JP2005245247A - Herp欠損細胞を利用した評価系 - Google Patents

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Abstract

【課題】 安定で増殖効率が高い細胞系を利用した、小胞体ストレス由来細胞死に対する新規評価系、および該評価系を利用した小胞体ストレス由来細胞死に起因する各種疾患の予防または治療薬のスクリーニング系を提供すること。
【解決手段】 染色体上のHerp遺伝子の機能が欠損している未分化癌細胞に誘起される細胞死および/または形態的あるいは生化学的変化を指標として、被験物質の小胞体ストレス由来細胞死に対する効果を評価する方法。
【選択図】 図7

Description

本発明は、Herp欠損細胞を利用した評価系に関する。より詳しくは、Herp遺伝子を欠損させた未分化癌細胞を利用した小胞体ストレス由来細胞死を制御する薬剤の評価系に関する。
分泌系の蛋白、および膜蛋白は、蛋白へ翻訳されると直ちに小胞体へ取り込まれ、一定の修飾を受けた後にゴルジ装置へ送られる。このとき、何らかの理由で未熟な(unfoldな)蛋白が小胞体へ蓄積してしまう場合があり、そのような状態を“小胞体ストレス”と呼ぶ。小胞体ストレスの原因としては、小胞体内で起こる修飾(糖鎖、ジスルフィド結合の付加)の障害、Ca恒常性の障害、小胞体からの輸送の低下、低酸素などがあげられる。哺乳類の細胞は、このような小胞体ストレスに対して、通常少なくとも3種類の方法で対抗していると考えられている。(1)小胞体内の分子シャペロンなどを増やして、小胞体に蓄積した蛋白を保護する(UPR:unfolded protein response);(2)小胞体に流入する蛋白を減らして、負荷を軽減する;(3)小胞体で蓄積した蛋白を細胞質で分解する(ERAD:ER associated protein degradation)。
しかし、これらの防御機構に対し、ストレスが遙かに大きい場合、あるいは防御機構のどこかに問題があってうまく働かない場合、ある種の細胞死が起こると考えられている。こうした小胞体ストレス由来の細胞死の特徴は、形態的にアポトーシスの特徴を示し、またCHOP、JNK、caspaseと呼ばれる分子の発現誘導、あるいは活性化を伴うことである。
近年、小胞体ストレス由来細胞死は、糖尿病、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患、虚血性疾患など様々な病的状態に深く関わっていることが明らかにされてきた。従って、小胞体ストレス由来細胞死を克服することは、様々な疾患に対し、新たな治療法を提供することになると考えられる。
薬剤開発では、候補薬剤を大量にスクリーニングするための評価系が必要であるが、神経細胞の培養系は極めて不安定で、薬剤スクリーニング等の評価系には適さない。これまで小胞体ストレス由来細胞死を引き起こす細胞モデルとして、神経細胞や膵臓ランゲルハンス島の初代培養、あるいは異常な小胞体蛋白を過剰発現させた細胞株等が知られている。しかしながら、それらの細胞は長期間にわたって維持することが技術的に困難であったり、細胞増殖が遅いため、一度に多くの化合物等をスクリーニングすることはできない。
一方、発明者らはアストログリアを低酸素暴露して誘導される遺伝子を同定し、その1つをSUP(stress-associated ubiquitin-like protein)と名付け、DDBJに登録した。SUPは、ほぼ同時期に他のグループによりHerpという名称でも報告されGenBankに登録された(非特許文献1参照)。以後、SUP/HerpをHerpという名称で統一して記載する。このHerpは小胞体におけるユビキチン様ドメインを持つ遺伝子で、小胞体内に蓄積した不要蛋白の除去に関連していると考えられている。Kokameらは、Herpが若年発祥型アルツハイマー病の責任遺伝子の一つであるプレセニリンと結合し、アミロイドの産生を増加させるという報告をしている(非特許文献2)。しかしながら、Herpが生体内で果たす具体的役割は十分解明されておらず、したがってその実用的価値も未知といえる。
本発明の課題は、従来の細胞モデルの欠点を解決し、安定で増殖効率が高い細胞系を利用した、小胞体ストレス由来細胞死の新規評価系を提供することにある。この評価系は、小胞体ストレス由来細胞死に起因する様々な疾患に対する薬剤のスクリーニング系として有用であり、本発明はかかるスクリーニング系も提供する。
本発明者らは、マウス胎児性癌細胞株(F9)を用いて相同組換えによりHerp欠損細胞を作製したところ、当該細胞株はツニカマイシン等による小胞体ストレスに対し、再現性よくアポトーシスを起こすことが確認された。さらに、神経細胞等とは異なり、この細胞株は安定的に長期間維持され、増殖効率も高く、取扱いも極めて簡便であることが確認された。以上の知見に鑑み、本発明者らは、Herp欠損未分化細胞を利用した評価系を完成させた。
すなわち、本発明は、染色体上のHerp遺伝子の機能が欠損している未分化癌細胞に誘起される細胞死および/または形態的あるいは生化学的変化を指標として、被験物質の小胞体ストレス由来細胞死に対する効果を評価する方法に関する。
前記方法は、例えば以下の工程を含む。
1)染色体上のHerp遺伝子の機能が欠損している未分化癌細胞を、被験物質の存在下および非存在下で、小胞体ストレス誘導物質と共に培養する;そして、
2)上記細胞に誘起される細胞死および/または形態的あるいは生化学的変化を検出する。
3)被験物質の存在下と非存在下における上記検出結果の相違に基づき、該被験物質の小胞体ストレス由来細胞死に対する効果を評価する。
前記方法において、未分化癌細胞のHerp遺伝子の機能は、Herp遺伝子またはその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入によって欠損させることができる。このHerp遺伝子の欠失、置換、および/または挿入は、染色体上のアレルの1つに存在するものであっても、全アレルに存在するものであってもよいが、全アレルに存在することが望ましい。
本発明の方法で使用される未分化癌細胞の由来は特に限定されないが、齧歯動物由来の細胞が好ましく、マウス由来の細胞が特に好ましい。そのような細胞の好適な例として、マウス由来F9細胞を挙げることができる。
前記Herp欠損細胞は、例えば以下の工程で作製できる:
1)Herp遺伝子またはその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入を目的としたターゲッティングベクターを作製する;
2)上記ベクターを未分化癌細胞に導入し、該ベクターで相同組換えされたHerp欠損未分化癌細胞を得る。
本発明の評価方法は、小胞体ストレス由来細胞死が関連する各種疾患の予防または治療薬のスクリーニング系として有用である。そのような疾患としては、例えば、糖尿病、パーキンソン病およびアルツハイマー病を含む神経変性疾患、または虚血性疾患等を挙げることができる。
本発明の評価系を利用すれば、小胞体ストレス由来細胞死やこれに起因する疾患の病因解明、および小胞体ストレス由来細胞死を抑制する薬剤の開発が可能となる。
1.Herp欠損未分化癌細胞
本発明にかかるHerp欠損細胞は、染色体上のHerp遺伝子の機能が欠損している未分化癌細胞である。
(1)Herp遺伝子
Herp遺伝子は、アストログリアを低酸素暴露すると誘導される遺伝子の1つで、そのN末端にユビキチン様ドメインを持つ。ラットの場合、Herp遺伝子cDNAは1.86 Kbからなり391アミノ酸からなるHerp蛋白をコードする。Herpの個体レベルでの機能は十分解明されていないが、小胞体内に蓄積した不要蛋白の除去に関連していると考えられている。また、Herpは若年発祥型アルツハイマー病の責任遺伝子の一つであるプレセニリンと結合し、アミロイドの産生を増加させるという報告もある(前掲)。なお、Herpは、SUPあるいはMif1等の名称で呼ばれることもあるが、本明細書中ではHerpという名称で統一して記載する。
Herp遺伝子は、ヒト、マウス、ラット、ブタ等の哺乳動物において同定されており、その配列はGenBank等の公共データベースを通じて容易に入手することができる(例えば、マウス:GenBank Accession No. AB034991 (SUP)、ラット:GenBank Accession No.AB033771、ヒト:GenBank Accession No.AB034989、AB034990等)。また、公共データベースにその配列が登録されていない動物の場合であっても、常法により、既知のHerp遺伝子との相同性からそのホモログとしてクローニングし、配列を決定することができる。すなわち、当該動物のゲノムDNAライブラリーを作製し、遺伝的に最も近い種に由来する既知のHerp遺伝子、またはその一部をプローブとして該ライブラリーをスクリーニングし、目的とするHerp遺伝子を同定し、配列を決定すればよい。
(2)細胞
本発明で用いられる細胞は、特定の機能や形態上の分化が行われていない未分化癌細胞であって、例えば胎児性癌細胞(EC細胞)が挙げられる。胎児性癌細胞としては、マウス胎児性癌細胞株F9およびP19、ヒト胎児性癌細胞株NCR-G3等が樹立されている。本発明で用いられる細胞は哺乳動物由来のものであれば特に限定されないが、各種細胞株や遺伝子組換え技術が確立しているという点で、齧歯動物由来の細胞、特にマウス由来の細胞が好ましい。
(3)Herp遺伝子の機能欠損
本発明において、「Herp遺伝子の機能が欠損している」とは、染色体上のHerp遺伝子が破壊され、その機能が正常に発現されないことを意味する。すなわち、Herp遺伝子産物が全く発現されない場合だけでなく、当該遺伝子産物が発現されてもHerpとして正常な機能を有しなければ、「Herp遺伝子の機能が欠損している」ことになる。こうしたHerp遺伝子の破壊は、Herp遺伝子上、またはその転写調節領域やプロモーター領域を含む発現制御領域上の部分配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入等の改変によって生じさせることができる。
なお、前記欠失、置換、または挿入を行う部位や、欠失、置換、または挿入される配列は、Herp遺伝子の正常な機能が欠損しうる限り、特に限定されない。しかしながら、Herp遺伝子のコーディング領域の大部分(例えば、50%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上)を欠失させるような変異は、確実にHerp遺伝子の機能を損なわせることができる。
本発明にかかるHerp欠損細胞は、前記Herp遺伝子機能の欠損を染色体上のアレルの1つに有するものであっても、全アレルに有するものであってもよいが、全アレルに有することが望ましい。
2.Herp欠損未分化癌細胞の作製方法
本発明にかかるHerp欠損細胞は、ジーンターゲッティングやCre-loxPシステムの技術を利用して、染色体上Herp遺伝子を欠損させることにより作製できる。
(1)ジーンターゲッティング
ジーンターゲッティングは、相同組換えを利用して染色体上の特定遺伝子に変異を導入する手法である(Capeccchi, M.R. Science, 244, 1288-1292, 1989, Thomas, K.R. & Cpeccchi, M.R. Cell, 44, 419-428, 1986)。
まず、Herp遺伝子を欠損させるためのターゲッティングベクターを構築する。ターゲッティングベクターの構築に先立って、ゲノムDNAライブラリーを調製する。このゲノムDNAライブラリーは、多型等による組換え頻度の低下が起こらないよう、使用する細胞が由来する系統のゲノムDNAから作製したライブラリーを用いる必要がある。そのようなライブラリーとしては市販のもの(例えば、Incyte Genomics 社製129Sv/Jゲノムライブラリー等)を用いてもよい。ゲノムライブラリーは、標的とするHerp cDNAまたはその部分配列をプローブとしてスクリーニングを行い、HerpゲノムDNAをクローニングする。
クローニングされたゲノムDNAはシークエンシング、サザンブロッティング、制限酵素消化等を行うことにより、各エクソンの位置を明示した制限酵素地図を作成し、変異導入部位等を決定する。また、ターゲッティングベクターに使用する相同領域の外側には相同組換え体をスクリーニングするためのプローブ(external probe)を設定する。
本発明において、染色体上に導入する変異(欠失、置換、または挿入)はHerp遺伝子の正常な機能が損なわれる限り特に限定されない。例えば、欠失または置換される配列は、Herp遺伝子のイントロン領域であってもエクソン領域であっても、あるいはHerp遺伝子の発現制御領域であってもよい。特に、ユビキチン様ドメインを含むHerp遺伝子N末端領域は小胞体ストレス耐性における重要な役割を担っているため、この部位を欠失させるような変異であれば、確実にHerp遺伝子の機能を欠損させることができる。また、挿入される他の配列も特に限定されず、例えば、以下のような各マーカー遺伝子配列であってもよい。
ターゲッティングベクターは、変異導入部位の3’および5’側の相同領域とともに、組み換え体を選択するための適当な選択マーカーを含む。該マーカーとしては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、βラクタマーゼ遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子等のポジティブセレクションマーカー、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント等のネガティブセレクションマーカー等が挙げられるが、これらに限定されない。また、ベクターは相同領域の外側に、ベクターを直鎖化するための適当な制限酵素切断部位を含む。ターゲッティングベクターの構築は、市販のプラスミドベクター(例えば、pBluescriptII (Stratagene製)等)を利用して好適に行うことができる。
次いで、構築したターゲティングベクターを所望の未分化癌細胞に導入する。細胞へのターゲッティングベクターの導入は、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム法等、公知の遺伝子導入法により実施することができる。ターゲッティングベクターが導入された細胞は、ベクター中に挿入されたマーカーにより容易に選択することができる。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子をマーカーとして導入した細胞であれば、G418を加えた培地で培養することにより、一次セレクションを行うことができる。
ターゲッティングベクターが導入された細胞では、相同組換えによって、染色体上のHerp遺伝子の一部が該ベクターで置換され、内因性のHerp遺伝子が破壊される。所望の相同組換えがなされたか否かは、サザンブロティングやPCR法等を利用したジェノタイプ解析によって判定できる。サザンブロッティングによるジェノタイプ解析は、変異導入部位の外側に設定したプローブ(external probe)を用いて行うことができる。PCR法によるジェノタイプ解析は、それぞれ野生型と変異型Herp遺伝子の特異的増幅産物を検出することにより実施できる。こうしてターゲッティングベクターが適切に導入された細胞は、さらに次の段階に備えて培養しておく。
(2)Cre-loxPシステムの利用
Cre-loxPシステムを用いてConditionalにHerp機能を欠損させることもできる。Cre-loxPシステムは、ジーンターゲッティングにバクテリオファージP1由来のCre-loxPシステムを利用して、部位特異的、時期特異的に標的遺伝子を欠損させる方法(Kuhn R. et al., Science, 269, 1427-1429, 1995)である。loxP(locus of X-ing-over)配列は34塩基対からなるDNA配列でCre(Causes recombination)組換え酵素の認識配列である。遺伝子上の2つのloxP配列はCre蛋白の存在下で特異的組換えを起こす。すなわち、欠損させたい標的遺伝子をloxPで挟んだものに置換し、さらにCre発現ベクターを組み込めば、部位特異的・時期特異的なCre蛋白の産生により、loxPで挟まれた標的遺伝子を欠失させることができる。
例えば、前項に準じて欠損させるHerp遺伝子領域の5’側にloxP遺伝子を3’側にloxP遺伝子で挟んだマーカー遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子等)を組み込んだターゲッティングベクターを作製し、細胞に導入する。細胞はマーカーによる選択の後、サザンブロッティングあるいはPCR法によるジェノタイプ解析を行って相同組換えを確認する。この相同組換え細胞に、さらにCre蛋白を特異的プロモーターに連結したCre発現ベクターを導入する。得られた細胞から、loxP組換えによってマーカー遺伝子のみが欠失し、Herp遺伝子領域は欠失していない細胞クローンを同定する。こうして得られたCre-loxP組換え細胞は、Cre蛋白の発現に応じて、条件特異的、時期特異的にHerp遺伝子を欠損しうる。したがって、特定条件下でのHerp遺伝子の機能解析や小胞体ストレス由来細胞死に対する効果の評価に極めて有用である。
3.Herp欠損未分化癌細胞の特徴
(1)小胞体ストレスに由来する細胞死
本発明にかかるHerp欠損細胞は、ツニカマイシン、タプシガルジン、カルシウムイオノフォアA23187、2−デオキシグルコース、ジチオスレイトール(DTT)等の小胞体ストレス誘導物質を加えると、再現性よく細胞死を起こす。同様の条件で野生型細胞に小胞体ストレスを加えても細胞死は起こらない。
ところで、細胞死にはアポトーシスとネクローシスがある。アポトーシスとは細胞自殺、プログラム細胞死、あるいは能動的細胞死と呼ばれ、生理的要因、病理的要因で発現する細胞死である。形態的には核や細胞は縮小するが、ミトコンドリア等の細胞質内の小器官は正常で、炎症を伴わないことを特徴とする。一方、ネクローシスは、細胞他殺、偶発的細胞死、あるいは受動的細胞死と呼ばれ、病理的要因で発現する細胞死である。形態的には細胞全体もミトコンドリアも膨化し、炎症を伴うことを特徴とする。しかしながら、アポトーシスとネクローシスは対立する概念ではなく、同一要因、同一細胞で、段階に応じてアポトーシスとネクローシスが混在することもある。小胞体ストレスに由来する細胞死は形態的にはアポトーシスの様相を呈するが、本発明にかかる「細胞死」は必ずしもアポトーシスに限定されるものではなく、小胞体ストレスによって引き起こされる全ての細胞死を含むものとする。
(2)安定性と増殖効率
本発明にかかるHerp欠損細胞は通常の培養条件下で、高い増殖効率を示す。また、遺伝子を欠損させているため、強制発現を行っている細胞株に比し、長期間にわたり、細胞を安定して維持することが可能である。したがって、取扱いが極めて容易で、小胞体ストレス由来細胞死を解明する研究ツールとして、また多数の候補物質を短時間でスクリーニングするための評価系として有用である。
4. Herp欠損未分化癌細胞を利用した評価系(薬剤スクリーニング系)
小胞体あるいは小胞体ストレス由来の細胞死という概念が近年提唱され、特に、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患、あるいは、虚血性疾患に対する細胞死の関与が指摘されている。したがって、このような疾患の治療薬の開発には、小胞体ストレス由来の細胞死を抑制する物質を大量の候補物質からスクリーニングする必要がある。本発明にかかるHerp欠損細胞は、安定で増殖効率が高く、取扱いも容易であるため、そのようなスクリーニング系に好適に利用できる。
すなわち、本発明は、本発明にかかるHerp欠損細胞に誘起される細胞死および/または形態的あるいは生化学的変化を指標として、被験物質の小胞体ストレス由来細胞死に対する効果を評価する方法を提供する。前記方法は、例えば、本発明にかかるHerp欠損細胞を、被験物質の存在下および非存在下で、小胞体ストレス誘導物質と共に培養し;上記細胞に誘起される細胞死および/または形態的あるいは生化学的変化を検出し;そして、被験物質の存在下と非存在下における上記検出結果の相違に基づき、該被験物質の小胞体ストレス由来細胞死に対する効果を評価することにより実施できる。
(1)培養
本発明の評価方法の実施にあたっては、Herp欠損未分化癌細胞を予め培養しておく。使用する培地は、10%FCSを含むMEM培地やDMEM培地等、通常細胞培養に使用される培地のほか、用いる細胞の種類に応じて適宜決定される。例えば、96穴、あるいは24穴カルチャープレート等の適当な培養容器に前記培地を入れ、本発明にかかるHerp欠損細胞を適当な播種密度で播種して2日間培養を行う。あるいは、細胞が培養面積の50〜60%を占めるまで、適当期間培養を行う。
(2)小胞体ストレス負荷
次いで、前記培養系に、小胞体ストレス負荷条件下で、被験物質を加えて適当期間培養する。好ましくは、対照として被験物質を与えない状態で同様に細胞を培養する。ここで、「小胞体ストレス」とは、分泌系蛋白および膜蛋白が小胞体へ取り込まれてゴルジ装置へ送られる際に、何らかの理由で未熟な(unfoldな)蛋白が小胞体へ蓄積してしまう状態を意味する。また、「小胞体ストレス負荷条件下」とは、小胞体ストレスの原因となる、小胞体内修飾(糖鎖、ジスルフィド結合の付加)の障害、Ca恒常性の障害、小胞体からの輸送低下、低酸素などによって人為的に小胞体ストレスを与えることを意味する。例えば、ツニカマイシン、タプシガルジン、カルシウムイオノフォアA23187、2−デオキシグルコース、ジチオスレイトール(DTT)等の小胞体ストレス誘導物質を加えることによって、小胞体ストレスを付与することができる。
(3)検出
細胞に誘起される細胞死の検出は、周知の方法にしたがって実施することができる。一般的な細胞の検出方法としては、トリパンブルーなどの色素に対する染色性で細胞の生死を判定する色素染色法(LIVE/DEAD assay);各種蛍光色素で標識した個々の細胞について細胞の生死を判定するフローサイトメトリー;細胞死に伴って漏出する乳酸脱水酵素の活性により細胞死を判定するLDH法;生細胞の還元能に基づいて細胞の生死を判定するMTT法;あらかじめ細胞を51Cr標識して放射活性に基づいて細胞死を判定するラジオアイソトープ法、などを挙げることができる。
細胞に誘起される形態的変化は、例えば、光学顕微鏡や電子顕微鏡観察によって定性的かつ定量的に検出することができる。特に位相差顕微鏡を用いれば、固定染色することなく核や小体形成を見ることもできる。また、細胞に誘起される生化学的変化には、特異的遺伝子(mRNA)や特異的蛋白の発現レベルの変化や、DNAの切断化等が含まれ、ノザンブロッティング、ウェスタンブロッティング、RT-PCR等、周知の方法によって容易に検出することができる。
(4)評価
被験物質の評価は、細胞に誘起された細胞死や形態的あるいは生化学的変化を、被験物質の投与条件下と非投与条件下で比較することにより行う。例えば、投与条件下において非投与条件下よりも細胞死が抑制されている場合、あるいは形態的あるいは生化学的変化が抑制されている場合、当該被験物質は小胞体ストレス由来細胞死を抑制する薬剤として有用と判定できる。
(5)Herp欠損F9細胞を用いたスクリーニング系
前記評価系の好適な態様としてHerp欠損F9細胞を用いたスクリーニング系を挙げることができる。前記スクリーニング系では、Herp欠損F9細胞を10%FCS DMEM培地を含むゼラチンコートした96穴、あるいは24穴培養皿に播種し、2日間培養する。次いで、ツニカマイシン(1μg/ml)等の小胞体ストレス誘導剤と被験物質を前記細胞に添加して36-48時間培養する。コントロールとして、被験物質を添加しない条件下で同様に細胞を培養する。培養後の細胞の生死をMTT アッセイやLIVE/DEAD アッセイ等により判定する。あるいは、細胞の形態的変化や生化学的変化を前述した方法にしたがって評価する。被験物質の添加によって、細胞死が有意に抑制された場合、あるいは細胞の形態的変化や生化学的変化が有意に抑制された場合、当該被験物質は小胞体ストレス由来細胞死を抑制する物質として有用と評価される。
本発明のスクリーニング系を利用して得られた小胞体ストレス由来細胞死を抑制する物質(化合物あるいは核酸)は、さらに病態により即したモデル、例えば神経細胞の初代培養や疾患モデル動物等を用いた試験により、その医薬としての効果を確認することができる。
従来の神経細胞培養系は極めて不安定な培養系であり、スクリーニング系への応用は困難だった。しかしながら、本発明のスクリーニング系は、安定性、再現性に優れ、小胞体ストレス由来の細胞死を抑制する物質の大量スクリーニングを可能にし、新たな薬剤開発の可能性を開く。
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕Herp欠損F9細胞の作製
既報(Ohishi, K., et al., (2000) Mol. Biol. Cell. 11: p1523-1533)に従い、相同組換えを利用して、Herp遺伝子を欠損させたF9細胞を作製した。
マウス未分化癌細胞F9株は、大阪大学 大石氏および木下氏より供与を受けた。F9細胞はHerp遺伝子について3つの異なるアレルが存在するため、それぞれについて3種のターゲッティングベクターを作製した。すなわち、pPNT (Dr. Tybulewicz, MRC National Institute for Medical Researchより供与)を基に、129SV/Jマウスのゲノムライブラリー(Incyte Genomics)から単離したマウスHerp遺伝子のエキソン1(配列番号1)を薬剤耐性遺伝子(pGK-neo, pGK-puro, pGK-zeo)で置換したターゲッティングベクターを3種構築した。
図1Aにターゲッティングベクターの構造を示す。ベクターには、ポジティブセレクションマーカーとしてネオマイシン耐性遺伝子(neo)、ピューロマイシン耐性遺伝子(puro)、またはゼオシン耐性遺伝子(zeo)が、また相同領域の外側にネガティブセレクションマーカーとして単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(tK)が挿入されている。また、相同領域の外側にGenotypeスクリーニング用の2種のexternal probe(5'-probeおよび3'-probe)を設定した。
調製したターゲッティングベクターはNotIまたはSwaIで直線化した後、エレクトロポレーションによりマウスF9細胞に導入(25μg DNA / 107cells)した。細胞は、G418(Sigma)400μg/ml、ピューロマイシン(Sigma) 2μg/ml、およびゼオシン(Invitrogen) 500μg/mlを含む培地(10%FCS DMEM)で選抜を行った。選抜されたF9細胞は、さらに培養した後、相同組換え体を同定するために、常法に従ってDNAを抽出し、PCRとサザン解析によるGenotypeスクリーニングを行った。PCRは以下のプライマーを用いて行い、サザン解析は、DNAをKpnIで消化後、標識した以下の2種の5'-probe(配列番号6)または3'-probe(配列番号7)を用いて行った(図1B)。
PCR Forward primer:5'-TGCACCATTGTGCCTACATA-3'(配列番号2)
PCR Reverse primer:
5'-CTACCCGGTAGAATTGACCT-3'(for PGK-neo, 1st allele:配列番号3)
5'-CCAAGTTCTAATTCCATCAGA-3'(for PGK-puro, 2nd allele:配列番号4)
5'-CGATCGAGATCTAGATGGAT-3'(for PGK-zeo, 3rd allele:配列番号5)
相同組換えが確認されたF9細胞は、さらに小胞体ストレス誘導物質であるツニカマイシン(Sigma)2μg/ml、またはタプシガルジン(Sigma)0.3μMを加えて培養し、ノザンブロッティングおよびウェスタンブロッティングを行い、Herp mRNAやHerp蛋白が発現されていないことを確認した(図1C)。
〔実施例2〕 Herp欠損F9細胞における小胞体ストレスの影響
1.小胞体ストレス由来細胞死
Herp欠損F9細胞の小胞体ストレスに対する応答を確認するため、小胞体ストレス誘導物質であるツニカマイシン 0.5-2μg/ml、またはタプシガルジン 0.1-0.3μMを加えて、細胞(Herp欠損および野生型)を40時間培養した。また、小胞体ストレスとは異なるストレスを誘導する物質である、スタウロスポリン(Sigma)0.5-2μM、あるいは過酸化水素(Nakarai Tesque)10-100μMを加えて、細胞を16時間培養した。
それぞれについて、細胞の生死をMTTアッセイで確認した(図2A)。その結果、ツニカマイシンやタプシガルジン処置後のHerp欠損F9細胞では、野生型細胞に比較して細胞死が顕著に抑制されていた(図2A:I,II)。なお、データは示していないが、小胞体ストレス誘導物質であるカルシウムイオノフォアA23187(Sigma)や2-デオキシグルコース(Sigma)による小胞体ストレス負荷後においても同様に細胞死が抑制された。一方、スタウロスポリンや過酸化水素で処置後のHerp欠損F9細胞では、野生型細胞との違いは認められなかった(図2A:III,IV)。
上記結果が小胞体ストレスによる成長停止でないことを確認するために、ツニカマイシン 1μg/mlまたはタプシガルジン 0.3μMで細胞を36時間処置後、染色法によるLIVE/DEAD cell アッセイ(LIVE/DEAD assay kit, Molecular Probes)を行った(図2B)。その結果、Herp欠損F9細胞では細胞死による核内染色陽性、さらにアポトーシスの特徴とされる核の断片化を多く認めた。一方、野生型細胞では、これらの変化はほとんど認められなかった(図2B:I,II)。
さらに、Herp欠損F9細胞を蛋白合成阻害剤であるシクロヘキシミド(Sigma) 1μg/ml存在下でツニカマイシン1μg/mlを加えて36時間培養したところ、細胞死はほとんどみられなかった(図2B:III)。なお、発明者らは同様の系で1μg/mlのシクロヘキシミドの添加で75%の蛋白合成が阻害されることを確認している(Hori et al., 1994, J. Neurochem. 62:p1489-1495)。これに対し、Herp欠損F9細胞を強力なプロテアーゼインヒビターであるラクタシスチン(Calbiochem) 1μM 存在下でツニカマイシン1μg/mlを加えて18時間培養すると、細胞死の促進が確認された(図2B:IV)。なお通常の培養条件下では、Herp欠損F9細胞に細胞死は全く観察されなかった。
2.細胞の形態的・生化学的変化
Herp欠損F9細胞における小胞体ストレス負荷による細胞死をより詳細に検討するため、既報(Miyoshi et al., 2000, Mol. Brain Res. 85:p68-76)に従い、形態的・生化学的観察を行った。
電子顕微鏡観察(Hitachi H-7100)では、未処置のHerp欠損F9細胞には、細胞小器官に変化は認められなかったが、ツニカマイシン 1μg/mlで24時間処理後のHerp欠損F9細胞では核近傍に小胞体の蓄積と凝集が見られた(図3A、3B)。200個の細胞を用いて、24時間および36時間ツニカマイシン(1μg/ml)処置後の細胞の形態的変化を観察したところ、それぞれ30% および 96% の細胞で顕著な形態的変化が見られた。一方、野生型細胞では、2.5% および5%の変化しか認められなかった。 36時間ツニカマイシン(1μg/ml)処置後のHerp欠損F9細胞ではクロマチンの凝縮が確認され、さらに40時間処置後の細胞では膜構造の完全な破壊が確認された(図3C、3D)。
3.カスパーゼ活性
小胞体ストレス由来細胞死にはカスパーゼ活性が関与していることが知られている。そこで、ツニカマイシンまたはタプシガルジン処置後のHerp欠損F9細胞におけるカスパーゼ活性をみた。
ツニカマイシン(1 or 2μg/ml)あるいはタプシガルジン(0.1 or 0.3μM)24時間処置後のHerp欠損F9細胞では、カスパーゼ3やカスパーゼ2活性の劇的な上昇がみられたが、カスパーゼ6やカスパーゼ8活性に大きな変化は見られなかった(図4A)。
さらに、カスパーゼ9およびカスパーゼ12の分解物をウェスタンブロッティングで検出した。ツニカマイシン(1 or 2μg/ml)24時間処置後のHerp欠損F9細胞では、カスパーゼ9およびカスパーゼ12のいずれについても分解物が検出されたが、野生型細胞ではそのような分解物は検出されなかった(図4B)。しかし、カスパーゼ9分解物の量は、スタウロスポリン(1μM)処置後の細胞に比べるとはるかに少なかった。なお、薬剤処置後20時間以内では、どのカスパーゼにも変化は見られなかった。
4.小胞体ストレスシグナリング分子の発現
次に、小胞体ストレスシグナリング分子の発現について検討した。Herp欠損F9細胞と野生型細胞に、ツニカマイシン (0.5, 1, 2μg/ml)またはタプシガルジン(0.1 or 0.3μM)を加えて6時間培養し、ノザンブロッティングによりGPR78およびCHOのmRNAの発現を確認した。さらに、ツニカマイシン2μg/ml添加後のGPR78およびCHOのmRNAの経時的発現(0〜21hr)を確認した。なお、比較としてbeta-actin mRNAの発現を同様に確認した。その結果、処置後5〜8時間では、Herp欠損F9細胞におけるGPR78およびCHO mRNAの発現は野生型細胞より高いが、培養12〜21時間では野生型細胞よりも低いことが確認された(図5A,5B)。
次いで、Herp欠損F9細胞と野生型細胞に、ツニカマイシン (1, 2μg/ml)またはタプシガルジン(0.15 or 0.3μM)を加えて8時間培養し、ウェスタンブロッティングによりGRP94、GRP78、XBP1、CHOP、JNK1タンパクの発現を確認した。
比較としてbeta-actinの発現を同様に確認した。その結果、Herp欠損F9細胞では野生型細胞に比較していずれのタンパクも高発現していることが確認された(図5C,5D)。
小胞体ストレスによる細胞死に必要な時間を検討するために、Herp欠損F9細胞をツニカマイシン 1μg/mlで8, 18, 32時間処置して、その細胞死(MTTアッセイ)、カスパーゼ3活性、形態的変化を確認した。その結果、Herp欠損F9細胞では処置後8〜18時間に顕著な細胞死の加速、カスパーゼ3活性の増強がみられ、Herp遺伝子欠損の影響は処置後8〜18時間において細胞に重大な影響を与えることが示唆された(図5E,5F)。
5. Herp cDNAの強制発現の効果
Herp欠損F9細胞におけるHerp cDNA強制発現の効果を確認した。まず、ラットlamba ZapII cDNAライブラリー(Stratagene製)より、N末端をFLAG修飾したプライマーを用いて、ラットHerp 全長cDNA(配列番号8)とHerp N末端(1-97)残基を欠損したN末端トランケイト体cDNA(配列番号9)を増幅した。
Herp全長cDNA:
Forward Primer: 5'-GGGTCTAGACCACCATGGACTACAAGGACGACGATGACAAGGAGCCCGAGCCACAGC-3'(配列番号10)
Reverse Primer: 5'-GGAGATATCTCAGTTTGCTAGGGCTGGTGGGCC-3'(配列番号11)
Herp N末端トランケイト体
Forward Primer: 5'-CCCGAATTCACCATGGACTACAAGGACGACGATGACAAGAGCACAAAGGGTGCTGAGTCC-3'(配列番号12)
Reverse Primer: 5'-GGAGATATCTCAGTTTGCTAGGGCTGGTGGGCC-3'(配列番号13)
ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むpcDNA3.1(+)hygro(Invitrogen)のCMVプロモーター部分をHerpプロモーター(配列番号14)で置換することによりHpch(+)を作製した。このHpch(+)に、Herp 全長cDNAとHerp N末端トランケイト体cDNA を組込み、Herp欠損F9細胞にエレクトロポレーション(25μg DNA/107cells)により導入した。その結果、Herp 全長cDNA導入細胞について2種のクローン(FL Herp 1,2)を、N末端 トランケイト体cDNA導入細胞について3種のクローン(dN Herp 1〜3)を得た。
Herp N末端のユビキチンドメイン:KSPNQRHRDLELSGDRG(配列番号15)の配列に特異的に結合する抗体(anti Herp抗体)を常法にしたがって作製した。このanti Herp抗体とanti FLAG抗体(Sigma)を用いたウェスタンブロッティングを行い、所望の遺伝子の導入を確認した(図6A, 6B)。
各細胞をツニカマイシン1μg/mlとともに培養したところ、全長Herp cDNAを導入したHerp欠損F9細胞では、インタクトな細胞に比較して顕著な細胞死およびカスパーゼ3活性の改善が見られた。一方、N末端トランケイト体cDNAを導入したHerp欠損F9細胞では、インタクトな細胞との間に相違はみられなかった。以上より、ユビキチン様ドメインを含むHerp N末端部分がHerp活性に不可欠であると考えられた。
〔実施例3〕Herp欠損F9細胞による薬剤スクリーニング
Herp欠損F9細胞を用いて、小胞体ストレス由来細胞死を抑制する化合物のスクリーニングを行った。
まず、10%FCS DMEM培地を含むゼラチンコートした96穴、あるいは24穴培養皿にHerp(SUP)欠損F9細胞を播種し、2日間培養した。次いで、ツニカマイシン(1μg /ml)のみ、あるいはツニカマイシン(1μg /ml)と被験物質を細胞に加えて、さらに36-48時間培養した。培養後の細胞について、MTT アッセイおよびLIVE/DEAD アッセイにより細胞の生死を判定した。
図7に、被験物質としてダントロレン(5, 10, 20μM)、ニフェジピン(10, 20μM)、EGTA(1, 2mM)、BAPTA-AM(10, 20μM)、NAC(2, 10mM)を用いた結果を示す。Herp欠損F9細胞ではダントロレンによる小胞体ストレス由来細胞死が顕著に抑制されており、ダントロレンが小胞体ストレス由来細胞死抑制剤として有用であることが確認された。
このほか、caspase3 inhibitor I, cell-permiable等のカスパーゼインヒビター、サイクロヘキサミド等についても、同様にHerp欠損F9細胞における小胞体ストレス由来細胞死を抑制する効果が確認された。
本発明にかかるHerp欠損胎児性癌細胞は小胞体ストレスに応答して再現性よくアポトーシスを起こす。しかも、この細胞は取扱いが容易で、長期間の維持が可能である。したがって、当該細胞を利用した評価系は、小胞体ストレス由来細胞死を抑制するための薬剤スクリーニング系として有用である。
図1Aは、上から順に、マウスHerp cDNA、ターゲッティングベクター、3種の標的アレルの構造を示す。図1Bは5’-プローブ(左)および3’-プローブを用いたサザン解析の結果を示す。レーンは左から、マウスゲノムDNA、野生型F9細胞(F9 Wt)、相同組換えSingle(F9 S)、Double(F9 D)、Triple(F9 T)である。図1Cは、ノザンブロッティングの結果を示す(C:コンロトール、Tm:ツニカマイシン添加、Tg:タプシガルジン添加、レーン1-3:野生型F9細胞、4-6:Herp欠損F9細胞)。図1Dは、ウェスタンブロッティングの結果を示す(C:コンロトール、Tm:ツニカマイシン添加、Tg:タプシガルジン添加、レーン1-3:野生型F9細胞、4-6:Herp欠損F9細胞)。 図2Aは、MTTアッセイの結果を示す。(I)ツニカマイシン処置、(II)タプシガルジン処置、(III)スタウロマイシン処置、(IV)過酸化水素処置 図2Bは、LIVE/DEADアッセイの結果を示す。(I)ツニカマイシン処置、(II)ツニカマイシン処置、(III)ツニカマイシン/シクロヘキシミド処置、(IV)ツニカマイシン/ラクトシスチン処置 図3は、電子顕微鏡写真を示す。A:無処置、B:ツニカマイシン24時間処置、C:ツニカマイシン36時間処置、D:ツニカマイシン40時間処置、E:無処置(拡大)、F:ツニカマイシン24時間処置(拡大) 図4Aは、小胞体ストレス負荷後のカスパーゼ活性を示す。(I)カスパーゼ3、(II)カスパーゼ2、(III)カスパーゼ6、(IV)カスパーゼ8、 図4Bは、カスパーゼの分解を確認した結果を示す。B:(I)カスパーゼ9、(II)カスパーゼ12 図5AおよびBは、ツニカマイシン(Tm)またはタプシガルジン(Tg)処置後のGRP78、CHOP、beta-actin mRNAの発現を示す。図5CおよびDは、ツニカマイシン(Tm)またはタプシガルジン(Tg)処置後のGRP94、GRP78、XBP1、CHOP、beta-actin、JNK1タンパクの発現を示す。図5EおよびFは、ツニカマイシン処置後の細胞死(MTTアッセイ)およびカスパーゼ3活性を経時的にみた結果を示す。 図6AおよびBは、ラットHerp cDNA(全長およびN末端トランケイト体)を導入したHerp欠損F9細胞クローンにおける、抗Herp抗体および抗FLAG抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。図6CおよびDは、ラットHerp cDNAを導入したHerp欠損F9細胞におけるMTTアッセイとカスパーゼ3アッセイの結果を示す。 図7は、Herp欠損F9細胞による、各種被験物質の小胞体ストレス由来細胞死に対する効果を評価した結果を示す。
配列番号2−人工配列の説明:プライマー
配列番号3−人工配列の説明:プライマー
配列番号4−人工配列の説明:プライマー
配列番号5−人工配列の説明:プライマー
配列番号6−人工配列の説明:プローブ
配列番号7−人工配列の説明:プローブ
配列番号10−人工配列の説明:プライマー
配列番号11−人工配列の説明:プライマー
配列番号12−人工配列の説明:プライマー
配列番号13−人工配列の説明:プライマー

Claims (9)

  1. 染色体上のHerp遺伝子の機能が欠損している未分化癌細胞に誘起される細胞死および/または形態的あるいは生化学的変化を指標として、被験物質の小胞体ストレス由来細胞死に対する効果を評価する方法。
  2. 以下の工程を含む、請求項1記載の方法:
    1)染色体上のHerp遺伝子の機能が欠損している未分化癌細胞を、被験物質の存在下および非存在下で、小胞体ストレス誘導物質と共に培養する;
    2)上記細胞に誘起される細胞死および/または形態的あるいは生化学的変化を検出する;
    3)被験物質の存在下と非存在下における上記検出結果の相違に基づき、該被験物質の小胞体ストレス由来細胞死に対する効果を評価する。
  3. 染色体上のHerp遺伝子の機能が欠損している未分化癌細胞が、染色体上のHerp遺伝子またはその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入によってHerp遺伝子の機能を欠損しているものである、請求項1または2記載の方法。
  4. 染色体上のHerp遺伝子の機能が欠損している未分化癌細胞が、染色体上の全アレルでHerp遺伝子の機能を欠損しているものである、請求項3記載の方法。
  5. 未分化癌細胞が齧歯動物由来の細胞である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 齧歯動物がマウスである、請求項5記載の方法。
  7. 未分化癌細胞がマウスF9細胞である、請求項5記載の方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法を利用した、小胞体ストレス由来細胞死に起因する疾患の予防または治療薬のスクリーニング方法。
  9. 小胞体ストレス由来細胞死に起因する疾患が、糖尿病、パーキンソン病およびアルツハイマー病を含む神経変性疾患、または虚血性疾患治療薬である、請求項8記載のスクリーニング方法。
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