JP2004321325A - 血糖値の定量方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】生体組織や体液のような時々刻々と変動する生体成分中の血糖値を精度よく定量分析する。
【解決手段】近赤外領域における光の吸収を利用した生体組織中あるいは体液中の血糖値の定量方法である。体液採取によって予め得た複数の血糖値と光測定で予め得た吸光スペクトルとからなる固定データ群に、血糖値測定に先立って被測定者の体液摂取から得た一つもしくは複数の血糖値とそれと同数の光測定で得た吸光スペクトルとからなる追加データ群を追加して、これらデータ群に多変量解析を適用して検量関数を得る。この検量関数を基に吸光スペクトルでの血糖値の濃度の定量を行う。予測したい被験者のデータによる検量関数の較正がなされているために、正確な定量を行うことができる。追加データ群が定量を行う吸光スペクトルの測定日と同じ日に得たものであれば、個人差に加えて日間差の影響も除くことができる。
【選択図】 図1
【解決手段】近赤外領域における光の吸収を利用した生体組織中あるいは体液中の血糖値の定量方法である。体液採取によって予め得た複数の血糖値と光測定で予め得た吸光スペクトルとからなる固定データ群に、血糖値測定に先立って被測定者の体液摂取から得た一つもしくは複数の血糖値とそれと同数の光測定で得た吸光スペクトルとからなる追加データ群を追加して、これらデータ群に多変量解析を適用して検量関数を得る。この検量関数を基に吸光スペクトルでの血糖値の濃度の定量を行う。予測したい被験者のデータによる検量関数の較正がなされているために、正確な定量を行うことができる。追加データ群が定量を行う吸光スペクトルの測定日と同じ日に得たものであれば、個人差に加えて日間差の影響も除くことができる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は生体組織中の血糖値、あるいは血液、血清、血漿、細胞内液、間質液などの体液中における血糖値の定量方法、特に近赤外領域における分光分析手法を用いた血糖値の定量方法に関するものである
【0002】
【従来の技術】
近赤外分光分析は、試料に特別な操作を行う必要がなく、非破壊で迅速な計測ができることから、近年、農業や食品、石油化学をはじめ様々な分野で応用されるようになっているが、近赤外領域での分光分析は、中赤外領域における分光分析と比較すると、一般に
・近赤外領域では水の吸収吸光スペクトルが小さいので、中赤外領域では難しい水溶液系の分析が可能である
・生体を透過する能力が高い
・測定に際して特別な試料を調整する必要がない場合が多い
といった長所を有する反面、
・信号レベルが中赤外領域と比較して100分の1程度と小さい
・水、たんぱく質、脂質等の他成分の濃度変化による影響を受け易い
といった短所がある。
【0003】
これらの短所があることから、近赤外領域での定量あるいは定性分析を行う場合、中赤外領域における分析のようにピーク位置やピーク高さによる分析手法では正確な分析を行うことは難しい。
【0004】
このために近赤外領域では、測定吸光スペクトルを統計解析手法、たとえば、線形重回帰分析(MLR)、主成分回帰分析、PLS回帰分析といった多変量解析手法を用いて分析する手法、いわゆるケモメトリックスと呼ばれる手法が用いられている。数値解析を利用した統計的手法であり且つパーソナルコンピュータの発達とともに急速に普及してきたこの手法によれば、近赤外領域でのS/N比の小さい吸収信号や他成分の濃度が変化しても、実用に供する定量・定性分析が可能となると考えられるからであり、実際、近赤外光を用いた生体中の血糖値の定量が非常に注目されている。採血を必要としない非侵襲で連続的な血糖値測定が可能となるためである。
【0005】
ここで一般的に行なわれている血糖値推定精度の評価に用いられる実験方法は、実験期間を数日に渡る比較的長期的な時間として糖負荷試験を行い、その際の吸光スペクトル及び体液採取(採血も含む)によって得られる実測血糖値をデータ群として用いて、多変量解析を行って検量関数を導き、さらに他の時点で吸光スペクトルの測定及び体液採取にて実測血糖値を測定しておき、この吸光スペクトルと上記検量関数による血糖値予測と実測血糖値とから上記検量関数の予測精度を見るというものである。
【0006】
【特許文献1】
特開平09−215679号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上述した手法には問題がある。検量関数の作成に用いたデータ群が、実際に血糖値を予測したい被験者から得たものであったとしても、測定箇所の違い等によって異なる他成分や肌の状態、バックグラウンド組織の変化の影響等、日間差による問題が生じるために、血糖値予測値と実際の採血値の間に誤差が生じるからである。検量関数の作成に用いたデータ群が、実際に血糖値を予測したい被験者以外から得たものである場合は、個人差が加わるために、なおさら誤差が大きくなる。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、生体組織や体液のような時々刻々と変動する生体成分中の血糖値を精度よく定量分析することができる血糖値の定量方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
しかして本発明は、近赤外領域における光の吸収を利用した生体組織中あるいは体液中の血糖値の定量方法であって、体液採取によって予め得た複数の血糖値と光測定で予め得た吸光スペクトルとからなる固定データ群に、血糖値測定に先立って被測定者の体液摂取から得た一つもしくは複数の血糖値とそれと同数の光測定で得た吸光スペクトルとからなる追加データ群を追加して、これらデータ群に多変量解析を適用して得た検量関数を基に吸光スペクトルでの血糖値の濃度の定量を行うことに特徴を有している。予測したい被験者のデータによる検量関数の較正がなされているために、より正確な定量を行うことができるものであり、殊に追加データ群が定量を行う吸光スペクトルの測定日と同じ日に得たものであれば、個人差に加えて日間差の影響を除くことができる。
【0010】
上記固定データ群には、糖負荷試験で得られた血糖値−吸光スペクトルで構成される複数のデータを好適に用いることができる。
【0011】
追加データ群は、血糖値−吸光スペクトルで構成されるデータを蓄積することができる構造とすることが好ましく、この場合、追加するデータ同士は、異なる日に測定されたデータでもよいし、同日中に測定されたデータでもよい。
【0012】
また、上記追加データ群は、血糖値−吸光スペクトルで構成されるデータを入れ替えることができる構造を有するものとするのが好ましい。固定データ群は同じでも追加データ群を入れ換えることで、多くの被験者に適用することができる。
【0013】
そして追加データ群は、測定された吸光スペクトルの測定精度の高いもので構成しておくことが望ましい。つまり吸光スペクトルの計測の不具合等によって得られてしまう不良データを排除することが望ましい。
【0014】
この場合、吸光スペクトルを連続して測定して、これらのベースラインの変動値が規定範囲内である時の吸光スペクトルを測定精度の高いものとして追加データ群として採用し、上記変動値が規定範囲外である時、再度吸光スペクトルを測定することを先に測定した吸光スペクトルとのベースラインの変動値が規定範囲内に納まるまで繰り返すとよい。
【0015】
また、本測定に先立って一度光測定と採血を行って、得られた吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数で血糖値予測を行い、この予測値と上記採血による実測血糖値との誤差で、本測定で得た吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数とによる血糖値予測値を補正することで、さらに正確な血糖値の定量を行うことができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下本発明を実施の形態の一例に基づいて詳述すると、本発明においては1000nmから1880nmまでの近赤外波長領域内の複数波長で生体組織あるいは体液の吸光スペクトルを測定するのであるが、このための機材(装置)の一例を図2に示す。図中1はハロゲンランプなどの光源、2は拡散板、3はピンホール、4はレンズであり、光源1からの光は拡散板2、ピンホール3、レンズ4を通貨して光入射体5に入射される。光入射体5には照射側光ファイバー6の一端とリファレンス用照射側光ファイバー7の一端が接続されており、照射側光ファイバー6の他端は測定プローブ8に、リファレンス用照射側光ファイバー7の他端はリファレンス用プローブ9に接続されている。
【0017】
また測定プローブ8には検出側光ファイバー10の一端が接続され、リファレンス用プローブ9にはリファレンス用検出側光ファイバー11の一端が接続されている。検出側光ファイバー10の他端は検出側光出射体12に、リファレンス用検出側光ファイバー11の他端はリファレンス用光出射体13に夫々接続されている。
【0018】
人体の腕部など生体14の表面に測定プローブ8の先端面を所定圧力で接触させた状態で光源1を発光させると、光源1から光入射体5に入射した光は照射側光ファイバー6内を伝達して、測定プローブ8の先端から生体14の表面に照射される。このようにして生体14に照射された測定光は、生体内で反射や拡散した後に、反射光として測定プローブ8の先端から検出側光ファイバー10を通じて検出側光出射体12から出射され、レンズ15を通して回折格子16に入射して分光された後、受光素子17において検出される。受光素子17で検出された光信号はA/Dコンバーター18でAD変換された後、パーソナルコンピュータなどの演算装置19に入力され、該演算装置19において、検出された光信号中の生体信号である吸光スペクトルの解析で血糖値が算出される。
【0019】
ここで、周囲の環境温度の変動や光学部位の位置関係などによって、測定される反射光の吸光スペクトルが変動するおそれがあるために、セラミック板などの基準板20で反射させたリファレンス光を測定し、これを基準光として補正を行なうようにしている。
【0020】
すなわち、光源1から光入射体5に入射した光をリファレンス用照射側光ファイバー7を通してリファレンス用プローブ9の先端から基準板20の表面に照射し、基準板20に照射された光の反射光をリファレンス用プローブ9とリファレンス用検出側光ファイバー11とを介してリファレンス用光出射体13から出射させて、レンズ15と回折格子16とを介して受光素子17に導いている。
【0021】
そして、上記の検出側出射体12とレンズ15の間、及びこのリファレンス用光出射体13とレンズ15の間にはそれぞれシャッター21a、21bを配置して、シャッター21a、21bを選択的に開閉することで検出側光出射体12からの光とリファレンス用光出射体13からの光のいずれか一方を選択的に通過させるものとし、リファレンス用光出射体13からのリファレンス光を検出することによって、これを基準光として周囲の環境温度や光学部品の位置関係などによる変動を補正することができるようにしている。
【0022】
なお、上記の構成のものに限定されるものではなく、1200nmから1880nmの波長領域内で吸光スペクトルの測定が可能なものであれば、上記のものに限定されるものではない。
【0023】
血糖値の定量を行うにあたっては、まず、固定データ群を作成しておく。これは次のようにして作成する。すなわち、上記装置を用いて生体吸光スペクトルを測定すると同時に体液(採血による血液、血清、血漿、または細胞内液、間質液、涙、汗、尿等)採取を行って血糖値を測定する。そしてこれらを一対データとして、複数回分のデータを蓄積する。複数回分のデータ蓄積は、数時間内に集中して測定することで行っても、あるいは複数日に渡って行ってもよい。ただし、ある程度の血糖値変動(血糖値変動幅100mg/dl程度)を有するデータ群である事が望ましい。ちなみに、図3はある個人の生体吸光スペクトルを時間を置いて複数回測定することを複数日で行った時の吸光スペクトルデータを示している。殆ど重なっているように見えるが、微視的には吸光度差特性を有している。
【0024】
なお、上記固定データ群には、糖負荷試験で得られた血糖値−吸光スペクトルで構成される複数のデータ、つまり測定血糖値変動幅がある程度以上の血糖値−吸光スペクトルデータ群を用いることが推定誤差の低減に有効である。
【0025】
次に、追加データ群を作成する。この追加データ群は、血糖値を吸光スペクトルから推定測定行いたい際に、その光測定に先立って体液採取からの血糖値の測定と吸光スペクトルの測定とを行うことで得るものであり、得られた1対のデータである追加データ群は上記固定データ群に追加する。
【0026】
追加データ群の作成に際しては、体液採取からの血糖値測定と吸光スペクトル測定とを数回行って、これらを全て追加データ群としてもよい。この際、短時間内に連続的に吸光スペクトルを測定するのであれば、体液採取からの血糖値測定回数はこれに限ったものではなく、一度の体液採取でも良い。この場合、空腹時等の血糖値変動が小さい時(健常人ならば通常血糖値が100mg/dl程度の時)における測定であることが好ましいが、これに限るものではない。
【0027】
このように、ある個人の吸光スペクトルと体液採取による血糖値の測定を、時間を置いて複数回行うとともに複数日で行ったデータ群を固定データ群とし、追加データ群としてのデータを加えずに多変量解析を行って検量関数を作成し、これに固定データ群を測定した日とは別の日に測定したデータ群をあてはめた結果(従来法に相当)を図4にハで示す。推定値と実測値との相関係数値は0.79、バイアス値(推定値の平均値と実測値の平均値の差)は105、SEP値(推定値と実測値の平均誤差)は27.3であった。図中ロは採血による実測値である。
【0028】
次に、ある個人の吸光スペクトルと体液採取による血糖値の測定を、時間を置いて複数回行うとともに複数日で行ったデータ群を固定データ群とし、別の日に測定したデータを1点だけ追加データ群として追加した状態で多変量解析を行って検量関数を作成することで検量関数の較正を行い、次に別途吸光スペクトルを測定して血糖値を推定させる(図1参照)とともに実測値と比較すると、図4にイで示す結果を得ることができた。ちなみに相関係数値は0.81、バイアス値は92、SEP値は26.7であり、相関値が向上し、バイアス値、SEP値も低減できていることがわかる。
【0029】
追加データを蓄積できる構造とした場合、蓄積するデータは日々更新する構造としたり、測定した日が異なったデータであっても蓄積できる構造としてもよい。
【0030】
ある個人の吸光スペクトルと体液採取による血糖値の測定を、時間を置いて複数回測定することを複数日で行って得たデータ群を固定データ群とし、別の一日中に測定したデータの一部を追加データ群とし、その残りのデータ群を当てはめるにあたり、追加データ群として、実測血糖値−吸光スペクトルの1対データを、用いなかった場合と、1組用いた場合と、3組用いた場合と、5組用いた場合とについての結果の一例を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
検量関数の較正を行わない場合と比較して、相関値が向上し、バイアス値、SEP値も低減できていることがわかる。特にバイアス値に関しては、追加データ数の増加で大きな効果を期待できることがわかる。
【0033】
追加データ群を作成にあたっては、体液採取からの血糖値測定と吸光スペクトル測定とを夫々一回行って1対のデータを作成した後、このデータを複製して複数の同じ値を持った血糖値−吸光スペクトルの追加データ群としてもよい。血糖値測定及び吸光スペクトルの測定が1回に限ったものでないのはもちろんである。
【0034】
また、追加データを作成する際、吸光スペクトルを連続して2回測定し、これらのベースラインの変動値が規定範囲内である時のみ、そのうちの一つもしくは両吸光スペクトルデータを追加データ群として使用するようにしてもよい。なお、変動値が規定範囲を超える場合は、再度吸光スペクトルを測定して、先に測定した吸光スペクトルとのベースラインの変動値が規定範囲に納まればそのうちの一つもしくは両吸光スペクトルデータを追加データ群として使用し、規定範囲外であれば、再度吸光スペクトルを測定してということを繰り返すものとする。図4及び表1に示した解析の際には、1580nmにおける吸光スペクトルの値、すなわち吸光度値が、連続的に測定した2つの吸光スペクトル間において、±0.01AUという規定範囲内に納まったものを追加データ群とした。なお規定値はこれに限ったものではない。
【0035】
このほか、固定データ群と追加データ群から得られた検量関数を用いて血糖値推定を行う際に、図5に示すように、本測定に先立って一度光測定を行うとともに体液採取からの血糖値測定を行い、ここで測定された吸光スペクトルと検量関数とを用いて血糖値予測を行って得られた予測値と、体液採取から得られた実測血糖値との誤差値を定数項として、次に吸光スペクトルと検量関数とを用いて血糖値予測を行う時に上記定数項(誤差値)を加算する(差し引く)ようにしてもよい。
【0036】
この際、図6に示したように、追加データ群を作成する時点で連続的に吸光スペクトルを測定したのであれば、その際に体液採取を行って得られた血糖値を用いて誤差値を算出した方が、体液採取の回数、及び再び検量関数を較正し直す必要もなく精度の高い検量関数を作成できる。
【0037】
固定データ群は、血糖値を予測測定するその人のデータのみで構成することが最も好ましいのは当然であるが、その人以外の個人のデータのみで固定データ群を作成し、血糖値を予測測定する人の一回の採血と吸光スペクトルの測定とで作成した追加データ群を追加した場合においても効果が得られる。ちなみに、追加データを用いずに固定データ群のみで検量関数を作成した場合(従来法)と、本法との比較を相関係数値で行った場合、従来法で0.73であったものが本法では0.82、従来法で0.61であったものが本法では0.71となり、予測精度が大きく向上することがわかる。
【0038】
固定データ群は一つに限定されるものではなく、予め複数の固定データ群を設けておき、追加データ群はこれら複数の固定データ群のうちの類似性の高いものに追加するようにしてもよい。図7に示すように、被験者JCと被験者MTの吸光スペクトルの図中○印で囲んだところに注目すると、被験者MTのデータには***形状が見られる。一方、被験者KMの吸光スペクトルデータが図8に示すものであって上記***形状が認められない場合、被験者JCと被験者MTからそれぞれ固定データ群を作成していた場合、被験者KMから作成した追加データ群は、被験者JCから作成した固定データ群に追加したほうが、被験者KMにとって好適な検量関数を得ることができる。
【0039】
このために、固定データ群の作成にあたっては、吸光スペクトルの形状特質によるクラスター分けで複数種の固定データ群を作成しておき、追加データ群の追加にあたっては類似性が高い固定データ群に対して追加を行うようにすれば、正確な定量を期待することができる。
【0040】
ここで、類似性の判断をどのようにするかが問題となるが、これは統計的手法やパターン認識等の手法を用いればよく、たとえばPCA分析を用いた主成分分布のデータ類似性比較などを用いて、追加データ群と主成分分布形状の近い固定データ群を採用すればよい。
【0041】
図9は被験者JC,MT,KO,KM,MNのデータのPCA分析を行った例を示している。図のように、スペクトルに対して主成分分解を行うことによって、主成分特性の分布を得ることができる。主成分はそのスペクトルの有する情報を表しており、それら主成分分解された成分の分布領域が似ているものであれば、データの質も近いと判断できると考えられる。なお、図示例においては第一主成分と第二主成分の分布を用いている。
【0042】
ここで、MNデータを追加データ群とし、JC,MT,KO,KMを固定データ群とする場合、MNデータの分布は、MT及びJCデータの分布に重なっており、KO及びKMのデータの分布とは離れた分布形状になっていることから、固定データ群としてJCデータまたはMTデータのどちらかを選択することになる。
【0043】
類似性の識別は、表面状態構造の相似性や、皮膚厚構造の相似性といった皮膚の性状を基に判別を行うようにしてもよい。たとえば固定データ群及び追加データ群の作成のために吸光スペクトルを測定するにあたり、超音波エコー診断などによって皮膚厚(真皮と表皮の厚みの和)も測定して、上記データ群と皮膚厚とを対照することができるようにしておき、追加データ群を固定データ群に追加するにあたり、複数ある固定データ群のうち、皮膚厚の値がほぼ一致している固定データ群を採用してこれに追加データ群を追加するのである。このように皮膚性状によってクラスター分けして固定データ群を作成しておき、追加データ群を皮膚性状が類似している固定データ群に追加する場合も、より正確な定量を期待することができる。
【0044】
【発明の効果】
以上のように本発明においては、近赤外領域における光の吸収を利用した生体組織中あるいは体液中の血糖値の定量方法であって、体液採取によって予め得た複数の血糖値と光測定で予め得た吸光スペクトルとからなる固定データ群に、血糖値測定に先立って被測定者の体液摂取から得た一つもしくは複数の血糖値とそれと同数の光測定で得た吸光スペクトルとからなる追加データ群を追加して、これらデータ群に多変量解析を適用して得た検量関数を基に吸光スペクトルでの血糖値の濃度の定量を行うことに特徴を有している。予測したい被験者のデータによる検量関数の較正がなされているために、他成分の濃度変化や測定箇所の違い等によって異なる成分分布状態や肌の状態、バックグラウンド組織の変化の影響等を低減することができるものであり、殊に追加データ群が定量を行う吸光スペクトルの測定日と同じ日に得たものであれば、個人差に加えて日間差の影響を除くことができる。
【0045】
そして、固定データ群には、糖負荷試験で得られた血糖値−吸光スペクトルで構成される複数のデータ、つまり測定血糖値変動幅がある程度以上の血糖値−吸光スペクトルデータ群を用いることで、さらに推定誤差を低減することができる。
【0046】
また、追加データ群は、血糖値−吸光スペクトルで構成されるデータを蓄積することができる構造とすることで、本測定を行う際の被験者の状態の情報を、検量関数作成時において多く含有させることができるため、より良く血糖値を定量することができる。特に、蓄積するデータを異なる日に得ておけば、被験者からの体液採取の一日当たりの回数を低減することができるとともに、日間差による違いの情報をより多く得る事が可能となるため、より良く血糖値を定量することができ、さらに追加データ群を日々更新できるものとしておけば、本測定を行う際の被験者の状態の情報を、検量関数作成時において多く含有させることができるために、より良く血糖値を定量することができる。
【0047】
そして、追加データ群は、測定された吸光スペクトルの測定精度の高いもので構成しておくこと、つまり吸光スペクトルの計測の不具合等によって得られてしまう不良データを排除しておくことで、より良く血糖値を定量することができる検量関数を作成することができる。
【0048】
この時、吸光スペクトルを連続して測定して、これらのベースラインの変動値が規定範囲内である時の吸光スペクトルを測定精度の高いものとして追加データ群として採用し、上記変動値が規定範囲外である時、再度吸光スペクトルを測定することを先に測定した吸光スペクトルとのベースラインの変動値が規定範囲内に納まるまで繰り返すことで、測定された吸光スペクトルの測定精度を簡便に判別して追加データ群に自動で取り込むことができる。
【0049】
また、本測定に先立って一度光測定と採血を行って、得られた吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数で血糖値予測を行い、この予測値と上記採血による実測血糖値との誤差で、本測定で得た吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数とによる血糖値予測値を補正することで、さらに正確な血糖値の定量を行うことができる。
【0050】
そして、固定データ群はクラスター分けによる複数のデータ群で構成し、追加データ群はこれら複数のデータ群のうちの類似性の高いものに追加することでも、血糖値の定量精度を高くすることができる。
【0051】
この時の類似性は統計的手法もしくはパターン認識法や皮膚の性状データを用いることで、簡単に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の一例を示したフローチャートである。
【図2】生体信号測定装置のシステムを示す概略図である。
【図3】夫々異なる日における吸光度特性図である。
【図4】従来法と本発明法との結果の一例を示したものである。
【図5】同上の他の実施形態の一例を示したフローチャートである。
【図6】同上の他の実施形態の一例を示したフローチャートである。
【図7】他例の吸光スペクトル図である。
【図8】別の例の吸光スペクトル図である。
【図9】PCA分析図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は生体組織中の血糖値、あるいは血液、血清、血漿、細胞内液、間質液などの体液中における血糖値の定量方法、特に近赤外領域における分光分析手法を用いた血糖値の定量方法に関するものである
【0002】
【従来の技術】
近赤外分光分析は、試料に特別な操作を行う必要がなく、非破壊で迅速な計測ができることから、近年、農業や食品、石油化学をはじめ様々な分野で応用されるようになっているが、近赤外領域での分光分析は、中赤外領域における分光分析と比較すると、一般に
・近赤外領域では水の吸収吸光スペクトルが小さいので、中赤外領域では難しい水溶液系の分析が可能である
・生体を透過する能力が高い
・測定に際して特別な試料を調整する必要がない場合が多い
といった長所を有する反面、
・信号レベルが中赤外領域と比較して100分の1程度と小さい
・水、たんぱく質、脂質等の他成分の濃度変化による影響を受け易い
といった短所がある。
【0003】
これらの短所があることから、近赤外領域での定量あるいは定性分析を行う場合、中赤外領域における分析のようにピーク位置やピーク高さによる分析手法では正確な分析を行うことは難しい。
【0004】
このために近赤外領域では、測定吸光スペクトルを統計解析手法、たとえば、線形重回帰分析(MLR)、主成分回帰分析、PLS回帰分析といった多変量解析手法を用いて分析する手法、いわゆるケモメトリックスと呼ばれる手法が用いられている。数値解析を利用した統計的手法であり且つパーソナルコンピュータの発達とともに急速に普及してきたこの手法によれば、近赤外領域でのS/N比の小さい吸収信号や他成分の濃度が変化しても、実用に供する定量・定性分析が可能となると考えられるからであり、実際、近赤外光を用いた生体中の血糖値の定量が非常に注目されている。採血を必要としない非侵襲で連続的な血糖値測定が可能となるためである。
【0005】
ここで一般的に行なわれている血糖値推定精度の評価に用いられる実験方法は、実験期間を数日に渡る比較的長期的な時間として糖負荷試験を行い、その際の吸光スペクトル及び体液採取(採血も含む)によって得られる実測血糖値をデータ群として用いて、多変量解析を行って検量関数を導き、さらに他の時点で吸光スペクトルの測定及び体液採取にて実測血糖値を測定しておき、この吸光スペクトルと上記検量関数による血糖値予測と実測血糖値とから上記検量関数の予測精度を見るというものである。
【0006】
【特許文献1】
特開平09−215679号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上述した手法には問題がある。検量関数の作成に用いたデータ群が、実際に血糖値を予測したい被験者から得たものであったとしても、測定箇所の違い等によって異なる他成分や肌の状態、バックグラウンド組織の変化の影響等、日間差による問題が生じるために、血糖値予測値と実際の採血値の間に誤差が生じるからである。検量関数の作成に用いたデータ群が、実際に血糖値を予測したい被験者以外から得たものである場合は、個人差が加わるために、なおさら誤差が大きくなる。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、生体組織や体液のような時々刻々と変動する生体成分中の血糖値を精度よく定量分析することができる血糖値の定量方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
しかして本発明は、近赤外領域における光の吸収を利用した生体組織中あるいは体液中の血糖値の定量方法であって、体液採取によって予め得た複数の血糖値と光測定で予め得た吸光スペクトルとからなる固定データ群に、血糖値測定に先立って被測定者の体液摂取から得た一つもしくは複数の血糖値とそれと同数の光測定で得た吸光スペクトルとからなる追加データ群を追加して、これらデータ群に多変量解析を適用して得た検量関数を基に吸光スペクトルでの血糖値の濃度の定量を行うことに特徴を有している。予測したい被験者のデータによる検量関数の較正がなされているために、より正確な定量を行うことができるものであり、殊に追加データ群が定量を行う吸光スペクトルの測定日と同じ日に得たものであれば、個人差に加えて日間差の影響を除くことができる。
【0010】
上記固定データ群には、糖負荷試験で得られた血糖値−吸光スペクトルで構成される複数のデータを好適に用いることができる。
【0011】
追加データ群は、血糖値−吸光スペクトルで構成されるデータを蓄積することができる構造とすることが好ましく、この場合、追加するデータ同士は、異なる日に測定されたデータでもよいし、同日中に測定されたデータでもよい。
【0012】
また、上記追加データ群は、血糖値−吸光スペクトルで構成されるデータを入れ替えることができる構造を有するものとするのが好ましい。固定データ群は同じでも追加データ群を入れ換えることで、多くの被験者に適用することができる。
【0013】
そして追加データ群は、測定された吸光スペクトルの測定精度の高いもので構成しておくことが望ましい。つまり吸光スペクトルの計測の不具合等によって得られてしまう不良データを排除することが望ましい。
【0014】
この場合、吸光スペクトルを連続して測定して、これらのベースラインの変動値が規定範囲内である時の吸光スペクトルを測定精度の高いものとして追加データ群として採用し、上記変動値が規定範囲外である時、再度吸光スペクトルを測定することを先に測定した吸光スペクトルとのベースラインの変動値が規定範囲内に納まるまで繰り返すとよい。
【0015】
また、本測定に先立って一度光測定と採血を行って、得られた吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数で血糖値予測を行い、この予測値と上記採血による実測血糖値との誤差で、本測定で得た吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数とによる血糖値予測値を補正することで、さらに正確な血糖値の定量を行うことができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下本発明を実施の形態の一例に基づいて詳述すると、本発明においては1000nmから1880nmまでの近赤外波長領域内の複数波長で生体組織あるいは体液の吸光スペクトルを測定するのであるが、このための機材(装置)の一例を図2に示す。図中1はハロゲンランプなどの光源、2は拡散板、3はピンホール、4はレンズであり、光源1からの光は拡散板2、ピンホール3、レンズ4を通貨して光入射体5に入射される。光入射体5には照射側光ファイバー6の一端とリファレンス用照射側光ファイバー7の一端が接続されており、照射側光ファイバー6の他端は測定プローブ8に、リファレンス用照射側光ファイバー7の他端はリファレンス用プローブ9に接続されている。
【0017】
また測定プローブ8には検出側光ファイバー10の一端が接続され、リファレンス用プローブ9にはリファレンス用検出側光ファイバー11の一端が接続されている。検出側光ファイバー10の他端は検出側光出射体12に、リファレンス用検出側光ファイバー11の他端はリファレンス用光出射体13に夫々接続されている。
【0018】
人体の腕部など生体14の表面に測定プローブ8の先端面を所定圧力で接触させた状態で光源1を発光させると、光源1から光入射体5に入射した光は照射側光ファイバー6内を伝達して、測定プローブ8の先端から生体14の表面に照射される。このようにして生体14に照射された測定光は、生体内で反射や拡散した後に、反射光として測定プローブ8の先端から検出側光ファイバー10を通じて検出側光出射体12から出射され、レンズ15を通して回折格子16に入射して分光された後、受光素子17において検出される。受光素子17で検出された光信号はA/Dコンバーター18でAD変換された後、パーソナルコンピュータなどの演算装置19に入力され、該演算装置19において、検出された光信号中の生体信号である吸光スペクトルの解析で血糖値が算出される。
【0019】
ここで、周囲の環境温度の変動や光学部位の位置関係などによって、測定される反射光の吸光スペクトルが変動するおそれがあるために、セラミック板などの基準板20で反射させたリファレンス光を測定し、これを基準光として補正を行なうようにしている。
【0020】
すなわち、光源1から光入射体5に入射した光をリファレンス用照射側光ファイバー7を通してリファレンス用プローブ9の先端から基準板20の表面に照射し、基準板20に照射された光の反射光をリファレンス用プローブ9とリファレンス用検出側光ファイバー11とを介してリファレンス用光出射体13から出射させて、レンズ15と回折格子16とを介して受光素子17に導いている。
【0021】
そして、上記の検出側出射体12とレンズ15の間、及びこのリファレンス用光出射体13とレンズ15の間にはそれぞれシャッター21a、21bを配置して、シャッター21a、21bを選択的に開閉することで検出側光出射体12からの光とリファレンス用光出射体13からの光のいずれか一方を選択的に通過させるものとし、リファレンス用光出射体13からのリファレンス光を検出することによって、これを基準光として周囲の環境温度や光学部品の位置関係などによる変動を補正することができるようにしている。
【0022】
なお、上記の構成のものに限定されるものではなく、1200nmから1880nmの波長領域内で吸光スペクトルの測定が可能なものであれば、上記のものに限定されるものではない。
【0023】
血糖値の定量を行うにあたっては、まず、固定データ群を作成しておく。これは次のようにして作成する。すなわち、上記装置を用いて生体吸光スペクトルを測定すると同時に体液(採血による血液、血清、血漿、または細胞内液、間質液、涙、汗、尿等)採取を行って血糖値を測定する。そしてこれらを一対データとして、複数回分のデータを蓄積する。複数回分のデータ蓄積は、数時間内に集中して測定することで行っても、あるいは複数日に渡って行ってもよい。ただし、ある程度の血糖値変動(血糖値変動幅100mg/dl程度)を有するデータ群である事が望ましい。ちなみに、図3はある個人の生体吸光スペクトルを時間を置いて複数回測定することを複数日で行った時の吸光スペクトルデータを示している。殆ど重なっているように見えるが、微視的には吸光度差特性を有している。
【0024】
なお、上記固定データ群には、糖負荷試験で得られた血糖値−吸光スペクトルで構成される複数のデータ、つまり測定血糖値変動幅がある程度以上の血糖値−吸光スペクトルデータ群を用いることが推定誤差の低減に有効である。
【0025】
次に、追加データ群を作成する。この追加データ群は、血糖値を吸光スペクトルから推定測定行いたい際に、その光測定に先立って体液採取からの血糖値の測定と吸光スペクトルの測定とを行うことで得るものであり、得られた1対のデータである追加データ群は上記固定データ群に追加する。
【0026】
追加データ群の作成に際しては、体液採取からの血糖値測定と吸光スペクトル測定とを数回行って、これらを全て追加データ群としてもよい。この際、短時間内に連続的に吸光スペクトルを測定するのであれば、体液採取からの血糖値測定回数はこれに限ったものではなく、一度の体液採取でも良い。この場合、空腹時等の血糖値変動が小さい時(健常人ならば通常血糖値が100mg/dl程度の時)における測定であることが好ましいが、これに限るものではない。
【0027】
このように、ある個人の吸光スペクトルと体液採取による血糖値の測定を、時間を置いて複数回行うとともに複数日で行ったデータ群を固定データ群とし、追加データ群としてのデータを加えずに多変量解析を行って検量関数を作成し、これに固定データ群を測定した日とは別の日に測定したデータ群をあてはめた結果(従来法に相当)を図4にハで示す。推定値と実測値との相関係数値は0.79、バイアス値(推定値の平均値と実測値の平均値の差)は105、SEP値(推定値と実測値の平均誤差)は27.3であった。図中ロは採血による実測値である。
【0028】
次に、ある個人の吸光スペクトルと体液採取による血糖値の測定を、時間を置いて複数回行うとともに複数日で行ったデータ群を固定データ群とし、別の日に測定したデータを1点だけ追加データ群として追加した状態で多変量解析を行って検量関数を作成することで検量関数の較正を行い、次に別途吸光スペクトルを測定して血糖値を推定させる(図1参照)とともに実測値と比較すると、図4にイで示す結果を得ることができた。ちなみに相関係数値は0.81、バイアス値は92、SEP値は26.7であり、相関値が向上し、バイアス値、SEP値も低減できていることがわかる。
【0029】
追加データを蓄積できる構造とした場合、蓄積するデータは日々更新する構造としたり、測定した日が異なったデータであっても蓄積できる構造としてもよい。
【0030】
ある個人の吸光スペクトルと体液採取による血糖値の測定を、時間を置いて複数回測定することを複数日で行って得たデータ群を固定データ群とし、別の一日中に測定したデータの一部を追加データ群とし、その残りのデータ群を当てはめるにあたり、追加データ群として、実測血糖値−吸光スペクトルの1対データを、用いなかった場合と、1組用いた場合と、3組用いた場合と、5組用いた場合とについての結果の一例を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
検量関数の較正を行わない場合と比較して、相関値が向上し、バイアス値、SEP値も低減できていることがわかる。特にバイアス値に関しては、追加データ数の増加で大きな効果を期待できることがわかる。
【0033】
追加データ群を作成にあたっては、体液採取からの血糖値測定と吸光スペクトル測定とを夫々一回行って1対のデータを作成した後、このデータを複製して複数の同じ値を持った血糖値−吸光スペクトルの追加データ群としてもよい。血糖値測定及び吸光スペクトルの測定が1回に限ったものでないのはもちろんである。
【0034】
また、追加データを作成する際、吸光スペクトルを連続して2回測定し、これらのベースラインの変動値が規定範囲内である時のみ、そのうちの一つもしくは両吸光スペクトルデータを追加データ群として使用するようにしてもよい。なお、変動値が規定範囲を超える場合は、再度吸光スペクトルを測定して、先に測定した吸光スペクトルとのベースラインの変動値が規定範囲に納まればそのうちの一つもしくは両吸光スペクトルデータを追加データ群として使用し、規定範囲外であれば、再度吸光スペクトルを測定してということを繰り返すものとする。図4及び表1に示した解析の際には、1580nmにおける吸光スペクトルの値、すなわち吸光度値が、連続的に測定した2つの吸光スペクトル間において、±0.01AUという規定範囲内に納まったものを追加データ群とした。なお規定値はこれに限ったものではない。
【0035】
このほか、固定データ群と追加データ群から得られた検量関数を用いて血糖値推定を行う際に、図5に示すように、本測定に先立って一度光測定を行うとともに体液採取からの血糖値測定を行い、ここで測定された吸光スペクトルと検量関数とを用いて血糖値予測を行って得られた予測値と、体液採取から得られた実測血糖値との誤差値を定数項として、次に吸光スペクトルと検量関数とを用いて血糖値予測を行う時に上記定数項(誤差値)を加算する(差し引く)ようにしてもよい。
【0036】
この際、図6に示したように、追加データ群を作成する時点で連続的に吸光スペクトルを測定したのであれば、その際に体液採取を行って得られた血糖値を用いて誤差値を算出した方が、体液採取の回数、及び再び検量関数を較正し直す必要もなく精度の高い検量関数を作成できる。
【0037】
固定データ群は、血糖値を予測測定するその人のデータのみで構成することが最も好ましいのは当然であるが、その人以外の個人のデータのみで固定データ群を作成し、血糖値を予測測定する人の一回の採血と吸光スペクトルの測定とで作成した追加データ群を追加した場合においても効果が得られる。ちなみに、追加データを用いずに固定データ群のみで検量関数を作成した場合(従来法)と、本法との比較を相関係数値で行った場合、従来法で0.73であったものが本法では0.82、従来法で0.61であったものが本法では0.71となり、予測精度が大きく向上することがわかる。
【0038】
固定データ群は一つに限定されるものではなく、予め複数の固定データ群を設けておき、追加データ群はこれら複数の固定データ群のうちの類似性の高いものに追加するようにしてもよい。図7に示すように、被験者JCと被験者MTの吸光スペクトルの図中○印で囲んだところに注目すると、被験者MTのデータには***形状が見られる。一方、被験者KMの吸光スペクトルデータが図8に示すものであって上記***形状が認められない場合、被験者JCと被験者MTからそれぞれ固定データ群を作成していた場合、被験者KMから作成した追加データ群は、被験者JCから作成した固定データ群に追加したほうが、被験者KMにとって好適な検量関数を得ることができる。
【0039】
このために、固定データ群の作成にあたっては、吸光スペクトルの形状特質によるクラスター分けで複数種の固定データ群を作成しておき、追加データ群の追加にあたっては類似性が高い固定データ群に対して追加を行うようにすれば、正確な定量を期待することができる。
【0040】
ここで、類似性の判断をどのようにするかが問題となるが、これは統計的手法やパターン認識等の手法を用いればよく、たとえばPCA分析を用いた主成分分布のデータ類似性比較などを用いて、追加データ群と主成分分布形状の近い固定データ群を採用すればよい。
【0041】
図9は被験者JC,MT,KO,KM,MNのデータのPCA分析を行った例を示している。図のように、スペクトルに対して主成分分解を行うことによって、主成分特性の分布を得ることができる。主成分はそのスペクトルの有する情報を表しており、それら主成分分解された成分の分布領域が似ているものであれば、データの質も近いと判断できると考えられる。なお、図示例においては第一主成分と第二主成分の分布を用いている。
【0042】
ここで、MNデータを追加データ群とし、JC,MT,KO,KMを固定データ群とする場合、MNデータの分布は、MT及びJCデータの分布に重なっており、KO及びKMのデータの分布とは離れた分布形状になっていることから、固定データ群としてJCデータまたはMTデータのどちらかを選択することになる。
【0043】
類似性の識別は、表面状態構造の相似性や、皮膚厚構造の相似性といった皮膚の性状を基に判別を行うようにしてもよい。たとえば固定データ群及び追加データ群の作成のために吸光スペクトルを測定するにあたり、超音波エコー診断などによって皮膚厚(真皮と表皮の厚みの和)も測定して、上記データ群と皮膚厚とを対照することができるようにしておき、追加データ群を固定データ群に追加するにあたり、複数ある固定データ群のうち、皮膚厚の値がほぼ一致している固定データ群を採用してこれに追加データ群を追加するのである。このように皮膚性状によってクラスター分けして固定データ群を作成しておき、追加データ群を皮膚性状が類似している固定データ群に追加する場合も、より正確な定量を期待することができる。
【0044】
【発明の効果】
以上のように本発明においては、近赤外領域における光の吸収を利用した生体組織中あるいは体液中の血糖値の定量方法であって、体液採取によって予め得た複数の血糖値と光測定で予め得た吸光スペクトルとからなる固定データ群に、血糖値測定に先立って被測定者の体液摂取から得た一つもしくは複数の血糖値とそれと同数の光測定で得た吸光スペクトルとからなる追加データ群を追加して、これらデータ群に多変量解析を適用して得た検量関数を基に吸光スペクトルでの血糖値の濃度の定量を行うことに特徴を有している。予測したい被験者のデータによる検量関数の較正がなされているために、他成分の濃度変化や測定箇所の違い等によって異なる成分分布状態や肌の状態、バックグラウンド組織の変化の影響等を低減することができるものであり、殊に追加データ群が定量を行う吸光スペクトルの測定日と同じ日に得たものであれば、個人差に加えて日間差の影響を除くことができる。
【0045】
そして、固定データ群には、糖負荷試験で得られた血糖値−吸光スペクトルで構成される複数のデータ、つまり測定血糖値変動幅がある程度以上の血糖値−吸光スペクトルデータ群を用いることで、さらに推定誤差を低減することができる。
【0046】
また、追加データ群は、血糖値−吸光スペクトルで構成されるデータを蓄積することができる構造とすることで、本測定を行う際の被験者の状態の情報を、検量関数作成時において多く含有させることができるため、より良く血糖値を定量することができる。特に、蓄積するデータを異なる日に得ておけば、被験者からの体液採取の一日当たりの回数を低減することができるとともに、日間差による違いの情報をより多く得る事が可能となるため、より良く血糖値を定量することができ、さらに追加データ群を日々更新できるものとしておけば、本測定を行う際の被験者の状態の情報を、検量関数作成時において多く含有させることができるために、より良く血糖値を定量することができる。
【0047】
そして、追加データ群は、測定された吸光スペクトルの測定精度の高いもので構成しておくこと、つまり吸光スペクトルの計測の不具合等によって得られてしまう不良データを排除しておくことで、より良く血糖値を定量することができる検量関数を作成することができる。
【0048】
この時、吸光スペクトルを連続して測定して、これらのベースラインの変動値が規定範囲内である時の吸光スペクトルを測定精度の高いものとして追加データ群として採用し、上記変動値が規定範囲外である時、再度吸光スペクトルを測定することを先に測定した吸光スペクトルとのベースラインの変動値が規定範囲内に納まるまで繰り返すことで、測定された吸光スペクトルの測定精度を簡便に判別して追加データ群に自動で取り込むことができる。
【0049】
また、本測定に先立って一度光測定と採血を行って、得られた吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数で血糖値予測を行い、この予測値と上記採血による実測血糖値との誤差で、本測定で得た吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数とによる血糖値予測値を補正することで、さらに正確な血糖値の定量を行うことができる。
【0050】
そして、固定データ群はクラスター分けによる複数のデータ群で構成し、追加データ群はこれら複数のデータ群のうちの類似性の高いものに追加することでも、血糖値の定量精度を高くすることができる。
【0051】
この時の類似性は統計的手法もしくはパターン認識法や皮膚の性状データを用いることで、簡単に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の一例を示したフローチャートである。
【図2】生体信号測定装置のシステムを示す概略図である。
【図3】夫々異なる日における吸光度特性図である。
【図4】従来法と本発明法との結果の一例を示したものである。
【図5】同上の他の実施形態の一例を示したフローチャートである。
【図6】同上の他の実施形態の一例を示したフローチャートである。
【図7】他例の吸光スペクトル図である。
【図8】別の例の吸光スペクトル図である。
【図9】PCA分析図である。
Claims (10)
- 近赤外領域における光の吸収を利用した生体組織中あるいは体液中の血糖値の定量方法であって、体液採取によって予め得た複数の血糖値と光測定で予め得た吸光スペクトルとからなる固定データ群に、血糖値測定に先立って被測定者の体液摂取から得た一つもしくは複数の血糖値とそれと同数の光測定で得た吸光スペクトルとからなる追加データ群を追加して、これらデータ群に多変量解析を適用して得た検量関数を基に吸光スペクトルでの血糖値の濃度の定量を行うことを特徴とする血糖値の定量方法。
- 固定データ群は、糖負荷試験で得られた血糖値−吸光スペクトルで構成される複数のデータであることを特徴とする請求項1記載の血糖値の定量方法。
- 追加データ群は、血糖値−吸光スペクトルで構成されるデータを蓄積することができる構造を有していることを特徴とする請求項1または2記載の血糖値の定量方法。
- 追加データ群は、血糖値−吸光スペクトルで構成されるデータを入れ替えることができる構造を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の血糖値の定量方法。
- 追加データ群は、測定された吸光スペクトルの測定精度の高いもので構成していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の血糖値の定量方法。
- 吸光スペクトルを連続して測定して、これらのベースラインの変動値が規定範囲内である時の吸光スペクトルを測定精度の高いものとして追加データ群として採用し、上記変動値が規定範囲外である時、再度吸光スペクトルを測定することを先に測定した吸光スペクトルとのベースラインの変動値が規定範囲内に納まるまで繰り返すことを特徴とする請求項5記載の血糖値の定量方法。
- 本測定に先立って一度光測定と採血を行って、得られた吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数で血糖値予測を行い、この予測値と上記採血による実測血糖値との誤差で、本測定で得た吸光スペクトルと前記固定データ群及び追加データ群から得た検量関数とによる血糖値予測値を補正することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の血糖値の定量方法。
- 固定データ群はクラスター分けによる複数のデータ群で構成されているとともに、追加データ群はこれら複数のデータ群のうちの類似性の高いものに追加されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載の血糖値の定量方法。
- 類似性は統計的手法もしくはパターン認識法で判断されていることを特徴とする請求項8記載の血糖値の定量方法。
- 類似性は予め検査されて固定データ群の複数のデータ群と対照可能とされている皮膚の性状データと、被測定者の皮膚性状データとから判断されていることを特徴とする請求項8記載の血糖値の定量方法。
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