以下、本発明の近赤外線吸収フィルムについて詳細に説明する。
<基材フィルム(B)>
基材フィルム(B)は、二軸配向積層ポリエステルフィルムを必須の構成要素とするものである。
二軸配向積層ポリエステルフィルムの素材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、あるいはこれらの樹脂の構成成分を主成分とする共重合体よりなるものなどが挙げられる。
ポリエステルが共重合体である場合の共重合成分としては、多価カルボン酸として、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリト酸、ピロメリト酸などの多官能カルボン酸などが挙げられる。これらの多価カルボン酸は、エステル(例えば、メチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステル)の形態であってもよい。また、多価アルコールとしては、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール;1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式グリコール;平均分子量が150〜20000のポリエチレングリコールなどを用いることができる。なお、こうした共重合成分の使用量は、全構成成分中20質量%未満とすることが望ましい。共重合成分の使用量が多すぎると、フィルム強度、透明性、耐熱性などのフィルム特性が低下する傾向にある。
上記樹脂の中でもPETフィルムが、力学的性質、耐熱性、透明性、経済性などの面から特に好適である。
二軸配向積層ポリエステルフィルムに用いるポリエステルペレットの固有粘度は、0.45〜0.70dl/gであることが望ましい。固有粘度が小さすぎると、フィルムの力学特性が悪化する傾向にある。他方、固有粘度が大きすぎると、フィルムの力学特性が過剰となり、フィルム製造時において、異物除去のために行う押出工程での溶融樹脂の濾過(後述する)の濾圧上昇が大きくなることから、高精度濾過が困難となる傾向にあるので好ましくない。
二軸配向積層ポリエステルフィルムは、紫外線吸収剤を含有するものである。紫外線吸収剤は、紫外線吸収能を有する化合物で、且つ二軸配向積層ポリエステルフィルムの製造工程で付加される熱に耐え得るものであれば特に限定されない。
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤に大別されるが、透明性の確保の観点からは有機系紫外線吸収剤(低分子タイプ、高分子タイプ)の使用が望ましい。有機系紫外線吸収剤(低分子タイプ)としては特に限定されないが、例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、環状イミノエステル系など、およびこれらの組み合わせが挙げられる。しかし、耐久性の観点からはベンゾトリアゾール系、環状イミノエステル系が特に好ましい。2種以上の紫外線吸収剤を併用した場合には、異なる波長の紫外線を同時に吸収させるように調整することができるため、紫外線吸収効果を一層改善することができる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシヘキシル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチル−3’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5' −(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−メトキシ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−ニトロ−2H−ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては、例えば、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス(4H−3,1−ベンズオキサジノン−4−オン)、2−メチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−ブチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−フェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(1−または2−ナフチル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(4−ビフェニル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−p−ニトロフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−m−ニトロフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−p−ベンゾイルフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−p−メトキシフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−o−メトキシフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−シクロヘキシル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−p−(またはm−)フタルイミドフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、 2,2’−(1,4−フェニレン)ビス(4H−3,1−ベンズオキサジノン−4−オン)2,2’−ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−エチレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−テトラメチレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−デカメチレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6−または1,5−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−メチル−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−ニトロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−クロロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(1,4−シクロヘキシレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、1,3,5−トリ(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ベンゼン、1,3,5−トリ(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ナフタレン、2,4,6−トリ(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ナフタレン、2,8−ジメチル−4H,6H−ベンゾ(1,2−d;5,4−d’)ビス−(1,3)−オキサジン−4,6−ジオン、2,7−ジメチル−4H,9H−ベンゾ(1,2−d;5,4−d’)ビス−(1,3)−オキサジン−4,9−ジオン、2,8−ジフェニル−4H,8H−ベンゾ(1,2−d;5,4−d’)ビス−(1,3)−オキサジン−4,6−ジオン、2,7−ジフェニル−4H,9H−ベンゾ(1,2−d;5,4−d’)ビス−(1,3)−オキサジン−4,6−ジオン、6,6’−ビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−ビス(2−エチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−ビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−メチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−メチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−エチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−エチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−ブチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−ブチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−オキシビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−オキシビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−スルホニルビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−スルホニルビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−カルボニルビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−カルボニルビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−メチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−メチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−ビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−エチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−オキシビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−スルホニルビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−カルボニルビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,7’−ビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,7’−ビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,7’−メチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,7’−メチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが挙げられる。
上記紫外線吸収剤の中でも、分解開始温度が、二軸配向積層ポリエステルフィルムの製膜温度以上のものを適用することが、二軸配向積層ポリエステルフィルム製膜時での紫外線吸収剤の分解による汚染を抑制する点で好ましい。具体的には、分解開始温度が290℃以上の紫外線吸収剤の使用が望ましい。
紫外線吸収剤を配合する目的は、本発明の近赤外線吸収フィルターの主機能である近赤外線吸収能を発現させる近赤外線吸収層(C)の、外光に対する耐候性を改善することにある。すなわち、近赤外線吸収層(C)に含有される近赤外線吸収色素が、外光中に含まれる紫外線によって劣化することを抑制する作用を発現することにある。
具体的には、例えば380nm以下の波長における透過率が10%以下であることが好ましい。390nm以下の波長における透過率が10%以下であることがより好ましく、400nm以下の波長における透過率が10%以下であることが特に好ましい。こうした特性を満足する低分子タイプの紫外線吸収剤の含有量は、二軸配向積層ポリエステルフィルムの構成樹脂に対し、0.1〜4質量%であることが好ましく、0.3〜2質量%であることがより好ましい。紫外線吸収剤量が少なすぎると紫外線吸収能が小さくなり、多すぎるとフィルムが黄変する場合や、フィルムの製膜性が低下する場合があるので好ましくない。
また、紫外線吸収剤として高分子タイプのものを用いることも、フィルター表面へのブリードによる問題を回避する点で推奨される。高分子タイプの紫外線吸収剤とは、紫外線吸収剤として有用な骨格を側鎖に有するポリマーのことを意味する。ポリエステルとの相溶性を考慮すると、ポリエステル系紫外線吸収剤やアクリル系ポリマー紫外線吸収剤が好ましい。例えば、ポリエステルが、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールおよび/または1、4−ブタンジオールを主成分とし、さらに共重合成分として一般式(I)で示されるナフタレンテトラカルボン酸ジイミドと一般式(II)で示されるナフタレンジカルボン酸を含有した紫外線吸収化合物(三菱化学株式会社製「Novapex U−110」)や、2−(2−ヒドロキシルフェニル)ベンゾトリアゾール骨格を側鎖に有するアクリル系ポリマー(BASF社製「UVA−1635」)などが、目的とする紫外線吸収特性に加えて、透明性などの特性も保持できる点で好ましい。
上記一般式(I)において、Rは有機残基(アルキレン基など)、Xはヒドロキシル基などを表す。
高分子タイプの紫外線吸収剤の含有量は、二軸配向積層ポリエステルフィルムの構成樹脂に対し、0.1〜20質量%とすることが好ましく、0.5〜15質量%とすることが更に好ましい。紫外線吸収剤量が少なすぎると紫外線吸収能が小さくなり、多すぎるとフィルムが黄変する場合や、フィルムの製膜性が低下する場合があるので好ましくない。
基材フィルム(B)を構成するポリエステルフィルムの大きな特徴は、少なくとも3層(3層、4層、5層など)から構成される二軸配向積層ポリエステルフィルムであり、その両表層には、紫外線吸収剤を実質的に含有していない構成を採用する点にある。
二軸配向積層ポリエステルフィルムに紫外線吸収剤を導入すると、製膜時の押出工程において、紫外線吸収剤が昇華して、ダイスの吐出口や押出されたフィルム状の溶融ポリエステルを冷却するための冷却ロール、延伸に用いるテンターなどに付着し、これが更に押出されてくる溶融ポリエステルに付着して、光学欠点の原因となることがある。しかしながら、基材フィルム(B)を構成するポリエステルフィルムに上記の積層構成を採用することで、製膜時の紫外線吸収剤がブリードアウトし難くなるため、ダイスの吐出口や冷却ロール、テンターなどの汚染が軽減され、該汚染に起因するフィルムの欠点の発生が抑制される。また、紫外線吸収剤のブリードアウトにより層間の接着性低下も引き起こされることがあるが、これも抑制される。
基材フィルム(B)を構成するポリエステルフィルムが3層構造の場合には、中間層のみが紫外線吸収剤を含有する。4層以上の場合には、両表層を除くいずれか1以上の層が紫外線吸収剤を含有していればよく、両表層を除く全ての層が含有していても構わない。なお、両表層における「紫外線吸収剤を実質的に含有していない」の「実質的に」とは、紫外線吸収剤を含有する層からブリードしたものが両表層に拡散する場合など、不可避的に紫外線吸収剤が混入する場合を除く趣旨である。
二軸配向積層ポリエステルフィルムの積層の厚み比率は限定なく任意であるが、両表層の厚みが、夫々全厚みの3%以上、より好ましくは5%以上であって、15%以下、より好ましくは10%以下であることが好ましい実施態様である。両表層のうち、いずれか一方でも、その厚みが小さすぎる場合には、紫外線吸収剤の昇華およびブリードアウトを十分に防止することができないことがある。また、いずれか一方でも、その厚みが大きすぎる場合には、紫外線吸収剤の昇華・ブリードアウトの防止効果が飽和するばかりか、紫外線吸収剤の含有量とのバランスによっては、フィルムの平面視における紫外線吸収剤濃度(単位面積当たりの存在量)が低下し、紫外線吸収効果が不十分となることがあるため、好ましくない。
二軸配向積層ポリエステルフィルムの各層を構成するポリエステルは、全て同種であっても、全て異種であっても、一部の層のみが同種であっても構わないが、生産管理の容易さや屑樹脂の回収などの点より、同種で、且つ全ての層にPETを用いることが好ましい実施態様である。
なお、本発明者等は、二軸配向積層ポリエステルフィルムの多層化により発現する紫外線吸収剤のフィルム厚み方向での偏在度合いを、表面IR分析法を用いて評価する方法を確立した。評価方法の詳細は実施例の評価方法において記述するが、多層化による効果は本評価法により得られる数値で管理することが好ましい。フィルムの厚み方向における紫外線吸収剤の偏在度合いは、二軸配向積層ポリエステルフィルムの両表層と他の層(中間層)の厚み比に大きく影響されるが、同じ厚み比でも、例えば、製膜のフィルター後の溶融樹脂移送管やフラットダイスの樹脂温度などによっても変化する。上記評価法によって得られる紫外線吸収剤の偏在度としては、0.20以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましく、0.05以下であることが特に好ましい。
ポリエステルフィルムへの紫外線吸収剤の配合方法は限定されないが、ポリエステルの重合時、または溶融押出時に配合することが好ましい。その際、紫外線吸収剤を含有するマスターバッチペレットを予め作製して、これにより添加することが好ましい実施態様である。例えば、好ましい実施態様として以下の方法が例示される。まず、ポリエステルと紫外線吸収剤とをブレンドしマスターバッチペレットを調製する。このマスターバッチペレットは、易滑性付与を目的とした粒子を実質的に含有していないペレットである。このマスターバッチペレットと、バージンのポリエステルペレットとを混合した原料ペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、フィルム状に溶融押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸ポリエステルフィルムを製膜する。各層の積層には、夫々の層を構成するポリエステルペレットを別個の押出機から押出し、1つのダイスに導いて積層構造の未延伸フィルムとする所謂共押出法が好ましく採用できる。
上記押出の際、押出機溶融部、混練り部、ポリマー管、ギアポンプ、フィルターまでの樹脂温度は280〜290℃、その後のポリマー管、フラットダイまでの樹脂温度は270〜280℃とすることが、紫外線吸収剤のダイス吐出口での昇華、冷却ロールの汚染を防止する点で好ましい。
また、溶融ポリエステルが約280℃に保たれた任意の場所で、ポリエステル中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行うことが望ましい。こうした異物が基材フィルム(B)に残存すると、近赤外線吸収フィルターとしてプラズマディスプレイに適用した際に、光学欠点の原因となり、また、近赤外線吸収フィルター製造の際に、光学欠点の原因となるキズの発生要因にもなる。
溶融ポリエステルの高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス鋼焼結体の濾材であれば、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物、および高融点有機物の除去性能に優れることから好適である。さらに、濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が20μmを超えると、上記光学欠点の原因やキズの発生要因となるような20μmを超える大きさの異物が十分除去できない。濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が20μm以下の濾材を用いて溶融樹脂の高精度濾過を行うことにより、生産性が低下する場合があるが、粗大粒子による突起が少なく、近赤外線吸収フィルター製造時にキズ発生が抑制され得るフィルムを得る上では推奨される。
上でも述べたが、原料ポリエステル中に存在する異物が残存していたり、製膜時に溶融ポリエステルからブリードアウトしてダイス吐出口などを汚染している紫外線吸収剤がフィルムに付着したりすると、製膜時の延伸工程でこの異物や紫外線吸収剤(以下、纏めて「異物など」という)の周囲でポリエステル分子の配向が乱れ、光学的歪みが発生する。この光学的歪みのため、実際の異物などの大きさよりもかなり大きな欠点として認識されるため、著しく品位が損なわれることがある。例えば、大きさ20μmの異物などでも、光学的には50μm以上の大きさとして認識され、さらには100μm以上の大きさの光学欠点として認識される場合もある。
高透明なフィルムを得るためには、二軸配向積層ポリエステルフィルムが易滑性を付与するための粒子を実質的に含有していないか、透明性が阻害されない程度に少量含有していることが望ましい。より好ましくは、粒子を実質的に含有していない構成である。なお、「粒子を実質的に含有していない」とは、二軸配向積層ポリエステルフィルムの製造工程などにおいて、不可避的に粒子が混入された状態を除く趣旨である。例えば無機粒子の場合には、蛍光X線分析で無機元素を定量したときに、検出限界以下となる含有量を意味している。
なお、粒子含有量が少なくフィルムの透明性が高くなるほど、微小な異物などによる光学欠点はより鮮明となる傾向にある。また、フィルムが厚手になるほど、平面視でのフィルム単位面積当たりの異物などの含有量が薄手のフィルムより多くなる傾向にあり、一層この問題は大きくなる。よってポリエステル中の異物などは、できる限り除去することが好ましく、上記の各種手法の採用が推奨されるのである。
得られた未延伸フィルムを80〜120℃に加熱したロールで長手方向(縦方向:積層フィルム製造時の走行方向)に2.5〜5.0倍延伸し、一軸配向フィルムとする。引き続いて、フィルムの端部をクリップで把持して120〜150℃に加熱された熱風ゾーンに導き、幅方向に2.5〜5.0倍に延伸し200〜250℃にて熱処理し、この熱処理工程中で必要に応じて幅方向に3%程度の弛緩処理し、二軸配向積層ポリエステルフィルムを得る。
上記方法により得られる二軸配向積層ポリエステルフィルムは、表面に存在する深さ1μm以上、長さ3mm以上のキズが100個/m2 以下であることが好ましい。上記キズの個数は30個/m2 以下であることがより好ましく、10個/m2 以下であることが特に好ましい。上記キズの個数をこのような範囲とすれば、光学欠点による問題が生じない。
フィルムのキズの発生を防止する手法としては、(a)フィルム表面そのものやロール表面、特にフィルムと接触するロール表面にキズの原因となる「欠点」を発生させないこと、(b)接触するロールの表面上でフィルムが縦方向および横方向にずれないようにすることが挙げられる。上記の「欠点」とは、ロール表面に形成されるキズ、堆積物、付着物、異物などの、フィルムと接触することによりフィルムに微細なキズを発生させる全ての要因を指す。よって、これらの欠点を無くすことで、フィルム表面へのキズの発生を低減できる。上記欠点の発生を防止するためには、例えば、下記に挙げる方法を採用することができる。
上記フィルム製造時に用いるロールの表面粗度をRaで0.1μm以下とする方法や、堆積物、付着物、異物などのキズ発生要因のロール表面への堆積を防止するため、縦延伸工程の予熱入口のロールと冷却ロールにロールクリーナーを設置する方法が挙げられる。
また、上記フィルム製造工程におけるクリーン度をクラス1000以下(1立方フィート当たりの体積中に0.5μm以上の粒子が1000個以下)とする方法があり、特にロール周りはクラス100以下、キャスト工程で反ロール面を冷却するための送風冷却装置についてもクラス100以下のクリーンエアを使用することが好ましい。
さらに、上記フィルム製造前に、研磨材を用いてロール上の欠陥を削り取る作業などによりロールの掃除を行う方法も挙げられる。また、静電気の発生によってフィルムがゴミなどを吸着し、欠点となることを避けるため、フィルムの帯電量が全工程で±1500V以下になるよう除電装置を設ける方法も挙げられる。二軸配向積層ポリエステルフィルムのキャストから後述するテンターまでの工程はキズが主に発生し易い工程であり、この区間をコンパクトにレイアウトし、通過時間を5分以下にすることも欠点の発生抑制に寄与し得る。
ロールについては、ロール表面に水膜を形成したり、エアフローティングタイプのロールとすることで、フィルムにロール表面の欠点が直接接触しない構造にすることができる。また、フィルムから析出するオリゴマー量を1000ppm以下とすることで、ロール表面への欠点の付着を減少させ、ロール表面の欠点を低減することができる。
さらに、延伸後の巻き取り工程において、フィルムの幅方向の端部側の表面を突起付きのローラで押圧して、その部分に凹凸部を形成すると共に、該凹凸部が形成されたフィルムを巻取り機構でロール状に巻き取るよう構成し、さらに該突起付きのローラにおける突起を先窄まり状に形成し、該突起の頂部に丸みをつけ、その頂面の曲率半径を0.4mm以下に設定することで、フィルムの巻取り装置において、フィルムと欠点が接触しないようにすることもできる。
また、ロール表面上で、フィルムがずれないようにすることもキズ発生防止方法として有効である。例えば下記に挙げる方法が採用可能である。例えば、ロールを小径化すること、サクションロールの使用、静電密着、パートニップの密着装置を使用するなどしてフィルムのロールへの密着力を増大させることにより、長いキズの発生を抑えることができる。特にロールを小径化することは、フィルムのずれ量の細分化にもなり、長いキズの発生防止に寄与し得る。また、キズの多くはロール幅方向の端部に向かうほど、長さおよび頻度が増加し、ロール幅方向の端部においてはキズのない部分を得ることが困難であるため、キズの少ないロール幅方向の中央付近をトリミングすることで、キズの少ないフィルムを得ることが可能となる。
また、縦方向キズまたは横方向キズの発生要因としては、夫々フィルムの縦方向または横方向での、膨張、収縮などの変形も挙げられる。これらのフィルムの変形は、主としてフィルムの温度変化によって生じる。よって、例えば、ロール表面でのフィルムの温度変化を抑制することで、こうした温度によるフィルム変形量を小さくでき、縦方向キズや横方向キズの発生を防止できる。具体的には、ロール1本当たりでのフィルムの温度変化を40℃以下、好ましくは30℃以下、さらに好ましくは20℃以下、さらに一層好ましくは10℃以下、特に好ましくは5℃以下とすることが推奨される。該ロール表面でのフィルムの温度変化を抑制する方法としては、例えば、ロール間での空中冷却、水槽を通過させる水中冷却などが挙げられる。さらに、ロール本数を多くすることにより、1本当たりのロール表面でのフィルムの温度変化を低減できる。好ましくは、縦延伸工程でのロール数を10本以上とするのがよい。
また、複数のロールの相対的な速度の関係を、フィルムの温度や張力による変形量に対して最も近い速度プロファイルに設定することでフィルムの縦方向のズレを低減することができる。さらに、後述する接着改質層形成用の塗布液の塗布工程において、乾燥条件を、ドライヤー区間の初期で乾燥を完了し、出口にかけて冷却することにより、ドライヤー出口でのフィルム温度を40℃以下として、温度変化によるフィルムのずれを低減することもできる。
また、フィルム走行時の張力が低すぎると把持力が下がってずれが発生し、高すぎても応力変形が大きくなってずれが発生するため、最適な張力範囲である4.9〜29.4MPaになるように駆動ロール速度と張力調整手段によって調節することが好ましい。また、製造時の使用温度におけるフィルムとロール間の摩擦係数を0.2以上とすることでロール表面でのフィルムのずれを抑制することができる。
さらに、フリーロールについては特殊ベアリングを採用し、19.6N以下の回転抵抗とすることが好ましい。駆動ロールについては回転斑を0.01%以下に制御するのが好ましい。
以上、逐次二軸延伸法について説明したが、延伸手法は同時二軸延伸法であってもよい。また、多段延伸法であっても構わない。
二軸配向積層ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されず任意に設定できるが、0.038mm以上0.188mm以下とすることが好ましい。厚みが小さすぎると、近赤外線吸収フィルターの取り扱い性が悪化するので好ましくない。逆に、厚みが大きすぎても、近赤外線吸収フィルターの取り扱い性やプラズマディスプレイなどの被貼着体に貼着する時の作業性が悪化するので好ましくない。また、市場の薄膜化要求にも応えられなくなる。
本発明の近赤外線吸収フィルターは、基材フィルム(B)の両面に機能性層が積層されてなる構成を有する。よって、基材フィルム(B)の表面は易接着処理されていることが好ましい。すなわち、上記二軸配向積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面に接着性を向上するための層を有していることが好ましい。
また、基材フィルム(B)の片面側に設けられる表面層(A)は、後述するように最表面側から、低屈折率層、高屈折率層、ハードコート層の順に積層された構造を有するものである。ハードコート層は、特定の硬化性樹脂を硬化させて得られるものであるため、基材フィルム(B)(ポリエステルフィルム)との屈折率の差が大きい。こうした反射防止機能層を設けた近赤外線吸収フィルターでは、プラズマディスプレイに適用された際に、フィルター内部の層界面における光の干渉作用により、虹彩状色彩(干渉縞)が発現する。上記干渉縞の発生を抑制する方法としては、ハードコート層と基材フィルムとの屈折率差を小さくすることが好ましいこと、それには、これらの層間に、ハードコート層の屈折率と基材フィルムの屈折率の中間の屈折率を有する層を導入することが有効であることが知られている。
本発明者等は、上記中間屈折率層の導入法について検討を重ね、該中間層として、水性ポリエステル樹脂と、水溶性のチタンキレート化合物、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種とを含有する塗布液から形成される塗布層であれば、上記干渉縞の発生抑制に極めて有効であり、且つ、基材フィルム(B)と表面層(A)(ハードコート層)との接着性向上にも寄与し得ることを見出した。すなわち、近赤外線吸収フィルターにおいて、上記干渉縞発生を抑制することが要求される場合には、基材フィルム(B)は、表面層(A)(ハードコート層)積層面に、上記塗布層(干渉縞抑制機能を有する接着改質層)を有していることが好ましい。
また、基材フィルム(B)は、表面層(A)との界面の接着性向上および上記干渉縞抑制を目的とした接着改質層に加えて、近赤外線吸収層(C)の積層面にも、該近赤外線吸収層(C)との界面の接着性向上を図るための層を有していることが望ましい。なお、近赤外線吸収層(C)の積層面に形成される接着性向上のための層は、上記干渉縞抑制機能を有していてもよいが、該機能が無くても構わない。本明細書では、基材フィルム(B)が有する接着性向上のための層のうち、表面層(A)との界面に形成された場合に干渉縞の発生抑制作用をも有する層を「接着改質層」といい、接着性向上作用は有するが、干渉縞の発生抑制作用は有しない層を「易接着層」という。
接着改質層を構成する水性ポリエステル樹脂とは、水または水溶性の有機溶剤、例えばアルコール、アルキルセロソルブ、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤などを50質量%未満含有する水溶液に対して、溶解性または分散性を有するポリエステル樹脂を意味する。ポリエステル樹脂に水性を付与するためには、ポリエステル分子中に、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、エーテル基などの親水性基を導入すればよいが、塗膜物性および密着性の点からは、スルホン酸基の導入が好ましい。
スルホン酸基を導入する場合は、スルホン酸基を有するジカルボン酸などを共重合成分として用いて、ポリエステルを合成すればよい。他の親水性基の導入も、夫々の基を有する共重合成分を用いてポリエステルを合成する方法が採用できる。スルホン酸基を有するジカルボン酸を用いる場合では、ポリエステル合成用の全酸成分中のうち、1〜10モル%の範囲で用いることが好ましい。スルホン酸基を有するジカルボン酸の使用量が少なすぎるとポリエステル樹脂自体の水性の発現性に乏しく、水溶性のチタンまたはジルコニウムのキレート化合物あるいはアシレート化合物との相溶性も低下するため、均一かつ透明な塗布層が得られない。また、スルホン酸基を有するジカルボン酸の使用量が多過ぎると、接着改質層の耐湿性が低下する。
スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレンイソフタル酸−2,7−ジカルボン酸、5−(4−スルフォフェノキシ)イソフタル酸、およびこれらの塩類などを挙げることができる。
水性ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上であることが好ましい。Tgが低すぎると、接着改質層の耐湿性が低下する。また、Tgが40℃を下回るようなポリエステルは、その構造上、屈折率が低下する傾向にあり、接着改質層の屈折率も低下するため、干渉縞発生抑制効果が低減することがある。
上記の如きTgを有する水性ポリエステル樹脂を合成するには、上記親水性基導入のための共重合成分に加えて、多価カルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸を主成分とすることが好ましい。また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロパングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどの比較的炭素数の少ないグリコール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などの芳香環含有ジオール;などが好ましい。また、ポリエステル原料としてビフェニルなどの剛直な成分、または臭素、イオウなどの屈折率の高い原子を有するジカルボン酸またはジオールを、フィルムの物性が低下しない範囲で使用しても特に問題はない。
接着改質層を構成するもう一方の主成分は、水溶性のチタンまたはジルコニウムのキレート化合物あるいはアシレート化合物である。ここでいう「水溶性」とは、水または水溶性の有機溶剤を50質量%未満で含有する水溶液に対して、溶解性を有することを意味する。
水溶性のチタンキレート化合物としては、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、イソプロポキシ(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン、ジイソプロポキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ヒドロキシビス(ラクタト)チタン、ヒドロキシビス(ラクタト)チタンのアンモニウム塩、チタンベロキソクエン酸アンモニウム塩などが挙げられる。また、水溶性のチタンアシレート化合物としては、オキソチタンビス(モノアンモニウムオキサレート)などが挙げられる。
水溶性のジルコニウムキレート化合物としては、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテートなどが挙げられる。また、水溶性のジルコニウムアシレート化合物としては、ジルコニウムトリブトキシステアレートなどが挙げられる。
接着改質層には、その効果を損なわない範囲でアルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコールなどのビニル系樹脂などを併用しても構わない。また、架橋剤の併用も、接着改質層の効果に悪影響を与えない範囲で可能である。使用できる架橋剤としては、尿素、メラミン、ベンゾグアナミンなどとホルムアルデヒドとの付加物、これらの付加物と炭素原子数が1〜6のアルコールからなるアルキルエーテル化合物などのアミノ樹脂;多官能性エポキシ化合物;多官能性イソシアネート化合物;多官能性ブロックイソシアネート化合物;多官能性アジリジン化合物;オキサゾリン化合物;などが挙げられる。
上記の通り、接着改質層は、接着改質層形成用塗布液を用いて形成されるが、該塗布液においては、水性ポリエステル樹脂と、水溶性のチタンキレート化合物、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種との混合比(質量比)が90/10〜5/95であることが好ましい。
接着改質層は、基材フィルム(B)の表面層(A)積層面側に形成するものであるが、該接着改質層を基材フィルム(B)の両面、すなわち表面層(A)との間のみならず、近赤外線吸収層(C)との間にも、形成させても構わない。基材フィルム(B)の両面に形成する場合には、両面とも同じ組成としてもよく、異なる組成としても構わない。
接着改質層を、基材フィルム(B)の、表面層(A)との間にのみ設ける場合には、上記の通り、近赤外線吸収層(C)との間には、基材フィルム(B)と近赤外線吸収層(C)との接着性を改善するための層(易接着層)を設けることが好ましい。
易接着層を構成する樹脂としては、例えば、共重合ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸グラフトポリエステル樹脂、アクリルグラフトポリエステル樹脂などが挙げられ、これらのうちの少なくとも1つを使用することが好ましい。中でも、共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレン−マレイン酸グラフトポリエステル樹脂が、優れた接着性を有していることから特に好ましい。
易接着層は、易接着層形成用塗布液を調製し、これを二軸配向積層ポリエステルフィルムに塗布・乾燥することで形成される。易接着層形成用塗布液の調製法を、共重合ポリエステル樹脂とポリウレタン樹脂を用いた系を例にとり、以下に説明する。
上記の共重合ポリエステル樹脂は、分岐したグリコールを構成成分とする。ここでいう「分岐したグリコール」としては、例えば、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2、2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2、2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2、2−ジ−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
分岐したグリコールは全多価アルコール中、好ましくは10モル%以上の割合で、さらに好ましくは20モル%以上の割合で用いられる。分岐したグリコール以外の多価アルコールとしては、エチレングリコールが最も好ましい。少量であれば、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを用いても良い。
上記共重合ポリエステル樹脂を合成するための多価カルボン酸としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が最も好ましい。少量であれば、ジフェニルカルボン酸、2,6−ナルタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などを加えて共重合させてもよい。上記多価ジカルボン酸の他に、水分散性を付与させるため、スルホン酸基を有するジカルボン酸などを1〜10モル%の範囲で使用するのが好ましい。スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、接着改質層の水性ポリエステル樹脂の共重合成分として例示した各種化合物が例示できる。
上記のポリウレタン系樹脂とは、例えば、ブロック型イソシアネート基を含有する樹脂であって、末端イソシアネート基が親水性基で封鎖(以下、「ブロック」という)された熱反応型の水溶性ポリウレタンなどが挙げられる。イソシアネート基のブロック化剤としては、重亜硫酸塩類、スルホン酸基を含有するフェノール類、アルコール類、ラクタム類、オキシム類、活性メチレン化合物類などが挙げられる。上記ブロック化剤の中でも、熱処理温度、熱処理時間が適当で、工業的に広く用いられるものとして、重亜硫酸塩類が特に好ましい。
ブロック化されたイソシアネート基は、ウレタンプレポリマーを親水化あるいは水溶化する。そしてフィルム製造時の乾燥あるいは熱セット過程で、熱エネルギーが与えられると、ブロック化剤がイソシアネート基から外れるため、自己架橋して網目を形成し、この網目に、混合した上記共重合ポリエステル樹脂を固定化する。また、共重合ポリエステル樹脂の末端基などとも反応する。
易接着層形成用塗布液の調製中では、上記ポリウレタン樹脂は親水性であるため耐水性が悪いが、塗布、乾燥、熱セットして熱反応が完了すると、ポリウレタン樹脂の親水性基(すなわちブロック化剤)が外れるため、耐水性が良好な層が形成される。
上記ポリウレタン樹脂に使用されるウレタンプレポリマーは、(1)分子内に2個以上の活性水素原子を有する有機ポリイソシアネート、あるいは分子内に2個の活性水素原子を有し、分子量が200〜20,000の化合物;と、(2)分子内に2個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネート;と、(3)分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する鎖伸長剤;を反応せしめて得られる化合物であり、末端イソシアネート基を有している。
(1)の化合物として一般に知られているのは、末端または分子鎖中に2個以上のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基あるいはメルカプト基を含むものであり、特に好ましい化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオールなどが挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシド類;スチレンオキシド;エピクロルヒドリン;などの化合物の重合体、またはそれらのランダム共重合体、それらのブロック共重合体、それらの化合物の多価アルコールへの付加重合を行って得られる重合体がある。
ポリエステルポリオールおよびポリエーテルエステルポリオールとしては、主として直鎖状あるいは分岐状の化合物が挙げられる。コハク酸、アジピン酸、フタル酸、無水マレイン酸などの多価の飽和または不飽和カルボン酸、あるいは該カルボン酸無水物などの多価カルボン酸類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなどの多価の飽和または不飽和のアルコール類、比較的低分子量のポリエチレングリコール、比較的低分子量のポリプロピレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール類、あるいはそれらアルコール類の混合物などの多価アルコール類とを縮合することにより得ることができる。さらにポリエステルポリオールとしてはラクトンおよびヒドロキシ酸から得られるポリエステル類も挙げられる。この他、ポリエーテルエステルポリオールとしては、予め製造されたポリエステル類に、エチレンオキシドあるいはプロピレンオキシドなどを付加せしめたポリエーテルエステル類も使用することができる。
上記(2)の有機ポリイソシアネートとしては、トルイレンジイソシアネートの異性体類、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類;キシリレンジイソシアネートなどの芳香族脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート類;ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類;またはこれらの化合物を単一あるいは複数混合して、トリメチロールプロパンなどと付加させたポリイソシアネート類;などが挙げられる。
上記(3)の鎖伸長剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのグリコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール類;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジンなどのジアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアミノアルコール類;チオジエチレングルコールなどのチオジグリコール類;水;などが挙げられる。
上記のウレタンポリマーを合成するには、通常、上記鎖伸長剤を用いた一段式あるいは多段式イソシアネート重付加方法により、150℃以下、好ましくは70〜120℃の温度において、5分〜数時間反応させる。活性水素原子に対するイソシアネート基の比は、1以上であれば自由に選択できるが、得られるウレタンプレポリマー中に遊離のイソシアネート基が残存することが必要である。さらに遊離のイソシアネート基の含有量は10質量%以下であればよいが、ブロック化された後のウレタンポリマー水溶液の安定性を考慮すると、7質量%以下であるのが好ましい。
得られたウレタンプレポリマーは、ブロック化剤(好ましくは重亜硫酸塩)を用いてブロック化を行う。重亜硫酸塩を用いる場合では、重亜硫酸塩水溶液と混合し、約5分〜1時間、よく攪拌しながら反応を進行させる。反応温度は60℃以下とするのが好ましい。その後、水で希釈して適当な濃度にし、熱反応型水溶性ウレタン組成物とする。この組成物は使用する際、適当な濃度および粘度に調整する。上記組成物は、通常80〜200℃前後に加熱すると、ブロック化剤の重亜硫酸塩が解離し、活性なイソシアネート基が再生するために、プレポリマーの分子内あるいは分子間で起こる重付加反応によってポリウレタン重合体が生成したり、他の官能基への付加を起こす性質を有するようになる。
上記のブロック型イソシアネート基を有するポリウレタン樹脂としては、第一工業製薬株式会社製の「エラストロン(商品名)」が代表的に例示される。エラストロンは、重亜硫酸ソーダによってイソシアネート基をブロックしたものであり、分子末端に強力な親水性を有するカルバモイルスルホネート基が存在するため、水溶性となっている。
易接着層形成用塗布液を調製する際の、上記共重合ポリエステル樹脂(a)と上記ポリウレタン樹脂(b)との質量比は、(a):(b)=90:10〜10:90とすることが好ましく、(a):(b)=80:20〜20:80とすることがより好ましい。
接着改質層や易接着層を形成するための塗布液には、熱架橋反応を促進させるために触媒を添加してもよい。触媒としては、例えば、無機物質、塩類、有機物質、アルカリ性物質、酸性物質および含金属有機化合物など、種々の化学物質が用いられる。また水溶液のpHを調節するために、アルカリ性物質あるいは酸性物質を添加してもよい。
接着改質層や易接着層を二軸配向積層ポリエステルフィルム表面に、塗布法により形成する際には、二軸配向積層ポリエステルフィルムへの濡れ性を高めて塗布液を均一にコートするために、公知のアニオン性またはノニオン性の界面活性剤を添加して用いることができる。
接着改質層形成用塗布液および易接着層形成用塗布液に用いる溶剤としては、水;水とアルコール類(エタノール、イソプロパノール、ベンジルアルコールなど)の混合溶剤;などが挙げられる。アルコール類を用いる場合には、全塗布液中50質量%未満とすることが好ましい。さらに、全塗布液中10質量%未満であれば、アルコール類以外の有機溶剤を溶解可能な範囲で混合してもよい。ただし、塗布液中、アルコール類とその他の有機溶剤との合計量は50質量%未満とする。
アルコール類を含む有機溶剤を上記上限値以下の量で用いると、塗布液の塗布後乾燥の際に乾燥性が向上すると共に、水のみの場合に比べて塗布膜の外観が向上するという効果が得られる。アルコール類を含む有機溶剤量が上記上限値を超えると、溶剤の蒸発速度が速くなるため塗工中に塗布液の濃度変化が起こり、塗布液粘度が上昇して塗工性が低下することから、塗布膜の外観不良を起こす虞があり、さらには火災などの危険性も懸念される。
また、接着改質層形成用塗布液および易接着層形成用塗布液中の固形分濃度(後述する粒子を除く)は、30質量%以下、より好ましくは10質量%以下とすることが推奨される。
ちなみに塗布液の溶液粘度は1.0Pa・s以下が好ましい。溶液粘度が大きすぎるとスジ状の塗布厚み斑が発生し易い。
接着改質層および易接着層は、易滑性付与を目的として、滑剤となる粒子を含有していることが望ましい。上記の通り、二軸配向積層ポリエステルフィルムでは、透明性向上の観点から、実質的に粒子を含有しない構成を採用することが好ましい。しかしながら、このような構成を採用すると、基材フィルム(B)の滑り性や巻き取り性などのハンドリング性が低下する問題が生ずる。この問題を解決するために、接着改質層および易接着層では、易滑性付与を目的とした滑剤粒子を含有して、これらの層表面に適度な突起が形成されていることが好ましいのである。
よって、接着改質層形成用塗布液および易接着層形成用塗布液には、滑剤となる粒子が含まれていることが好ましい。かかる粒子の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデンなどの無機粒子;架橋高分子粒子(例えば架橋ポリメチルメタクリレート粒子)、シュウ酸カルシウムなどの有機粒子;を挙げることができる。中でも、接着改質層や易接着層の構成樹脂にポリエステルを用いる場合には、ポリエステルとの屈折率が比較的近く、高い透明性が得易いことから、シリカが好ましい。
上記粒子の平均粒径は、0.01〜1.0μmが一般的であり、0.01〜0.5μmがより好ましく、0.01〜0.1μmが更に好ましい。平均粒径が大きすぎると、接着改質層や易接着層表面が粗面化しすぎて、透明性が低下する傾向にある。他方、平均粒径が小さすぎる粒子では、易滑性が十分に確保できないときがある。
また、接着改質層形成用塗布液や易接着層形成用塗布液中の粒子含有量は、塗布・乾燥後の層中の含有量が60質量%以下となるようにすることが一般的であり、50質量%以下となるようにすることがより好ましく、40質量%以下になるようにすることが更に好ましい。粒子含有量が多すぎると、接着改質層や易接着層による接着性向上効果が損なわれることがある。
上記粒子は2種類以上配合してもよく、同種の粒子で平均粒径の異なるものを配合してもよい。いずれにしても、粒子全体の平均粒径および合計の含有量が、上記範囲を満足するように調整することが好ましい。
接着改質層形成用塗布液および易接着層形成用塗布液を二軸配向積層ポリエステルに塗布する際には、塗布液中の粒子の粗大凝集物を除去することが好ましく、例えば、塗布直前に塗布液が精密濾過されるように濾材を配置することが推奨される。濾材は、濾過粒子サイズ25μm以下(初期濾過効率95%)であることが好ましい。濾過粒子サイズが大きすぎると粗大凝集物が十分去できないことがある。除去できなかった多くの粗大凝集物は、塗布・乾燥後一軸延伸あるいは二軸延伸した際に、接着改質層や易接着層に広がり、100μm以上の凝集物として認識される場合があり、結果として多くの光学欠点が発生することとなる。濾材のタイプは、上記の性能を有していれば特に限定されないが、例えばフィラメント型、フェルト型、メッシュ型が挙げられる。濾材の材質は、上記の性能を有しており且つ塗布液に悪影響を及ばさなければ特に限定はされないが、例えば、ステンレス鋼、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンなどが挙げられる。
接着改質層形成用塗布液や易接着層形成用塗布液には、その効果を損なわない範囲で帯電防止剤、顔料、有機フィラー、潤滑剤などの種々の添加剤を混合してもよい。さらに、塗布液が水性であるため、その効果を損なわない範囲で、更なる性能向上のために、他の水溶性樹脂、水分散性樹脂、エマルジョンなどを塗布液に添加してもよい。
接着改質層形成用塗布液や易接着層形成用塗布液を二軸配向積層ポリエステルフィルムに塗布するには、公知の任意の方法で行うことができる。例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。
塗布液を塗布するタイミングは、二軸延伸後、熱固定が完了し、二軸配向積層ポリエステルフィルムが完成した時点でもよいが、二軸配向積層ポリエステルフィルムの製造工程中とするのがより好ましい。さらに好ましくは、二軸配向積層ポリエステルフィルムの結晶配向が完了する前の段階である。
接着改質層、易接着層共に、塗布液の塗布量[基材フィルム(B)への付着量]は、走行している二軸配向積層ポリエステルフィルム(あるいは、二軸配向積層ポリエステルフィルムの中間製品)1m2当たり、0.01〜5gとすることが好ましく、0.2〜4gとすることがより好ましい。
例えば、二軸配向積層ポリエステルフィルムが逐次二軸延伸法により製造される場合であって、二軸配向積層ポリエステルフィルムの製造工程における一軸延伸後(一軸配向フィルム)に上記の各塗布液を塗布した場合では、塗布後の一軸配向フィルムは、延伸および熱固定のためにテンターに導かれ、そこで加熱されるため、熱架橋反応により安定な被膜(接着改質層および易接着層)が形成された基材フィルム(B)となる。
なお、表面層(A)のハードコート層との密着性や、近赤外線吸収層(C)との密着性をより高める観点からは、塗布液の塗布後、100℃以上の温度で、1分以上の熱処理を施すことが望ましい。
また、接着改質層形成用塗布液や易接着層形成用塗布液を塗布する際の環境としては、埃の付着を少なくするために、クリーン度をクラス1000以下とすることが望ましい。
<表面層(A)>
表面層(A)は、反射防止機能を有するものであり、基材フィルム(B)の接着改質層表面に設けられる。ここでいう「反射防止機能」とは、表面反射を防ぎ、光線透過率を上げると同時に「ギラツキ」を防止する機能を指す。
この表面層(A)は、通常、最表面側(接着改質層の反対面側)から、低屈折率層、高屈折率層、ハードコート層の順に積層された3層構造を有している。すなわち、低屈折率層と高屈折率層の界面における反射光の干渉を利用して、表面反射を低減すると共に、ハードコート層によって、近赤外線吸収フィルターのキズ付き防止を図っている。
ハードコート層としては、電子線または光(紫外線など)により硬化し得る樹脂(以下、「光硬化性樹脂」という)を硬化して得られる層が好適である。
光硬化性樹脂としては、公知のエポキシアクリレート(ビニルエステル樹脂)、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレートなど、電子線や光(紫外線など)の照射により硬化反応が可能な(メタ)アクリロイル基を分子内に2個以上有する樹脂(オリゴマーまたはポリマー)が使用可能である。
上記の光硬化性樹脂は、反応性希釈剤と混合し、光硬化性樹脂組成物として使用される。反応性希釈剤とは、分子内に1以上の反応性基を有し、光硬化性樹脂組成物の粘度を調整する役割と、硬化反応に寄与して他の層との密着性や硬度などを高める役割を有している。具体的には、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどの芳香族系モノマー;酢酸ビニル;N−ビニルピロリドン;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、(ジ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類などが挙げられ、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
なお、光(紫外線など)により硬化させる場合には、光硬化性樹脂組成物には光重合開始剤や光増感剤を含有させることが望ましい。光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類など、光重合開始剤として公知の化合物が適用できる。また、光増感剤も、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィンなど、光増感剤として公知の化合物を用いることができる。
光硬化性樹脂組成物は、粘度調整などを目的として溶媒を含有していてもよい。トルエン、キシレンなどの炭化水素類;セロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブなど;カルビトール、ブチルカルビトールなどのカルビトール類;セロソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;などが挙げられる。
ハードコート層の形成は、上記の光硬化性樹脂組成物を基材フィルム(B)上(接着改質層上)に塗布・乾燥し、電子線や光(紫外線など)を照射して硬化させる方法を採用すればよい。
低屈折率層および高屈折率層については、特に限定されない。有機系の層であっても、無機系の層であってもよく、無機/有機のハイブリッドの層であっても構わない。その形成法としては、主に無機系の層形成法として、蒸着法やスパッタリング法により、層を構成する化合物を堆積させる方法が、また、主に有機系の層の形成法として、層を構成する化合物(樹脂など)を含有する塗布液を塗布・乾燥させる方法が挙げられる。
無機系の場合、高屈折率層は、例えば、ZnO、TiO2、CeO2、SnO2、ZrO2、ITO(インジウム−スズ酸化物)など(例えば、屈折率が1.65以上)の層を、蒸着法やスパッタリング法により形成すればよい。低屈折率層は、MgF2、SiO2などの層を、蒸着法やスパッタリング法により形成すればよい。
この他、シラン化合物(有機シラン化合物)を加水分解縮合させて低屈折率層および高屈折率層を形成することもできる。すなわち、シラン化合物を含む塗布液を塗布・乾燥させると共に、加水分解縮合させて層形成する。なお、加水分解縮合は塗布液中で行っても良く、シラン化合物として既に加水分解縮合しているものを使用してもよい。使用し得るシラン化合物としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(およびその部分加水分解縮合物)、テトラエトキシシランなどが挙げられる。なお、低屈折率層と高屈折率層で屈折率に差をつけるには、各層毎に用いるシラン化合物の種類を変更すればよい。例えば、低屈折率層にγ−アミノプロピルトリメトキシシラン(およびその部分加水分解縮合物)を用いる場合には、高屈折率層にテトラエトキシシランを用いればよい。
塗布液に用いる溶剤は、水;水とアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)の混合溶剤;などが挙げられ、必要に応じて酸(塩酸などの無機酸など)を添加してもよい。塗布液の塗布後、乾燥(および加水分解反応)を行って、低屈折率層および高屈折率層を形成することができる。
表面層(A)は耐キズ付き性向上の観点から、硬度が高いことが望ましく、例えば、最表面の鉛筆硬度(JIS K 5400の規定に準じて測定される鉛筆硬度)が1H以上であることが望ましい。上記例示の各層構成を採用すれば、かかる硬度を確保できる。
また、表面層(A)の表面側(低屈折率層の面上)には、公知の他の機能層を設けてもよい。例えば、帯電防止性を確保するための帯電防止層や、指紋、皮脂、汗、化粧品などの汚れが付着することを防止し、付着しても容易に拭き取り得るような機能を有する防汚層などが挙げられる。
<近赤外線吸収層(C)>
近赤外線吸収層(C)は、800〜1000nmの近赤外線領域に極大吸収波長を有する色素を含有する層である。近赤外線吸収層(C)の存在により、プラズマディスプレイ用フィルターに用いた場合に、プラズマ発光により発生する近赤外線を遮断できるので、近赤外線を用いたリモコンの誤動作が抑えられるという効果が発現される。本発明に係る近赤外線吸収層(C)は、近赤外線吸収色素や樹脂などを含有する塗布液から形成される。
近赤外線吸収色素としては、ジインモニウム系、フタロシアニン系、ジチオ−ル金属錯体系、ナフタロシアニン系、アゾ系、ポリメチン系、アントラキノン系、ナフトキノン系、ピリリウム系、チオピリリウム系、スクアリリウム系、クロコニウム系、テトラデヒドオコリン系、トリフェニルメタン系、シアニン系、アゾ系、アミニウム系などの化合物が挙げられ、これらを1種単独で、または2種以上を混合して使用される。中でも、近赤外域の吸収が大きく、吸収域も広く、可視域の透過率も高いジインモニウム系化合物[下式(III)]を用いることが好ましい。
(式中、R1〜R8は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていても良い。R9〜R12は、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルコキシル基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていても良い。R1〜R12で置換基を結合できるものは置換基を有しても良い。X-は陰イオンを表わす。)
上記式(III)中のR1〜R8の具体例としては、以下のものが挙げられる。アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−シアノエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−シアノプロピル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基などが挙げられる。アリール基としてはフェニル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、トリル基、ジエチルアミノフェニル、ナフチル基などが、アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロフェニル基、フェニルプロピル基、ナフチルエチル基などが挙げられる。
また、上記式(III)中のR9〜R12としては、水素、フッ素、塩素、臭素、ジエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。X-は、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸塩イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオンなどが挙げられる。ただし、本発明では、上記例示のものに限定される訳ではない。これらの一部は市販品として入手可能であり、例えば日本化薬社製「Kayasorb IRG−022、IRG−023、IRG−024」、日本カーリット社製「CIR−1080、CIR−1081、CIR−1083、CIR−1085」などを好適に用いることができる。
近赤外線吸収層(C)は、上記式(III)で表わされるジインモニウム系化合物以外に、近赤外域の吸収域の拡大、色目の調整を目的として、他の近赤外線吸収色素を加えることも好ましい。ジインモニウム系化合物以外の近赤外線吸収色素としては、特に限定されないが、例えば、日本触媒社製「イーエクスカラ− IR−1、IR−2、IR−3、IR−4、IR−10、IR−10A、IR−12、IR−14、TXEX−805K、TX−EX807K、TX−EX808K、TX−EX811K、TX−EX813K」、三井化学社製「MIR−369、MIR−389」などのフタロシアニン系化合物;三井化学社製「SIR−128、SIR−130、SIR−132、SIR−159」、みどり化学社製「MIR−101、MIR−121」などのジチオール金属錯体系化合物;などを好適に用いることができる。さらに、旭電化社製「TZ−103、TZ−104、TZ−105、TZ−109、TZ−111、TZ−114」、日本化薬社製「CY−9、CY−10」、山田化学社製「IR−301」なども使用可能である。
近赤外線吸収色素は、必要とされる近赤外線の吸収および可視域での透過率を達成できるように存在させる。例えば、基材フィルム(B)上に、0.01g/m2以上1.0g/m2以下で存在させることが好ましい。近赤外線吸収色素の量が少ない場合には、近赤外線領域での吸収能が不足することがあり、逆に、多い場合には可視光域での透明性が不足して、プラズマディスプレイの輝度を低下させることがある。
近赤外線吸収色素は、樹脂中に分散あるいは溶解した状態で基材フィルム(B)上に存在することが推奨される。上記樹脂としては、近赤外線吸収色素を均一に溶解あるいは分散できるものであれば特に限定されないが、ポリエステル系、アクリル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリカ−ボネ−ト系、ポリスチレン系などの各種合成樹脂、ゼラチン、セルロース誘導体などの天然高分子などを好適に用いることができる。市販されている樹脂としては、例えば、「O−PET(鐘紡社製)」、「ZEONEX(日本ゼオン社製)」、「ARTON(JSR社製)」、「オプトレッツ(日立化成社製)」、「バイロン(東洋紡績社製)」などが挙げられる。中でも、柔軟性や基材との密着性に優れる点で、ポリエステル樹脂が好ましい。すなわち、樹脂が硬い場合には、近赤外線吸収フィルター製造工程において、近赤外線吸収層(C)に微小なひび割れが発生することがある。
さらに、樹脂のTgが、本発明の近赤外線吸収フィルターを適用する機器(例えば、プラズマディスプレイ)の使用保証温度以上であることが望ましい。樹脂のTgが適用機器の使用保証温度未満であると、フィルムの使用の際に樹脂中に分散させた色素同士が反応したり、樹脂が該期中の水分を吸収して該樹脂や色素の劣化が進む場合がある。
上記樹脂のTgは、85℃以上(さらに好ましくは100℃以上)160℃以下であることがより好ましい。樹脂のTgが上記範囲を下回るときには、色素と樹脂の相互作用、色素間の相互作用などが起こり、色素の変性が発生する頻度が増大傾向にある。また、後述するように、近赤外線吸収層(C)は、近赤外線吸収色素、樹脂および溶剤を含む塗布液を、基材フィルム(B)上に塗布し乾燥する方法で形成されるが、該樹脂のTgが上記範囲を超えると、十分に溶剤を除去するためには高温に加熱する必要が生じ、基材フィルム(B)にシワが入り平面性が低下したり、色素の劣化が発生し易くなったりする。他方、低温での乾燥を行うと、乾燥時間の長時間化は避けられず、生産性が著しく悪化する傾向にある。また、乾燥が不十分となると、近赤外線吸収層(C)中の塗布液溶剤の残留量が増大する。近赤外線吸収層(C)中の残留溶剤量が多くなると、樹脂の見かけのTgが低下するため、色素の変性が生じ易くなる。
樹脂と近赤外線吸収色素との合計量中の近赤外線吸収色素の含有量は、1質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。近赤外線吸収色素の含有量が少なすぎると、近赤外線吸収層(C)に、目的とする近赤外線吸収能を付与するためには、該層を厚くしなければならない。よって、近赤外線吸収層(C)を形成するための塗布液の塗布量も増大することから、乾燥効率を高めるために、高温で及び/または長時間乾燥することが必要となる。その結果、高温で乾燥した場合には、色素の劣化や透明基材の平面性不良が発生し易くなり、乾燥が長時間化すると生産性が悪化する。他方、近赤外線吸収色素の含有量が多過ぎると、色素間の相互作用が生じ易くなり、たとえ近赤外線吸収層(C)中の残留溶剤量を低減したとしても、色素の経時的な変性が起こり易くなる。
なお、本発明の近赤外線吸収フィルターは、基材フィルム(B)を基材として、基材を他に有しない各種機能層を形成させてなるものであり、良好な生産性確保の観点から、各種機能層の形成性が優れていることが望ましい。すなわち、良好に製造された基材フィルム(B)に、表面層(A)や易接着層、接着改質層を良好に形成できたとしても、近赤外線吸収層(C)の形成が不良であれば、それまで良好に作製されていた中間製品が不良品となってしまう。よって、各層の形成性を高めて、その歩留まりを向上させることが望ましいのである。
近赤外線吸収層(C)の形成性を向上させるためには、近赤外線吸収層(C)形成用塗布液が界面活性剤を含有していることが好ましい。界面活性剤の使用により、近赤外線吸収色素の樹脂への分散性が向上し、近赤外線吸収層(C)の外観、特に微小な泡によるヌケ、異物などの付着による凹み、乾燥工程でのハジキなどが改善される。さらには、界面活性剤は、塗布液の塗布・乾燥により近赤外線吸収層(C)表面にブリードすることにより、該表面の滑り性を向上させる作用を発揮する。よって、近赤外線吸収フィルターの製造工程の中間段階で、近赤外線吸収層(C)表面、あるいはフィルターの該層と反対側の表面に、上記粒子の添加などにより表面凹凸を形成しなくても、ハンドリング性が良好となり、かかる中間製品をロール状に巻き取ることができる。
界面活性剤としては、公知の界面活性剤(カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤)を用いることができるが、界面活性剤の共存による色素(近赤外線吸収色素、ネオンカット色素)の劣化を抑制する観点から、分子中に極性基を有していないノニオン系界面活性剤が好ましく、さらには、シリコン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤が、界面活性能に優れる点で推奨される。
シリコン系界面活性剤としては、アミノシラン、アクリルシラン、ビニルベンジルシラン、ビニルベンジシルアミノシラン、グリシドシラン、メルカプトシラン、ジメチルシランなどのシラン化合物;ポリジメチルシロキサン、ポリアルコキシシロキサン、ハイドロジエン変性シロキサン、ビニル変性シロキサン、ビトロキシ変性シロキサン、アミノ変性シロキサン、カルボキシル変性シロキサン、ハロゲン化変性シロキサン、エポキシ変性シロキサン、メタクリロキシ変性シロキサン、メルカプト変性シロキサン、フッ素変性シロキサン、アルキル基変性シロキサン、フェニル変性シロキサン、アルキレンオキシド変性シロキサンなどのシロキサン化合物;などが挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、4フッ化エチレン;パーフルオロアルキルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸アミド、パーフルオロアルキルスルホン酸ナトリウム、パーフルオロアルキルカリウム塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルアミノスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルアルキルベタイン、パーフルオロアルキルハロゲン化物などのパーフルオロアルキル化合物;などが挙げられる。
なお、界面活性剤のHLB(Hydrophilic−Lyphoilic−Balance)は、2以上12以下であることが好ましい。HLBが低すぎると、界面活性能が不足し、近赤外線吸収層(C)の外観向上効果が不十分となる場合がある。他方、HLBが大きすぎると、上述の滑り性向上効果が低下傾向にある他、近赤外線吸収層(C)の吸水性が増大するため、色素の経時安定性が低下する傾向にある。上記HLBとは、Atlas Powder社のW.C.Griffinが上記の如く名付けたパラメーターで、界面活性剤と親水性と親油性の均衡を示す指標であり、親水性の最も弱いものを1とし、親水性の最も強いものを40と定義している。すなわち、HLBが高いほど水溶性に近づき、低いほど油溶性に近づくことを意味する。
近赤外線吸収層(C)中の上記界面活性剤の含有量は、0.01質量%以上、2質量%以下とすることが望ましい。界面活性剤の含有量が少なすぎると、界面活性剤を使用することによる近赤外線吸収層(C)の外観向上効果や、滑り性向上効果が不十分となることがある。他方、界面活性剤の含有量が多すぎると、近赤外線吸収層(C)の吸水性が増大するため、近赤外線吸収色素の経時安定性が低下することがある。
近赤外線吸収層(C)形成用塗布液は、近赤外線吸収色素、樹脂、および有機溶剤(好ましくは、更に界面活性剤)を含有するものである。有機溶剤は、色素や樹脂を溶解または分散させること、および塗工性を向上させることを目的として用いられる。塗布液は、塗工性向上の観点から、色素や樹脂を別々に溶解または分散させた後混合し、必要に応じて更に有機溶剤で希釈して、固形分濃度を適切な範囲に調整する方法で作製することが好ましい。
有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、トリデシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなどのグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチレンエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルアセテート、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルアセテートなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソホロン、ジアセトンアルコールなどのケトン類;などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
上記有機溶剤の中でも、色素の溶解性に優れるケトン類が好適であり、塗布液の含有する全有機溶剤量に対するケトン類の量を、30質量%以上80質量%以下とすることが好ましい。ケトン類以外の有機溶剤は、塗布液のレベリング性や乾燥性を考慮して選定すればよい。
有機溶剤の沸点は60℃以上180℃以下が好ましい。有機溶剤の沸点が低すぎる場合には、塗工中に塗布液の固形分濃度が変化し易く、塗工厚みが安定化し難いといった問題が生じることがある。逆に有機溶剤の沸点が高すぎると、近赤外線吸収層(C)中の残留溶剤量が増大し易いことから、色素の経時安定性が悪化傾向にある。
近赤外線吸収色素および樹脂(更には界面活性剤)を有機溶剤中に溶解または分散させる方法としては、加温下での撹拌、分散、粉砕などの方法が採用できる。溶解時に加温することにより、色素および樹脂の溶解性を高めることができ、未溶解物による外観不良を防ぐことができる。また、樹脂および色素を有機溶剤中で分散または解砕して、例えば、平均粒子径が0.3μm以下の微粒子状態で塗布液中に分散させることにより、透明性に優れる近赤外線吸収層(C)を形成することが可能となる。分散機または解砕機としては、公知のものを用いることができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ホモミキサー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサーなどが挙げられる。
また、大きさが1μm以上の異物や未溶解物(纏めて「異物」という)を含む塗布液をそのまま用いて近赤外線吸収層(C)を形成した場合には、該異物の周囲に凹みなどが発生し、100〜1000μmサイズの欠点となるなど、外観が悪化する場合がある。よって、塗布に先立って、塗布液中の異物をフィルターなどで濾過して除去することが好ましい。フィルターとしては各種のものが好適に使用できるが、特に、大きさが1μm以上の異物を99%以上除去可能なフィルターを用いることが好ましい。
塗布液中の固形分濃度(近赤外線吸収色素および樹脂を含む)は、10質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは12質量%以上25質量%以下である。塗布液の固形分濃度が低過ぎると、塗布液中の有機溶剤量が多くなるため、近赤外線吸収層(C)形成の際の乾燥が長時間化し、生産性が悪化するばかりか、近赤外線吸収層(C)中の残留溶剤量が増大し、色素の経時安定性が悪化傾向にあり、特に高温高湿下で長期間保管(例えば、60℃、相対湿度95%、500時間)した場合に、フィルムの透過率や色調の変化が大きくなる傾向にある。他方、塗布液の固形分濃度が高過ぎると、塗布液の粘度が大きくなりレベリング性が不足して近赤外線吸収層(C)の外観不良が発生することがある。
ちなみに、塗布液の粘度は、10cps以上300cps以下に調整することが、近赤外線吸収層(C)の外観向上の観点から好ましい。塗布液の粘度を上記範囲内に調整するには、固形分濃度を調整するか、粘度の低い有機溶剤を用いればよい。なお、塗布液の上記粘度は、B型粘度計で測定した値である。
近赤外線吸収層(C)形成用塗布液を基材フィルム(B)上に塗布する方法としては、グラビアコート方式、キスコート方式、ディップ方式、スプレーコート方式、カーテンコート方式、エアナイフコート方式、ブレードコート方式、リバースロールコート方式、バーコート方式、リップコート方式など、通常用いられている方法が適用できる。特に、より均一な塗布が可能なグラビアコート方式、特にリバースグラビアコート方式を採用する装置を使用することが好ましい。この場合、装置のグラビアロールの直径は80mm以下であることが好ましい。グラビアロールの直径が大きい場合には、流れ方向(フィルムの走行方向)に畝スジが発生することがある。
塗布液の塗布量は特に限定されないが、例えば、乾燥後の塗布量で1g/m2以上、より好ましくは3g/m2以上であって、50g/m2以下、より好ましくは30g/m2以下とすることが望ましい。乾燥後の塗布量が少なすぎると、近赤外線吸収能が不足することがあり、樹脂中の近赤外線吸収色素の存在量を増やすことにより近赤外線吸収能を目的のレベルに調整する必要が生じるが、色素間距離が短くなることから色素間の相互作用が強くなって、色素の劣化などが生じ易くなり、経時安定性が低下する傾向にある。逆に、乾燥後の塗布量が多すぎると、近赤外線吸収能は十分であるが、可視光領域の透過性が低下し、プラズマディスプレイに適用した場合にその輝度を低下させてしまうことがある。これを回避するには、近赤外線吸収層(C)の平面視での色素濃度(平面視での単位面積当たりの色素の存在量)を減らして、色素間の距離を長くすることにより、可視光域での透過率を高めることも考えられるが、そのためには近赤外線吸収層(C)の厚みを大きくせざるを得ず、塗布液の塗布後の乾燥が不十分になり易い。その結果、近赤外線吸収層(C)中の残留溶剤量が多くなり、色素の経時安定性が悪化する。他方、乾燥を十分にしようとすると基材の平面性が悪化する。
塗布液を塗布した後の乾燥は、熱風乾燥、赤外線ヒーターによる乾燥など、公知の乾燥方法が採用できるが、乾燥速度が速い熱風乾燥が好適である。
さらに乾燥工程は、下記の第1乾燥工程、第2乾燥工程、および冷却工程からなることが推奨される。
第1乾燥工程は、塗布後、初期の恒率乾燥の工程である。この工程では、温度:20℃以上80℃以下、風速:2m/秒以上30m/秒以下の風を用いて、乾燥することが好ましい。初期の乾燥条件を厳しくする(風の温度を高く、風量を大きくする)と、塗布液が包含していた泡に由来する微小なコート抜け、微小なハジキ、クラックなどの微小な欠点が近赤外線吸収層(C)に発生し易くなる。他方、初期の乾燥条件を甘く(風の温度を低く、風量を小さくする)と、近赤外線吸収層(C)の外観は良好となるが、乾燥に長時間を要し、生産性が悪化するなど、コスト面で問題が生じる。なお、第1乾燥工程での乾燥時間(フィルムの通過時間)は、例えば10〜120秒とすることが好ましい。
第2乾燥工程は、第1乾燥工程後の減率乾燥の工程である。この工程では、第1乾燥工程よりも高温条件とし、近赤外線吸収層(C)中の溶剤を減少させる。具体的には、温度:120℃以上180℃以下の風で乾燥することが好ましい。風の温度が低過ぎると、近赤外線吸収層(C)中の溶剤量が減少し難くなる。他方、風の温度が高過ぎると、透明基材に熱シワが発生して平面性不良となり易く、また近赤外線吸収色素の熱劣化が生じ易くなる。また、乾燥時間(フィルムの通過時間)は5秒以上3分以下(より好ましくは1分以下)とすることが好ましい。乾燥時間が短い場合には、近赤外線吸収層(C)の残留溶剤が多くなり易い。他方、乾燥時間が長い場合は、生産性が低下する他、基材フィルム(B)に熱シワが発生して平面性不良となり易い。なお、第2乾燥工程での風速は、例えば2〜50m/秒とすることが推奨される。
冷却工程は、乾燥工程の最終工程である。この工程では、樹脂[近赤外線吸収層(C)中の樹脂]のTg以下の温度の風で冷却し、フィルムがフラットな状態で基材フィルム(B)の温度を樹脂のTg以下とすることが好ましい。より好ましい風の温度はTg−5℃、さらに好ましくはTg−10℃である。フィルムが高温のまま乾燥炉から出た場合には、近赤外線吸収層(C)表面が、巻き取りまでの間に、フィルム走行用ロールと接触した際に滑り性が不良となり、該層表面にキズが発生し易くなる他、フィルムにカールなどが発生する場合がある。冷却工程では、風速を、例えば2〜50m/秒とすることが好ましく、また、冷却時間は、例えば5〜120秒とすることが望ましい。
近赤外線吸収層(C)は、高温、高湿度下に放置されても近赤外線の透過率および可視光線の透過率が変化しないことが好ましい。高温、高湿度下の経時安定性が不良の場合には、ディスプレイの映像の色調が変化するばかりか、近赤外線リモコンを用いた電子機器の誤動作を防止するといった本発明の効果がなくなる場合がある。上記光線透過率の経時安定性を向上させるには、塗布液に用いる溶剤の種類、塗布層の厚み、乾燥条件などの調整により、近赤外線吸収層(C)中の残留溶剤量を低減することや、近赤外線吸収層(C)の平面視における単位面積当たりの色素濃度を調整することで達成できる。なお、近赤外線吸収層(C)の残留溶剤量(塗布液由来の残留溶剤量)は、少なければ少ないほど良いが、例えば、近赤外線吸収層(C)全量中、3質量%以下にすることが好ましい。残留溶剤が3質量%以下となれば、経時安定性に実質的な差が見られなくなる。他方、残留溶剤量の更なる低減を目的として、過度に乾燥条件を厳しくすると、フィルムの平面性が不良になるなどの弊害が発生することがある。
近赤外線吸収層(C)の外観としては、直径300μm以上、より好ましくは100μmのサイズの欠点を存在しないことが望ましい。300μm以上の欠点は、プラズマディスプレイの前面に設置すると輝点のようになって、該欠点がより顕著化される。また、近赤外線吸収層(C)の薄いスジ、ムラなどもプラズマディスプレイ前面では顕著化されて問題となることがある。こうした近赤外線吸収層(C)の外観は、上述の素材や形成法・形成条件の採用により確保できる。
<粘着層(D)>
本発明の近赤外線吸収フィルターでは、近赤外線吸収層(C)側表面に粘着層(D)を有することも好ましい。この粘着層(D)により、プラズマディスプレイパネル表面や、電磁波吸収機能を有する透光性シート(E)(後述する)に貼着し固定することができる。粘着層(D)に用いる透明粘着剤は特に限定されず、当該技術分野で公知のものが使用できる。例えば、ブチルアクリレートなどのアクリル系粘着剤;ゴム系粘着剤;SEBS(スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン)、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)などの熱可塑性エラストマー(TPE)をベースとしたTPE系粘着剤;などが挙げられる。
また、粘着層(D)の表面に公知のセパレータフィルム(シリコーン処理を施したPETフィルムなど)を設けることも好ましい態様である。
<透光性シート(E)>
本発明の近赤外線吸収フィルターが、電磁波吸収機能を有する透光性シート(E)を有していることも好ましい。この透光性シート(E)は、近赤外線吸収層(C)とプラズマディスプレイパネルの間に位置するように設けられる。例えば、上記粘着層(D)を介して近赤外線吸収層(C)側に積層されていることが好ましい態様である。この他に、近赤外線吸収層(C)と透光性シート(E)を、粘着層(D)以外の手法で積層し、透光性シート(E)の最表面に粘着層(D)を設ける態様も好ましい。この場合の粘着層(D)は、プラズマディスプレイパネルへの貼着に利用される。
透光性シート(E)は、透光性と電磁波吸収機能を有していれば特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
(i)金属繊維や金属被覆有機繊維より構成される導電性メッシュ;
(ii)透明フィルムに金属膜を積層した後、フォトリソグラフィーなどの手法で格子状やパンチングメタル状などの形状にエッジング加工したエッジング法導電メッシュ複合シート;
(iii)透明フィルムに導電塗料をパターン印刷した導電印刷メッシュ複合シート;
(iv)透明フィルムに銀薄膜やITO薄膜などの透明導電層を積層した透明導電体。
<その他>
本発明の近赤外線吸収フィルターでは、上記(A)層〜(D)層、すなわち、表面層(A)、基材フィルム(B)、近赤外線吸収層(C)または粘着層(D)の少なくとも1層が、可視光領域に吸収を有する色素を少なくとも1種含有していることも、好ましい態様である。例えば、プラズマディスプレイは、波長600nm付近を中心とする所謂ネオンオレンジ光を発光するため、赤色にオレンジ色が混ざって鮮やかな赤色が得られないという欠点がある。この欠点は、550〜620nmの波長域に極大吸収を有する色素(ネオンカット色素)を(A)層〜(D)層のいずれかに配合することで解消できる。かかる色素は波長550nm〜620nm、好ましくは波長570〜600nmに、シャープな吸収を有するものであることが好ましい。
近赤外線吸収フィルターの、上記ネオンカット色素の極大吸収波長における透過率は、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。この領域での透過率が高い場合には、プラズマディスプレイから放出されるネオンオレンジ光を十分に吸収しなくなり、色純度の低下を招くことがある。また、この領域の吸収が広い場合には、R、G、B光のバランスが崩れ、コントラストが低下することがある。
ネオンカット色素の具体例としては、シアニン系、スクアリリウム系、アゾメチン系、キサンテン系、オキソノール系、アゾ系、フタロシアニン系、キノン系、アズレニウム系、ピリリウム系、クロコニウム系、ジチオール金属錯体系、ピロメテン系化合物などの各種化合物が挙げられる。中でも、スクアリリウム系、シアニン系化合物が、ネオンオレンジ光にシャープな吸収があることから好ましい。ネオンカット色素を含有させる層は特に限定されないが、上記近赤外線吸収色素と共に近赤外線吸収層(C)に配合するのが好ましい実施態様である。
近赤外線吸収フィルターの色調としては、Lab表色系で表現すると、a値は−10.0〜+10.0、b値は−10.0〜+10.0であることが好ましい。この範囲であれば、プラズマディスプレイの前面に設置した場合でもナチュラル色となり好ましい。
近赤外線吸収フィルターの厚みは特に限定されず、市場要求に従い任意に設定できるが、(A)層〜(D)層の合計厚みで0.05〜0.2mmとすることが好ましい。合計厚みが小さすぎると、近赤外線吸収フィルターの取り扱い性が悪化するので好ましくない。逆に、合計厚みが大きすぎても近赤外線吸収フィルターの取り扱い性やプラズマディスプレイなどに貼着する時の作業性が悪化するので好ましくない。また、市場の薄膜化要求の面からも、上記上限値以下とすることが望ましい。
すなわち、近赤外線吸収フィルターの取り扱い性やプラズマディスプレイなどに貼着する時の作業性の観点から、近赤外線吸収フィルターの薄膜化が市場より要望されているが、従来では、基材フィルム上に機能層が形成された機能フィルムを2枚以上貼り合わせることで多機能化を図っていたため、フィルターの総厚みは0.2mmを超えていた。これに対し、本発明では、基材フィルムを一枚化したことにより、高機能性を確保しつつ、近赤外線吸収フィルターの薄膜化に対する市場要求に初めて応えることができたのである。
なお、本発明の近赤外線吸収フィルターでは、各層の形成順序には特に制限はなく、例えば、基材フィルム(B)上に接着改質層および表面層(A)を先に形成した後に、(易接着層形成を経て)近赤外線吸収層(C)を形成しても良く、近赤外線吸収層(C)を先に形成した後に、表面層(A)を形成するなど、如何なる順序も採用可能である。また、各層を形成する塗布液の塗工についても順次行う他、多層コーターを用いて複数の塗布液を同時に塗工することもできる。ただし、粘着層(D)は、(A)層〜(D)層の全てが形成された後に、形成することが望ましい。
本発明の近赤外線吸収フィルターは、粘着層(D)を介してプラズマディスプレイパネルに直接貼着することが好ましい実施態様であるが、粘着層(D)を有しないか、または粘着層(D)を介して透光性シート(E)が積層されている態様のものを、プラズマディスプレイパネルに貼着することも勿論可能である。この場合の固定方法は特に限定されないが、従来公知の光学用の接着剤や粘着剤を用いることが推奨される。なお、粘着層(D)を有しない構成の近赤外線吸収フィルターの場合は近赤外線吸収層(C)面を、粘着層(D)を介して透光性シート(E)が積層されている構成の近赤外線吸収フィルターの場合は透光性シート(E)面を、プラズマディスプレイパネル表面に貼着する。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、本実施例で採用した評価方法は、以下の通りである。
(1)光線透過率
分光光度計(日立製作所製「U−3500型」)を用い、波長:200〜1100nmの範囲で、近赤外線吸収層(C)側から特定波長の光を照射し、室内の空気の透過率を参照値(ブランク)として測定する。近赤外域での透過率は、波長:900〜110nmの透過率の平均値、ネオン光(ネオンオレンジ光)領域での透過率は、570〜600nmでの透過率の平均値、可視光域での透過率は、波長:450〜700nmでの透過率の平均値、紫外線透過率は380nmの透過率、で評価する。
(2)色調
色調の測定は、色差計(日本電色工業社製「ZE−2000」)を用い、標準光をD65光源とし、視野角を10度として、近赤外線吸収層(C)側に光を照射して行い、Lab表示系のa値およびb値を求める。
(3)経時安定性
近赤外線吸収フィルターを、温度60℃、湿度95%雰囲気中で500時間放置した後、上記(1)の光線透過率、および(2)の色調を測定する。
近赤外線領域の透過率の平均値、および可視光領域の透過率の平均値の経時処理前後の変化量を下記式(a)より求め、以下の判断基準でランク付けを行う。
◎:透過率の変化量が5%未満;
○:透過率の変化量が5%以上10%未満;
△:透過率の変化量が10%以上20%未満;
×:透過率の変化量が20%以上;
変化量(%)=(|処理前の透過率−処理後の透過率|/処理前の透過率)×100
・・・(a)。
また、下記式(b)で定義される色調の経時処理前後での変化量を求め、以下の判断基準でランク付けを行う。
◎:色調の変化量が1未満;
○:色調の変化量が1以上2未満;
△:色調の変化量が2以上4未満;
×:色調の変化量が4以上
変化量 = [(処理前a値―処理後a値)2+(処理前b値―処理後b値)2]1/2
・・・(b)。
(4)耐候性
近赤外線吸収フィルターの試験試料について、以下の条件で促進耐候性試験を行い評価する。紫外線オートフェードメーター(スガ試験機社製「FAL−AU−H−BR」)による照射試験を、ブラックパネル温度:63℃で192時間行い、該試験前後の試験試料の、近赤外線領域の極大吸収波長での透過率を測定する。試験前の透過率をT、試験後の透過率をT1とし、これら測定値から、下式(c)により近赤外線吸収能残存率R(%)を求める。この評価は、試験試料を粘着層(D)を介して厚さ:2mmのSUS板に貼着し、表面層(A)側より紫外線を照射する方法で実施する。
R(%)=T/T1×100 ・・・(c)。
(5)表面層(A)の反射率
分光光度計(日立製作所製「U−3500型」)を用い、JIS R 3106の規定に準じて、表面層(A)側の5°正反射を測定し、波長:380〜700nmでの最小の反射率を求める。表面層(A)を積層しない比較例のサンプルについては、基材フィルム(B)の表面の測定を行う。
(6)表面硬度
表面層(A)の表面について、鉛筆引掻き硬度で評価する。サンプルを温度:25℃、相対湿度:60%の条件下で2時間調湿した後評価する。鉛筆引掻き硬度はJIS S 6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS K 5400の規定に準じて実施する。評価結果の鉛筆硬度は、9.8Nの荷重でキズが全く認められない鉛筆の硬度である。表面層(A)を積層しない比較例のサンプルについては、基材フィルム(B)の表面の測定を行う。
(7)基材フィルム(B)に対する表面層(A)および近赤外線吸収層(C)の接着性
JIS K 5400の8.5.1の規定に準じた試験方法で接着性を求める。すなわち、夫々両表面より基材フィルム(B)に達する100個の升目状の切りキズを、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて付け、セロハン粘着テープ(ニチバン社製「405番」、24mm幅)を、升目状の切りキズ面に貼り付け、アクリル板(住友化学社製「スミペックス」)で擦って完全に付着させた後、垂直に引き剥がした時の状況を目視により観察し、下式(d)を用いて接着性(%)を求める。なお、1つの升目で部分的に剥がれているものは、剥がれた升目とする。
接着性(%)=(1−剥がれた升目の数/評価した升目の数)×100 ・・・(d)。
(8)基材フィルム(B)の表面キズ評価
250mm×250mmのフィルム片16枚について評価する。この評価は製膜開始から24時間後のものについて評価することとする。投光器として20W×2灯の蛍光灯をXYテーブル下方400mmに配置し、XYテーブル上に設けたスリット幅:10mmのマスク上に測定対象の試験片を載置する。投光器と受光器を結ぶ線と、試験片表面の鉛直方向とのなす角度を12°となるように光を入射すると、入射位置の試験片にキズが存在する場合に、その部分が光り輝く。その部分の光量をXYテーブル上方500mmに配置したCCDイメージセンサカメラで電気信号に変換し、その電気信号を増幅し、微分してスレッシュホールド(しきい値)レベルとコンパレータで比較して、光学欠点の検出信号を出力する。また、CCDイメージセンサカメラを用いて、キズの画像を入力し、入力された画像のビデオ信号を所定の手順により解析して、光学欠点の大きさを計測し、50μm以上の欠点の位置を表示する。この方法による光学欠点の検出は、試験片の両面について行う。
上記方法において検出される光学欠点部分から、キズによる欠点を選出する。上記方法でキズと判定された部分を適当な大きさに裁断し形状観察用試験片を採取する。この試験片について、3次元形状測定装置(マイクロマップ社製「TYPE550」)を用いて、試験片の欠点を検出した表面に対して垂直方向から観察し、キズの大きさを測定する。なお、試験片、すなわちフィルムの表面に対して垂直方向から観察した時に、50μm以内に近接するキズの凹凸は同一のキズとする。これらのキズの最外部を覆う最小面積の長方形の長さおよび幅を、キズの長さおよび幅とする。これらのキズの深さ(キズの最も高いところと最も低いところの高さの差)および長さを計測する。この結果より、深さ:1μm以上で且つ長さ:3mm以上のキズの個数(個/m2)を求め、以下の基準により判定する。
◎:30個/m2以下;
○:31〜50個/m2;
△:51〜100個/m2;
×:100個/m2以上。
(9)基材フィルム(B)表面の異物評価
上記キズ評価において記載した方法で検出した光学欠点の中から、異物起因の欠点を選別し、該部分の試験片をサンプリングする。該試験片の欠点が検出された面にAl蒸着を行い、非接触式三次元粗さ計(マイクロマップ社製「TYPE550」)でフィルム面に対して垂直方向から観察する。最大径が20μm以上の異物の個数(個/m2)を求め、以下の基準により判定する。
◎:2個/m2以下;
○:3〜5個/m2;
△:6〜10個/m2;
×:11個/m2以上。
(10)基材フィルム(B)の厚み方向における紫外線吸収剤の偏在性評価
FT−IRにより基材フィルム(B)の表層におけるポリエステルの特性吸収に対する紫外線吸収剤の特性吸収の吸光度比Xと、基材フィルム(B)の厚み方向での中央部におけるポリエステルの特性吸収に対する紫外線吸収剤の特性吸収の吸光度比Yを、下記方法で測定し、X/Yで表示する。値が小さいほど紫外線吸収剤の偏在度が高いことを意味する。
上記Xは、下記の方法で求める。まず、ブランク試料(紫外線吸収剤を含有しないポリエチレンテレフタレートフィルム)の表層のIRスペクトル(I)と、基材フィルム(B)の表層IRスペクトル(II)を測定する。次いで、(I)と(II)の差スペクトルをとり、1700〜1800cm-1での吸光度(紫外線吸収剤の特徴的な吸収)と、(II)のIRスペクトルから得られる1505cm-1での吸収(ポリエチレンテレフタレートの吸収)との吸光度比(1700〜1800cm-1/1505cm-1)を求め、Xとする。
また、基材フィルム(B)を厚み方向について、全厚みの50%を削り取り、剥き出しになった面(フィルム厚み方向での中央部)について、上記Xと同様の測定を行って吸光度比を求め、Yとする。
なお、IRスペクトルは下記方法で測定する。
FT−IR装置 : Digilab社製「FTS−7000e」
1回反射ATR装置 : Thermo Spectra−Tech社製
「Thunderdome」
IRE : Ge
入射角 : 45°
分解能 : 8cm-1
積算回数 : 128回
実験1(近赤外線吸収フィルターの作製)
実施例1
<基材フィルム(B)の作製>
(1)紫外線吸収剤含有マスターバッチペレットの調製
乾燥させた2,2’−(1,4−フェニレン)ビス(4H−3,1−ベンズオキサジノン−4−オン(サイアテック社製「CYASORB UV−3638」、紫外線吸収剤):10質量部と、粒子を含有しないポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(東洋紡績社製「ME553」):90質量部を混合し、混練押出機を用い、マスターバッチペレットを作製した。この時の押出温度は285℃であり、押出時間は7分であった。
(2)易接着層形成用塗布液の調製
ジメチルテレフタレート:95質量部、ジメチルイソフタレート:95質量部、エチレングリコール:35質量部、ネオペンチルグリコール:145質量部、酢酸亜鉛:0.1質量部および三酸化アンチモン:0.1質量部を反応容器に仕込み、180℃で3時間かけてエステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸:6.0質量部を添加し、240℃で1時間かけてエステル化反応を行った後、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。
得られたポリエステル樹脂の30質量%水分散液:6.7質量部、重亜硫酸ソーダでブロックしたイソシアネート基を含有する自己架橋型ポリウレタン樹脂の20質量%水溶液(第一工業製薬社製「エラストロンH−3」):40質量部、エラストロン用触媒(Cat64):0.5質量部、水:47.8質量部およびイソプロパノール:5質量部を混合し、さらにアニオン性界面活性剤を1質量%、球状コロイダルシリカ粒子(日産化学工業社製「スノーテックスOL」)を5質量%添加し、塗布液とした。
(3)基材フィルム(B)の製膜
基材フィルム(B)の二軸配向積層ポリエステルフィルムは3層構造とした。中間層形成用には、固有粘度が0.62dl/gのPETの、粒子を含有しないペレット(東洋紡績社製「ME553」):90質量部と、上記(1)で作製したマスターバッチペレット:10質量部とを、135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2に供給した。両表層形成用には、粒子を含有しないPETのペレット(東洋紡績製「ME553」)を、135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機1に供給した。押出機1および押出機2について、押出機熔融部、混練り部、ポリマー管、ギアポンプ、フィルターまでの樹脂温度は280℃、その後のポリマー管では275℃とし、3層合流ブロックにて、両表層と中間層を積層し、口金よりシート状にして押出した。なお、これらのPETは、夫々溶融段階でステンレス鋼焼結体の濾材(公称濾過精度:10μm以上の粒子を95%カット)を用いて濾過した。また、フラットダイは樹脂温度が275℃となるようにした。
溶融押出しされたフィルム状の樹脂を静電印加キャスト法を用いて、表面温度30℃のキャスティングドラム(ロール径:400mm、Ra:0.1μm以下)に巻き付けて冷却固化し、未延伸フィルムとした。この時の吐出量は48kg/hrであり、得られた未延伸フィルムは幅:300mm、厚さ:1400μmであった。また、両表層の厚さの比率が全厚みに対して夫々10%となるように、各押出機の吐出量を調整した。
次に、上記未延伸フィルムを、加熱したロール群および赤外線ヒーターを用いて100℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向(走行方向)に3.5倍延伸して(縦延伸工程)一軸配向フィルムを得た。なお、フィルム製造時に用いる全ロールに関しては、ロールの表面粗度をRaで0.1μm以下に管理し、延伸工程の予熱入口に位置するロールと冷却ロールにロールクリーナーを設置した。縦延伸工程でのロール径は150mmであり、サクションロール、静電密着、パートニップの密着装置によりフィルムをロールへ密着させる手法を採用した。
濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)25μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過を行った接着改質層形成用塗布液および易接着層形成用塗布液を、夫々リバースロール法で上記一軸配向フィルムの片面づつ塗布した。その後引き続いて、フィルムの端部をクリップで把持して130℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥後フィルム幅方向に4.0倍に延伸し、230℃で5秒間熱処理し、この熱処理工程中に幅方向に3%の弛緩処理し、接着改質層および易接着層が積層された基材フィルム(B)を得た。
得られた基材フィルム(B)の厚さは100μmであり、接着改質層および易接着層は、乾燥後の塗布量で0.01g/m2であった。表面状況の評価結果を表2に示したが、長時間生産しても表面キズや表面異物などの表面欠点の発生が抑制されており、高品質な積層フィルムが、安定して生産することができた。
<表面層(A)の形成>
上記基材フィルム(B)の接着改質層表面に紫外線硬化型ハードコート塗料(大日精化社製「セイカビームEXF−01B」)を、リバースコーティング法により、乾燥後の膜厚が5μmになるように塗布した。次いで、溶剤を乾燥後、高圧水銀灯により800mJ/cm2の紫外線を照射して塗料中の樹脂を硬化させ、ハードコート層を形成させた。
次に、γ−アミノプロピルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物:5質量部、メタノール:30質量部、エタノール:30質量部、イソプロパノール:35質量部からなる塗布液を調製し、これを乾燥後の膜厚が0.02μmになるようにハードコート層表面に塗布し、140℃で20秒間乾燥させて、高屈折率層を形成させた。
次いで、テトラエトキシシラン:24質量部に、エタノール:50質量部、水:20質量部、塩酸:4質量部を加えてテトラエトキシシランを加水分解させて、塗布液を調製した。この塗布液を、乾燥後の膜厚が0.09μmになるように高屈折率層表面に塗布し、140℃で1分間乾燥させて、低屈折率層を形成させた。
さらに、上記低屈折率層表面に、C3F7−(OC3F6)34−O−(CF2)2−C2H4−O−CH2Si(OCH3)3からなるパーフルオロポリエーテル基含有シランカップリング剤を、パーフルオロへキサンで0.5質量%に希釈した塗布液を塗布し、120℃で1分間乾燥して、膜厚が8nmの防汚層を形成させた。
これにより、基材フィルム(B)の接着改質層表面に、ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層/防汚層の順に積層された表面層(A)を形成させた。
<近赤外線吸収層(C)の形成>
溶剤、樹脂、色素および界面活性剤を、表1に示す組成で混合し、加温下(40℃)で色素および樹脂を溶解した後、公称濾過精度:1μmのフィルターで未溶解物を除去して塗布液を調製した。得られた塗布液は、固形分濃度が17質量%で、粘度が40cpsであった。
上記塗布液を表面層(A)を形成した基材フィルム(B)の易接着層表面に、乾燥後の塗布量が8.5g/m2になるように塗布した。塗布は、直径60cmの斜線グラビアロールを、リバース回転させることで行った。その後、40℃、5m/秒の風で20秒間(第1乾燥工程)、150℃、20m/秒の風で20秒間(第2乾燥工程)、さらに、90℃、20m/秒の風で10秒間(冷却工程)通過させて乾燥し、近赤外線吸収フィルターを作製した。
<粘着層(D)の形成>
上記近赤外線吸収フィルターの近赤外線吸収層(C)の表面に、n−ブチルアクリレート(78.4質量%)、2−エチルヘキシルアクリレート(19.6質量%)、およびアクリル酸(2質量%)よりなるアクリル酸エステル共重合体である透明粘着剤を、コンマコーター法により、乾燥後の膜厚で0.025mmとなるように積層した。さらに、その表面にシリコーン処理した厚み:0.038mmのPET製セパレータフィルムを積層し、粘着層(D)を有する近赤外線吸収フィルターとセパレータフィルムとの複合体を得た。
上記近赤外線吸収フィルターについて、上記の各評価を行った結果を表2に示す。耐候性試験以外の評価は、粘着層(D)を設けていない近赤外線吸収フィルターについて行い、耐候性試験は、粘着層(D)を設けた近赤外線吸収フィルターについて行った。表2から分かるように、得られた近赤外線吸収フィルターは、近赤外領域およびネオン光領域の吸収が大きく、可視光領域の透過性も大きい。また、紫外線領域の吸収が極めて大きく、経時安定性(透過率特性、色調)および耐候性に優れている。また、フィルターの外観も良好であった。
さらに、近赤外線吸収フィルターの表面層(A)について、防汚性評価も行った。防汚性は、油性ペンの拭き取り性と指紋の拭き取り性で評価した。油性ペンの拭き取り性は、表面層(A)表面に油性ペンで線を引きその線を、また、指紋の拭き取り性は、表面層(A)表面に付着させた指紋をセルロース製の不織布(旭化成社製「ベンコットンM−3」)で拭き取り、その取れ易さを目視判定した。どちらも完全に拭き取ることができた。
また、本実施例で得られた近赤外線吸収フィルターの(A)層〜(D)層の合計厚みは0.14mmであり、非常に薄い上に、上記のような優れた特性を保有しており、上記複合体のセパレータフィルムを剥離すれば、粘着層(D)の粘着性を利用して、プラズマディスプレイなどの被貼着体に容易に貼着することができる。この近赤外線吸収フィルターは、上記の通り、その厚みが従来公知のものより薄いので、その貼着の作業性に優れている。
実施例2
基材フィルム(B)を構成する二軸配向積層ポリエステルフィルムにおいて、両表層の厚みを、全厚みに対し夫々5%となるようにした他は、実施例1と同様にして表面層(A)、基材フィルム(B)および近赤外線吸収層(C)を有する近赤外線吸収フィルターを作製した。さらに、この近赤外線吸収フィルターを用い、実施例1と同様にして、粘着層(D)を有する近赤外線吸収フィルターも作製した。これらの近赤外線吸収フィルターの評価結果を表2に示す。表2に示すように、実施例1の近赤外線吸収フィルターと同等の特性を有している。また、実施例1と同じ防汚性評価も行ったが、油性ペンの拭き取り性、指紋の拭き取り性のいずれも良好であった。
実施例3
基材フィルム(B)の製造の際の、未延伸フィルム作製段階での押出機の条件について、フィルター後のポリマー管とフラットダイスの温度を、樹脂温度が285℃となるように変更した他は、実施例2と同様にして表面層(A)、基材フィルム(B)および近赤外線吸収層(C)を有する近赤外線吸収フィルターを作製した。さらに、この近赤外線吸収フィルターを用い、実施例1と同様にして、粘着層(D)を有する近赤外線吸収フィルターも作製した。これらの近赤外線吸収フィルターの評価結果を表2に示す。
表2に示すように、実施例1の近赤外線吸収フィルターとほぼ同等の特性を有しているが、基材フィルム(B)中での厚み方向における紫外線吸収剤の偏在度合いがやや劣っており、紫外線吸収剤の昇華抑制やフィルム中でのマイグレーション抑制の効果がやや低下している。また、未延伸フィルム作製段階での押出機の条件を変更したことに伴い、基材フィルム(B)の表面状況がやや悪化している。さらに、実施例1と同じ防汚性評価も行ったが、油性ペンの拭き取り性、指紋の拭き取り性のいずれも良好であった。
比較例1
基材フィルム(B)に紫外線吸収剤を配合せず、さらにまた易接着層を基材フィルム(B)の両面共に形成しない他は、実施例1と同様にして表面層(A)、基材フィルム(B)および近赤外線吸収層(C)を有する近赤外線吸収フィルターを作製した。さらに、この近赤外線吸収フィルターを用い、実施例1と同様にして、粘着層(D)を有する近赤外線吸収フィルターも作製した。これらの近赤外線吸収フィルターの評価結果を表3に示す。これらの近赤外線吸収フィルターは、表3に示すように紫外線透過率が高いため、近赤外線吸収色素の紫外線劣化が大きく、耐候性が劣っている。また、易接着層が無いことで、表面層(A)と基材フィルム(B)との間、基材フィルム(B)と近赤外線吸収層(C)との間の接着性が、実施例1の近赤外線吸収フィルターに比べて劣っている。
比較例2
表面層(A)を形成させない他は、実施例1と同様にして、基材フィルム(B)および近赤外線吸収層(C)を有する近赤外線吸収フィルターを作製した。さらに、この近赤外線吸収フィルターを用い、実施例1と同様にして、粘着層(D)を有する近赤外線吸収フィルターも作製した。これらの近赤外線吸収フィルターの評価結果を表3に示す。これらの近赤外線吸収フィルターは、表面層(A)を有しないために、表3に示すように表面反射率や表面硬度が劣っている。また、実施例1と同じ防汚性評価をしたが、油性ペンで描いた線や指紋が、拭き取り後も残った。
比較例3
近赤外線吸収層(C)を形成させない他は、実施例1と同様にして、表面層(A)および基材フィルム(B)を有するフィルターを作製した。さらに、このフィルターを用い、実施例1と同様にして、粘着層(D)を有するフィルターも作製した。これらのフィルターの評価結果を表3に示す。これらのフィルターは、近赤外線吸収層(C)を有していないために、表3に示すように近赤外領域の透過率が高く、近赤外線吸収フィルターとしての基本機能を有していない。また、色調補正機能(ネオン光の吸収能)も有していない。よって、経時安定性試験および耐候性試験は中止した。
比較例4
基材フィルム(B)に紫外線吸収剤を配合しない他は、実施例1と同様にして、表面層(A)、基材フィルム(B)および近赤外線吸収層(C)を有する近赤外線吸収フィルターを作製した。さらに、この近赤外線吸収フィルターを用い、粘着層(D)に紫外線吸収剤(チバスペシャルティケミカルズ社製「TINUVIN386」):3質量%、および酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製「IRGANOX−1010」):1質量%を配合した他は、実施例1と同様にして粘着層(D)も有する近赤外線吸収フィルターを作製した。これらの近赤外線吸収フィルターの評価結果を表3に示す。表3から分かるように、紫外線吸収剤を有する層[粘着層(D)]よりも近赤外線吸収層(D)の方が、光(外部からの光)が入射する側に設けられているため、紫外線吸収剤による近赤外線吸収色素劣化防止効果が発現されておらず、耐候性が低レベルである。なお、表3に示したように、近赤外線吸収フィルター[粘着層(D)なし]の紫外線領域の透過率は95%であるが、粘着層(D)も有する態様では、紫外線領域の透過率は0%であった。
比較例5
基材フィルム(B)に単層の二軸配向ポリエステルフィルムを用い、また易接着層を基材フィルム(B)の両面共に形成しない他は、実施例1と同様にして、表面層(A)、基材フィルム(B)および近赤外線吸収層(C)を有する近赤外線吸収フィルターを作製した。さらに、この近赤外線吸収フィルターを用い、実施例1と同様にして、粘着層(D)を有する近赤外線吸収フィルターも作製した。これらの近赤外線吸収フィルターの評価結果を表3に示す。この近赤外線吸収フィルターは、基材フィルム(B)が単層構造であるために、紫外線吸収剤の昇華抑制効果やフィルム内部からのブリード抑制効果に劣り、紫外線吸収剤によるフィルム表面汚染や、製膜工程の装置汚染が生じ、これにより表3に示すように基材フィルム表面のキズや異物が増大しており、長時間の安定生産性に劣っている。
また、易接着層が無いことで、表面層(A)と基材フィルム(B)との間、基材フィルム(B)と近赤外線吸収層(C)との間の接着性が、実施例1の近赤外線吸収フィルターに比べて劣っている。
実験2(プラズマディスプレイパネルの作製)
実験2−1
プラズマディスプレイパネル(富士通社製「PDS4211J−H」)の前面パネルを外し、実施例1〜3および比較例1〜5で作製した近赤外線吸収フィルター[粘着層(D)を設けたもの]を、粘着層(D)を介して貼着し、各種機能評価を行った。実施例1〜3の近赤外線吸収フィルターを用いたプラズマディスプレイパネルでは、以下の効果が確認できた。
(1)表面の反射防止性が付与されているので、外光反射が抑えられ、室内照明に用いた蛍光灯の写り込みが減少した。
(2)表面硬度が高いのでキズが付き難い。
(3)防汚性が付与されているので、手で触れて指紋がついても拭き取りで簡単に消すことができた。
(4)ネオンカット性能を有しており、色調改善がされているので色再現性が向上した。具体的には、オレンジ色の入った赤が純赤に、緑がかった青が鮮かな青に、黄ばんだ感じの白が純白になった。
(5)近赤外線吸収効果が付与されているので、周辺に設置される赤外線リモートコントロール装置の誤作動が防止できた。
(6)耐候性や経時安定性が優れているので、長期使用をしても上記(5)の機能が安定していた。
これに対し、比較例の各近赤外線吸収フィルターを用いたプラズマディスプレイパネルでは、以下の不具合が見られた。比較例1の近赤外線吸収フィルターを用いたものは、耐候性が劣るため、長期間の使用により、周辺に設置される赤外線リモートコントロール装置の誤作動の起こる頻度が増大した。
比較例2の近赤外線吸収フィルターを用いたものは、表面反射率が高いため、外光反射が高く、室内照明に用いた蛍光灯の写り込みがあり画面の視認性が低かった。また、表面硬度が低く、キズが付き易く、さらに防汚性も付与されていないので、手で触れた時に付着した指紋の拭き取り性が劣っていた。
比較例3の近赤外線吸収フィルターを用いたものは、近赤外線吸収能が無いため、周辺に設置される赤外線リモートコントロール装置の誤作動が発生した。また、ネオンカット性が付与されていないので画像の色再現性が劣っていた。
比較例4の近赤外線吸収フィルターを用いたものは、紫外線吸収剤が、近赤外線吸収層(C)よりプラズマディスプレイパネル側に配置されているため、外光[表面層(A)側からの入射光]に対する耐候性向上効果が発現されておらず、長期間の使用により、周辺に設置される赤外線リモートコントロール装置の誤作動の起こる頻度が増大した。
比較例5で得られた近赤外線吸収フィルターを用いたものは、特に基材フィルム(B)として、製膜開始後24時間以上経過後に生産されたものを用いた場合には、該基材フィルム(B)の表面欠点が多いことから、該欠点による画像の画質低下が見られた。
また、比較例1および5の近赤外線吸収フィルターを用いたものは、基材フィルム(B)と機能性発現層[表面層(A)および近赤外線吸収層(C)]との界面の接着性に劣るので、長期間の使用により界面の部分剥離が発生し、画像の質が低下した。
さらに、実施例1〜3の近赤外線吸収フィルターは、厚みが薄く且つ粘着層が複合されているので、プラズマディスプレイパネル表面をイソプロパノールで湿らせた状態で、該フィルターの貼着を行うと気泡の混入を抑えて綺麗に貼着することができ、極めて良好な作業性を有していた。
実験2−2
実施例1〜3で得られた近赤外線吸収フィルター[粘着層(D)を設けていないもの]に、近赤外線吸収層(C)表面をプラズマディスプレイパネル側として、プラズマディスプレイパネル(富士通社製「PDS4211J−H」の前面パネル)に、光学用の接着剤を用いて貼着し、各種機能評価を行った。実験2−1と同様の結果が得られた。
実験3(電磁波遮断機能を有する近赤外線吸収フィルターの作製)
実施例1〜3で得られた近赤外線吸収フィルター[粘着層(D)を設けたもの]に、粘着層(D)を介して導電メッシュ[電磁波吸収機能を有する透光性シート(E)]を貼着した。上記導電メッシュは、線径:0.03mmの繊維を2.54cm当たり135本の密度で縦横に編んだメッシュに、無電解メッキ法でニッケルおよび銅をメッキしたものである。
プラズマディスプレイパネル(富士通社製「PDS4211J−H」)の前面パネルを外し、導電メッシュを有する各近赤外線吸収フィルターを、接着剤を用いて貼着し、各種機能評価を行った。上記実験2−1で確認した効果に加えて、電磁波遮断効果も発揮できることが確認できた。