なるスポットは、同じトランスフェクション複合体、または異なるトランスフェクション複合体を含む場合があり;トランスフェクション複合体は、存在する複合剤、存在する核酸の種類、またはこれら両方が異なる場合がある。典型的には異なるスポットは、存在する核酸の種類が異なる。したがってアレイは典型的には、さまざまな種類の核酸を含む少なくとも一部〜大半におけるスポットを含む。
【0102】
「マイクロアレイ」は、狭い領域に制限されたアレイを意味する。典型的には、このようなアレイは、わずか約1インチ×3インチに制限され、顕微鏡用のスライド上に作り込まれることが多い。マイクロアレイは、限度内で作製可能な最大数のスポットを含み;典型的には、この数は、マニュアルで作製したアレイの方が自動的すなわち機械で作製したアレイより少ない。典型的な機械作製アレイは最大約10,800個のスポットを含む。
【0103】
「規則的に並べられたアレイ」という用語は、スポットが所定の幾何学的配置で表面上に位置する、本発明のスポットのパターンを意味し;幾何学的配置はグリッドであることが多い。「ランダムなアレイ」という用語は、スポットが所定の幾何学的配置では表面上に位置しない、本発明のスポットのパターンを意味する。ランダムなアレイは、数学的アルゴリズムで、または乱数発生器で決定することができる。
【0104】
「能動輸送」という用語は、分子が細胞外から細胞内へ、リポソーム(例えばDNAが脂質で包まれた状態)を介した侵入以外の任意の機構で輸送され、拡散すなわち受動拡散が促進される過程を意味する。能動輸送はエンドサイトーシス、特に受容体を介したエンドサイトーシスを含む。トランスフェクション過程を促すための、核酸分子の細胞内への能動輸送を促進する薬剤は、受容体に対するリガンド、DNA結合分子、および膜透過性分子などがあるがこれらに限定されない複合剤を含む。
【0105】
「トランスフェクション」という用語は、外来DNAを細胞内に導入することを意味する。トランスフェクションはカルシウムリン酸−DNA共沈殿、DEAE−デキストラン介在型トランスフェクション、ポリブレン介在型トランスフェクション、ガラスビーズ、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、ウイルス感染、遺伝子銃(微粒子銃)などを含む当技術分野で周知のさまざまな手段で達成される場合がある。当技術分野では、これらの多くの変法が知られている。
【0106】
「安定なトランスフェクション」または「安定にトランスフェクトされた」という用語は、導入した外来DNAが、トランスフェクトされた細胞のゲノム中に組み込まれることを意味する。「安定な形質移入体」という用語は、安定に組み込まれた外来DNAをゲノムDNA中に有する細胞を意味する。
【0107】
「一過的なトランスフェクション」、または「一過的にトランスフェクトされる」という用語は、細胞内に導入した外来DNAが、トランスフェクトされた細胞のゲノム中に組み込まれないことを意味する。外来DNAは、トランスフェクトされた細胞の核内に数日間維持される。この期間中、外来DNAは染色体上の内因性遺伝子の発現を支配する調節的制御を受ける。「一過的な形質移入体」という用語は、外来DNAを取り込んだが、このDNAを組み込めなかった細胞を意味する。
【0108】
「カルシウムリン酸共沈殿」という用語は、核酸を細胞内に導入する手法を意味する。細胞による核酸の取り込みは、核酸がカルシウムリン酸−核酸の共沈殿として存在すると促進される。グラハム(Graham)およびバンデルエブ(van der Eb)(Grahamおよびvan der Eb、Virol.、52:456 (1973))による当初の手法は、複数のグループにより、特定の細胞種に対する条件を最適とするように変更されている。
【0109】
細菌について用いられる「感染させる」および「感染」という用語は、標的となる生物試料(例えば細胞や組織など)を、細菌に含まれる核酸配列が標的生物試料の1個または複数の細胞内に導入されるという条件下で、細菌と同時にインキュベートすることを意味する。
【0110】
「打ち込む(bombarding)」、「打ち込み(bombardment)」、および「微粒子銃による打ち込み(biolistic bombardment)」という用語は、標的生物試料(例えば細胞や組織など)に対して粒子を加速して、標的生物試料の細胞膜を傷つけて、および/または粒子を標的生物試料中に侵入させる過程を意味する。微粒子銃による打ち込み法は当技術分野で周知であり(例えば内容が参照として本明細書に組み入れられる米国特許第5,584,807号)、市販品を入手することができる(例えばヘリウムガスを使用する微粒子加速装置(PDS−1000/He、BioRad))。
【0111】
植物組織に関して用いられる「微小損傷を加える」という用語は、組織に微小な傷をつけることを意味する。微小損傷は例えば上述の微粒子銃を用いて達成することができる。
【0112】
本明細書で用いられる「導入遺伝子」という用語は、外来遺伝子を受精直後の卵または初期胚に導入することで、生物体内に位置させる外来遺伝子を意味する。「外来遺伝子」という用語は、実験操作によって動物のゲノム中に導入される任意の核酸(例えば遺伝子配列)を意味し、導入した遺伝子が天然の遺伝子と同じ位置に存在しない限りは、動物に存在する遺伝子配列を含む場合がある。
【0113】
「宿主細胞」という用語は、異種遺伝子の複製および/または転写、および/または翻訳が可能な任意の細胞を意味する。したがって「宿主細胞」は任意の真核細胞または原核細胞(例えば大腸菌などの細菌細胞、酵母細胞、哺乳類細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、および昆虫細胞)を意味し、インビトロまたはインビボの位置は問われない。例えば宿主細胞はトランスジェニック動物の体内に位置する場合がある。
【0114】
「形質転換体」または「形質転換細胞」という用語は、一次形質転換細胞、またはそのような細胞に由来する培養物を含む(移動の数には無関係)。すべての子孫は、予定内の変異または予定外の変異が生じるためにDNA量が正確に同一ではない場合がある。最初に形質転換された細胞内でスクリーニングされる同じ機能性を有する変異体の子孫は形質転換体の定義に含まれる
【0115】
「選択可能なマーカー」という用語は、抗生物質または薬剤に対する耐性を、選択可能なマーカーが発現される細胞にもたらす活性を有する酵素をコードする遺伝子、または検出可能な形質(例えばルミネセンスまたは蛍光)の発現をもたらす遺伝子を意味する。選択可能なマーカーは「正」のマーカーまたは「負」のマーカーの場合がある。正の選択可能なマーカーの例には、G418およびカナマイシンに対する耐性をもたらすネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(NPTII)遺伝子、ならびに抗生物質ハイグロマイシンに対する耐性をもたらす細菌のハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(hyg)などが含まれる。負の選択可能なマーカーは、細胞を適切な選択用培地で成長させたときに発現が細胞障害性を示す酵素活性をコードする。例えばHSV−tk遺伝子は負の選択可能なマーカーとして広く使用されている。ガンシクロビルまたはアシクロビルの存在下で成長させた細胞内におけるHSV−tk遺伝子の発現は細胞に有害であり;このためガンシクロビルまたはアシクロビルを含む選択用培地中で成長させることで、機能性HSV TK酵素を発現可能な細胞が選択される。
【0116】
「レポーター遺伝子」という用語は、アッセイ対象となりうるタンパク質をコードする遺伝子を意味する。レポーター遺伝子の例には、ルシフェラーゼ(いずれも参照として本明細書に組み入れられるdeWetら、Mol.Cell.Biol. 7:725 (1987)、および米国特許第6,074,859号;第5,976,796号;第5,674,713号;ならびに第5,618,682号を参照)、緑色蛍光タンパク質(例えばゲンバンクアクセッション番号U43284;いくつかのGFP変異体はClontech Laboratories、Palo Alto、CAから市販されている)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、および西洋ワサビペルオキシダーゼなどが含まれるがこれらに限定されない。
【0117】
遺伝子に関して用いられる「野生型」という用語は、天然の供給源から単離された遺伝子の特徴を有する遺伝子を意味する。遺伝子産物に関して用いられる「野生型」という用語は、天然の供給源から単離された遺伝子産物の特徴を有する遺伝子産物を意味する。ある対象に対して本明細書で用いられる「天然の」という用語は、その対象が天然に存在するいう事実を意味する。例えば天然の供給源から単離可能な生物体(ウイルスを含む)中に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチドの配列、および実験室で意図的に修飾されたのではない同様のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの配列は天然である。野生型遺伝子は、集団内で高頻度で観察されるので、任意に「正常」または「野生型」の状態の遺伝子と呼ばれる。これとは対照的に、遺伝子もしくは遺伝子産物に関して用いられる「修飾された」または「変異体」という用語はそれぞれ、野生型の遺伝子マーカー遺伝子産物と比較したときに、配列および/または機能的特性の修飾(すなわち特徴の変化)を示す遺伝子または遺伝子産物を意味する。天然の変異体が単離可能であることは重要であり;これらは野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較したときに、変化した特徴を有するという事実によって同定される。
【0118】
「アンチセンス」という用語は、デオキシリボヌクレオチド残基の配列が、DNA二本鎖のセンス鎖のデオキシリボヌクレオチド残基の配列に対して逆方向の5’→3’方向であるデオキシリボヌクレオチド配列を意味する。DNA二本鎖の「センス鎖」は、天然の状態で細胞により「センスのmRNA」に転写されるDNA二本鎖中の鎖を意味する。したがって「アンチセンス」配列は、DNA二本鎖中の非コード鎖と同じ配列を有する配列である。「アンチセンスRNA」という用語は、標的となる一次転写物またはmRNAの全体または一部に相補的で、一次転写物またはmRNAのプロセシング、輸送、および/または翻訳に干渉することで標的遺伝子の発現をブロックするRNA転写物を意味する。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝子転写物の任意の部分(すなわち5’非コード配列、3’非コード配列、イントロン、またはコード配列)に関する場合がある。また本明細書で用いられるようにアンチセンスRNAは、アンチセンスRNAによる遺伝子発現ブロックの効率を高めるリボザイム配列の領域を含む場合がある。「リボザイム」は触媒性のRNAを意味し、配列特異的なエンドリボヌクレアーゼを含む。「アンチセンス阻害」は、標的タンパク質の発現を妨げることが可能なアンチセンスRNA転写物が産生されることを意味する
【0119】
「過剰発現」という用語は、正常な生物体または非形質転換生物体における産生のレベルを超えて、トランスジェニック生物で遺伝子産物が産生されることを意味する。「コサプレッション」という用語は、内因性遺伝子に実質的な相同性を有する外来遺伝子の発現が、外来遺伝子および内因性遺伝子の両発現の抑制を引き起すことを意味する。本明細書で用いられる「レベルの変化」という用語は、トランスジェニック生物で、正常な生物体または形質転換生物体とは異なる量または割合で遺伝子産物が産生されることを意味する。
【0120】
「過剰発現」および「過剰発現する」、およびこれらに文法的に等価な用語は、mRNAのレベルに関して発現レベルが、対照動物または非トランスジェニック動物の任意の組織で典型的にみられる発現レベルと比較して約3倍高いことを示すように使用される。mRNAのレベルは、ノーザンブロット解析を含むがこれらに限定されない、当業者に周知の任意のいくつかの手法で測定される(例えばノーザンブロット解析を実施する際のプロトコールに関しては実施例10を参照)。ノーザンブロットには、分析対象の各組織からロードされたRNAの量にみられる差の対照とするための適切な対照が含まれる(例えば各試料中に存在する、あらゆる組織で本質的に同じ量で豊富に存在するRNA転写物である28S rRNAの量は、ノーザンブロットで観察されるRAD50 mRNAに特異的なシグナルを補正または標準化する手段として使用することができる)。
【0121】
「サザンブロット解析」および「サザンブロット」ならびに「サザン」という用語は、DNAを大きさしたがって分離または断片化した後に、DNAをゲルから固相支持体(ニトロセルロース膜もしくはナイロン膜)に移す、アガロースゲルまたはアクリルアミドゲル上におけるDNAの解析を意味する。固定化されたDNAを次に標識プローブに曝露することで、使用プローブに相補的なDNA種が検出される。DNAは電気泳動前に制限酵素で切断しておくことができる。電気泳動後、固相支持体に移す前または移している間にDNAが部分的に脱プリン化されたり変性したりすることがある。サザンブロットは分子生物学者にとって標準的なツールの一つである(J.Sambrookら、(1989) 「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbor Press、NY、9.31〜9.58)。
【0122】
本明細書で用いられる「ノーザンブロット解析」および「ノーザンブロット」ならびに「ノーザン」という用語は、アガロースゲル上でRNAの電気泳動を行い、RNAを大きさにしたがって分離した後に、RNAをゲルから固相支持体(ニトロセルロース膜もしくはナイロン膜)に移すことによって行うRNAの解析を意味する。固定化されたRNAは次に標識プローブで選び出されて、使用プローブに相補的なRNA種が検出される。ノーザンブロットは分子生物学者にとって標準的なツールの一つである(J.Sambrookら、(1989)、前記、7.39〜7.52)。
【0123】
「ウエスタンブロット解析」および「ウエスタンブロット」ならびに「ウエスタン」という用語は、ニトロセルロース膜もしくはナイロン膜などの支持体上に固定化されたタンパク質(またはポリペプチド)の解析を意味する。少なくとも一種のタンパク質を含む混合物をアクリルアミドゲル上で最初に分離し、分離されたタンパク質を次にゲルから固相支持体(ニトロセルロース膜もしくはナイロン膜)に移す。固定化されたタンパク質を、少なくとも一種の対象抗原に反応性を有する少なくとも一種の抗体に曝露する。結合状態の抗体は、放射標識した抗体の使用を含む、さまざまな方法で検出することができる。
【0124】
本明細書で用いられる「抗原決定基」という用語は、特定の抗体(すなわちエピトープ)に接触させる抗原の一部分を意味する。タンパク質またはタンパク質の断片を用いて宿主動物を免疫化する場合は、タンパク質の多くの領域が、タンパク質の任意の領域または三次元構造に特異的に結合する抗体の産生を誘導する場合があり;このような領域または構造は抗原決定基と呼ばれる。抗原決定基は、完全な抗原(すなわち免疫応答の誘導に使用される「免疫原」)と、抗体との結合をめぐって競合する場合がある。
【0125】
「単離されたオリゴヌクレオチド」のように、核酸に関して用いられる「単離された」という用語は、同定されて、天然の供給源中では通常結合している少なくとも一種の混入核酸から分離される核酸配列を意味する。単離された核酸は、天然に存在する状態もしくは状況とは異なる状態もしくは状況で存在する。これとは対照的に、単離されていない核酸(DNAやRNAなど)は天然に存在する状態で存在する。例えば所定のDNA配列(例えば遺伝子)は、宿主細胞の染色体上で隣接遺伝子の近傍に存在し;特定のタンパク質をコードする特定のmRNAなどのRNA配列は細胞内に、多数のタンパク質をコードする他の多くのmRNAとの混合物として存在する。しかし特定のタンパク質をコードする単離された核酸、例えば細胞内でタンパク質を普通に発現している核酸の場合、核酸は天然細胞の場合とは異なる染色体上の位置に存在するか、または天然にみられる配列とは異なる核酸配列に隣接する。単離された核酸、またはオリゴヌクレオチドは、一本鎖状態または二本鎖状態で存在する場合がある。単離された核酸またはオリゴヌクレオチドを用いてタンパク質を発現させる場合、オリゴヌクレオチドは、最小のセンス鎖もしくはコード鎖(すなわちオリゴヌクレオチドは一本鎖状態の場合がある)を含むが、センス鎖およびアンチセンス鎖(すなわちオリゴヌクレオチドは二本鎖状態の場合がある)の両方を含む場合がある。
【0126】
「精製された」という用語は、天然環境から除去される、単離される、または分離される核酸配列またはアミノ酸配列のいずれかの分子を意味する。したがって「単離された核酸配列」は精製された核酸配列である。「実質的に精製された」分子は、天然の状態では結合した状態にある他の成分を少なくとも60%含まない、好ましくは少なくとも75%含まない、またより好ましくは少なくとも90%含まない。本明細書で用いられる「精製された」、または「精製する」という用語は、試料から混入物を除去することも意味する。混入しているタンパク質を除去することで、試料中の対象ポリペプチドのパーセントは上昇する。別の例では、組換えポリペプチドは植物、細菌、酵母、または哺乳類の宿主細胞内で発現され、またポリペプチドは宿主細胞のタンパク質を除去することで精製され;このため試料中の組換えポリペプチドのパーセントは上昇する。
【0127】
「試料」という用語は極めて広い意味で用いられる。一つの意味では、同用語は植物の細胞または組織を意味する場合がある。別の意味では、同用語は任意の供給源、ならびに生物試料および環境試料から得られる検体もしくは培養物を含む。生物試料は植物または動物(ヒトを含む)から得られる場合があり、液体、固体、組織、および気体を含む。環境試料は表面材料、土壌、水、および工業試料などの環境材料を含む。これらの例は本発明に適用可能な試料の種類を制限する意図はない。「試料」という用語は極めて広い意味で用いられる。一つの意味では、同用語は生体高分子材料を意味する。別の意味では、同用語は任意の供給源、ならびに生物試料および環境試料から得られる検体もしくは培養物を含むことが意図される。生物試料は動物(ヒトを含む)から得られる場合があり、液体、固体、組織、および気体を含む。生物試料は、血漿や血清などの血液成分を含む。環境試料は表面材料、土壌、水、結晶、および工業試料などの環境材料を含む。これらの例は、本発明に適用可能な試料の種類を制限する意図はない。
【0128】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞トランスフェクション法、また具体的には、表面上に固定され、後に細胞にトランスフェクトされる核酸に細胞を塗布することを提供する。一つの局面では、本発明の方法には、表面上に固定化された核酸を提供することが含まれ;別の局面では、本発明には核酸を表面上に固定化する段階が含まれる。核酸は、核酸および少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体中に固定される。好ましくは複合剤は、エンドサイトーシスで細胞に取り込まれる細胞受容体に対するリガンド、およびDNA結合分子を含み;さらにより好ましくは、トランスフェクション複合体は、エンドサイトーシスで細胞に取り込まれる細胞受容体に対するリガンドである少なくとも二種の複合剤、およびDNA結合分子を含む。複合剤はDNA複合体の細胞膜通過を促進する膜透過性分子をさらに含む場合がある。任意選択でトランスフェクション複合体中に存在する他の薬剤には、核酸を含む複合体、または複合体の一部を、核酸が発現可能な適切な細胞区画に誘導する標的分子、DNAの転写を促進する転写分子、核酸の分解を阻害する分子である核酸分解阻害剤、および細胞の接着、成長、増殖、および/または分化を調節する、また好ましくは加速したり促進したりする分子である細胞の健全性および完全性のモジュレーターが含まれる。したがって他の態様では、本発明はトランスフェクション複合体、およびトランスフェクション複合体を形成する方法を提供する。さらに他の態様では、核酸はアレイ状に固定化され;好ましくはアレイはマイクロアレイである。いくつかの態様では、アレイは規則的に並べられたアレイであり;他の態様ではアレイはランダムなアレイである。本発明の別の局面では、本発明の方法はトランスフェクトされた細胞内における核酸の発現をさらに含む。本発明のさらに別の局面では、方法にはトランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を検出する段階がさらに含まれる。本発明はさまざまな局面において「表面トランスフェクションおよび発現法(Surface Transfection and Expression Procedure)(または「STEP」)と呼ばれる。別の局面および詳細について以下に述べる;以下の記述では「DNA」という用語が用いられるときは、本発明の方法で用いられる場合のある核酸の例として使用され、制限する意味はない。
【0129】
本発明のSTEP法は、他のトランスフェクション法を改善したものである。STEPでは核酸を複合体化し、この複合体を表面上に塗布して固定化する。そして表面に細胞をプレーティングして曝露させる。このようにして細胞は、固定化された状態の核酸と接触する。これは、細胞を増殖させた培地に核酸を塗布する他のトランスフェクション法、または細胞を増殖させる培地中に核酸が遊離の状態で存在する他のトランスフェクション法と対照的である。他のこのような方法では、溶液中で遊離の状態の核酸に細胞を接触させる。したがってSTEPでは、核酸が固定化された同じ位置における細胞のトランスフェクションが可能となる。核酸が空間的に制限されるSTEPでは、一つの表面上に固定化可能な多種多様な核酸の独立したトランスフェクションの達成が可能となる。核酸は空間的に制限されるのでSTEPでは、固定化された核酸の任意の特定のアレイの一部または全体を望ましくは何度でも複製することができる。
【0130】
したがって例えば本発明の一つの局面では、STEPは現在DNAマイクロアレイの作製に使用されている同じ自動装置を用いて、STEPによるDNAを表面(ガラス製スライドなど)に塗布可能である点においてDNAマイクロアレイの現行の用途に似ている。またSTEPの多くの応用では、同じ蛍光スライドスキャナーを用いて実験結果を定量することができる。しかし類似点はこの程度である。ガラス製スライドなどの表面に塗布したDNAは、現在のDNAマイクロアレイの用途のように、インビトロにおけるハイブリダイゼーションには使用されない。実際にはSTEPでは、表面に塗布されて固定化されたDNAを用いて、生きた細胞をトランスフェクトして細胞内のタンパク質の発現または機能を変化させる。これは検出対象細胞内におけるタンパク質の実際の発現または機能変化である。またDNAは核酸および少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体として固定化され;このような複合剤は典型的にはDNAのトランスフェクションおよび発現を促進する。いくつかの好ましい態様では、少なくとも一種の複合剤は、エンドサイトーシスで細胞に取り込まれる細胞受容体に対するリガンドを含み;他の好ましい態様では、少なくとも別の複合剤がDNA結合タンパク質を含み;好ましくは、トランスフェクション複合体は細胞受容体に対するリガンド、およびDNA結合分子の両方を含む。
【0131】
本発明の方法では、10,000を越えるcDNAを対象に1枚の顕微鏡用スライド上で機能的にスクリーニングを行うことができる(ただしスライドは典型的には25 mm×75 mmである必要はない)。この方法には、規模が経済的であること、多くの応用で機能の連続モニタリングが生きた細胞内で可能なこと、容易かつ完全に自動化されること、および複製が容易に達成されることを含むがこれらに限定されない複数の利点がある。
【0132】
STEPは極めて単純であるが、STEPの細胞関連過程は複数の局面を含むと考えられている。本発明を使用するための機構を理解する必要は必ずしもないが、本発明が制限を受けることは意図されず、観察された結果を説明するためにいくつかの仮説が提出されている。このような仮説は意見または見解として呈示されている。したがってSTEPでは、第一の局面は核酸が固定化された表面へ細胞が接着することであると考えられる。数種の陽イオン性の複合剤は、トランスフェクション複合体中に固定化された核酸への細胞の迅速な接着を促進するが、細胞と実際に反発する複合剤もある。複合剤を使わずにDNAだけの場合は、DNAに対する複合剤のモル比が低い複合体のように、細胞に反発してしまう。第二の局面は細胞が生存することと考えられる。一部の複合剤は、たとえ細胞が速やかに接着可能であっても細胞障害作用を示すと考えられている。このような毒性は、純粋な状態のFuGeneおよびリポフェクタミンなどの脂質親和性トランスフェクション試薬などの、ある種の膜透過性分子について特にあてはまる。これらの二種の特定の試薬は、従来のトランスフェクション法の溶液中で一般に使用されており、このような条件で使用される濃度における毒性の存在は報告されていない。しかしSTEPで使用すると、これらの試薬は高濃度で使用時に毒性を生じ、細胞を塗布する前に乾燥させる;しかし低濃度では使用することができる。第三の局面は、DNAを実際にトランスフェクトすることと考えられ;トランスフェクションの効率は、細胞の種類、および陽イオン性の複合剤によって変化すると考えられている。第四の局面は、部分的に細胞が関与する可能性のあるトランスフェクション複合体が分解することと考えられる。接着したトランスフェクト細胞外において分解すると、固定化された核酸(トランスフェクション複合体)を添加した領域のすぐ近傍の外側で偽陽性の細胞が生じる。例えばヒストンと形成されるもののような多くの複合体は24〜48時間安定であり、また一部は96時間以上安定である。さまざまな細胞および核酸に対してSTEPを最適化することは、複合剤および核酸の性質の変化、ならびにトランスフェクション複合体中におけるこれらの成分の割合および比の変化による、個々の仮説的過程の最適化が必要であると考えられる。このような最適化の手引きについては後述する。
【0133】
STEPの発見および開発中、21のさまざまな実験が最初に行われ、STEPに重要と考えられるパラメータの特性解析が始められた。14種の異なる細胞系列、5種の異なるレポータープラスミド、および22種の異なる陽イオン性複合剤が使用された。実験の大半は蛍光顕微鏡で調べられたが、いくつかの例ではトランスフェクション効率の測定にルシフェラーゼが使用された。トランスフェクション効率に影響を及ぼすと当初考えられたパラメータには、DNAの調製法、トランスフェクション複合体の調製に使用される陽イオン性タンパク質などのDNA結合分子、使用される細胞系列、トランスフェクション複合体に対する細胞の曝露期間、DNAを固定化する表面(ガラス、プラスチック、ポリリシンでコーティングされたガラスもしくはプラスチックなど)でもある細胞をプレーティングされえた基板、およびプレーティング時の細胞密度などがあった。
【0134】
常用の実験法で最適化可能な二つの重要な変数は、トランスフェクション対象の細胞系列、およびDNA結合分子(陽イオン性DNA結合タンパク質など)である。高いトランスフェクション効率は当初、第二世代のCOS−1−U3G1細胞を用いて、緑色蛍光タンパク質(EGFP−C1、Clontech)をコードする発現ベクターで観察された。このような細胞は、親COS−1−U3細胞の、G418耐性をもたらすネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子をコードするプラスミドpNEW−NEOによるSTEPによるトランスフェクションによって作製された。後にG418で選択することで3種の異なる細胞系列が得られた。このうちCOS−1−U3G1細胞のトランスフェクション効率が最高であり、COS−1−U3親細胞の約10倍であった。細胞系列の供給源が重要であることも明らかとなり;他の供給源から得られた複数の独立系列のCOS−1細胞は高い効率でトランスフェクトされなかった。
【0135】
複合剤は核酸を固定化する必要があり;例えば、表面に塗布されるDNAだけでは表面から解離してしまい、トランスフェクション効率は極めて低くなってしまう。陽イオン性タンパク質のみを核酸と複合体形成させたところ、ヒストンが最も優れた複合剤であり、トランスフェクション効率の上昇は当初使用されたポリ−L−リシン(70〜150 kd)と比較して約5倍であった。COS−1−U3G1細胞およびヒストンを用いることで、20〜30%のトランスフェクション効率が当初得られた(100%の効率とは、塗布したDNAのすべての「スポット」が、それと結合した少なくとも一種の陽性細胞を有することを意味する)。しかしトランスフェクション効率がこのように低かったことは、ヒストン:DNA複合体中のDNAの大半が解離していたためにトランスフェクション効率が低かったことを示唆していた。トランスフェクション効率の上昇は、トランスフェクション複合体に、エンドサイトーシスで取り込まれる細胞受容体に結合するリガンドを含めることで得られ;好ましくは、このようなリガンドを陽イオン性タンパク質に結合させる。例えば293−HEK細胞を用いる場合、ポリリシンにトランスフェリンを連結させることで、高いトランスフェクション効率が得られた。トランスフェクション効率のさらなる上昇は、少なくとも一種の陽イオン性脂質を含めることで認められた。パラメータを最適化することで、個々の核酸のスポットが、それに結合する多数の陽性細胞を有するようになる。
【0136】
核酸の固定化
本発明では、核酸をトランスフェクション複合体として表面に塗布し;次に核酸が複合体に含まれる状態で表面に固定化される。トランスフェクション複合体は、少なくとも一種の複合剤を核酸に添加することで形成され;選択的には複合剤は、エンドサイトーシスで細胞に取り込まれてトランスフェクトされる受容体に対するリガンド、およびDNA結合分子(陽イオン性タンパク質など)を含む。他の好ましい態様では、トランスフェクション複合体は、細胞受容体に対するリガンド、およびDNA結合分子の少なくとも二種の複合剤を含む。他の複合剤には、陽イオン性脂質などの膜透過性分子があるがこれらに限定されない。トランスフェクション複合体は、核酸の発現に影響を及ぼす任意のいくつかの他の過程を調節または促進する可能性のある他の薬剤を含む場合があり;このような過程は、作用を発揮する適切な細胞内部位への核酸の輸送、核酸分解の阻害、転写または翻訳のモジュレーター、ならびに細胞の成長および完全性のモジュレーターを含むがこれらに限定されない。トランスフェクション複合体中の核酸は、塗布される表面に接着させることで固定化される。
【0137】
本発明を使用するために機構を理解する必要は必ずしもなく、また本発明が制限されることは意図されないが、核酸を、さまざまな複合剤が添加される「足場」と考えることは有用である。複合体の陽イオン性タンパク質などのDNA結合分子が存在する場合は核酸に接着するが、一般にリガンドとは相互作用しない。したがってリガンドは、いくつかの様式でDNAのみに、またはDNA結合分子(存在する場合)に結合した状態にあり;好ましくはリガンドは、共有結合でDNA結合分子(好ましくは陽イオン性タンパク質)に結合した状態にある。またリガンドは好ましくは、エンドサイトーシスで取り込まれる細胞膜上の受容体にも結合して、核酸のエンドサイトーシスを促進する。陽イオン性脂質(存在する場合)は、核酸に接着または結合し、また細胞内への核酸の通過も促進する。また細胞は、トランスフェクション複合体の核酸にリガンドを介して接着するほか、核酸が固定化された表面にも接着する。一般に、核酸を固定化する表面にはコーティングを行う。細胞は、コーティングの有無にかかわらず、トランスフェクション複合体のリガンドに対する接着と比較して低親和力で表面に接着すると考えられている。
【0138】
また、受容体に対するリガンドの存在は、宿主細胞内への核酸の能動輸送を導くとも考えられている。本発明で用いられる「能動輸送」は、リポソーム輸送以外の任意の機構により細胞の外から細胞内へ分子が輸送されて、拡散すなわち受動拡散を促進する過程を意味する。能動輸送はエンドサイトーシス、特に受容体を介したエンドサイトーシスを含む。本発明によってトランスフェクション過程を促すための、細胞外から細胞内への核酸分子の能動輸送を促進する薬剤は、受容体に対するリガンド(タンパク質、糖質、ホルモン、小分子、および薬剤)、DNA結合分子、および膜透過性分子などを含む複合剤を含むがこれらに限定されない。
【0139】
A.核酸
STEPに使用される可能性のある核酸は、生きている細胞内へのトランスフェクションが望ましい任意の配列である。このような核酸には、EST、PCR産物、ゲノムDNA、cDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、およびアンチセンスコンストラクトなどが含まれるがこれらに限定されず;このような核酸は発現ベクター中に存在する場合がある。このような核酸は、単離された天然の核酸、ならびに合成核酸、および組換え法で合成された核酸を含む。
【0140】
本発明で特に有用な核酸には複数の遺伝子群が含まれる;このような遺伝子には、発現が直接的または間接的に検出可能であるすべての遺伝子が含まれる。例示的な遺伝子には、転写因子、細胞骨格タンパク質、ホルモン、癌遺伝子、代謝酵素、イオンチャネル、およびレポーターの遺伝子が含まれる。レポーター遺伝子は、任意の蛍光タンパク質、免疫細胞化学的な決定が可能な任意の酵素(β−ガラクトシダーゼやβ−ラクタマーゼなど)、または特定の抗体を利用可能な任意のタンパク質もしくはエピトープタグタンパク質が含まれる。遺伝子産物は、酵素産物により、または抗体結合により直接的に検出することができるほか、結合酵素アッセイ法により、または細胞機能を変化させる作用により間接的に検出することができる。検出可能な細胞機能の変化には、細胞極性、細胞のpH、細胞形態、または細胞が特定の化合物と結合する能力の変化が含まれる。検出は最も典型的には、蛍光または発光による。
【0141】
本発明のさまざまな態様では、一種または複数の種類の核酸は、一種のトランスフェクション複合体中に存在する場合がある。「核酸の種類」は、配列や物理的状態の差や、さまざまな発現ベクター中に存在することや、もしくはDNAおよびRNAとともに存在することや、もしくは直鎖状およびスーパーコイル状のDNAとともに存在することや、もしくはさまざまなタンパク質をコードするコード領域とともに存在することや、もしくはさまざまな制御領域とともに存在することや、または内部で制御領域が異なることなどといった、別の核酸と区別可能な核酸の特徴または特性を意味する。このため一連の核酸ライブラリーのコンビナトリアル解析、ならびに遺伝子発現のトランス活性化因子、または代謝経路段階などの関連段階が関与する解析が可能となる。一つの態様では、4種の異なる発現ベクターが一種のトランスフェクション複合体中に存在し;例示的な態様は実施例4に記載する。
【0142】
しかし核酸は一般に、トランスフェクション用に高純度に精製する必要は必ずしもない。許容される純度の尺度は、260 nm/280 nmの吸光度の比が約1.6かもしくはこれを上回るか、また270 nmに対する260 nmの吸光度の比が約1かもしくはこれ未満である。CsClによる精製、またはイオン交換クロマトグラフィー法(Qiagen)では一般に、十分な純度の高い核酸が単離される。プラスミドを含む細菌抽出物の単純なアルカリ溶解およびフェノール抽出では一般に、核酸抽出物の純度は十分ではない。別の態様では、核酸はPCR産物が形成される反応混合物から精製される場合があるか、または精製されないPCR反応の産物である。
【0143】
本発明の一つの態様では、STEPによるトランスフェクション効率が高いスーパーコイル状のDNAが使用され、また典型的には1 mg/mlの臭化エチジウムの存在下で、平衡密度勾配遠心法で単離される。分離されたスーパーコイル状のDNAは水飽和ブタノールで抽出されて臭化エチジウムが除去され、また酢酸ナトリウムの存在下でエタノールで沈殿させることで単離される。DNAは、陽イオン性クロマトグラフィー溶媒とNaClによる溶出を用いるイオン交換クロマトグラフィーで単離される場合もある。
【0144】
1.発現ベクター
核酸は発現ベクター中に含まれる場合がある。したがって例えば核酸配列は、ポリペプチドを発現させるためのさまざまな発現ベクターのいずれか一つに含まれる場合があり、また複数の対象核酸が一つの発現ベクター中に含まれる場合がある。または、一つの遺伝子または核酸の一部が別のベクター中に含まれる場合がある。本発明のいくつかの態様では、ベクターは染色体DNA配列、非染色体DNA配列、および合成DNA配列(例えばSV40、細菌プラスミド、ファージDNAの誘導体;バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドDNAおよびファージDNAの組み合わせに由来するベクター、ならびにウイルスDNA(ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルスなど)の組み合わせに由来するベクター)を含むがこれらに限定されない。任意のベクターが、宿主細胞内で複製可能で存在可能な限りにおいて使用される場合があることが対象となる。
【0145】
本発明のいくつかの態様では、コンストラクトは、ベクター(プラスミドベクターやウイルスベクターなど)を含み、ベクター中に所望の核酸配列が順方向または逆方向に挿入されている。所望の核酸配列は、任意のさまざまな手順でベクター中に挿入される。一般に核酸配列は、当技術分野で周知の手順で、1つまたは複数の適切な制限酵素切断部位に挿入される。
【0146】
多数の適切なベクターが当業者に周知であり、また市販されている。このようなベクターはpCDNA3.1、pCMV.5、pZEM3、pSI、pCMV.Neo、およびpTetOnなどのベクターを含むがこれらに限定されない。他の任意のプラスミドまたはベクターが、宿主細胞内で複製可能で存在可能な限りにおいて使用される場合がある。本発明のいくつかの好ましい態様では、発現ベクターは複製起点、適切なプロモーターおよびエンハンサー、ならびに任意の必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナー部位およびアクセプター部位、転写終結配列、ならびに5’側に隣接する非転写配列を含む。他の態様では、SV40のスプライス部位、およびポリアデニル化部位に由来するDNA配列を用いて、必要な転写されない遺伝因子が提供される場合がある。
【0147】
本発明のある態様では、発現ベクター中の核酸配列は、mRNA合成を誘導するために適切な1つまたは複数の発現制御配列(プロモーター)に動作可能に連結される。さまざまなプロモーターを、STEPに使用される細胞の種類に応じて使用することができる。プロモーターには構成型、誘導型、またはトランス活性型のプロモーターがある。本発明に有用なプロモーターには、LTRもしくはSV40のプロモーター、大腸菌のlacもしくはtrp、ラムダファージのPLおよびPR、T3およびT7のプロモーター、およびサイトメガロウイルス(CMV)の極初期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼのプロモーター、およびマウスのメタロチオネイン−Iのプロモーター、および原核細胞もしくは真核細胞、またはこれらのウイルスの遺伝子の発現を制御することが知られている他のプロモーターなどがあるがこれらに限定されない。以下に挙げるプロモーターは、STEPに特に有用なことが証明されている:ヒトCMVプロモーター、ラウス肉腫ウイルスのLTRプロモーター、SV40の後期プロモーター、ヒトエンケファリンのプロモーター、ヒト絨毛性ゴナドトロピンプロモーター、哺乳類のテトラサイクリン誘導型プロモーター(Gossenら、Science 268:1766〜1769、1995)、および複数の合成プロモーター。他のプロモーターにはCRE−CATプロモーターおよびENK72プロモーターなどがある(Huggenvickら、Mol Endocrinol 5:921〜930 (1991))。
【0148】
本発明の他の態様では、組換え発現ベクターは、複製起点、および宿主細胞の形質転換を可能とする選択可能なマーカー(例えば真核細胞培養物用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、もしくはネオマイシン耐性、または大腸菌におけるテトラサイクリン耐性もしくはアンピシリン耐性)を含む。
【0149】
本発明のいくつかの態様では、高等真核生物による対象核酸の転写は、エンハンサー配列をベクター中に挿入することで亢進する。エンハンサーはDNAのシス作用性領域であり、一般的には約10〜300 bpで、プロモーターに作用して転写を亢進させる。本発明に有用なエンハンサーには、複製起点の後期側100〜270 bpにあるSV40のエンハンサー、サイトメガロウイルスの初期プロモーターのエンハンサー、複製起点の後期側にあるポリオーマのエンハンサー、およびアデノウイルスのエンハンサーなどがあるがこれらに限定されない。
【0150】
他の態様では、発現ベクターは翻訳開始用のリボソーム結合部位、および転写終結因子も含む。本発明のさらに他の態様では、発現ベクターはまた、発現を増幅させる適切な配列を含む場合もある。
【0151】
2.ポリヌクレオチド
任意のポリヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドをSTEPに使用することが可能であり;例示的なオリゴヌクレオチドには、直鎖状のオリゴヌクレオチド、および細胞内安定性を上昇させる糖修飾されたオリゴヌクレオチドなどがあるがこれらに限定されない。ポリオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、発現ベクターと類似の方法で複合体を形成させることができるが、複合剤に対する核酸の正確な比は、特定の長さのオリゴヌクレオチド、および化学的状態(ホスホロチオエートやリン酸などの連結)について実験的に最適化すべきである。
【0152】
3.RNA
RNAも、細胞で使用する発現ベクターのDNAと類似の方法で複合体と形成させることができる。一つの態様では、iRNAによる発現阻害のために、S2ショウジョウバエ細胞をトランスフェクトするためにiRNAが使用される(Clemensら、Proc.Natl.Acad.Sci. 97(12):6499〜6503、2000)。細胞内に侵入したiRNAは、対応する宿主細胞タンパク質を約ゼロに低下させるので;この態様では、それぞれ約20,000の遺伝子をSTEPで系統的かつ効率的に調べることができると考えられる。本発明のさらに他の態様では、さまざまなiRNAの組み合わせを用いて一つの細胞にトランスフェクトさせることが可能なコンビナトリアル解析にSTEPが用いられる。
【0153】
4.PCR 産物
PCRの産物である核酸をSTEPに直接使用することもできる。「直接」とは、トランスフェクション複合体の調製に使用する前に核酸を精製する必要がないことを意味する。いくつかの態様では、PCRで直鎖状DNAが作製される反応混合物が、実施例14に記載されているように、トランスフェクション複合体の調製に直接使用される。
【0154】
B.複合剤
本発明では、複合剤を用いて複数の機能を発揮させる。このような機能には、核酸の固定化、および細胞によるDNAのエンドサイトーシスの促進が含まれ;他の機能には、核酸が発現可能な適切な細胞区画へのDNAの標的輸送、核酸の発現の促進、核酸の分解の阻害、ならびに宿主の細胞の成長および完全性の促進などがある。さまざまな複合剤がSTEPで使用されており;以下に示す一般的なクラスの化合物は、STEPによるトランスフェクションを促進する。
【0155】
1.受容体に対するリガンド
エンドサイトーシスで対象細胞に取り込まれる、受容体に対するリガンドは、エンドサイトーシスで取り込まれる適切な細胞表面受容体に結合することでDNAのエンドサイトーシスを促進する。この目的ではトランスフェリンが特に有用であるが、このクラスの他のリガンドが使用される場合もある。他のリガンドには、LDL受容体に結合する低密度リポタンパク質(LDL)粒子、およびインテグリンに結合することが知られているウイルスタンパク質などがあるがこれらに限定されない。インテグリンは、細胞外マトリックスタンパク質の主要受容体である膜貫通型タンパク質である。このようなウイルスタンパク質には、アデノウイルスタンパク質の一つであるペントンタンパク質、HIVタンパク質GP120、ウマ鼻炎Aウイルスタンパク質VP1、ヒトアデノウイルスタンパク質E3、およびエプスタイン・バーウイルスタンパク質GP350などがあるがこれらに限定されない。このようなウイルスタンパク質の利点は、他のリガンドより細胞特異性が弱いために、さまざまな宿主細胞に応用できる点である。
【0156】
2.DNA 結合分子
DNA結合分子(例えば陽イオン性タンパク質)と核酸との複合体は、その電荷を中和し、大きさをコンパクトにする。DNA結合分子にはへリックス−ループ−へリックスタンパク質(HLH)、ジンクフィンガータンパク質、DNAインターカレーター(芳香族分子など)、他の核酸、重金属(白金など)、抗生物質(クロモマイシンA(3)およびミトラマイシン(MTR)など)、ならびにDNA結合ペプチド(アデノウイルスのDNA結合ペプチドmuなど)などがあるがこれらに限定されない。陽イオン性タンパク質にはポリリシン、ヒストン、転写因子、ポリヒスチジン、ポリアルギニン、スペルミン、およびスペルミジンなどがあるがこれらに限定されない。好ましくは陽イオン性タンパク質はポリアミンであり;最も好ましくはポリリシンである。スペルミンおよびスペルミジンはHEK−293細胞には有効ではなく;これらの化合物は短すぎるのではないかと推定されている。
【0157】
3.膜透過性分子
膜透過性分子(例えば陽イオン性脂質)を用いることでSTEPによるトランスフェクションは促進され;複合体中に存在する膜透過性分子の種類および量は好ましくは細胞の種類に最適化される。特に有利な膜透過性分子は陽イオン性脂質である。陽イオン性脂質にはリポフェクタミン(商標)、リポフェクチン(登録商標)、リポフェクタミンプラス(商標)、セルフェクチン(登録商標)、およびリポフェクターゼ(商標)(いずれもLife Technologies)などがあるがこれらに限定されない。典型的には、これらの陽イオン性脂質は、特定の細胞種における使用に最適な比で製剤化される、選択された一群の約50の天然および合成の陽イオン性脂質混合物を含む。一つの態様ではリポフェクタミン(商標)が特に有用であり、また他の態様では他の類似の化合物が、例えば実施例1に記載された条件下において、より低頻度で有効である。
【0158】
4.標的分子
複合体を細胞核、または他の細胞内部位に標的輸送する分子もSTEPを促進する;このような部位(核、ミトコンドリア、色素体、または細胞質)は、トランスフェクトした核酸の発現または作用に適している。このような分子には、例えばタンパク質を細胞核へ導く核局在化シグナル(NLS)を含むSV−40 T抗原などのタンパク質があるがこれらに限定されない。ポリリシンは同様に複合体を核へ導く類似の配列を含む。
【0159】
5.転写 / 翻訳にかかわる分子
DNAの転写、またはRNAの翻訳を促進する分子もSTEPを促進する。このような分子には非制限性の例として、転写因子、DNA弛緩因子または巻き戻し因子(例えばヘリカーゼ)、およびDNAポリメラーゼ(例えばTFIIAやTFIID)などのタンパク質があるがこれらに限定されない。
【0160】
6.核酸分解阻害剤
ヌクレアーゼ阻害剤として作用する分子も、トランスフェクトした核酸の分解を妨げることによってSTEPを促進する。このような分子の例には、タンパク質(例えばDMI22)、および非タンパク質の薬剤がある。
【0161】
7. 細胞の健全性および完全性のプロモーター
細胞の接着、成長、および/または分化を促進する分子も、STEPでトランスフェクトされた細胞の健全性および完全性を促すことでSTEPを促進する。このような分子の例にはタンパク質群が含まれるがこれらに限定されない。培養物中で増殖させた細胞の、培養物表面への接着を促進するタンパク質には、ポリリシン、フィブロネクチン、およびコラーゲンなどがあるがこれらに限定されない。細胞の成長を促進するタンパク質には、成長因子および細胞外マトリックスタンパク質などがあるがこれらに限定されない。細胞の分化を促進するタンパク質には、PC−12ラット褐色細胞腫細胞の分化を促進する神経成長因子などがあるがこれらに限定されない。
【0162】
トランスフェクション複合体中に存在する1個または複数の複合剤は、タンパク質の所望の特性の結合を促進させるために、一種または複数の他の複合剤に共有結合に連結させる場合がある。例えばトランスフェリンおよびポリリシンは化学的に架橋されて、トランスフェリン受容体に対する結合、およびトランスフェリンの内部移行がポリリシン(および結合した核酸)を同じエンドソーム中にトランスフェリンとして動員する場合がある。または複合剤の連結は、二種(またはそれ以上)の複合剤を融合タンパク質として細菌内、もしくは真核細胞内で発現させることで達成することができる。
【0163】
C.固定化
本発明は、核酸、および少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体を形成させることにより、またトランスフェクション複合体を表面に接触させて核酸をトランスフェクション複合体中に固定化させることにより、核酸を表面に固定化する方法を提供する。したがって本発明はまた、核酸および少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体も提供し、また本発明は、核酸がそのようなトランスフェクション複合体中に固定化される表面を提供する。トランスフェクション複合体は、好ましくはリガンドを含む少なくとも一種の複合剤と核酸を結合させることで形成される。好ましくはトランスフェクション複合体中に含まれる他の複合剤には、DNA結合分子、および膜透過性分子などがあり;好ましくは、これらの薬剤は陽イオン性タンパク質、および陽イオン性脂質である。または本発明のトランスフェクション複合体は、リガンドおよびDNA結合分子、好ましくは陽イオン性タンパク質である少なくとも二種の複合剤を含み;好ましくはトランスフェクション複合体中に存在する他の複合剤には膜透過性分子、好ましくは陽イオン性脂質などがある。リガンドは、DNA結合分子(存在する場合)に選択的に結合した状態にある。
【0164】
本発明の一つの態様では、核酸は以下の段階によって固定化される;これらの段階は、HEK−293細胞で発現されるベクターの使用に最適化されている。他の細胞で使用するために固定化を最適化することは常用の実験法である。
【0165】
典型的には、純粋な状態、またはそれ以外の状態の核酸は適切な濃度に溶液中に希釈される。好ましい濃度は約0.1〜10 mg/mlの範囲であり、最も好ましくは濃度は0.12 mg/mlである。このような溶液は、トリスおよびHEPES、ならびに他の化合物などの緩衝成分をpHが約4〜9の範囲で含むがこれらに限定されず;最も好ましくは溶液は滅菌水である。
【0166】
希釈された核酸の一定容量を混合用チャンバーへ添加する。適切なチャンバーには、遠心管(ポリプロピレンなど)、マイクロタイタープレート(ポリスチレンなど)、および試験管(ガラスなど)などがあるがこれらに限定されない。好ましくは、チャンバーはマイクロタイタープレートのウェルである。
【0167】
陽イオン性タンパク質−リガンド複合体は、一つの態様ではトランスフェリンを酸化してタンパク質を架橋するアルデヒドを形成させることで形成される。リガンド(トランスフェリン)を陽イオン性タンパク質(ポリリシン)と共有結合で連結した後にトランスフェクション複合体を形成することは重要であり;このような連結は、溶液中における標準的なトランスフェクションに関して報告されている(Wagnerら、Bioconjugate Chemistry 2:226〜231、1991)。この複合体を次に、希釈した核酸に適切な濃度で添加する。好ましい濃度は約0.1〜10 mg/mlの範囲であるが、最も好ましくは、濃度は1モルのトランスフェリン+鉄(リガンド)あたり、約0.4モルのポリリシン(陽イオン性タンパク質)である。適切な容量の複合体を核酸に添加し;複合体の容量は核酸容量の約0.1〜10倍の範囲であり;好ましくは、ほぼ等容量の複合体を核酸に添加する。この第一の核酸混合物を混合し、適切な温度で適切な時間インキュベートする。時間は約30秒〜約4時間の範囲であるが、好ましくは約5分であり;温度は約0〜37℃の範囲であるが、好ましくはほぼ室温(約18〜22℃)である。
【0168】
または、他の細胞表面リガンドを用いて、トランスフェリン濃度が低い受容体を有する細胞、または培地中のトランスフェリン濃度がSTEPによるトランスフェクション複合体と競合する細胞をトランスフェクトすることができる。このようなタンパク質の非制限的な例は、細胞表面のインテグリンに結合してトランスフェリンの代わりに使用可能でトランスフェクション複合体中のトランスフェリンを用いた場合の最適トランスフェクション効率より低い多くの種の細胞にトランスフェクト使用可能なアデノウイルスのペントンタンパク質である。このような態様では、ペントンタンパク質は約0.02 mg/ml〜1.0 mg/mlの濃度で使用されペントンタンパク質(存在する場合)は好ましくはDNA結合分子と結合または連結した状態であり;好ましくはDNA結合分子は陽イオン性タンパク質であり;最も好ましくは陽イオン性タンパク質はポリリシンまたはヒストンである。
【0169】
次に膜透過性分子(存在する場合)を第一の核酸混合物に適切な濃度で添加して、第二の核酸混合物を形成させ;好ましくは膜透過性分子は陽イオン性脂質である。陽イオン性脂質の好ましい濃度は約0.2〜4 mg/mlの範囲であり;好ましくは、濃度はリポフェクタミンが陽イオン性脂質の場合、約1 mg/mlである。適切な容量の陽イオン性脂質を第二の混合物に添加し(脂質の容量は第一の核酸混合物の約0.1〜10容の範囲);好ましくはほぼ等容量を混合物に添加する。次に、この第二の混合物を混合して、適切な温度で適切な時間インキュベートする。時間は約30秒〜4時間の範囲であるが好ましくは約5分であり;温度は約0〜37℃の範囲であるが好ましくは室温(約18〜22℃)である。この第二の核酸混合物はトランスフェクション複合体を含む。
【0170】
トランスフェクション複合体混合物を次に表面に塗布する。さまざまな表面構成が対象となり;本発明では、表面は平面〜凹形〜凸形〜球形〜立方形の範囲を含むがこれらに限定されない。構成のタイプは後の応用によって変わる。一つの態様では表面は平面状のスライドである。別の態様では表面はビーズである。さらに別の態様では表面は立方形であり;関連態様では、さまざまなトランスフェクション複合体が立方体のさまざまな面または表面に固定化され、またさらに別の関連態様では、さまざまな細胞の種類が立方体のさまざまな面または表面にプレーティングされる。さらに別の態様では、表面はマルチウェル組織培養プレートであり、またトランスフェクション複合体は、ウェルの少なくとも1個の表面に固定化される。好ましい態様では、表面は96ウェルまたは384ウェルの組織培養プレートである。
【0171】
さまざまな表面材料も対象となり;本発明では、材料はガラス、プラスチック(ポリプロピレンやポリスチレンなど)、フィルム(酢酸セルロースなど)、および膜(ナイロンシートなど)を含むがこれらに限定されない。材料の種類は後の応用によって変わる。
【0172】
しかし表面は一般に必ずしも、核酸および細胞の両方が接着するような化合物でコーティングされる必要はない。さまざまなコーティングが対象となり;本発明では、コーティングはポリリシン、フィブロネクチン、およびラミニンを含むがこれらに限定されない。コーティングの種類は核酸および細胞の両方によって変わる。好ましくは、HEK−293細胞と発現ベクターの場合は、コーティングはポリリシンである。
【0173】
トランスフェクション混合物は、直接ピペッティング、エアロゾル噴霧、静電気的沈着、および機械的沈着(固体ピンを使用)を含むがこれらに限定されない、いくつかの手段で塗布することができる。塗布には、一種類のトランスフェクション複合体混合物の1個のスポットへの1回の塗布および複数回の塗布が含まれる。複数回塗布することで、トランスフェクション複合体の多層が形成すると考えられ、またトランスフェクション効率が上昇する。効率の上昇は部分的には、表面のみに対する細胞の親和性と比較したときの、トランスフェクション複合体に対する細胞の親和性が高いことに起因すると考えられており;トランスフェクション複合体が多層をなすことで、トランスフェクション複合体の一層がエンドサイトーシスで取り込まれると、細胞が次に低いレベルのトランスフェクション複合体に結合し、またこれらの複合体のエンドサイトーシスが開始すると考えられている。好ましくはトランスフェクション複合体混合物は、固体ピンを用いてスライド上に塗布され、また複数回(2〜5回)塗布される。スポット中の核酸量は、初期核酸濃度、および個々の塗布時に塗布される容量、および塗布回数によって変わり;好ましくは核酸量は2〜500 ngであり、また最も好ましくは20〜150 ngである。トランスフェクション複合体混合物を塗布する条件は好ましくは高湿度であり;最も好ましくは湿度は70〜80%である。
【0174】
次にトランスフェクション複合体混合物のスポットを乾燥させる。乾燥条件はさまざまであり、室温における乾燥(チャンバー内、または組織培養フード内)、真空乾燥、赤外光照射による乾燥、および加熱(約50〜200℃)による乾燥を含むがこれらに限定されない。好ましくはスポットは、紫外光を遮断した組織培養フード内の10 cmの組織培養ディッシュ中でガラス製スライドなどの表面上で乾燥させる。
【0175】
典型的には、トランスフェクション複合体混合物の複数の試料を一つの表面に塗布し、そこで各混合物をスポット中に塗布し、また各スポットは一種のみの混合物を含む(一回もしくは複数回の塗布が可能)。結果として、固定化されたトランスフェクション複合体のスポットのアレイが表面上に得られる。この場合、アレイはスポットのパターンであり、好ましくはパターンは複製可能であるか、および/または適切な検出装置で検出可能である。各スポットは一般に、固定化されたトランスフェクション複合体の一種の試料を含むが、トランスフェクション複合体の一種の試料は、一種〜複数種の核酸を含む場合がある。またアレイ状のさまざまなスポットは、同じトランスフェクション複合体、または異なるトランスフェクション複合体を含む場合があり;トランスフェクション複合体は、存在する複合剤、存在する核酸の種類、またはこれらの両方が異なる場合がある。典型的には異なるスポットは、存在する核酸の種類が異なる。したがってアレイは典型的には、少なくとも数個から大半が、一つのスポットに固有の核酸種を含むスポットを含む。このような固有の、またさまざまな種類の核酸は次に典型的には、このような核酸でトランスフェクトされた細胞内で異なる作用を生じる;作用はSTEPの用途によって変わる。トランスフェクトした核酸の作用を次に検出装置で測定し、アレイ中の核酸位置によって任意の特定の作用が決定される核酸を同定する。
【0176】
細胞:種類、調製、プレーティング、および培養
A.細胞の種類
STEPにおいて固定化された核酸に塗布される細胞は宿主細胞とみなされる場合がある。本発明は、培養細胞および供給源から採取直後の細胞(例えば組織または器官から切除直後の細胞)の両方を対象とする。培養細胞には一次培養、細胞系列、および三次元培養細胞のすべてが含まれる。本発明はまたインビボにおける細胞も対象とする。
【0177】
本発明のいくつかの態様では、宿主細胞は高等真核生物の細胞(例えば哺乳類細胞)である。本発明の他の態様では、宿主細胞は下等真核生物の細胞(例えば酵母細胞)である。本発明のさらに他の態様では、宿主細胞は原核生物の細胞(例えば細菌細胞)の場合がある。宿主細胞の特定の例には大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、枯草菌(Bacillus subtilis)、およびシュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、およびブドウ球菌(Staphylococcus)属のさまざまな種、ならびに***酵母、出芽酵母、ショウジョウバエ(Drosophila)S2細胞、ハスモンヨトウ(Spodoptera)Sf9細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル腎繊維芽細胞のCOS−7系列(Gluzman、Cell 23:175 (1981))、293T、C127、3T3、HeLa、およびBHKの各細胞系列、NT−1(タバコ培養細胞系列)、および根分泌(rhizosecretion)における根細胞および培養根(Glebaら、Proc Natl Acad Sci USA 96:5973〜5977 (1999))が含まれるがこれに限定されない。STEPで植物細胞を使用する際には、当技術分野で周知の手法で細胞壁を除去する必要がある場合がある。
【0178】
高いトランスフェクション効率が、HEK−293T細胞、HEK−293細胞、およびNIH−3T3細胞で認められている。COS−1細胞などの他の細胞種が使用される場合もある。
【0179】
B.細胞培養および培養期
本発明では、細胞はトランスフェクションに先だって、例えば米国組織培養コレクション(American Tissue Culture Collection)によって決定されている方法、または文献(例えばMorton、H.J.、In Vitro 9:468〜469 (1974))に記載されている当技術分野で周知の方法で培養される。本発明の一つの局面では、典型的には細胞は次に処理されてから、固定化されたトランスフェクション複合体に添加され;好ましくは処理はトリプシン化である。
【0180】
本発明の一つの態様では、HEK−293T細胞は、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で37℃で、加湿した組織培養インキュベーター内で5% CO2下で維持される。細胞をプラスチック上またはガラス上で増殖させた後にSTEPによるトランスフェクションに使用する。細胞が80%のコンフルエンシーに達したら、0.25% トリプシン(溶媒:1 mM EDTA)で処理して細胞を成長用基質から剥がして継代培養する。細胞を1000×gで遠心してトリプシン化用培地を除去する。細胞ペレットをDMEM中に再懸濁し、当初の成長容量の約4倍に細胞を希釈して20%のコンフルエンシーを得る。他の態様では、NIH 3T3細胞およびCOS−1細胞が同様に処理される。
【0181】
G2/M期の細胞のトランスフェクション効率が最高なので、いくつかの態様では、トランスフェクション効率は文献(Mortimerら、Gene Ther 6:401〜411 (1999);Tsengら、Biochim Biophys Acta 1445:53〜64))に記載されているように、ダブルチミジン阻害、アフィジコリン処理、またはノコダゾール処理で同調させた細胞で最も高い。
【0182】
C.細胞密度
細胞密度はSTEPによるトランスフェクションにおける重要な因子の一つであり;非三次元細胞培養物を使用する態様では、初期プレーティング密度として10〜105 細胞/cm2が好ましい。細胞密度が高くなるほど、発現のピークが早く訪れる。これは高密度における接触阻害によると考えられる。
【0183】
D.トランスフェクトされた細胞
STEPで過去にトランスフェクトされ、適切な選択用薬剤で選択された細胞系列では、トランスフェクション効率が高いことがわかっている(約5〜10倍)。このような細胞が本発明では選択的に使用される。
【0184】
E.プレーティング
調製後の細胞を、固定化された核酸に当技術分野で周知の従来の手段で添加する。典型的には、非三次元細胞培養物、および採取直後の細胞を用いる本発明のいくつかの局面では、細胞は培地中に特定の密度で存在し;培地の量および細胞の密度は、個々の細胞種および核酸について決定される。好ましくは、添加される培地の量は約5〜30 ml/10 cm(組織培養ディッシュ)の範囲であり;最も好ましくは約20 mlの培地が添加される。プレーティングする細胞濃度は約103〜108/20 mlの範囲であり;好ましくは20 mlあたり106個の細胞を添加する。固定化されたトランスフェクション複合体の各スポットに塗布される細胞数は、固定化されたトランスフェクション複合体上にプレーティングされる細胞の濃度、固定化されたトランスフェクション複合体のスポット数、および細胞がプレーティングされる固定化されたトランスフェクション複合体の密度によって変わる。好ましくはトランスフェクション複合体のスポット1個あたり約1〜1000個の細胞がプレーティングされ;より好ましくはスポット1個あたり約20〜100細胞がプレーティングされる。好ましくはHEK−293はトリプシン処理直後に、固定化された核酸スポットに添加する。
【0185】
細胞は、適切な時間、適切な温度で、適切な大気条件下で培養する。温度および大気条件は、細胞および核酸の種類によって変わり;HEK−293細胞の場合、インキュベーション温度は好ましくは5% CO2下で37℃である。
【0186】
細胞は培養物中で適切な時間をかけてトランスフェクトされる。この時間は、使用されるトランスフェクションの種類によって変わる。典型的には時間は約1時間〜30日間の範囲であるが、好ましくは約24〜72時間である。
【0187】
三次元培養細胞を用いる本発明の他の局面では、核酸を固定化する表面を細胞に塗布する。表面および三次元細胞構造はいずれも、固定化された核酸が、検出される作用のパターンと相関可能なようにマークされる。細胞を細胞培養物に適切な条件下でトランスフェクトし;好ましくは、トランスフェクションが受動的に起こる。
【0188】
本発明のさらに他の局面では、核酸を固定化する表面を、組織もしくは器官、または他のインビボで移植可能な表面に塗布する。このような塗布には外科的移植が含まれるがこれらに限定されない。いくつかの態様では表面はフィルムまたは膜であり;表面および組織または器官の両方が、固定化した核酸のアレイが検出される作用のパターンと相関可能なようにマークされる。特定の器官または組織に適した条件下で細胞をインビボでトランスフェクトし;好ましくはトランスフェクションは受動的に起こる。一つの態様では、組織は腫瘍であり、また検出される作用は、核酸によるトランスフェクション後における腫瘍細胞の成長である。
【0189】
トランスフェクション
A.方法
いくつかの態様では、細胞のトランスフェクションを促進するためにさまざまな方法が用いられる。方法には、浸透圧ショック、温度ショック、およびエレクトロポレーション、ならびに圧力処理などがあるがこれらに限定されない。圧力処理では、プレーティングした細胞をチャンバー内のピストンの下に据え、高圧を加える(例えばMannら、Proc Natl Acad Sci USA 96:6411〜6 (1999)に記載)。プレーティングに続くインサイチューにおける細胞のエレクトロポレーションは、トランスフェクション効率を高めるために使用される場合がある。プレートの電極は、この目的でBTX/ジーントロニクス(BTX/Genetronics)から入手可能である。
【0190】
293−HEK細胞を使用する態様では、細胞は好ましくは、固定化された核酸複合体によって受動的にトランスフェクトされる。
【0191】
B.促進
いくつかの態様では、発現を上昇させるためにトランスフェクション中に化合物が含まれる。このような化合物には、リソソーム阻害剤(クロロキンなど)、およびヌクレアーゼ阻害剤(DMI22など)などがあるがこれらに限定されない。
【0192】
遺伝子発現:検出および定量
本発明のさまざまな局面では、遺伝子発現は、任意の複数の方法で、トランスフェクション後の適切な時期に検出する。トランスフェクション後の時間は細胞および核酸によって変わり;HEK−293細胞の場合、細胞は、プレーティング後の少なくとも16時間かけて静かに培養する(16時間後に遺伝子発現を検出することができる)。
【0193】
A.蛍光
さまざまなタンパク質(GFP、DsRed、アクエオリン)の蛍光は、スライドを適切に固定した後に、蛍光顕微鏡、またはマイクロアレイスライドスキャナーで直接測定される。蛍光顕微鏡を使用することで、同じ細胞を経時的に連続的にモニタリングして、タンパク質発現を調べることが可能となる。またスキャナーを使用することで、蛍光のより迅速かつ正確な定量が可能となるが、細胞は固定しなければならない。
【0194】
酵素活性も、色素生産性の基質または蛍光基質を用いて、生きている細胞または固定化した細胞内で測定することができる。
【0195】
B.抗体
抗体(M2 Flagほかの抗体)も、STEPによってトランスフェクトされたタンパク質の検出に使用される。
【0196】
C.レポーターアッセイ法
レポーターアッセイ法は一般に、STEPによるトランスフェクションに最適化されなければならない。また最適な条件は、より標準的なトランスフェクション法で用いられる条件とは異なる場合がある。変化させる重要なパラメータは、レポーターベクターの量、レポーターの発現時間、および使用するレポータータンパク質のタンパク質分解による半減期である。
【0197】
D.選択
遺伝的選択を行うことで、STEPにより安定にトランスフェクトされた細胞が単離される。ハイグロマイシン、G418、およびピューロマイシンを用いる選択はいずれも高い効率で使用される。HEK−293細胞内における安定形質転換体の選択は、望ましならばプレーティングの約48時間後に開始することができる。
【0198】
STEPの応用
本発明の方法には多くの応用がある。以下に挙げる応用例は説明目的で記載するものであり、制限する意図はない。
【0199】
A.新規 cDNA の機能スクリーニング
本発明の一つの局面では、タンパク質キナーゼファミリーの新規分子をコードする数千種の発現ベクターのSTEPアレイが、特定のエンハンサー領域に続く発現調節能力に関して、特定の蛍光レポーターコンストラクトを用いて容易にスクリーニングされる。本発明の他の局面では、新しい転写因子が同様にスクリーニングされる。本発明のさらに他の局面では、多種多様なクラスのタンパク質の機能がSTEPによるトランスフェクションで評価される。一つの態様では、タンパク質キナーゼおよび転写応答配列の小規模なファミリーの典型的な解析について実施例13に記載されている。
【0200】
B.薬剤スクリーニング
本発明の一つの局面では、タンパク質チロシンキナーゼに対する発現ベクターのSTEPアレイが、さまざまな候補薬剤で処理され、またキナーゼのインビボ活性は、細胞を固定化して抗ホスホチロシン抗体で染色することで決定される。アレイの数千枚のスライドの「コピー」がDNAアレイヤーで自動的に簡単に作製されるので、数千種の薬剤がインビボ阻害に関してスクリーニングされる。一群のキナーゼは、STEPによってトランスフェクトされた細胞を培養物中でさまざまな成長因子で処理すると活性化される。本発明の他の局面では、STEPによるトランスフェクションを同様に用いた、数百種の異なる薬剤のアッセイ法が対象となる。
【0201】
本発明のさらに他の局面では、薬剤の代謝がSTEPで解析される。薬剤によってSTEPで測定される経路が変化することがわかれば、薬剤代謝に関与することが知られているさまざまな酵素(例えばシトクロムP450ファミリー)に対応する発現ベクターをSTEPに含めることができる。特定のシトクロムP450が薬剤の代謝に関与するのであれば、P450酵素を同時トランスフェクトすることで、薬剤がSTEPによるアッセイ法に及ぼす作用は小さくなるはずである。非制限性の例では、MAPキナーゼカスケードの強力な阻害剤である薬剤PD098059にシトクロムP450が及ぼす作用が測定される。RasV12の過剰発現は、STEPによってトランスフェクトされた細胞内においてElk−1レポーターを活性化させ、またPD098059はこの活性化を阻害する。RasV12およびElk−1レポーターと組み合わせて、シトクロムP450ファミリーのさまざまな酵素を用いるトランスフェクションは、トランスフェクトされたシトクロムP450がPD098059を代謝して不活性化合物とする場合に、Elk−1レポーターのPD098059による阻害を逆転させる。
【0202】
本発明の別の局面では、STEPにより、既知の受容体またはオーファン受容体に対してアゴニストおよびアンタゴニストとして作用するリガンドおよび薬剤を同定することができる。
【0203】
C.変異誘発試験
本発明の別の局面では、STEPアレイを用いて、変異型タンパク質の活性を決定する十分高感度のレポーターアッセイ法によってタンパク質のランダム変異のスクリーニングが行われる。本発明の一つの態様では、cGMP依存性タンパク質キナーゼの自己阻害ドメインの変異誘発が調べられる。というのは、同キナーゼに変異を誘発することで構成的な活性化が誘導され、また環状AMP−応答配列−緑色蛍光タンパク質(CRE−GFP)レポーターコンストラクトの転写調節が関与するトランス活性化アッセイ法を行うことで、構成的に活性な変異体が同定される。このようにして数千種の変異体が1枚のスライド上でスクリーニングされ、複数回の反復実験が容易に行われる。変異体のコレクションを用いることで、cGKのアミノ酸末端にある阻害ドメインが決定される。本発明の他の態様では、単一細胞アッセイ法が利用可能であったり、またはこのアッセイ法が機能に関する読み値に対して工夫されたりする多種多様のタンパク質を対象に、変異誘発および解析が同様に行われる。
【0204】
本発明の別の局面では、STEPアレイにより、DNA修復に作用するタンパク質が同定される。一つの態様では、GFPレポーターコンストラクトの開始コドン(ATG)またはその近傍に1塩基ミスマッチを含むレポーター分子が作製される。このレポーター分子はDNAのコード鎖中に適切な塩基(ATG)を含むが、非コード鎖中に変異のある塩基(正常なCATに対してCAC)を含む。非コード鎖上のミスマッチを修復することで、適切なRNA配列によるmRNAの転写が開始されて、機能性GFP分子が作製される。DNA修復レポーターを、STEPで潜在的DNA修復酵素と同時にトランスフェクトすると、DNA修復酵素によるDNAミスマッチの修復能力が細胞の蛍光によって示される。
【0205】
D.アンチセンススクリーニング
本発明の別の局面では、数千種のアンチセンスオリゴヌクレオチド、およびアンチセンス発現ベクターを含むSTEPアレイを対象に、個々のタンパク質の発現阻害能力についてスクリーニングが行われる。本発明の態様では、この応用の試験系は、蛍光タンパク質、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド、ならびに実施例12に記載されたアンチセンスコンストラクトを用いて開発される。本発明の、より広い応用性がある他の態様では、標的タンパク質と蛍光レポーターとの融合タンパク質コンストラクトがスクリーニング過程に使用される。有効なアンチセンスツールのスクリーニングおよび同定に本発明を用いることは、アンチセンス法の実用的な用途に劇的かつ肯定的な影響がある。
【0206】
E.インビトロにおけるタンパク質相互作用
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が、タンパク質の相互作用のインビボ検出について報告されており、マイクロアレイを用いたDNAマイクロアレイフォーマットで容易に検出される。遺伝的にコードされた緑色蛍光タンパク質バリアントに由来するFRETを用いてタンパク質間結合を決定するいくつかのインビボ法が報告されている(Zaccoloら、(2000) Nat Cell Biol 2:25〜29;PollackおよびHeim (1999) Trends Cell Biol 9:57〜60)。本発明のさらに別の局面では、特徴が未決定の対象配列と蛍光ドナータンパク質との融合タンパク質に対する発現ベクターのライブラリーが作製されており、インビボにおける相互作用が、このような融合タンパク質のライブラリーに由来する蛍光アクセプタータンパク質に融合する適切な「ベイト」タンパク質を有する発現ベクターの同時トランスフェクションによって検出される。
【0207】
F.タンパク質 − タンパク質複合および翻訳後修飾の同定
本発明のさらに別の局面では、STEPにより、タンパク質の翻訳後修飾の同定、およびタンパク質間の相互作用の同定が行われる。この局面では、好ましくはインサイチューで容易に精製され、また重量が好ましくはこれもインサイチューで測定されるタンパク質をコードするDNAをSTEPによって細胞にトランスフェクトする。一つの態様では、STEPは、ポリリシンでコーティングされた酢酸セルロース膜上で行われ、また少なくとも一種のトランスフェクトするDNAは、ヘキサヒスチジンエピトープタグを有するタンパク質をコードする。発現されたタンパク質は次にニッケル/NTAアフィニティー膜へインサイチューで移すことで精製され;ヘキサヒスチジンタグの付いたタンパク質(およびこれに結合したタンパク質)のみがニッケル/NTAアフィニティー膜に結合するが他のすべての細胞タンパク質は洗浄時に除去される。次に精製タンパク質(および結合した任意のタンパク質)の分子量をMALDI質量分析法で決定する。ヘキサヒスチジンタグタンパク質の翻訳後修飾(リン酸化、グリコシル化、タンパク質分解性の切断を含むがこれらに限定されない)は分子量の増加から明らかになる。別の態様では、第二のタンパク質をコードする少なくとも第二のDNAを、ヘキサヒスチジンタグを有する第一のタンパク質をコードする第一のDNAと同時にトランスフェクトし、上述のように発現タンパク質を精製して分子量を決定する。ヘキサヒスチジンタグを有する第一のタンパク質に対する少なくとも第二のタンパク質の結合も分子量の増加から明らかになる。
【0208】
G.インビボにおける細胞トランスフェクション
STEPによるトランスフェクションは、培養物中における細胞系列のトランスフェクションに制限されないので、その有用性は広い。本発明のさらに別の局面では、STEPは一次培養物に用いられる標準的な培養法によって、広範囲のさまざまな組織および生物体に由来する細胞の一次培養物のトランスフェクションに応用される。本発明の別の局面では、STEPによるトランスフェクションは、トランスフェクション複合体が固定化された酢酸セルロース膜などの表面を移植することでインビボで使用される。一連の態様では、トランスフェクション複合体は、発現ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドを含み;膜が生物体の固形腫瘍中に移植され、STEPによるトランスフェクションが限局性の腫瘍の細胞成長、または生存能に及ぼす作用が、移植後のさまざまな時点で決定される。
【0209】
実験例
以下に挙げる例は、本発明のある好ましい態様および局面を示すために、また説明するために提供するものであり、本発明の範囲を制限する意図はない。
【0210】
以下の実験手順に関する開示では以下の省略形を用いる:N(正常);M(モル濃度);mM(ミリモル濃度);μM(マイクロモル濃度);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル):pmol(ピコモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);lもしくはL(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏温度);Sigma (Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO);CRE(cAMP応答配列);CREB(cAMP応答配列結合タンパク質);ATP(アデノシン5’三リン酸);STK(タンパク質セリン−スレオニンキナーゼ);PTK(タンパク質チロシンキナーゼ);mRNA(メッセンジャーRNA);hnRNA(異核RNA);cDNA(相補的DNA);DEAE(ジエチルアミノエチル);G418(ジェネティシン);GFP(緑色蛍光タンパク質);EGFP(強化型緑色蛍光タンパク質);FRET(蛍光共鳴エネルギー移動);DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地);CMV(サイトメガロウイルス);VASP(血管拡張因子およびAキナーゼ促進型リンタンパク質);PEST(プロリン、グルタミン酸、セリン、およびスレオニンに富む);Neo(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ);Cα(cAMP依存性タンパク質キナーゼ触媒サブユニットのαイソ型);PKA(cAMP依存性タンパク質キナーゼ);PKG(cGMP依存性タンパク質キナーゼ);RRC(レシオメトリック応答細胞(ratiometrically responsive cell));SGK(血清およびグルココルチコイド誘導性タンパク質キナーゼ);PKCα(タンパク質キナーゼCのαイソ型);CaMKII(カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼのII型イソ型)。
【0211】
実施例
実施例1
STEP:表面トランスフェクションおよび発現法
一つの態様では、本発明は、以下に挙げる方法を提供する。この方法は、特に明記した部分を除いて後続の実施例で使用される。
1.トランスフェクション複合体の調製
a.プラスミドDNAを0.12 mg/ml(dH2O中)に希釈する。
b.1容量のプラスミドDNAをマイクロタイタープレートのウェルに添加する。
c.1容量のトランスフェリン−ポリリシン複合体を1 mg/ml(0.4モルのポリリシン/1モルの鉄結合トランスフェリン)で添加し、混合して、室温で5分間インキュベートする。
d.1容量の2 mg/ml リポフェクタミンを添加し、混合して、室温で20分間インキュベートする。
2.核酸の固定化
a.混合物を高湿度下(70〜80%)で、固体ピンを用いて、また複数回のスポッティング(2〜5回)でスライド上にスポットする。
b.紫外光を遮断した組織培養フード中の10 cmの組織培養ディッシュ内の顕微鏡用スライド上で複合体を乾燥させる。
3.HEK−293 細胞のプレーティングおよび培養
a.106個のトリプシン処理直後の指数関数的に増殖しつつあるHEK−293細胞を含む20 mlの培養物を添加する。
b.5 % CO2下で、37℃でインキュベートする。
c.プレーティング後に、攪拌することなく少なくとも16時間かけて細胞を培養する。
4.発現の検出
タンパク質の発現は、早くて16時間後に検出することができる。
5.形質転換体の選択(必要に応じて)
プレーティング後の48時間以内に安定な形質移入体を選択する。
【0212】
STEPで使用する前に、HEK−293T細胞を、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で37℃で、加湿した組織培養インキュベーター内で5% CO2下で維持する。細胞をプラスチックまたはガラス上で成長させてからSTEPによるトランスフェクションに使用する。細胞のコンフルエンシーが80%に近づいたら、0.25%トリプシン(溶媒:1 mM EDTA)で処理して成長用基質から細胞を剥がして継体培養する。1000×gで遠心して細胞を沈殿化させ、トリプシン化用培地を除去する。細胞の沈殿をDMEM中に再懸濁し、当初の成長容積の約4倍に細胞を希釈して20%のコンフルエンシーとする。NIH 3T3細胞およびCOS−1細胞の処理は同様に行われる(Morton、H.J. In Vitro 9:468〜469、(1974))。
【0213】
核酸は好ましくは、STEPによるトランスフェクション効率が最高となるスーパーコイル状のDNAであり、これは典型的には1 mg/mlの臭化エチジウムの存在下で平衡密度勾配遠心法で単離される。単離されたスーパーコイル状のDNAを飽和ブタノールで抽出して臭化エチジウムを除去し、酢酸ナトリウムの存在下でエタノールで沈殿させて単離する。DNAは、陽イオン性クロマトグラフィー用溶媒を用いるイオン交換クロマトグラフィーおよびNaClによる溶出によって単離することもできる。
【0214】
実施例2
STEPによるトランスフェクションプロトコールの開発
最初に緑色蛍光タンパク質(GFP)発現ベクター(pEGFP−C1、Clontech)、およびCOS−1細胞またはHEK−293を用いて、STEPによるトランスフェクションプロトコールを開発した。培養物中の細胞を、ポリリシンでコーティングされたプレートに直接添加されたDNAでトランスフェクトする初期の試みでは、107個の細胞に1個未満の散発的な低トランスフェクション効率が得られた。この主な原因は、スポッティングおよび培養手順中における蛍光標識DNAの推移のモニタリングから判定されるように、プレートやスライドの表面からDNAが失われてしまったことによるものであった。DNAと陽イオン性タンパク質(ポリリシンやヒストンなど)の複合体を形成させることによって103個に1個〜104個に1個という高いトランスフェクション効率が得られたが、多数の偽陽性細胞も認められた。偽陽性細胞は、DNA複合体を塗布した領域外で認められた。トランスフェクションの注意深い経時的観察から、偽陽性細胞が、DNA複合体の断片化、およびこれに続く、DNA塗布領域外における細胞のトランスフェクションに起因すると判定された。DNA複合体を化学的に架橋することで偽陽性クローンの数は減少したが、複合体上にプレーティングした細胞のトランスフェクション効率も大きく減少した。
【0215】
陽イオン性脂質/DNA複合体を使用することで細胞に毒性が生じ、DNA上にプレーティングした細胞からの発現はみられなくなった。毒性はDNA、陽イオン性脂質、およびヒストンまたはポリリシンの3元複合体では低下した。トランスフェクション効率はそれでも低く、102個に1個〜103個に1個の範囲であった。しかし他の研究者によって過去に報告されているように、トランスフェリンを複合体に含め、複合体と共有結合でカップリングさせることで、遺伝子のトランスフェクションで報告されるように、トランスフェクション効率が液相で大きく上昇している(Zenkeら、Proc Natl Acad Sci USA 87:3655〜9 (1990);Cheng、P.W.、Hum Gene Ther 7:275〜82 (1996)。
【0216】
STEPプロトコールで効率のよいトランスフェクションを示す細胞系列には、NIH−3T3繊維芽細胞、HEK−293細胞、およびHEK−293T細胞などがあり、COS−1細胞およびCOS−7細胞では効率は低い。効率のよいトランスフェクションが未だ示されていない細胞系列には、C6グリオーマ細胞、N1E−115神経芽腫細胞、NG−108神経芽腫−グリオーマ細胞、C361細胞、およびSY5Y細胞などがある。STEPによって高い効率でトランスフェクトされる細胞系列の数を増やす手順については実施例11に記載されている。プレーティングされる細胞の条件、および細胞密度はいずれもSTEPの効率に重要である。プレーティング対象の細胞は、好ましくは指数関数的に、トリプシン処理前の時点で30〜50%のコンフルエンシーで増殖しており、また好ましくは、1〜5×104細胞/cm2の密度で、塗布したDNA複合体上にプレーティングされる。
【0217】
また、この実施例では、効率のよいSTEPによるトランスフェクションには、DNA複合体が塗布される表面が、ポリリシンで前処理されること、また70〜80%の湿度および約18〜22℃の温度を制御した条件下においてDNA複合体が塗布されることが必要である。適切に形成されたDNA複合体は、培地中の組織培養条件下で72時間またはこれ以上の時間安定している。
【0218】
最適化されたSTEP条件を用いると、DNAにプレーティングされた細胞に20〜70%のトランスフェクション効率が得られ、偽陽性発生率は極めて低い(<1%)ことが普通である。特定の例を以下に示す。
【0219】
実施例3
STEPによりトランスフェクトされた細胞のDsRedレポーター発現による検出
実施例1に記載されたSTEP、および以下に記載された手順にしたがって、DsRed用発現ベクターをHEK−293T細胞にトランスフェクトした。HEK−293T細胞は、SV40 T抗原を発現するHEK−293細胞であり、SV40の複製起点を含む発現ベクターの高コピーの複製が可能である。pDsRed−C1プラスミドDNA(Clontech、20 ng)、リポフェクタミン(130 ng)、トランスフェリン(20 ng)、およびポリリシン(40 ng)を含む200ナノリットルの溶液を、ポリリシンでコーティングされた顕微鏡用スライドの表面に塗布した。この溶液を30分間かけて乾燥させ、顕微鏡用スライドを10 cmの組織培養ディッシュへ移した。この場合、HEK−293T細胞を、DMEM(10% FCSを含む)中の顕微鏡用スライド上にプレーティングし、細胞を、加湿した5% CO2のインキュベーター内で48時間インキュベートした。DsRed(海生サンゴに由来する赤色蛍光タンパク質;Fradkovら、FEBS Lett 479:127〜30 (2000))の発現は蛍光顕微鏡で決定した。細胞の写真を明視野下で撮影し、またはローダミンフィルターを用いて蛍光を観察した。DNAスポットの輪郭が明視野像で認められ、DNAのスポットそのものが像の下半分を占めている。DNAスポットの細胞密度は、スポットの外側の細胞密度より低い。これは部分的には、細胞がDNAスポットに対して、スポット周囲のポリリシンに対する接着より低い効率で接着するためであり、また部分的には、トランスフェクトされた細胞の複製が阻害されるためである。この実験では、トランスフェクション効率は30%と判定され、偽陽性出現率は0.1%未満であった。
【0220】
実施例4
複数の遺伝子の同時発現および検出
A.二種のタンパク質: GFP および DsRed
GFPおよびDsRed用の発現ベクター(Fradkovら、FEBS Lett 479:127〜30 (2000))を用いて、STEPによるトランスフェクション中における同時発現の効率を、実施例1および以下に記載された手順にしたがって決定した。トランスフェクション複合体は、二種の発現ベクターのいずれかから個別に、または二種の発現ベクター混合物から形成させた。3個のDNAスポットをSTEPで標準的な顕微鏡用スライドに塗布した。左側のスポットはpDsRedC1発現ベクター(20 ng)のみを含んでおり、中央のスポットはpEGFPC1発現ベクター(20 ng)のみを含んでおり、また第三のスポットは、pEGFPC1ベクターとpDsRedC1ベクター(各10 ng)の等量混合物を含んでいる。細胞をDNAスポット上にプレーティングし、24時間後にローダミンフィルターセット(A)、またはフルオレセインフィルターセット(B)を用いて蛍光顕微鏡写真を撮影してDsRedまたはGFPの発現をそれぞれ検出した。両蛍光タンパク質とも、DNAスポットに対して50%を上回る細胞で検出され、DsRed陽性細胞の100%はGFP陽性でもあった。またGFP陽性細胞の85%だけがDsRed陽性でもあった。これはDsRedタンパク質と比較してGFPタンパク質の内因性蛍光が大きいためであった。したがって以上の結果は、EGFPに対する検出感度はDsRed発現ベクターの方が高いものの、細胞が両蛍光タンパク質を100%の効率で同時に発現していることを示す。同時トランスフェクション効率がこのように高いことは、同じ細胞内で二種またはそれ以上のトランスフェクトされたタンパク質の相互作用を必要とするトランス活性化アッセイ法および他のアッセイ法が、STEPによるトランスフェクションを用いることができることを意味する。
【0221】
B.4 種のタンパク質: EFGP 、 DsRed 、β − ガラクトシダーゼ、およびピューロマイシンに対する耐性
少なくとも4種の異なる発現ベクターを、STEPによるトランスフェクションで細胞に同時に導入した。トランスフェクション複合体は、全4種の発現ベクターを混ぜた混合物から形成させた。個々の細胞は、EGFP(pEGFP−C1;Clontech)、DsRed(pDsRed−C1;Clontech)、β−ガラクトシダーゼ(CMV.βgal;Huggenvikら、Mol Endocrinol 5:921〜930 (1991))、およびピューロマイシン耐性(pPUR;Clontech)と同時にSTEPでトランスフェクトし;次に全4種のタンパク質の発現をトランスフェクション後に観察した。4種のタンパク質の発現は、ピューロマイシンの存在下で、緑色蛍光、赤色蛍光、β−ガラクトシダーゼの細胞化学的染色、およびピューロマイシン存在下における成長が同時に検出された。
【0222】
実施例5
STEPによってトランスフェクトされた細胞の非蛍光的手法による検出
蛍光は最も迅速かつ高感度の遺伝子発現検出法であるが、STEPによってトランスフェクトされた細胞は、いくつかの異なる方法で検出することもできる。一つの方法では、ハイグロマイシン耐性遺伝子の発現を誘導するpTK−Hygプラスミドを含むDNA複合体をガラス製スライド上にスポットし、同スライド上に細胞をプレーティングした。細胞をプレーティングしてから48時間後にハイグロマイシン(100 mg/ml)を培地に添加し、さらに10日間、培地を3日ごとに交換しながら細胞をインキュベートした。細胞の大半は死滅して洗浄時に除去されたが、顕微鏡写真から、生きている細胞の「コロニー」が、STEPによってトランスフェクトされたスポットのすぐ上に位置することがわかった。したがって、この結果から、トランスフェクトされた細胞を、ハイグロマイシン耐性、G−418耐性、およびピューロマイシン耐性を含む安定形質転換体の確立に使用される一般的な選択可能なマーカーを用いて選択可能であることがわかった。別の方法では、β−ガラクトシダーゼの発現を誘導するCMV.βgalプラスミド(Angelottiら、Journal of Neuroscience 13:1418〜1428 (1993)に記載された手順で調製)をSTEPによるトランスフェクションで使用した。48時間のインキュベーション後に細胞を固定化してX−galで染色した(Sanesら、EMBO J. 5:3133〜3142 (1986)に記載)。顕微鏡写真では、像の左側のスポットと、DNAスポットの縁の両方の部分が認められた。β−ガラクトシダーゼの発現は、DNAスポットの領域内における細胞の暗青色の染色で示された。以上の結果から、β−ガラクトシダーゼによる染色などの細胞化学的染色法による酵素学的検出法も、STEPによるトランスフェクションの証明に使用できることがわかった。
【0223】
実施例6
タンパク質発現のSTEPによる免疫細胞化学的検出
タンパク質のインビボにおける機能を調べ、またトランス活性化アッセイ法においてタンパク質キナーゼなどのエフェクタータンパク質の効率を比較するためには、エフェクタータンパク質の発現を明らかにして定量することが必要である。このような方法の一つには、タンパク質を免疫細胞化学的に検出する段階が含まれる。この手法は、以下の実験からわかるように、STEPによるトランスフェクションで効率よく使用することができる。
【0224】
DNA複合体は、空のベクターDNAであるpCMV.Neo(Vector)か、またはcGMP依存性タンパク質キナーゼによるリン酸化の基質であるFlagタグの付いたVASPタンパク質(Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))をコードするpFlagVASP DNA(pFlagVASP)のいずれかを用いて形成した。この実験の目的では、pFlagVASPは、Flagエピトープタグを有するタンパク質の発現を誘導する発現ベクターとしてのみ作用する。STEPによるトランスフェクションの48時間に、細胞を固定化し、一次M2モノクローナル抗体で染色した後に、ローダミンを結合させたヤギ抗マウス二次抗体で染色した。細胞の明視野像では、DNAのスポットは、pFlagVASPとベクターの両スポットについて明瞭に描出された。同じ組のスポットは、蛍光照射、およびローダミン結合二次抗体を検出用のローダミンフィルターセットを用いた第二の像でも認められた。蛍光は、二つの像の比較によって判定されるように、pFlagVASP発現ベクターを含むスポット上の細胞でのみ検出された。STEPによってトランスフェクトしたpFlagVASPの発現が、スポットの周辺で最高であることも明らかとなった。これは、これらのスポットが最適湿度より低い湿度で生じたためである。したがって以上の結果から、Flagタグタンパク質の発現を、STEPによるトランスフェクション、M2モノクローナル一次抗体、およびローダミン結合二次抗体を用いることで、細胞内で特異的に検出できることがわかった。エピトープタグタンパク質のこのような検出は実施例8で実質的に使用されており、トランス活性化アッセイ法におけるタンパク質の発現が確立および定量されている。
【0225】
実施例7
テトラサイクリン誘導系を用いるトランス活性化アッセイ法
STEPによるトランスフェクションを修飾してタンパク質の誘導性の発現が可能か否かを判定するために、ブジャード(Bujard)らによって開発されたテトラサイクリン誘導系を使用した(Baronら、(2000) Proc Natl Acad Sci USA 96:1013〜1018)。このような実験では、STEPによるトランスフェクション後におけるHEK TetOn細胞内でドキシサイクリンによってEGFP発現が誘導されることが証明されている。
【0226】
二種のDNA複合体がこのような実験用に調製されており、一つはテトラサイクリン応答配列の制御下でEGFPの発現を誘導するpBi−EGFPプラスミド(Clontech)を含み、もう一つの複合体は強力なヒトサイトメガロウイルス初期プロモーターの制御下でEGFPを発現するpEGFP−C1プラスミドDNA(Clontech)を含む。これらの複合体の各スポットを、相互に隣接して2枚の異なる顕微鏡用スライド上に塗布し、HEK TetOn細胞を個別の10 cm培養ディッシュ中の各スライド上にプレーティングした。トランスフェクションの24時間に1枚のプレートをDMEMおよび10% FCS中でインキュベートし、もう1枚を10 mg/mlのドキシサイクリンを含む同じ培地中でインキュベートした。細胞をプレーティングしてから48時間後に蛍光顕微鏡写真を撮影した。1枚の顕微鏡写真から、ドキシサイクリンを使用しなかった対照プレートで蛍光が認められること、また2個のスポットが視認可能であり;左側のスポットはpBiEGFPで形成された複合体に対応し、右側のスポットはpEGFPで形成された複合体に対応していた。ドキシサイクリンの非存在下では、pBiEGFPスポット上の細胞は蛍光を発しなかったが、pEGFP−C1スポット上の細胞の約30%は蛍光を発した。もう1枚の顕微鏡写真では、ドキシサイクリンで処理したスライドに由来する細胞に蛍光が認められた。ドキシサイクリンで処理することで、pBi−EGFPスポット上の20%の細胞で検出可能なGFP発現が認められ、これは同じスライド上のpEGPP−C1スポットについてみられたGFP発現に匹敵していた。
【0227】
以上の結果から、GFPの発現が、テトラサイクリン類似体であるドキシサイクリンを用いることでHEK TetOn細胞内で誘導可能なことがわかった。この実験では、TetOn転写因子は、すべての細胞内で安定に発現されており、またレポータープラスミドpBI−EGFPは、スライドに塗布したSTEP複合体中に選択的に含まれていた。この結果から、ドキシサイクリンでGFPの蛍光が明瞭に誘導されることがわかった。
【0228】
実施例8
構成的に活性なcAMP依存性タンパク質キナーゼによる環状AMP応答性プロモーターのトランス活性化
インビボにおけるキナーゼ活性を測定する転写活性化アッセイ法(Hallら、J Biol Chem 274:3485〜95 (1999);Taylorら、J Biol Chem 275:28053〜62 (2000))は、STEPによるトランスフェクションに適合および改変されている。cAMP依存性タンパク質キナーゼの触媒(C)サブユニットは多くの研究者により、cAMP応答配列結合タンパク質(「CREB」)転写因子をリン酸化して、CREBが二量体として結合するcAMP応答配列(「CRE」)を含む遺伝子プロモーターからの転写を上昇させることが報告されている。標準的なCREヌクレオチド配列は、パリンドロームのヌクレオチド配列TGACGTCAからなる。CREB活性の上昇の検出用に設計されたレポータープラスミド(pCRE−d2EGFP、Clontech)は、CREエンハンサーを含み、EGFPの不安定化誘導体(d2EGFP)をコードすることが報告されている(Liら、J Biol Chem 273:34970〜5 (1998))。この不安定化誘導体は、EGFPの正常なタンパク質分解半減期を24時間から2時間に変化させるオルニチンカルボキシラーゼに由来するPEST配列を含む(Liら、J Biol Chem 273:34970〜5 (1998))。この不安定なEGFPを用いることで、長半減期のタンパク質に固有の問題なく、転写調節の定量性により優れた測定が可能となる。
【0229】
pCRE−d2EGFPをレポータープラスミドとして用いて、cAMP依存性タンパク質キナーゼの構成的に活性な触媒サブユニットの同時トランスフェクションが、pCRE−d2EGFPの転写を調節して、Cサブユニットベクターを使用しなかった対照細胞と比較して、蛍光を高める可能性があるか否かを判定した。以下に示す実験で、STEPアッセイ法におけるCRE含有発現ベクターの転写調節について説明する。トランスフェクション複合体は、pCMV.Neo(2 ng、Huggenvickら、Mol Endocrinol 5:921〜930 (1991)に記載された手順で調製)、およびpCRE−d2EGFP(18 ng)、またはcAMP依存性タンパク質キナーゼのCサブユニットをコードするpCMV.Ca(2 ng、Huggenvickら、Mol Endocrinol 5:921〜930 (1991)に記載された手順で調製)、およびpCRE−d2EGFP(18 ng)の混合物で形成させ、同複合体を、ポリリシンでコーティングした顕微鏡用スライドの表面に塗布した。HEK−293T細胞をプレーティングし、24時間後に蛍光顕微鏡写真を4倍の対物レンズを用いて明視野照射で、またはフルオレセインフィルターセットを用いた蛍光照射により撮影した。pCMV.Neoを含むスポットについて10倍の対物レンズを用いて得た蛍光像と、pCMV.Caを含む別のスポットの像、および個々の陽性細胞を同定することができた。これらの2枚の蛍光像をピクセル密度ヒストグラム解析で解析し、pCMV.Caを用いたSTEPによるトランスフェクションが、pCMV.Neoを用いたSTEPによるトランスフェクションと比較して蛍光強度が16〜20倍高いことが明らかとなった。
【0230】
以上の結果から、cAMP依存性タンパク質キナーゼの構成的に活性な触媒サブユニットの同時トランスフェクションがpCRE−d2EGFPの転写を実際に調節し、またCサブユニットベクターを使用しなかった対照細胞と比較して蛍光強度が高いことがわかった。pCRE−d2EGFP、および空のベクターpCMV.Neoを含むSTEPスポット上にプレーティングした細胞では平均蛍光強度が低い。しかしcAMP依存性タンパク質キナーゼのCサブユニットをコードするpCMV.Ca発現ベクター、ならびにpCRE−d2EGFPを含むSTEPスポットに細胞をプレーティングすると、高い平均蛍光を示すことがわかる。pCMV.CaとpCRE−d2EGFPがトランスフェクトされた細胞に由来する蛍光は、強力な構成的CMVプロモーターを含むpEGFP−C1についてみられる蛍光と同等である。明視野像の詳細な調査から同数の細胞が両DNAスポットに接着していることがわかる。マイクロコンピュータ画像処理装置(Microcomputer Imaging Device)(MCID)ソフトウェアを用いたGFP蛍光上昇の定量から、細胞の蛍光シグナルが16〜20倍上昇することが示唆されている。
【0231】
実施例9
STEPによるトランスフェクション検出目的の蛍光スライドスキャナーの使用
STEPによるトランスフェクションの効率のいくつかの局面について説明した既に説明した実施例の大半では蛍光顕微鏡が使用された。GFP陽性細胞は検出されなかったが、これは利用可能なスキャナーが、最適なGFP検出用の青色アルゴン励起レーザーを備えていなかったためである。しかしDsRed蛍光タンパク質は、遺伝子発現の定量目的でDNAアレイとのハイブリダイゼーションに広く使用されているCy3標識について良好に重複する、558 nmおよび583 nmの励起極大および放出極大を有する。
【0232】
STEPによってトランスフェクトされた細胞におけるDsRedの発現は、以下に紹介する実験で説明された自動走査型蛍光マイクロアレイアナライザーで検出された。DNA複合体を、pDsRed−C1発現ベクターを用いてSTEPによるトランスフェクション用に調製した。8個のDNAスポットが観察され、Cy5フィルターセット(ex 649 nm、em 670 nm)およびCy3フィルターセット(ex 550 nm、em 570 nm)の両方に対する蛍光強度が得られた。スポットの直径は約0.5〜1 mmである。スポットしたDNA複合体は、DNAに対するポリリシン、トランスフェリン、およびリポフェクタミン(登録商標)の重量の比に差があった。比はそれぞれ120 ngのDNAに対して200〜20 ngのポリリシン、800〜80 ngのトランスフェリン、また2000〜200 ngのリポフェクタミン(登録商標)であった。2個のDNAスポットのみが、効率のよいSTEPによる細胞のトランスフェクションを示し;両スポットが含むポリリシン、トランスフェリン、およびリポフェクタミン(登録商標)は、120 ngのDNAに対する比がそれぞれ200 ng、800 ng、および2000 ngと、100 ng、400 ng、および1000 ngであった。これらの細胞に由来する蛍光シグナルはCy3フィルターセットのみで観察された。スポットの一つの5倍の像をTIFFドキュメントで作製した。同スポットの蛍光顕微鏡写真および顕微鏡写真から、個々の蛍光細胞が識別可能であることがわかる。同じ蛍光細胞は、顕微鏡およびスライドスキャナーの両方で明瞭に検出された。
【0233】
以上の結果から、STEPによってトランスフェクトされた細胞が、DNAアレイ蛍光アナライザー、および蛍光顕微鏡で検出可能なことがわかる。個々の細胞から検出された蛍光はCy3フィルターセットに特異的であり、Cy5フィルターセット使用時には認められなかった。同じ細胞は、蛍光顕微鏡にローダミンフィルターセットを付けることで検出された。以上の結果は、STEPによってトランスフェクトされた細胞の定量が、STEP実験の高スループットのデータ解析用のマイクロアレイ蛍光解析に適用可能なことを示している。
【0234】
実施例10
STEPによってトランスフェクトされた細胞の自動アレイヤーによる作製
DNA複合体は、以下に挙げる実験で記載されているように、自動アレイヤーで複合体をスライドにスポットする際に問題なく用いられる。4×4グリッドの16スポットは、自動スポッティングステーション(Genomic Solutions Flexisys)を用いて作製された。乾燥後、HEK−293T細胞を顕微鏡用スライド上にプレーティングし、48時間後に蛍光顕微鏡写真を撮影した。この結果を図2に示す。パネル(A)では、フルオレセインフィルターセットを用いて40倍の倍率でEGFPの蛍光が検出された。パネル(B)では、ローダミンフィルターセットを用いて40倍の倍率でDsRedの蛍光が検出された。パネル(C)では、EGFP、およびいくぶん少ないDsRedの「通過放出(bleed through)」蛍光が、広帯域フルオレセインフィルターセットを用いて100倍の倍率で検出された。矢印は、微量のフルオレセインがDNA複合体中に含まれるために、かろうじて見えるDNAスポットの外周を示す。パネル(D)の図は、アレイヤーで作製されたDNAスポットの種類を示し、第一および第三の列の4個のスポットはpDsRed−C1プラスミドDNAを含み、また第二および第四の列の4個のスポットはpEGFP−C1を含む。
【0235】
以上の結果から、スポットの約90%が少なくとも1個の陽性細胞を示すこと、また50%が少なくとも5個またはそれ以上の陽性細胞を示すことがわかる。各スポットは、明視野像で調べたところ約25〜30個の細胞と接触していた。この実験における自動スポッターの使用には複数の重要なパラメータがある。第一に、スポッティング時の湿度は少なくとも70%とすべきである。さもないとスポッティングピンの先端の液体が、ガラス製スライドへ効率的に移される前に乾燥してしまう。第二に、同じスポットにDNA複合体を複数回塗布することで、トランスフェクション効率が有意に大きくなることがわかる。これはおそらく、DNA複合体の薄膜形成によるものである。第三に、固体ピンは一般に、トランスフェクトされた細胞の作製時において、スポットされたピンより効率的であり、また再現性に優れている。これはおそらくDNA複合体が、スロット下方への効率のよい液体移動を十分妨げるだけの粘性をもつためでである。
【0236】
実施例11
タンパク質機能の変異解析に応用されるSTEPによるトランスフェクション
STEPによるトランスフェクションおよび定量の最適化
STEPによるトランスフェクションは、タンパク質の構造および機能の研究に応用することができる。現在、多くのタンパク質構造研究では、推定ドメインの欠失、および欠失のインビトロにおける、また頻度は少ないもののインビボにおけるタンパク質機能の特性解析が行われている。典型的には、タンパク質のドメイン内で個々のアミノ酸が果たす役割は他のタンパク質との相同性から推定される。この実施例では、cGMP依存性タンパク質キナーゼ(PKG)のドメインにランダムに変異を誘発させ、「機能獲得」変異体について選択を行ってキナーゼの阻害領域を決定する。STEPにより、転写活性化アッセイ法で、インビボにおける変異による活性化に関して、1,000種の変異体の機能スクリーニングが可能となる。この実施例はまた、他の多くの構造/機能研究への応用に関するSTEP法の最適化の概略を示す。
【0237】
A.STEPによるトランスフェクションおよび定量の最適化
STEPによるトランスフェクションは数多くの応用に容易に最適化される。この実施例における実験では、最適化可能な重要領域が同定される。STEP法のこのような最適化では、トランスフェクションに関する分子機序について現在知られている知見が利用される。トランスフェクションは一般に三つの段階からなると考えられている(Ballyら、Adv Drug Deliv Rev 38:291〜315 (1999))。第一段階ではDNAがエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる。エンドサイトーシスによる侵入時にDNAは、液相中に存在するか、または細胞膜の表面に吸着されている可能性がある。STEPにトランスフェリンを組み入れると、DNAが、膜上のトランスフェリン受容体に吸着される可能性が大きくなり、またエンドサイトーシス粒子に侵入することになる。トランスフェクションの第二相では、ほとんどのリソソーム内容物にみられる通常のリソソーム分解からDNAが逃れる。またトランスフェリンは、リソソームとの融合を逃れる可能性がさらに高いエンドサイトーシス粒子亜集団へDNAを誘導する際に補助的に作用する可能性があり、またポリリシンは、リソソームヌクレアーゼからDNAを守るように作用する可能性がある。さらにトランスフェクションの最後の段階では、DNAが核へ輸送される(核内でDNAはRNAポリメラーゼにより転写されることになる)。以上各段階の効率は、DNA複合体の状態、およびトランスフェクトされる細胞の種類に大きく依存する。
【0238】
1.細胞周期が STEP によるトランスフェクションに及ぼす影響
DNA複合体上の全細胞について、ほぼ100%のトランスフェクション効率があることが好ましい。以下に挙げる方法は、トランスフェクション効率をさらに上昇させる。STEPによる最初の実験では、STEPによるトランスフェクション用にプレーティングされた細胞は好ましくは指数関数的成長相にあることが示された。これは、ピークのトランスフェクション効率が細胞周期のG2/M期の細胞で得られるという他の報告と矛盾しない(Mortimerら、Gene Ther 6:401〜411 (1999);Tsengら、Biochim Biophys Acta 1445:53〜64 (1999);Brunnerら、Gene Ther 7:401〜7 (2000))。以上の研究では、トランスフェクション効率は、細胞周期の過程で500倍も変化していた。したがってHEK−293T細胞は、さまざまな方法でG2/M期に濃縮されている。一つの方法では、遠心エルトリエーションにより、細胞が大きさを元に分画され、より大きなG2/M期の細胞に濃縮される(Brunnerら、Gene Ther 7:401〜7 (2000))。細胞のフラクションを採取して、STEPによるトランスフェクション実験のプレーティングに直接使用する。別の方法では、HEK−293T細胞をダブルチミジンブロック処理によって同調させて、細胞をG1期に同調させた後に、STEPによってトランスフェクトされた細胞に対し、第二のチミジンブロックを除去した後のさまざまな時間でプレーティングする(Tsengら、Biochim Biophys Acta 1445:53〜64 (1999))。さらに別の方法では、微小管を分解することでG2/M移行を妨げるノコダゾール(1 mg/ml)、またはDNAポリメラーゼを阻害して細胞をS期で停止させるアフィジコリン(5 mg/ml)のいずれかを使用する(Mortimerら、Gene Ther 6:401〜411 (1999))。このような細胞周期濃縮集団を次に、経時的にpEGFP−C1またはpDsRedC1を用いる、STEPによるトランスフェクション実験に使用して、実施例3および4に記載されたように発現を調べる。G2/M期で濃縮された細胞を用いると、トランスフェクション効率について、非同調的に成長している細胞と比較して4〜5倍の上昇が好ましくは認められる(Mortimerら、Gene Ther 6:401〜411 (1999))。HEK細胞およびNIH−3T3細胞の場合、この結果は80〜90%の細胞が、STEPによって常用的にトランスフェクトされることを意味する。
【0239】
2.トランスフェクション中の処理
トランスフェクション過程中に細胞を処理することでトランスフェクション効率を上昇させることが好ましい場合がある。このような処理にはエレクトロポレーションなどがある。エレクトロポレーションはトランスフェクション手法として広く使用されており、細胞膜を一時的に透過させてDNAの侵入を可能とする(Neumannら、Bioelectrochem Bioenerg 48:3〜16 (1999))。最も標準的な応用では、キュベット中でDNAと共存させることで細胞のエレクトロポレーションを行う。しかしプレートの電極は、細胞が表面(BTX/Genetronics)に接着している間にエレクトロポレーションに利用できるので、同手法は、ヒトの臍静脈細胞(HUVECS)を対象に、キュベット中におけるエレクトロポレーションに匹敵する効率でトランスフェクションを行う際に用いられている(Lewisら、Gene Ther 6:1617〜25 (1999))。HEK−293T細胞を、標準的なSTEPプロトコールでスライド上にプレーティングした後に、プレーティングの1時間、4時間、12時間、および24時間後の時点でエレクトロポレーションを行い、EGFP発現の促進を判定する。エレクトロポレーションの条件は基本的に文献で定義されている(Lewisら、Gene Ther 6:1617〜25 (1999))が、最適値として報告されているパルス幅や電圧などのパラメータはさまざまなである(450Vおよび20ミリ秒)。陽性細胞は蛍光顕微鏡で細胞数を数えることで同定され、トランスフェクションの効率は明視野で細胞数を数えることで決定される。
【0240】
トランスフェクション効率はまた、リソソーム内におけるDNAの分解を妨げることで上昇する。一つの方法では、リソソームに侵入してリソソームの酸性化を妨げることで酵素の分解活性を低下させるクロロキン二リン酸が使用される。クロロキンを最終濃度が100 mMとなるように培地に添加し、細胞を0.5〜4時間プレーティングする。別の方法では、トランスフェクション効率を10倍上昇させることが過去に報告されているヌクレアーゼ阻害剤DMI−2が使用される(Rossら、Gene Ther 5:1244〜50 (1998))。DMI−2は、ストレプトマイセスのポリケチド代謝物であり、使用するにはDMI−2の精製が必要であり、この手順は簡単で約3日を要する(Nagaoら、J Enzyme Inhib 10:115〜24 (1996))。化合物の純度は質量分析で決定され、推定分子量は854 Daである。250〜750 ng/mlのDMI−2濃度においてトランスフェクションが10倍促進されることが認められており、これはロス(Ross)ら、Gene Ther 5:1244〜50 (1998)に報告されている結果と矛盾しない。
【0241】
3.細胞の種類
STEPによるトランスフェクションは、極めて多様な細胞系列に応用するために最適化される。各細胞系列は、タンパク質を発現させるさまざまな環境を意味し、さまざまな細胞種を比較することで、STEP実験から極めて多くの情報が得られる。
【0242】
STEPによるトランスフェクション効率の定量においては、効率は、蛍光による検出が可能な塗布したDNAに対する総細胞数に対するパーセンテージとして定義される。HEK−293T、HEK−293、およびNIH−3T3の各細胞は30%以上のトランスフェクション効率をほぼ常に示す。COS−1、COS−7、およびCV−1の各細胞のトランスフェクション効率は約1〜5%であることが報告されている。検討対象の他の細胞系列(C6グリオーマ、N1E−115、NG−108、C361、およびSH−SY5Y神経芽腫の各細胞)では1%未満であることが報告されている。STEPによるトランスフェクションは、高い効率を当初示したHEK−293T細胞について最適化されている。一般に最適化には、スポットの2次元アレイが使用される。このスポットにおけるDNA複合体の成分の濃度の種類がアレイの一つの次元とともに変動する。したがって典型的な実験の場合。発現ベクターDNAおよび陽イオン性脂質の濃度がそれぞれ100倍異なるがトランスフェリンおよびポリリシンの濃度は一定である100個のスポットアレイが作製される。このようなグリッドは手動でスポット可能であり、各スポットの直径は約1〜2 mmであるので、細胞のプレーティング後に各スポットにつき200〜400個の細胞しか得られない。このような手順では、効率の低い細胞系列の多くについて、トランスフェクションの効率は0.01〜1%の範囲にあるが、上記の手順では検出できないと考えられている。トランスフェクション効率が検出可能な場合、さまざまな成分のプレインキュベーション時間などのパラメータを変化させたり、細胞密度を変化させたりすることでトランスフェクションを最適化することができる。
【0243】
細胞系列は、実施例1に記載されたプロトコールを一部変更することで、高効率のSTEPによるトランスフェクションがスクリーニングされる。細胞系列には、上述の細胞系列、ならびにCHO、HeLa、MCF−7、A431、BHK、およびAtT−20の各細胞を含む他の細胞種などがあるがこれらに限定されない。このようなアッセイ法では、大容量のDNA複合体溶液を添加することでDNAスポット領域の直径を1〜2 cmとし、10,000個の細胞が各DNAスポット上にプレーティングされる。このため0.01%〜1%の範囲の高感度によるトランスフェクション効率の決定が可能となる。HEK−293T細胞の場合、複合体形成時のDNA、陽イオン性タンパク質、陽イオン性脂質、およびトランスフェリンの比は最適化されている。類似の最適化は他の細胞系列を対象に実施される。HEK−293細胞に関して決定された最適条件は、最初に低いトランスフェクション効率が観察される系列(COS−1、COS−7、およびCV−1)を含む他の細胞系列のスクリーニングを行う出発点として使用される。
【0244】
4.STEP によるトランスフェクションのための細胞成分の遺伝的選択
最終的には、遺伝的選択により、STEPによるトランスフェクションによるトランスフェクション効率が高いクローニングされた細胞が選択される。例えばHEK−293T、NIH−3T3、CV−1、およびCHOの各細胞を、ハイグロマイシン存在下で安定にトランスフェクトされた細胞の選択を可能とする発現ベクターpTK−Hygを含むDNAスポット上にプレーティングする。安定な細胞はSTEPによるトランスフェクションにより、またハイグロマイシンによる処理により選択されている(既に記載された例を参照)。トランスフェクションおよび選択の過程は、STEPによるトランスフェクションに対して、親細胞集団と比べてよりコンピテントな細胞の亜集団を濃縮すると考えられている。STEP複合体中にトランスフェリンを含める前に、高い効率でトランスフェクトするG418選択でCOS−1細胞が単離されたが;このような効率の促進は持続せず、5〜10回の継代培養で速やかに失われた。
【0245】
実験の第二のセットでは、構成的に発現されるDsRedコンストラクトおよびpCRE−d2EGFPプラスミドで安定にトランスフェクトされた細胞が作製される。このようなトランスフェクションにより、中程度のレベルのDsRedが発現し、また基礎状態におけるd2EGFPの発現がほとんど検出されない細胞系列が単離される。このような細胞は、CRE−EGFPレポーターの誘導のかなり大きな感度を提供する可能性があり、DsRedの最大波長における蛍光に対する、EGFPの最大波長における蛍光の比を使用することができる。このような細胞はレシオメトリック応答細胞(RRC)と呼ばれているが、STEPによってトランスフェクトされた細胞で観察される蛍光強度を変化させる場合がある細胞の形態にみられる差を規格化する。RRCを用いることで、CRE−d2EGFPプラスミドを安定に発現する細胞のPKAのCサブユニットを用いる第二のトランスフェクションに対する感受性、または反応のダイナミックレンジの範囲の程度が決定される。RRCで得られた結果は、レポーター(pCRE−d2EGFP)とCサブユニット発現ベクターの両方が一過的にトランスフェクトされる発現実験(実施例8に記載)と比較される。RRC細胞系列は、以下のB節に記載されているように蛍光誘導の定量に使用されている。
【0246】
5.検出効率の GFP を越える上昇
GFP、スペクトル特性が変化したGFP変異体、および他の蛍光タンパク質は、遺伝子発現および細胞内局在が関与する多くの実験法を大きく変えてきた(Tsien、R.Y.、Annu Rev Biochem 67:509〜44 (1998))。しかし細胞レベルでは、これらの蛍光タンパク質は、検出効率がそれほどよくない。これは細胞内で検出されるためにはほぼマイクロモルレベルが必要であるからである。細胞を破壊する必要があるレポーター分子(ルシフェラーゼなど)は一般に、インビボにおけるGFP発現の検出に必要なレベルと比べて10〜100倍低い発現レベルでインビトロで検出することができる。多くの細胞は、蛍光タンパク質の検出によって検出されるよりも、STEP法の実施中にトランスフェクトされると考えられている。したがってSTEPによるトランスフェクションに使用される別のレポーター系が以下のように開発されている。
【0247】
最近ツィエン(Tsien)らは、大腸菌のβ−ラクタマーゼ酵素をレポーターとして用いる新しいレポーター発現・検出系について報告している(Zlokamikら、Science 279:84〜8 (1998))。この系の新しい側面は、β−ラクタマーゼの新しい基質分子でCCF2/AMと命名された、細胞透過性のアセトキシメチル(AM)エステルが関与する酵素検出の機構にある。AM基が細胞内に入ると細胞のエステラーゼによって切断されて、CCF2分子は細胞内で高濃度で捕捉される。CCF2そのものは、極めて近接して存在して相互作用して蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を受けて緑色(520 nm)に発光する二つの蛍光部分(7−ヒドロキシクマリンドナーの蛍光およびフルオレセインアクセプターの蛍光)を有する。しかしCCF−2がβ−ラクタマーゼで切断されると、FRETは起こらなくなり、7−ヒドロキシクマリン蛍光部からの蛍光放出は青色波長(447 nm)内になる。CCF/AMを用いるβ−ラクタマーゼの検出は、細胞ベースで、分子上の緑色蛍光タンパク質の検出と比べて感度が1,000倍が高いことが報告されている。またβ−ラクタマーゼタンパク質の半減期は約3時間なので、遺伝子転写の変化に対する感度は、GFP(半減期24時間)より高くなる。
【0248】
したがって細胞はSTEPによってCMV−β−ラクタマーゼ発現ベクター(Aurora Biosciences)でトランスフェクトされ、24時間後または48時間後の時点で室温でCCF2/AM(Aurora Biosciences)とともにインキュベートされる。蛍光の決定には蛍光顕微鏡(励起波長は409 nm)が使用され、また447 nm(産物)における比が520 nm(基質)における放出と比較されてβ−ラクタマーゼ発現量が決定される。ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、または他の試薬により細胞を固定化すると、固定化された細胞内におけるCCF2蛍光の定量的決定が改善される場合があるので、CCF2の切断は、DNAマイクロアレイのスライドスキャナーと併せて使用することができる。β−ラクタマーゼの感度が、上の実施例に記載されたGFPレポーターを有意に上回ることを示す条件、およびCCF2の定量が蛍光スキャナーに適合される条件が、高感度が必要に応じて用いられる。
【0249】
6.PKA によるレポーター蛍光誘導の定量
STEPの定量的側面は以下のように開発されている。画像解析プログラムは、cAMP依存性タンパク質キナーゼのCサブユニット、およびcGMP依存性タンパク質キナーゼ(PKG)の構成的に活性な状態を用いるトランス活性化アッセイ法の、マイクロコンピュータ画像処理装置(MCID)およびNIH画像解析の応用を用いる特性決定に使用されている。これらのプログラムに由来するピクセル密度ヒストグラム解析を用いると、STEPによるDNAスポットに対する蛍光強度は、構成的に活性なキナーゼをCRE−d2EGFPレポータープラスミドとともに含めることで16〜20倍高くなる。二種の異なる構成的に活性なキナーゼが、このような実験に使用されている。一つはPKAのCサブユニット(Gammら、J Biol Chem 271:15736〜42 (1996))であり、もう一つはPKGのcGKIbS79D変異体(Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))である。大量のレポーター発現ベクター(総DNAの90〜95%)が、Cサブユニット発現ベクターによる有意な誘導に必要とされる場合がある(前述の実施例を参照)
【0250】
STEPによるトランスフェクションによる転写反応は、さまざまな量のCサブユニット発現ベクター(総DNAの0.1%〜5%)を含むトランスフェクション実験で特性解析が行われている。Cサブユニット発現ベクター量の上昇に対する反応の直線性は、細胞の蛍光の上昇を密度ヒストグラム解析で定量することで決定される。STEPによるトランスフェクションで得られるシグナルの定量は、DNAアレイハイブリダイゼーション実験における定量とは有意に異なる。これは、STEPスポット領域の極めてわずかな部分だけが蛍光シグナルを発するためである。STEPスポットの解析では、密度ヒストグラムが、比較対象の二つのDNAスポット中のすべてのピクセルについて作製される。これらのヒストグラムを比較し、最高強度を示したピクセルの2%を個々の像から選択して定量に用いる。Cサブユニット発現ベクターではほぼ直線的な上昇がみられ、高濃度における低下はおそらく、Cサブユニットによって特異的に誘導される細胞形態変化によるものである(Huggenvikら、Mol Endocrinol 5:921〜30 (1991);Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))。同じ解析を、Cサブユニット欠損型のキナーゼについても行うことで、この作用がCサブユニットのキナーゼ活性によるものであることが確認されている(Brownら、J Biol Chem 265:13181〜13189 (1990))。RRCを上述のように作製すると、同じ解析が、Cサブユニット発現ベクターのみを用いて、また発現の内部標準としてDsRedによる蛍光を用いるレシオメトリック画像処理(ratiometric imaging)で実施される。
【0251】
B.cGMP依存性タンパク質キナーゼの阻害ドメインは変異発現ライブラリーをスクリーニングするSTEPによるトランスフェクションで同定される
このような実験は、タンパク質の構造および機能に関する研究へのSTEPの応用である。現在、多数の研究では、機能ドメインを決定するためにタンパク質の単純な欠失解析が用いられており、対象ドメインと既知タンパク質との間における相同性を利用して、内部のどのアミノ酸が機能上重要であるかという予測が行われている。STEPによるトランスフェクションおよび解析を行うことで、タンパク質の構造および機能に関する、より広範囲に及ぶ変異解析が可能となる。
【0252】
cGMP依存性タンパク質キナーゼ(PKG)を、変異誘発、およびSTEPによる機能スクリーニングの例示的標的として選択する。このタンパク質は特に有用な標的である。というのはcAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)に対して、同タンパク質の構造に関する知見が不足しているからである。以下のパラグラフでは、PKAおよびPKGのバックグラウンドを簡潔に説明する。
【0253】
7回膜貫通型受容体に対する多数のリガンド(例えばエピネフリン)は、標的細胞内でcAMPの細胞内濃度を上昇させることで転写を変化させる。cAMPによる作用にはcAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)が関与する。cAMPは、活性触媒(C)サブユニットを放出させて細胞タンパク質をリン酸化する可能性のあるPKAの調節(R)サブユニットに結合する。PKAのRサブユニットとCサブユニット間の相互作用について、またcAMP結合がRサブユニットの阻害作用を緩和する機構については多くの知見が得られている(Taylorら、Pharmacol Ther 82:133〜41 (1999))。
【0254】
cAMPによって調節される多くの遺伝子には、転写誘導に関与するパリンドロームのヌクレオチド配列(TGACGTCA)が含まれ、これは環状AMP応答配列(CRE)として知られている。CRE結合タンパク質(CRE)は二量体としてCREに結合して、CサブユニットによってSer133がリン酸化された場合にのみ転写調節に関与する。この経路は多くの細胞種で詳しく調べられている(Shaywitzら、Annu Rev Biochem 68:821〜61 (1999)。
【0255】
心房性ナトリウム利尿ペプチドおよび一酸化窒素はcAMPレベルを変化させないが、平滑筋細胞およびニューロンにおけるcGMPレベルを上昇させる。cGMPの細胞性作用の大半には、cAMP依存性タンパク質キナーゼに構造および機能が似た(ただしキナーゼの触媒成分が同じポリペプチド鎖の一部として調節成分と実際に融合していることを除く)cGMP依存性タンパク質キナーゼ(PKG)が関与する。PKAのRサブユニットとCサブユニット間の相互作用については多くのことがわかっているが、PKGの調節ドメインと触媒ドメイン間の相互作用についてはほとんどわかっていない。しかしcGMPがPKGに結合すると、CREBを含むタンパク質をリン酸化して、PKAと類似の(しかし質的には異なる)様式で遺伝子転写の変化に関与することが可能となる(Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))。
【0256】
この実施例に挙げる実験では、PKGの調節ドメインの阻害領域について説明する。この情報は、PKGに対する特異的な阻害剤(PKAは阻害しない)の設計にも有用である。FlagタグのついたマウスcGMP依存性タンパク質キナーゼ(Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))をコードするpCMV.Flag−cGKIb発現ベクターに、文献に記載された亜硝酸ナトリウムとギ酸による処理を組み合わせることで変異を導入する(Orellanaら、Proc Natl Acad Sci USA 89:4726〜30 (1992))。変異誘発に続いて同DNAを、アミノ末端の調節ドメインと環状ヌクレオチド結合ドメイン間の移行を意味する、開始コドンおよびTyr135に対するコドンに対するプライマーを用いる増幅のテンプレートとして用いる。PCR増幅断片を、BglII/NheIで切断したpCMV.cGKIbにサブクローニングし、得られたプラスミドをスクリーニング対象の変異ライブラリーとして用いる。ライブラリーのスクリーニングを実施する前に、12個のクローンを無作為に選択して、ライブラリー中の変異発生頻度を決定するための配列決定用とする。変異誘発法の過去に行われた特性解析では、平均して約2〜3ヌクレオチドの置換が個々の変異クローンに認められている。変異体の約5〜10%はナンセンス変異を含み、このようなプラスミドは、機能性キナーゼを発現しない。というのは、触媒ドメインのコード領域の手前で翻訳が終了してしまうからである。クローンの約80〜90%はミスセンス変異を含む。自己阻害ドメインを構成しているのはおそらく15残基であるので、クローンの総数の4〜5%は構成的なキナーゼの活性化を示す。1,000クローンのプールをSTEPによるトランスフェクションでスクリーニングすると、構成的キナーゼ活性を有する約40〜50の各変異体が得られる。構成的活性化を示すクローンに関しては、変異の位置は、変異が生じた領域の配列決定、および標準的なキナーゼ活性測定、およびインビボにおけるルシフェラーゼアッセイ法による変異体の構成的活性化の検証により決定される。
【0257】
STEPによるトランスフェクションを用いる変異体ライブラリーのスクリーニング過程では、STEPプロトコールを、高スループットのプラスミドDNA精製に関して最適化する。96ウェルのフォーマットを用いて、キアウェル96ウルトラプラスミドキット(QIAwell 96 Ultra Plasmid Kit)(Qiagen)を用いて、トランスフェクション用の変異体クローンからプラスミドDNAを単離する。プラスミドDNAはUV吸収を調べて定量し、顕微鏡用スライド上のSTEPスポットの作製に使用する。STEPによるトランスフェクションおよびEGFPによる蛍光定量用の正負の対照とともに、全1000個の変異体発現ベクターをスポットする。A節に記した実験結果に基づき、変異体ベクターをpCRE−EGFPC1レポーターベクターとスポッティング前に混合するか、またはpCRE−EGFPC1コンストラクトを安定に発現するRRCを使用する(RRCについては実施例11のA4で詳述する)。pCMV.Neo親発現ベクター、およびキナーゼ欠損型変異体(mCGKIbK404R;Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))をコードする発現ベクターをスクリーニングの負の対照として使用する。構成的に活性な変異体mCGKIbS79Dをコードする発現ベクター、およびcAMP依存性タンパク質キナーゼのCサブユニットの発現ベクターは正の対照となる。
【0258】
pCRE−d2EGPPC1を用いてSTEPによるトランスフェクションにmCGKIbS79Dについて得られた予備的な結果では、構成的に活性な変異体でEGFPによる蛍光の16〜20倍の誘導が認められている。他の変異体は、それほど大きな活性化を示さない可能性があるが、他の複数の変異体は類似の作用を示す。
【0259】
実施例12
効率のよいアンチセンスオリゴヌクレオチドの開発におけるSTEPの使用
アンチセンス法を用いた遺伝子発現の下方制御には、基礎研究から臨床治療までさまざまな応用がある。この手法では、臨床的承認薬の輸送を含む複数の注目すべき成功例がある(Nemunaitisら、J Clin Oncol 17:3586〜95 (1999);Yuenら、Clin Cancer Res 5:3357〜63 (1999))。しかし効率のよいアンチセンス配列の同定が困難なために広く使用されるには至っていない。アンチセンスオリゴヌクレオチドの作用機序は多くの例で不明である(Crooke、Biochim Biophys Acta 1489:31〜44 (1999))が、RNA/DNA二重鎖の分解におけるRNaseHの作用は、多くの有効なアンチセンスオリゴヌクレオチドと結びつけられている。複数の例で、mRNA上の5’キャップ形成の阻害、および翻訳停止を含む別の機構が存在することを示す証拠が得られている(Bakerら、Biochim Biophys Acta 1489:3〜18 (1999))。
【0260】
有効なアンチセンスオリゴヌクレオチド配列のスクリーニングの迅速かつ効率のよい手段は、生物医学研究において応用性が広いと考えられる。このようなスクリーニング法では、任意の特定の対象遺伝子に対するアンチセンス試薬を開発して、他の阻害剤が利用できないタンパク質レベルの下方制御を可能とすると考えられる。STEPによるトランスフェクションでは、オリゴヌクレオチド合成の最近の進歩を考えれば、タンパク質レベルの下方制御の有効性に関する数千のアンチセンス配列のスクリーニングが可能となる(Lipshutzら、Nat Genet 21:20〜4 (1999))。
【0261】
アンチセンスオリゴヌクレオチドのランダムな配列をSTEPフォーマットでスクリーニングして、特定の過程と干渉可能する配列を決定する。例えばアデニル酸シクラーゼ、cAMP依存性タンパク質キナーゼの触媒サブユニット、およびCREBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドはいずれも、βアドレナリン受容体に作用するイソプロテレノールに反応してみられるCRE−EGFPレポーターの上昇と干渉する可能性がある。したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドのランダムライブラリーは、STEPによるトランスフェクションによって細胞内に効率的に導入され、またイソプロテレノールによる蛍光誘導と干渉する配列は、PKAおよびCREBの触媒サブユニットであるアデニル酸シクラーゼに相補的な配列を含む。任意の対象調節経路に対して微視的に検出可能な読み値が利用できる限りは、このような手法は、シグナル伝達カスケード、または他の任意の細胞経路の新成分の同定に使用することができる。
【0262】
この実施例では、STEPによるトランスフェクション法を、詳しく特性が解析された対照タンパク質、および発現のアンチセンス阻害に関する新しいアッセイ法を用いる、固定化された複合体から細胞内へのオリゴヌクレオチドの侵入に対して最適化する。STEPによりオリゴヌクレオチド効率を最適化することで、過去にアンチセンス試薬が用いられていない標的タンパク質キナーゼの産生を阻害するオリゴヌクレオチド配列が同定される。
【0263】
A.アンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞内輸送に対するSTEPによるトランスフェクションの最適化
アンチセンスの治療分野における応用の成功が多数報告されているが、極めて厳密に検討された応用は、臨床試験段階に対するものである。ISIS3521は、卵巣癌を始めとする癌の患者の臨床アウトカムに対して有意に陽性の作用を示したタンパク質キナーゼCの配列に基づくホスホロチオエートのアンチセンスオリゴヌクレオチド薬剤である(Nemunaitisら、J Clin Oncol 17:3586〜95 (1999);Yuenら、Clin Cancer Res 5:3357〜63 (1999))。この節では、ヒトのPKCαおよびPKCα−EGFP融合タンパク質の標的配列に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、PKCαタンパク質レベルのSTEPによる阻害の最適条件を見つける。
【0264】
指標となる細胞系列を最初に構築する。このような細胞系列は、PKCα−EGFP融合タンパク質、ならびにDsRed蛍光タンパク質を発現する。ヒトのPKCα−EGFP発現ベクターは購入可能である(Clontech)。レポーター細胞系列の作製は、pPKCα−EGFPプラスミドをHEK−293T細胞内にトランスフェクトして、pPKCα−EGFPベクターに含まれるG418耐性遺伝子およびネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を選択して、安定に発現するクローンを作ることで行う。高レベル、中レベル、および低レベルのPKCα−EGFPタンパク質を発現する複数の安定な細胞系列を選択し;次に、pDsRedC1発現ベクターと、ハイグロマイシン耐性をコードするpTK−Hyg発現ベクターの混合物(モル比で10:1)により二次的なトランスフェクションを行う。このようにして、PKCα−EGFPおよびDsRedの両方の発現の規模が異なるpTK−Hygプラスミドが得られる。極めて高レベルのPKCα−EGFPを発現する細胞系列は、蛍光の有意な低下を示さないが、アンチセンス実験では極めて大きな再現性のある結果を示す。
【0265】
以上の細胞系列を用いて、対照となるアンチセンスPKCαホスホロチオエートオリゴヌクレオチド
が、STEP複合体中に含まれ、PKCα−EGFP融合タンパク質の発現を低下させる条件を決定する。オリゴヌクレオチドの有効性を最初に、標準的なアンチセンス輸送法(Deanら、J Biol Chem 269:16416〜24 (1994))で確認し、正常HEK−293T細胞を含む60 mmのディッシュを処理した後に、PKCαタンパク質レベルのウエスタンブロット解析を行う。PKCα抗体は、この目的用のものが市販されている(Upstate Biotechnology, Inc)。PKCαアンチセンスオリゴヌクレオチドの有効性を確認した後に、トランスフェクション効率を変化させる因子の同じ2次元アレイ解析を、プラスミドDNAのトランスフェクションについて使用されたように行う(「予備的結果」および「具体的な目的1A」を参照。基本的には、DNA複合体に含まれる陽イオン性脂質およびタンパク質の種類は、さまざまなDNA複合体成分の比と同様に変動する。圧力の上昇は、STEPによるアンチセンスオリゴヌクレオチドの作用を高める。これは、圧力処理がオリゴデオキシヌクレオチドの取り込みを高めるという過去になされた報告に類似している(Mannら、Proc Natl Acad Sci USA 96:6411〜6 (1999))。高い圧力を加えるために、シールされたピストンおよび圧力ゲージを備えた小さなプレキシガラス製チャンバーを作製する。チャンバーは事前に37℃に加温し、5% CO2を満たしておく。各10 cmの組織培養プレートを1〜3気圧で1〜10分間処理し、STEPによるトランスフェクションの効率に及ぼす作用を上述の手順で決定する。
【0266】
最適なSTEP複合体形成の条件は一般にプラスミドDNAに関する条件と同等である。
【0267】
B.血清およびグルココルチコイド調節型キナーゼに有効なアンチセンスオリゴヌクレオチドをSTEPにより開発する
アンチセンスオリゴヌクレオチドを生きている細胞に導入する手順は、A節に記載されたように最適化される。アンチセンスオリゴヌクレオチドが発現を下方制御する能力について実際にスクリーニングを行う上でのSTEPの有用性は、アンチセンスの下方制御の新しい標的を用いることで示される。
【0268】
血清およびグルココルチコイドによって誘導されるタンパク質キナーゼ(SGK)は当初、グルココルチコイドに反応して誘導されるmRNAを同定するためのディファレンシャルスクリーニングで同定された(Websterら、Mol Cell Biol 13:2031〜40 (1993))。グルココルチコイド、または血清による刺激により、SGKのmRNAおよびタンパク質の両方が10倍上昇する。タンパク質キナーゼのなかでも、SGKはAkt/PKBに対して最も相同性が高い(触媒ドメインについて54%のアミノ酸相同性がある)。SGKの3種の異なるイソ型は広く発現されており(Kobayashiら、Biochem J344 Pt 1:189〜97 (1999))、またいずれも、複数の成長因子および細胞刺激に反応するホスホイノシチド依存性タンパク質キナーゼ−1(PDK−1)によって活性化される。多くの細胞刺激もSGKの発現を誘導し、誘導が極めて迅速なことからSGKは極初期遺伝子に分類されている。SGKは、このように分類される唯一のセリン/スレオニンキナーゼである(Buseら、J Biol Chem 274:7253〜63 (1999))。しかし、このタンパク質キナーゼの生理的基質は不明であり、SGKキナーゼ活性に特異的な阻害剤に関する報告はこれまでない。
【0269】
SGKは、アンチセンスによる下方制御の理想的な標的となる特性を有する。第一に、有効なアンチセンスオリゴヌクレオチドであればSGKの下流の作用の特性解析、および基質タンパク質の同定に極めて有用であると考えられる。第二に、同タンパク質の半減期が短いために、アンチセンスオリゴヌクレオチドの理想的な標的となる。というのは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、タンパク質分解の半減期が短いタンパク質をコードするmRNAに対して最も有効なためである(Bakerら、Biochim Biophys Acta 1489:3〜18 (1999))。最後に、SGKのイソ型を識別して、イソ型特異的な機能を同定することが可能なアンチセンスオリゴヌクレオチドを開発することができると考えられる。
【0270】
アンチセンスオリゴヌクレオチドをスクリーニングするために、SGK1/EGFP融合タンパク質をコードする発現ベクターを「具体的な目的2A」で使用されたPKCα/EGFP発現ベクターと同様の方法で作製する。マウスのSGK1のcDNAは、ロイベニー(Eiten Reuveny)博士の研究室(Weizmann Institute in Rehovot、Israel)から得られるほか、発表済みのマウスSGK1配列(ゲンバンクアクセッション番号AF205855)をPCRで増幅する方法で得られる。コードされたSGK1/EGFP融合タンパク質の半減期は、HEK−293T細胞へのベクターの従来の一過的なトランスフェクション、またこれに続く血清処理によるSGK誘導後に、シクロヘキシミドで処理してタンパク質の翻訳を阻害することで決定される。細胞抽出物は、シクロヘキシミドで処理してから0分、30分、60分、120分、および240分後に調製し、同抽出物を、EGFPに対する抗体を用いるウエスタンブロット解析で解析する。各時点で残存するタンパク質の量を決定し、タンパク質の半減期を計算する。融合タンパク質の半減期は約20〜30分であり、SGKの半減期とほぼ同じである。複数の状況で、EGFP融合はタンパク質を安定化させる。このような条件では、第二の発現ベクターを、不安定化されたd2EGFPコード領域に融合させたSGKを用いて作製し(Liら、J Biol Chem 273:34970〜5 (1998))、不安定コンストラクトの半減期を決定する。PKCα−EGFPレポーター細胞系列について既に記載したように、SGK1−EGFP融合タンパク質、ならびに内部標準となるDsRed蛍光タンパク質を発現する安定な細胞系列を作製することで、レシオメトリック画像処理により蛍光スキャニングの感度を高めることができる。
【0271】
本来、SGK1 mRNAに対する10種の異なるオリゴヌクレオチド配列を、ヘアピン構造を作る特性がないこと、またSGK1 mRNAのハイブリッドが安定であると推定されることを元に選択する。オリゴヌクレオチドの長さは、塩基組成に応じて18〜24ヌクレオチドを変動する。発明者らによる、マウスSGK mRNA 配列に関するこれまでの解析に基づき、以下のヌクレオチド配列が第一の10オリゴヌクレオチドの合成の標的とされる:23〜43(21−mer);38〜60(23−mer);275〜298(24−mer);366〜389(24−mer);826〜849(24−mer);1252〜1270(19−mer);1626〜1647(22−mer);1690〜1709(20−mer);1859〜1880(22−mer);および2243〜2266(24−mer)。最初の二つのオリゴヌクレオチド、および最後の四つのオリゴヌクレオチドは、SGK1、SGK2、およびSGK3のmRNAでほとんど保存されていない5’非翻訳領域および3’非翻訳領域の標的となる(Kobayashiら、Biochem J344 Pt 1:189〜97 (1999))。これらのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、多くの例で有効な場合があることがわかっている単純なホスホロチオエート結合を有する。
【0272】
上述したように、オリゴヌクレオチドは、A節に記載したようにPKCα−EGFP融合タンパク質を下方制御することがわかっている陽イオン性脂質、陽イオン性タンパク質、およびトランスフェリンと最適な濃度で複合体を形成させる。このようなパラメータのわずかな変化が、さまざまなmRNAに対するさまざまなオリゴヌクレオチドに最適となるので;STEPによるトランスフェクションはSGK1 mRNAに最適化される。ある条件は、上記オリゴヌクレオチドの一種が、SGK1−EGFPの蛍光シグナルを有意に低下させる(90%を上回る低下)こと示すように決定され;このような条件は次に後述する実験で用いられて、天然のSGK1 mRNAを下方制御するオリゴヌクレオチドの有効性が確立される。SGK1−EGFPレポーターを一種のヌクレオチドで下方制御する条件が容易に決定されない場合は、オリゴヌクレオチドのプールを対象に個々のヌクレオチドに対する有効性を調べる。別の10種のアンチセンスオリゴヌクレオチド配列の第二のセットは、第一の10の組み合わせが有効であることが容易にわからない場合に標的とされる。第二のセットのオリゴヌクレオチドは、mRNAの他の領域を標的とし、オリゴヌクレオチドに対する別の修飾(自己安定化など)を含む可能性がある(Agrawal、S.、Biochim Biophys Acta 1489:53〜68 (1999))。
【0273】
有効なアンチセンスオリゴヌクレオチド配列が決定されると、オリゴヌクレオチドによる内因性SGK1 mRNAの下方制御の有効性が決定される。この目的では、SGK1の反応を調べるモデル系として最近開発されたNMuMg非形質転換マウス乳腺上皮細胞が使用される(Bellら、J Biol Chem 275:25262〜72 (2000))。NMuMg細胞を、対照プレート上に、またはSGK1アンチセンスオリゴヌクレオチドとSTEP複合体を形成するように処理されたプレート上にプレーティングする。プレーティング後に、0.3 Mのソルビトールで細胞に3分間のショックを加えて、SGK1のmRNAおよびタンパク質レベルを誘導する(Bellら、J Biol Chem 275:25262〜72 (2000))。シクロヘキシミドの存在下におけるSGKレベルの誘導、およびSGK1タンパク質分解の時間経過は、SGK1タンパク質に対する抗体(Upstate Biotechnology)を用いるウエスタンブロッティングで決定する。PKCαに対するアンチセンスヌクレオチドは同実験で負の対照となる。STEP沈殿物上にプレーティングされた細胞は、シクロヘキシミド処理によりSGK1タンパク質誘導の低下、およびタンパク質の半減期の短縮を示す。
【0274】
SGK1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが、NMuMg細胞内でSGK1タンパク質を下方制御するという証拠を得るのが困難な場合、NMuMg細胞をトランスフェクトして、SGK1−EGFP融合タンパク質を発現する安定な細胞系列を単離して、SGK1アンチセンスオリゴヌクレオチドによるアンチセンス処理の最適条件を決定する。NMuMg細胞は、中程度の効率でトランスフェクトされる(Bellら、J Biol Chem 275:25262〜72 (2000))。有効なSGK1アンチセンスオリゴヌクレオチドを同定することで、NMuMg細胞ならびに他の細胞系列においてSGK1が果たす役割の特性を決定するさらなる調査に使用できる。
【0275】
実施例13
STEPによるcDNA発現ライブラリーの機能スクリーニングの条件
この実施例では、STEPによるトランスフェクションを、高スループットスケールにおけるタンパク質の機能スクリーニングに応用する。タンパク質キナーゼおよび転写の調節に由来する例示的な結果から、STEPを用いたタンパク質の高スループットの機能スクリーニングが多種多様な研究領域に適していることがわかる。別の例として、STEPがシグナル伝達経路成分の大規模スクリーニングに有効に使用されており、ハートウェル(Hartwell)ら、Nature 402:C47〜C52 (1999)によって提案された様式と類似の様式で、細胞代謝のさまざまな側面に重様な機能性「モジュール」が決定される。
【0276】
A.構成的に活性なタンパク質キナーゼの小規模ライブラリーをcAMP応答配列(CRE)依存性の転写調節に関してスクリーニングする
遺伝子発現のcAMP調節の古典的なPKA/CREB/CRE機構は十年以上前に解明された(Gonzalezら、Nature 337:749〜52 (1989))。それ以降、いくつかのタンパク質キナーゼが、CREBのリン酸化、またはCREに結合可能な他の因子のリン酸化を介して遺伝子発現を調節可能であることが報告されている。この実施例で説明する実験では、25の異なるタンパク質キナーゼのグループによる、CREを介した転写活性調節能力が決定される。このような実験に使用されるすべてのタンパク質キナーゼの構成的に活性な変異が表1のように同定されている。これらのタンパク質キナーゼは、そのシグナル伝達経路の多様性、ならびに構成的に活性な変異の特性がインビトロおよびインビボで決定されている規模をふまえて選択されている。
【0277】
【表1】構成的に活性なキナーゼおよびその関連転写因子
【0278】
これらの実験では、構成的に活性な状態の個々のキナーゼが、アミノ末端またはカルボキシ末端にFlagエピトープタグを提供する発現ベクター中にサブクローニングされる。このようなエピトープを使用することで、STEPによるトランスフェクションで生成されるタンパク質キナーゼ量を定量する。発現ベクターは、キナーゼの発現を誘導するヒトCMVプロモーターを含み、個々のベクターは、通常のトランスフェクションアッセイ法で検討されて、適切な大きさのタンパク質がインビボで合成されることが示される。構成的に活性な発現ベクターは、表1に引用された参考文献に記載された手順で調製される。
【0279】
従来の一過的発現実験で確認されたら、構成的に活性なキナーゼ用の発現ベクターをSTEPによるトランスフェクションに用いて、CRE依存性の遺伝子発現を調節する効率を決定する。二種の異なる様式のトランスフェクションが使用される。第一の様式では、STEP複合体を個々のキナーゼベクターと、さまざまな量のpCRE−d2EGFPレポータープラスミドとの混合物で形成する。次にこれらの複合体をスポットし、HEK−293T細胞またはNIH−3T3細胞をプレーティングして、キナーゼの同時発現が、pCRE−d2EGFPレポータープラスミドの転写の活性化を導くか否かを判定する。実施例11のA節に記載されたように開発された別の細胞系列は、CRE依存性転写の誘導に細胞特異的な転写因子が果たす役割を調べるために使用される。STEPによりトランスフェクトされた細胞は、プレーティング後のさまざまな時点(6時間、12時間、24時間、48時間、および72時間)で固定化する。GFP蛍光(実施例8に記載)の決定用に各時点で三つ組のスライドを使用し、三つ組のスライドの第二のセットを、M2モノクローナル抗体を用いる免疫細胞化学的染色用に使用して、Flagタグタンパク質キナーゼの量を推定する(実施例6に記載)。これら二つの決定を行うことで、各キナーゼにおけるCRE−EGFPレポーターの刺激の相対効率が各時点で決定される。結果として得られる、各キナーゼによる転写調節の動的プロファイルを25種の異なるキナーゼについて比較した結果を表1に示す。構成的に活性な状態のPKA、PKG、およびCaMKIIは最も強い誘導を生じ;いくつかの誘導も、他の多くのキナーゼ(表1参照)で認められる。これは過去に発表された報告と合致している。
【0280】
第二の一連の実験では、同じセットの25種の構成的に活性なキナーゼが、実施例11のA節に記載されたように開発されたRRC系列を対象とするSTEPによるトランスフェクションに使用される。CRE部位の細胞内濃度は、RRC系列を用いたSTEPによるトランスフェクションではかなり低い。これはレポータープラスミドが、キナーゼと同時にトランスフェクトされていないが、既にレポーター細胞系列内で安定に発現されているためである。この結果は、構成的に活性なキナーゼによる転写活性化に対して、かなり高い感度を有するアッセイ法である。RRC細胞系列の場合、構成的に活性なキナーゼに対するさまざまな量の発現ベクターをSTEP複合体に含めることで、タンパク質キナーゼの量が増加する。このように、転写反応に必要最低限の量のキナーゼが、GFPのレシオメトリック画像を、M2モノクローナル抗体による染色と比較することで決定される。
【0281】
得られたデータは、72時間に及ぶ各キナーゼの誘導プロファイルの作製に使用する。このようなプロファイルを量的および質的に比較する。この結果から、CRE依存性の転写、ならびにCRE反応の動態により決定されるクラスターへのキナーゼの分類を調節する可能性のある新しいキナーゼが同定される。文献上、機械的に説明のつかない動的プロファイルに差がみられる場合は、特定のキナーゼ経路をさらに詳細に調べるためのきっかけとなる。
【0282】
B.21種の異なる転写応答配列のより大規模なセットに拡張される構成的に活性なタンパク質キナーゼの機能解析
構成的に活性なキナーゼに対するCREの反応が決定されたら、STEPによるトランスフェクションのマイクロアレイフォーマットを用いて、25種の構成的に活性なタンパク質キナーゼのセットに対する、21種の異なる特性解析済みの転写応答配列のセットの反応を決定する。このような実験に使用される応答配列を表2に示す。
【0283】
【表2】構成的に活性なタンパク質キナーゼの機能スクリーニングに対して選択されたレポーター配列
【0284】
これらすべての応答配列は過去に詳細に解析されており、対応するレポーターベクターが報告されている。また、これらの応答配列の大多数のレポーターベクターは市販されている(StratageneおよびClontech)。レポーターベクターの大半は、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼを用いるように設計されているので、ルシフェラーゼのコード領域が最初にd2−EGFPコード領域と置換されてから使用される。または、ルシフェラーゼコード領域が最初にβ−ラクタマーゼレポーター系と置換されて、β−ラクタマーゼが感度または定量に関してEGFPより実質的に有利な条件で使用される(実施例11のA節に記載)。これらの実験におけるすべてのトランスフェクションでは、レポーターベクターと構成的に活性なキナーゼが同時にトランスフェクトされる。または、個々の応答配列用のRRC細胞系列が開発される。A節で説明したように、個々のキナーゼ/応答配列パートナーの時間的プロファイルを、特定のレポーターベクターの動的反応の特徴を解析するために決定する。
【0285】
500以上のさまざまなキナーゼ/応答配列の相互作用が系統的に検討されている。このような相互作用の20%のみが過去に調べられているので、大半の結果は、キナーゼによる遺伝子転写調節に関する新しい情報である。タンパク質キナーゼ/応答配列対の転写の新しい正の調節の検出は、標準的なトランスフェクション法、およびルシフェラーゼアッセイレポーターで確認され、誘導の規模が決定される。
【0286】
以上の実験には、複数の技術上の問題が指摘されている。第一に、種々のレポーターは基礎転写レベルおよび刺激時の転写レベルが有意に異なる。この点に関しては、β−ラクタマーゼ発現系が検出の重要な代替手段となる。これは同レポーター系のダイナミックレンジが大きいためである(Zlokamikら、Science 279:84〜8 (1998))。またレポーターの基礎発現は、スポットするSTEP複合体中に存在するレポータープラスミドの量を変化させることで、ある程度制御される。STEP系で最高のトランスフェクション効率を示す細胞系列を実験で使用することが好ましい。または特定の転写因子用の発現ベクターをSTEP複合体そのものに含める;このような転写因子にはCREB、c−jun、およびfosなどがあるがこれらに限定されない。このような発現ベクターは市販されているが、表2の応答配列に関して列挙した参考文献に記載された手順で調製することもできる。
【0287】
実施例14
STEPによるトランスフェクションにおけるPCR産物の使用
典型的には、一過的なトランスフェクションの効率は、直鎖状のDNAよりもスーパーコイル状のDNAを使用する方が高い。しかし細菌の成長、およびプラスミドの単離は、多数の発現ベクターコンストラクトを対象にタンパク質機能を調べる場合は、かなりの時間を要する。STEPの予想外の利点は、PCRで得られたDNA断片を用いて実施できる点である(STEPで使用前に精製する必要がない)。このため時間、試薬類、および労力が著しく削減される。
【0288】
この実施例では、pEGFP−C1のCMVプロモーター、およびSV40のポリA付加配列に隣接するプライマーを用いて、EGFP用の発現カセットに対応する1.8 kbの断片を増幅した。PCR断片をキアクイック(Qiaquik)キット(Qiagen)を用いて単離した後にSTEPによるトランスフェクションに用いたところ、トランスフェクション効率は50%であった。同様の結果は、pDsRed−C1プラスミドの発現について得られた。次にPCR反応混合物を複合剤に直接付加して、後にアレイ作製用となるトランスフェクション複合体を形成するように、トランスフェクション複合体の形成に使用する前にPCR断片を精製する必要はないと判定された。
【0289】
方法:
CMV プロモーターの5’側の配列に対応するオリゴヌクレオチド
、およびSV40のポリ(A)付加配列の3’側に対応するオリゴヌクレオチド
を用いて、pEGFP−C1のヌクレオチド4721〜1770に対応する1.8 kbの断片をVentポリメラーゼ(New England Biolabs)を用いて増幅した。アガロースゲル電気泳動後に、QIAquick(Qiagen)による精製を行ってPCR断片を単離した。
【0290】
PCR断片(精製後または精製前)を水で0.12 mg/mlに希釈した。10マイクロリットルのプラスミドDNAをマイクロタイタープレートの1個のウェルに添加した。次に10マイクロリットルのトランスフェリン−ポリ−L−リシン複合体(1 mg/ml、Sigma)を添加して混合物を室温で5分間インキュベートした。10マイクロリットルの2 mg/mlのリポフェクタミン(Life Technologies, Inc)を混合物に添加し、結果として得られた溶液を室温で20分間インキュベートした。このトランスフェクション複合体溶液を次に、マイクロピぺッターを用いて100ナノリットルを手動でスポットした。スポッティング後に、スライドを30分間かけて組織培養フード内で乾燥させた。この顕微鏡用スライドを組織培養プレート(直径10 cm)中に据え、10% FCSを含む20 mlのDMEM中に106個の指数関数的に増殖しつつある細胞を添加した。プレーティング後に細胞を37℃で5% CO2下でインキュベートした。
【0291】
結果
STEPによるトランスフェクション、および上述の直鎖状PCR断片にコードされたタンパク質の発現により、約50%の細胞でEGFPの発現が認められた。
【0292】
実施例15
膜貫通型受容体機能のアッセイ法へのSTEPの応用
膜受容体の機能を調べる過程におけるSTEPの応用を示すために、STEPによるトランスフェクションプロトコールにしたがって、ヒトD1ドーパミン受容体(pCMV.D1)、および不安定な緑色蛍光タンパク質(pCRE−d2EGFP)の発現を誘導する環状AMP応答性プロモーターの発現ベクターをHEK−293T細胞に一過的にトランスフェクトした。この実験の目的は、D1受容体のアゴニストクロロ−APB(C1−APB)によってD1ドーパミン受容体の活性化を測定することであった。C1−APBによるD1受容体の活性化は、図3の経路で示されるように、アデニル酸シクラーゼとの共役、およびこれに続く環状AMPの生成により測定することができた。
【0293】
300ナノグラムのpCMV.D1(または対照ベクターpCMV.Neo)、および300 ngのpCRE−d2EGFP(容量10マイクロリットル)を10マイクロリットルのトランスフェリン−ポリリシン複合体(1 mg/ml)と混合した。10分後、10マイクロリットルのリポフェクタミン(1 mg/ml)を添加して混合物をさらに10分間インキュベートした。約100ナノリットルのスポットを、ポリリシンコートされた4枚の異なる顕微鏡用スライド上に配置し、スポットを大気条件下で乾燥させた。次にHEK−293T細胞を3枚のスライド上にプレーティングし、1枚のスライドは血清を含む培地中でのみ増殖させた。細胞をプレーティングした3枚のスライドはC1−APB、もしくはホスホジエステラーゼ阻害剤IBMX、またはC1−APBとIBMXの両方、のいずれかの存在下で増殖させた。
【0294】
48時間後に細胞を蛍光顕微鏡で調べた。D1受容体を発現し、C1−APB(1マイクロモル)で処理した細胞は、緑色蛍光タンパク質レポーターの発現が有意に高かった。MCID像の解析用ソフトウェアを用いた結果の定量から得られた結果を表3に示す。
【0295】
【表3】STEPによるD1活性化実験におけるスポットあたりのピクセル
【0296】
D1受容体発現ベクターをトランスフェクトし、C1−APBで処理された細胞は、空の親ベクターpCMV.Neoがトランスフェクトされた細胞と比較して10倍高いレベルのGFP発現を示した。この結果は、特定のリガンドにより膜受容体の活性化の測定にSTEPを使用できること、および活性化がGFP蛍光を決定することで定量可能であることを明瞭に示している。STEP法は、他の既知の受容体およびオーファン受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用するリガンドおよび薬剤の同定に同様に応用することができる。
【0297】
実施例16
STEPによるトランスフェクション効率を高める別の細胞表面リガンドの用途
他の細胞表面リガンドは、低濃度のトランスフェリン受容体を含む細胞をトランスフェクトする際に使用できるほか、培地に含まれるトランスフェリン濃度が、STEPによるトランスフェクション複合体と競合する際に使用できる。一つの非制限性の例は、細胞表面のインテグリンに結合し、またトランスフェリンの代わりに、トランスフェクション複合体中にトランスフェリンを使用したときの最適なトランスフェクション効率が低い、多くの細胞種をトランスフェクトするために使用可能なアデノウイルスのペントンタンパク質などのタンパク質である。
【0298】
この目的では、アデノウイルスのペントンタンパク質を、細菌、またはバキュロウイルスを感染させたSf9細胞のいずれかで発現させ、上述の方法および手法で精製する。ペントンタンパク質は約0.02 mg/ml〜1.0 mg/mlの濃度で使用することができる。精製したタンパク質を、トランスフェクション対象の核酸と、ポリリシンまたはヒストン、および陽イオン性脂質(リポフェクタミンまたはリポフェクタミン2000など)とともに混合する。複合体をスポッティングした後に、トランスフェリン使用時に通常低いトランスフェクション効率(10%未満)を示す細胞系列(ラットのPC−12褐色細胞腫、NG−108神経芽腫−グリオーマハイブリッド細胞、およびSH−SY5Y神経芽腫細胞など)は、アデノウイルスのペントンタンパク質使用時には50〜80%の効率でトランスフェクトされる。トランスフェクション効率は、アミノ末端にペントンタンパク質を、またカルボキシ末端にヒストンなどのDNA結合タンパク質を含む融合タンパク質を作製することで、さらに高くなる場合がある。
【0299】
以下の実験では、実施例1に記載された手順でトランスフェクション複合体を形成させ(数種のトランスフェクション複合体の調製時にはトランスフェリンの代わりに精製ペントンタンパク質が使用される点を除く);ペントンタンパク質は0.64 mg/mlの濃度で使用した。このためトランスフェクション複合体は、トランスフェリンまたはペントンタンパク質のいずれかを用いて調製した。実施例1に記載されたように複合体を固定化した後に、ラットPC−12褐色細胞腫およびHEK−293Tの細胞系列を、実施例1に記載された手順でトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を次に、すべての細胞が観察される明視野下で顕微鏡により調べ、またGFPを発現する細胞のみが観察される蛍光下で調べた。
【0300】
得られた結果を図4に一連の像として示す;細胞系列を像の上に示し、トランスフェクション複合体に使用したリガンドを像の右側に示す。各細胞系列の下の像は、明視野下の像(左側)、または蛍光下の像(右側)である。これらの結果は、PC−12がトランスフェリンを用いて低効率(10%未満)でトランスフェクトされたこと、またリガンドがアデノウイルスのペントンタンパク質の場合にトランスフェクション効率の上昇(50%〜80%)が観察されたことを示している。
【0301】
本明細書で言及されたすべての出版物および特許は本明細書に参照として組み入れられる。本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、本発明に記載された方法および系に、さまざまな修正や変更がなされることは当業者には明らかであると思われる。本発明は、特定の好ましい態様について記載されているが、請求する発明が、そのような特定の態様に過度に制限されるべきではないと理解されるべきである。実際に、関連分野の当業者に周知の本発明の実施に関して記載された様式のさまざまな修正は、添付の特許請求の範囲内であることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【図1】STEPの略図を示す。規則的に並べられた核酸(好ましくは真核発現ベクター中のcDNAクローン)が表面に固定化され、接着性の細胞が核酸のアレイ上にプレーティングされ、STEPによるトランスフェクションにより、トランスフェクトされた細胞が、トランスフェクトした核酸の発現の作用に関して検討される。
【図2】自動マイクロアレイスポッターでスポットしたDNAアレイによる、STEPでトランスフェクトされた細胞の検出を示す。
【図3】アデニル酸シクラーゼと共役したC1−APBによるドーパミン1(D1)受容体の活性化、およびこれに続く環状AMP生成の経路を示す。
【図4】アデノウイルスタンパク質ペントンが、トランスフェクション複合体中の複合剤として用いられている二種の細胞のトランスフェクションを示す。
本出願は、2000年11月3日に出願された米国仮特許出願第60/245,892号、および2001年7月13日に出願された第60/305,552号、ならびに2001年9月21日に出願された米国特許出願第09/960,454号の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は細胞トランスフェクション法、特に表面に固定化され、後に細胞をトランスフェクトする核酸への細胞の塗布に関する。一つの態様では核酸はアレイ状に固定化される。
【0003】
発明の背景
ヒトゲノムプロジェクトおよび他のゲノムプロジェクトで得られた大量の情報は、細胞生物学を始めとする従来の多くの分野における研究を加速させており、バイオインフォマティクスやプロテオミクスなどの全く新しい分野を生み出している。ヒトゲノムプロジェクトによりもたらされるヌクレオチド情報の機能解析は、次の数十年間に解明すべき研究上の疑問を提供している。またヒトゲノムの全配列は2003年までに公開される予定である。ヒトゲノムの特性解析における、このような第一段階は、これらの遺伝子群の機能を理解するための多くの機会を提供する。
【0004】
さまざまなゲノム配列決定プロジェクトの一つの重要な拡大領域は、cDNAクローンの5’端および3’端に存在する短いヌクレオチド配列の決定であり、またゲノムDNAから得られる配列との比較用でもある発現配列タグ(EST)配列の作製である(GillおよびSanseau、(2000) Biotechnol Annu Rev 5:25〜44)。ESTデータベース内に配列が存在することは、遺伝子の一部が特定の細胞内で、またある程度の量の相対レベルでmRNAに転写されることを意味する。ESTの配列決定は、組織特異的な遺伝子発現および病理学的な遺伝子発現の調節にかなりの知見を提供している。個々の生物医学分野の多くの研究者にとっては、ESTの特性が部分的に明らかになれば、対象遺伝子群のクローニングおよび発現が大きく進む。というのは、ESTの多くが公的または民間の供給先から容易に入手できるからである。
【0005】
遺伝子発現の調節を理解するために現在開発中のいくつかの手法は、大規模なゲノムデータベースおよび利用可能なESTを利用している。このような主な新しい手法の一つが、遺伝子発現を定量することで遺伝子の転写調節を調べるDNAマイクロアレイの使用である(Bittnerら、(1999) Nat Genet. 22(3):213〜215:Graves DJ、(1999) Trends Biotechnol. 17(3):127〜34;WatsonおよびAkil、(1999) Biol Psychiatry 45:533〜543;BrownおよびBotstein、(1999) Nat Genet 21:33〜37;Dugganら、(1999) Nat Genet 21:10〜14;Young、(2000) Cell 102:9〜15)。このアプローチでは、極めて少量のDNAを、ガラス製の顕微鏡用スライドの表面に塗布する(Schenaら、(1995) Science 270:467〜470)。典型的には、DNA試料は既知遺伝子またはEST配列に対応する短いPCR増幅断片である。10 ngのDNAを含む約100ナノリットルのDNA溶液をガラス製スライドに塗布して固定化する。DNAの塗布は自動化することが可能であり、自動化装置は10,000の各DNA試料を1枚の顕微鏡用スライド上に、容易に同定可能なパターンであるアレイ状にスポットすることができる。この過程全体が自動的に行われるので、スライドの複製を数千枚作製することができる。遺伝子発現を解析する際には、さまざまな試料から得られたmRNA調製物に由来する蛍光標識cDNAとハイブリッドをスライド上で形成させる。洗浄後、ガラス製スライドとハイブリッドを形成した蛍光DNAの量が、各PCR断片に相補的なmRNAの量の指標となる。蛍光強度はアレイスキャナーで定量され、cDNAの標識に使用されたフルオロフォアの波長における蛍光シグナルが決定される。
【0006】
この手法は、血清刺激後の繊維芽細胞に含まれる8,600の各遺伝子の転写反応の特性解析に(Iyerら、1999)、またウイルス感染、電離放射線、および癌の化学療法剤が転写調節に及ぼす作用に応用されている(BrownおよびBotstein、(1999) Nat Genet 21:33〜37;Zhu Hら、(1998) Proc Natl Acad Sci U.S.A. 95(24):14470〜5;Amundson SAら、(1999) Oncogene 18(24):3666〜72;Huang Fら、(1999) Oncogene 18(23):3546〜52)。
【0007】
アレイ状のDNA配列を用いることで潜在的に作製可能な情報が大量にあるにもかかわらず、このような情報は、細胞内に既に存在する核酸配列の有無の検出に限られている。したがってDNAマイクロアレイは現在、遺伝子発現の判定に使用されている。転写変化の特性が明らかにされると、関連EST遺伝子に関する情報は、他の既知遺伝子に対する相同性の探索に制限される場合が多く;仮にこのような相同性が存在しても、配列にコードされたタンパク質が機能するか否かは不明であるが、推定することだけはできる。したがって特定遺伝子、特に既知遺伝子に対する有意な相同性を示さないタンパク質をコードする遺伝子の機能に関して何ら知見を提供しない現在の方法には限界がある。タンパク質の機能、特に特性が明らかにされていない遺伝子がコードするタンパク質の機能を決定する際の本質的な情報には、タンパク質を発現させること、および特性を解析することが必要である。マイクロアレイDNAを用いる現在の手法の別の大きな限界は、細胞調節の主な局面が、このような手法で決定できないという点である。というのは細胞機能の大半の調節は、遺伝子の転写調節によってではなく、既存のタンパク質構造の修飾によってなされるからである。
【0008】
遺伝子産物の機能に関する特性解析を目的とした高スループットのスクリーニングアッセイ法の開発が求められており;好ましくは、このような手法は、DNAマイクロアレイ法の進歩を利用するものでもある。
【0009】
発明の概要
典型的には、遺伝子機能の決定には、調査対象の遺伝子による細胞のトランスフェクションが関与する。細胞のトランスフェクションは現在、細胞成長用培地に核酸複合体を添加することで行われており;このため、細胞をトランスフェクトする核酸複合体には空間的制限がない。本発明の目的は、タンパク質の機能に関する特性解析を可能とするが、DNAマイクロアレイハイブリダイゼーションのために開発された技術の進歩も利用する方法を提供することである。
【0010】
以上の目的は、トランスフェクションの開始前および開始時に核酸が空間的に制限される新しいトランスフェクション法を提供する本発明に合致する。したがって本発明は、固定化された核酸に細胞を直接プレーティングして、固定化された核酸によって細胞をトランスフェクトする方法を提供する。核酸は、細胞が成長可能な表面上に固定化され、通常の細胞培養条件下において当初固定化された領域に制限される。本発明のいくつかの局面では、核酸の空間的配置はアレイであり;好ましい態様ではアレイはマイクロアレイである。いくつかの態様では、アレイは規則的に並べられたアレイであり;他の態様ではランダムなアレイである。本発明の好ましい態様では、マイクロアレイは容易に購入できるDNAアレイヤーによって作製される。
【0011】
一つの局面では、本発明の方法は、トランスフェクトした核酸の発現をさらに提供し;さらに別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトした核酸の発現の検出をさらに含む。本発明のこの別の局面では、トランスフェクトした核酸の作用は、例えば適切な蛍光レポーターコンストラクトをトランスフェクトされた細胞内で用いることで、また市販のスキャナーで蛍光を検出することで容易に測定される。核酸は、EST、PCR産物、ゲノムDNA、cDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、およびアンチセンスコンストラクトを含むがこれらに限定されず;このような核酸は発現ベクター中に存在する場合がある。さまざまな局面における本発明は、表面トランスフェクションおよび発現法(Surface Transfection and Expression Prodedure;STEP)と呼ばれる。
【0012】
現在STEPは、多くが真核発現ベクター中にある、数多くの既存のセットのESTに直ちに応用することができる。またSTEPは、タンパク質の機能を完全長のcDNAの利用可能性に無関係に調べることが可能なアンチセンス法を利用することができる。ESTアレイに対するディファレンシャルハイブリダイゼーションのように、さまざまな細胞調節経路に広くSTEPは応用可能であり、またゲノミクスとプロテオミクスをつなぐ重要かつ有用な手法である。
【0013】
したがって本発明は、表面上に固定化されたトランスフェクション複合体を提供する段階(複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤、ならびに細胞を含む);ならびに細胞がトランスフェクトされる条件下で、固定化されたトランスフェクション複合体中の核酸に細胞を接触させる段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法を提供する。いくつかの態様では、複合剤は、受容体に対するリガンド、DNA結合分子、および膜透過性分子からなる群より選択される。他の態様では、トランスフェクション複合体は、第一および第二の複合剤を含み(第一の複合剤は受容体に対するリガンドを含み、また第二の複合剤はDNA結合タンパク質を含む);さらに他の態様では、トランスフェクション複合体は、膜透過性分子を含む第三の複合剤をさらに含む。いくつかの好ましい態様では、リガンドは受容体に対するものであり(エンドサイトーシスで細胞に取り込まれる)、DNA結合分子は陽イオン性タンパク質であり、また膜透過性分子は陽イオン性脂質である。他の好ましい態様では、第一の複合剤はトランスフェリンを含み、また第二の複合剤はポリリシンを含む。他の好ましい態様では、第一の複合剤はウイルスタンパク質を含み、また第二の複合剤はポリリシンまたはヒストンを含み;さらにより好ましい態様では、ウイルスタンパク質はペントンタンパク質、HIVタンパク質GP120、ウマ鼻炎Aウイルスタンパク質VP1、ヒトアデノウイルスタンパク質E3、およびエプスタイン・バーウイルスタンパク質GP350からなる群より選択される。他の態様では、トランスフェクション複合体は少なくとも二種の複合剤を含む(少なくとも二種の複合剤は共有結合で相互に連結される)。いくつかの好ましい態様では、複合剤は、陽イオン性タンパク質に共有結合で連結されたリガンドを含み;他の好ましい態様では、複合剤は、共有結合でポリリシンに連結されたトランスフェリンを含む。さらに他の好ましい態様では、複合剤は、共有結合でポリリシンまたはヒストンに結合されたウイルスタンパク質を含む。さらに他の好ましい態様では、トランスフェクション複合体は第三の複合剤をさらに含む(第三の複合剤は膜透過性分子(好ましくは陽イオン性脂質)を含む)。さらに他の好ましい態様では、複合剤は、トランスフェリン、ポリリシン、およびリポフェクタミン(登録商標)を含む(トランスフェリンは共有結合でポリリシンに連結される)。他の態様では、トランスフェクション複合体は、標的分子、転写分子、核酸分解阻害剤、ならびに細胞の成長および完全性のモジュレーターからなる群より選択される少なくとも一種の別の薬剤をさらに含む。他の態様では核酸は、EST、PCR産物、ゲノムDNA、cDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、およびアンチセンスコンストラクトからなる群より選択され;このような核酸は発現ベクター中に存在する場合がある。さらに別の態様では、少なくとも一種のトランスフェクション複合体は一種の核酸を含む。別の態様では、少なくとも一種のトランスフェクション複合体は複数種の核酸を含む。
【0014】
本発明の別の局面では、固定化されたトランスフェクション複合体は、表面上に固定化されたトランスフェクション複合体のアレイを形成する(トランスフェクション複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤を含む)。いくつかの態様ではアレイはマイクロアレイである。いくつかの態様ではアレイは整然と並んでおり;他の態様ではアレイはランダムな状態である。さらに別の局面では、表面は、平面、凹型、凸型、球形、および立方形からなる群より選択される配置となる。いくつかの態様では、表面はマルチウェルの組織培養プレートであり;好ましい態様では、表面は96ウェルまたは384ウェルのプレートである。さらに別の局面では、表面はスライド、ビーズ、立方体、チップ、フィルム、および膜からなる群より選択される。本発明の別の局面では、表面はガラス、プラスチック、フィルム、および膜からなる群より選択される材料から作製される。本発明の別の局面では、表面は核酸および細胞の両方が接着する化合物で事前にコーティングされる。一つの態様では、化合物はポリリシン、フィブロネクチン、およびラミニンからなる群より選択される。
【0015】
本発明の他の態様では、細胞は真核細胞である。いくつかの態様では、細胞は哺乳類細胞である。他の態様では、細胞は培養細胞、および供給源から得られた直後の細胞からなる群より選択される。さらに他の態様では、細胞は一次培養物、細胞系列、および三次元培養細胞からなる群より選択される培養細胞である。さらに別の態様では、細胞はインビボの細胞であり;細胞は組織細胞、器官細胞、および腫瘍細胞からなる群より選択される場合がある。
【0016】
本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内で核酸を発現させる段階をさらに含む。本発明のさらに他の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を検出する段階をさらに含む。いくつかの態様では、発現を検出する段階は経時的にモニタリングされる。他の態様では、発現を検出する段階は完全な細胞で調べられる。他の態様では、核酸は少なくとも一種の蛍光レポータータンパク質をコードし、また発現は蛍光顕微鏡で検出される。さらに他の態様では、核酸は少なくとも一種の発光レポータータンパク質をコードし、発現は光学的検出装置で検出される。
【0017】
本発明は、トランスフェクション複合体を表面上に固定化する段階(複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤を含む)、および細胞がトランスフェクトされる条件下で、表面上のトランスフェクション複合体中で固定化された核酸に細胞を接触させる段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法も提供する。トランスフェクション複合体、表面上に固定化された複合体の形状、および細胞の態様については上述した。本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内で核酸を発現させる段階をさらに含み、また本発明の他の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を上述の態様で検出する段階をさらに含む。
【0018】
本発明は、核酸を少なくとも一種の複合剤と混合して核酸および複合剤を含む、少なくとも一種のトランスフェクション複合体を形成させる段階;少なくとも一種のトランスフェクション複合体を表面上に固定化して固定化された核酸を形成させる段階;および細胞がトランスフェクトされる条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階を含む細胞をトランスフェクトする方法も提供する。トランスフェクション複合体、表面上に固定化されたトランスフェクション複合体の形状、表面、および細胞の態様については上述した。本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内において核酸を発現させる段階をさらに含み、また本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を上述の態様で検出する段階をさらに含む。
【0019】
本発明はまた、トランスフェリンをポリリシンに共有結合で連結する段階;核酸および少なくとも一種の陽イオン性脂質を、共有結合で連結されたポリリシンおよびトランスフェリンと混合してトランスフェクション複合体を形成させる段階;トランスフェクション複合体を表面に固定化して、固定化された核酸を形成させる段階;ならびに固定化された核酸に細胞を接触させて、トランスフェクトされた細胞を作る段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法も提供する。本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内で核酸を発現させる段階をさらに含み;また本発明のさらに別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を検出する段階をさらに含む。トランスフェクション複合体、表面上に固定化された核酸の状態、表面、および細胞の態様については上述した。
【0020】
本発明はまた、ランダムアレイ状に表面上に固定化されたトランスフェクション複合体を提供する段階(トランスフェクション複合体は、核酸、および少なくとも一種の複合剤、ならびに細胞を含む);および細胞がトランスフェクトされる条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法も提供する。トランスフェクション複合体、表面上に固定化された核酸の状態、表面、および細胞の態様については上述した。本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内において核酸を発現させる段階をさらに含み、また本発明の別の局面では、本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を上述の態様で検出する段階をさらに含む。
【0021】
本発明の別の局面は、核酸を少なくとも一種の複合剤と混合して少なくとも一種のトランスフェクション複合体を形成させる段階;および、核酸を十分固定化する条件下で、少なくとも一つのトランスフェクション複合体を表面に接触させる段階を含む、核酸を表面上に固定化する方法を提供する。トランスフェクション複合体、表面上に固定化された核酸の状態、および表面の態様については上述した。本発明はまた、固定化された核酸を含む表面も提供する(核酸は上述の任意の方法で作製される少なくとも一種のトランスフェクション複合体中に固定化される)。したがって、いくつかの態様では、表面は固定化された核酸をアレイ状に含み;いくつかの好ましい態様では、アレイはマイクロアレイである。いくつかの態様では、アレイは規則的に並べられた状態であり;他の態様では、アレイはランダムな状態である。トランスフェクション複合体、および表面の態様については上述した。
【0022】
別の局面では、本発明はまた、上述の任意の方法で作製されるトランスフェクション複合体も提供する。本発明はまた、上述の任意の一つまたは複数のトランスフェクション複合体を含む組成物も提供する。本発明は上述のいずれか一種または複数のトランスフェクション複合体を含む、1個または複数の容器を含むキットをさらに提供する。
【0023】
本発明はまた、本発明のトランスフェクション複合体が任意の複数の応用に用いられる別の局面も提供する。このような複数の局面については以下のパラグラフで説明する。このような別の局面では、トランスフェクション複合体、複合剤、核酸、トランスフェクション複合体の表面への固定化、表面、および細胞の態様は一般的に上述した通りである。
【0024】
別の局面では、発明は以下の段階を含むタンパク質−タンパク質結合対を検出する方法を提供する:第一および第二の核酸、ならびに少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体(第一の核酸は第一のタンパク質をコードし、また第二の核酸は第二のタンパク質をコードし、また核酸は少なくとも一種の発現ベクター中に存在する)、および細胞を提供する段階;細胞が第一および第二の核酸で同時トランスフェクトされて、第一および第二の核酸が発現される条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階;ならびにタンパク質−タンパク質複合体の存在を検出する段階(少なくとも一種のタンパク質は少なくとも一種の核酸にコードされたタンパク質である)。
【0025】
さらに別の局面では、本発明は以下の段階を含む受容体タンパク質に対するリガンドを同定する方法を提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体は第一および第二の核酸ならびに第一および第二の複合剤を含み、第一の核酸が受容体をコードし、第二の核酸がタンパク質をコードし、第一および第二の核酸が少なくとも一種の発現ベクター中に存在し、また第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含む)、および細胞を提供する段階;および、細胞を核酸とともに同時トランスフェクトして、核酸を発現させる条件下で複合体に細胞を接触させる段階;ならびにリガンド−受容体結合対の存在を検出する段階(受容体タンパク質は第一の核酸にコードされる)。
【0026】
別の局面では、本発明は以下の段階を含むDNA結合タンパク質を同定する方法を提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体は第一および第二の核酸ならびに少なくとも一種の複合剤を含み、第一の核酸がタンパク質をコードして発現ベクター中に存在し、また第二の核酸は発現ベクター中に存在しない)、および細胞を提供する段階;細胞を核酸と同時トランスフェクトして核酸を発現させる条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階;ならびに第二の核酸と、第二の核酸に結合するタンパク質間の結合の存在を検出する段階。
【0027】
別の局面では、本発明は以下の段階を含む分析対象物の作用を解析する方法を提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤を含み、核酸はタンパク質をコードし、また核酸は発現ベクター中に存在する)、および細胞を提供する段階;細胞が核酸でトランスフェクトされて核酸が発現される条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階;分析対象物が、トランスフェクトした核酸にコードされたタンパク質と相互作用する条件下で、トランスフェクトされた細胞に分析対象物を添加する段階;ならびに分析対象物がタンパク質に及ぼす作用を検出する段階。
【0028】
さらに別の局面では、本発明は以下の段階を含む翻訳後修飾されたタンパク質を同定する方法を提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(トランスフェクション複合体は核酸および少なくとも一種の複合剤を含み、核酸はタンパク質をコードし、また核酸は発現ベクター中に存在する)、および細胞を提供する段階;細胞が核酸でトランスフェクトされて核酸が発現される条件下で、固定化された核酸に細胞を接触させる段階;ならびにタンパク質の翻訳後修飾を検出する段階。
【0029】
本発明はまた以下の段階を含む核酸を表面に固定化する方法も提供する:核酸を少なくとも二種の複合剤と混合して少なくとも一種のトランスフェクション複合体を形成させる段階(複合剤はポリ多糖、脂質、およびデンドリマーからなる群より選択される);ならびに核酸を十分固定化する条件下で、少なくとも一種のトランスフェクション複合体を表面に接触させる段階。このようなトランスフェクション複合体は次に、上述の任意の方法による細胞のトランスフェクションに使用される場合があり;一群のトランスフェクション複合体は、上述のトランスフェクション複合体のアレイを形成するために使用される場合もある。本発明は核酸、ならびにポリ多糖、脂質、およびデンドリマーからなる群より選択される複合剤を含むトランスフェクション複合体;ならびにこのように固定化されたトランスフェクション複合体を含む表面をさらに提供する。
【0030】
本発明はまた以下の段階を含む細胞をトランスフェクトする方法も提供する:表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体は核酸ならびに第一および第二の複合剤を含み、第一の複合剤は受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤はDNA結合分子を含む)、および細胞を提供する段階;ならびに細胞が能動輸送過程でトランスフェクトされる条件下で、表面上に固定化されたトランスフェクション複合体に細胞を接触させる段階。
【0031】
定義
本発明の理解を深めるために、本明細書で用いられるいくつかの用語および表現を以下に挙げる。
【0032】
「タンパク質キナーゼ」という用語は、ヌクレオチド三リン酸に由来するリン酸基の、タンパク質中のアミノ酸側鎖への付加を触媒するタンパク質を意味する。キナーゼは、既知の最大の酵素スーパーファミリーを構成し、また標的タンパク質はさまざまである。キナーゼは、チロシン残基をリン酸化するタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)、およびセリン残基および/またはスレオニン残基をリン酸化するタンパク質セリン/スレオニンキナーゼ(STK)に分類することができる。一部のキナーゼは、セリン/スレオニン残基およびチロシン残基の両方に対して二重の特異性をもつ。ほぼすべてのキナーゼは、保存された250〜300アミノ酸からなる触媒ドメインを含む。このドメインはさらに11のサブドメインに分けられる。N末端のサブドメインI〜IVは、ATPドナー分子に結合して配向する二か所の突出部をもつ構造に折りたたまれ、またサブドメインVは二つの突出部全体に広がる。C末端のサブドメインVI〜XIはタンパク質基質に結合し、γ−リン酸をATPからセリン残基、スレオニン残基、またはチロシン残基のヒドロキシル基へ移す。11の各サブドメインは特異的な触媒残基、すなわちサブドメインに特徴的なアミノ酸モチーフを含む。例えばサブドメインIは、8−アミノ酸のグリシンに富むATP結合コンセンサスモチーフを含み、サブドメインIIは、触媒活性を最大とするために必要な重要なリシン残基を含み、またサブドメインVI〜IXは高度に保存された触媒中心を含む。STKおよびPTKは、ヒドロキシアミノ酸に対する特異性をもたらす場合があるサブドメインVIおよびVIII中に明瞭な配列モチーフも含む。一部のSTKおよびPTKは、両のファミリーの構造特性を有する。またキナーゼは、キナーゼドメインに隣接するか、またはキナーゼドメイン中にある付加的なアミノ酸配列(一般的には5〜100塩基)によって分類される場合もある。
【0033】
非貫通型PTKは、形質膜受容体の細胞質ドメインとシグナル伝達複合体を形成する。非貫通型PTKを介してシグナルを伝達する受容体には、サイトカイン、ホルモン、および抗原特異的なリンパ球の受容体などがある。PTKの多くは、PTKの活性化が正常な細胞制御の支配を受けなくなった癌細胞内の癌遺伝子産物として当初同定された。既知の癌遺伝子の約3分の1が実際にPTKをコードしている。また、細胞の形質転換(発癌)はチロシンリン酸化活性の上昇を伴う場合が多い(例えばCarbonneau、H.およびTonks、Annu.Rev.Cell Biol. 8:463〜93 (1992)を参照)。したがってPTK活性の調節は、ある種の癌を制御する重要な方法となる場合がある。
【0034】
「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合で連結されたアミノ酸を含む化合物を意味し、互換的に使用される。
【0035】
本明細書で用いられる「アミノ酸配列」は、タンパク質分子のアミノ酸配列を意味する。「アミノ酸配列」は、タンパク質をコードする核酸配列から推定することができる。しかし「ポリペプチド」または「タンパク質」などという用語は、アミノ酸配列を推定アミノ酸配列に制限することを意味せず、アミノ酸の欠失、付加、およびグリコシル化および脂質部分の付加などの修飾などの、推定アミノ酸配列の翻訳後修飾を含む。
【0036】
(「任意のタンパク質の一部分」のように)タンパク質に関して用いられる「一部分」という用語は、タンパク質の断片を意味する。タンパク質の断片の大きさは、4アミノ酸残基から、全アミノ酸配列から1アミノ酸を引いたものまでの範囲である場合がある。
【0037】
ポリペプチドに関して用いられる「キメラ」という用語は、同時にクローニングされていて、また翻訳後に一つのポリペプチド配列として作用する、さまざまな遺伝子から得られる2個またはそれ以上のコード配列の発現産物を意味する。キメラポリペプチドは「ハイブリッド」ポリペプチドとも呼ばれる。コード配列は、同じ生物種または異なる生物種から得られる配列を含む。
【0038】
ポリペプチドに関して用いられる「融合」という用語は、外因性タンパク質断片(融合パートナー)に連結された対象タンパク質を含むキメラタンパク質を意味する。融合パートナーは、対象ポリペプチドの可溶性促進を含む、さまざまな機能を果たす場合があるほか、宿主細胞もしくは上清、またはこの両方に由来する組換え融合ポリペプチドの精製を可能とする「アフィニティタグ」となる。望ましいならば融合パートナーは、精製後または精製中に対象タンパク質から除去することができる。
【0039】
ポリペプチドに関して用いられる「相同物」または「相同である」という用語は、二つのポリペプチド間における高度の配列同一性、もしくは三次元構造間における高度の類似性、または活性部位および作用機序間における高度の類似性を意味する。好ましい態様では、相同物は標準配列に対して60%を上回る配列同一性、またより好ましくは75%を上回る配列同一性、またさらにより好ましくは90%を上回る配列同一性を有する。
【0040】
ポリペプチドに対して用いられる「実質的同一性」という用語は、二つのペプチド配列が、デフォルトのギャップウェイトを用いたプログラムGAPまたはBESTFITなどで最適にアライメントさせたときに、少なくとも80%の配列同一性を有し、好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有し、より好ましくは少なくとも95パーセント、またはそれ以上の配列同一性(例えば99パーセントの配列同一性)を有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基の位置は保存的なアミノ酸置換によって異なる。
【0041】
ポリペプチドに関して用いられる「バリアント」および「変異体」という用語は、1個または複数のアミノ酸が別のアミノ酸(通常は関連するポリペプチド)と異なるアミノ酸配列を意味する。バリアントは「保存的」変化を有する場合がある。この場合、置換されたアミノ酸は類似の構造的特性または化学的特性を有する。保存的なアミノ酸置換の一つのタイプは、類似の側鎖を有する残基の可換性を意味する。例えば脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり;脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループはセリンおよびスレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループはアスパラギンおよびグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループはフェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループはリシン、アルギニン、およびヒスチジンであり;また硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループはシステインおよびメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換のグループは、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、およびアスパラギン−グルタミンである。さらに希には、バリアントは「非保存的」変化(例えばグリシンとトリプトファンの置換)を有する場合がある。類似のわずかな差違はアミノ酸の欠失または挿入(言い替えると付加)、またはこれらの両方を含む場合もある。どのアミノ酸残基が、またいくつのアミノ酸残基が、生物学的活性を失うことなく置換、挿入、または欠失が起こる場合があるのかを判定する際の手引きは、当技術分野で周知のコンピュータプログラム(例えばDNAStarソフトウェア)を用いて明らかになる場合がある。バリアントは、機能アッセイ法で検討することができる。好ましいバリアントは10%未満の変化、また好ましくは5%未満の変化、またさらにより好ましくは2%未満の変化(置換や欠失など)を有する。
【0042】
「遺伝子」という用語は、RNA、またはポリペプチド、もしくはその前駆体(例えばプロインスリン)の産生に必要なコード配列を含む核酸(例えばDNAもしくはRNA)配列を意味する。機能性ポリペプチドは、完全長のコード配列、またはポリペプチドの所望の活性もしくは機能特性(例えば酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達など)が保持されている限りは、コード配列の任意の一部分にコードされる場合がある。遺伝子に関して用いられる「一部分」という用語は遺伝子の断片を意味する。断片の大きさは、数ヌクレオチドから、遺伝子配列全体から1ヌクレオチド引いたものまでの範囲にある場合がある。したがって「少なくとも遺伝子の一部分を含むヌクレオチド」という用語は、遺伝子の断片または遺伝子全体を含む場合がある。
【0043】
「遺伝子」という用語は構造遺伝子のコード領域も含み、5’端および3’端において、遺伝子が完全長のmRNAの長さ対応するように、いずれかの末端から約1 kbの距離をおいて、コード領域に隣接して位置する配列を含む。コード領域の5’側に位置し、またmRNA上に存在する配列は5’非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3’側すなわち下流に位置し、またmRNA上に存在する配列は3’非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語は、cDNA状の遺伝子およびゲノム状の遺伝子の両方を含む。ゲノム状の遺伝子、または遺伝子のクローンは「イントロン」または「介在領域」もしくは「介在配列」と呼ばれる非コード配列で分断されたコード領域を含む。イントロンは核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり;イントロンはエンハンサーなどの調節領域を含む場合がある。イントロンは核転写物すなわち一次転写物から除去すなわち「スプライスアウト(splice out)」される;したがってイントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物上には存在しない。mRNAは翻訳中に機能して、新生ポリペプチド中の配列、またはアミノ酸の順序を特定する。
【0044】
イントロンを含むことに加えて、ゲノム状遺伝子は、RNA転写物上に存在する配列の5’端および3’端の両方に位置する配列を含む場合もある。このような配列は「隣接」配列もしくは領域と呼ばれる(このような隣接配列はmRNA転写物上に存在する非翻訳配列に対して5’側または3’側に位置する)。5’隣接領域は、遺伝子の転写を制御したり影響を及ぼしたりするプロモーターおよびエンハンサーなどの調節配列を含む場合がある。3’隣接領域は転写の終了、転写後の切断、およびポリアデニル化を誘導する配列を含む場合がある。
【0045】
「異種遺伝子」という用語は、天然の環境では存在しない(すなわち人工的な変化を受ける)因子をコードする遺伝子を意味する。例えば異種遺伝子は、別の種に導入された、ある一つの種に由来する遺伝子を含む。異種遺伝子はまた、いくつかの方法で変化を受けた(例えば変異が加えられた、複数のコピーが添加された、非天然のプロモーター配列もしくはエンハンサー配列に連結された)生物体にとって天然の遺伝子も含む。異種遺伝子は、cDNA状の植物遺伝子を含む植物遺伝子配列を含む場合があり;このようなcDNA配列は、センス方向(mRNAを生じる)またはアンチセンス方向(mRNA転写物に相補的なアンチセンスRNA転写物を生じる)のいずれかの方向で発現される場合がある。異種遺伝子は、異種遺伝子配列が典型的には、天然の状態では異種遺伝子にコードされるタンパク質の遺伝子、または染色体中の植物遺伝子配列と結合した状態ではみられないプロモーター、または天然には認められない染色体の一部分(例えば遺伝子が通常発現されない座位で発現される遺伝子)と結合するプロモーターなどの調節領域を含むヌクレオチド配列に連結されるという点で、内因性の植物遺伝子と区別される。
【0046】
「ポリヌクレオチド」という用語は、2個またはそれ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、好ましくは3個を越える、また通常は10個を越えるデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを意味する。正確な大きさは諸因子によって変わり、オリゴヌクレオチドの最終的な機能または用途によって変わる。ポリヌクレオチドは化学合成、DNAの複製、逆転写、またはこれらの組み合わせを含む任意の様式で生じる場合がある。「オリゴヌクレオチド」という用語は、通常長さが30ヌクレオチド未満の長さの短い一本鎖のポリヌクレオチド鎖を一般に意味するが、「ポリヌクレオチド」という用語と互換的に使用される場合もある。
【0047】
「核酸」という用語は、上述したヌクレオチドのポリマーすなわちポリヌクレオチドを意味する。この用語は一つの分子、または分子集団を指して使用される。核酸は一本鎖状態または二本鎖状態の場合があり、上述したようなコード領域、およびさまざまな制御領域の領域を含む場合がある。
【0048】
「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」、もしくは「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」、または特定のポリペプチド「をコードする核酸配列」という用語は、遺伝子のコード領域、または言い替えると遺伝子産物をコードする核酸配列を含む核酸配列を意味する。コード領域はcDNA、ゲノムDNA、またはRNAのいずれかの状態で存在する場合がある。DNAの状態で存在する場合、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、または核酸は一本鎖(すなわちセンス鎖)または二本鎖の場合がある。エンハンサー/プロモーター、スプライス部位、ポリアデニル化シグナルなどの適切な制御領域は、転写の適切な開始、および/または一次RNA転写物の正確なプロセシングを可能とする必要がある場合、遺伝子のコード領域の近傍に位置する場合がある。または、本発明の発現ベクターに使用されるコード領域は、内因性のエンハンサー/プロモーター、スプライス部位、介在配列、ポリアデニル化シグナルなど、または内因性および外因性の制御領域の両方の組み合わせを含む場合がある。
【0049】
核酸分子に関して用いられる「組換え体」という用語は、分子生物学的手法の手段によってともに連結された核酸のセグメントを含む核酸分子を意味する。タンパク質またはポリペプチドに関して用いられる「組換え体」という用語は、組換え体核酸分子を用いて発現されるタンパク質分子を意味する。
【0050】
「相補的である」および「相補性」という用語は、塩基対規則によって関連づけられるポリヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)を意味する。例えば配列「A−G−T」は配列「T−C−A」に相補的である。相補性は、核酸塩基の一部が塩基対規則にしたがって一致する場合に「部分的」である場合がある。または核酸間には「完全な」もしくは「全体的な」相補性がある場合がある。核酸鎖間における相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に有意に影響する。これは核酸間の結合に依存する増幅反応、ならびに検出法に特に重要である。
【0051】
核酸に関して用いられる「相同性」という用語は相補性の程度を意味する。相同性には部分的な相同性、または完全な相同性(すなわち同一性)の場合がある。「配列同一性」は、二つまたはそれ以上の核酸、またはタンパク質間における関連性の尺度を意味し、また総比較長に対するパーセンテージとして与えられる。同一性の計算では、同一な、また個々の、より長い配列中の同じ相対位置にあるヌクレオチド残基またはアミノ酸残基を考慮に入れる。同一性の計算は「GAP」(Genetics Computer Group、Madison、Wis.)、および「ALIGN」(DNAStar、Madison、Wis.)などのコンピュータプログラムに含まれるアルゴリズムによって実施することができる。部分的に相補的な配列は、完全に相補的な配列が標的配列とハイブリッドを形成することを少なくとも部分的に阻害する(または競合する)配列であり、「実質的に相同である」という機能的な用語で表現される。標的配列に対する完全に相補的な配列のハイブリダイゼーションの阻害は、低ストリンジェンシーの条件下でハイブリダイゼーションアッセイ法(サザンブロットまたはノーザンブロットや溶液ハイブリダイゼーションなど)で調べることができる。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェンシーの条件下で、標的に完全に相補的な配列の結合(すなわちハイブリダイゼーション)を競合し、これを阻害する。低ストリンジェンシーの条件が非特異的な結合が可能であるような条件であるとは言えない。すなわち低ストリンジェンシーの条件は、二つの配列の相互の結合が特異的(すなわち選択的)な相互作用であることを必要とする。非特異的な結合が存在しないことは、部分的な程度の相補性さえ欠く(例えば約30%未満の同一性)第二の標的を用いて検討することが可能であり;非特異的な結合の非存在下では、プローブは第二の非相補的標的とハイブリッドを形成しない。
【0052】
以下に挙げる用語は、二つまたはそれ以上のポリヌクレオチド間の配列の関連性を記述する際に用いられる:「標準配列」、「配列同一性」、「配列同一性のパーセンテージ」、および「実質的な同一性」。「標準配列」は、配列比較の基礎として用いられる特定の配列であり;標準配列は、より長い配列の一部、例えば配列表に記載された完全長のcDNA配列のセグメントの場合があるほか、完全な遺伝子配列を含む場合がある。一般に標準配列は長さが少なくとも20ヌクレオチド、頻繁には長さが少なくとも25ヌクレオチド、また多くは長さが少なくとも50ヌクレオチドである。二つのポリヌクレオチドはそれぞれ、(1)二つのポリヌクレオチド間で類似した配列(すなわち完全なポリヌクレオチド配列の一部分)を含み、また(2)二つのポリヌクレオチド間で異なる配列をさらに含む場合があるので、二つ(またはこれ以上)のポリヌクレオチド間の配列比較は典型的には、二つのポリヌクレオチドの配列を「比較ウィンドウ」に対して比較して、配列類似性の局所領域を同定および比較することで行われる。本明細書で用いられる「比較ウィンドウ」は、少なくとも20個の連続ヌクレオチドの位置の概念的なセグメントを意味する(ポリヌクレオチド配列は少なくとも20個の連続ヌクレオチドの標準配列と比較される場合があり、また比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド配列の一部分は、二つの配列の最適なアライメントのために標準配列(付加もしくは欠失を含まない)と比較したときに20%またはそれ未満の付加または欠失(すなわちギャップ)を含む場合がある)。比較ウィンドウをアライメントする配列の最適なアラインメントは、スミス(Smith)およびウォーターマン(Waterman)(SmithおよびWaterman、Adv.Appl.Math. 2:482 (1981))の局所相同性アルゴリズム、ニードルマン(Needleman)およびヴンシュ(Wunsch)(NeedlemanおよびWunsch、J.Mol.Biol. 48:443 (1970))の相同性アラインメントアルゴリズム、ピアソン(Pearson)およびリップマン(Lipman)(PearsonおよびLipman、Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.) 85:2444 (1988))の類似性検索法、以上のアルゴリズムのコンピュータを用いた実行(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0、Genetics Computer Group、575 Science Dr.、Madison、Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、または推定で実施することが可能であり、またさまざまな方法で作製される最高のアライメント(すなわち比較ウィンドウに対して最高のパーセンテージの相同性を得る)が選択される。「配列同一性」という用語は、二つのポリヌクレオチド配列が比較ウィンドウに対して同一であること(すなわち個々のヌクレオチドベースで同一であること)を意味する。「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウに対して二つの最適にアライメントされた配列を比較して、両配列に存在する同一の核酸塩基(例えばA、T、C、G、U、またはI)の位置の数を決定して一致した位置の数を得て、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の全位置数(すなわちウィンドウのサイズ)で割って、またその結果を100倍して配列同一性のパーセンテージを得ることで計算される。本明細書で用いられる「実質的な同一性」という用語はポリヌクレオチド配列の特徴を意味する(ポリヌクレオチドは少なくとも20ヌクレオチドの位置を有する比較ウィンドウの標準配列に対して、高頻度では少なくとも20〜25ヌクレオチドを有するウィンドウの標準配列に対して比較したときに少なくとも85%の配列同一性を有し、好ましくは少なくとも90〜95%の配列同一性を有し、より一般的には少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む(配列同一性のパーセンテージは、標準配列を比較ウィンドウに対して標準配列全体の20%またはそれ未満の欠失もしくは付加を含む場合があるポリヌクレオチド配列と比較することで計算される))。標準配列は、より長い配列の一部、例えば本発明で請求される組成物の完全長配列のセグメントの場合がある。
【0053】
cDNAクローンまたはゲノムクローンなどの二本鎖核酸配列に関して用いられる「実質的に相同である」という用語は、上述した低〜高ストリンジェンシーの条件下で、二本鎖核酸配列のいずれか、または両方の鎖とハイブリッドを形成可能な任意のプローブを意味する。
【0054】
一本鎖核酸配列に関して用いられる「実質的に相同である」という用語は、上述の低〜高ストリンジェンシーの条件下で、一本鎖核酸配列とハイブリッドを形成可能な(すなわち一本鎖核酸配列の相補物である)任意のプローブを意味する。
【0055】
「ハイブリダイゼーション」という用語は相補的な核酸の対合を意味する。ハイブリダイゼーション、およびハイブリダイゼーションの強度(すなわち核酸間の結合の強度)は、核酸間の相補的な程度、関与する条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのTm、および核酸間のG:C比などの諸因子の影響を受ける。構造内に相補的核酸の対合を含む一つの分子は「自己ハイブリッドを形成している」と表現される。
【0056】
「Tm」という用語は核酸の「溶解温度」を意味する。溶解温度は、二本鎖核酸分子の集団の半分が解離して一本鎖になる温度である。核酸のTmを計算するための方程式は当技術分野で周知である。標準的な参考文献に記載されているように、Tm値の単純な推定値は以下の方程式で計算することができる:Tm=81.5+0.41(%G+C)(この式で核酸は1 M NaClの水溶液中に存在する)(例えばAndersonおよびYoung、「核酸のハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization)」(1985)中の定量的フィルターハイブリダイゼーション(Quantitative Filter Hybridization)を参照)。他の参考文献には、Tmの計算に構造および配列の特徴を考慮した、さらに詳細な計算法が記載されている。
【0057】
本明細書で用いられる「ストリンジェンシー」という用語は、核酸のハイブリダイゼーションが達成される温度、イオン強度、および他の化合物(有機溶媒など)の存在の条件を意味する。「高ストリンジェンシー」条件では、核酸塩基の対合は、高い出現頻度の相補的塩基配列を有する核酸断片間でのみ起きる。したがって「低」ストリンジェンシーの条件が、遺伝的に多様な生物に由来する核酸では必要とされることが多い(相補的配列の出現頻度が通常低いため)。
【0058】
核酸のハイブリダイゼーションに関して用いられる「低ストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブを使用する場合、5×SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2・H2O、および1.85 g/l EDTA、NaOHでpH 7.4に調整)、0.1% SDS、5×デンハルト試薬[50×デンハルトは500 mlあたり5 gのFicoll(Type 400、Pharmacia)、5 gのBSA(Fraction V;Sigma)を含む]、および100 μg/ml 変性サケ***DNAを含む溶液中における42℃における結合またはハイブリダイゼーションと、これに続く、5×SSPE、0.1% SDSを含む溶液中における42℃における洗浄に相当する条件を含む。
【0059】
核酸のハイブリダイゼーションに関して用いられる「中ストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブを使用する場合、5×SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85 g/l EDTA、NaOHでpH 7.4に調整)、0.5% SDS、5×デンハルト試薬、および100 μg/ml 変性サケ***DNAを含む溶液中における42℃における結合またはハイブリダイゼーションと、これに続く、1.0×SSPE、1.0% SDSを含む溶液中における42℃における洗浄に相当する条件を含む。
【0060】
核酸のハイブリダイゼーションに関して用いられる「高ストリンジェンシー条件」は、長さが約500ヌクレオチドのプローブを使用する場合、5×SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4・H2O、および1.85 g/l EDTA、NaOHでpH 7.4に調整)、0.5% SDS、5×デンハルト試薬、および100 μg/ml 変性サケ***DNAを含む溶液中における42℃における結合またはハイブリダイゼーションと、これに続く、0.1×SSPE、1.0% SDSを含む溶液中における42℃における洗浄に相当する条件を含む。
【0061】
多くの同等の条件が、低ストリンジェンシー条件を含むように使用される場合があることはよく知られており;プローブの長さおよび性質(DNA、RNA、塩基組成)、および標的の性質(DNA、RNA、塩基組成、溶液中に存在するか固定化されているか、など)、ならびに塩および他の化合物の濃度(例えばホルムアミド、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコールの有無)などの因子が考慮され、またハイブリダイゼーション溶液は、上述条件とは異なるが同等の低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件となるように変動する場合がある。また当技術分野では、高ストリンジェンシーの条件(例えばハイブリダイゼーションを起こす温度が高く、および/または洗浄段階の回数が多く、またハイブリダイゼーション溶液中にホルムアミドが使用されるといった条件)においてハイブリダイゼーションを促進する条件が知られている。
【0062】
「増幅」は、テンプレートの特異性が関与する核酸複製の特別の場合である。これは非特異的なテンプレートの複製(すなわちテンプレートに依存するが特定のテンプレートには依存しない複製)と対照をなす。テンプレートの特異性は、この場合、複製の忠実性(すなわち適切なポリヌクレオチド配列が合成されること)、およびヌクレオチド(リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチド)の特異性とは区別される。テンプレートの特異性は「標的」特異性に関して使われることが多い。標的配列は、他の核酸から選び出されるように探索されるという意味における「標的」である。増幅法は、このような選び出しのために主に設計されている。
【0063】
テンプレートの特異性は、酵素を選択することで多くの増幅法で達成される。増幅用酵素は、使用条件下で核酸の異種混合物中の核酸の特定の配列のみを処理する酵素である。例えばQ_レプリカーゼの場合、MDV−1 RNAが同レプリカーゼに対する特定のテンプレートである(Kacianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、69:3038 (1972))。他の核酸は、この増幅用酵素では複製されない。同様にT7 RNAポリメラーゼの場合、同増幅用酵素は、それ自身のプロモーターに対してストリンジェントな特異性を有する(Chamberlinら、Nature、228:227 (1970))。T4 DNAリガーゼの場合、同酵素は、二つのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質と、テンプレート間に連結部位においてミスマッチが存在する場合に連結しない(WuおよびWallace、Genomics、4:560 (1989))。またTaqおよびPfuポリメラーゼは高温で機能可能なので、結合した配列、したがってプライマーで特定される配列に高い特異性を示すことがわかっており;高温は、標的配列とプライマーのハイブリダイゼーションに適しているが、非標的配列とのハイブリダイゼーションには適していない熱力学的条件となる(H.A.Erlich編、「PCR技術(PCR Technology)」、Stockton Press (1989))。
【0064】
「増幅可能な核酸」という用語は、任意の増幅法で増幅可能な核酸を意味する。この用語は「増幅可能な核酸」が通常「試料テンプレート」を含むことを意図する。
【0065】
「試料テンプレート」という用語は「標的」の存在に関して分析対象となる試料に由来する核酸を意味する(後述)。これとは対照的に「バックグラウンドテンプレート」は、試料中に存在する場合もあれば存在しない場合もある、試料テンプレート以外の核酸に関して用いられる。バックグラウンドテンプレートは意図せず存在する場合が極めて多い。これはキャリーオーバーの結果である場合であったり、試料中から精製されて除かれることが求められる核酸混入物が存在するためであったりする。例えば、検出される核酸以外の生物由来の核酸がバックグラウンドとして試験試料中に存在する場合がある。
【0066】
「プライマー」という用語は、精製された制限酵素切断物中に天然に存在するオリゴヌクレオチド、または合成的に作製されるオリゴヌクレオチドを意味し、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件(すなわちヌクレオチドおよび誘導性薬剤(DNAポリメラーゼなど)が存在すること、ならびに適切な温度およびpHであること)で配置された場合に合成開始点として作用することができる。プライマーは好ましくは、増幅効率を最大とするために一本鎖であるが二本鎖の場合もある。二本鎖の場合、最初にプライマーを処理して鎖を分離してから伸長産物の調製に使用する。好ましくはプライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、誘導性薬剤の存在下で伸長産物の合成を開始するために十分長くてはならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマーの供給源、および使用される方法などの諸因子によって変わる。
【0067】
「プローブ」という用語は、精製された制限酵素切断物中に天然に存在するオリゴヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)、または合成的に、組換え的に、PCR増幅により作製されるオリゴヌクレオチドを意味し、別の対象オリゴヌクレオチドとハイブリッドを形成することができる。プローブは一本鎖または二本鎖の場合がある。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定、および単離に有用である。本発明で使用される任意のプローブが任意の「レポーター分子」で標識されて、酵素系(例えばELISA、ならびに酵素ベースの組織化学的アッセイ法)、蛍光系、放射系、および発光系を含むがこれらに限定されない任意の検出系で検出可能であることが対象となる。本発明が、任意の特定の検出系または標識に制限されることは意図されない。
【0068】
ポリメラーゼ連鎖反応に関して用いられる「標的」という用語は、ポリメラーゼ連鎖反応に使用されるプライマーが結合する核酸領域を意味する。したがって「標的」は他の核酸配列から選び出されることが求められる。「セグメント」は標的配列中の核酸領域と定義される。
【0069】
「ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)」という用語は、ゲノムDNA混合物中の標的配列のセグメントの濃度をクローニングまたは精製を行うことなく上昇させる方法について説明したマリス(K.B.Mullis)による米国特許第4,683,195号、第4,683,202号、および第4,965,188号の方法を意味する。標的配列を増幅するPCR過程には、大過剰の二種のオリゴヌクレオチドプライマーを、所望の標的配列を含むDNA混合物中に導入する段階と、これに続くDNAポリメラーゼの存在下における一連の正確な熱サイクルが含まれる。二種のプライマーは、二本鎖状の標的配列の個々の鎖に対して相補的である。増幅を達成するためには、混合物を変性させた後に、プライマーを標的分子中の相補的配列にアニーリングさせる。アニーリング後に、新しい相補鎖の対を形成させるようにポリメラーゼでプライマーを伸長させる。変性、プライマーのアニーリング、およびポリメラーゼによる伸長の各段階を数回繰りかえすこと(すなわち変性、アニーリング、および伸長が一つの「サイクル」となり;数多くの「サイクル」を実施することができる)で、所望の標的配列の高濃度の増幅セグメントを得ることができる。所望の標的配列の増幅セグメントの長さは、相互のプライマーの相対位置で決定されるので、この長さは制御可能なパラメータの一つである。この過程には反復性の局面があることから、上記の方法は「ポリメラーゼ連鎖反応」と呼ばれる(以降「PCR」と記載)。標的配列の所望の増幅セグメントは、混合物中で(濃度に関して)主要な配列となるので「PCRによって増幅された」と表現される。
【0070】
PCRでは、ゲノムDNA中の1コピーの特定の標的配列を、複数の異なる方法(例えば標識プローブを用いたハイブリダイゼーション;ビオチン化プライマーの取り込みと、これに続くアビジン−酵素コンジュゲートによる検出;32P−標識デオキシヌクレオチド三リン酸(dCTPまたはdATPなど)の増幅セグメント中への取り込み)によって検出可能なレベルまで増幅することが可能である。ゲノムDNAに加えて、任意のオリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチド配列が、適切な一連のプライマー分子を用いることで増幅可能である。特にPCR過程そのもので作製される増幅セグメントは、それ自体が後続のPCR増幅のための効率のよいテンプレートとなる。
【0071】
「PCR産物」、「PCR断片」、および「増幅産物」という用語は、2回またはそれ以上のPCRの変性、アニーリング、および伸長の各段階のサイクルの完了後に結果として得られる化合物の混合物を意味する。これらの用語は、一つまたは複数の標的配列の一つまたは複数のセグメントが増幅される場合を含む。
【0072】
「増幅用試薬」という用語は、プライマーを除く、核酸テンプレートの増幅に必要な試薬(デオキシリボヌクレオチド三リン酸や緩衝液など)、および増幅用酵素を意味する。典型的には、他の反応成分と増幅用試薬が、反応容器(試験管やマイクロウェルなど)中に入れられ含まれている。
【0073】
「逆転写酵素PCR」または「RT−PCR」という用語は、出発材料がmRNAである場合の、ある種のPCRを意味する。出発材料のmRNAは逆転写酵素による酵素的処理によって相補的DNAすなわち「cDNA」に変換される。このcDNAが次に「PCR」反応の「テンプレート」として使用される。
【0074】
「遺伝子発現」という用語は、遺伝子にコードされた遺伝情報がRNA(例えばmRNA、rRNA、tRNA、またはsnRNA)に遺伝子の「転写」を介して(すなわちRNAポリメラーゼによる酵素的作用を介して)変換される過程、またmRNAの「翻訳」を介してタンパク質に変換される過程を意味する。遺伝子発現は、この過程の多くの段階で調節することができる。「上方制御」または「活性化」は、遺伝子発現産物(RNAまたはタンパク質)の産生を高める調節を意味し、一方「下方制御」または「抑制」は、産生を抑える調節を意味する。上方制御または下方制御に関与する分子(例えば転写因子)は、それぞれ「活性化因子」および「抑制因子」と呼ばれることが多い。
【0075】
「動作可能な組み合わせで」、「動作可能な順序で」、および「動作可能に連結された」という用語は、任意の遺伝子の転写、および/または所望のタンパク質分子の合成を誘導する能力をもつ核酸分子が作製されるように核酸配列が連結されることを意味する。この用語は、機能性タンパク質が作製されるようにアミノ酸配列が連結されることも意味する。
【0076】
「調節領域」という用語は、核酸配列の発現のいくつかの局面を制御する遺伝因子を意味する。例えばプロモーターは、動作可能に連結されたコード領域の転写の開始を促す調節領域である。他の調節領域には、スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、終結シグナルなどがある。
【0077】
真核生物の転写制御シグナルには「プロモーター」領域および「エンハンサー」領域が含まれる。プロモーターおよびエンハンサーは、転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用する短い一連のDNA配列を含む(Maniatisら、Science 236:1237、1987)。プロモーター領域およびエンハンサー領域は、酵母、昆虫、哺乳類、および植物の細胞内の遺伝子を含む、さまざまな真核生物供給源から単離されている。プロモーター領域およびエンハンサー領域は、ウイルスからも単離されており、またプロモーターなどの類似の制御領域は原核生物でも認められている。特定のプロモーターおよびエンハンサーの選択は、対象タンパク質を発現させるために使用される細胞種によって変わる。真核生物の一部のプロモーターおよびエンハンサーは広い宿主域をもつが、他のプロモーターおよびエンハンサーは限定された一群の細胞種で機能する(例えばVossら、Trends Biochem.Sci. 11:287、1986;およびManiatisら、前記、1987の総説を参照)。
【0078】
本明細書で用いられる「プロモーター領域」、「プロモーター」、または「プロモーター配列」という用語は、DNA重合体のタンパク質コード領域の5’端(すなわち前方)に位置するDNA配列を意味する。天然の大半のプロモーターの位置は転写領域の前方にある。プロモーターはスイッチとして機能して、遺伝子の発現を活性化する。遺伝子が活性化される場合、転写される、または転写に関与すると表現される。転写には遺伝子からmRNAを合成する段階が含まれる。したがってプロモーターは転写調節領域として作用し、また、遺伝子をmRNAに転写するための開始部位も提供する。
【0079】
プロモーターは組織特異的な場合もあれば細胞特異的な場合もある。プロモーターに関して用いられる「組織特異的」という用語は、対象ヌクレオチド配列の、特定の種類の組織(例えば種子)における選択的な発現を誘導可能なプロモーターを意味し、異なる種類の組織(例えば葉)における同じ対象ヌクレオチド配列の発現は相対的に起こらない。プロモーターの組織特異性は例えば、レポーター遺伝子をプロモーター配列に動作可能に連結してレポーターコンストラクトを作り、このレポーターコンストラクトを、結果として生じるトランスジェニック植物のあらゆる組織中にレポーターコンストラクトが組み込まれるように植物ゲノム中に導入し、またレポーター遺伝子の発現をトランスジェニック植物のさまざまな組織中で検出すること(例えばmRNA、タンパク質、もしくはレポーター遺伝子にコードされたタンパク質の活性を検出すること)で評価することができる。他の組織におけるレポーター遺伝子の発現レベルに対して一種もしくは複数の組織におけるレポーター遺伝子の発現が高レベルで検出されることは、対象プロモーターが、高レベルの発現が検出された組織に特異的であることを意味する。プロモーターに関して用いられる「細胞種に特異的」という用語は、対象ヌクレオチド配列の発現が同じ組織内の異なる種類の細胞で相対的に発現がみられない特定の種類の細胞内で対象ヌクレオチド配列の選択的な発現を誘導可能なプロモーターを意味する。プロモーターに関して用いられる「細胞種に特異的」という用語は、組織内のある領域中における対象ヌクレオチド配列の選択的発現を促進可能なプロモーターも意味する。プロモーターの細胞種特異性は、当技術分野で周知の方法(例えば免疫組織化学的染色)で評価することができる。簡単に説明すると、組織切片をパラフィンに包埋し、このパラフィン切片を、発現がプロモーターによって制御される対象ヌクレオチド配列にコードされたポリペプチド産物に特異的な一次抗体と反応させる。一次抗体に特異的な、標識した(例えばペルオキシダーゼを結合させた)二次抗体を、切片化した組織に結合させることで、特異的な結合(例えばアビジン/ビオチン結合)を顕微鏡で検出することができる。
【0080】
プロモーターには構成的プロモーターまたは調節可能なプロモーターがある。プロモーターに関して用いられる「構成的」という用語は、プロモーターが、刺激(例えば熱ショック、化学物質、光など)の非存在下で動作可能に連結された核酸配列の転写を誘導可能であることを意味する。典型的には構成的プロモーターは、実質的に任意の細胞および任意の組織中で導入遺伝子の発現を誘導することができる。例示的な構成的な植物プロモーターには、SDカリフラワーモザイクウイルス(CaMV SD;例えば参照として本明細書に組み入れられる米国特許第5,352,605号を参照)、マンノピンシンターゼ、オクトピンシンターゼ(ocs)、スーパープロモーター(例えば国際公開公報第95/14098号を参照)、およびubi3(例えばGarbarinoおよびBelknap、Plant Mol.Biol. 24:119〜127 (1994)を参照)のプロモーターなどがあるがこれらに限定されない。これらのプロモーターは、形質転換植物の組織内における異種核酸配列の発現誘導に良好に使用されている。
【0081】
これとは対照的に「調節可能な」プロモーターまたは「誘導型」プロモーターは、刺激(例えば熱ショック、化学物質、光など)の存在下で動作可能に連結された核酸配列の転写レベルを、刺激の非存在下で動作可能に連結された核酸配列の転写とは異なるレベルで誘導可能なプロモーターである。
【0082】
エンハンサーおよび/またはプロモーターは「内因性」または「外因性」すなわち「異種」のプロモーターの場合がある。「内因性」のエンハンサーまたはプロモーターは、天然の状態でゲノム中の任意の遺伝子に連結されている。「外因性」すなわち「異種」のエンハンサーまたはプロモーターは、連結されたエンハンサーまたはプロモーターによって遺伝子の転写を誘導する遺伝的操作(すなわち分子生物学的手法)によって遺伝子の近傍に配置される。例えば、第一の遺伝子に動作可能な組み合わせで連結される内因性プロモーターは、単離され、除去され、また第二の遺伝子と動作可能な組み合わせで配置されることで、第二の遺伝子と動作可能な組み合わせの状態の「異種プロモーター」となる場合がある。さまざまなこのような組み合わせが対象となる(例えば第一および第二の遺伝子は同じ種に由来する場合があるほか、異なる種に由来する場合がある)。
【0083】
発現ベクター上に「スプライシングシグナル」を存在させることで、真核生物の宿主細胞内で組換え転写物が高レベルで発現する場合が多い。スプライシングシグナルは、一次RNA転写物からのイントロンの除去に関与し、スプライスドナー部位およびアクセプター部位を含む(Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York (1989) 16.7〜16.8)。一般に使用されるスプライスドナー部位およびアクセプター部位はSV40の16S RNAに由来するスプライス部位である。
【0084】
真核細胞における組換えDNA配列の効率的な発現には、結果として得られる転写物の効率的な終結およびポリアデニル化を誘導するシグナルの発現が必要である。転写終結シグナルは一般にポリアデニル化シグナルの下流に存在し、長さは数百ヌクレオチドである。本明細書で用いられる「ポリ(A)部位」または「ポリ(A)配列」という用語は、新生RNA転写物の終結およびポリアデニル化の両方を誘導するDNA配列を意味する。組換え転写物の効率的なポリアデニル化が望ましい。というのは、ポリ(A)テールを欠く転写物は不安定で速やかに分解されてしまうからである。発現ベクターに使用されるポリ(A)シグナルは「異種」または「内因性」の場合がある。内因性ポリ(A)シグナルは、ゲノム中の所定の遺伝子のコード領域の3’端に天然に存在する。異種ポリ(A)シグナルは、ある遺伝子から単離され、別の遺伝子の3’端に位置するシグナルである。一般に使用されている異種ポリ(A)シグナルはSV40のポリ(A)シグナルである。SV40のポリ(A)シグナルは237 bpのBamHI/BclI制限酵素断片中に含まれ、終結およびポリアデニル化の両方を誘導する(Sambrook、前記、16.6〜16.7)。
【0085】
「ベクター」という用語は、DNAのセグメントを一つの細胞から別の細胞へ輸送する核酸分子を意味する。「輸送体」という用語は、ときに「ベクター」と互換的に使用される。
【0086】
「発現ベクター」または「発現カセット」という用語は、所望のコード配列、および特定の宿主生物内における、動作可能に連結されたコード配列の発現に必要な適切な核酸配列を含む組換えDNA分子を意味する。原核生物における発現に必要な核酸配列には通常プロモーター、オペレーター(選択的)、およびリボソーム結合部位などがある(他の配列が伴う場合もある)。真核細胞はプロモーター、エンハンサー、ならびに終結およびポリアデニル化のシグナルを用いることが知られている。
【0087】
「トランスフェクション複合体」という用語は、細胞内に侵入して遺伝子発現に変化を生じる核酸を含む分子集合体を意味する。核酸分子の数、および核酸分子の種類は、一つの集合体当たり複数の場合がある。典型的には、トランスフェクション複合体は一種または複数の複合剤と核酸を含む。
【0088】
「複合剤(complexing agent)」という用語は、その作用が調査対象となる核酸以外の、トランスフェクション複合体中の化合物を意味し;典型的には、このような薬剤は核酸によるトランスフェクションを促進する。いくつかのクラスの複合剤は静電気的、疎水的、および/または立体的な相互作用を介して核酸に結合して分子集合体を形成し;他のクラスは他の分子に結合する。このような薬剤の例には、受容体に対するリガンド、DNA結合分子、および膜透過性分子などが含まれるがこれらに限定されない。他の複合剤には標的分子、転写分子、核酸分解阻害剤、ならびに細胞の成長および完全性のモジュレーターなどが含まれるがこれらに限定されない。
【0089】
「受容体に対するリガンド」という用語は、細胞膜に結合するタンパク質、糖、または脂質などの第二の分子に結合可能な第一の分子であるリガンドを意味する。STEPに関して用いられる場合、このリガンドは、原形質膜に局在して、細胞によりエンドサイトーシスで取り込まれる受容体に結合し;好ましくは受容体はタンパク質である。このようなリガンドの例にはトランスフェリン、LDL受容体に結合する低密度リポタンパク質粒子、およびインテグリンに結合することが知られているウイルスタンパク質などがあるがこれらに限定されない。他の例には他のタンパク質、糖質、ホルモン、小分子、および薬剤などがあるがこれらに限定されない。
【0090】
「DNA結合分子」という用語は、核酸と複合体を形成して、その電荷を中和してサイズをコンパクトにする分子(例えば陽イオン性タンパク質)を意味し;このような分子は典型的には静電気的、疎水的、および/または立体的な相互作用を介して核酸に結合して分子集合体を形成する。DNA結合分子はへリックス−ループ−へリックスタンパク質(HLH)、ジンクフィンガータンパク質、DNAインターカレーター(芳香族分子など)、他の核酸、重金属(白金など)、抗生物質(クロモマイシンA(3)およびミトラマイシン(MTR)など)、ならびにDNA結合ペプチド(アデノウイルスのDNA結合ペプチドmuなど)を含むがこれらに限定されない。特に有利なDNA結合分子は陽イオン性タンパク質である。
【0091】
「陽イオン性タンパク質」という用語は、水溶液中でpH 7でゼロを上回る静電荷をもつタンパク質またはポリペプチドを意味し;同じ条件下でゼロ未満の静電荷をもつタンパク質またはポリペプチドである「陰イオン性タンパク質」と対照をなす。本発明では「陽イオン性タンパク質」は「複合剤」のサブクラスである「DNA結合分子」のサブクラスである。
【0092】
「膜透過性分子」という用語は、細胞膜を透過し、またSTEPによるトランスフェクションを促進する分子を意味する。基礎となる機構を理解する必要はなく、また本発明は任意の特定の機構に制限されないが、このような分子は、トランスフェクション複合体中の核酸の膜を介した宿主細胞内への輸送を改善することによってトランスフェクションを促進すると考えられている。特に有利な膜透過性分子は陽イオン性脂質である。
【0093】
「陽イオン性脂質」という用語は、脂溶性でpH 7で正に帯電した領域を含む疎水性分子を意味する。本発明ではリポフェクタミン(商標)、リポフェクチン(登録商標)、リポフェクタミンプラス(商標)、セルフェクチン(登録商標)、およびリポフェクターゼ(商標)(Life Technologiesから入手可能)を含むがこれらに限定されない、さまざまな陽イオン性脂質を意図する。本発明では「陽イオン性脂質」は「複合剤」のサブクラスの「膜透過性分子」のサブクラスである。
【0094】
「標的分子」という用語は、核酸を含むトランスフェクション複合体、またはその一部を、核酸の発現または作用が達成される適切な細胞区画へ標的輸送するための分子を意味し;例えば核酸がDNAの場合、適切な区画は細胞核、ミトコンドリア、または色素体の場合があり;核酸がRNAの場合、適切な区画は細胞質、ミトコンドリア、または色素体の場合がある。このような分子は、タンパク質を細胞の核へ標的輸送する核局在化シグナル(NLS)を含むタンパク質(例えばSV−40のT抗原)を含むがこれらに限定されない。
【0095】
「転写/翻訳分子」という用語は、DNAの転写またはRNAの翻訳を促進するを分子を意味する。このような分子には、非制限的な例として転写因子、DNA弛緩因子または巻き戻し因子(例えばヘリカーゼ)、およびDNAポリメラーゼ(例えばTFIIAやTFIID)を含むタンパク質などがあるがこれらに限定されない。
【0096】
「核酸分解阻害剤」という用語は、ヌクレアーゼ阻害剤として作用する分子を意味する。このような分子は、トランスフェクトした核酸の分解を妨げることでSTEPを促進する。このような分子の例には、タンパク質(例えばDMI22)および非タンパク質の薬剤などが含まれるがこれらに限定されない。
【0097】
「細胞の健全性および完全性のモジュレーター」という用語は、細胞の接着、成長、増殖、および/または分化を調節する分子を意味し;好ましくは、このような調節は、これらの特性を高める。このような分子は、STEPによりトランスフェクトされた細胞の健全性および完全性を調節することで、また好ましくは促進することでSTEPを促進する。このような分子の例にはタンパク質が含まれるがこれらに限定されない。
【0098】
「デンドリマー」という用語は、天然または合成の分枝状分子(例えばポリペプチド、核酸、または合成化合物)を意味する。
【0099】
「核酸の種類」という用語は、配列の差または物理的状態の差にみられたり、さまざまな発現ベクター中にみられたり、またはDNAおよびRNAの存在によってみられたり、もしくは直鎖状およびスーパーコイル状のDNAの存在によってみられたり、もしくはさまざまなタンパク質をコードするコード領域の存在によってみられたり、またはさまざまな制御領域の存在、もしくは、これらの間で異なる制御領域にみられたりする、別の核酸と区別することが可能な核酸の特徴または特性を意味する。
【0100】
核酸に関して用いられる「固定化された」という用語は、核酸が表面上に空間的に制限されていて、この制限によって、核酸が、表面が位置する溶液中に入ることが妨げられ、また溶液中で遊離状態となることが妨げられることを意味し;安定は複合体の形成が関与する(複合体は核酸を含み、複合体の形成には、静電気的相互作用が少なくとも部分的に関与する)。核酸を含む複合体に関して用いられる「安定な」という用語は、複合体が一定時間(通常少なくとも72〜96時間)、溶液(組織用培地または細胞用培地)中で維持されることを意味する。固定化されたトランスフェクション複合体は表面が乾燥しても安定であり;乾燥状態で安定性が保たれる期間は通常少なくとも数週間〜数か月間である。
【0101】
「アレイ」という用語はパターンを意味し、好ましくはこのようなパターンは複製可能であり、および/または適切な検出装置で検出可能である。本発明の固定化されたトランスフェクション複合体に関して用いられる場合、アレイは、固定化されたトランスフェクション複合体を含む「スポット」を含む。スポットは、固定化されたトランスフェクション複合体の一つの試料の位置であり;スポットは、一種または複数の試料を位置に塗布することで作製することができる。各スポットは、固定化されたトランスフェクション複合体の一種の試料を含むが、トランスフェクション複合体の一種の試料は一種〜複数種の核酸を含む場合がある。また、アレイ中の異なるスポットは、同じトランスフェクション複合体、または異なるトランスフェクション複合体を含む場合があり;トランスフェクション複合体は、存在する複合剤、存在する核酸の種類、またはこれら両方が異なる場合がある。典型的には異なるスポットは、存在する核酸の種類が異なる。したがってアレイは典型的には、さまざまな種類の核酸を含む少なくとも一部〜大半におけるスポットを含む。
【0102】
「マイクロアレイ」は、狭い領域に制限されたアレイを意味する。典型的には、このようなアレイは、わずか約1インチ×3インチに制限され、顕微鏡用のスライド上に作り込まれることが多い。マイクロアレイは、限度内で作製可能な最大数のスポットを含み;典型的には、この数は、マニュアルで作製したアレイの方が自動的すなわち機械で作製したアレイより少ない。典型的な機械作製アレイは最大約10,800個のスポットを含む。
【0103】
「規則的に並べられたアレイ」という用語は、スポットが所定の幾何学的配置で表面上に位置する、本発明のスポットのパターンを意味し;幾何学的配置はグリッドであることが多い。「ランダムなアレイ」という用語は、スポットが所定の幾何学的配置では表面上に位置しない、本発明のスポットのパターンを意味する。ランダムなアレイは、数学的アルゴリズムで、または乱数発生器で決定することができる。
【0104】
「能動輸送」という用語は、分子が細胞外から細胞内へ、リポソーム(例えばDNAが脂質で包まれた状態)を介した侵入以外の任意の機構で輸送され、拡散すなわち受動拡散が促進される過程を意味する。能動輸送はエンドサイトーシス、特に受容体を介したエンドサイトーシスを含む。トランスフェクション過程を促すための、核酸分子の細胞内への能動輸送を促進する薬剤は、受容体に対するリガンド、DNA結合分子、および膜透過性分子などがあるがこれらに限定されない複合剤を含む。
【0105】
「トランスフェクション」という用語は、外来DNAを細胞内に導入することを意味する。トランスフェクションはカルシウムリン酸−DNA共沈殿、DEAE−デキストラン介在型トランスフェクション、ポリブレン介在型トランスフェクション、ガラスビーズ、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、ウイルス感染、遺伝子銃(微粒子銃)などを含む当技術分野で周知のさまざまな手段で達成される場合がある。当技術分野では、これらの多くの変法が知られている。
【0106】
「安定なトランスフェクション」または「安定にトランスフェクトされた」という用語は、導入した外来DNAが、トランスフェクトされた細胞のゲノム中に組み込まれることを意味する。「安定な形質移入体」という用語は、安定に組み込まれた外来DNAをゲノムDNA中に有する細胞を意味する。
【0107】
「一過的なトランスフェクション」、または「一過的にトランスフェクトされる」という用語は、細胞内に導入した外来DNAが、トランスフェクトされた細胞のゲノム中に組み込まれないことを意味する。外来DNAは、トランスフェクトされた細胞の核内に数日間維持される。この期間中、外来DNAは染色体上の内因性遺伝子の発現を支配する調節的制御を受ける。「一過的な形質移入体」という用語は、外来DNAを取り込んだが、このDNAを組み込めなかった細胞を意味する。
【0108】
「カルシウムリン酸共沈殿」という用語は、核酸を細胞内に導入する手法を意味する。細胞による核酸の取り込みは、核酸がカルシウムリン酸−核酸の共沈殿として存在すると促進される。グラハム(Graham)およびバンデルエブ(van der Eb)(Grahamおよびvan der Eb、Virol.、52:456 (1973))による当初の手法は、複数のグループにより、特定の細胞種に対する条件を最適とするように変更されている。
【0109】
細菌について用いられる「感染させる」および「感染」という用語は、標的となる生物試料(例えば細胞や組織など)を、細菌に含まれる核酸配列が標的生物試料の1個または複数の細胞内に導入されるという条件下で、細菌と同時にインキュベートすることを意味する。
【0110】
「打ち込む(bombarding)」、「打ち込み(bombardment)」、および「微粒子銃による打ち込み(biolistic bombardment)」という用語は、標的生物試料(例えば細胞や組織など)に対して粒子を加速して、標的生物試料の細胞膜を傷つけて、および/または粒子を標的生物試料中に侵入させる過程を意味する。微粒子銃による打ち込み法は当技術分野で周知であり(例えば内容が参照として本明細書に組み入れられる米国特許第5,584,807号)、市販品を入手することができる(例えばヘリウムガスを使用する微粒子加速装置(PDS−1000/He、BioRad))。
【0111】
植物組織に関して用いられる「微小損傷を加える」という用語は、組織に微小な傷をつけることを意味する。微小損傷は例えば上述の微粒子銃を用いて達成することができる。
【0112】
本明細書で用いられる「導入遺伝子」という用語は、外来遺伝子を受精直後の卵または初期胚に導入することで、生物体内に位置させる外来遺伝子を意味する。「外来遺伝子」という用語は、実験操作によって動物のゲノム中に導入される任意の核酸(例えば遺伝子配列)を意味し、導入した遺伝子が天然の遺伝子と同じ位置に存在しない限りは、動物に存在する遺伝子配列を含む場合がある。
【0113】
「宿主細胞」という用語は、異種遺伝子の複製および/または転写、および/または翻訳が可能な任意の細胞を意味する。したがって「宿主細胞」は任意の真核細胞または原核細胞(例えば大腸菌などの細菌細胞、酵母細胞、哺乳類細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、および昆虫細胞)を意味し、インビトロまたはインビボの位置は問われない。例えば宿主細胞はトランスジェニック動物の体内に位置する場合がある。
【0114】
「形質転換体」または「形質転換細胞」という用語は、一次形質転換細胞、またはそのような細胞に由来する培養物を含む(移動の数には無関係)。すべての子孫は、予定内の変異または予定外の変異が生じるためにDNA量が正確に同一ではない場合がある。最初に形質転換された細胞内でスクリーニングされる同じ機能性を有する変異体の子孫は形質転換体の定義に含まれる
【0115】
「選択可能なマーカー」という用語は、抗生物質または薬剤に対する耐性を、選択可能なマーカーが発現される細胞にもたらす活性を有する酵素をコードする遺伝子、または検出可能な形質(例えばルミネセンスまたは蛍光)の発現をもたらす遺伝子を意味する。選択可能なマーカーは「正」のマーカーまたは「負」のマーカーの場合がある。正の選択可能なマーカーの例には、G418およびカナマイシンに対する耐性をもたらすネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(NPTII)遺伝子、ならびに抗生物質ハイグロマイシンに対する耐性をもたらす細菌のハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(hyg)などが含まれる。負の選択可能なマーカーは、細胞を適切な選択用培地で成長させたときに発現が細胞障害性を示す酵素活性をコードする。例えばHSV−tk遺伝子は負の選択可能なマーカーとして広く使用されている。ガンシクロビルまたはアシクロビルの存在下で成長させた細胞内におけるHSV−tk遺伝子の発現は細胞に有害であり;このためガンシクロビルまたはアシクロビルを含む選択用培地中で成長させることで、機能性HSV TK酵素を発現可能な細胞が選択される。
【0116】
「レポーター遺伝子」という用語は、アッセイ対象となりうるタンパク質をコードする遺伝子を意味する。レポーター遺伝子の例には、ルシフェラーゼ(いずれも参照として本明細書に組み入れられるdeWetら、Mol.Cell.Biol. 7:725 (1987)、および米国特許第6,074,859号;第5,976,796号;第5,674,713号;ならびに第5,618,682号を参照)、緑色蛍光タンパク質(例えばゲンバンクアクセッション番号U43284;いくつかのGFP変異体はClontech Laboratories、Palo Alto、CAから市販されている)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、および西洋ワサビペルオキシダーゼなどが含まれるがこれらに限定されない。
【0117】
遺伝子に関して用いられる「野生型」という用語は、天然の供給源から単離された遺伝子の特徴を有する遺伝子を意味する。遺伝子産物に関して用いられる「野生型」という用語は、天然の供給源から単離された遺伝子産物の特徴を有する遺伝子産物を意味する。ある対象に対して本明細書で用いられる「天然の」という用語は、その対象が天然に存在するいう事実を意味する。例えば天然の供給源から単離可能な生物体(ウイルスを含む)中に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチドの配列、および実験室で意図的に修飾されたのではない同様のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの配列は天然である。野生型遺伝子は、集団内で高頻度で観察されるので、任意に「正常」または「野生型」の状態の遺伝子と呼ばれる。これとは対照的に、遺伝子もしくは遺伝子産物に関して用いられる「修飾された」または「変異体」という用語はそれぞれ、野生型の遺伝子マーカー遺伝子産物と比較したときに、配列および/または機能的特性の修飾(すなわち特徴の変化)を示す遺伝子または遺伝子産物を意味する。天然の変異体が単離可能であることは重要であり;これらは野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較したときに、変化した特徴を有するという事実によって同定される。
【0118】
「アンチセンス」という用語は、デオキシリボヌクレオチド残基の配列が、DNA二本鎖のセンス鎖のデオキシリボヌクレオチド残基の配列に対して逆方向の5’→3’方向であるデオキシリボヌクレオチド配列を意味する。DNA二本鎖の「センス鎖」は、天然の状態で細胞により「センスのmRNA」に転写されるDNA二本鎖中の鎖を意味する。したがって「アンチセンス」配列は、DNA二本鎖中の非コード鎖と同じ配列を有する配列である。「アンチセンスRNA」という用語は、標的となる一次転写物またはmRNAの全体または一部に相補的で、一次転写物またはmRNAのプロセシング、輸送、および/または翻訳に干渉することで標的遺伝子の発現をブロックするRNA転写物を意味する。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝子転写物の任意の部分(すなわち5’非コード配列、3’非コード配列、イントロン、またはコード配列)に関する場合がある。また本明細書で用いられるようにアンチセンスRNAは、アンチセンスRNAによる遺伝子発現ブロックの効率を高めるリボザイム配列の領域を含む場合がある。「リボザイム」は触媒性のRNAを意味し、配列特異的なエンドリボヌクレアーゼを含む。「アンチセンス阻害」は、標的タンパク質の発現を妨げることが可能なアンチセンスRNA転写物が産生されることを意味する
【0119】
「過剰発現」という用語は、正常な生物体または非形質転換生物体における産生のレベルを超えて、トランスジェニック生物で遺伝子産物が産生されることを意味する。「コサプレッション」という用語は、内因性遺伝子に実質的な相同性を有する外来遺伝子の発現が、外来遺伝子および内因性遺伝子の両発現の抑制を引き起すことを意味する。本明細書で用いられる「レベルの変化」という用語は、トランスジェニック生物で、正常な生物体または形質転換生物体とは異なる量または割合で遺伝子産物が産生されることを意味する。
【0120】
「過剰発現」および「過剰発現する」、およびこれらに文法的に等価な用語は、mRNAのレベルに関して発現レベルが、対照動物または非トランスジェニック動物の任意の組織で典型的にみられる発現レベルと比較して約3倍高いことを示すように使用される。mRNAのレベルは、ノーザンブロット解析を含むがこれらに限定されない、当業者に周知の任意のいくつかの手法で測定される(例えばノーザンブロット解析を実施する際のプロトコールに関しては実施例10を参照)。ノーザンブロットには、分析対象の各組織からロードされたRNAの量にみられる差の対照とするための適切な対照が含まれる(例えば各試料中に存在する、あらゆる組織で本質的に同じ量で豊富に存在するRNA転写物である28S rRNAの量は、ノーザンブロットで観察されるRAD50 mRNAに特異的なシグナルを補正または標準化する手段として使用することができる)。
【0121】
「サザンブロット解析」および「サザンブロット」ならびに「サザン」という用語は、DNAを大きさしたがって分離または断片化した後に、DNAをゲルから固相支持体(ニトロセルロース膜もしくはナイロン膜)に移す、アガロースゲルまたはアクリルアミドゲル上におけるDNAの解析を意味する。固定化されたDNAを次に標識プローブに曝露することで、使用プローブに相補的なDNA種が検出される。DNAは電気泳動前に制限酵素で切断しておくことができる。電気泳動後、固相支持体に移す前または移している間にDNAが部分的に脱プリン化されたり変性したりすることがある。サザンブロットは分子生物学者にとって標準的なツールの一つである(J.Sambrookら、(1989) 「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbor Press、NY、9.31〜9.58)。
【0122】
本明細書で用いられる「ノーザンブロット解析」および「ノーザンブロット」ならびに「ノーザン」という用語は、アガロースゲル上でRNAの電気泳動を行い、RNAを大きさにしたがって分離した後に、RNAをゲルから固相支持体(ニトロセルロース膜もしくはナイロン膜)に移すことによって行うRNAの解析を意味する。固定化されたRNAは次に標識プローブで選び出されて、使用プローブに相補的なRNA種が検出される。ノーザンブロットは分子生物学者にとって標準的なツールの一つである(J.Sambrookら、(1989)、前記、7.39〜7.52)。
【0123】
「ウエスタンブロット解析」および「ウエスタンブロット」ならびに「ウエスタン」という用語は、ニトロセルロース膜もしくはナイロン膜などの支持体上に固定化されたタンパク質(またはポリペプチド)の解析を意味する。少なくとも一種のタンパク質を含む混合物をアクリルアミドゲル上で最初に分離し、分離されたタンパク質を次にゲルから固相支持体(ニトロセルロース膜もしくはナイロン膜)に移す。固定化されたタンパク質を、少なくとも一種の対象抗原に反応性を有する少なくとも一種の抗体に曝露する。結合状態の抗体は、放射標識した抗体の使用を含む、さまざまな方法で検出することができる。
【0124】
本明細書で用いられる「抗原決定基」という用語は、特定の抗体(すなわちエピトープ)に接触させる抗原の一部分を意味する。タンパク質またはタンパク質の断片を用いて宿主動物を免疫化する場合は、タンパク質の多くの領域が、タンパク質の任意の領域または三次元構造に特異的に結合する抗体の産生を誘導する場合があり;このような領域または構造は抗原決定基と呼ばれる。抗原決定基は、完全な抗原(すなわち免疫応答の誘導に使用される「免疫原」)と、抗体との結合をめぐって競合する場合がある。
【0125】
「単離されたオリゴヌクレオチド」のように、核酸に関して用いられる「単離された」という用語は、同定されて、天然の供給源中では通常結合している少なくとも一種の混入核酸から分離される核酸配列を意味する。単離された核酸は、天然に存在する状態もしくは状況とは異なる状態もしくは状況で存在する。これとは対照的に、単離されていない核酸(DNAやRNAなど)は天然に存在する状態で存在する。例えば所定のDNA配列(例えば遺伝子)は、宿主細胞の染色体上で隣接遺伝子の近傍に存在し;特定のタンパク質をコードする特定のmRNAなどのRNA配列は細胞内に、多数のタンパク質をコードする他の多くのmRNAとの混合物として存在する。しかし特定のタンパク質をコードする単離された核酸、例えば細胞内でタンパク質を普通に発現している核酸の場合、核酸は天然細胞の場合とは異なる染色体上の位置に存在するか、または天然にみられる配列とは異なる核酸配列に隣接する。単離された核酸、またはオリゴヌクレオチドは、一本鎖状態または二本鎖状態で存在する場合がある。単離された核酸またはオリゴヌクレオチドを用いてタンパク質を発現させる場合、オリゴヌクレオチドは、最小のセンス鎖もしくはコード鎖(すなわちオリゴヌクレオチドは一本鎖状態の場合がある)を含むが、センス鎖およびアンチセンス鎖(すなわちオリゴヌクレオチドは二本鎖状態の場合がある)の両方を含む場合がある。
【0126】
「精製された」という用語は、天然環境から除去される、単離される、または分離される核酸配列またはアミノ酸配列のいずれかの分子を意味する。したがって「単離された核酸配列」は精製された核酸配列である。「実質的に精製された」分子は、天然の状態では結合した状態にある他の成分を少なくとも60%含まない、好ましくは少なくとも75%含まない、またより好ましくは少なくとも90%含まない。本明細書で用いられる「精製された」、または「精製する」という用語は、試料から混入物を除去することも意味する。混入しているタンパク質を除去することで、試料中の対象ポリペプチドのパーセントは上昇する。別の例では、組換えポリペプチドは植物、細菌、酵母、または哺乳類の宿主細胞内で発現され、またポリペプチドは宿主細胞のタンパク質を除去することで精製され;このため試料中の組換えポリペプチドのパーセントは上昇する。
【0127】
「試料」という用語は極めて広い意味で用いられる。一つの意味では、同用語は植物の細胞または組織を意味する場合がある。別の意味では、同用語は任意の供給源、ならびに生物試料および環境試料から得られる検体もしくは培養物を含む。生物試料は植物または動物(ヒトを含む)から得られる場合があり、液体、固体、組織、および気体を含む。環境試料は表面材料、土壌、水、および工業試料などの環境材料を含む。これらの例は本発明に適用可能な試料の種類を制限する意図はない。「試料」という用語は極めて広い意味で用いられる。一つの意味では、同用語は生体高分子材料を意味する。別の意味では、同用語は任意の供給源、ならびに生物試料および環境試料から得られる検体もしくは培養物を含むことが意図される。生物試料は動物(ヒトを含む)から得られる場合があり、液体、固体、組織、および気体を含む。生物試料は、血漿や血清などの血液成分を含む。環境試料は表面材料、土壌、水、結晶、および工業試料などの環境材料を含む。これらの例は、本発明に適用可能な試料の種類を制限する意図はない。
【0128】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞トランスフェクション法、また具体的には、表面上に固定され、後に細胞にトランスフェクトされる核酸に細胞を塗布することを提供する。一つの局面では、本発明の方法には、表面上に固定化された核酸を提供することが含まれ;別の局面では、本発明には核酸を表面上に固定化する段階が含まれる。核酸は、核酸および少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体中に固定される。好ましくは複合剤は、エンドサイトーシスで細胞に取り込まれる細胞受容体に対するリガンド、およびDNA結合分子を含み;さらにより好ましくは、トランスフェクション複合体は、エンドサイトーシスで細胞に取り込まれる細胞受容体に対するリガンドである少なくとも二種の複合剤、およびDNA結合分子を含む。複合剤はDNA複合体の細胞膜通過を促進する膜透過性分子をさらに含む場合がある。任意選択でトランスフェクション複合体中に存在する他の薬剤には、核酸を含む複合体、または複合体の一部を、核酸が発現可能な適切な細胞区画に誘導する標的分子、DNAの転写を促進する転写分子、核酸の分解を阻害する分子である核酸分解阻害剤、および細胞の接着、成長、増殖、および/または分化を調節する、また好ましくは加速したり促進したりする分子である細胞の健全性および完全性のモジュレーターが含まれる。したがって他の態様では、本発明はトランスフェクション複合体、およびトランスフェクション複合体を形成する方法を提供する。さらに他の態様では、核酸はアレイ状に固定化され;好ましくはアレイはマイクロアレイである。いくつかの態様では、アレイは規則的に並べられたアレイであり;他の態様ではアレイはランダムなアレイである。本発明の別の局面では、本発明の方法はトランスフェクトされた細胞内における核酸の発現をさらに含む。本発明のさらに別の局面では、方法にはトランスフェクトされた細胞内における核酸の発現を検出する段階がさらに含まれる。本発明はさまざまな局面において「表面トランスフェクションおよび発現法(Surface Transfection and Expression Procedure)(または「STEP」)と呼ばれる。別の局面および詳細について以下に述べる;以下の記述では「DNA」という用語が用いられるときは、本発明の方法で用いられる場合のある核酸の例として使用され、制限する意味はない。
【0129】
本発明のSTEP法は、他のトランスフェクション法を改善したものである。STEPでは核酸を複合体化し、この複合体を表面上に塗布して固定化する。そして表面に細胞をプレーティングして曝露させる。このようにして細胞は、固定化された状態の核酸と接触する。これは、細胞を増殖させた培地に核酸を塗布する他のトランスフェクション法、または細胞を増殖させる培地中に核酸が遊離の状態で存在する他のトランスフェクション法と対照的である。他のこのような方法では、溶液中で遊離の状態の核酸に細胞を接触させる。したがってSTEPでは、核酸が固定化された同じ位置における細胞のトランスフェクションが可能となる。核酸が空間的に制限されるSTEPでは、一つの表面上に固定化可能な多種多様な核酸の独立したトランスフェクションの達成が可能となる。核酸は空間的に制限されるのでSTEPでは、固定化された核酸の任意の特定のアレイの一部または全体を望ましくは何度でも複製することができる。
【0130】
したがって例えば本発明の一つの局面では、STEPは現在DNAマイクロアレイの作製に使用されている同じ自動装置を用いて、STEPによるDNAを表面(ガラス製スライドなど)に塗布可能である点においてDNAマイクロアレイの現行の用途に似ている。またSTEPの多くの応用では、同じ蛍光スライドスキャナーを用いて実験結果を定量することができる。しかし類似点はこの程度である。ガラス製スライドなどの表面に塗布したDNAは、現在のDNAマイクロアレイの用途のように、インビトロにおけるハイブリダイゼーションには使用されない。実際にはSTEPでは、表面に塗布されて固定化されたDNAを用いて、生きた細胞をトランスフェクトして細胞内のタンパク質の発現または機能を変化させる。これは検出対象細胞内におけるタンパク質の実際の発現または機能変化である。またDNAは核酸および少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体として固定化され;このような複合剤は典型的にはDNAのトランスフェクションおよび発現を促進する。いくつかの好ましい態様では、少なくとも一種の複合剤は、エンドサイトーシスで細胞に取り込まれる細胞受容体に対するリガンドを含み;他の好ましい態様では、少なくとも別の複合剤がDNA結合タンパク質を含み;好ましくは、トランスフェクション複合体は細胞受容体に対するリガンド、およびDNA結合分子の両方を含む。
【0131】
本発明の方法では、10,000を越えるcDNAを対象に1枚の顕微鏡用スライド上で機能的にスクリーニングを行うことができる(ただしスライドは典型的には25 mm×75 mmである必要はない)。この方法には、規模が経済的であること、多くの応用で機能の連続モニタリングが生きた細胞内で可能なこと、容易かつ完全に自動化されること、および複製が容易に達成されることを含むがこれらに限定されない複数の利点がある。
【0132】
STEPは極めて単純であるが、STEPの細胞関連過程は複数の局面を含むと考えられている。本発明を使用するための機構を理解する必要は必ずしもないが、本発明が制限を受けることは意図されず、観察された結果を説明するためにいくつかの仮説が提出されている。このような仮説は意見または見解として呈示されている。したがってSTEPでは、第一の局面は核酸が固定化された表面へ細胞が接着することであると考えられる。数種の陽イオン性の複合剤は、トランスフェクション複合体中に固定化された核酸への細胞の迅速な接着を促進するが、細胞と実際に反発する複合剤もある。複合剤を使わずにDNAだけの場合は、DNAに対する複合剤のモル比が低い複合体のように、細胞に反発してしまう。第二の局面は細胞が生存することと考えられる。一部の複合剤は、たとえ細胞が速やかに接着可能であっても細胞障害作用を示すと考えられている。このような毒性は、純粋な状態のFuGeneおよびリポフェクタミンなどの脂質親和性トランスフェクション試薬などの、ある種の膜透過性分子について特にあてはまる。これらの二種の特定の試薬は、従来のトランスフェクション法の溶液中で一般に使用されており、このような条件で使用される濃度における毒性の存在は報告されていない。しかしSTEPで使用すると、これらの試薬は高濃度で使用時に毒性を生じ、細胞を塗布する前に乾燥させる;しかし低濃度では使用することができる。第三の局面は、DNAを実際にトランスフェクトすることと考えられ;トランスフェクションの効率は、細胞の種類、および陽イオン性の複合剤によって変化すると考えられている。第四の局面は、部分的に細胞が関与する可能性のあるトランスフェクション複合体が分解することと考えられる。接着したトランスフェクト細胞外において分解すると、固定化された核酸(トランスフェクション複合体)を添加した領域のすぐ近傍の外側で偽陽性の細胞が生じる。例えばヒストンと形成されるもののような多くの複合体は24〜48時間安定であり、また一部は96時間以上安定である。さまざまな細胞および核酸に対してSTEPを最適化することは、複合剤および核酸の性質の変化、ならびにトランスフェクション複合体中におけるこれらの成分の割合および比の変化による、個々の仮説的過程の最適化が必要であると考えられる。このような最適化の手引きについては後述する。
【0133】
STEPの発見および開発中、21のさまざまな実験が最初に行われ、STEPに重要と考えられるパラメータの特性解析が始められた。14種の異なる細胞系列、5種の異なるレポータープラスミド、および22種の異なる陽イオン性複合剤が使用された。実験の大半は蛍光顕微鏡で調べられたが、いくつかの例ではトランスフェクション効率の測定にルシフェラーゼが使用された。トランスフェクション効率に影響を及ぼすと当初考えられたパラメータには、DNAの調製法、トランスフェクション複合体の調製に使用される陽イオン性タンパク質などのDNA結合分子、使用される細胞系列、トランスフェクション複合体に対する細胞の曝露期間、DNAを固定化する表面(ガラス、プラスチック、ポリリシンでコーティングされたガラスもしくはプラスチックなど)でもある細胞をプレーティングされえた基板、およびプレーティング時の細胞密度などがあった。
【0134】
常用の実験法で最適化可能な二つの重要な変数は、トランスフェクション対象の細胞系列、およびDNA結合分子(陽イオン性DNA結合タンパク質など)である。高いトランスフェクション効率は当初、第二世代のCOS−1−U3G1細胞を用いて、緑色蛍光タンパク質(EGFP−C1、Clontech)をコードする発現ベクターで観察された。このような細胞は、親COS−1−U3細胞の、G418耐性をもたらすネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子をコードするプラスミドpNEW−NEOによるSTEPによるトランスフェクションによって作製された。後にG418で選択することで3種の異なる細胞系列が得られた。このうちCOS−1−U3G1細胞のトランスフェクション効率が最高であり、COS−1−U3親細胞の約10倍であった。細胞系列の供給源が重要であることも明らかとなり;他の供給源から得られた複数の独立系列のCOS−1細胞は高い効率でトランスフェクトされなかった。
【0135】
複合剤は核酸を固定化する必要があり;例えば、表面に塗布されるDNAだけでは表面から解離してしまい、トランスフェクション効率は極めて低くなってしまう。陽イオン性タンパク質のみを核酸と複合体形成させたところ、ヒストンが最も優れた複合剤であり、トランスフェクション効率の上昇は当初使用されたポリ−L−リシン(70〜150 kd)と比較して約5倍であった。COS−1−U3G1細胞およびヒストンを用いることで、20〜30%のトランスフェクション効率が当初得られた(100%の効率とは、塗布したDNAのすべての「スポット」が、それと結合した少なくとも一種の陽性細胞を有することを意味する)。しかしトランスフェクション効率がこのように低かったことは、ヒストン:DNA複合体中のDNAの大半が解離していたためにトランスフェクション効率が低かったことを示唆していた。トランスフェクション効率の上昇は、トランスフェクション複合体に、エンドサイトーシスで取り込まれる細胞受容体に結合するリガンドを含めることで得られ;好ましくは、このようなリガンドを陽イオン性タンパク質に結合させる。例えば293−HEK細胞を用いる場合、ポリリシンにトランスフェリンを連結させることで、高いトランスフェクション効率が得られた。トランスフェクション効率のさらなる上昇は、少なくとも一種の陽イオン性脂質を含めることで認められた。パラメータを最適化することで、個々の核酸のスポットが、それに結合する多数の陽性細胞を有するようになる。
【0136】
核酸の固定化
本発明では、核酸をトランスフェクション複合体として表面に塗布し;次に核酸が複合体に含まれる状態で表面に固定化される。トランスフェクション複合体は、少なくとも一種の複合剤を核酸に添加することで形成され;選択的には複合剤は、エンドサイトーシスで細胞に取り込まれてトランスフェクトされる受容体に対するリガンド、およびDNA結合分子(陽イオン性タンパク質など)を含む。他の好ましい態様では、トランスフェクション複合体は、細胞受容体に対するリガンド、およびDNA結合分子の少なくとも二種の複合剤を含む。他の複合剤には、陽イオン性脂質などの膜透過性分子があるがこれらに限定されない。トランスフェクション複合体は、核酸の発現に影響を及ぼす任意のいくつかの他の過程を調節または促進する可能性のある他の薬剤を含む場合があり;このような過程は、作用を発揮する適切な細胞内部位への核酸の輸送、核酸分解の阻害、転写または翻訳のモジュレーター、ならびに細胞の成長および完全性のモジュレーターを含むがこれらに限定されない。トランスフェクション複合体中の核酸は、塗布される表面に接着させることで固定化される。
【0137】
本発明を使用するために機構を理解する必要は必ずしもなく、また本発明が制限されることは意図されないが、核酸を、さまざまな複合剤が添加される「足場」と考えることは有用である。複合体の陽イオン性タンパク質などのDNA結合分子が存在する場合は核酸に接着するが、一般にリガンドとは相互作用しない。したがってリガンドは、いくつかの様式でDNAのみに、またはDNA結合分子(存在する場合)に結合した状態にあり;好ましくはリガンドは、共有結合でDNA結合分子(好ましくは陽イオン性タンパク質)に結合した状態にある。またリガンドは好ましくは、エンドサイトーシスで取り込まれる細胞膜上の受容体にも結合して、核酸のエンドサイトーシスを促進する。陽イオン性脂質(存在する場合)は、核酸に接着または結合し、また細胞内への核酸の通過も促進する。また細胞は、トランスフェクション複合体の核酸にリガンドを介して接着するほか、核酸が固定化された表面にも接着する。一般に、核酸を固定化する表面にはコーティングを行う。細胞は、コーティングの有無にかかわらず、トランスフェクション複合体のリガンドに対する接着と比較して低親和力で表面に接着すると考えられている。
【0138】
また、受容体に対するリガンドの存在は、宿主細胞内への核酸の能動輸送を導くとも考えられている。本発明で用いられる「能動輸送」は、リポソーム輸送以外の任意の機構により細胞の外から細胞内へ分子が輸送されて、拡散すなわち受動拡散を促進する過程を意味する。能動輸送はエンドサイトーシス、特に受容体を介したエンドサイトーシスを含む。本発明によってトランスフェクション過程を促すための、細胞外から細胞内への核酸分子の能動輸送を促進する薬剤は、受容体に対するリガンド(タンパク質、糖質、ホルモン、小分子、および薬剤)、DNA結合分子、および膜透過性分子などを含む複合剤を含むがこれらに限定されない。
【0139】
A.核酸
STEPに使用される可能性のある核酸は、生きている細胞内へのトランスフェクションが望ましい任意の配列である。このような核酸には、EST、PCR産物、ゲノムDNA、cDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、およびアンチセンスコンストラクトなどが含まれるがこれらに限定されず;このような核酸は発現ベクター中に存在する場合がある。このような核酸は、単離された天然の核酸、ならびに合成核酸、および組換え法で合成された核酸を含む。
【0140】
本発明で特に有用な核酸には複数の遺伝子群が含まれる;このような遺伝子には、発現が直接的または間接的に検出可能であるすべての遺伝子が含まれる。例示的な遺伝子には、転写因子、細胞骨格タンパク質、ホルモン、癌遺伝子、代謝酵素、イオンチャネル、およびレポーターの遺伝子が含まれる。レポーター遺伝子は、任意の蛍光タンパク質、免疫細胞化学的な決定が可能な任意の酵素(β−ガラクトシダーゼやβ−ラクタマーゼなど)、または特定の抗体を利用可能な任意のタンパク質もしくはエピトープタグタンパク質が含まれる。遺伝子産物は、酵素産物により、または抗体結合により直接的に検出することができるほか、結合酵素アッセイ法により、または細胞機能を変化させる作用により間接的に検出することができる。検出可能な細胞機能の変化には、細胞極性、細胞のpH、細胞形態、または細胞が特定の化合物と結合する能力の変化が含まれる。検出は最も典型的には、蛍光または発光による。
【0141】
本発明のさまざまな態様では、一種または複数の種類の核酸は、一種のトランスフェクション複合体中に存在する場合がある。「核酸の種類」は、配列や物理的状態の差や、さまざまな発現ベクター中に存在することや、もしくはDNAおよびRNAとともに存在することや、もしくは直鎖状およびスーパーコイル状のDNAとともに存在することや、もしくはさまざまなタンパク質をコードするコード領域とともに存在することや、もしくはさまざまな制御領域とともに存在することや、または内部で制御領域が異なることなどといった、別の核酸と区別可能な核酸の特徴または特性を意味する。このため一連の核酸ライブラリーのコンビナトリアル解析、ならびに遺伝子発現のトランス活性化因子、または代謝経路段階などの関連段階が関与する解析が可能となる。一つの態様では、4種の異なる発現ベクターが一種のトランスフェクション複合体中に存在し;例示的な態様は実施例4に記載する。
【0142】
しかし核酸は一般に、トランスフェクション用に高純度に精製する必要は必ずしもない。許容される純度の尺度は、260 nm/280 nmの吸光度の比が約1.6かもしくはこれを上回るか、また270 nmに対する260 nmの吸光度の比が約1かもしくはこれ未満である。CsClによる精製、またはイオン交換クロマトグラフィー法(Qiagen)では一般に、十分な純度の高い核酸が単離される。プラスミドを含む細菌抽出物の単純なアルカリ溶解およびフェノール抽出では一般に、核酸抽出物の純度は十分ではない。別の態様では、核酸はPCR産物が形成される反応混合物から精製される場合があるか、または精製されないPCR反応の産物である。
【0143】
本発明の一つの態様では、STEPによるトランスフェクション効率が高いスーパーコイル状のDNAが使用され、また典型的には1 mg/mlの臭化エチジウムの存在下で、平衡密度勾配遠心法で単離される。分離されたスーパーコイル状のDNAは水飽和ブタノールで抽出されて臭化エチジウムが除去され、また酢酸ナトリウムの存在下でエタノールで沈殿させることで単離される。DNAは、陽イオン性クロマトグラフィー溶媒とNaClによる溶出を用いるイオン交換クロマトグラフィーで単離される場合もある。
【0144】
1.発現ベクター
核酸は発現ベクター中に含まれる場合がある。したがって例えば核酸配列は、ポリペプチドを発現させるためのさまざまな発現ベクターのいずれか一つに含まれる場合があり、また複数の対象核酸が一つの発現ベクター中に含まれる場合がある。または、一つの遺伝子または核酸の一部が別のベクター中に含まれる場合がある。本発明のいくつかの態様では、ベクターは染色体DNA配列、非染色体DNA配列、および合成DNA配列(例えばSV40、細菌プラスミド、ファージDNAの誘導体;バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドDNAおよびファージDNAの組み合わせに由来するベクター、ならびにウイルスDNA(ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルスなど)の組み合わせに由来するベクター)を含むがこれらに限定されない。任意のベクターが、宿主細胞内で複製可能で存在可能な限りにおいて使用される場合があることが対象となる。
【0145】
本発明のいくつかの態様では、コンストラクトは、ベクター(プラスミドベクターやウイルスベクターなど)を含み、ベクター中に所望の核酸配列が順方向または逆方向に挿入されている。所望の核酸配列は、任意のさまざまな手順でベクター中に挿入される。一般に核酸配列は、当技術分野で周知の手順で、1つまたは複数の適切な制限酵素切断部位に挿入される。
【0146】
多数の適切なベクターが当業者に周知であり、また市販されている。このようなベクターはpCDNA3.1、pCMV.5、pZEM3、pSI、pCMV.Neo、およびpTetOnなどのベクターを含むがこれらに限定されない。他の任意のプラスミドまたはベクターが、宿主細胞内で複製可能で存在可能な限りにおいて使用される場合がある。本発明のいくつかの好ましい態様では、発現ベクターは複製起点、適切なプロモーターおよびエンハンサー、ならびに任意の必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナー部位およびアクセプター部位、転写終結配列、ならびに5’側に隣接する非転写配列を含む。他の態様では、SV40のスプライス部位、およびポリアデニル化部位に由来するDNA配列を用いて、必要な転写されない遺伝因子が提供される場合がある。
【0147】
本発明のある態様では、発現ベクター中の核酸配列は、mRNA合成を誘導するために適切な1つまたは複数の発現制御配列(プロモーター)に動作可能に連結される。さまざまなプロモーターを、STEPに使用される細胞の種類に応じて使用することができる。プロモーターには構成型、誘導型、またはトランス活性型のプロモーターがある。本発明に有用なプロモーターには、LTRもしくはSV40のプロモーター、大腸菌のlacもしくはtrp、ラムダファージのPLおよびPR、T3およびT7のプロモーター、およびサイトメガロウイルス(CMV)の極初期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼのプロモーター、およびマウスのメタロチオネイン−Iのプロモーター、および原核細胞もしくは真核細胞、またはこれらのウイルスの遺伝子の発現を制御することが知られている他のプロモーターなどがあるがこれらに限定されない。以下に挙げるプロモーターは、STEPに特に有用なことが証明されている:ヒトCMVプロモーター、ラウス肉腫ウイルスのLTRプロモーター、SV40の後期プロモーター、ヒトエンケファリンのプロモーター、ヒト絨毛性ゴナドトロピンプロモーター、哺乳類のテトラサイクリン誘導型プロモーター(Gossenら、Science 268:1766〜1769、1995)、および複数の合成プロモーター。他のプロモーターにはCRE−CATプロモーターおよびENK72プロモーターなどがある(Huggenvickら、Mol Endocrinol 5:921〜930 (1991))。
【0148】
本発明の他の態様では、組換え発現ベクターは、複製起点、および宿主細胞の形質転換を可能とする選択可能なマーカー(例えば真核細胞培養物用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、もしくはネオマイシン耐性、または大腸菌におけるテトラサイクリン耐性もしくはアンピシリン耐性)を含む。
【0149】
本発明のいくつかの態様では、高等真核生物による対象核酸の転写は、エンハンサー配列をベクター中に挿入することで亢進する。エンハンサーはDNAのシス作用性領域であり、一般的には約10〜300 bpで、プロモーターに作用して転写を亢進させる。本発明に有用なエンハンサーには、複製起点の後期側100〜270 bpにあるSV40のエンハンサー、サイトメガロウイルスの初期プロモーターのエンハンサー、複製起点の後期側にあるポリオーマのエンハンサー、およびアデノウイルスのエンハンサーなどがあるがこれらに限定されない。
【0150】
他の態様では、発現ベクターは翻訳開始用のリボソーム結合部位、および転写終結因子も含む。本発明のさらに他の態様では、発現ベクターはまた、発現を増幅させる適切な配列を含む場合もある。
【0151】
2.ポリヌクレオチド
任意のポリヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドをSTEPに使用することが可能であり;例示的なオリゴヌクレオチドには、直鎖状のオリゴヌクレオチド、および細胞内安定性を上昇させる糖修飾されたオリゴヌクレオチドなどがあるがこれらに限定されない。ポリオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、発現ベクターと類似の方法で複合体を形成させることができるが、複合剤に対する核酸の正確な比は、特定の長さのオリゴヌクレオチド、および化学的状態(ホスホロチオエートやリン酸などの連結)について実験的に最適化すべきである。
【0152】
3.RNA
RNAも、細胞で使用する発現ベクターのDNAと類似の方法で複合体と形成させることができる。一つの態様では、iRNAによる発現阻害のために、S2ショウジョウバエ細胞をトランスフェクトするためにiRNAが使用される(Clemensら、Proc.Natl.Acad.Sci. 97(12):6499〜6503、2000)。細胞内に侵入したiRNAは、対応する宿主細胞タンパク質を約ゼロに低下させるので;この態様では、それぞれ約20,000の遺伝子をSTEPで系統的かつ効率的に調べることができると考えられる。本発明のさらに他の態様では、さまざまなiRNAの組み合わせを用いて一つの細胞にトランスフェクトさせることが可能なコンビナトリアル解析にSTEPが用いられる。
【0153】
4.PCR 産物
PCRの産物である核酸をSTEPに直接使用することもできる。「直接」とは、トランスフェクション複合体の調製に使用する前に核酸を精製する必要がないことを意味する。いくつかの態様では、PCRで直鎖状DNAが作製される反応混合物が、実施例14に記載されているように、トランスフェクション複合体の調製に直接使用される。
【0154】
B.複合剤
本発明では、複合剤を用いて複数の機能を発揮させる。このような機能には、核酸の固定化、および細胞によるDNAのエンドサイトーシスの促進が含まれ;他の機能には、核酸が発現可能な適切な細胞区画へのDNAの標的輸送、核酸の発現の促進、核酸の分解の阻害、ならびに宿主の細胞の成長および完全性の促進などがある。さまざまな複合剤がSTEPで使用されており;以下に示す一般的なクラスの化合物は、STEPによるトランスフェクションを促進する。
【0155】
1.受容体に対するリガンド
エンドサイトーシスで対象細胞に取り込まれる、受容体に対するリガンドは、エンドサイトーシスで取り込まれる適切な細胞表面受容体に結合することでDNAのエンドサイトーシスを促進する。この目的ではトランスフェリンが特に有用であるが、このクラスの他のリガンドが使用される場合もある。他のリガンドには、LDL受容体に結合する低密度リポタンパク質(LDL)粒子、およびインテグリンに結合することが知られているウイルスタンパク質などがあるがこれらに限定されない。インテグリンは、細胞外マトリックスタンパク質の主要受容体である膜貫通型タンパク質である。このようなウイルスタンパク質には、アデノウイルスタンパク質の一つであるペントンタンパク質、HIVタンパク質GP120、ウマ鼻炎Aウイルスタンパク質VP1、ヒトアデノウイルスタンパク質E3、およびエプスタイン・バーウイルスタンパク質GP350などがあるがこれらに限定されない。このようなウイルスタンパク質の利点は、他のリガンドより細胞特異性が弱いために、さまざまな宿主細胞に応用できる点である。
【0156】
2.DNA 結合分子
DNA結合分子(例えば陽イオン性タンパク質)と核酸との複合体は、その電荷を中和し、大きさをコンパクトにする。DNA結合分子にはへリックス−ループ−へリックスタンパク質(HLH)、ジンクフィンガータンパク質、DNAインターカレーター(芳香族分子など)、他の核酸、重金属(白金など)、抗生物質(クロモマイシンA(3)およびミトラマイシン(MTR)など)、ならびにDNA結合ペプチド(アデノウイルスのDNA結合ペプチドmuなど)などがあるがこれらに限定されない。陽イオン性タンパク質にはポリリシン、ヒストン、転写因子、ポリヒスチジン、ポリアルギニン、スペルミン、およびスペルミジンなどがあるがこれらに限定されない。好ましくは陽イオン性タンパク質はポリアミンであり;最も好ましくはポリリシンである。スペルミンおよびスペルミジンはHEK−293細胞には有効ではなく;これらの化合物は短すぎるのではないかと推定されている。
【0157】
3.膜透過性分子
膜透過性分子(例えば陽イオン性脂質)を用いることでSTEPによるトランスフェクションは促進され;複合体中に存在する膜透過性分子の種類および量は好ましくは細胞の種類に最適化される。特に有利な膜透過性分子は陽イオン性脂質である。陽イオン性脂質にはリポフェクタミン(商標)、リポフェクチン(登録商標)、リポフェクタミンプラス(商標)、セルフェクチン(登録商標)、およびリポフェクターゼ(商標)(いずれもLife Technologies)などがあるがこれらに限定されない。典型的には、これらの陽イオン性脂質は、特定の細胞種における使用に最適な比で製剤化される、選択された一群の約50の天然および合成の陽イオン性脂質混合物を含む。一つの態様ではリポフェクタミン(商標)が特に有用であり、また他の態様では他の類似の化合物が、例えば実施例1に記載された条件下において、より低頻度で有効である。
【0158】
4.標的分子
複合体を細胞核、または他の細胞内部位に標的輸送する分子もSTEPを促進する;このような部位(核、ミトコンドリア、色素体、または細胞質)は、トランスフェクトした核酸の発現または作用に適している。このような分子には、例えばタンパク質を細胞核へ導く核局在化シグナル(NLS)を含むSV−40 T抗原などのタンパク質があるがこれらに限定されない。ポリリシンは同様に複合体を核へ導く類似の配列を含む。
【0159】
5.転写 / 翻訳にかかわる分子
DNAの転写、またはRNAの翻訳を促進する分子もSTEPを促進する。このような分子には非制限性の例として、転写因子、DNA弛緩因子または巻き戻し因子(例えばヘリカーゼ)、およびDNAポリメラーゼ(例えばTFIIAやTFIID)などのタンパク質があるがこれらに限定されない。
【0160】
6.核酸分解阻害剤
ヌクレアーゼ阻害剤として作用する分子も、トランスフェクトした核酸の分解を妨げることによってSTEPを促進する。このような分子の例には、タンパク質(例えばDMI22)、および非タンパク質の薬剤がある。
【0161】
7. 細胞の健全性および完全性のプロモーター
細胞の接着、成長、および/または分化を促進する分子も、STEPでトランスフェクトされた細胞の健全性および完全性を促すことでSTEPを促進する。このような分子の例にはタンパク質群が含まれるがこれらに限定されない。培養物中で増殖させた細胞の、培養物表面への接着を促進するタンパク質には、ポリリシン、フィブロネクチン、およびコラーゲンなどがあるがこれらに限定されない。細胞の成長を促進するタンパク質には、成長因子および細胞外マトリックスタンパク質などがあるがこれらに限定されない。細胞の分化を促進するタンパク質には、PC−12ラット褐色細胞腫細胞の分化を促進する神経成長因子などがあるがこれらに限定されない。
【0162】
トランスフェクション複合体中に存在する1個または複数の複合剤は、タンパク質の所望の特性の結合を促進させるために、一種または複数の他の複合剤に共有結合に連結させる場合がある。例えばトランスフェリンおよびポリリシンは化学的に架橋されて、トランスフェリン受容体に対する結合、およびトランスフェリンの内部移行がポリリシン(および結合した核酸)を同じエンドソーム中にトランスフェリンとして動員する場合がある。または複合剤の連結は、二種(またはそれ以上)の複合剤を融合タンパク質として細菌内、もしくは真核細胞内で発現させることで達成することができる。
【0163】
C.固定化
本発明は、核酸、および少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体を形成させることにより、またトランスフェクション複合体を表面に接触させて核酸をトランスフェクション複合体中に固定化させることにより、核酸を表面に固定化する方法を提供する。したがって本発明はまた、核酸および少なくとも一種の複合剤を含むトランスフェクション複合体も提供し、また本発明は、核酸がそのようなトランスフェクション複合体中に固定化される表面を提供する。トランスフェクション複合体は、好ましくはリガンドを含む少なくとも一種の複合剤と核酸を結合させることで形成される。好ましくはトランスフェクション複合体中に含まれる他の複合剤には、DNA結合分子、および膜透過性分子などがあり;好ましくは、これらの薬剤は陽イオン性タンパク質、および陽イオン性脂質である。または本発明のトランスフェクション複合体は、リガンドおよびDNA結合分子、好ましくは陽イオン性タンパク質である少なくとも二種の複合剤を含み;好ましくはトランスフェクション複合体中に存在する他の複合剤には膜透過性分子、好ましくは陽イオン性脂質などがある。リガンドは、DNA結合分子(存在する場合)に選択的に結合した状態にある。
【0164】
本発明の一つの態様では、核酸は以下の段階によって固定化される;これらの段階は、HEK−293細胞で発現されるベクターの使用に最適化されている。他の細胞で使用するために固定化を最適化することは常用の実験法である。
【0165】
典型的には、純粋な状態、またはそれ以外の状態の核酸は適切な濃度に溶液中に希釈される。好ましい濃度は約0.1〜10 mg/mlの範囲であり、最も好ましくは濃度は0.12 mg/mlである。このような溶液は、トリスおよびHEPES、ならびに他の化合物などの緩衝成分をpHが約4〜9の範囲で含むがこれらに限定されず;最も好ましくは溶液は滅菌水である。
【0166】
希釈された核酸の一定容量を混合用チャンバーへ添加する。適切なチャンバーには、遠心管(ポリプロピレンなど)、マイクロタイタープレート(ポリスチレンなど)、および試験管(ガラスなど)などがあるがこれらに限定されない。好ましくは、チャンバーはマイクロタイタープレートのウェルである。
【0167】
陽イオン性タンパク質−リガンド複合体は、一つの態様ではトランスフェリンを酸化してタンパク質を架橋するアルデヒドを形成させることで形成される。リガンド(トランスフェリン)を陽イオン性タンパク質(ポリリシン)と共有結合で連結した後にトランスフェクション複合体を形成することは重要であり;このような連結は、溶液中における標準的なトランスフェクションに関して報告されている(Wagnerら、Bioconjugate Chemistry 2:226〜231、1991)。この複合体を次に、希釈した核酸に適切な濃度で添加する。好ましい濃度は約0.1〜10 mg/mlの範囲であるが、最も好ましくは、濃度は1モルのトランスフェリン+鉄(リガンド)あたり、約0.4モルのポリリシン(陽イオン性タンパク質)である。適切な容量の複合体を核酸に添加し;複合体の容量は核酸容量の約0.1〜10倍の範囲であり;好ましくは、ほぼ等容量の複合体を核酸に添加する。この第一の核酸混合物を混合し、適切な温度で適切な時間インキュベートする。時間は約30秒〜約4時間の範囲であるが、好ましくは約5分であり;温度は約0〜37℃の範囲であるが、好ましくはほぼ室温(約18〜22℃)である。
【0168】
または、他の細胞表面リガンドを用いて、トランスフェリン濃度が低い受容体を有する細胞、または培地中のトランスフェリン濃度がSTEPによるトランスフェクション複合体と競合する細胞をトランスフェクトすることができる。このようなタンパク質の非制限的な例は、細胞表面のインテグリンに結合してトランスフェリンの代わりに使用可能でトランスフェクション複合体中のトランスフェリンを用いた場合の最適トランスフェクション効率より低い多くの種の細胞にトランスフェクト使用可能なアデノウイルスのペントンタンパク質である。このような態様では、ペントンタンパク質は約0.02 mg/ml〜1.0 mg/mlの濃度で使用されペントンタンパク質(存在する場合)は好ましくはDNA結合分子と結合または連結した状態であり;好ましくはDNA結合分子は陽イオン性タンパク質であり;最も好ましくは陽イオン性タンパク質はポリリシンまたはヒストンである。
【0169】
次に膜透過性分子(存在する場合)を第一の核酸混合物に適切な濃度で添加して、第二の核酸混合物を形成させ;好ましくは膜透過性分子は陽イオン性脂質である。陽イオン性脂質の好ましい濃度は約0.2〜4 mg/mlの範囲であり;好ましくは、濃度はリポフェクタミンが陽イオン性脂質の場合、約1 mg/mlである。適切な容量の陽イオン性脂質を第二の混合物に添加し(脂質の容量は第一の核酸混合物の約0.1〜10容の範囲);好ましくはほぼ等容量を混合物に添加する。次に、この第二の混合物を混合して、適切な温度で適切な時間インキュベートする。時間は約30秒〜4時間の範囲であるが好ましくは約5分であり;温度は約0〜37℃の範囲であるが好ましくは室温(約18〜22℃)である。この第二の核酸混合物はトランスフェクション複合体を含む。
【0170】
トランスフェクション複合体混合物を次に表面に塗布する。さまざまな表面構成が対象となり;本発明では、表面は平面〜凹形〜凸形〜球形〜立方形の範囲を含むがこれらに限定されない。構成のタイプは後の応用によって変わる。一つの態様では表面は平面状のスライドである。別の態様では表面はビーズである。さらに別の態様では表面は立方形であり;関連態様では、さまざまなトランスフェクション複合体が立方体のさまざまな面または表面に固定化され、またさらに別の関連態様では、さまざまな細胞の種類が立方体のさまざまな面または表面にプレーティングされる。さらに別の態様では、表面はマルチウェル組織培養プレートであり、またトランスフェクション複合体は、ウェルの少なくとも1個の表面に固定化される。好ましい態様では、表面は96ウェルまたは384ウェルの組織培養プレートである。
【0171】
さまざまな表面材料も対象となり;本発明では、材料はガラス、プラスチック(ポリプロピレンやポリスチレンなど)、フィルム(酢酸セルロースなど)、および膜(ナイロンシートなど)を含むがこれらに限定されない。材料の種類は後の応用によって変わる。
【0172】
しかし表面は一般に必ずしも、核酸および細胞の両方が接着するような化合物でコーティングされる必要はない。さまざまなコーティングが対象となり;本発明では、コーティングはポリリシン、フィブロネクチン、およびラミニンを含むがこれらに限定されない。コーティングの種類は核酸および細胞の両方によって変わる。好ましくは、HEK−293細胞と発現ベクターの場合は、コーティングはポリリシンである。
【0173】
トランスフェクション混合物は、直接ピペッティング、エアロゾル噴霧、静電気的沈着、および機械的沈着(固体ピンを使用)を含むがこれらに限定されない、いくつかの手段で塗布することができる。塗布には、一種類のトランスフェクション複合体混合物の1個のスポットへの1回の塗布および複数回の塗布が含まれる。複数回塗布することで、トランスフェクション複合体の多層が形成すると考えられ、またトランスフェクション効率が上昇する。効率の上昇は部分的には、表面のみに対する細胞の親和性と比較したときの、トランスフェクション複合体に対する細胞の親和性が高いことに起因すると考えられており;トランスフェクション複合体が多層をなすことで、トランスフェクション複合体の一層がエンドサイトーシスで取り込まれると、細胞が次に低いレベルのトランスフェクション複合体に結合し、またこれらの複合体のエンドサイトーシスが開始すると考えられている。好ましくはトランスフェクション複合体混合物は、固体ピンを用いてスライド上に塗布され、また複数回(2〜5回)塗布される。スポット中の核酸量は、初期核酸濃度、および個々の塗布時に塗布される容量、および塗布回数によって変わり;好ましくは核酸量は2〜500 ngであり、また最も好ましくは20〜150 ngである。トランスフェクション複合体混合物を塗布する条件は好ましくは高湿度であり;最も好ましくは湿度は70〜80%である。
【0174】
次にトランスフェクション複合体混合物のスポットを乾燥させる。乾燥条件はさまざまであり、室温における乾燥(チャンバー内、または組織培養フード内)、真空乾燥、赤外光照射による乾燥、および加熱(約50〜200℃)による乾燥を含むがこれらに限定されない。好ましくはスポットは、紫外光を遮断した組織培養フード内の10 cmの組織培養ディッシュ中でガラス製スライドなどの表面上で乾燥させる。
【0175】
典型的には、トランスフェクション複合体混合物の複数の試料を一つの表面に塗布し、そこで各混合物をスポット中に塗布し、また各スポットは一種のみの混合物を含む(一回もしくは複数回の塗布が可能)。結果として、固定化されたトランスフェクション複合体のスポットのアレイが表面上に得られる。この場合、アレイはスポットのパターンであり、好ましくはパターンは複製可能であるか、および/または適切な検出装置で検出可能である。各スポットは一般に、固定化されたトランスフェクション複合体の一種の試料を含むが、トランスフェクション複合体の一種の試料は、一種〜複数種の核酸を含む場合がある。またアレイ状のさまざまなスポットは、同じトランスフェクション複合体、または異なるトランスフェクション複合体を含む場合があり;トランスフェクション複合体は、存在する複合剤、存在する核酸の種類、またはこれらの両方が異なる場合がある。典型的には異なるスポットは、存在する核酸の種類が異なる。したがってアレイは典型的には、少なくとも数個から大半が、一つのスポットに固有の核酸種を含むスポットを含む。このような固有の、またさまざまな種類の核酸は次に典型的には、このような核酸でトランスフェクトされた細胞内で異なる作用を生じる;作用はSTEPの用途によって変わる。トランスフェクトした核酸の作用を次に検出装置で測定し、アレイ中の核酸位置によって任意の特定の作用が決定される核酸を同定する。
【0176】
細胞:種類、調製、プレーティング、および培養
A.細胞の種類
STEPにおいて固定化された核酸に塗布される細胞は宿主細胞とみなされる場合がある。本発明は、培養細胞および供給源から採取直後の細胞(例えば組織または器官から切除直後の細胞)の両方を対象とする。培養細胞には一次培養、細胞系列、および三次元培養細胞のすべてが含まれる。本発明はまたインビボにおける細胞も対象とする。
【0177】
本発明のいくつかの態様では、宿主細胞は高等真核生物の細胞(例えば哺乳類細胞)である。本発明の他の態様では、宿主細胞は下等真核生物の細胞(例えば酵母細胞)である。本発明のさらに他の態様では、宿主細胞は原核生物の細胞(例えば細菌細胞)の場合がある。宿主細胞の特定の例には大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、枯草菌(Bacillus subtilis)、およびシュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、およびブドウ球菌(Staphylococcus)属のさまざまな種、ならびに***酵母、出芽酵母、ショウジョウバエ(Drosophila)S2細胞、ハスモンヨトウ(Spodoptera)Sf9細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル腎繊維芽細胞のCOS−7系列(Gluzman、Cell 23:175 (1981))、293T、C127、3T3、HeLa、およびBHKの各細胞系列、NT−1(タバコ培養細胞系列)、および根分泌(rhizosecretion)における根細胞および培養根(Glebaら、Proc Natl Acad Sci USA 96:5973〜5977 (1999))が含まれるがこれに限定されない。STEPで植物細胞を使用する際には、当技術分野で周知の手法で細胞壁を除去する必要がある場合がある。
【0178】
高いトランスフェクション効率が、HEK−293T細胞、HEK−293細胞、およびNIH−3T3細胞で認められている。COS−1細胞などの他の細胞種が使用される場合もある。
【0179】
B.細胞培養および培養期
本発明では、細胞はトランスフェクションに先だって、例えば米国組織培養コレクション(American Tissue Culture Collection)によって決定されている方法、または文献(例えばMorton、H.J.、In Vitro 9:468〜469 (1974))に記載されている当技術分野で周知の方法で培養される。本発明の一つの局面では、典型的には細胞は次に処理されてから、固定化されたトランスフェクション複合体に添加され;好ましくは処理はトリプシン化である。
【0180】
本発明の一つの態様では、HEK−293T細胞は、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で37℃で、加湿した組織培養インキュベーター内で5% CO2下で維持される。細胞をプラスチック上またはガラス上で増殖させた後にSTEPによるトランスフェクションに使用する。細胞が80%のコンフルエンシーに達したら、0.25% トリプシン(溶媒:1 mM EDTA)で処理して細胞を成長用基質から剥がして継代培養する。細胞を1000×gで遠心してトリプシン化用培地を除去する。細胞ペレットをDMEM中に再懸濁し、当初の成長容量の約4倍に細胞を希釈して20%のコンフルエンシーを得る。他の態様では、NIH 3T3細胞およびCOS−1細胞が同様に処理される。
【0181】
G2/M期の細胞のトランスフェクション効率が最高なので、いくつかの態様では、トランスフェクション効率は文献(Mortimerら、Gene Ther 6:401〜411 (1999);Tsengら、Biochim Biophys Acta 1445:53〜64))に記載されているように、ダブルチミジン阻害、アフィジコリン処理、またはノコダゾール処理で同調させた細胞で最も高い。
【0182】
C.細胞密度
細胞密度はSTEPによるトランスフェクションにおける重要な因子の一つであり;非三次元細胞培養物を使用する態様では、初期プレーティング密度として10〜105 細胞/cm2が好ましい。細胞密度が高くなるほど、発現のピークが早く訪れる。これは高密度における接触阻害によると考えられる。
【0183】
D.トランスフェクトされた細胞
STEPで過去にトランスフェクトされ、適切な選択用薬剤で選択された細胞系列では、トランスフェクション効率が高いことがわかっている(約5〜10倍)。このような細胞が本発明では選択的に使用される。
【0184】
E.プレーティング
調製後の細胞を、固定化された核酸に当技術分野で周知の従来の手段で添加する。典型的には、非三次元細胞培養物、および採取直後の細胞を用いる本発明のいくつかの局面では、細胞は培地中に特定の密度で存在し;培地の量および細胞の密度は、個々の細胞種および核酸について決定される。好ましくは、添加される培地の量は約5〜30 ml/10 cm(組織培養ディッシュ)の範囲であり;最も好ましくは約20 mlの培地が添加される。プレーティングする細胞濃度は約103〜108/20 mlの範囲であり;好ましくは20 mlあたり106個の細胞を添加する。固定化されたトランスフェクション複合体の各スポットに塗布される細胞数は、固定化されたトランスフェクション複合体上にプレーティングされる細胞の濃度、固定化されたトランスフェクション複合体のスポット数、および細胞がプレーティングされる固定化されたトランスフェクション複合体の密度によって変わる。好ましくはトランスフェクション複合体のスポット1個あたり約1〜1000個の細胞がプレーティングされ;より好ましくはスポット1個あたり約20〜100細胞がプレーティングされる。好ましくはHEK−293はトリプシン処理直後に、固定化された核酸スポットに添加する。
【0185】
細胞は、適切な時間、適切な温度で、適切な大気条件下で培養する。温度および大気条件は、細胞および核酸の種類によって変わり;HEK−293細胞の場合、インキュベーション温度は好ましくは5% CO2下で37℃である。
【0186】
細胞は培養物中で適切な時間をかけてトランスフェクトされる。この時間は、使用されるトランスフェクションの種類によって変わる。典型的には時間は約1時間〜30日間の範囲であるが、好ましくは約24〜72時間である。
【0187】
三次元培養細胞を用いる本発明の他の局面では、核酸を固定化する表面を細胞に塗布する。表面および三次元細胞構造はいずれも、固定化された核酸が、検出される作用のパターンと相関可能なようにマークされる。細胞を細胞培養物に適切な条件下でトランスフェクトし;好ましくは、トランスフェクションが受動的に起こる。
【0188】
本発明のさらに他の局面では、核酸を固定化する表面を、組織もしくは器官、または他のインビボで移植可能な表面に塗布する。このような塗布には外科的移植が含まれるがこれらに限定されない。いくつかの態様では表面はフィルムまたは膜であり;表面および組織または器官の両方が、固定化した核酸のアレイが検出される作用のパターンと相関可能なようにマークされる。特定の器官または組織に適した条件下で細胞をインビボでトランスフェクトし;好ましくはトランスフェクションは受動的に起こる。一つの態様では、組織は腫瘍であり、また検出される作用は、核酸によるトランスフェクション後における腫瘍細胞の成長である。
【0189】
トランスフェクション
A.方法
いくつかの態様では、細胞のトランスフェクションを促進するためにさまざまな方法が用いられる。方法には、浸透圧ショック、温度ショック、およびエレクトロポレーション、ならびに圧力処理などがあるがこれらに限定されない。圧力処理では、プレーティングした細胞をチャンバー内のピストンの下に据え、高圧を加える(例えばMannら、Proc Natl Acad Sci USA 96:6411〜6 (1999)に記載)。プレーティングに続くインサイチューにおける細胞のエレクトロポレーションは、トランスフェクション効率を高めるために使用される場合がある。プレートの電極は、この目的でBTX/ジーントロニクス(BTX/Genetronics)から入手可能である。
【0190】
293−HEK細胞を使用する態様では、細胞は好ましくは、固定化された核酸複合体によって受動的にトランスフェクトされる。
【0191】
B.促進
いくつかの態様では、発現を上昇させるためにトランスフェクション中に化合物が含まれる。このような化合物には、リソソーム阻害剤(クロロキンなど)、およびヌクレアーゼ阻害剤(DMI22など)などがあるがこれらに限定されない。
【0192】
遺伝子発現:検出および定量
本発明のさまざまな局面では、遺伝子発現は、任意の複数の方法で、トランスフェクション後の適切な時期に検出する。トランスフェクション後の時間は細胞および核酸によって変わり;HEK−293細胞の場合、細胞は、プレーティング後の少なくとも16時間かけて静かに培養する(16時間後に遺伝子発現を検出することができる)。
【0193】
A.蛍光
さまざまなタンパク質(GFP、DsRed、アクエオリン)の蛍光は、スライドを適切に固定した後に、蛍光顕微鏡、またはマイクロアレイスライドスキャナーで直接測定される。蛍光顕微鏡を使用することで、同じ細胞を経時的に連続的にモニタリングして、タンパク質発現を調べることが可能となる。またスキャナーを使用することで、蛍光のより迅速かつ正確な定量が可能となるが、細胞は固定しなければならない。
【0194】
酵素活性も、色素生産性の基質または蛍光基質を用いて、生きている細胞または固定化した細胞内で測定することができる。
【0195】
B.抗体
抗体(M2 Flagほかの抗体)も、STEPによってトランスフェクトされたタンパク質の検出に使用される。
【0196】
C.レポーターアッセイ法
レポーターアッセイ法は一般に、STEPによるトランスフェクションに最適化されなければならない。また最適な条件は、より標準的なトランスフェクション法で用いられる条件とは異なる場合がある。変化させる重要なパラメータは、レポーターベクターの量、レポーターの発現時間、および使用するレポータータンパク質のタンパク質分解による半減期である。
【0197】
D.選択
遺伝的選択を行うことで、STEPにより安定にトランスフェクトされた細胞が単離される。ハイグロマイシン、G418、およびピューロマイシンを用いる選択はいずれも高い効率で使用される。HEK−293細胞内における安定形質転換体の選択は、望ましならばプレーティングの約48時間後に開始することができる。
【0198】
STEPの応用
本発明の方法には多くの応用がある。以下に挙げる応用例は説明目的で記載するものであり、制限する意図はない。
【0199】
A.新規 cDNA の機能スクリーニング
本発明の一つの局面では、タンパク質キナーゼファミリーの新規分子をコードする数千種の発現ベクターのSTEPアレイが、特定のエンハンサー領域に続く発現調節能力に関して、特定の蛍光レポーターコンストラクトを用いて容易にスクリーニングされる。本発明の他の局面では、新しい転写因子が同様にスクリーニングされる。本発明のさらに他の局面では、多種多様なクラスのタンパク質の機能がSTEPによるトランスフェクションで評価される。一つの態様では、タンパク質キナーゼおよび転写応答配列の小規模なファミリーの典型的な解析について実施例13に記載されている。
【0200】
B.薬剤スクリーニング
本発明の一つの局面では、タンパク質チロシンキナーゼに対する発現ベクターのSTEPアレイが、さまざまな候補薬剤で処理され、またキナーゼのインビボ活性は、細胞を固定化して抗ホスホチロシン抗体で染色することで決定される。アレイの数千枚のスライドの「コピー」がDNAアレイヤーで自動的に簡単に作製されるので、数千種の薬剤がインビボ阻害に関してスクリーニングされる。一群のキナーゼは、STEPによってトランスフェクトされた細胞を培養物中でさまざまな成長因子で処理すると活性化される。本発明の他の局面では、STEPによるトランスフェクションを同様に用いた、数百種の異なる薬剤のアッセイ法が対象となる。
【0201】
本発明のさらに他の局面では、薬剤の代謝がSTEPで解析される。薬剤によってSTEPで測定される経路が変化することがわかれば、薬剤代謝に関与することが知られているさまざまな酵素(例えばシトクロムP450ファミリー)に対応する発現ベクターをSTEPに含めることができる。特定のシトクロムP450が薬剤の代謝に関与するのであれば、P450酵素を同時トランスフェクトすることで、薬剤がSTEPによるアッセイ法に及ぼす作用は小さくなるはずである。非制限性の例では、MAPキナーゼカスケードの強力な阻害剤である薬剤PD098059にシトクロムP450が及ぼす作用が測定される。RasV12の過剰発現は、STEPによってトランスフェクトされた細胞内においてElk−1レポーターを活性化させ、またPD098059はこの活性化を阻害する。RasV12およびElk−1レポーターと組み合わせて、シトクロムP450ファミリーのさまざまな酵素を用いるトランスフェクションは、トランスフェクトされたシトクロムP450がPD098059を代謝して不活性化合物とする場合に、Elk−1レポーターのPD098059による阻害を逆転させる。
【0202】
本発明の別の局面では、STEPにより、既知の受容体またはオーファン受容体に対してアゴニストおよびアンタゴニストとして作用するリガンドおよび薬剤を同定することができる。
【0203】
C.変異誘発試験
本発明の別の局面では、STEPアレイを用いて、変異型タンパク質の活性を決定する十分高感度のレポーターアッセイ法によってタンパク質のランダム変異のスクリーニングが行われる。本発明の一つの態様では、cGMP依存性タンパク質キナーゼの自己阻害ドメインの変異誘発が調べられる。というのは、同キナーゼに変異を誘発することで構成的な活性化が誘導され、また環状AMP−応答配列−緑色蛍光タンパク質(CRE−GFP)レポーターコンストラクトの転写調節が関与するトランス活性化アッセイ法を行うことで、構成的に活性な変異体が同定される。このようにして数千種の変異体が1枚のスライド上でスクリーニングされ、複数回の反復実験が容易に行われる。変異体のコレクションを用いることで、cGKのアミノ酸末端にある阻害ドメインが決定される。本発明の他の態様では、単一細胞アッセイ法が利用可能であったり、またはこのアッセイ法が機能に関する読み値に対して工夫されたりする多種多様のタンパク質を対象に、変異誘発および解析が同様に行われる。
【0204】
本発明の別の局面では、STEPアレイにより、DNA修復に作用するタンパク質が同定される。一つの態様では、GFPレポーターコンストラクトの開始コドン(ATG)またはその近傍に1塩基ミスマッチを含むレポーター分子が作製される。このレポーター分子はDNAのコード鎖中に適切な塩基(ATG)を含むが、非コード鎖中に変異のある塩基(正常なCATに対してCAC)を含む。非コード鎖上のミスマッチを修復することで、適切なRNA配列によるmRNAの転写が開始されて、機能性GFP分子が作製される。DNA修復レポーターを、STEPで潜在的DNA修復酵素と同時にトランスフェクトすると、DNA修復酵素によるDNAミスマッチの修復能力が細胞の蛍光によって示される。
【0205】
D.アンチセンススクリーニング
本発明の別の局面では、数千種のアンチセンスオリゴヌクレオチド、およびアンチセンス発現ベクターを含むSTEPアレイを対象に、個々のタンパク質の発現阻害能力についてスクリーニングが行われる。本発明の態様では、この応用の試験系は、蛍光タンパク質、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド、ならびに実施例12に記載されたアンチセンスコンストラクトを用いて開発される。本発明の、より広い応用性がある他の態様では、標的タンパク質と蛍光レポーターとの融合タンパク質コンストラクトがスクリーニング過程に使用される。有効なアンチセンスツールのスクリーニングおよび同定に本発明を用いることは、アンチセンス法の実用的な用途に劇的かつ肯定的な影響がある。
【0206】
E.インビトロにおけるタンパク質相互作用
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が、タンパク質の相互作用のインビボ検出について報告されており、マイクロアレイを用いたDNAマイクロアレイフォーマットで容易に検出される。遺伝的にコードされた緑色蛍光タンパク質バリアントに由来するFRETを用いてタンパク質間結合を決定するいくつかのインビボ法が報告されている(Zaccoloら、(2000) Nat Cell Biol 2:25〜29;PollackおよびHeim (1999) Trends Cell Biol 9:57〜60)。本発明のさらに別の局面では、特徴が未決定の対象配列と蛍光ドナータンパク質との融合タンパク質に対する発現ベクターのライブラリーが作製されており、インビボにおける相互作用が、このような融合タンパク質のライブラリーに由来する蛍光アクセプタータンパク質に融合する適切な「ベイト」タンパク質を有する発現ベクターの同時トランスフェクションによって検出される。
【0207】
F.タンパク質 − タンパク質複合および翻訳後修飾の同定
本発明のさらに別の局面では、STEPにより、タンパク質の翻訳後修飾の同定、およびタンパク質間の相互作用の同定が行われる。この局面では、好ましくはインサイチューで容易に精製され、また重量が好ましくはこれもインサイチューで測定されるタンパク質をコードするDNAをSTEPによって細胞にトランスフェクトする。一つの態様では、STEPは、ポリリシンでコーティングされた酢酸セルロース膜上で行われ、また少なくとも一種のトランスフェクトするDNAは、ヘキサヒスチジンエピトープタグを有するタンパク質をコードする。発現されたタンパク質は次にニッケル/NTAアフィニティー膜へインサイチューで移すことで精製され;ヘキサヒスチジンタグの付いたタンパク質(およびこれに結合したタンパク質)のみがニッケル/NTAアフィニティー膜に結合するが他のすべての細胞タンパク質は洗浄時に除去される。次に精製タンパク質(および結合した任意のタンパク質)の分子量をMALDI質量分析法で決定する。ヘキサヒスチジンタグタンパク質の翻訳後修飾(リン酸化、グリコシル化、タンパク質分解性の切断を含むがこれらに限定されない)は分子量の増加から明らかになる。別の態様では、第二のタンパク質をコードする少なくとも第二のDNAを、ヘキサヒスチジンタグを有する第一のタンパク質をコードする第一のDNAと同時にトランスフェクトし、上述のように発現タンパク質を精製して分子量を決定する。ヘキサヒスチジンタグを有する第一のタンパク質に対する少なくとも第二のタンパク質の結合も分子量の増加から明らかになる。
【0208】
G.インビボにおける細胞トランスフェクション
STEPによるトランスフェクションは、培養物中における細胞系列のトランスフェクションに制限されないので、その有用性は広い。本発明のさらに別の局面では、STEPは一次培養物に用いられる標準的な培養法によって、広範囲のさまざまな組織および生物体に由来する細胞の一次培養物のトランスフェクションに応用される。本発明の別の局面では、STEPによるトランスフェクションは、トランスフェクション複合体が固定化された酢酸セルロース膜などの表面を移植することでインビボで使用される。一連の態様では、トランスフェクション複合体は、発現ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドを含み;膜が生物体の固形腫瘍中に移植され、STEPによるトランスフェクションが限局性の腫瘍の細胞成長、または生存能に及ぼす作用が、移植後のさまざまな時点で決定される。
【0209】
実験例
以下に挙げる例は、本発明のある好ましい態様および局面を示すために、また説明するために提供するものであり、本発明の範囲を制限する意図はない。
【0210】
以下の実験手順に関する開示では以下の省略形を用いる:N(正常);M(モル濃度);mM(ミリモル濃度);μM(マイクロモル濃度);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル):pmol(ピコモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);lもしくはL(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏温度);Sigma (Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO);CRE(cAMP応答配列);CREB(cAMP応答配列結合タンパク質);ATP(アデノシン5’三リン酸);STK(タンパク質セリン−スレオニンキナーゼ);PTK(タンパク質チロシンキナーゼ);mRNA(メッセンジャーRNA);hnRNA(異核RNA);cDNA(相補的DNA);DEAE(ジエチルアミノエチル);G418(ジェネティシン);GFP(緑色蛍光タンパク質);EGFP(強化型緑色蛍光タンパク質);FRET(蛍光共鳴エネルギー移動);DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地);CMV(サイトメガロウイルス);VASP(血管拡張因子およびAキナーゼ促進型リンタンパク質);PEST(プロリン、グルタミン酸、セリン、およびスレオニンに富む);Neo(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ);Cα(cAMP依存性タンパク質キナーゼ触媒サブユニットのαイソ型);PKA(cAMP依存性タンパク質キナーゼ);PKG(cGMP依存性タンパク質キナーゼ);RRC(レシオメトリック応答細胞(ratiometrically responsive cell));SGK(血清およびグルココルチコイド誘導性タンパク質キナーゼ);PKCα(タンパク質キナーゼCのαイソ型);CaMKII(カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼのII型イソ型)。
【0211】
実施例
実施例1
STEP:表面トランスフェクションおよび発現法
一つの態様では、本発明は、以下に挙げる方法を提供する。この方法は、特に明記した部分を除いて後続の実施例で使用される。
1.トランスフェクション複合体の調製
a.プラスミドDNAを0.12 mg/ml(dH2O中)に希釈する。
b.1容量のプラスミドDNAをマイクロタイタープレートのウェルに添加する。
c.1容量のトランスフェリン−ポリリシン複合体を1 mg/ml(0.4モルのポリリシン/1モルの鉄結合トランスフェリン)で添加し、混合して、室温で5分間インキュベートする。
d.1容量の2 mg/ml リポフェクタミンを添加し、混合して、室温で20分間インキュベートする。
2.核酸の固定化
a.混合物を高湿度下(70〜80%)で、固体ピンを用いて、また複数回のスポッティング(2〜5回)でスライド上にスポットする。
b.紫外光を遮断した組織培養フード中の10 cmの組織培養ディッシュ内の顕微鏡用スライド上で複合体を乾燥させる。
3.HEK−293 細胞のプレーティングおよび培養
a.106個のトリプシン処理直後の指数関数的に増殖しつつあるHEK−293細胞を含む20 mlの培養物を添加する。
b.5 % CO2下で、37℃でインキュベートする。
c.プレーティング後に、攪拌することなく少なくとも16時間かけて細胞を培養する。
4.発現の検出
タンパク質の発現は、早くて16時間後に検出することができる。
5.形質転換体の選択(必要に応じて)
プレーティング後の48時間以内に安定な形質移入体を選択する。
【0212】
STEPで使用する前に、HEK−293T細胞を、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で37℃で、加湿した組織培養インキュベーター内で5% CO2下で維持する。細胞をプラスチックまたはガラス上で成長させてからSTEPによるトランスフェクションに使用する。細胞のコンフルエンシーが80%に近づいたら、0.25%トリプシン(溶媒:1 mM EDTA)で処理して成長用基質から細胞を剥がして継体培養する。1000×gで遠心して細胞を沈殿化させ、トリプシン化用培地を除去する。細胞の沈殿をDMEM中に再懸濁し、当初の成長容積の約4倍に細胞を希釈して20%のコンフルエンシーとする。NIH 3T3細胞およびCOS−1細胞の処理は同様に行われる(Morton、H.J. In Vitro 9:468〜469、(1974))。
【0213】
核酸は好ましくは、STEPによるトランスフェクション効率が最高となるスーパーコイル状のDNAであり、これは典型的には1 mg/mlの臭化エチジウムの存在下で平衡密度勾配遠心法で単離される。単離されたスーパーコイル状のDNAを飽和ブタノールで抽出して臭化エチジウムを除去し、酢酸ナトリウムの存在下でエタノールで沈殿させて単離する。DNAは、陽イオン性クロマトグラフィー用溶媒を用いるイオン交換クロマトグラフィーおよびNaClによる溶出によって単離することもできる。
【0214】
実施例2
STEPによるトランスフェクションプロトコールの開発
最初に緑色蛍光タンパク質(GFP)発現ベクター(pEGFP−C1、Clontech)、およびCOS−1細胞またはHEK−293を用いて、STEPによるトランスフェクションプロトコールを開発した。培養物中の細胞を、ポリリシンでコーティングされたプレートに直接添加されたDNAでトランスフェクトする初期の試みでは、107個の細胞に1個未満の散発的な低トランスフェクション効率が得られた。この主な原因は、スポッティングおよび培養手順中における蛍光標識DNAの推移のモニタリングから判定されるように、プレートやスライドの表面からDNAが失われてしまったことによるものであった。DNAと陽イオン性タンパク質(ポリリシンやヒストンなど)の複合体を形成させることによって103個に1個〜104個に1個という高いトランスフェクション効率が得られたが、多数の偽陽性細胞も認められた。偽陽性細胞は、DNA複合体を塗布した領域外で認められた。トランスフェクションの注意深い経時的観察から、偽陽性細胞が、DNA複合体の断片化、およびこれに続く、DNA塗布領域外における細胞のトランスフェクションに起因すると判定された。DNA複合体を化学的に架橋することで偽陽性クローンの数は減少したが、複合体上にプレーティングした細胞のトランスフェクション効率も大きく減少した。
【0215】
陽イオン性脂質/DNA複合体を使用することで細胞に毒性が生じ、DNA上にプレーティングした細胞からの発現はみられなくなった。毒性はDNA、陽イオン性脂質、およびヒストンまたはポリリシンの3元複合体では低下した。トランスフェクション効率はそれでも低く、102個に1個〜103個に1個の範囲であった。しかし他の研究者によって過去に報告されているように、トランスフェリンを複合体に含め、複合体と共有結合でカップリングさせることで、遺伝子のトランスフェクションで報告されるように、トランスフェクション効率が液相で大きく上昇している(Zenkeら、Proc Natl Acad Sci USA 87:3655〜9 (1990);Cheng、P.W.、Hum Gene Ther 7:275〜82 (1996)。
【0216】
STEPプロトコールで効率のよいトランスフェクションを示す細胞系列には、NIH−3T3繊維芽細胞、HEK−293細胞、およびHEK−293T細胞などがあり、COS−1細胞およびCOS−7細胞では効率は低い。効率のよいトランスフェクションが未だ示されていない細胞系列には、C6グリオーマ細胞、N1E−115神経芽腫細胞、NG−108神経芽腫−グリオーマ細胞、C361細胞、およびSY5Y細胞などがある。STEPによって高い効率でトランスフェクトされる細胞系列の数を増やす手順については実施例11に記載されている。プレーティングされる細胞の条件、および細胞密度はいずれもSTEPの効率に重要である。プレーティング対象の細胞は、好ましくは指数関数的に、トリプシン処理前の時点で30〜50%のコンフルエンシーで増殖しており、また好ましくは、1〜5×104細胞/cm2の密度で、塗布したDNA複合体上にプレーティングされる。
【0217】
また、この実施例では、効率のよいSTEPによるトランスフェクションには、DNA複合体が塗布される表面が、ポリリシンで前処理されること、また70〜80%の湿度および約18〜22℃の温度を制御した条件下においてDNA複合体が塗布されることが必要である。適切に形成されたDNA複合体は、培地中の組織培養条件下で72時間またはこれ以上の時間安定している。
【0218】
最適化されたSTEP条件を用いると、DNAにプレーティングされた細胞に20〜70%のトランスフェクション効率が得られ、偽陽性発生率は極めて低い(<1%)ことが普通である。特定の例を以下に示す。
【0219】
実施例3
STEPによりトランスフェクトされた細胞のDsRedレポーター発現による検出
実施例1に記載されたSTEP、および以下に記載された手順にしたがって、DsRed用発現ベクターをHEK−293T細胞にトランスフェクトした。HEK−293T細胞は、SV40 T抗原を発現するHEK−293細胞であり、SV40の複製起点を含む発現ベクターの高コピーの複製が可能である。pDsRed−C1プラスミドDNA(Clontech、20 ng)、リポフェクタミン(130 ng)、トランスフェリン(20 ng)、およびポリリシン(40 ng)を含む200ナノリットルの溶液を、ポリリシンでコーティングされた顕微鏡用スライドの表面に塗布した。この溶液を30分間かけて乾燥させ、顕微鏡用スライドを10 cmの組織培養ディッシュへ移した。この場合、HEK−293T細胞を、DMEM(10% FCSを含む)中の顕微鏡用スライド上にプレーティングし、細胞を、加湿した5% CO2のインキュベーター内で48時間インキュベートした。DsRed(海生サンゴに由来する赤色蛍光タンパク質;Fradkovら、FEBS Lett 479:127〜30 (2000))の発現は蛍光顕微鏡で決定した。細胞の写真を明視野下で撮影し、またはローダミンフィルターを用いて蛍光を観察した。DNAスポットの輪郭が明視野像で認められ、DNAのスポットそのものが像の下半分を占めている。DNAスポットの細胞密度は、スポットの外側の細胞密度より低い。これは部分的には、細胞がDNAスポットに対して、スポット周囲のポリリシンに対する接着より低い効率で接着するためであり、また部分的には、トランスフェクトされた細胞の複製が阻害されるためである。この実験では、トランスフェクション効率は30%と判定され、偽陽性出現率は0.1%未満であった。
【0220】
実施例4
複数の遺伝子の同時発現および検出
A.二種のタンパク質: GFP および DsRed
GFPおよびDsRed用の発現ベクター(Fradkovら、FEBS Lett 479:127〜30 (2000))を用いて、STEPによるトランスフェクション中における同時発現の効率を、実施例1および以下に記載された手順にしたがって決定した。トランスフェクション複合体は、二種の発現ベクターのいずれかから個別に、または二種の発現ベクター混合物から形成させた。3個のDNAスポットをSTEPで標準的な顕微鏡用スライドに塗布した。左側のスポットはpDsRedC1発現ベクター(20 ng)のみを含んでおり、中央のスポットはpEGFPC1発現ベクター(20 ng)のみを含んでおり、また第三のスポットは、pEGFPC1ベクターとpDsRedC1ベクター(各10 ng)の等量混合物を含んでいる。細胞をDNAスポット上にプレーティングし、24時間後にローダミンフィルターセット(A)、またはフルオレセインフィルターセット(B)を用いて蛍光顕微鏡写真を撮影してDsRedまたはGFPの発現をそれぞれ検出した。両蛍光タンパク質とも、DNAスポットに対して50%を上回る細胞で検出され、DsRed陽性細胞の100%はGFP陽性でもあった。またGFP陽性細胞の85%だけがDsRed陽性でもあった。これはDsRedタンパク質と比較してGFPタンパク質の内因性蛍光が大きいためであった。したがって以上の結果は、EGFPに対する検出感度はDsRed発現ベクターの方が高いものの、細胞が両蛍光タンパク質を100%の効率で同時に発現していることを示す。同時トランスフェクション効率がこのように高いことは、同じ細胞内で二種またはそれ以上のトランスフェクトされたタンパク質の相互作用を必要とするトランス活性化アッセイ法および他のアッセイ法が、STEPによるトランスフェクションを用いることができることを意味する。
【0221】
B.4 種のタンパク質: EFGP 、 DsRed 、β − ガラクトシダーゼ、およびピューロマイシンに対する耐性
少なくとも4種の異なる発現ベクターを、STEPによるトランスフェクションで細胞に同時に導入した。トランスフェクション複合体は、全4種の発現ベクターを混ぜた混合物から形成させた。個々の細胞は、EGFP(pEGFP−C1;Clontech)、DsRed(pDsRed−C1;Clontech)、β−ガラクトシダーゼ(CMV.βgal;Huggenvikら、Mol Endocrinol 5:921〜930 (1991))、およびピューロマイシン耐性(pPUR;Clontech)と同時にSTEPでトランスフェクトし;次に全4種のタンパク質の発現をトランスフェクション後に観察した。4種のタンパク質の発現は、ピューロマイシンの存在下で、緑色蛍光、赤色蛍光、β−ガラクトシダーゼの細胞化学的染色、およびピューロマイシン存在下における成長が同時に検出された。
【0222】
実施例5
STEPによってトランスフェクトされた細胞の非蛍光的手法による検出
蛍光は最も迅速かつ高感度の遺伝子発現検出法であるが、STEPによってトランスフェクトされた細胞は、いくつかの異なる方法で検出することもできる。一つの方法では、ハイグロマイシン耐性遺伝子の発現を誘導するpTK−Hygプラスミドを含むDNA複合体をガラス製スライド上にスポットし、同スライド上に細胞をプレーティングした。細胞をプレーティングしてから48時間後にハイグロマイシン(100 mg/ml)を培地に添加し、さらに10日間、培地を3日ごとに交換しながら細胞をインキュベートした。細胞の大半は死滅して洗浄時に除去されたが、顕微鏡写真から、生きている細胞の「コロニー」が、STEPによってトランスフェクトされたスポットのすぐ上に位置することがわかった。したがって、この結果から、トランスフェクトされた細胞を、ハイグロマイシン耐性、G−418耐性、およびピューロマイシン耐性を含む安定形質転換体の確立に使用される一般的な選択可能なマーカーを用いて選択可能であることがわかった。別の方法では、β−ガラクトシダーゼの発現を誘導するCMV.βgalプラスミド(Angelottiら、Journal of Neuroscience 13:1418〜1428 (1993)に記載された手順で調製)をSTEPによるトランスフェクションで使用した。48時間のインキュベーション後に細胞を固定化してX−galで染色した(Sanesら、EMBO J. 5:3133〜3142 (1986)に記載)。顕微鏡写真では、像の左側のスポットと、DNAスポットの縁の両方の部分が認められた。β−ガラクトシダーゼの発現は、DNAスポットの領域内における細胞の暗青色の染色で示された。以上の結果から、β−ガラクトシダーゼによる染色などの細胞化学的染色法による酵素学的検出法も、STEPによるトランスフェクションの証明に使用できることがわかった。
【0223】
実施例6
タンパク質発現のSTEPによる免疫細胞化学的検出
タンパク質のインビボにおける機能を調べ、またトランス活性化アッセイ法においてタンパク質キナーゼなどのエフェクタータンパク質の効率を比較するためには、エフェクタータンパク質の発現を明らかにして定量することが必要である。このような方法の一つには、タンパク質を免疫細胞化学的に検出する段階が含まれる。この手法は、以下の実験からわかるように、STEPによるトランスフェクションで効率よく使用することができる。
【0224】
DNA複合体は、空のベクターDNAであるpCMV.Neo(Vector)か、またはcGMP依存性タンパク質キナーゼによるリン酸化の基質であるFlagタグの付いたVASPタンパク質(Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))をコードするpFlagVASP DNA(pFlagVASP)のいずれかを用いて形成した。この実験の目的では、pFlagVASPは、Flagエピトープタグを有するタンパク質の発現を誘導する発現ベクターとしてのみ作用する。STEPによるトランスフェクションの48時間に、細胞を固定化し、一次M2モノクローナル抗体で染色した後に、ローダミンを結合させたヤギ抗マウス二次抗体で染色した。細胞の明視野像では、DNAのスポットは、pFlagVASPとベクターの両スポットについて明瞭に描出された。同じ組のスポットは、蛍光照射、およびローダミン結合二次抗体を検出用のローダミンフィルターセットを用いた第二の像でも認められた。蛍光は、二つの像の比較によって判定されるように、pFlagVASP発現ベクターを含むスポット上の細胞でのみ検出された。STEPによってトランスフェクトしたpFlagVASPの発現が、スポットの周辺で最高であることも明らかとなった。これは、これらのスポットが最適湿度より低い湿度で生じたためである。したがって以上の結果から、Flagタグタンパク質の発現を、STEPによるトランスフェクション、M2モノクローナル一次抗体、およびローダミン結合二次抗体を用いることで、細胞内で特異的に検出できることがわかった。エピトープタグタンパク質のこのような検出は実施例8で実質的に使用されており、トランス活性化アッセイ法におけるタンパク質の発現が確立および定量されている。
【0225】
実施例7
テトラサイクリン誘導系を用いるトランス活性化アッセイ法
STEPによるトランスフェクションを修飾してタンパク質の誘導性の発現が可能か否かを判定するために、ブジャード(Bujard)らによって開発されたテトラサイクリン誘導系を使用した(Baronら、(2000) Proc Natl Acad Sci USA 96:1013〜1018)。このような実験では、STEPによるトランスフェクション後におけるHEK TetOn細胞内でドキシサイクリンによってEGFP発現が誘導されることが証明されている。
【0226】
二種のDNA複合体がこのような実験用に調製されており、一つはテトラサイクリン応答配列の制御下でEGFPの発現を誘導するpBi−EGFPプラスミド(Clontech)を含み、もう一つの複合体は強力なヒトサイトメガロウイルス初期プロモーターの制御下でEGFPを発現するpEGFP−C1プラスミドDNA(Clontech)を含む。これらの複合体の各スポットを、相互に隣接して2枚の異なる顕微鏡用スライド上に塗布し、HEK TetOn細胞を個別の10 cm培養ディッシュ中の各スライド上にプレーティングした。トランスフェクションの24時間に1枚のプレートをDMEMおよび10% FCS中でインキュベートし、もう1枚を10 mg/mlのドキシサイクリンを含む同じ培地中でインキュベートした。細胞をプレーティングしてから48時間後に蛍光顕微鏡写真を撮影した。1枚の顕微鏡写真から、ドキシサイクリンを使用しなかった対照プレートで蛍光が認められること、また2個のスポットが視認可能であり;左側のスポットはpBiEGFPで形成された複合体に対応し、右側のスポットはpEGFPで形成された複合体に対応していた。ドキシサイクリンの非存在下では、pBiEGFPスポット上の細胞は蛍光を発しなかったが、pEGFP−C1スポット上の細胞の約30%は蛍光を発した。もう1枚の顕微鏡写真では、ドキシサイクリンで処理したスライドに由来する細胞に蛍光が認められた。ドキシサイクリンで処理することで、pBi−EGFPスポット上の20%の細胞で検出可能なGFP発現が認められ、これは同じスライド上のpEGPP−C1スポットについてみられたGFP発現に匹敵していた。
【0227】
以上の結果から、GFPの発現が、テトラサイクリン類似体であるドキシサイクリンを用いることでHEK TetOn細胞内で誘導可能なことがわかった。この実験では、TetOn転写因子は、すべての細胞内で安定に発現されており、またレポータープラスミドpBI−EGFPは、スライドに塗布したSTEP複合体中に選択的に含まれていた。この結果から、ドキシサイクリンでGFPの蛍光が明瞭に誘導されることがわかった。
【0228】
実施例8
構成的に活性なcAMP依存性タンパク質キナーゼによる環状AMP応答性プロモーターのトランス活性化
インビボにおけるキナーゼ活性を測定する転写活性化アッセイ法(Hallら、J Biol Chem 274:3485〜95 (1999);Taylorら、J Biol Chem 275:28053〜62 (2000))は、STEPによるトランスフェクションに適合および改変されている。cAMP依存性タンパク質キナーゼの触媒(C)サブユニットは多くの研究者により、cAMP応答配列結合タンパク質(「CREB」)転写因子をリン酸化して、CREBが二量体として結合するcAMP応答配列(「CRE」)を含む遺伝子プロモーターからの転写を上昇させることが報告されている。標準的なCREヌクレオチド配列は、パリンドロームのヌクレオチド配列TGACGTCAからなる。CREB活性の上昇の検出用に設計されたレポータープラスミド(pCRE−d2EGFP、Clontech)は、CREエンハンサーを含み、EGFPの不安定化誘導体(d2EGFP)をコードすることが報告されている(Liら、J Biol Chem 273:34970〜5 (1998))。この不安定化誘導体は、EGFPの正常なタンパク質分解半減期を24時間から2時間に変化させるオルニチンカルボキシラーゼに由来するPEST配列を含む(Liら、J Biol Chem 273:34970〜5 (1998))。この不安定なEGFPを用いることで、長半減期のタンパク質に固有の問題なく、転写調節の定量性により優れた測定が可能となる。
【0229】
pCRE−d2EGFPをレポータープラスミドとして用いて、cAMP依存性タンパク質キナーゼの構成的に活性な触媒サブユニットの同時トランスフェクションが、pCRE−d2EGFPの転写を調節して、Cサブユニットベクターを使用しなかった対照細胞と比較して、蛍光を高める可能性があるか否かを判定した。以下に示す実験で、STEPアッセイ法におけるCRE含有発現ベクターの転写調節について説明する。トランスフェクション複合体は、pCMV.Neo(2 ng、Huggenvickら、Mol Endocrinol 5:921〜930 (1991)に記載された手順で調製)、およびpCRE−d2EGFP(18 ng)、またはcAMP依存性タンパク質キナーゼのCサブユニットをコードするpCMV.Ca(2 ng、Huggenvickら、Mol Endocrinol 5:921〜930 (1991)に記載された手順で調製)、およびpCRE−d2EGFP(18 ng)の混合物で形成させ、同複合体を、ポリリシンでコーティングした顕微鏡用スライドの表面に塗布した。HEK−293T細胞をプレーティングし、24時間後に蛍光顕微鏡写真を4倍の対物レンズを用いて明視野照射で、またはフルオレセインフィルターセットを用いた蛍光照射により撮影した。pCMV.Neoを含むスポットについて10倍の対物レンズを用いて得た蛍光像と、pCMV.Caを含む別のスポットの像、および個々の陽性細胞を同定することができた。これらの2枚の蛍光像をピクセル密度ヒストグラム解析で解析し、pCMV.Caを用いたSTEPによるトランスフェクションが、pCMV.Neoを用いたSTEPによるトランスフェクションと比較して蛍光強度が16〜20倍高いことが明らかとなった。
【0230】
以上の結果から、cAMP依存性タンパク質キナーゼの構成的に活性な触媒サブユニットの同時トランスフェクションがpCRE−d2EGFPの転写を実際に調節し、またCサブユニットベクターを使用しなかった対照細胞と比較して蛍光強度が高いことがわかった。pCRE−d2EGFP、および空のベクターpCMV.Neoを含むSTEPスポット上にプレーティングした細胞では平均蛍光強度が低い。しかしcAMP依存性タンパク質キナーゼのCサブユニットをコードするpCMV.Ca発現ベクター、ならびにpCRE−d2EGFPを含むSTEPスポットに細胞をプレーティングすると、高い平均蛍光を示すことがわかる。pCMV.CaとpCRE−d2EGFPがトランスフェクトされた細胞に由来する蛍光は、強力な構成的CMVプロモーターを含むpEGFP−C1についてみられる蛍光と同等である。明視野像の詳細な調査から同数の細胞が両DNAスポットに接着していることがわかる。マイクロコンピュータ画像処理装置(Microcomputer Imaging Device)(MCID)ソフトウェアを用いたGFP蛍光上昇の定量から、細胞の蛍光シグナルが16〜20倍上昇することが示唆されている。
【0231】
実施例9
STEPによるトランスフェクション検出目的の蛍光スライドスキャナーの使用
STEPによるトランスフェクションの効率のいくつかの局面について説明した既に説明した実施例の大半では蛍光顕微鏡が使用された。GFP陽性細胞は検出されなかったが、これは利用可能なスキャナーが、最適なGFP検出用の青色アルゴン励起レーザーを備えていなかったためである。しかしDsRed蛍光タンパク質は、遺伝子発現の定量目的でDNAアレイとのハイブリダイゼーションに広く使用されているCy3標識について良好に重複する、558 nmおよび583 nmの励起極大および放出極大を有する。
【0232】
STEPによってトランスフェクトされた細胞におけるDsRedの発現は、以下に紹介する実験で説明された自動走査型蛍光マイクロアレイアナライザーで検出された。DNA複合体を、pDsRed−C1発現ベクターを用いてSTEPによるトランスフェクション用に調製した。8個のDNAスポットが観察され、Cy5フィルターセット(ex 649 nm、em 670 nm)およびCy3フィルターセット(ex 550 nm、em 570 nm)の両方に対する蛍光強度が得られた。スポットの直径は約0.5〜1 mmである。スポットしたDNA複合体は、DNAに対するポリリシン、トランスフェリン、およびリポフェクタミン(登録商標)の重量の比に差があった。比はそれぞれ120 ngのDNAに対して200〜20 ngのポリリシン、800〜80 ngのトランスフェリン、また2000〜200 ngのリポフェクタミン(登録商標)であった。2個のDNAスポットのみが、効率のよいSTEPによる細胞のトランスフェクションを示し;両スポットが含むポリリシン、トランスフェリン、およびリポフェクタミン(登録商標)は、120 ngのDNAに対する比がそれぞれ200 ng、800 ng、および2000 ngと、100 ng、400 ng、および1000 ngであった。これらの細胞に由来する蛍光シグナルはCy3フィルターセットのみで観察された。スポットの一つの5倍の像をTIFFドキュメントで作製した。同スポットの蛍光顕微鏡写真および顕微鏡写真から、個々の蛍光細胞が識別可能であることがわかる。同じ蛍光細胞は、顕微鏡およびスライドスキャナーの両方で明瞭に検出された。
【0233】
以上の結果から、STEPによってトランスフェクトされた細胞が、DNAアレイ蛍光アナライザー、および蛍光顕微鏡で検出可能なことがわかる。個々の細胞から検出された蛍光はCy3フィルターセットに特異的であり、Cy5フィルターセット使用時には認められなかった。同じ細胞は、蛍光顕微鏡にローダミンフィルターセットを付けることで検出された。以上の結果は、STEPによってトランスフェクトされた細胞の定量が、STEP実験の高スループットのデータ解析用のマイクロアレイ蛍光解析に適用可能なことを示している。
【0234】
実施例10
STEPによってトランスフェクトされた細胞の自動アレイヤーによる作製
DNA複合体は、以下に挙げる実験で記載されているように、自動アレイヤーで複合体をスライドにスポットする際に問題なく用いられる。4×4グリッドの16スポットは、自動スポッティングステーション(Genomic Solutions Flexisys)を用いて作製された。乾燥後、HEK−293T細胞を顕微鏡用スライド上にプレーティングし、48時間後に蛍光顕微鏡写真を撮影した。この結果を図2に示す。パネル(A)では、フルオレセインフィルターセットを用いて40倍の倍率でEGFPの蛍光が検出された。パネル(B)では、ローダミンフィルターセットを用いて40倍の倍率でDsRedの蛍光が検出された。パネル(C)では、EGFP、およびいくぶん少ないDsRedの「通過放出(bleed through)」蛍光が、広帯域フルオレセインフィルターセットを用いて100倍の倍率で検出された。矢印は、微量のフルオレセインがDNA複合体中に含まれるために、かろうじて見えるDNAスポットの外周を示す。パネル(D)の図は、アレイヤーで作製されたDNAスポットの種類を示し、第一および第三の列の4個のスポットはpDsRed−C1プラスミドDNAを含み、また第二および第四の列の4個のスポットはpEGFP−C1を含む。
【0235】
以上の結果から、スポットの約90%が少なくとも1個の陽性細胞を示すこと、また50%が少なくとも5個またはそれ以上の陽性細胞を示すことがわかる。各スポットは、明視野像で調べたところ約25〜30個の細胞と接触していた。この実験における自動スポッターの使用には複数の重要なパラメータがある。第一に、スポッティング時の湿度は少なくとも70%とすべきである。さもないとスポッティングピンの先端の液体が、ガラス製スライドへ効率的に移される前に乾燥してしまう。第二に、同じスポットにDNA複合体を複数回塗布することで、トランスフェクション効率が有意に大きくなることがわかる。これはおそらく、DNA複合体の薄膜形成によるものである。第三に、固体ピンは一般に、トランスフェクトされた細胞の作製時において、スポットされたピンより効率的であり、また再現性に優れている。これはおそらくDNA複合体が、スロット下方への効率のよい液体移動を十分妨げるだけの粘性をもつためでである。
【0236】
実施例11
タンパク質機能の変異解析に応用されるSTEPによるトランスフェクション
STEPによるトランスフェクションおよび定量の最適化
STEPによるトランスフェクションは、タンパク質の構造および機能の研究に応用することができる。現在、多くのタンパク質構造研究では、推定ドメインの欠失、および欠失のインビトロにおける、また頻度は少ないもののインビボにおけるタンパク質機能の特性解析が行われている。典型的には、タンパク質のドメイン内で個々のアミノ酸が果たす役割は他のタンパク質との相同性から推定される。この実施例では、cGMP依存性タンパク質キナーゼ(PKG)のドメインにランダムに変異を誘発させ、「機能獲得」変異体について選択を行ってキナーゼの阻害領域を決定する。STEPにより、転写活性化アッセイ法で、インビボにおける変異による活性化に関して、1,000種の変異体の機能スクリーニングが可能となる。この実施例はまた、他の多くの構造/機能研究への応用に関するSTEP法の最適化の概略を示す。
【0237】
A.STEPによるトランスフェクションおよび定量の最適化
STEPによるトランスフェクションは数多くの応用に容易に最適化される。この実施例における実験では、最適化可能な重要領域が同定される。STEP法のこのような最適化では、トランスフェクションに関する分子機序について現在知られている知見が利用される。トランスフェクションは一般に三つの段階からなると考えられている(Ballyら、Adv Drug Deliv Rev 38:291〜315 (1999))。第一段階ではDNAがエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる。エンドサイトーシスによる侵入時にDNAは、液相中に存在するか、または細胞膜の表面に吸着されている可能性がある。STEPにトランスフェリンを組み入れると、DNAが、膜上のトランスフェリン受容体に吸着される可能性が大きくなり、またエンドサイトーシス粒子に侵入することになる。トランスフェクションの第二相では、ほとんどのリソソーム内容物にみられる通常のリソソーム分解からDNAが逃れる。またトランスフェリンは、リソソームとの融合を逃れる可能性がさらに高いエンドサイトーシス粒子亜集団へDNAを誘導する際に補助的に作用する可能性があり、またポリリシンは、リソソームヌクレアーゼからDNAを守るように作用する可能性がある。さらにトランスフェクションの最後の段階では、DNAが核へ輸送される(核内でDNAはRNAポリメラーゼにより転写されることになる)。以上各段階の効率は、DNA複合体の状態、およびトランスフェクトされる細胞の種類に大きく依存する。
【0238】
1.細胞周期が STEP によるトランスフェクションに及ぼす影響
DNA複合体上の全細胞について、ほぼ100%のトランスフェクション効率があることが好ましい。以下に挙げる方法は、トランスフェクション効率をさらに上昇させる。STEPによる最初の実験では、STEPによるトランスフェクション用にプレーティングされた細胞は好ましくは指数関数的成長相にあることが示された。これは、ピークのトランスフェクション効率が細胞周期のG2/M期の細胞で得られるという他の報告と矛盾しない(Mortimerら、Gene Ther 6:401〜411 (1999);Tsengら、Biochim Biophys Acta 1445:53〜64 (1999);Brunnerら、Gene Ther 7:401〜7 (2000))。以上の研究では、トランスフェクション効率は、細胞周期の過程で500倍も変化していた。したがってHEK−293T細胞は、さまざまな方法でG2/M期に濃縮されている。一つの方法では、遠心エルトリエーションにより、細胞が大きさを元に分画され、より大きなG2/M期の細胞に濃縮される(Brunnerら、Gene Ther 7:401〜7 (2000))。細胞のフラクションを採取して、STEPによるトランスフェクション実験のプレーティングに直接使用する。別の方法では、HEK−293T細胞をダブルチミジンブロック処理によって同調させて、細胞をG1期に同調させた後に、STEPによってトランスフェクトされた細胞に対し、第二のチミジンブロックを除去した後のさまざまな時間でプレーティングする(Tsengら、Biochim Biophys Acta 1445:53〜64 (1999))。さらに別の方法では、微小管を分解することでG2/M移行を妨げるノコダゾール(1 mg/ml)、またはDNAポリメラーゼを阻害して細胞をS期で停止させるアフィジコリン(5 mg/ml)のいずれかを使用する(Mortimerら、Gene Ther 6:401〜411 (1999))。このような細胞周期濃縮集団を次に、経時的にpEGFP−C1またはpDsRedC1を用いる、STEPによるトランスフェクション実験に使用して、実施例3および4に記載されたように発現を調べる。G2/M期で濃縮された細胞を用いると、トランスフェクション効率について、非同調的に成長している細胞と比較して4〜5倍の上昇が好ましくは認められる(Mortimerら、Gene Ther 6:401〜411 (1999))。HEK細胞およびNIH−3T3細胞の場合、この結果は80〜90%の細胞が、STEPによって常用的にトランスフェクトされることを意味する。
【0239】
2.トランスフェクション中の処理
トランスフェクション過程中に細胞を処理することでトランスフェクション効率を上昇させることが好ましい場合がある。このような処理にはエレクトロポレーションなどがある。エレクトロポレーションはトランスフェクション手法として広く使用されており、細胞膜を一時的に透過させてDNAの侵入を可能とする(Neumannら、Bioelectrochem Bioenerg 48:3〜16 (1999))。最も標準的な応用では、キュベット中でDNAと共存させることで細胞のエレクトロポレーションを行う。しかしプレートの電極は、細胞が表面(BTX/Genetronics)に接着している間にエレクトロポレーションに利用できるので、同手法は、ヒトの臍静脈細胞(HUVECS)を対象に、キュベット中におけるエレクトロポレーションに匹敵する効率でトランスフェクションを行う際に用いられている(Lewisら、Gene Ther 6:1617〜25 (1999))。HEK−293T細胞を、標準的なSTEPプロトコールでスライド上にプレーティングした後に、プレーティングの1時間、4時間、12時間、および24時間後の時点でエレクトロポレーションを行い、EGFP発現の促進を判定する。エレクトロポレーションの条件は基本的に文献で定義されている(Lewisら、Gene Ther 6:1617〜25 (1999))が、最適値として報告されているパルス幅や電圧などのパラメータはさまざまなである(450Vおよび20ミリ秒)。陽性細胞は蛍光顕微鏡で細胞数を数えることで同定され、トランスフェクションの効率は明視野で細胞数を数えることで決定される。
【0240】
トランスフェクション効率はまた、リソソーム内におけるDNAの分解を妨げることで上昇する。一つの方法では、リソソームに侵入してリソソームの酸性化を妨げることで酵素の分解活性を低下させるクロロキン二リン酸が使用される。クロロキンを最終濃度が100 mMとなるように培地に添加し、細胞を0.5〜4時間プレーティングする。別の方法では、トランスフェクション効率を10倍上昇させることが過去に報告されているヌクレアーゼ阻害剤DMI−2が使用される(Rossら、Gene Ther 5:1244〜50 (1998))。DMI−2は、ストレプトマイセスのポリケチド代謝物であり、使用するにはDMI−2の精製が必要であり、この手順は簡単で約3日を要する(Nagaoら、J Enzyme Inhib 10:115〜24 (1996))。化合物の純度は質量分析で決定され、推定分子量は854 Daである。250〜750 ng/mlのDMI−2濃度においてトランスフェクションが10倍促進されることが認められており、これはロス(Ross)ら、Gene Ther 5:1244〜50 (1998)に報告されている結果と矛盾しない。
【0241】
3.細胞の種類
STEPによるトランスフェクションは、極めて多様な細胞系列に応用するために最適化される。各細胞系列は、タンパク質を発現させるさまざまな環境を意味し、さまざまな細胞種を比較することで、STEP実験から極めて多くの情報が得られる。
【0242】
STEPによるトランスフェクション効率の定量においては、効率は、蛍光による検出が可能な塗布したDNAに対する総細胞数に対するパーセンテージとして定義される。HEK−293T、HEK−293、およびNIH−3T3の各細胞は30%以上のトランスフェクション効率をほぼ常に示す。COS−1、COS−7、およびCV−1の各細胞のトランスフェクション効率は約1〜5%であることが報告されている。検討対象の他の細胞系列(C6グリオーマ、N1E−115、NG−108、C361、およびSH−SY5Y神経芽腫の各細胞)では1%未満であることが報告されている。STEPによるトランスフェクションは、高い効率を当初示したHEK−293T細胞について最適化されている。一般に最適化には、スポットの2次元アレイが使用される。このスポットにおけるDNA複合体の成分の濃度の種類がアレイの一つの次元とともに変動する。したがって典型的な実験の場合。発現ベクターDNAおよび陽イオン性脂質の濃度がそれぞれ100倍異なるがトランスフェリンおよびポリリシンの濃度は一定である100個のスポットアレイが作製される。このようなグリッドは手動でスポット可能であり、各スポットの直径は約1〜2 mmであるので、細胞のプレーティング後に各スポットにつき200〜400個の細胞しか得られない。このような手順では、効率の低い細胞系列の多くについて、トランスフェクションの効率は0.01〜1%の範囲にあるが、上記の手順では検出できないと考えられている。トランスフェクション効率が検出可能な場合、さまざまな成分のプレインキュベーション時間などのパラメータを変化させたり、細胞密度を変化させたりすることでトランスフェクションを最適化することができる。
【0243】
細胞系列は、実施例1に記載されたプロトコールを一部変更することで、高効率のSTEPによるトランスフェクションがスクリーニングされる。細胞系列には、上述の細胞系列、ならびにCHO、HeLa、MCF−7、A431、BHK、およびAtT−20の各細胞を含む他の細胞種などがあるがこれらに限定されない。このようなアッセイ法では、大容量のDNA複合体溶液を添加することでDNAスポット領域の直径を1〜2 cmとし、10,000個の細胞が各DNAスポット上にプレーティングされる。このため0.01%〜1%の範囲の高感度によるトランスフェクション効率の決定が可能となる。HEK−293T細胞の場合、複合体形成時のDNA、陽イオン性タンパク質、陽イオン性脂質、およびトランスフェリンの比は最適化されている。類似の最適化は他の細胞系列を対象に実施される。HEK−293細胞に関して決定された最適条件は、最初に低いトランスフェクション効率が観察される系列(COS−1、COS−7、およびCV−1)を含む他の細胞系列のスクリーニングを行う出発点として使用される。
【0244】
4.STEP によるトランスフェクションのための細胞成分の遺伝的選択
最終的には、遺伝的選択により、STEPによるトランスフェクションによるトランスフェクション効率が高いクローニングされた細胞が選択される。例えばHEK−293T、NIH−3T3、CV−1、およびCHOの各細胞を、ハイグロマイシン存在下で安定にトランスフェクトされた細胞の選択を可能とする発現ベクターpTK−Hygを含むDNAスポット上にプレーティングする。安定な細胞はSTEPによるトランスフェクションにより、またハイグロマイシンによる処理により選択されている(既に記載された例を参照)。トランスフェクションおよび選択の過程は、STEPによるトランスフェクションに対して、親細胞集団と比べてよりコンピテントな細胞の亜集団を濃縮すると考えられている。STEP複合体中にトランスフェリンを含める前に、高い効率でトランスフェクトするG418選択でCOS−1細胞が単離されたが;このような効率の促進は持続せず、5〜10回の継代培養で速やかに失われた。
【0245】
実験の第二のセットでは、構成的に発現されるDsRedコンストラクトおよびpCRE−d2EGFPプラスミドで安定にトランスフェクトされた細胞が作製される。このようなトランスフェクションにより、中程度のレベルのDsRedが発現し、また基礎状態におけるd2EGFPの発現がほとんど検出されない細胞系列が単離される。このような細胞は、CRE−EGFPレポーターの誘導のかなり大きな感度を提供する可能性があり、DsRedの最大波長における蛍光に対する、EGFPの最大波長における蛍光の比を使用することができる。このような細胞はレシオメトリック応答細胞(RRC)と呼ばれているが、STEPによってトランスフェクトされた細胞で観察される蛍光強度を変化させる場合がある細胞の形態にみられる差を規格化する。RRCを用いることで、CRE−d2EGFPプラスミドを安定に発現する細胞のPKAのCサブユニットを用いる第二のトランスフェクションに対する感受性、または反応のダイナミックレンジの範囲の程度が決定される。RRCで得られた結果は、レポーター(pCRE−d2EGFP)とCサブユニット発現ベクターの両方が一過的にトランスフェクトされる発現実験(実施例8に記載)と比較される。RRC細胞系列は、以下のB節に記載されているように蛍光誘導の定量に使用されている。
【0246】
5.検出効率の GFP を越える上昇
GFP、スペクトル特性が変化したGFP変異体、および他の蛍光タンパク質は、遺伝子発現および細胞内局在が関与する多くの実験法を大きく変えてきた(Tsien、R.Y.、Annu Rev Biochem 67:509〜44 (1998))。しかし細胞レベルでは、これらの蛍光タンパク質は、検出効率がそれほどよくない。これは細胞内で検出されるためにはほぼマイクロモルレベルが必要であるからである。細胞を破壊する必要があるレポーター分子(ルシフェラーゼなど)は一般に、インビボにおけるGFP発現の検出に必要なレベルと比べて10〜100倍低い発現レベルでインビトロで検出することができる。多くの細胞は、蛍光タンパク質の検出によって検出されるよりも、STEP法の実施中にトランスフェクトされると考えられている。したがってSTEPによるトランスフェクションに使用される別のレポーター系が以下のように開発されている。
【0247】
最近ツィエン(Tsien)らは、大腸菌のβ−ラクタマーゼ酵素をレポーターとして用いる新しいレポーター発現・検出系について報告している(Zlokamikら、Science 279:84〜8 (1998))。この系の新しい側面は、β−ラクタマーゼの新しい基質分子でCCF2/AMと命名された、細胞透過性のアセトキシメチル(AM)エステルが関与する酵素検出の機構にある。AM基が細胞内に入ると細胞のエステラーゼによって切断されて、CCF2分子は細胞内で高濃度で捕捉される。CCF2そのものは、極めて近接して存在して相互作用して蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を受けて緑色(520 nm)に発光する二つの蛍光部分(7−ヒドロキシクマリンドナーの蛍光およびフルオレセインアクセプターの蛍光)を有する。しかしCCF−2がβ−ラクタマーゼで切断されると、FRETは起こらなくなり、7−ヒドロキシクマリン蛍光部からの蛍光放出は青色波長(447 nm)内になる。CCF/AMを用いるβ−ラクタマーゼの検出は、細胞ベースで、分子上の緑色蛍光タンパク質の検出と比べて感度が1,000倍が高いことが報告されている。またβ−ラクタマーゼタンパク質の半減期は約3時間なので、遺伝子転写の変化に対する感度は、GFP(半減期24時間)より高くなる。
【0248】
したがって細胞はSTEPによってCMV−β−ラクタマーゼ発現ベクター(Aurora Biosciences)でトランスフェクトされ、24時間後または48時間後の時点で室温でCCF2/AM(Aurora Biosciences)とともにインキュベートされる。蛍光の決定には蛍光顕微鏡(励起波長は409 nm)が使用され、また447 nm(産物)における比が520 nm(基質)における放出と比較されてβ−ラクタマーゼ発現量が決定される。ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、または他の試薬により細胞を固定化すると、固定化された細胞内におけるCCF2蛍光の定量的決定が改善される場合があるので、CCF2の切断は、DNAマイクロアレイのスライドスキャナーと併せて使用することができる。β−ラクタマーゼの感度が、上の実施例に記載されたGFPレポーターを有意に上回ることを示す条件、およびCCF2の定量が蛍光スキャナーに適合される条件が、高感度が必要に応じて用いられる。
【0249】
6.PKA によるレポーター蛍光誘導の定量
STEPの定量的側面は以下のように開発されている。画像解析プログラムは、cAMP依存性タンパク質キナーゼのCサブユニット、およびcGMP依存性タンパク質キナーゼ(PKG)の構成的に活性な状態を用いるトランス活性化アッセイ法の、マイクロコンピュータ画像処理装置(MCID)およびNIH画像解析の応用を用いる特性決定に使用されている。これらのプログラムに由来するピクセル密度ヒストグラム解析を用いると、STEPによるDNAスポットに対する蛍光強度は、構成的に活性なキナーゼをCRE−d2EGFPレポータープラスミドとともに含めることで16〜20倍高くなる。二種の異なる構成的に活性なキナーゼが、このような実験に使用されている。一つはPKAのCサブユニット(Gammら、J Biol Chem 271:15736〜42 (1996))であり、もう一つはPKGのcGKIbS79D変異体(Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))である。大量のレポーター発現ベクター(総DNAの90〜95%)が、Cサブユニット発現ベクターによる有意な誘導に必要とされる場合がある(前述の実施例を参照)
【0250】
STEPによるトランスフェクションによる転写反応は、さまざまな量のCサブユニット発現ベクター(総DNAの0.1%〜5%)を含むトランスフェクション実験で特性解析が行われている。Cサブユニット発現ベクター量の上昇に対する反応の直線性は、細胞の蛍光の上昇を密度ヒストグラム解析で定量することで決定される。STEPによるトランスフェクションで得られるシグナルの定量は、DNAアレイハイブリダイゼーション実験における定量とは有意に異なる。これは、STEPスポット領域の極めてわずかな部分だけが蛍光シグナルを発するためである。STEPスポットの解析では、密度ヒストグラムが、比較対象の二つのDNAスポット中のすべてのピクセルについて作製される。これらのヒストグラムを比較し、最高強度を示したピクセルの2%を個々の像から選択して定量に用いる。Cサブユニット発現ベクターではほぼ直線的な上昇がみられ、高濃度における低下はおそらく、Cサブユニットによって特異的に誘導される細胞形態変化によるものである(Huggenvikら、Mol Endocrinol 5:921〜30 (1991);Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))。同じ解析を、Cサブユニット欠損型のキナーゼについても行うことで、この作用がCサブユニットのキナーゼ活性によるものであることが確認されている(Brownら、J Biol Chem 265:13181〜13189 (1990))。RRCを上述のように作製すると、同じ解析が、Cサブユニット発現ベクターのみを用いて、また発現の内部標準としてDsRedによる蛍光を用いるレシオメトリック画像処理(ratiometric imaging)で実施される。
【0251】
B.cGMP依存性タンパク質キナーゼの阻害ドメインは変異発現ライブラリーをスクリーニングするSTEPによるトランスフェクションで同定される
このような実験は、タンパク質の構造および機能に関する研究へのSTEPの応用である。現在、多数の研究では、機能ドメインを決定するためにタンパク質の単純な欠失解析が用いられており、対象ドメインと既知タンパク質との間における相同性を利用して、内部のどのアミノ酸が機能上重要であるかという予測が行われている。STEPによるトランスフェクションおよび解析を行うことで、タンパク質の構造および機能に関する、より広範囲に及ぶ変異解析が可能となる。
【0252】
cGMP依存性タンパク質キナーゼ(PKG)を、変異誘発、およびSTEPによる機能スクリーニングの例示的標的として選択する。このタンパク質は特に有用な標的である。というのはcAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)に対して、同タンパク質の構造に関する知見が不足しているからである。以下のパラグラフでは、PKAおよびPKGのバックグラウンドを簡潔に説明する。
【0253】
7回膜貫通型受容体に対する多数のリガンド(例えばエピネフリン)は、標的細胞内でcAMPの細胞内濃度を上昇させることで転写を変化させる。cAMPによる作用にはcAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)が関与する。cAMPは、活性触媒(C)サブユニットを放出させて細胞タンパク質をリン酸化する可能性のあるPKAの調節(R)サブユニットに結合する。PKAのRサブユニットとCサブユニット間の相互作用について、またcAMP結合がRサブユニットの阻害作用を緩和する機構については多くの知見が得られている(Taylorら、Pharmacol Ther 82:133〜41 (1999))。
【0254】
cAMPによって調節される多くの遺伝子には、転写誘導に関与するパリンドロームのヌクレオチド配列(TGACGTCA)が含まれ、これは環状AMP応答配列(CRE)として知られている。CRE結合タンパク質(CRE)は二量体としてCREに結合して、CサブユニットによってSer133がリン酸化された場合にのみ転写調節に関与する。この経路は多くの細胞種で詳しく調べられている(Shaywitzら、Annu Rev Biochem 68:821〜61 (1999)。
【0255】
心房性ナトリウム利尿ペプチドおよび一酸化窒素はcAMPレベルを変化させないが、平滑筋細胞およびニューロンにおけるcGMPレベルを上昇させる。cGMPの細胞性作用の大半には、cAMP依存性タンパク質キナーゼに構造および機能が似た(ただしキナーゼの触媒成分が同じポリペプチド鎖の一部として調節成分と実際に融合していることを除く)cGMP依存性タンパク質キナーゼ(PKG)が関与する。PKAのRサブユニットとCサブユニット間の相互作用については多くのことがわかっているが、PKGの調節ドメインと触媒ドメイン間の相互作用についてはほとんどわかっていない。しかしcGMPがPKGに結合すると、CREBを含むタンパク質をリン酸化して、PKAと類似の(しかし質的には異なる)様式で遺伝子転写の変化に関与することが可能となる(Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))。
【0256】
この実施例に挙げる実験では、PKGの調節ドメインの阻害領域について説明する。この情報は、PKGに対する特異的な阻害剤(PKAは阻害しない)の設計にも有用である。FlagタグのついたマウスcGMP依存性タンパク質キナーゼ(Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))をコードするpCMV.Flag−cGKIb発現ベクターに、文献に記載された亜硝酸ナトリウムとギ酸による処理を組み合わせることで変異を導入する(Orellanaら、Proc Natl Acad Sci USA 89:4726〜30 (1992))。変異誘発に続いて同DNAを、アミノ末端の調節ドメインと環状ヌクレオチド結合ドメイン間の移行を意味する、開始コドンおよびTyr135に対するコドンに対するプライマーを用いる増幅のテンプレートとして用いる。PCR増幅断片を、BglII/NheIで切断したpCMV.cGKIbにサブクローニングし、得られたプラスミドをスクリーニング対象の変異ライブラリーとして用いる。ライブラリーのスクリーニングを実施する前に、12個のクローンを無作為に選択して、ライブラリー中の変異発生頻度を決定するための配列決定用とする。変異誘発法の過去に行われた特性解析では、平均して約2〜3ヌクレオチドの置換が個々の変異クローンに認められている。変異体の約5〜10%はナンセンス変異を含み、このようなプラスミドは、機能性キナーゼを発現しない。というのは、触媒ドメインのコード領域の手前で翻訳が終了してしまうからである。クローンの約80〜90%はミスセンス変異を含む。自己阻害ドメインを構成しているのはおそらく15残基であるので、クローンの総数の4〜5%は構成的なキナーゼの活性化を示す。1,000クローンのプールをSTEPによるトランスフェクションでスクリーニングすると、構成的キナーゼ活性を有する約40〜50の各変異体が得られる。構成的活性化を示すクローンに関しては、変異の位置は、変異が生じた領域の配列決定、および標準的なキナーゼ活性測定、およびインビボにおけるルシフェラーゼアッセイ法による変異体の構成的活性化の検証により決定される。
【0257】
STEPによるトランスフェクションを用いる変異体ライブラリーのスクリーニング過程では、STEPプロトコールを、高スループットのプラスミドDNA精製に関して最適化する。96ウェルのフォーマットを用いて、キアウェル96ウルトラプラスミドキット(QIAwell 96 Ultra Plasmid Kit)(Qiagen)を用いて、トランスフェクション用の変異体クローンからプラスミドDNAを単離する。プラスミドDNAはUV吸収を調べて定量し、顕微鏡用スライド上のSTEPスポットの作製に使用する。STEPによるトランスフェクションおよびEGFPによる蛍光定量用の正負の対照とともに、全1000個の変異体発現ベクターをスポットする。A節に記した実験結果に基づき、変異体ベクターをpCRE−EGFPC1レポーターベクターとスポッティング前に混合するか、またはpCRE−EGFPC1コンストラクトを安定に発現するRRCを使用する(RRCについては実施例11のA4で詳述する)。pCMV.Neo親発現ベクター、およびキナーゼ欠損型変異体(mCGKIbK404R;Collinsら、J Biol Chem 274:8391〜404 (1999))をコードする発現ベクターをスクリーニングの負の対照として使用する。構成的に活性な変異体mCGKIbS79Dをコードする発現ベクター、およびcAMP依存性タンパク質キナーゼのCサブユニットの発現ベクターは正の対照となる。
【0258】
pCRE−d2EGPPC1を用いてSTEPによるトランスフェクションにmCGKIbS79Dについて得られた予備的な結果では、構成的に活性な変異体でEGFPによる蛍光の16〜20倍の誘導が認められている。他の変異体は、それほど大きな活性化を示さない可能性があるが、他の複数の変異体は類似の作用を示す。
【0259】
実施例12
効率のよいアンチセンスオリゴヌクレオチドの開発におけるSTEPの使用
アンチセンス法を用いた遺伝子発現の下方制御には、基礎研究から臨床治療までさまざまな応用がある。この手法では、臨床的承認薬の輸送を含む複数の注目すべき成功例がある(Nemunaitisら、J Clin Oncol 17:3586〜95 (1999);Yuenら、Clin Cancer Res 5:3357〜63 (1999))。しかし効率のよいアンチセンス配列の同定が困難なために広く使用されるには至っていない。アンチセンスオリゴヌクレオチドの作用機序は多くの例で不明である(Crooke、Biochim Biophys Acta 1489:31〜44 (1999))が、RNA/DNA二重鎖の分解におけるRNaseHの作用は、多くの有効なアンチセンスオリゴヌクレオチドと結びつけられている。複数の例で、mRNA上の5’キャップ形成の阻害、および翻訳停止を含む別の機構が存在することを示す証拠が得られている(Bakerら、Biochim Biophys Acta 1489:3〜18 (1999))。
【0260】
有効なアンチセンスオリゴヌクレオチド配列のスクリーニングの迅速かつ効率のよい手段は、生物医学研究において応用性が広いと考えられる。このようなスクリーニング法では、任意の特定の対象遺伝子に対するアンチセンス試薬を開発して、他の阻害剤が利用できないタンパク質レベルの下方制御を可能とすると考えられる。STEPによるトランスフェクションでは、オリゴヌクレオチド合成の最近の進歩を考えれば、タンパク質レベルの下方制御の有効性に関する数千のアンチセンス配列のスクリーニングが可能となる(Lipshutzら、Nat Genet 21:20〜4 (1999))。
【0261】
アンチセンスオリゴヌクレオチドのランダムな配列をSTEPフォーマットでスクリーニングして、特定の過程と干渉可能する配列を決定する。例えばアデニル酸シクラーゼ、cAMP依存性タンパク質キナーゼの触媒サブユニット、およびCREBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドはいずれも、βアドレナリン受容体に作用するイソプロテレノールに反応してみられるCRE−EGFPレポーターの上昇と干渉する可能性がある。したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドのランダムライブラリーは、STEPによるトランスフェクションによって細胞内に効率的に導入され、またイソプロテレノールによる蛍光誘導と干渉する配列は、PKAおよびCREBの触媒サブユニットであるアデニル酸シクラーゼに相補的な配列を含む。任意の対象調節経路に対して微視的に検出可能な読み値が利用できる限りは、このような手法は、シグナル伝達カスケード、または他の任意の細胞経路の新成分の同定に使用することができる。
【0262】
この実施例では、STEPによるトランスフェクション法を、詳しく特性が解析された対照タンパク質、および発現のアンチセンス阻害に関する新しいアッセイ法を用いる、固定化された複合体から細胞内へのオリゴヌクレオチドの侵入に対して最適化する。STEPによりオリゴヌクレオチド効率を最適化することで、過去にアンチセンス試薬が用いられていない標的タンパク質キナーゼの産生を阻害するオリゴヌクレオチド配列が同定される。
【0263】
A.アンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞内輸送に対するSTEPによるトランスフェクションの最適化
アンチセンスの治療分野における応用の成功が多数報告されているが、極めて厳密に検討された応用は、臨床試験段階に対するものである。ISIS3521は、卵巣癌を始めとする癌の患者の臨床アウトカムに対して有意に陽性の作用を示したタンパク質キナーゼCの配列に基づくホスホロチオエートのアンチセンスオリゴヌクレオチド薬剤である(Nemunaitisら、J Clin Oncol 17:3586〜95 (1999);Yuenら、Clin Cancer Res 5:3357〜63 (1999))。この節では、ヒトのPKCαおよびPKCα−EGFP融合タンパク質の標的配列に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、PKCαタンパク質レベルのSTEPによる阻害の最適条件を見つける。
【0264】
指標となる細胞系列を最初に構築する。このような細胞系列は、PKCα−EGFP融合タンパク質、ならびにDsRed蛍光タンパク質を発現する。ヒトのPKCα−EGFP発現ベクターは購入可能である(Clontech)。レポーター細胞系列の作製は、pPKCα−EGFPプラスミドをHEK−293T細胞内にトランスフェクトして、pPKCα−EGFPベクターに含まれるG418耐性遺伝子およびネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を選択して、安定に発現するクローンを作ることで行う。高レベル、中レベル、および低レベルのPKCα−EGFPタンパク質を発現する複数の安定な細胞系列を選択し;次に、pDsRedC1発現ベクターと、ハイグロマイシン耐性をコードするpTK−Hyg発現ベクターの混合物(モル比で10:1)により二次的なトランスフェクションを行う。このようにして、PKCα−EGFPおよびDsRedの両方の発現の規模が異なるpTK−Hygプラスミドが得られる。極めて高レベルのPKCα−EGFPを発現する細胞系列は、蛍光の有意な低下を示さないが、アンチセンス実験では極めて大きな再現性のある結果を示す。
【0265】
以上の細胞系列を用いて、対照となるアンチセンスPKCαホスホロチオエートオリゴヌクレオチド
が、STEP複合体中に含まれ、PKCα−EGFP融合タンパク質の発現を低下させる条件を決定する。オリゴヌクレオチドの有効性を最初に、標準的なアンチセンス輸送法(Deanら、J Biol Chem 269:16416〜24 (1994))で確認し、正常HEK−293T細胞を含む60 mmのディッシュを処理した後に、PKCαタンパク質レベルのウエスタンブロット解析を行う。PKCα抗体は、この目的用のものが市販されている(Upstate Biotechnology, Inc)。PKCαアンチセンスオリゴヌクレオチドの有効性を確認した後に、トランスフェクション効率を変化させる因子の同じ2次元アレイ解析を、プラスミドDNAのトランスフェクションについて使用されたように行う(「予備的結果」および「具体的な目的1A」を参照。基本的には、DNA複合体に含まれる陽イオン性脂質およびタンパク質の種類は、さまざまなDNA複合体成分の比と同様に変動する。圧力の上昇は、STEPによるアンチセンスオリゴヌクレオチドの作用を高める。これは、圧力処理がオリゴデオキシヌクレオチドの取り込みを高めるという過去になされた報告に類似している(Mannら、Proc Natl Acad Sci USA 96:6411〜6 (1999))。高い圧力を加えるために、シールされたピストンおよび圧力ゲージを備えた小さなプレキシガラス製チャンバーを作製する。チャンバーは事前に37℃に加温し、5% CO2を満たしておく。各10 cmの組織培養プレートを1〜3気圧で1〜10分間処理し、STEPによるトランスフェクションの効率に及ぼす作用を上述の手順で決定する。
【0266】
最適なSTEP複合体形成の条件は一般にプラスミドDNAに関する条件と同等である。
【0267】
B.血清およびグルココルチコイド調節型キナーゼに有効なアンチセンスオリゴヌクレオチドをSTEPにより開発する
アンチセンスオリゴヌクレオチドを生きている細胞に導入する手順は、A節に記載されたように最適化される。アンチセンスオリゴヌクレオチドが発現を下方制御する能力について実際にスクリーニングを行う上でのSTEPの有用性は、アンチセンスの下方制御の新しい標的を用いることで示される。
【0268】
血清およびグルココルチコイドによって誘導されるタンパク質キナーゼ(SGK)は当初、グルココルチコイドに反応して誘導されるmRNAを同定するためのディファレンシャルスクリーニングで同定された(Websterら、Mol Cell Biol 13:2031〜40 (1993))。グルココルチコイド、または血清による刺激により、SGKのmRNAおよびタンパク質の両方が10倍上昇する。タンパク質キナーゼのなかでも、SGKはAkt/PKBに対して最も相同性が高い(触媒ドメインについて54%のアミノ酸相同性がある)。SGKの3種の異なるイソ型は広く発現されており(Kobayashiら、Biochem J344 Pt 1:189〜97 (1999))、またいずれも、複数の成長因子および細胞刺激に反応するホスホイノシチド依存性タンパク質キナーゼ−1(PDK−1)によって活性化される。多くの細胞刺激もSGKの発現を誘導し、誘導が極めて迅速なことからSGKは極初期遺伝子に分類されている。SGKは、このように分類される唯一のセリン/スレオニンキナーゼである(Buseら、J Biol Chem 274:7253〜63 (1999))。しかし、このタンパク質キナーゼの生理的基質は不明であり、SGKキナーゼ活性に特異的な阻害剤に関する報告はこれまでない。
【0269】
SGKは、アンチセンスによる下方制御の理想的な標的となる特性を有する。第一に、有効なアンチセンスオリゴヌクレオチドであればSGKの下流の作用の特性解析、および基質タンパク質の同定に極めて有用であると考えられる。第二に、同タンパク質の半減期が短いために、アンチセンスオリゴヌクレオチドの理想的な標的となる。というのは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、タンパク質分解の半減期が短いタンパク質をコードするmRNAに対して最も有効なためである(Bakerら、Biochim Biophys Acta 1489:3〜18 (1999))。最後に、SGKのイソ型を識別して、イソ型特異的な機能を同定することが可能なアンチセンスオリゴヌクレオチドを開発することができると考えられる。
【0270】
アンチセンスオリゴヌクレオチドをスクリーニングするために、SGK1/EGFP融合タンパク質をコードする発現ベクターを「具体的な目的2A」で使用されたPKCα/EGFP発現ベクターと同様の方法で作製する。マウスのSGK1のcDNAは、ロイベニー(Eiten Reuveny)博士の研究室(Weizmann Institute in Rehovot、Israel)から得られるほか、発表済みのマウスSGK1配列(ゲンバンクアクセッション番号AF205855)をPCRで増幅する方法で得られる。コードされたSGK1/EGFP融合タンパク質の半減期は、HEK−293T細胞へのベクターの従来の一過的なトランスフェクション、またこれに続く血清処理によるSGK誘導後に、シクロヘキシミドで処理してタンパク質の翻訳を阻害することで決定される。細胞抽出物は、シクロヘキシミドで処理してから0分、30分、60分、120分、および240分後に調製し、同抽出物を、EGFPに対する抗体を用いるウエスタンブロット解析で解析する。各時点で残存するタンパク質の量を決定し、タンパク質の半減期を計算する。融合タンパク質の半減期は約20〜30分であり、SGKの半減期とほぼ同じである。複数の状況で、EGFP融合はタンパク質を安定化させる。このような条件では、第二の発現ベクターを、不安定化されたd2EGFPコード領域に融合させたSGKを用いて作製し(Liら、J Biol Chem 273:34970〜5 (1998))、不安定コンストラクトの半減期を決定する。PKCα−EGFPレポーター細胞系列について既に記載したように、SGK1−EGFP融合タンパク質、ならびに内部標準となるDsRed蛍光タンパク質を発現する安定な細胞系列を作製することで、レシオメトリック画像処理により蛍光スキャニングの感度を高めることができる。
【0271】
本来、SGK1 mRNAに対する10種の異なるオリゴヌクレオチド配列を、ヘアピン構造を作る特性がないこと、またSGK1 mRNAのハイブリッドが安定であると推定されることを元に選択する。オリゴヌクレオチドの長さは、塩基組成に応じて18〜24ヌクレオチドを変動する。発明者らによる、マウスSGK mRNA 配列に関するこれまでの解析に基づき、以下のヌクレオチド配列が第一の10オリゴヌクレオチドの合成の標的とされる:23〜43(21−mer);38〜60(23−mer);275〜298(24−mer);366〜389(24−mer);826〜849(24−mer);1252〜1270(19−mer);1626〜1647(22−mer);1690〜1709(20−mer);1859〜1880(22−mer);および2243〜2266(24−mer)。最初の二つのオリゴヌクレオチド、および最後の四つのオリゴヌクレオチドは、SGK1、SGK2、およびSGK3のmRNAでほとんど保存されていない5’非翻訳領域および3’非翻訳領域の標的となる(Kobayashiら、Biochem J344 Pt 1:189〜97 (1999))。これらのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、多くの例で有効な場合があることがわかっている単純なホスホロチオエート結合を有する。
【0272】
上述したように、オリゴヌクレオチドは、A節に記載したようにPKCα−EGFP融合タンパク質を下方制御することがわかっている陽イオン性脂質、陽イオン性タンパク質、およびトランスフェリンと最適な濃度で複合体を形成させる。このようなパラメータのわずかな変化が、さまざまなmRNAに対するさまざまなオリゴヌクレオチドに最適となるので;STEPによるトランスフェクションはSGK1 mRNAに最適化される。ある条件は、上記オリゴヌクレオチドの一種が、SGK1−EGFPの蛍光シグナルを有意に低下させる(90%を上回る低下)こと示すように決定され;このような条件は次に後述する実験で用いられて、天然のSGK1 mRNAを下方制御するオリゴヌクレオチドの有効性が確立される。SGK1−EGFPレポーターを一種のヌクレオチドで下方制御する条件が容易に決定されない場合は、オリゴヌクレオチドのプールを対象に個々のヌクレオチドに対する有効性を調べる。別の10種のアンチセンスオリゴヌクレオチド配列の第二のセットは、第一の10の組み合わせが有効であることが容易にわからない場合に標的とされる。第二のセットのオリゴヌクレオチドは、mRNAの他の領域を標的とし、オリゴヌクレオチドに対する別の修飾(自己安定化など)を含む可能性がある(Agrawal、S.、Biochim Biophys Acta 1489:53〜68 (1999))。
【0273】
有効なアンチセンスオリゴヌクレオチド配列が決定されると、オリゴヌクレオチドによる内因性SGK1 mRNAの下方制御の有効性が決定される。この目的では、SGK1の反応を調べるモデル系として最近開発されたNMuMg非形質転換マウス乳腺上皮細胞が使用される(Bellら、J Biol Chem 275:25262〜72 (2000))。NMuMg細胞を、対照プレート上に、またはSGK1アンチセンスオリゴヌクレオチドとSTEP複合体を形成するように処理されたプレート上にプレーティングする。プレーティング後に、0.3 Mのソルビトールで細胞に3分間のショックを加えて、SGK1のmRNAおよびタンパク質レベルを誘導する(Bellら、J Biol Chem 275:25262〜72 (2000))。シクロヘキシミドの存在下におけるSGKレベルの誘導、およびSGK1タンパク質分解の時間経過は、SGK1タンパク質に対する抗体(Upstate Biotechnology)を用いるウエスタンブロッティングで決定する。PKCαに対するアンチセンスヌクレオチドは同実験で負の対照となる。STEP沈殿物上にプレーティングされた細胞は、シクロヘキシミド処理によりSGK1タンパク質誘導の低下、およびタンパク質の半減期の短縮を示す。
【0274】
SGK1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが、NMuMg細胞内でSGK1タンパク質を下方制御するという証拠を得るのが困難な場合、NMuMg細胞をトランスフェクトして、SGK1−EGFP融合タンパク質を発現する安定な細胞系列を単離して、SGK1アンチセンスオリゴヌクレオチドによるアンチセンス処理の最適条件を決定する。NMuMg細胞は、中程度の効率でトランスフェクトされる(Bellら、J Biol Chem 275:25262〜72 (2000))。有効なSGK1アンチセンスオリゴヌクレオチドを同定することで、NMuMg細胞ならびに他の細胞系列においてSGK1が果たす役割の特性を決定するさらなる調査に使用できる。
【0275】
実施例13
STEPによるcDNA発現ライブラリーの機能スクリーニングの条件
この実施例では、STEPによるトランスフェクションを、高スループットスケールにおけるタンパク質の機能スクリーニングに応用する。タンパク質キナーゼおよび転写の調節に由来する例示的な結果から、STEPを用いたタンパク質の高スループットの機能スクリーニングが多種多様な研究領域に適していることがわかる。別の例として、STEPがシグナル伝達経路成分の大規模スクリーニングに有効に使用されており、ハートウェル(Hartwell)ら、Nature 402:C47〜C52 (1999)によって提案された様式と類似の様式で、細胞代謝のさまざまな側面に重様な機能性「モジュール」が決定される。
【0276】
A.構成的に活性なタンパク質キナーゼの小規模ライブラリーをcAMP応答配列(CRE)依存性の転写調節に関してスクリーニングする
遺伝子発現のcAMP調節の古典的なPKA/CREB/CRE機構は十年以上前に解明された(Gonzalezら、Nature 337:749〜52 (1989))。それ以降、いくつかのタンパク質キナーゼが、CREBのリン酸化、またはCREに結合可能な他の因子のリン酸化を介して遺伝子発現を調節可能であることが報告されている。この実施例で説明する実験では、25の異なるタンパク質キナーゼのグループによる、CREを介した転写活性調節能力が決定される。このような実験に使用されるすべてのタンパク質キナーゼの構成的に活性な変異が表1のように同定されている。これらのタンパク質キナーゼは、そのシグナル伝達経路の多様性、ならびに構成的に活性な変異の特性がインビトロおよびインビボで決定されている規模をふまえて選択されている。
【0277】
【表1】構成的に活性なキナーゼおよびその関連転写因子
【0278】
これらの実験では、構成的に活性な状態の個々のキナーゼが、アミノ末端またはカルボキシ末端にFlagエピトープタグを提供する発現ベクター中にサブクローニングされる。このようなエピトープを使用することで、STEPによるトランスフェクションで生成されるタンパク質キナーゼ量を定量する。発現ベクターは、キナーゼの発現を誘導するヒトCMVプロモーターを含み、個々のベクターは、通常のトランスフェクションアッセイ法で検討されて、適切な大きさのタンパク質がインビボで合成されることが示される。構成的に活性な発現ベクターは、表1に引用された参考文献に記載された手順で調製される。
【0279】
従来の一過的発現実験で確認されたら、構成的に活性なキナーゼ用の発現ベクターをSTEPによるトランスフェクションに用いて、CRE依存性の遺伝子発現を調節する効率を決定する。二種の異なる様式のトランスフェクションが使用される。第一の様式では、STEP複合体を個々のキナーゼベクターと、さまざまな量のpCRE−d2EGFPレポータープラスミドとの混合物で形成する。次にこれらの複合体をスポットし、HEK−293T細胞またはNIH−3T3細胞をプレーティングして、キナーゼの同時発現が、pCRE−d2EGFPレポータープラスミドの転写の活性化を導くか否かを判定する。実施例11のA節に記載されたように開発された別の細胞系列は、CRE依存性転写の誘導に細胞特異的な転写因子が果たす役割を調べるために使用される。STEPによりトランスフェクトされた細胞は、プレーティング後のさまざまな時点(6時間、12時間、24時間、48時間、および72時間)で固定化する。GFP蛍光(実施例8に記載)の決定用に各時点で三つ組のスライドを使用し、三つ組のスライドの第二のセットを、M2モノクローナル抗体を用いる免疫細胞化学的染色用に使用して、Flagタグタンパク質キナーゼの量を推定する(実施例6に記載)。これら二つの決定を行うことで、各キナーゼにおけるCRE−EGFPレポーターの刺激の相対効率が各時点で決定される。結果として得られる、各キナーゼによる転写調節の動的プロファイルを25種の異なるキナーゼについて比較した結果を表1に示す。構成的に活性な状態のPKA、PKG、およびCaMKIIは最も強い誘導を生じ;いくつかの誘導も、他の多くのキナーゼ(表1参照)で認められる。これは過去に発表された報告と合致している。
【0280】
第二の一連の実験では、同じセットの25種の構成的に活性なキナーゼが、実施例11のA節に記載されたように開発されたRRC系列を対象とするSTEPによるトランスフェクションに使用される。CRE部位の細胞内濃度は、RRC系列を用いたSTEPによるトランスフェクションではかなり低い。これはレポータープラスミドが、キナーゼと同時にトランスフェクトされていないが、既にレポーター細胞系列内で安定に発現されているためである。この結果は、構成的に活性なキナーゼによる転写活性化に対して、かなり高い感度を有するアッセイ法である。RRC細胞系列の場合、構成的に活性なキナーゼに対するさまざまな量の発現ベクターをSTEP複合体に含めることで、タンパク質キナーゼの量が増加する。このように、転写反応に必要最低限の量のキナーゼが、GFPのレシオメトリック画像を、M2モノクローナル抗体による染色と比較することで決定される。
【0281】
得られたデータは、72時間に及ぶ各キナーゼの誘導プロファイルの作製に使用する。このようなプロファイルを量的および質的に比較する。この結果から、CRE依存性の転写、ならびにCRE反応の動態により決定されるクラスターへのキナーゼの分類を調節する可能性のある新しいキナーゼが同定される。文献上、機械的に説明のつかない動的プロファイルに差がみられる場合は、特定のキナーゼ経路をさらに詳細に調べるためのきっかけとなる。
【0282】
B.21種の異なる転写応答配列のより大規模なセットに拡張される構成的に活性なタンパク質キナーゼの機能解析
構成的に活性なキナーゼに対するCREの反応が決定されたら、STEPによるトランスフェクションのマイクロアレイフォーマットを用いて、25種の構成的に活性なタンパク質キナーゼのセットに対する、21種の異なる特性解析済みの転写応答配列のセットの反応を決定する。このような実験に使用される応答配列を表2に示す。
【0283】
【表2】構成的に活性なタンパク質キナーゼの機能スクリーニングに対して選択されたレポーター配列
【0284】
これらすべての応答配列は過去に詳細に解析されており、対応するレポーターベクターが報告されている。また、これらの応答配列の大多数のレポーターベクターは市販されている(StratageneおよびClontech)。レポーターベクターの大半は、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼを用いるように設計されているので、ルシフェラーゼのコード領域が最初にd2−EGFPコード領域と置換されてから使用される。または、ルシフェラーゼコード領域が最初にβ−ラクタマーゼレポーター系と置換されて、β−ラクタマーゼが感度または定量に関してEGFPより実質的に有利な条件で使用される(実施例11のA節に記載)。これらの実験におけるすべてのトランスフェクションでは、レポーターベクターと構成的に活性なキナーゼが同時にトランスフェクトされる。または、個々の応答配列用のRRC細胞系列が開発される。A節で説明したように、個々のキナーゼ/応答配列パートナーの時間的プロファイルを、特定のレポーターベクターの動的反応の特徴を解析するために決定する。
【0285】
500以上のさまざまなキナーゼ/応答配列の相互作用が系統的に検討されている。このような相互作用の20%のみが過去に調べられているので、大半の結果は、キナーゼによる遺伝子転写調節に関する新しい情報である。タンパク質キナーゼ/応答配列対の転写の新しい正の調節の検出は、標準的なトランスフェクション法、およびルシフェラーゼアッセイレポーターで確認され、誘導の規模が決定される。
【0286】
以上の実験には、複数の技術上の問題が指摘されている。第一に、種々のレポーターは基礎転写レベルおよび刺激時の転写レベルが有意に異なる。この点に関しては、β−ラクタマーゼ発現系が検出の重要な代替手段となる。これは同レポーター系のダイナミックレンジが大きいためである(Zlokamikら、Science 279:84〜8 (1998))。またレポーターの基礎発現は、スポットするSTEP複合体中に存在するレポータープラスミドの量を変化させることで、ある程度制御される。STEP系で最高のトランスフェクション効率を示す細胞系列を実験で使用することが好ましい。または特定の転写因子用の発現ベクターをSTEP複合体そのものに含める;このような転写因子にはCREB、c−jun、およびfosなどがあるがこれらに限定されない。このような発現ベクターは市販されているが、表2の応答配列に関して列挙した参考文献に記載された手順で調製することもできる。
【0287】
実施例14
STEPによるトランスフェクションにおけるPCR産物の使用
典型的には、一過的なトランスフェクションの効率は、直鎖状のDNAよりもスーパーコイル状のDNAを使用する方が高い。しかし細菌の成長、およびプラスミドの単離は、多数の発現ベクターコンストラクトを対象にタンパク質機能を調べる場合は、かなりの時間を要する。STEPの予想外の利点は、PCRで得られたDNA断片を用いて実施できる点である(STEPで使用前に精製する必要がない)。このため時間、試薬類、および労力が著しく削減される。
【0288】
この実施例では、pEGFP−C1のCMVプロモーター、およびSV40のポリA付加配列に隣接するプライマーを用いて、EGFP用の発現カセットに対応する1.8 kbの断片を増幅した。PCR断片をキアクイック(Qiaquik)キット(Qiagen)を用いて単離した後にSTEPによるトランスフェクションに用いたところ、トランスフェクション効率は50%であった。同様の結果は、pDsRed−C1プラスミドの発現について得られた。次にPCR反応混合物を複合剤に直接付加して、後にアレイ作製用となるトランスフェクション複合体を形成するように、トランスフェクション複合体の形成に使用する前にPCR断片を精製する必要はないと判定された。
【0289】
方法:
CMV プロモーターの5’側の配列に対応するオリゴヌクレオチド
、およびSV40のポリ(A)付加配列の3’側に対応するオリゴヌクレオチド
を用いて、pEGFP−C1のヌクレオチド4721〜1770に対応する1.8 kbの断片をVentポリメラーゼ(New England Biolabs)を用いて増幅した。アガロースゲル電気泳動後に、QIAquick(Qiagen)による精製を行ってPCR断片を単離した。
【0290】
PCR断片(精製後または精製前)を水で0.12 mg/mlに希釈した。10マイクロリットルのプラスミドDNAをマイクロタイタープレートの1個のウェルに添加した。次に10マイクロリットルのトランスフェリン−ポリ−L−リシン複合体(1 mg/ml、Sigma)を添加して混合物を室温で5分間インキュベートした。10マイクロリットルの2 mg/mlのリポフェクタミン(Life Technologies, Inc)を混合物に添加し、結果として得られた溶液を室温で20分間インキュベートした。このトランスフェクション複合体溶液を次に、マイクロピぺッターを用いて100ナノリットルを手動でスポットした。スポッティング後に、スライドを30分間かけて組織培養フード内で乾燥させた。この顕微鏡用スライドを組織培養プレート(直径10 cm)中に据え、10% FCSを含む20 mlのDMEM中に106個の指数関数的に増殖しつつある細胞を添加した。プレーティング後に細胞を37℃で5% CO2下でインキュベートした。
【0291】
結果
STEPによるトランスフェクション、および上述の直鎖状PCR断片にコードされたタンパク質の発現により、約50%の細胞でEGFPの発現が認められた。
【0292】
実施例15
膜貫通型受容体機能のアッセイ法へのSTEPの応用
膜受容体の機能を調べる過程におけるSTEPの応用を示すために、STEPによるトランスフェクションプロトコールにしたがって、ヒトD1ドーパミン受容体(pCMV.D1)、および不安定な緑色蛍光タンパク質(pCRE−d2EGFP)の発現を誘導する環状AMP応答性プロモーターの発現ベクターをHEK−293T細胞に一過的にトランスフェクトした。この実験の目的は、D1受容体のアゴニストクロロ−APB(C1−APB)によってD1ドーパミン受容体の活性化を測定することであった。C1−APBによるD1受容体の活性化は、図3の経路で示されるように、アデニル酸シクラーゼとの共役、およびこれに続く環状AMPの生成により測定することができた。
【0293】
300ナノグラムのpCMV.D1(または対照ベクターpCMV.Neo)、および300 ngのpCRE−d2EGFP(容量10マイクロリットル)を10マイクロリットルのトランスフェリン−ポリリシン複合体(1 mg/ml)と混合した。10分後、10マイクロリットルのリポフェクタミン(1 mg/ml)を添加して混合物をさらに10分間インキュベートした。約100ナノリットルのスポットを、ポリリシンコートされた4枚の異なる顕微鏡用スライド上に配置し、スポットを大気条件下で乾燥させた。次にHEK−293T細胞を3枚のスライド上にプレーティングし、1枚のスライドは血清を含む培地中でのみ増殖させた。細胞をプレーティングした3枚のスライドはC1−APB、もしくはホスホジエステラーゼ阻害剤IBMX、またはC1−APBとIBMXの両方、のいずれかの存在下で増殖させた。
【0294】
48時間後に細胞を蛍光顕微鏡で調べた。D1受容体を発現し、C1−APB(1マイクロモル)で処理した細胞は、緑色蛍光タンパク質レポーターの発現が有意に高かった。MCID像の解析用ソフトウェアを用いた結果の定量から得られた結果を表3に示す。
【0295】
【表3】STEPによるD1活性化実験におけるスポットあたりのピクセル
【0296】
D1受容体発現ベクターをトランスフェクトし、C1−APBで処理された細胞は、空の親ベクターpCMV.Neoがトランスフェクトされた細胞と比較して10倍高いレベルのGFP発現を示した。この結果は、特定のリガンドにより膜受容体の活性化の測定にSTEPを使用できること、および活性化がGFP蛍光を決定することで定量可能であることを明瞭に示している。STEP法は、他の既知の受容体およびオーファン受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用するリガンドおよび薬剤の同定に同様に応用することができる。
【0297】
実施例16
STEPによるトランスフェクション効率を高める別の細胞表面リガンドの用途
他の細胞表面リガンドは、低濃度のトランスフェリン受容体を含む細胞をトランスフェクトする際に使用できるほか、培地に含まれるトランスフェリン濃度が、STEPによるトランスフェクション複合体と競合する際に使用できる。一つの非制限性の例は、細胞表面のインテグリンに結合し、またトランスフェリンの代わりに、トランスフェクション複合体中にトランスフェリンを使用したときの最適なトランスフェクション効率が低い、多くの細胞種をトランスフェクトするために使用可能なアデノウイルスのペントンタンパク質などのタンパク質である。
【0298】
この目的では、アデノウイルスのペントンタンパク質を、細菌、またはバキュロウイルスを感染させたSf9細胞のいずれかで発現させ、上述の方法および手法で精製する。ペントンタンパク質は約0.02 mg/ml〜1.0 mg/mlの濃度で使用することができる。精製したタンパク質を、トランスフェクション対象の核酸と、ポリリシンまたはヒストン、および陽イオン性脂質(リポフェクタミンまたはリポフェクタミン2000など)とともに混合する。複合体をスポッティングした後に、トランスフェリン使用時に通常低いトランスフェクション効率(10%未満)を示す細胞系列(ラットのPC−12褐色細胞腫、NG−108神経芽腫−グリオーマハイブリッド細胞、およびSH−SY5Y神経芽腫細胞など)は、アデノウイルスのペントンタンパク質使用時には50〜80%の効率でトランスフェクトされる。トランスフェクション効率は、アミノ末端にペントンタンパク質を、またカルボキシ末端にヒストンなどのDNA結合タンパク質を含む融合タンパク質を作製することで、さらに高くなる場合がある。
【0299】
以下の実験では、実施例1に記載された手順でトランスフェクション複合体を形成させ(数種のトランスフェクション複合体の調製時にはトランスフェリンの代わりに精製ペントンタンパク質が使用される点を除く);ペントンタンパク質は0.64 mg/mlの濃度で使用した。このためトランスフェクション複合体は、トランスフェリンまたはペントンタンパク質のいずれかを用いて調製した。実施例1に記載されたように複合体を固定化した後に、ラットPC−12褐色細胞腫およびHEK−293Tの細胞系列を、実施例1に記載された手順でトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を次に、すべての細胞が観察される明視野下で顕微鏡により調べ、またGFPを発現する細胞のみが観察される蛍光下で調べた。
【0300】
得られた結果を図4に一連の像として示す;細胞系列を像の上に示し、トランスフェクション複合体に使用したリガンドを像の右側に示す。各細胞系列の下の像は、明視野下の像(左側)、または蛍光下の像(右側)である。これらの結果は、PC−12がトランスフェリンを用いて低効率(10%未満)でトランスフェクトされたこと、またリガンドがアデノウイルスのペントンタンパク質の場合にトランスフェクション効率の上昇(50%〜80%)が観察されたことを示している。
【0301】
本明細書で言及されたすべての出版物および特許は本明細書に参照として組み入れられる。本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、本発明に記載された方法および系に、さまざまな修正や変更がなされることは当業者には明らかであると思われる。本発明は、特定の好ましい態様について記載されているが、請求する発明が、そのような特定の態様に過度に制限されるべきではないと理解されるべきである。実際に、関連分野の当業者に周知の本発明の実施に関して記載された様式のさまざまな修正は、添付の特許請求の範囲内であることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【図1】STEPの略図を示す。規則的に並べられた核酸(好ましくは真核発現ベクター中のcDNAクローン)が表面に固定化され、接着性の細胞が核酸のアレイ上にプレーティングされ、STEPによるトランスフェクションにより、トランスフェクトされた細胞が、トランスフェクトした核酸の発現の作用に関して検討される。
【図2】自動マイクロアレイスポッターでスポットしたDNAアレイによる、STEPでトランスフェクトされた細胞の検出を示す。
【図3】アデニル酸シクラーゼと共役したC1−APBによるドーパミン1(D1)受容体の活性化、およびこれに続く環状AMP生成の経路を示す。
【図4】アデノウイルスタンパク質ペントンが、トランスフェクション複合体中の複合剤として用いられている二種の細胞のトランスフェクションを示す。
Claims (42)
- 以下の段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法:
a)以下を提供する段階:
i)表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体が、核酸ならびに第一および第二の複合剤を含み、第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含む)、および
ii)細胞;ならびに
b)細胞がトランスフェクトされる条件下で、トランスフェクション複合体中の核酸を細胞に接触させる段階。 - トランスフェクション複合体が第三の複合剤をさらに含む(第三の複合剤が膜透過性分子を含む)、請求項1記載の方法。
- DNA結合分子が陽イオン性タンパク質である、請求項2記載の方法。
- 膜透過性分子が陽イオン性脂質である、請求項2記載の方法。
- リガンドが陽イオン性タンパク質に共有結合で連結される、請求項3記載の方法。
- トランスフェクション複合体が、一種または複数の陽イオン性脂質をさらに含む、請求項5記載の方法。
- リガンドがトランスフェリンであり、陽イオン性タンパク質がポリリシンである、請求項6記載の方法。
- トランスフェクション複合体が、標的分子、転写分子、核酸分解阻害剤、細胞の成長および完全性のモジュレーター、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される一種もしくは複数の別の複合剤をさらに含む、請求項2記載の方法。
- トランスフェクトされた細胞内で核酸を発現させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
- トランスフェクトされた細胞内で核酸の発現を検出する段階をさらに含む、請求項9記載の方法。
- 以下の段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法:
a)トランスフェクション複合体を表面上に固定化する段階(複合体が、核酸ならびに第一および第二の複合剤を含み、第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含む);ならびに
b)細胞が十分トランスフェクトされる条件下で、トランスフェクション複合体中の核酸を細胞に接触させる段階。 - 以下の段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法:
a)核酸と第一および第二の複合剤を混合する段階(第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含むことで、核酸ならびに第一および第二の複合剤を含む少なくとも一種のトランスフェクション複合体を形成する);
b)トランスフェクション複合体を表面上に固定化して、固定化された核酸を形成させる段階;ならびに
d)細胞がトランスフェクトされる条件下で、トランスフェクション複合体中の固定化された核酸に細胞を接触させる段階。 - 以下の段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法:
a)トランスフェリンをポリリシンに共有結合で連結させて、トランスフェリン−ポリリシン複合体を形成させる段階;
b)核酸および陽イオン性脂質を、共有結合で連結されたトランスフェリン−ポリリシン複合体と混合して、少なくとも一種のトランスフェクション複合体を形成させる段階;
c)トランスフェクション複合体を表面上に固定化して、固定化された核酸を形成させる段階;および
d)細胞がトランスフェクトされる条件下で、トランスフェクション複合体中の固定化された核酸を細胞に接触させる段階。 - 以下の段階を含む、核酸を表面に固定化する方法:
a)核酸と第一および第二の複合剤を混合する段階(第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含むことで、核酸ならびに第一および第二の複合剤を含む少なくとも一種のトランスフェクション複合体形成する);ならびに
b)トランスフェクション複合体中の核酸が十分固定化される条件下で、少なくとも一種のトランスフェクション複合体を表面上に接触させる段階。 - トランスフェクション複合体が、膜透過性分子を含む第三の複合剤をさらに含む、請求項14記載の方法。
- DNA結合分子が陽イオン性タンパク質を含む、請求項15記載の方法。
- 膜透過性分子が陽イオン性脂質を含む、請求項15記載の方法。
- リガンドが共有結合で陽イオン性タンパク質に連結される、請求項16記載の方法。
- リガンドがトランスフェリンであり、陽イオン性タンパク質がポリリシンである、請求項18記載の方法。
- トランスフェクション複合体が陽イオン性脂質をさらに含む、請求項19記載の方法。
- トランスフェクション複合体が標的分子、転写分子、核酸分解阻害剤、細胞の成長および完全性のモジュレーター、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種の別の複合剤をさらに含む、請求項15記載の方法。
- 複数のトランスフェクション複合体が形成され、固定化されたトランスフェクション複合体がアレイを形成する、請求項15記載の方法。
- 表面上に固定化されたトランスフェクション複合体を含むアレイ(複合体が、核酸ならびに第一および第二の複合剤を含み、第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含む)。
- トランスフェクション複合体の少なくとも一種が、膜透過性分子を含む第三の複合剤をさらに含む、請求項23記載のアレイ。
- 核酸ならびに第一および第二の複合剤を含むトランスフェクション複合体(第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含む)。
- 膜透過性分子を含む第三の複合剤をさらに含む、請求項25記載のトランスフェクション複合体。
- DNA結合分子が陽イオン性タンパク質である、請求項25記載のトランスフェクション複合体。
- 膜透過性分子が陽イオン性脂質である、請求項27記載のトランスフェクション複合体。
- リガンドが陽イオン性タンパク質に共有結合で連結されている、請求項27記載のトランスフェクション複合体。
- リガンドがトランスフェリンであり、陽イオン性タンパク質がポリリシンである、請求項29記載のトランスフェクション複合体。
- 一種または複数の陽イオン性脂質をさらに含む、請求項29記載のトランスフェクション複合体。
- 標的分子、転写分子、核酸分解阻害剤、細胞の成長および完全性のモジュレーター、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種の別の複合剤をさらに含む、請求項26記載のトランスフェクション複合体。
- 表面上に固定化された、請求項26記載のトランスフェクション複合体。
- 以下を含む、受容体タンパク質のリガンドを同定する方法:
a)以下を提供する段階:
i)表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体が第一および第二の核酸、ならびに第一および第二の複合剤を含み、第一の核酸が受容体をコードし、第二の核酸がタンパク質をコードし、第一および第二の核酸が少なくとも一種の発現ベクター中に存在し、第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含む)、および
ii)細胞;ならびに
b)細胞が核酸とともに同時にトランスフェクトされて、核酸が発現される条件下で、複合体に細胞を接触させる段階;ならびに
c)リガンド−受容体結合対の存在を検出する段階(受容体タンパク質が第一の核酸のコードされる)。 - 受容体タンパク質が、Gタンパク質共役受容体および受容体キナーゼからなる群より選択される、請求項34記載の方法。
- 固定化された核酸がアレイを形成する、請求項34記載の方法。
- 以下の段階を含む、細胞をトランスフェクトする方法:
a)以下を提供する段階:
i)表面上に固定化されたトランスフェクション複合体(複合体が核酸ならびに第一および第二の複合剤を含み、第一の複合剤が受容体に対するリガンドを含み、第二の複合剤がDNA結合分子を含む)、および
ii)細胞;ならびに
b)細胞が能動輸送過程でトランスフェクトされる条件下で、表面上に固定化されたトランスフェクション複合体に細胞を接触させる段階。 - 核酸、陽イオン性脂質、受容体に対するリガンド、およびDNA結合タンパク質を含むトランスフェクション複合体(リガンドがウイルスタンパク質であり、ウイルスタンパク質が共有結合でDNA結合タンパク質に結合されている)。
- ウイルスタンパク質がペントンタンパク質、HIVタンパク質GP120、ウマ鼻炎Aウイルスタンパク質VP1、ヒトアデノウイルスタンパク質E3、およびエプスタイン・バーウイルスタンパク質GP350からなる群より選択される、請求項38記載のトランスフェクション複合体。
- ウイルスタンパク質がペントンタンパク質である、請求項38記載のトランスフェクション複合体。
- DNA結合タンパク質がポリリシンおよびヒストンからなる群より選択される、請求項38記載のトランスフェクション複合体。
- 陽イオン性脂質がリポフェクタミンである、請求項38記載のトランスフェクション複合体。
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