JP2005272229A - 高飽和磁束密度Mn−Zn−Ni系フェライト - Google Patents

高飽和磁束密度Mn−Zn−Ni系フェライト Download PDF

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Abstract

【課題】 電源用トランス、特にフライバック方式のスイッチング電源用トランスとして好適な、高い飽和磁束密度と低い磁気損失とを兼ね備えたMn-Zn-Ni系フェライトを提供する。
【解決手段】 Fe23,ZnO,NiOおよびMnOを基本成分とするMn-Zn-Ni系フェライト焼結体であって、その組成がFe23換算で57〜68mol%,ZnO:4〜16mol%,NiO:3〜12mol%を含み、残部が実質的にMnOからなり、このフェライト中にはさらに、SiO2:0.005〜0.05mass%およびCaO:0.020〜0.20mass%を含有すると共に、Ta25,ZrO2,Nb25,V25,HfO2,Bi23,MoO3,TiO2およびSnO2のうちから選ばれる1種または2種以上を含み、かつ、気孔率が3%以下である高飽和磁束密度Mn-Zn-Ni系フェライトとする。
【選択図】 なし

Description

本発明は、スイッチング電源等の電源トランス、特にフライバック方式の電源トランス等に用いて好適な、高い飽和磁束密度を有するMn-Zn-Ni系フェライトに関するものである。
フェライトと称される酸化物磁性材料は、Ba系フェライト、Sr系フェライトなどの硬質磁性材料と、Mn-Zn系フェライト、Ni-Zn系フェライトなどの軟質磁性材料とに分類される。このうち軟質磁性材料は、非常にわずかな磁場に対しても容易に磁化するため、電源や通信機器、計測制御機器、コンピュータなどの多方面にわたって用いられている。そのため、これらの軟磁性材料には、保磁力が小さくて透磁率が高いこと、飽和磁束密度が大きいこと、磁気損失が低いことなどの特性が要求される。
軟磁性材料には、上記フェライト以外に、金属系の磁性材料がある。この金属系軟磁性材料は、飽和磁束密度が高いという特長を有している反面、電気抵抗が低いため、高周波数帯域で使用する場合には、渦電流に起因する損失が大きくなり、低損失を維持することができないという問題がある。そのため、金属系磁性材料は、電子機器の小型化・高密度化にともなって使用周波数帯域の高周波化が進む今日では、特に、スイッチング電源等に用いられている100kHz程度の周波数帯域では、渦電流損による発熱が大きくなるので用いることはできない。このような背景から、現在、高周波数帯域で用いられる電源用トランスの磁心材料としては、酸化物系のフェライト、中でもMn-Zn系フェライトが主に用いられている。
上記電源用としてのMn-Zn系フェライトには、特に、飽和磁束密度Bsが高いこと、キュリー温度Tcが高いこと、および磁気損失Pcvが低いことが要求される。これらの特性のうち、飽和磁束密度Bs、キュリー温度Tcは、磁気モーメントを有する金属原子の種類ならびにそれが占める位置により変化することが知られており、主成分の組成によりほぼ決定される。
ところで、電子機器の電源部分は、小型化の要請に応えるため、各種部品が高密度に積載される傾向にあり、そのため、それら部品からの発熱により、フェライトコアが使用される温度、つまり、動作温度は80〜100℃にも達する。酸化物系フェライトの飽和磁束密度は、温度の上昇とともに減少し、磁気が消失する温度であるキュリー温度でゼロとなる。したがって、キュリー温度が高いほど、室温からトランス動作温度(80〜100℃)までの飽和磁束密度を高く維持することができる。一般に、キュリー温度や飽和磁束密度は、基本組成であるFe23の量が多いほど高くなることが知られており、例えば、特許文献1の技術では、Fe23の量を増やすことにより飽和磁束密度を高めている。
一方、フェライトの磁気損失Pcvに影響する要因としては、磁気異方性定数K1ならびに飽和磁歪定数λsが知られており、従来から、Mn-Zn系フェライトにおいては、これらのパラメータが小さくなるようなMnO-ZnO-Fe23三元系の組成領域が選択されている。すなわち、磁気損失が小さくなる組成領域とは、電源用トランスの動作温度(80〜100℃)において、磁気異方性定数K1ならびに飽和磁歪定数λsがともに小さくなる三元系組成領域であるといえる。具体的には、Fe23が52〜54mol%、ZnOが10〜16mol%付近の組成領域をさす。したがって、磁気損失はこの領域から外れるにつれ増加の一途をたどる。
また、Mn-Zn系フェライトの磁気損失Pcvは、温度による変化が大きいため、動作温度付近で磁気異方性定数K1がゼロとなるよう、基本成分の組成範囲を選択しているが、従来のMn-Zn系フェライト(MnO-ZnO-Fe23三元系フェライト)おいては、飽和磁束密度を高めるためにFe23量を増していくと、磁気損失が最小となる温度が低温側に変化する。そのため、Fe23量を増やし、磁気損失が最小となる温度が室温付近まで低下した場合には、動作温度(80℃〜100℃)における磁気損失は非常に大きな値となる。
しかし、Fe23の量を従来の組成領域を超えて60mol%以上に増加させると、逆に、損失が最小となる温度が上昇に転じることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。したがって、Fe23量の多い組成領域でも、基本成分を調整することにより、動作温度付近で磁気損失を最小とすることができる。特許文献1の技術でも、この付近の組成範囲を選択している。
特開平11−329822号公報 K.Ohta;"Magnetocrystalline Anisotropy and Magnetic Permeability of Mn-Zn-Fe Ferrites"J.Phys.Soc.Japan,18(1963)685
ところが、MnO-ZnO-Fe23三元系においては、飽和磁束密度を高めるためにFe23量を60mol%超えとすると、磁気損失が最小となる温度を動作温度付近にすることができる反面、飽和磁歪定数λsに対する最適組成からは外れるため、磁気損失の値は増大する。そのため、高飽和磁束密度を維持するために損失を犠牲にするか、あるいは、損失を優先して従来材並みの飽和磁束密度で満足するかのいずれでしかなかった。
この問題に対して、発明者らは、Fe23量が60mol%を超えるMnO-ZnO-Fe23三元系フェライトに基本成分としてNiOを加えることにより、飽和磁束密度を高い値に維持したまま損失を低減することができることを見出している(特願2003−420414)。この技術によれば、従来材に比べると十分高い飽和磁束密度Bsを有するフェライトを得ることができる。しかし、電子機器分野における電源部分への小型化の要請は、依然として強く、さらに飽和磁束密度を高め、磁気損失を低減させたフェライト材料が求められている。
本発明の目的は、電源用トランス、特にフライバック方式のスイッチング電源用トランスとして好適な、高い飽和磁束密度と低い磁気損失とを兼ね備えたMn-Zn-Ni系フェライトを提供することにある。
発明者らは、上述した課題を解決する、すなわち、Fe23量が従来材より多くかつNiOを基本成分に含む組成において、飽和磁束密度Bsをさらに高く、磁気損失をより低くするために、フェライト焼結体の結晶組織について詳細に調査を行った。その結果、焼結体に含まれている気孔の量(気孔率)を少なくし、かつ気孔の大きさを小さくすることによって、高い飽和磁束密度を損なうことなく磁気損失を大きく低減できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、Fe23,ZnO,NiOおよびMnOを基本成分とするMn-Zn-Ni系フェライトであって、その組成がFe23:57〜68mol%,ZnO:4〜16mol%,NiO:3〜12mol%を含み、残部が実質的にMnOからなり、このフェライト中にはさらに、SiO2:0.005〜0.05mass%およびCaO:0.020〜0.20mass%を含有すると共に、Ta25,ZrO2,Nb25,V25,HfO2,Bi23,MoO3,TiO2およびSnO2のうちから選ばれる1種または2種以上を下記範囲で含み、かつ気孔率が3%以下であることを特徴とする高飽和磁束密度Mn-Zn-Ni系フェライトである。

Ta25:0.005〜0.10mass%
ZrO2:0.010〜0.15mass%
Nb25:0.005〜0.05mass%
25:0.001〜0.05mass%
HfO2:0.005〜0.05mass%
Bi23:0.003〜0.03mass%
MoO3:0.003〜0.03mass%
TiO2:0.010〜0.30mass%
SnO2:0.010〜2.00mass%
また、本発明のMn-Zn-Ni系フェライトは、気孔の平均径が1μm以下であることを特徴とする。
また、本発明のMn-Zn-Ni系フェライトは、100℃における飽和磁束密度が465mT以上であることを特徴とする。
本発明によれば、飽和磁束密度が高くかつ磁気損失の小さいMn-Zn-Ni系フェライトを提供することができるので、スイッチング電源トランス、中でも、フライバック方式の電源トランスに用いた場合には、これらの小型化に大いに寄与する。
軟磁性材料であるMn-Zn系フェライトに求められる磁気特性としては、飽和磁束密度Bsが大きいこと、キュリー温度Tcが高いこと、損失Pcvが小さいことが挙げられる。これらの特性は、基本成分であるMnO,ZnOおよびFe23の比でほぼ決定される。従来の電源用Mn-Zn系フェライトで採用されていた組成領域(Fe23が52〜54mol%、ZnOが10〜16mol%付近)では、Fe23量の増加にともない飽和磁束密度が増加し、かつキュリー温度も上昇するが、磁気異方性定数K1がゼロとなる温度、すなわち磁気損失が最小となる温度が低下するため、動作温度での磁気損失が増大する。一方、ZnOの量が増加すると、損失が最小となる温度が低温側に移行するため、この温度動作付近に維持するためには、相対的にFe23の量を少なくする必要があり、飽和磁束密度の低下を招く。またZnO量の増加に伴いキュリー温度も低下する。
一方、Mn-Zn系フェライトにおいて、Fe23の量を、60mol%を超えて含有させた場合には、磁気異方性定数K1がゼロとなる温度がトランス動作温度(80〜100℃)付近となる組成領域においても、Fe23量の増加にともない飽和磁束密度が増加し、キュリー温度も上昇する。しかも、従来のFe23量が52〜54mol%のMn-Zn系フェライトの場合とは逆に、Fe23量を増やすことにより損失が最小となる温度は高温側へシフトする。しかし、この組成領域では、飽和磁歪定数λsが大きくなるため、従来のFe23量が52〜54mol%のMn-Zn系フェライトと比べると、損失値は著しく大きくなる。
ここで、Fe23を57mol%以上、特に60mol%超え含むMn-Zn系フェライトに、基本成分としてさらにNiOを加えた場合には、磁気損失が最小となる温度が上昇するため、この温度を動作温度域に維持するためにはFe23量を減らす必要があり、これにより飽和磁束密度は若干下がる傾向にあるが、NiOを加えることにより損失を顕著に低下することができる。したがって、添加するNiOの量を適正範囲とすれば、飽和磁束密度の大きな低下を招くことなく、この組成領域で特有の高い損失を低減することができる。ここで、フェライト焼結体中に含まれる気孔の量と大きさを小さく制御すれば、その効果をより高めることができる。本発明は、上記技術思想に基くものである。
次に、本発明に係るMn-Zn-Ni系フェライトの成分組成の限定理由について説明する。
Fe23:57〜68mol%
Fe23は、57mol%以上、特に60mol%を超える領域では、その量が多いほど飽和磁束密度が高くなり、磁気損失も下がる傾向にある。しかし、Fe23は多すぎると、損失が最小となる温度が高くなるため、トランス動作温度での損失が増大する。そのため、Fe23含有量の上限を68mol%とする。一方、Fe23が少なくなると、損失が最小となる温度が逆に低温側に移行し、同じく動作温度での損失が増大する。ただし、NiOを多く含む場合には損失が最小となる温度は高温側に移行するため、Fe23量を少なくする必要があり、下限を57mol%とする。好ましくは60超〜68mol%であり、より好ましくは60超〜65mol%である。
ZnO:4〜16mol%
Fe23が多い組成範囲では、ZnOの含有量が10〜12mol%付近で飽和磁束密度が最大となる。損失が最小となる温度を動作温度域とするためには、Fe23量の範囲によりZnO量を調節する必要があるが、高飽和磁束密度を維持するためには、4〜16mol%の範囲であることが必要である。好ましくは8超〜16mol%、より好ましくは10〜14mol%である。
NiO:3〜12mol%
NiOは、含有量が3mol%未満では、上述した磁気損失の改善効果を得ることができない。一方、NiOは、損失が最小となる温度を高温側に移行させるため、含有量が多過ぎる場合には、Fe23やZnOの量を調整してもこの温度を動作温度付近に維持できなくなるので、上限を12mol%とする。好ましくは、5〜8mol%である。
本発明のMn-Zn-Ni系フェライトは、上記基本成分に加えて、SiO2,CaOを下記の範囲で添加することにより、焼結性を高めかつ粒界を高抵抗化して低い磁気損失を得ることができる。
SiO2:0.005〜0.05mass%
SiO2は、焼結を促進する効果があり、この効果を発現させるためには0.005mass%以上の添加が必要である。一方、多過ぎると異常粒成長を起こすため、上限を0.05mass%とする。ただし、この上限付近の添加量では、粒成長を抑止して最適な結晶組織とするためには、焼結温度を下げる等の配慮が必要である。好ましい添加量は、0.005〜0.02mass%である。
CaO:0.020〜0.20mass%
CaOは、SiO2とともに、粒界を高抵抗化して磁気損失を小さくする働きがある。0.020mass%以下ではその効果が見られず、一方、0.20mass%を超えると焼結性に問題が発生する。好ましい添加量は、0.010〜0.10mass%である。
本発明のフェライトは、上記基本成分、添加成分の他にさらに、スピネルに固溶しないTa25,ZrO2,Nb25,V25,HfO2,Bi23およびMoO3、さらに、スピネル構成元素として部分的に固溶するTiO2およびSnO2の中から選ばれる1種または2種以上を、下記の範囲で添加する。これにより、磁気損失の小さい高性能な電源用Mn-Zn-Ni系フェライトとすることができる。
Ta25は、SiO2,CaOの共存下で比抵抗の増加に有効に寄与するが、含有量が0.005mass%に満たない場合はその効果に乏しく、一方、0.10mass%を超えると逆に磁気損失の増大を招く。よって、Ta25は0.005〜0.10mass%の範囲で添加するのが好ましい。
ZrO2は、SiO2,CaO,Ta25の共存下で、Ta25と同様に粒界の抵抗を高めて高周波数帯域での磁気損失の低減に有効に寄与する。Ta25と比べると抵抗増加の効果は少ないが、損失低減の寄与が大きく、特に磁気損失が最小となる温度付近から高温側における損失の低減に寄与する。ZrO2含有量が0.010mass%未満ではその効果に乏しく、一方、0.15mass%を超えると逆に比抵抗を高める効果が飽和し、磁気損失が増大する。よって、ZrO2は0.010〜0.15mass%の範囲で添加するのが好ましい。
Nb25は、SiO2,CaOと粒界相を形成し、粒界抵抗を高めて磁気損失の低減に寄与する。Nb25添加量は、0.005mass%未満では添加効果に乏しく、一方、0.05mass%を超えると、過剰に粒界相に析出して磁気損失を増大させるので、0.005〜0.05mass%の範囲で添加するのが好ましい。
25,HfO2は、ともに異常粒成長を抑制し、粒界抵抗を高める働きがある。少ないとその改善効果が小さく、また多すぎると磁気損失が増大するためV25:0.001〜0.05mass%、HfO2:0.005〜0.05mass%の範囲で添加することが好ましい。
Bi23,MoO3は、結晶粒内の応力を緩和する働きがあると考えられており、磁気損失の低減に有効に寄与する。添加量が少ないとその改善効果が小さく、また多すぎると磁気損失が増大するため、Bi23:0.003〜0.03mass%、MoO3:0.003〜0.03mass%の範囲で添加するのが好ましい。
TiO2,SnO2は、スピネル構成元素として部分的に粒内に固溶する。TiO2は、一部粒界にも存在し、焼成後の冷却過程で粒界再酸化を助長して磁気損失を低下させる。この効果を得るためには、0.010mass%以上の添加が好ましく、逆に多すぎると異常粒成長を引き起こすため0.30mass%以下で添加する。SnO2は、損失低減に寄与するためには、0.010mass%以上添加することが好ましく、一方、TiO2ほど異常粒成長を引き起こさないため、上限は2.0mass%まで添加することができる。
以上、基本成分と添加成分について説明したが、これら以外に飽和磁束密度Bsに影響を及ぼす要因としてコアの焼結密度があり、飽和磁束密度を高めるためには、このコアの焼結密度を高めることが有効である。この焼結体の密度は、主に製造条件により決定される。
Mn-Zn系フェライト焼結体は、一般的に、基本成分を含む酸化物原料を混合し、仮焼した後に微量添加成分を加えて粉砕し、その粉砕粉を圧縮した成形体を焼成して焼結体とする工程で製造される。上記工程において、フェライト焼結体は、仮焼の段階で各原料粉が反応してスピネル化合物となるが、この段階で全反応が終了してスピネル単相となってしまうと粉砕し難くなるため、通常は、一部未反応のままとしておき、焼成時に完全なスピネル化合物とするのが普通である。また、成形後の焼成段階では、スピネル化反応とともに、粉砕粉の粒どうしが結合し、粒成長して緻密化が進む。
上記スピネル化反応においては、相変化にともない酸素の放出があり、この酸素が、緻密化が進行する間に、炉内の雰囲気ガスとともに焼結体内部に閉じこめられ、気孔となって残存する。Mn-Zn系フェライトの磁気損失を下げるためには、結晶粒の大きさやその分布、いわゆる焼結体内の結晶組織を整える必要がある。そのためには、気孔がある程度存在することは止むを得ないが、気孔が少なければ焼結体密度を高めることができる。さらに、気孔は、磁化される過程で、磁壁移動を抑える働きをすると考えられるので、この観点からも少ない方が好ましい。
発明者らは、本発明の組成範囲にあるMn-Zn-Ni系フェライトにおけるスピネル反応を調べた結果、Fe23量が52〜54mo1%である従来のMn-Zn系フェライトと比べると、スピネル化が進行し難く、比較的高温でスピネル化が完了することがわかった。そのため、緻密化がある程度進んでから酸素が放出される結果、気孔の残る確率が高くなり、飽和磁束密度ならびに磁気損失に悪影響を及ぼしていることが推測された。そこで、フェライト焼結体内に含まれる気孔の量(気孔率)とその大きさとフェライトの特性との関係を調べたところ、気孔率が小さいほど、また、同じ気孔率でも気孔の大きさが小さいほど、飽和磁束密度Bsが大きく、磁気損失Pcvも低くなることがわかった。
焼結体内に含まれる気孔の量を少なくし、気孔の大きさを小さくする方法には、焼成の昇温過程における雰囲気ガスの酸素濃度を下げてスピネル化を促進する方法、あるいは、同じく焼成の昇温過程で炉内を減圧にして、焼結が進行している間に残留するガス成分を除去する方法などが考えられる。また、雰囲気制御は難しいが、HIP法も気孔を排除するには有効な手段である。なお、本発明においては、気孔率の測定は、焼結体を切断した面を研磨した後、エッチングし、顕微鏡により撮影した写真(500〜1000倍)を画像解析して気孔の面積を求め、この気孔の面積の総和を、調査総面積で割った値を3/2乗した百分率で定義した。また、気孔の大きさは、個々の気孔の面積から、気孔を円と見なして直径を求め、これを気孔の大きさとした。
Mn-Zn-Ni系フェライトの基本成分の最終組成が表1に示した組成となるように、原料酸化物を配合し、ボールミルを用いて湿式混合し、乾燥した後、この混合粉を大気雰囲気中で940℃×3時間の仮焼を行い仮焼粉とした。この仮焼粉に対して、SiO2:0.0075mass%、CaCO3:0.110mass%、Ta25:0.012mass%、Nb25:0.006mass%およびZrO2:O.010mass%を添加し、再度、ボールミルを用いて湿式混合して粉砕し、乾燥し、この粉末にポリビニルアルコール5mass%水溶液を10mass%加えて造粒した粉末を、外径36mm、内径24mm、高さ12mmのリング状に成形した。この成形体を、酸素分圧を制御した窒素・空気混合ガス中で1350℃×3時間の焼成を行なった。この際、昇温中の700℃から保持温度である1350℃に至るまでの炉内雰囲気ガスを、酸素濃度を5%とした場合(パターンA)と、窒素雰囲気とした場合(パターンB)との2通りで行った。このようにして得た焼結体試料に巻線を施し(1次側5巻・2次側5巻)、100℃の温度における周波数100kHz、最大磁束密度200mTでの電力損失を、交流BHトレーサーを用いて測定した。また同じ焼結体試料に、1次側20巻・2次側40巻の巻線を施し、直流BHループトレーサーを用いて100℃の温度で1200A/mの磁場をかけたときの磁束密度を測定した。この大きさの磁場では、磁束はほぼ飽和しており、この磁束密度の値は飽和磁束密度Bsと見なせる。また、これらのコアを切断して研磨し、エッチングした断面について、800倍で写真撮影を行い、この写真を画像解析して気孔率を求めた。
昇温パターンA,Bそれぞれについての、100℃における損失値、磁束密度、ならびに気孔率の測定結果について表1に併記して示した。この表1から、本発明の基本成分および気孔率に適合している実施例では、高い飽和磁束密度Bsを保持したままで磁気損失Pcvを低減できていることがわかる。特に、焼成における昇温過程の一部を窒素雰囲気とすることにより、気孔率が低下する結果、飽和磁束密度が高く、磁気損失が安定して低いフェライト焼結体を得ることができる。
Figure 2005272229
表1に示したNo.2および4と同じ組成からなる成形体に対して、1350℃×3時間の焼成を行った。この際、焼成の昇温過程は、900〜1100℃の範囲において炉内を減圧し、さらに1350℃までを窒素雰囲気とする条件(パターンC)で行った。このようにして得た焼結体試料について、実施例1と同様の条件で磁気損失および磁束密度を測定した。また、実施例1と同様にして断面を写真撮影し気孔率を測定した。また、先述した方法で、気孔の平均径も測定した。これらの結果を、表1のNo.2および4と比較して表2に示した。この表2の結果から、気孔率に大きな差が見られない場合でも、気孔の大きさを小さくした場合には、磁気損失がより低く、飽和磁束密度もわずかであるが高くすることができる。
Figure 2005272229
Mn-Zn-Ni系フェライトの基本成分組成として、Fe23:MnO:ZnO:NiOが61.6:20.4:ll.5:6.5のモル比となるように調整した仮焼粉を作製し、この仮焼粉に対して表3に示した各種酸化物を添加した後、実施例1と同様にして、粉砕、成形したものを、酸素分圧を制御した窒素・空気混合ガス中で、1230〜1380℃×2〜6時間の焼成を行い、焼結体とした。なお、焼成の昇温過程では、800〜1000℃の範囲において炉内を減圧し、その後、保持温度までの雰囲気ガスの酸素濃度を0.5〜5%に制御した。このようにして得た焼結体について、実施例1と同様の条件で磁気損失および磁束密度を測定した。
結果を表3中に併記して示した。酸化物の添加量が本発明の範囲内である場合には、飽和磁束密度が高く、比較的損失が低いMn-Zn-Ni系フェライトが得られている。これに対し、添加物の量が本発明の範囲から外れたものは、いずれも飽和磁束密度が低く、磁気損失が大きくなっていることがわかる。
Figure 2005272229
Figure 2005272229
本発明の技術は、DC−DCコンバータ等のチョークコイルにも適用することができる。

Claims (3)

  1. Fe23,ZnO,NiOおよびMnOを基本成分とするMn-Zn-Ni系フェライトであって、その組成がFe23:57〜68mol%,ZnO:4〜16mol%,NiO:3〜12mol%を含み、残部が実質的にMnOからなり、このフェライト中にはさらに、SiO2:0.005〜0.05mass%およびCaO:0.020〜0.20mass%を含有すると共に、Ta25,ZrO2,Nb25,V25,HfO2,Bi23,MoO3,TiO2およびSnO2のうちから選ばれる1種または2種以上を下記範囲で含み、かつ気孔率が3%以下であることを特徴とする高飽和磁束密度Mn-Zn-Ni系フェライト。

    Ta25:0.005〜0.10mass%
    ZrO2:0.010〜0.15mass%
    Nb25:0.005〜0.05mass%
    25:0.001〜0.05mass%
    HfO2:0.005〜0.05mass%
    Bi23:0.003〜0.03mass%
    MoO3:0.003〜0.03mass%
    TiO2:0.010〜0.30mass%
    SnO2:0.010〜2.00mass%
  2. 気孔の平均径が1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の高飽和磁束密度Mn-Zn-Ni系フェライト。
  3. 100℃における飽和磁束密度が465mT以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の高飽和磁束密度Mn-Zn-Ni系フェライト。

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