JP2005168492A - 不死化マスト細胞株 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 SV40の温度感受性突然変異株tsA58のラージT抗原遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの骨髄細胞を溶血処理した後、得られた細胞をIL−3の存在下培養することによりマスト細胞を分化・誘導し、継代培養を繰り返し、細胞表面にFcεRI分子及びc−kit分子を発現し、顆粒を細胞質内に豊富に貯留し、FcεRIの共架橋による活性化により脱顆粒能及びCa2+濃度上昇誘導能を有する細胞株を樹立する。
【選択図】なし
Description
SVMC bulkは、表す。
SV40の温度感受性突然変異株tsA58のDNAを導入したトランスジェニックマウスは、下記の手順で作出した
マイクロインジェクションにはSV40の温度感受性突然変異株tsA58のゲノムDNAを遺伝子工学的手法で改変したものを使用した。tsA58のゲノムDNAを制限酵素BamHIで開環し、pBR322のBamHI部位に導入し、SfiI配列をSacIIに変換してSV40の複製起点(ori)を欠失するori(−)としたDNAクローンpSVtsA58ori(−)−2(Ohno T. et al., Cytotechnology, 165-172, 1991)から常法に従い導入用DNAを調製した。すなわち、大腸菌内で大量に増幅させることにより得られたプラスミドDNAのpSVtsA58ori(−)−2を制限酵素BamHI(宝酒造社製)で消化した後、アガロース電気泳動法(1%ゲル;ベーリンガー社製)により分離し、ゲルを溶解した後、フェノール・クロロホルム処理及びエタノール沈殿処理を行いDNAを回収した。回収した精製DNAをTEバッファー(1mMのEDTAを含む10mMのTris−HCl;pH7.6)に溶解して170μg/mlの精製DNAを含む溶液を得た。このDNA溶液を注入用バッファー(0.1mMのEDTAを含む10mMのTris−HCl;pH7.6)で5μg/mlとなるように希釈して注入用DNA溶液を調製した。なお、調製したDNA溶液は注入操作まで−20℃で保存した。
マウス前核期受精卵への上記調製した注入用DNA溶液のマイクロインジェクションは下記の要領で行った。性成熟した8週齢のウィスターマウスを明暗サイクル12時間(4:00〜16:00を明時間)、温度23±2℃、湿度55±5%で飼育し、膣スメアにより雌の性周期を観察して、ホルモン処理日を選択した。まず、雌マウスにより150IU/kgの妊馬血清性性腺刺激ホルモン(日本ゼンヤク社製;PMSゴナドトロピン(pregnanto mare serum gonadotropin:PMSG))を腹腔内投与し、その48時間後に75IU/kgのヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(三共臓器社製;プベローゲン(human chorionic gonadotropin:hCG))を投与して過剰***処理を行った後、雄との同居により交配を行った。hCG投与32時間後に卵管灌流により前核期受精卵を採取した。卵管灌流及び卵の培養にはmKRB液(Toyoda Y. and Chang M.C., J. Reprod. Fertil., 36, 9-22, 1974)を使用した。採取した受精卵を0.1%のヒアルロニダーゼ(シグマ社製;Hyaluronidase Typel-S)を含むmKRB液中で37℃、5分間の酵素処理を行い卵丘細胞を除去した後、mKRB液で3回洗浄して酵素を除去し、DNA注入操作までCO2−インキュベーター内(5%のCO2−95%のAir,37℃、飽和湿度)に保存した。この様にして準備したマウス受精卵の雄性前核に前記DNA溶液を注入した。注入した228個の卵を9匹の仮親に移植して出産させ80匹の産仔を得た。注入DNAのマウスへの導入は、離乳直後に断尾して得た尾より調製したDNAをPCR法により検定した[使用プライマー;tsA58−1A,5’−TCCTAATGTGCAGTCAGGTG−3’(1365〜1384部位に相当:配列番号1)、tsA58−1B,5’−ATGACGAGCTTTGGCACTTG−3’(1571〜1590部位に相当:配列番号2)]。その結果、遺伝子導入の認められた20匹(雄6匹、雌8匹、性別不明6匹)の産仔の中から性成熟期間を経過する12週齢まで生存した11ラインのトランスジェニックマウス(雄ライン:#07−2,#07−5,#09−6,#12−3,#19−5,雌ライン:#09−7,#11−6,#12−5,#12−7,#18−5,#19−8)を得た。これらのG0世代のトランスジェニックマウスとウィスターマウスを交配し、雄ファウンダーの2ライン(#07−2,#07−5)と雌ファウンダーの3ライン(#09−7,#11−6,#19−8)において次世代以降への遺伝子の伝達を確認した。
8週齢のSV40 large T抗原トランスジェニックマウスとC57BL/6マウスの2系統を用いた。また、これらマウスの骨髄細胞を0.144M塩化アンモニウムにて赤血球lysis処理した細胞を、マスト細胞の分化を誘導するサイトカインであるマウスリコンビナントIL−3を5ng/mL含む培地(表1)を用いて、5.0×105cells/mlの密度でT75フラスコを用い、5%CO2、33℃インキュベーターで4週間以上培養し、以降は5%CO2、37℃インキュベーターで通常の初代培養マスト細胞と同様に継代・維持した。
SVMCの形態を観察するために、ライトギムザ(Wright-Giemsa)染色、トルイジンブルー(Toluidine blue)染色及びアルシャンブルー/サフラニン(Alcian blue/Safranin)染色を行った。SVMCとC57BL/6 MCをそれぞれサイトスピンでスライドグラスに接着させ、ライトギムザ法(ライト染色液・ギムザ染色液、ともにメルク社製)、トルイジンブルー法(トルイジンブルー染色液はクロマ社製)、及びアルシャンブルー/サフラニン法(アルシャンブルー染色液はピアス社製、サフラニン染色液はクロマ社製)にて染色し、可視化した。結果を図1(参考写真1)に示す。図1中、SVMC bulk(FERM AP−20254)は、3種のSVMCクローン(clone)a,c,Eを分離する前のSVMC混在物を表す。マスト細胞は、アレルギーや炎症に関わる種々の化学伝達物質を含んだ顆粒を細胞質内に豊富に貯留している。3種のSVMCをcytospinでスライドガラスに付着させ染色したところ、Wright-Giemsa染色では豊富な顆粒の貯留を認め(図1a)、Toluidine blue染色ではマスト細胞の特徴である異染性を認め(図1b)、Alcian blue/Safranin染色ではAlcian blue陽性の典型的な粘膜型マスト細胞の特徴を認めた(図1c)。
PCR法でSV40 large T抗原遺伝子を増幅したところ、3種のSVMCクローンよりバンドが検出され、トランスジーンを持つことが確認された(図2a;参考写真2)。PCRにはフォワード5'−GGAGGAGTAGAATGTTGAG−3'(配列番号3)、リバース5'−GTGTTGATGCAATGTACTGC−3'(配列番号4)からなるプライマー配列を用い、94℃30秒、54℃30秒、72℃30秒を1サイクルとして30サイクルのPCR条件下で行った。初代培養であるC57BL/6 MCや、ネガティブコントロールであるラットマスト細胞株(RBL−2H3)及びマウスマスト細胞株(P815mastocytoma)には、SV40 large T抗原遺伝子を検出されなかった。
マスト細胞は、細胞表面にFcεRI及びc−kitを高発現していることが知られている。そこで、フローサイトメトリーにてSVMC上のFcεRIとc−kitの発現を調べた。細胞を1.0×106cells/mlに調整し、5ng/mlマウスIgE(BD Biosciences)を添加し、37℃、5%CO2インキュベーターで2時間培養し、細胞表面のFcεRIにIgEを結合させた。その後細胞をFACSバッファー[9.8g/l HANKS(NISSUI)、0.25g/l NaHCO3(和光純薬)、2.0g/l bovine serum albumin(SIGMA)、10mM HEPES(pH7.4)(和光純薬)、0.02% sodium azide(SIGMA)]で2回洗浄し、0.5μg/100μl抗マウスIgE抗体(BD Biosciences)ならびに0.2μg/100μlPE−抗マウスCD117(c−kit)抗体(BD Biosciences)にて氷中で10分間反応させた。FACSバッファーで2回洗浄の後、フローサイトメトリー BD−LSR(BD Biosciences)にてFcεRIならびにc−kitの発現を調べた。その結果、3種のSVMCクローンはいずれもFcεRI,c−kitを高発現していた(図3;参考写真4)。
免疫系細胞は生体外へ単離すると、特定の増殖因子を含む培地で培養する必要性があるものが多い。マスト細胞は、増殖・機能維持にIL−3を必要とされることが知られている。増殖因子は高価であるので、それらを極力減らすことができれば費用の節減に繋がる。SVMCは骨髄細胞から誘導当初より、5.0ng/mlのIL−3を含む培地で培養を行なってきたが、これを減らすもしくは除いた条件下で培養し、〔3H〕−チミジンの取り込みを指標にSVMCの増殖を調べてみた。IL−3を含まないRPMI培地で細胞を0.6×106cells/mlの濃度に調整した。96穴マイクロプレートにIL−3濃度を0、0.2、2.0、10.0及び20.0ng/mlに調整した培地を100μlずつ加え、細胞懸濁液を100μlずつ各ウェルに分注し、IL−3の最終濃度をそれぞれ0、0.1、1.0、5.0ならびに10.0ng/mlとし、37℃、5%CO2インキュベーターで16時間培養した。その後1MBq/ml[3H]−チミジン(Amersham)を20μlずつ各ウェルに分注し再度37℃、5%CO2インキュベーターで16時間培養し、[3H]−チミジンを細胞へ取り込ませた。その後細胞を濾紙へトランスファーし、十分乾燥の後MATRIX 9600 Direct Beta Counter(Packard instrument company)にて比活性を測定し、DNA合成量を指標に各IL−3濃度での細胞の増殖能を調べた。その結果、SVMCは通常の初代培養のマスト細胞(B6BMMC)より低い濃度のIL−3で維持できる可能性が示唆された(図4;参考写真5)。
FcεRIはIgEを結合するα鎖と、刺激の伝達に関わるβ鎖及びγ鎖より構成され、抗原の侵入により、生体にはその抗体に対するIgE抗体が産生され、FcεRIのα鎖にIgEが結合する(感作状態)。再度同一の抗原の侵入により、IgEを結合した隣接するFcεRIが抗原により架橋されブリッジ構造をとる(共架橋)。そして共架橋が刺激となり、β鎖及びγ鎖がリン酸化され、細胞内に存在する刺激伝達因子が動員され、細胞内タンパク質をリン酸化することで刺激がリレー状に伝わり、その一部が細胞内Ca2+濃度を上昇させ、細胞内顆粒の放出を引き起こす。このように、マスト細胞はFcεRIの共架橋により活性化し、顆粒内に貯留した化学伝達物質を放出する(脱顆粒)ことが知られている。そこで3Hで標識したセロトニンの放出を指標にSVMCの脱顆粒能を調べた。その結果、3種のSVMCクローンはいずれも初代培養のマスト細胞(B6BMMC)よりも高い脱顆粒能を保持していた(図5;参考写真6)。
マスト細胞のFcεRIの共架橋は、種々の細胞内シグナルを伝達分子を活性化し、細胞内のCa2+濃度の上昇を誘導することが知られている。そこでCa2+配位結合することで蛍光を発する色素Indo−1AM(SIGMA社製)をSVMC内に取り込ませ、FcεRIの共架橋の蛍光強度の変化を指標に細胞内のCa2+濃度の上昇を調べた。通常(Ca2+free)は500nm付近の蛍光を発するが、Ca2+結合状態では400nm付近の蛍光を発するので、その変化を指標に細胞内Ca2+濃度の上昇を測定した。その結果、3種のSVMCクローンはいずれも初代培養のマスト細胞(C57BL/6 MC)よりも高い細胞内Ca2+濃度の上昇を認めた(図6;参考写真7)。
マスト細胞をNGF(Nerve Growth Factor)やSCF(Stem Cell Factor)などの成長因子の存在下で培養すると、サフラニン(Safranin)陽性の結合組織型成熟マスト細胞に分化することが知られている。そこで、IL−3、NGF及びSCF存在下で3週間培養し、結合組織型マスト細胞への分化誘導を試みた。5.0ng/ml組換えIL−3、50ng/ml組換え−NGF(R&D Systems, Inc.)及び100ng/ml組換えSCF(Peprotech EC. Ltd.)を加えたRPMI−1640培地を用い、2.0×105cells/mlの細胞濃度で培養した。コンフルエントになり次第、等量の新しい培地を加え、35mmディッシュ、100mmディッシュ、T75フラスコの順に移し、細胞を増殖させた。培養を開始して4、8、12、16および20日経過した時点で培養細胞の一部を回収し、アルシャンブルー/サフラニン染色を行い、サフラニン陽性の細胞の有無を検討した。その結果、初代培養のマスト細胞(C57BL/6 MC)は約1週間後に、3種のSVMCクローンのうち1つのクローン(クローンa)が約2週間後にサフラニン陽性の結合組織型成熟マスト細胞を認めた(図7;参考写真8)。
以上の結果から、樹立した3種の不死化マスト細胞株SVMCは初代培養マスト細胞の性質をほぼ兼ね備えたものであることがわかった。これらマスト細胞株SVMCはこれまでに報告されているマスト細胞株よりも初代培養マスト細胞に近い性質を有し、また未熟型から成熟型のマスト細胞への分化を誘導できる。したがって、本発明のマスト細胞株SVMCは、マスト細胞の機能・分化の研究に大いに有用であると思われる。
Claims (14)
- 骨髄に由来することを特徴とする不死化マスト細胞株。
- 細胞表面にFcεRI分子及びc−kit分子を発現し、顆粒を細胞質内に豊富に貯留し、FcεRIの共架橋による活性化により脱顆粒能及びCa2+濃度上昇誘導能を有することを特徴とする請求項1記載の不死化マスト細胞株。
- 33℃で増殖することができるが、37℃では増殖が部分的に抑制され、39℃では増殖が停止することを特徴とする請求項1又は2記載の不死化マスト細胞株。
- NGF及びSCFの存在下で培養することにより、結合組織型成熟マスト細胞に分化することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の不死化マスト細胞株。
- 齧歯類起源であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の不死化マスト細胞株。
- 齧歯類がマウスであることを特徴とする請求項5記載の不死化マスト細胞株。
- SVMCクローンa(FERM AP−20255)、SVMCクローンc(FERM AP−20256)、SVMCクローンE(FERM AP−20257)、又はこれらのクローンを分離する前のSVMC混在物(FERM AP−20254)であることを特徴とする請求項6記載の不死化マスト細胞株。
- SV40の温度感受性突然変異株tsA58のラージT抗原遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの骨髄細胞を溶血処理した後、得られた細胞をIL−3の存在下培養することによりマスト細胞を分化・誘導し、継代培養を繰り返し、細胞表面にFcεRI分子及びc−kit分子を発現し、顆粒を細胞質内に豊富に貯留し、FcεRIの共架橋による活性化により脱顆粒能及びCa2+濃度上昇誘導能を有する細胞株を樹立することを特徴とする不死化マスト細胞株の製造方法。
- 33℃で増殖することができるが、37℃では増殖が部分的に抑制され、39℃では増殖が停止し、NGF及びSCFの存在下で培養することにより、結合組織型成熟マスト細胞に分化する細胞株を樹立することを特徴とする請求項8記載の不死化マスト細胞株の製造方法。
- 被検物質の存在下、請求項1〜7のいずれか記載の不死化マスト細胞株を培養し、該細胞株における成熟マーカータンパク質の発現の程度を測定・評価することを特徴とするマスト細胞における細胞増殖促進又は抑制物質のスクリーニング方法。
- マーカータンパク質が、FcεRI分子及び/又はc−kit分子であることを特徴とする請求項10記載のマスト細胞における細胞増殖促進又は抑制物質のスクリーニング方法。
- 被検物質の存在下、請求項1〜7のいずれか記載の不死化マスト細胞株を培養し、該細胞の増殖の程度を測定・評価することを特徴とするマスト細胞における細胞増殖促進又は抑制物質のスクリーニング方法。
- 被検物質の存在下、請求項1〜7のいずれか記載の不死化マスト細胞株をFcεRIにより共架橋し、脱顆粒能及び/又はCa2+濃度上昇誘導能の程度を測定・評価することを特徴とするマスト細胞の活性化促進又は抑制物質のスクリーニング方法。
- 被検物質の存在下、請求項1〜7のいずれか記載の不死化マスト細胞株をNGF及びSCFの存在下で培養し、該細胞のサフラニン染色性の程度を観察・評価することを特徴とするマスト細胞の成熟促進又は抑制物質のスクリーニング方法。
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