JP2005329461A - 脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 厚みtが10mm以上の鋼板同士を溶接により組み立てて作製され、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定される溶接鋼構造物において、鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部が、溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に一対以上配設されており、各々、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置となる位置関係を有する。
【選択図】図1
Description
その他、脆性き裂の伝播を停止させる方法としては金沢らがクラックアレスターの一連の研究で種々の方法を検討しており、1:き裂伝播経路の両側に穴をあける方法(非特許文献1)、2:鋼板を貼り付ける方法(非特許文献2)、3:リベットスチフナーを取り付けたもの(非特許文献3)、4:スチフナーを溶接接合したもの(非特許文献1)などが考えられている。
溶接構造物の施工では溶接ビードが一列に並んだ方が溶接しやすく、工期を短く、施工費用を安くすることが可能であるため、例えば大型船では大きなブロックごとに組み立てられ、そのブロック同士を溶接接合することで製作されている。特にブロックごとの溶接に大入熱溶接を利用することは溶接効率や工期の点で優れているが、溶接ビードに沿う脆性き裂伝播の危険性が高いため採用できないことが多い。
前記の部材の主応力方向に対して直角に近い方向に大入熱溶接ビードを一列に連続させた場合には、脆性き裂伝播停止特性の高い鋼材を脆性き裂の進行すると考えられる方向に配置することで大規模脆性破壊を防止する方法を用いたとしても、素材のままでは脆性き裂伝播停止特性の高い鋼材であっても溶接によって熱影響部の脆性き裂伝播停止特性が低下し、溶接ビードに沿う溶接熱影響部での脆性き裂の伝播が起こりやすくなるため、脆性き裂伝播停止特性の高い鋼材を用いた効果がなくなってしまう場合がある。このため、特許文献1、特許文献2、特許文献3にある脆性き裂伝播停止特性の高い鋼材でも溶接ビードの溶融線に沿う脆性破壊は停止させることができない場合がある。
前記非特許文献の技術を溶接部を伝播する脆性き裂の停止のために利用することを考えると、非特許文献1では鋼板に穴をあけてしまうため船やタンクなどの外板には適用できない。非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4は鋼板に付加物を取り付けることになり、重量の増加や取り付け溶接部からの疲労き裂発生や形状による腐食の懸念など、脆性き裂伝播以外の問題が生じるため適用できないことが多い。
そこで、本発明は、溶接鋼構造物の溶接部に添って伝播する脆性き裂を脆性き裂伝播停止性能の高い母材側に逸らし脆性き裂の伝播を停止させることと溶接部に沿う脆性き裂の伝播を停止させることの二つの効果をもつ脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
(1)厚みtが10mm以上の鋼板同士を主として突き合わせ溶接および/またはT継手溶接により組み立てて作製され、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定される溶接鋼構造物において、 前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部が、前記き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード沿いで該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設されており、該圧縮予ひずみ部は、各々、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置となる位置関係を有することを特徴とする脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物。
(2)厚みtが10mm以上の鋼板同士を主として突き合わせ溶接および/またはT継手溶接により組み立てて作製される鋼構造物であって、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定され、該脆性き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード(脆性き裂初期伝播ビード)方向には、溶接溶融線付近に脆性き裂の発生が想定される鋼板(脆性き裂発生鋼板)、さらに該鋼板より素材シャルピー破面遷移温度が20°K以上低い高靱性鋼板が順に配設されるとともに、それぞれ同種の鋼板同士は前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードとなる突き合わせ溶接にて接合され、それぞれシャルピー破面遷移温度の異なる異種鋼板同士は、前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードにほぼ直交する突き合わせ溶接またはT継手溶接(これらを総称して直交溶接という。)により接合されてなる溶接鋼構造物において、
前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部が、前記脆性き裂発生鋼板の前記脆性き裂初期伝播ビード沿いで該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設されており、各圧縮予ひずみ部は、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置であり、前記直交ビードの高靱性鋼板側の溶接溶融線からの最短距離cが2√(A/3)以内となる位置関係を有することを特徴とする脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物。
(3)前記脆性き裂発生鋼板と前記高靱性鋼板との接合部のなす角度dが20°〜180°であることを特徴とする(2)に記載の脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物。
前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部を、前記き裂の初期伝播方向に沿った溶接を行った後に、該溶接ビードに沿って、該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設する溶接鋼構造物の製造方法であって、
該圧縮予ひずみ部は、各々、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置となる位置関係を有することを特徴とする、脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物の製造方法。
(5)厚みtが10mm以上の鋼板同士を主として突き合わせ溶接および/またはT継手溶接により組み立てて作製される鋼構造物であって、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定され、該脆性き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード(脆性き裂初期伝播ビード)方向には、溶接溶融線付近に脆性き裂の発生が想定される鋼板(脆性き裂発生鋼板)、さらに該鋼板より素材シャルピー破面遷移温度が20°K以上低い高靱性鋼板が順に配設されるとともに、それぞれ同種の鋼板同士は前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードとなる突き合わせ溶接にて接合され、それぞれシャルピー破面遷移温度の異なる異種鋼板同士は、前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードにほぼ直交する突き合わせ溶接またはT継手溶接(これらを総称して直交溶接という。)により接合されてなる溶接鋼構造物の製造方法において、
前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部を、前記脆性き裂発生鋼板の前記脆性き裂初期伝播ビードを溶接した後に、該溶接ビードの沿いであって、該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設する溶接鋼構造物の製造方法であって、
各圧縮予ひずみ部は、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置であり、前記直交ビードの高靱性鋼板側の溶接溶融線からの最短距離cが2√(A/3)以内となる位置関係を有することを特徴とする、脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物の製造方法。
また、脆性き裂が脆性き裂伝播停止特性の高い鋼材側に逸れなくても、き裂伝播方向の応力を低下させ、脆性き裂の伝播を妨げることに効果がある。
さらに、溶接後の穴あけや溶接を行うことが無いため、従来の方法より手数がかからず、簡易に脆性き裂伝播停止特性を向上させることができる。
具体的には、請求項1の発明は、厚みtが10mm以上の鋼板同士を主として突き合わせ溶接および/またはT継手溶接により組み立てて作製され、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定される溶接鋼構造物において、前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部が、前記き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード沿いで該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設されており、該圧縮予ひずみ部は、各々、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置となる位置関係を有することを特徴とする。
また、前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部を、前記き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード沿いで該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設するのは、圧縮予ひずみ部の周りに圧縮残留応力を発生させるためからである。
さらに、該圧縮予ひずみ部は、各々、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置となる位置関係を有するのは、aが5mmより小さい場合には圧縮予ひずみ付加部の変形により溶接ビードのトウ部も変形してしまう可能性があり、き裂を誘発する可能性があるためであり、また、bがtより大きい場合には圧縮予ひずみ付加による溶接ビードの熱影響部付近の残留圧縮応力が低下するため、本発明の効果が減少するからである。
図1において、1は鋼板、2は圧縮予ひずみ部、3は溶接ビード、4は脆性き裂を示す。
図1のaは、圧縮予ひずみ部の溶接溶融線からの最短距離を示す。
図1のbは、圧縮予ひずみ部の溶接金属中央線からの最短距離を示す。
請求項2の発明は、厚みtが10mm以上の鋼板同士を主として突き合わせ溶接および/またはT継手溶接により組み立てて作製される鋼構造物であって、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定され、該脆性き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード(脆性き裂初期伝播ビード)方向には、溶接溶融線付近に脆性き裂の発生が想定される鋼板(脆性き裂発生鋼板)、さらに該鋼板より素材シャルピー破面遷移温度が20°K以上低い高靱性鋼板が順に配設されるとともに、それぞれ同種の鋼板同士は前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードとなる突き合わせ溶接にて接合され、それぞれシャルピー破面遷移温度の異なる異種鋼板同士は、前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードにほぼ直交する突き合わせ溶接またはT継手溶接(これらを総称して直交溶接という。)により接合されてなる溶接鋼構造物において、 前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部が、前記脆性き裂発生鋼板の前記脆性き裂初期伝播ビード沿いで該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設されており、各圧縮予ひずみ部は、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置であり、前記直交ビードの高靱性鋼板側の溶接溶融線からの最短距離cが2√(A/3)以内となる位置関係を有することを特徴とする。
また、それぞれ同種の鋼板同士は前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードとなる突き合わせ溶接にて接合され、それぞれシャルピー破面遷移温度の異なる異種鋼板同士は、前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードにほぼ直交する突き合わせ溶接またはT継手溶接(これらを総称して直交溶接という。)により接合されてなる溶接鋼構造物とするのは、鋼板の溶接組み立ての場合、溶接効率の面から溶接線が直線であることが望ましく、鋼板の形状については長方形であることが切断による端材の発生が少なく鋼板を無駄なく用いることが出来るため溶接組み立ては直交溶接が望まれるからである。
さらに、各圧縮予ひずみ部、請求項1の条件に加えて、前記直交ビードの高靱性鋼板側の溶接溶融線からの最短距離cが2√(A/3)以内となる位置関係を有するのは、脆性き裂の伝播を停止させるためには、脆性き裂が溶接ビードから逸れ圧縮予ひずみ部の周りを伝播して直交ビードに突入し、破断した後に高靭性鋼板に突入することが必要であるが、cが大きい場合には、脆性き裂が直交ビードを破断する以前に初めに伝播してきた溶接ビードに戻ってしまい、高靭性鋼板の溶接ビードに沿って伝播してしまう可能性が高まるからである。
図2において、5は脆性き裂発生鋼板、6は脆性き裂、7は脆性き裂初期伝播溶接ビード、8は高靭性鋼板、9は直交溶接ビード、10は圧縮予ひずみ部を示す。
図2のaは、圧縮予ひずみ部の溶接溶融線からの最短距離を示す。
図2のbは、圧縮予ひずみ部の溶接金属中央線からの最短距離を示す。
図2のCは、圧縮予ひずみ部の直交ビードの高靱性鋼板側の溶接溶融線からの最短距離を示す。
請求項3の発明は、請求項2において、前記脆性き裂発生鋼板と前記高靱性鋼板との接合部のなす角度dが20°〜180°であることを特徴とする。これは、鋼板同士の突き合わせ溶接においてdが180°以上の角度となることはありえなく、またdが20°より小さい場合には圧縮負荷を行う装置を鋼板の間に挿入することが困難であるため所定の圧縮負荷を行うことが出来ないからである。
図3において、5は脆性き裂発生鋼板、6は脆性き裂、7は脆性き裂初期伝播溶接ビード、8は高靭性鋼板、9は直交溶接ビード、10は圧縮予ひずみ部、11は溶接ビードに続く溶接ビード、12は溶接交差部を示す。
図3のdは脆性き裂発生鋼板5と高靱性鋼板8との接合部のなす角度を示す。
本発明の溶接鋼構造物における圧縮予ひずみ部近傍の応力状態を確認するために、図6に示す直径40mmの円形の圧縮面を持つポンチで板厚40mmの鋼板15に2.5%の圧縮塑性歪を与えた後に、鋼板の降伏応力の半分(165MPa)の引張負荷を与えた場合について有限要素法解析を行い、図4に示す鋼板内部の最大主応力分布を試算した。圧縮予ひずみ部13の上下部に最大主応力の最大が現れ、圧縮予ひずみ部の間の応力は遠方の応力より低くなっている。脆性き裂は主応力の高い部位を伝播する特性があるため、本発明は圧縮予ひずみの残留応力と構造物に作用する応力とを合成した場合の最大主応力が大きい位置を脆性き裂の伝播を防止したい溶接ビード14に沿った溶接熱影響部から離すことによって脆性き裂の経路を溶接熱影響部から鋼板の素材側へ誘導する効果がある。さらに、脆性き裂が溶接ビード14から遠ざかることにより、経路16で溶接熱影響部より脆性き裂伝播停止特性の高い素材部で伝播を停止させることが可能である。また圧縮予ひずみ部の間に発生する圧縮応力による溶接部を伝播する脆性き裂先端に作用する応力を低下させる効果があり、万一脆性き裂が溶接溶融線付近から逸れない場合でも、脆性き裂の伝播を阻止することができる。
ポンチの断面形状については円形や矩形以外にも適用が可能であり、効果には大きな差は出ないと考えられるため、自由にデザインできるが、ポンチの寿命や圧縮荷重をできるだけ低くするためには外に凸の中実断面が合理的である。
ポンチの大きさについては鋼材の内部にまで十分に塑性歪を与えることが重要であるためポンチの寸法は板厚と比例させる必要がある。また、面積に比例して大きな圧縮荷重が必要となり、負荷が困難となることがあるため注意が必要である。圧縮予ひずみ付与面積Aは板厚tに対して0.75t2〜3.15t2と定めたが、大きい方が広い領域に渡って圧縮残留応力残すことができるため、可能であればより大きいポンチを使うことも同様の効果がある。しかし、予ひずみを付与するために必要な荷重が面積に比例して大きくなるため実施する設備が大きくなるため困難である。
また、予ひずみの付与は脆性き裂の伝播を想定する溶接部を溶接した後に行わなければ脆性き裂をそらす効果が期待できない。予ひずみの付与が溶接前である可能性がある場合には磁歪法などにより予ひずみ部の周辺の溶接部の残留応力分布を測定することで、予ひずみ付与と溶接の前後関係を確認することができる。たとえば、溶接後の予ひずみ付与であれば、圧縮予ひずみ部付近の溶接金属部の引張残留応力分布が乱れるが、溶接前の予ひずみ付与であれば、圧縮予ひずみ部付近での溶接方向の引張残留応力には前記の残留応力分布は見られず、単調な応力勾配となっていることで溶接と圧縮予ひずみの順番が確認できる。
前記2種の溶接を行った鋼板26を用いて作製したESSO試験体に本発明を適用した。圧縮予ひずみ処理は該鋼板の溶接前および後に400トン万能試験機により直径が50mmの円形断面を持つポンチを用いて行った。ポンチ間の距離eは板厚tに対して1.5tとし、また、残留の圧縮ひずみは2.5%とした。
試験は−40℃で、応力を降伏応力の2/3レベルと1/2レベルの二段階で付与し、表1に示すそれぞれの条件でESSO試験を行った。表1の結果に欄に示すように本発明である圧縮予ひずみ処理を溶接後に行ったものについてはいずれも脆性き裂の伝播を停止させることができた。
なお、試験体1−5は溶接熱影響部の靭性があまり低下していないことと、負荷応力が低いため溶接残留応力の影響により母材側へき裂が逸れたものと考えられる。
また、圧縮予ひずみを溶接前に行った場合には、表1の結果の欄に示すようにき裂を母材側にそらす効果はみられなかった。
実験は−40℃で試験応力は降伏応力の1/2である。実験の結果、ポンチの距離が大きく、ポンチの大きさが小さくなると効果が小さくなることを確認し、板厚が変わっても同様の傾向があることを確認した。この結果を元に必要断面面積とポンチ距離を定めた。
この結果、表3に示すように本発明の圧縮負荷処理を施さなかった試験体3−1と試験体3−2の場合、試験体上部から生じ、溶接ビード35の溶接溶融線付近を伝播した脆性き裂は溶接熱影響部を通り試験体を貫通した。特に脆性き裂伝播停止特性が高い鋼材を用いた試験体3−2でも、大入熱溶接の熱影響部は著しく脆化したためSM490B鋼素材の本来の特性を発揮できなかったものと考えられる。
一方、試験体3−3では本発明の請求項1のき裂を溶接部から逸らす効果により脆性き裂は溶接部35の熱影響部の外へ逸れるものの、伝播停止には至らなかった。以上のことから本発明の有効性を確認した。
Claims (5)
- 厚みtが10mm以上の鋼板同士を主として突き合わせ溶接および/またはT継手溶接により組み立てて作製され、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定される溶接鋼構造物において、
前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部が、前記き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード沿いで該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設されており、該圧縮予ひずみ部は、各々、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置となる位置関係を有することを特徴とする、脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物。 - 厚みtが10mm以上の鋼板同士を主として突き合わせ溶接および/またはT継手溶接により組み立てて作製される鋼構造物であって、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定され、該脆性き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード(脆性き裂初期伝播ビード)方向には、溶接溶融線付近に脆性き裂の発生が想定される鋼板(脆性き裂発生鋼板)、さらに該鋼板より素材シャルピー破面遷移温度が20°K以上低い高靱性鋼板が順に配設されるとともに、それぞれ同種の鋼板同士は前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードとなる突き合わせ溶接にて接合され、それぞれシャルピー破面遷移温度の異なる異種鋼板同士は、前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードにほぼ直交する突き合わせ溶接またはT継手溶接(これらを総称して直交溶接という。)により接合されてなる溶接鋼構造物において、
前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部が、前記脆性き裂発生鋼板の前記脆性き裂初期伝播ビード沿いで該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設されており、各圧縮予ひずみ部は、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置であり、前記直交ビードの高靱性鋼板側の溶接溶融線からの最短距離cが2√(A/3)以内となる位置関係を有することを特徴とする、脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物。 - 前記脆性き裂発生鋼板と前記高靱性鋼板との接合部のなす角度dが20°〜180°であることを特徴とする、請求項2に記載の脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物。
- 厚みtが10mm以上の鋼板同士を主として突き合わせ溶接および/またはT継手溶接により組み立てて作製され、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定される溶接鋼構造物の製造方法において、
前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部を、前記き裂の初期伝播方向に沿った溶接を行った後に、該溶接ビードに沿って、該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設する溶接鋼構造物の製造方法であって、
該圧縮予ひずみ部は、各々、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置となる位置関係を有することを特徴とする、脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物の製造方法。 - 厚みtが10mm以上の鋼板同士を主として突き合わせ溶接および/またはT継手溶接により組み立てて作製される鋼構造物であって、鋼板素材のシャルピー破面遷移温度より高いシャルピー破面遷移温度である溶接溶融線付近に脆性き裂の発生、伝播が想定され、該脆性き裂の初期伝播方向に沿った溶接ビード(脆性き裂初期伝播ビード)方向には、溶接溶融線付近に脆性き裂の発生が想定される鋼板(脆性き裂発生鋼板)、さらに該鋼板より素材シャルピー破面遷移温度が20°K以上低い高靱性鋼板が順に配設されるとともに、それぞれ同種の鋼板同士は前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードとなる突き合わせ溶接にて接合され、それぞれシャルピー破面遷移温度の異なる異種鋼板同士は、前記脆性き裂初期伝播ビードまたは該ビードの延長ビードにほぼ直交する突き合わせ溶接またはT継手溶接(これらを総称して直交溶接という。)により接合されてなる溶接鋼構造物の製造方法において、
前記鋼板の板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上5%未満であり、該鋼板面上に占める面積Aが0.75t2〜3.15t2である圧縮予ひずみ部を、前記脆性き裂発生鋼板の前記脆性き裂初期伝播ビードを溶接した後に、該溶接ビードの沿いであって、該溶接ビードの両側のほぼ線対称位置に、一対以上配設する溶接鋼構造物の製造方法であって、
各圧縮予ひずみ部は、鋼板端部から板厚tの3倍以上離れた鋼板面内位置で、前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接溶融線からの最短距離aが5mm以上離れた位置であり、かつ前記脆性き裂初期伝播ビードの溶接金属中央線からの最短距離bが板厚相当距離t以内の位置であり、前記直交ビードの高靱性鋼板側の溶接溶融線からの最短距離cが2√(A/3)以内となる位置関係を有することを特徴とする、脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物の製造方法。
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JP2005108556A JP4505368B2 (ja) | 2004-04-21 | 2005-04-05 | 脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接鋼構造物およびその製造方法 |
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