JP2005042152A - 溶製高剛性鉄合金およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】大気溶解して得られる安価な溶製高剛性鉄合金を提供する。
【解決手段】本発明の溶製高剛性鉄合金は、原料を溶解、凝固させて得られ、Feを主成分とするマトリックスと該マトリックス中に分散した該マトリックスよりも高剛性な高剛性粒子とからなる溶製高剛性鉄合金であって、前記高剛性粒子は、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素とFeとホウ素(B)との複合ホウ化物からなることを特徴とする。大気中の酸素や窒素との反応性が高い元素(Ti等)を含有しないので、大気溶解が可能であると共に十分な高ヤング率が得られた。
【選択図】図1
【解決手段】本発明の溶製高剛性鉄合金は、原料を溶解、凝固させて得られ、Feを主成分とするマトリックスと該マトリックス中に分散した該マトリックスよりも高剛性な高剛性粒子とからなる溶製高剛性鉄合金であって、前記高剛性粒子は、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素とFeとホウ素(B)との複合ホウ化物からなることを特徴とする。大気中の酸素や窒素との反応性が高い元素(Ti等)を含有しないので、大気溶解が可能であると共に十分な高ヤング率が得られた。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶製法により得られ、一般の鉄鋼材料よりも高いヤング率を発現する溶製高剛性鉄合金およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
多くの機械構造部品に炭素鋼、特殊鋼等の鉄鋼材料が使用されている。鉄鋼材料は、マグネシウム合金やアルミニウム合金等の軽合金に比べて、一般的に剛性、強度、コスト等の点で優れる。特に、鉄鋼材料の剛性(ヤング率)は、前記軽合金等よりも遙かに大きな値を示し、その組成に拘らず、ほぼ210GPa程度もある。従って、寸法や変形量等に制限のある機械構造部品には鉄鋼材料が多用される。ここで、金属材料のヤング率は、主成分の金属元素によってほぼ定る固有の物性値であるところ、通常、単なる合金組成の変更等によって殆ど変化することはない。
【0003】
ところが、このヤング率を一層高めることができれば、例えば、部材の形状を同じとしつつも、その変形量を一層抑制できる。また、同変形量が許容される場合であれば、部材のさらなる小型化や軽量化も達成され得る。また、その部材が、例えば、エンジンの運動部品(内燃機関のピストンピン、クランクシャフト、コンロッド等)であれば、その部品を組込んだエンジンの性能向上も図れる。
【0004】
このような観点から、鉄鋼材料のヤング率を210GPa以上とした高剛性材料が開発、研究されている。特に、素材としての使用が容易な等方性高剛性材料の開発、研究が盛んである。このような高剛性材料は、通常、鉄基マトリックス中に、それよりも高剛性な化合物粒子(高剛性粒子)を均一に分散させたいわゆる複合材料からなることが多い。そして、その製造方法として、一般的に粉末法と溶製法とが用いられる。例えば、下記特許文献1〜7にそれらに関する具体的な開示がある。
【0005】
特許文献1および2には、粉末法によって、鉄基マトリックス中にTiB2や5a族元素、鉄およびホウ素の複ホウ化物を分散させた高剛性材料が開示されている。なお、等方性材料ではないが、粉末法により、酸化物、硫化物または窒化物を析出させた高剛性材料も特許文献3および4にも開示されている。
【0006】
特許文献5には、溶製法によって、鉄鋼中に高ヤング率のVC粒子を分散させた高剛性材料が開示されている。また、特許文献6および7には、同じく溶製法によって、高ヤング率のTiCやTiB2等を鋼中に分散させた高剛性材料が開示されている。
【0007】
【特許文献1】
特許第3314505号公報
【特許文献2】
特許第3379203号公報
【特許文献3】
特開平8−120394号公報
【特許文献4】
特開平8−218118号公報
【特許文献5】
特開2001−73068号公報
【特許文献6】
特開平8−228584号公報
【特許文献7】
特開2002−105588号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献のように、粉末法によって高剛性材料を製造することは比較的容易であるが、製法上の制限から、大型部品等を低コストで製作することが難しい。また、TiB2等の高剛性粒子を多量に含有させた場合、高密度な粉末成形自体が困難となり、ネットシェイプ化等も図り難い。また、ビレットから機械加工を行った場合、一般に高剛性粒子を含む高剛性材料は非常な難削材であるため、加工コストの大きな上昇を招く。
【0009】
一方、溶製法を用いれば、高剛性材料の大量生産が可能となり、製造コストの低減を図り易い。しかし、上記特許文献等からも明らかなように、高剛性材料に使用されている高剛性粒子には、酸素等と激しく反応するTiなどの4a族元素の炭化物やホウ化物が主に使用されてきた。Ti等の元素を含む合金を大気溶解した場合、鋳造過程において多量の酸化物等を生成して、鋳造自体が不可能となったり、高剛性材料の歩留まりが極端に悪化したりする。そこで、上記特許文献では、いずれも真空溶解を行うことで高剛性材料を溶製している。
【0010】
ところが、真空溶解を行うと、設備、工数等の点で製造コストが嵩み、結局、高剛性材料の低コスト化を図ることが難くなる。また、溶解、鋳造といったプロセス上の制限も大きくなり好ましくない。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、低コスト化を図り易い溶製高剛性鉄合金とその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、溶製法によって得られる低コストな溶製高剛性鉄合金を新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(溶製高剛性鉄合金)
(1)すなわち、本発明の溶製高剛性鉄合金は、原料を溶解、凝固させて得られ、 Feを主成分とするマトリックスと該マトリックス中に分散した該マトリックスよりも高剛性な高剛性粒子とからなる溶製高剛性鉄合金であって、前記高剛性粒子は、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素とFeとホウ素(B)との複合ホウ化物からなることを特徴とする。
【0013】
本発明の溶製高剛性鉄合金の場合、鉄基マトリックス中に分散する高剛性粒子は、5a族元素および/または6a族元素(以下、適宜単に「主合金元素」という。)とFeとBとの複合ホウ化物からなる。この主合金元素は、Ti等に比較して、酸素や窒素との反応性が乏しい元素である。このため、従来のように、酸素や窒素との反応性の高い高反応性元素(Ti等)を含有する場合と異なり、例えば、大気溶解する溶製法によって、高剛性鉄合金の製造が可能となる。その結果、高剛性鉄合金が非常に低コストで得られる。
【0014】
勿論、上記複合ホウ化物は、鉄基マトリックス中において安定であると共に鉄基マトリックスに比べて十分に高剛性である。このため、本発明の溶製高剛性鉄合金は、その分散量に応じて、安定した高ヤング率を発揮する。
【0015】
なお、ここで複合ホウ化物が安定であるというのは、上記主合金元素のホウ化物が、Fe以外の元素と反応してヤング率をより低下させるような化合物に変化しないことを意味する。また、上記主合金元素を構成する5a族元素中に、バナジウム(V)を含めていないが、溶製上問題とならなず、ヤング率の向上が望める限り、Vを主合金元素に加えることは可能である。
【0016】
(2)本発明の溶製高剛性鉄合金は、次のようにも把握できる。
すなわち、本発明の溶製高剛性鉄合金は、原料を溶解、凝固させて得られ、全体を100質量%としたときに、主成分であるFeと、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素を合計で3〜50質量%と、Bを2〜5質量%とを含有し、ヤング率が225GPa以上であることを特徴とするものであっても良い。
【0017】
本発明の溶製高剛性鉄合金は、出現する金属組織がどのようなものであるかは別にして、上記組成をもつように溶製されることで、従来の鉄鋼材料を上回る高ヤング率(225GPa以上)を発現するものである。
【0018】
ここで、本発明者が調査研究したところ、溶製高剛性鉄合金の金属組織は、溶製(鋳造)方法やその後の熱処理によって異なり、その組織によって発現するヤング率も変化し得ることが明らかとなった。また、225GPa以上の高ヤング率を発現しながら、その金属組織を通常に観察しただけでは、必ずしも、前述の複合ホウ化物が観察されないことも明らかとなった。さらに、その場合でも、その後の熱処理によって前述した複合ホウ化物が微細に析出し得ることも解った。
そこで、本発明は、前述のように複合ホウ化物からなる高剛性粒子がマトリックス中に明らかに分散している溶製高剛性鉄合金に限るものではなく、主合金元素とBとのリッチ相が準安定な状態でマトリックス中に存在していて十分な高ヤング率を発現するようなものも含むものである。
【0019】
なお、本発明の溶製高剛性鉄合金は、大気溶解等を経て製造されることでその低コスト化を図れるが、現実に製造される溶解雰囲気まで限定するものでないことを断っておく。例えば、不活性ガス雰囲気で原料が溶解等されても良い。
【0020】
(溶製高剛性鉄合金の製造方法)
本発明は、上記溶製高剛性鉄合金以外に、その製造方法としても把握できる。
(1)すなわち、本発明は、主成分であるFeと5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素とBとを含有した原料を溶解して合金溶湯を得る溶解工程と、該合金溶湯を冷却し凝固させる凝固工程とを備えてなり、Feを主成分とするマトリックス中に該マトリックスよりも高剛性な前記主合金元素、FeおよびBからなる複合ホウ化物の高剛性粒子が分散した溶製高剛性鉄合金が得られることを特徴とする溶製高剛性鉄合金の製造方法としても良い。
【0021】
(2)また、本発明は、全体を100質量%としたときに、主成分であるFeと、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素を合計で3〜50質量%と、Bを2〜5質量%とを含有した原料を溶解して合金溶湯を得る溶解工程と、該合金溶湯を冷却し凝固させる凝固工程とを備えてなり、ヤング率が225GPa以上の溶製高剛性鉄合金が得られることを特徴とする溶製高剛性鉄合金の製造方法としても良い。
【0022】
ところで、本発明の溶製高剛性鉄合金およびその製造方法で、前記主合金元素の合計を3〜50質量%としたのは、下限がそれ未満であれば生成されるホウ化物量が少なく、ヤング率の上昇が不十分であり、上限がそれを超えると凝固時の偏析が生じるのみならず多量のホウ化物によって機械加工性、熱間加工性が損なわれるからである。その下限は4質量%であると好ましく、その上限は30質量%であると好ましい。
【0023】
Bを2〜5質量%としたのは、下限がそれ未満であれば生成されるホウ化物量が少なく、ヤング率の上昇が不十分であり、上限がそれを超えると多量のホウ化物によって機械加工性、熱間加工性が損われるからである。その下限は2.5質量%であると好ましく、その上限は3.5質量%であると好ましい。
【0024】
本明細書でいう「高反応性元素」とは、溶解時、少量の添加しただけでも、OやNと反応して酸化物や窒化物を生成する元素である。このような元素として、Ti、Zr、V、Hf等を挙げることができる。
【0025】
また、「鉄合金」には、種々の形態が含まれる。例えば、鋳塊、スラブ、ビレット、圧延品、鍛造品、線材、板材、棒材等の合金素材や中間材であっても良いし、例えば、それを加工した、中間加工品、最終製品、それらの一部等の鉄合金部材であっても良い。
【0026】
【発明の実施の形態】
実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。なお、以下で述べる内容は、本発明の溶製高剛性鉄合金は勿論、その製造方法にも適宜該当する。
(1)鉄基マトリックス
鉄基マトリックス(以下、適宜単に「マトリックス」という。)はFeを主成分とするが、この他、機械的特性や加工性等を向上させる観点から、高剛性粒子のヤング率の極端な低下を招来しない元素を含有していても良い。このような元素として、Co、Si、Mn等ある。
【0027】
この他、高剛性粒子を構成するNbおよびTaの5a族元素やCr、MoおよびWの6a族元素も、マトリックスの合金元素となる。それらの元素の全てが複合ホウ化物となって析出し高剛性粒子になるとは限らず、残部はマトリックスのFe中に固溶等して存在し得る。特にCrは、Fe中に固溶し易く、マトリックス中でのCrの固溶量が多くなると、マトリックスがいわゆるステンレスに近くなって、溶製高剛性鉄合金は耐蝕性等に優れたものとなる。いずれの元素をどの程度含有させるかは、高剛性鉄合金に要求される強度、靱性、伸び、加工性等の観点から適宜決定すれば良い。
【0028】
(2)高剛性粒子
高剛性粒子は、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素と、Feと、Bとの複合ホウ化物からなる。また、鋳造した直後に複合ホウ化物が鉄基マトリックス中に晶出や析出している必要はなく、熱処理や熱間加工を加えた後に複合ホウ化物としてマトリックス中に析出しても良い。従って、このような溶製高剛性鉄合金では、最終的に複合ホウ化物がマトリックス中に分散した状態となっていれば良く、その途中の形態までは問わない。
【0029】
このような複合ホウ化物は、(Nb、Fe)B、(Ta、Fe)B、(Cr、Fe)B、(Mo、Fe)B、(W、Fe)B等と表されるが、その具体的な組成を特定することは現状では困難である。
【0030】
高剛性粒子は、このよう複合ホウ化物の1種のみからなれば足るが、2種以上の複合ホウ化物からなるとより好適である。例えば、(Cr、Fe)Bや(Mo、Fe)Bがマトリックス中に微細に析出しているような場合である。何故なら、多量の同種のホウ化物は、析出時に粗大化し易く、鋳造性、熱間加工性、機械的性質の低下を引き起す原因となるからである。
【0031】
また、マトリックスに分散する高剛性粒子は、上記主合金元素の1種とFeとBとからなる複合ホウ化物の単種やそのような複合ホウ化物の複数種で構成されるのが好ましい。2種以上の主合金元素とFeとBとからなる複合ホウ化物は、マトリックス中に析出する際に粗大化する傾向にあり、実用的な高剛性鉄合金が得られ難いからである。また、そのような複合ホウ化物の場合、ホウ化物中に他の元素が固溶しており、十分な高ヤング率が発揮されるとは限らない。もっとも、高剛性粒子である複合ホウ化物として析出する前の状態は、2種以上の主合金元素とBとからなるホウ化物の状態やそれらのリッチ相等であっても良い。
【0032】
複合ホウ化物を構成する前記主合金元素は、5a族元素および6a族元素の内、Nb、Cr、Mo、Wが好ましい。これらの元素は、酸素や窒素との反応性が乏しく、本発明の溶製高剛性鉄合金を大気溶解等するのに好ましいからである。その中でも、Nb、Cr、Moが好ましい。Wは、Moと同様の特性を示すと考えられるが、質量が大きくなるため、高剛性部材の軽量化等を図る際には不向きだからである。
【0033】
溶製高剛性鉄合金全体を100質量%としたときに、それらの元素は、Cr:25質量%以下、Mo:12質量%以下、Nb:12質量%以下であると好ましい。Cr、MoおよびNbの全ての元素が溶製高剛性鉄合金中に存在する必要はなく、上記組成比は、それらの元素が1種でも2種の場合でも良い。また、各元素の効果を発現させる観点から、CrとMoとNbとの合計量が3質量%以上であるのが良い。
【0034】
Crは、Bと反応することで高ヤング率のCr系ホウ化物を形成する。もっとも、過剰なCrはマトリックスのFe中に固溶して溶製高剛性鉄合金の耐蝕性を向上させ得る。Crの下限を1質量%としたのは、Crがそれより少ないと十分なヤング率の向上効果が得られないからである。Crの上限を25質量%としたのは、多量のCrがマトリックスへ固溶すると、σ相の生成を引き起しマトリックスの脆化を進めるからである。Crの下限が2質量%さらには3質量%であり、その上限が20質量%さらには15質量%であればより好ましい。
【0035】
Moは、Bと反応することで高ヤング率のMo系ホウ化物を形成し、このホウ化物は、前述した主合金元素のホウ化物中で最も溶製高剛性鉄合金のヤング率向上に寄与する。強度的にもMoを含むホウ化物は微細析出し易いため、Moは溶製高剛性鉄合金の強度向上を図る上でも有効な元素であると考えられる。Moの下限を1質量%としたのは、Moがそれより少ないと十分なヤング率の向上効果が得られないからである。Moの上限を12質量%としたのは、多量のMoは注湯温度を上昇させる要因となり、偏析の原因となるからである。Moの下限が2質量%さらには3質量%であり、その上限が9質量%さらには7質量%であればより好ましい。
【0036】
Nbは、Bと反応することで高ヤング率のNb系ホウ化物を形成する。Nbの下限を1質量%としたのは、Nbがそれより少ないと十分なヤング率の向上効果が得られないからである。Nbの上限を12質量%としたのは、多量のNbは注湯温度を上昇させる要因となり、偏析の原因となるからである。Nbの下限が2質量%さらには3質量%であり、その上限が9質量%さらには7質量%であればより好ましい。
【0037】
高剛性粒子は、溶製高剛性鉄合金全体を100体積%としたときに5〜50体積%さらには10〜35体積%分散していると好適である。これにより、例えば、ヤング率が225GPa以上、230GPa以上、235GPa以上、240GPa以上さらには245GPa以上の溶製高剛性鉄合金が得られる。
【0038】
さらに、溶製高剛性鉄合金の実用的な強度、靱性等を確保する上で、上記高剛性粒子は鉄基マトリックス中に微細に分散している方が好ましい。そこで、高剛性粒子は、平均粒径が1〜50μmさらには1〜10μmであると好適である。
【0039】
(3)溶解工程
主成分であるFeと前記主合金元素の1種以上とBとを少なくとも含む原料を溶解して合金溶湯を得る工程である。
このとき使用する原料の配合組成は、所望する溶製高剛性鉄合金のヤング率、強度、靱性、加工性、鋳造条件等を考慮して決定されるが、この配合組成がそのまま溶製高剛性鉄合金の合金組成となる必要はない。配合組成によっては、化合物の沈降等を生じ得るからである。
【0040】
ところで、上記原料には、4a族元素のTi等のように、大気中での反応性の高い高反応性元素を0.5質量%以上は含有しないのが良い。酸素や窒素との反応性が高い元素を含有していると、真空溶解、不活性ガス雰囲気中で溶解または特殊溶解等によって原料を溶解させることが必要となり、溶解工程ひいては溶製高剛性鉄合金の低コスト化を図れないからである。従って、本発明の場合、原料中に高反応性元素を含有せず、溶解工程がその原料を大気中で溶解する大気溶解工程であると好適である。
【0041】
(4)凝固工程
凝固工程は、溶解工程で得られた合金溶湯を冷却して凝固させる工程であるが、通常は、溶解工程で得られた合金溶湯を鋳型に注湯して凝固させる。鋳型には、金型、砂型等があるがいずれを使用しても良い。
【0042】
凝固工程中の冷却速度も問わない。冷却速度を早くすれば結晶粒が微細化し、冷却速度を遅くすると結晶粒が粗大化するが、本発明者が調査研究したところ、さらに次のことが解った。すなわち、冷却速度を十分に早くした場合、上記主合金元素とBとが溶製高剛性鉄合金の鋳物中に広く分布し、目立った粒子の析出が確認されなかった。これは、上記主合金元素のホウ化物または複合ホウ化物が超微細析出しているか、そのような化合物を形成する前の準安定な状態となっていると考えられる。もっとも、このような十分に早い冷却速度で凝固させた鋳物に熱処理(時効処理)を施すと、前記主合金元素とFeとBとの複合ホウ化物が微細に均一に広く析出することも解った。
【0043】
これに対し、冷却速度を十分に遅くした場合、前記主合金元素とFeとBとの複合ホウ化物が鋳造後に広く析出することも解った。この析出した複合ホウ化物は比較的粗大(10〜50μm程度)であった。しかし、その鋳造後の鋳物に熱間加工を特定条件下で施すと、以外にも熱間加工性に優れ、前記粗大な複合ホウ化物が粉砕されて微細な状態となった。
従って、冷却速度が早くても遅くても、結果的に、Feを主成分とするマトリックス中にマトリックスよりも高剛性な前記複合ホウ化物の高剛性粒子が分散した高剛性鉄合金が溶製法で得られることが確認された。
【0044】
以上のことを踏まえて、前記凝固行程の冷却速度は、急冷凝固させるときの冷却速度は3℃/sec以上にすると良い。逆に、砂型等で緩やかに凝固させるときの冷却速度は、3℃/sec以下でも良い。また、凝固工程は、ホウ化物が主に析出する800〜1200℃で行うのが好ましく、この温度範囲内で前記冷却速度をもつのが良い。
【0045】
マトリックス中に高剛性粒子を安定的にかつ微細に析出させるには、前記凝固行程後に800〜1150℃で1〜10時間保持する時効処理工程を施すと好適である。この時効処理工程は、その温度がさらに900〜1150℃であれば良く、その時間が1〜4時間であれば、より効率的に高剛性粒子をマトリックス中に分散させることができる。この時効処理工程は、前記冷却速度の大小と無関係に行っても良いが、前述したように、冷却速度が大きいとき(急冷時)に行うとより好ましい。
【0046】
さらに、前記凝固行程後に900〜1150℃で加工する熱間加工工程を行っても良い。硬質な高剛性粒子がマトリックス中に分散した溶製高剛性鉄合金は、通常の機械加工等が必ずしも容易ではないが、予め熱間加工工程を施しておくことで、その加工量の削減が可能となる。このような熱間加工には、例えば、熱間鍛造、熱間押出し、熱間スエージ等がある。この熱間加工工程は、冷却速度の大小と無関係に行っても良いが、前述したように、冷却速度が小さいとき(徐冷時)に行うとより好ましい。
【0047】
なお、この熱間加工工程を行う際の温度が、上記900℃未満では、素材の軟化が不十分で熱間加工性が悪く割れ等を生じ易い。逆に上記1150℃を超えると、素材が軟化し過ぎてやはり熱間加工性が悪くなり、割れ等を生じ易くなる。
【0048】
(5)用途
本発明の溶製高剛性鉄合金は、その用途が限定されるものではない。用途がいずれであれ、高剛性材料の使用によって、部材の軽量化や小型化を図ることが可能となる。また、その高剛性材料の使用によって部材の変形量が抑制されることで、その部材を組込んだ装置の精度向上や、その部材と関連する他部材へに加わる局部的な応力の軽減が図られる。
【0049】
この溶製高剛性鉄合金の用途の一例として、例えば、次のようなものがある。エンジン部材でいえば、クランクシャフト、コンロッド、ピストンピン等の回転・往復運動部材、ターボシャフト、サスペンションアーム、ブレーキキャリパー等がある。また、工作機械でいえば、スピンドルシャフト、固定用治具等がある。スポーツ部品でいえばゴルフクラブ等がある。
【0050】
【実施例】
実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
(溶製高剛性鉄合金の製造)
(1)溶解工程および凝固工程
原料として、工業用純鉄のインゴット、フェロボロン、電解クロム、フェロモリブデン、フェロニオブを用意した。これらの原料を表1に示す組成となるように配合した。
【0051】
表1中に示した試料No.1〜5は、上記原料を高周波溶解装置により大気中で溶解して1550℃の合金溶湯を得た後(溶解工程)、鋼製金型(φ60x70mm)へ鋳造したものである(凝固工程)。このときの冷却速度はほぼ3〜8℃/secであった。
【0052】
表1中に示した試料No.6〜8は、上記原料を高周波真空溶解装置により真空(1x10−3Pa以下)中で溶解して1550℃の合金溶湯を得た後(溶解工程)、ジルコニア型(φ30x80mm)へ鋳造したものである(凝固工程)。試料No.6〜8の鋳造に際して、ジルコニア型の型温度が800℃になるように、注湯前にその鋳型を予熱しておいた。この結果、このときの冷却速度はほぼ1〜3℃/secであった。なお、上記各試料毎の原料の溶解量は、全て1.4kgとした。
【0053】
(2)時効処理工程および熱間加工工程
上記鋳造後に得られた試料No.1〜5に、1100℃x2.5時間の熱処理を施した(時効処理工程)。これらの試料を順に試料No.11〜15とする。また、前記試料No.6〜8に、上記と同様の熱処理を施した。それらの試料を順に試料No.16〜18とする。
【0054】
なお、試料No.1〜8に加熱処理を施さずに熱間鍛伸を施した(熱間加工工程)が、特に問題なく鍛伸できることを確認している。この熱間鍛伸は、各試料を1100℃に加熱して行いφ15mmになるまで行ったものである。
【0055】
(試料の測定および観察)
(1)機械的特性
上述の得られた各試料について、ヤング率を超音波パルス方により求めた。この内、試料No.1〜8および試料No.11〜15のヤング率を対比して図1に示した。試料No.16〜18のヤング率は、試料No.6〜8のヤング率とほぼ同じであったので図1中には示さなかった。
【0056】
また試料No.1については、引張り試験を行い、引張強度、真破断応力および伸びも求めた。これらを図2に示した。なお、上記各試料のヤング率は、表2にまとめて示した。
【0057】
(2)組織観察
上記各試料の組織をSEM(走査電子顕微鏡)により観察した。代表例として、試料No.2および試料No.12と、試料No.5および試料No.15と、試料No.7との観察結果を図3〜5に示した。
【0058】
(評価)
(1)機械的特性
図1および表2からも明らかなように、本発明のいずれの試料もヤング率が225GPa以上であって、鉄鋼材料のヤング率210GPaを大きく上回っていた。ここで、徐冷凝固させた試料No.6〜8は、鋳造状態のままでも240GPa以上の高ヤング率を発揮した。
【0059】
急冷凝固させた試料No.1〜5は、鋳造状態のままでも225GPa以上の高ヤング率を発揮したが、これに前記時効処理を施すと(試料No.11〜15)、ヤング率はいずれもさらに大きく上昇した。特に、主合金元素として、CrおよびMoの両方を含有している試料の場合、その時効処理によってヤング率が大きく(10〜20GPa程度)上昇した。例えば、試料No.12の場合、256GPaにまで到達した。
【0060】
試料No.12と試料No.7等を比較すれば解るように、冷却速度の大小に拘らず、最終的に到達し得るヤング率はMo量に大きく影響され、Cr:4質量%のときなら、Mo:8.3質量%、B:2.7質量%で最大を示した。
【0061】
試料No.5と試料No.15を観れば解るように、Moに替えてNbを含有させても240GPaという高ヤング率が得られた。この場合、時効処理によってヤング率は上昇するもののその変化量は僅かであった。
【0062】
試料No.6〜8と試料No.16〜18とを比較すれば解るように、ヤング率は、時効処理によって殆ど変化せず、急冷凝固後に時効処理を施した同組成の試料No.11やNo.12と同程度であった。
【0063】
次に、図2からも明らかなように、試料No.11の場合、引張強度が800MPa程度、伸びが9%程度であり、ヤング率以外の特性も良好で、バランスの良い機械的特性を示した。この傾向は、他の試料についても同様であった。従って、各試料の溶製高剛性鉄合金は、機械構造部材への利用が十分に期待できるものである。これは、(Mo、Fe)B等の複合ホウ化物がマトリックス中に微細に析出したためと思われる。
【0064】
ここで、Moを含有させた試料No.1〜4および11〜14も、Nbを含有させた試料No.5および15も、両者とも組成に応じたヤング率が得られているが、前者のMoを含有する試料は、時効処理によってMo系ホウ化物が微細析出するのに対し、後者のNbを含有する試料は、Nb系ホウ化物が凝固工程中に析出してホウ化物が粗大化し易かった。そこで、強度、靱性、伸び等の要求される機械構造部品等には、Moを含有させてMo系ホウ化物(複合ホウ化物)を微細に析出させるのが好ましいと考えられる。
【0065】
同様のことは、試料No.1〜5および11〜15と、試料No.6〜8および16〜18とを比較した場合にもいえる。すなわち、合金溶湯を急冷凝固させて、ホウ化物をマトリックス中に微細に分散させた試料No.11〜15等がより好ましい。
【0066】
Bと反応してホウ化物を構成する主合金元素(Cr、Mo、Nb等)と、Bとの間の最適な組成比を特定するのは容易ではないが、原子%比でいえば、主合金元素:Bが1:1〜2程度となるのが好ましいと考えられる。なお、ここでいう主合金元素の組成は、ホウ化物を構成する分についてであるので、マトリックス中に固溶等する分は除く。例えば、Crのように、マトリックスの耐蝕性向上を目的として多量に固溶させた分は除かれる。もっとも、マトリックスにCrが固溶することで、僅かであるがヤング率の上昇に寄与する。
【0067】
(2)金属組織
前述したように、鋳造後に時効処理を施すことで微細な粒子が析出するのが確認されたが(図3)、これをEPMA(Electon Probe Micro Analyser)で観察した結果、その微細な析出物はMo系ホウ化物(Mo、FeおよびBの複合ホウ化物)であることが判明した。この複合ホウ化物は、熱処理前に観察されたCr、MoおよびBのリッチ相(準安定相)から析出したものであると考えられる。
【0068】
図4からも解るように、試料No.5と試料No.15とでは、やや粗大なホウ化物の析出が認められたが、時効処理前後で組織は殆ど変化しなかった。
図5からも解るように、試料No.7では、粗大なホウ化物の析出が認められたが、時効処理前後で組織は殆ど変化しなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例にかかる各試料のヤング率を対比した棒グラフである。
【図2】その実施例中の一試料の機械的特性を示す棒グラフである。
【図3】その実施例中の試料2および試料No.12について観察した組織写真であり、同図(a)は鋳造後の状態を示し、同図(b)はさらに熱処理を施した状態を示す。
【図4】その実施例中の試料5および試料No.15について観察した組織写真であり、同図(a)は鋳造後の状態を示し、同図(b)はさらに熱処理を施した状態を示す。
【図5】その実施例中の試料7について観察した、鋳造後の状態を示す組織写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶製法により得られ、一般の鉄鋼材料よりも高いヤング率を発現する溶製高剛性鉄合金およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
多くの機械構造部品に炭素鋼、特殊鋼等の鉄鋼材料が使用されている。鉄鋼材料は、マグネシウム合金やアルミニウム合金等の軽合金に比べて、一般的に剛性、強度、コスト等の点で優れる。特に、鉄鋼材料の剛性(ヤング率)は、前記軽合金等よりも遙かに大きな値を示し、その組成に拘らず、ほぼ210GPa程度もある。従って、寸法や変形量等に制限のある機械構造部品には鉄鋼材料が多用される。ここで、金属材料のヤング率は、主成分の金属元素によってほぼ定る固有の物性値であるところ、通常、単なる合金組成の変更等によって殆ど変化することはない。
【0003】
ところが、このヤング率を一層高めることができれば、例えば、部材の形状を同じとしつつも、その変形量を一層抑制できる。また、同変形量が許容される場合であれば、部材のさらなる小型化や軽量化も達成され得る。また、その部材が、例えば、エンジンの運動部品(内燃機関のピストンピン、クランクシャフト、コンロッド等)であれば、その部品を組込んだエンジンの性能向上も図れる。
【0004】
このような観点から、鉄鋼材料のヤング率を210GPa以上とした高剛性材料が開発、研究されている。特に、素材としての使用が容易な等方性高剛性材料の開発、研究が盛んである。このような高剛性材料は、通常、鉄基マトリックス中に、それよりも高剛性な化合物粒子(高剛性粒子)を均一に分散させたいわゆる複合材料からなることが多い。そして、その製造方法として、一般的に粉末法と溶製法とが用いられる。例えば、下記特許文献1〜7にそれらに関する具体的な開示がある。
【0005】
特許文献1および2には、粉末法によって、鉄基マトリックス中にTiB2や5a族元素、鉄およびホウ素の複ホウ化物を分散させた高剛性材料が開示されている。なお、等方性材料ではないが、粉末法により、酸化物、硫化物または窒化物を析出させた高剛性材料も特許文献3および4にも開示されている。
【0006】
特許文献5には、溶製法によって、鉄鋼中に高ヤング率のVC粒子を分散させた高剛性材料が開示されている。また、特許文献6および7には、同じく溶製法によって、高ヤング率のTiCやTiB2等を鋼中に分散させた高剛性材料が開示されている。
【0007】
【特許文献1】
特許第3314505号公報
【特許文献2】
特許第3379203号公報
【特許文献3】
特開平8−120394号公報
【特許文献4】
特開平8−218118号公報
【特許文献5】
特開2001−73068号公報
【特許文献6】
特開平8−228584号公報
【特許文献7】
特開2002−105588号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献のように、粉末法によって高剛性材料を製造することは比較的容易であるが、製法上の制限から、大型部品等を低コストで製作することが難しい。また、TiB2等の高剛性粒子を多量に含有させた場合、高密度な粉末成形自体が困難となり、ネットシェイプ化等も図り難い。また、ビレットから機械加工を行った場合、一般に高剛性粒子を含む高剛性材料は非常な難削材であるため、加工コストの大きな上昇を招く。
【0009】
一方、溶製法を用いれば、高剛性材料の大量生産が可能となり、製造コストの低減を図り易い。しかし、上記特許文献等からも明らかなように、高剛性材料に使用されている高剛性粒子には、酸素等と激しく反応するTiなどの4a族元素の炭化物やホウ化物が主に使用されてきた。Ti等の元素を含む合金を大気溶解した場合、鋳造過程において多量の酸化物等を生成して、鋳造自体が不可能となったり、高剛性材料の歩留まりが極端に悪化したりする。そこで、上記特許文献では、いずれも真空溶解を行うことで高剛性材料を溶製している。
【0010】
ところが、真空溶解を行うと、設備、工数等の点で製造コストが嵩み、結局、高剛性材料の低コスト化を図ることが難くなる。また、溶解、鋳造といったプロセス上の制限も大きくなり好ましくない。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、低コスト化を図り易い溶製高剛性鉄合金とその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、溶製法によって得られる低コストな溶製高剛性鉄合金を新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(溶製高剛性鉄合金)
(1)すなわち、本発明の溶製高剛性鉄合金は、原料を溶解、凝固させて得られ、 Feを主成分とするマトリックスと該マトリックス中に分散した該マトリックスよりも高剛性な高剛性粒子とからなる溶製高剛性鉄合金であって、前記高剛性粒子は、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素とFeとホウ素(B)との複合ホウ化物からなることを特徴とする。
【0013】
本発明の溶製高剛性鉄合金の場合、鉄基マトリックス中に分散する高剛性粒子は、5a族元素および/または6a族元素(以下、適宜単に「主合金元素」という。)とFeとBとの複合ホウ化物からなる。この主合金元素は、Ti等に比較して、酸素や窒素との反応性が乏しい元素である。このため、従来のように、酸素や窒素との反応性の高い高反応性元素(Ti等)を含有する場合と異なり、例えば、大気溶解する溶製法によって、高剛性鉄合金の製造が可能となる。その結果、高剛性鉄合金が非常に低コストで得られる。
【0014】
勿論、上記複合ホウ化物は、鉄基マトリックス中において安定であると共に鉄基マトリックスに比べて十分に高剛性である。このため、本発明の溶製高剛性鉄合金は、その分散量に応じて、安定した高ヤング率を発揮する。
【0015】
なお、ここで複合ホウ化物が安定であるというのは、上記主合金元素のホウ化物が、Fe以外の元素と反応してヤング率をより低下させるような化合物に変化しないことを意味する。また、上記主合金元素を構成する5a族元素中に、バナジウム(V)を含めていないが、溶製上問題とならなず、ヤング率の向上が望める限り、Vを主合金元素に加えることは可能である。
【0016】
(2)本発明の溶製高剛性鉄合金は、次のようにも把握できる。
すなわち、本発明の溶製高剛性鉄合金は、原料を溶解、凝固させて得られ、全体を100質量%としたときに、主成分であるFeと、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素を合計で3〜50質量%と、Bを2〜5質量%とを含有し、ヤング率が225GPa以上であることを特徴とするものであっても良い。
【0017】
本発明の溶製高剛性鉄合金は、出現する金属組織がどのようなものであるかは別にして、上記組成をもつように溶製されることで、従来の鉄鋼材料を上回る高ヤング率(225GPa以上)を発現するものである。
【0018】
ここで、本発明者が調査研究したところ、溶製高剛性鉄合金の金属組織は、溶製(鋳造)方法やその後の熱処理によって異なり、その組織によって発現するヤング率も変化し得ることが明らかとなった。また、225GPa以上の高ヤング率を発現しながら、その金属組織を通常に観察しただけでは、必ずしも、前述の複合ホウ化物が観察されないことも明らかとなった。さらに、その場合でも、その後の熱処理によって前述した複合ホウ化物が微細に析出し得ることも解った。
そこで、本発明は、前述のように複合ホウ化物からなる高剛性粒子がマトリックス中に明らかに分散している溶製高剛性鉄合金に限るものではなく、主合金元素とBとのリッチ相が準安定な状態でマトリックス中に存在していて十分な高ヤング率を発現するようなものも含むものである。
【0019】
なお、本発明の溶製高剛性鉄合金は、大気溶解等を経て製造されることでその低コスト化を図れるが、現実に製造される溶解雰囲気まで限定するものでないことを断っておく。例えば、不活性ガス雰囲気で原料が溶解等されても良い。
【0020】
(溶製高剛性鉄合金の製造方法)
本発明は、上記溶製高剛性鉄合金以外に、その製造方法としても把握できる。
(1)すなわち、本発明は、主成分であるFeと5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素とBとを含有した原料を溶解して合金溶湯を得る溶解工程と、該合金溶湯を冷却し凝固させる凝固工程とを備えてなり、Feを主成分とするマトリックス中に該マトリックスよりも高剛性な前記主合金元素、FeおよびBからなる複合ホウ化物の高剛性粒子が分散した溶製高剛性鉄合金が得られることを特徴とする溶製高剛性鉄合金の製造方法としても良い。
【0021】
(2)また、本発明は、全体を100質量%としたときに、主成分であるFeと、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素を合計で3〜50質量%と、Bを2〜5質量%とを含有した原料を溶解して合金溶湯を得る溶解工程と、該合金溶湯を冷却し凝固させる凝固工程とを備えてなり、ヤング率が225GPa以上の溶製高剛性鉄合金が得られることを特徴とする溶製高剛性鉄合金の製造方法としても良い。
【0022】
ところで、本発明の溶製高剛性鉄合金およびその製造方法で、前記主合金元素の合計を3〜50質量%としたのは、下限がそれ未満であれば生成されるホウ化物量が少なく、ヤング率の上昇が不十分であり、上限がそれを超えると凝固時の偏析が生じるのみならず多量のホウ化物によって機械加工性、熱間加工性が損なわれるからである。その下限は4質量%であると好ましく、その上限は30質量%であると好ましい。
【0023】
Bを2〜5質量%としたのは、下限がそれ未満であれば生成されるホウ化物量が少なく、ヤング率の上昇が不十分であり、上限がそれを超えると多量のホウ化物によって機械加工性、熱間加工性が損われるからである。その下限は2.5質量%であると好ましく、その上限は3.5質量%であると好ましい。
【0024】
本明細書でいう「高反応性元素」とは、溶解時、少量の添加しただけでも、OやNと反応して酸化物や窒化物を生成する元素である。このような元素として、Ti、Zr、V、Hf等を挙げることができる。
【0025】
また、「鉄合金」には、種々の形態が含まれる。例えば、鋳塊、スラブ、ビレット、圧延品、鍛造品、線材、板材、棒材等の合金素材や中間材であっても良いし、例えば、それを加工した、中間加工品、最終製品、それらの一部等の鉄合金部材であっても良い。
【0026】
【発明の実施の形態】
実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。なお、以下で述べる内容は、本発明の溶製高剛性鉄合金は勿論、その製造方法にも適宜該当する。
(1)鉄基マトリックス
鉄基マトリックス(以下、適宜単に「マトリックス」という。)はFeを主成分とするが、この他、機械的特性や加工性等を向上させる観点から、高剛性粒子のヤング率の極端な低下を招来しない元素を含有していても良い。このような元素として、Co、Si、Mn等ある。
【0027】
この他、高剛性粒子を構成するNbおよびTaの5a族元素やCr、MoおよびWの6a族元素も、マトリックスの合金元素となる。それらの元素の全てが複合ホウ化物となって析出し高剛性粒子になるとは限らず、残部はマトリックスのFe中に固溶等して存在し得る。特にCrは、Fe中に固溶し易く、マトリックス中でのCrの固溶量が多くなると、マトリックスがいわゆるステンレスに近くなって、溶製高剛性鉄合金は耐蝕性等に優れたものとなる。いずれの元素をどの程度含有させるかは、高剛性鉄合金に要求される強度、靱性、伸び、加工性等の観点から適宜決定すれば良い。
【0028】
(2)高剛性粒子
高剛性粒子は、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素と、Feと、Bとの複合ホウ化物からなる。また、鋳造した直後に複合ホウ化物が鉄基マトリックス中に晶出や析出している必要はなく、熱処理や熱間加工を加えた後に複合ホウ化物としてマトリックス中に析出しても良い。従って、このような溶製高剛性鉄合金では、最終的に複合ホウ化物がマトリックス中に分散した状態となっていれば良く、その途中の形態までは問わない。
【0029】
このような複合ホウ化物は、(Nb、Fe)B、(Ta、Fe)B、(Cr、Fe)B、(Mo、Fe)B、(W、Fe)B等と表されるが、その具体的な組成を特定することは現状では困難である。
【0030】
高剛性粒子は、このよう複合ホウ化物の1種のみからなれば足るが、2種以上の複合ホウ化物からなるとより好適である。例えば、(Cr、Fe)Bや(Mo、Fe)Bがマトリックス中に微細に析出しているような場合である。何故なら、多量の同種のホウ化物は、析出時に粗大化し易く、鋳造性、熱間加工性、機械的性質の低下を引き起す原因となるからである。
【0031】
また、マトリックスに分散する高剛性粒子は、上記主合金元素の1種とFeとBとからなる複合ホウ化物の単種やそのような複合ホウ化物の複数種で構成されるのが好ましい。2種以上の主合金元素とFeとBとからなる複合ホウ化物は、マトリックス中に析出する際に粗大化する傾向にあり、実用的な高剛性鉄合金が得られ難いからである。また、そのような複合ホウ化物の場合、ホウ化物中に他の元素が固溶しており、十分な高ヤング率が発揮されるとは限らない。もっとも、高剛性粒子である複合ホウ化物として析出する前の状態は、2種以上の主合金元素とBとからなるホウ化物の状態やそれらのリッチ相等であっても良い。
【0032】
複合ホウ化物を構成する前記主合金元素は、5a族元素および6a族元素の内、Nb、Cr、Mo、Wが好ましい。これらの元素は、酸素や窒素との反応性が乏しく、本発明の溶製高剛性鉄合金を大気溶解等するのに好ましいからである。その中でも、Nb、Cr、Moが好ましい。Wは、Moと同様の特性を示すと考えられるが、質量が大きくなるため、高剛性部材の軽量化等を図る際には不向きだからである。
【0033】
溶製高剛性鉄合金全体を100質量%としたときに、それらの元素は、Cr:25質量%以下、Mo:12質量%以下、Nb:12質量%以下であると好ましい。Cr、MoおよびNbの全ての元素が溶製高剛性鉄合金中に存在する必要はなく、上記組成比は、それらの元素が1種でも2種の場合でも良い。また、各元素の効果を発現させる観点から、CrとMoとNbとの合計量が3質量%以上であるのが良い。
【0034】
Crは、Bと反応することで高ヤング率のCr系ホウ化物を形成する。もっとも、過剰なCrはマトリックスのFe中に固溶して溶製高剛性鉄合金の耐蝕性を向上させ得る。Crの下限を1質量%としたのは、Crがそれより少ないと十分なヤング率の向上効果が得られないからである。Crの上限を25質量%としたのは、多量のCrがマトリックスへ固溶すると、σ相の生成を引き起しマトリックスの脆化を進めるからである。Crの下限が2質量%さらには3質量%であり、その上限が20質量%さらには15質量%であればより好ましい。
【0035】
Moは、Bと反応することで高ヤング率のMo系ホウ化物を形成し、このホウ化物は、前述した主合金元素のホウ化物中で最も溶製高剛性鉄合金のヤング率向上に寄与する。強度的にもMoを含むホウ化物は微細析出し易いため、Moは溶製高剛性鉄合金の強度向上を図る上でも有効な元素であると考えられる。Moの下限を1質量%としたのは、Moがそれより少ないと十分なヤング率の向上効果が得られないからである。Moの上限を12質量%としたのは、多量のMoは注湯温度を上昇させる要因となり、偏析の原因となるからである。Moの下限が2質量%さらには3質量%であり、その上限が9質量%さらには7質量%であればより好ましい。
【0036】
Nbは、Bと反応することで高ヤング率のNb系ホウ化物を形成する。Nbの下限を1質量%としたのは、Nbがそれより少ないと十分なヤング率の向上効果が得られないからである。Nbの上限を12質量%としたのは、多量のNbは注湯温度を上昇させる要因となり、偏析の原因となるからである。Nbの下限が2質量%さらには3質量%であり、その上限が9質量%さらには7質量%であればより好ましい。
【0037】
高剛性粒子は、溶製高剛性鉄合金全体を100体積%としたときに5〜50体積%さらには10〜35体積%分散していると好適である。これにより、例えば、ヤング率が225GPa以上、230GPa以上、235GPa以上、240GPa以上さらには245GPa以上の溶製高剛性鉄合金が得られる。
【0038】
さらに、溶製高剛性鉄合金の実用的な強度、靱性等を確保する上で、上記高剛性粒子は鉄基マトリックス中に微細に分散している方が好ましい。そこで、高剛性粒子は、平均粒径が1〜50μmさらには1〜10μmであると好適である。
【0039】
(3)溶解工程
主成分であるFeと前記主合金元素の1種以上とBとを少なくとも含む原料を溶解して合金溶湯を得る工程である。
このとき使用する原料の配合組成は、所望する溶製高剛性鉄合金のヤング率、強度、靱性、加工性、鋳造条件等を考慮して決定されるが、この配合組成がそのまま溶製高剛性鉄合金の合金組成となる必要はない。配合組成によっては、化合物の沈降等を生じ得るからである。
【0040】
ところで、上記原料には、4a族元素のTi等のように、大気中での反応性の高い高反応性元素を0.5質量%以上は含有しないのが良い。酸素や窒素との反応性が高い元素を含有していると、真空溶解、不活性ガス雰囲気中で溶解または特殊溶解等によって原料を溶解させることが必要となり、溶解工程ひいては溶製高剛性鉄合金の低コスト化を図れないからである。従って、本発明の場合、原料中に高反応性元素を含有せず、溶解工程がその原料を大気中で溶解する大気溶解工程であると好適である。
【0041】
(4)凝固工程
凝固工程は、溶解工程で得られた合金溶湯を冷却して凝固させる工程であるが、通常は、溶解工程で得られた合金溶湯を鋳型に注湯して凝固させる。鋳型には、金型、砂型等があるがいずれを使用しても良い。
【0042】
凝固工程中の冷却速度も問わない。冷却速度を早くすれば結晶粒が微細化し、冷却速度を遅くすると結晶粒が粗大化するが、本発明者が調査研究したところ、さらに次のことが解った。すなわち、冷却速度を十分に早くした場合、上記主合金元素とBとが溶製高剛性鉄合金の鋳物中に広く分布し、目立った粒子の析出が確認されなかった。これは、上記主合金元素のホウ化物または複合ホウ化物が超微細析出しているか、そのような化合物を形成する前の準安定な状態となっていると考えられる。もっとも、このような十分に早い冷却速度で凝固させた鋳物に熱処理(時効処理)を施すと、前記主合金元素とFeとBとの複合ホウ化物が微細に均一に広く析出することも解った。
【0043】
これに対し、冷却速度を十分に遅くした場合、前記主合金元素とFeとBとの複合ホウ化物が鋳造後に広く析出することも解った。この析出した複合ホウ化物は比較的粗大(10〜50μm程度)であった。しかし、その鋳造後の鋳物に熱間加工を特定条件下で施すと、以外にも熱間加工性に優れ、前記粗大な複合ホウ化物が粉砕されて微細な状態となった。
従って、冷却速度が早くても遅くても、結果的に、Feを主成分とするマトリックス中にマトリックスよりも高剛性な前記複合ホウ化物の高剛性粒子が分散した高剛性鉄合金が溶製法で得られることが確認された。
【0044】
以上のことを踏まえて、前記凝固行程の冷却速度は、急冷凝固させるときの冷却速度は3℃/sec以上にすると良い。逆に、砂型等で緩やかに凝固させるときの冷却速度は、3℃/sec以下でも良い。また、凝固工程は、ホウ化物が主に析出する800〜1200℃で行うのが好ましく、この温度範囲内で前記冷却速度をもつのが良い。
【0045】
マトリックス中に高剛性粒子を安定的にかつ微細に析出させるには、前記凝固行程後に800〜1150℃で1〜10時間保持する時効処理工程を施すと好適である。この時効処理工程は、その温度がさらに900〜1150℃であれば良く、その時間が1〜4時間であれば、より効率的に高剛性粒子をマトリックス中に分散させることができる。この時効処理工程は、前記冷却速度の大小と無関係に行っても良いが、前述したように、冷却速度が大きいとき(急冷時)に行うとより好ましい。
【0046】
さらに、前記凝固行程後に900〜1150℃で加工する熱間加工工程を行っても良い。硬質な高剛性粒子がマトリックス中に分散した溶製高剛性鉄合金は、通常の機械加工等が必ずしも容易ではないが、予め熱間加工工程を施しておくことで、その加工量の削減が可能となる。このような熱間加工には、例えば、熱間鍛造、熱間押出し、熱間スエージ等がある。この熱間加工工程は、冷却速度の大小と無関係に行っても良いが、前述したように、冷却速度が小さいとき(徐冷時)に行うとより好ましい。
【0047】
なお、この熱間加工工程を行う際の温度が、上記900℃未満では、素材の軟化が不十分で熱間加工性が悪く割れ等を生じ易い。逆に上記1150℃を超えると、素材が軟化し過ぎてやはり熱間加工性が悪くなり、割れ等を生じ易くなる。
【0048】
(5)用途
本発明の溶製高剛性鉄合金は、その用途が限定されるものではない。用途がいずれであれ、高剛性材料の使用によって、部材の軽量化や小型化を図ることが可能となる。また、その高剛性材料の使用によって部材の変形量が抑制されることで、その部材を組込んだ装置の精度向上や、その部材と関連する他部材へに加わる局部的な応力の軽減が図られる。
【0049】
この溶製高剛性鉄合金の用途の一例として、例えば、次のようなものがある。エンジン部材でいえば、クランクシャフト、コンロッド、ピストンピン等の回転・往復運動部材、ターボシャフト、サスペンションアーム、ブレーキキャリパー等がある。また、工作機械でいえば、スピンドルシャフト、固定用治具等がある。スポーツ部品でいえばゴルフクラブ等がある。
【0050】
【実施例】
実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
(溶製高剛性鉄合金の製造)
(1)溶解工程および凝固工程
原料として、工業用純鉄のインゴット、フェロボロン、電解クロム、フェロモリブデン、フェロニオブを用意した。これらの原料を表1に示す組成となるように配合した。
【0051】
表1中に示した試料No.1〜5は、上記原料を高周波溶解装置により大気中で溶解して1550℃の合金溶湯を得た後(溶解工程)、鋼製金型(φ60x70mm)へ鋳造したものである(凝固工程)。このときの冷却速度はほぼ3〜8℃/secであった。
【0052】
表1中に示した試料No.6〜8は、上記原料を高周波真空溶解装置により真空(1x10−3Pa以下)中で溶解して1550℃の合金溶湯を得た後(溶解工程)、ジルコニア型(φ30x80mm)へ鋳造したものである(凝固工程)。試料No.6〜8の鋳造に際して、ジルコニア型の型温度が800℃になるように、注湯前にその鋳型を予熱しておいた。この結果、このときの冷却速度はほぼ1〜3℃/secであった。なお、上記各試料毎の原料の溶解量は、全て1.4kgとした。
【0053】
(2)時効処理工程および熱間加工工程
上記鋳造後に得られた試料No.1〜5に、1100℃x2.5時間の熱処理を施した(時効処理工程)。これらの試料を順に試料No.11〜15とする。また、前記試料No.6〜8に、上記と同様の熱処理を施した。それらの試料を順に試料No.16〜18とする。
【0054】
なお、試料No.1〜8に加熱処理を施さずに熱間鍛伸を施した(熱間加工工程)が、特に問題なく鍛伸できることを確認している。この熱間鍛伸は、各試料を1100℃に加熱して行いφ15mmになるまで行ったものである。
【0055】
(試料の測定および観察)
(1)機械的特性
上述の得られた各試料について、ヤング率を超音波パルス方により求めた。この内、試料No.1〜8および試料No.11〜15のヤング率を対比して図1に示した。試料No.16〜18のヤング率は、試料No.6〜8のヤング率とほぼ同じであったので図1中には示さなかった。
【0056】
また試料No.1については、引張り試験を行い、引張強度、真破断応力および伸びも求めた。これらを図2に示した。なお、上記各試料のヤング率は、表2にまとめて示した。
【0057】
(2)組織観察
上記各試料の組織をSEM(走査電子顕微鏡)により観察した。代表例として、試料No.2および試料No.12と、試料No.5および試料No.15と、試料No.7との観察結果を図3〜5に示した。
【0058】
(評価)
(1)機械的特性
図1および表2からも明らかなように、本発明のいずれの試料もヤング率が225GPa以上であって、鉄鋼材料のヤング率210GPaを大きく上回っていた。ここで、徐冷凝固させた試料No.6〜8は、鋳造状態のままでも240GPa以上の高ヤング率を発揮した。
【0059】
急冷凝固させた試料No.1〜5は、鋳造状態のままでも225GPa以上の高ヤング率を発揮したが、これに前記時効処理を施すと(試料No.11〜15)、ヤング率はいずれもさらに大きく上昇した。特に、主合金元素として、CrおよびMoの両方を含有している試料の場合、その時効処理によってヤング率が大きく(10〜20GPa程度)上昇した。例えば、試料No.12の場合、256GPaにまで到達した。
【0060】
試料No.12と試料No.7等を比較すれば解るように、冷却速度の大小に拘らず、最終的に到達し得るヤング率はMo量に大きく影響され、Cr:4質量%のときなら、Mo:8.3質量%、B:2.7質量%で最大を示した。
【0061】
試料No.5と試料No.15を観れば解るように、Moに替えてNbを含有させても240GPaという高ヤング率が得られた。この場合、時効処理によってヤング率は上昇するもののその変化量は僅かであった。
【0062】
試料No.6〜8と試料No.16〜18とを比較すれば解るように、ヤング率は、時効処理によって殆ど変化せず、急冷凝固後に時効処理を施した同組成の試料No.11やNo.12と同程度であった。
【0063】
次に、図2からも明らかなように、試料No.11の場合、引張強度が800MPa程度、伸びが9%程度であり、ヤング率以外の特性も良好で、バランスの良い機械的特性を示した。この傾向は、他の試料についても同様であった。従って、各試料の溶製高剛性鉄合金は、機械構造部材への利用が十分に期待できるものである。これは、(Mo、Fe)B等の複合ホウ化物がマトリックス中に微細に析出したためと思われる。
【0064】
ここで、Moを含有させた試料No.1〜4および11〜14も、Nbを含有させた試料No.5および15も、両者とも組成に応じたヤング率が得られているが、前者のMoを含有する試料は、時効処理によってMo系ホウ化物が微細析出するのに対し、後者のNbを含有する試料は、Nb系ホウ化物が凝固工程中に析出してホウ化物が粗大化し易かった。そこで、強度、靱性、伸び等の要求される機械構造部品等には、Moを含有させてMo系ホウ化物(複合ホウ化物)を微細に析出させるのが好ましいと考えられる。
【0065】
同様のことは、試料No.1〜5および11〜15と、試料No.6〜8および16〜18とを比較した場合にもいえる。すなわち、合金溶湯を急冷凝固させて、ホウ化物をマトリックス中に微細に分散させた試料No.11〜15等がより好ましい。
【0066】
Bと反応してホウ化物を構成する主合金元素(Cr、Mo、Nb等)と、Bとの間の最適な組成比を特定するのは容易ではないが、原子%比でいえば、主合金元素:Bが1:1〜2程度となるのが好ましいと考えられる。なお、ここでいう主合金元素の組成は、ホウ化物を構成する分についてであるので、マトリックス中に固溶等する分は除く。例えば、Crのように、マトリックスの耐蝕性向上を目的として多量に固溶させた分は除かれる。もっとも、マトリックスにCrが固溶することで、僅かであるがヤング率の上昇に寄与する。
【0067】
(2)金属組織
前述したように、鋳造後に時効処理を施すことで微細な粒子が析出するのが確認されたが(図3)、これをEPMA(Electon Probe Micro Analyser)で観察した結果、その微細な析出物はMo系ホウ化物(Mo、FeおよびBの複合ホウ化物)であることが判明した。この複合ホウ化物は、熱処理前に観察されたCr、MoおよびBのリッチ相(準安定相)から析出したものであると考えられる。
【0068】
図4からも解るように、試料No.5と試料No.15とでは、やや粗大なホウ化物の析出が認められたが、時効処理前後で組織は殆ど変化しなかった。
図5からも解るように、試料No.7では、粗大なホウ化物の析出が認められたが、時効処理前後で組織は殆ど変化しなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例にかかる各試料のヤング率を対比した棒グラフである。
【図2】その実施例中の一試料の機械的特性を示す棒グラフである。
【図3】その実施例中の試料2および試料No.12について観察した組織写真であり、同図(a)は鋳造後の状態を示し、同図(b)はさらに熱処理を施した状態を示す。
【図4】その実施例中の試料5および試料No.15について観察した組織写真であり、同図(a)は鋳造後の状態を示し、同図(b)はさらに熱処理を施した状態を示す。
【図5】その実施例中の試料7について観察した、鋳造後の状態を示す組織写真である。
Claims (14)
- 原料を溶解、凝固させて得られ、
鉄(Fe)を主成分とするマトリックスと該マトリックス中に分散した該マトリックスよりも高剛性な高剛性粒子とからなる溶製高剛性鉄合金であって、
前記高剛性粒子は、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素とFeとホウ素(B)との複合ホウ化物からなることを特徴とする溶製高剛性鉄合金。 - 全体を100質量%としたときに、前記主合金元素は合計で3〜50質量%であり、Bは2〜5質量%である請求項1に記載の溶製高剛性鉄合金。
- 前記主合金元素はCr、MoおよびNbの1種以上からなり、
全体を100質量%としたときに、Crは25質量%以下、Moは12質量%以下、Nbは12質量%以下であると共にCr、MoおよびNbの合計量が3質量%以上である請求項2に記載の溶製高剛性鉄合金。 - 前記高剛性粒子は、2種以上の前記複合ホウ化物からなる請求項1または3に記載の溶製高剛性鉄合金。
- 前記高剛性粒子は、全体を100体積%としたときに5〜50体積%である請求項1に記載の溶製高剛性鉄合金。
- ヤング率(縦弾性係数)が225GPa以上である請求項1または5に記載の溶製高剛性鉄合金。
- 前記高剛性粒子は、平均粒径が1〜50μmである請求項1に記載の溶製高剛性鉄合金。
- 原料を溶解、凝固させて得られ、
全体を100質量%としたときに、主成分であるFeと、
5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素を合計で3〜30質量%と、
Bを1〜5質量%とを含有し、
ヤング率が225GPa以上であることを特徴とする溶製高剛性鉄合金。 - 前記原料は、大気中での反応性の高い高反応性元素を含まない請求項1または8に記載の溶製高剛性鉄合金。
- 主成分であるFeと5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素とBとを含有した原料を溶解して合金溶湯を得る溶解工程と、
該合金溶湯を冷却し凝固させる凝固工程とを備えてなり、
Feを主成分とするマトリックス中に該マトリックスよりも高剛性な前記主合金元素、FeおよびBからなる複合ホウ化物の高剛性粒子が分散した溶製高剛性鉄合金が得られることを特徴とする溶製高剛性鉄合金の製造方法。 - 全体を100質量%としたときに、主成分であるFeと、5a族元素(Nb、Ta)および6a族元素(Cr、Mo、W)の元素群中から選択した1種以上の主合金元素を合計で3〜50質量%と、Bを2〜5質量%とを含有した原料を溶解して合金溶湯を得る溶解工程と、
該合金溶湯を冷却し凝固させる凝固工程とを備えてなり、
ヤング率が225GPa以上の溶製高剛性鉄合金が得られることを特徴とする溶製高剛性鉄合金の製造方法。 - 前記原料は、大気中での反応性の高い高反応性元素を含まず、前記溶解工程は、大気中で行う大気溶解工程である請求項10または11に記載の溶製高剛性鉄合金の製造方法。
- さらに、前記凝固行程後に800〜1150℃で1〜10時間保持する時効処理工程を備える請求項10または11に記載の溶製高剛性鉄合金。
- さらに、前記凝固行程後に900〜1150℃で加工する熱間加工工程を備える請求項10または11に記載の溶製高剛性鉄合金。
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