JP2004359624A - 局所医薬組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】生体に対して安全であり、創傷に効果的に薬物を放出し、しかも薬物を安定に含有する局所医薬組成物および創傷保護ドレッシング剤を提供する。
【解決手段】マクロファージ遊走阻害因子および生分解性材料を含有する局所医薬組成物を用いる。MIFとしては、遺伝子組換えで製造したヒト−MIFを用いることができる。また、生分解性材料としては、架橋化ゼラチン、特に架橋化ゼラチンマイクロスフェアを用いることができる。MIFを含浸させた生分解性材料は微小な粒子(湿潤時の平均直径32μm未満)となるため、局所医薬組成物に用いた場合に、創傷周辺の皮下及び皮内に注射可能となる。また、本発明の局所医薬組成物を含む創傷保護ドレッシング剤とすることもできる。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、局所医薬組成物に関する。さらに詳しくは、マクロファージ遊走阻害因子(MIF)および生分解性材料を含有する局所医薬組成物に関する。
また本発明は、局所医薬組成物を含む創傷保護ドレッシング剤に関する。
本発明の局所医薬組成物およびドレッシング剤は、MIFを徐放することにより、創傷の治療に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
皮膚や粘膜の損傷や欠損、すなわち創傷、熱傷、凍傷、紫外線照射、外傷、皮膚潰瘍、水疱性皮膚疾患ならびに、長期入院患者ケアの問題である「床ずれ」等による受診患者数は、6万5000人を数える。これらには、手術による創傷、切除による創傷、真皮および表皮の損傷を伴う深い創傷、眼組織の創傷、歯組織の創傷、口腔の創傷、糖尿病性潰瘍、皮膚潰瘍、肘潰瘍、動脈潰瘍、静脈うっ血潰瘍、熱曝露または化学薬品から生ずる熱傷等があり、また、***、栄養失調、ビタミン欠乏症に関連するものや、ステロイド、放射線療法、抗腫瘍性薬物および代謝拮抗物質による全身処置と関連する合併症といったような、異常な創傷治癒状態も含まれる。また、「床ずれ」は、上皮細胞の更新速度が老齢化により基礎的に低下していることを背景に起こる症状である。
【0003】
創傷治癒は、負傷した組織が修復され、特定の組織が再生され、そして新たな組織が再編成されることによる、一連の過程からなる。創傷治癒は3つの主要期、即ち、a)炎症期(0〜3日)、b)細胞増殖期(3〜12日)、及びc)再成形期(3日〜6か月)からなる。創傷治癒過程は、複雑な現象が次々に起こることで成立している。創面では次のような生理反応が起こっている。(1)血管が破綻し、血小板が集まり止血する。また、血管収縮により止血する。(2)同時に、血小板より血小板由来成長因子、上皮成長因子が放出される。(3)収縮していた血管が拡張して毛細血管の透過性が亢進し、白血球が組織内に遊走し細菌を排除する。(4)マクロファージが創傷内に進入し、壊死組織などを除去する。(5)マクロファージが各種成長因子(血管新生、線維芽細胞活性化、コラーゲン生成などを助ける因子)を放出する。(6)上皮細胞により創面を被覆する。(7)線維芽細胞によりコラーゲンなどの足場物質を産生する。(8)毛細血管が増殖する。
【0004】
皮膚組織の再生・再構築という生命現象は、以上の複雑な生理反応が順を追って規律正しく進行しなければうまく行かない。皮膚の真皮や皮下組織の再生および再構築現象において、線維芽細胞が果たす役割は極めて重要であり、線維芽細胞の***・増殖・移動・分化を抑制すること、及び線維芽細胞におけるコラーゲン線維・弾性線維・細網線維・各種細胞外基質の足場物質の生産を阻害することは、皮膚組織の再生・再構築を円滑に進めるために避けなければならない。従って創傷治癒の過程で中心的な役割を果たすのが、線維芽細胞と血管である。線維芽細胞も表皮細胞と同様に***・増殖・移動・分化という過程を経て、コラーゲン線維、弾性線維、細網線維、各種細胞外基質成分が真皮や皮下組織において健常組織に近い状態にまで規則正しく整然と再構築され、すなわち上記細胞外基質成分のすべてが確実に速やかに再生・再構築しなければ皮膚組織の再生および再構築はうまくゆかない。
【0005】
従来、創傷治療においては、抗生物質等により患部の細菌の増殖を抑制し自然治癒を待つ方法、コラーゲン、キチン、キトサンなどの生体適合性の高い細胞外マトリックスまたは人工皮膚を生着する方法、天然物抽出物により肉芽、表皮形成促進物質を投与する方法などが用いられてきた。
【0006】
抗生物質等を用いる方法としては、2次感染症の防止のために抗生物質、抗菌剤、抗ウィルス剤、消炎鎮痛剤等が創面に対して局所的に適用されている。
【0007】
皮膚のモデルである人工皮膚を生着する方法しては、例えば、表皮角化細胞を多層状のシート上に培養したもの(非特許文献1)、線維芽細胞をコラーゲンゲル内で培養し、ゲルが収縮した後に、そのゲルの上に表皮角化細胞を播種、培養したもの(特許文献1)、ナイロンメッシュに線維芽細胞を播種、培養してメッシュ空孔が線維芽細胞の分泌物により埋まった時点でその上に表皮角化細胞を播種、培養したもの(非特許文献2)、あるいはコラーゲンスポンジに線維芽細胞を播種、培養した後、フィルム状のコラーゲンスポンジを重ね、さらに表皮角化細胞を播種、培養したもの(特許文献2)、を用いる方法などがある。
【0008】
また、哺乳類由来の線維化アテロコラーゲンとヘリックス含量が0〜80%である哺乳類由来の変性アテロコラーゲンとの複合マトリックスからなる創傷接触層および水分透過調節層からなる自家抜去毛包移植用の人工真皮(特許文献3)、皮膚組織を入れる凹部もしくは孔部を有するコラーゲンスポンジ層の一方面にシリコーン層が積層されてなる人工真皮の、全層皮膚欠損創を一期的に治療する組織含有人工真皮(特許文献4)、中和キトサン/コラーゲン混合スポンジを含有することを特徴とする人工真皮構造物(特許文献5)、が知られている。
【0009】
しかしながら、このような人工皮膚の調製は製造過程が長くなるため、微生物汚染のコントロール等、製剤を作製するために高価な施設を必要としていた。
【0010】
一方、創面の保護方法である消毒とガーゼ被覆などによる伝統的な創傷処置に関して治療効果の根拠に議論の余地があるといわれている(非特許文献3)。このような創傷処置の臨床上の課題を解決するために、創面全体を覆い、酸素透過を維持し、細菌侵入を防ぐ被覆(ドレッシング)剤として、親水性のハイドロコロイド材料などの閉鎖性ドレッシング剤がある。
【0011】
しかし、このタイプの創傷被覆剤は、組織の一部が被覆剤と密着し、剤を引き剥がす際に、組織に大きな傷をつくるおそれがある。また逆に疎水性のポリウレタンフィルムで造られ、酸素と水蒸気を通す半透過性の透明フィルムを利用したフィルムドレッシング剤がある。しかし、このタイプの創傷被覆剤には創傷滲出物を吸収管理できない欠点がある。このため海藻から抽出された成分で造られた、創傷管理、特に滲出液の管理を目的として使われる被覆材であるアルギン酸塩ドレッシング剤がある。一例をあげると、吸湿性パッドと非固着性フィルムからなるスポンジ状パッドと防水性絆創膏を組合せたドレッシング(AirstripR、Smith & Nephew Limited)や高水蒸気透過性を有するポリウレタンフィルムと接着剤層からなる接着性ドレッシング(Op−SiteR、Smith & Nephew Limited; BioclusiveR、Johnson & Johnson;TegadermR3M)、最近では創面と接触する部位には非粘着性多孔フィルム(MelolinR、Smith &Nephew Limited)を使用したドレッシングが市販されている。これらの創傷ドレッシング剤に共通する性能は、内側微孔質膜の微孔を通して創傷滲出物を吸収または貯留し、創傷をより回復しやすい環境にして、かつ従来の創傷ドレッシングに比べ、剥離時に傷を残さないという点にある。これらの従来技術は、自然の皮膚再生または再構築能力を消極的に利用することに特徴がある。
【0012】
肉芽、表皮形成促進物質を投与する方法としては、皮膚組織の再生・再構築賦活作用を有する促進物質として、ホルモン類、ビタミン類、α−ヒドロキシカルボン酸、γ−オリザノール、サポニン等の生薬抽出物、胎盤抽出物、植物レクチン、キノコ抽出物、動物由来タンパク質、特に塩基性及び酸性線維芽細胞増殖因子といった種々の物質が使用されてきたが、皮膚組織の再生・再構築過程に有用な、細胞賦活作用を有するポリペプチドの局所における必要濃度は充分に研究されてこなかった。
そして、上皮様組織を再生することが可能でも、完全な皮膚を再構築するために、創傷局所において上皮細胞を再生する増殖因子等ポリペプチドの最適条件をあらかじめ決定し、制御することは困難であった。
【0013】
ポリペプチドからなる薬物及び製剤の局所適用として、rIL−2等の低用量局所製剤で、放出される物質の量が約1〜100nmole/m体表面積/day(体表面積1.5m換算で42μg〜4mg/day)であるポリペプチド製剤が公開され、種々のポリペプチド(IL−2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、14、および15、TNF−α、TNF−β、神経成長因子、CD40、Fas、CD27、およびCD30リガンド、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−8、マクロファージ阻害蛋白質、およびランティス、その活性断片、および薬学的に許容される類似体および誘導体、ならびにそれらの混合物からなる群より選択されるサイトカイン活性を有する物質)が例示されているが(特許文献6)、微量の細胞増殖因子等を放出制御する局所製剤は知られていない。またポリペプチドの有効濃度の維持おいて、充分な製剤も知られていない。
【0014】
創傷を積極的に治癒するために、増殖因子を利用して表皮組織の再生または再構築による創傷回復のメカニズムを利用する方法として、再生および再構築の生理反応に関わる分子群が知られている。例示すると、EGF、TGF−β1、TGF−α、FGF、VEGF、PDGF−BB、TGF−β1、PDGF−AB、IGF、KGF、PDGF、TGF−β2、TGF−β3、FGF−2塩基性線維芽細胞成長因子(塩基性線維芽細胞増殖因子ともいう。以下、「bFGF」という。)、U−PA、t−PA、インテグリン、接着因子等があげられている(非特許文献4)。近年では創傷治療におけるbFGFの臨床応用や(医療用医薬品「フィブラストスプレー」が2001年発売され、人体の組織や細胞を増殖させる世界初の再生医療分野の医薬品である。)、血管新生作用を用いた血管修復等へのbFGFの応用も行なわれているが(非特許文献5)、これらはbFGFを投与して線維芽細胞の創傷集積と血管新生を促し、上皮再構築の足場となる上皮様組織を再生することを目的としている。
【0015】
また、創傷部位に適用して表皮再生を促進するための再上皮化促進剤を提供することを目的として、ペクチンを有効成分とするもの(特許文献7)、植物抽出物を含有する線維芽細胞増殖促進剤(特許文献8)、ヒト皮膚角質層の再生促進に寄与すると考えられているケラチノサイト増殖促進剤、火傷や創傷などによって損傷されたヒトや動物の皮膚に適用される損傷治癒剤(特許文献9)、が知られている。また上皮細胞の増殖因子として、EGF(上皮増殖因子)について、実用化に向けて臨床効果が確認されている(非特許文献6)。EGFの作用効果の特徴は上皮細胞と共に線維芽細胞が増殖する点であり、このため、結合組織におよぶ深い外傷治療に適している。しかしながらEGFはガン化誘導作用を持つので、実用化にはむかない。EGFと構造的に近縁であるTGF−αもまた上皮細胞の増殖を促進させる活性を有するが、ガン化誘導作用を持つためこの性質が実用化の障害になる。その他の上皮細胞の増殖促進因子として、GM−CSF(Granular Macrophage− Colony Stimulating Factor)等の因子が発見されている(非特許文献7〜9)。
【0016】
ところで、皮膚の表皮は、最下層から最上層にむけて基底層、有棘細胞層、顆粒層、透明層、角質層の5層から構成されている。そして、基底膜上に存在する角化細胞が増殖と分化を繰り返して最上層へと移動する。それゆえ、角化細胞は表皮の再生には必要不可欠な細胞である。従って、ケラチノサイト増殖促進剤の提供は、皮膚再生に有効な手段である。このようなことを狙った技術として、中村らのHGF(肝実質細胞増殖因子)を有効成分とする上皮細胞増殖促進剤の発明がある(特許文献10)。しかしながら、効果の実証は培養上皮細胞の増殖と運動性に限られていて不十分であるともに、HGFが上皮細胞に作用する濃度範囲は7.5ng/mlまでと極めて低濃度であり、ヘパラン硫酸等の細胞外の酸性ムコ多糖類と強く結合するため、HGFの有効量を局所でコントロールすることが難しいという欠点を持つ。
【0017】
また、FGF(線維芽細胞成長因子)も主に線維芽細胞の増殖を促進するものであって、このため上皮細胞のみを選択的に増殖することは不可能であった。
【0018】
VEGF(血管内皮細胞増殖因子:vascular endothelial growth factor)は血管内皮細胞特異的増殖因子であり(非特許文献10)、皮膚由来の血管内皮細胞に対しても作用することが知られている(非特許文献11)。一般に、VEGFの産生は、血管内皮において虚血などの環境因子で誘導され、生理的に重要な意義を有するものとみなされている。皮膚におけるVEGF産生細胞は、表皮角化細胞であることが知られている(非特許文献11)。しかしながら、VEGFは、創傷治癒の初期に血管造成とマクロファージの遊走を伴う炎症期(0〜3日)に必要とされるが、VEGFはまた血管に作用してその透過性を亢進させることも知られているため(非特許文献12)、再成形期(3日〜6か月)にVEGFを投与すると、浮腫がおさまらず逆効果となりうる。
【0019】
また特許文献11には、組織器官をin vivoで再生させるための材料技術として、未分化間葉系細胞、骨髄細胞、末梢血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞(小肝細胞、oval細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、EG細胞、筋衛星細胞、骨芽、ゾウゲ芽、軟骨芽、上皮系胚芽細胞、胆管芽細胞などの芽細胞等の細胞と塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板分化増殖因子(PDGF)、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、グリア誘導神経栄養因子(GDNF)、神経栄養因子(NF)、ホルモン、サイトカイン、骨形成因子(BMP)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)等の細胞増殖因子からなる組織器官のインビボ再生のための材料が開示されているが、これらの細胞とMIFとの組合せからなる局所治療製剤に関する言及はない。
【0020】
マクロファージ遊走阻害因子(macropharge migration inhibitory factor:MIF)は、抗原で感作し、活性化したモルモット・リンパ球の培養上清が、インビトロで毛細血管からのモルモット・マクロファージの遊走を阻止し得ることから遊走阻止因子と命名された(非特許文献13、14)。
【0021】
ヒト−MIFも、マクロファージの遊走能力を阻害するポリペプチドであることが知られている。従来からヒト細胞由来のMIFは知られているが、混合物として生物学的液体中の他のタンパク質と一緒に記載されているに過ぎない。MIFはリンフォカイン群に属し、このリンフォカインは生物学的に活性な可溶性ポリペプチドを含んで成り、リンパ球および単球またはマクロファージが抗原、マイトジェン等により刺激された場合にこれらの細胞から分泌される。リンフォカインは、タンパク質仲介物質として、細胞免疫の免疫調節、炎症およびエフェクター機構において重要な役割を演じる。リンフォカインの他の例として、免疫インターフェロン(γ−インターフェロン)、インターロイキン1および2、並びにマクロファージ活性化因子(MAF)を挙げることができる。これらのリンフォカインは、免疫系の種々細胞タイプの分化、活性化および増殖を制御する。
【0022】
現在では、MIFは、γ−インターフェロンマクロファージ活性化因子(MAF)および他のリンフォカインから明確に区別されている単一の物質である。ヒトMIFcDNAによりコードされるタンパク質の分子量が12.3kDであり、116個のアミノ酸残基から構成されていることが明らかとされた (非特許文献15)。グルタチオン(GSH)を固定化したアフィニティーゲルにMIF様の一次構造を持つタンパク質が結合することが発表され(非特許文献16)、そしてグルタチオンへの特異的結合能を利用してヒトMIFを高純度に精製し、世界で初めて結晶化に成功し、そのヒトMIFが12.5kDの分子量およびpH5.0の等電点を有するホモ2量体であることが明らかとされた(非特許文献17)。さらに最近の研究によって、マクロファージの遊走能力を阻害するMIFは、ラット上皮細胞に対して濃度依存的に走化性を示し、その遊走を促進するということが発見された(非特許文献18)。
【0023】
ヒト−MIFは、単球および無活動組織マクロファージが炎症性マクロファージに分化するのを誘導し、炎症反応(遅延型過敏症反応)の初期において決定的な役割を演ずる。エンドトキシンショックが下垂体より放出されるMIFにより増悪する一方、抗MIF抗体により症状が軽減することが認められる(非特許文献19)。
このMIF活性が最初に観察されて以来、多数の刊行物が推定的MIF分子の単離および同定を報告している(例えば、非特許文献20〜32を参照)。
【0024】
MIFと近縁のポリペプチドと考えられるMIF−3を利用した薬物組成が、特許文献11に開示されている。しかし、開示されたMIF−3は、皮膚で強く発現していないため、近縁のポリペプチドであっても、皮膚に投与する生理学的合理性がない。さらに彼らの提唱はマクロファージの数を増加させて、創傷治癒速度が増加するという仮説にとどまり、その実証がなされていない。その投与量も全身投与量として体重1Kgあたり10μgと規定しているだけであり、具体的に創傷局所でどの程度の量のMIF−3が必要であるかということを実証していない。更に最も重要な濃度範囲について言及さえしていない。また、上皮細胞の遊走が創傷治癒過程で重要な現象であることを全く示唆していない。
【0025】
また、非特許文献33には、MIF欠損マウスにおいて、創傷の治癒が遅くなることが記載されている。しかし、どの程度の量のMIFを投与することにより、創傷治癒が促進されるかについては、言及されていない。
【0026】
材料を複合して皮膚代替物を提供する技術として、創傷治癒に有効な物質を産生しているヒト線維芽細胞を用い、さらに創傷治療に有効な物質の有効な産生量を特定することにより、安定な創傷治癒力を有する培養皮膚代替物が知られている(特許文献12)。創傷治癒に有効な産生物質の具体例としては、たとえば血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、インターロイキン−6(IL−6)またはI型コラーゲン、フィブロネクチン、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)およびインターロイキン−1(IL−1)などが挙げられているが、MIFを利用する可能性は示されていない。
【0027】
創傷部位への増殖因子の徐放性投薬を目的に、ポリペプチド増殖因子の徐放性送達のためのヒドロゲル組成物の利用が開示されている(特許文献13、14)。特許文献13には、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリアクリル酸、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等から選択されるヒドロゲルが血管形成性増殖因子(例えば、bFGFまたはVEGF)を含有する組成物を使用して、虚血によって特徴付けられる状態を処置することに有用であることが開示されている。特許文献14には、架橋ゼラチンゲルにポリアニオンを少量付加することにより、塩基性線維芽細胞増殖因子の放出を抑制し、より長期にわたる塩基性線維芽細胞増殖因子の徐放化を達成することができるポリアニオン付加架橋ゼラチンゲル製剤が開示されている。しかしながら、これらはMIFに関して言及されていない。
【0028】
特許文献15においてサイトカイン、細胞増殖因子又は刺激剤を含有することを特徴とする生分解性マトリックスを用いた創傷治癒促進剤が公開され、インターフェロン−γ、腫瘍壊死因子−α、インターロイキン−1α、インターロイキン−1β、酸性線維芽細胞増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、表皮細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、刺激剤としては、トロンビン、血小板活性化因子などがあげられているが、MIFに関しては言及されていない。
【0029】
その他の増殖因子の徐放用担体としては、生体内で分解吸収されていく性質をもつもの、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグルコール酸との共重合体がある。特許文献16には、新生血管誘導因子が、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、bFGF、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β) 、オステオネクチン(Osteonectin) 、アンギオポイエチン1(Ang1)およびアンギオポイエチン2(Ang2)からなる群から選ばれた少なくとも1種類の新生血管誘導因子であり、用具基体がハイドロゲル(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリ−2− ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−2− ヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などの合成高分子の化学架橋体や放射照射による架橋体等)からなっている、新生血管床形成用用具が開示されている。この他にも、ポリ−ε−カプロラクトン、ε−カプロラクトンと乳酸あるいはグリコール酸との共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−シアノアクリレート、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタメート、ポリ−γ−メチル−L−グルタメート、ポリ−L−アラニンなどの合成高分子、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸およびその誘導体などの多糖、あるいはゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリンなどのタンパク質などが担体として知られている。
【0030】
【特許文献1】米国特許第4,485,096号公報
【特許文献2】特開平6−292568号公報
【特許文献3】特開2000−262610号公報
【特許文献4】特開平10−80438号公報
【特許文献5】特表2002−526204号公報
【特許文献6】特表2000−510122号公報
【特許文献7】特開2002−226378号公報
【特許文献8】特開平10−36279号公報
【特許文献9】特開2003−52366号公報
【特許文献10】特開平7−179356号公報
【特許文献11】特表平10−500301号公報
【特許文献12】特開2002−200161号公報
【特許文献13】特表2002−524425号公報
【特許文献14】特開平8−325160号公報
【特許文献15】特開平11−246420号公報
【特許文献16】特開2000−178180号公報
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【非特許文献19】A.セラミ等、「ネイチュアー」、365:756−759(1993)
【非特許文献20】P.S.パパゲオルジョウ等、「ジャーナル・オブ・イムノロジー」、108:494−504(1972)
【非特許文献21】R.E.ロックリン等、 「セルラー・イムノロジー」、5:435(1972)
【非特許文献22】T.吉田等、「ジャーナル・オブ・イムノロジー」、117:548−554(1976)
【非特許文献23】H.G.リモールド等、「ジャーナル・オブ・イムノロジー」118:2015−2019(1977)
【非特許文献24】L.H.ブロック等、「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン」、 147:541−553(1978)
【非特許文献25】G.ポッツアンツア等、「サイエンス」、205:300−301(1979)
【非特許文献26】P.N.ディン等「ジャーナル・オブ・インターフェロン・リサーチ」、1:23 (1981)
【非特許文献27】W.Y.ワイザー等、「ジャーナル・オブ・イムノロジー」、126:1958−1962(1981)
【非特許文献28】S.Z.サラフディン等、「サイエンス」、223:703−707(1984)
【非特許文献29】W.Y.ワイザー等、「セルラー・イムノロジー」、88:109−122(1984)
【非特許文献30】W.Y.ワイザー等、 「セルラー・イムノロジー」、93:532−540(1985)
【非特許文献31】D.T.ウメツ等、「ジャーナル・オブ・イムノロジー」、140:4211−4216(1988)
【非特許文献32】G.ツバドロ等、「クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・イムノロジ」、72:510−515(1988)
【非特許文献33】G.S. アシュクロフト等、「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション」、111:1309−1318(2003)
【0031】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、生体に対して安全であり、創傷に対して効果的に薬物を放出し、しかも薬物を安定に含有する局所医薬組成物を提供することである。
【0032】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、浮腫も癌化誘導作用も起こさない増殖因子としてマクロファージ遊走阻害因子に着目し、これを局所医薬に用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、マクロファージ遊走阻害因子および生分解性材料を含有する局所医薬組成物である。
また、本発明は、上記医薬組成物を含む創傷保護ドレッシング剤である。
【0033】
ここで、発明者らは、マクロファージ遊走阻害因子(MIF)が他の組織に比べヒト上皮細胞において特に強く発現していること(Shimidzu T et al. FEBS Letter, 381:199−202,1996)、皮膚損傷や紫外線照射によって皮膚におけるMIFの生産が亢進し、MIFが細胞遊走促進因子(Shimidzu T et al.J Invest Dermatol.112:210−215,1999; BBA 1500(2000)1−9)、細胞増殖因子、血管新生因子であることと同時に調節因子であること(Shimidzu T et al.BBRC. 264:751−758,1999)、に着目した。他方、本発明者らはMIFがエンドトキシンショックの際にLPSに応答して、下垂体前葉細胞から特異的に放出されることが知られているメディエーターであることから(Bernhagen ら,1993,J.Cell.Biochem.Supplement 17B,Abstract E306)、全身循環するMIFは可能な限り低濃度にコントロールすることが極めて重要であるということを認識している。また最近の研究によって、グルココルチコイド(内因性で放出されたものと治療的に投与されたものの両者)の抗炎症作用の対立制御因子としてのMIFの活性が明らかになった。強い抗炎症反応を示すグルココルチコイドの本来の活性がMIFによって阻害されるという事実から、内因性のMIF反応は、様々な炎症疾患および症状の原因または憎悪因子であるということを認識している(Donnelly and Bucala, Molecular Medicine Today 3 : 502−507, 1997)。
【0034】
従って、MIFを局所徐放剤として利用することで、局所の組織再生を促すという発想は、これまでのMIFの薬理を直接利用する発想の延長から断絶した本発明者らの独自の発想である。
【0035】
【発明の実施の形態】
一般に疾病や外傷などによって皮膚組織の一部が脱落もしくは欠損すると、脱落組織周辺に生存している表皮細胞及び線維芽細胞が***・増殖して欠損部に移動してくるが、本明細書ではこの現象を表皮細胞もしくは表皮組織の再生と定義する。
その後、欠損部に移動、移動中の再生表皮細胞は互いに接着し始めて***・増殖を中止し、表皮組織を再び形成するようになる。この現象を本明細書では表皮細胞もしくは表皮組織(表皮)の再構築と定義する。
本明細書で上皮細胞は、体の内外の分離面をおおっている細胞の総称で、線維芽細胞以外の細胞を意味する。上皮細胞には、例えば表皮細胞、角化細胞、粘膜上皮細胞が含まれる。また、上皮細胞もしくは表皮組織の再生及び再構築が起きる生命現象を一般に上皮化という。
【0036】
本発明に用いられるMIFとしては、ヒト−MIF、マウス−MIF等を挙げることができ、ヒト−MIFがより好ましい。なお、ヒト−MIF、マウス−MIFは、それぞれ312334、312221のアクセッション番号を有するタンパク質として特定されている。
【0037】
本発明に用いるMIFの製造方法としては、例えば、ヒト−MIFでは、ヒト−MIFcDNAでコードされた領域を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によるインビトロでの遺伝子増幅を行い、遺伝子を挿入した発現ベクターを宿主細胞に導入して生産するものが挙げられる(非特許文献17)。増幅したDNAはT7プロモーター発現プラスミドpET3のNdeIとBamHI断片中へ挿入し、このプラスミドで変換したトランスフェクションされたE.ColiのBL21(DE3)LysSを培養し、その培養上清からヒト−MIFを単離することができる(J.西平等、「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・レサーチ・コミュニケーション」、185:1069−1077(1992))。
【0038】
MIFの単離方法としては、MIFまたは組換え体MIF含有溶液、例えばヒト細胞の細胞抽出液、細胞培養上清液養液を、所望により除菌ろ過工程(0.45μm)を経た後、以下の2つの段階、a)および/またはb)により、単離することができる。
即ち、段階a)としては、ヒト−MIFのグルタチオンへの特異的結合を利用して、グルタチオンを有する担体としてのアフィニティーゲル、例えばS−ヘキシルグルタチオンアフィニティーカラムR上に通し、その担体と接触させ、非結合タンパク質および他の外来性物質を除去し、抗体に結合したヒト−MIFを選択的に切り離すものである。
また、段階b)は、ヒト−MIFに特異的なモノクローナル抗体を有する担体と接触させ、非結合タンパク質および他の外来性物質を除去し、抗体に結合したヒト−MIFを選択的に切り離し、単離するものである。
【0039】
即ち、ヒト−MIFを含有する溶液は、細胞または細胞培養上清液から、例えば抽出液、濾過および/またはプロテアーゼ阻害剤の添加により安定化される。このようなヒト−MIF溶液を、段階a)および/または段階b)において、担体に結合したグルタチオン(GSH)および/または抗体と直接接触せしめることができ、しかし好ましくは約6kDまたはこれより小分子量の分離限界を有する膜上での限外濾過によりあらかじめ前精製し、濃縮し、場合によっては透析し、そして所望によりクロマトグラフィー、例えばDEAE−セルロースまたはセファデックスによりさらに精製する。
【0040】
段階a)および/または段階b)においては、ヒト−MIFが溶液に含有されている他のタンパク質および外来性物質から分離され、この場合、ヒト−MIFのグルタチオンへの特異的結合および/またはヒト−MIFに対して特異的な抗体とヒト−MIF上の認識される抗原決定基との間の強制的な相互作用に基づく分離作用が用いられる。このために、MIF含有液を、それ自体公知のイムノアフィニティークロマトグラフィー法に従って、グルタチオン(GSH)および/またはヒト−MIFに特異的なモノクローナル抗体を有する担体と接触せしめ、非結合タンパク質および他の外来性物質を除去し、グルタチオン(GSH)および/または抗体の結合したヒト−MIFを選択的に切り離し、そして単離する(C.P.D.ツ等、「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー」、258:4659−4662(1983))。グルタチオン(GSH)を有する担体としてのアフィニティーゲル、例えばS−ヘキシルグルタチオンアフィニティーカラムを用いるか、および/または無機物または有機物を基礎とする適当な担体、例えば珪酸塩、架橋アガロース、デキストラン、または適当に官能化された形のポリアクリルアミドに、ヒト−MIFに特異的なモノクローナル抗体またはその誘導体を付加する。例えば、活性化されたエステル官能基、例えばN−ヒドロキシサクシンイミドエステル基を含有する担体を水性緩衝液に懸濁し、モノクローナル抗体の溶液と混合し、そして担体のふさがれていない反応性部位を例えば第一級アミン 、例えばエタノールアミンによりブロックする。担体を、適当な水性溶剤、例えば塩溶液、例えばNaCl溶液、または緩衝液、例えば燐酸緩衝化NaCl溶液、NaHCO3溶液または3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸溶液に懸濁し、そしてヒト−MIFを含有する溶液と接触する。クロマトグラムカラムに充填し、そしてヒト−MIF含有液を導入し、そして所望により加圧を伴って、担体中にポンプ通過する。未結合タンパク質および他の汚染物を、水性液、例えば約5〜約9のpHを有する緩衝液および/または塩溶液、例えばNaCl溶液で洗浄除去する。担体上の抗体に結合したヒト−MIFを、適当な水性液、例えば約2〜約5のpH範囲の緩衝液、例えばグリシン緩衝液、または種々の混合物もしくは塩溶液、例えば濃NH4 SCN溶液のpHグラジエントにより溶出する。得られた精製ヒト−MIF含有溶液を場合によっては中和し、そしてそれ自体公知の方法により、例えばセファデックス上でのクロマトグラフィー、電気透析、電気泳動濃縮および/または真空濃縮により、精製されたヒト−MIFを単離できる。
また、マウス−MIF等の他のMIFも、上記ヒト−MIFと同様の方法を用いて製造、単利することができる。
【0041】
本発明に用いられる生分解材料としては、細胞または微生物、生体の本来の生命活動の働きで溶解、分解、代謝または吸収される材料であれば特に制限はなく、具体的にはポリビニルアルコール、でん粉又はでん粉系高分子、セルロース、プルラン、カードラン、ザンタンガム等の多糖類、ポリグルタミン酸、ポリリグニン等のポリアミノ酸、ゼラチン、コラーゲン、セルロース、リグニン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、キチンキトサン、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリ−ε−カプロラクトン、ε−カプロラクトンと乳酸あるいはグリコール酸との共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−シアノアクリレート、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタメート、ポリ−γ−メチル−L−グルタメート、ポリ−L−アラニンゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリンなどのタンパク質などの単独または組成物があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
これらの中で、水への曝露後、エステル結合の加水分解により分解されて、非毒性の乳酸およびグリコール酸のモノマーを生成する、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(「PLGA」)が好ましい例として挙げることができる。PLGAは、乳酸とグリコール酸とでの重縮合反応により調製される共重合体である。PLGAポリマーの結晶性および疎水性を調節するために、種々の割合のモノマー比が使用され得る。ポリマーのより高度な結晶性は、結果としてより緩徐な溶解をもたらす。PLGAの調製とその性質については、D.K.GildingおよびA.M.Reed、「Biodegradable polymers for use in surgery−poly(glycolic)/poly(lactic acid) homo and copolymers:1」Polymer 第20巻、1459−1464頁(1981)に、記載されている。
【0043】
また、生分解性材料の他の好ましい例としては、ゼラチンを挙げることができ、この中でもより好ましいものとして、架橋化ゼラチンを挙げることができる。架橋化ゼラチンは、ゼラチン溶液を油脂等に滴下した油水中エマルジョンをグルタルアルデヒド等の架橋剤により架橋することにより作成することができる。そして、この架橋化ゼラチンを洗浄し、ふるいにかけることにより、生分解性材料として特に好ましい、架橋化ゼラチンマイクロスフェアを作成することができる(K. Kawai et al ;Biomaterials 21(2000),489−499を参照)。この場合、生分解性材料は微小な粒子(湿潤時の平均直径32μm未満)となるため、局所医薬組成物に用いた場合に、創傷周辺の皮下及び皮内に注射可能となる。
【0044】
本発明の局所医薬組成物を製造する方法としては、MIFおよび生分解性材料を含有する組成物が得られるものであれば特に制限はないが、MIFを溶解した溶液を生分解性材料に含浸させる方法が好ましい。例えば、生分解性材料として架橋化ゼラチンマイクロスフェアを用いる場合は、これとMIF溶液とを接触させて、MIFを安定に含有する本発明の局所医薬組成物を調製することができる。また、MIF徐放製剤の安定化のために凍結乾燥が利用可能である(Carpenter,J.F.,Pical,M.J.,Chang,B.S.及びRandolph,T.W.,Pharm.Res.,14:(8)969(1997))。
【0045】
本発明の局所医薬組成物は、MIFが溶出または生分解性材料とともに溶解、崩壊または体液と交換反応することによりMIFが微量ずつ放出され、創傷に効果的な量のMIFを放出し、しかもMIFを安定に含有することができる。このため、本発明の局所医薬組成物は、注射剤やドレッシング剤の他に、軟膏、クリーム、液剤等の外用製剤の配合成分としても利用可能である。
【0046】
本発明の局所医薬組成物の投与量は、創傷の治癒に効果を生ずる量であれば特に制限はないが、創傷1cmあたり1〜100μg、より好ましくは5〜50μg、さらに好ましくは10〜30μgのMIF量となるように投与されることが好ましい。また、MIFの1日の放出量としては、創傷の治癒に効果を生ずる量であれば特に制限はないが、創傷1cmに対して1日あたり10〜5000ng、より好ましくは100〜1000ng、さらに好ましくは300〜700ng放出されるように調整して使用されることが好ましい。
MIFの局所濃度および/またはMIFの1日の放出量を制御する方法としては、生分解性材料の分解性を制御することが挙げられ、例えば架橋化ゼラチンの場合には、グルタルアルデヒド等の架橋剤の配合比率を変化さえること、および架橋化ゼラチンの含水率を変化させること等により放出量を制御することができる。
【0047】
本発明の局所医薬組成物の適用部位としては、例えば創傷した皮膚および/または創傷近傍の皮膚を挙げることができる。この場合、創傷近傍とは、本発明の局所医薬組成物から放出されるMIFが創傷に作用して、創傷治癒に効果を示す範囲であれば特に制限はないが、例えば創傷部位から1〜30mm離れた部位を挙げることができる。
【0048】
本発明の創傷保護ドレッシング剤としては、本発明の局所医薬組成物を含むドレッシング剤であれば特に制限はないが、例えば人工皮膚に本発明の局所医薬組成物を注入して作成したもの等を挙げることができる。
本発明のドレッシング剤に用いる人工皮膚としては、例えばキチンキトサンベースの被覆布(例えば、アベンティスファルマ社製、ベスキチンWRまたはベスキチンFR)や、キトサン誘導体(サクシニルキトサン)を主原料とする創傷被覆剤(例えば、片倉チッカリン社製、ウレザックCR)、またはコラーゲンスポンジとシリコンポリマー等の複合体(例えば、グンゼ社製、PelnacR)等を挙げることができる。
本発明のドレッシング剤は、例えば上記の人工皮膚の表面積1cmあたり、0.5〜500μgのMIFを含有するように本発明の局所医薬組成物溶液を含浸させ、乾燥することにより作成することができる。
本発明のドレッシング剤の使用方法としては、通常のドレッシング剤と同様に用いることができるが、例えば、上記のMIFを含浸させて乾燥した人工皮膚を1次ドレッシング剤として創傷面に添付し、その上から2次ドレッシング剤としてガーゼ等をあてて包帯にて固定し、2次ドレッシング剤を毎日交換することが挙げられる。
【0049】
本発明の局所医薬組成物には、その他の補助成分として、以下に挙げるものを配合してもよい。
色素沈着の予防を目的に、アルブチン、ビタミンCおよびその誘導体、コウジ酸胎盤抽出物、グルタチオン、ユキノシタ抽出物等の美白剤、紫外線遮断剤として、酸化チタン(TiO2)、タルク(MgSiO2)、カルミン(FeO2)、ベントナイト、カオリン、酸化亜鉛(ZnO)等を配合することができる。
抗炎症の目的から、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒノキチオール、酸化亜鉛、アラントイン等の消炎剤を配合することができる。
血行促進の目的から、ノニル酸ワレニルアミド、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、α−ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ−オリザノール等の血行促進剤を配合することができる。
コンプライアンスの目的から、オクバク抽出成分、オウレン抽出成分、シコン抽出成分、シャクヤク抽出成分、センブリ抽出成分、バーチ抽出成分、セージ抽出成分、ビワ抽出成分、ニンジン抽出成分、アロエ抽出成分、ゼニアオイ抽出成分、アイリス抽出成分、ブドウ抽出成分、ヨクイニン抽出成分、ヘチマ抽出成分、ユリ抽出成分、サフラン抽出成分、センキュウ抽出成分、ショウキョウ抽出成分、オトギリソウ抽出成分、オノニス抽出成分、ローズマリー抽出成分、ニンニク抽出成分、トウガラシ抽出成分、チンピ、トウキ等を配合することができる。
【0050】
配合されるMIFなどのポリペプチドの安定性を向上させるために、生理学的に許容される蛋白分解阻害剤を添加しても良い。蛋白分解阻害剤としては、タンパク性のトリプシン・インヒビターである大豆トリプシンインヒビター (SBTI)、膵臓分泌型トリプシンインヒビター (PSTI) やアプロチニン (BPTI)を配合することができる。
【0051】
また、他の添加剤として、水溶性高分子、保存剤、抗酸化剤、緩衝化剤、キレート剤、乳化剤、可溶化剤、軟膏基剤、溶媒、硬化剤、懸濁剤、増粘剤、可逆性架橋剤、ビタミン類等を配合することができる。
【0052】
増粘剤として利用可能な天然の水溶性高分子としては、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、タマリンドガム、キサンタンガム、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(カッソウエキス)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、グリチルリチン酸等の植物系高分子、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子等が挙げられる。半合成の水溶性高分子としては、デキストリン、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、硫酸セルロースジメチルジアルキル(12〜20)アンモニウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、結晶セルロース、セルロース末等のセルロース系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子等が挙げられる。完全合成の水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子、ポリエチレングリコール2000、4000、6000等のポリオキシエチレン系高分子、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンアクリレート、ポリアクリルアミド等のアクリル系高分子、ポリエチレンイミン、カチオンポリマー等が挙げられる。無機の水溶性高分子としては、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸等が挙げられる。
【0053】
保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンザルコニウム溶液、塩化ベンゼルトニウム(benzelthonium)、安息香酸、ベンジルアルコール、ブチルパラベン(butylparaben)、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、クロロクレゾール、クレゾール、デヒドロ酢酸、エチルパラベン、メチルパラベン、メチルパラベンナトリウム、フェノール、フェニルエチルアルコール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、プロピルパラベン、プロピルパラベンナトリウム、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸、チメロサール、チモール等を挙げることができる。
【0054】
抗酸化剤としては、アスコルビン酸、パルミチン酸アコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、トコフェロール、トコフェロール賦形剤等を挙げることができる。
【0055】
緩衝化剤としては、酢酸、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ホウ酸、クエン酸、酪酸、亜リン酸、クエン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸カリウム一塩基、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム溶液、二塩基性リン酸ナトリウム、一塩基性リン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0056】
キレート剤としては、エデト酸二ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸およびその塩、エデト酸等を挙げることができる。
【0057】
乳化剤または可溶化剤としては、アカシア、コレステロール、ジエタノールアミン(隣接型(adjunct))、モノステアリン酸グリセリル、ラノリンアルコール、レシチン、モノ−およびジ−グリセリド、モノエタノールアミン(隣接型)、オレイン酸(隣接型)、オレイルアルコール(安定化剤)、ポロキサマー、ポリオキシエチレン50ステアレート、ポリオキシ35ヒマシ油、ポリオキシ40水素化ヒマシ油、ポリオキシ10オレイルエーテル、ポリオキシ20セトステアリルエステル、ポリオキシ40ステアレート、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノステアレート、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、ステアリン酸、トロールアミン、乳化ロウ等を挙げることができる。
【0058】
軟膏基剤としては、ラノリン、無水ラノリン、親水性軟膏、白色軟膏、黄色軟膏、ポリエチレングリコール軟膏、ペトロラタム、親水性ペトロラタム、白色ペトロラタム、ローズ水軟膏、スクワラン等を挙げることができる。
【0059】
溶媒としては、オレイン酸エチル、ミリスチル酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、鉱油、軽鉱油、ミリスチルアルコール、オクチルドデカノール、アーモンド油、オリーブ油、ピーナッツ油、キョウニン油、ゴマ油、ダイズ油、スクアレン、グリセリン、ピーナッツ油、ポリエチレングリコール、炭酸プロピレン、プロピレングリコール、ゴマ油、注射用水、注射用滅菌水、精製水等を挙げることができる。
【0060】
硬化剤としては、硬化ヒマシ油、セトステアリル(cetostearyl)アルコール、セチルアルコール、セチルエステルワックス、硬化脂肪(hardfat)、パラフィン、ポリエチレン賦形剤、ステアリルアルコール、乳化ワックス、白蝋、黄蝋(yellow wax)等を挙げることができる。
【0061】
懸濁剤および/または増粘剤としては、アラビアゴム、寒天、アルギン酸、モノステアリン酸アルミニウム、ベントナイト、精製ベントナイト、マグマベントナイト、カルボマー(carbomer)934p、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラゲーナン、微晶性およびカルボキシメチルセルロースナトリウムセルロース、デキストリン、ゼラチン、グアーゴム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、メチルセルロース、ペクチン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポビドン、アルギン酸プロピレングリコール、二酸化ケイ素、二酸化ケイ素コロイド、アルギン酸ナトリウム、トラガカントゴム、キサンタンガム等を挙げることができる。
【0062】
可逆性架橋剤としては、通常用いられるものが挙げられ、例えばT.W.Green、Protective Groups in Organic Synthesis、John WileyおよびSons(編)(1981)に記載されたものを用いることができる。また、種々のアプローチが、Waldmannの総説(Angewante Chemie Inl.Ed.Engl.35、2056頁(1996))に列挙される。
【0063】
さらに、本発明の局所医薬組成物と組み合わせ可能な細胞賦活効果を有するビタミン類の具体例としては、ビタミンA油、酢酸レチノール等のビタミンA類、リボフラビン、酪酸リボフラビン等のビタミンB2類、塩酸ピリドキシン等のビタミンB6類、L−アスコルビン酸、L−アスコルビルリン酸マグネシウム、L−アスコルビン酸ナトリウム等のビタミンC類、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β−ブトキシエチルエステル等のニコチン酸類、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール等のビタミンD類、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール等のビタミンE類、ビタミンP類及びビオチン等のビタミンH類、ローヤルゼリー、感光素、コレステロール誘導体、幼牛血液抽出物等の賦活剤等を挙げることができる。
【0064】
【実施例】
以下実施例を参照して、本発明をさらに説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0065】
<製造例1:ヒト−MIFの製造>
ヒト−MIFは、ヒト−MIFcDNAでコードされた領域を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によるインビトロでの遺伝子増幅を行い、遺伝子を挿入した発現ベクターを宿主細胞に導入して生産した。増幅したDNAはT7プロモーター発現プラスミドpET3のNdeIとBamHI断片中へ挿入し、このプラスミドで変換したトランスフェクションされたE.ColiのBL21(DE3)LysSを培養し、その培養上清からヒト−MIFを単離した。
【0066】
<製造例2:生分解性材料の作製>
徐放剤の担体としての生分解性材料は、40℃で1時間あらかじめ加熱したゼラチン溶液濃度10重量%10mlを、毎分450回転で攪拌した350mlのオリーブオイルに滴下し、油中水エマルジョンをグルタルアルデヒド存在下で架橋することにより架橋化ゼラチンを作製した。次いで、100mlのアセトンを加え、更に毎分300回転で1時間攪拌した。この結果生じたマイクロスフェアをアセトンで5回洗浄後、イソプロピルアルコールで2回洗浄して、遠心分離(4℃で毎分5000回転、5分処理)して沈殿をイソプロピルアルコールで分散した。この液からマイクロスフェアを32ミクロンのふるいで回収し、遠心分離を繰り返して、4℃で風乾して、架橋化ゼラチンマイクロスフェアを得た。
得られた架橋化ゼラチンマイクロスフェアは、等電点が5.0、平均粒子径が約70μmであり、含水率が約95%であった。
【0067】
<製造例3:MIFノックアウトマウスの作製>
MIF遺伝子にネオマイシン耐性遺伝子を挿入したベクターをマウス遺伝子と相同組み換えすることにより、MIFノックアウトマウス(MIF KOマウス)を作成した(Homma N et al. Immunology, 2000, 100: 84−90を参照)。そして、免疫ブロット法により、MIFタンパク質を発現していないことを確認した。
次に、作成したMIF KOマウスと、野生型BALB/cマウスの創傷治癒効果を確認した。
具体的には、生後6−8週 MIF KOマウス及び野生型(WT) BALB/cマウスの背部皮膚に4mmX4mmサイズの潰瘍を作り、潰瘍の縮小を経時的に観察してBALB/cマウスと比較検討した。結果を図1に示す。
これより、MIF KOマウスでは、創傷治癒が遅延することが確認された。
さらに、生後1日のMIF KOマウス及びWTマウスから皮膚を剥離し線維芽細胞を培養し、継代2代目のそれぞれの培養線維芽細胞についてMTS アッセイ法を行い、リポ多糖(LPS) の刺激の有無による細胞増殖効果の違いを調べた。結果を図2に示す。
これより、MIF KOマウスでは3、5日ではLPS刺激で線維芽細胞の増殖はあまりみられず、一方野生型(対照)マウスのBALB/cの線維芽細胞ではLPS刺激で細胞増殖がみられることがわかる。
また、MIF KOマウス及びWTマウスからの培養線維芽細胞の遊走能の評価を、培養細胞シャーレに傷を作り、そこに遊走する線維芽細胞を経時的に観察することにより行った。結果を図3に示す。
これより、MIF KOマウスでは、繊維芽細胞の遊走能が低いことがわかる。
【0068】
<実施例1:局所医薬組成物(MIF徐放剤)の製造>
製造例1で得たヒト−MIF(以下単に「MIF」という)36μgをPBS溶液20μlに溶解し、これに製造例2で得た架橋化ゼラチンマイクロスフェア2mgを加えてMIFを含浸させた。その後、2000rpmで遠心分離して回収したペレットを室温で30分間放置し、MIFを含む架橋化ゼラチンマイクロスフェアを得た。
【0069】
<実施例2:MIF徐放剤溶液の製造>
実施例1で製造したMIFを含む架橋化ゼラチンマイクロスフェアに6mlのPBSを添加して、1ml中に6μgのMIFを含む、MIF徐放剤溶液を得た。
次に、上記のMIF徐放剤溶液について、吸光度測定によりMIF放出量を測定し、in vitro において48時間を経過しても、MIFがほとんど放出されていないことを確認した(図4)。
【0070】
<実施例3:MIF徐放剤溶液を用いた創傷治癒実験>
製造例3で得たMIF KOマウスに潰瘍を作成し、その潰瘍周辺部にMIF徐放剤を注入することによる創傷治癒効果を検討した。
具体的には、5匹のMIF KOマウスの背部に、それぞれ5×5mmの大きさでメスを用いて皮下まで潰瘍を作成して、創傷とした(0日目)。翌日(1日目)、実施例2で製造したMIF徐放剤溶液を、潰瘍の周囲の10カ所に、潰瘍から約3mm離して、それぞれ50μlずつ注射した(全量で3μgのMIFを注射した)。従って、創傷1cmあたり12μgを注射したこととなる。
比較例として、架橋化ゼラチンマイクロスフェアと組み合わせていないMIFのみの6μg/mlPBS溶液を10カ所に50μlづつ注射したもの、および注射を行わないもの(対照)についても、同様に実験を行った。
創傷の治癒効果は、潰瘍の最大径を測定することによる、潰瘍の縮小率を観察して行った。結果を図5Aに示す。
これより、創傷作成から6日目において、本発明の局所医薬組成物を注射したものが、MIFのみを注射したものおよび注射をしないものに比べて、有意な治癒効果を有することが明らかとなった。
また、本発明の局所医薬組成物を注射したマウスおよびMIFのみを注射したマウスにつき、創傷作成から10日後に注射部近傍の皮膚を採取し、ウエスタンブロットによりMIFタンパク質の存在を確認した。結果を図5Bに示す。
これより、MIFのみを注射したマウスでは、MIFタンパク質の存在を確認できないのに対して、本発明の局所医薬組成物を注射したマウスでは、創傷近傍にMIFが残留し、徐放効果が持続していることが確認できる。
さらに、この徐放剤は約21日間でMIFを全量放出することを確認した。従って、1日あたり約143ngのMIFが徐放されたこととなり(全量3μgのMIF/21日間)、創傷1cmに対して1日あたり572ngのMIFが徐放されたこととなる。
【0071】
<実施例4:創傷保護ドレッシング剤の作製>
人工真皮(PelnacR グンゼ社製、外層がシリコンポリマー層、内層が細孔サイズ70―110μmのコラーゲンスポンジ層からなる)を準備し、MIF含量が最終的に2.5μg/cmになるように、MIFを含む架橋化ゼラチンマイクロスフェア溶液を人工真皮に均等になるように注入して、創傷保護ドレッシング剤を作製した。
【0072】
【発明の効果】
本発明によれば、MIFが微量ずつ放出され、創傷に効果的なMIF放出を実現し、しかもMIFを安定に含有する局所医薬組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、MIF KOマウスの創傷治癒を示す図である。
【図2】図2は、線維芽細胞増殖の評価を示す図である。
【図3】図3は、線維芽細胞遊走能の評価を示す図である。
【図4】図4は、in vitroにおける徐放効果を示す図である。
【図5】図5は、MIF KOマウスを用いたMIF徐放剤を注入することによる創傷治癒効果を示す図である。

Claims (6)

  1. マクロファージ遊走阻害因子および生分解性材料を含有する局所医薬組成物。
  2. 適用部位が創傷した皮膚および/または創傷近傍の皮膚である請求項1に記載の局所医薬組成物。
  3. 生分解性材料が架橋化ゼラチンマイクロスフェアである請求項1または2に記載の局所医薬組成物。
  4. マクロファージ遊走阻害因子が創傷1cmあたり1〜100μgとなるように投与される、請求項1ないし3のいずれかに記載の局所医薬組成物。
  5. マクロファージ遊走阻害因子が創傷1cmに対して1日あたり10〜5000ng放出される、請求項1ないし4のいずれかに記載の局所医薬組成物。
  6. 請求項1ないし5のいずれかに記載の局所医薬組成物を含む創傷保護ドレッシング剤。
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