JP2004177658A - 誘電体多層膜バンドパスフィルタ - Google Patents
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Abstract
【課題】誘電体多層膜を用いたバンドパスフィルタにおいて、入射角の変動によっても偏光モードに応じて波長特性が変化しないようにした誘電体多層膜フィルタを提供すること。
【解決手段】誘電体多層膜フィルタの基本共振器構造として、第1のスタック層12−1とスペーサ層12−2及び第2のスタック層12−3及び結合層12−4を含んで構成する。第1,第2のスタック層12−1,12−3は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の光学膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものであり、又スペーサ層12−2は1/2波長の光学膜厚の整数倍の膜厚を有する高屈折率材と低屈折率材のいずれかの層とする。こうすれば入射角度の変化に応じても偏光モードによりピーク波長がほとんどずれることがなく、所望の特性を実現することができる。
【選択図】 図1
【解決手段】誘電体多層膜フィルタの基本共振器構造として、第1のスタック層12−1とスペーサ層12−2及び第2のスタック層12−3及び結合層12−4を含んで構成する。第1,第2のスタック層12−1,12−3は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の光学膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものであり、又スペーサ層12−2は1/2波長の光学膜厚の整数倍の膜厚を有する高屈折率材と低屈折率材のいずれかの層とする。こうすれば入射角度の変化に応じても偏光モードによりピーク波長がほとんどずれることがなく、所望の特性を実現することができる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は誘電体多層膜バンドパスフィルタに関し、特に偏光モードにより波長特性が変化しないようにした誘電体多層膜バンドパスフィルタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
光波長多重通信等において用いられる光バンドパスフィルタには、透過波長帯域において低損失であり、又平坦性が優れていること、透過波長帯域と阻止域とを急峻な透過スロープ特性で分離することが求められている。光通信分野においては波長1200nm〜1800nmが主に使用されており、通常のフィルタの透過幅は0.01nm〜100 nmと広範囲にわたる。誘電体多層膜を用いてバンドパスフィルタを構成する場合には、一般的に共振器構造が広く用いられている。最も簡単な共振器構造は、2つの反射鏡が半波長の整数倍の膜厚を有する誘電体材料からなる場合である。
【0003】
さて、以下では波長選択性を有するための誘電体多層膜構造について説明する。光フィルタの膜設計によれば、屈折率が異なる2つの誘電体薄膜をH及びLとし、夫々の屈折率をnH 、nL (nH >nL )とすると、ある基準波長λ0 を中心に高反射率を有する誘電体多層膜ミラーの膜構造は次式で与えられる。
基板 / H L H L ・・・ H L / 媒質 ・・・(1)
ここで、誘電体薄膜HとLの膜厚dH ,dL は夫々1/4波長の光学膜厚を有し、次式で与えられる。
dH =λ0 /4nH ・・・(2)
dL =λ0 /4nL ・・・(3)
最上層Lは媒質で介しており、一般的に媒質は空気、樹脂溶剤、固形基板等が考えられる。
(1)式はある基板の上に膜厚dH とdL の2種類の誘電体薄膜H,Lを交互に積層することを表している。(1)式は次式のように簡便に表すことができる。
基板 / (HL)n / 媒質 ・・・(4)
この式の中では、H,Lは式(2),(3)で示される膜厚を有する層を表している。又(4)式は基板上にHLのペアの層をn回繰り返し積層することを意味している。
すなわち、
基板 / HLHLHL /媒質
は
基板 /(HL)3 / 媒質
と等価である。
【0004】
ところで、ある特定の光波長成分のみを分離したい場合には、バンドパスフィルタを用いることが多い。図14に単一共振器構造の誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造図を示す。使用する波長帯域において透明な基板1上に高屈折率材料膜(H)と低屈折率材料膜(L)とを交互に積層して第1のスタック層2を設ける。第1のスタック層2は(HL)n Hの膜構造を有する反射鏡であるが、nが0の場合、即ち1層の場合も含まれる。次いでスペーサ層3が積層され、その上部に更に第2のスタック層4、結合層5が積層される。第2のスタック層4はH(LH)n の膜構造を有する反射鏡であり、n=0、即ち1つの層の場合も含まれる。そしてスペーサ層の膜構造はsL(s=2,4・・)である。ここでH及びLは設計波長に対して1/4波長の光学膜厚の層である。バンドパスフィルタのバンド幅はそのフィルタを構成するスタック層2,4の反射率と、スペーサ層3の厚さとに依存する。フィルタを構成する共振器構造は誘電体多層膜フィルタの基本的な積層単位である。
【0005】
この共振器構造は単一又は複数で用いられる。複数の場合は第1の共振器構造の上にフィルタ特性をシャープにするために結合層5と呼ばれる1/4波長の光学膜厚の層Lを介して、別の共振器構造の多層膜が積層される。
【0006】
図15はこの二重共振器構造の誘電体多層膜バンドパスフィルタの一例を示すものである。このバンドパスフィルタは、以下の膜構造を有している。
基板/
[(HL)2 H4LH(LH)2 L][(HL)2 H6LH(LH)2 L]
/媒質
即ち基板1の上部に第1スタック層2a、スペーサ層3a、第2スタック層4aが形成され、結合層5aを介して第2の共振器構造を構成する第2スタック層2b、第2スペーサ層3b、第2スタック層4b、結合層5bが形成されている。更にm重の共振器構造の誘電体多層膜フィルタの場合はこれと同一の共振器構造が順次積層される。
【0007】
さて誘電体多層膜バンドパスフィルタをある光の入射角度で使用する場合に、フィルタの透過特性が劣化しないことが望ましい。誘電体多層膜を基本としたフィルタは干渉効果が最大となる基準波長(リファレンス波長)を波長λ0 とすると、薄膜の基本膜厚である膜厚dH ,dL は前述した(2),(3)で示される。そして光線が多層膜を角度θで伝搬する場合を考えると、(2),(3)式は次式で書き直される。
dH ・cos θ=λ0 /4nH ・・・(5)
dL ・cos θ=λ0 /4nL ・・・(6)
これらの式(5),(6)より、入射光線の多層膜への入射角度を大きくすると基準波長は短波長に変化することがわかる。バンドパスフィルタを作成する場合はこのように多重共振器構造の多層膜設計が用いられる。しかし光の入射角度が0(垂直入射)以外の場合は、通常の膜設計によるとそのバンドパスフィルタの中心波長が2つのS偏光モード、P偏光モードに対して異なり、入射角度が増加するに従い、各偏光モードの中心波長の差が急激に増加する。従って入射角度が大きくなると、フィルタ特性は各偏光モードに対し異なるふるまいを示し、入射光線に対するフィルタ全体の特性が劣化するという欠点があった。
【0008】
このような欠点を解消するために、任意の偏光光線に対して透過した光線の偏光面を90°回転させて再び誘電体多層膜フィルタを通過させることで、偏光依存性を相殺し偏光を無依存化することが提案されている(特許文献1)。
【0009】
又膜構造自体を変更し、偏光モードに対応するバンドパスフィルタ特性が分離しない膜構造を提案したものもある(特許文献2)。
【0010】
【特許文献1】
特開平9−146020号公報
【特許文献2】
米国特許第5,926,317
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
今日の高密度光波長多重通信(DWDM)ネットワークにおける高密度化により、周波数間隔200GHz(波長1.5μmにおいて波長間隔が1.6nm)、100GHz(同0.8nm)、50GHz(同0.4nm)、更には25GHz(同0.2nm)以下へと狭帯域化している。このような狭帯域化に対応するため、バンドパスフィルタへの入射角を変えて波長可変とする場合、各偏光モードに対応した中心波長のずれは200pm以下でなければならない。このような狭帯域の光信号ネットワークに対応した波長可変特性を有する誘電体多層膜フィルタを実現することが必要となっている。従来では偏光モードに応じて中心波長が異なってくるため使用する角度が制限されたり、波長可変範囲が狭いという欠点があった。又特許文献1の方法では、光の取り扱いが複雑になるという欠点があった。又特許文献2の光バンドパスフィルタでは、偏光モードに対するフィルタ特性の分離の改善効果性が充分でないという欠点があった。
【0012】
本発明は誘電体多層膜フィルタにおいて入射角が0より大きく増加しても2つの偏光モードのフィルタ特性が重なり合う特別な条件のフィルタ膜構造を見いだすことによって、2つの偏光モードの中心波長差が大きくならず高密度の光波長多重通信に使用することができる誘電体多層膜フィルタを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本願の請求項1の発明は、基板上に少なくとも4層の基本共振器構造を積層して構成される誘電体多層膜バンドパスフィルタであって、前記基本共振器構造は、第1のスタック層と、スペーサ層と、第2のスタック層とがこの順に積層されたものであり、前記第1のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の光学膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものであり、前記スペーサ層は、1/2波長の光学膜厚の整数倍の膜厚を有する高屈折率材と低屈折率材のいずれかの層であり、前記第2のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成ることを特徴とするものである。
【0014】
本願の請求項2の発明は、基板上に少なくとも4層の基本共振器構造を積層して構成される誘電体多層膜バンドパスフィルタであって、少なくとも最後の基本共振器構造を除く基本共振器構造は、
A=[(XbY)a X]dY[X(cYX)a ]eY
で表されるものであり、ここでXは1/4波長の光学膜厚を有する高屈折率材又は低屈折率材の誘電体薄膜であり、Yはそれ以外の屈折率材の1/4波長の光学膜厚を有する誘電体薄膜であり、[(XbY)a X]は第1のスタック層であり、dYはスペーサ層であり、[X(cYX)a ]は第2のスタック層であり、aは自然数であり、b,cは3以上の正の奇数であり、dは0又は正の偶数であり、eは正の奇数であり、これらの値は各基本共振器構造毎に決められることを特徴とするものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の誘電体多層膜バンドパスフィルタは、基板上に少なくとも4層の基本共振器構造を積層して構成される。基本共振器構造は、第1のスタック層と、スペーサ層と、第2のスタック層とがこの順に積層されたものである。第1のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の光学膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものである。スペーサ層は、1/2波長の光学膜厚の整数倍の膜厚を有する高屈折率材と低屈折率材のいずれかの層である。第2のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものである。
【0016】
発明者はこのような構造によれば、光の入射角度を0より大きく増加しても従来とは異なり、偏光モード間のフィルタ中心波長のずれが極めて小さく、又フィルタ特性が劣化しにくい構造であることを見出した。
【0017】
この基本共振器構造は、第1、第2のスタック層がスペーサ層に対して対称な鏡像の関係にあることが好ましい。この誘電体多層膜バンドパスフィルタの基本共振器構造は、各基本共振器のスペーサ構造が全て同一としてもよい。又誘電体多層膜フィルタの基本共振器構造は、他の共振器構造と連結される際に低屈折率材及び高屈折率材のいずれかの1/4波長の光学膜厚の奇数倍の膜厚の結合層を介して接続することが好ましい。
【0018】
少なくとも最後を除く基本共振器構造は次式で与えられる。
[(XbY)a X]dY[X(cYX)a ]eY
ここでXは式(2)又は(3)で示される1/4波長の光学膜厚を有する高屈折率材、低屈折率材のいずれかの膜である。Yは他方の屈折率材の1/4波長の光学膜厚を有する膜である。XとYとは、互いに異なる屈折率を有している。aは自然数、b,cは3,5,7・・・等の3以上の奇数、dは0,2,4・・・等の零又は正の偶数、eは1,3,5・・・等の正の奇数とする。尚、これらの値a〜eは各基本共振器構造毎に同一でもよく、異なっていてもよい。更に基本共振器構造を4以上持つバンドパスフィルタとする。(XbY)a dYを第1のスタック層といい、それに続くdYをスペーサ層という。又X(cYX)a を第2のスタック層という。この基本共振器構造毎が積層される場合、各層の最上部に前述したようにλ0 /4の奇数倍(e倍)の光学厚さを有するYの結合層を設ける。尚d=0の場合、即ちスペーサ層は存在しないものも含まれる。
【0019】
このような条件を満たした場合に、光線の入射角を0から増加し、フィルタ中心波長を可変する方式においてフィルタ波長可変範囲は50nm以上で、且つ偏光モード間のフィルタ中心波長の差は±200pm以下となる。そして本発明では共振器構造を4重以上とすることによって必要なフィルタ特性をシャープにすることができる。
【0020】
本発明の誘電体多層膜バンドパスフィルタにおいては、基板には使用波長域において透明な広範囲な材料、例えば光学結晶、光学ガラス、石英、透明プラスチック、ポリマー材等を適用できる。誘電体多層膜バンドパスフィルタを構成する光学薄膜材料には、適用波長域において透明で一般的に使用されている材料から選択することができる。
【0021】
高屈折率膜、低屈折率膜としては、例えば屈折率が1.23〜5.67までの範囲では、フッ化カルシウムCaF2 (屈折率1.23)、フッ化マグネシウムMgF2 (屈折率1.38)、二酸化シリコンSiO2 (屈折率1.46)、酸化マグネシウムMgO(屈折率1.80)、五酸化タンタルTa2 O5 (屈折率2.15)、五酸化ニオブNb2 O5 (屈折率2.24)、二酸化チタンTiO2 (屈折率2.45)、セレン化亜鉛ZnSe(屈折率2.40)、テルル化鉛PbTe(屈折率5.67)、窒化アルミニウムAlN(屈折率1.94)、窒化シリコンSi3 N4 (屈折率1.95)、シリコンSi(屈折率3.4)、ゲルマニウムGe(屈折率4.0)、等の光学材料が用いられている。これらの光学薄膜のうち2種を高屈折率膜H、低屈折率膜Lとして選択する。
【0022】
そして薄膜の成膜は、例えば電子ビーム蒸着法、イオンアシスト蒸着法、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタ法、分子線エピタキシー(MBE)法、化学気相蒸着(CVD),ディップコーティング法など、従来より用いられている製法が使用できる。フィルタを構成する多層膜設計においては、市販されている膜設計ソフトウェアが使用できる。例えばTFCalc(Software Spectra Inc.)、Essential Macload (Thin−Film Center, Inc.)などは光通信業界において主に使用されている。
【0023】
【実施例】
(実施例1)
次に本発明の実施例1について説明する。本実施例1は、200GHz周波数間隔用の光通信ネットワークに用いられる5重共振器構造のバンドパスフィルタである。ここで設計波長λ0 は1560nmとした。基板として(株)オハラ製結晶ガラスBK7を使用した。高屈折率膜Hとして、誘電体薄膜Nb2 O5 (屈折率nH =2.25)を用い、低屈折率膜LとしてSiO2 膜(屈折率nL =1.47)を用いた。誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を以下に示す。
基板/
(H3L)5 H 2L H (3LH)5 9L
[(H3L)6 H 2L H (3LH)6 9L]3
(H3L)5 H 2L H (3LH)4 0.686L 1.4974H
/空気(屈折率1.0)
【0024】
図1(a)は本実施例による誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を示す図であり、基板11上に第1〜第5の共振器構造12,13,14,15,16が積層されている。図1(b)は第1の共振器構造12の構造を示している。第1の共振器構造12は、(H3L)5 Hから成る第1のスタック層12−1、2Lから成るスペーサ層12−2、H(3LH)5 から成る第2のスタック層12−3、及び9Lから成る結合層12−4から成り立っている。第2〜第4の共振器構造13〜15は、第1,第2のスタック層の層数を除いて第1の同一の共振器構造と同一であり、これらの共振器構造が3層積層されている。最終の第5の共振器構造のみが最後の2層の膜厚がわずかに異なっている。
【0025】
各共振器構造のスペーサ層の構成は全て同一で、2Lであり、a=5又は6,b=3,c=3,d=2,e=9である。第5の共振器構造の最後の2層は空気層(屈折率1.0)との整合を高め、挿入損失を低減し、且つ透過バンド内のフィルタ特性を平坦化するために最適化された。多層膜の総数は131層、全体の物理膜厚は68.1μmである。各偏光モードに対応するバンドパスフィルタの半値全幅の平均値は0.9nmである。入射角度0°の場合は図2(a)にフィルタの透過特性を示すように、フィルタの中心波長は1560nmである。この図に示されるようにS偏光とP偏光及びその平均(Ave)を示す曲線は重なっている。入射角度24°の場合は図2(b)に示すように、中心波長1508.3nmであり、入射角度の変化により50.7nmの波長可変性を有していることがわかる。又フィルタの透過バンド帯域は平坦性に優れ、低挿入損失で且つS偏光とP偏光の挿入損失差も極めて少ない特性を示している。偏光特性もS偏光の中心波長はP偏光の透過バンド幅内に収まっており、S偏光及びP偏光のフィルタ透過特性は入射角度を増加しても夫々大きな歪みがないことがわかる。図3に実施例1の中心波長(CWL)の入射角度に対する波長可変特性を示す。入射角を0°から24°まで増加すると、波長1560nmから1508.3nmまでの約50.7nmの波長可変性が実現する。
【0026】
又図4はS偏光とP偏光のフィルタ中心波長の差を示す。本図に示すように波長可変範囲50nmを満足する入射角度0°から24°の範囲で、6pm以下を実現している。
【0027】
次に特許文献2で示された3重共振器構造の誘電体多層膜フィルタ(従来例)と、本実施例1との比較を示す。透過バンド半値幅はほぼ同じ1nmと0.9nmである。以下の表1には従来例と本実施例1のフィルタ特性を比較している。ここでFOMとは、挿入損失より0.5dB低い幅で定義される透過帯域幅BWと挿入損失が25dBとなる阻止域幅BWとの比で定義される。FOMが1の場合は理想的な矩形型のバンドパスフィルタである。
【表1】
従来例ではFOMが0.36であるのに対して、本実施例では0.52と極めて信号選択性に優れている。又波長可変範囲は従来例では35nmであるが、本実施例1では50nm以上を実現している。更に偏光モード間のフィルタ中心波長の差は従来例では不明であるが、本実施例1では6pm以内であり、光通信ネットワークで求められる波長ずれ幅±200pm以内を充分満足している。
【0028】
光波長多重通信では、波長1530nmから1565nmまでのCバンド帯(バンド波長範囲35nm)と1565nmから1615nmまでのLバンド帯(バンド波長範囲50nm)が主に使用されている。従来例での波長可変範囲35nmでは、Cバンド帯のみに適用可能である。一方本実施例1で示す波長可変範囲50.7nmでは、Cバンド帯のみならずLバンド帯にも適用することができる。
【0029】
(実施例2)
次に本発明の実施例2について説明する。本実施例2は100GHz周波数間隔用の光通信ネットワークに用いられる6重共振器構造のバンドパスフィルタである。ここで設計波長λ0 は1550nmとした。基板として(株)オハラ製結晶ガラスWMS−15を使用した。高屈折率膜Hとして誘電体薄膜Ta2 O5 (屈折率nH =2.16)を用い、低屈折率膜LとしてSiO2 膜(屈折率nL =1.46)を用いた。誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を以下に示す。
基板/
(H3L)6 H 2L H (3LH)6 5L
[(H3L)7 H 2L H (3LH)7 5L]4
(H3L)6 H 2L H (3LH)5 0.760L 1.376H
/空気(屈折率1.0)
【0030】
本実施例による誘電体多層膜バンドパスフィルタは、基板上に第1〜第6の共振器構造が積層されている。第1の共振器構造の第1のスタック層は(H3L)6 Hであり、スペーサ層は2Lであり、第2のスタック層はH(3LH)6 である。第2〜第5の共振器構造では、第1,第2のスタック層は夫々H(3L)7 H、H(3LH)7 となっている。第2〜第5の共振器構造は同一の共振器構造であって4層積層されており、夫々結合層5Lが設けられる。又最終の共振器構造も第1のスタック層は(H3L)6 Hであり、第2のスタック層はH(3LH)5 とこれに続く最後の2層の膜厚がLHからわずかに異なっている。
【0031】
各共振器構造のスペーサ層の構成は2Lで全て同一である。a=6又は7,b=3,c=3,d=2,e=5である。多層膜の総数は183層、物理膜厚は89.5μmである。バンドパスフィルタの半値全幅の各偏光モードに対応するフィルタ特性の平均値は0.6nmである。入射角度0°の場合は図5(a)にフィルタ透過特性を示すようにフィルタの中心波長は1550nmである。この図に示されるようにS偏光とP偏光及びその平均(Ave)を示す曲線は重なっている。入射角度23.5°の場合は図5(b)に示すように波長1499.5nmであり、入射角度の変化により50.5nmの波長可変性を有していることがわかる。又フィルタの透過バンド帯域は平坦性に優れ、低挿入損失で且つS偏光とP偏光の挿入損失差も極めて少ない特性を示している。偏光特性もS偏光の中心波長はP偏光の透過バンド幅内に収まっており、S偏光及びP偏光のフィルタ透過特性は入射角度を増加しても夫々大きな歪みがないことがわかる。図6に実施例2の中心波長(CWL)の入射角度に対する波長可変特性を示す。入射角を0°から23.5°まで変化させると、波長1550nmから1499.5nmまでの約50.5nmの波長可変性が実現する。
【0032】
又図7はS偏光とP偏光のフィルタ中心波長の差を示す。本図に示すように波長可変範囲50nmを満足する入射角度0°から23.5°の範囲で、10pm以下を実現している。
【0033】
光波長多重通信では波長1530nmから1565nmまでのCバンド帯(バンド波長範囲35nm)と1565nmから1615nmまでのLバンド帯(バンド波長範囲50nm)が主に使用されている。従来例での波長可変範囲35nmではCバンド帯のみに適用可能である。一方本実施例2で示す波長可変範囲50nmでは、Cバンド帯のみならずLバンド帯にも適用することができる。
【0034】
(実施例3)
次に本発明の実施例3について説明する。本実施例3は50GHz周波数間隔用の光通信ネットワークに用いられる7重共振器構造のバンドパスフィルタである。ここで設計波長λ0 は1550nmとした。基板として(株)オハラ製結晶ガラスWMS−15を使用した。高屈折率膜Hとして誘電体薄膜Ta2 O5 (屈折率nH =2.16)を用い、低屈折率膜LとしてSiO2 膜(屈折率nL =1.46)を用いた。誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を以下に示す。
基板/
(H3L)7 H 2L H (3LH)7 11L
[(H3L)8 H 2L H (3LH)8 11L]5
(H3L)7 H 2L H (3LH)6 0.812L 1.31H
/空気(屈折率1.0)
【0035】
本実施例による誘電体多層膜バンドパスフィルタは、基板上に第1〜第7の共振器構造が積層されている。第1の共振器構造の第1のスタック層は(H3L)7 Hであり、第2のスタック層はH(3LH)7 である。第2〜第5の共振器構造では、第1,第2のスタック層はH(3L)8 H、H(3LH)8 となっている。第2〜第5の共振器構造は同一の共振器構造であって5層積層されており、夫々結合層11Lが設けられる。又最終の共振器構造も第1のスタック層は(H3L)7 であり、第2のスタック層はH(3LH)6 とこれに続く最後の2層の膜厚がわずかに異なっている。
【0036】
各共振器構造のスペーサ層の構成は2Lで全て同一である。a=7又は8,b=3,c=3,d=2,e=11である。最後の2層は空気層(屈折率1.0)との整合を高め、挿入損失を低減し、且つ透過バンド内のフィルタ特性を平坦化するために最適化された。多層膜の総数は243層、物理膜厚は128.6μmである。入射角度0°の場合は図8(a)にフィルタ透過特性を示すようにフィルタの中心波長は1550nmである。この図に示されるようにS偏光とP偏光及びその平均(Ave)を示す曲線は重なっている。入射角度23.5°の場合は、図8(b)に示すように波長1499.5nmであり、入射角度の変化により50.5nmの波長可変性を有していることがわかる。又フィルタの透過バンド帯域は平坦性に優れ、低挿入損失で且つS偏光とP偏光の挿入損失差も極めて少ない特性を示している。偏光特性もS偏光の中心波長はP偏光の透過バンド幅内に収まっており、S偏光及びP偏光のフィルタ透過特性は入射角度を増加しても夫々大きな歪みがないことがわかる。図9に実施例3の中心波長(CWL)の入射角度に対する波長可変特性を示す。入射角を0°から23.5°まで変化させると、波長1550nmから1499.5nmまでの約50.5nmの波長可変性が実現する。
【0037】
又図10はS偏光とP偏光のフィルタ中心波長の差を示す。本図に示すように波長可変範囲50nmを満足する入射角度0°から23.5°の範囲で、6pm以下を実現している。
【0038】
光波長多重通信では、波長1530nmから1565nmまでのCバンド帯(バンド波長範囲35nm)と1565nmから1615nmまでのLバンド帯(バンド波長範囲50nm)が主に使用されている。従来例での波長可変範囲35nmではCバンド帯のみに適用可能である。一方本実施例3で示す波長可変範囲50nmでは、Cバンド帯のみならずLバンド帯にも適用することができる。
【0039】
(実施例4)
次に本発明の実施例4について説明する。本実施例4は25GHz周波数間隔用の光通信ネットワークに用いられる4重共振器構造のバンドパスフィルタである。ここで設計波長λ0 は1550nmとした。基板として(株)オハラ製結晶ガラスWMS−15を使用した。高屈折率膜Hとして誘電体薄膜Ta2 O5 (屈折率nH =2.16)を用い、低屈折率膜LとしてSiO2 膜(屈折率nL =1.46)を用いた。誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を以下に示す。
基板/
(H3L)4 H4L H (5LH)4 9L
[2H(H3L)5 H4L H (5LH)5 11L]2
(H3L)4 H 4L H (5LH)3 0.61L 1.58H
/空気(屈折率1.0)
【0040】
本実施例による誘電体多層膜バンドパスフィルタは、基板上に第1〜第4の共振器構造が積層されている。第1の共振器構造の第1のスタック層は(H3L)4 Hであり、第2のスタック層はH(5LH)4 である。第2,第3の共振器構造では、第1,第2のスタック層は2H(H3L)4 H、H(5LH)5 となっている。第2,第3の共振器構造は同一の共振器構造であって2層積層されており、夫々結合層11Lが設けられる。又最終の共振器構造も第1のスタック層は(H3L)4 Hであり、第2のスタック層はH(5LH)3 とこれに続いて最後の2層の膜厚がわずかに異なっている。
【0041】
各共振器構造のスペーサ層の構成は4Lで全て同一である。a=4又は5,b=3,c=5,d=4,e=9又は11である。最後の2層は空気層(屈折率1.0)との整合を高め、挿入損失を低減し、且つ透過バンド内のフィルタ特性を平坦化するために最適化された。多層膜の総数は87層、物理膜厚は58.24μmである。入射角度0°の場合は図11(a)にフィルタ透過特性を示すようにフィルタの中心波長は1550nmである。この図に示されるようにS偏光とP偏光及びその平均(Ave)を示す曲線は重なっている。入射角度23°の場合は、図11(b)に示すように波長1499.3nmであり、入射角度の変化により50.7nmの波長可変性を有していることがわかる。又フィルタの透過バンド帯域は平坦性に優れ、低挿入損失で且つS偏光とP偏光の挿入損失差も極めて少ない特性を示している。偏光特性もS偏光の中心波長はP偏光の透過バンド幅内に収まっており、S偏光及びP偏光のフィルタ透過特性は入射角度を増加しても夫々大きな歪みがないことがわかる。図12に実施例4の中心波長(CWL)の入射角度に対する波長可変特性を示す。入射角を0°から23°まで変化させると、波長1550nmから1499.3nmまでの約50.7nmの波長可変性が実現する。
【0042】
又図13はS偏光とP偏光のフィルタ中心波長の差を示す。本図に示すように波長可変範囲50nmを満足する入射角度0°から23°の範囲で、90pm以下を実現している。
【0043】
光波長多重通信では、波長1530nmから1565nmまでのCバンド帯(バンド波長範囲35nm)と1565nmから1615nmまでのLバンド帯(バンド波長範囲50nm)が主に使用されている。従来例での波長可変範囲35nmではCバンド帯のみに適用可能である。一方本実施例4で示す波長可変範囲50nmでは、Cバンド帯のみならずLバンド帯にも適用することができる。
【0044】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明によれば、スペーサ層を最適化すると共に、4重以上の共振器構造を用いることによって急峻な特性が得られる。そしてP偏光とS偏光との偏光成分が異なってもいずれも同様に波長特性がシフトし、一方の透過バンド幅の範囲内に他方が収まっている。そのため入射角度を変化させても大きな歪みがなくなる。従って入射角を比較的広い範囲で用いることができ、波長可変範囲を広くすることができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の実施例1による誘電体多層膜バンドパスフィルタの構造を示す図であり、(b)はその第1の共振器構造の詳細な構成を示す図である。
【図2】(a)は入射角0°のときの実施例1の波長選択特性を示す図、(b)は入射角24°のときの波長選択特性を示す図である。
【図3】実施例1の入射角度に対する中心波長の変化を示すグラフである。
【図4】実施例1の入射角度に対する偏光モード間の中心波長差を示すグラフである。
【図5】(a)は入射角0°のときの実施例2の波長選択特性を示す図、(b)は入射角23.5°のときの波長選択特性を示す図である。
【図6】実施例2の入射角度に対する中心波長の変化を示すグラフである。
【図7】実施例2の入射角度に対する偏光モード間の中心波長差を示すグラフである。
【図8】(a)は入射角0°のときの実施例3の波長選択特性を示す図、(b)は入射角23.5°のときの波長選択特性を示す図である。
【図9】実施例3の入射角度に対する中心波長の変化を示すグラフである。
【図10】実施例3の入射角度に対する偏光モード間の中心波長差を示すグラフである。
【図11】(a)は入射角0°のときの実施例4の波長選択特性を示す図、(b)は入射角23°のときの波長選択特性を示す図である。
【図12】実施例4の入射角度に対する中心波長の変化を示すグラフである。
【図13】実施例4の入射角度に対する偏光モード間の中心波長差を示すグラフである。
【図14】従来の単一共振器構造の誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造図である。
【図15】従来の2重共振器構造の誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造図である。
【符号の説明】
11 基板
12 第1共振器構造
13 第2共振器構造
14 第3共振器構造
15 第4共振器構造
15 第5共振器構造
12−1 第1スタック層
12−2 スペーサ層
12−3 第2スタック層
12−4 結合層
【発明の属する技術分野】
本発明は誘電体多層膜バンドパスフィルタに関し、特に偏光モードにより波長特性が変化しないようにした誘電体多層膜バンドパスフィルタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
光波長多重通信等において用いられる光バンドパスフィルタには、透過波長帯域において低損失であり、又平坦性が優れていること、透過波長帯域と阻止域とを急峻な透過スロープ特性で分離することが求められている。光通信分野においては波長1200nm〜1800nmが主に使用されており、通常のフィルタの透過幅は0.01nm〜100 nmと広範囲にわたる。誘電体多層膜を用いてバンドパスフィルタを構成する場合には、一般的に共振器構造が広く用いられている。最も簡単な共振器構造は、2つの反射鏡が半波長の整数倍の膜厚を有する誘電体材料からなる場合である。
【0003】
さて、以下では波長選択性を有するための誘電体多層膜構造について説明する。光フィルタの膜設計によれば、屈折率が異なる2つの誘電体薄膜をH及びLとし、夫々の屈折率をnH 、nL (nH >nL )とすると、ある基準波長λ0 を中心に高反射率を有する誘電体多層膜ミラーの膜構造は次式で与えられる。
基板 / H L H L ・・・ H L / 媒質 ・・・(1)
ここで、誘電体薄膜HとLの膜厚dH ,dL は夫々1/4波長の光学膜厚を有し、次式で与えられる。
dH =λ0 /4nH ・・・(2)
dL =λ0 /4nL ・・・(3)
最上層Lは媒質で介しており、一般的に媒質は空気、樹脂溶剤、固形基板等が考えられる。
(1)式はある基板の上に膜厚dH とdL の2種類の誘電体薄膜H,Lを交互に積層することを表している。(1)式は次式のように簡便に表すことができる。
基板 / (HL)n / 媒質 ・・・(4)
この式の中では、H,Lは式(2),(3)で示される膜厚を有する層を表している。又(4)式は基板上にHLのペアの層をn回繰り返し積層することを意味している。
すなわち、
基板 / HLHLHL /媒質
は
基板 /(HL)3 / 媒質
と等価である。
【0004】
ところで、ある特定の光波長成分のみを分離したい場合には、バンドパスフィルタを用いることが多い。図14に単一共振器構造の誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造図を示す。使用する波長帯域において透明な基板1上に高屈折率材料膜(H)と低屈折率材料膜(L)とを交互に積層して第1のスタック層2を設ける。第1のスタック層2は(HL)n Hの膜構造を有する反射鏡であるが、nが0の場合、即ち1層の場合も含まれる。次いでスペーサ層3が積層され、その上部に更に第2のスタック層4、結合層5が積層される。第2のスタック層4はH(LH)n の膜構造を有する反射鏡であり、n=0、即ち1つの層の場合も含まれる。そしてスペーサ層の膜構造はsL(s=2,4・・)である。ここでH及びLは設計波長に対して1/4波長の光学膜厚の層である。バンドパスフィルタのバンド幅はそのフィルタを構成するスタック層2,4の反射率と、スペーサ層3の厚さとに依存する。フィルタを構成する共振器構造は誘電体多層膜フィルタの基本的な積層単位である。
【0005】
この共振器構造は単一又は複数で用いられる。複数の場合は第1の共振器構造の上にフィルタ特性をシャープにするために結合層5と呼ばれる1/4波長の光学膜厚の層Lを介して、別の共振器構造の多層膜が積層される。
【0006】
図15はこの二重共振器構造の誘電体多層膜バンドパスフィルタの一例を示すものである。このバンドパスフィルタは、以下の膜構造を有している。
基板/
[(HL)2 H4LH(LH)2 L][(HL)2 H6LH(LH)2 L]
/媒質
即ち基板1の上部に第1スタック層2a、スペーサ層3a、第2スタック層4aが形成され、結合層5aを介して第2の共振器構造を構成する第2スタック層2b、第2スペーサ層3b、第2スタック層4b、結合層5bが形成されている。更にm重の共振器構造の誘電体多層膜フィルタの場合はこれと同一の共振器構造が順次積層される。
【0007】
さて誘電体多層膜バンドパスフィルタをある光の入射角度で使用する場合に、フィルタの透過特性が劣化しないことが望ましい。誘電体多層膜を基本としたフィルタは干渉効果が最大となる基準波長(リファレンス波長)を波長λ0 とすると、薄膜の基本膜厚である膜厚dH ,dL は前述した(2),(3)で示される。そして光線が多層膜を角度θで伝搬する場合を考えると、(2),(3)式は次式で書き直される。
dH ・cos θ=λ0 /4nH ・・・(5)
dL ・cos θ=λ0 /4nL ・・・(6)
これらの式(5),(6)より、入射光線の多層膜への入射角度を大きくすると基準波長は短波長に変化することがわかる。バンドパスフィルタを作成する場合はこのように多重共振器構造の多層膜設計が用いられる。しかし光の入射角度が0(垂直入射)以外の場合は、通常の膜設計によるとそのバンドパスフィルタの中心波長が2つのS偏光モード、P偏光モードに対して異なり、入射角度が増加するに従い、各偏光モードの中心波長の差が急激に増加する。従って入射角度が大きくなると、フィルタ特性は各偏光モードに対し異なるふるまいを示し、入射光線に対するフィルタ全体の特性が劣化するという欠点があった。
【0008】
このような欠点を解消するために、任意の偏光光線に対して透過した光線の偏光面を90°回転させて再び誘電体多層膜フィルタを通過させることで、偏光依存性を相殺し偏光を無依存化することが提案されている(特許文献1)。
【0009】
又膜構造自体を変更し、偏光モードに対応するバンドパスフィルタ特性が分離しない膜構造を提案したものもある(特許文献2)。
【0010】
【特許文献1】
特開平9−146020号公報
【特許文献2】
米国特許第5,926,317
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
今日の高密度光波長多重通信(DWDM)ネットワークにおける高密度化により、周波数間隔200GHz(波長1.5μmにおいて波長間隔が1.6nm)、100GHz(同0.8nm)、50GHz(同0.4nm)、更には25GHz(同0.2nm)以下へと狭帯域化している。このような狭帯域化に対応するため、バンドパスフィルタへの入射角を変えて波長可変とする場合、各偏光モードに対応した中心波長のずれは200pm以下でなければならない。このような狭帯域の光信号ネットワークに対応した波長可変特性を有する誘電体多層膜フィルタを実現することが必要となっている。従来では偏光モードに応じて中心波長が異なってくるため使用する角度が制限されたり、波長可変範囲が狭いという欠点があった。又特許文献1の方法では、光の取り扱いが複雑になるという欠点があった。又特許文献2の光バンドパスフィルタでは、偏光モードに対するフィルタ特性の分離の改善効果性が充分でないという欠点があった。
【0012】
本発明は誘電体多層膜フィルタにおいて入射角が0より大きく増加しても2つの偏光モードのフィルタ特性が重なり合う特別な条件のフィルタ膜構造を見いだすことによって、2つの偏光モードの中心波長差が大きくならず高密度の光波長多重通信に使用することができる誘電体多層膜フィルタを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本願の請求項1の発明は、基板上に少なくとも4層の基本共振器構造を積層して構成される誘電体多層膜バンドパスフィルタであって、前記基本共振器構造は、第1のスタック層と、スペーサ層と、第2のスタック層とがこの順に積層されたものであり、前記第1のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の光学膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものであり、前記スペーサ層は、1/2波長の光学膜厚の整数倍の膜厚を有する高屈折率材と低屈折率材のいずれかの層であり、前記第2のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成ることを特徴とするものである。
【0014】
本願の請求項2の発明は、基板上に少なくとも4層の基本共振器構造を積層して構成される誘電体多層膜バンドパスフィルタであって、少なくとも最後の基本共振器構造を除く基本共振器構造は、
A=[(XbY)a X]dY[X(cYX)a ]eY
で表されるものであり、ここでXは1/4波長の光学膜厚を有する高屈折率材又は低屈折率材の誘電体薄膜であり、Yはそれ以外の屈折率材の1/4波長の光学膜厚を有する誘電体薄膜であり、[(XbY)a X]は第1のスタック層であり、dYはスペーサ層であり、[X(cYX)a ]は第2のスタック層であり、aは自然数であり、b,cは3以上の正の奇数であり、dは0又は正の偶数であり、eは正の奇数であり、これらの値は各基本共振器構造毎に決められることを特徴とするものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の誘電体多層膜バンドパスフィルタは、基板上に少なくとも4層の基本共振器構造を積層して構成される。基本共振器構造は、第1のスタック層と、スペーサ層と、第2のスタック層とがこの順に積層されたものである。第1のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の光学膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものである。スペーサ層は、1/2波長の光学膜厚の整数倍の膜厚を有する高屈折率材と低屈折率材のいずれかの層である。第2のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものである。
【0016】
発明者はこのような構造によれば、光の入射角度を0より大きく増加しても従来とは異なり、偏光モード間のフィルタ中心波長のずれが極めて小さく、又フィルタ特性が劣化しにくい構造であることを見出した。
【0017】
この基本共振器構造は、第1、第2のスタック層がスペーサ層に対して対称な鏡像の関係にあることが好ましい。この誘電体多層膜バンドパスフィルタの基本共振器構造は、各基本共振器のスペーサ構造が全て同一としてもよい。又誘電体多層膜フィルタの基本共振器構造は、他の共振器構造と連結される際に低屈折率材及び高屈折率材のいずれかの1/4波長の光学膜厚の奇数倍の膜厚の結合層を介して接続することが好ましい。
【0018】
少なくとも最後を除く基本共振器構造は次式で与えられる。
[(XbY)a X]dY[X(cYX)a ]eY
ここでXは式(2)又は(3)で示される1/4波長の光学膜厚を有する高屈折率材、低屈折率材のいずれかの膜である。Yは他方の屈折率材の1/4波長の光学膜厚を有する膜である。XとYとは、互いに異なる屈折率を有している。aは自然数、b,cは3,5,7・・・等の3以上の奇数、dは0,2,4・・・等の零又は正の偶数、eは1,3,5・・・等の正の奇数とする。尚、これらの値a〜eは各基本共振器構造毎に同一でもよく、異なっていてもよい。更に基本共振器構造を4以上持つバンドパスフィルタとする。(XbY)a dYを第1のスタック層といい、それに続くdYをスペーサ層という。又X(cYX)a を第2のスタック層という。この基本共振器構造毎が積層される場合、各層の最上部に前述したようにλ0 /4の奇数倍(e倍)の光学厚さを有するYの結合層を設ける。尚d=0の場合、即ちスペーサ層は存在しないものも含まれる。
【0019】
このような条件を満たした場合に、光線の入射角を0から増加し、フィルタ中心波長を可変する方式においてフィルタ波長可変範囲は50nm以上で、且つ偏光モード間のフィルタ中心波長の差は±200pm以下となる。そして本発明では共振器構造を4重以上とすることによって必要なフィルタ特性をシャープにすることができる。
【0020】
本発明の誘電体多層膜バンドパスフィルタにおいては、基板には使用波長域において透明な広範囲な材料、例えば光学結晶、光学ガラス、石英、透明プラスチック、ポリマー材等を適用できる。誘電体多層膜バンドパスフィルタを構成する光学薄膜材料には、適用波長域において透明で一般的に使用されている材料から選択することができる。
【0021】
高屈折率膜、低屈折率膜としては、例えば屈折率が1.23〜5.67までの範囲では、フッ化カルシウムCaF2 (屈折率1.23)、フッ化マグネシウムMgF2 (屈折率1.38)、二酸化シリコンSiO2 (屈折率1.46)、酸化マグネシウムMgO(屈折率1.80)、五酸化タンタルTa2 O5 (屈折率2.15)、五酸化ニオブNb2 O5 (屈折率2.24)、二酸化チタンTiO2 (屈折率2.45)、セレン化亜鉛ZnSe(屈折率2.40)、テルル化鉛PbTe(屈折率5.67)、窒化アルミニウムAlN(屈折率1.94)、窒化シリコンSi3 N4 (屈折率1.95)、シリコンSi(屈折率3.4)、ゲルマニウムGe(屈折率4.0)、等の光学材料が用いられている。これらの光学薄膜のうち2種を高屈折率膜H、低屈折率膜Lとして選択する。
【0022】
そして薄膜の成膜は、例えば電子ビーム蒸着法、イオンアシスト蒸着法、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタ法、分子線エピタキシー(MBE)法、化学気相蒸着(CVD),ディップコーティング法など、従来より用いられている製法が使用できる。フィルタを構成する多層膜設計においては、市販されている膜設計ソフトウェアが使用できる。例えばTFCalc(Software Spectra Inc.)、Essential Macload (Thin−Film Center, Inc.)などは光通信業界において主に使用されている。
【0023】
【実施例】
(実施例1)
次に本発明の実施例1について説明する。本実施例1は、200GHz周波数間隔用の光通信ネットワークに用いられる5重共振器構造のバンドパスフィルタである。ここで設計波長λ0 は1560nmとした。基板として(株)オハラ製結晶ガラスBK7を使用した。高屈折率膜Hとして、誘電体薄膜Nb2 O5 (屈折率nH =2.25)を用い、低屈折率膜LとしてSiO2 膜(屈折率nL =1.47)を用いた。誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を以下に示す。
基板/
(H3L)5 H 2L H (3LH)5 9L
[(H3L)6 H 2L H (3LH)6 9L]3
(H3L)5 H 2L H (3LH)4 0.686L 1.4974H
/空気(屈折率1.0)
【0024】
図1(a)は本実施例による誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を示す図であり、基板11上に第1〜第5の共振器構造12,13,14,15,16が積層されている。図1(b)は第1の共振器構造12の構造を示している。第1の共振器構造12は、(H3L)5 Hから成る第1のスタック層12−1、2Lから成るスペーサ層12−2、H(3LH)5 から成る第2のスタック層12−3、及び9Lから成る結合層12−4から成り立っている。第2〜第4の共振器構造13〜15は、第1,第2のスタック層の層数を除いて第1の同一の共振器構造と同一であり、これらの共振器構造が3層積層されている。最終の第5の共振器構造のみが最後の2層の膜厚がわずかに異なっている。
【0025】
各共振器構造のスペーサ層の構成は全て同一で、2Lであり、a=5又は6,b=3,c=3,d=2,e=9である。第5の共振器構造の最後の2層は空気層(屈折率1.0)との整合を高め、挿入損失を低減し、且つ透過バンド内のフィルタ特性を平坦化するために最適化された。多層膜の総数は131層、全体の物理膜厚は68.1μmである。各偏光モードに対応するバンドパスフィルタの半値全幅の平均値は0.9nmである。入射角度0°の場合は図2(a)にフィルタの透過特性を示すように、フィルタの中心波長は1560nmである。この図に示されるようにS偏光とP偏光及びその平均(Ave)を示す曲線は重なっている。入射角度24°の場合は図2(b)に示すように、中心波長1508.3nmであり、入射角度の変化により50.7nmの波長可変性を有していることがわかる。又フィルタの透過バンド帯域は平坦性に優れ、低挿入損失で且つS偏光とP偏光の挿入損失差も極めて少ない特性を示している。偏光特性もS偏光の中心波長はP偏光の透過バンド幅内に収まっており、S偏光及びP偏光のフィルタ透過特性は入射角度を増加しても夫々大きな歪みがないことがわかる。図3に実施例1の中心波長(CWL)の入射角度に対する波長可変特性を示す。入射角を0°から24°まで増加すると、波長1560nmから1508.3nmまでの約50.7nmの波長可変性が実現する。
【0026】
又図4はS偏光とP偏光のフィルタ中心波長の差を示す。本図に示すように波長可変範囲50nmを満足する入射角度0°から24°の範囲で、6pm以下を実現している。
【0027】
次に特許文献2で示された3重共振器構造の誘電体多層膜フィルタ(従来例)と、本実施例1との比較を示す。透過バンド半値幅はほぼ同じ1nmと0.9nmである。以下の表1には従来例と本実施例1のフィルタ特性を比較している。ここでFOMとは、挿入損失より0.5dB低い幅で定義される透過帯域幅BWと挿入損失が25dBとなる阻止域幅BWとの比で定義される。FOMが1の場合は理想的な矩形型のバンドパスフィルタである。
【表1】
従来例ではFOMが0.36であるのに対して、本実施例では0.52と極めて信号選択性に優れている。又波長可変範囲は従来例では35nmであるが、本実施例1では50nm以上を実現している。更に偏光モード間のフィルタ中心波長の差は従来例では不明であるが、本実施例1では6pm以内であり、光通信ネットワークで求められる波長ずれ幅±200pm以内を充分満足している。
【0028】
光波長多重通信では、波長1530nmから1565nmまでのCバンド帯(バンド波長範囲35nm)と1565nmから1615nmまでのLバンド帯(バンド波長範囲50nm)が主に使用されている。従来例での波長可変範囲35nmでは、Cバンド帯のみに適用可能である。一方本実施例1で示す波長可変範囲50.7nmでは、Cバンド帯のみならずLバンド帯にも適用することができる。
【0029】
(実施例2)
次に本発明の実施例2について説明する。本実施例2は100GHz周波数間隔用の光通信ネットワークに用いられる6重共振器構造のバンドパスフィルタである。ここで設計波長λ0 は1550nmとした。基板として(株)オハラ製結晶ガラスWMS−15を使用した。高屈折率膜Hとして誘電体薄膜Ta2 O5 (屈折率nH =2.16)を用い、低屈折率膜LとしてSiO2 膜(屈折率nL =1.46)を用いた。誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を以下に示す。
基板/
(H3L)6 H 2L H (3LH)6 5L
[(H3L)7 H 2L H (3LH)7 5L]4
(H3L)6 H 2L H (3LH)5 0.760L 1.376H
/空気(屈折率1.0)
【0030】
本実施例による誘電体多層膜バンドパスフィルタは、基板上に第1〜第6の共振器構造が積層されている。第1の共振器構造の第1のスタック層は(H3L)6 Hであり、スペーサ層は2Lであり、第2のスタック層はH(3LH)6 である。第2〜第5の共振器構造では、第1,第2のスタック層は夫々H(3L)7 H、H(3LH)7 となっている。第2〜第5の共振器構造は同一の共振器構造であって4層積層されており、夫々結合層5Lが設けられる。又最終の共振器構造も第1のスタック層は(H3L)6 Hであり、第2のスタック層はH(3LH)5 とこれに続く最後の2層の膜厚がLHからわずかに異なっている。
【0031】
各共振器構造のスペーサ層の構成は2Lで全て同一である。a=6又は7,b=3,c=3,d=2,e=5である。多層膜の総数は183層、物理膜厚は89.5μmである。バンドパスフィルタの半値全幅の各偏光モードに対応するフィルタ特性の平均値は0.6nmである。入射角度0°の場合は図5(a)にフィルタ透過特性を示すようにフィルタの中心波長は1550nmである。この図に示されるようにS偏光とP偏光及びその平均(Ave)を示す曲線は重なっている。入射角度23.5°の場合は図5(b)に示すように波長1499.5nmであり、入射角度の変化により50.5nmの波長可変性を有していることがわかる。又フィルタの透過バンド帯域は平坦性に優れ、低挿入損失で且つS偏光とP偏光の挿入損失差も極めて少ない特性を示している。偏光特性もS偏光の中心波長はP偏光の透過バンド幅内に収まっており、S偏光及びP偏光のフィルタ透過特性は入射角度を増加しても夫々大きな歪みがないことがわかる。図6に実施例2の中心波長(CWL)の入射角度に対する波長可変特性を示す。入射角を0°から23.5°まで変化させると、波長1550nmから1499.5nmまでの約50.5nmの波長可変性が実現する。
【0032】
又図7はS偏光とP偏光のフィルタ中心波長の差を示す。本図に示すように波長可変範囲50nmを満足する入射角度0°から23.5°の範囲で、10pm以下を実現している。
【0033】
光波長多重通信では波長1530nmから1565nmまでのCバンド帯(バンド波長範囲35nm)と1565nmから1615nmまでのLバンド帯(バンド波長範囲50nm)が主に使用されている。従来例での波長可変範囲35nmではCバンド帯のみに適用可能である。一方本実施例2で示す波長可変範囲50nmでは、Cバンド帯のみならずLバンド帯にも適用することができる。
【0034】
(実施例3)
次に本発明の実施例3について説明する。本実施例3は50GHz周波数間隔用の光通信ネットワークに用いられる7重共振器構造のバンドパスフィルタである。ここで設計波長λ0 は1550nmとした。基板として(株)オハラ製結晶ガラスWMS−15を使用した。高屈折率膜Hとして誘電体薄膜Ta2 O5 (屈折率nH =2.16)を用い、低屈折率膜LとしてSiO2 膜(屈折率nL =1.46)を用いた。誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を以下に示す。
基板/
(H3L)7 H 2L H (3LH)7 11L
[(H3L)8 H 2L H (3LH)8 11L]5
(H3L)7 H 2L H (3LH)6 0.812L 1.31H
/空気(屈折率1.0)
【0035】
本実施例による誘電体多層膜バンドパスフィルタは、基板上に第1〜第7の共振器構造が積層されている。第1の共振器構造の第1のスタック層は(H3L)7 Hであり、第2のスタック層はH(3LH)7 である。第2〜第5の共振器構造では、第1,第2のスタック層はH(3L)8 H、H(3LH)8 となっている。第2〜第5の共振器構造は同一の共振器構造であって5層積層されており、夫々結合層11Lが設けられる。又最終の共振器構造も第1のスタック層は(H3L)7 であり、第2のスタック層はH(3LH)6 とこれに続く最後の2層の膜厚がわずかに異なっている。
【0036】
各共振器構造のスペーサ層の構成は2Lで全て同一である。a=7又は8,b=3,c=3,d=2,e=11である。最後の2層は空気層(屈折率1.0)との整合を高め、挿入損失を低減し、且つ透過バンド内のフィルタ特性を平坦化するために最適化された。多層膜の総数は243層、物理膜厚は128.6μmである。入射角度0°の場合は図8(a)にフィルタ透過特性を示すようにフィルタの中心波長は1550nmである。この図に示されるようにS偏光とP偏光及びその平均(Ave)を示す曲線は重なっている。入射角度23.5°の場合は、図8(b)に示すように波長1499.5nmであり、入射角度の変化により50.5nmの波長可変性を有していることがわかる。又フィルタの透過バンド帯域は平坦性に優れ、低挿入損失で且つS偏光とP偏光の挿入損失差も極めて少ない特性を示している。偏光特性もS偏光の中心波長はP偏光の透過バンド幅内に収まっており、S偏光及びP偏光のフィルタ透過特性は入射角度を増加しても夫々大きな歪みがないことがわかる。図9に実施例3の中心波長(CWL)の入射角度に対する波長可変特性を示す。入射角を0°から23.5°まで変化させると、波長1550nmから1499.5nmまでの約50.5nmの波長可変性が実現する。
【0037】
又図10はS偏光とP偏光のフィルタ中心波長の差を示す。本図に示すように波長可変範囲50nmを満足する入射角度0°から23.5°の範囲で、6pm以下を実現している。
【0038】
光波長多重通信では、波長1530nmから1565nmまでのCバンド帯(バンド波長範囲35nm)と1565nmから1615nmまでのLバンド帯(バンド波長範囲50nm)が主に使用されている。従来例での波長可変範囲35nmではCバンド帯のみに適用可能である。一方本実施例3で示す波長可変範囲50nmでは、Cバンド帯のみならずLバンド帯にも適用することができる。
【0039】
(実施例4)
次に本発明の実施例4について説明する。本実施例4は25GHz周波数間隔用の光通信ネットワークに用いられる4重共振器構造のバンドパスフィルタである。ここで設計波長λ0 は1550nmとした。基板として(株)オハラ製結晶ガラスWMS−15を使用した。高屈折率膜Hとして誘電体薄膜Ta2 O5 (屈折率nH =2.16)を用い、低屈折率膜LとしてSiO2 膜(屈折率nL =1.46)を用いた。誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造を以下に示す。
基板/
(H3L)4 H4L H (5LH)4 9L
[2H(H3L)5 H4L H (5LH)5 11L]2
(H3L)4 H 4L H (5LH)3 0.61L 1.58H
/空気(屈折率1.0)
【0040】
本実施例による誘電体多層膜バンドパスフィルタは、基板上に第1〜第4の共振器構造が積層されている。第1の共振器構造の第1のスタック層は(H3L)4 Hであり、第2のスタック層はH(5LH)4 である。第2,第3の共振器構造では、第1,第2のスタック層は2H(H3L)4 H、H(5LH)5 となっている。第2,第3の共振器構造は同一の共振器構造であって2層積層されており、夫々結合層11Lが設けられる。又最終の共振器構造も第1のスタック層は(H3L)4 Hであり、第2のスタック層はH(5LH)3 とこれに続いて最後の2層の膜厚がわずかに異なっている。
【0041】
各共振器構造のスペーサ層の構成は4Lで全て同一である。a=4又は5,b=3,c=5,d=4,e=9又は11である。最後の2層は空気層(屈折率1.0)との整合を高め、挿入損失を低減し、且つ透過バンド内のフィルタ特性を平坦化するために最適化された。多層膜の総数は87層、物理膜厚は58.24μmである。入射角度0°の場合は図11(a)にフィルタ透過特性を示すようにフィルタの中心波長は1550nmである。この図に示されるようにS偏光とP偏光及びその平均(Ave)を示す曲線は重なっている。入射角度23°の場合は、図11(b)に示すように波長1499.3nmであり、入射角度の変化により50.7nmの波長可変性を有していることがわかる。又フィルタの透過バンド帯域は平坦性に優れ、低挿入損失で且つS偏光とP偏光の挿入損失差も極めて少ない特性を示している。偏光特性もS偏光の中心波長はP偏光の透過バンド幅内に収まっており、S偏光及びP偏光のフィルタ透過特性は入射角度を増加しても夫々大きな歪みがないことがわかる。図12に実施例4の中心波長(CWL)の入射角度に対する波長可変特性を示す。入射角を0°から23°まで変化させると、波長1550nmから1499.3nmまでの約50.7nmの波長可変性が実現する。
【0042】
又図13はS偏光とP偏光のフィルタ中心波長の差を示す。本図に示すように波長可変範囲50nmを満足する入射角度0°から23°の範囲で、90pm以下を実現している。
【0043】
光波長多重通信では、波長1530nmから1565nmまでのCバンド帯(バンド波長範囲35nm)と1565nmから1615nmまでのLバンド帯(バンド波長範囲50nm)が主に使用されている。従来例での波長可変範囲35nmではCバンド帯のみに適用可能である。一方本実施例4で示す波長可変範囲50nmでは、Cバンド帯のみならずLバンド帯にも適用することができる。
【0044】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明によれば、スペーサ層を最適化すると共に、4重以上の共振器構造を用いることによって急峻な特性が得られる。そしてP偏光とS偏光との偏光成分が異なってもいずれも同様に波長特性がシフトし、一方の透過バンド幅の範囲内に他方が収まっている。そのため入射角度を変化させても大きな歪みがなくなる。従って入射角を比較的広い範囲で用いることができ、波長可変範囲を広くすることができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の実施例1による誘電体多層膜バンドパスフィルタの構造を示す図であり、(b)はその第1の共振器構造の詳細な構成を示す図である。
【図2】(a)は入射角0°のときの実施例1の波長選択特性を示す図、(b)は入射角24°のときの波長選択特性を示す図である。
【図3】実施例1の入射角度に対する中心波長の変化を示すグラフである。
【図4】実施例1の入射角度に対する偏光モード間の中心波長差を示すグラフである。
【図5】(a)は入射角0°のときの実施例2の波長選択特性を示す図、(b)は入射角23.5°のときの波長選択特性を示す図である。
【図6】実施例2の入射角度に対する中心波長の変化を示すグラフである。
【図7】実施例2の入射角度に対する偏光モード間の中心波長差を示すグラフである。
【図8】(a)は入射角0°のときの実施例3の波長選択特性を示す図、(b)は入射角23.5°のときの波長選択特性を示す図である。
【図9】実施例3の入射角度に対する中心波長の変化を示すグラフである。
【図10】実施例3の入射角度に対する偏光モード間の中心波長差を示すグラフである。
【図11】(a)は入射角0°のときの実施例4の波長選択特性を示す図、(b)は入射角23°のときの波長選択特性を示す図である。
【図12】実施例4の入射角度に対する中心波長の変化を示すグラフである。
【図13】実施例4の入射角度に対する偏光モード間の中心波長差を示すグラフである。
【図14】従来の単一共振器構造の誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造図である。
【図15】従来の2重共振器構造の誘電体多層膜バンドパスフィルタの膜構造図である。
【符号の説明】
11 基板
12 第1共振器構造
13 第2共振器構造
14 第3共振器構造
15 第4共振器構造
15 第5共振器構造
12−1 第1スタック層
12−2 スペーサ層
12−3 第2スタック層
12−4 結合層
Claims (5)
- 基板上に少なくとも4層の基本共振器構造を積層して構成される誘電体多層膜バンドパスフィルタであって、
前記基本共振器構造は、第1のスタック層と、スペーサ層と、第2のスタック層とがこの順に積層されたものであり、
前記第1のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の光学膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものであり、
前記スペーサ層は、1/2波長の光学膜厚の整数倍の膜厚を有する高屈折率材と低屈折率材のいずれかの層であり、
前記第2のスタック層は、高屈折率材と低屈折率材とを交互に積層した1/4波長もしくはその奇数倍の膜厚の誘電体薄膜より構成され、奇数の層数から成るものであることを特徴とする誘電体多層膜バンドパスフィルタ。 - 基板上に少なくとも4層の基本共振器構造を積層して構成される誘電体多層膜バンドパスフィルタであって、
少なくとも最後の基本共振器構造を除く基本共振器構造は、
A=[(XbY)a X]dY[X(cYX)a ]eY
で表されるものであり、ここでXは1/4波長の光学膜厚を有する高屈折率材又は低屈折率材の誘電体薄膜であり、Yはそれ以外の屈折率材の1/4波長の光学膜厚を有する誘電体薄膜であり、[(XbY)a X]は第1のスタック層であり、dYはスペーサ層であり、[X(cYX)a ]は第2のスタック層であり、aは自然数であり、b,cは3以上の正の奇数であり、dは0又は正の偶数であり、eは正の奇数であり、これらの値は各基本共振器構造毎に決められることを特徴とする誘電体多層膜バンドパスフィルタ。 - 前記基本共振器構造は、前記第1、第2のスタック層が前記スペーサ層に対して対称な鏡像の関係にあることを特徴とする請求項1又は2記載の誘電体多層膜バンドパスフィルタ。
- 前記誘電体多層膜バンドパスフィルタの基本共振器構造は、各基本共振器のスペーサ構造が全て同一であることを特徴とする請求項1又は2記載の誘電体多層膜バンドパスフィルタ。
- 前記誘電体多層膜フィルタの基本共振器構造は、他の共振器構造と連結される際に結合部分に低屈折率材及び高屈折率材のいずれかの1/4波長の奇数倍の光学膜厚の結合層を含むことを特徴とする請求項1記載の誘電体多層膜バンドパスフィルタ。
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