JP2004163394A - 液滴吐出ヘッド及びその製造方法、マイクロアレイ製造装置並びにマイクロアレイの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】試料溶液の吐出に適した液滴吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】試料溶液を吐出するための液滴吐出ヘッド1であって、液滴吐出ヘッド1の内壁のうち、試料溶液が接触する部位が、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアクリレート又はポリエチレングリコールメタクリレート等を含む親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されている液滴吐出ヘッドにより課題を解決する。
【選択図】 図1
【解決手段】試料溶液を吐出するための液滴吐出ヘッド1であって、液滴吐出ヘッド1の内壁のうち、試料溶液が接触する部位が、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアクリレート又はポリエチレングリコールメタクリレート等を含む親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されている液滴吐出ヘッドにより課題を解決する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液滴吐出ヘッド等に関し、特に、生体関連物質に用いる液滴吐出ヘッド等に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、DNAの塩基配列の解読、及び遺伝子情報の機能解析が課題となっており、遺伝子発現パターンのモニタリング、新規遺伝子のスクリーニングをするための技術として、DNAマイクロアレイ(DNAチップともいう)が利用されている。同アレイでは、プローブDNAを調製し、スライドガラスなどの基板(マイクロアレイ基板)上に高密度にスポッティングした後、蛍光標識したターゲットDNAのうちプローブDNAと相補的な塩基配列を有するターゲットDNAをハイブリダイズ(二重鎖形成)させ、蛍光パターンを観察することにより、遺伝子発現量を評価している。同アレイのサイズは通常1cm2 〜10cm2 で、この領域に数千〜数万種のプローブDNAを高密度にスポッティングし、固定させる必要があるが、従来は、このようなプローブDNAの固定化は、接触ピンにより行われていた。
【0003】
また、ゲノムプロジェクトの終了に伴い、次の段階としてタンパク質解析に注目が集まっており、DNAマイクロアレイと同様の原理を用いたプロテインチップの開発が行われている。このような状況下で、インクジェット(液滴吐出)法を利用したプローブDNA又はタンパク質の固定化方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−187900号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
インクジェット法によれば、迅速に、安定したスポット形状を形成することができ、また、ノズル間ピッチを狭くすることで、高密度のマイクロアレイを作製することが可能である。
【0006】
しかしながら、例えば、プロテインチップの作製には、プローブとしてタンパク質を用いるが、液滴吐出ヘッドにタンパク質を含む試料溶液を用いた場合、液滴吐出ヘッドの内壁にタンパク質が付着してしまい、吐出性能を下げるおそれがあった。また、液滴吐出ヘッドの内壁にタンパク質が付着することで、試料溶液の濃度が不均一になったり、さらには、タンパク質の構造自体が変化してタンパク質本来の活性が失われてしまうなどの問題があった。このように、タンパク質をはじめとする生体関連物質が液滴吐出ヘッドの内壁に付着してしまうと、液滴吐出ヘッドやマイクロアレイ製造装置の寿命を損なうだけでなく、製造されるマイクロアレイ等の品質にも影響を与えることになる。
【0007】
そこで、本発明は、生体関連物質に特に好適に用いられる液滴吐出ヘッド(例えばインクジェットヘッド)を提供することを課題とする。
また、本発明は、生体関連物質にダメージを与えることなく、固相(例えばマイクロアレイ基板)上へのプローブの固定を簡易かつ迅速に行える液滴吐出ヘッド、マイクロアレイ製造装置、マイクロアレイの製造方法などを提案することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、本発明の液滴吐出ヘッドは、試料溶液を吐出するための液滴吐出ヘッドであって、上記液滴吐出ヘッドの内壁のうち、上記試料溶液が接触する部位が、親水性を有するホモポリマー(以下、親水性ホモポリマーという)又は親水性を有するモノマー(以下、親水性モノマーという)を含むコポリマーにより被覆されている、ことを特徴としている。
かかる構成によれば、試料溶液の接触する部位が、生体適合性のある親水性を有するホモポリマー(重合体)又は親水性を有するモノマー(単量体)を含むコポリマー(共重合体)により被覆されているので、生体分子に対する適合性(以下、生体分子適合性という)に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度が時間によって変化するのを防止でき、また、例えば、試料溶液に含まれる生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して構造変化することによる失活の問題も防止し得る。
【0009】
本発明は、試料溶液として、例えば、生体関連物質を含む溶液を用いる場合に好適に用いられる。ここで生体関連物質とは、具体的には、細胞、タンパク質、核酸等の生体物質の他、人工的に合成されたオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、PNA(peptide nucleic acid)等の類縁体をも含む。
【0010】
上記液滴吐出ヘッドは、静電駆動方式又は圧電駆動方式であることが好ましい。かかる方式によれば、生体関連物質を加熱せずに吐出を行えるので、例えば、試料溶液中に含まれる生体関連物質にダメージを与えることなく、マイクロアレイ基板上に安定した吐出が可能となる。
【0011】
本発明の他の態様に係る液滴吐出ヘッドは、試料溶液を吐出するための液滴吐出ヘッドであって、表面に1又は複数の電極を有する第1の基板と、上記第1の基板の前記電極が設置されている部位と微小ギャップを介して対向するように配置され、上記電極との電位差に対応する静電力によって弾性変形する1又は複数の振動板と、該各振動板に対応して設けられ、該振動板の変位により圧力が加減される前記試料溶液が充填されている1又は複数の加圧室とを有する第2の基板と、上記各加圧室から押出された前記試料溶液を吐出するための1又は複数のノズル孔を有する第3の基板と、上記第1の基板の電極が設けられた面と反対の面側に配置され、上記試料溶液を収容するための収容室を有する収容部とを備え、さらに、上記第1の基板及び上記第2の基板に、上記収容部から上記加圧室を繋ぐ流路を有し、少なくとも上記収容室、上記加圧室、上記流路、及び上記ノズル孔を形成する壁面が、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されていることを特徴としている。
かかる構成によれば、試料溶液の接触する部位が、生体適合性のある親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されているので、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度が経時変化することを防止でき、また、例えば、試料溶液に含まれる生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着し、構造変化して失活するといった問題も防止し得る。また、試料溶液を加熱せずに吐出できる静電駆動方式を採用しているので、例えば、試料溶液に含まれる生体関連物質にダメージを与えることなく、固相(例えばマイクロアレイ基板)表面上に安定した吐出が可能である。また、複数の収容室、加圧室、ノズル、及びこれらを繋ぐ流路を各々一の基板上に備えているので、一括して加工でき、簡略な工程で、DNAやタンパク質等のより多くの種類の試料溶液をスポッティングすることが可能な液滴吐出ヘッドを提供し得る。また、被覆により生じた膜の膜厚が200nm以下となるようにして、付着防止の効果を上げる。
【0012】
上記親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーは、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレートから選ばれる少なくとも1種のモノマーから構成されていることが好ましい。これらの親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーは優れた生体適合性を有し、例えば、試料溶液中に含まれるタンパク質等の生体関連物質の付着を有効に防止し得る。
【0013】
上記液滴吐出ヘッドが、ガラス及び/又はシリコンからなることが好ましい。ガラス及びシリコンは、フォトリソグラフィにより微細加工が可能であるので好適である。また、基板からの溶出成分がなく表面がきわめて平滑なので、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより、均一で安定な被膜を形成し得る。
【0014】
上記第1の基板がガラス基板であり、上記第2の基板がシリコン基板であることが好ましい。かかる構成によれば、フォトリソグラフィ法により微細加工が可能であるので好適である。また、静電駆動方式を用いた場合、シリコンを加圧室の振動板として用いることができるので、耐久性が高い。
【0015】
また、上記ノズル孔付近のノズル面が、撥水性を有するように表面処理されていることが好ましい。ノズル面を撥水性処理することで、ノズル面における試料溶液、例えば、生体関連物質含有溶液の混合を確実に防止することができる。
【0016】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、印加信号に応じて、貯留する試料溶液を吐出する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、上記試料溶液の供給孔から液滴吐出ノズルに至るまでの試料溶液の接触部位となる部分に、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーを含む溶液を接触させ、付着させる工程と、上記付着させた試料溶液を乾燥させ、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーからなる被膜を前記接触部位となる部分に形成する工程と、を含むことを特徴としている。
かかる構成により、試料溶液が接触する部位に、生体適合性のある親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーからなる被膜を形成し得るので、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度が変化したり、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して構造変化して失活することのない液滴吐出ヘッドを提供し得る。
【0017】
上記付着工程が、上記試料溶液の供給孔から液滴吐出ノズルに至るまでの試料溶液の接触部位となる部分に、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーを含む溶液を満たすことにより、付着させる工程であってもよい。かかる構成によれば、試料溶液が接触する部分に十分に被膜形成成分をいきわたらせることができるので、試料溶液が接触する部分に満遍なく被膜を形成することが可能となる。
【0018】
本発明の他の態様による液滴吐出ヘッドの製造方法は、生体関連物質を含有する溶液(以下、生体関連物質含有溶液ともいう)を収容するための収容室と、該生体関連物質含有溶液を吐出するための圧力を付与する加圧室と、上記収容室と上記加圧室を繋ぐ流路と、上記加圧室で押圧された液滴を吐出するノズル孔とを少なくとも備えた液滴吐出ヘッドの上記収容室、上記加圧室、上記流路及び上記ノズル孔に、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーを含む溶液を充填する工程と、上記充填した溶液の溶媒を蒸発させ、前記ポリマー又は前記コポリマーからなる被膜を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
かかる構成により、生体関連物質含有溶液の接触する部位に、生体適合性のある親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーからなる膜を形成し得るので、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、生体関連物質含有溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、溶液の濃度が変化したり、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して構造変化して失活することのない液滴吐出ヘッドを提供し得る。さらに、加熱処理して、前記被膜を固定化する工程を含んでもよい。被膜形成成分として架橋剤を含み、基材表面に被膜を固定化する場合のように、被膜形成成分と基材との結合が、加熱により促進される場合には、必要に応じて、加熱処理を行ってもよい。
【0019】
本発明のマイクロアレイ製造装置は、上記液滴吐出ヘッドと、上記液滴吐出ヘッドと該液滴吐出ヘッドから吐出された前記試料溶液を受けるマイクロアレイ基板との相対的な位置を設定する位置制御手段と、を備えていることを特徴としている。かかる構成によれば、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを用いるので、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度変化や、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着し、構造変化して失活するのを防止し得る。また、液滴吐出ヘッドとマイクロアレイ基板との位置を相対的に制御し得るので、液滴吐出ヘッドをマイクロアレイ基板上のいずれの場所にも自在に移動することができ、効率よくマイクロアレイを作製することが可能となる。
【0020】
本発明のマイクロアレイの製造方法は、上記液滴吐出ヘッド、上記マイクロアレイ製造装置を用いて、標的分子と特異的に結合するプローブを含む溶液を、マイクロアレイ基板上に吐出して、マイクロアレイ基板表面に上記プローブを固定させることを特徴としている。かかる構成によれば、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを用いるので、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度変化や、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着し、構造変化して失活するのを防止でき、吐出が安定する。したがって、プローブ量が一定なマイクロアレイを形成し得る。
また、上記液滴吐出ヘッドが複数のノズルを有し、ノズル毎に異なるプローブを吐出することが好ましい。かかる構成によれば、一つの基板上で、多数の試験をし得るマイクロアレイを提供し得る。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドを概略的に説明する上面図である。また、図2は図1におけるa点〜j点に沿って液滴吐出ヘッド1を切断したときの断面図を示す(e−f間についてはヘッドの構成を見やすくするため、図1とは横の比率が若干異なっている)。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド1は、DNA及びタンパク質などの生体関連物質を含む試料溶液を収容し得る複数の収容室101を備えている。試料溶液はこれらの収容室101に設けられた供給孔(図示せず)から供給される、試料溶液としてのDNAやタンパク質等の生体関連物質を含有する溶液は、各々マイクロチャンネル131を通じて、加圧室105に導入され、振動板109の弾性変位による内部圧力の変動によってノズル孔106から液滴として吐出される。
【0023】
図2に示すように、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド1は、電極108が形成された第1の基板(以下、電極基板という)121、試料溶液を吐出するための圧力を付与する加圧室105となる凹部を備えた第2の基板(以下、加圧室基板という)122、ノズル孔106を有する第3の基板(以下、ノズル基板という)123、及び上記試料溶液を収容するための収容室101を有する収容部120で要部が構成されている。また、必要に応じて、収容室101と加圧室105を繋ぐマイクロチャンネル131(以下、単に流路(溶液が流れる路)ともいう)が形成された流路基板124が含まれていてもよい。
【0024】
図3は本発明の本実施形態に係る液滴吐出ヘッド1の動作機構を説明するための概念図である。次に、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド1の構成及び動作機構について、図3を参照しながら説明する。また、同図においては、説明の便宜上、流路基板124は記載せず、収容部120、電極基板121、加圧室基板122、及びノズル基板123の4層構造からなる液滴吐出ヘッド1について記載する。また、同図では、単一の加圧室105のみを図示する。
【0025】
加圧室基板122には、ノズル基板123と対向する面に、断面凹部形状の加圧室105と、収容部120に設けられた収容室101からの試料溶液を各加圧室105に供給するための流路102、103、104が形成されている。加圧室105の形状は、特に限定されず、例えば、面方位を(110)のシリコン基板を用い、水酸化カリウム水溶液などで異方性エッチングを行った場合には、加圧室105はシリコン基板に垂直な面に対して約35度の角度をなす斜面から構成される断面舟型になる。同基板の表面及び裏面には熱酸化法によって例えば約1μmの膜厚に成膜されたシリコン酸化膜が成膜されていてもよい。また、流路102、103、104についても、特に形状は限定されず、例えばエッチングにより、加圧室105と同時に形成してもよい。なお、収容室101からの試料溶液は、基板に対して垂直方向に設けられた流路102を通過して、流路102の下方に接続する流路103に一旦溜り、小径の流路104を介して、加圧室105に送られる。
【0026】
加圧室105を構成する材料は、特に限定するものではなく、ガラス、シリコン、樹脂等のいずれも用いられるが、微細加工性、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーの被膜均一性の観点からは、例えばガラス基板又はシリコン基板を用いることが好ましく、特に耐久性の観点からは、シリコン基板が好ましい。
【0027】
なお、このようなシリコン基板としては、単結晶シリコン基板、多結晶シリコン基板、SOI(Silicon On Insulator)基板の何れであってもよい。また、シリコン酸化膜の成膜法としては、熱酸化法に限らず、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、ゾル・ゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition )法などの各種の成膜技術を利用できる。
【0028】
ノズル基板123には、各々の加圧室105で押圧された試料溶液を外部に吐出するためのノズル孔106が、加圧室105に対応する位置に形成されている。ノズル基板123としては、例えば、シリコン基板又はガラス基板を用いることができるが、特に、シリコン基板が好適である。ノズル基板123をシリコン基板にすることによって、生体関連物質との親和性を確保でき、また、加工性にも優れる。ノズル基板123の加圧室基板122が接合するのと反対側の面(以下、ノズル面という)のノズル孔106付近は、撥水処理されていることが好ましい。ノズル面が撥水処理されていることで、隣接するノズル孔106間で異種の試料溶液を吐出する場合でもクロスコンタミネーションを防止し得る。
【0029】
電極基板121の加圧室基板122に対向する面には、加圧室105に対応する位置に、加圧室基板122の加圧室105の底部に設けられた振動板109とほぼ一定の微小ギャップを形成せしめるだけの凹部111が形成されている。微小ギャップの間隔は液滴吐出ヘッド1を静電駆動するために必要かつ十分な間隔であることが必要であり、例えば、0.2μmが好適である。当該凹部111の底面には加圧室基板122との間で静電力を生じせしめるための細長い電極108が成膜されている。電極108を成膜するには、例えば、スパッタ法を用いてインジウム・ティン・オキサイド(ITO)を約0.1μmの厚さで成膜すればよい。
【0030】
加圧室基板122、電極基板121、及びノズル基板123として、ホウケイ酸ガラス及びシリコン基板を組み合わせて用いた場合には、各基板同士は、例えば陽極接合にて接合することができる。陽極接合によれば、静電気の吸引力で強力に接合できるため、簡便に接合し得る。また、加圧室基板122、電極基板121、及びノズル基板123として、シリコン基板を用いた場合には、各基板同士は、例えば接着剤等を用いて接合することができる。
【0031】
電極基板121と加圧室基板122とを陽極接合するには、例えば、ホウケイ酸ガラス基板からなる電極基板121と、シリコン基板からなる加圧室基板122とを用い、電極基板121と加圧室基板122とにおいて、流路102を形成する102a、102bが繋がり、加圧室105が電極108に対応するように精密に位置合わせをしつつ、適度な圧着力で両者を重ね合わせて、300℃〜500℃近くに昇温させ、1×10-4Torr(1.33×10-2Pa)程度の真空若しくは窒素雰囲気下において、シリコン基板側が正電位となるように両基板間に200V〜1000Vの直流電圧を印加する。すると、ホウケイ酸ガラス基板に含まれているアルカリ金属イオンであるナトリウムイオンがホウケイ酸ガラス基板の反対側(図示左側)の表面に偏析する。一方、同基板中に残留する多量のマイナスイオンがシリコン基板との接合面に空間電荷層を形成して、シリコン基板とホウケイ酸ガラス基板との間に強い静電吸引力を誘起し、両者を強力に接合せしめる。なお、ホウケイ酸ガラス基板は、アルカリイオンを多く含み、陽極接合に好適であるだけでなく、熱膨張係数がシリコン基板とほぼ一致するため、基板の接合面における歪みが少ない確実な接合が得られる。
【0032】
加圧室基板122と電極基板121とを接合した後、両者の微小ギャップの間隔を維持するために、エポキシ樹脂などの適度な弾力性と絶縁性に優れた支持部材110を同基板の上端部において、微小ギャップの間に挿嵌する。
【0033】
シリコン基板からなる加圧室基板122とノズル基板123は、生体関連物質に影響を及ぼさない接着剤により接合する。なお、電極基板121やノズル基板123として、表面を酸化処理したシリコン基板を用いてもよい。特に、電極基板121にシリコン基板を用いる場合には、電極108が成膜されるべき箇所にp型若しくはn型の不純物を拡散することで、電極108の役割を担う電極層を形成することができる。
【0034】
収容部120には、貫通孔が形成されており、電極基板121と接合することにより、試料溶液を収容する収容室101が形成されている。収容室101の基板平面と平行な面における断面形状は、円形状であっても、四角形状であってもよく、特に限定されない。ただし、試料溶液の損失を防止するという観点からは、貫通孔と同じ円形状であることが好ましい。また、本実施形態では、収容部120は、基板上に設けた貫通孔により形成しているが、これに限定されず、各加圧室105に繋がる流路に連結し得る貫通孔を備えた凹部を複数有する容器であってもよい。
【0035】
収容部120の材料についても、特に限定されず、ガラス、シリコン、樹脂等のいずれを用いてもよいが、加工性等の観点から、例えばアクリル樹脂(例:ポリメチルメタクリレート(PMMA))又はポリ塩化ビニル(PVC)などの樹脂が用いられる。収容部120と電極基板121の接合は、両基板を所定の位置に調整し、生体関連物質に影響を与えないような接着剤により接着固定することにより行われる。
【0036】
また、電極基板121と収容部120との間に流路基板124が形成されていてもよい。このような流路基板124は、例えば、シリコン基板又はガラス基板により構成され、例えばエッチングにより溝を形成することで、電極基板121に形成された流路102bと収容室101を繋ぐマイクロチャンネル(流路)131を形成し得る。
【0037】
本実施形態では、液滴吐出ヘッド1の内壁のうち、試料溶液が接触する部位が、親水性を有するポリマー(以下、親水性ポリマーといい、下記のように、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーを含めたものをいう)により被覆されている。具体的には、本実施形態では、液滴吐出ヘッド1の内壁の試料溶液を収容する収容室101、流路102、103、104、加圧室105、及びノズル孔106の内壁が、親水性ポリマーにより被覆されている。そして、被覆により生じた膜の膜厚が200nm以下となるようにする。
【0038】
親水性ポリマーを構成する親水性モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、グリセリルメタクリレート、アクリルアミド、セルロース、セルロース誘導体等を挙げることができる。なかでも、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートが、生体適合性、入手が容易等の観点から好ましい。
【0039】
これらの親水性ポリマーは、1種類のモノマーで構成されるホモポリマー(モノポリマー又は単にポリマーともいう)でも、2種以上組み合せたブロックコポリマーやランダムコポリマーでもよい。コポリマーを構成するモノマーの中に疎水性モノマーが含有されていてもよいが、その親水性が損なわれない範囲にとどめておく必要がある。疎水性モノマーの割合が多すぎて被膜の親水性が損なわれた場合には、液滴吐出ヘッド1での生体分子適合性が十分発現されない。
【0040】
また、親水性モノマーを含むコポリマーの親水性モノマー以外の構成単位として、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、スチレン誘導体、アルキルメタクリレート、ビニルクロライド、ビニリデンクロライド、メタクリロニトリル等を用いることができる。なかでもエチレン、スチレン、スチレン誘導体を用いると、固相表面との結合性に優れ、好ましい。このような親水性モノマーからなる親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーは、従来公知の方法により製造することができる。
【0041】
次に、親水性ポリマーの被覆方法の一例について説明する。親水性ポリマーが可溶な有機溶剤に、例えば、0.1〜10重量%濃度、好ましくは0.1〜0.5重量%濃度になるように、親水性ポリマーを溶解し、被膜溶液を調製する。
【0042】
有機溶剤としては、親水性ポリマーが可溶な溶剤であればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、メチレンジクロライド、メチルエチルケトン、ジメチルアセテート、エチルアセテート等の単独溶媒またはこれらの混合溶剤を使用し得る。なかでも、メタノールおよびエタノールが、沸点が低いため乾燥しやすく、また、残存しても生体関連成分に影響を与えないという観点から好ましい。
【0043】
次に、この被膜溶液を、図1に示すような液滴吐出ヘッド1の各収容室101又はノズル孔106から、例えばシリンジ等を用いて、液滴吐出ヘッド1の内部空洞内に十分に充填する。その後、被膜溶液を室温下又は加温下で乾燥させる。
【0044】
液滴吐出ヘッド1の内壁への被覆量としては、膜厚200nm以下であるのが好ましい。200nmを超えると、液滴吐出ヘッド1の生体分子適合性はむしろ低下する。また、親水性ポリマーと、液滴吐出ヘッド1の内壁表面との架橋を促進し、結合を高めるために、活性化剤(架橋剤)を被膜溶液へ添加してもよい。さらに、活性化剤の種類に基づいて選択される公知の方法で固相表面への結合が行われる。具体的には紫外線、熱、電離放射線によって活性化され、親水性ポリマーと固相表面との反応がおこる。活性化剤としては、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化ジクミル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイルのような過酸化物またはアゾ化合物が使用できる。なお、加熱処理は、溶媒除去工程(乾燥処理)と同時に行ってもよい。
【0045】
上記のようにして構成された液滴吐出ヘッド1を駆動するには、加圧室基板122の右端面に成膜された金若しくは白金からなる共通電極112と、電極基板121に成膜された電極108との間に外部電源107からの出力電圧を印加する。当該出力電圧は振幅0Vから35Vの矩形状のパルス波とする。すると、電極108の表面がプラスに帯電する一方で、対向する加圧室基板122の表面がマイナスに帯電する。この結果、両者には静電力が作用することとなるが、加圧室基板122の肉薄部分である加圧室105の底部が電極基板121側にわずかに撓み、弾性変形をする。つまり、加圧室105の底部に位置する可塑性のシリコン酸化膜は静電駆動によって弾性変形を行い、加圧室105内の圧力調整を行う振動板109として機能する。次いで、電極108へ印加される電圧をオフにすると、静電力が解除されて振動板109は元の位置に復元するため、加圧室105内の圧力が瞬間的に急激に高まり、ノズル孔106から試料溶液がドット状の微小液滴として吐出される。液滴は数ピコリットル程度のマイクロドットである。加圧室105側に撓んだ振動板109は電極基板121側に再度撓み、加圧室105内の圧力を急激に下げることによって、収容室101から、流路102、103、104を介して加圧室105へ試料溶液を補給する。
【0046】
例えば、マイクロアレイを作成する際、液滴の吐出方向にはプローブの支持体(固相、マイクロアレイ基板)としてのスライドガラス等が配置されており、プローブDNAやタンパク質などの各種生体関連物質を含む液滴をスライドガラス上に吐出し、これらプローブを同基板上に吸着させることによって、高集積化されたプローブアレイ(マイクロアレイ)を製造することができる。
【0047】
プローブDNAや各種タンパク質を含む溶液においては、核酸やタンパク質の種類に応じて粘度が著しく相違するため、各振動板109が加える圧力が同一である液滴吐出ヘッド1を用いてノズル毎に異なるタンパク質溶液等を吐出すると、1発あたりの吐出量がノズル毎に相違する。このように、ノズル毎に吐出液の重量が異なると、スポット毎にプローブの集積密度が異なるため、均質なプローブアレイを製造することができない。このため、各振動板109による圧力が同一である液滴吐出ヘッド1を用いて粘度の異なるタンパク質溶液等を異なるノズルから吐出する際に、液滴の吐出回数をノズル毎に予め設定しておくことによって、スライドガラス上への吐出重量がほぼ均一となるように調整する。なお、液滴スポットの重量を均一化するには、上述のように液滴の粘度に応じて吐出回数を調整する手法の他、ノズル毎の駆動電圧の設定を予め変えることによって、液滴スポットの重量を均一化することもできる。
【0048】
固相(例えばマイクロアレイ基板)上に固定するプローブ(生体関連物質)としては、上述したものが用いられ、より具体的には、レセプターと特異的に結合するリガンド、抗原と特異的に結合する抗体、酵素と特異的に結合する基質などの各種タンパク質、ターゲットDNAと相補的な塩基配列を有するプローブDNA等をプローブとして用いることも可能である。
【0049】
なお、本実施形態では、液滴吐出ヘッド1として、静電駆動方式を例示したが、本発明はこれに限らず、ピエゾ素子を用いた圧電駆動方式であってもよい。
【0050】
図4は、マイクロアレイ製造装置の具体例について説明する図である。次に、本実施形態の液滴吐出ヘッド1を備えたマイクロアレイ製造装置について説明する。同図に示すマイクロアレイ製造装置は、液滴吐出ヘッド1、作業台201、Y方向駆動軸202、X方向ガイド軸204、作業台駆動モータ205、基台206、制御部207を備え、構成されている。また、作業台201上には、マイクロアレイに用いられるマイクロアレイ基板208(以下、単に基板208という)が、例えば48枚載置されている。この基板208上に所望のプローブ溶液(生体関連物質含有溶液)をスポッティングすることにより、マイクロアレイを製造できる。
【0051】
Y方向駆動軸202には、Y方向駆動モータ203が接続されている。Y方向駆動モータ203は、例えばステッピングモータ等であり、制御部207からY軸方向に対向する動作信号が供給されると、Y方向駆動軸202を回転させる。Y方向駆動軸202が回転させられると、液滴吐出ヘッド1はY方向駆動軸202の方向に沿って移動する。
【0052】
X軸方向ガイド軸204は、基台206に対して動かないように固定されている。また、作業台201には、作業台駆動モータ205が接続されている。作業台駆動モータ205は、例えばステッピングモータ等であり、制御部207からX軸方向に対応する駆動信号が供給されると、作業台201をX軸方向に移動させる。すなわち、作業台201をX軸方向に駆動し、液滴吐出ヘッド1をY軸方向に駆動することによって、液滴吐出ヘッド1を基板208上の所望の場所に自在に移動させることができる。
【0053】
制御部207は、プローブ溶液の吐出タイミング、吐出回数等を制御する為の駆動信号を液滴吐出ヘッド1に供給する。また、制御部207は、Y方向駆動モータ203及び作業台駆動モータ205のそれぞれに対して、これらの動作を制御する為の駆動信号を供給する。なお、上述したY方向駆動軸202、Y方向駆動モータ203、制御部207が走査駆動手段に、X方向ガイド軸202、作業台駆動モータ205、制御部207が位置制御手段にそれぞれ対応している。
【0054】
このような構成を備える本発明のマイクロアレイ製造装置であれば、より多くの種類の試料溶液(プローブ溶液)を基板208上に吐出することができ、作業効率を顕著に向上させることが可能となる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、試料溶液、特に、生体関連物質を含有する溶液の接触する部位が、生体適合性のある親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されているので、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、溶液の濃度の経時変化を防止でき、また、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して構造変化することによる失活の問題も防止し得る。
【0056】
液滴吐出ヘッドは、ガラス基板とシリコン基板を主要構成部材としているため、半導体製造プロセス等で利用されているリソグラフィ工程を用いて容易に設計、加工することができ、さらに、デバイスパラメータの変更はフォトマスクのパターンを変更するだけで済むため、設計変更に便利である。特に、タンパク質等を含む溶液の粘性は通常のインクと比較すると、タンパク質等の種類に応じて粘性、表面張力などの物性的特性が著しく異なるため、液滴吐出ヘッドのノズル径、ノズルピッチ等の各寸法を最適化する必要があるが、フォトマスクのパターンを変更するだけで容易に設計変更できるため、便利である。さらに、半導体製造プロセスによれば、高精度な微細加工が可能となるため、寸法精度がよく、マイクロアレイ(プローブアレイ)を製造する際の液滴スポットの大きさにばらつきがない。また、半導体製造プロセスを流用しているため、低コストで生産性に優れている。
【0057】
また、ホウケイ酸ガラス基板とシリコン基板との接合手段として、陽極接合を利用し得るため、簡易に結合可能である。また、静電力で駆動するため、バブルジェット(登録商標)のようにタンパク質等を変性させるおそれもなく、さらに装置構成を極めて簡素化できるため、液滴吐出ヘッドの小型化が可能でデッドボリュームを小さくできる。また、ノズルの狭ピッチ化により、高密度のスポット形成が可能である。さらに、静電駆動によれば、アクチュエータ(駆動装置)としての信頼性が高く、長寿命である上に、高周波駆動が可能となり、高速吐出が可能となる。
【0058】
さらに、本実施形態のマイクロアレイ製造装置によれば、より多くの種類のプローブ溶液(生体関連物質含有溶液)を基板上に吐出することができ、作業効率を顕著に向上させることが可能となる。本製造装置の構成は、マイクロアレイを製造する場合だけでなく、マイクロアレイに、ターゲットDNA等を含む検査用の溶液を吐出し、検査を行う際の装置にも適用することができる。
【0059】
【実施例】
(液滴吐出ヘッドの準備)
図1に示すような液滴吐出ヘッド1を準備した。なお、加圧室基板122には、シリコン基板を用い、ノズル基板123、電極基板121には、ホウケイ酸ガラスを用い、収容部120には、PMMA製の基板を用いた。
【0060】
(被膜の形成)
被膜溶液の調製方法、被膜形成方法は、「キャピラリー電気泳動用キャピラリーのポリエチレングリコールによるコーティング条件の検討」(分析化学、41,485−489(1992)、日本分析化学会)に記載の方法に従った。
ポリエチレングリコール(分子量20000以下、関東化学製)をメタノールに溶解して、0.5重量%のエタノール溶液を調製した。また、添加物として過酸化ジクミル(DCP)をポリエチレングリコールの10%添加する。
上記のように準備した液滴吐出ヘッドの収容室から、シリンジを用いて上記ポリエチレングリコール0.5重量%のメタノール溶液を注入し、75℃で2時間放置した。その間に溶媒であるメタノールは蒸発し、吐出ヘッド内に被膜が形成される。そして150℃の雰囲気で1時間熱処理を行い、架橋反応を起こさせ、膜を固定する。その後、220℃の雰囲気で24時間熱処理をして不純物を除去して、インクジェットを完成させる。
同様の方法により内壁表面に、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコールモノアクリレートのポリマーからなる被膜を形成した液滴吐出ヘッドをそれぞれ準備した。膜厚はそれぞれ30〜50nmになるように濃度およびコーティング回数を調整した。
【0061】
(比較例)
同様の液滴吐出ヘッドであって、被膜形成をしなかったものを比較例として用いた。
【0062】
(評価試験)
牛血清アルブミン(BSA、シグマアルドリッチ社製)を1%リン酸緩衝液(PBS)に溶解し、濃度100μg/mlの溶液を準備した。シリンジを用いて、各液滴吐出ヘッドの各収容室から液滴吐出ヘッド内に充填し、4℃で10時間保管した。このときに、ノズル内の乾燥による粘度上昇を防止するために、ノズル面をシールした。
各液滴吐出ヘッドを駆動回路に接続し、充填されたBSA溶液をウェルプレートのウェルの中に吐出し、分光光度計を用いて液中のタンパク質濃度を測定した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1はBSAの濃度の測定結果であって、もとの濃度を100%としたときの値である。この結果からわかるように、被膜形成をしていない比較例に比べ、親水性ポリマーで被膜形成したものは濃度の低下が抑制されている。これは、液滴吐出ヘッド内壁にタンパク質が付着しにくくなっていることを示している。同様に、親水性ホモポリマーだけでなくコポリマーについても付着が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの上面図である。
【図2】図1におけるa〜jを通る断面図を示す。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの動作機構を説明するための概念図である。
【図4】マイクロアレイ製造装置の具体例について説明する図である。
【符号の説明】
1…液滴吐出ヘッド、101…収容室、102、102a、102b、103、104…流路、105…加圧室、106…ノズル孔、107…外部電源、108…電極、109…振動板、110…支持部材、111…凹部、112…共通電極、120…収容部、121…電極基板、122…加圧室基板、123…ノズル基板、124…流路基板、131…マイクロチャンネル(流路)、201…作業台、202…Y方向駆動軸、203…Y方向駆動モータ、204…X方向ガイド軸、205…作業台駆動モータ、206…基台、207…制御部、208…マイクロアレイ基板
【発明の属する技術分野】
本発明は、液滴吐出ヘッド等に関し、特に、生体関連物質に用いる液滴吐出ヘッド等に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、DNAの塩基配列の解読、及び遺伝子情報の機能解析が課題となっており、遺伝子発現パターンのモニタリング、新規遺伝子のスクリーニングをするための技術として、DNAマイクロアレイ(DNAチップともいう)が利用されている。同アレイでは、プローブDNAを調製し、スライドガラスなどの基板(マイクロアレイ基板)上に高密度にスポッティングした後、蛍光標識したターゲットDNAのうちプローブDNAと相補的な塩基配列を有するターゲットDNAをハイブリダイズ(二重鎖形成)させ、蛍光パターンを観察することにより、遺伝子発現量を評価している。同アレイのサイズは通常1cm2 〜10cm2 で、この領域に数千〜数万種のプローブDNAを高密度にスポッティングし、固定させる必要があるが、従来は、このようなプローブDNAの固定化は、接触ピンにより行われていた。
【0003】
また、ゲノムプロジェクトの終了に伴い、次の段階としてタンパク質解析に注目が集まっており、DNAマイクロアレイと同様の原理を用いたプロテインチップの開発が行われている。このような状況下で、インクジェット(液滴吐出)法を利用したプローブDNA又はタンパク質の固定化方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−187900号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
インクジェット法によれば、迅速に、安定したスポット形状を形成することができ、また、ノズル間ピッチを狭くすることで、高密度のマイクロアレイを作製することが可能である。
【0006】
しかしながら、例えば、プロテインチップの作製には、プローブとしてタンパク質を用いるが、液滴吐出ヘッドにタンパク質を含む試料溶液を用いた場合、液滴吐出ヘッドの内壁にタンパク質が付着してしまい、吐出性能を下げるおそれがあった。また、液滴吐出ヘッドの内壁にタンパク質が付着することで、試料溶液の濃度が不均一になったり、さらには、タンパク質の構造自体が変化してタンパク質本来の活性が失われてしまうなどの問題があった。このように、タンパク質をはじめとする生体関連物質が液滴吐出ヘッドの内壁に付着してしまうと、液滴吐出ヘッドやマイクロアレイ製造装置の寿命を損なうだけでなく、製造されるマイクロアレイ等の品質にも影響を与えることになる。
【0007】
そこで、本発明は、生体関連物質に特に好適に用いられる液滴吐出ヘッド(例えばインクジェットヘッド)を提供することを課題とする。
また、本発明は、生体関連物質にダメージを与えることなく、固相(例えばマイクロアレイ基板)上へのプローブの固定を簡易かつ迅速に行える液滴吐出ヘッド、マイクロアレイ製造装置、マイクロアレイの製造方法などを提案することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、本発明の液滴吐出ヘッドは、試料溶液を吐出するための液滴吐出ヘッドであって、上記液滴吐出ヘッドの内壁のうち、上記試料溶液が接触する部位が、親水性を有するホモポリマー(以下、親水性ホモポリマーという)又は親水性を有するモノマー(以下、親水性モノマーという)を含むコポリマーにより被覆されている、ことを特徴としている。
かかる構成によれば、試料溶液の接触する部位が、生体適合性のある親水性を有するホモポリマー(重合体)又は親水性を有するモノマー(単量体)を含むコポリマー(共重合体)により被覆されているので、生体分子に対する適合性(以下、生体分子適合性という)に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度が時間によって変化するのを防止でき、また、例えば、試料溶液に含まれる生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して構造変化することによる失活の問題も防止し得る。
【0009】
本発明は、試料溶液として、例えば、生体関連物質を含む溶液を用いる場合に好適に用いられる。ここで生体関連物質とは、具体的には、細胞、タンパク質、核酸等の生体物質の他、人工的に合成されたオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、PNA(peptide nucleic acid)等の類縁体をも含む。
【0010】
上記液滴吐出ヘッドは、静電駆動方式又は圧電駆動方式であることが好ましい。かかる方式によれば、生体関連物質を加熱せずに吐出を行えるので、例えば、試料溶液中に含まれる生体関連物質にダメージを与えることなく、マイクロアレイ基板上に安定した吐出が可能となる。
【0011】
本発明の他の態様に係る液滴吐出ヘッドは、試料溶液を吐出するための液滴吐出ヘッドであって、表面に1又は複数の電極を有する第1の基板と、上記第1の基板の前記電極が設置されている部位と微小ギャップを介して対向するように配置され、上記電極との電位差に対応する静電力によって弾性変形する1又は複数の振動板と、該各振動板に対応して設けられ、該振動板の変位により圧力が加減される前記試料溶液が充填されている1又は複数の加圧室とを有する第2の基板と、上記各加圧室から押出された前記試料溶液を吐出するための1又は複数のノズル孔を有する第3の基板と、上記第1の基板の電極が設けられた面と反対の面側に配置され、上記試料溶液を収容するための収容室を有する収容部とを備え、さらに、上記第1の基板及び上記第2の基板に、上記収容部から上記加圧室を繋ぐ流路を有し、少なくとも上記収容室、上記加圧室、上記流路、及び上記ノズル孔を形成する壁面が、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されていることを特徴としている。
かかる構成によれば、試料溶液の接触する部位が、生体適合性のある親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されているので、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度が経時変化することを防止でき、また、例えば、試料溶液に含まれる生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着し、構造変化して失活するといった問題も防止し得る。また、試料溶液を加熱せずに吐出できる静電駆動方式を採用しているので、例えば、試料溶液に含まれる生体関連物質にダメージを与えることなく、固相(例えばマイクロアレイ基板)表面上に安定した吐出が可能である。また、複数の収容室、加圧室、ノズル、及びこれらを繋ぐ流路を各々一の基板上に備えているので、一括して加工でき、簡略な工程で、DNAやタンパク質等のより多くの種類の試料溶液をスポッティングすることが可能な液滴吐出ヘッドを提供し得る。また、被覆により生じた膜の膜厚が200nm以下となるようにして、付着防止の効果を上げる。
【0012】
上記親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーは、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレートから選ばれる少なくとも1種のモノマーから構成されていることが好ましい。これらの親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーは優れた生体適合性を有し、例えば、試料溶液中に含まれるタンパク質等の生体関連物質の付着を有効に防止し得る。
【0013】
上記液滴吐出ヘッドが、ガラス及び/又はシリコンからなることが好ましい。ガラス及びシリコンは、フォトリソグラフィにより微細加工が可能であるので好適である。また、基板からの溶出成分がなく表面がきわめて平滑なので、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより、均一で安定な被膜を形成し得る。
【0014】
上記第1の基板がガラス基板であり、上記第2の基板がシリコン基板であることが好ましい。かかる構成によれば、フォトリソグラフィ法により微細加工が可能であるので好適である。また、静電駆動方式を用いた場合、シリコンを加圧室の振動板として用いることができるので、耐久性が高い。
【0015】
また、上記ノズル孔付近のノズル面が、撥水性を有するように表面処理されていることが好ましい。ノズル面を撥水性処理することで、ノズル面における試料溶液、例えば、生体関連物質含有溶液の混合を確実に防止することができる。
【0016】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、印加信号に応じて、貯留する試料溶液を吐出する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、上記試料溶液の供給孔から液滴吐出ノズルに至るまでの試料溶液の接触部位となる部分に、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーを含む溶液を接触させ、付着させる工程と、上記付着させた試料溶液を乾燥させ、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーからなる被膜を前記接触部位となる部分に形成する工程と、を含むことを特徴としている。
かかる構成により、試料溶液が接触する部位に、生体適合性のある親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーからなる被膜を形成し得るので、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度が変化したり、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して構造変化して失活することのない液滴吐出ヘッドを提供し得る。
【0017】
上記付着工程が、上記試料溶液の供給孔から液滴吐出ノズルに至るまでの試料溶液の接触部位となる部分に、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーを含む溶液を満たすことにより、付着させる工程であってもよい。かかる構成によれば、試料溶液が接触する部分に十分に被膜形成成分をいきわたらせることができるので、試料溶液が接触する部分に満遍なく被膜を形成することが可能となる。
【0018】
本発明の他の態様による液滴吐出ヘッドの製造方法は、生体関連物質を含有する溶液(以下、生体関連物質含有溶液ともいう)を収容するための収容室と、該生体関連物質含有溶液を吐出するための圧力を付与する加圧室と、上記収容室と上記加圧室を繋ぐ流路と、上記加圧室で押圧された液滴を吐出するノズル孔とを少なくとも備えた液滴吐出ヘッドの上記収容室、上記加圧室、上記流路及び上記ノズル孔に、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーを含む溶液を充填する工程と、上記充填した溶液の溶媒を蒸発させ、前記ポリマー又は前記コポリマーからなる被膜を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
かかる構成により、生体関連物質含有溶液の接触する部位に、生体適合性のある親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーからなる膜を形成し得るので、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、生体関連物質含有溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、溶液の濃度が変化したり、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して構造変化して失活することのない液滴吐出ヘッドを提供し得る。さらに、加熱処理して、前記被膜を固定化する工程を含んでもよい。被膜形成成分として架橋剤を含み、基材表面に被膜を固定化する場合のように、被膜形成成分と基材との結合が、加熱により促進される場合には、必要に応じて、加熱処理を行ってもよい。
【0019】
本発明のマイクロアレイ製造装置は、上記液滴吐出ヘッドと、上記液滴吐出ヘッドと該液滴吐出ヘッドから吐出された前記試料溶液を受けるマイクロアレイ基板との相対的な位置を設定する位置制御手段と、を備えていることを特徴としている。かかる構成によれば、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを用いるので、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度変化や、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着し、構造変化して失活するのを防止し得る。また、液滴吐出ヘッドとマイクロアレイ基板との位置を相対的に制御し得るので、液滴吐出ヘッドをマイクロアレイ基板上のいずれの場所にも自在に移動することができ、効率よくマイクロアレイを作製することが可能となる。
【0020】
本発明のマイクロアレイの製造方法は、上記液滴吐出ヘッド、上記マイクロアレイ製造装置を用いて、標的分子と特異的に結合するプローブを含む溶液を、マイクロアレイ基板上に吐出して、マイクロアレイ基板表面に上記プローブを固定させることを特徴としている。かかる構成によれば、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを用いるので、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、試料溶液の濃度変化や、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着し、構造変化して失活するのを防止でき、吐出が安定する。したがって、プローブ量が一定なマイクロアレイを形成し得る。
また、上記液滴吐出ヘッドが複数のノズルを有し、ノズル毎に異なるプローブを吐出することが好ましい。かかる構成によれば、一つの基板上で、多数の試験をし得るマイクロアレイを提供し得る。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドを概略的に説明する上面図である。また、図2は図1におけるa点〜j点に沿って液滴吐出ヘッド1を切断したときの断面図を示す(e−f間についてはヘッドの構成を見やすくするため、図1とは横の比率が若干異なっている)。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド1は、DNA及びタンパク質などの生体関連物質を含む試料溶液を収容し得る複数の収容室101を備えている。試料溶液はこれらの収容室101に設けられた供給孔(図示せず)から供給される、試料溶液としてのDNAやタンパク質等の生体関連物質を含有する溶液は、各々マイクロチャンネル131を通じて、加圧室105に導入され、振動板109の弾性変位による内部圧力の変動によってノズル孔106から液滴として吐出される。
【0023】
図2に示すように、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド1は、電極108が形成された第1の基板(以下、電極基板という)121、試料溶液を吐出するための圧力を付与する加圧室105となる凹部を備えた第2の基板(以下、加圧室基板という)122、ノズル孔106を有する第3の基板(以下、ノズル基板という)123、及び上記試料溶液を収容するための収容室101を有する収容部120で要部が構成されている。また、必要に応じて、収容室101と加圧室105を繋ぐマイクロチャンネル131(以下、単に流路(溶液が流れる路)ともいう)が形成された流路基板124が含まれていてもよい。
【0024】
図3は本発明の本実施形態に係る液滴吐出ヘッド1の動作機構を説明するための概念図である。次に、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド1の構成及び動作機構について、図3を参照しながら説明する。また、同図においては、説明の便宜上、流路基板124は記載せず、収容部120、電極基板121、加圧室基板122、及びノズル基板123の4層構造からなる液滴吐出ヘッド1について記載する。また、同図では、単一の加圧室105のみを図示する。
【0025】
加圧室基板122には、ノズル基板123と対向する面に、断面凹部形状の加圧室105と、収容部120に設けられた収容室101からの試料溶液を各加圧室105に供給するための流路102、103、104が形成されている。加圧室105の形状は、特に限定されず、例えば、面方位を(110)のシリコン基板を用い、水酸化カリウム水溶液などで異方性エッチングを行った場合には、加圧室105はシリコン基板に垂直な面に対して約35度の角度をなす斜面から構成される断面舟型になる。同基板の表面及び裏面には熱酸化法によって例えば約1μmの膜厚に成膜されたシリコン酸化膜が成膜されていてもよい。また、流路102、103、104についても、特に形状は限定されず、例えばエッチングにより、加圧室105と同時に形成してもよい。なお、収容室101からの試料溶液は、基板に対して垂直方向に設けられた流路102を通過して、流路102の下方に接続する流路103に一旦溜り、小径の流路104を介して、加圧室105に送られる。
【0026】
加圧室105を構成する材料は、特に限定するものではなく、ガラス、シリコン、樹脂等のいずれも用いられるが、微細加工性、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーの被膜均一性の観点からは、例えばガラス基板又はシリコン基板を用いることが好ましく、特に耐久性の観点からは、シリコン基板が好ましい。
【0027】
なお、このようなシリコン基板としては、単結晶シリコン基板、多結晶シリコン基板、SOI(Silicon On Insulator)基板の何れであってもよい。また、シリコン酸化膜の成膜法としては、熱酸化法に限らず、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、ゾル・ゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition )法などの各種の成膜技術を利用できる。
【0028】
ノズル基板123には、各々の加圧室105で押圧された試料溶液を外部に吐出するためのノズル孔106が、加圧室105に対応する位置に形成されている。ノズル基板123としては、例えば、シリコン基板又はガラス基板を用いることができるが、特に、シリコン基板が好適である。ノズル基板123をシリコン基板にすることによって、生体関連物質との親和性を確保でき、また、加工性にも優れる。ノズル基板123の加圧室基板122が接合するのと反対側の面(以下、ノズル面という)のノズル孔106付近は、撥水処理されていることが好ましい。ノズル面が撥水処理されていることで、隣接するノズル孔106間で異種の試料溶液を吐出する場合でもクロスコンタミネーションを防止し得る。
【0029】
電極基板121の加圧室基板122に対向する面には、加圧室105に対応する位置に、加圧室基板122の加圧室105の底部に設けられた振動板109とほぼ一定の微小ギャップを形成せしめるだけの凹部111が形成されている。微小ギャップの間隔は液滴吐出ヘッド1を静電駆動するために必要かつ十分な間隔であることが必要であり、例えば、0.2μmが好適である。当該凹部111の底面には加圧室基板122との間で静電力を生じせしめるための細長い電極108が成膜されている。電極108を成膜するには、例えば、スパッタ法を用いてインジウム・ティン・オキサイド(ITO)を約0.1μmの厚さで成膜すればよい。
【0030】
加圧室基板122、電極基板121、及びノズル基板123として、ホウケイ酸ガラス及びシリコン基板を組み合わせて用いた場合には、各基板同士は、例えば陽極接合にて接合することができる。陽極接合によれば、静電気の吸引力で強力に接合できるため、簡便に接合し得る。また、加圧室基板122、電極基板121、及びノズル基板123として、シリコン基板を用いた場合には、各基板同士は、例えば接着剤等を用いて接合することができる。
【0031】
電極基板121と加圧室基板122とを陽極接合するには、例えば、ホウケイ酸ガラス基板からなる電極基板121と、シリコン基板からなる加圧室基板122とを用い、電極基板121と加圧室基板122とにおいて、流路102を形成する102a、102bが繋がり、加圧室105が電極108に対応するように精密に位置合わせをしつつ、適度な圧着力で両者を重ね合わせて、300℃〜500℃近くに昇温させ、1×10-4Torr(1.33×10-2Pa)程度の真空若しくは窒素雰囲気下において、シリコン基板側が正電位となるように両基板間に200V〜1000Vの直流電圧を印加する。すると、ホウケイ酸ガラス基板に含まれているアルカリ金属イオンであるナトリウムイオンがホウケイ酸ガラス基板の反対側(図示左側)の表面に偏析する。一方、同基板中に残留する多量のマイナスイオンがシリコン基板との接合面に空間電荷層を形成して、シリコン基板とホウケイ酸ガラス基板との間に強い静電吸引力を誘起し、両者を強力に接合せしめる。なお、ホウケイ酸ガラス基板は、アルカリイオンを多く含み、陽極接合に好適であるだけでなく、熱膨張係数がシリコン基板とほぼ一致するため、基板の接合面における歪みが少ない確実な接合が得られる。
【0032】
加圧室基板122と電極基板121とを接合した後、両者の微小ギャップの間隔を維持するために、エポキシ樹脂などの適度な弾力性と絶縁性に優れた支持部材110を同基板の上端部において、微小ギャップの間に挿嵌する。
【0033】
シリコン基板からなる加圧室基板122とノズル基板123は、生体関連物質に影響を及ぼさない接着剤により接合する。なお、電極基板121やノズル基板123として、表面を酸化処理したシリコン基板を用いてもよい。特に、電極基板121にシリコン基板を用いる場合には、電極108が成膜されるべき箇所にp型若しくはn型の不純物を拡散することで、電極108の役割を担う電極層を形成することができる。
【0034】
収容部120には、貫通孔が形成されており、電極基板121と接合することにより、試料溶液を収容する収容室101が形成されている。収容室101の基板平面と平行な面における断面形状は、円形状であっても、四角形状であってもよく、特に限定されない。ただし、試料溶液の損失を防止するという観点からは、貫通孔と同じ円形状であることが好ましい。また、本実施形態では、収容部120は、基板上に設けた貫通孔により形成しているが、これに限定されず、各加圧室105に繋がる流路に連結し得る貫通孔を備えた凹部を複数有する容器であってもよい。
【0035】
収容部120の材料についても、特に限定されず、ガラス、シリコン、樹脂等のいずれを用いてもよいが、加工性等の観点から、例えばアクリル樹脂(例:ポリメチルメタクリレート(PMMA))又はポリ塩化ビニル(PVC)などの樹脂が用いられる。収容部120と電極基板121の接合は、両基板を所定の位置に調整し、生体関連物質に影響を与えないような接着剤により接着固定することにより行われる。
【0036】
また、電極基板121と収容部120との間に流路基板124が形成されていてもよい。このような流路基板124は、例えば、シリコン基板又はガラス基板により構成され、例えばエッチングにより溝を形成することで、電極基板121に形成された流路102bと収容室101を繋ぐマイクロチャンネル(流路)131を形成し得る。
【0037】
本実施形態では、液滴吐出ヘッド1の内壁のうち、試料溶液が接触する部位が、親水性を有するポリマー(以下、親水性ポリマーといい、下記のように、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーを含めたものをいう)により被覆されている。具体的には、本実施形態では、液滴吐出ヘッド1の内壁の試料溶液を収容する収容室101、流路102、103、104、加圧室105、及びノズル孔106の内壁が、親水性ポリマーにより被覆されている。そして、被覆により生じた膜の膜厚が200nm以下となるようにする。
【0038】
親水性ポリマーを構成する親水性モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、グリセリルメタクリレート、アクリルアミド、セルロース、セルロース誘導体等を挙げることができる。なかでも、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートが、生体適合性、入手が容易等の観点から好ましい。
【0039】
これらの親水性ポリマーは、1種類のモノマーで構成されるホモポリマー(モノポリマー又は単にポリマーともいう)でも、2種以上組み合せたブロックコポリマーやランダムコポリマーでもよい。コポリマーを構成するモノマーの中に疎水性モノマーが含有されていてもよいが、その親水性が損なわれない範囲にとどめておく必要がある。疎水性モノマーの割合が多すぎて被膜の親水性が損なわれた場合には、液滴吐出ヘッド1での生体分子適合性が十分発現されない。
【0040】
また、親水性モノマーを含むコポリマーの親水性モノマー以外の構成単位として、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、スチレン誘導体、アルキルメタクリレート、ビニルクロライド、ビニリデンクロライド、メタクリロニトリル等を用いることができる。なかでもエチレン、スチレン、スチレン誘導体を用いると、固相表面との結合性に優れ、好ましい。このような親水性モノマーからなる親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーは、従来公知の方法により製造することができる。
【0041】
次に、親水性ポリマーの被覆方法の一例について説明する。親水性ポリマーが可溶な有機溶剤に、例えば、0.1〜10重量%濃度、好ましくは0.1〜0.5重量%濃度になるように、親水性ポリマーを溶解し、被膜溶液を調製する。
【0042】
有機溶剤としては、親水性ポリマーが可溶な溶剤であればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、メチレンジクロライド、メチルエチルケトン、ジメチルアセテート、エチルアセテート等の単独溶媒またはこれらの混合溶剤を使用し得る。なかでも、メタノールおよびエタノールが、沸点が低いため乾燥しやすく、また、残存しても生体関連成分に影響を与えないという観点から好ましい。
【0043】
次に、この被膜溶液を、図1に示すような液滴吐出ヘッド1の各収容室101又はノズル孔106から、例えばシリンジ等を用いて、液滴吐出ヘッド1の内部空洞内に十分に充填する。その後、被膜溶液を室温下又は加温下で乾燥させる。
【0044】
液滴吐出ヘッド1の内壁への被覆量としては、膜厚200nm以下であるのが好ましい。200nmを超えると、液滴吐出ヘッド1の生体分子適合性はむしろ低下する。また、親水性ポリマーと、液滴吐出ヘッド1の内壁表面との架橋を促進し、結合を高めるために、活性化剤(架橋剤)を被膜溶液へ添加してもよい。さらに、活性化剤の種類に基づいて選択される公知の方法で固相表面への結合が行われる。具体的には紫外線、熱、電離放射線によって活性化され、親水性ポリマーと固相表面との反応がおこる。活性化剤としては、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化ジクミル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイルのような過酸化物またはアゾ化合物が使用できる。なお、加熱処理は、溶媒除去工程(乾燥処理)と同時に行ってもよい。
【0045】
上記のようにして構成された液滴吐出ヘッド1を駆動するには、加圧室基板122の右端面に成膜された金若しくは白金からなる共通電極112と、電極基板121に成膜された電極108との間に外部電源107からの出力電圧を印加する。当該出力電圧は振幅0Vから35Vの矩形状のパルス波とする。すると、電極108の表面がプラスに帯電する一方で、対向する加圧室基板122の表面がマイナスに帯電する。この結果、両者には静電力が作用することとなるが、加圧室基板122の肉薄部分である加圧室105の底部が電極基板121側にわずかに撓み、弾性変形をする。つまり、加圧室105の底部に位置する可塑性のシリコン酸化膜は静電駆動によって弾性変形を行い、加圧室105内の圧力調整を行う振動板109として機能する。次いで、電極108へ印加される電圧をオフにすると、静電力が解除されて振動板109は元の位置に復元するため、加圧室105内の圧力が瞬間的に急激に高まり、ノズル孔106から試料溶液がドット状の微小液滴として吐出される。液滴は数ピコリットル程度のマイクロドットである。加圧室105側に撓んだ振動板109は電極基板121側に再度撓み、加圧室105内の圧力を急激に下げることによって、収容室101から、流路102、103、104を介して加圧室105へ試料溶液を補給する。
【0046】
例えば、マイクロアレイを作成する際、液滴の吐出方向にはプローブの支持体(固相、マイクロアレイ基板)としてのスライドガラス等が配置されており、プローブDNAやタンパク質などの各種生体関連物質を含む液滴をスライドガラス上に吐出し、これらプローブを同基板上に吸着させることによって、高集積化されたプローブアレイ(マイクロアレイ)を製造することができる。
【0047】
プローブDNAや各種タンパク質を含む溶液においては、核酸やタンパク質の種類に応じて粘度が著しく相違するため、各振動板109が加える圧力が同一である液滴吐出ヘッド1を用いてノズル毎に異なるタンパク質溶液等を吐出すると、1発あたりの吐出量がノズル毎に相違する。このように、ノズル毎に吐出液の重量が異なると、スポット毎にプローブの集積密度が異なるため、均質なプローブアレイを製造することができない。このため、各振動板109による圧力が同一である液滴吐出ヘッド1を用いて粘度の異なるタンパク質溶液等を異なるノズルから吐出する際に、液滴の吐出回数をノズル毎に予め設定しておくことによって、スライドガラス上への吐出重量がほぼ均一となるように調整する。なお、液滴スポットの重量を均一化するには、上述のように液滴の粘度に応じて吐出回数を調整する手法の他、ノズル毎の駆動電圧の設定を予め変えることによって、液滴スポットの重量を均一化することもできる。
【0048】
固相(例えばマイクロアレイ基板)上に固定するプローブ(生体関連物質)としては、上述したものが用いられ、より具体的には、レセプターと特異的に結合するリガンド、抗原と特異的に結合する抗体、酵素と特異的に結合する基質などの各種タンパク質、ターゲットDNAと相補的な塩基配列を有するプローブDNA等をプローブとして用いることも可能である。
【0049】
なお、本実施形態では、液滴吐出ヘッド1として、静電駆動方式を例示したが、本発明はこれに限らず、ピエゾ素子を用いた圧電駆動方式であってもよい。
【0050】
図4は、マイクロアレイ製造装置の具体例について説明する図である。次に、本実施形態の液滴吐出ヘッド1を備えたマイクロアレイ製造装置について説明する。同図に示すマイクロアレイ製造装置は、液滴吐出ヘッド1、作業台201、Y方向駆動軸202、X方向ガイド軸204、作業台駆動モータ205、基台206、制御部207を備え、構成されている。また、作業台201上には、マイクロアレイに用いられるマイクロアレイ基板208(以下、単に基板208という)が、例えば48枚載置されている。この基板208上に所望のプローブ溶液(生体関連物質含有溶液)をスポッティングすることにより、マイクロアレイを製造できる。
【0051】
Y方向駆動軸202には、Y方向駆動モータ203が接続されている。Y方向駆動モータ203は、例えばステッピングモータ等であり、制御部207からY軸方向に対向する動作信号が供給されると、Y方向駆動軸202を回転させる。Y方向駆動軸202が回転させられると、液滴吐出ヘッド1はY方向駆動軸202の方向に沿って移動する。
【0052】
X軸方向ガイド軸204は、基台206に対して動かないように固定されている。また、作業台201には、作業台駆動モータ205が接続されている。作業台駆動モータ205は、例えばステッピングモータ等であり、制御部207からX軸方向に対応する駆動信号が供給されると、作業台201をX軸方向に移動させる。すなわち、作業台201をX軸方向に駆動し、液滴吐出ヘッド1をY軸方向に駆動することによって、液滴吐出ヘッド1を基板208上の所望の場所に自在に移動させることができる。
【0053】
制御部207は、プローブ溶液の吐出タイミング、吐出回数等を制御する為の駆動信号を液滴吐出ヘッド1に供給する。また、制御部207は、Y方向駆動モータ203及び作業台駆動モータ205のそれぞれに対して、これらの動作を制御する為の駆動信号を供給する。なお、上述したY方向駆動軸202、Y方向駆動モータ203、制御部207が走査駆動手段に、X方向ガイド軸202、作業台駆動モータ205、制御部207が位置制御手段にそれぞれ対応している。
【0054】
このような構成を備える本発明のマイクロアレイ製造装置であれば、より多くの種類の試料溶液(プローブ溶液)を基板208上に吐出することができ、作業効率を顕著に向上させることが可能となる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、試料溶液、特に、生体関連物質を含有する溶液の接触する部位が、生体適合性のある親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されているので、生体分子適合性に優れた液滴吐出ヘッドを提供し得る。したがって、試料溶液中の成分が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して、溶液の濃度の経時変化を防止でき、また、生体関連物質(例:タンパク質)が液滴吐出ヘッドの内壁に付着して構造変化することによる失活の問題も防止し得る。
【0056】
液滴吐出ヘッドは、ガラス基板とシリコン基板を主要構成部材としているため、半導体製造プロセス等で利用されているリソグラフィ工程を用いて容易に設計、加工することができ、さらに、デバイスパラメータの変更はフォトマスクのパターンを変更するだけで済むため、設計変更に便利である。特に、タンパク質等を含む溶液の粘性は通常のインクと比較すると、タンパク質等の種類に応じて粘性、表面張力などの物性的特性が著しく異なるため、液滴吐出ヘッドのノズル径、ノズルピッチ等の各寸法を最適化する必要があるが、フォトマスクのパターンを変更するだけで容易に設計変更できるため、便利である。さらに、半導体製造プロセスによれば、高精度な微細加工が可能となるため、寸法精度がよく、マイクロアレイ(プローブアレイ)を製造する際の液滴スポットの大きさにばらつきがない。また、半導体製造プロセスを流用しているため、低コストで生産性に優れている。
【0057】
また、ホウケイ酸ガラス基板とシリコン基板との接合手段として、陽極接合を利用し得るため、簡易に結合可能である。また、静電力で駆動するため、バブルジェット(登録商標)のようにタンパク質等を変性させるおそれもなく、さらに装置構成を極めて簡素化できるため、液滴吐出ヘッドの小型化が可能でデッドボリュームを小さくできる。また、ノズルの狭ピッチ化により、高密度のスポット形成が可能である。さらに、静電駆動によれば、アクチュエータ(駆動装置)としての信頼性が高く、長寿命である上に、高周波駆動が可能となり、高速吐出が可能となる。
【0058】
さらに、本実施形態のマイクロアレイ製造装置によれば、より多くの種類のプローブ溶液(生体関連物質含有溶液)を基板上に吐出することができ、作業効率を顕著に向上させることが可能となる。本製造装置の構成は、マイクロアレイを製造する場合だけでなく、マイクロアレイに、ターゲットDNA等を含む検査用の溶液を吐出し、検査を行う際の装置にも適用することができる。
【0059】
【実施例】
(液滴吐出ヘッドの準備)
図1に示すような液滴吐出ヘッド1を準備した。なお、加圧室基板122には、シリコン基板を用い、ノズル基板123、電極基板121には、ホウケイ酸ガラスを用い、収容部120には、PMMA製の基板を用いた。
【0060】
(被膜の形成)
被膜溶液の調製方法、被膜形成方法は、「キャピラリー電気泳動用キャピラリーのポリエチレングリコールによるコーティング条件の検討」(分析化学、41,485−489(1992)、日本分析化学会)に記載の方法に従った。
ポリエチレングリコール(分子量20000以下、関東化学製)をメタノールに溶解して、0.5重量%のエタノール溶液を調製した。また、添加物として過酸化ジクミル(DCP)をポリエチレングリコールの10%添加する。
上記のように準備した液滴吐出ヘッドの収容室から、シリンジを用いて上記ポリエチレングリコール0.5重量%のメタノール溶液を注入し、75℃で2時間放置した。その間に溶媒であるメタノールは蒸発し、吐出ヘッド内に被膜が形成される。そして150℃の雰囲気で1時間熱処理を行い、架橋反応を起こさせ、膜を固定する。その後、220℃の雰囲気で24時間熱処理をして不純物を除去して、インクジェットを完成させる。
同様の方法により内壁表面に、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコールモノアクリレートのポリマーからなる被膜を形成した液滴吐出ヘッドをそれぞれ準備した。膜厚はそれぞれ30〜50nmになるように濃度およびコーティング回数を調整した。
【0061】
(比較例)
同様の液滴吐出ヘッドであって、被膜形成をしなかったものを比較例として用いた。
【0062】
(評価試験)
牛血清アルブミン(BSA、シグマアルドリッチ社製)を1%リン酸緩衝液(PBS)に溶解し、濃度100μg/mlの溶液を準備した。シリンジを用いて、各液滴吐出ヘッドの各収容室から液滴吐出ヘッド内に充填し、4℃で10時間保管した。このときに、ノズル内の乾燥による粘度上昇を防止するために、ノズル面をシールした。
各液滴吐出ヘッドを駆動回路に接続し、充填されたBSA溶液をウェルプレートのウェルの中に吐出し、分光光度計を用いて液中のタンパク質濃度を測定した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1はBSAの濃度の測定結果であって、もとの濃度を100%としたときの値である。この結果からわかるように、被膜形成をしていない比較例に比べ、親水性ポリマーで被膜形成したものは濃度の低下が抑制されている。これは、液滴吐出ヘッド内壁にタンパク質が付着しにくくなっていることを示している。同様に、親水性ホモポリマーだけでなくコポリマーについても付着が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの上面図である。
【図2】図1におけるa〜jを通る断面図を示す。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの動作機構を説明するための概念図である。
【図4】マイクロアレイ製造装置の具体例について説明する図である。
【符号の説明】
1…液滴吐出ヘッド、101…収容室、102、102a、102b、103、104…流路、105…加圧室、106…ノズル孔、107…外部電源、108…電極、109…振動板、110…支持部材、111…凹部、112…共通電極、120…収容部、121…電極基板、122…加圧室基板、123…ノズル基板、124…流路基板、131…マイクロチャンネル(流路)、201…作業台、202…Y方向駆動軸、203…Y方向駆動モータ、204…X方向ガイド軸、205…作業台駆動モータ、206…基台、207…制御部、208…マイクロアレイ基板
Claims (13)
- 試料溶液を吐出するための液滴吐出ヘッドであって、
前記液滴吐出ヘッドに形成される内壁のうち、前記試料溶液が接触する部位が、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されている、液滴吐出ヘッド。 - 前記液滴吐出ヘッドが、静電駆動方式又は圧電駆動方式である、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
- 試料溶液を吐出するための液滴吐出ヘッドであって、
表面に1又は複数の電極を有する第1の基板と、
前記第1の基板の前記電極が設置されている部位と微小ギャップを介して対向するように配置され、前記電極との電位差に対応する静電力によって弾性変形する1又は複数の振動板と、該各振動板に対応して設けられ、該振動板の変位により圧力が加減される前記試料溶液が充填されている1又は複数の加圧室とを有する第2の基板と、
前記各加圧室から押出された前記試料溶液を吐出するための1又は複数のノズル孔を有する第3の基板と、
前記第1の基板の電極が設けられた面と反対の面側に配置され、前記試料溶液を収容するための収容室を有する収容部とを備え、
さらに、前記第1の基板及び前記第2の基板に、前記収容部から前記加圧室を繋ぐ流路を有し、少なくとも前記収容室、前記加圧室、前記流路、及び前記ノズル孔を形成する壁面が、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーにより被覆されている、液滴吐出ヘッド。 - 前記親水性ホモポリマー又は前記親水性モノマーを含むコポリマーが、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアクリレート又はポリエチレングリコールメタクリレートのモノマーのうち、少なくとも1種のモノマーを含有している、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
- 前記被覆による膜厚が200nm以下で形成されている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
- 前記液滴吐出ヘッドが、ガラス及び/又はシリコンからなる、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
- 前記第1の基板がガラス基板であり、前記第2の基板がシリコン基板である、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
- 前記ノズル孔付近のノズル面が、撥水性を有するように表面処理されている、請求項3乃至7のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
- 印加信号に応じて、貯留する試料溶液を吐出する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記試料溶液の供給孔から、前記試料溶液の吐出ノズルに至るまでの前記試料溶液との接触部位となる部分に、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーの溶液を接触させ、付着させる工程と、
前記付着させた溶液を乾燥させ、親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマーからなる被膜を前記接触部位となる部分に形成する工程と
を少なくとも有する、液滴吐出ヘッドの製造方法。 - 前記付着工程が、前記前記試料溶液の供給孔から液滴吐出ノズルに至る前記試料溶液との接触部位となる部分に親水性ホモポリマー又は親水性モノマーを含むコポリマー、および架橋剤を含む溶液を満たし、さらに前記部分内で架橋反応を行う工程を含む、請求項9に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
- 請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド、又は請求項9に記載の製造方法で得られる液滴吐出ヘッドと、該液滴吐出ヘッドと該液滴吐出ヘッドから吐出された、標的分子と特異的に結合するプローブを含む溶液を受けるマイクロアレイ基板との相対的な位置を設定する位置制御手段とを少なくとも備える、マイクロアレイ製造装置。
- 請求項1乃至8のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド、又は請求項11に記載のマイクロアレイ製造装置を用いて、標的分子と特異的に結合するプローブを含む溶液を、マイクロアレイ基板上に吐出して、マイクロアレイ表面に前記プローブを固定させる、マイクロアレイの製造方法。
- 複数のノズルを有する前記液滴吐出ヘッドにより、前記ノズル毎に異なるプローブを吐出する、請求項12に記載のマイクロアレイの製造方法。
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WO2010109926A1 (ja) * | 2009-03-27 | 2010-09-30 | 株式会社日立ハイテクノロジーズ | 自動分析装置用分注ノズルとその製造方法及びそれを搭載した自動分析装置 |
JP2011064551A (ja) * | 2009-09-16 | 2011-03-31 | Shimadzu Corp | 液体分注装置 |
JP2011110552A (ja) * | 2009-11-24 | 2011-06-09 | Internatl Business Mach Corp <Ibm> | かご型シルセスキオキサン(poss)及び親水性コモノマーから作成されたポリマー膜 |
KR101198038B1 (ko) | 2005-01-28 | 2012-11-06 | 듀크 유니버서티 | 인쇄 회로 기판 위의 액적 조작을 위한 기구 및 방법 |
-
2003
- 2003-05-02 JP JP2003126837A patent/JP2004163394A/ja active Pending
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