JP2004291543A - インクジェットプリンタヘッド - Google Patents
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Abstract
【課題】隣接する圧力室間でのクロストークを減少し、印字品質を向上させたインクジェットプリンタヘッドを提供する。
【解決手段】プレートを複数積層してなるキャビティユニットと、圧力室16−1,16−2毎に選択的に駆動可能で、その圧力室方向に伸縮変形可能な活性部50を有してインクを噴射させるプレート状アクチュエータ20とを積層する。列状に並ぶ圧力室が隔壁14aを介して隣接形成されたベースプレート14を挟んでアクチュエータ20と反対側に、スペーサプレート13を有する。選択的に駆動させた活性部50に対応する圧力室16−1,16−1に隣接し且つ非駆動状態の活性部50に対応する圧力室16−2に対面するスペーサプレート13の変形による圧力室16−2の底断面変化量Z2と、前記活性部の駆動に伴う一対の隔壁14aの変形による側断面変化量Z1とを略等しくなるように、スペーサプレート13の厚さを設定する。
【選択図】 図7
【解決手段】プレートを複数積層してなるキャビティユニットと、圧力室16−1,16−2毎に選択的に駆動可能で、その圧力室方向に伸縮変形可能な活性部50を有してインクを噴射させるプレート状アクチュエータ20とを積層する。列状に並ぶ圧力室が隔壁14aを介して隣接形成されたベースプレート14を挟んでアクチュエータ20と反対側に、スペーサプレート13を有する。選択的に駆動させた活性部50に対応する圧力室16−1,16−1に隣接し且つ非駆動状態の活性部50に対応する圧力室16−2に対面するスペーサプレート13の変形による圧力室16−2の底断面変化量Z2と、前記活性部の駆動に伴う一対の隔壁14aの変形による側断面変化量Z1とを略等しくなるように、スペーサプレート13の厚さを設定する。
【選択図】 図7
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数枚のプレートを積層し、その積層プレート内に圧力室やインク流通路が形成され、片面(表面)にインク噴射用のノズルが形成された偏平状のキャビティユニットと、各圧力室に対して配置されるプレート型のアクチュエータを接合させてなるインクジェットプリンタヘッドの構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、オンデマンド型のインクジェットプリンタヘッドにおいて、圧電層を積層して形成されるプレート型の圧電アクチュエータを、キャビティユニットの圧力室に面して接合させて、この圧電アクチュエータの伸縮変形により前記インク室の容積を小さくしてインクを噴射させるものが知られている(特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
この場合、キャビティユニットとしては、例えば特許文献1では、インク室として機能する圧力室は1枚のプレートの片面(上方)に開放されるような空間が形成され、該プレートの下面側にインク噴出用のノズルが穿設されており、前記ノズルの列方向に並ぶ圧力室の細幅側は隔壁を挟んで隣接配置されている。他方、特許文献2では、キャビティユニットは、前記圧力室が形成されたベースプレートの片面(圧電アクチュエータと反対側)に複数枚のプレートを積層してなり、これらのプレートは、前記ノズルが穿設されたプレート、各圧力室から前記各ノズルに連通する流通路を有するプレート、インク供給源からのインクを溜めた後前記圧力室に補充する共通インク室が形成されたプレート等からなる。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−162796号公報(図1参照)
【特許文献2】
特開2001−260349号公報(図2、図4参照)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記圧電アクチュエータは、前記各インク室毎に選択的に電圧を印加する個別電極の電極層と、前記複数のインク室に電気的に共通となるコモン電極の電極層とが、圧電材料からなる圧電層の積層方向に交互に配置されており、個別電極とコモン電極とが対向するように挟んだ圧電層が、電極間に印加された電圧によって伸縮する活性部となる。
【0006】
そして、この活性部が圧電層の積層方向に伸長すると、対面する位置の圧力室の容積が減少する。このとき、当該圧力室の細幅側の隔壁は、圧電アクチュエータとの接合部に近い側がその圧力室の容積内に倒れ込むように、換言すると圧力室の断面積が小さくなるように弾性変形する。そうすると、その圧力室に隔壁を介して隣接する圧力室(この圧力室に対応する活性部は非駆動状態にある)は、前記隔壁の倒れ込み変形に対応して、圧電アクチュエータとの接合部に近い側が元の圧力室の断面積(容積)より大きくなる。
【0007】
一方、当該圧力室の底面、すなわち、前記圧電アクチュエータの配置側と対峙する側の1枚のプレートもしくは積層プレートがその圧力室の断面積(容積)を減少させるように弾性により上方へ湾曲変形することになる。
【0008】
このような弾性変形により、インクを噴射した圧力室に隣接する圧力室(非噴射の圧力室)も容積を拡大しその後復帰する動作をすることになり、噴射動作をしないにもかかわらずインクに圧力変動を生じる。その後、その隣接する圧力室で噴射動作をすることになったとき、この圧力変動に重畳して噴射のための圧力変動を起こさせるので、インクの噴射速度や液滴の大きさが所定値よりも大きくあるいは小さくなったりする、いわゆるクロストークを生じる。特に、インクを噴射した2つの圧力室に挟まれた圧力室(非噴射の圧力室)の場合、圧力変動が大きくなり、不所望にインクを噴射してしまうことがある。
【0009】
本発明は、このような課題を解消し、圧力室の片面を構成するプレートの厚さや材質を工夫することにより、印字品質を良好にできるインクジェットプリンタヘッドを提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明のインクジェットプリンタヘッドは、列状に並ぶ複数個のノズルと、該各ノズル毎に対応して列状に並ぶ圧力室と、各圧力室から前記各ノズルに連通する流通路と、インク供給源からのインクを溜めた後前記圧力室に補充する共通インク室とを有した複数枚のプレートを積層してなるキャビティユニットと、前記圧力室毎に選択的に駆動可能で、その圧力室方向に伸縮変形可能な活性部を有してインクを噴射させるプレート状アクチュエータとを積層させてなるインクジェットプリンタヘッドにおいて、ベースプレートには、長手方向を平行にして列状に並ぶ前記圧力室が隔壁を介して隣接するように穿設形成され、前記ベースプレートを挟んで前記アクチュエータと反対側に積層されたスペーサプレートを有し、前記活性部を選択的に駆動させた時に、その活性部に対応する圧力室に隣接し且つ非駆動状態の活性部に対応する圧力室に対面する前記スペーサプレートの変形による圧力室の底断面変化量と、前記活性部の駆動に伴う前記隔壁の変形による側断面変化量とを略等しくなるように、前記スペーサプレートの厚さを設定したことを特徴とするものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、前記ベースプレート及びスペーサプレートのプレート材質を42%ニッケル合金鋼板としたものである。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、前記スペーサプレートの厚さをベースプレートの板厚さの略2倍に設定したものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施の形態による圧電式のインクジェットプリンタヘッドを示す分解斜視図、図2は圧電アクチュエータとキャビティユニットの一端部を示す斜視図、図3はキャビティユニットの分解斜視図、図4はキャビティユニットの部分拡大斜視図、図5は圧電アクチュエータの分解斜視図、図6はインクジェットプリンタヘッドの拡大断面図、図7は作用説明図、図8は圧力室の断面積の増減状態を示す説明図である。
【0014】
図1に示すプレート型の圧電アクチュエータ20は、キャビティユニット10に対して接合されるものであり、圧電アクチュエータ20の上面には、外部機器との接続のために、フレキシブルフラットケーブル40が重ね接合されている。そして、最下層のキャビティユニット10の下面側に開口されたノズルからは下向きにインクが噴射される。
【0015】
前記キャビティユニット10は、図3及び図4に示すように構成されている。すなわち、ノズルプレート11、2枚のマニホールドプレート12、スペーサプレート13及びベースプレート14の5枚の薄い板をそれぞれ積層した構造としている。
【0016】
実施形態では、合成樹脂製のノズルプレート11を除き、各プレート12、13、14は、42%ニッケル合金鋼板製(縦弾性係数147GPa.)で、50μm〜250μm程度の厚さを有する。前記ノズルプレート11には、微小径(実施形態では25μm程度)のインク噴射用のノズル15が微小間隔で多数個穿設されている。このノズル15は、当該ノズルプレート11における第1の方向(長辺方向)に沿って千鳥配列で2列に配列されている。
【0017】
前記2枚のマニホールドプレート12には、図3、図4及び図6に示すように、共通インク通路12a、12bが、前記ノズル15の列の両側で、当該マニホールドプレート12の長辺に略沿って延びるように穿設されている。但し、下側のマニホールドプレート12における共通インク通路12bは、当該マニホールドプレート12の上側にのみ開放するように凹み形成されている。この共通インク通路12a、12bは、この両マニホールドプレート12に対する前記スペーサプレート13の積層により密閉されて、列状に並ぶ複数の圧力室16に対する共通インク供給路として機能する構造になっている。
【0018】
また、図3及び図4に示すように、前記ベースプレート14には、複数の圧力室16がベースプレート14の長辺(前記第1の方向)に沿って千鳥配列で2列に穿設されている。そして、各圧力室16は、その長手方向がベースプレート14の長手方向と直交するようにして細長形状に形成されている。
【0019】
そして、列状に並ぶ圧力室16の間には幅L2の隔壁14aが形成されていることになり、また、圧力室16の細幅方向の幅寸法は中央部でL1となっている。そして、実施形態では、図7に示すように、L1>L2であって、具体的には、ベースプレート14の板厚さは50μmであって、L2=89μm、L1=250μmに設定されている。なお、スペーサプレート13の板厚さは50μm〜250μm程度とする。
【0020】
各圧力室16における先端部16aはベースプレート14の短辺方向の略中央部に位置しており、この各先端部16aは、スペーサプレート13、2枚のマニホールドプレート12に同じく千鳥配列にて穿設されているインク流路としての微小径の貫通孔17を介してノズルプレート11における前記千鳥配列のノズル15に連通している。
【0021】
一方、前記各圧力室16の他端部16bは、前記スペーサプレート13における左右両側部位に穿設された貫通孔18を介して、前記両マニホールドプレート12における共通インク通路12a、12b(共通インク室)に連通している。なお、前記他端部16bは、図4に示すように下側に開口するように凹み形成されているものである。また、最上層のベースプレート14の一端部に穿設された供給孔19a(図3参照)の上面には、その上方のインクタンクから供給されるインク中の塵除去のためのフィルタ29が張設されている。
【0022】
これにより、前記ベースプレート14及びスペーサプレート13の一端部に穿設の供給孔19a、19bから前記共通インク通路12a、12b内に流入したインクは、この共通インク通路12aから前記各貫通孔18を通って前記各圧力室16内に分配されたのち、この各圧力室16内から前記貫通孔17を通って、当該圧力室に対応するノズル15に至るという構成になっている(図3及び図6参照)。
【0023】
一方、圧電アクチュエータ20では、複数の圧電層と電極層とが交互に積層されており、圧電層は圧電セラミックスを材料とする1枚の厚さが30μm程度の圧電シートにより形成されている。この実施の形態では、圧電アクチュエータ20は、図5に示すように、複数枚の圧電シート21を積層し、その最上面にトップシート22を積層した構造としている。また、電極層は圧電シートの上面(広幅面)に後述するように金属膜の電極パターンとして形成されている。
【0024】
これら複数枚の圧電シート21のうち、キャビティユニット10側(これを下側とする)の複数枚の圧電シートは、各圧力室16に対応して伸縮変形可能に設けられた活性部が含まれる活性層を構成する。なお、上層側の複数枚の圧電シートは、前記活性部の上側への伸縮変形を規制する拘束部が含まれる拘束層を構成しても良い。
【0025】
活性層では、圧電層の間に挟まれる各電極層を、積層方向において交互に、前記各圧力室16毎に対応して位置し選択的に電圧を印加する個別電極24の電極層と、前記複数の圧力室16に跨がる広幅形状をなしそれぞれ共通の電位に接続されるコモン電極25の電極層としている。
【0026】
具体的には、圧電シートのうち最下端側から数えて、偶数枚目の圧電シート21の各上面の電極層に前記個別電極24を形成している。また、前記各圧電シートのうち最下端側から数えて、奇数枚目の圧電シート2の各上面の電極層にコモン電極25が形成されている。そして、このコモン電極25を有する圧電シート21の長辺側の各端部は、圧電シート21の対の短辺の端縁部近傍の略全長にわたって延びる引き出し部25aが前記コモン電極25に連結されている。
【0027】
前記コモン電極25が形成されている圧電シート21では、これらの対の長辺の端縁部近傍の上面であって、前記コモン電極25が形成されていない箇所には、前記各個別電極24と同じ上下位置(対応する位置)に当該個別電極24と略同じ幅寸法で長さの短いダミー個別電極26が形成されている。
【0028】
また、前記個別電極24が形成されている圧電シート21の上面のうち、前記引き出し部25aに対応する位置(同じ上下位置、圧電シートの対の短辺の端縁部近傍)には、ダミーコモン電極27が形成されている。
【0029】
上述した個別電極24、コモン電極25、ダミー個別電極26及びダミーコモン電極27は、圧電シートの上面に、銀―パラジウム合金を材料とする導電性ペーストをスクリーン印刷することにより、所定の箇所にそれぞれの電極パターンが形成される。
【0030】
トップシート22の上面には表面電極30、31が印刷形成されており、前記フレキシブルフラットケーブル40が重ね接合されることにより、このフレキシブルフラットケーブル40における各種の配線パターン(図示せず)が、前記各表面電極30、31に電気的に接合される。
【0031】
なお、前記最下層の圧電シート21を除き、他の全ての圧電シート21には、前記各表面電極30と、それに対応する位置(同じ上下位置)の個別電極24及びダミー個別電極26とが互いに連通するように、スルーホール32を穿設する。同様に、前記少なくとも1つの表面電極31(実施形態では、最上層の圧電シート21の4隅の位置の表面電極31)と、それに対応する位置(同じ上下位置)のコモン電極25の引き出し部25a並びにダミーコモン電極27とが互いに連通するように、スルーホール33を穿設している。そしてスルーホール32、33内に充填された導電性材料を介して、各層の個別電極24どうし及びそれと対応する位置の表面電極30とが電気的に接続されるように構成し、同じく各層の第1のコモン電極25a、第2のコモン電極25b及びそれと対応する位置の表面電極31とが電気的に接続されるように構成するものである。
【0032】
製造上においては、各圧電シートを構成するセラミックスのグリーンシートに、スルーホールを穿設し、このグリーンシートに各電極パターンを銀―パラジウム合金を材料とする導電性ペーストのスクリーン印刷等で形成すると、これと同時にスルーホール内に電極パターンを形成する導電性材料が浸入し充填される。これにより圧電シートの上下面でスルーホールを介して導通可能となる。そして、それらのグリーンシートを、下層の電極パターンまたはダミー電極と上層のスルーホールとが重なるように積層し、積層方向に加圧して一体化させ、公知のように焼成して圧電アクチュエータ20を作る。
【0033】
上記のように、個別電極24とコモン電極25とに挟まれている圧電層では、スルーホール32、33内に導電性材料を通して、公知のようにコモン電極25を接地し、全個別電極24に分極用の正の高電圧を印加すると、電極間に挟まれた各層の圧電シートの領域が、個別電極24からコモン電極25に向かう方向に分極処理され、活性部となる。つまり、下から2枚目から7枚目の圧電シートは活性層を構成する。そして、公知のようにコモン電極25を接地し、個別電極24に選択的に駆動用の正の低電圧を印加すると、活性部が、圧電縦効果により伸長変形する。すなわち、前記電圧を印加した個別電極24とコモン電極25とに挟まれた圧電層に積層方向の歪みが発生する。そして、この歪みによる変位量が前記各個別電極24に対応する圧力室16側に大きく発生し、当該圧力室16の容積が縮小されてインクがノズル15から液滴状に噴出して、所定の印字が行われる。
【0034】
なお、非噴射時に、上記のように全個別電極24とコモン電極25との間に電圧を印加して全圧力室16の容積を縮小させておき、インク噴射をしようとする圧力室に対応する個別電極24への印加電圧を選択的に解除してその圧力室16の容積を拡大し、その後再び個別電極24とコモン電極25との間に電圧を印加して圧力室16の容積を縮小した状態に復帰させることで、インクを噴射することもできる。
【0035】
以下に説明する動作は、上記2つの噴射動作のいずれにも共通である。
【0036】
図7及び図8に示すように、前記活性部50が圧電層の積層方向に伸長するとき、対面する位置の圧力室16−1の容積が減少する。これにより、当該圧力室16−1の細幅側の隔壁14aは、圧電アクチュエータ20との接合部に近い側がその圧力室16−1の容積内に倒れ込むように、換言するとその圧力室16−1の断面積が小さくなるように弾性変形する(図7及び図8の実線状態参照)。そうすると、活性部が駆動状態の部分に隣接し、且つ対応する活性部が非駆動状態にある圧力室16−2の細幅側の側面は前記隔壁14aの倒れ込み変形に対応して、圧電アクチュエータ20との接合部に近い側が圧力室16−2の元の断面積(図7において一点鎖線で示し、図8において破線で示す矩形領域、図8の点A1,C1,C2,A2で囲まれた矩形領域)より大きくなる方向に弾性変形する。図8の点A1,B1,C1(または点A2,B2,C2)で囲まれる三角形領域を側断面変化量Z1という。
【0037】
他方、当該圧力室16−2の底面、すなわち、前記圧電アクチュエータ20の配置側と対峙する側のスペーサプレート13がその圧力室16−2の容積を減少させるように弾性により上方に湾曲変形することになる(図8の点A1,D,A2,Eで囲まれる上向き凸湾曲領域参照)。この凸湾曲領域を底断面変化量Z2という。
【0038】
このような弾性変形により、前記活性部が非駆動状態にある圧力室16−2の容積が減少または増大方向に変動すると、当該圧力室16−2内のインクに圧力変動が生じることになる。特に、駆動状態の活性部に対応する2つの圧力室16−1,16−1に挟まれた位置の活性部が非駆動状態にある圧力室16−2の容積の変化量[Z2+(2 ×Z1)]が大きくなると、圧力変動が大きくなり、不所望のインクが噴射されることがあり、印刷品質が極端に悪化するという問題があった。
【0039】
そこで、本発明では、前記活性部を選択的に駆動させた時に、その活性部に対応する圧力室16−1に隣接し且つ非駆動状態の活性部に対応する圧力室16−2に対面する前記スペーサプレート13の変形による、当該圧力室16−2における底断面変化量Z2と、前記活性部の駆動に伴う前記隔壁14aの変形による側断面変化量Z1とが略相殺されるように、換言すると隣接する圧力室の箇所がインク噴出作動されても、活性部が非駆動状態の圧力室16−2の容積を元の状態と略等しいように維持すべく、前記スペーサプレート13の厚さを設定するものである。
【0040】
<実験結果>
前記ベースプレート14及びスペーサプレート13のプレート材質を42%ニッケル合金鋼板の同じ材質(縦弾性係数=147GPa.)とし、ベースプレート14の板厚さ、つまり隔壁14aの高さを50μmとし、当該隔壁14aの横幅寸法L2=89μmとする。また、圧力室16−1、16−2の細幅方向の寸法L1=250μmに設定した。さらに、圧電アクチュエータ20の縦弾性係数=68.6GPa.とする。
【0041】
上記条件を一定にしたまま、スペーサプレート13の板厚さを50μm〜200μmの間で変化させて、圧力室16−2を挟む左右両側の圧力室16−1、16−1に対応する両活性部を同時に駆動した場合の底断面変化量Z2と、側断面変化量Z1の2倍の値(圧力室16−2の左右両側)の値の変化を、表として図9(a)に、またグラフとして図9(b)に示す。この実験結果から理解できるように、スペーサプレート13の板厚さが100μmの場合に、活性部が非駆動状態である圧力室16−2の断面積の変化が−0.049(×10−6 mm2 )で最小であった。
【0042】
つまり、スペーサプレート13の板厚さの変化による底断面変化量Z2の変化が、側断面変化量Z1の変化よりも大きいために、スペーサプレート13の板厚さが薄くなると、スペーサプレート13の反りによる底断面変化量(Z2)が、側断面変化量(Z1)を上回って、圧力室16−2の断面積は減少した。またスペーサプレート13の板厚さが大きくなると、底断面変化量(Z2)が小さくなり、側断面変化量(Z1)を下回って、圧力室16−2の断面積は増大した。
【0043】
従って、前記の条件、即ち、スペーサプレート13と圧電アクチュエータ20の縦弾性係数の比率が2対1とし、前記スペーサプレート13の厚さをベースプレート14の板厚さの略2倍に設定し、また、前記各圧力室16−1,16−2の長手方向と直交する方向の断面積に対して前記隔壁14aの断面積を略三分の一程度に設定し、スペーサプレート13の板厚さを約100μmにした場合、両側の圧力室に対応する活性部が駆動されても、活性部が非駆動状態の部分に対応する圧力室の断面積は元の値からほとんど変化しないから、その圧力室内のインクにほとんど圧力変動がなくなり、印字品質が良好であった。
【0044】
この実験結果の考察から、圧電アクチュエータ20の材質やスペーサプレート13の材質、圧力室16を形成するためのベースプレート14の材質及び板厚さ、並びに圧力室16の細幅方向の寸法L1及び配置間隔(隔壁14aの横幅寸法L2)等のインクジェットプリンタヘッドの能力に直接影響する仕様を変更することなく、圧力室の片面を覆うスペーサプレート13の板厚さを変更するだけの簡単な設計変更だけで、インク噴射時の隣接する圧力室どうしの干渉(クロストーク)が激減して、印字品質を大幅に改良できることが分かった。
【0045】
なお、本発明は、ノズルがキャビティユニット10のプレート積層方向に開口されたタイプの他、前記ペースプレートの板厚さ内にその積層方向と直交する方向にノズルが穿設され、ペースプレートの平面と平行な方向にインクが噴射されるタイプにも適用できることはいうまでもない。
【0046】
【発明の作用・効果】
以上に詳述してきたように、請求項1に記載の発明のインクジェットプリンタヘッドは、列状に並ぶ複数個のノズルと、該各ノズル毎に対応して列状に並ぶ圧力室と、各圧力室から前記各ノズルに連通する流通路と、インク供給源からのインクを溜めた後前記圧力室に補充する共通インク室とを有した複数枚のプレートを積層してなるキャビティユニットと、前記圧力室毎に選択的に駆動可能で、その圧力室方向に伸縮変形可能な活性部を有してインクを噴射させるプレート状アクチュエータとを積層させてなるインクジェットプリンタヘッドにおいて、ベースプレートには、長手方向を平行にして列状に並ぶ前記圧力室が隔壁を介して隣接するように穿設形成され、前記ベースプレートを挟んで前記アクチュエータと反対側に積層されたスペーサプレートを有し、前記活性部を選択的に駆動させた時に、その活性部に対応する圧力室に隣接し且つ非駆動状態の活性部に対応する圧力室に対面する前記スペーサプレートの変形による圧力室の底断面変化量と、前記活性部の駆動に伴う前記隔壁の変形による側断面変化量とを略等しくなるように、前記スペーサプレートの厚さを設定したことを特徴とするものである。
【0047】
このような構成によれば、圧電アクチュエータの材質やスペーサプレートの材質、圧力室を形成するためのベースプレートの材質及び板厚さ、並びに圧力室の細幅方向の寸法及び配置間隔としての隔壁の細幅方向の寸法等のインクジェットプリンタヘッドの能力に直接影響する仕様を変更することなく、圧力室の片面を覆うスペーサプレートの板厚さを変更するだけの簡単な設計変更だけで、インク噴射時の隣接する圧力室どうしの干渉(クロストーク)が激減して、印字品質を大幅に改良できるという顕著な効果を奏する。
【0048】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、前記ベースプレート及びスペーサプレートのプレート材質を42%ニッケル合金鋼板としたものであり、これにより、キャビティユニット10の全体の材質を揃えることができ、且つ薄い厚さで剛性の高いキャビティユニットを提供することができる。
【0049】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、前記スペーサプレートの厚さをベースプレートの板厚さの略2倍に設定するだけで、キャビティユニットにおける他のプレートの板厚さを厚くする必要がなく、薄い厚さで剛性の高いキャビティユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態による圧電式のインクジェットプリンタヘッドを示す分解斜視図である。
【図2】キャビティユニット及び圧電アクチュエータの分解斜視図である。
【図3】キャビティユニットの分解斜視図である。
【図4】キャビティユニットの部分拡大斜視図である。
【図5】圧電アクチュエータの一端部を示す斜視図である。
【図6】インクジェットプリンタヘッドの断面図である。
【図7】圧力室の細幅方向の断面の変化を示す説明図である。
【図8】圧力室の断面変化を示す要部拡大断面図である。
【図9】(a)は実験結果を表にして示す図、(b)グラフとして示す図である。
【符号の説明】
10 キャビティユニット
11 ノズルプレート
12 マニホールドプレート
13 スペーサプレート
14 ベースプレート
14a 隔壁
15 ノズル
16(16−1,16−2) 圧力室
20 圧電アクチュエータ
21 圧電シート
24 個別電極
25 コモン電極
50 活性部
Z1 側断面変化量
Z2 底断面変化量
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数枚のプレートを積層し、その積層プレート内に圧力室やインク流通路が形成され、片面(表面)にインク噴射用のノズルが形成された偏平状のキャビティユニットと、各圧力室に対して配置されるプレート型のアクチュエータを接合させてなるインクジェットプリンタヘッドの構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、オンデマンド型のインクジェットプリンタヘッドにおいて、圧電層を積層して形成されるプレート型の圧電アクチュエータを、キャビティユニットの圧力室に面して接合させて、この圧電アクチュエータの伸縮変形により前記インク室の容積を小さくしてインクを噴射させるものが知られている(特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
この場合、キャビティユニットとしては、例えば特許文献1では、インク室として機能する圧力室は1枚のプレートの片面(上方)に開放されるような空間が形成され、該プレートの下面側にインク噴出用のノズルが穿設されており、前記ノズルの列方向に並ぶ圧力室の細幅側は隔壁を挟んで隣接配置されている。他方、特許文献2では、キャビティユニットは、前記圧力室が形成されたベースプレートの片面(圧電アクチュエータと反対側)に複数枚のプレートを積層してなり、これらのプレートは、前記ノズルが穿設されたプレート、各圧力室から前記各ノズルに連通する流通路を有するプレート、インク供給源からのインクを溜めた後前記圧力室に補充する共通インク室が形成されたプレート等からなる。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−162796号公報(図1参照)
【特許文献2】
特開2001−260349号公報(図2、図4参照)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記圧電アクチュエータは、前記各インク室毎に選択的に電圧を印加する個別電極の電極層と、前記複数のインク室に電気的に共通となるコモン電極の電極層とが、圧電材料からなる圧電層の積層方向に交互に配置されており、個別電極とコモン電極とが対向するように挟んだ圧電層が、電極間に印加された電圧によって伸縮する活性部となる。
【0006】
そして、この活性部が圧電層の積層方向に伸長すると、対面する位置の圧力室の容積が減少する。このとき、当該圧力室の細幅側の隔壁は、圧電アクチュエータとの接合部に近い側がその圧力室の容積内に倒れ込むように、換言すると圧力室の断面積が小さくなるように弾性変形する。そうすると、その圧力室に隔壁を介して隣接する圧力室(この圧力室に対応する活性部は非駆動状態にある)は、前記隔壁の倒れ込み変形に対応して、圧電アクチュエータとの接合部に近い側が元の圧力室の断面積(容積)より大きくなる。
【0007】
一方、当該圧力室の底面、すなわち、前記圧電アクチュエータの配置側と対峙する側の1枚のプレートもしくは積層プレートがその圧力室の断面積(容積)を減少させるように弾性により上方へ湾曲変形することになる。
【0008】
このような弾性変形により、インクを噴射した圧力室に隣接する圧力室(非噴射の圧力室)も容積を拡大しその後復帰する動作をすることになり、噴射動作をしないにもかかわらずインクに圧力変動を生じる。その後、その隣接する圧力室で噴射動作をすることになったとき、この圧力変動に重畳して噴射のための圧力変動を起こさせるので、インクの噴射速度や液滴の大きさが所定値よりも大きくあるいは小さくなったりする、いわゆるクロストークを生じる。特に、インクを噴射した2つの圧力室に挟まれた圧力室(非噴射の圧力室)の場合、圧力変動が大きくなり、不所望にインクを噴射してしまうことがある。
【0009】
本発明は、このような課題を解消し、圧力室の片面を構成するプレートの厚さや材質を工夫することにより、印字品質を良好にできるインクジェットプリンタヘッドを提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明のインクジェットプリンタヘッドは、列状に並ぶ複数個のノズルと、該各ノズル毎に対応して列状に並ぶ圧力室と、各圧力室から前記各ノズルに連通する流通路と、インク供給源からのインクを溜めた後前記圧力室に補充する共通インク室とを有した複数枚のプレートを積層してなるキャビティユニットと、前記圧力室毎に選択的に駆動可能で、その圧力室方向に伸縮変形可能な活性部を有してインクを噴射させるプレート状アクチュエータとを積層させてなるインクジェットプリンタヘッドにおいて、ベースプレートには、長手方向を平行にして列状に並ぶ前記圧力室が隔壁を介して隣接するように穿設形成され、前記ベースプレートを挟んで前記アクチュエータと反対側に積層されたスペーサプレートを有し、前記活性部を選択的に駆動させた時に、その活性部に対応する圧力室に隣接し且つ非駆動状態の活性部に対応する圧力室に対面する前記スペーサプレートの変形による圧力室の底断面変化量と、前記活性部の駆動に伴う前記隔壁の変形による側断面変化量とを略等しくなるように、前記スペーサプレートの厚さを設定したことを特徴とするものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、前記ベースプレート及びスペーサプレートのプレート材質を42%ニッケル合金鋼板としたものである。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、前記スペーサプレートの厚さをベースプレートの板厚さの略2倍に設定したものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施の形態による圧電式のインクジェットプリンタヘッドを示す分解斜視図、図2は圧電アクチュエータとキャビティユニットの一端部を示す斜視図、図3はキャビティユニットの分解斜視図、図4はキャビティユニットの部分拡大斜視図、図5は圧電アクチュエータの分解斜視図、図6はインクジェットプリンタヘッドの拡大断面図、図7は作用説明図、図8は圧力室の断面積の増減状態を示す説明図である。
【0014】
図1に示すプレート型の圧電アクチュエータ20は、キャビティユニット10に対して接合されるものであり、圧電アクチュエータ20の上面には、外部機器との接続のために、フレキシブルフラットケーブル40が重ね接合されている。そして、最下層のキャビティユニット10の下面側に開口されたノズルからは下向きにインクが噴射される。
【0015】
前記キャビティユニット10は、図3及び図4に示すように構成されている。すなわち、ノズルプレート11、2枚のマニホールドプレート12、スペーサプレート13及びベースプレート14の5枚の薄い板をそれぞれ積層した構造としている。
【0016】
実施形態では、合成樹脂製のノズルプレート11を除き、各プレート12、13、14は、42%ニッケル合金鋼板製(縦弾性係数147GPa.)で、50μm〜250μm程度の厚さを有する。前記ノズルプレート11には、微小径(実施形態では25μm程度)のインク噴射用のノズル15が微小間隔で多数個穿設されている。このノズル15は、当該ノズルプレート11における第1の方向(長辺方向)に沿って千鳥配列で2列に配列されている。
【0017】
前記2枚のマニホールドプレート12には、図3、図4及び図6に示すように、共通インク通路12a、12bが、前記ノズル15の列の両側で、当該マニホールドプレート12の長辺に略沿って延びるように穿設されている。但し、下側のマニホールドプレート12における共通インク通路12bは、当該マニホールドプレート12の上側にのみ開放するように凹み形成されている。この共通インク通路12a、12bは、この両マニホールドプレート12に対する前記スペーサプレート13の積層により密閉されて、列状に並ぶ複数の圧力室16に対する共通インク供給路として機能する構造になっている。
【0018】
また、図3及び図4に示すように、前記ベースプレート14には、複数の圧力室16がベースプレート14の長辺(前記第1の方向)に沿って千鳥配列で2列に穿設されている。そして、各圧力室16は、その長手方向がベースプレート14の長手方向と直交するようにして細長形状に形成されている。
【0019】
そして、列状に並ぶ圧力室16の間には幅L2の隔壁14aが形成されていることになり、また、圧力室16の細幅方向の幅寸法は中央部でL1となっている。そして、実施形態では、図7に示すように、L1>L2であって、具体的には、ベースプレート14の板厚さは50μmであって、L2=89μm、L1=250μmに設定されている。なお、スペーサプレート13の板厚さは50μm〜250μm程度とする。
【0020】
各圧力室16における先端部16aはベースプレート14の短辺方向の略中央部に位置しており、この各先端部16aは、スペーサプレート13、2枚のマニホールドプレート12に同じく千鳥配列にて穿設されているインク流路としての微小径の貫通孔17を介してノズルプレート11における前記千鳥配列のノズル15に連通している。
【0021】
一方、前記各圧力室16の他端部16bは、前記スペーサプレート13における左右両側部位に穿設された貫通孔18を介して、前記両マニホールドプレート12における共通インク通路12a、12b(共通インク室)に連通している。なお、前記他端部16bは、図4に示すように下側に開口するように凹み形成されているものである。また、最上層のベースプレート14の一端部に穿設された供給孔19a(図3参照)の上面には、その上方のインクタンクから供給されるインク中の塵除去のためのフィルタ29が張設されている。
【0022】
これにより、前記ベースプレート14及びスペーサプレート13の一端部に穿設の供給孔19a、19bから前記共通インク通路12a、12b内に流入したインクは、この共通インク通路12aから前記各貫通孔18を通って前記各圧力室16内に分配されたのち、この各圧力室16内から前記貫通孔17を通って、当該圧力室に対応するノズル15に至るという構成になっている(図3及び図6参照)。
【0023】
一方、圧電アクチュエータ20では、複数の圧電層と電極層とが交互に積層されており、圧電層は圧電セラミックスを材料とする1枚の厚さが30μm程度の圧電シートにより形成されている。この実施の形態では、圧電アクチュエータ20は、図5に示すように、複数枚の圧電シート21を積層し、その最上面にトップシート22を積層した構造としている。また、電極層は圧電シートの上面(広幅面)に後述するように金属膜の電極パターンとして形成されている。
【0024】
これら複数枚の圧電シート21のうち、キャビティユニット10側(これを下側とする)の複数枚の圧電シートは、各圧力室16に対応して伸縮変形可能に設けられた活性部が含まれる活性層を構成する。なお、上層側の複数枚の圧電シートは、前記活性部の上側への伸縮変形を規制する拘束部が含まれる拘束層を構成しても良い。
【0025】
活性層では、圧電層の間に挟まれる各電極層を、積層方向において交互に、前記各圧力室16毎に対応して位置し選択的に電圧を印加する個別電極24の電極層と、前記複数の圧力室16に跨がる広幅形状をなしそれぞれ共通の電位に接続されるコモン電極25の電極層としている。
【0026】
具体的には、圧電シートのうち最下端側から数えて、偶数枚目の圧電シート21の各上面の電極層に前記個別電極24を形成している。また、前記各圧電シートのうち最下端側から数えて、奇数枚目の圧電シート2の各上面の電極層にコモン電極25が形成されている。そして、このコモン電極25を有する圧電シート21の長辺側の各端部は、圧電シート21の対の短辺の端縁部近傍の略全長にわたって延びる引き出し部25aが前記コモン電極25に連結されている。
【0027】
前記コモン電極25が形成されている圧電シート21では、これらの対の長辺の端縁部近傍の上面であって、前記コモン電極25が形成されていない箇所には、前記各個別電極24と同じ上下位置(対応する位置)に当該個別電極24と略同じ幅寸法で長さの短いダミー個別電極26が形成されている。
【0028】
また、前記個別電極24が形成されている圧電シート21の上面のうち、前記引き出し部25aに対応する位置(同じ上下位置、圧電シートの対の短辺の端縁部近傍)には、ダミーコモン電極27が形成されている。
【0029】
上述した個別電極24、コモン電極25、ダミー個別電極26及びダミーコモン電極27は、圧電シートの上面に、銀―パラジウム合金を材料とする導電性ペーストをスクリーン印刷することにより、所定の箇所にそれぞれの電極パターンが形成される。
【0030】
トップシート22の上面には表面電極30、31が印刷形成されており、前記フレキシブルフラットケーブル40が重ね接合されることにより、このフレキシブルフラットケーブル40における各種の配線パターン(図示せず)が、前記各表面電極30、31に電気的に接合される。
【0031】
なお、前記最下層の圧電シート21を除き、他の全ての圧電シート21には、前記各表面電極30と、それに対応する位置(同じ上下位置)の個別電極24及びダミー個別電極26とが互いに連通するように、スルーホール32を穿設する。同様に、前記少なくとも1つの表面電極31(実施形態では、最上層の圧電シート21の4隅の位置の表面電極31)と、それに対応する位置(同じ上下位置)のコモン電極25の引き出し部25a並びにダミーコモン電極27とが互いに連通するように、スルーホール33を穿設している。そしてスルーホール32、33内に充填された導電性材料を介して、各層の個別電極24どうし及びそれと対応する位置の表面電極30とが電気的に接続されるように構成し、同じく各層の第1のコモン電極25a、第2のコモン電極25b及びそれと対応する位置の表面電極31とが電気的に接続されるように構成するものである。
【0032】
製造上においては、各圧電シートを構成するセラミックスのグリーンシートに、スルーホールを穿設し、このグリーンシートに各電極パターンを銀―パラジウム合金を材料とする導電性ペーストのスクリーン印刷等で形成すると、これと同時にスルーホール内に電極パターンを形成する導電性材料が浸入し充填される。これにより圧電シートの上下面でスルーホールを介して導通可能となる。そして、それらのグリーンシートを、下層の電極パターンまたはダミー電極と上層のスルーホールとが重なるように積層し、積層方向に加圧して一体化させ、公知のように焼成して圧電アクチュエータ20を作る。
【0033】
上記のように、個別電極24とコモン電極25とに挟まれている圧電層では、スルーホール32、33内に導電性材料を通して、公知のようにコモン電極25を接地し、全個別電極24に分極用の正の高電圧を印加すると、電極間に挟まれた各層の圧電シートの領域が、個別電極24からコモン電極25に向かう方向に分極処理され、活性部となる。つまり、下から2枚目から7枚目の圧電シートは活性層を構成する。そして、公知のようにコモン電極25を接地し、個別電極24に選択的に駆動用の正の低電圧を印加すると、活性部が、圧電縦効果により伸長変形する。すなわち、前記電圧を印加した個別電極24とコモン電極25とに挟まれた圧電層に積層方向の歪みが発生する。そして、この歪みによる変位量が前記各個別電極24に対応する圧力室16側に大きく発生し、当該圧力室16の容積が縮小されてインクがノズル15から液滴状に噴出して、所定の印字が行われる。
【0034】
なお、非噴射時に、上記のように全個別電極24とコモン電極25との間に電圧を印加して全圧力室16の容積を縮小させておき、インク噴射をしようとする圧力室に対応する個別電極24への印加電圧を選択的に解除してその圧力室16の容積を拡大し、その後再び個別電極24とコモン電極25との間に電圧を印加して圧力室16の容積を縮小した状態に復帰させることで、インクを噴射することもできる。
【0035】
以下に説明する動作は、上記2つの噴射動作のいずれにも共通である。
【0036】
図7及び図8に示すように、前記活性部50が圧電層の積層方向に伸長するとき、対面する位置の圧力室16−1の容積が減少する。これにより、当該圧力室16−1の細幅側の隔壁14aは、圧電アクチュエータ20との接合部に近い側がその圧力室16−1の容積内に倒れ込むように、換言するとその圧力室16−1の断面積が小さくなるように弾性変形する(図7及び図8の実線状態参照)。そうすると、活性部が駆動状態の部分に隣接し、且つ対応する活性部が非駆動状態にある圧力室16−2の細幅側の側面は前記隔壁14aの倒れ込み変形に対応して、圧電アクチュエータ20との接合部に近い側が圧力室16−2の元の断面積(図7において一点鎖線で示し、図8において破線で示す矩形領域、図8の点A1,C1,C2,A2で囲まれた矩形領域)より大きくなる方向に弾性変形する。図8の点A1,B1,C1(または点A2,B2,C2)で囲まれる三角形領域を側断面変化量Z1という。
【0037】
他方、当該圧力室16−2の底面、すなわち、前記圧電アクチュエータ20の配置側と対峙する側のスペーサプレート13がその圧力室16−2の容積を減少させるように弾性により上方に湾曲変形することになる(図8の点A1,D,A2,Eで囲まれる上向き凸湾曲領域参照)。この凸湾曲領域を底断面変化量Z2という。
【0038】
このような弾性変形により、前記活性部が非駆動状態にある圧力室16−2の容積が減少または増大方向に変動すると、当該圧力室16−2内のインクに圧力変動が生じることになる。特に、駆動状態の活性部に対応する2つの圧力室16−1,16−1に挟まれた位置の活性部が非駆動状態にある圧力室16−2の容積の変化量[Z2+(2 ×Z1)]が大きくなると、圧力変動が大きくなり、不所望のインクが噴射されることがあり、印刷品質が極端に悪化するという問題があった。
【0039】
そこで、本発明では、前記活性部を選択的に駆動させた時に、その活性部に対応する圧力室16−1に隣接し且つ非駆動状態の活性部に対応する圧力室16−2に対面する前記スペーサプレート13の変形による、当該圧力室16−2における底断面変化量Z2と、前記活性部の駆動に伴う前記隔壁14aの変形による側断面変化量Z1とが略相殺されるように、換言すると隣接する圧力室の箇所がインク噴出作動されても、活性部が非駆動状態の圧力室16−2の容積を元の状態と略等しいように維持すべく、前記スペーサプレート13の厚さを設定するものである。
【0040】
<実験結果>
前記ベースプレート14及びスペーサプレート13のプレート材質を42%ニッケル合金鋼板の同じ材質(縦弾性係数=147GPa.)とし、ベースプレート14の板厚さ、つまり隔壁14aの高さを50μmとし、当該隔壁14aの横幅寸法L2=89μmとする。また、圧力室16−1、16−2の細幅方向の寸法L1=250μmに設定した。さらに、圧電アクチュエータ20の縦弾性係数=68.6GPa.とする。
【0041】
上記条件を一定にしたまま、スペーサプレート13の板厚さを50μm〜200μmの間で変化させて、圧力室16−2を挟む左右両側の圧力室16−1、16−1に対応する両活性部を同時に駆動した場合の底断面変化量Z2と、側断面変化量Z1の2倍の値(圧力室16−2の左右両側)の値の変化を、表として図9(a)に、またグラフとして図9(b)に示す。この実験結果から理解できるように、スペーサプレート13の板厚さが100μmの場合に、活性部が非駆動状態である圧力室16−2の断面積の変化が−0.049(×10−6 mm2 )で最小であった。
【0042】
つまり、スペーサプレート13の板厚さの変化による底断面変化量Z2の変化が、側断面変化量Z1の変化よりも大きいために、スペーサプレート13の板厚さが薄くなると、スペーサプレート13の反りによる底断面変化量(Z2)が、側断面変化量(Z1)を上回って、圧力室16−2の断面積は減少した。またスペーサプレート13の板厚さが大きくなると、底断面変化量(Z2)が小さくなり、側断面変化量(Z1)を下回って、圧力室16−2の断面積は増大した。
【0043】
従って、前記の条件、即ち、スペーサプレート13と圧電アクチュエータ20の縦弾性係数の比率が2対1とし、前記スペーサプレート13の厚さをベースプレート14の板厚さの略2倍に設定し、また、前記各圧力室16−1,16−2の長手方向と直交する方向の断面積に対して前記隔壁14aの断面積を略三分の一程度に設定し、スペーサプレート13の板厚さを約100μmにした場合、両側の圧力室に対応する活性部が駆動されても、活性部が非駆動状態の部分に対応する圧力室の断面積は元の値からほとんど変化しないから、その圧力室内のインクにほとんど圧力変動がなくなり、印字品質が良好であった。
【0044】
この実験結果の考察から、圧電アクチュエータ20の材質やスペーサプレート13の材質、圧力室16を形成するためのベースプレート14の材質及び板厚さ、並びに圧力室16の細幅方向の寸法L1及び配置間隔(隔壁14aの横幅寸法L2)等のインクジェットプリンタヘッドの能力に直接影響する仕様を変更することなく、圧力室の片面を覆うスペーサプレート13の板厚さを変更するだけの簡単な設計変更だけで、インク噴射時の隣接する圧力室どうしの干渉(クロストーク)が激減して、印字品質を大幅に改良できることが分かった。
【0045】
なお、本発明は、ノズルがキャビティユニット10のプレート積層方向に開口されたタイプの他、前記ペースプレートの板厚さ内にその積層方向と直交する方向にノズルが穿設され、ペースプレートの平面と平行な方向にインクが噴射されるタイプにも適用できることはいうまでもない。
【0046】
【発明の作用・効果】
以上に詳述してきたように、請求項1に記載の発明のインクジェットプリンタヘッドは、列状に並ぶ複数個のノズルと、該各ノズル毎に対応して列状に並ぶ圧力室と、各圧力室から前記各ノズルに連通する流通路と、インク供給源からのインクを溜めた後前記圧力室に補充する共通インク室とを有した複数枚のプレートを積層してなるキャビティユニットと、前記圧力室毎に選択的に駆動可能で、その圧力室方向に伸縮変形可能な活性部を有してインクを噴射させるプレート状アクチュエータとを積層させてなるインクジェットプリンタヘッドにおいて、ベースプレートには、長手方向を平行にして列状に並ぶ前記圧力室が隔壁を介して隣接するように穿設形成され、前記ベースプレートを挟んで前記アクチュエータと反対側に積層されたスペーサプレートを有し、前記活性部を選択的に駆動させた時に、その活性部に対応する圧力室に隣接し且つ非駆動状態の活性部に対応する圧力室に対面する前記スペーサプレートの変形による圧力室の底断面変化量と、前記活性部の駆動に伴う前記隔壁の変形による側断面変化量とを略等しくなるように、前記スペーサプレートの厚さを設定したことを特徴とするものである。
【0047】
このような構成によれば、圧電アクチュエータの材質やスペーサプレートの材質、圧力室を形成するためのベースプレートの材質及び板厚さ、並びに圧力室の細幅方向の寸法及び配置間隔としての隔壁の細幅方向の寸法等のインクジェットプリンタヘッドの能力に直接影響する仕様を変更することなく、圧力室の片面を覆うスペーサプレートの板厚さを変更するだけの簡単な設計変更だけで、インク噴射時の隣接する圧力室どうしの干渉(クロストーク)が激減して、印字品質を大幅に改良できるという顕著な効果を奏する。
【0048】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、前記ベースプレート及びスペーサプレートのプレート材質を42%ニッケル合金鋼板としたものであり、これにより、キャビティユニット10の全体の材質を揃えることができ、且つ薄い厚さで剛性の高いキャビティユニットを提供することができる。
【0049】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、前記スペーサプレートの厚さをベースプレートの板厚さの略2倍に設定するだけで、キャビティユニットにおける他のプレートの板厚さを厚くする必要がなく、薄い厚さで剛性の高いキャビティユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態による圧電式のインクジェットプリンタヘッドを示す分解斜視図である。
【図2】キャビティユニット及び圧電アクチュエータの分解斜視図である。
【図3】キャビティユニットの分解斜視図である。
【図4】キャビティユニットの部分拡大斜視図である。
【図5】圧電アクチュエータの一端部を示す斜視図である。
【図6】インクジェットプリンタヘッドの断面図である。
【図7】圧力室の細幅方向の断面の変化を示す説明図である。
【図8】圧力室の断面変化を示す要部拡大断面図である。
【図9】(a)は実験結果を表にして示す図、(b)グラフとして示す図である。
【符号の説明】
10 キャビティユニット
11 ノズルプレート
12 マニホールドプレート
13 スペーサプレート
14 ベースプレート
14a 隔壁
15 ノズル
16(16−1,16−2) 圧力室
20 圧電アクチュエータ
21 圧電シート
24 個別電極
25 コモン電極
50 活性部
Z1 側断面変化量
Z2 底断面変化量
Claims (3)
- 列状に並ぶ複数個のノズルと、該各ノズル毎に対応して列状に並ぶ圧力室と、各圧力室から前記各ノズルに連通する流通路と、インク供給源からのインクを溜めた後前記圧力室に補充する共通インク室とを有した複数枚のプレートを積層してなるキャビティユニットと、前記圧力室毎に選択的に駆動可能で、その圧力室方向に伸縮変形可能な活性部を有してインクを噴射させるプレート状アクチュエータとを積層させてなるインクジェットプリンタヘッドにおいて、
ベースプレートには、長手方向を平行にして列状に並ぶ前記圧力室が隔壁を介して隣接するように穿設形成され、
前記ベースプレートを挟んで前記アクチュエータと反対側に積層されたスペーサプレートを有し、
前記活性部を選択的に駆動させた時に、その活性部に対応する圧力室に隣接し且つ非駆動状態の活性部に対応する圧力室に対面する前記スペーサプレートの変形による圧力室の底断面変化量と、前記活性部の駆動に伴う前記隔壁の変形による側断面変化量とを略等しくなるように、
前記スペーサプレートの厚さを設定したことを特徴とするインクジェットプリンタヘッド。 - 前記ベースプレート及びスペーサプレートのプレート材質を42%ニッケル合金鋼板としたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタヘッド。
- 前記スペーサプレートの厚さをベースプレートの板厚さの略2倍に設定したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェットプリンタヘッド。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003089931A JP2004291543A (ja) | 2003-03-28 | 2003-03-28 | インクジェットプリンタヘッド |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003089931A JP2004291543A (ja) | 2003-03-28 | 2003-03-28 | インクジェットプリンタヘッド |
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JP2004291543A true JP2004291543A (ja) | 2004-10-21 |
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ID=33403679
Family Applications (1)
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JP2003089931A Pending JP2004291543A (ja) | 2003-03-28 | 2003-03-28 | インクジェットプリンタヘッド |
Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP2004291543A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006341603A (ja) * | 2005-06-06 | 2006-12-21 | Oce Technol Bv | インクジェットプリントヘッド及び当該プリントヘッドを有するインクジェットプリンタ |
US7607765B2 (en) | 2006-01-19 | 2009-10-27 | Brother Kogyo Kabushiki Kaisha | Liquid-droplet jetting apparatus |
US7722165B2 (en) | 2005-12-07 | 2010-05-25 | Brother Kogyo Kabushiki Kaisha | Liquid-droplet jetting apparatus |
-
2003
- 2003-03-28 JP JP2003089931A patent/JP2004291543A/ja active Pending
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