JP2004209513A - 亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法 - Google Patents
亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】建築、自動車などの溶接構造部材に使用される亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する際に溶接熱影響部において発生しやすい液体金属脆化割れを抑制したアーク溶接用亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】亜鉛系合金めっき層を鋼板表面に設けた亜鉛系合金めっき鋼板1のアーク溶接方法において、予めビードオンプレート溶接により仮溶接ビード7を形成した後、本溶接を行なって本溶接ビード3を形成する際に、前記仮溶接ビード7と前記本溶接ビード3が重なり、かつ前記ビードオンプレート溶接の狙い位置から前記本溶接の狙い位置までの距離Lと、本溶接時の入熱量PがL≧0.5×P+7.5を満足するように溶接する亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
【選択図】 図2
【解決手段】亜鉛系合金めっき層を鋼板表面に設けた亜鉛系合金めっき鋼板1のアーク溶接方法において、予めビードオンプレート溶接により仮溶接ビード7を形成した後、本溶接を行なって本溶接ビード3を形成する際に、前記仮溶接ビード7と前記本溶接ビード3が重なり、かつ前記ビードオンプレート溶接の狙い位置から前記本溶接の狙い位置までの距離Lと、本溶接時の入熱量PがL≧0.5×P+7.5を満足するように溶接する亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に、建築、自動車などの溶接構造部材に使用される亜鉛系合金めっき鋼板に関し、特に、このような亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する際に溶接熱影響部における液体金属脆化割れ(以下、亜鉛めっき割れということもある)を抑制できる亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Znめっき鋼板は、建築や自動車の構造部材の耐食性向上の観点から幅広く用いられている。また最近では、更なる耐食性向上のために鋼板表面にZn−Al−Mg系合金めっき、Zn−Al−Mg−Si系合金めっきなどの亜鉛系合金めっきを施した亜鉛系合金めっき鋼板が特許文献1および特許文献2で知られている。そして、これら亜鉛系合金めっき鋼板は、アーク溶接方法によって溶接が施された溶接構造物として使用される場合が多い。
【0003】
しかし、これら亜鉛系合金めっきを施した鋼板をアーク溶接する際に、鋼板の溶接熱影響部(以下、溶接HAZ部という。)は、溶接入熱により溶融された亜鉛系合金めっきが鋼板表面に溶融状態のまま残留しやすく、かつ、鋼板組織は結晶粒が成長、粗大化した組織となりやすい。このような状態で鋼板に引張応力が働いた場合には、鋼板の溶接HAZ部組織によっては、溶融めっきが鋼板表面の結晶粒界に侵入して粒界が脆化した領域、つまり脆化域が形成され、割れが発生する。特に被溶接部材が著しく拘束された状態での溶接時に溶接HAZ部の脆化域で割れが発生することが多い。
【0004】
また、従来から、溶接を用いて作製した溶接継ぎ手を高温の溶融亜鉛合金めっき浴でめっきする際にも、溶接による溶接止端部近傍の残留引張応力やめっき時に発生する歪みなどが引張応力として作用し同様な割れが発生することが知られている。このように、高温状態の或る種の液体金属と或る種の固体金属が接触した状態で、固体金属にある大きさの引張応力が作用する場合に、固体金属に脆化域が形成され、割れが発生する現象を液体金属脆化割れ:LME(Liquid MetalEmbrittlement)と称され、例えば、非特許文献1で知られている。
【0005】
従来、溶接継ぎ手の溶融めっき時の液体金属脆化割れ(LME)を抑制するために鋼板の成分による組織制御が試みられており、JISでは(例えば、鋼管用はJIS G 3474−1995、また、鋼板用はJIS G 3219−1995)ではLME炭素当量式が規格化されている。
【0006】
また、特許文献3では、Zn−Al合金めっきが施される鋼板に対して鋼材の各成分を限定するとともに、特にBに対しては0.0002%以下の厳しい制約を設けている。
【0007】
しかし、上記LME炭素当量式は、溶接継ぎ手を高温で溶融めっき処理する際の液体金属脆化割れ(LME)を対象とし、その割れが発生する温度域は溶融亜鉛めっきの場合はそのめっき浴の温度:450℃(亜鉛の融点)程度と比較的低温であるのに対して、亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接の場合は、ビーク温度が1500℃と高く、割れの発生は鋼板の溶融温度から室温までの広い温度域で発生する。したがって、従来のNTB試験およびその結果に基づくLME炭素当量式を亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接時に適用しても、液体金属脆化割れ(LME)を充分に抑制することは困難であった。
【0008】
一方、プレス成形性の要求される極低炭素鋼のIF(Interstitial Free)鋼板のろう付けにおけるはんだ脆性として上記液体金属脆化割れの発生が知られており、その対策として、例えば、特許文献4では、IF鋼のCを0.0005〜0.03%と低くし、Tiを0.01〜0.2%添加してNを固定するとともに、Bを0.0002〜0.003%添加して結晶粒界にBを偏析させることにより溶融金属の粒界への進入を防ぎ、割れ発生を抑制している。
【0009】
しかし、この方法は、極低炭素鋼のIF鋼板を、ビーク温度が鋼板の融点より低い温度域でろう付けする場合の900〜1000℃程度で発生する割れを対象とするものであり、IF鋼よりもC含有量が高く、焼き入れ性が高い鋼の亜鉛系合金めっき鋼板を対象とし、ビーク温度が鋼板の融点より高い温度域でアーク溶接を行う場合の1500℃〜室温までの広い温度域で発生する割れを充分抑制することは困難である。
【0010】
従来、自動車用として多く用いられてきた亜鉛系合金めっき鋼板は、成形性を考慮しCや合金元素などの少ない引っ張り強度が低い鋼に限られてきたが、近年、自動車の軽量化及び燃費向上、ひいては地球環境への考慮から高強度の亜鉛系合金めっき鋼板の産業上の意義が大きくなってきた。亜鉛系合金めっき鋼板の高強度化により、その溶接時に亜鉛液体金属脆化割れめっき割れという問題が顕在化するようになってきている。一方、建築分野においては、従来亜鉛浴での後付けめっきが主流であったのに対し、工程省略の観点からプレめっき鋼板の溶接が行われるようになり、めっき割れが問題となるようになってきた。
【0011】
しかしながら、従来技術として中、高強度の亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する際に発生しやすい液体金属脆化割れを充分抑制するための有効な方法はなかった。特に、溶接条件などの観点から亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接における液体金属脆化割れを抑制する方法は皆無である。
【0012】
【特許文献1】
特開平10−226865号公報
【特許文献2】
特開2000−64061号公報
【特許文献3】
特開平05−156406号公報
【特許文献4】
特開昭60−92453号公報
【非特許文献1】
Journal of Institute of Metals(1914)p.108.(A.K.Huntington)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述したような従来の問題点を踏まえ、例えば、めっき鋼板、特に、Zn−Al系合金めっき、Zn−Al−Mg系合金めっき、Zn−Al−Mg−Si系合金めっきなどを施した亜鉛合金系めっき鋼板のアーク溶接における液体金属脆化割れを抑制することができる亜鉛合金系めっき鋼板のアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その要旨は次の通りである。
(1)亜鉛系合金めっき層を鋼板表面に設けた亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法において、予めビードオンプレート溶接により仮溶接ビードを形成した後、本溶接を行なって本溶接ビードを形成する際に、前記仮溶接ビードと前記本溶接ビードが重なり、かつ前記ビードオンプレート溶接の狙い位置から前記本溶接の狙い位置までの距離Lと、本溶接時の入熱量Pが下記(1)式を満足するように溶接することを特徴とする亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
【0015】
L≧0.5×P+7.5 ・・・(1)
但し、Lは、ビードオンプレート溶接の狙い位置から本溶接の狙い位置までの距離(mm)、Pは、本溶接時の入熱量(kJ/cm)を示す。
(2)前記亜鉛系合金めっきが、Zn−Al系合金めっき、Zn−Al−Mg系合金めっき、および、Zn−Al−Mg−Si系合金めっきの何れか1種であることを特徴とする上記(1)記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
(3)前記Zn−Al系合金めっきは、質量%で、Al:0.18〜5%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする上記(2)記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
(4)前記Zn−Al−Mg系合金めっきは、質量%で、Al:2〜10%、Mg:1〜4%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする上記(2)記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
(5)前記Zn−Al−Mg−Si系合金めっきは、質量%で、Al:2〜19%、Mg:1〜10%、Si:0.01〜2%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする上記(2)記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
(6)前記亜鉛系合金めっき鋼板の引っ張り強度が350MPa以上であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
一般に、鋼材同士をアーク溶接により接合して溶接継手を作成する場合には、その接合部は、溶接後に溶融状態の溶接金属が凝固した後、さらに冷却される過程で熱収縮されるため、外力が加わっていない状態でも溶接部の周囲に拘束されて溶接部には引張応力が発生し、室温になると溶接金属および母材熱影響部(以下、溶接金属および母材熱影響部を溶接部と称する)には引っ張り応力が残留(以下、これを残留引っ張り応力と称する)する。このような溶接部における熱収縮に起因した引っ張り応力が、溶融状態の亜鉛系合金めっきが鋼板表面から結晶粒界に侵入し、亜鉛めっき割れを発生させる引き金となっているものと考えられる。
【0017】
溶接過程で溶接部に発生する熱収縮に起因した引っ張り応力の大きさは温度に応じて変化し、例えば、溶接部の温度が900℃程度の高温状態で生じる引張応力は比較的小さいのに対し、亜鉛系合金めっきの融点近傍の温度に相当する400℃程度では溶接部周囲の高温強度の回復および熱収縮の増加により引っ張り応力は大きくなると考えられる。また、その引っ張り応力は、被溶接材の高温強度(通常は冷間強度に依存する)が高いほど、溶接部の周囲の拘束度(継ぎ手形状や拘束器具などに依存する)が大きいほど、増加する。
【0018】
従来の極低炭素のIF鋼板のろう付けの場合の割れ発生は、約800℃以上の高温域でのみ発生じていたのに対して、引っ張り強度が約350MPa以上の中、高強度(IF鋼より鋼中C量が高く焼き入れ性が高い)の亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する場合に高温域だけでなく、400℃程度の低温域でもめっき割れが多く発生する理由は、鋼板強度がIF鋼板に比べて高いために低温域での熱収縮に起因した引っ張り強度が大きくなったためと考えれる。
【0019】
また、溶接部に発生する熱収縮に起因した引っ張り応力の大きさは、溶接止端部(溶接金属と母材熱影響部との境界部付近)で大きくなり、特に溶接止端部における溶接ビード(溶接金属)と被溶接材とがなす表面形状が鋭角になるほど、応力が集中するため引っ張り応力の作用は大きくなる。
【0020】
本発明は、亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接において、高温域だけでなく、400℃程度の低温域で多く発生するめっき割れを抑制するために、本溶接の前に予め補助溶接により溶接ビードを形成することにより溶接止端部の位置および形状を制御し、よって溶接止端部における引っ張り応力を低減することを技術思想とするものである。
【0021】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0022】
図1に従来の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接における典型的な液体金属脆化割れ(亜鉛めっき割れ)の例を示す。鋼板表面に亜鉛系合金めっき層6が施された亜鉛系合金めっき鋼板1にめっきの無い鋼板2を重ね隅肉溶接した場合には、溶接ビード(溶接金属)3と亜鉛系合金めっき鋼板1との境界部に位置する溶接止端部5は、熱収縮に起因した引っ張り応力が発生しかつ鋭角な形状に起因して応力集中部となるため、溶融状態での亜鉛めっきが鋼板表面の粒界に侵入して板厚方向に割れ4が発生する。このような割れ4は、被溶接部材が厳しく拘束された状態で溶接する場合に多く発生する。そこで発明者らは、亜鉛めっき割れを防止するために、溶接止端部5における引っ張り応力を低減する方法について鋭意検討した。
【0023】
溶接止部端部における引っ張り応力の低減方法として、溶接継ぎ手の拘束力を低減させる方法や、溶接止端部の立ち上がり角度(溶接ビード表面と被溶接材表面とでなす角度をいう。以下同様)を小さくし応力集中度合いを下げる方法が考えられる。しかしながら、溶接継ぎ手の拘束力低減方法は溶接の構造に係わるため適用範囲が制限され汎用性が乏しい。一方、溶接止端部の立ち上がり角度の低減方法は、例えば、溶接方法としてMAG溶接を用いる、アーク電圧を通常よりも高く設定して溶接する、パルス電源を用いて溶接する等によって可能となるが、溶接条件の変更・変動によって溶接止端部の立ち上がり角度は変化しやすく安定的に溶接部の亜鉛めっき割れを抑制することは困難である。
【0024】
ところで、鋼板上に単純に溶接ビードをおくビードオンプレート溶接は、基本的に溶接構造に起因する拘束力は小さく、溶接入熱を極端に増加させない限り、溶接止端部における熱収縮に起因した引っ張り応力の発生は比較的小さく、かつ溶接止端部の立ち上がり角度も小さく応力集中が低減するため、溶接止端部における割れは発生しない。
【0025】
そこで、発明者らはこのビードオンプレート溶接に着目し、図2に示すように、本溶接を行う前に、鋼板2端部(本溶接の狙い位置に相当)から所定距離Lだけ離れた位置(ビードオンプレート溶接の狙い位置に相当)に予めビードオンプレート溶接により仮溶接ビード6を形成した後、その仮溶接ビード6の一部にかぶさるように本溶接により本溶接ビード3を形成することによって亜鉛めっき割れを抑制する方法を検討した。なお、上記所定距離Lは、ビード幅方向の距離を示す。
【0026】
図3(b)に示すように、ビードオンプレート溶接の狙い位置と本溶接の狙い位置(鋼板2端部)との距離Lが遠すぎて、仮溶接ビード7に本溶接ビード3が全く重ならなくなった場合は、本溶接ビードの溶接止端部5において引っ張り応力が発生し、この領域に残存する溶融状態の亜鉛めっきが鋼板表面の粒界に侵入して亜鉛めっき割れが発生する。また、図3(a)に示すように、ビードオンプレート溶接の狙い位置と本溶接の狙い位置(鋼板2端部)との距離Lが近すぎても、本溶接の際の溶接入熱により本溶接の前に形成した仮溶接ビード7の溶接止端部8の温度が上昇後、熱収縮に起因する引っ張り応力が発生し、かつ周囲の亜鉛めっきが再溶融して鋼板粒界に侵入するため亜鉛めっき割れが発生する。また、亜鉛めっき割れが発生しないための上記距離Lの下限は、本溶接時の入熱量に依存し、入熱量が比較的小さい場合は上記距離Lの下限は小さく(近く)なり、入熱量が増加するにつれて上記距離Lの下限は大きく(遠く)なる。
【0027】
図4に本溶接時の溶接入熱量Pと本溶接前に行うビードオンプレート溶接時の狙い位置(図2の鋼板2端部からの距離)Lとの関係と示す。なお、図4においては、ビードオンプレート溶接により形成する仮溶接ビードと本溶接により形成される本溶接ビードは全て一部が重なった条件で溶接した。また、ビードオンプレート溶接および本溶接は、MAG溶接を用い、ビードオンプレート溶接は、M溶接電流150A、溶接電圧20V、溶接速度30cm/minの一定の条件で行ない、本溶接は、溶接電流200A、溶接電圧23Vを一定とし、溶接速度を調整することにより溶接入熱量を5〜20kJ/cmの範囲に調整した。
【0028】
ビードオンプレート溶接による仮溶接ビード形成後、本溶接により仮溶接ビードの一部に重ねて本溶接ビードを形成する場合は、仮溶接ビードの溶接止端部における割れ発生は、本溶接時の入熱量Pとビードオンプレート溶接の狙い位置(本溶接の狙い位置(鋼板端部)からの距離)Lが支配要因となり、亜鉛めっき割れが発生しないためには、L≧0.5P+7.5の条件を満足することが必要である。
【0029】
以上の理由から、本発明では、亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法において、予めビードオンプレート溶接により仮溶接ビードを形成した後、本溶接を行なって本溶接ビードを形成する際に、前記仮溶接ビードと前記本溶接ビードが重なり、かつ前記ビードオンプレート溶接の狙い位置から前記本溶接の狙い位置までの距離Lと、本溶接時の入熱量Pが下記(1)式を満足するように規定する。
【0030】
L≧0.5×P+7.5 ・・・(1)
但し、Lは、ビードオンプレート溶接の狙い位置から本溶接の狙い位置までの距離(mm)、Pは、本溶接時の入熱量(kJ/cm)を示す。
【0031】
このように、仮溶接ビードと前記本溶接ビードが重なるように溶接することにより、本溶接ビードの溶接止端部において引っ張り応力が発生し、この領域に残存する溶融状態の亜鉛めっきが鋼板表面の粒界に侵入して亜鉛めっき割れが発生することを防止することができる。また、ビードオンプレート溶接の狙い位置から本溶接の狙い位置までの距離Lと、本溶接時の入熱量Pが下記(1)式を満足するように規定することにより、本溶接時の溶接入熱により仮溶接ビードの溶接止端部の温度が上昇後、熱収縮に起因する引っ張り応力が発生し、かつ周囲の亜鉛めっきが再溶融して鋼板粒界に侵入するため亜鉛めっき割れが発生することを抑制できる。
【0032】
また、上記亜鉛系合金めっきとは、特許文献1に記載されているようなZn−Al−Mg系、特許文献2に記載されているようなZn−Al−Mg−Si系、或いはZn−Al系の亜鉛系合金めっきをいう。因みに、Zn−Al系合金めっきでは、Al:0.18〜0.5%、残部Znからなるめっきを施し、Zn−Al−Mg系合金めっきでは、Al:2〜10%、Mg:1〜4%、残部Znからなるめっきを施し、Zn−Al−Mg−Si系合金めっきでは、Al:2〜19%、Mg:1〜10%、Si:0.01〜2%、残部Znからなるめっきを施すものである。本発明においては、これらのうちの何れか1種の亜鉛系合金めっきを鋼板表面に施した亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する方法を対象とする。
【0033】
また、引っ張り強度が350MPa以上の亜鉛系合金めっき鋼板において、溶接部の熱収縮に起因した引っ張り応力発生に伴う亜鉛めっき割れが顕著になるため、本発明方法は、このような亜鉛系合金めっき鋼板の溶接に適用することによりより顕著な効果が得られる。
【0034】
なお、本発明において本溶接の前に実施するビードオンプレート溶接の条件は特に規定するものではないが、仮溶接ビードの止端部での微細な割れも抑制するためには、溶接電流、溶接電圧および溶接速度の何れかにより、溶接入熱量を10kJ/cm以下と比較的小さめに管理することが好ましい。
【0035】
また、ビードオンプレート溶接に用いられる溶接手法は、上記説明では、溶接施工の煩雑さを低減するために本溶接と同じ消耗電極式のアーク溶接を前提としたが、溶接材料を用いないTIG溶接やプラズマアーク溶接、およびレーザ溶接等においても同様の効果が得られる。
【0036】
【実施例】
質量%で、0.15%C−0.25%Si−0.5%Mn−残部Feおよび不可避的不純物からなる低炭素鋼からなる母材鋼板に、目付量片面90g/m2 で11%Al−3%Mg−0.3%Si−残部Znからなる亜鉛系合金めっきを施した強度:400MPa級の亜鉛系合金めっき鋼板を用いてアーク溶接を実施した。溶接対象は、図5に示すように亜鉛系合金めっき鋼板1に廻し溶接9を施すに際し、廻し溶接部の頂点に予め溶接ビード長さ30mmのビードオンプレート溶接10を付与し、その後、廻し溶接9を行ない、溶接部の割れを評価した。なお、拘束を厳しくするために6mm厚の亜鉛系合金めっき鋼板1同士を溶接してボックス形状とした。また、ビードオンプレート溶接10および廻し溶接9は何れもパルスMAG溶接を用い、ビードオンプレート溶接10は、溶接電流150A、溶接電圧20V、溶接速度30cm/minの一定条件で行ない、廻し溶接10は、溶接電流200A、溶接電圧23Vを一定とし、溶接速度を調整することにより溶接入熱量を5〜15kJ/cmの範囲に調整した。
【0037】
溶接部の割れ評価は、溶接部断面観察によって割れ深さを測定し、板厚に対する比率(%)を割れの度合いとして求めて評価した。表1にその結果を示す。記号1〜4は、本発明の範囲内の条件であるためいずれも溶接部の割れは発生しなかった。一方、比較例である記号5〜7に関して、記号5はビードオンプレート溶接を実施せず、記号6はビードオンプレート溶接の狙い位置から本溶接の狙い位置までの距離Lが近すぎ、記号7は逆に距離Lが遠すぎて、仮溶接ビードと本溶接ビードが重ならなかったためにいずれも溶接部で割れが発生した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、建築、自動車などの溶接構造部材に使用される亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する際に溶接熱影響部における液体金属脆化割れを抑制できる亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来法における典型的な液体金属脆化割れ発生状況を示す図。
【図2】本発明方法の一つの実施形態を説明するための図。
【図3】(a),(b)は仮溶接ビード及び本溶接ビードの位置と割れの関係を示す図。
【図4】本溶接時の溶接入熱量P、ビードオンプレート溶接の狙いから位置本溶接の狙い位置までの距離Lと割れの関係を示す図。
【図5】本発明の実施例の廻し溶接を説明するための図。
【符号の説明】
1…亜鉛系合金めっき鋼板
2…めっきの無い鋼板
3…本溶接ビード
4…割れ
5…本溶接ビードの溶接止端部
6…亜鉛系合金めっき層
7…仮溶接ビード
8…仮溶接ビードの溶接止端部
9…廻し溶接
10…ビードオンプレート溶接
L…ビードオンプレート溶接の狙いから位置本溶接の狙い位置までの距離
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に、建築、自動車などの溶接構造部材に使用される亜鉛系合金めっき鋼板に関し、特に、このような亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する際に溶接熱影響部における液体金属脆化割れ(以下、亜鉛めっき割れということもある)を抑制できる亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Znめっき鋼板は、建築や自動車の構造部材の耐食性向上の観点から幅広く用いられている。また最近では、更なる耐食性向上のために鋼板表面にZn−Al−Mg系合金めっき、Zn−Al−Mg−Si系合金めっきなどの亜鉛系合金めっきを施した亜鉛系合金めっき鋼板が特許文献1および特許文献2で知られている。そして、これら亜鉛系合金めっき鋼板は、アーク溶接方法によって溶接が施された溶接構造物として使用される場合が多い。
【0003】
しかし、これら亜鉛系合金めっきを施した鋼板をアーク溶接する際に、鋼板の溶接熱影響部(以下、溶接HAZ部という。)は、溶接入熱により溶融された亜鉛系合金めっきが鋼板表面に溶融状態のまま残留しやすく、かつ、鋼板組織は結晶粒が成長、粗大化した組織となりやすい。このような状態で鋼板に引張応力が働いた場合には、鋼板の溶接HAZ部組織によっては、溶融めっきが鋼板表面の結晶粒界に侵入して粒界が脆化した領域、つまり脆化域が形成され、割れが発生する。特に被溶接部材が著しく拘束された状態での溶接時に溶接HAZ部の脆化域で割れが発生することが多い。
【0004】
また、従来から、溶接を用いて作製した溶接継ぎ手を高温の溶融亜鉛合金めっき浴でめっきする際にも、溶接による溶接止端部近傍の残留引張応力やめっき時に発生する歪みなどが引張応力として作用し同様な割れが発生することが知られている。このように、高温状態の或る種の液体金属と或る種の固体金属が接触した状態で、固体金属にある大きさの引張応力が作用する場合に、固体金属に脆化域が形成され、割れが発生する現象を液体金属脆化割れ:LME(Liquid MetalEmbrittlement)と称され、例えば、非特許文献1で知られている。
【0005】
従来、溶接継ぎ手の溶融めっき時の液体金属脆化割れ(LME)を抑制するために鋼板の成分による組織制御が試みられており、JISでは(例えば、鋼管用はJIS G 3474−1995、また、鋼板用はJIS G 3219−1995)ではLME炭素当量式が規格化されている。
【0006】
また、特許文献3では、Zn−Al合金めっきが施される鋼板に対して鋼材の各成分を限定するとともに、特にBに対しては0.0002%以下の厳しい制約を設けている。
【0007】
しかし、上記LME炭素当量式は、溶接継ぎ手を高温で溶融めっき処理する際の液体金属脆化割れ(LME)を対象とし、その割れが発生する温度域は溶融亜鉛めっきの場合はそのめっき浴の温度:450℃(亜鉛の融点)程度と比較的低温であるのに対して、亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接の場合は、ビーク温度が1500℃と高く、割れの発生は鋼板の溶融温度から室温までの広い温度域で発生する。したがって、従来のNTB試験およびその結果に基づくLME炭素当量式を亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接時に適用しても、液体金属脆化割れ(LME)を充分に抑制することは困難であった。
【0008】
一方、プレス成形性の要求される極低炭素鋼のIF(Interstitial Free)鋼板のろう付けにおけるはんだ脆性として上記液体金属脆化割れの発生が知られており、その対策として、例えば、特許文献4では、IF鋼のCを0.0005〜0.03%と低くし、Tiを0.01〜0.2%添加してNを固定するとともに、Bを0.0002〜0.003%添加して結晶粒界にBを偏析させることにより溶融金属の粒界への進入を防ぎ、割れ発生を抑制している。
【0009】
しかし、この方法は、極低炭素鋼のIF鋼板を、ビーク温度が鋼板の融点より低い温度域でろう付けする場合の900〜1000℃程度で発生する割れを対象とするものであり、IF鋼よりもC含有量が高く、焼き入れ性が高い鋼の亜鉛系合金めっき鋼板を対象とし、ビーク温度が鋼板の融点より高い温度域でアーク溶接を行う場合の1500℃〜室温までの広い温度域で発生する割れを充分抑制することは困難である。
【0010】
従来、自動車用として多く用いられてきた亜鉛系合金めっき鋼板は、成形性を考慮しCや合金元素などの少ない引っ張り強度が低い鋼に限られてきたが、近年、自動車の軽量化及び燃費向上、ひいては地球環境への考慮から高強度の亜鉛系合金めっき鋼板の産業上の意義が大きくなってきた。亜鉛系合金めっき鋼板の高強度化により、その溶接時に亜鉛液体金属脆化割れめっき割れという問題が顕在化するようになってきている。一方、建築分野においては、従来亜鉛浴での後付けめっきが主流であったのに対し、工程省略の観点からプレめっき鋼板の溶接が行われるようになり、めっき割れが問題となるようになってきた。
【0011】
しかしながら、従来技術として中、高強度の亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する際に発生しやすい液体金属脆化割れを充分抑制するための有効な方法はなかった。特に、溶接条件などの観点から亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接における液体金属脆化割れを抑制する方法は皆無である。
【0012】
【特許文献1】
特開平10−226865号公報
【特許文献2】
特開2000−64061号公報
【特許文献3】
特開平05−156406号公報
【特許文献4】
特開昭60−92453号公報
【非特許文献1】
Journal of Institute of Metals(1914)p.108.(A.K.Huntington)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述したような従来の問題点を踏まえ、例えば、めっき鋼板、特に、Zn−Al系合金めっき、Zn−Al−Mg系合金めっき、Zn−Al−Mg−Si系合金めっきなどを施した亜鉛合金系めっき鋼板のアーク溶接における液体金属脆化割れを抑制することができる亜鉛合金系めっき鋼板のアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その要旨は次の通りである。
(1)亜鉛系合金めっき層を鋼板表面に設けた亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法において、予めビードオンプレート溶接により仮溶接ビードを形成した後、本溶接を行なって本溶接ビードを形成する際に、前記仮溶接ビードと前記本溶接ビードが重なり、かつ前記ビードオンプレート溶接の狙い位置から前記本溶接の狙い位置までの距離Lと、本溶接時の入熱量Pが下記(1)式を満足するように溶接することを特徴とする亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
【0015】
L≧0.5×P+7.5 ・・・(1)
但し、Lは、ビードオンプレート溶接の狙い位置から本溶接の狙い位置までの距離(mm)、Pは、本溶接時の入熱量(kJ/cm)を示す。
(2)前記亜鉛系合金めっきが、Zn−Al系合金めっき、Zn−Al−Mg系合金めっき、および、Zn−Al−Mg−Si系合金めっきの何れか1種であることを特徴とする上記(1)記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
(3)前記Zn−Al系合金めっきは、質量%で、Al:0.18〜5%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする上記(2)記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
(4)前記Zn−Al−Mg系合金めっきは、質量%で、Al:2〜10%、Mg:1〜4%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする上記(2)記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
(5)前記Zn−Al−Mg−Si系合金めっきは、質量%で、Al:2〜19%、Mg:1〜10%、Si:0.01〜2%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする上記(2)記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
(6)前記亜鉛系合金めっき鋼板の引っ張り強度が350MPa以上であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
一般に、鋼材同士をアーク溶接により接合して溶接継手を作成する場合には、その接合部は、溶接後に溶融状態の溶接金属が凝固した後、さらに冷却される過程で熱収縮されるため、外力が加わっていない状態でも溶接部の周囲に拘束されて溶接部には引張応力が発生し、室温になると溶接金属および母材熱影響部(以下、溶接金属および母材熱影響部を溶接部と称する)には引っ張り応力が残留(以下、これを残留引っ張り応力と称する)する。このような溶接部における熱収縮に起因した引っ張り応力が、溶融状態の亜鉛系合金めっきが鋼板表面から結晶粒界に侵入し、亜鉛めっき割れを発生させる引き金となっているものと考えられる。
【0017】
溶接過程で溶接部に発生する熱収縮に起因した引っ張り応力の大きさは温度に応じて変化し、例えば、溶接部の温度が900℃程度の高温状態で生じる引張応力は比較的小さいのに対し、亜鉛系合金めっきの融点近傍の温度に相当する400℃程度では溶接部周囲の高温強度の回復および熱収縮の増加により引っ張り応力は大きくなると考えられる。また、その引っ張り応力は、被溶接材の高温強度(通常は冷間強度に依存する)が高いほど、溶接部の周囲の拘束度(継ぎ手形状や拘束器具などに依存する)が大きいほど、増加する。
【0018】
従来の極低炭素のIF鋼板のろう付けの場合の割れ発生は、約800℃以上の高温域でのみ発生じていたのに対して、引っ張り強度が約350MPa以上の中、高強度(IF鋼より鋼中C量が高く焼き入れ性が高い)の亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する場合に高温域だけでなく、400℃程度の低温域でもめっき割れが多く発生する理由は、鋼板強度がIF鋼板に比べて高いために低温域での熱収縮に起因した引っ張り強度が大きくなったためと考えれる。
【0019】
また、溶接部に発生する熱収縮に起因した引っ張り応力の大きさは、溶接止端部(溶接金属と母材熱影響部との境界部付近)で大きくなり、特に溶接止端部における溶接ビード(溶接金属)と被溶接材とがなす表面形状が鋭角になるほど、応力が集中するため引っ張り応力の作用は大きくなる。
【0020】
本発明は、亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接において、高温域だけでなく、400℃程度の低温域で多く発生するめっき割れを抑制するために、本溶接の前に予め補助溶接により溶接ビードを形成することにより溶接止端部の位置および形状を制御し、よって溶接止端部における引っ張り応力を低減することを技術思想とするものである。
【0021】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0022】
図1に従来の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接における典型的な液体金属脆化割れ(亜鉛めっき割れ)の例を示す。鋼板表面に亜鉛系合金めっき層6が施された亜鉛系合金めっき鋼板1にめっきの無い鋼板2を重ね隅肉溶接した場合には、溶接ビード(溶接金属)3と亜鉛系合金めっき鋼板1との境界部に位置する溶接止端部5は、熱収縮に起因した引っ張り応力が発生しかつ鋭角な形状に起因して応力集中部となるため、溶融状態での亜鉛めっきが鋼板表面の粒界に侵入して板厚方向に割れ4が発生する。このような割れ4は、被溶接部材が厳しく拘束された状態で溶接する場合に多く発生する。そこで発明者らは、亜鉛めっき割れを防止するために、溶接止端部5における引っ張り応力を低減する方法について鋭意検討した。
【0023】
溶接止部端部における引っ張り応力の低減方法として、溶接継ぎ手の拘束力を低減させる方法や、溶接止端部の立ち上がり角度(溶接ビード表面と被溶接材表面とでなす角度をいう。以下同様)を小さくし応力集中度合いを下げる方法が考えられる。しかしながら、溶接継ぎ手の拘束力低減方法は溶接の構造に係わるため適用範囲が制限され汎用性が乏しい。一方、溶接止端部の立ち上がり角度の低減方法は、例えば、溶接方法としてMAG溶接を用いる、アーク電圧を通常よりも高く設定して溶接する、パルス電源を用いて溶接する等によって可能となるが、溶接条件の変更・変動によって溶接止端部の立ち上がり角度は変化しやすく安定的に溶接部の亜鉛めっき割れを抑制することは困難である。
【0024】
ところで、鋼板上に単純に溶接ビードをおくビードオンプレート溶接は、基本的に溶接構造に起因する拘束力は小さく、溶接入熱を極端に増加させない限り、溶接止端部における熱収縮に起因した引っ張り応力の発生は比較的小さく、かつ溶接止端部の立ち上がり角度も小さく応力集中が低減するため、溶接止端部における割れは発生しない。
【0025】
そこで、発明者らはこのビードオンプレート溶接に着目し、図2に示すように、本溶接を行う前に、鋼板2端部(本溶接の狙い位置に相当)から所定距離Lだけ離れた位置(ビードオンプレート溶接の狙い位置に相当)に予めビードオンプレート溶接により仮溶接ビード6を形成した後、その仮溶接ビード6の一部にかぶさるように本溶接により本溶接ビード3を形成することによって亜鉛めっき割れを抑制する方法を検討した。なお、上記所定距離Lは、ビード幅方向の距離を示す。
【0026】
図3(b)に示すように、ビードオンプレート溶接の狙い位置と本溶接の狙い位置(鋼板2端部)との距離Lが遠すぎて、仮溶接ビード7に本溶接ビード3が全く重ならなくなった場合は、本溶接ビードの溶接止端部5において引っ張り応力が発生し、この領域に残存する溶融状態の亜鉛めっきが鋼板表面の粒界に侵入して亜鉛めっき割れが発生する。また、図3(a)に示すように、ビードオンプレート溶接の狙い位置と本溶接の狙い位置(鋼板2端部)との距離Lが近すぎても、本溶接の際の溶接入熱により本溶接の前に形成した仮溶接ビード7の溶接止端部8の温度が上昇後、熱収縮に起因する引っ張り応力が発生し、かつ周囲の亜鉛めっきが再溶融して鋼板粒界に侵入するため亜鉛めっき割れが発生する。また、亜鉛めっき割れが発生しないための上記距離Lの下限は、本溶接時の入熱量に依存し、入熱量が比較的小さい場合は上記距離Lの下限は小さく(近く)なり、入熱量が増加するにつれて上記距離Lの下限は大きく(遠く)なる。
【0027】
図4に本溶接時の溶接入熱量Pと本溶接前に行うビードオンプレート溶接時の狙い位置(図2の鋼板2端部からの距離)Lとの関係と示す。なお、図4においては、ビードオンプレート溶接により形成する仮溶接ビードと本溶接により形成される本溶接ビードは全て一部が重なった条件で溶接した。また、ビードオンプレート溶接および本溶接は、MAG溶接を用い、ビードオンプレート溶接は、M溶接電流150A、溶接電圧20V、溶接速度30cm/minの一定の条件で行ない、本溶接は、溶接電流200A、溶接電圧23Vを一定とし、溶接速度を調整することにより溶接入熱量を5〜20kJ/cmの範囲に調整した。
【0028】
ビードオンプレート溶接による仮溶接ビード形成後、本溶接により仮溶接ビードの一部に重ねて本溶接ビードを形成する場合は、仮溶接ビードの溶接止端部における割れ発生は、本溶接時の入熱量Pとビードオンプレート溶接の狙い位置(本溶接の狙い位置(鋼板端部)からの距離)Lが支配要因となり、亜鉛めっき割れが発生しないためには、L≧0.5P+7.5の条件を満足することが必要である。
【0029】
以上の理由から、本発明では、亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法において、予めビードオンプレート溶接により仮溶接ビードを形成した後、本溶接を行なって本溶接ビードを形成する際に、前記仮溶接ビードと前記本溶接ビードが重なり、かつ前記ビードオンプレート溶接の狙い位置から前記本溶接の狙い位置までの距離Lと、本溶接時の入熱量Pが下記(1)式を満足するように規定する。
【0030】
L≧0.5×P+7.5 ・・・(1)
但し、Lは、ビードオンプレート溶接の狙い位置から本溶接の狙い位置までの距離(mm)、Pは、本溶接時の入熱量(kJ/cm)を示す。
【0031】
このように、仮溶接ビードと前記本溶接ビードが重なるように溶接することにより、本溶接ビードの溶接止端部において引っ張り応力が発生し、この領域に残存する溶融状態の亜鉛めっきが鋼板表面の粒界に侵入して亜鉛めっき割れが発生することを防止することができる。また、ビードオンプレート溶接の狙い位置から本溶接の狙い位置までの距離Lと、本溶接時の入熱量Pが下記(1)式を満足するように規定することにより、本溶接時の溶接入熱により仮溶接ビードの溶接止端部の温度が上昇後、熱収縮に起因する引っ張り応力が発生し、かつ周囲の亜鉛めっきが再溶融して鋼板粒界に侵入するため亜鉛めっき割れが発生することを抑制できる。
【0032】
また、上記亜鉛系合金めっきとは、特許文献1に記載されているようなZn−Al−Mg系、特許文献2に記載されているようなZn−Al−Mg−Si系、或いはZn−Al系の亜鉛系合金めっきをいう。因みに、Zn−Al系合金めっきでは、Al:0.18〜0.5%、残部Znからなるめっきを施し、Zn−Al−Mg系合金めっきでは、Al:2〜10%、Mg:1〜4%、残部Znからなるめっきを施し、Zn−Al−Mg−Si系合金めっきでは、Al:2〜19%、Mg:1〜10%、Si:0.01〜2%、残部Znからなるめっきを施すものである。本発明においては、これらのうちの何れか1種の亜鉛系合金めっきを鋼板表面に施した亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する方法を対象とする。
【0033】
また、引っ張り強度が350MPa以上の亜鉛系合金めっき鋼板において、溶接部の熱収縮に起因した引っ張り応力発生に伴う亜鉛めっき割れが顕著になるため、本発明方法は、このような亜鉛系合金めっき鋼板の溶接に適用することによりより顕著な効果が得られる。
【0034】
なお、本発明において本溶接の前に実施するビードオンプレート溶接の条件は特に規定するものではないが、仮溶接ビードの止端部での微細な割れも抑制するためには、溶接電流、溶接電圧および溶接速度の何れかにより、溶接入熱量を10kJ/cm以下と比較的小さめに管理することが好ましい。
【0035】
また、ビードオンプレート溶接に用いられる溶接手法は、上記説明では、溶接施工の煩雑さを低減するために本溶接と同じ消耗電極式のアーク溶接を前提としたが、溶接材料を用いないTIG溶接やプラズマアーク溶接、およびレーザ溶接等においても同様の効果が得られる。
【0036】
【実施例】
質量%で、0.15%C−0.25%Si−0.5%Mn−残部Feおよび不可避的不純物からなる低炭素鋼からなる母材鋼板に、目付量片面90g/m2 で11%Al−3%Mg−0.3%Si−残部Znからなる亜鉛系合金めっきを施した強度:400MPa級の亜鉛系合金めっき鋼板を用いてアーク溶接を実施した。溶接対象は、図5に示すように亜鉛系合金めっき鋼板1に廻し溶接9を施すに際し、廻し溶接部の頂点に予め溶接ビード長さ30mmのビードオンプレート溶接10を付与し、その後、廻し溶接9を行ない、溶接部の割れを評価した。なお、拘束を厳しくするために6mm厚の亜鉛系合金めっき鋼板1同士を溶接してボックス形状とした。また、ビードオンプレート溶接10および廻し溶接9は何れもパルスMAG溶接を用い、ビードオンプレート溶接10は、溶接電流150A、溶接電圧20V、溶接速度30cm/minの一定条件で行ない、廻し溶接10は、溶接電流200A、溶接電圧23Vを一定とし、溶接速度を調整することにより溶接入熱量を5〜15kJ/cmの範囲に調整した。
【0037】
溶接部の割れ評価は、溶接部断面観察によって割れ深さを測定し、板厚に対する比率(%)を割れの度合いとして求めて評価した。表1にその結果を示す。記号1〜4は、本発明の範囲内の条件であるためいずれも溶接部の割れは発生しなかった。一方、比較例である記号5〜7に関して、記号5はビードオンプレート溶接を実施せず、記号6はビードオンプレート溶接の狙い位置から本溶接の狙い位置までの距離Lが近すぎ、記号7は逆に距離Lが遠すぎて、仮溶接ビードと本溶接ビードが重ならなかったためにいずれも溶接部で割れが発生した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、建築、自動車などの溶接構造部材に使用される亜鉛系合金めっき鋼板をアーク溶接する際に溶接熱影響部における液体金属脆化割れを抑制できる亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来法における典型的な液体金属脆化割れ発生状況を示す図。
【図2】本発明方法の一つの実施形態を説明するための図。
【図3】(a),(b)は仮溶接ビード及び本溶接ビードの位置と割れの関係を示す図。
【図4】本溶接時の溶接入熱量P、ビードオンプレート溶接の狙いから位置本溶接の狙い位置までの距離Lと割れの関係を示す図。
【図5】本発明の実施例の廻し溶接を説明するための図。
【符号の説明】
1…亜鉛系合金めっき鋼板
2…めっきの無い鋼板
3…本溶接ビード
4…割れ
5…本溶接ビードの溶接止端部
6…亜鉛系合金めっき層
7…仮溶接ビード
8…仮溶接ビードの溶接止端部
9…廻し溶接
10…ビードオンプレート溶接
L…ビードオンプレート溶接の狙いから位置本溶接の狙い位置までの距離
Claims (6)
- 亜鉛系合金めっき層を鋼板表面に設けた亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法において、予めビードオンプレート溶接により仮溶接ビードを形成した後、本溶接を行なって本溶接ビードを形成する際に、前記仮溶接ビードと前記本溶接ビードが重なり、かつ前記ビードオンプレート溶接の狙い位置から前記本溶接の狙い位置までの距離Lと、本溶接時の入熱量Pが下記(1)式を満足するように溶接することを特徴とする亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
L≧0.5×P+7.5 ・・・(1)
但し、Lは、ビードオンプレート溶接の狙い位置から本溶接の狙い位置までの距離(mm)、Pは、本溶接時の入熱量(kJ/cm)を示す。 - 前記亜鉛系合金めっきが、Zn−Al系合金めっき、Zn−Al−Mg系合金めっき、および、Zn−Al−Mg−Si系合金めっきの何れか1種であることを特徴とする請求項1記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
- 前記Zn−Al系合金めっきは、質量%で、Al:0.18〜5%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項2記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
- 前記Zn−Al−Mg系合金めっきは、質量%で、Al:2〜10%、Mg:1〜4%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項2記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
- 前記Zn−Al−Mg−Si系合金めっきは、質量%で、Al:2〜19%、Mg:1〜10%、Si:0.01〜2%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項2記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
- 前記亜鉛系合金めっき鋼板の引っ張り強度が350MPa以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の亜鉛系合金めっき鋼板のアーク溶接方法。
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WO2019124871A1 (ko) * | 2017-12-20 | 2019-06-27 | 주식회사 포스코 | 피로특성이 우수한 초고강도 열연강재의 용접이음부 및 그 제조방법 |
-
2002
- 2002-12-27 JP JP2002381637A patent/JP2004209513A/ja not_active Withdrawn
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WO2019124871A1 (ko) * | 2017-12-20 | 2019-06-27 | 주식회사 포스코 | 피로특성이 우수한 초고강도 열연강재의 용접이음부 및 그 제조방법 |
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