JP2005006522A - 耐塩性を選択マーカーとする形質転換植物の作製方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】選択マーカー遺伝子産物による新たな植物病原菌や、病虫害の発生を招く可能性がある薬剤耐性遺伝子や抗生物質を用いずに、遺伝子組換え植物を選択することができる植物形質転換用組換えベクターや、当該植物形質転換用組換えベクターを用いてた形質転換植物の作製方法等を提供すること
【解決手段】codA遺伝子を選択マーカー遺伝子とする新規形質転換プラスミドベクターを作製し、植物細胞を形質転換し、形質転換細胞の選択に食塩水を用いたところ、細胞又はカルスのレベルで形質転換細胞を効率よくスクリーニングすることができ、塩ストレスのない通常のフィールドの生育条件下では耐塩性遺伝子の発現が抑制される。
【解決手段】codA遺伝子を選択マーカー遺伝子とする新規形質転換プラスミドベクターを作製し、植物細胞を形質転換し、形質転換細胞の選択に食塩水を用いたところ、細胞又はカルスのレベルで形質転換細胞を効率よくスクリーニングすることができ、塩ストレスのない通常のフィールドの生育条件下では耐塩性遺伝子の発現が抑制される。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コリンオキシダーゼ遺伝子等の耐塩性遺伝子を選択マーカー遺伝子とする植物形質転換用組換えベクターや、該植物形質転換用組換えベクターを用いた形質転換植物の作製方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子工学技術を利用した植物細胞の形質転換によるトランスジェニック植物を作製する工程には、概略、目的遺伝子の植物細胞への導入工程(染色体、葉緑体、核等に導入される場合も含む。)、目的遺伝子が導入された植物細胞、未分化のカルス組織又は植物の選択工程、選択された植物細胞、カルス又は植物からの種子の再生工程の3工程がある。このうち目的遺伝子導入植物細胞、カルス又は植物の選択工程において、目的遺伝子は、発現が容易に検出できる選択マーカー遺伝子と共に植物細胞に導入され、選択マーカー遺伝子の発現の有無が目的遺伝子導入の指標として普通用いられる。例えば、このような選択マーカー遺伝子としては、抗生物質、除草剤等に対する抵抗性を付与するタンパク質をコードする遺伝子が選択マーカー遺伝子として用いられており、かかる選択マーカー遺伝子として、抗生物質耐性を付与するカナマイシン抵抗性遺伝子(NPTII:ネオマイシンリン酸化酵素遺伝子)、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子(HPT:ハイグロマイシンリン酸化酵素遺伝子)、ホスフィノトリシン抵抗性遺伝子(PPT:ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子)等や、アミノ酸合成に関与するノパリン合成酵素遺伝子(NOS)、オクトピン合成酵素遺伝子(OCS)等や、農薬耐性を付与するスルフォニルウレア系抵抗性遺伝子(ALS:アセトラクテート合成酵素遺伝子)等が知られている。
【0003】
しかし、選択マーカー遺伝子の発現は、このような遺伝子導入植物を食用等に供することを目的とした場合、重大な障害となっているのが現状である。植物にとって本来存在しないかかる選択マーカー遺伝子が発現することによって生ずる遺伝子産物の人体への安全性を担保することが非常に困難であり、従って、これら選択マーカー遺伝子を指標として作製された遺伝子導入植物を食品として販売する場合には、その遺伝子産物の人体への影響について詳細な調査が必要とされている。例えば、NPTII遺伝子は、既に1980年代前半から、選択マーカー遺伝子として実験室レベルでは盛んに用いられてきたが、1994年にその遺伝子産物が米国食品衛生局(FDA)により食品添加物として認可され、これを選択マーカー遺伝子として用い、形質転換された遺伝子導入植物が食用等に供されるようになった。しかし、消費者レベルでは、このようなNPTII遺伝子産物への不安感は依然として存在し続けている。
【0004】
また現在、選択マーカー遺伝子として実用化されているのは、このNPTII遺伝子を始め、細胞に対する成長阻害物質の解毒作用に寄与する遺伝子のみであり、それ故、目的遺伝子導入植物細胞、カルス又は植物の選択にあたっては、これら成長阻害物質を含む培地でその培養を行い、選択マーカー遺伝子の発現によるかかる物質に対する耐性を評価し、これを指標とすることになる。しかし、耐性物質の存在下で組織が増殖する場合、このような阻害物質の存在下での培養が、細胞にとって好ましからぬ影響を与えることは避け難く、現実に、細胞の活性低下に伴う遺伝子導入組織の増殖、再分化率の低下等の副作用が問題となっている。このような問題を解決する方法として、再生後の形質転換植物は目的遺伝子を含むが、選択マーカーとして用いた薬剤耐性遺伝子を含まない形質転換植物を得ることを可能とする植物の形質転換方法に関する研究が行われている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0005】
一方、植物は細胞内塩濃度が上昇すると、グリシンベタインやプロリン等の外的浸透圧変化に応じて細胞内の浸透圧を維持するための適合溶質(compatible solute)と呼ばれる特殊な低分子化合物を細胞内に合成する。この適合溶質の代謝経路は良く知られており、代謝に関わる酵素の遺伝子もわかっている。また、適合溶質は代謝されにくく、しかも他の代謝系に影響を与えない。そのため細胞内に高濃度で蓄積され、浸透圧調節に適している。さらに、タンパク質の構造変化や活性部位変化を抑制する働きもある。中でも、高塩濃度や水分欠乏環境に適応性のある植物や細菌に見られる適合溶質であるグリシンベタインはアカザ科、イネ科、ナス科などの高等植物のほか、ラン藻、大腸菌などにおける適合溶質であると考えられており(例えば、非特許文献1参照。)、環境との浸透圧バランスを維持し(例えば、非特許文献2参照。)、また高塩濃度による可溶性酵素の解離を防止する(例えば、非特許文献3参照。)適合溶質として、また、周辺タンパク質と光合成の酸素発生複合体内のマンガンクラスターの安定化によって、高塩濃度から光化学系II複合体を保護することができる物質として知られている(例えば、非特許文献4参照。)。植物にグリシンベタイン等の適合溶質合成の鍵となる遺伝子を導入することにより、耐塩性植物の作出が可能となり、すでにシロイヌナズナ、タバコ・イネにはその応用が試みられている。
【0006】
大腸菌やホウレンソウ(Spinacia oleracea)では、2段階の酸化を経てコリンからグリシンベタインが生合成される。大腸菌はコリンをベタインアルデヒドに酸化する膜結合性でNAD依存性のコリン脱水素酵素(例えば、非特許文献5参照。)と、ベタインアルデヒドをグリシンベタインに酸化する可溶性でNAD依存性のベタインアルデヒド脱水素酵素(例えば、非特許文献6参照。)の2種類の脱水素酵素をもつ。また、高等植物では、グリシンベタインは葉緑体中で大腸菌と同様の経路で生合成されることが明らかとなっている。ホウレンソウでは、フェレドキシン依存性のコリンモノオキシゲナーゼにより第1段階の酸化が触媒されており(例えば、非特許文献7参照。)、第2段階の酸化を触媒するNAD依存性のベタインアルデヒド脱水素酵素(例えば、非特許文献8参照。)は既に単離されている。このような植物を塩ストレスにさらすと、両方の酵素の活性が上昇し、グリシンベタイン量が増加することが観察されている(例えば、非特許文献9参照。)。一方、グラム陽性の土壌細菌であるアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ(COD)は、1段階の酸化反応でコリンをグリシンベタインに酸化することが知られている(例えば、非特許文献10参照。)。本発明者は土壌細菌であるアルスロバクター(Arthrobacter)由来のコリンオキシダーゼ遺伝子(codA)を単離し[日本植物生理学会1994年度年会、第34回シンポジウム(1994年3月28日〜30日)]、これをラン藻、アブラナ科の植物及びイネ科の植物に組み込み、耐塩性及び/又は耐浸透圧性の植物体や耐温度性の植物体を得ることに成功している(例えば、特許文献3、4及び非特許文献11〜16参照。)。
【0007】
また最近、多くの植物や細菌について塩ストレスによって発現が誘導される遺伝子が多数同定されている。たとえば耐塩性植物の創出に有効と思われる遺伝子は、適合溶質(グリシンベタイン、マンニトール、ソルビトール、プロリン、オノニトールなど)合成遺伝子(例えば、非特許文献17、18参照。)、各種ストレスによって誘導される一般的な蛋白質(Late Embryogenesis Abundunt蛋白質、アブシジン酸応答蛋白質、デヒドリン、熱ショック蛋白質、オスモチンなど)をコードする遺伝子、イオン輸送やイオン恒常性保持に必要な蛋白質(Na+/H+アンチポーター、K+チャネル、水チャネル、Ca2+ATPaseなど)をコードする遺伝子、RNAの構造を安定化させることにより、植物に耐塩性を付与することができるRNAヘリカーゼをコードするオオムギHVD1遺伝子(例えば、特許文献5参照。)などである。またこれら耐塩性をコードする遺伝子は、その役割が類似するものであっても各植物、細菌などその給源によって、その構造、発現のための仕組みは異なりその種の特徴となっている。
【0008】
【特許文献1】
国際公開99/67406号パンフレット
【特許文献2】
国際公開95/16031号パンフレット
【特許文献3】
国際公開第97/24026号パンフレット
【特許文献4】
国際公開第96/29857号パンフレット
【特許文献5】
特開2002−34576号公報
【非特許文献1】
Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 44:357−3584,1993
【非特許文献2】
J. Plant Physiol. 13:659−668. 1986
【非特許文献3】
Arch. Biochem. Biophys. 264:333−339, 1988
【非特許文献4】
FEBS Lett. 296:187−189, 1992
【非特許文献5】
J. Bacteriol. 165:849−855, 1986
【非特許文献6】
Biochim. Biophys. Acta 1034:253−259, 1990
【非特許文献7】
Plant Physiol. 90:322−329, 1989
【非特許文献8】
Planta 178:342−352, 1989
【非特許文献9】
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 82:3678−3682, 1985
【非特許文献10】
J. Biochem. 82:1741−1749, 1977
【非特許文献11】
J. Plant Res. 111: 357−362, 1998
【非特許文献12】
Plant, Cell and Enviroment 21, 232−239, 1998
【非特許文献13】
The Plant Journal 16 (2), 155−161, 1998
【非特許文献14】
Plant Molecular Biology 38: 1011−1019, 1998
【非特許文献15】
J. Bacteriol. 178. 339−344, 1997
【非特許文献16】
The Plant Journal 12, 133−142, 1997
【非特許文献17】
Plant Cell 7:1099−1111,1995
【非特許文献18】
Plant Physiol. 115, 1221−1219,1998
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
遺伝子組換え植物の本格的栽培生産の障害の一つに薬剤耐性マーカーを有する形質転換体のフィールド栽培は認可されない、又は認可されがたいという問題がある。薬剤耐性株を栽培すると、その薬剤に耐性の新種の植物病原菌や病原虫の早期発生を招くとの懸念を否定することができない。これに対し、その遺伝子産物が本来植物成分ではない薬剤耐性マーカー遺伝子の代りに、その遺伝子産物が本来植物成分である選択マーカー遺伝子で形質転換されたトランスジェニック植物の場合、選択マーカー遺伝子産物による新たな植物病原菌や、病虫害の発生を招く可能性は格段に低くなる。かかる選択マーカー遺伝子として、耐塩性遺伝子を組み込んだ植物体の場合、細胞又はカルスのレベルでのスクリーニングの際に耐塩性を選択マーカーとして利用するだけであって、塩ストレスのない通常のフィールドの生育条件下では耐塩性遺伝子の発現は抑制されるため、野生株と形質転換体とは表現型において差は認められない。この点においても、選択マーカー遺伝子産物による新たな植物病原菌や、病虫害の発生を招く可能性は格段に低くなり、フィールド栽培が認可される、又は認可されやすくなる。このことは組換え植物・種子穀物の開発・生産の進展を左右するため、薬剤耐性に代る耐塩性マーカー、及びそれが組み込まれたベクターには産業上の大きなメリットがある。すなわち本発明の課題は、選択マーカー遺伝子産物による新たな植物病原菌や、病虫害の発生を招く可能性がある薬剤耐性遺伝子や抗生物質を用いずに、遺伝子組換え植物を選択することができる植物形質転換用組換えベクターや、当該植物形質転換用組換えベクターを用いてた形質転換植物の作製方法等を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、目的遺伝子としてのアルスロバクター・グロビフォルミス(A.globiformis)のCODをコードする遺伝子codAと、選択マーカー遺伝子としての薬剤耐性遺伝子(カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子)をともに、植物細胞の遺伝子導入に広く用いられるTiプラスミドのT−DNA領域に組み込み、これをアグロバクテリウム法で植物細胞に導入・培養し、薬剤耐性株の中からCOD活性をもつ形質転換株を取得し、種々の耐塩性環境下で生育比較した結果、野生株が生育しない環境でも形質転換株は生育することを確認し、アルスロバクター・グロビフォルミス由来のcodA遺伝子は他の耐塩性を持たない(又は低い)植物に導入すれば耐塩性を付与(又は向上)する遺伝子であるとの知見を既に得ている。これとは別に、薬剤耐性遺伝子を形質転換植物体から如何に脱落させるか、如何に発現させないか等について検討している過程で、発想の転換の必要性を感じ始めていたときに、前記知見に基づいて、codA遺伝子を目的遺伝子とせず、選択マーカー遺伝子としたらどうなるかという発想にたまたま辿り着いた。そこで、codA遺伝子を選択マーカー遺伝子とする新規形質転換プラスミドベクターを早速作製し、植物細胞を形質転換し、形質転換植物の選択に食塩水を用いたところ、植物体のレベルで形質転換植物を効率よくスクリーニングすることができることや、塩ストレスのない通常のフィールドの生育条件下では耐塩性遺伝子の発現が抑制されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有する組換えベクターで植物を形質転換し、塩ストレス条件下、耐塩性を選択マーカーとして耐塩性の植物、カルス又は植物細胞をスクリーニングすることを特徴とする形質転換植物の作製方法(請求項1)や、選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子が適合溶質合成遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の形質転換植物の作製方法(請求項2)や、適合溶質合成遺伝子がコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項2記載の形質転換植物の作製方法(請求項3)や、コリンオキシダーゼ遺伝子がアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項3記載の形質転換植物の作製方法(請求項4)に関する。
【0012】
また本発明は、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有し、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物、カルス又は植物細胞をスクリーニングすることができることを特徴とする植物形質転換用組換えベクター(請求項5)や、選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子が適合溶質合成遺伝子であることを特徴とする請求項5記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項6)や、適合溶質合成遺伝子がコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項6記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項7)や、コリンオキシダーゼ遺伝子がアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項7記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項8)や、耐塩性遺伝子と目的遺伝子とがプロモーターとターミネーターをそれぞれ有することを特徴とする請求項5〜8のいずれか記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項9)や、プロモーターが転写量を高めるためのイントロンを介して耐塩性遺伝子に連結されていることを特徴とする請求項5〜9のいずれか記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項10)や、請求項5〜10のいずれか記載の植物形質転換用組換えベクターが導入されていることを特徴とする植物および植物細胞(請求項11)に関する。
【0013】
さらに本発明は、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と、目的遺伝子を組み込むことができるクローニングサイトとを備え、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物、カルス又は植物細胞のスクリーニングに用いられることを特徴とする植物形質転換用発現ベクター(請求項12)や、選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子が適合溶質合成遺伝子であることを特徴とする請求項12記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項13)や、適合溶質合成遺伝子がコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項13記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項14)や、コリンオキシダーゼ遺伝子がアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項14記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項15)耐塩性遺伝子がプロモーターとターミネーターを有することを特徴とする請求項12〜15のいずれか記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項16)プロモーターが転写量を高めるためのイントロンを介して耐塩性遺伝子に連結されていることを特徴とする請求項12〜16のいずれか記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項17)に関する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の形質転換植物の作製方法としては、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有する組換えベクターで植物を形質転換し、塩ストレス条件下、耐塩性を選択マーカーとして耐塩性の植物、カルス又は植物細胞をスクリーニングする作製方法であれば特に制限されるものではなく、また、本発明の植物形質転換用組換えベクターとしては、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有し、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物細胞又はカルスをスクリーニングすることができるベクターであれば特に制限されるものではなく、さらに、本発明の植物形質転換用発現ベクターとしては、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と、目的遺伝子を組み込むことができるマルチクローニングサイト等のクローニングサイトとを備え、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物細胞又はカルスのスクリーニングに用いられるベクターであれば特に制限されるものではなく、本発明における植物としては、高等植物、例えばアブラナ科植物等の双子葉植物やイネ等の単子葉植物を挙げることができる。
【0015】
上記選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子としては、植物細胞内で発現した場合に、該植物、植物細胞や未分化のカルス組織に耐塩性を付与しうる遺伝子であれば特に制限されず、例えば、グリシンベタイン、マンニトール、ソルビトール、プロリン、オノニトールなどの適合溶質合成遺伝子や、Late Embryogenesis Abundunt蛋白質、アブシジン酸応答蛋白質、デヒドリン、熱ショック蛋白質、オスモチンなど各種ストレスによって誘導される一般的な蛋白質をコードする遺伝子や、Na+/H+アンチポーター、K+チャネル、水チャネル、Ca2+ATPaseなどイオン輸送やイオン恒常性保持に必要な蛋白質をコードする遺伝子や、RNAの構造を安定化させることにより、植物に耐塩性を付与することができる遺伝子を挙げることができるが、中でも形質転換細胞のスクリーニングの簡便さから適合溶質合成遺伝子が好ましく、特にグリシンベタイン合成酵素遺伝子が好ましい。
【0016】
上記グリシンベタイン合成酵素遺伝子としては、コリンをグリシンベタインに1段階反応で変換しうる機能をもつコリンオキシダーゼ遺伝子が好ましく、グラム陽性の土壌細菌アルスロバクター属(Arthrobacter)由来のもの、例えば、アルスロバクター・グロビフォルミスやアルスロバクター・パセンス(A. pascens)由来のものが好ましく、特にアルスロバクター・グロビフォルミス由来のものが好ましい。アルスロバクター・グロビフォルミスから得られるコリンオキシダーゼ遺伝子(codA遺伝子)は、本発明者により単離されており、1641bpのオープンリーディングフレームをもち、547アミノ酸をコードする。codA遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。配列番号1に記載のアミノ酸をコードする塩基配列、又はその一部を付加、欠失もしくは置換した塩基配列をもつ遺伝子であっても、コリンオキシダーゼ活性を示すポリペプチドをコードする限り本発明の選択マーカー遺伝子として使用することができる。
【0017】
上記目的遺伝子としては、植物で発現させようとする所望の遺伝子であって、特に制限されないが、例えば、酵素、貯蔵タンパク質、甘味料、医薬物質等の有用物質をコードしている遺伝子や、耐冷性、耐熱性、多收性、除草剤耐性、耐病性などの植物の形質を改善させるような遺伝子等を挙げることができる。また、例えばルシフェラーゼ遺伝子を目的遺伝子とすることにより、種々の耐塩性遺伝子が各種植物において塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子として有用か否かを簡便に確認することができる。
【0018】
細胞内での遺伝子の転写レベルを決定する主要な因子であるプロモーター、好ましくは転写活性の強いプロモーターの制御下に耐塩性遺伝子や目的遺伝子をおくことにより、これら遺伝子の発現量を高めることができる。また、転写終結を指令する役割に加えて、転写により生じたRNA鎖のプロセシングや分解に対しても重大な影響を示すターミネーターを、耐塩性遺伝子や目的遺伝子の翻訳領域の3’末端直後に挿入しておくとこれら遺伝子の発現量増大に効果的である。上記プロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ユビキチンubi1プロモーター、アクチンプロモーター、TR1’プロモーター若しくはTR2’プロモーター等の異種遺伝子の発現が所望される組織を含む広範囲の組織において発現する構成性プロモーターを例示することができ、上記ターミネーターとしては、ノパリンシンターゼ(NOS)ターミネーター、カリフラワーモザイクウイルス35Sターミネーター、オクトピンシンターゼターミネーター等を例示することができる。
【0019】
さらに、転写量を高めるためのイントロンを介してプロモーターに耐塩性遺伝子を連結させることが好ましい。例えば、プロモーターを含む配列内の、プロモーターの制御配列を含む配列の3’末端と、ターミネーターを含む配列内の、ターミネーターの制御配列を含む配列の5’末端との間にイントロンを設けると、遺伝子の発現効率を上げることができたり、あるいは、mRNAの安定性を上げることができるので好ましい。かかるイントロンとしては、そのイントロンを植物に導入した場合に、mRNAの核外への移行又はスプライシングに際し、取り除くことのできるイントロンが好ましい。このようなイントロンとしては、例えば、イネのスーパーオキシドジスムターゼイントロン、ヒマ・カタラーゼイントロン、トウモロコシ・ユビキチンイントロン等を例示することができる。また、耐塩性遺伝子の発現産物である酵素等が葉緑体で機能するようにRuBisCOの小サブユニットの移行シグナル配列を挿入することもできる。
【0020】
上記選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とが組み込まれている植物形質転換用組換えベクターとしては、該組換えベクターが植物細胞に導入されたとき、植物細胞中において選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを発現させ、植物を形質転換することができ、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物体、細胞又はカルスをスクリーニングすることができるベクターであればどのようなものでもよく、また、上記選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と、目的遺伝子を組み込むことができるクローニングサイトとを備えた植物形質転換用発現ベクターとしては、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物体、細胞又はカルスのスクリーニングに用いられるものであって、前記クローニングサイトに目的遺伝子を挿入することにより、上記植物形質転換用組換えベクターとしうるものであればどのようなものでもよく、上記クローニングサイトは、ポリリンカークローニングサイト(polylinker cloning site)とすることが好ましい。
【0021】
上記植物形質転換用組換えベクターや植物形質転換用発現ベクターは、形質転換方法や植物の種類に応じて適宜構築することができるが、これらベクターには、プロモーター及びターミネーター、さらにイントロンを含むプラスミドであって、プロモーターとターミネーターとの間に選択マーカー遺伝子や目的遺伝子が挿入されているものが好ましく、例えば、従来の薬剤耐性遺伝子を含むプラスミドベクター、例えばpGAH、pUC119、pUC303、pUBA、pBI121などを基本ベクターとし、これら基本ベクターにおける薬剤耐性遺伝子を耐塩性遺伝子に置換することにより、植物形質転換用発現ベクターを構築することができる。その他、プロモーターを含む配列、イントロンを含む配列、耐塩性遺伝子及び目的遺伝子を含む配列、ターミネーターを含む配列をすべて順次連結した発現カセットや、プロモーターを含む配列、イントロンを含む配列、耐塩性遺伝子を含む配列、ターミネーターを含む配列と、プロモーターを含む配列、目的遺伝子を含む配列、ターミネーターを含む配列とをすべて順次連結した発現カセットを、適当なプラスミドに一度に挿入することもできるし、それぞれ別々に適当なプラスミドに順次挿入することもできる。一般的には、植物で機能することのできるプロモーター及びターミネーター、耐塩性遺伝子、場合により更にイントロンを含むプラスミドを予め調製し、プラスミドに設けられたポリリンカークローニングサイトに目的遺伝子をインフレームで挿入することが好ましい。
【0022】
構築した植物形質転換用組換えベクターを植物に導入する方法としては、植物の形質転換法として確立されている任意の方法を利用することができる。このような方法としては、例えば、直接導入法、又はアグロバクテリウムを介した導入方法などを挙げることができる。直接導入法としては、例えば、エレクトロポレーション法又はポリエチレングリコール法を用いて植物プロトプラストへ直接導入することができる。あるいは、ミクロプロジェクタイルを利用して植物細胞に直接導入するパーティクルガン法や、バキュムインフィルトレーション法などを挙げることができる。宿主としてイネを用いる場合は、パーティクルガン法又はアグロバクテリウムを介した導入方法が好ましい。また、形質転換する細胞としては、使用する導入方法に応じて、その導入方法に適した細胞を用いることができる。宿主としてアラビドプシスを用いる場合は、適切な細胞として、胚軸カルスを用いることができ、宿主としてイネを用いる場合は、適切な細胞として、例えば、未熟種子若しくは完熟種子より摘出した胚、又は誘導したカルスを用いることができる。バキュムインフィルトレーション法で種子に直接アグロバクテリウムを感染させる方法も好ましい方法である。
【0023】
以下、耐塩性遺伝子としてcodA遺伝子を例にとって本発明の耐塩性を選択マーカーとする形質転換植物の作製方法について説明する。
双子葉植物などでは、形質転換植物の作出に、プロトプラストを経由する遺伝子導入法、あるいは組織の一部を用いる遺伝子導入法を利用できる。組織片を用いる遺伝子導入では、アグロバクテリウム(Agrobacterium)由来のTiプラスミドを利用することができる。codA遺伝子と目的遺伝子(例えば、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子luc)とを組み込んだプラスミドをもつアグロバクテリウムをカルス化した植物組織片に感染させるか、あるいは、バキュムインフィルトレーション法により感染させ、耐塩性を選択マーカーとして形質転換体を選択し、次いで茎葉を分化させて形質転換植物体を得ることができる。具体的には、アブラナ科のアラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana:和名シロイヌナズナ)を次のようにして遺伝子組換え形質転換植物体を得ることができる。すなわち、codA遺伝子と目的遺伝子(例えば、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子luc)とを含むバイナリーベクタープラスミドpCOD/lucを作製し、Tiプラスミドをもつアグロバクテリウム・ツメファシエンス(A. tumefaciens)EHA101に組み込んだ。codA遺伝子と目的遺伝子lucとが組み込まれたアグロバクテリウムEHA101(pCOD/luc)をアラビドプシスの胚軸カルスに感染させた後、シュート形成を行い、耐塩性を選択マーカーとして茎葉を選択して根を誘導し、種子形成を行う。このようにして得られるヘテロ個体のT1種子から得られる植物体を自家交配して得たホモ個体T2を播種して、植物体を形成させる。この形質転換植物では、高濃度の塩化ナトリウム存在下でも良好に生育することから、耐塩性を選択マーカーとして耐塩性の植物細胞又はカルスをスクリーニングすることが可能となり、目的とする形質転換植物を得ることができる。かかる形質転換植物における目的遺伝子産物の発現をウエスタンブロットにより確認することが好ましい。
【0024】
単子葉植物であるイネ(Oryza sativa L.cv.Nipponbare)を形質転換する場合にも、例えば、pCODに目的遺伝子を組み込んだ組換えベクターを用いることができる。これらいずれの遺伝子の発現量を高めるためにイネ由来のイントロンを5’非翻訳配列中に含むものが好ましい。具体的には、イネを次のようにして形質転換して目的遺伝子の組換え植物体を得ることができる。すなわち、パーティクルガン装置を用いて、目的遺伝子を組み込んだpCODをイネ種子胚盤カルス由来の懸濁培養細胞に導入し、その後耐塩性を指標にして形質転換カルスを選抜し、これを植物体に再分化させることにより形質転換植物体を得ることができる。野生型イネはグリシンベタイン合成能をもたないが、本発明の方法で形質転換したイネはグリシンベタイン合成能を獲得することができる。codA遺伝子を発現する形質転換イネは外観上何の異常もなく非形質転換植物と同様に、土耕、水耕の両条件で生育することから、グリシンベタイン合成の副産物として生じる過酸化水素は細胞内で効率的に解毒されているものと考えられる。さらに、NaClを含む栽培で形質転換体の耐塩性を試験したところ、形質転換体では光合成活性の阻害が野生型よりも遅れることを観察することができる。これらの結果は、codA遺伝子と目的遺伝子を含有する組換えベクターで形質転換した各種の植物から、耐塩性を選択マーカーとして耐塩性の植物細胞又はカルスをスクリーニングすることが可能となり、目的とする形質転換植物を得ることができることを示している。かかる形質転換植物における目的遺伝子産物の発現をウエスタンブロットにより確認することが好ましい。
【0025】
【実施例】
以下の実施例においてさらに詳しく本発明を説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。
実施例1(codA遺伝子を含むバイナリーベクタープラスミドの作製)
codA遺伝子(配列番号1、2)の全長ORF(約1.6kbp)を、5’−GCTAGCGGAGAACTAGATGCACATCG−3’(配列番号3)及び5’−GATATCTTAGGCGAGGGCCGCGCTCAG−3’(配列番号4)をプライマーとしてPCRにより増幅し、codA遺伝子の5’−側にNheI部位を、3’−側にEcoRV部位を導入した。かかるcodA遺伝子断片でバイナリーベクタープラスミドpBI121のカナマイシン耐性遺伝子(nptII)と置換した。次いでホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(luc:約1.6kbp)をプラスミドベクターpSP−luc+を鋳型DNAとし、5’−GGATCCGGAAGCTTTCCATGGAAGAC−3’(配列番号5)及び5’−GAGCTCTATCGAATTCTCTAGAATTA−3’(配列番号6)をプライマーとしてPCRにより増幅し、luc遺伝子の5’−側にBamHI部位を、3’−側にSacI部位を導入した。かかるluc遺伝子断片でバイナリーベクタープラスミドpBI121のGUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子を置換し、プラスミドpCOD/lucを作製した(図2)。なおcodA遺伝子の制限酵素地図を図3に示す。
【0026】
実施例2(バイナリーベクタープラスミドのアグロバクテリウムへの導入)
Tiプラスミドをもつアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)EHA101を実施例1で得たバイナリーベクタープラスミドpCOD/lucにより形質転換し、これをNaClを含むLBプレートで選別した。得られたcodA遺伝子を組み込んだアグロバクテリウムをEHA101(pCOD/luc)と命名した。
【0027】
実施例3(アラビドプシスの形質転換)
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)WS株を発芽させ、胚軸切片を得た。この胚軸を0.05mg/lのカイネチン(和光純薬工業社製)と0.5mg/lの2,4−D(和光純薬社製)を含むB5培地(ICN Biochemicals社製)(pH5.7)でカルス化を誘導して胚軸カルスを得た。次いでカルスに実施例2で作製したcodA含有アグロバクテリウムEHA101(pCOD/luc)による感染を行い、共培養した。アグロバクテリウムの除菌を250mg/lバンコマイシン、500mg/lカルベニシリン及び200mg/lクラフォランを含むB5培地によって行った後、NaClを含む分化用B5培地に移してシュートを形成させた。このようにして、耐塩性の茎葉を選択して根を誘導し、種子形成を行う。このようにして得られるT1種子は染色体の一方のみが形質転換されたヘテロ個体である。
【0028】
次いでT1種子から得られる植物体を自家交配させて耐塩性による選択を行うことによりホモ個体であるT2種子を得た。また、目的遺伝子であるルシフェラーゼ遺伝子が導入されていることは、子葉にルシフェリン溶液をスプレーし、化学発光をCCDカメラにより観察することで確認した。なお、野生株及び形質転換株の植物体は、特記しない限り、0.1%HYPONEX(Hyponex Corporation, Marysville,OH,USA)を含む培地(pH5.2)中、1日のうち16時間は75μmolm−2S−1の光にあて、8時間は暗くして、30日、22℃で水耕栽培又はバーミキュレートとパーリットの土で栽培し、その後実験に用いた。
【0029】
実施例4(形質転換植物におけるグリシンベタイン量の測定)
植物の葉中のグリシンベタイン含量は、4級アンモニウム化合物のNMRスペクトルを測定することによって算出した(Wall,J.et al.,Analyt.Chem.32:870−874,1960)。野生株及び形質転換植物の葉5gを液体窒素中で乳鉢と乳棒を用いて粉末にした。この粉末を1.0M H2SO425ml中に懸濁し、25℃で2時間インキュベートした。不溶物を除去した後、1000xgで10分遠心することにより上清を回収した。上清に、KI−I2溶液10mlを加えて、0℃で2時間インキュベートした。1000xgで30分遠心することにより、グリシンベタインとコリンのパーアイオダイド付加物を回収し、内部標準として0.5mMの2−メチル−2−プロパノール(和光純薬)を含むメタノール−d4(和光純薬)0.5mlに溶解し、1H NMRスペクトルを測定した。グリシンベタイン及びコリンの2つの主要ピークが観察され、グリシンベタインピークの積分値を濃度の定量に用いた。その結果、野生株ではコリンのみが観察されたが、形質転換植物ではグリシンベタインとコリンの両方が観察された。グリシンベタイン含量は1.0μモル/g新鮮葉であった。
【0030】
実施例5(塩ストレスに対する形質転換アラビドプシスの耐性)
実施例3で得られたT2種子を0.5%のゲランガムで固定したムラシゲースクーグの培地上に播種し、発芽、発根及び子葉の成長を比較した。塩化ナトリウムを含まない培地上では野生株と形質転換植物との間に差は認められなかったが、60mMの塩化ナトリウムを含む培地上では、生育の悪い野生株に比べ、形質転換植物の1つであるC1−0は比較的良好に生育し耐塩性を示した。また、100mMの塩化ナトリウムを含む培地上では、野生株は発芽の10日後に成長が止まり、葉が白くなった。一方、形質転換植物は緑のままで成長を続けた。特に、形質転換植物の根の成長は野生株と比較して格段に良好であった。100mM塩化ナトリウムを含まない対照試験では野生株も形質転換株植物も同等に成長したので、形質転換植物が塩ストレス条件下で成長する能力を獲得したことが確認された。
【0031】
実施例6(イネの形質転換に用いるキメラcodA遺伝子の作製)
アルスロバクター・グロビフォルミス由来のコリンオキシダーゼ遺伝子(codA)を、カリフラワー・モザイク・ウイルス35Sプロモーターの転写制御下で翻訳後にサイトゾルあるいはプラスチドに局在するような2種類のキメラcodA遺伝子(それぞれ35SINcodA及び35SINTPcodA)をプラスミドpBI121のカナマイシン耐性遺伝子(nptII)と入れ替え、目的遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子(luc)を導入したプラスミドを実施例1に述べたような方法で作製した。イネでの遺伝子の高発現にはイントロンの存在が必要とされている(例えば、Tanaka,A.et al.,Nucleic Acids Res.18:6767−6770,1990)ので、イネのスーパーオキシドジスムターゼ遺伝子(SodCc2:Sakamoto,A.et al.,FEBS Lett.358:62−66,1995)の5’非翻訳配列中のイントロンをいずれのキメラ遺伝子にも導入してある。さらに、35SINTPcodAには、codAタンパク質を葉緑体に移行させるためにエンドウやイネ由来のrbcSトランジットペプチド(Coruzz,G.et al.,EMBO J 3:1671−1679,1984)に由来するDNA配列を付加してある。
【0032】
実施例7(イネの形質転換)
実施例6で作製した2種類のキメラcodA遺伝子と目的遺伝子(ルシフェラーゼ)をもつプラスミドでアグロバクテリウム・ツメファエンシスEHA101を形質転換した後、イネ種子胚盤カルスに感染させることで、キメラcodA遺伝子と目的遺伝子を導入した。耐塩性を指標に形質転換カルスを選択し、これを植物体に再分化させた。耐塩性を示す形質転換カルス又は形質転換再分化個体について、PCR法及びノーザンブロット法によりcodA遺伝子の核ゲノムへの統合と転写について調べ、各codA遺伝子について80〜100以上の形質転換体を選択した。また、目的遺伝子であるルシフェラーゼ遺伝子が導入されていることは、実施例3記載の方法で確認した。
【0033】
実施例8(形質転換イネでのcodA遺伝子の発現解析)
実施例8で得た形質転換体について、ウェスタンブロット法によるスクリーニングを行い、codA遺伝子をタンパク質のレベルで発現する形質転換イネ(TO)を最終的にプラスチド局在型遺伝子について6個体、サイトゾル局在型遺伝子について10個体得た。イネは内因性のコリンオキシダーゼ活性をもたないが、形質転換の葉又は根から調製した可溶性画分はコリンオキシダーゼ活性を示した。予想に反して、同じ発現プロモーターを用いているにもかかわらず、葉におけるプラスチド型形質転換体のコリンオキシダーゼタンパク質量は、サイトゾル型のそれに比べて全ての個体で低いことが観察された。codA遺伝子及びルシフェラーゼ遺伝子の発現をさらにノーザンブロット法で調べたところ、転写レベルでは両遺伝子の発現量に有意な相違は認められなかった。そこで逆転写PCRを行いイントロンのプロセッシングについて調べた結果、プラスチド型遺伝子から転写されたmRNAから、3’−アクセプターサイトが異なり正常なタンパク質への翻訳が起こり得ない複数のスプライシングバリアントが検出された。このことから、プラスチド型遺伝子による形質転換体における低レベルなタンパク質発現量はmRNA前駆体の異常なプロセッシングによるものであると推定された。この現象はコリンオキシダーゼのプラスチドターゲティングに用いたトランジットペプチドをコードする配列が双子葉植物起源(エンドウRbcS遺伝子)であることと関係していると考えられた。トランジットシグナルをコードする配列を、イネのrbcSにした場合、codAのイネ葉緑体での発現効率が上昇した。
【0034】
実施例9(形質転換イネでのグリシンベタイン生合成)
コリンオキシダーゼを発現する形質転換体組織に蓄積するグリシンベタインをプロトンNMRを用いて検出した。野生株、codA遺伝子を発現していない形質転換体、及びcodA遺伝子を発現している形質転換体のグリシンベタインの蓄積量をNMRにより測定した。コリンオキシダーゼを発現する形質転換体はグリシンベタインを生合成し、ウェスタンブロット法で検出されたコリンオキシダーゼ量とグリシンベタイン蓄積量には正の相関が見られた。グリシンベタインの蓄積量は根よりも葉で多く、高度にcodA遺伝子を発現する個体のグリシンベタインの蓄積量は4μモル/g新鮮葉であった。
【0035】
実施例10(形質転換イネの耐塩性評価)
codA遺伝子及びルシフェラーゼ遺伝子を発現する形質転換イネは外観上何の異常も無く非形質転換体(野生型)と同様に土耕、水耕の両条件で良く生育した。したがって、グリシンベタイン生合成の副産物として生じる過酸化水素は細胞内で効率的に解毒されているものと考えられる。次いで、タンパク質、酵素活性及びグリシンベタイン生成のレベルでcodA遺伝子の発現を確認できた形質転換体について、塩化ナトリウムを含む水耕栽培を行った。Na塩が与える光合成活性への影響をクロロフィル蛍光分析法により調べ、非形質転換体(野生型)と比較した。形質転換イネ及び非形質転換イネを100mM及び200mM塩化ナトリウムを含むハイポネックス水溶液に置き、経時的にクロロフィルの蛍光を測定したところ、形質転換体では光合成活性の低下が抑制されることが観察された。すなわち、形質転換体は塩環境でより耐性であることが示された。
【0036】
【発明の効果】
本発明によると、選択マーカー遺伝子産物による新たな植物病原菌や、病虫害の発生を招く可能性がある薬剤耐性遺伝子や抗生物質を用いずに、遺伝子組換え植物を効率よく選択することができる。
【0037】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の植物形質転換用組換えベクターpCOD/lucを示す図である。
【図2】本発明のcodA遺伝子の制限酵素地図を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、コリンオキシダーゼ遺伝子等の耐塩性遺伝子を選択マーカー遺伝子とする植物形質転換用組換えベクターや、該植物形質転換用組換えベクターを用いた形質転換植物の作製方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子工学技術を利用した植物細胞の形質転換によるトランスジェニック植物を作製する工程には、概略、目的遺伝子の植物細胞への導入工程(染色体、葉緑体、核等に導入される場合も含む。)、目的遺伝子が導入された植物細胞、未分化のカルス組織又は植物の選択工程、選択された植物細胞、カルス又は植物からの種子の再生工程の3工程がある。このうち目的遺伝子導入植物細胞、カルス又は植物の選択工程において、目的遺伝子は、発現が容易に検出できる選択マーカー遺伝子と共に植物細胞に導入され、選択マーカー遺伝子の発現の有無が目的遺伝子導入の指標として普通用いられる。例えば、このような選択マーカー遺伝子としては、抗生物質、除草剤等に対する抵抗性を付与するタンパク質をコードする遺伝子が選択マーカー遺伝子として用いられており、かかる選択マーカー遺伝子として、抗生物質耐性を付与するカナマイシン抵抗性遺伝子(NPTII:ネオマイシンリン酸化酵素遺伝子)、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子(HPT:ハイグロマイシンリン酸化酵素遺伝子)、ホスフィノトリシン抵抗性遺伝子(PPT:ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子)等や、アミノ酸合成に関与するノパリン合成酵素遺伝子(NOS)、オクトピン合成酵素遺伝子(OCS)等や、農薬耐性を付与するスルフォニルウレア系抵抗性遺伝子(ALS:アセトラクテート合成酵素遺伝子)等が知られている。
【0003】
しかし、選択マーカー遺伝子の発現は、このような遺伝子導入植物を食用等に供することを目的とした場合、重大な障害となっているのが現状である。植物にとって本来存在しないかかる選択マーカー遺伝子が発現することによって生ずる遺伝子産物の人体への安全性を担保することが非常に困難であり、従って、これら選択マーカー遺伝子を指標として作製された遺伝子導入植物を食品として販売する場合には、その遺伝子産物の人体への影響について詳細な調査が必要とされている。例えば、NPTII遺伝子は、既に1980年代前半から、選択マーカー遺伝子として実験室レベルでは盛んに用いられてきたが、1994年にその遺伝子産物が米国食品衛生局(FDA)により食品添加物として認可され、これを選択マーカー遺伝子として用い、形質転換された遺伝子導入植物が食用等に供されるようになった。しかし、消費者レベルでは、このようなNPTII遺伝子産物への不安感は依然として存在し続けている。
【0004】
また現在、選択マーカー遺伝子として実用化されているのは、このNPTII遺伝子を始め、細胞に対する成長阻害物質の解毒作用に寄与する遺伝子のみであり、それ故、目的遺伝子導入植物細胞、カルス又は植物の選択にあたっては、これら成長阻害物質を含む培地でその培養を行い、選択マーカー遺伝子の発現によるかかる物質に対する耐性を評価し、これを指標とすることになる。しかし、耐性物質の存在下で組織が増殖する場合、このような阻害物質の存在下での培養が、細胞にとって好ましからぬ影響を与えることは避け難く、現実に、細胞の活性低下に伴う遺伝子導入組織の増殖、再分化率の低下等の副作用が問題となっている。このような問題を解決する方法として、再生後の形質転換植物は目的遺伝子を含むが、選択マーカーとして用いた薬剤耐性遺伝子を含まない形質転換植物を得ることを可能とする植物の形質転換方法に関する研究が行われている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0005】
一方、植物は細胞内塩濃度が上昇すると、グリシンベタインやプロリン等の外的浸透圧変化に応じて細胞内の浸透圧を維持するための適合溶質(compatible solute)と呼ばれる特殊な低分子化合物を細胞内に合成する。この適合溶質の代謝経路は良く知られており、代謝に関わる酵素の遺伝子もわかっている。また、適合溶質は代謝されにくく、しかも他の代謝系に影響を与えない。そのため細胞内に高濃度で蓄積され、浸透圧調節に適している。さらに、タンパク質の構造変化や活性部位変化を抑制する働きもある。中でも、高塩濃度や水分欠乏環境に適応性のある植物や細菌に見られる適合溶質であるグリシンベタインはアカザ科、イネ科、ナス科などの高等植物のほか、ラン藻、大腸菌などにおける適合溶質であると考えられており(例えば、非特許文献1参照。)、環境との浸透圧バランスを維持し(例えば、非特許文献2参照。)、また高塩濃度による可溶性酵素の解離を防止する(例えば、非特許文献3参照。)適合溶質として、また、周辺タンパク質と光合成の酸素発生複合体内のマンガンクラスターの安定化によって、高塩濃度から光化学系II複合体を保護することができる物質として知られている(例えば、非特許文献4参照。)。植物にグリシンベタイン等の適合溶質合成の鍵となる遺伝子を導入することにより、耐塩性植物の作出が可能となり、すでにシロイヌナズナ、タバコ・イネにはその応用が試みられている。
【0006】
大腸菌やホウレンソウ(Spinacia oleracea)では、2段階の酸化を経てコリンからグリシンベタインが生合成される。大腸菌はコリンをベタインアルデヒドに酸化する膜結合性でNAD依存性のコリン脱水素酵素(例えば、非特許文献5参照。)と、ベタインアルデヒドをグリシンベタインに酸化する可溶性でNAD依存性のベタインアルデヒド脱水素酵素(例えば、非特許文献6参照。)の2種類の脱水素酵素をもつ。また、高等植物では、グリシンベタインは葉緑体中で大腸菌と同様の経路で生合成されることが明らかとなっている。ホウレンソウでは、フェレドキシン依存性のコリンモノオキシゲナーゼにより第1段階の酸化が触媒されており(例えば、非特許文献7参照。)、第2段階の酸化を触媒するNAD依存性のベタインアルデヒド脱水素酵素(例えば、非特許文献8参照。)は既に単離されている。このような植物を塩ストレスにさらすと、両方の酵素の活性が上昇し、グリシンベタイン量が増加することが観察されている(例えば、非特許文献9参照。)。一方、グラム陽性の土壌細菌であるアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ(COD)は、1段階の酸化反応でコリンをグリシンベタインに酸化することが知られている(例えば、非特許文献10参照。)。本発明者は土壌細菌であるアルスロバクター(Arthrobacter)由来のコリンオキシダーゼ遺伝子(codA)を単離し[日本植物生理学会1994年度年会、第34回シンポジウム(1994年3月28日〜30日)]、これをラン藻、アブラナ科の植物及びイネ科の植物に組み込み、耐塩性及び/又は耐浸透圧性の植物体や耐温度性の植物体を得ることに成功している(例えば、特許文献3、4及び非特許文献11〜16参照。)。
【0007】
また最近、多くの植物や細菌について塩ストレスによって発現が誘導される遺伝子が多数同定されている。たとえば耐塩性植物の創出に有効と思われる遺伝子は、適合溶質(グリシンベタイン、マンニトール、ソルビトール、プロリン、オノニトールなど)合成遺伝子(例えば、非特許文献17、18参照。)、各種ストレスによって誘導される一般的な蛋白質(Late Embryogenesis Abundunt蛋白質、アブシジン酸応答蛋白質、デヒドリン、熱ショック蛋白質、オスモチンなど)をコードする遺伝子、イオン輸送やイオン恒常性保持に必要な蛋白質(Na+/H+アンチポーター、K+チャネル、水チャネル、Ca2+ATPaseなど)をコードする遺伝子、RNAの構造を安定化させることにより、植物に耐塩性を付与することができるRNAヘリカーゼをコードするオオムギHVD1遺伝子(例えば、特許文献5参照。)などである。またこれら耐塩性をコードする遺伝子は、その役割が類似するものであっても各植物、細菌などその給源によって、その構造、発現のための仕組みは異なりその種の特徴となっている。
【0008】
【特許文献1】
国際公開99/67406号パンフレット
【特許文献2】
国際公開95/16031号パンフレット
【特許文献3】
国際公開第97/24026号パンフレット
【特許文献4】
国際公開第96/29857号パンフレット
【特許文献5】
特開2002−34576号公報
【非特許文献1】
Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 44:357−3584,1993
【非特許文献2】
J. Plant Physiol. 13:659−668. 1986
【非特許文献3】
Arch. Biochem. Biophys. 264:333−339, 1988
【非特許文献4】
FEBS Lett. 296:187−189, 1992
【非特許文献5】
J. Bacteriol. 165:849−855, 1986
【非特許文献6】
Biochim. Biophys. Acta 1034:253−259, 1990
【非特許文献7】
Plant Physiol. 90:322−329, 1989
【非特許文献8】
Planta 178:342−352, 1989
【非特許文献9】
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 82:3678−3682, 1985
【非特許文献10】
J. Biochem. 82:1741−1749, 1977
【非特許文献11】
J. Plant Res. 111: 357−362, 1998
【非特許文献12】
Plant, Cell and Enviroment 21, 232−239, 1998
【非特許文献13】
The Plant Journal 16 (2), 155−161, 1998
【非特許文献14】
Plant Molecular Biology 38: 1011−1019, 1998
【非特許文献15】
J. Bacteriol. 178. 339−344, 1997
【非特許文献16】
The Plant Journal 12, 133−142, 1997
【非特許文献17】
Plant Cell 7:1099−1111,1995
【非特許文献18】
Plant Physiol. 115, 1221−1219,1998
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
遺伝子組換え植物の本格的栽培生産の障害の一つに薬剤耐性マーカーを有する形質転換体のフィールド栽培は認可されない、又は認可されがたいという問題がある。薬剤耐性株を栽培すると、その薬剤に耐性の新種の植物病原菌や病原虫の早期発生を招くとの懸念を否定することができない。これに対し、その遺伝子産物が本来植物成分ではない薬剤耐性マーカー遺伝子の代りに、その遺伝子産物が本来植物成分である選択マーカー遺伝子で形質転換されたトランスジェニック植物の場合、選択マーカー遺伝子産物による新たな植物病原菌や、病虫害の発生を招く可能性は格段に低くなる。かかる選択マーカー遺伝子として、耐塩性遺伝子を組み込んだ植物体の場合、細胞又はカルスのレベルでのスクリーニングの際に耐塩性を選択マーカーとして利用するだけであって、塩ストレスのない通常のフィールドの生育条件下では耐塩性遺伝子の発現は抑制されるため、野生株と形質転換体とは表現型において差は認められない。この点においても、選択マーカー遺伝子産物による新たな植物病原菌や、病虫害の発生を招く可能性は格段に低くなり、フィールド栽培が認可される、又は認可されやすくなる。このことは組換え植物・種子穀物の開発・生産の進展を左右するため、薬剤耐性に代る耐塩性マーカー、及びそれが組み込まれたベクターには産業上の大きなメリットがある。すなわち本発明の課題は、選択マーカー遺伝子産物による新たな植物病原菌や、病虫害の発生を招く可能性がある薬剤耐性遺伝子や抗生物質を用いずに、遺伝子組換え植物を選択することができる植物形質転換用組換えベクターや、当該植物形質転換用組換えベクターを用いてた形質転換植物の作製方法等を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、目的遺伝子としてのアルスロバクター・グロビフォルミス(A.globiformis)のCODをコードする遺伝子codAと、選択マーカー遺伝子としての薬剤耐性遺伝子(カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子)をともに、植物細胞の遺伝子導入に広く用いられるTiプラスミドのT−DNA領域に組み込み、これをアグロバクテリウム法で植物細胞に導入・培養し、薬剤耐性株の中からCOD活性をもつ形質転換株を取得し、種々の耐塩性環境下で生育比較した結果、野生株が生育しない環境でも形質転換株は生育することを確認し、アルスロバクター・グロビフォルミス由来のcodA遺伝子は他の耐塩性を持たない(又は低い)植物に導入すれば耐塩性を付与(又は向上)する遺伝子であるとの知見を既に得ている。これとは別に、薬剤耐性遺伝子を形質転換植物体から如何に脱落させるか、如何に発現させないか等について検討している過程で、発想の転換の必要性を感じ始めていたときに、前記知見に基づいて、codA遺伝子を目的遺伝子とせず、選択マーカー遺伝子としたらどうなるかという発想にたまたま辿り着いた。そこで、codA遺伝子を選択マーカー遺伝子とする新規形質転換プラスミドベクターを早速作製し、植物細胞を形質転換し、形質転換植物の選択に食塩水を用いたところ、植物体のレベルで形質転換植物を効率よくスクリーニングすることができることや、塩ストレスのない通常のフィールドの生育条件下では耐塩性遺伝子の発現が抑制されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有する組換えベクターで植物を形質転換し、塩ストレス条件下、耐塩性を選択マーカーとして耐塩性の植物、カルス又は植物細胞をスクリーニングすることを特徴とする形質転換植物の作製方法(請求項1)や、選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子が適合溶質合成遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の形質転換植物の作製方法(請求項2)や、適合溶質合成遺伝子がコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項2記載の形質転換植物の作製方法(請求項3)や、コリンオキシダーゼ遺伝子がアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項3記載の形質転換植物の作製方法(請求項4)に関する。
【0012】
また本発明は、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有し、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物、カルス又は植物細胞をスクリーニングすることができることを特徴とする植物形質転換用組換えベクター(請求項5)や、選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子が適合溶質合成遺伝子であることを特徴とする請求項5記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項6)や、適合溶質合成遺伝子がコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項6記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項7)や、コリンオキシダーゼ遺伝子がアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項7記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項8)や、耐塩性遺伝子と目的遺伝子とがプロモーターとターミネーターをそれぞれ有することを特徴とする請求項5〜8のいずれか記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項9)や、プロモーターが転写量を高めるためのイントロンを介して耐塩性遺伝子に連結されていることを特徴とする請求項5〜9のいずれか記載の植物形質転換用組換えベクター(請求項10)や、請求項5〜10のいずれか記載の植物形質転換用組換えベクターが導入されていることを特徴とする植物および植物細胞(請求項11)に関する。
【0013】
さらに本発明は、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と、目的遺伝子を組み込むことができるクローニングサイトとを備え、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物、カルス又は植物細胞のスクリーニングに用いられることを特徴とする植物形質転換用発現ベクター(請求項12)や、選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子が適合溶質合成遺伝子であることを特徴とする請求項12記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項13)や、適合溶質合成遺伝子がコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項13記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項14)や、コリンオキシダーゼ遺伝子がアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項14記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項15)耐塩性遺伝子がプロモーターとターミネーターを有することを特徴とする請求項12〜15のいずれか記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項16)プロモーターが転写量を高めるためのイントロンを介して耐塩性遺伝子に連結されていることを特徴とする請求項12〜16のいずれか記載の植物形質転換用発現ベクター(請求項17)に関する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の形質転換植物の作製方法としては、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有する組換えベクターで植物を形質転換し、塩ストレス条件下、耐塩性を選択マーカーとして耐塩性の植物、カルス又は植物細胞をスクリーニングする作製方法であれば特に制限されるものではなく、また、本発明の植物形質転換用組換えベクターとしては、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有し、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物細胞又はカルスをスクリーニングすることができるベクターであれば特に制限されるものではなく、さらに、本発明の植物形質転換用発現ベクターとしては、塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と、目的遺伝子を組み込むことができるマルチクローニングサイト等のクローニングサイトとを備え、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物細胞又はカルスのスクリーニングに用いられるベクターであれば特に制限されるものではなく、本発明における植物としては、高等植物、例えばアブラナ科植物等の双子葉植物やイネ等の単子葉植物を挙げることができる。
【0015】
上記選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子としては、植物細胞内で発現した場合に、該植物、植物細胞や未分化のカルス組織に耐塩性を付与しうる遺伝子であれば特に制限されず、例えば、グリシンベタイン、マンニトール、ソルビトール、プロリン、オノニトールなどの適合溶質合成遺伝子や、Late Embryogenesis Abundunt蛋白質、アブシジン酸応答蛋白質、デヒドリン、熱ショック蛋白質、オスモチンなど各種ストレスによって誘導される一般的な蛋白質をコードする遺伝子や、Na+/H+アンチポーター、K+チャネル、水チャネル、Ca2+ATPaseなどイオン輸送やイオン恒常性保持に必要な蛋白質をコードする遺伝子や、RNAの構造を安定化させることにより、植物に耐塩性を付与することができる遺伝子を挙げることができるが、中でも形質転換細胞のスクリーニングの簡便さから適合溶質合成遺伝子が好ましく、特にグリシンベタイン合成酵素遺伝子が好ましい。
【0016】
上記グリシンベタイン合成酵素遺伝子としては、コリンをグリシンベタインに1段階反応で変換しうる機能をもつコリンオキシダーゼ遺伝子が好ましく、グラム陽性の土壌細菌アルスロバクター属(Arthrobacter)由来のもの、例えば、アルスロバクター・グロビフォルミスやアルスロバクター・パセンス(A. pascens)由来のものが好ましく、特にアルスロバクター・グロビフォルミス由来のものが好ましい。アルスロバクター・グロビフォルミスから得られるコリンオキシダーゼ遺伝子(codA遺伝子)は、本発明者により単離されており、1641bpのオープンリーディングフレームをもち、547アミノ酸をコードする。codA遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。配列番号1に記載のアミノ酸をコードする塩基配列、又はその一部を付加、欠失もしくは置換した塩基配列をもつ遺伝子であっても、コリンオキシダーゼ活性を示すポリペプチドをコードする限り本発明の選択マーカー遺伝子として使用することができる。
【0017】
上記目的遺伝子としては、植物で発現させようとする所望の遺伝子であって、特に制限されないが、例えば、酵素、貯蔵タンパク質、甘味料、医薬物質等の有用物質をコードしている遺伝子や、耐冷性、耐熱性、多收性、除草剤耐性、耐病性などの植物の形質を改善させるような遺伝子等を挙げることができる。また、例えばルシフェラーゼ遺伝子を目的遺伝子とすることにより、種々の耐塩性遺伝子が各種植物において塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子として有用か否かを簡便に確認することができる。
【0018】
細胞内での遺伝子の転写レベルを決定する主要な因子であるプロモーター、好ましくは転写活性の強いプロモーターの制御下に耐塩性遺伝子や目的遺伝子をおくことにより、これら遺伝子の発現量を高めることができる。また、転写終結を指令する役割に加えて、転写により生じたRNA鎖のプロセシングや分解に対しても重大な影響を示すターミネーターを、耐塩性遺伝子や目的遺伝子の翻訳領域の3’末端直後に挿入しておくとこれら遺伝子の発現量増大に効果的である。上記プロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ユビキチンubi1プロモーター、アクチンプロモーター、TR1’プロモーター若しくはTR2’プロモーター等の異種遺伝子の発現が所望される組織を含む広範囲の組織において発現する構成性プロモーターを例示することができ、上記ターミネーターとしては、ノパリンシンターゼ(NOS)ターミネーター、カリフラワーモザイクウイルス35Sターミネーター、オクトピンシンターゼターミネーター等を例示することができる。
【0019】
さらに、転写量を高めるためのイントロンを介してプロモーターに耐塩性遺伝子を連結させることが好ましい。例えば、プロモーターを含む配列内の、プロモーターの制御配列を含む配列の3’末端と、ターミネーターを含む配列内の、ターミネーターの制御配列を含む配列の5’末端との間にイントロンを設けると、遺伝子の発現効率を上げることができたり、あるいは、mRNAの安定性を上げることができるので好ましい。かかるイントロンとしては、そのイントロンを植物に導入した場合に、mRNAの核外への移行又はスプライシングに際し、取り除くことのできるイントロンが好ましい。このようなイントロンとしては、例えば、イネのスーパーオキシドジスムターゼイントロン、ヒマ・カタラーゼイントロン、トウモロコシ・ユビキチンイントロン等を例示することができる。また、耐塩性遺伝子の発現産物である酵素等が葉緑体で機能するようにRuBisCOの小サブユニットの移行シグナル配列を挿入することもできる。
【0020】
上記選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とが組み込まれている植物形質転換用組換えベクターとしては、該組換えベクターが植物細胞に導入されたとき、植物細胞中において選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを発現させ、植物を形質転換することができ、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物体、細胞又はカルスをスクリーニングすることができるベクターであればどのようなものでもよく、また、上記選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と、目的遺伝子を組み込むことができるクローニングサイトとを備えた植物形質転換用発現ベクターとしては、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物体、細胞又はカルスのスクリーニングに用いられるものであって、前記クローニングサイトに目的遺伝子を挿入することにより、上記植物形質転換用組換えベクターとしうるものであればどのようなものでもよく、上記クローニングサイトは、ポリリンカークローニングサイト(polylinker cloning site)とすることが好ましい。
【0021】
上記植物形質転換用組換えベクターや植物形質転換用発現ベクターは、形質転換方法や植物の種類に応じて適宜構築することができるが、これらベクターには、プロモーター及びターミネーター、さらにイントロンを含むプラスミドであって、プロモーターとターミネーターとの間に選択マーカー遺伝子や目的遺伝子が挿入されているものが好ましく、例えば、従来の薬剤耐性遺伝子を含むプラスミドベクター、例えばpGAH、pUC119、pUC303、pUBA、pBI121などを基本ベクターとし、これら基本ベクターにおける薬剤耐性遺伝子を耐塩性遺伝子に置換することにより、植物形質転換用発現ベクターを構築することができる。その他、プロモーターを含む配列、イントロンを含む配列、耐塩性遺伝子及び目的遺伝子を含む配列、ターミネーターを含む配列をすべて順次連結した発現カセットや、プロモーターを含む配列、イントロンを含む配列、耐塩性遺伝子を含む配列、ターミネーターを含む配列と、プロモーターを含む配列、目的遺伝子を含む配列、ターミネーターを含む配列とをすべて順次連結した発現カセットを、適当なプラスミドに一度に挿入することもできるし、それぞれ別々に適当なプラスミドに順次挿入することもできる。一般的には、植物で機能することのできるプロモーター及びターミネーター、耐塩性遺伝子、場合により更にイントロンを含むプラスミドを予め調製し、プラスミドに設けられたポリリンカークローニングサイトに目的遺伝子をインフレームで挿入することが好ましい。
【0022】
構築した植物形質転換用組換えベクターを植物に導入する方法としては、植物の形質転換法として確立されている任意の方法を利用することができる。このような方法としては、例えば、直接導入法、又はアグロバクテリウムを介した導入方法などを挙げることができる。直接導入法としては、例えば、エレクトロポレーション法又はポリエチレングリコール法を用いて植物プロトプラストへ直接導入することができる。あるいは、ミクロプロジェクタイルを利用して植物細胞に直接導入するパーティクルガン法や、バキュムインフィルトレーション法などを挙げることができる。宿主としてイネを用いる場合は、パーティクルガン法又はアグロバクテリウムを介した導入方法が好ましい。また、形質転換する細胞としては、使用する導入方法に応じて、その導入方法に適した細胞を用いることができる。宿主としてアラビドプシスを用いる場合は、適切な細胞として、胚軸カルスを用いることができ、宿主としてイネを用いる場合は、適切な細胞として、例えば、未熟種子若しくは完熟種子より摘出した胚、又は誘導したカルスを用いることができる。バキュムインフィルトレーション法で種子に直接アグロバクテリウムを感染させる方法も好ましい方法である。
【0023】
以下、耐塩性遺伝子としてcodA遺伝子を例にとって本発明の耐塩性を選択マーカーとする形質転換植物の作製方法について説明する。
双子葉植物などでは、形質転換植物の作出に、プロトプラストを経由する遺伝子導入法、あるいは組織の一部を用いる遺伝子導入法を利用できる。組織片を用いる遺伝子導入では、アグロバクテリウム(Agrobacterium)由来のTiプラスミドを利用することができる。codA遺伝子と目的遺伝子(例えば、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子luc)とを組み込んだプラスミドをもつアグロバクテリウムをカルス化した植物組織片に感染させるか、あるいは、バキュムインフィルトレーション法により感染させ、耐塩性を選択マーカーとして形質転換体を選択し、次いで茎葉を分化させて形質転換植物体を得ることができる。具体的には、アブラナ科のアラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana:和名シロイヌナズナ)を次のようにして遺伝子組換え形質転換植物体を得ることができる。すなわち、codA遺伝子と目的遺伝子(例えば、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子luc)とを含むバイナリーベクタープラスミドpCOD/lucを作製し、Tiプラスミドをもつアグロバクテリウム・ツメファシエンス(A. tumefaciens)EHA101に組み込んだ。codA遺伝子と目的遺伝子lucとが組み込まれたアグロバクテリウムEHA101(pCOD/luc)をアラビドプシスの胚軸カルスに感染させた後、シュート形成を行い、耐塩性を選択マーカーとして茎葉を選択して根を誘導し、種子形成を行う。このようにして得られるヘテロ個体のT1種子から得られる植物体を自家交配して得たホモ個体T2を播種して、植物体を形成させる。この形質転換植物では、高濃度の塩化ナトリウム存在下でも良好に生育することから、耐塩性を選択マーカーとして耐塩性の植物細胞又はカルスをスクリーニングすることが可能となり、目的とする形質転換植物を得ることができる。かかる形質転換植物における目的遺伝子産物の発現をウエスタンブロットにより確認することが好ましい。
【0024】
単子葉植物であるイネ(Oryza sativa L.cv.Nipponbare)を形質転換する場合にも、例えば、pCODに目的遺伝子を組み込んだ組換えベクターを用いることができる。これらいずれの遺伝子の発現量を高めるためにイネ由来のイントロンを5’非翻訳配列中に含むものが好ましい。具体的には、イネを次のようにして形質転換して目的遺伝子の組換え植物体を得ることができる。すなわち、パーティクルガン装置を用いて、目的遺伝子を組み込んだpCODをイネ種子胚盤カルス由来の懸濁培養細胞に導入し、その後耐塩性を指標にして形質転換カルスを選抜し、これを植物体に再分化させることにより形質転換植物体を得ることができる。野生型イネはグリシンベタイン合成能をもたないが、本発明の方法で形質転換したイネはグリシンベタイン合成能を獲得することができる。codA遺伝子を発現する形質転換イネは外観上何の異常もなく非形質転換植物と同様に、土耕、水耕の両条件で生育することから、グリシンベタイン合成の副産物として生じる過酸化水素は細胞内で効率的に解毒されているものと考えられる。さらに、NaClを含む栽培で形質転換体の耐塩性を試験したところ、形質転換体では光合成活性の阻害が野生型よりも遅れることを観察することができる。これらの結果は、codA遺伝子と目的遺伝子を含有する組換えベクターで形質転換した各種の植物から、耐塩性を選択マーカーとして耐塩性の植物細胞又はカルスをスクリーニングすることが可能となり、目的とする形質転換植物を得ることができることを示している。かかる形質転換植物における目的遺伝子産物の発現をウエスタンブロットにより確認することが好ましい。
【0025】
【実施例】
以下の実施例においてさらに詳しく本発明を説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。
実施例1(codA遺伝子を含むバイナリーベクタープラスミドの作製)
codA遺伝子(配列番号1、2)の全長ORF(約1.6kbp)を、5’−GCTAGCGGAGAACTAGATGCACATCG−3’(配列番号3)及び5’−GATATCTTAGGCGAGGGCCGCGCTCAG−3’(配列番号4)をプライマーとしてPCRにより増幅し、codA遺伝子の5’−側にNheI部位を、3’−側にEcoRV部位を導入した。かかるcodA遺伝子断片でバイナリーベクタープラスミドpBI121のカナマイシン耐性遺伝子(nptII)と置換した。次いでホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(luc:約1.6kbp)をプラスミドベクターpSP−luc+を鋳型DNAとし、5’−GGATCCGGAAGCTTTCCATGGAAGAC−3’(配列番号5)及び5’−GAGCTCTATCGAATTCTCTAGAATTA−3’(配列番号6)をプライマーとしてPCRにより増幅し、luc遺伝子の5’−側にBamHI部位を、3’−側にSacI部位を導入した。かかるluc遺伝子断片でバイナリーベクタープラスミドpBI121のGUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子を置換し、プラスミドpCOD/lucを作製した(図2)。なおcodA遺伝子の制限酵素地図を図3に示す。
【0026】
実施例2(バイナリーベクタープラスミドのアグロバクテリウムへの導入)
Tiプラスミドをもつアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)EHA101を実施例1で得たバイナリーベクタープラスミドpCOD/lucにより形質転換し、これをNaClを含むLBプレートで選別した。得られたcodA遺伝子を組み込んだアグロバクテリウムをEHA101(pCOD/luc)と命名した。
【0027】
実施例3(アラビドプシスの形質転換)
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)WS株を発芽させ、胚軸切片を得た。この胚軸を0.05mg/lのカイネチン(和光純薬工業社製)と0.5mg/lの2,4−D(和光純薬社製)を含むB5培地(ICN Biochemicals社製)(pH5.7)でカルス化を誘導して胚軸カルスを得た。次いでカルスに実施例2で作製したcodA含有アグロバクテリウムEHA101(pCOD/luc)による感染を行い、共培養した。アグロバクテリウムの除菌を250mg/lバンコマイシン、500mg/lカルベニシリン及び200mg/lクラフォランを含むB5培地によって行った後、NaClを含む分化用B5培地に移してシュートを形成させた。このようにして、耐塩性の茎葉を選択して根を誘導し、種子形成を行う。このようにして得られるT1種子は染色体の一方のみが形質転換されたヘテロ個体である。
【0028】
次いでT1種子から得られる植物体を自家交配させて耐塩性による選択を行うことによりホモ個体であるT2種子を得た。また、目的遺伝子であるルシフェラーゼ遺伝子が導入されていることは、子葉にルシフェリン溶液をスプレーし、化学発光をCCDカメラにより観察することで確認した。なお、野生株及び形質転換株の植物体は、特記しない限り、0.1%HYPONEX(Hyponex Corporation, Marysville,OH,USA)を含む培地(pH5.2)中、1日のうち16時間は75μmolm−2S−1の光にあて、8時間は暗くして、30日、22℃で水耕栽培又はバーミキュレートとパーリットの土で栽培し、その後実験に用いた。
【0029】
実施例4(形質転換植物におけるグリシンベタイン量の測定)
植物の葉中のグリシンベタイン含量は、4級アンモニウム化合物のNMRスペクトルを測定することによって算出した(Wall,J.et al.,Analyt.Chem.32:870−874,1960)。野生株及び形質転換植物の葉5gを液体窒素中で乳鉢と乳棒を用いて粉末にした。この粉末を1.0M H2SO425ml中に懸濁し、25℃で2時間インキュベートした。不溶物を除去した後、1000xgで10分遠心することにより上清を回収した。上清に、KI−I2溶液10mlを加えて、0℃で2時間インキュベートした。1000xgで30分遠心することにより、グリシンベタインとコリンのパーアイオダイド付加物を回収し、内部標準として0.5mMの2−メチル−2−プロパノール(和光純薬)を含むメタノール−d4(和光純薬)0.5mlに溶解し、1H NMRスペクトルを測定した。グリシンベタイン及びコリンの2つの主要ピークが観察され、グリシンベタインピークの積分値を濃度の定量に用いた。その結果、野生株ではコリンのみが観察されたが、形質転換植物ではグリシンベタインとコリンの両方が観察された。グリシンベタイン含量は1.0μモル/g新鮮葉であった。
【0030】
実施例5(塩ストレスに対する形質転換アラビドプシスの耐性)
実施例3で得られたT2種子を0.5%のゲランガムで固定したムラシゲースクーグの培地上に播種し、発芽、発根及び子葉の成長を比較した。塩化ナトリウムを含まない培地上では野生株と形質転換植物との間に差は認められなかったが、60mMの塩化ナトリウムを含む培地上では、生育の悪い野生株に比べ、形質転換植物の1つであるC1−0は比較的良好に生育し耐塩性を示した。また、100mMの塩化ナトリウムを含む培地上では、野生株は発芽の10日後に成長が止まり、葉が白くなった。一方、形質転換植物は緑のままで成長を続けた。特に、形質転換植物の根の成長は野生株と比較して格段に良好であった。100mM塩化ナトリウムを含まない対照試験では野生株も形質転換株植物も同等に成長したので、形質転換植物が塩ストレス条件下で成長する能力を獲得したことが確認された。
【0031】
実施例6(イネの形質転換に用いるキメラcodA遺伝子の作製)
アルスロバクター・グロビフォルミス由来のコリンオキシダーゼ遺伝子(codA)を、カリフラワー・モザイク・ウイルス35Sプロモーターの転写制御下で翻訳後にサイトゾルあるいはプラスチドに局在するような2種類のキメラcodA遺伝子(それぞれ35SINcodA及び35SINTPcodA)をプラスミドpBI121のカナマイシン耐性遺伝子(nptII)と入れ替え、目的遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子(luc)を導入したプラスミドを実施例1に述べたような方法で作製した。イネでの遺伝子の高発現にはイントロンの存在が必要とされている(例えば、Tanaka,A.et al.,Nucleic Acids Res.18:6767−6770,1990)ので、イネのスーパーオキシドジスムターゼ遺伝子(SodCc2:Sakamoto,A.et al.,FEBS Lett.358:62−66,1995)の5’非翻訳配列中のイントロンをいずれのキメラ遺伝子にも導入してある。さらに、35SINTPcodAには、codAタンパク質を葉緑体に移行させるためにエンドウやイネ由来のrbcSトランジットペプチド(Coruzz,G.et al.,EMBO J 3:1671−1679,1984)に由来するDNA配列を付加してある。
【0032】
実施例7(イネの形質転換)
実施例6で作製した2種類のキメラcodA遺伝子と目的遺伝子(ルシフェラーゼ)をもつプラスミドでアグロバクテリウム・ツメファエンシスEHA101を形質転換した後、イネ種子胚盤カルスに感染させることで、キメラcodA遺伝子と目的遺伝子を導入した。耐塩性を指標に形質転換カルスを選択し、これを植物体に再分化させた。耐塩性を示す形質転換カルス又は形質転換再分化個体について、PCR法及びノーザンブロット法によりcodA遺伝子の核ゲノムへの統合と転写について調べ、各codA遺伝子について80〜100以上の形質転換体を選択した。また、目的遺伝子であるルシフェラーゼ遺伝子が導入されていることは、実施例3記載の方法で確認した。
【0033】
実施例8(形質転換イネでのcodA遺伝子の発現解析)
実施例8で得た形質転換体について、ウェスタンブロット法によるスクリーニングを行い、codA遺伝子をタンパク質のレベルで発現する形質転換イネ(TO)を最終的にプラスチド局在型遺伝子について6個体、サイトゾル局在型遺伝子について10個体得た。イネは内因性のコリンオキシダーゼ活性をもたないが、形質転換の葉又は根から調製した可溶性画分はコリンオキシダーゼ活性を示した。予想に反して、同じ発現プロモーターを用いているにもかかわらず、葉におけるプラスチド型形質転換体のコリンオキシダーゼタンパク質量は、サイトゾル型のそれに比べて全ての個体で低いことが観察された。codA遺伝子及びルシフェラーゼ遺伝子の発現をさらにノーザンブロット法で調べたところ、転写レベルでは両遺伝子の発現量に有意な相違は認められなかった。そこで逆転写PCRを行いイントロンのプロセッシングについて調べた結果、プラスチド型遺伝子から転写されたmRNAから、3’−アクセプターサイトが異なり正常なタンパク質への翻訳が起こり得ない複数のスプライシングバリアントが検出された。このことから、プラスチド型遺伝子による形質転換体における低レベルなタンパク質発現量はmRNA前駆体の異常なプロセッシングによるものであると推定された。この現象はコリンオキシダーゼのプラスチドターゲティングに用いたトランジットペプチドをコードする配列が双子葉植物起源(エンドウRbcS遺伝子)であることと関係していると考えられた。トランジットシグナルをコードする配列を、イネのrbcSにした場合、codAのイネ葉緑体での発現効率が上昇した。
【0034】
実施例9(形質転換イネでのグリシンベタイン生合成)
コリンオキシダーゼを発現する形質転換体組織に蓄積するグリシンベタインをプロトンNMRを用いて検出した。野生株、codA遺伝子を発現していない形質転換体、及びcodA遺伝子を発現している形質転換体のグリシンベタインの蓄積量をNMRにより測定した。コリンオキシダーゼを発現する形質転換体はグリシンベタインを生合成し、ウェスタンブロット法で検出されたコリンオキシダーゼ量とグリシンベタイン蓄積量には正の相関が見られた。グリシンベタインの蓄積量は根よりも葉で多く、高度にcodA遺伝子を発現する個体のグリシンベタインの蓄積量は4μモル/g新鮮葉であった。
【0035】
実施例10(形質転換イネの耐塩性評価)
codA遺伝子及びルシフェラーゼ遺伝子を発現する形質転換イネは外観上何の異常も無く非形質転換体(野生型)と同様に土耕、水耕の両条件で良く生育した。したがって、グリシンベタイン生合成の副産物として生じる過酸化水素は細胞内で効率的に解毒されているものと考えられる。次いで、タンパク質、酵素活性及びグリシンベタイン生成のレベルでcodA遺伝子の発現を確認できた形質転換体について、塩化ナトリウムを含む水耕栽培を行った。Na塩が与える光合成活性への影響をクロロフィル蛍光分析法により調べ、非形質転換体(野生型)と比較した。形質転換イネ及び非形質転換イネを100mM及び200mM塩化ナトリウムを含むハイポネックス水溶液に置き、経時的にクロロフィルの蛍光を測定したところ、形質転換体では光合成活性の低下が抑制されることが観察された。すなわち、形質転換体は塩環境でより耐性であることが示された。
【0036】
【発明の効果】
本発明によると、選択マーカー遺伝子産物による新たな植物病原菌や、病虫害の発生を招く可能性がある薬剤耐性遺伝子や抗生物質を用いずに、遺伝子組換え植物を効率よく選択することができる。
【0037】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の植物形質転換用組換えベクターpCOD/lucを示す図である。
【図2】本発明のcodA遺伝子の制限酵素地図を示す図である。
Claims (17)
- 塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有する組換えベクターで植物を形質転換し、塩ストレス条件下、耐塩性を選択マーカーとして耐塩性の植物、カルス又は植物細胞をスクリーニングすることを特徴とする形質転換植物の作製方法。
- 選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子が適合溶質合成遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の形質転換植物の作製方法。
- 適合溶質合成遺伝子がコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項2記載の形質転換植物の作製方法。
- コリンオキシダーゼ遺伝子がアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項3記載の形質転換植物の作製方法。
- 塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と目的遺伝子とを含有し、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物、カルス又は植物細胞をスクリーニングすることができることを特徴とする植物形質転換用組換えベクター。
- 選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子が適合溶質合成遺伝子であることを特徴とする請求項5記載の植物形質転換用組換えベクター。
- 適合溶質合成遺伝子がコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項6記載の植物形質転換用組換えベクター。
- コリンオキシダーゼ遺伝子がアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項7記載の植物形質転換用組換えベクター。
- 耐塩性遺伝子と目的遺伝子とがプロモーターとターミネーターをそれぞれ有することを特徴とする請求項5〜8のいずれか記載の植物形質転換用組換えベクター。
- プロモーターが転写量を高めるためのイントロンを介して耐塩性遺伝子に連結されていることを特徴とする請求項5〜9のいずれか記載の植物形質転換用組換えベクター。
- 請求項5〜10のいずれか記載の植物形質転換用組換えベクターが導入されていることを特徴とする植物および植物細胞。
- 塩ストレスにより発現が誘導される選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子と、目的遺伝子を組み込むことができるクローニングサイトとを備え、耐塩性を選択マーカーとして形質転換植物、カルス又は植物細胞のスクリーニングに用いられることを特徴とする植物形質転換用発現ベクター。
- 選択マーカー遺伝子としての耐塩性遺伝子が適合溶質合成遺伝子であることを特徴とする請求項12記載の植物形質転換用発現ベクター。
- 適合溶質合成遺伝子がコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項13記載の植物形質転換用発現ベクター。
- コリンオキシダーゼ遺伝子がアルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)から得られるコリンオキシダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項14記載の植物形質転換用発現ベクター。
- 耐塩性遺伝子がプロモーターとターミネーターを有することを特徴とする請求項12〜15のいずれか記載の植物形質転換用発現ベクター。
- プロモーターが転写量を高めるためのイントロンを介して耐塩性遺伝子に連結されていることを特徴とする請求項12〜16のいずれか記載の植物形質転換用発現ベクター。
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WO2006134903A1 (ja) * | 2005-06-14 | 2006-12-21 | Inter-University Research Institute Corporation National Institutes Of Natural Sciences | 花及び/又は果実のサイズが大型化された植物の作出方法 |
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2003
- 2003-06-17 JP JP2003172296A patent/JP2005006522A/ja not_active Withdrawn
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WO2006134903A1 (ja) * | 2005-06-14 | 2006-12-21 | Inter-University Research Institute Corporation National Institutes Of Natural Sciences | 花及び/又は果実のサイズが大型化された植物の作出方法 |
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