JP2004224035A - 液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】流路形成基板と封止基板とを確実に接合して圧電素子の環境に起因する破壊を防止することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル開口21に連通する圧力発生室12が複数の隔壁11により画成された流路形成基板10と、該流路形成基板10の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室12内に圧力変化を生じさせる圧電素子300と、前記流路形成基板12の前記圧電素子300側の面に接合されて当該圧電素子300を封止する圧電素子保持部32を有する封止基板30とを具備する液体噴射ヘッドにおいて、前記流路形成基板10上に、貴金属からなる配線膜60、90が配設されていると共に、前記流路形成基板10の前記封止基板30との接合領域の前記配線膜60、90上には、貴金属以外の材料からなる接合強化膜110を設ける。
【選択図】 図3
【解決手段】ノズル開口21に連通する圧力発生室12が複数の隔壁11により画成された流路形成基板10と、該流路形成基板10の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室12内に圧力変化を生じさせる圧電素子300と、前記流路形成基板12の前記圧電素子300側の面に接合されて当該圧電素子300を封止する圧電素子保持部32を有する封止基板30とを具備する液体噴射ヘッドにおいて、前記流路形成基板10上に、貴金属からなる配線膜60、90が配設されていると共に、前記流路形成基板10の前記封止基板30との接合領域の前記配線膜60、90上には、貴金属以外の材料からなる接合強化膜110を設ける。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被噴射液を吐出する液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液体噴射装置としては、例えば、圧電素子や発熱素子によりインク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを供給する共通のリザーバと、各圧力発生室に連通するノズル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置があり、このインクジェット式記録装置では、印字信号に対応するノズル開口と連通した圧力発生室のインクに吐出エネルギを印加してノズル開口からインク滴を吐出させる。
【0003】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0004】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0005】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0006】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成することで高密度配列を実現したものがある。
【0007】
また、圧力発生室が形成される流路形成基板の圧電素子側の一方面には、この圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板が接合されることで、圧電素子の外部環境に起因する破壊が防止されている。この流路形成基板に接合された封止基板の圧電素子保持部を封止する方法としては、封止基板に圧電素子保持部と外部とを連通する封止孔を設け、流路形成基板に封止基板を接合後、封止孔に樹脂等からなる封止部材を充填することで封止孔を密封し圧電素子保持部を密封している(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−160366号公報(第6−7頁、第1−3図)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、流路形成基板の封止基板と接合される接合領域には、例えば、圧電素子の個別電極から引き出された金(Au)等の貴金属からなる引き出し配線などの配線膜が設けられており、この貴金属からなる配線膜は封止基板を接合する際に用いられる接着剤が接着し難く、流路形成基板と封止基板との接着が配線膜の領域で悪くなってしまい、封止基板の圧電素子保持部の密封性が悪くなる。これにより、圧電素子保持部内に外部環境からの流体が侵入し易く、圧電素子の外部環境に起因した破壊が生じてしまうという問題がある。
【0010】
また、流路形成基板の封止基板と接合される接合領域には、引き出し配線等の配線膜が設けられることにより、配線膜及びその他の領域で流路形成基板からの高さが異なり、段差が生じてしまう。この段差によっても、流路形成基板と封止基板との接着が段差の領域で悪くなってしまい、圧電素子保持部の密封性が悪くなる。これにより、圧電素子保持部内に外部環境からの流体が侵入し、圧電素子の外部環境に起因する破壊が生じてしまうという問題がある。なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑み、流路形成基板と封止基板とを確実に接合して圧電素子の外部環境に起因する破壊を防止することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドであって、前記流路形成基板上に、貴金属からなる配線膜が配設されていると共に、前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域の少なくとも前記配線膜上には、貴金属以外の材料からなる接合強化膜が設けられ、該接合強化膜上に前記封止基板が接着されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0013】
かかる第1の態様では、流路形成基板と封止基板とを貴金属以外の材料からなる接合強化膜を介して接着することで、流路形成基板上の配線膜に直接封止基板を接合することなく、両者を確実に接着して圧電素子保持部の密封を確実に行い、圧電素子の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記接合強化膜は、前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように平坦化されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0015】
かかる第2の態様では、接合強化膜を封止基板が当接する接合面の流路形成基板からの高さを揃えることで、封止基板の当接する接合領域の段差を無くして、流路形成基板と封止基板とを確実に接着して、圧電素子保持部の密封性を向上し、圧電素子の外部環境に起因する破壊を確実に防止できる。
【0016】
本発明の第3の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドであって、前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域に、貴金属からなる配線膜が配設されていると共に、前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように平坦化された接合強化膜が設けられ、該接合強化膜上に前記封止基板が接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0017】
かかる第3の態様では、封止基板が当接する接合強化膜の流路形成基板からの高さを揃えることで、封止基板が当接する接合領域の段差を無くして、流路形成基板と封止基板とを確実に接合して、圧電素子保持部の密封性を向上し、圧電素子の外部環境に起因する破壊を確実に防止できる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記封止基板が、前記接合強化膜上に接着剤を介して接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0019】
かかる第4の態様では、封止基板と流路形成基板とを接合強化膜上に接着剤を介して確実に接合することができる。
【0020】
本発明の第5の態様は、第3の態様において、前記接合強化膜上には、金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜が設けられていると共に、前記封止基板の接合面側の面にも前記金又は金化合物からなる第2の接合膜が設けられ、前記流路形成基板と前記封止基板とが前記第1の接合膜と第2の接合膜との共晶接合により接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0021】
かかる第5の態様では、封止基板と流路形成基板とを第1の接合膜と第2の接合膜との共晶接合により確実に接合することができると共に、接着剤等の有機材料を用いずに接合するため、有機材料の吸湿による圧電素子保持部内への流体の侵入を確実に防止することができ、圧電素子の環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0022】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記金化合物が、錫、珪素、イリジウム又はゲルマニウムを含有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0023】
かかる第6の態様では、金化合物に所定の材料を含有させることで、共晶接合時に低温度の加熱で接合強度を確保することができる。
【0024】
本発明の第7の態様は、第5又は6の態様において、前記第1の接合膜が、前記圧電素子の共通電極に電気的に導通することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0025】
かかる第7の態様では、導電性を有する第1の接合膜が共通電極と電気的に導通することで、共通電極の抵抗値を下げて、圧電素子の駆動時の電圧降下を防止することができる。
【0026】
本発明の第8の態様は、第5〜7の何れかの態様において、前記第1及び第2の接合膜が前記圧電素子保持部を囲むように連続して形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0027】
かかる第8の態様では、第1及び第2の接合膜を圧電素子保持部を囲むように形成することで、圧電素子保持部の密封を確実にして圧電素子保持部内に流体が侵入するのを確実に防止することができる。
【0028】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様において、前記接合強化膜が、前記接合領域の全面に亘って形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0029】
かかる第9の態様では、流路形成基板と封止基板とをさらに確実に接合することができる。
【0030】
本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様において、前記接合強化膜が少なくとも前記配線膜の端子部以外の部分に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0031】
かかる第10の態様では、配線膜の端子部に外部配線等の配線を確実に接続することができる。
【0032】
本発明の第11の態様は、第1〜10の何れかの態様において、前記配線膜が、前記圧電素子の個別電極から引き出された引き出し配線を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0033】
かかる第11の態様では、引き出し配線に接合強化膜を介して封止基板を良好に接合できる。
【0034】
本発明の第12の態様は、第1〜10の何れかの態様において、前記配線膜が、前記流路形成基板の前記接合領域に、前記圧電素子の個別電極から引き出された引き出し配線上に層間絶縁膜を介して設けられて前記圧電素子の共通電極に電気的に導通する接続配線層を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0035】
かかる第12の態様では、接続配線層に接合強化膜を介して封止基板を良好に接合できる。
【0036】
本発明の第13の態様は、第1〜12の何れかの態様において、前記接合強化膜が、酸化物、窒化物、炭化物、金属、金属化合物及び有機物からなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0037】
かかる第13の態様では、所定の材料の接合強化膜を用いることにより、配線膜と接合強化膜とを、及び接合強化膜と封止基板とを確実に接合して、流路形成基板と封止基板とを確実に接合することができる。
【0038】
本発明の第14の態様は、第13の態様において、前記酸化物が、酸化シリコン、酸化タンタル及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0039】
かかる第14の態様では、所定の材料の接合膜を用いることにより、配線膜と接合強化膜とを、及び接合強化膜と封止基板とを確実に接合して、流路形成基板と封止基板とを確実に接合することができる。
【0040】
本発明の第15の態様は、第1〜14の何れかの態様において、前記配線膜と前記接合強化膜との間には、両者の密着性を向上する密着層が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0041】
かかる第15の態様では、密着層により接合強化膜と配線膜との密着性をさらに向上して、流路形成基板と封止基板とをより確実に接合することができる。
【0042】
本発明の第16の態様は、第15の態様において、前記密着層が、チタン、クロム、ニッケル、アルミ、銅、タングステン及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0043】
かかる第16の態様では、所定の材料の密着層を用いることにより、接合強化膜と配線膜とを確実に密着することができる。
【0044】
本発明の第17の態様は、第1〜16の何れかの態様において、前記流路形成基板及び前記封止基板がシリコン単結晶基板からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0045】
かかる第17の態様では、流路形成基板と封止基板とを割れ等を発生することなく良好に接合できる。
【0046】
本発明の第18の態様は、第1〜17の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0047】
かかる第18の態様では、液体の吐出特性を安定させ、信頼性を向上した液体噴射装置を実現することができる。
【0048】
本発明の第19の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記流路形成基板上に配設された貴金属からなる配線膜上の少なくとも前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域に、貴金属以外の材料からなる接合強化膜をパターニングする工程と、前記接合強化膜上に前記封止基板を接着する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0049】
かかる第19の態様では、流路形成基板と封止基板とを貴金属以外の材料からなる接合強化膜を介して接着することで、流路形成基板上の配線膜に直接封止基板を接着することなく、両者を確実に接着して圧電素子保持部の密封を確実に行って圧電素子の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0050】
本発明の第20の態様は、第19の態様において、前記接合強化膜を形成する工程の後、前記接合強化膜の前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように平坦化する工程をさらに有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0051】
かかる第20の態様では、封止基板が当接する接合膜の流路形成基板からの高さを揃えることで、流路形成基板の封止基板が接合される接合領域の段差を無くして、流路形成基板と封止基板とを確実に接合して、圧電素子保持部の密封性を向上し、圧電素子の外部環境に起因する破壊を確実に防止できる。
【0052】
本発明の第21の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域に接合強化膜をパターニングする工程と、前記接合強化膜の前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように当該接合強化膜を表面研磨により平坦化する工程と、前記接合強化膜上に前記封止基板を接合する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0053】
かかる第21の態様では、封止基板が当接する接合強化膜の流路形成基板からの高さを揃えることで、流路形成基板の封止基板が接合される接合領域の段差を無くして、流路形成基板と封止基板とを確実に接合して、圧電素子保持部の密封性を向上し、圧電素子の外部環境に起因する破壊を確実に防止できる。
【0054】
本発明の第22の態様は、第21の態様において、前記接合強化膜上に前記封止基板を接合する工程では、接着剤を介して接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0055】
かかる第22の態様では、封止基板と流路形成基板とを接合強化膜上に設けられた接着剤を介して確実に接合することができる。
【0056】
本発明の第23の態様は、第21の態様において、前記接合強化膜上に前記封止基板を接合する工程では、前記接合強化膜上に金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜を形成すると共に、前記封止基板の接合面にも前記金又は金化合物からなる第2の接合膜を形成し、前記流路形成基板と前記封止基板とを前記第1の接合膜と前記第2の接合膜との共晶接合により接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0057】
かかる第23の態様では、封止基板と流路形成基板とを第1の接合膜と第2の接合膜との共晶接合により確実に接合することができると共に、接着剤等の有機材料を用いずに接合するため、有機材料の吸湿による圧電素子保持部内への流体の侵入を確実に防止することができ、圧電素子の環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0058】
本発明の第24の態様は、第19〜23の何れかの態様において、前記流路形成基板上に前記配線膜となる配線膜形成層と、前記接合強化膜となる接合強化膜形成層とを順次積層し、前記配線膜形成層及び前記接合強化膜形成層を同時にパターニングすることにより前記配線膜と前記接合強化膜とを形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0059】
かかる第24の態様では、配線膜と接合強化膜とを順次積層形成することで、配線膜と接合強化膜との密着性を向上すると共に、配線膜及び接合強化膜を高精度に形成することができる。
【0060】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの配線構造を示す平面図であり、図3は、図2のA−A′断面図及びそのB−B′断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その両面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50、及び後述する圧力発生室を形成する際にマスクとして用いられるマスクパターン51が設けられている。この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が幅方向に並設され、その長手方向外側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成され、この連通部13は各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0061】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0062】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また、各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14の断面積は、圧力発生室12のそれより小さく形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0063】
なお、このような圧力発生室12等が形成される流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配設する密度に合わせて最適な厚さを選択することが好ましい。例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、180〜280μm程度、より望ましくは、220μm程度とするのが好適である。また、例えば、360dpi程度と比較的高密度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、100μm以下とするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0064】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.05〜1mmのガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板10を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。
【0065】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0066】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、厚さが例えば、約1.0μmの弾性膜50の上に、厚さが例えば、0.4μmの絶縁層55を介して、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁膜55及び下電極膜60が振動板として作用する。
【0067】
また、このような各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)、白金(Pt)等の貴金属からなる引き出し配線90が接続されている。本実施形態では、引き出し配線90が、圧電素子300の長手方向のインク供給路14とは反対側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上に流路形成基板10の端部近傍までそれぞれ延設されている。そして、このように延設された引き出し配線90の圧電素子300とは反対側の端部近傍は、図示しない外部配線等が接続される端子部91となっている。
【0068】
さらに、圧電素子300の共通電極である下電極膜60は、圧力発生室12の並設方向に亘って連続的に延設され、且つ圧力発生室12のインク供給路14側の端部側でパターニングされている。すなわち、本実施形態では、下電極膜60は、流路形成基板10の引き出し配線90が延設される領域が除去され、その他の領域に亘って設けられている。
【0069】
この流路形成基板10の圧電素子300側には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部32を有する封止基板30が接着剤120を介して接合され、圧電素子300はこの圧電素子保持部32内に密封されている。この封止基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。また、流路形成基板10と封止基板30とを接合する接着剤120は、特に限定されず、例えば、エポキシ系接着剤等を挙げることができる。
【0070】
このような流路形成基板10の封止基板30が接合される接合領域には、圧電素子300の長手方向一端部側に複数の引き出し配線90と、圧電素子300の長手方向他端部側及び圧電素子300の並設方向の両側に例えば、白金(Pt)等の貴金属からなる下電極膜60とが設けられている。そして、引き出し配線90上及び下電極膜60上の少なくとも封止基板30との接合領域には、貴金属以外の材料からなる接合強化膜110が設けられている。詳しくは、接合強化膜110は、図2及び図3(a)に示すように、下電極膜60上の封止基板30との接合領域の全面に亘って形成されていると共に、図2及び図3(b)に示すように、複数の引き出し配線90のそれぞれの上面の接合領域にのみ形成されている。これにより、接合強化膜110に貴金属以外の導電性の材料を用いた場合でも、隣接する引き出し配線90同士を短絡せず、また、引き出し配線90と下電極膜60とを短絡しないようにしている。
【0071】
なお、このような接合強化膜110は、貴金属以外の材料で、接着剤120との接着が引き出し配線90及び下電極膜60を形成する貴金属よりも良好な材料が好ましい。このような接合強化膜110の材料としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物、金属、金属化合物、有機物等の材料を挙げることができ、酸化物としては、酸化シリコン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム等を挙げることができる。なお、このような接合強化膜110の材料として、絶縁性、耐湿度性、接着剤との密着性を有する材料を用いた場合には、隣接する引き出し配線90同士及び引き出し配線90と下電極膜60とが短絡しないため、接合強化膜110を流路形成基板10の封止基板30との接合領域の全面に亘って形成するようにしてもよい。また、このような接合強化膜110の膜厚は、0.1μm程度が好適である。このような膜厚にしたのは、これよりも膜厚が大きくなると接合強化膜110をパターニングするレジスト膜のドライエッチング耐性がない為、エッチング除去されてしまい、この膜厚よりも薄くすると接合強化膜を均一にすることが難しくなるためである。
【0072】
このように、引き出し配線90及び下電極膜60上の少なくとも封止基板30との接合領域に接合強化膜110を設けることで、貴金属からなる引き出し配線90及び下電極膜60に直接、接着剤120を介して封止基板30を接合することなく、接合強化膜110と接着剤120とが確実に接着されるため、流路形成基板10と封止基板30とを接着剤120を介して確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32を確実に密封して、圧電素子保持部32内への外部流体の侵入を防止できる。したがって、圧電素子300の外部環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0073】
なお、引き出し配線90及び下電極膜60には、図示しないボンディングワイヤ等の外部配線が接続されるが、この外部配線と引き出し配線90の端子部91及び下電極膜60の図示しない端子部とは、引き出し配線90の端子部91及び下電極膜60の端子部を接合強化膜110によって覆わずに、端子部91を露出させて貴金属からなる引き出し配線90及び下電極膜60に外部配線を直接接続するのが好ましい。すなわち、接合強化膜110は、外部配線が接続される引き出し配線90の端子部91及び下電極膜60の端子部以外の領域に形成するようにすればよい。これにより、外部配線と引き出し配線90及び下電極膜60とを確実に接続することができる。
【0074】
また、封止基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31が設けられ、このリザーバ部31は、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。さらに、封止基板30には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。また、このリザーバ100の長手方向略中央部外側のコンプライアンス基板40上には、リザーバ100にインクを供給するためのインク導入口44が形成されている。さらに、封止基板30には、インク導入口44とリザーバ100の側壁とを連通するインク導入路36が設けられている。
【0075】
なお、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口44からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0076】
図4、図5は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す流路形成基板の圧力発生室の長手方向の一部を示す断面図である。ここで、図4、図5を参照して、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について説明する。まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10を約1100℃の拡散炉で熱酸化して、各面に二酸化シリコンからなる弾性膜50及びマスクパターン51を形成した後、この弾性膜50上に酸化ジルコニウム等からなる絶縁膜55を形成する。
【0077】
次に、図4(b)に示すように、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とからなる下電極膜60を絶縁膜55の全面にスパッタリングで形成後、所定形状にパターニングする。この下電極膜60の材料としては、少なくとも白金(Pt)とイリジウム(Ir)とからなる。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金とイリジウムとの合金が好適である。
【0078】
次に、図4(c)に示すように、圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0079】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0080】
次に、図4(d)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金、イリジウム等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、イリジウムをスパッタリングにより成膜している。次に、図4(e)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。
【0081】
次に、図5(a)に示すように、引き出し配線90を形成する。例えば、本実施形態では、金(Au)からなる引き出し配線90を流路形成基板10の全面に亘って形成し、その後、圧電素子300毎にパターニングすることによって各引き出し配線90とする。ここで、引き出し配線90のそれぞれは、後の工程で、流路形成基板10に封止基板30を接合した際に、外部配線が接続される端子部91が封止基板30の圧電素子保持部32の外側まで配設されるため、引き出し配線90は、接合領域に配設されている。
【0082】
次に、図5(b)に示すように、引き出し配線90の封止基板30との接合領域に、接合強化膜110を形成する。例えば、貴金属以外の材料からなる接合強化膜形成層210を流路形成基板10の全面に亘って形成し、その後、接合強化膜形成層210をパターニングすることによって、接合強化膜110を封止基板30との接合領域の引き出し配線90上のそれぞれに形成すると共に接合領域の下電極膜60上に亘って形成する。
【0083】
また、接合強化膜110を形成する領域は、少なくとも引き出し配線90上及び下電極膜60上の封止基板30との接合領域に形成されていればよく、図示しない外部配線と接続される引き出し配線90の端子部91及び下電極膜60の端子部以外の部分に形成すればよい。以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、図5(c)に示すように、流路形成基板10上に封止基板30を接合する。本実施形態では、封止基板30を接合強化膜110上に接着剤120を介して接着することで、封止基板30と流路形成基板10とを接着した。
【0084】
このように、流路形成基板10と封止基板30とを接着剤120を介して接着した際に、接着剤120の接着性の悪い引き出し配線90上及び下電極膜60上に接着剤120を直接接着することなく、接着剤120と接着が確実に行われる接合強化膜110に接着剤120を塗布し、この接着剤120を介して封止基板30が接着されるため、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32を確実に密封して圧電素子300の環境に起因する破壊を防止することができる。
【0085】
次に、図5(d)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300が設けられた面とは反対側の面に設けられた二酸化シリコンからなるマスクパターン51を介して流路形成基板10を異方性エッチングすることにより、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14を形成する。その後、図3に示すように、流路形成基板10の封止基板30とは反対側の面にノズル開口が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に封止基板30上にコンプライアンス基板40を接合することで、インクジェット式記録ヘッドを製造することができる。なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することでインクジェット式記録ヘッドとすることができる。
【0086】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの配線構造を示す平面図であり、図7は、図6のC−C′断面図及びそのD−D′断面図である。図示するように、接合強化膜110Aは、流路形成基板10と封止基板30との接合領域の引き出し配線90が設けられた領域に、隣接する引き出し配線90上に亘って連続して設けられ、下電極膜60上及びリザーバ部31の周囲にも連続して設けられている。また、接合強化膜110Aは、封止基板30との接合領域の全面に亘って封止基板30に接合される接合面が流路形成基板10からの高さが同一となるように平坦化されて形成され、この接合強化膜110Aによって、封止基板30が当接する高さを同一として、接合強化膜110Aと封止基板30との間の接着剤120が接合領域に亘って同一の厚さとなるようにしている。また、接合強化膜110Aは、本実施形態では、並設された引き出し配線90上に亘って連続して形成されているため、隣接する引き出し配線90同士が電気的に導通しないように絶縁性の材料で形成されている。
【0087】
なお、このような接合強化膜110Aの製造方法としては、例えば、流路形成基板10上の封止基板30との接合領域に開口の設けられたマスクを介したスパッタリングにより所定形状に形成することができる。また、このような接合強化膜110Aの平坦化は、例えば、ケミカルメカニカルポリッシング(CMP)による表面研磨によって行うことができる。
【0088】
このように絶縁性の材料からなる接合強化膜110Aを、流路形成基板10上の封止基板30との接合領域の全面に亘って形成すると共に、封止基板30との接合面の流路形成基板10からの高さが同一となるように平坦化することで、封止基板30に当接する高さが同一となり、接合強化膜110Aと封止基板30と間の接着剤120の厚さが接合領域に亘って同一となる。これにより、接合強化膜110Aと封止基板30とを確実に接着することができる。したがって、圧電素子保持部32の密封性を向上して圧電素子300の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0089】
また、このような接合強化膜110Aを形成する絶縁性の材料として、接着剤120との接着が引き出し配線90及び下電極膜60を形成する貴金属よりも良好な材料とすることで、さらに、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32の密封性をさらに向上し、圧電素子300の破壊を確実に防止することができる。なお、このような接合強化膜110Aの材料としては、例えば、酸化シリコン、酸化ジルコニウム等を挙げることができる。
【0090】
なお、接合強化膜110Aは、少なくとも複数の引き出し配線90上に亘って形成された領域が絶縁性の材料であれば、全ての接合領域で絶縁性の材料を用いる必要はなく、他の領域、すなわち下電極膜60上の接合強化膜110Aを導電性の材料としてもよい。また、接合強化膜110Aの一部に導電性の材料を用いる場合には、上述した実施形態1の接合強化膜110と同様に、接着剤120との接着が貴金属よりも良好な材料を用いるのが好ましい。このように下電極膜60上の接合強化膜110Aを導電性の材料とすることで、下電極膜60の抵抗値を下げることができ、圧電素子300を同時に駆動しても電圧降下を生じさせずに、圧電素子300の安定した駆動を行うことができる。
【0091】
(実施形態3)
図8は、本発明の実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図及びそのE−E′断面図である。図示するように、本実施形態の流路形成基板10上には、上述した実施形態2と同様の接合強化膜110Aが設けられ、この接合強化膜110A上には、全面に亘って金(Au)又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜111が形成されている。また、封止基板30の流路形成基板10との接合面にも金(Au)又は金を含有する金化合物からなる第2の接合膜112が形成されている。そして、封止基板30と流路形成基板10とは、接合強化膜110A上に設けられた第1の接合膜111と封止基板30の接合面に設けられた第2の接合膜112との共晶接合によって接合されている。
【0092】
ここで、第1及び第2の接合膜111及び112に用いられる金化合物に含有される材料としては、錫(Sn)、珪素(Si)、イリジウム(Ir)又はゲルマニウム(Ge)等を挙げることができる。また、第1の接合膜111と第2の接合膜112との共晶接合は、例えば、第1の接合膜111に第2の接合膜112を所定の圧力で当接させて、熱又は超音波を与えることにより行うことができる。例えば、第1及び第2の接合膜111及び112に錫を含有する金化合物を用いた場合には、両者を所定の圧力で当接させた状態で280〜300℃に加熱すればよく、また、第1及び第2の接合膜111及び112にゲルマニウムを含有する金化合物を用いた場合には、両者を所定の圧力で当接させた状態で350℃以上に加熱すればよい。
【0093】
このような、第1及び第2の接合膜111及び112を用いた共晶接合により流路形成基板10と封止基板30とを接合することで、両者の接合強度を確保することができる。また、両者を接着剤等の有機材料を用いて接合しないため、有機材料が吸湿して圧電素子保持部32内に流体が侵入するということがなく、圧電素子300の外部環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0094】
また、第1の接合膜111を流路形成基板10の封止基板30との接合領域に設けられた接合強化膜110A上に設けることで、第1の接合膜111によって隣接する引き出し配線90同士や引き出し配線90と下電極膜60との短絡を防止することができると共に、平坦化された第1の接合膜111を用いて共晶接合を行うことができる。さらに、第1及び第2の接合膜111及び112は、圧電素子保持部32を密封するため、圧電素子保持部32の周囲に亘って形成されているのが好ましい。
【0095】
(実施形態4)
図9は、実施形態4に係るインクジェット式記録ヘッドの配線構造を示す平面図であり、図10は、図9のF−F′断面図とそのG−G′及びH−H′断面図とである。なお、上述した実施形態1〜3では、流路形成基板10の封止基板30との接合領域に引き出し配線90及び下電極膜60の貴金属からなる配線膜が配設されていたが、流路形成基板10の封止基板30との接合領域に貴金属からなる配線膜が配設されていれば、上述した実施形態1〜3に限定されるものではない。ここで、本実施形態では、配線膜の他の例を示す。
【0096】
図示するように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、流路形成基板10の圧力発生室12の列の外側に対応する領域の下電極膜60上に、引き出し配線90と同一の層からなり且つ引き出し配線90とは電気的に独立した積層電極層95が設けられている。そして、このような圧電素子300の長手方向端部近傍に対向する領域には、絶縁材料からなり圧電素子300の並設方向に沿って延設される層間絶縁層130を有する。例えば、本実施形態では、層間絶縁層130は、圧力発生室12の列の周囲に亘って連続的に設けられており、圧力発生室12の列に対応する領域は開口部131となっている。
【0097】
また、この層間絶縁層130上には、導電材料からなる接続配線層140が連続的に設けられており、この接続配線層140と下電極膜60とは、層間絶縁層130に設けられた複数の貫通孔132を介して電気的に接続されている。ここで、層間絶縁層130に設けられる貫通孔132は、比較的等間隔で配置されていることが好ましく、例えば、本実施形態では、各圧電素子300の引き出し配線90とは反対側の端部近傍に延設されている層間絶縁層130の各隔壁11に対向する領域に、それぞれ貫通孔132を設けるようにした。なお、この貫通孔132の大きさは、特に限定されないが、20μm以下であることが好ましい。
【0098】
また、本実施形態では、圧力発生室12の列の外側に対向する領域、すなわち、下電極膜60上に設けられた積層電極層95に対向する領域にも貫通部133が設けられており、この貫通部133を介しても積層電極層95(下電極膜60)と接続配線層140とが電気的に接続されている。なお、このような接続配線層140は、引き出し配線90と同様に電気的な抵抗の低い材料、例えば、金(Au)、白金(Pt)等の貴金属からなる。また、接続配線層140には、圧電素子保持部32の外側の領域に図示しない外部配線が接続されるようになっている。
【0099】
このように、本実施形態では、圧電素子300の共通電極である下電極膜60に接続配線層140を電気的に接続することにより、下電極膜60の抵抗値を実質的に低下する。また、同様に、下電極膜60上に積層電極層95を設けることによっても、下電極膜60の抵抗値が実質的に低下する。したがって、多数の圧電素子300を同時に駆動しても電圧降下が発生することなく、常に良好で且つ安定したインク吐出特性を得ることができる。また、接続配線層140が圧電素子300の端部に対向する領域に層間絶縁層130を介して設けられているため、接続配線層140を設けるためのスペースを確保する必要がない。したがってヘッドを大型化することなくインク吐出特性を安定させることができる。
【0100】
ここで、流路形成基板10の封止基板30との接合領域の内、圧電素子300の列の外側の接合領域には、下電極膜60、層間絶縁層130、積層電極層95及び接続配線層140が積層され、圧電素子300の長手方向の接合領域には、引き出し配線90、層間絶縁層130及び接続配線層140が積層されている。すなわち、本実施形態では、配線膜として接続配線層140が設けられており、この接続配線層140上の接合領域の全面に亘って、貴金属以外の材料で形成された接合強化膜110Bが設けられている。本実施形態では、接続配線層140上の全面に亘って接合強化膜110Bを設けることで、接合強化膜110Bが接合領域の全面に配設されるようにした。
【0101】
この接合強化膜110Bは、接着剤120との接着が貴金属からなる配線接続層140に比べて良好な貴金属以外の材料であれば、特に限定されず、例えば、上述した実施形態1と同様の材料を挙げることができる。なお、本実施形態では、配線膜である接続配線層140が層間絶縁層130により引き出し配線90と絶縁されているため、接合強化膜110Bを導電性の材料としても、隣接する引き出し配線90同士及び引き出し配線90と下電極膜60とを短絡することがない。
【0102】
このように配線膜である接続配線層140と接合強化膜110Bとが確実に密着すると共に、接合強化膜110Bと接着剤120とが確実に接着されるため、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32の密封性を向上して圧電素子300の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0103】
また、本実施形態では、接合強化膜110Bの封止基板30と接合される接合面は、上述した実施形態2と同様に、流路形成基板10からの高さが同一となるように表面研磨することにより平坦化されている。このように接合強化膜110Bの封止基板30との接合面を平坦化することで、封止基板30と接合強化膜110Bと間の接着剤120を接合領域に亘って厚さが同一とすることができ、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32の密封性をさらに向上して、圧電素子300の外部環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0104】
なお、このような接合強化膜110Bの形成方法としては、例えば、流路形成基板10の全面に接続配線層140となる接続配線形成層と、接合強化膜110Bとなる接合強化膜形成層とを蒸着法又はスパッタリング法により順次積層して形成した後、接続配線形成層と接合強化膜形成層とを同時にエッチングしてパターニングすることで、接続配線層140と接合強化膜110Bとを形成すればよい。このように形成することで、両者の密着性をさらに向上することができ、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接合することができる。これにより、圧電素子保持部32を確実に密封して圧電素子300の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0105】
また、本実施形態では、配線接続層140上に接合強化膜110Bを設け、封止基板30を接合強化膜110B上に接着剤120を介して接着するようにしたが、封止基板30と流路形成基板10との接合方法は、特にこれに限定されない。例えば、上述した実施形態3と同様に、接合面が平坦化された接合強化膜110B上に金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜111を設け、封止基板30の接合面に第2の接合膜112を設け、第1の接合膜111と第2の接合膜112とを共晶接合することによって、流路形成基板10と封止基板30とを接合するようにしてもよい。
【0106】
(実施形態5)
図11は、本発明の実施形態5に係るインクジェット式記録ヘッドの圧力発生室の長手方向の断面図とそのI−I′断面図及びJ−J′断面図とである。なお、上述した実施形態4では、流路形成基板10上に層間絶縁層130及び配線接続層140を設け、この配線接続膜140上に接合強化膜110Bを設けるようにしたが、本実施形態では、層間絶縁層130に代わって接合強化膜110Cを設けると共に、接合強化膜110C上に配線接続層140に代わって第1の接合膜111Aを設けるようにした例である。
【0107】
詳しくは、図11に示すように、絶縁性の材料からなる接合強化膜110Cが、上述した実施形態4の層間絶縁層130と同様に圧力発生室12の列の周囲に亘って連続的に設けられている。また、接合強化膜110C上には、全面に亘って金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜111Aが設けられ、さらに、この第1の接合膜111Aは、積層電極層95上及び下電極膜60上まで延設されている。そして、第1の接合膜111Aを圧電素子300の共通電極である下電極膜60と積層電極層95とを電気的に接続することにより、下電極膜60の抵抗値を実質的に低下し、多数の圧電素子300を同時に駆動しても電圧降下が発生することなく、常に良好で且つ安定したインク吐出特性を得ることができる。
【0108】
一方、封止基板30の接合面には、金又は金を含有する金化合物からなる第2の接合膜112が設けられている。そして、このような封止基板30と流路形成基板10とは、第1の接合膜111Aと第2の接合膜112との共晶接合により接合されている。このように、流路形成基板10と封止基板30とを第1の接合膜111と第2の接合膜112との共晶接合により接合することで、接合強度を確保することができると共に、圧電素子保持部32を確実に密封することができる。また、接合強化膜110Cを層間絶縁層130として用いると共に、流路形成基板10と封止基板30とを共晶接合する際に用いる第1の接合膜111Aによって、電圧降下を防止することができるため、製造工程を簡略化してコストを低減することができると共に、積層を少なくすることで小型化することができる。
【0109】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態1〜5を説明したが、勿論、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1〜5では、引き出し配線90、下電極膜60及び接続配線層140等の配線膜上に直接、接合強化膜110〜110Cを形成するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、貴金属からなる配線膜上に配線膜と接合強化膜との密着性を向上させる密着層を設けるようにしてもよい。このような密着層としては、例えば、チタン、クロム、ニッケル、アルミ、銅、タングステン、ルテニウム等の金属又はこれらの金属化合物を挙げることができる。この密着層を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法又は蒸着法により形成することができる。
【0110】
また、上述した実施形態2では、封止基板30との接合面の流路形成基板10からの高さが同一となるように平坦化された接合強化膜110Aを接合領域の全面に亘って形成するようにしたが、特にこれに限定されず、接合面の平坦化された接合強化膜を接合領域に間欠的に形成するようにしてもよい。このように接合強化膜を接合領域に間欠的に形成する場合、隣接する引き出し配線90同士及び引き出し配線90と下電極膜60とが短絡しない形状であれば、接合強化膜に導電性の材料を用いてもよく、導電性の材料としては、貴金属以外の材料が好ましい。このように接合強化膜を間欠的に設けても、封止基板30との接合面の流路形成基板10からの高さを同一とすることで、流路形成基板10と封止基板30との接合性を向上することができる。
【0111】
また、例えば、上述の実施形態1〜5では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0112】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図12は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図12に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0113】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上に搬送されるようになっている。
【0114】
また、上述の実施形態1〜5では、液体噴射ヘッドとして、印刷媒体に所定の画像や文字を印刷するインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法を一例として説明したが、勿論、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等、他の液体噴射ヘッド及びその製造方法にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの配線構造を示す平面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態2に係る式記録ヘッドの配線構造を示す平面図である。
【図7】実施形態2に係る記録ヘッドの断面図である。
【図8】実施形態3に係る記録ヘッドの断面図である。
【図9】実施形態4に係る記録ヘッドの配線構造を示す平面図である。
【図10】実施形態4に係る記録ヘッドの断面図である。
【図11】実施形態5に係る記録ヘッドの断面図である。
【図12】一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板、12 圧力発生室、20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 封止基板、40 コンプライアンス基板、60 下電極膜、70圧電体層、80 上電極膜、90 引き出し配線、95 積層電極層、100リザーバ、110、110A、110B、110C 接合強化膜、111、111A 第1の接合膜、112 第2の接合膜、120 接着剤、130 層間絶縁層、140 接続配線層、300 圧電素子
【発明の属する技術分野】
本発明は、被噴射液を吐出する液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液体噴射装置としては、例えば、圧電素子や発熱素子によりインク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを供給する共通のリザーバと、各圧力発生室に連通するノズル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置があり、このインクジェット式記録装置では、印字信号に対応するノズル開口と連通した圧力発生室のインクに吐出エネルギを印加してノズル開口からインク滴を吐出させる。
【0003】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0004】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0005】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0006】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成することで高密度配列を実現したものがある。
【0007】
また、圧力発生室が形成される流路形成基板の圧電素子側の一方面には、この圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板が接合されることで、圧電素子の外部環境に起因する破壊が防止されている。この流路形成基板に接合された封止基板の圧電素子保持部を封止する方法としては、封止基板に圧電素子保持部と外部とを連通する封止孔を設け、流路形成基板に封止基板を接合後、封止孔に樹脂等からなる封止部材を充填することで封止孔を密封し圧電素子保持部を密封している(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−160366号公報(第6−7頁、第1−3図)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、流路形成基板の封止基板と接合される接合領域には、例えば、圧電素子の個別電極から引き出された金(Au)等の貴金属からなる引き出し配線などの配線膜が設けられており、この貴金属からなる配線膜は封止基板を接合する際に用いられる接着剤が接着し難く、流路形成基板と封止基板との接着が配線膜の領域で悪くなってしまい、封止基板の圧電素子保持部の密封性が悪くなる。これにより、圧電素子保持部内に外部環境からの流体が侵入し易く、圧電素子の外部環境に起因した破壊が生じてしまうという問題がある。
【0010】
また、流路形成基板の封止基板と接合される接合領域には、引き出し配線等の配線膜が設けられることにより、配線膜及びその他の領域で流路形成基板からの高さが異なり、段差が生じてしまう。この段差によっても、流路形成基板と封止基板との接着が段差の領域で悪くなってしまい、圧電素子保持部の密封性が悪くなる。これにより、圧電素子保持部内に外部環境からの流体が侵入し、圧電素子の外部環境に起因する破壊が生じてしまうという問題がある。なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑み、流路形成基板と封止基板とを確実に接合して圧電素子の外部環境に起因する破壊を防止することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドであって、前記流路形成基板上に、貴金属からなる配線膜が配設されていると共に、前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域の少なくとも前記配線膜上には、貴金属以外の材料からなる接合強化膜が設けられ、該接合強化膜上に前記封止基板が接着されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0013】
かかる第1の態様では、流路形成基板と封止基板とを貴金属以外の材料からなる接合強化膜を介して接着することで、流路形成基板上の配線膜に直接封止基板を接合することなく、両者を確実に接着して圧電素子保持部の密封を確実に行い、圧電素子の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記接合強化膜は、前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように平坦化されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0015】
かかる第2の態様では、接合強化膜を封止基板が当接する接合面の流路形成基板からの高さを揃えることで、封止基板の当接する接合領域の段差を無くして、流路形成基板と封止基板とを確実に接着して、圧電素子保持部の密封性を向上し、圧電素子の外部環境に起因する破壊を確実に防止できる。
【0016】
本発明の第3の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドであって、前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域に、貴金属からなる配線膜が配設されていると共に、前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように平坦化された接合強化膜が設けられ、該接合強化膜上に前記封止基板が接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0017】
かかる第3の態様では、封止基板が当接する接合強化膜の流路形成基板からの高さを揃えることで、封止基板が当接する接合領域の段差を無くして、流路形成基板と封止基板とを確実に接合して、圧電素子保持部の密封性を向上し、圧電素子の外部環境に起因する破壊を確実に防止できる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記封止基板が、前記接合強化膜上に接着剤を介して接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0019】
かかる第4の態様では、封止基板と流路形成基板とを接合強化膜上に接着剤を介して確実に接合することができる。
【0020】
本発明の第5の態様は、第3の態様において、前記接合強化膜上には、金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜が設けられていると共に、前記封止基板の接合面側の面にも前記金又は金化合物からなる第2の接合膜が設けられ、前記流路形成基板と前記封止基板とが前記第1の接合膜と第2の接合膜との共晶接合により接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0021】
かかる第5の態様では、封止基板と流路形成基板とを第1の接合膜と第2の接合膜との共晶接合により確実に接合することができると共に、接着剤等の有機材料を用いずに接合するため、有機材料の吸湿による圧電素子保持部内への流体の侵入を確実に防止することができ、圧電素子の環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0022】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記金化合物が、錫、珪素、イリジウム又はゲルマニウムを含有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0023】
かかる第6の態様では、金化合物に所定の材料を含有させることで、共晶接合時に低温度の加熱で接合強度を確保することができる。
【0024】
本発明の第7の態様は、第5又は6の態様において、前記第1の接合膜が、前記圧電素子の共通電極に電気的に導通することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0025】
かかる第7の態様では、導電性を有する第1の接合膜が共通電極と電気的に導通することで、共通電極の抵抗値を下げて、圧電素子の駆動時の電圧降下を防止することができる。
【0026】
本発明の第8の態様は、第5〜7の何れかの態様において、前記第1及び第2の接合膜が前記圧電素子保持部を囲むように連続して形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0027】
かかる第8の態様では、第1及び第2の接合膜を圧電素子保持部を囲むように形成することで、圧電素子保持部の密封を確実にして圧電素子保持部内に流体が侵入するのを確実に防止することができる。
【0028】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様において、前記接合強化膜が、前記接合領域の全面に亘って形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0029】
かかる第9の態様では、流路形成基板と封止基板とをさらに確実に接合することができる。
【0030】
本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様において、前記接合強化膜が少なくとも前記配線膜の端子部以外の部分に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0031】
かかる第10の態様では、配線膜の端子部に外部配線等の配線を確実に接続することができる。
【0032】
本発明の第11の態様は、第1〜10の何れかの態様において、前記配線膜が、前記圧電素子の個別電極から引き出された引き出し配線を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0033】
かかる第11の態様では、引き出し配線に接合強化膜を介して封止基板を良好に接合できる。
【0034】
本発明の第12の態様は、第1〜10の何れかの態様において、前記配線膜が、前記流路形成基板の前記接合領域に、前記圧電素子の個別電極から引き出された引き出し配線上に層間絶縁膜を介して設けられて前記圧電素子の共通電極に電気的に導通する接続配線層を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0035】
かかる第12の態様では、接続配線層に接合強化膜を介して封止基板を良好に接合できる。
【0036】
本発明の第13の態様は、第1〜12の何れかの態様において、前記接合強化膜が、酸化物、窒化物、炭化物、金属、金属化合物及び有機物からなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0037】
かかる第13の態様では、所定の材料の接合強化膜を用いることにより、配線膜と接合強化膜とを、及び接合強化膜と封止基板とを確実に接合して、流路形成基板と封止基板とを確実に接合することができる。
【0038】
本発明の第14の態様は、第13の態様において、前記酸化物が、酸化シリコン、酸化タンタル及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0039】
かかる第14の態様では、所定の材料の接合膜を用いることにより、配線膜と接合強化膜とを、及び接合強化膜と封止基板とを確実に接合して、流路形成基板と封止基板とを確実に接合することができる。
【0040】
本発明の第15の態様は、第1〜14の何れかの態様において、前記配線膜と前記接合強化膜との間には、両者の密着性を向上する密着層が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0041】
かかる第15の態様では、密着層により接合強化膜と配線膜との密着性をさらに向上して、流路形成基板と封止基板とをより確実に接合することができる。
【0042】
本発明の第16の態様は、第15の態様において、前記密着層が、チタン、クロム、ニッケル、アルミ、銅、タングステン及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0043】
かかる第16の態様では、所定の材料の密着層を用いることにより、接合強化膜と配線膜とを確実に密着することができる。
【0044】
本発明の第17の態様は、第1〜16の何れかの態様において、前記流路形成基板及び前記封止基板がシリコン単結晶基板からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0045】
かかる第17の態様では、流路形成基板と封止基板とを割れ等を発生することなく良好に接合できる。
【0046】
本発明の第18の態様は、第1〜17の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0047】
かかる第18の態様では、液体の吐出特性を安定させ、信頼性を向上した液体噴射装置を実現することができる。
【0048】
本発明の第19の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記流路形成基板上に配設された貴金属からなる配線膜上の少なくとも前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域に、貴金属以外の材料からなる接合強化膜をパターニングする工程と、前記接合強化膜上に前記封止基板を接着する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0049】
かかる第19の態様では、流路形成基板と封止基板とを貴金属以外の材料からなる接合強化膜を介して接着することで、流路形成基板上の配線膜に直接封止基板を接着することなく、両者を確実に接着して圧電素子保持部の密封を確実に行って圧電素子の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0050】
本発明の第20の態様は、第19の態様において、前記接合強化膜を形成する工程の後、前記接合強化膜の前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように平坦化する工程をさらに有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0051】
かかる第20の態様では、封止基板が当接する接合膜の流路形成基板からの高さを揃えることで、流路形成基板の封止基板が接合される接合領域の段差を無くして、流路形成基板と封止基板とを確実に接合して、圧電素子保持部の密封性を向上し、圧電素子の外部環境に起因する破壊を確実に防止できる。
【0052】
本発明の第21の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域に接合強化膜をパターニングする工程と、前記接合強化膜の前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように当該接合強化膜を表面研磨により平坦化する工程と、前記接合強化膜上に前記封止基板を接合する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0053】
かかる第21の態様では、封止基板が当接する接合強化膜の流路形成基板からの高さを揃えることで、流路形成基板の封止基板が接合される接合領域の段差を無くして、流路形成基板と封止基板とを確実に接合して、圧電素子保持部の密封性を向上し、圧電素子の外部環境に起因する破壊を確実に防止できる。
【0054】
本発明の第22の態様は、第21の態様において、前記接合強化膜上に前記封止基板を接合する工程では、接着剤を介して接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0055】
かかる第22の態様では、封止基板と流路形成基板とを接合強化膜上に設けられた接着剤を介して確実に接合することができる。
【0056】
本発明の第23の態様は、第21の態様において、前記接合強化膜上に前記封止基板を接合する工程では、前記接合強化膜上に金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜を形成すると共に、前記封止基板の接合面にも前記金又は金化合物からなる第2の接合膜を形成し、前記流路形成基板と前記封止基板とを前記第1の接合膜と前記第2の接合膜との共晶接合により接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0057】
かかる第23の態様では、封止基板と流路形成基板とを第1の接合膜と第2の接合膜との共晶接合により確実に接合することができると共に、接着剤等の有機材料を用いずに接合するため、有機材料の吸湿による圧電素子保持部内への流体の侵入を確実に防止することができ、圧電素子の環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0058】
本発明の第24の態様は、第19〜23の何れかの態様において、前記流路形成基板上に前記配線膜となる配線膜形成層と、前記接合強化膜となる接合強化膜形成層とを順次積層し、前記配線膜形成層及び前記接合強化膜形成層を同時にパターニングすることにより前記配線膜と前記接合強化膜とを形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0059】
かかる第24の態様では、配線膜と接合強化膜とを順次積層形成することで、配線膜と接合強化膜との密着性を向上すると共に、配線膜及び接合強化膜を高精度に形成することができる。
【0060】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの配線構造を示す平面図であり、図3は、図2のA−A′断面図及びそのB−B′断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その両面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50、及び後述する圧力発生室を形成する際にマスクとして用いられるマスクパターン51が設けられている。この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が幅方向に並設され、その長手方向外側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成され、この連通部13は各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0061】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0062】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また、各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14の断面積は、圧力発生室12のそれより小さく形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0063】
なお、このような圧力発生室12等が形成される流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配設する密度に合わせて最適な厚さを選択することが好ましい。例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、180〜280μm程度、より望ましくは、220μm程度とするのが好適である。また、例えば、360dpi程度と比較的高密度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、100μm以下とするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0064】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.05〜1mmのガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板10を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。
【0065】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0066】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、厚さが例えば、約1.0μmの弾性膜50の上に、厚さが例えば、0.4μmの絶縁層55を介して、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁膜55及び下電極膜60が振動板として作用する。
【0067】
また、このような各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)、白金(Pt)等の貴金属からなる引き出し配線90が接続されている。本実施形態では、引き出し配線90が、圧電素子300の長手方向のインク供給路14とは反対側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上に流路形成基板10の端部近傍までそれぞれ延設されている。そして、このように延設された引き出し配線90の圧電素子300とは反対側の端部近傍は、図示しない外部配線等が接続される端子部91となっている。
【0068】
さらに、圧電素子300の共通電極である下電極膜60は、圧力発生室12の並設方向に亘って連続的に延設され、且つ圧力発生室12のインク供給路14側の端部側でパターニングされている。すなわち、本実施形態では、下電極膜60は、流路形成基板10の引き出し配線90が延設される領域が除去され、その他の領域に亘って設けられている。
【0069】
この流路形成基板10の圧電素子300側には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部32を有する封止基板30が接着剤120を介して接合され、圧電素子300はこの圧電素子保持部32内に密封されている。この封止基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。また、流路形成基板10と封止基板30とを接合する接着剤120は、特に限定されず、例えば、エポキシ系接着剤等を挙げることができる。
【0070】
このような流路形成基板10の封止基板30が接合される接合領域には、圧電素子300の長手方向一端部側に複数の引き出し配線90と、圧電素子300の長手方向他端部側及び圧電素子300の並設方向の両側に例えば、白金(Pt)等の貴金属からなる下電極膜60とが設けられている。そして、引き出し配線90上及び下電極膜60上の少なくとも封止基板30との接合領域には、貴金属以外の材料からなる接合強化膜110が設けられている。詳しくは、接合強化膜110は、図2及び図3(a)に示すように、下電極膜60上の封止基板30との接合領域の全面に亘って形成されていると共に、図2及び図3(b)に示すように、複数の引き出し配線90のそれぞれの上面の接合領域にのみ形成されている。これにより、接合強化膜110に貴金属以外の導電性の材料を用いた場合でも、隣接する引き出し配線90同士を短絡せず、また、引き出し配線90と下電極膜60とを短絡しないようにしている。
【0071】
なお、このような接合強化膜110は、貴金属以外の材料で、接着剤120との接着が引き出し配線90及び下電極膜60を形成する貴金属よりも良好な材料が好ましい。このような接合強化膜110の材料としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物、金属、金属化合物、有機物等の材料を挙げることができ、酸化物としては、酸化シリコン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム等を挙げることができる。なお、このような接合強化膜110の材料として、絶縁性、耐湿度性、接着剤との密着性を有する材料を用いた場合には、隣接する引き出し配線90同士及び引き出し配線90と下電極膜60とが短絡しないため、接合強化膜110を流路形成基板10の封止基板30との接合領域の全面に亘って形成するようにしてもよい。また、このような接合強化膜110の膜厚は、0.1μm程度が好適である。このような膜厚にしたのは、これよりも膜厚が大きくなると接合強化膜110をパターニングするレジスト膜のドライエッチング耐性がない為、エッチング除去されてしまい、この膜厚よりも薄くすると接合強化膜を均一にすることが難しくなるためである。
【0072】
このように、引き出し配線90及び下電極膜60上の少なくとも封止基板30との接合領域に接合強化膜110を設けることで、貴金属からなる引き出し配線90及び下電極膜60に直接、接着剤120を介して封止基板30を接合することなく、接合強化膜110と接着剤120とが確実に接着されるため、流路形成基板10と封止基板30とを接着剤120を介して確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32を確実に密封して、圧電素子保持部32内への外部流体の侵入を防止できる。したがって、圧電素子300の外部環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0073】
なお、引き出し配線90及び下電極膜60には、図示しないボンディングワイヤ等の外部配線が接続されるが、この外部配線と引き出し配線90の端子部91及び下電極膜60の図示しない端子部とは、引き出し配線90の端子部91及び下電極膜60の端子部を接合強化膜110によって覆わずに、端子部91を露出させて貴金属からなる引き出し配線90及び下電極膜60に外部配線を直接接続するのが好ましい。すなわち、接合強化膜110は、外部配線が接続される引き出し配線90の端子部91及び下電極膜60の端子部以外の領域に形成するようにすればよい。これにより、外部配線と引き出し配線90及び下電極膜60とを確実に接続することができる。
【0074】
また、封止基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31が設けられ、このリザーバ部31は、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。さらに、封止基板30には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。また、このリザーバ100の長手方向略中央部外側のコンプライアンス基板40上には、リザーバ100にインクを供給するためのインク導入口44が形成されている。さらに、封止基板30には、インク導入口44とリザーバ100の側壁とを連通するインク導入路36が設けられている。
【0075】
なお、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口44からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0076】
図4、図5は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す流路形成基板の圧力発生室の長手方向の一部を示す断面図である。ここで、図4、図5を参照して、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について説明する。まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10を約1100℃の拡散炉で熱酸化して、各面に二酸化シリコンからなる弾性膜50及びマスクパターン51を形成した後、この弾性膜50上に酸化ジルコニウム等からなる絶縁膜55を形成する。
【0077】
次に、図4(b)に示すように、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とからなる下電極膜60を絶縁膜55の全面にスパッタリングで形成後、所定形状にパターニングする。この下電極膜60の材料としては、少なくとも白金(Pt)とイリジウム(Ir)とからなる。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金とイリジウムとの合金が好適である。
【0078】
次に、図4(c)に示すように、圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0079】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0080】
次に、図4(d)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金、イリジウム等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、イリジウムをスパッタリングにより成膜している。次に、図4(e)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。
【0081】
次に、図5(a)に示すように、引き出し配線90を形成する。例えば、本実施形態では、金(Au)からなる引き出し配線90を流路形成基板10の全面に亘って形成し、その後、圧電素子300毎にパターニングすることによって各引き出し配線90とする。ここで、引き出し配線90のそれぞれは、後の工程で、流路形成基板10に封止基板30を接合した際に、外部配線が接続される端子部91が封止基板30の圧電素子保持部32の外側まで配設されるため、引き出し配線90は、接合領域に配設されている。
【0082】
次に、図5(b)に示すように、引き出し配線90の封止基板30との接合領域に、接合強化膜110を形成する。例えば、貴金属以外の材料からなる接合強化膜形成層210を流路形成基板10の全面に亘って形成し、その後、接合強化膜形成層210をパターニングすることによって、接合強化膜110を封止基板30との接合領域の引き出し配線90上のそれぞれに形成すると共に接合領域の下電極膜60上に亘って形成する。
【0083】
また、接合強化膜110を形成する領域は、少なくとも引き出し配線90上及び下電極膜60上の封止基板30との接合領域に形成されていればよく、図示しない外部配線と接続される引き出し配線90の端子部91及び下電極膜60の端子部以外の部分に形成すればよい。以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、図5(c)に示すように、流路形成基板10上に封止基板30を接合する。本実施形態では、封止基板30を接合強化膜110上に接着剤120を介して接着することで、封止基板30と流路形成基板10とを接着した。
【0084】
このように、流路形成基板10と封止基板30とを接着剤120を介して接着した際に、接着剤120の接着性の悪い引き出し配線90上及び下電極膜60上に接着剤120を直接接着することなく、接着剤120と接着が確実に行われる接合強化膜110に接着剤120を塗布し、この接着剤120を介して封止基板30が接着されるため、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32を確実に密封して圧電素子300の環境に起因する破壊を防止することができる。
【0085】
次に、図5(d)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300が設けられた面とは反対側の面に設けられた二酸化シリコンからなるマスクパターン51を介して流路形成基板10を異方性エッチングすることにより、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14を形成する。その後、図3に示すように、流路形成基板10の封止基板30とは反対側の面にノズル開口が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に封止基板30上にコンプライアンス基板40を接合することで、インクジェット式記録ヘッドを製造することができる。なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することでインクジェット式記録ヘッドとすることができる。
【0086】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの配線構造を示す平面図であり、図7は、図6のC−C′断面図及びそのD−D′断面図である。図示するように、接合強化膜110Aは、流路形成基板10と封止基板30との接合領域の引き出し配線90が設けられた領域に、隣接する引き出し配線90上に亘って連続して設けられ、下電極膜60上及びリザーバ部31の周囲にも連続して設けられている。また、接合強化膜110Aは、封止基板30との接合領域の全面に亘って封止基板30に接合される接合面が流路形成基板10からの高さが同一となるように平坦化されて形成され、この接合強化膜110Aによって、封止基板30が当接する高さを同一として、接合強化膜110Aと封止基板30との間の接着剤120が接合領域に亘って同一の厚さとなるようにしている。また、接合強化膜110Aは、本実施形態では、並設された引き出し配線90上に亘って連続して形成されているため、隣接する引き出し配線90同士が電気的に導通しないように絶縁性の材料で形成されている。
【0087】
なお、このような接合強化膜110Aの製造方法としては、例えば、流路形成基板10上の封止基板30との接合領域に開口の設けられたマスクを介したスパッタリングにより所定形状に形成することができる。また、このような接合強化膜110Aの平坦化は、例えば、ケミカルメカニカルポリッシング(CMP)による表面研磨によって行うことができる。
【0088】
このように絶縁性の材料からなる接合強化膜110Aを、流路形成基板10上の封止基板30との接合領域の全面に亘って形成すると共に、封止基板30との接合面の流路形成基板10からの高さが同一となるように平坦化することで、封止基板30に当接する高さが同一となり、接合強化膜110Aと封止基板30と間の接着剤120の厚さが接合領域に亘って同一となる。これにより、接合強化膜110Aと封止基板30とを確実に接着することができる。したがって、圧電素子保持部32の密封性を向上して圧電素子300の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0089】
また、このような接合強化膜110Aを形成する絶縁性の材料として、接着剤120との接着が引き出し配線90及び下電極膜60を形成する貴金属よりも良好な材料とすることで、さらに、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32の密封性をさらに向上し、圧電素子300の破壊を確実に防止することができる。なお、このような接合強化膜110Aの材料としては、例えば、酸化シリコン、酸化ジルコニウム等を挙げることができる。
【0090】
なお、接合強化膜110Aは、少なくとも複数の引き出し配線90上に亘って形成された領域が絶縁性の材料であれば、全ての接合領域で絶縁性の材料を用いる必要はなく、他の領域、すなわち下電極膜60上の接合強化膜110Aを導電性の材料としてもよい。また、接合強化膜110Aの一部に導電性の材料を用いる場合には、上述した実施形態1の接合強化膜110と同様に、接着剤120との接着が貴金属よりも良好な材料を用いるのが好ましい。このように下電極膜60上の接合強化膜110Aを導電性の材料とすることで、下電極膜60の抵抗値を下げることができ、圧電素子300を同時に駆動しても電圧降下を生じさせずに、圧電素子300の安定した駆動を行うことができる。
【0091】
(実施形態3)
図8は、本発明の実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図及びそのE−E′断面図である。図示するように、本実施形態の流路形成基板10上には、上述した実施形態2と同様の接合強化膜110Aが設けられ、この接合強化膜110A上には、全面に亘って金(Au)又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜111が形成されている。また、封止基板30の流路形成基板10との接合面にも金(Au)又は金を含有する金化合物からなる第2の接合膜112が形成されている。そして、封止基板30と流路形成基板10とは、接合強化膜110A上に設けられた第1の接合膜111と封止基板30の接合面に設けられた第2の接合膜112との共晶接合によって接合されている。
【0092】
ここで、第1及び第2の接合膜111及び112に用いられる金化合物に含有される材料としては、錫(Sn)、珪素(Si)、イリジウム(Ir)又はゲルマニウム(Ge)等を挙げることができる。また、第1の接合膜111と第2の接合膜112との共晶接合は、例えば、第1の接合膜111に第2の接合膜112を所定の圧力で当接させて、熱又は超音波を与えることにより行うことができる。例えば、第1及び第2の接合膜111及び112に錫を含有する金化合物を用いた場合には、両者を所定の圧力で当接させた状態で280〜300℃に加熱すればよく、また、第1及び第2の接合膜111及び112にゲルマニウムを含有する金化合物を用いた場合には、両者を所定の圧力で当接させた状態で350℃以上に加熱すればよい。
【0093】
このような、第1及び第2の接合膜111及び112を用いた共晶接合により流路形成基板10と封止基板30とを接合することで、両者の接合強度を確保することができる。また、両者を接着剤等の有機材料を用いて接合しないため、有機材料が吸湿して圧電素子保持部32内に流体が侵入するということがなく、圧電素子300の外部環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0094】
また、第1の接合膜111を流路形成基板10の封止基板30との接合領域に設けられた接合強化膜110A上に設けることで、第1の接合膜111によって隣接する引き出し配線90同士や引き出し配線90と下電極膜60との短絡を防止することができると共に、平坦化された第1の接合膜111を用いて共晶接合を行うことができる。さらに、第1及び第2の接合膜111及び112は、圧電素子保持部32を密封するため、圧電素子保持部32の周囲に亘って形成されているのが好ましい。
【0095】
(実施形態4)
図9は、実施形態4に係るインクジェット式記録ヘッドの配線構造を示す平面図であり、図10は、図9のF−F′断面図とそのG−G′及びH−H′断面図とである。なお、上述した実施形態1〜3では、流路形成基板10の封止基板30との接合領域に引き出し配線90及び下電極膜60の貴金属からなる配線膜が配設されていたが、流路形成基板10の封止基板30との接合領域に貴金属からなる配線膜が配設されていれば、上述した実施形態1〜3に限定されるものではない。ここで、本実施形態では、配線膜の他の例を示す。
【0096】
図示するように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、流路形成基板10の圧力発生室12の列の外側に対応する領域の下電極膜60上に、引き出し配線90と同一の層からなり且つ引き出し配線90とは電気的に独立した積層電極層95が設けられている。そして、このような圧電素子300の長手方向端部近傍に対向する領域には、絶縁材料からなり圧電素子300の並設方向に沿って延設される層間絶縁層130を有する。例えば、本実施形態では、層間絶縁層130は、圧力発生室12の列の周囲に亘って連続的に設けられており、圧力発生室12の列に対応する領域は開口部131となっている。
【0097】
また、この層間絶縁層130上には、導電材料からなる接続配線層140が連続的に設けられており、この接続配線層140と下電極膜60とは、層間絶縁層130に設けられた複数の貫通孔132を介して電気的に接続されている。ここで、層間絶縁層130に設けられる貫通孔132は、比較的等間隔で配置されていることが好ましく、例えば、本実施形態では、各圧電素子300の引き出し配線90とは反対側の端部近傍に延設されている層間絶縁層130の各隔壁11に対向する領域に、それぞれ貫通孔132を設けるようにした。なお、この貫通孔132の大きさは、特に限定されないが、20μm以下であることが好ましい。
【0098】
また、本実施形態では、圧力発生室12の列の外側に対向する領域、すなわち、下電極膜60上に設けられた積層電極層95に対向する領域にも貫通部133が設けられており、この貫通部133を介しても積層電極層95(下電極膜60)と接続配線層140とが電気的に接続されている。なお、このような接続配線層140は、引き出し配線90と同様に電気的な抵抗の低い材料、例えば、金(Au)、白金(Pt)等の貴金属からなる。また、接続配線層140には、圧電素子保持部32の外側の領域に図示しない外部配線が接続されるようになっている。
【0099】
このように、本実施形態では、圧電素子300の共通電極である下電極膜60に接続配線層140を電気的に接続することにより、下電極膜60の抵抗値を実質的に低下する。また、同様に、下電極膜60上に積層電極層95を設けることによっても、下電極膜60の抵抗値が実質的に低下する。したがって、多数の圧電素子300を同時に駆動しても電圧降下が発生することなく、常に良好で且つ安定したインク吐出特性を得ることができる。また、接続配線層140が圧電素子300の端部に対向する領域に層間絶縁層130を介して設けられているため、接続配線層140を設けるためのスペースを確保する必要がない。したがってヘッドを大型化することなくインク吐出特性を安定させることができる。
【0100】
ここで、流路形成基板10の封止基板30との接合領域の内、圧電素子300の列の外側の接合領域には、下電極膜60、層間絶縁層130、積層電極層95及び接続配線層140が積層され、圧電素子300の長手方向の接合領域には、引き出し配線90、層間絶縁層130及び接続配線層140が積層されている。すなわち、本実施形態では、配線膜として接続配線層140が設けられており、この接続配線層140上の接合領域の全面に亘って、貴金属以外の材料で形成された接合強化膜110Bが設けられている。本実施形態では、接続配線層140上の全面に亘って接合強化膜110Bを設けることで、接合強化膜110Bが接合領域の全面に配設されるようにした。
【0101】
この接合強化膜110Bは、接着剤120との接着が貴金属からなる配線接続層140に比べて良好な貴金属以外の材料であれば、特に限定されず、例えば、上述した実施形態1と同様の材料を挙げることができる。なお、本実施形態では、配線膜である接続配線層140が層間絶縁層130により引き出し配線90と絶縁されているため、接合強化膜110Bを導電性の材料としても、隣接する引き出し配線90同士及び引き出し配線90と下電極膜60とを短絡することがない。
【0102】
このように配線膜である接続配線層140と接合強化膜110Bとが確実に密着すると共に、接合強化膜110Bと接着剤120とが確実に接着されるため、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32の密封性を向上して圧電素子300の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0103】
また、本実施形態では、接合強化膜110Bの封止基板30と接合される接合面は、上述した実施形態2と同様に、流路形成基板10からの高さが同一となるように表面研磨することにより平坦化されている。このように接合強化膜110Bの封止基板30との接合面を平坦化することで、封止基板30と接合強化膜110Bと間の接着剤120を接合領域に亘って厚さが同一とすることができ、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接着することができる。これにより、圧電素子保持部32の密封性をさらに向上して、圧電素子300の外部環境に起因する破壊を確実に防止することができる。
【0104】
なお、このような接合強化膜110Bの形成方法としては、例えば、流路形成基板10の全面に接続配線層140となる接続配線形成層と、接合強化膜110Bとなる接合強化膜形成層とを蒸着法又はスパッタリング法により順次積層して形成した後、接続配線形成層と接合強化膜形成層とを同時にエッチングしてパターニングすることで、接続配線層140と接合強化膜110Bとを形成すればよい。このように形成することで、両者の密着性をさらに向上することができ、流路形成基板10と封止基板30とを確実に接合することができる。これにより、圧電素子保持部32を確実に密封して圧電素子300の外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0105】
また、本実施形態では、配線接続層140上に接合強化膜110Bを設け、封止基板30を接合強化膜110B上に接着剤120を介して接着するようにしたが、封止基板30と流路形成基板10との接合方法は、特にこれに限定されない。例えば、上述した実施形態3と同様に、接合面が平坦化された接合強化膜110B上に金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜111を設け、封止基板30の接合面に第2の接合膜112を設け、第1の接合膜111と第2の接合膜112とを共晶接合することによって、流路形成基板10と封止基板30とを接合するようにしてもよい。
【0106】
(実施形態5)
図11は、本発明の実施形態5に係るインクジェット式記録ヘッドの圧力発生室の長手方向の断面図とそのI−I′断面図及びJ−J′断面図とである。なお、上述した実施形態4では、流路形成基板10上に層間絶縁層130及び配線接続層140を設け、この配線接続膜140上に接合強化膜110Bを設けるようにしたが、本実施形態では、層間絶縁層130に代わって接合強化膜110Cを設けると共に、接合強化膜110C上に配線接続層140に代わって第1の接合膜111Aを設けるようにした例である。
【0107】
詳しくは、図11に示すように、絶縁性の材料からなる接合強化膜110Cが、上述した実施形態4の層間絶縁層130と同様に圧力発生室12の列の周囲に亘って連続的に設けられている。また、接合強化膜110C上には、全面に亘って金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜111Aが設けられ、さらに、この第1の接合膜111Aは、積層電極層95上及び下電極膜60上まで延設されている。そして、第1の接合膜111Aを圧電素子300の共通電極である下電極膜60と積層電極層95とを電気的に接続することにより、下電極膜60の抵抗値を実質的に低下し、多数の圧電素子300を同時に駆動しても電圧降下が発生することなく、常に良好で且つ安定したインク吐出特性を得ることができる。
【0108】
一方、封止基板30の接合面には、金又は金を含有する金化合物からなる第2の接合膜112が設けられている。そして、このような封止基板30と流路形成基板10とは、第1の接合膜111Aと第2の接合膜112との共晶接合により接合されている。このように、流路形成基板10と封止基板30とを第1の接合膜111と第2の接合膜112との共晶接合により接合することで、接合強度を確保することができると共に、圧電素子保持部32を確実に密封することができる。また、接合強化膜110Cを層間絶縁層130として用いると共に、流路形成基板10と封止基板30とを共晶接合する際に用いる第1の接合膜111Aによって、電圧降下を防止することができるため、製造工程を簡略化してコストを低減することができると共に、積層を少なくすることで小型化することができる。
【0109】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態1〜5を説明したが、勿論、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1〜5では、引き出し配線90、下電極膜60及び接続配線層140等の配線膜上に直接、接合強化膜110〜110Cを形成するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、貴金属からなる配線膜上に配線膜と接合強化膜との密着性を向上させる密着層を設けるようにしてもよい。このような密着層としては、例えば、チタン、クロム、ニッケル、アルミ、銅、タングステン、ルテニウム等の金属又はこれらの金属化合物を挙げることができる。この密着層を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法又は蒸着法により形成することができる。
【0110】
また、上述した実施形態2では、封止基板30との接合面の流路形成基板10からの高さが同一となるように平坦化された接合強化膜110Aを接合領域の全面に亘って形成するようにしたが、特にこれに限定されず、接合面の平坦化された接合強化膜を接合領域に間欠的に形成するようにしてもよい。このように接合強化膜を接合領域に間欠的に形成する場合、隣接する引き出し配線90同士及び引き出し配線90と下電極膜60とが短絡しない形状であれば、接合強化膜に導電性の材料を用いてもよく、導電性の材料としては、貴金属以外の材料が好ましい。このように接合強化膜を間欠的に設けても、封止基板30との接合面の流路形成基板10からの高さを同一とすることで、流路形成基板10と封止基板30との接合性を向上することができる。
【0111】
また、例えば、上述の実施形態1〜5では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0112】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図12は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図12に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0113】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上に搬送されるようになっている。
【0114】
また、上述の実施形態1〜5では、液体噴射ヘッドとして、印刷媒体に所定の画像や文字を印刷するインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法を一例として説明したが、勿論、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等、他の液体噴射ヘッド及びその製造方法にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの配線構造を示す平面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態2に係る式記録ヘッドの配線構造を示す平面図である。
【図7】実施形態2に係る記録ヘッドの断面図である。
【図8】実施形態3に係る記録ヘッドの断面図である。
【図9】実施形態4に係る記録ヘッドの配線構造を示す平面図である。
【図10】実施形態4に係る記録ヘッドの断面図である。
【図11】実施形態5に係る記録ヘッドの断面図である。
【図12】一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板、12 圧力発生室、20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 封止基板、40 コンプライアンス基板、60 下電極膜、70圧電体層、80 上電極膜、90 引き出し配線、95 積層電極層、100リザーバ、110、110A、110B、110C 接合強化膜、111、111A 第1の接合膜、112 第2の接合膜、120 接着剤、130 層間絶縁層、140 接続配線層、300 圧電素子
Claims (24)
- ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドであって、
前記流路形成基板上に、貴金属からなる配線膜が配設されていると共に、前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域の少なくとも前記配線膜上には、貴金属以外の材料からなる接合強化膜が設けられ、該接合強化膜上に前記封止基板が接着されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。 - 請求項1において、前記接合強化膜は、前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように平坦化されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドであって、
前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域に、貴金属からなる配線膜が配設されていると共に、前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように平坦化された接合強化膜が設けられ、該接合強化膜上に前記封止基板が接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。 - 請求項3において、前記封止基板が、前記接合強化膜上に接着剤を介して接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項3において、前記接合強化膜上には、金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜が設けられていると共に、前記封止基板の接合面側の面にも前記金又は金化合物からなる第2の接合膜が設けられ、前記流路形成基板と前記封止基板とが前記第1の接合膜と第2の接合膜との共晶接合により接合されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項5において、前記金化合物が、錫、珪素、イリジウム又はゲルマニウムを含有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項5又は6において、前記第1の接合膜が、前記圧電素子の共通電極に電気的に導通することを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項5〜7の何れかにおいて、前記第1及び第2の接合膜が前記圧電素子保持部を囲むように連続して形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜8の何れかにおいて、前記接合強化膜が、前記接合領域の全面に亘って形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜9の何れかにおいて、前記接合強化膜が少なくとも前記配線膜の端子部以外の部分に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜10の何れかにおいて、前記配線膜が、前記圧電素子の個別電極から引き出された引き出し配線を含むことを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜10の何れかにおいて、前記配線膜が、前記流路形成基板の前記接合領域に、前記圧電素子の個別電極から引き出された引き出し配線上に層間絶縁膜を介して設けられて前記圧電素子の共通電極に電気的に導通する接続配線層を含むことを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜12の何れかにおいて、前記接合強化膜が、酸化物、窒化物、炭化物、金属、金属化合物及び有機物からなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項13において、前記酸化物が、酸化シリコン、酸化タンタル及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜14の何れかにおいて、前記配線膜と前記接合強化膜との間には、両者の密着性を向上する密着層が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項15において、前記密着層が、チタン、クロム、ニッケル、アルミ、銅、タングステン及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜16の何れかにおいて、前記流路形成基板及び前記封止基板がシリコン単結晶基板からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜17の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
- ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記流路形成基板上に配設された貴金属からなる配線膜上の少なくとも前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域に、貴金属以外の材料からなる接合強化膜をパターニングする工程と、前記接合強化膜上に前記封止基板を接着する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。 - 請求項19において、前記接合強化膜を形成する工程の後、前記接合強化膜の前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように平坦化する工程をさらに有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- ノズル開口に連通する圧力発生室が複数の隔壁により画成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合されて当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記流路形成基板の前記封止基板との接合領域に接合強化膜をパターニングする工程と、前記接合強化膜の前記封止基板との接合面の前記流路形成基板からの高さが同一となるように当該接合強化膜を表面研磨により平坦化する工程と、前記接合強化膜上に前記封止基板を接合する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。 - 請求項21において、前記接合強化膜上に前記封止基板を接合する工程では、接着剤を介して接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項21において、前記接合強化膜上に前記封止基板を接合する工程では、前記接合強化膜上に金又は金を含有する金化合物からなる第1の接合膜を形成すると共に、前記封止基板の接合面にも前記金又は金化合物からなる第2の接合膜を形成し、前記流路形成基板と前記封止基板とを前記第1の接合膜と前記第2の接合膜との共晶接合により接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項19〜23の何れかにおいて、前記流路形成基板上に前記配線膜となる配線膜形成層と、前記接合強化膜となる接合強化膜形成層とを順次積層し、前記配線膜形成層及び前記接合強化膜形成層を同時にパターニングすることにより前記配線膜と前記接合強化膜とを形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
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