JP2005043385A - 触覚ディスプレイおよび触覚提示方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】触覚ディスプレイにおいて、安定的な触覚提示や装置の小型化、集積化は困難であった。
【解決手段】触覚ディスプレイ1において、人間の皮膚8が接触すべき基盤2表面に複数の開口状の気孔部3を設け、それぞれの底部と導管部5を介して連通する複数の調圧部4を設ける。各調圧部4は、制御信号線6を通じて制御部7によって制御される。調圧部4が気孔部3の内圧を負圧に変動させることにより、基盤2表面における皮膚8に擬似的な圧覚の触感を提示する。
【選択図】 図1
【解決手段】触覚ディスプレイ1において、人間の皮膚8が接触すべき基盤2表面に複数の開口状の気孔部3を設け、それぞれの底部と導管部5を介して連通する複数の調圧部4を設ける。各調圧部4は、制御信号線6を通じて制御部7によって制御される。調圧部4が気孔部3の内圧を負圧に変動させることにより、基盤2表面における皮膚8に擬似的な圧覚の触感を提示する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、触覚ディスプレイおよび触覚提供方法に関し、特に視覚障害者支援、医療、コンピュータインタフェース、バーチャルリアリティ、アミューズメント、設計支援の分野において触覚提示装置を応用する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、人間の皮膚に対して人工的な変形を与えて触覚を誘起する触覚提示に関し、様々な手法が提案されている。例えば、ピン状の刺激素子などの固体アクチュエータを二次元的に多数配置し、その上下動により皮膚へ直接接触させて触感を提示する技術(例えば、非特許文献1、2参照。)や、ピストンの駆動やゴム膜の変形を空気噴射で制御することにより触感を提示する技術(例えば、非特許文献3参照。)が知られている。これらの技術によれば、触覚によって視聴覚を補う情報を伝達することができ、また仮想的な物体に触れているかのように体感させることもできる。
【0003】
【非特許文献1】
小林,池井,福田,「3次元空間における触覚提示システム」,日本バーチャルリアリティ学会第4回大会論文集,1999年,p.455−458
【非特許文献2】
Mシモジョウ(M.Shimojo),Mシノハラ(M.Shinohara),Yフクイ(Y.Fukui),「シェイプ・アイデンティフィケーション・パフォーマンス・アンド・ピンマトリックス・デンシティ・イン・ア・スリー・ディメンショナル・タクタイル・ディスプレイ(Shape Identification Performance and Pinmatrix Density in a 3 dimensional Tactile Display)」,VRAIS ’97,1997年,p.180−187
【非特許文献3】
雨宮,田中,篠原,「空気噴流を用いた指先装着型触覚ディスプレイ」,日本バーチャルリアリティ学会第4回大会論文集,1999年,p.41−44
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ピン状刺激素子の場合、皮膚と刺激素子との接触状態を一定に保つのは困難であり、安定的に刺激を提示できない問題がある。これは、刺激素子に手を強く押し当てた場合と軽く乗せた程度の場合とで刺激の感じ方が異なることに起因する。また、皮膚とアクチュエータの間で交互に発生する接触と非接触に関して接触瞬間の圧力を制御するのは困難であり、しかも小型アクチュエータは集積化が困難であるという問題もあった。
【0005】
一方、空気噴射の場合、発生する気流が触感提示に悪影響を及ぼし、また大容量のコンプレッサーを設ける必要があるなどの問題があった。さらに、ピン状刺激素子と同様、集積化が困難という問題もあった。
【0006】
これら従来の技術では、点字情報の伝達や、仮想物体との接触の有無、対象物の弾性的な性質の部分的な提示などは可能であったものの、提示可能な触感覚の種類は必ずしも多くなかった。
【0007】
本発明者は以上の認識に基づき本発明をなしたもので、その目的は、皮膚に多様な触感を安定的に提示可能な触覚ディスプレイおよび触覚提供方法を実現することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のある態様は、触覚ディスプレイである。この触覚ディスプレイは、皮膚表面と接触すべき基盤表面に開口状の気孔部を設け、その気孔部の内圧を負圧に変動させることにより基盤表面において疑似的な圧覚の触感を生成する。
【0009】
ここで「負圧」は、気圧などの圧力が周囲より低い状態を示すが、これは気孔部内の空気が吸引されるという物理的現象が認識される程度で足りる。本態様によれば、気孔部内の空気を吸引すると基盤表面に接触する皮膚の一部が吸引され、その感覚が擬似的な圧覚として認識される。これにより、より簡易な構成で安定的に触感を提示することができる。
【0010】
本発明の別の態様もまた、触覚ディスプレイである。この触覚ディスプレイは、皮膚表面と接触すべき基盤と、基盤表面において開口する気孔部と、気孔部の内圧を負圧に変動させる調圧部と、調圧部および気孔部を連通する導管部と、を有する。調圧部は、内圧の変動により基盤表面において疑似的な圧覚の触感を生成する。
【0011】
本態様によれば、気孔部の内圧は導管部を通じて調圧部によって負圧に制御される。この導管部は長く形成させることもできるので、調圧部から分離した基盤の小型化、集積化が容易である。また、基盤表面近傍には機械的な駆動部を用いていないので、圧力などを容易かつ柔軟に制御できる。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、触覚提示方法である。この方法は、皮膚表面と接触すべき基盤表面にて開口状に設けられた気孔部の内圧を負圧に変動させることにより、基盤表面において疑似的な圧覚の触感を生成する。
【0013】
本態様によれば、気孔部内の空気を吸引すると基盤表面に接触する皮膚の一部が吸引され、その感覚が擬似的な圧覚として認識される。これにより、より簡易な方法で安定的に触感を提示することができる。
【0014】
なお、本発明の表現を装置、方法、システムまたはプログラムの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【0015】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
本実施の形態においては、吸引圧を用いた触覚提示方法とその方法を利用した触覚ディスプレイを提案する。具体的には、孔の開いた基盤に皮膚を密着させ、その孔より空気を吸引することによって擬似的な圧覚を提示する。この場合、圧力制御によって一定の力を維持でき、かつ、吸引により皮膚と刺激提示面との接触を安定的に保つことができる。また、空気を吸引するチューブを長くして他の場所へ引き回せば、触覚ディスプレイ自体の小型化、集積化も容易である。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態1に係る触覚ディスプレイの構成を模式的に示す。触覚ディスプレイ1は、基盤2と、複数の調圧部4と、複数の導管部5と、複数の制御信号線6と、制御部7と、を含む。基盤2は、人間の皮膚8と接触する部材である。基盤2の内部には、シリンダ状に形成され基盤2の表面に開口する複数の気孔部3が設けられている。気孔部3を含む基盤2は、容易に変形しないほどの硬さをもった金属や樹脂などの部材で形成される。気孔部3同士の間隔は、接触の対象とする人間の皮膚8に応じて定まる二点弁別閾に基づく距離である。例えば、手の指を接触の対象とする場合は、約2mm間隔の解像度にしてもよい。二点弁別域に関しては後述する。複数の気孔部3における開口部分の直径は、必ずしも一様でなくてもよい。
【0017】
複数の導管部5は、複数の気孔部3の底部と複数の調圧部4とが連通するようそれぞれを結合するチューブ部材である。複数の調圧部4は、空気9bを吸引して複数の気孔部3の内圧をそれぞれ負圧に変動させる吸引ポンプである。制御部7は、複数の制御信号線6を介して複数の調圧部4を電気的に制御する。9aは外気である。
【0018】
気孔部3の容積をVとし、その内圧をPとすると、VとPはボイルの法則により、P×V=一定の関係が成立する。したがって、気孔部3の内圧低下により、気孔部3自体は変形しないので、気孔部3の開口位置に接触する皮膚8の一部がその弾性によって気孔部3の内部へと引き込まれる。このとき、気孔部3の開口部分周囲の縁が皮膚8に食い込むことにより、擬似的な圧覚の触感が誘起される。
【0019】
制御部7は、複数の調圧部4を個別に制御するためにそれぞれに対する駆動信号を生成する。この場合、制御部7は任意の時間パターンで皮膚8に力が加わるよう駆動信号を生成してもよいし、複数の気孔部3の内圧がそれぞれ異なる気圧になるよう駆動信号を生成してもよい。このように各調圧部4を独立に駆動および制御することにより、多様な触感を提示することができる。制御部7は、気孔部3の内圧を負圧側に保ったまま、その内圧を増減させる駆動信号を生成してもよい。この場合、皮膚8に振動を与えることができる。
【0020】
本実施の形態によれば、皮膚8が不用意な動きをしても気孔部3の内圧が負圧になっているので容易に皮膚8と基盤2の間に隙間が生じてしまうこともなく、また仮に隙間が生じたとしてもすぐに気孔部3側へ皮膚8が吸引され基盤2表面に密着する。これにより、安定的に刺激を提供し続けることができる。
【0021】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、気孔部3の開口部分周辺の硬さを電気的な制御によって自在に変えられる点で、本発明の実施の形態1と異なる。図2は、本発明の実施の形態2における触覚ディスプレイの断面を模式的に示す。図3は、基盤2を上方から見た平面図である。基盤2の表面において、気孔部3の開口部分周囲に変動部材10の層が設けられている。変動部材10は、磁気粘性流体である。
制御端子11はコイルであり、制御信号線13を介して制御部12から電圧が印加されると、変動部材10に対して磁界を発生する。変動部材10は、制御端子11から加えられる磁界によってその粘性が制御される。気孔部3の内圧が一定にされている場合であっても、変動部材10の硬さを変えることによって気孔部3の開口部分の縁に皮膚8が食い込む度合いを制御することができる。したがって、皮膚8への刺激をより詳細に制御することができる。
【0022】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、変動部材の材料が実施の形態2と異なる。他の構成は実施の形態2と同様である。図2、3における変動部材10は電気粘性流体であり、制御端子11は電極である。変動部材10は、制御信号線13および制御端子11を介して制御部12により粘性が制御される。これにより、実施の形態2と同様に気孔部3の内圧が一定にされている場合であっても、変動部材10の硬さを変えることによって気孔部3の開口部分の縁に皮膚8が食い込む度合いを制御することができる。したがって、皮膚8への刺激をより詳細に制御することができる。
【0023】
(考察)
以下、本発明の実施の形態を実現するために利用される原理について以下考察する。
【0024】
1.吸引圧制御による刺激提示
手掌部に対して2自由度の刺激を提示できるユニットを二点弁別閾の解像度で並べることにより、皮膚を変形させることによる様々な触感を提示することができる。一見、手掌部に二点弁別閾の解像度でユニットを配置するというと、非常に密に刺激ユニットを並べる必要がありそうに思える。また、刺激の自由度も2つでは不十分に思える。しかし人間の神経生理学的特性と、触覚受容器の特性、配置密度等に着目すると、手掌部であれば2自由度の刺激を約1cm間隔で配置すれば十分であると見積もることができる。
こうした現象に関し、どのようにして圧覚が生じるのかを有限要素法を用いた解析結果に基づいて説明する。
【0025】
1.1 吸引圧制御刺激の感覚
10人の被験者に対して、サイズの異なる種類の孔に手掌部を接触させる吸引刺激を与えたところ、被験者は概ね次のような感覚を得た。
大きいサイズ:鉛筆の後ろのゴムで押す、ガラスの攪拌棒で突く
小さいサイズ:針がチクっと刺さる、シャーペンの先で突く
その他、ピリピリまたはチクチクと感じた被験者が1名いたが、残りの被験者は、下から何かがせり出してくる感覚であった。(孔のサイズなど厳密な値は後述する。ここでは吸引刺激によりどのような感覚が生じるかについて定性的に触れる。)
【0026】
1.2 有限要素法による解析
図4は、有限要素法による指先モデルを示す。触感と皮膚変形との関係を、有限要素法を用いて解析した論文として前野らの研究(「ヒト指腹部構造と触覚受容器位置の力学的関係」,日本機械学会論文集(C編),63巻,607号,p.881−888,1997年)が知られている。これを参考に以下の物性値を用い指先の断面を表皮、真皮、皮下組織の層に分け、骨と爪の部分で完全拘束されているとして本図のようにモデル化した。
・ヤング率
表皮 1.36×105Pa(1.4×10−2kgf/mm2)
真皮 8.0×104Pa(8.2×10−3kgf/mm2)
皮下組織 3.4×104Pa(3.5×10−3kgf/mm2)
・ポアソン比:0.48
【0027】
本解析の目的は、吸引圧制御による刺激と、実際に同程度のサイズの棒を押し当てた際の応力、歪みエネルギーの分布を比較することにより、吸引刺激で圧覚が提示される理由を解明することである。
【0028】
今回の吸引刺激は、実際に感じる圧力を測定した結果より、10kPa(1gf/mm2)の力で、幅1.5mm吸引する刺激を想定した。一方、押し込み刺激は1gfの力で同様に幅1.5mm押し込んだ刺激で解析した。吸引の時には刺激提示面に皮膚を接触させることを想定しているので、吸引において刺激部分以外の基盤との接触面を、鉛直方向のみ拘束した。
【0029】
1.3 解析結果
主応力分布
図5は、主応力の分布の接触部を拡大した図である。上図は吸引刺激の場合であり、下図は押し込み刺激の場合である。上図の吸引刺激の場合、開口部の上方に表されている略放射状の線は膨張方向に応力が生じていることを示す。下図の押し込み刺激の場合、押し込み部材の上方に表されている略放射状の線は圧縮方向の応力を示す。この結果、吸引と押し込みとではその応力の方向がほぼ逆向きとなることが分かる。また、吸引刺激では、吸引部と基盤部との境界で応力の方向が反転していることも分かる。
【0030】
歪みエネルギー
図6は、歪みエネルギー分布を拡大した図である。上図は吸引刺激の場合であり、下図は押し込み刺激の場合である。吸引刺激の場合、歪みエネルギーが表層に局在しているのに対し、押し込み刺激の場合、深層部まで歪みエネルギーが伝わっていることが本図から分かる。また、吸引刺激の場合、歪みエネルギー値の大きな部位が吸引口のエッジの部分に集中していることも分かる。ここで、上述の応力の方向が反転していることと併せて考えると、吸引刺激と呼んでいるが、実際には吸引することによりエッジが皮膚に押し込まれ、圧覚を感じているということを示している。
【0031】
図7は、受容器近傍の歪みエネルギー分布を示す。左図は吸引刺激の場合であり、右図は押し込み刺激の場合である。本図では、皮膚表層の触覚を感じる受容器(2.2節参照)の近傍における歪みエネルギーの分布に着目しており、この図から、吸引刺激と押し込み刺激でほぼ同じ分布を形成していることが分かる。
【0032】
以上の解析結果より導き出される結論は以下の通りである。
1)吸引によりエッジが皮膚に押し込まれて圧覚を生じる。
2)歪みエネルギー分布を大局的に比較すると、吸引刺激は皮膚表層のみに局在し、押し込み刺激は皮膚深部まで伝達されているという違いがあるが、表層受容器近傍にのみ着目すると、ほぼ同じ分布を形成している。
【0033】
上記1)、2)より導き出される結論は、触覚受容器は応力の方向には感度がなく、歪みエネルギーに感度がある、ということである。この結果は、受容器の構造に着目してその振動モードを解析した奈良らの研究(「触覚情報処理の理論及びその触覚ディスプレイへの応用」,東京大学大学院博士論文,2000年)によって得られた知見とも一致する。
【0034】
1.4 吸引圧ディスプレイの特徴
この吸引圧制御によるディスプレイの利点を考えてみる。
まず、安定した刺激を提示可能であるという点が挙げられる。これは吸引することにより、常に皮膚を刺激提示面に引きつけようとする力が生じるからである。
次に小型化、集積化が容易であるという点である。これは導管部(チューブ)を伸ばすことにより、調圧部(ポンプ)と基盤(刺激提示部)を分離することができるからである。
【0035】
2 触覚の空間解像度
二点弁別閾と、触覚に関わる機械受容器、の2項目について説明する。そしてそれら知見をもとに、触覚の空間解像度に関する仮説を解説する。
【0036】
2.1 二点弁別閾
図8は、人体の各部位における二点弁別閾をグラフで示す(東條,「皮膚触覚の解像度に関する研究」,東京農工大学大学院修士論文,2002年)。二点弁別閾の測定は、古くから行われてきた触覚解像度に関する研究の1つである。二点弁別閾とは、2つの点を同時に皮膚に接触させたときに、それが2点であると識別できる最小の距離である。指先における二点弁別閾は約2mmであるのに対し、手掌部では約10mm、背中では数cmなど、部位により大きく異なる。
【0037】
触覚ディスプレイにおいて複数の刺激素子を平面上に配置する場合、刺激素子同士の間隔は少なくとも二点弁別閾の細かさが保たれる必要がある。この間隔を二点弁別閾以上に粗くすると、人間が独立に識別できる最小間隔の2つの点を提示できなくなるからである。しかし仮にこの間隔でピンを2次元的にアレイ状に配置しても、布や木肌等の手触りを提示することは不可能である。すなわち、人間は数ミクロン単位の突起や、尖ったものと丸いものの違いといった二点弁別閾以下の特徴を瞬時に識別できるからである。この一見矛盾した特性が、これまで触覚の解像度を正しく見積もることを困難にしていた。
【0038】
そこで、刺激の自由度という考え方を導入し、矛盾の解決を試みた。すなわち、ピンアレイで任意の触感を提示できない理由は、「刺激の自由度がピンという1自由度だけでは不十分である。」と考えた。二点弁別閾以下のサイズの刺激に対して、どれだけ独立な成分が必要かについては、触覚に関与する機械受容器の特性とその配置密度が関係する。
【0039】
2.2 機械受容器
図9は、ヒトの無毛部における皮膚構造を示す(RSヨハンソン(R.S.Johansson),ABヴァルボ(A.B.Vallbo),「タクタイル・センサリ・コーディング・イン・ザ・グレイブラス・スキン・オブ・ザ・ヒューマン・ハンド(Tactile Sensory Coding in the Glabrous Skin of the Human Hand)」,TINS,p.27−32,1983年)。触覚に関係する機械受容器は4種類存在する。表皮と真皮の境界辺りの、比較的表面に近いところに位置するマイスナ小体とメルケル細胞、そして皮膚の深部に位置するルフィニ終末とパチニ小体の4つである。
【0040】
図10は、各受容器の配置密度を示す(RFシュミット(R.F.Schmidt),岩村吉昇 他,「感覚生理学(Fundamentals of Sensory Physiology)」,金芳堂,p.46,1986年)。本図により分かることは、表層受容器は高密度で配置されている一方で、深部受容器はその受容野が大きく、配置密度が低いということである。この点を考慮すると2.1で触れた二点弁別閾以下の特徴を識別できるという特性には、表層の2つの受容器のみが関与していると考えられる。深部の2受容器ではその受容野が広く、二点弁別閾以下の細かな特徴に感度があるとは考えにくいからである。
【0041】
2.3 空間解像度に関する仮説
2.1および2.2で得られた知見は以下の2点である。
1)任意の触感の提示には少なくとも二点弁別閾の細かさが必要
2)4つの機械受容器のうち二点弁別閾程度の密度で配置されているのは表層の2受容器
【0042】
まず1)より触覚の提示に最低限必要な解像度は二点弁別閾であるとして、その間隔で刺激提示ユニットを配置することを前提にする。そのとき1ユニットごとにどれだけの自由度を提示する必要があるかを考える。1本の求心神経が伝達する情報は神経発火パルスの頻度に置き換えられるので、神経線維ごとに伝達できる情報はパルス頻度1自由度であることが分かる。ここで2)を考慮に入れると二点弁別閾以下の刺激を見分けているのは、マイスナ小体とメルケル細胞という表層の2受容器のみであるから、各受容器の取得する自由度の刺激情報で十分であると考えられる。以上により以下の仮説が導き出される。
【0043】
「仮説」:皮膚表層が知覚する触感は、2つの表層機械受容器を選択的に刺激する2自由度の刺激を、二点弁別閾の解像度で提示することで再現可能である。
ここで問題となるのは、2つの機械受容器を選択的に刺激する2自由度の刺激としてどのような刺激を用いればよいかということである。
【0044】
図11は、刺激の曲率に着目し、曲率0の極限である平面と、曲率∞の点荷重という2種類の刺激で行った実験を示す(東條,「皮膚触覚の解像度に関する研究」,東京農工大学大学院修士論文,2002年)。
この2種類の刺激は、
1)二点弁別閾以下でも十分識別可能である。
2)マイスナ小体とメルケル細胞は、それぞれの構造上の特徴および神経生理理実験による知見によって、点荷重による刺激をマイスナ小体が、平面荷重による刺激をメルケル細胞が選択的に反応すると考えられる。
以上の2点から、この2自由度の刺激は上記の仮説を満たす刺激として妥当であると考えられる。本発明者らは、この2自由度の刺激を同時に提示することで中間の曲率の刺激を提示できると考え、その検証実験を行っている。この2自由度の刺激を用い、2自由度の刺激の組み合わせで任意の曲率を提示することを考える。なお、図中で用いられるS1は平面刺激を、S2は点荷重刺激をそれぞれ意味する。
【0045】
2.4 先行研究の問題点
上記の仮説を検証するために、いくつかの刺激提示法を用いて先行実験が行われてきた。本発明者らは、以前、超音波モータを用い、その回転により垂直方向の変位を制御するという提示法を用いた。この手法の問題点は、モータによって制御できるのは回転数、つまりは変位であるという点である。これにより皮膚を提示面に強く押し付けたときと、軽く乗せたときとでは感じ方が異なってしまう。この問題点を解消するために、圧力制御で一定の力を提示できないかという考えをもとに、次にシリンジによる圧力制御を用いて試作された。このシステムはピストンを二重構造にすることで2自由度の刺激を独立に圧力制御できるシステムになっている。しかし、ピストン駆動部で摩擦や、空気の漏れなどが生じ、安定して刺激を提示することができず、必ずしも期待通りの結果は得られなかった。
【0046】
以上、先行研究における問題点より導き出される要求は、「圧力制御により、より安定した刺激を提示できる手法が必要」ということである。そこで今回提案する吸引圧制御による触覚提示方法および触覚ディスプレイを考えると、圧力の制御により常に一定の力で刺激を提示することが可能である。また、空気を吸引することにより、皮膚を刺激提示面に密着させる力が生じ、安定した刺激の提示が可能となっている。
【0047】
3 実験
本刺激手法を用いて2自由度の刺激を提示する装置を試作し、仮説を検証するための心理物理実験を行った結果について述べる。
【0048】
3.1 刺激提示装置の試作
刺激提示部の形状
2自由度の刺激を提示するユニットとして、アクリルを用い同心円状構造の刺激提示面を試作した。図12は、同心円状構造の刺激提示面を示す。
【0049】
まず平面刺激(図11のS1)を提示する外側の部分であるが、エッジが鋭いとその部分が強調され、滑らかな曲率の刺激を得られないので、面取りをし、エッジをなくしてある。次に点荷重刺激(図11のS2)を提示する内側部分であるが、二つの円を重ねたような形状になっている。これは二つの円の接点部分が尖っていることでエッジが強調され、より細く鋭い刺激が提示できるようになっている。また、それぞれのサイズについては、二点弁別閾が手掌部では約10mm程度であることなどを考慮して決定した。
【0050】
実験系
図13は、実験系のブロックを示す。本実験系は大きく3つの部分より構成される。すなわち、定圧源、圧力変換保持部、刺激提示部の3つである。図中右側の定圧源はポンプにより常に一定の圧力に保たれている。しかしポンプが周期的に脈動して吸引するタイプのものであったため、一定圧を保てるようにLPFとして容器を後段に挟んである。次に図中央が圧力変換保持部である。ここではマイクロバルブを50msごとオンオフ切り替えることで、定圧保持用容器内の圧力を所望の値にしている。このようにして減圧された容器に接続されているバルブを開閉することで、2自由度の刺激を提示できるようになっている。図14は、実験系の外観を示す。刺激提示部は本図に示すように、手を安定して提示面に接触させられるようシリコンゴムの台を使っている。
【0051】
3.2 実験方法
本実験では、20〜30代の男性9名、女性1名の被験者に対し、まず左手を刺激提示部に置いてもらいS1のみ、S2のみ、S1+S2という3種類の刺激をランダムに提示した。その後、右手に実際に曲率0.25mm、1.0mm、5.0mmの刺激(提示部のサイズはそれぞれ0.5mm、2.0mm、5.0mm)を接触させ、どちらの方が鋭いか、あるいは同じ鋭さかを比較してもらった。これにより吸引刺激の鋭さが、0.25mmより小さい、0.25mm程度、0.25mmと1.0mmの中間、1.0mm程度、1.0mmと5.0mmの中間、5.0mm程度、5.0mmより大きい、という7段階に分類することができる。各刺激をランダムに5回ずつ提示し、評価が7段階のどこに対応するかを見た。この刺激の際、よく感じる圧力を経験的に選びその値で刺激を行った。各値は、S1のみ:−90kPa、S2のみ:−90kPa、S1+S2:−60kPa、−90kPaである。
【0052】
3.3 結果と考察
図15は、10名の評価を示す。本図より、S1とS2を同時に提示した際の鋭さの評価が、S1の評価とS2の評価の中間に来ていることは分かるが、それほど明確に差が出ているとは言いがたい。しかし一方で、試験終了後に何種類の刺激があったかという質問をした際には、3種類と答えた被験者が過半数を超えていた。
【0053】
図16は、吸引圧制御による刺激提示を示す。孔の開いた基盤に皮膚を密着させ、その孔より空気を吸引することにより刺激を提示することができる。
【0054】
図17は、図12に関連して説明した実験方法を示す。本手法では、皮膚を吸引することにより刺激提示面と皮膚とが密着するため、再現性よく圧力を提示することが可能になる。そこで、2自由度の刺激を提示できるような、図17および図12に示すような刺激提示面を試作した。この同心円状の穴において、外側のみを吸引したときが、S1に対応し、内側のみを吸引したときがS2に対応する。そして、両方を同時に吸引することで、その中間の曲率を提示できると考えられる。
【0055】
図18は、皮膚表面の応力分布、皮膚内部の歪エネルギー分布、および実際の感覚を示す。図19は、2つの刺激を組み合わせたときの、皮膚に与える刺激のイメージ図を示す。
【0056】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、実施の形態の組み合わせ、またそれらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、変形例を挙げる。
【0057】
本発明の実施の形態1においては、気孔部を含む基盤は、容易に変形しないほどの硬さをもった金属や樹脂などの部材で形成させた。変形例においては、基盤のうち少なくとも気孔部の開口部分周辺について樹脂などの弾性部材で形成させてもよい。その場合、開口部分の縁が人間の皮膚に接触したときに必要以上の刺激が生じず、適度な刺激に抑えることができる。
【0058】
本発明の各実施の形態においては、基盤の表面を平面で形成したが、変形例においては基盤の表面を曲面で形成してもよい。この場合、例えば手掌部を接触対象とする場合に、基盤と手掌部との密着度が増加する。また、より手掌部に密着しやすい曲率半径で基盤の曲面を設計してもよい。
【0059】
【発明の効果】
本発明によると、様々な触感を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1に係る触覚ディスプレイの構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態2における触覚ディスプレイの断面を模式的に示す図である。
【図3】基盤を上方から見た平面図である。
【図4】有限要素法による指先モデルを示す図である。
【図5】主応力の分布の接触部を拡大した図である。
【図6】歪みエネルギー分布を拡大した図である。
【図7】受容器近傍の歪みエネルギー分布を示す図である。
【図8】人体の各部位における二点弁別閾をグラフで示す図である。
【図9】ヒトの無毛部における皮膚構造を示す図である。
【図10】各受容器の配置密度を示す図である。
【図11】刺激の曲率に着目し、曲率0の極限である平面と、曲率∞の点荷重という2種類の刺激で行った実験を示す図である。
【図12】同心円状構造の刺激提示面を示す図である。
【図13】実験系のブロックを示す図である。
【図14】実験系の外観を示す図である。
【図15】10名の評価を示す図である。
【図16】吸引圧制御による刺激提示を示す図である。
【図17】図12に関連して説明した実験方法を示す図である。
【図18】皮膚表面の応力分布、皮膚内部の歪エネルギー分布、および実際の感覚を示す図である。
【図19】2つの刺激を組み合わせたときの、皮膚に与える刺激のイメージ図を示す図である。
【符号の説明】
1 触覚ディスプレイ、 2 基盤、 3 気孔部、 4 調圧部、 5 導管部、 6 制御信号線、 7 制御部、 8 皮膚、 9 空気、 10 変動部材、 11 制御端子、 12 制御部、 13 制御信号線。
【発明の属する技術分野】
本発明は、触覚ディスプレイおよび触覚提供方法に関し、特に視覚障害者支援、医療、コンピュータインタフェース、バーチャルリアリティ、アミューズメント、設計支援の分野において触覚提示装置を応用する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、人間の皮膚に対して人工的な変形を与えて触覚を誘起する触覚提示に関し、様々な手法が提案されている。例えば、ピン状の刺激素子などの固体アクチュエータを二次元的に多数配置し、その上下動により皮膚へ直接接触させて触感を提示する技術(例えば、非特許文献1、2参照。)や、ピストンの駆動やゴム膜の変形を空気噴射で制御することにより触感を提示する技術(例えば、非特許文献3参照。)が知られている。これらの技術によれば、触覚によって視聴覚を補う情報を伝達することができ、また仮想的な物体に触れているかのように体感させることもできる。
【0003】
【非特許文献1】
小林,池井,福田,「3次元空間における触覚提示システム」,日本バーチャルリアリティ学会第4回大会論文集,1999年,p.455−458
【非特許文献2】
Mシモジョウ(M.Shimojo),Mシノハラ(M.Shinohara),Yフクイ(Y.Fukui),「シェイプ・アイデンティフィケーション・パフォーマンス・アンド・ピンマトリックス・デンシティ・イン・ア・スリー・ディメンショナル・タクタイル・ディスプレイ(Shape Identification Performance and Pinmatrix Density in a 3 dimensional Tactile Display)」,VRAIS ’97,1997年,p.180−187
【非特許文献3】
雨宮,田中,篠原,「空気噴流を用いた指先装着型触覚ディスプレイ」,日本バーチャルリアリティ学会第4回大会論文集,1999年,p.41−44
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ピン状刺激素子の場合、皮膚と刺激素子との接触状態を一定に保つのは困難であり、安定的に刺激を提示できない問題がある。これは、刺激素子に手を強く押し当てた場合と軽く乗せた程度の場合とで刺激の感じ方が異なることに起因する。また、皮膚とアクチュエータの間で交互に発生する接触と非接触に関して接触瞬間の圧力を制御するのは困難であり、しかも小型アクチュエータは集積化が困難であるという問題もあった。
【0005】
一方、空気噴射の場合、発生する気流が触感提示に悪影響を及ぼし、また大容量のコンプレッサーを設ける必要があるなどの問題があった。さらに、ピン状刺激素子と同様、集積化が困難という問題もあった。
【0006】
これら従来の技術では、点字情報の伝達や、仮想物体との接触の有無、対象物の弾性的な性質の部分的な提示などは可能であったものの、提示可能な触感覚の種類は必ずしも多くなかった。
【0007】
本発明者は以上の認識に基づき本発明をなしたもので、その目的は、皮膚に多様な触感を安定的に提示可能な触覚ディスプレイおよび触覚提供方法を実現することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のある態様は、触覚ディスプレイである。この触覚ディスプレイは、皮膚表面と接触すべき基盤表面に開口状の気孔部を設け、その気孔部の内圧を負圧に変動させることにより基盤表面において疑似的な圧覚の触感を生成する。
【0009】
ここで「負圧」は、気圧などの圧力が周囲より低い状態を示すが、これは気孔部内の空気が吸引されるという物理的現象が認識される程度で足りる。本態様によれば、気孔部内の空気を吸引すると基盤表面に接触する皮膚の一部が吸引され、その感覚が擬似的な圧覚として認識される。これにより、より簡易な構成で安定的に触感を提示することができる。
【0010】
本発明の別の態様もまた、触覚ディスプレイである。この触覚ディスプレイは、皮膚表面と接触すべき基盤と、基盤表面において開口する気孔部と、気孔部の内圧を負圧に変動させる調圧部と、調圧部および気孔部を連通する導管部と、を有する。調圧部は、内圧の変動により基盤表面において疑似的な圧覚の触感を生成する。
【0011】
本態様によれば、気孔部の内圧は導管部を通じて調圧部によって負圧に制御される。この導管部は長く形成させることもできるので、調圧部から分離した基盤の小型化、集積化が容易である。また、基盤表面近傍には機械的な駆動部を用いていないので、圧力などを容易かつ柔軟に制御できる。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、触覚提示方法である。この方法は、皮膚表面と接触すべき基盤表面にて開口状に設けられた気孔部の内圧を負圧に変動させることにより、基盤表面において疑似的な圧覚の触感を生成する。
【0013】
本態様によれば、気孔部内の空気を吸引すると基盤表面に接触する皮膚の一部が吸引され、その感覚が擬似的な圧覚として認識される。これにより、より簡易な方法で安定的に触感を提示することができる。
【0014】
なお、本発明の表現を装置、方法、システムまたはプログラムの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【0015】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
本実施の形態においては、吸引圧を用いた触覚提示方法とその方法を利用した触覚ディスプレイを提案する。具体的には、孔の開いた基盤に皮膚を密着させ、その孔より空気を吸引することによって擬似的な圧覚を提示する。この場合、圧力制御によって一定の力を維持でき、かつ、吸引により皮膚と刺激提示面との接触を安定的に保つことができる。また、空気を吸引するチューブを長くして他の場所へ引き回せば、触覚ディスプレイ自体の小型化、集積化も容易である。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態1に係る触覚ディスプレイの構成を模式的に示す。触覚ディスプレイ1は、基盤2と、複数の調圧部4と、複数の導管部5と、複数の制御信号線6と、制御部7と、を含む。基盤2は、人間の皮膚8と接触する部材である。基盤2の内部には、シリンダ状に形成され基盤2の表面に開口する複数の気孔部3が設けられている。気孔部3を含む基盤2は、容易に変形しないほどの硬さをもった金属や樹脂などの部材で形成される。気孔部3同士の間隔は、接触の対象とする人間の皮膚8に応じて定まる二点弁別閾に基づく距離である。例えば、手の指を接触の対象とする場合は、約2mm間隔の解像度にしてもよい。二点弁別域に関しては後述する。複数の気孔部3における開口部分の直径は、必ずしも一様でなくてもよい。
【0017】
複数の導管部5は、複数の気孔部3の底部と複数の調圧部4とが連通するようそれぞれを結合するチューブ部材である。複数の調圧部4は、空気9bを吸引して複数の気孔部3の内圧をそれぞれ負圧に変動させる吸引ポンプである。制御部7は、複数の制御信号線6を介して複数の調圧部4を電気的に制御する。9aは外気である。
【0018】
気孔部3の容積をVとし、その内圧をPとすると、VとPはボイルの法則により、P×V=一定の関係が成立する。したがって、気孔部3の内圧低下により、気孔部3自体は変形しないので、気孔部3の開口位置に接触する皮膚8の一部がその弾性によって気孔部3の内部へと引き込まれる。このとき、気孔部3の開口部分周囲の縁が皮膚8に食い込むことにより、擬似的な圧覚の触感が誘起される。
【0019】
制御部7は、複数の調圧部4を個別に制御するためにそれぞれに対する駆動信号を生成する。この場合、制御部7は任意の時間パターンで皮膚8に力が加わるよう駆動信号を生成してもよいし、複数の気孔部3の内圧がそれぞれ異なる気圧になるよう駆動信号を生成してもよい。このように各調圧部4を独立に駆動および制御することにより、多様な触感を提示することができる。制御部7は、気孔部3の内圧を負圧側に保ったまま、その内圧を増減させる駆動信号を生成してもよい。この場合、皮膚8に振動を与えることができる。
【0020】
本実施の形態によれば、皮膚8が不用意な動きをしても気孔部3の内圧が負圧になっているので容易に皮膚8と基盤2の間に隙間が生じてしまうこともなく、また仮に隙間が生じたとしてもすぐに気孔部3側へ皮膚8が吸引され基盤2表面に密着する。これにより、安定的に刺激を提供し続けることができる。
【0021】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、気孔部3の開口部分周辺の硬さを電気的な制御によって自在に変えられる点で、本発明の実施の形態1と異なる。図2は、本発明の実施の形態2における触覚ディスプレイの断面を模式的に示す。図3は、基盤2を上方から見た平面図である。基盤2の表面において、気孔部3の開口部分周囲に変動部材10の層が設けられている。変動部材10は、磁気粘性流体である。
制御端子11はコイルであり、制御信号線13を介して制御部12から電圧が印加されると、変動部材10に対して磁界を発生する。変動部材10は、制御端子11から加えられる磁界によってその粘性が制御される。気孔部3の内圧が一定にされている場合であっても、変動部材10の硬さを変えることによって気孔部3の開口部分の縁に皮膚8が食い込む度合いを制御することができる。したがって、皮膚8への刺激をより詳細に制御することができる。
【0022】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、変動部材の材料が実施の形態2と異なる。他の構成は実施の形態2と同様である。図2、3における変動部材10は電気粘性流体であり、制御端子11は電極である。変動部材10は、制御信号線13および制御端子11を介して制御部12により粘性が制御される。これにより、実施の形態2と同様に気孔部3の内圧が一定にされている場合であっても、変動部材10の硬さを変えることによって気孔部3の開口部分の縁に皮膚8が食い込む度合いを制御することができる。したがって、皮膚8への刺激をより詳細に制御することができる。
【0023】
(考察)
以下、本発明の実施の形態を実現するために利用される原理について以下考察する。
【0024】
1.吸引圧制御による刺激提示
手掌部に対して2自由度の刺激を提示できるユニットを二点弁別閾の解像度で並べることにより、皮膚を変形させることによる様々な触感を提示することができる。一見、手掌部に二点弁別閾の解像度でユニットを配置するというと、非常に密に刺激ユニットを並べる必要がありそうに思える。また、刺激の自由度も2つでは不十分に思える。しかし人間の神経生理学的特性と、触覚受容器の特性、配置密度等に着目すると、手掌部であれば2自由度の刺激を約1cm間隔で配置すれば十分であると見積もることができる。
こうした現象に関し、どのようにして圧覚が生じるのかを有限要素法を用いた解析結果に基づいて説明する。
【0025】
1.1 吸引圧制御刺激の感覚
10人の被験者に対して、サイズの異なる種類の孔に手掌部を接触させる吸引刺激を与えたところ、被験者は概ね次のような感覚を得た。
大きいサイズ:鉛筆の後ろのゴムで押す、ガラスの攪拌棒で突く
小さいサイズ:針がチクっと刺さる、シャーペンの先で突く
その他、ピリピリまたはチクチクと感じた被験者が1名いたが、残りの被験者は、下から何かがせり出してくる感覚であった。(孔のサイズなど厳密な値は後述する。ここでは吸引刺激によりどのような感覚が生じるかについて定性的に触れる。)
【0026】
1.2 有限要素法による解析
図4は、有限要素法による指先モデルを示す。触感と皮膚変形との関係を、有限要素法を用いて解析した論文として前野らの研究(「ヒト指腹部構造と触覚受容器位置の力学的関係」,日本機械学会論文集(C編),63巻,607号,p.881−888,1997年)が知られている。これを参考に以下の物性値を用い指先の断面を表皮、真皮、皮下組織の層に分け、骨と爪の部分で完全拘束されているとして本図のようにモデル化した。
・ヤング率
表皮 1.36×105Pa(1.4×10−2kgf/mm2)
真皮 8.0×104Pa(8.2×10−3kgf/mm2)
皮下組織 3.4×104Pa(3.5×10−3kgf/mm2)
・ポアソン比:0.48
【0027】
本解析の目的は、吸引圧制御による刺激と、実際に同程度のサイズの棒を押し当てた際の応力、歪みエネルギーの分布を比較することにより、吸引刺激で圧覚が提示される理由を解明することである。
【0028】
今回の吸引刺激は、実際に感じる圧力を測定した結果より、10kPa(1gf/mm2)の力で、幅1.5mm吸引する刺激を想定した。一方、押し込み刺激は1gfの力で同様に幅1.5mm押し込んだ刺激で解析した。吸引の時には刺激提示面に皮膚を接触させることを想定しているので、吸引において刺激部分以外の基盤との接触面を、鉛直方向のみ拘束した。
【0029】
1.3 解析結果
主応力分布
図5は、主応力の分布の接触部を拡大した図である。上図は吸引刺激の場合であり、下図は押し込み刺激の場合である。上図の吸引刺激の場合、開口部の上方に表されている略放射状の線は膨張方向に応力が生じていることを示す。下図の押し込み刺激の場合、押し込み部材の上方に表されている略放射状の線は圧縮方向の応力を示す。この結果、吸引と押し込みとではその応力の方向がほぼ逆向きとなることが分かる。また、吸引刺激では、吸引部と基盤部との境界で応力の方向が反転していることも分かる。
【0030】
歪みエネルギー
図6は、歪みエネルギー分布を拡大した図である。上図は吸引刺激の場合であり、下図は押し込み刺激の場合である。吸引刺激の場合、歪みエネルギーが表層に局在しているのに対し、押し込み刺激の場合、深層部まで歪みエネルギーが伝わっていることが本図から分かる。また、吸引刺激の場合、歪みエネルギー値の大きな部位が吸引口のエッジの部分に集中していることも分かる。ここで、上述の応力の方向が反転していることと併せて考えると、吸引刺激と呼んでいるが、実際には吸引することによりエッジが皮膚に押し込まれ、圧覚を感じているということを示している。
【0031】
図7は、受容器近傍の歪みエネルギー分布を示す。左図は吸引刺激の場合であり、右図は押し込み刺激の場合である。本図では、皮膚表層の触覚を感じる受容器(2.2節参照)の近傍における歪みエネルギーの分布に着目しており、この図から、吸引刺激と押し込み刺激でほぼ同じ分布を形成していることが分かる。
【0032】
以上の解析結果より導き出される結論は以下の通りである。
1)吸引によりエッジが皮膚に押し込まれて圧覚を生じる。
2)歪みエネルギー分布を大局的に比較すると、吸引刺激は皮膚表層のみに局在し、押し込み刺激は皮膚深部まで伝達されているという違いがあるが、表層受容器近傍にのみ着目すると、ほぼ同じ分布を形成している。
【0033】
上記1)、2)より導き出される結論は、触覚受容器は応力の方向には感度がなく、歪みエネルギーに感度がある、ということである。この結果は、受容器の構造に着目してその振動モードを解析した奈良らの研究(「触覚情報処理の理論及びその触覚ディスプレイへの応用」,東京大学大学院博士論文,2000年)によって得られた知見とも一致する。
【0034】
1.4 吸引圧ディスプレイの特徴
この吸引圧制御によるディスプレイの利点を考えてみる。
まず、安定した刺激を提示可能であるという点が挙げられる。これは吸引することにより、常に皮膚を刺激提示面に引きつけようとする力が生じるからである。
次に小型化、集積化が容易であるという点である。これは導管部(チューブ)を伸ばすことにより、調圧部(ポンプ)と基盤(刺激提示部)を分離することができるからである。
【0035】
2 触覚の空間解像度
二点弁別閾と、触覚に関わる機械受容器、の2項目について説明する。そしてそれら知見をもとに、触覚の空間解像度に関する仮説を解説する。
【0036】
2.1 二点弁別閾
図8は、人体の各部位における二点弁別閾をグラフで示す(東條,「皮膚触覚の解像度に関する研究」,東京農工大学大学院修士論文,2002年)。二点弁別閾の測定は、古くから行われてきた触覚解像度に関する研究の1つである。二点弁別閾とは、2つの点を同時に皮膚に接触させたときに、それが2点であると識別できる最小の距離である。指先における二点弁別閾は約2mmであるのに対し、手掌部では約10mm、背中では数cmなど、部位により大きく異なる。
【0037】
触覚ディスプレイにおいて複数の刺激素子を平面上に配置する場合、刺激素子同士の間隔は少なくとも二点弁別閾の細かさが保たれる必要がある。この間隔を二点弁別閾以上に粗くすると、人間が独立に識別できる最小間隔の2つの点を提示できなくなるからである。しかし仮にこの間隔でピンを2次元的にアレイ状に配置しても、布や木肌等の手触りを提示することは不可能である。すなわち、人間は数ミクロン単位の突起や、尖ったものと丸いものの違いといった二点弁別閾以下の特徴を瞬時に識別できるからである。この一見矛盾した特性が、これまで触覚の解像度を正しく見積もることを困難にしていた。
【0038】
そこで、刺激の自由度という考え方を導入し、矛盾の解決を試みた。すなわち、ピンアレイで任意の触感を提示できない理由は、「刺激の自由度がピンという1自由度だけでは不十分である。」と考えた。二点弁別閾以下のサイズの刺激に対して、どれだけ独立な成分が必要かについては、触覚に関与する機械受容器の特性とその配置密度が関係する。
【0039】
2.2 機械受容器
図9は、ヒトの無毛部における皮膚構造を示す(RSヨハンソン(R.S.Johansson),ABヴァルボ(A.B.Vallbo),「タクタイル・センサリ・コーディング・イン・ザ・グレイブラス・スキン・オブ・ザ・ヒューマン・ハンド(Tactile Sensory Coding in the Glabrous Skin of the Human Hand)」,TINS,p.27−32,1983年)。触覚に関係する機械受容器は4種類存在する。表皮と真皮の境界辺りの、比較的表面に近いところに位置するマイスナ小体とメルケル細胞、そして皮膚の深部に位置するルフィニ終末とパチニ小体の4つである。
【0040】
図10は、各受容器の配置密度を示す(RFシュミット(R.F.Schmidt),岩村吉昇 他,「感覚生理学(Fundamentals of Sensory Physiology)」,金芳堂,p.46,1986年)。本図により分かることは、表層受容器は高密度で配置されている一方で、深部受容器はその受容野が大きく、配置密度が低いということである。この点を考慮すると2.1で触れた二点弁別閾以下の特徴を識別できるという特性には、表層の2つの受容器のみが関与していると考えられる。深部の2受容器ではその受容野が広く、二点弁別閾以下の細かな特徴に感度があるとは考えにくいからである。
【0041】
2.3 空間解像度に関する仮説
2.1および2.2で得られた知見は以下の2点である。
1)任意の触感の提示には少なくとも二点弁別閾の細かさが必要
2)4つの機械受容器のうち二点弁別閾程度の密度で配置されているのは表層の2受容器
【0042】
まず1)より触覚の提示に最低限必要な解像度は二点弁別閾であるとして、その間隔で刺激提示ユニットを配置することを前提にする。そのとき1ユニットごとにどれだけの自由度を提示する必要があるかを考える。1本の求心神経が伝達する情報は神経発火パルスの頻度に置き換えられるので、神経線維ごとに伝達できる情報はパルス頻度1自由度であることが分かる。ここで2)を考慮に入れると二点弁別閾以下の刺激を見分けているのは、マイスナ小体とメルケル細胞という表層の2受容器のみであるから、各受容器の取得する自由度の刺激情報で十分であると考えられる。以上により以下の仮説が導き出される。
【0043】
「仮説」:皮膚表層が知覚する触感は、2つの表層機械受容器を選択的に刺激する2自由度の刺激を、二点弁別閾の解像度で提示することで再現可能である。
ここで問題となるのは、2つの機械受容器を選択的に刺激する2自由度の刺激としてどのような刺激を用いればよいかということである。
【0044】
図11は、刺激の曲率に着目し、曲率0の極限である平面と、曲率∞の点荷重という2種類の刺激で行った実験を示す(東條,「皮膚触覚の解像度に関する研究」,東京農工大学大学院修士論文,2002年)。
この2種類の刺激は、
1)二点弁別閾以下でも十分識別可能である。
2)マイスナ小体とメルケル細胞は、それぞれの構造上の特徴および神経生理理実験による知見によって、点荷重による刺激をマイスナ小体が、平面荷重による刺激をメルケル細胞が選択的に反応すると考えられる。
以上の2点から、この2自由度の刺激は上記の仮説を満たす刺激として妥当であると考えられる。本発明者らは、この2自由度の刺激を同時に提示することで中間の曲率の刺激を提示できると考え、その検証実験を行っている。この2自由度の刺激を用い、2自由度の刺激の組み合わせで任意の曲率を提示することを考える。なお、図中で用いられるS1は平面刺激を、S2は点荷重刺激をそれぞれ意味する。
【0045】
2.4 先行研究の問題点
上記の仮説を検証するために、いくつかの刺激提示法を用いて先行実験が行われてきた。本発明者らは、以前、超音波モータを用い、その回転により垂直方向の変位を制御するという提示法を用いた。この手法の問題点は、モータによって制御できるのは回転数、つまりは変位であるという点である。これにより皮膚を提示面に強く押し付けたときと、軽く乗せたときとでは感じ方が異なってしまう。この問題点を解消するために、圧力制御で一定の力を提示できないかという考えをもとに、次にシリンジによる圧力制御を用いて試作された。このシステムはピストンを二重構造にすることで2自由度の刺激を独立に圧力制御できるシステムになっている。しかし、ピストン駆動部で摩擦や、空気の漏れなどが生じ、安定して刺激を提示することができず、必ずしも期待通りの結果は得られなかった。
【0046】
以上、先行研究における問題点より導き出される要求は、「圧力制御により、より安定した刺激を提示できる手法が必要」ということである。そこで今回提案する吸引圧制御による触覚提示方法および触覚ディスプレイを考えると、圧力の制御により常に一定の力で刺激を提示することが可能である。また、空気を吸引することにより、皮膚を刺激提示面に密着させる力が生じ、安定した刺激の提示が可能となっている。
【0047】
3 実験
本刺激手法を用いて2自由度の刺激を提示する装置を試作し、仮説を検証するための心理物理実験を行った結果について述べる。
【0048】
3.1 刺激提示装置の試作
刺激提示部の形状
2自由度の刺激を提示するユニットとして、アクリルを用い同心円状構造の刺激提示面を試作した。図12は、同心円状構造の刺激提示面を示す。
【0049】
まず平面刺激(図11のS1)を提示する外側の部分であるが、エッジが鋭いとその部分が強調され、滑らかな曲率の刺激を得られないので、面取りをし、エッジをなくしてある。次に点荷重刺激(図11のS2)を提示する内側部分であるが、二つの円を重ねたような形状になっている。これは二つの円の接点部分が尖っていることでエッジが強調され、より細く鋭い刺激が提示できるようになっている。また、それぞれのサイズについては、二点弁別閾が手掌部では約10mm程度であることなどを考慮して決定した。
【0050】
実験系
図13は、実験系のブロックを示す。本実験系は大きく3つの部分より構成される。すなわち、定圧源、圧力変換保持部、刺激提示部の3つである。図中右側の定圧源はポンプにより常に一定の圧力に保たれている。しかしポンプが周期的に脈動して吸引するタイプのものであったため、一定圧を保てるようにLPFとして容器を後段に挟んである。次に図中央が圧力変換保持部である。ここではマイクロバルブを50msごとオンオフ切り替えることで、定圧保持用容器内の圧力を所望の値にしている。このようにして減圧された容器に接続されているバルブを開閉することで、2自由度の刺激を提示できるようになっている。図14は、実験系の外観を示す。刺激提示部は本図に示すように、手を安定して提示面に接触させられるようシリコンゴムの台を使っている。
【0051】
3.2 実験方法
本実験では、20〜30代の男性9名、女性1名の被験者に対し、まず左手を刺激提示部に置いてもらいS1のみ、S2のみ、S1+S2という3種類の刺激をランダムに提示した。その後、右手に実際に曲率0.25mm、1.0mm、5.0mmの刺激(提示部のサイズはそれぞれ0.5mm、2.0mm、5.0mm)を接触させ、どちらの方が鋭いか、あるいは同じ鋭さかを比較してもらった。これにより吸引刺激の鋭さが、0.25mmより小さい、0.25mm程度、0.25mmと1.0mmの中間、1.0mm程度、1.0mmと5.0mmの中間、5.0mm程度、5.0mmより大きい、という7段階に分類することができる。各刺激をランダムに5回ずつ提示し、評価が7段階のどこに対応するかを見た。この刺激の際、よく感じる圧力を経験的に選びその値で刺激を行った。各値は、S1のみ:−90kPa、S2のみ:−90kPa、S1+S2:−60kPa、−90kPaである。
【0052】
3.3 結果と考察
図15は、10名の評価を示す。本図より、S1とS2を同時に提示した際の鋭さの評価が、S1の評価とS2の評価の中間に来ていることは分かるが、それほど明確に差が出ているとは言いがたい。しかし一方で、試験終了後に何種類の刺激があったかという質問をした際には、3種類と答えた被験者が過半数を超えていた。
【0053】
図16は、吸引圧制御による刺激提示を示す。孔の開いた基盤に皮膚を密着させ、その孔より空気を吸引することにより刺激を提示することができる。
【0054】
図17は、図12に関連して説明した実験方法を示す。本手法では、皮膚を吸引することにより刺激提示面と皮膚とが密着するため、再現性よく圧力を提示することが可能になる。そこで、2自由度の刺激を提示できるような、図17および図12に示すような刺激提示面を試作した。この同心円状の穴において、外側のみを吸引したときが、S1に対応し、内側のみを吸引したときがS2に対応する。そして、両方を同時に吸引することで、その中間の曲率を提示できると考えられる。
【0055】
図18は、皮膚表面の応力分布、皮膚内部の歪エネルギー分布、および実際の感覚を示す。図19は、2つの刺激を組み合わせたときの、皮膚に与える刺激のイメージ図を示す。
【0056】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、実施の形態の組み合わせ、またそれらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、変形例を挙げる。
【0057】
本発明の実施の形態1においては、気孔部を含む基盤は、容易に変形しないほどの硬さをもった金属や樹脂などの部材で形成させた。変形例においては、基盤のうち少なくとも気孔部の開口部分周辺について樹脂などの弾性部材で形成させてもよい。その場合、開口部分の縁が人間の皮膚に接触したときに必要以上の刺激が生じず、適度な刺激に抑えることができる。
【0058】
本発明の各実施の形態においては、基盤の表面を平面で形成したが、変形例においては基盤の表面を曲面で形成してもよい。この場合、例えば手掌部を接触対象とする場合に、基盤と手掌部との密着度が増加する。また、より手掌部に密着しやすい曲率半径で基盤の曲面を設計してもよい。
【0059】
【発明の効果】
本発明によると、様々な触感を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1に係る触覚ディスプレイの構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態2における触覚ディスプレイの断面を模式的に示す図である。
【図3】基盤を上方から見た平面図である。
【図4】有限要素法による指先モデルを示す図である。
【図5】主応力の分布の接触部を拡大した図である。
【図6】歪みエネルギー分布を拡大した図である。
【図7】受容器近傍の歪みエネルギー分布を示す図である。
【図8】人体の各部位における二点弁別閾をグラフで示す図である。
【図9】ヒトの無毛部における皮膚構造を示す図である。
【図10】各受容器の配置密度を示す図である。
【図11】刺激の曲率に着目し、曲率0の極限である平面と、曲率∞の点荷重という2種類の刺激で行った実験を示す図である。
【図12】同心円状構造の刺激提示面を示す図である。
【図13】実験系のブロックを示す図である。
【図14】実験系の外観を示す図である。
【図15】10名の評価を示す図である。
【図16】吸引圧制御による刺激提示を示す図である。
【図17】図12に関連して説明した実験方法を示す図である。
【図18】皮膚表面の応力分布、皮膚内部の歪エネルギー分布、および実際の感覚を示す図である。
【図19】2つの刺激を組み合わせたときの、皮膚に与える刺激のイメージ図を示す図である。
【符号の説明】
1 触覚ディスプレイ、 2 基盤、 3 気孔部、 4 調圧部、 5 導管部、 6 制御信号線、 7 制御部、 8 皮膚、 9 空気、 10 変動部材、 11 制御端子、 12 制御部、 13 制御信号線。
Claims (11)
- 皮膚表面と接触すべき基盤表面に開口状の気孔部を設け、その気孔部の内圧を負圧に変動させることにより前記基盤表面において疑似的な圧覚の触感を生成することを特徴とする触覚ディスプレイ。
- 前記気孔部の内圧を負圧に維持したまま増圧または減圧させることを特徴とする請求項1に記載の触覚ディスプレイ。
- 前記接触の対象とする皮膚の二点弁別閾に基づく距離間隔で前記気孔部を複数設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の触覚ディスプレイ。
- 前記複数の気孔部の内圧を個別に変動させることを特徴とする請求項3に記載の触覚ディスプレイ。
- 皮膚表面と接触すべき基盤と、
前記基盤表面において開口する気孔部と、
前記気孔部の内圧を負圧に変動させる調圧部と、
前記調圧部および前記気孔部を連通する導管部と、を有し、
前記調圧部は、前記内圧の変動により前記基盤表面において疑似的な圧覚の触感を生成することを特徴とする触覚ディスプレイ。 - 前記基盤は、前記皮膚表面と接触すべき表面が曲面で形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の触覚ディスプレイ。
- 前記基盤は、少なくとも前記気孔部の開口部分周辺が弾性部材で形成されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の触覚ディスプレイ。
- 前記基盤表面における前記気孔部の開口位置周辺に、電気的制御によって表面の粘性が変動する変動部材をさらに設けたことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の触覚ディスプレイ。
- 前記変動部材は、磁気粘性流体と、その磁気粘性流体に磁界を加えるコイルと、を含み、前記コイルから加えられる磁界により前記変動部材表面の粘性が制御されることを特徴とする請求項8に記載の触覚ディスプレイ。
- 前記変動部材は、電気粘性流体と、その電気粘性流体に電界を加える電極と、を含み、前記電極から加えられる電界により前記変動部材表面の粘性が制御されることを特徴とする請求項8に記載の触覚ディスプレイ。
- 皮膚表面と接触すべき基盤表面にて開口状に設けられた気孔部の内圧を負圧に変動させることにより、前記基盤表面において疑似的な圧覚の触感を生成することを特徴とする触覚提示方法。
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