JP2005158896A - 粒界絶縁型半導体セラミックス及び積層半導体コンデンサ - Google Patents
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Abstract
【課題】 結晶粒径をそれ程増大させることなく見掛け比誘電率を高めることが可能な粒界絶縁型半導体セラミックスを提供する。
【解決手段】 半導体化剤を含有したチタン酸ストロンチウム系の粒界絶縁型半導体セラミックスを作製するにあたり、結晶粒界を電気的に絶縁している成分及び半導体化剤をそれぞれ除いた組成でのチタン原子の割合を化学量論比よりも多くし、かつ、ストロンチウム原子の10%以下をマグネシウム原子で置換することによって解決した。
【選択図】 なし
【解決手段】 半導体化剤を含有したチタン酸ストロンチウム系の粒界絶縁型半導体セラミックスを作製するにあたり、結晶粒界を電気的に絶縁している成分及び半導体化剤をそれぞれ除いた組成でのチタン原子の割合を化学量論比よりも多くし、かつ、ストロンチウム原子の10%以下をマグネシウム原子で置換することによって解決した。
【選択図】 なし
Description
本発明は、チタン酸ストロンチウム系の粒界絶縁型半導体セラミックス、及び、この粒界絶縁型半導体セラミックスを用いた積層半導体コンデンサに関する。
誘電体材料の1つとして、半導体セラミックスの結晶粒界を電気的に絶縁した粒界絶縁型半導体セラミックスが知られている。この粒界絶縁型半導体セラミックスは見掛け比誘電率が高いので、例えば特許文献1に記載されているように、積層半導体コンデンサ用の誘電体材料として利用されている。
積層半導体セラミックスコンデンサは、半導体セラミックスからなる誘電体層と内部電極層とを交互に積層して積層体を形成し、この積層体において互いに対向している1対の側面のそれぞれに外部電極を設けた構造を有している。粒界絶縁型半導体セラミックスを誘電体材料として用いた積層半導体コンデンサは、低電圧のノイズや高周波のノイズを吸収することができる一方で、パルスや静電気等の高電圧が侵入したときにはバリスタとしても機能することができるので、異常電圧から回路素子を保護するために、種々の電気回路で用いられている。
近年、種々の電子機器の小型化、軽量化が図られており、これに伴い、各種の回路素子について小型化、高性能化が求められている。積層半導体コンデンサについても例外ではなく、大型化することなくその特性の更なる向上が求められている。例えば積層半導体コンデンサの静電容量は、誘電体層の見掛け比誘電率を大きくすることにより向上させることができる。誘電体層を粒界絶縁型半導体セラミックスにより形成する場合には、この粒界絶縁型半導体セラミックスの結晶粒径を大きくすることにより、見掛け比誘電率の大きな誘電体層を得ることができる。
特開平2−215112号公報
しかしながら、積層半導体コンデンサでは、誘電体層での結晶粒径の増大は積層体の厚みの増大をまねく。このため、結晶粒径が大きな粒界絶縁型半導体セラミックスにより誘電体層を形成した場合には、積層半導体コンデンサの静電容量の向上が妨げられるという問題が生じる。また、誘電体層を薄肉化して積層半導体コンデンサでの内部電極層間の厚さを薄くすると、内部電極層同士の間に存在する半導体セラミックスの粒子数が減少するので、積層半導体コンデンサの耐圧性が低下してしまうという問題が生じる。
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、結晶粒径をそれ程増大させることなく見掛け比誘電率を高めることが可能な粒界絶縁型半導体セラミックスを提供することにある。
本発明の第2の目的は、耐圧の低下を抑制しつつ静電容量の増大を図ることが可能な積層半導体セラッミクコンデンサを提供することにある。
上述した第1の目的を達成する本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスは、半導体化剤を含有したチタン酸ストロンチウム系の粒界絶縁型半導体セラミックスであって、結晶粒界を電気的に絶縁している成分及び半導体化剤をそれぞれ除いた組成でのチタン原子の割合が化学量論比よりも多く、かつ、ストロンチウム原子の10%以下がマグネシウム原子で置換されていることを特徴とする(以下、この粒界絶縁型半導体セラミックスを「粒界絶縁型半導体セラミックスI」ということがある。)。
本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスIによれば、半導体化剤を含有したチタン酸ストロンチウム系の粒界絶縁型半導体セラミックスにおけるストロンチウム原子の10%以下をマグネシウム原子で置換したので、結晶粒径をそれ程増大させなくても見掛け比誘電率を高めることが可能である。
本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスにおいては、結晶粒界を電気的に絶縁している成分及び半導体化剤をそれぞれ除いた組成が、式(Sr1−xMgx)0.996TiO3(式中のxは、0よりも大きく0.1以下の数値を表す。)で表されることが好ましい(以下、この粒界絶縁型半導体セラミックスを「粒界絶縁型半導体セラミックスII」ということがある。)。
本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスIIによれば、上記の組成を有しているので、見掛け比誘電率の高いものを得易い。
前述した第2の目的を達成する本発明の積層半導体コンデンサは、内部電極層と半導体セラミックスからなる誘電体層とが交互に積層された積層体を有する積層半導体コンデンサであって、前記半導体セラミックスが上述した本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスI又は粒界絶縁型半導体セラミックスIIであることを特徴とする。
本発明の積層半導体コンデンサによれば、誘電体層が本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスI又は粒界絶縁型半導体セラミックスIIによって形成されているので、個々の誘電体層(粒界絶縁型半導体セラミックス層)での結晶粒径をそれ程増大させなくても見掛け比誘電率を高めることが可能である。その結果として、耐圧の低下を抑制しつつ静電容量の増大を図ることが可能である。
本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスによれば、結晶粒径をそれ程増大させなくても見掛け比誘電率を高めることが可能であるので、例えば単板形状のセラミックスコンデンサや積層半導体コンデンサの体積をそれ程増大させなくても、その静電容量の向上を図ることが可能になる。
また、本発明の積層半導体コンデンサによれば、耐圧の低下を抑制しつつ静電容量の増大を図ることが可能であるので、小型で高性能のものを得易くなる。
以下、本発明の粒界絶縁型半導体セラミックス及び積層半導体コンデンサについて、図面を適宜参照しつつ詳述する。
<粒界絶縁型半導体セラミックス>
化学量論組成のチタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )は絶縁体であるが、半導体化剤を含有させ、低酸素分圧の雰囲気中で焼成を行うことにより半導体化させることができる。また、チタン(Ti)原子の割合を化学量論比よりも多くすることにより更に半導体化させることができる(以下、このものを「チタン過剰チタン酸ストロンチウム」という。)。そして、チタン過剰チタン酸ストロンチウムの焼結体を作製し、この焼結体の結晶粒界に電気絶縁性物質を熱拡散させることにより、粒界絶縁型半導体セラミックスを得ることができる。
化学量論組成のチタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )は絶縁体であるが、半導体化剤を含有させ、低酸素分圧の雰囲気中で焼成を行うことにより半導体化させることができる。また、チタン(Ti)原子の割合を化学量論比よりも多くすることにより更に半導体化させることができる(以下、このものを「チタン過剰チタン酸ストロンチウム」という。)。そして、チタン過剰チタン酸ストロンチウムの焼結体を作製し、この焼結体の結晶粒界に電気絶縁性物質を熱拡散させることにより、粒界絶縁型半導体セラミックスを得ることができる。
本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスは、前述のように、半導体化剤を含有したチタン酸ストロンチウム系の粒界絶縁型半導体セラミックスであり、この粒界絶縁型半導体セラミックスでは、結晶粒界を電気的に絶縁している成分(以下、この成分を「粒界絶縁成分」という。)及び半導体化剤をそれぞれ除いた組成でのチタン原子の割合が化学量論比よりも多く、かつ、ストロンチウム原子の10%以下がマグネシウム原子で置換されている。
すなわち、本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスは、半導体化剤及び粒界絶縁成分を含有したチタン過剰チタン酸ストロンチウムの焼結体であって、ストロンチウム(Sr)原子の10%以下がマグネシウム(Mg)原子で置換されているものである。
ここで、上記の半導体化剤としては、チタン過剰チタン酸ストロンチウムを更に半導体化することができる種々の半導体化剤を用いることが可能である。このような半導体化剤としては、希土類元素の酸化物や高融点金属の酸化物を用いることができる。
半導体化剤として用いることができる希土類元素の酸化物の具体例としては、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ランタン(La2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化プラセオジウム(Pr6O11)、酸化ネオジム(Nd2O3)、酸化サマリウム(Sm2O3)、酸化ユウロピウム(Eu2O3)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化テルビウム(Tb4O7)、酸化ジスプロシウム(Dy2O3)、酸化ホルミウム(Ho2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化ツリウム(Tm2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、酸化ルテチウム(Lu2O3)が挙げられる。
また、半導体化剤として用いることができる高融点金属の酸化物の具体例としては、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)が挙げられる。
これらの半導体化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。見掛け比誘電率の高い粒界絶縁型半導体セラミックスを得るという観点からは、希土類元素の酸化物からなる少なくとも1種の半導体化剤と、高融点金属の酸化物からなる少なくとも1種の半導体化剤を併用することが好ましく、この場合の含有量は、(希土類元素の酸化物):(高融点金属の酸化物)=10:80〜80:20(モル比)程度とすることが好ましい。また、半導体化剤の総含有量は、チタン過剰チタン酸ストロンチウム1モルに対して、0.002〜0.012モル程度とすることが好ましく、特に、0.003〜0.007モル程度とすることが好ましい。
粒界絶縁成分としては、例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ケイ素(Si)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等の金属についての酸化物を用いることができる。熱拡散が容易であるという観点から、粒界絶縁成分としてはカリウム(K)、ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ゲルマニウム(Ge)等の金属についての酸化物を用いることが好ましい。粒界絶縁成分は1種のみ含有させてもよいし、2種以上を含有させてもよい。2種以上を含有させる場合には、マンガン(Mn)とナトリウム(Na)それぞれの酸化物、バナジウム(V)とナトリウム(Na)それぞれの酸化物、又は、ゲルマニウム(Ge)とナトリウム(Na)それぞれの酸化物を用いることが好ましい。粒界絶縁成分の総含有量は、適宜選定可能である。
本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスでは、上述した半導体化剤及び粒界絶縁成分をそれぞれ除いた組成を、式(Sr1−xMgx)yTiO3で表すことができる。
見掛け比誘電率の高い粒界絶縁型半導体セラミックスを得るという観点からは、上記の式中のyの値を0.980程度以上1未満の範囲内とすることが好ましく、0.990〜0.999程度とすることが更に好ましく、0.996とすることが特に好ましい。
また、上記の式中のxの値は、マグネシウム(Mg)原子によるストロンチウム(Sr)原子の置換の割合を示すものである。この値は、結晶粒径を増大させることなく見掛け比誘電率の高い粒界絶縁型半導体セラミックスを得るという観点から、0.1以下とすることが好ましく、0.05〜0.1の範囲内とすることが更に好ましい。
半導体化剤及び粒界絶縁成分を含有したチタン過剰チタン酸ストロンチウムの焼結体の組成を上述のように選定することにより、結晶粒径をそれ程増大させることなく見掛け比誘電率を高めることが可能な粒界絶縁型半導体セラミックスを得ることができる。したがって、この粒界絶縁型半導体セラミックスを例えば誘電体材料として用いた場合には、単板状セラミックコンデンサを大型化することなくその静電容量の増大を図ることや、積層半導体コンデンサの耐圧の低下を抑制しつつ静電容量の増大を図ることが可能になる。
このような技術的効果を奏する本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスは、例えば次のようにして出発原料の調製、仮焼成、仮焼成により得た仮焼物の微粉末化、グリーン成形体又はグリーンシートの作製、本焼成、粒界絶縁成分の原料の塗布、及び粒界絶縁成分の熱拡散の各工程を順次行うことにより、製造することができる。
(出発原料の調製)
まず、粒界絶縁成分を除いた各成分の原料粉末、すなわち、半導体セラミックス用の原料粉末を用意する。粒界絶縁成分を除いた各成分の原料としては、ストロンチウム(Sr)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、及び半導体化剤それぞれについての酸化物、又は焼成により酸化物にすることができる化合物を用いることができる。焼成により酸化物にすることができる化合物の具体例としては、ストロンチウム、マグネシウム、チタン、及び半導体化剤を構成する金属元素それぞれについての炭酸塩、硝酸塩等が挙げられる。
まず、粒界絶縁成分を除いた各成分の原料粉末、すなわち、半導体セラミックス用の原料粉末を用意する。粒界絶縁成分を除いた各成分の原料としては、ストロンチウム(Sr)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、及び半導体化剤それぞれについての酸化物、又は焼成により酸化物にすることができる化合物を用いることができる。焼成により酸化物にすることができる化合物の具体例としては、ストロンチウム、マグネシウム、チタン、及び半導体化剤を構成する金属元素それぞれについての炭酸塩、硝酸塩等が挙げられる。
半導体セラミックス用の出発原料は、目的とする粒界絶縁型半導体セラミックスの組成等に応じて上述の原料粉末を適宜秤量し、これらの原料粉末を例えばボールミル等の種々の混合手段を用いて混合することにより、調製することができる。
調製した出発原料中でのストロンチウムと、マグネシウムと、チタンと、半導体化剤の原料における金属原子との原子比は、略そのまま、次に説明する仮焼成により得られる焼結体でのストロンチウムと、マグネシウムと、チタンと、半導体化剤における金属原子との原子比になる。
(仮焼成)
上記の出発原料を大気雰囲気中、900〜1200℃程度で2〜8時間程度、仮焼成する。この仮焼成により、式(Sr1−xMgx)yTiO3で表されるチタン過剰チタン酸ストロンチウムに半導体化剤が含有された仮焼物を得ることができる。
上記の出発原料を大気雰囲気中、900〜1200℃程度で2〜8時間程度、仮焼成する。この仮焼成により、式(Sr1−xMgx)yTiO3で表されるチタン過剰チタン酸ストロンチウムに半導体化剤が含有された仮焼物を得ることができる。
(仮焼物の微粉末化)
見掛け比誘電率の高い粒界絶縁型半導体セラミックスを得るという観点からは、粒界絶縁型半導体セラミックスでの平均粒径を1〜10μm程度、中でも、2〜5μm程度とすることが好ましいので、仮焼成により得られた仮焼物を例えば乳鉢等で解砕した後に更にボールミル等でその大きさが平均粒径で0.8μm程度以下となるように微粉末化することが好ましい。仮焼物の微粉末化は、組成が均一な半導体セラミックスを得るうえからも好ましい。
見掛け比誘電率の高い粒界絶縁型半導体セラミックスを得るという観点からは、粒界絶縁型半導体セラミックスでの平均粒径を1〜10μm程度、中でも、2〜5μm程度とすることが好ましいので、仮焼成により得られた仮焼物を例えば乳鉢等で解砕した後に更にボールミル等でその大きさが平均粒径で0.8μm程度以下となるように微粉末化することが好ましい。仮焼物の微粉末化は、組成が均一な半導体セラミックスを得るうえからも好ましい。
(グリーン成形体、グリーンシートの作製)
所望形状に成形された粒界絶縁型半導体セラミックスを得るという観点からは、本焼成に先立って、(1)上記の微粉末を顆粒状にし、これをプレス等の方法により所望形状のグリーン成形体に成形すること、又は、(2)樹脂バインダ等のバインダを用いて上記の微粉末のスラリーを調製し、このスラリーを例えばドクターブレード法により所望形状のグリーンシートに成形すること、が好ましい。
所望形状に成形された粒界絶縁型半導体セラミックスを得るという観点からは、本焼成に先立って、(1)上記の微粉末を顆粒状にし、これをプレス等の方法により所望形状のグリーン成形体に成形すること、又は、(2)樹脂バインダ等のバインダを用いて上記の微粉末のスラリーを調製し、このスラリーを例えばドクターブレード法により所望形状のグリーンシートに成形すること、が好ましい。
上記(1)のグリーン成形体を得るために微粉末を顆粒状にする方法としては、微粉末にイオン交換水等の高純度の水、又はポリビニルアルコール等の樹脂バインダをイオン交換水等の高純度の水に溶かしたバインダ水溶液を少量加え、乳鉢等の混練機を用いて造粒する方法や、スプレードライ方式により顆粒を作製する方法等がある。微粉末に加える水又はバインダ水溶液の割合は、5〜10質量%程度であることが好ましい。また、バインダ水溶液を加える場合、バインダ水溶液の樹脂バインダ濃度は1〜10質量%程度であることが好ましい。スプレードライ方式で顆粒を作製する場合に加える樹脂バインダの割合は、1〜10質量%であることが好ましい。
上記(2)のグリーンシートを得るためにスラリーの調製時に使用する樹脂バインダの具体例としては、例えばエチルセルロース、アビエチン酸レジン、ポリビニルブチラール等が挙げられる。上記の微粉末と樹脂バインダとを混合する際には、可塑剤、分散剤、溶剤等の添加剤を必要に応じて加えることができる。可塑剤の具体例としては、例えばアビエチン酸誘導体、ジエチル蓚酸、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、フタル酸エステル、フタル酸ジブチル等が挙げられ、分散剤の具体例としては、例えばグリセリン、オクタデシルアミン、トリクロロ酢酸、オレイン酸、オクタジエン、オレイン酸エチル、モノオレイン酸グリセリン、トリオレイン酸グリセリン、トリステアリン酸グリセリン、メンセーデン油等が挙げられる。また、溶剤の具体例としては、例えばトルエン、ターピネオール、ブチルカルビトール、メチルエチルケトン等が挙げられる。
上記のスラリーにおける前述の微粉末の割合は、30〜60質量%程度であることが好ましい。また、このスラリーにおける樹脂バインダの割合は1〜10質量%程度、可塑剤の割合は0.5〜5質量%程度、分散剤の割合は0.01〜5質量%程度、溶剤の割合は40〜70質量%程度とすることが好ましい。
(本焼成)
本焼成は、上記のグリーン成形体又はグリーンシートを例えば不活性ガス(窒素ガス等)と水素ガスと水蒸気との混合雰囲気中、1200〜1350℃程度で1〜6時間程度加熱することにより、行うことができる。このとき、混合雰囲気中の酸素分圧は6.7×10−2〜1.1×10−10Pa程度とすることが好ましい。例えば、混合雰囲気中の水素ガスの分圧を0.5〜9%程度とし、雰囲気の露点温度を−55〜+40℃程度とすることにより、酸素分圧を上述の範囲に調整することが可能である。
本焼成は、上記のグリーン成形体又はグリーンシートを例えば不活性ガス(窒素ガス等)と水素ガスと水蒸気との混合雰囲気中、1200〜1350℃程度で1〜6時間程度加熱することにより、行うことができる。このとき、混合雰囲気中の酸素分圧は6.7×10−2〜1.1×10−10Pa程度とすることが好ましい。例えば、混合雰囲気中の水素ガスの分圧を0.5〜9%程度とし、雰囲気の露点温度を−55〜+40℃程度とすることにより、酸素分圧を上述の範囲に調整することが可能である。
本焼成時の昇温速度は100〜1000℃/時間程度、好ましくは200〜500℃/時間程度とし、本焼成後の冷却速度も100〜1000℃/時間程度、中でも200〜500℃/時間程度とすることが好ましい。グリーン成形体を作製するにあたってバインダを用いた場合には、予め大気雰囲気中でバインダ成分を揮散させてから本焼成を行うことが好ましい。また、グリーンシートを作製するにあたってバインダを用いた場合には、予め酸化性雰囲気中で、又は加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合雰囲気中でバインダ成分を揮散させてから本焼成を行うことが好ましい。
(粒界絶縁成分の原料の塗布)
粒界絶縁型半導体セラミックスを得るためには、上記の本焼成を行った後に、得られた焼結体(半導体セラミックス)の表面に、粒界絶縁成分の原料を含有したコーティング組成物を塗布する。粒界絶縁成分の原料としては、再酸化物質としても機能するものが好ましく、その具体例としては、炭酸ナトリウム、酸化マンガン、炭酸カリウム、酸化バナジウム、酸化ゲルマニウム等が挙げられる。コーティング組成物は、例えば、上記の粒界絶縁成分の原料を適当な分散媒に分散させてペースト状にすることにより調製することができる。このときの分散媒としては、例えばターピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等を用いることができる。ペースト状のコーティング組成物での粒界絶縁成分の原料の含有量は、30〜70質量%程度とすることができる。コーティング組成物の塗布量は、焼結体の体積等により任意に設定可能であるが、例えば、縦3.2mm、横1.6mm、高さ1.0mm程度の大きさの焼結体には0.5〜2mg/個程度で塗布することが好ましく、直径10mm、高さ0.5mm程度の円板形状の焼結体には5〜15mg/個程度で塗布することが好ましい。
粒界絶縁型半導体セラミックスを得るためには、上記の本焼成を行った後に、得られた焼結体(半導体セラミックス)の表面に、粒界絶縁成分の原料を含有したコーティング組成物を塗布する。粒界絶縁成分の原料としては、再酸化物質としても機能するものが好ましく、その具体例としては、炭酸ナトリウム、酸化マンガン、炭酸カリウム、酸化バナジウム、酸化ゲルマニウム等が挙げられる。コーティング組成物は、例えば、上記の粒界絶縁成分の原料を適当な分散媒に分散させてペースト状にすることにより調製することができる。このときの分散媒としては、例えばターピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等を用いることができる。ペースト状のコーティング組成物での粒界絶縁成分の原料の含有量は、30〜70質量%程度とすることができる。コーティング組成物の塗布量は、焼結体の体積等により任意に設定可能であるが、例えば、縦3.2mm、横1.6mm、高さ1.0mm程度の大きさの焼結体には0.5〜2mg/個程度で塗布することが好ましく、直径10mm、高さ0.5mm程度の円板形状の焼結体には5〜15mg/個程度で塗布することが好ましい。
(粒界絶縁成分の熱拡散)
上記のコーティング組成物が塗布された焼結体を不活性ガス(窒素ガス)と水蒸気との混合雰囲気中、900〜1100℃程度で2〜8時間程度熱処理することにより、上記の粒界絶縁成分の原料による再酸化と、この再酸化で生じた粒界絶縁成分の結晶粒界への熱拡散を行うことができる。このとき、昇温速度は100〜1000℃/時間程度、好ましくは200〜500℃/時間程度とすることができ、熱拡散後の冷却速度は100〜1000℃/時間程度、好ましくは200〜500℃/時間程度とすることができる。この熱拡散まで行うことにより、目的とする粒界絶縁型半導体セラミックスが得られる。
上記のコーティング組成物が塗布された焼結体を不活性ガス(窒素ガス)と水蒸気との混合雰囲気中、900〜1100℃程度で2〜8時間程度熱処理することにより、上記の粒界絶縁成分の原料による再酸化と、この再酸化で生じた粒界絶縁成分の結晶粒界への熱拡散を行うことができる。このとき、昇温速度は100〜1000℃/時間程度、好ましくは200〜500℃/時間程度とすることができ、熱拡散後の冷却速度は100〜1000℃/時間程度、好ましくは200〜500℃/時間程度とすることができる。この熱拡散まで行うことにより、目的とする粒界絶縁型半導体セラミックスが得られる。
<積層半導体コンデンサ>
図1は本発明の積層半導体コンデンサの断面構造の一例を示す模式図である。図示の積層半導体コンデンサ10は、上述した本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスからなる誘電体層(以下、「粒界絶縁型半導体セラミックス層1」という。)と内部電極層3とが交互に積層された積層体5と、積層体5において互いに対向する1対の側面に1つずつ設けられて対をなす外部電極7a、7bとを有している。
図1は本発明の積層半導体コンデンサの断面構造の一例を示す模式図である。図示の積層半導体コンデンサ10は、上述した本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスからなる誘電体層(以下、「粒界絶縁型半導体セラミックス層1」という。)と内部電極層3とが交互に積層された積層体5と、積層体5において互いに対向する1対の側面に1つずつ設けられて対をなす外部電極7a、7bとを有している。
各粒界絶縁型半導体セラミックス層1の厚さは、積層半導体コンデンサ10の用途や性能等に応じて適宜選定可能であるが、隣り合う2つの内部電極層3同士の間での厚さで2μm〜100μm程度とすることが好ましく、3μm〜50μm程度とすることが更に好ましい。また、粒界絶縁型半導体セラミックス層1の総数は積層半導体コンデンサ10の用途や性能等に応じて適宜選定可能である。
各内部電極層3は、積層体5において互いに対向する2つの側面のうちの一方から一端面が露出するようにして、かつ、1つおきの内部電極層3がそれぞれ同じ側面から一端面を露出するようにして、設けられている。これらの内部電極層3は、製造コストを抑えるという観点からニッケル(Ni)で形成されることが多いが、製造コスト面でのメリット、及び導電率等の電極材としての機能を損なわない範囲において、他の元素を含んでいても構わない。そうした元素としては、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。内部電極層3の厚さは、積層半導体コンデンサ10の用途や性能等に応じて適宜選定可能であるが、通常、3μm以下程度とすることが好ましく、1.8μm程度以下とすることが更に好ましい。
各粒界絶縁型半導体セラミックス層1と各内部電極層3とで構成される積層体5の形状は、通常、直方体状であるが、直方体に限定されるものではない。その寸法も特に制限はないが、通常、長辺の長さが0.4〜5.7mm程度、短辺の長さが0.2〜5.0mm程度、高さが0.2〜3.2mm程度である。
外部電極7aは1つおきのニッケル内部電極層3と電気的に接続され、外部電極7aは残りのニッケル内部電極層3と電気的に接続されて、半導体コンデンサ回路を構成している。個々の外部電極7a、7bは、銅(Cu)、銅(Cu)合金、ニッケル(Ni)、ニッケル(Ni)合金、銀(Ag)、銀(Ag)−パラジウム(Pd)合金、インジウム(In)−ガリウム(Ga)合金等により形成することができる。各外部電極7a、7bの厚さは、積層半導体コンデンサ10の用途や性能等に応じて適宜選定可能であるが、5〜100μm程度とすることが好ましい。
上述した構成を有する積層半導体コンデンサ10は、各粒界絶縁型半導体セラミックス層1の材料として前述した本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスを用いているので、個々の粒界絶縁型半導体セラミックス層1での結晶粒径をそれ程増大させなくても見掛け比誘電率を高めることが可能である。その結果として、耐圧の低下を抑制しつつ静電容量の増大を図ることが可能である。
このような技術的効果を奏する本発明の積層半導体セラミックスコンデンサは、例えば次のようにして製造することができる。
まず、本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスについての製造方法の中で説明した出発原料の調製、仮焼成、仮焼成により得た仮焼物の微粉末化、及びグリーンシートの作製の各工程をこの順番で順次行って、所望数のグリーンシートを得る。
次いで、各グリーンシートの片面に所望の内部電極材料を含有したコーティング組成物を印刷法、転写法等の方法で所定形状に塗布する。このとき用いるコーティング組成物は、例えば、内部電極の材料として用いることができる導電性材料粉末、又は焼成により導電性材料になる化合物粉末と、有機ビヒクルとを混練することにより、調製することができる。
上記の導電性材料粉末又は化合物粉末は、球状、リン片状等、その形状に特に制限はなく、また、これらの形状のものが混合されたものであってもよい。使用する導体材料粉末又は化合物粉末の大きさは0.1〜1μm程度であることが好ましく、0.2〜0.5μm程度であることが更に好ましい。コーティング組成物における上記の導体材料粉末又は化合物粉末の含有量は、40〜60質量%程度とすることができる。
上記の有機ビヒクルは、バインダと溶剤とを含有するものであり、バインダとしては、例えばエチルセルロース、アクリル樹脂、ブチラール樹脂等を、また、溶剤としては、例えばターピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等を、それぞれ用いることができる。コーティング組成物におけるバインダの含有量は、1〜5質量%程度とすることができ、溶剤の含有量は、40〜60質量%程度とすることができる。
次いで、個々のグリーンシートに塗布したコーティング組成物を乾燥させてから、各グリーンシートを積層する。このとき、各グリーンシートに形成された上記のコーティング組成物の塗膜が個々のグリーンシートで上となるように向きを合わせて積層し、最後に、上記の塗膜が形成されていないグリーンシートを一番上と一番下とに積層する。そして、得られた積層物に荷重を加えて隣り合うグリーンシート同士を圧着させた後、所定形状に切断してグリーンチップを得る。このグリーンチップの形状は、図1に示した積層体5の形状に略対応する。
次に、本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスについての製造方法の中で説明した本焼成を行って、上記の各グリーンシートをそれぞれ半導体セラミックス層にすると共に、上記の塗膜を内部電極層にする。
次いで、本発明の粒界絶縁型半導体セラミックスについての製造方法の中で説明した粒界絶縁成分の原料の塗布、及び粒界絶縁成分の熱拡散の各工程をこの順番で順次行う。ただし、粒界絶縁成分の熱拡散を行うにあたっては、本焼成工程で形成された内部電極層が酸化されないように、その雰囲気及び熱処理温度を適宜調節する。例えば内部電極層をニッケル(Ni)により形成した場合には、不活性ガス(ドライ窒素(N2) ガス等)雰囲気中、900〜1100℃で10〜120分程度熱処理することにより、粒界絶縁成分の熱拡散を行うことが好ましい。
上述のようにして粒界絶縁成分の熱拡散まで行うことにより、図1に示した積層体5の元となる積層体を得ることができる。この後、得られた積層体において外部電極を形成しようとする1対の側面それぞれを、例えばバレル研磨やサンドブラスト等の方法で研磨してから、これらの側面に外部電極形成用のコーティング組成物を焼き付けるか、あるいはIn−Ga合金等の外部電極材料を塗布して、1対の外部電極を形成する。
外部電極を形成するにあたってコーティング組成物を用いる場合、このコーティング組成物は、所望の導電性材料粉末、又は焼き付け後に所望の導電性材料となる化合物粉末等と、有機ビヒクルと、ガラス粉末とを混練して調製することができる。
上記の導電性材料粉末又は化合物粉末は、球状、リン片状等、その形状に特に制限はなく、また、これらの形状のものが混合されたものであってもよい。使用する導体材料粉末又は化合物粉末の大きさは0.5〜5μm程度であることが好ましく、1〜3μm程度であることが更に好ましい。外部電極の形成に用いるコーティング組成物での上記の導体材料粉末又は化合物粉末の含有量は、40〜60質量%程度とすることができる。
上記の有機ビヒクルは、バインダと溶剤とを含有するものであり、バインダとしては、例えばエチルセルロース、アクリル樹脂、ブチラール樹脂等を、また、溶剤としては、例えばターピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等を、それぞれ用いることができる。コーティング組成物におけるバインダの含有量は1〜5質量%程度とすることができ、溶剤の含有量は40〜60質量%程度とすることができる。そして、上記のガラス粉末としては、軟化点が概ね500〜900℃のものを用いることが好ましく、コーティング組成物におけるガラス粉末の含有量は1〜10質量%程度とすることが好ましい。
コーティング組成物を焼き付けることで外部電極を形成する場合、この焼き付けは、例えば以下の条件の下に行うことができる。すなわち、窒素(N2) ガス雰囲気中又は加湿した窒素(N2) ガスと水素(H2) ガスとの混合ガス雰囲気中、600〜800℃で10分間〜1時間程度熱処理することにより、焼き付けを行うことができる。窒素(N2) ガスや混合ガスの加湿は、例えばウェッター等を用いて行うことができる。この場合、水温は10〜30℃程度が好ましい。
このようにして1対の外部電極まで形成することにより、図1に示した積層半導体セラミックスコンデンサ10を得ることができる。必要に応じ、各外部電極7a、7b上にめっき等の方法でパッド層を形成することができる。
(実施例1)
まず、ストロンチウム(Sr)原子の一部がマグネシウム(Mg)原子で置換されたチタン過剰チタン酸ストロンチウムを得るための原料として、炭酸ストロンチウム(SrCO3) 、酸化チタン(TiO2) 、及び酸化マグネシウム(MgO)それぞれの粉末を用意した。また、半導体化剤として、酸化イットリウム(Y2O3)及び酸化ニオブ(Nb2O5)それぞれの粉末を用意した。これらの原料粉末はいずれも高純度の工業用原料もしくは試薬である。
まず、ストロンチウム(Sr)原子の一部がマグネシウム(Mg)原子で置換されたチタン過剰チタン酸ストロンチウムを得るための原料として、炭酸ストロンチウム(SrCO3) 、酸化チタン(TiO2) 、及び酸化マグネシウム(MgO)それぞれの粉末を用意した。また、半導体化剤として、酸化イットリウム(Y2O3)及び酸化ニオブ(Nb2O5)それぞれの粉末を用意した。これらの原料粉末はいずれも高純度の工業用原料もしくは試薬である。
次に、仮焼成により得られる焼結体でのストロンチウム(Sr)と、マグネシウム(Mg)と、チタン(Ti)と、イットリウム(Y)と、ニオブ(Nb)との原子比が、下式(i)でのこれらの元素の原子比となるように上記の原料粉末を秤量し、混合して、半導体セラミックス用の出発原料を得た。
次いで、上記の出発原料を大気雰囲気中、1000℃で3時間仮焼成して仮焼物を得た。得られた仮焼物の組成は、上記の式(i)で表される。次いで、この仮焼物を乳鉢で解砕した後にボールミルで更に微粉砕して、微粉砕した仮焼物を得た。この微粉砕した仮焼物の大きさは、平均粒径で0.8μm以下である。
上記の微粉砕した仮焼物100重量部と、アクリル樹脂からなる樹脂バインダ5重量部とを、アセトンとメチルエチルケトンとの混液からなる有機溶剤80重量部中で混合してスラリーを調製し、このスラリーをドクターブレード法により成形して、厚さ50μmのグリーンシートを複数枚得た。
平均粒径0.4μmのNi粒子50重量部と、エチルセルロース8重量部をターピネオール100重量部に溶解してなる有機ビヒクル50重量部とをポット混合により混練して、ペースト状を呈する内部電極層形成用組成物ペーストを調製した。そして、この内部電極層形成用組成物ペーストを上記グリーンシートの一面に印刷法により所定のパターンで塗布した後、80℃で5分間乾燥して、グリーンシートに内部電極パターンが印刷された内装シートを5枚得た。
内部電極層形成用組成物ペーストを塗布していないグリーンシート(外装シート)を12枚積層して、外装部とした。この外装部に、内部電極パターンが上となるように向きを合わせて5枚の内装シートを積層し、更に、12枚の外装シートを積層した。この後、積層物の厚さ方向に荷重を加えて隣り合うグリーンシート同士を圧着させてから、縦3.8mm、横1.9mm、厚さ1.2mmのグリーンチップを切り出した。これにより、2つの内部電極パターンに挟まれた誘電体層(グリーンシート)を計4層有するグリーンチップを得た。
このグリーンチップを大気中で260℃にまで加熱し、この温度で8時間保持して、グリーンチップ中の樹脂バインダを揮散させた。このときの昇温速度は25℃/時間とした。
次いで、樹脂バインダを揮散させた後のグリーンチップを昇温速度200℃/時間の下に1300℃にまで加熱し、この温度で2時間保持することにより、本焼成した。このときの雰囲気は、窒素(N2) ガスと、水素(H2) ガスと、水蒸気との混合ガス(露点0℃)とし、雰囲気中の酸素分圧は約3.2×10−8Paとした。この本焼成により、各グリーンシートが半導体セラミックス層になると共に、内部電極層形成用組成物ペーストの塗膜(内部電極パターン)がニッケル(Ni)製の内部電極層になった。このものを、以下、「半導体セラミックスチップ」という。本焼成後、半導体セラミックスチップを200℃/時間の冷却速度の下に冷却した。
粒界絶縁成分の原料として炭酸ナトリウム(Na2CO3)と炭酸マンガン(MnCO3) とを用い、これらを前者:後者=50:50(質量%)の比で配合して得た混合物をエチルセルロースからなる樹脂バインダと共にターピネオールからなる有機溶剤中で混練して、粒界絶縁層を形成するための組成物としての拡散ペーストを調製した。そして、この拡散ペーストを0.7mg/個の割合で上記の半導体セラミックスチップの表面に塗布した。
次に、拡散ペーストが塗布された半導体セラミックスチップを昇温速度200℃/時間の下に窒素(N2) ガス雰囲気中で1000℃にまで加熱し、この温度で10分間保持して、拡散ペーストの炭酸ナトリウム(Na2CO3)及び炭酸マンガン(MnCO3) を酸化ナトリウム(Na2O) 及び酸化マンガン(MnO)の状態で各半導体セラミックス層の結晶粒界及びその近傍に拡散させるための熱処理を行い、その後、200℃/時間の冷却速度の下に冷却した。
上記の熱処理により、各半導体セラミックス層での結晶粒界及びその近傍には酸化ナトリウム(Na2O) 及び酸化マンガン(MnO)によって粒界絶縁層が形成され、上記の半導体セラミックス層が粒界絶縁型半導体セラミックス層となった。結果として、粒界絶縁型半導体セラミックス層とニッケル(Ni)製の内部電極層とが交互に積層されている積層体が得られた。このとき、各内部電極層の酸化は実質的に生じなかった。
この後、上記の積層体において互いに対向している1対の側面それぞれをサンドブラストにより研磨し、これらの研磨面にインジウム(In)−ガリウム(Ga)合金を塗布することにより外部電極を形成して、積層半導体セラミックスコンデンサを得た。この積層半導体セラミックスコンデンサのサイズは、縦3.2mm、横1.6mm、高さ1.2mmであり、粒界絶縁型半導体セラミックス層の厚さ(隣り合う内部電極同士の間での厚さ)は約35μm、粒界絶縁型半導体セラミックス層での結晶粒径の平均値は約2.79μm、ニッケル製の内部電極層の厚さは1.4μmであった。なお、粒界絶縁型半導体セラミックス層での結晶粒径の平均値は、結晶粒子を球状と仮定して、コード法に基づいて求めた。
(実施例2)
半導体セラミックス用の出発原料を調製するにあたって、仮焼成により得られる焼結体でのストロンチウム(Sr)と、マグネシウム(Mg)と、チタン(Ti)と、イットリウム(Y)と、ニオブ(Nb)との原子比が、下式(ii)でのこれらの元素の原子比となるように各原料粉末を秤量し、他は実施例1と同じ条件の下に積層半導体セラミックスコンデンサを作製した。
半導体セラミックス用の出発原料を調製するにあたって、仮焼成により得られる焼結体でのストロンチウム(Sr)と、マグネシウム(Mg)と、チタン(Ti)と、イットリウム(Y)と、ニオブ(Nb)との原子比が、下式(ii)でのこれらの元素の原子比となるように各原料粉末を秤量し、他は実施例1と同じ条件の下に積層半導体セラミックスコンデンサを作製した。
このようにして得られた積層半導体セラミックスコンデンサのサイズは、縦3.2mm、横1.6mm、高さ1.2mmであり、粒界絶縁型半導体セラミックス層の厚さ(隣り合う内部電極同士の間での厚さ)は約35μm、粒界絶縁型半導体セラミックス層での結晶粒径の平均値は約2.54μm、ニッケル製の内部電極層の厚さは1.4μmであった。
(比較例1)
半導体セラミックス用の出発原料を調製するにあたって、酸化マグネシウム(MgO)を使用せず、かつ、仮焼成により得られる焼結体でのストロンチウム(Sr)と、チタン(Ti)と、イットリウム(Y)と、ニオブ(Nb)との原子比が、下式(iii) でのこれらの元素の原子比となるように各原料粉末を秤量し、他は実施例1と同じ条件の下に積層半導体セラミックスコンデンサを作製した。
半導体セラミックス用の出発原料を調製するにあたって、酸化マグネシウム(MgO)を使用せず、かつ、仮焼成により得られる焼結体でのストロンチウム(Sr)と、チタン(Ti)と、イットリウム(Y)と、ニオブ(Nb)との原子比が、下式(iii) でのこれらの元素の原子比となるように各原料粉末を秤量し、他は実施例1と同じ条件の下に積層半導体セラミックスコンデンサを作製した。
このようにして得られた積層半導体セラミックスコンデンサのサイズは、縦3.2mm、横1.6mm、高さ1.2mmであり、粒界絶縁型半導体セラミックス層の厚さ(隣り合う内部電極同士の間での厚さ)は約35μm、粒界絶縁型半導体セラミックス層での結晶粒径の平均値は約2.37μm、ニッケル製の内部電極層の厚さは1.4μmであった。
(比較例2)
半導体セラミックス用の出発原料を調製するにあたって、仮焼成により得られる焼結体でのストロンチウム(Sr)と、マグネシウム(Mg)と、チタン(Ti)と、イットリウム(Y)と、ニオブ(Nb)との原子比が、下式(iv)でのこれらの元素の原子比となるように各原料粉末を秤量し、他は実施例1と同じ条件の下に積層半導体セラミックスコンデンサを作製した。
半導体セラミックス用の出発原料を調製するにあたって、仮焼成により得られる焼結体でのストロンチウム(Sr)と、マグネシウム(Mg)と、チタン(Ti)と、イットリウム(Y)と、ニオブ(Nb)との原子比が、下式(iv)でのこれらの元素の原子比となるように各原料粉末を秤量し、他は実施例1と同じ条件の下に積層半導体セラミックスコンデンサを作製した。
このようにして得られた積層半導体セラミックスコンデンサのサイズは、縦3.2mm、横1.6mm、高さ1.2mmであり、粒界絶縁型半導体セラミックス層の厚さ(隣り合う内部電極同士の間での厚さ)は約35μm、粒界絶縁型半導体セラミックス層での結晶粒径の平均値は約2.01μm、ニッケル製の内部電極層の厚さは1.4μmであった。
(電気的特性の評価)
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた各積層半導体セラミックスコンデンサについて、見掛け比誘電率(εapp )及び誘電損失tanδ(D)を求めた。見掛け比誘電率(εapp )は、静電容量(Cp)及び誘電損失tanδ(D)の測定器であるHEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(HP−4284A)を用いて測定信号周波数1kHz、測定信号電圧(1Vrms)の条件の下に測定した静電容量(Cp)を基に、下式(v)により求めた。また、誘電損失tanδ(D)は、上記の測定器により直接測定した。
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた各積層半導体セラミックスコンデンサについて、見掛け比誘電率(εapp )及び誘電損失tanδ(D)を求めた。見掛け比誘電率(εapp )は、静電容量(Cp)及び誘電損失tanδ(D)の測定器であるHEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(HP−4284A)を用いて測定信号周波数1kHz、測定信号電圧(1Vrms)の条件の下に測定した静電容量(Cp)を基に、下式(v)により求めた。また、誘電損失tanδ(D)は、上記の測定器により直接測定した。
なお、上記の式(v)中の「t」は、粒界絶縁型半導体セラミックス層の厚さを示しており、この厚さtは、研磨等の手法により積層半導体セラッミクコンデンサの断面をとって測定した。また、式(v)中の「S」は、積層半導体セラッミクコンデンサでの内部電極層重なり面積を示しており、この重なり面積Sは、研磨等の手法により積層半導体セラッミクコンデンサの断面をとり、長さ方向での電極の重なり長さ(l)、及び、幅方向での電極の重なり長さ(w)を求め、これらを乗じる(l×w)ことにより求めた。式(v)中の「ε0」 は真空の誘電率であり、その値は約8.854×10−12[F/m]である。式(v)中の「n」は、粒界絶縁型半導体セラミックス層の積層数(隣り合う2つの内部電極層によって挟まれた状態にある粒界絶縁型半導体セラミックス層の総数)である。
これらの測定結果を図2(a)又は図2(b)に示す。また、参考のため、粒界絶縁型半導体セラミックス層でのマグネシウム(Mg)原子によるストロンチウム(Sr)原子の置換量と結晶粒径の平均値との関係を、図2(c)に示す。なお、図2(a)〜図2(c)においては、便宜上、粒界絶縁型半導体セラミックス層でのマグネシウム(Mg)原子によるストロンチウム(Sr)原子の置換量を「Mg置換量」と略記し、これを横軸にしてグラフを描いている。
図2(a)から明らかなように、粒界絶縁型半導体セラミックス層でのマグネシウム(Mg)原子によるストロンチウム(Sr)原子の置換量を5%又は10%にすることにより、この置換を行わない場合に比べて見掛け比誘電率の高い粒界絶縁型半導体セラミックス層を得ることができ、かつ、図2(b)から明らかなように、誘電損失の小さい粒界絶縁型半導体セラミックス層を得ることができる。このときの粒界絶縁型半導体セラミックス層における結晶粒径の平均値は、図2(c)に示すように、上記の置換を行わない場合に比べて、それ程大きくは増大していない。
また、上記の置換量を20%にすると、図2(a)に示すように、粒界絶縁型半導体セラミックス層の見掛けの比誘電率は、この置換を行わない場合と同程度となり、粒界絶縁型半導体セラミックス層の誘電損失は、図2(b)に示すように、上記の置換を行わない場合よりも大きくなる。
1…粒界絶縁型半導体セラミックス層(誘電体層)
3…内部電極層
5…積層体
7a、7b…外部電極
10…積層半導体セラミックスコンデンサ
3…内部電極層
5…積層体
7a、7b…外部電極
10…積層半導体セラミックスコンデンサ
Claims (3)
- 半導体化剤を含有したチタン酸ストロンチウム系の粒界絶縁型半導体セラミックスであって、結晶粒界を電気的に絶縁している成分及び半導体化剤をそれぞれ除いた組成でのチタン原子の割合が化学量論比よりも多く、かつ、ストロンチウム原子の10%以下がマグネシウム原子で置換されていることを特徴とする粒界絶縁型半導体セラミックス。
- 結晶粒界を電気的に絶縁している成分及び半導体化剤をそれぞれ除いた組成が、式(Sr1−xMgx)0.996TiO3(式中のxは、0よりも大きく0.1以下の数値を表す。)で表されることを特徴とする請求項1に記載の粒界絶縁型半導体セラミックス。
- 内部電極層と半導体セラミックスからなる誘電体層とが交互に積層された積層体を有する積層半導体コンデンサであって、前記半導体セラミックスが請求項1又は2に記載の粒界絶縁型半導体セラミックスであることを特徴とする積層半導体コンデンサ。
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