JP2005303006A - 圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ヒステリシス損および渦電流損を低下することができる圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心を提供する。
【解決手段】 本発明の圧粉磁心の製造方法は、以下の工程を備えている。Feを主成分とする第1金属粒子10aの表面に第1絶縁被膜20aが形成された形態であって、飽和磁束密度Bsが1.5T以上である複合磁性粒子30aと、Feを主成分とし、かつAl,Si,Cr,Ni,およびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む第2金属粒子10bの表面に第2絶縁被膜20bが形成された形態の複合磁性粒子30bとを混合した混合粉末を作製する(ステップS1)。混合粉末を加圧成形して成形体を作製する(ステップS2)。成形体を500℃以上900℃以下で熱処理する(ステップS3)。
【選択図】 図2
【解決手段】 本発明の圧粉磁心の製造方法は、以下の工程を備えている。Feを主成分とする第1金属粒子10aの表面に第1絶縁被膜20aが形成された形態であって、飽和磁束密度Bsが1.5T以上である複合磁性粒子30aと、Feを主成分とし、かつAl,Si,Cr,Ni,およびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む第2金属粒子10bの表面に第2絶縁被膜20bが形成された形態の複合磁性粒子30bとを混合した混合粉末を作製する(ステップS1)。混合粉末を加圧成形して成形体を作製する(ステップS2)。成形体を500℃以上900℃以下で熱処理する(ステップS3)。
【選択図】 図2
Description
本発明は、圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心に関し、より特定的には、ヒステリシス損および渦電流損を低下することができる圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心に関する。
電磁弁、モータ、または電源回路などを有する電気機器には、軟磁性材料を用いて製造された圧粉磁心が使用されている。この軟磁性材料は、複数の複合磁性粒子よりなっており、複合磁性粒子は金属磁性粒子と、その表面を被覆するガラス状の絶縁被膜とを有している。軟磁性材料には、小さな磁場の印加で大きな磁束密度を得ることができ、外部からの磁界変化に対して敏感に反応できる磁気的特性が求められる。
この圧粉磁心を交流磁場で使用した場合、鉄損と呼ばれるエネルギー損失が生じる。この鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損との和で表わされる。ヒステリシス損とは、軟磁性材料の磁束密度を変化させるために必要なエネルギーによって生じるエネルギー損失をいう。ヒステリシス損は作動周波数に比例するので、主に低周波領域において支配的になる。また、ここで言う渦電流損とは、主として軟磁性材料を構成する金属磁性粒子間を流れる渦電流によって生じるエネルギー損失をいう。渦電流損は作動周波数の2乗に比例するので、主に高周波領域において支配的になる。
圧粉磁心には、この鉄損の発生を小さくする磁気的特性が求められる。これを実現するためには、構成粒子の透磁率μの向上および保磁率Hcの低減が必要となる。また、圧粉磁心として電気抵抗率ρを上昇することも必要である。さらに、作動時に大きな励起磁束密度が求められる場合には、構成粒子および圧粉磁心の飽和磁束密度Bsを大きくすることが重要である。
圧粉磁心の鉄損のうち、ヒステリシス損を低下させるためには、金属磁性粒子内の歪や転位を除去して磁壁の移動を容易にすることで、圧粉磁心の保磁力Hcを小さくすればよい。金属磁性粒子内の歪や転位を十分に除去するためには、軟磁性材料を400℃以上の高温で熱処理する必要がある。
ところが、絶縁被膜の耐熱性は低いので、軟磁性材料を400℃以上の高温で熱処理しようとすると、絶縁被膜が熱により劣化してしまう。このため、ヒステリシス損を低下させようと熱処理すると、軟磁性材料の電気抵抗率ρが低下し、渦電流損が大きくなってしまうという問題があった。特に、電気機器の小型化、効率化、および大出力化が近年要求されており、これらの要求を満たすためには、電気機器を高周波領域で使用することが必要である。高周波領域での渦電流損が大きくなれば、電気機器の小型化、効率化、および大出力化の妨げになってしまう。
そこで、絶縁被膜の耐熱性をある程度向上しうる技術が、たとえば特開2003−272911号公報(特許文献1)に開示されている。上記特許文献1には、耐熱性の高いリン酸アルミニウム系の絶縁被膜を有する複合磁性粒子よりなる軟磁性材料が開示されている。上記特許文献1では、以下の方法により軟磁性材料が製造されている。まず、アルミニウムを含むリン酸塩と、たとえばカリウム等を含む重クロム塩とを含む絶縁被覆水溶液が鉄粉に噴射される。次に、絶縁被覆水溶液が噴射された鉄粉が300℃で30分間保持され、100℃で60分間保持される。これにより、鉄粉に形成された絶縁被膜が乾燥される。次に、絶縁被膜が形成された鉄粉が加圧成形され、加圧成形後に熱処理され、軟磁性材料が完成する。
特開2003−272911号公報
しかしながら、上記特許文献1に開示されたリン酸アルミニウム系の絶縁被膜では未だ耐熱性が不十分であった。金属磁性粒子の歪や転位を十分に除去するためには、軟磁性材料を500℃〜800℃の高温で熱処理する必要がある。このような高温下でリン酸アルミニウム系の絶縁被膜を有する金属磁性粒子を熱処理した場合には、リン酸アルミニウム系絶縁被膜が劣化してしまう。その結果、軟磁性材料の電気抵抗率ρが低下し、渦電流損が大きくなってしまうという問題があった。
したがって、本発明の目的は、ヒステリシス損および渦電流損を低下することができる圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心を提供することである。
本発明の圧粉磁心の製造方法は、以下の工程を備えている。Fe(鉄)を主成分とする第1金属粒子の表面に第1絶縁被膜が形成された形態であって、飽和磁束密度Bsが1.5T以上である第1粒子と、Feを主成分とし、かつAl(アルミニウム),Si(ケイ素),Cr(クロム),Ni(ニッケル),およびCo(コバルト)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む第2金属粒子の表面に第2絶縁被膜が形成された形態の第2粒子とを混合した混合粉末を作製する。混合粉末を加圧成形して成形体を作製する。成形体を500℃以上900℃以下で熱処理する。
本発明の圧粉磁心の製造方法によれば、第2絶縁被膜に含まれる原子と第2金属粒子との間の相互拡散の速度は、絶縁被膜に含まれる原子と鉄原子との間の相互拡散の速度よりも遅くなる。このように、第2絶縁被膜に含まれる原子は第2金属粒子内に拡散しにくくなるので、第2絶縁被膜の劣化が進まなくなる。これにより、第1絶縁被膜が劣化する温度(500℃以上)で熱処理しても、第1金属粒子同士の間の絶縁が第1粒子同士の間に介在する第2粒子によって保たれる。その結果、圧粉磁心の電気抵抗率ρを高い状態に保つことができ、ヒステリシス損および渦電流損を低下することができる。また、900℃以下で熱処理することにより、第2絶縁被膜に含まれる原子が第2金属粒子内に拡散することによって第2絶縁被膜が消失したり、第2金属粒子内の不純物の濃度が増加したりすることを抑止できる。
上記製造方法において好ましくは、混合粉末を作製する際には、第1金属粒子に第1絶縁被膜を形成して第1粒子を作製し、第2金属粒子に第2絶縁被膜を形成して第2粒子を作製する。その後に、第1粒子と第2粒子とを混合する。
これにより、第1金属粒子の粒径と第2金属粒子の粒径とが大きく異なる場合にも、それぞれの粒子において適切な膜厚の絶縁被膜を均一に形成することができる。
上記製造方法において好ましくは、第1粒子の粒径は第2粒子の粒径よりも大きい。これにより、第1粒子同士の間に第2粒子が入り込むような構成となり易い。このため、第1金属粒子同士の間の絶縁が第2粒子によって保たれ易くなる。
上記製造方法において好ましくは、混合粉末中の第2粒子の割合は20体積%以上50体積%以下である。これにより、ヒステリシス損および渦電流損を一層低下することができる。
上記製造方法において好ましくは、第1絶縁被膜または第2絶縁被膜のいずれかがP(リン),Si,Al,Cr,Ti(チタン),およびZr(ジルコニア)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む化合物よりなっている。
P,Si,Al,Cr,Ti,およびZrは、絶縁性に優れているため、金属磁性粒子間に流れる渦電流をより効果的に抑制することができる。
上記製造方法において好ましくは、混合粉末を作製する際に、フェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の樹脂をさらに混合する。
これにより、加圧成形時の応力を受けて第1粒子および第2粒子の間で上記樹脂がたわむことにより、第1粒子および第2粒子の間で潤滑剤として機能するようになる。したがって、上記樹脂がバインダとして機能するので、圧粉磁心の成形性が向上する。また、絶縁被膜が成形により破損することを防止できる。
上記製造方法により圧粉磁心を製造することで、励起磁束密度が1T、交流磁界の周波数が1000Hzの場合の鉄損が120W/kg以下の圧粉磁心を得ることができる。
なお、本明細書中において「Feを主成分とする」とは、第1粒子または第2粒子におけるFeの割合が50質量%以上であることを意味している。
本発明の圧粉磁心の製造方法によれば、第2絶縁被膜に含まれる原子と第2金属粒子との間の相互拡散の速度は、絶縁被膜に含まれる原子と鉄原子との間の相互拡散の速度よりも遅くなる。このように、第2絶縁被膜に含まれる原子は第2金属粒子内に拡散しにくくなるので、第2絶縁被膜の劣化が進まなくなる。これにより、第1絶縁被膜が劣化する温度(500℃以上)で熱処理しても、第1金属粒子同士の間の絶縁が第1粒子同士の間に介在する第2粒子によって保たれる。その結果、圧粉磁心の電気抵抗率ρを高い状態に保つことができ、ヒステリシス損および渦電流損を低下することができる。また、900℃以下で熱処理することにより、第2絶縁被膜に含まれる原子が第2金属粒子内に拡散することによって第2絶縁被膜が消失したり、第2金属粒子内の不純物の濃度が増加したりすることを抑止できる。
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態における圧粉磁心を拡大して示す模式図である。
図1を参照して、本実施の形態の圧粉磁心は、複数の複合磁性粒子30によって構成されており、複合磁性粒子30は、2種類の複合磁性粒子30a,30bにより構成されている。第1粒子としての複合磁性粒子30aは、第1金属粒子10aと、第1金属粒子10aの表面に形成された第1絶縁被膜20aとを有している。第1金属粒子10aは、Feを主成分としており、たとえば純鉄や、Fe、Fe−Si系合金、またはFe−Co系合金などよりなっている。なお、Fe−Si系合金ではSiが7体積%以下の添加量であることが好ましく、Fe−Co系合金ではCoが50%までの添加量であることが好ましい。これらの材料はいずれも飽和磁束密度Bsが1.5T以上である。また、第2粒子としての複合磁性粒子30bは、第2金属粒子10bと、第2金属粒子10bの表面に形成された第2絶縁被膜20bとを有している。第2金属粒子10bは、Feを主成分とし、かつAl,Si,Cr,Ni,およびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含んでいる。第2金属粒子10bは、たとえばセンダストや電磁ステンレス粉などよりなっている。複数の複合磁性粒子30の各々の間には有機物40が介在している。複数の複合磁性粒子30の各々は、有機物40によって接合されていたり、複合磁性粒子30が有する凹凸の噛み合わせによって接合されていたりする。
第1金属粒子10aの平均粒径は、5μm以上300μm以下であることが好ましい。第1金属粒子10aの平均粒径が5μm以上である場合、鉄が酸化されにくくなるため、軟磁性材料の磁気的特性の低下を抑止できる。また、第1金属粒子10aの平均粒径が300μm以下である場合、後に続く成形工程時において混合粉末の圧縮性が低下することを抑止できる。これにより、成形工程によって得られた成形体の密度が低下せず、取り扱いが困難になることを防ぐことができる。また、複合磁性粒子30aの平均粒径は複合磁性粒子30bの平均粒径よりも大きい。
なお、平均粒径とは、ふるい法によって測定した粒径のヒストグラム中、粒径の小さい方からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径Dをいう。
第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bは、第1金属粒子10aおよび第2金属粒子10b間の絶縁層として機能する。第1金属粒子10aを第1絶縁被膜20aで覆い、第2金属粒子10bを第2絶縁被膜20bで覆うことによって、圧粉磁心の電気抵抗率ρを大きくすることができる。これにより、第1金属粒子10aおよび第2金属粒子10b間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉磁心の渦電流損に起因する鉄損を低減させることができる。
第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bの厚みは、0.005μm以上20μm以下であることが好ましい。第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bの厚みを0.005μm以上とすることによって、渦電流によるエネルギー損失を効果的に抑制することができる。また、第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bの厚みを20μm以下とすることによって、圧粉磁心に占める第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bの割合が大きくなりすぎない。このため、圧粉磁心の磁束密度が著しく低下することを防止できる。
有機物40は、たとえばたとえばフェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の樹脂よりなっている。なお、本実施の形態においては、複数の複合磁性粒子30の各々の間に有機物40が介在している場合について示したが、有機物40はなくてもよい。
次に、本実施の形態における軟磁性材料の製造方法について説明する。
図2は、本発明の一実施の形態における軟磁性材料の製造方法を示す工程図である。
図2を参照して、Feを主成分としており、たとえば純鉄や、Fe、Fe−Si系合金、またはFe−Co系合金などよりなる第1金属粒子10aを準備する。そして、この第1金属粒子10aを温度400℃以上900℃未満で熱処理する。熱処理の温度は、700℃以上900℃未満であることがさらに好ましい。熱処理前の第1金属粒子10aの内部には、多数の歪み(転位、欠陥)が存在している。第1金属粒子10aに熱処理を実施することによって、この歪みを低減させることができる。次に、たとえば、第1絶縁被膜20aの成分が溶解した水溶液中に第1金属粒子10aを浸漬し、その後乾燥することにより、第1金属粒子10aの表面に第1絶縁被膜20aを形成する(ステップS1a)。これにより、複合磁性粒子30aが得られる。
一方、Feを主成分とし、かつAl,Si,Cr,Ni,およびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含んでいる第2金属粒子10bを準備する。そして、第1金属粒子10aと同様の方法により熱処理される。次に、第1金属粒子10aと同様の方法により、第2金属粒子10bの表面に第2絶縁被膜20bを形成する(ステップS1b)。これにより、複合磁性粒子30bが得られる。
第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bの各々は、P,Si,Al,Cr,Ti,およびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む化合物よりなっていることが好ましく、たとえばリン酸アルミニウム化合物と、リン酸カルシウム化合物とを含む絶縁体よりなっている。また、第2金属粒子10bがセンダストよりなっている場合には、センダストに含有されるAlの酸化膜を第2絶縁被膜20bとしてもよい。また、第2金属粒子10bが電磁ステンレスよりなっている場合には、電磁ステンレスに含有されるCrの酸化膜を第2絶縁被膜20bとしてもよい。
次に、複合磁性粒子30aと、複合磁性粒子30bと、有機物40とを混合する(ステップS1c)。有機物40は、たとえばフェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、またはアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の樹脂よりなっている。混合粉末中の複合磁性粒子30bの割合は20体積%以上50体積%以下であることが好ましい。なお、混合方法に特に制限はなく、たとえばメカニカルアロイング法、振動ボールミル、遊星ボールミル、メカノフュージョン、共沈法、化学気相蒸着法(CVD法)、物理気相蒸着法(PVD法)、めっき法、スパッタリング法、蒸着法またはゾル−ゲル法などのいずれを使用することも可能である。以上のステップS1a〜S3aが混合粉末を作製する工程(ステップS1)である。
このように、第1金属粒子10aの表面に絶縁被膜20aを形成する工程(ステップS1a)と、第2金属粒子10bに絶縁被膜20bを形成する工程(ステップS1b)とを別々に行ない、その後、複合磁性粒子30aと複合磁性粒子30bとを混合する(ステップS1c)ことによって、第1金属粒子10aの粒径と第2金属粒子10bの粒径とが大きく異なる場合にも、均一な絶縁被膜をそれぞれの粒子に形成することができる。
次に、得られた混合粉末を金型に入れ、たとえば980MPa以上の圧力で加圧成形する(ステップS2)。これにより、混合粉末が圧縮されて成形体が得られる。加圧成形する雰囲気は、不活性ガス雰囲気または減圧雰囲気とすることが好ましい。この場合、大気中の酸素によって混合粉末が酸化されるのを抑制できる。
加圧成形の際、有機物40は、複合磁性粒子30の間で緩衝材として機能する。これにより、複合磁性粒子30同士の接触によって第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bが破壊されることを防ぐ。
次に、加圧成形によって得られた成形体を、500℃以上900℃以下で熱処理する(ステップS3)。このように、本実施の形態の製造方法では、500℃以上の高温で成形体を熱処理するので、加圧成形時に成形体の内部に発生した歪みを十分に除去することができる。ここで、第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bの熱分解温度は、たとえばリン酸系絶縁被膜の場合には500℃である。しかし、本実施の形態の製造方法では、500℃以上で熱処理しても第1金属粒子10b同士の絶縁を保つことができる。これについて以下に説明する。
複合磁性粒子30bにおいて、第2金属粒子10bは第2絶縁被膜20bの構成粒子と相互拡散しにくい材料よりなっている。このため、熱処理の際に第2絶縁被膜20bに含まれる原子は、第2金属粒子10b内に拡散しにくくなる。その結果、第2絶縁被膜の原子は第2金属粒子の表面に留まり、第2金属粒子の表面において第2絶縁被膜の原子の濃度が高くなる。すると、化学平衡によりさらに第2絶縁被膜の劣化が進まなくなる。このように、500℃以上で熱処理しても第2絶縁被膜20bが劣化しにくくなるので、複合磁性粒子30a同士の間に介在する複合磁性粒子30bによって、第1金属粒子10a同士の絶縁を保つことができる。
以上に説明した工程によって、図1に示す成形体が完成する。
なお、本実施の形態においては、複合磁性粒子30aと、複合磁性粒子30bと、有機物40とを混合する(ステップS1c)場合について示したが、複合磁性粒子30a,30bに対する有機物40の混合は必須の工程ではなく、有機物40を混合することなく、複合磁性粒子30a,30bのみで続く加圧成形(ステップS2)を実施してもよい。
また、本実施の形態においては、第1金属粒子10aの表面に第1絶縁被膜20aを形成する工程と、第2金属粒子10bに第2絶縁被膜20aを形成する工程とが別々に行なわれる場合について示したが、本発明はこのような場合に限定されるものではなく、第1金属粒子10aと第2金属粒子10bとを混合した後で、第1金属粒子10aと第2金属粒子10bとの各々に第1絶縁被膜20aと第2絶縁被膜20bとの各々を同時に形成してもよい。これにより、製造工程を簡略化することができる。
また、本実施の形態においては、第1絶縁被膜20aの成分が溶解した水溶液中に第1金属粒子10aを浸漬して第1絶縁被膜20aを形成する方法が示されたが、本発明はこのような場合に限定されるものではなく、第1金属粒子10aの表面に第1絶縁被膜20aを形成する方法は任意である。また、本実施の形態においては、第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bがリン酸アルミニウム化合物と、リン酸カルシウム化合物とを含む絶縁体である場合について示したが、本発明はこのような場合の他、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、酸化シリコン、酸化チタン、酸化クロム、酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムなどの酸化物絶縁体よりなる絶縁被膜が形成されてもよい。
本実施の形態の圧粉磁心の製造方法は、以下の工程を備えている。Feを主成分とする第1金属粒子10aの表面に第1絶縁被膜20aが形成された形態であって、飽和磁束密度Bsが1.5T以上である複合磁性粒子30aと、Feを主成分とし、かつAl,Si,Cr,Ni,およびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む第2金属粒子10bの表面に第2絶縁被膜20bが形成された形態の複合磁性粒子30bとを混合した混合粉末を作製する(ステップS1)。混合粉末を加圧成形して成形体を作製する(ステップS2)。成形体を500℃以上900℃以下で熱処理する(ステップS3)。
本実施の形態の圧粉磁心の製造方法によれば、第2絶縁被膜20bに含まれる原子と第2金属粒子10bとの間の相互拡散の速度は、第2絶縁被膜20bに含まれる原子と鉄原子との間の相互拡散の速度よりも遅くなる。このように、第2絶縁被膜20bに含まれる原子は第2金属粒子10b内に拡散しにくくなるので、第2絶縁被膜20bの劣化が進まなくなる。これにより、第1絶縁被膜20aが劣化する温度(500℃以上)で熱処理しても、第1金属粒子10a同士の間の絶縁が複合磁性粒子30a同士の間に介在する複合磁性粒子30bによって保たれる。その結果、圧粉磁心の電気抵抗率ρを高い状態に保つことができ、ヒステリシス損および渦電流損を低下することができる。また、900℃以下で熱処理することにより、第2絶縁被膜20bに含まれる原子が第2金属粒子10b内に拡散することによって第2絶縁被膜20bが劣化したり、第2金属粒子10b内の不純物の濃度が増加したりすることを抑止できる。
上記製造方法において好ましくは、混合粉末を作製する(ステップS1)際には、第1金属粒子10aに第1絶縁被膜20aを形成して複合磁性粒子30aを作製し(ステップS1a)、第2金属粒子10bに第2絶縁被膜20bを形成して複合磁性粒子30bを作製する(ステップS1b)。その後に、複合磁性粒子30aと複合磁性粒子30bとを混合する(ステップS1c)。
これにより、第1金属粒子10aの粒径と第2金属粒子10bの粒径とが大きく異なる場合にも、それぞれの粒子において適切な膜厚の絶縁被膜20a,20bを均一に形成することができる。
上記製造方法において好ましくは、複合磁性粒子30aの粒径は複合磁性粒子30bの粒径よりも大きい。これにより、複合磁性粒子30a同士の間に複合磁性粒子30bが入り込むような構成となり易い。このため、第1金属粒子10a同士の間の絶縁が複合磁性粒子30bによって保たれ易くなる。
上記製造方法において好ましくは、混合粉末中の複合磁性粒子30bの割合は20体積%以上50体積%以下である。これにより、ヒステリシス損および渦電流損を一層低下することができる。
上記製造方法において好ましくは、第1絶縁被膜20aまたは第2絶縁被膜20bのいずれかがP,Si,Al,Cr,Ti,およびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む化合物よりなっている。
P,Si,Al,Cr,Ti,およびZrは、絶縁性に優れているため、金属磁性粒子30間に流れる渦電流をより効果的に抑制することができる。
上記製造方法において好ましくは、複合磁性粒子30aと複合磁性粒子30bとを混合する(ステップS1c)際に、フェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の有機物40をさらに混合する。
これにより、加圧成形時の応力を受けて複合磁性粒子30aおよび複合磁性粒子30bの間で有機物40がたわむことにより、複合磁性粒子30aおよび複合磁性粒子30bの間で潤滑剤として機能するようになる。したがって、有機物40がバインダとして機能するので、圧粉磁心の成形性が向上する。また、第1絶縁被膜20aおよび第2絶縁被膜20bが成形により破損することを防止できる。
以下、本発明の実施例について説明する。
鉄の純度が99.8%以上であるヘネガス社製のABC100.30を第1金属粒子10aとして準備し、化成処理法によりリン酸鉄よりなる絶縁被膜20aを鉄粒子の表面に形成し、複数の複合磁性粒子30aよりなるA粉を作製した。また、電磁ステンレス粉末である大同特殊鋼社製のDAP410Lを第2金属粒子10bとして準備し、化成処理法によりリン酸鉄よりなる絶縁被膜20bを電磁ステンレス粒子の表面に形成し、複数の複合磁性粒子30bよりなるB粉を作製した。次に、全体に占めるB粉との割合を0体積%〜100体積%の範囲で変化させて、A粉と、B粉と、0.1質量%の添加樹脂とを混合し、混合粉末を作製した。次に、7〜15t/cm2(686〜1470MPa)の圧力で混合粉末を加圧成形し、成形体を作製した。次に、窒素気流雰囲気で300℃〜1000℃の温度範囲で成形体を熱処理し、圧粉磁心を作製した。得られた圧粉磁心の鉄損を測定した。この結果を表1に示す。なお、表1中のWは鉄損を示しており、Whはヒステリシス損を示しており、Weは渦電流損を示している。W,Wh,およびWeの単位は全てW/kgである。
表1に示すように、A粉とB粉とを混合して作製した試料2〜20の各々を500℃未満の温度で熱処理した場合のヒステリシス損Whよりも、500℃以上の温度で熱処理した場合のヒステリシス損Whの方が低くなっている。たとえば試料4を400℃の温度で熱処理した場合のヒステリシス損Whは114W/kgであるのに対して、試料4を500℃で熱処理した場合のヒステリシス損Whは86W/kgとなっており、500℃で熱処理した場合の方が低くなっている。一方、試料2〜20を900℃より大きな温度で熱処理した場合の渦電流損Weは、900℃以下の温度で熱処理した場合の渦電流損Weの方が低くなっている。たとえば試料7を1000℃の温度で熱処理した場合の渦電流損Weは1976W/kgであるのに対して、試料7を900℃の温度で熱処理した場合の渦電流損Weは244W/kgとなっており、900℃の温度で熱処理した場合の渦電流損Weの方が低くなっている。これにより、500℃以上900℃以下で熱処理することにより、ヒステリシス損Whおよび渦電流損Weを低下できることが分かる。
また、A粉のみで作製した試料1の渦電流損Weと、A粉とB粉とを混合して作製した試料2〜20の渦電流損Weとを比較して、試料2〜20の渦電流損Weは、300℃〜1000℃のいずれの温度で熱処理した場合も試料1の渦電流損Weの値よりも低くなっている。特に、B粉を20体積%以上50体積%以下の割合で混合して作製した試料5〜11の渦電流損Weは一層低くなっている。たとえば700℃の温度で熱処理した場合で比較すると、試料1の渦電流損Weは1537W/kgであるのに対して、試料2の渦電流損Weは1395W/kgとなっており、試料2の方が低くなっている。さらに、試料11の渦電流損Weは32W/kgとなっており、試料11では一層低くなっている。したがって、B粉を混合して圧粉磁心を作製することにより、渦電流損Weを低下できることが分かる。また、混合粉末中のB粉の割合を20体積%以上とすることにより、渦電流損Weを一層低下できることが分かる。
さらに、B粉を20体積%以上50体積%以下の割合で混合して作製した試料5〜11のヒステリシス損Whと、B粉を55体積%以上の割合で混合して作製した試料12〜21のヒステリシス損Whとを比較して、試料5〜11のヒステリシス損Whは、300℃〜1000℃のいずれの温度で熱処理した場合も試料12〜21のヒステリシス損Whよりも低くなっている。これは、電磁ステンレス粉末の添加量が増加すると保磁力Hcなどの交流磁気特性が低下するためである。したがって、混合粉末中のB粉の割合を20体積%以上50体積%以下とすることにより、渦電流損Weとともにヒステリシス損Whも低下できることが分かる。
B粉を25体積%の割合で混合して作製した試料6を600℃の温度で熱処理した場合には、鉄損が105W/kgとなっており、試料6を700℃の温度で熱処理した場合には、鉄損が102W/kgとなっている。また、B粉を30体積%の割合で混合して作製した試料7を700℃の温度で熱処理した場合には、鉄損が111W/kgとなっており、試料7を800℃の温度で熱処理した場合には、鉄損が114W/kgとなっている。さらに、B粉を35体積%の割合で混合して作製した試料8を700℃の温度で熱処理した場合には、鉄損が116W/kgとなっている。したがって、これらの条件で圧粉磁心を作製することで、得られる圧粉磁心の鉄損が120W/kg以下となることが分かる。
以上に開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態および実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
10a,10b 金属粒子、20a,20b 絶縁被膜、30,30a,30b 複合磁性粒子、40 有機物。
Claims (7)
- Feを主成分とする第1金属粒子の表面に第1絶縁被膜が形成された形態であって、飽和磁束密度Bsが1.5T以上である第1粒子と、
Feを主成分とし、かつAl,Si,Cr,Ni,およびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む第2金属粒子の表面に第2絶縁被膜が形成された形態の第2粒子とを混合した混合粉末を作製する工程と、
前記混合粉末を加圧成形して成形体を作製する工程と、
前記成形体を500℃以上900℃以下で熱処理する工程とを備える、圧粉磁心の製造方法。 - 前記混合粉末を作製する工程は、
前記第1金属粒子に前記第1絶縁被膜を形成して前記第1粒子を作製する工程と、
前記第2金属粒子に前記第2絶縁被膜を形成して前記第2粒子を作製する工程と、
前記第1粒子を作製する工程および前記第2粒子を作製する工程の後に、前記第1粒子と前記第2粒子とを混合する工程とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。 - 前記第1粒子の平均粒径は前記第2粒子の平均粒径よりも大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載の圧粉磁心の製造方法。
- 前記混合粉末中の前記第2粒子の割合は20体積%以上50体積%以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。
- 前記第1絶縁被膜または前記第2の絶縁被膜のいずれかがP,Si,Al,Cr,Ti,およびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む化合物よりなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。
- 前記混合粉末を作製する工程において、フェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の樹脂をさらに混合することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により製造された圧粉磁心であって、励起磁束密度が1T、交流磁界の周波数が1000Hzの場合の鉄損が120W/kg以下であることを特徴とする、圧粉磁心。
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