JP2005127229A - エンジンの燃料噴射量制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】吸気ポート(4)内または燃焼室(5)内に燃料を噴射する燃料噴射弁(21)と、この燃料噴射弁(21)から噴射される噴霧が燃焼室内の壁面に付着して形成される壁流燃料の蒸発に関わる基本特性と、1サイクル中の所定区間での前記蒸発に寄与する実効温度を推定する手段(43、45)と、1サイクル中の所定区間での前記蒸発に寄与する実効圧力前を推定する手段(44、46)とを有し、この実効温度または実効圧力から前記基本特性を用いて燃焼室内に形成される前記壁流燃料からの1サイクル中の所定区間での蒸発量または蒸発率を算出する手段(31)と、この算出された蒸発量または蒸発率を用いて前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を算出する手段(31)とを備える。
【選択図】図1
Description
噴射弁21から吸気ポート4に噴射された燃料は、気化してガス(気体)となる分と、噴霧のまま漂う分とに大きく分岐される。ガス、微粒噴霧となった燃料はポート壁4aや吸気弁傘裏部15aに付着することなく燃焼室5に吸入される。噴霧のまま漂う燃料は、その一部が気流に運ばれて燃焼室5に直接吸入され、残りは吸気弁傘裏部15aと吸気ポート壁4aとに付着する。
このようにしていろいろな経緯を経て燃焼室5に吸入された燃料群は、一部はガス、微粒噴霧として直接燃焼に寄与し、一部は燃焼室5内の壁流を形成する。燃焼室5内の壁流は、現実には吸気弁15の燃焼室側表面15b、排気弁16の燃焼室側表面(図2、図3には図示していない)、吸気ポート4aにつながっているシリンダヘッド壁51、ピストン冠面6a、点火プラグ表面(図示しない)、さらにはシリンダ面壁52とどこにでも存在する。燃焼室5内の壁流は、一部は点火による燃焼までの間に圧縮熱や壁熱などで蒸発、気化してガス、微粒噴霧となり燃焼に寄与し、一部は燃焼が完了してから蒸発し燃焼に寄与せずに排気行程で排気通路8へと排出される。特に、シリンダ面壁52の壁流を形成する燃料はその一部がオイルに希釈されたままクランクケースに逃げてブローバイガスに含まれる。
これは(a)噴射弁21より噴射された直後にガス、微粒噴霧となった燃料、(b)燃焼室5に吸入された噴霧から蒸発してガス、微粒噴霧となった燃料、(c)ポート壁流より蒸発してガス、微粒噴霧となった燃料、(d)吸気弁壁流より蒸発してガス、微粒噴霧となった燃料、(e)燃焼室壁流より点火による燃焼までの間に蒸発してガス、微粒噴霧となった燃料、(f)シリンダ面壁流より点火による燃焼までの間に蒸発してガス、微粒噴霧となった燃料の合計である。
これは、(g)燃焼室壁流より燃焼が完了してから蒸発してガス、微粒噴霧となり、排気行程で排気通路8へと排出される燃料と、(h)シリンダ面壁流より燃焼が完了してから蒸発してガス、微粒噴霧となり、排気行程で排気通路8へと排出される燃料との合計である。
これは、(i)シリンダ面壁流よりオイルに希釈されたままクランクケースに逃げてブローバイガスに含まれる燃料である。
Mfp=Mfpn-1+Fin・X2−Mfpn-1(Z0+Z1+Z2)…(2)
ただし、Mfv ;吸気弁壁付着量、
Mfvn-1 ;Mfvの1燃焼サイクル前の値、
Mfp ;ポート壁付着量、
Mfpn-1 ;Mfpの1燃焼サイクル前の値、
Fin ;燃料噴射量、
Xn、Yn、Zn;各部燃料分岐割合、
ここで、上記(1)式は、1燃焼サイクル前の吸気弁壁付着量であるMfvn-1に対して今回の噴射により壁流となって増える燃料分(右辺第2項)を加算し、今回の噴射までに減っている燃料分(右辺第3項、第4項、第5項)を減算するものである。すなわち、右辺第2項のFin・X1は、今回の燃料噴射量Finのうち吸気弁壁流に変化する燃料分である。右辺第3項のMfvn-1・Y0はMfvn-1のうち今回の噴射までに蒸発してガス、微粒噴霧となりそのまま燃焼室5に吸入されて燃焼する燃料分である。右辺第4項のMfvn-1・Y1はMfvn-1のうち今回の噴射までに引き剥がされて噴霧となった後にあるいは壁流のまま流れて燃焼室壁流となる燃料分、Mfvn-1・Y2はMfvn-1のうち今回の噴射までに引き剥がされて噴霧となった後にあるいは壁流のまま流れてシリンダ面壁流となる燃料分である。
−Cfhn-1(V0+V1) …(3)
Cfc=Cfcn-1+Fin・X4+Mfv・Y2+Mfp・Z2
−Cfcn-1(W0+W1+W2)…(4)
ただし、Cfh ;燃焼室壁付着量、
Cfhn-1 ;Cfhの1燃焼サイクル前の値、
Cfc ;シリンダ面壁付着量、
Cfcn-1 ;Cfcの1燃焼サイクル前の値、
Fin ;燃料噴射量、
Xn、Yn、Zn、Vn、Wn:各部燃料分岐割合、
上記(3)式において、右辺第2項のFin・X3は、今回の燃料噴射量Finのうち燃焼室壁流に変化する燃料分である。右辺第3項、第4項のMfv・Y1、Mfp・Z1はそれぞれMfv、Mfpから引き剥がされて噴霧となった後にあるいは壁流のまま流れて燃焼室壁流に変化する燃料分である。右辺第5項のCfhn-1・V0はCfhn-1のうち点火による燃焼までの間に圧縮熱や壁熱等で蒸発、気化して燃焼に寄与した燃料分、右辺第6項のCfhn-1・V1はCfhn-1のうち燃焼が完了してから蒸発し燃焼に寄与せずに排気行程で排出された燃料分である。
+Cfc・W0 …(5)
Fac =Cfh・V1+Cfc・W1…(6)
Foil=Cfc・W2 …(7)
ここで、(5)式は上記(a)〜(f)の燃料の合計を燃焼分燃料Fcomと、(6)式は上記(g)、(h)の燃料の合計を未燃分燃料Facと、(7)式は上記(i)の燃料をオイル落ち量Foilとして数式化したもの(モデル)である。
(8)式は燃焼分も未燃分も燃焼室5内のすべてのガスが排気通路8へ排出されることを表している。実際には一部のガスは排気通路8へ排出されることなく燃焼室5内に残留するのであるが、この残留ガスは図4に示した混合気モデルでは考えていない。
Fin={K#・Tfbya・Tp−(Mfv・Y0+Mfp・Z0
+Cfh・V0+Cfc・W0)/X0 …(9)
(2)排気要求があるとき;
Fin={K#・Tfbya・Tp−(Mfv・Y0+Mfp・Z0
+Cfh・V0+Cfc・W0+Cfh・V1+Cfc・W1)}
/X0 …(10)
ここで、(9)式は出力要求または安定度要求があるときにシリンダ吸入空気量(Qcyl)と、前記3つの燃焼分(X0、Y0+Z0、V0+W0)の燃料(Fin・X0+Mfv・Y0+Mfp・Z0+Cfh・V0+Cfc・W0)との比が理論空燃比よりリッチ側の値となるように要求噴射量Finを算出する式である。これに対して(10)式は三元触媒9からの排気要求があるときにシリンダ吸入空気量(Qcyl)と、3つの燃焼分(X0、Y0+Z0、V0+W0)の燃料(Fin・X0+Mfv・Y0+Mfp・Z0+Cfh・V0+Cfc・W0)及び未燃分(V1+W1)の燃料(Cfh・V1+Cfc・W1)の合計との比が理論空燃比となるように燃料噴射弁21からの燃料噴射量を算出する式である。
+(Mfv・Y0+Mfp・Z0+Cfh・V0+Cfc・W0)…(11)
ただし、K#;定数、
Tp;エアフローメータ32よりから求めた基本噴射量、
(11)式は、ガス、微粒噴霧となる燃料分(右辺第1項)及び燃料壁流に奪われる燃料分(右辺第2項〜第5項)の合計とが左辺の噴射燃料量に等しいことを表している。この式をFinについて整理すれば、上記(9)式が得られる。
Ti=Fin×(α+αm−1)×2+Ts…(12b)
ただし、α ;空燃比フィードバック補正係数、
αm;空燃比学習補正係数、
Ts;無効パルス幅、
これら最終噴射量Tiの式はL−ジェトロニック方式のガソリン噴射エンジンにおける従来の燃料噴射量Ti[ms]の演算式とは趣が異なる。ちなみに、当該演算式(シーケンシャル噴射時)は次のようなものである。
+CHOSn+Ts …(13)
TFBYA=1+KTW+KAS+KUB+KMR …(14)
ただし、TFBYA ;従来装置の目標当量比、
Kathos;壁流補正量(応答の遅いもの)、
CHOSn ;壁流補正量(応答の速いもの)、
KTW ;水温増量補正係数、
KAS ;始動後増量補正係数、
KUB ;未燃分補正係数、
KMR ;混合気補正係数、
(13)、(14)式に示す従来の演算式では、増量補正係数がたくさんあることからもわかるように、低水温時、低温始動直後で燃焼不安定な状態、未燃分、全負荷時、加減速時などに対してそれぞれに別個の増量補正係数(KTW、KAS、KUB、KMR、Kathos、CHOSn)を導入し、個別に対応していた。しかしながら、こうした方法だと増量補正係数の数に応じて適合工数が飛躍的に増大せざるを得ない。また、KTW、KAS、KUBの適合については燃料挙動までは解析されていない。
(15)式によれば要求度数=100%のときFin=Fin2、要求度数=0%のときFin=Fin1となる。
〈1〉噴霧分岐のモデル同定(噴霧分岐全体プロセス)
図10は噴霧の各分岐分(X0、X1、X2、X3、X4)の推定(同定)に用いる噴霧分岐全体のプロセスをモデルで示したもので、噴射時からの燃料噴霧の分岐を図示のように時系列的に6つに分解している。
噴射時噴霧は粒径の異なる燃料噴霧の集まりである。従って、横軸に粒径D[μm]を、縦軸に噴霧の質量割合[%]を採れば、図10上段左端に示したように粒径Dに対して山形の分布(XA)を有し(太実線参照)、その山形の曲線で囲まれる面積が、噴射時の総噴霧の総和である100%になる。山形の分布を有する燃料噴霧のうちから一部が噴射時に気化し、残りは噴霧のまま滞留する。粒径の小さい噴霧ほど気化しやすいので、気化せずに残る噴霧の分布(細実線参照)は噴射時噴霧の分布(XA)より粒径の小さい側が小さなものとなる。これら2つの分布の間の面積分が噴射時に気化する噴霧分X0´[%]であり、100−X0´が気化せずに噴霧のまま滞留する噴霧分XB[%]である。
図10上段左より2番目の特性において、大きな山(太実線参照)は気化せずに吸気ポート4に残留する噴霧の噴霧の分布であり、このうち燃焼室5へと直接噴き入れられる噴霧の分布を小さな山(細実線参照)で重ねて描いている。この小さな山の面積が燃焼室5へと直接噴き入れられる噴霧分XD[%]であり、XB−XDつまり大きな山と小さな山の間の面積分が吸気系に残留する噴霧分XC[%]である。
燃焼室5へと直接噴き入れられず吸気ポート(吸気系)に残留する噴霧のうち一部は噴霧のまま浮遊し(気化する分を含む)、残りは吸気系の壁面(ポート壁4aと吸気弁壁15a)とに付着する。粒径の小さい噴霧ほど噴霧のまま浮遊しやすいので、図10上段右から2番目の特性において吸気系の壁面に付着する噴霧の分布(細実線参照)は吸気系に残留する噴霧の分布(太実線参照)より粒径の小さい側が小さなものとなる。これら2つの分布の間の面積分が吸気系に噴霧のまま浮遊する分(吸気系での気中浮遊割合)X0´´[%]であり、上記吸気系に残留する噴霧分XBからこの浮遊分X0´´を差し引いた値が吸気系付着分XE(吸気系付着割合)[%]となる。
燃焼室5へと直接噴き入れられる噴霧のうち一部は噴霧のまま燃焼室5内を浮遊し(気化する分を含む)、残りは燃焼室壁及びシリンダ面壁52に付着する。粒径の小さい噴霧ほど噴霧のまま浮遊しやすいので、図10下段右から2番目の特性において燃焼室壁及びシリンダ面壁52に付着する噴霧の分布(細実線参照)は燃焼室5へと直接噴き入れられる噴霧の分布(太実線参照)より粒径の小さい側が小さなものとなる。これら2つの分布の間の面積分が燃焼室5内で噴霧のまま浮遊する分(燃焼室5での気中浮遊割合)X0´´´[%]であり、上記燃焼室5へと直接噴き入れられる噴霧分XDからこの浮遊分X0´´´を差し引いた値が燃焼室壁付着分(燃焼室付着割合)XF[%]である。
図10上段右端の特性において、大きな山(太実線参照)は上記の吸気系付着分のXEの分布、小さな山(細実線参照)は吸気弁壁15aに付着する噴霧分の分布である。この小さな山の面積が吸気弁壁15aに付着する噴霧分X1[%]であり、上記吸気系付着分XEからこの吸気弁壁付着分X1を差し引いた値がポート壁付着分X2[%]である。
図10下段右端の特性において、大きな山(太実線参照)は上記の燃焼室付着分XFの分布、小さな山(細実線参照)は燃焼室壁に付着する噴霧の分布である。この小さな山の面積が燃焼室壁付着分X3[%]であり、上記燃焼室付着分XFからこの燃焼室壁付着分X3を差し引いた値がシリンダ面壁付着分X4[%]である。
〈2−1〉噴霧分岐のモデル同定(気化)
1)XA;噴射時噴霧の粒径分布:
噴射時噴霧の質量割合についての粒径分布XAは噴射弁21の噴霧計測結果を用いる。
噴射時噴霧の気化については図12のように噴霧の質量をm、表面積をA、直径をD、噴霧の気化量をΔm、また、吸気ポート4の流速をV、吸気ポート4の温度をT、吸気ポート4の圧力(この圧力は大気圧より低くなり、大気圧を基準とすれば負圧となる。)をPとすると、気化率X0´と気化量Δmとは次式で表される。
Δm=f(V、T、P)×A×t…(17)
ここで、(17)式のf(V、T、P)は単位表面積、単位時間当たりの蒸発量(この値を以下「気化特性」という。)で、気化特性f(V、T、P)は流速V、温度T、圧力Pの関数であることを表している。(17)式のtは単位時間である。
ここで、XAk はk番目の区分の粒径に対する質量割合、Dkはk番目の区分の粒径で、Σは粒径の全区分(kについて1から最大区分数まで)にわたって総和することを表している。KA#はガス流速Vの表面積での有効利用率(1より小さい定数)である。
+ΣXAk×f(V2、T、P)×A×t2×KA#/Dk…(19)
ただし、V1;噴霧貫通力による噴霧の速度、
t1;噴霧の貫通に要する時間、
V2;吸気気流の速度、
t2;吸気気流に噴霧が暴露されている時間、
ここで、噴霧貫通力による噴霧の速度V1と噴霧の貫通に要する時間t1とは、噴射弁21に作用する燃圧Pfが決まれば一定値である。これらV1、t1の値は噴射弁21の仕様が決まれば定まる。燃圧Pfを可変に制御するエンジンでは、燃圧PfによりV1、t1が変化するので、燃圧Pfの関数として設定する。
ただし、#KV;流速指数、
(20)式の流速指数#KVは流路面積(吸気ポート4の流路面積)を気筒容積で割った値により定まる値である。この指数には単位合わせの分も含める。ここで、流路面積、気筒容積は図面より求めることができる。
このようにして噴射時気化分X0´が求まると、噴霧のまま吸気ポート4に残留する噴霧分XBは次式で与えられる。
〈2−2〉噴霧分岐のモデル同定(直接噴き入り)
1)XD;燃焼室5へと直接噴き入れられる噴霧分:
噴射弁21からの噴霧は、排気行程中の噴射であれば吸気弁15が全閉しているので、吸気弁15、吸気ポート4にしか直撃しないのであるが、吸気弁傘裏部を狙って吸気行程で噴射するときには、図15のようにその一部が吸気弁15または吸気ポートに衝突することなく吸気弁15と弁シートの隙間を抜けて燃焼室5へと直接噴き入れられる。この直接噴き入り率をKXDとし、燃焼室5へと直接噴き入れられる噴霧分XDを次式により算出する。
直接噴き入り率KXDは噴射タイミングのほか、噴射方向(噴射弁21の向きと吸気弁15の向き)の影響も受ける。そこで、噴射タイミングI/Tと噴射弁21の軸と吸気弁15の軸との挟み角βとから図16を内容とするマップを検索することにより直接噴き入り率KXDを求める。挟み角βは図面からわかる。図16の特性は適合により求める。
ただし、H ;吸気弁15の最大リフト、
H0;基準最大リフト、
(23)式のH0は吸気弁作動角可変機構27を働かせないときの吸気弁15の最大リフトである。吸気弁作動角可変機構27を働かせるときには、通常、吸気弁15の最大リフトHがH0より小さくなるので、その分直接噴き入り率が減る。そこで(23)式によりその分の減量補正を行わせるものである。
このようにして直接噴き入れられる噴霧分XDが求まると、吸気系に残留する噴霧分XCは次式で与えられる。
〈2−3〉噴霧分岐のモデル同定(浮遊)
1)X0´´;吸気系での浮遊分:
吸気ポート4に噴霧がくまなく分布し、図17のように各噴霧は重力加速度により空気に抗して落下するものと仮定する。こうした自然落下モデルでは、落下してポート壁4aに到達しない噴霧は浮遊し、ポート壁4aに到達した噴霧はポート壁4aに付着するとみなす。
ここで、Lkは粒径区分kにおける噴霧の到達距離である。このLkは、
Lk=Vk×tp…(26)
の式により表されるので(Vkは粒径区分kにおける噴霧の落下速度、tpは浮遊時間(あるいは到達制限時間)としての噴射タイミングI/Tより圧縮行程開始までの時間)、これを(25)式に代入すると、次式が得られる。
この結果、粒径Dをパラメータとする小区分毎の噴霧の落下速度Vのテーブル(図18参照)を作成しておき、粒径区分kが1よりD0となるまで、(27)式により総和すれば吸気系での浮遊分X0´´を求めることができる。D0は図18において粒径毎の浮遊分が0となるときの粒径である。tpはエンジンコントローラ31内蔵のタイマにより計測させればよい。#LPは一定値であり、図面より定まる。
考え方は吸気系での浮遊分X0´´と同様である。すなわち、燃焼室5内に噴霧がくまなく分布し、図17のように各噴霧は重力加速度により空気に抗して落下するものと仮定する。こうした自然落下モデルでは、落下してピストン冠面6aに到達しない噴霧は浮遊し、ピストン冠面6aに到達した噴霧は燃焼室(燃焼室壁やシリンダ面壁52)に付着するとみなす。
ここで、Lkは粒径区分kにおける噴霧の到達距離であり、このLkは、
Lk=Vk×tc…(29)
の式により表されるので(Vkは粒径区分kにおける噴霧の落下速度、tcは浮遊時間(あるいは到達制限時間)としての噴射タイミングI/T(または吸気行程開始)より圧縮行程終了(または燃焼開始)までの時間)、これを(28)式に代入すると、次式が得られる。
この結果、粒径Dをパラメータとする小区分毎の噴霧の落下速度Vのテーブル(図18参照)を作成しておき、粒径区分が1よりD0となるまで、(30)式により総和すれば燃焼室での浮遊分X0´´´を求めることができる。D0は図18において粒径毎の浮遊分が0となるときの粒径である。tcエンジンコントローラ31内蔵のタイマにより計測させればよい。#LCは一定値であり、図面より定まる。
このようにして吸気系での浮遊分X0´´、燃焼室での浮遊分X0´´´が求まると、吸気系付着分XE、燃焼室付着分XFは次式で与えられる。
XF=XD−X0´´´…(32)
吸気弁作動角可変機構27を備えるエンジンでは、直接噴き入れられる噴霧の2次微粒化が促進されるため、直接噴き入れられる噴霧分XDと燃焼室での浮遊分X0´´´の補正を行う。ここで、2次微粒化とは、吸気弁作動角可変機構27が働くとき、吸気弁15の最大リフトが小さくなって吸気弁15と弁シートの隙間を流れる気流が、吸気弁作動角可変機構27が働かないときより高速となり、そのぶん直接噴き入れられる噴霧の微粒化が促進されることをいう。
〈2−4〉噴霧分岐のモデル同定(付着部位)
1)X1、X2;吸気弁壁付着分、ポート壁付着分:
吸気系付着分XEの分布は図19において下側の太実線であり、このうち吸気弁壁付着分X1の分布は図19において下側の破線のようになり、2つの分布の間がポート壁付着分X2の分布である。従って、吸気系付着分XEを、吸気弁直撃率#DVRに応じて次式のように吸気弁壁付着分X1と、ポート壁付着分X2とに割り振る。
X2=XE−X1 …(34)
ただし、KX1;吸気弁直撃率係数、
ここで、吸気弁直撃率係数KX1は吸気弁直撃率#DVRと圧力Pとから図20を内容とするマップを検索することにより求める。図20に示したように吸気弁直撃率係数KX1は吸気弁直撃率#DVRが大きくなるほど大きくなる。また、吸気弁直撃率#DVRが同じでも圧力Pが小さくなる低負荷時のほうが吸気弁直撃率係数KX1の値が小さくなる。図20において「負圧無」とは圧力Pが大気圧に近づく高負荷時のこと、「高負圧」とは圧力Pが大気圧より離れて小さくなる低負荷時のことである。吸気弁直撃率#DVRは、噴射弁21からの噴霧が吸気弁15に衝突する割合のことで、吸気ポート4と噴射弁噴霧の図面から算出できる。
燃焼室壁、シリンダ面壁52に付着する噴霧の分布を図19に重ねて示す。燃焼室付着分XFを、割り振り率KX4で次式のように燃焼室壁付着分X3と、シリンダ面壁付着分X4とに割り振る。
X3=XF−X4 …(36)
ここで、噴霧流入のレイアウトによりシリンダ付着指標を定め、このシリンダ付着指標から図21を内容とするテーブルを検索して割り振り率KX4を求める。ここで、シリンダ指標は噴射弁21からの噴霧が吸気弁15と弁シートの隙間を抜けて燃焼室5内に入って各部壁に付着する燃料のうち、シリンダ面壁に向かう割合を表すもので、例えば噴霧形状を円錐として吸気弁15と弁シートの隙間を抜ける割合をRB、RBのうちシリンダ面壁に向かう割合をRAとすれば、RA/RBをシリンダ指標として用いればよい。図21のように、割り振り率KX4はシリンダ付着指標が大きくなるほど大きくなる値である。
〈3〉壁流の蒸発、持ち去りのモデル同定
ここではまず壁流を物理モデルとするに際しての基本的な考え方を示す。
図22のように壁流の蒸発モデルを考える。すなわち、蒸発表面積Aは波の高さと比例し、また波の高さは付着量mと比例すると仮定すると、次式が成立する。
ただし、K#;定数、
蒸発量Δmは次式により与えられる。
(38)式のf(T、V、P)は壁流の蒸発特性である。この壁流の蒸発は噴霧の蒸発と同様であるから、壁流の蒸発特性としては図13に示した気化特性をそのまま流用している。ただし、(38)式は上記(17)式と比較して右辺に単位時間tがない。つまり、ここでのΔmは単位時間当たりで考えている。
この結果、壁流の蒸発量は付着量と比例する。
図23のように壁流の再飛散(飛散)と壁流の移動のモデルを考える。すなわち、壁流の再飛散量Δm´も波の高さと比例し、波の高さは付着量mと比例すると仮定すると、壁流の飛散率y1、2は次式により与えられる。
(40)式のf(T、V、粘度、表面張力)は再飛散率基本値(飛散率基本値)で、その特性を図24に示す。使用燃料であるガソリンが決まると粘度と表面張力が定まり、その使用燃料に対して適合することにより、図24に示したように温度Tと流速Vに対する特性が得られる。再飛散率基本値は温度Tが高くなるほど、また流速Vが大きくなるほど大きくなる値である。
H=m×K# …(42)
ただし、Vw;壁流の移動速度、
(41)式の壁流の移動速度Vwは、
Vw=f(V、T、粘度) …(43)
である。ここで、(43)式のf(V、T、粘度)は移動率基本値で、その特性を図25に示す。使用燃料であるガソリンが決まると粘度が定まり、その使用燃料に対して適合することにより、図25に示したように温度Tと流速Vに対する特性が得られる。移動率基本値は温度Tが高くなるほど、また流速Vが大きくなるほど大きくなる値である。
これより壁流の移動量も付着量と比例すると仮定する。
〈4−1〉蒸発、持ち去りの各部モデルへの適用
1)吸気弁壁流への適用:
図26は図22、図23の壁流モデルを吸気弁15に形成される壁流に適用した図である。この吸気弁壁流からの蒸発燃焼分、吸気弁壁流からの燃焼室壁への分岐分、吸気弁壁流からのシリンダ面壁52への分岐分をそれぞれ次のように算出する。
=f(図13)×#KWVV …(45)
燃焼室壁分岐分 ;Y1=(Δm´+Δm´´)/m
=f(図24)×#KVC+f(図25)×#KVT
…(46)
シリンダ面壁分岐分;Y2=(Δm´+Δm´´)/m
=f(図24)×(1−#KVC)
+f(図25)(1−×#KVT)…(47)
ここで、#KWVVは吸気弁壁流の蒸発係数、#KVCは吸気弁壁流の再飛散係数、#KVTは吸気弁壁流の移動係数である。
図27は図22、図23の壁流モデルを吸気ポートに形成される壁流に適用した図である。この吸気ポート壁流からの蒸発燃焼分、吸気ポート壁流からの燃焼室壁への分岐分、吸気ポート壁流からのシリンダ面壁52への分岐分をそれぞれ次のように算出する。
=f(図13)×#KWVP …(48)
燃焼室壁分岐分 ;Z1=(Δm´+Δm´´)/m
=f(図24)×#KHC+f(図25)×#KHT
…(49)
シリンダ面壁分岐分;Z2=(Δm´+Δm´´)/m
=f(図24)×(1−#KHC)
+f(図25)(1−×#KHT)…(50)
ここで、#KWVPは吸気ポート壁流の蒸発係数、#KHCは吸気ポート壁流の再飛散係数、#KHTは吸気ポート壁流の移動係数である。
〈4−2〉蒸発、持ち去りの各部モデルへの適用
1)燃焼室壁流への適用:
図28は図22の壁流モデルを燃焼室(シリンダ面壁を除く)に形成される壁流に適用した図である。この燃焼室壁流からの気化燃焼分、燃焼室壁流からの気化未燃排出分をそれぞれ次のように算出する。
気化未燃排出分;V1=f(図13)×#KCL…(52)
ここで、#KCVは燃焼室壁流の蒸発係数、#KCVは燃焼室壁流の蒸発係数である。
図29は図22、図23の壁流モデルをシリンダ面壁に形成される壁流に適用した図である。このシリンダ面壁流からの気化燃焼分、シリンダ面壁流からの気化未燃排出分、シリンダ面壁流からのオイル混入分をそれぞれ次のように算出する。
気化未燃排出分;W1=f(図13)×#KBL…(54)
オイル混入分 ;W2=f(図30)×#KBO…(55)
ここで、#KBVはシリンダ面壁流の蒸発係数、#KBLはシリンダ面壁流の蒸発係数、#KBOはシリンダ面壁流のオイル混入係数である。
1サイクル中、温度と圧力は図31に示すように変化するので、図31に示した気化燃焼分の区間(吸気終了から燃焼までの区間)と、気化未燃排出分の区間(燃焼から排気終了までの区間)とに分けて推定または算出する。これを図32のフローチャートにより詳述する。
例えば(56)式より目標空燃比が理論空燃比のときTFBYA=1.0となり、目標空燃比が例えば22.0といったリーン側の値であるとき、TFBYAは1.0未満の正の値である。
ステップ163では燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける圧力(つまり圧縮開始時期圧力)PINI[Pa]を算出する。すなわち、吸気弁閉時期IVCになったタイミングでのコレクタ内圧力PCOLを吸気弁閉時期IVCにおける圧力PINIとして取り込む。
PCMAX=PINI×ε^n …(59a)
ただし、ε;圧縮比、
n;ポリトロープ指数、
(58a)、(59a)式は燃焼室5内の混合ガスが断熱圧縮されると仮定して断熱圧縮変化後の温度と圧力を求める式である。ここで、不可逆断熱変化の場合、ポリトロープ指数nは混合ガスの比熱比κに等しいので、(58a)、(59a)式を書き換えると次式が得られる。
PCMAX=PINI×ε^κ …(59b)
ステップ166では燃焼室5の燃焼時における最高温度TMAXを次式により算出する。
ただし、Q ;燃焼による発熱量、
MASSC;燃焼室の総ガス量、
Cp ;燃焼ガスの定圧比熱、
(60)式は、断熱圧縮変化後の燃焼は燃焼室5容積一定のままでの燃焼(定容燃焼)であると仮定し、燃焼により発生した総熱量が、燃焼室5内の質量MASSC、比熱Cpの混合ガスを暖めた際の温度上昇代(右辺第2項)を、吸気終了(圧縮開始)より圧縮終了までの断熱圧縮変化により上昇した温度(右辺第1項)に加算した値を燃焼時における最高温度(左辺)とする物理モデル式である。
(61)式の低位発熱量QLは目標当量比TFBYAの変化によるリッチ、リーン時の燃焼生成物それぞれの低位発熱量変化のトータル分であり、図33に示すテーブルを検索することにより算出する(ただし、NOx分は無視する)。図33のようにリッチ側(TFBYA>1.0)で低位発熱量QLが減少している。これは、空燃比が理論空燃比(TFBYA=1.0)よりリッチになると未燃焼成分(CO、HC)が増加して発熱量が減少するためである。
ステップ167では燃焼室5の燃焼時における最高圧力PMAXを次式により算出する。
上記のように圧縮開始から圧縮終了までの断熱圧縮変化後の燃焼が定容燃焼であると仮定したとき、熱力学でいうT/P=定数の式、つまりPCMAX×TCMAX=PMAX×TMAX(=一定)の式が成立するので、この式を燃焼室5の燃焼時における最高圧力PMAXについて解くと(63)式が得られる。
Pc=PINI×b+PMAX×(1−b)…(65)
ただし、a,b;重み付け係数(0〜1の値)、
ここで、(64)式右辺の温度TINIとTMAXとは吸気弁閉時期から燃焼までの区間における最低温度と最高温度であり、(64)式はこれら最低、最高2つの温度の重み付け平均値を実効温度Tcとするものである。これは吸気弁閉時期から燃焼までの区間における実効温度Tcはこれら最低温度と最高温度の間にあるはずであるから、これら最低と最高の2つの温度の重み付け平均値によって実効温度Tcを得ようするものである。同様にして(65)式右辺の圧力PINIとPMAXとは吸気弁閉時期から燃焼までの区間における最低圧力と最高圧力であり、(65)式はこれら最低、最高の2つの圧力の重み付け平均値を実効圧力Pcとするものである。これは吸気弁閉時期から燃焼までの区間における実効圧力Pcはこれら最低圧力と最高圧力の間にあるはずであるから、これら最低と最高の2つの圧力の重み付け平均値によって実効圧力Pcを得ようするものである。
Pe=PEVC×d+PMAX×(1−d)…(67)
ただし、c,d;重み付け係数(0〜1の値)、
ここで、(66)式右辺の温度TMAXとTEVCとは燃焼から排気弁閉時期EVCまでの区間における最高温度と最低温度であり、(66)式はこれら最高、最低の2つの温度の重み付け平均値を実効温度Teとするものである。これは燃焼から排気弁閉時期EVCまでの区間における実効温度Teはこれら最高温度と最低温度の間にあるはずであるから、これら最高と最低の2つの温度の重み付け平均値によって実効温度Teを得ようするものである。同様にして(67)式右辺の圧力PMAXとPEVCとは燃焼から排気弁閉時期EVCまでの区間における最高圧力と最低圧力であり、(67)式はこれら最高、最低2つの圧力の重み付け平均値を実効圧力Peとするものである。これは燃焼から排気弁閉時期EVCまでの区間における実効圧力Peはこれら最高圧力と最低圧力の間にあるはずであるから、これら最高と最低の2つの圧力の重み付け平均値によって実効圧力Peを得ようするものである。
=Vc+(π/4)D2・Hevc …(補1)
Vc =(π/4)D2・Hx/(ε−1) …(補2)
Hevc={(CND+ST2/2)−(CRoff−PISoff)2}1/2
−{(ST/2)・cos(θevc+θoff)}+(CND2−X2)1/2
…(補3)
X =(ST/2)・sin(θevc+θoff)−CRoff+PISoff
…(補4)
θoff=arcsin{(CRoff−PISoff)/(CND・(ST/2))}
…(補5)
ただし、Vc :隙間容積[m3]、
ε :圧縮比、
D :シリンダボア径[m]、
ST :ピストンの全ストローク[m]、
Hevc :排気弁閉時期におけるピストンピン86のTDCからの
距離[m]、
Hx :ピストンピン86のTDCからの距離の最大値と最小値
の差[m]、
CND :コネクティングロッド84の長さ[m]、
CRoff :結節点85のシリンダ中心軸83からのオフセット距離 [m]、
PISoff:クランクシャフト回転中心82のシリンダ中心軸83か らのオフセット距離[m]、
θevc :排気弁閉時期のクランク角[degATDC]、
θoff :ピストンピン86とクランクシャフト回転中心82と
を結ぶ線がTDCにおいて垂直線となす角度[deg]、
X :結節点85とピストンピン86との水平距離[m]、
排気弁閉時期のクランク角θevcはエンジンコントローラ31から排気弁作動角可変機構28への指令信号によって決まるので、既知である。(補1)式〜(補5)式にこのときのクランク角θevc(=EVC)を代入すれば、燃焼室5の排気弁閉時期における容積VEVCを算出することができる。したがって、実用上は燃焼室5の排気弁閉時期における容積VEVCは吸気弁閉時期EVCをパラメータとするテーブルで設定したものを用いる。排気弁作動角可変機構28を備えないときには定数で与えることができる。
このようにして燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLの算出を終了したら図35に戻り、ステップ62で吸排気弁15、16のオーバーラップ(図では「O/L」と略記する)中に排気側から吸気側へ吹き返す不活性ガス量であるオーバーラップ中吹き返し不活性ガス量MRESOLを算出する。
例えば、吸気弁作動角可変機構27用アクチュエータへの非通電時に吸気弁開時期IVOが吸気上死点位置にあり、吸気弁作動角可変機構27用アクチュエータへの通電時に吸気弁開時期が吸気上死点より進角する特性であり、かつ排気弁作動角可変機構28用アクチュエータへの非通電時に排気弁閉時期EVCが排気上死点にあり、排気弁作動角可変機構28用アクチュエータへの通電時に排気弁閉時期EVCが排気上死点より進角する特性である場合には、IVOとEVCの合計が吸排気弁のオーバーラップ量VTCOLとなる。
この吸気排気圧力比PINBYEXは無名数であり、これと1をステップ103で比較する。吸気排気圧力比PINBYEXが1以下の場合には過給無しと判断し、ステップ104に進んで過給判定フラグTBCRG(ゼロに初期設定)=0とする。
^{SHEATR/(SHEATR−1)} …(71a)
SLCHOKEH={−2/(SHEATR+1)}
^{−SHEATR/(SHEATR−1)}…(71b)
これらのチョーク判定しきい値SLCHOKEL、SLCHOKEHは、チョークする限界値を算出している。
(キ)TBCRG=0かつCHOKE1=0のとき
(ク)TBCRG=0かつCHOKE1=1のとき
(ケ)TBCRG=1かつCHOKE1=0のとき
そして、上記(カ)のときにはステップ89に進んで、過給無しかつチョーク無し時のオーバーラップ中の平均吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp1を、上記(キ)のときにはステップ90に進んで過給無しかつチョーク有り時のオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp2を、上記(ク)のときにはステップ91に進んで過給有りかつチョーク無し時のオーバーラップ中の平均吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp3を、上記(ケ)のときにはステップ92に進んで過給有りかつチョーク有り時の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp4をそれぞれ算出し、算出結果をオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
図39(図37ステップ89のサブルーチン)においてステップ121では、図36のステップ73、75で算出されている不活性ガスのガス定数REX、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCを読み込む。
ここで、(72)式右辺の「SQRT」はすぐ右のカッコ内の値の平方根を計算させる関数である。
×{PTNBYEX^(2/SHEATR)
−PTNBYEX^((SHEATR+1)/SHEATR)}]…(73)
ステップ124では、これら密度項MRSOLD、圧力差項MRSOLPと、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCとから、過給無しかつチョーク無し時のオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp1を次式(ガス流量の算出式)により算出し、その算出値をステップ125でオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
次に、過給無しかつチョーク有り時の吹き返し不活性ガス流量の算出について図40のフローにより説明する
図40(図37ステップ90のサブルーチン)においてステップ131、132では、図39のステップ121、122と同様にして、不活性ガスのガス定数REX、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCを読み込み、これらから前述の(72)式により密度項MRSOLDを算出する。
なお、(75)式の累乗計算と平方根計算とが困難な場合には、(75)式の算出結果を、チョーク時圧力差項MRSOLPCのテーブルとしてエンジンコントローラ31のメモリに予めに記憶しておき、不活性ガスの比熱比SHEATRからそのテーブルを検索することにより求めてもよい。
次に、過給有りかつチョーク無し時の吹き返しガス流量の算出について図41のフローにより説明する
図41(図37ステップ91のサブルーチン)においてステップ141では、吸気圧力センサ44により検出される吸気圧力PINを読み込む。
×{PINBYEX^(−2/SHEATR)
−PINBYEX^(−(SHEATR+1)/SHEATR)}]…(77)
なお、(77)式の累乗計算と平方根計算とが困難な場合は、(77)式の算出結果を、過給時圧力差項MRSOLPTのマップとしてエンジンコントローラ31のメモリに予め記憶しておき、不活性ガスの比熱比SHEATRと吸気排気圧力比PINBYEXとからそのマップを検索することにより求めてもよい。
ここで、(78)式の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp3は負の値とすることで、オーバーラップ中に吸気系から排気系へ吹き抜ける混合気のガス流量を表すことができる。
ここで、(79)式の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp4も、MRESOLtmp3と同様、負の値とすることで、オーバーラップ中に吸気側から排気側へ吹き抜ける混合気のガス流量を表すことができる。
/(NRPM×360)…(80)
このようにしてオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLの算出を終了したら図35に戻り、ステップ63において排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLと、このオーバーラップ中吹き返しガス量MRESOLとを加算して、つまり次式により不活性ガス量MRESを算出する。
前述のように、過給有り時にはオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量(MRESOLtmp3、MRESOLtmp4)が負となるため、上記(80)式のオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLも負となり、このとき(81)式によれば、オーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLの分だけ不活性ガス量が減じられる。
/{MRES+MACYL×(1+TFBYA/14.7)}…(82)
これで不活性ガス率MRESFRの算出を総て終了する。
気化未燃排出分の区間;平均流速Vc=V2×#KIL…(84)
ここで、#KIV、#KILは定数である。
c)吸気弁15が開くことによって不活性ガスが吸気マニホールド3へと逆流して吸気と混合し、吸気の温度は不活性ガスと吸気との混合ガスの温度へと上昇し、この混合ガスが再び吸気ポート4より燃焼室5へと流入する。
ただし、Pa0;大気圧力、
κ;空気の比熱比(標準状態(20℃、1気圧)で1.4)、
(85)式右辺は吸気絞り弁23の開度が小さくなると、吸気絞り弁23の通過時に吸気がチョークして断熱膨張変化するので、この断熱膨張変化により低下する吸気温度を可逆断熱変化の式を用いて算出するようにしたものである。
ただし、K11;係数、
(86)式は吸気絞り弁23の氷結防止用温水配管を流れる冷却水と吸気との間で熱伝導が行われ、吸気が冷却水より熱を受けると温度上昇し、この逆に吸気が冷却水により吸熱されると温度低下するので、これをモデル式で表したものである。
^(SHEATR−1)/SHEATR…(87)
(87)式は上記(85)式と基本的に同じモデル式である。
/(CA×MACYL+CRES×MRES)…(88)
ただし、CA;吸気の比熱、
CRES;不活性ガスの比熱、
(88)式は吸気と不活性ガスとの混合温度を求めるものである。
ただし、K12;係数、
(89)式は基本的に上記(86)式と同じである。すなわち、(89)式は吸気ポート4付近のウォータジャケットを流れる冷却水と混合ガスとの間で熱伝導が行われ、混合ガスが冷却水より熱を受けると温度上昇し、この逆に混合ガスが冷却水により吸熱されると温度低下するので、これをモデル式で表したものである。
^(MIXAIRSHR−1)/MIXAIRSHR…(90)
吸気ポート4を通過する際に急加速時には混合ガスが断熱圧縮されて(90)式右辺のPCYL/PCOLが1より小さくなり、この逆に急減速時には混合ガスが断熱膨張して(90)式右辺のPCYL/PCOLが1より大きくなる。この結果、急加速時にTa42はTa41より高くなり、この逆に急減速時にTa42はTa41より低くなる。
^(MIXAIRSHR−1)/MIXAIRSHR…(91)
これは、吸気弁作動角可変機構27を備えるエンジンでは、特に低リフト量時に吸気弁15により混合ガスがチョークすることに対応するものである。
+(Twall2−Ta4)×Kwall2…(92)
ただし、Kwall1、Kwall2;定数、
(92)式も基本的に上記(85)式と同じである。すなわち、(92)式は燃焼室5内の壁面と混合ガスとの間で熱伝導が行われ、混合ガスが燃焼室5内の壁面より熱を受けると温度上昇し、この逆に混合ガスが燃焼室5内の壁面により吸熱されると温度低下するので、これをモデル式で表したものである。
第2実施形態(請求項12に記載の発明)によれば、吸気絞り弁23の通過時に吸気がチョークして断熱膨張変化するときには、この断熱膨張変化により低下する吸気温度Ta1を上記(85)式に示した可逆断熱変化の式を用いて算出し、この吸気温度Ta1を燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける温度TINIとすることで、吸気絞り弁23の通過時に吸気がチョークして断熱膨張変化するときにも、精度よく燃焼室の吸気弁閉時期における温度TINIを求めることができる。
第2実施形態(請求項13に記載の発明)によれば、吸気絞り弁の氷結防止用温水配管を設けている場合に、上記(86)式によりこの温水配管を流れる冷却水との間で熱伝導が行われる分だけ吸気温度Ta1(またはTa0)を補正し、この補正後の吸気温度Ta2を燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIとすることで、吸気絞り弁23の氷結防止用温水配管を設けている場合にも、精度よく燃焼室の吸気弁閉時期における温度TINIを求めることができる。
第2実施形態(請求項14に記載の発明)によれば、上記(88)式により不活性ガスと吸気との混合ガスの温度Ta3を算出し、この混合ガス温度Ta3を燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIとすることで、吸気弁15が開くことによって不活性ガスが吸気マニホールド3へと逆流して吸気と混合するのに対応して、精度よく燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIを求めることができる。
第2実施形態(請求項15に記載の発明)によれば、上記(89)式により吸気ポート4通過時に吸気ポート4周囲のウォータジャケットを流れる冷却水との間で熱伝導が行われる分だけ混合ガス温度Ta3(またはTa2、Ta1、Ta0)を補正し、この補正後の混合ガス温度Ta41を燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIとするので、吸気ポート4通過時に吸気ポート4周囲のウォータジャケットを流れる冷却水との間で熱伝導が行われる場合にも、精度よく燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIを求めることができる。
第2実施形態(請求項16に記載の発明)によれば、上記(90)式により過渡時には混合ガス温度Ta41(またはTa3、Ta2、Ta1、Ta0)から温度変化して燃焼室5へと流入する混合ガス温度Ta42を算出し、この混合ガス温度Ta42を燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIとすることで、過渡時に混合ガスが温度変化して燃焼室5へと流入する場合にも、精度よく燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIを求めることができる。
第2実施形態(請求項17に記載の発明)によれば、吸気弁15の通過時に混合ガスがチョークして断熱膨張変化するときには、この断熱膨張変化により低下する混合ガス温度Ta4を上記(91)式に示す可逆断熱変化の式を用いて算出し、この混合ガス温度Ta4を燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける温度TINIとすることで、吸気弁15の通過時に混合ガスがチョークして断熱変化するときにも、精度よく燃焼室の吸気弁閉時期における温度TINIを求めることができる。
第2実施形態(請求項18に記載の発明)によれば、上記(92)式により吸気弁閉弁時期に混合ガスと燃焼室5内の壁面(燃焼室壁とシリンダ面壁52)との間で熱伝導が行われる分だけ混合ガス温度Ta4(またはTa42、Ta41、Ta3、Ta2、Ta1、Ta0)を補正し、この補正後の混合ガス温度Ta5を燃焼室の吸気弁閉時期における温度TINIとすることで、吸気弁閉弁時期に混合ガスと燃焼室5内の壁面との間で熱伝導が行われる場合にも、精度よく燃焼室の吸気弁閉時期における温度TINIを求めることができる。
21 燃料噴射弁
31 エンジンコントローラ
33、34 クランク角センサ
43 温度センサ(実効温度推定手段)
44 圧力センサ(実効圧力推定手段)
45 温度センサ(実効温度推定手段)
46 圧力センサ(実効圧力推定手段)
47 温度センサ
48 圧力センサ
49 圧力センサ
Claims (18)
- 吸気ポート内または燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
この燃料噴射弁から噴射される噴霧が燃焼室内の壁面に付着して形成される壁流燃料の蒸発に関わる基本特性と、
1サイクル中の所定区間での前記蒸発に寄与する実効温度を推定する実効温度推定手段と、
1サイクル中の所定区間での前記蒸発に寄与する実効圧力を推定する実効圧力推定手段と
を有し、
この実効温度または実効圧力から前記基本特性を用いて燃焼室内に形成される前記壁流燃料からの1サイクル中の所定区間での蒸発量または蒸発率を算出する量・率算出手段と、
この算出された蒸発量または蒸発率を用いて前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を算出する燃料噴射量算出手段と
を備えることを特徴とするエンジンの燃料噴射量制御装置。 - 前記燃焼室内に形成される壁流燃料からの蒸発量または蒸発率が、点火による燃焼までの間に蒸発して燃焼に寄与する蒸発量または蒸発率である場合に、前記1サイクル中の所定区間は吸気終了から燃焼までの区間であることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 前記前記壁流燃料からの蒸発量または蒸発率が、燃焼が完了してから蒸発し燃焼に寄与せずに排気行程で排出される蒸発量または蒸発率である場合に、前記1サイクル中の所定区間は燃焼から排気終了までの区間であることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 燃焼室の前記吸気終了から燃焼までの区間での実効温度は燃焼室の吸気弁閉時期における温度と燃焼室の燃焼時における最高温度との重み付け平均値であり、燃焼室の前記吸気終了から燃焼までの区間での実効圧力は燃焼室の吸気弁閉時期における圧力と燃焼室の燃焼時における最高圧力との重み付け平均値であることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 燃焼室の前記燃焼から排気終了までの区間での実効温度は燃焼室の燃焼時における最高温度と燃焼室の排気弁閉時期における温度との重み付け平均値であり、燃焼室の前記燃焼から排気終了までの区間での実効圧力は燃焼室の燃焼時における最高圧力と燃焼室の排気弁閉時期における圧力との重み付け平均値であることを特徴とする請求項3に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 燃焼室の前記燃焼時における最高温度は、燃焼により発生した総熱量が燃焼室内のガスを暖めた際の温度上昇代を吸気弁閉時期からの断熱圧縮変化後の温度に加算した値であることを特徴とする請求項3または5に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 燃焼室の前記燃焼時における最高温度、前記吸気弁閉時期からの断熱圧縮変化後の温度及び前記吸気弁閉時期からの断熱圧縮変化後の圧力より前記断熱圧縮変化後の燃焼を定容燃焼であると仮定したモデルを用いて前記燃焼室の燃焼時における最高圧力を算出することを特徴とする請求項6に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 燃焼室の吸気弁閉時期における温度から燃焼室内のガスが断熱圧縮されると仮定したモデルを用いて前記断熱圧縮後の温度を算出することを特徴とする請求項7に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 燃焼室の吸気弁閉時期における圧力から燃焼室内のガスが断熱圧縮されると仮定したモデルを用いて前記断熱圧縮変化後の圧力を算出することを特徴とする請求項7に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- コレクタ内温度を検出する手段と、
排気温度を検出する手段と、
不活性ガス率を推定する手段と備え、
燃焼室の前記吸気弁閉時期における温度を、これらコレクタ内温度、排気温度及び不活性ガス率に基づいて算出することを特徴とする請求項8または9に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。 - 吸気絞り弁上流の吸気温度を検出する手段を備え、
燃焼室の前記吸気弁閉時期における温度をこの吸気絞り弁上流の吸気温度に基づいて算出することを特徴とする請求項8または9に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。 - 前記吸気絞り弁の通過時に吸気がチョークして断熱膨張変化するときには、この断熱膨張変化により低下する吸気温度を熱力学の断熱変化の式を用いて算出し、この吸気温度を燃焼室の前記吸気弁閉時期における温度とすることを特徴とする請求項11に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 前記吸気絞り弁の氷結防止用温水配管を設けている場合に、この温水配管を流れる冷却水との間で熱伝導が行われる分だけ前記吸気温度を補正し、この補正後の吸気温度を燃焼室の前記吸気弁閉時期における温度とすることを特徴とする請求項11に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 吸気弁が開くことによって燃焼室内の不活性ガスが吸気マニホールドへと逆流して吸気と混合するときには、この不活性ガスと吸気との混合ガスの温度を算出し、この混合ガス温度を燃焼室の前記吸気弁閉時期における温度とすることを特徴とする請求項11から13までのいずれか一つに記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 吸気ポート通過時に吸気ポート周囲の配管を流れる冷却水との間で熱伝導が行われる分だけ前記混合ガス温度を補正し、この補正後の混合ガス温度を燃焼室の前記吸気弁閉時期における温度とすることを特徴とする請求項14に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 過渡時には前記補正後の混合ガス温度から温度変化して燃焼室へと流入する混合ガス温度を算出し、この混合ガス温度を燃焼室の前記吸気弁閉時期における温度とすることを特徴とする請求項15に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 吸気弁の通過時に混合ガスがチョークして断熱膨張変化するときには、この断熱膨張変化により低下する混合ガス温度を熱力学の断熱変化の式を用いて算出し、この混合ガス温度を燃焼室の前記吸気弁閉時期における温度とすることを特徴とする請求項15に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
- 吸気弁閉弁時期に混合ガスと燃焼室内の壁面との間で熱伝導が行われる分だけ前記混合ガス温度を補正し、この補正後の混合ガス温度を燃焼室の前記吸気弁閉時期における温度とすることを特徴とする請求項16または17に記載のエンジンの燃料噴射量制御装置。
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