JP2004163386A - バイオセンサ - Google Patents
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Abstract
【課題】従来の電解重合膜を利用したバイオセンサでは、妨害成分よる影響を受けやすく、または長期的な使用安定性が低い。その結果、測定精度が低下し、センサの寿命が短くなる。
【解決手段】過酸化水素電極およびその上に積層された過酸化水素選択透過膜と酵素膜とを備えたバイオセンサにおいて、前記過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーと非電解重合高分子からなる複合膜とすることによって、膜が強化され、また酵素膜との間の付着力が簡単に向上できるので、センサの安定性が高い。これにより、妨害成分が高濃度に共存してもその影響を受けずセンサの安定性が高く、高い測定精度おとび長いセンサ使用寿命を実現した。
【選択図】図2
【解決手段】過酸化水素電極およびその上に積層された過酸化水素選択透過膜と酵素膜とを備えたバイオセンサにおいて、前記過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーと非電解重合高分子からなる複合膜とすることによって、膜が強化され、また酵素膜との間の付着力が簡単に向上できるので、センサの安定性が高い。これにより、妨害成分が高濃度に共存してもその影響を受けずセンサの安定性が高く、高い測定精度おとび長いセンサ使用寿命を実現した。
【選択図】図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は多くの成分が混在する媒体から特定の成分を検出し測定するバイオセンサ、特に電流検出型電気化学的バイオセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
過酸化水素電極と酸化還元酵素とを組み合わせた酵素電極はもっとも多く採用されているバイオセンサのタイプの一つである。
電流測定型トランスデューサの一種である過酸化水素電極は、過酸化水素の他に、尿酸やアスコルビン酸などの還元性物質(以下、妨害成分という)に対しても応答し電流が発生する。このような妨害成分が共存する試料を測定対象とする場合、その影響を押さえる必要がある。電極表面又はその近辺に共存妨害成分を排除し過酸化水素を選択的に或いは優先的に透過させる選択透過膜を設けることがもっともよく利用される手法である。
【0003】
ポリピロール膜を始めとする電解重合膜はそのモノマーから電極上に直接膜を形成することができ、膜形成条件などの調整により低分子物質に対してサイズ排除的な選択透過性がある(例えば、非特許文献1参照)ことから、これらの電解重合膜を利用したバイオセンサが提案されている。
【0004】
例えば、ピロールと酵素を含む溶液を電解液として電極(作用極)上にポリピロールー酵素複合膜を形成したセンサが検討されている(例えば、非特許文献2参照)。グルコース酸化酵素(GOD)を利用したグルコースセンサを例としてその構造を図21に概念的に示す。ポリピロール22−GOD24からなる複合膜20の表面に接した試料に含まれるグルコースが複合膜20に拡散し、GOD24によって過酸化水素に変換される。生成された過酸化水素は複合膜20を透過して電極1表面に達するが、過酸化水素よりも分子量の大きい妨害成分、例えばアスコルビン酸は、複合膜20のサイズ排除作用により大部分が電極表面への到達が阻止される。その結果、センサの標的成分(グルコース)に対する特異性があるとされる。 また、ピロールの代わりに反応性置換基を持つピロール誘導体を使用するセンサが検討された(例えば、非特許文献3参照)。この場合、酵素が共有結合等を通して膜に固定されている。
【0005】
さらに、ポリピロール膜を形成してから、酵素膜をその上に設ける2重膜構造を有するセンサが提案されている(例えば、非特許文献4参照)。図22にその構造を示す。すなわち、酵素を含まないポリピロール膜26とGOD膜28を作用極2の表面に順序積層する。その製造方法を簡単に述べると、まず、硝酸洗浄などにより清浄化された白金電極(直径4mmのディスク)の表面に、定電位(Ag/AgClに対して0.7V)電解法によりポリピロール膜26を形成する。続いて形成された膜26を同電位で過酸化し、乾燥後酵素(GOD)と牛血清アルブミン(BSA)とを含む溶液を膜26の上に適用し乾燥させることによりGOD膜28を形成する。
【0006】
【非特許文献1】J. Electroanal. Chem, 273(1989)231-242
【非特許文献2】Fresenius J. Anal. Chem., 342(1992)729-733
【非特許文献3】Anal. Sci., 15(1989)1175-1176
【非特許文献4】Biosensors & Bioelectronics, 13(1998)103-112
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の技術においては、次のような問題が生じている。図21に示す構造を有するセンサでは、センサの感度が低くさらに妨害成分よる影響を受けやすい。その理由として、例えば被測定成分であるグルコースがアスコルビン酸や尿酸などの妨害成分と同程度の分子サイズを持つため、膜の中に浸透せず、反応が膜の表面に集中することにより、反応量が少なく感度が低くなる。ある程度の感度を維持するには膜を薄くする必要があるが、妨害成分に対する透過性が高くなるので、逆に妨害成分よる影響を受けやすくなる。このタイプのセンサは尿など共存妨害成分が高濃度に存在する試料の測定には適さない。一方、図22に示す2重膜構造を有するセンサでは、酵素膜が基質に対して透過性があり、十分な反応量が確保できることから、感度と選択性の両立ができ、さらに経時安定性も向上できる。しかし、このタイプのセンサでは、膜26の付着力の弱さと膜強度の弱さなどにより、特に選択性の経時的悪化が課題である。
【0008】
かかる現状を鑑み、本発明は妨害成分による影響を受け難く、長期間使用しても選択性が悪化しない高感度のバイオセンサを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段及びその作用・効果】
上記課題を解決するために請求項1によれば、本発明によるバイオセンサは、過酸化水素電極およびその上に積層された過酸化水素選択透過膜と酵素膜とを備えたバイオセンサにおいて、前記過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーと非電解重合高分子からなる複合膜であることを特徴としているので、膜の強度が電解重合ポリマーだけからなるものに比べて強く、また酵素膜との間の付着力が簡単に向上できるので、センサの安定性が高い。
請求項2に記載の本発明によるバイオセンサは、過酸化水素電極およびその上に積層された過酸化水素選択透過膜と酵素膜とを備えたバイオセンサにおいて、前記過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーを形成するモノマーである電解重合性化合物と、非電解重合高分子溶液から、電解重合によって該電極の作用極表面を被覆するように形成されることを特徴としている。このように形成された過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーの中に別の高分子が配合されることによって、膜が強化され、また酵素膜との間の付着力が簡単に向上できるので、センサの安定性が高い。
【0010】
請求項3は、請求項1または請求項2に記載のバイオセンサにおいて、前記高分子はアニオン性高分子であることを特徴とした。一般的に過酸化水素選択透過性を有する電解重合ポリマーは、非荷電かプラス荷電のものが多い。アニオン性高分子はこのような電解重合ポリマーと強く結合することで、膜が効果的に強化される。さらにアニオン性妨害成分に対してサイズ排除の外に、チャージ排除の効果が実現される。
【0011】
請求項4に記載のバイオセンサは、請求項3に記載のバイオセンサにおいて、前記アニオン性高分子はアルブミンであることを特徴とする。タンパク質の一種であるアルブミンは過酸化水素選択透過膜の上に形成される酵素との親和性をより強くする作用がある。
【0012】
請求項5に記載のバイオセンサは、請求項4に記載のバイオセンサにおいて、アルブミンの濃度が0.2〜1%の範囲とした。これによりアルブミンが膜の均一性が阻害される事なく効率よく膜に取り込まれる、良質な膜を有するセンサが提供される。
【0013】
請求項6に記載のバイオセンサは、請求項3に記載のバイオセンサにおいて、アニオン性高分子を骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂とした。骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂は水溶液において膨潤し難く、またスルホン酸基は強電解質であるため荷電量は多く環境のpHの影響を受けず一定であることから、膜が効率的強化される。
【0014】
請求項7に記載のバイオセンサは、請求項6に記載のバイオセンサにおいて、骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂と電解重合性化合物とを含む電解液から過酸化水素選択透過膜を形成するセンサの場合、骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂の濃度を0.1-3%の範囲とした。この濃度範囲は骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂を電解重合中に効率よく膜に取り入れるのに適した範囲であり、濃度が低いと取り込み量が不足し、また高いと電解重合性化合物が分散されることにより電解重合膜の形成がし難くなる。
【0015】
請求項8に記載のバイオセンサは、請求項7に記載のバイオセンサにおいて、ナフィオンの濃度を0.2〜1%の範囲とした。この範囲で形成された膜はその強度がもっとも強化され、過酸化水素選択透過性もよいので、より好ましい。
【0016】
請求項9に記載のバイオセンサは、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のバイオセンサにおいて、過酸化水素電極は絶縁性支持体上に形成されたものであり、前記酵素膜は少なくとも作用極およびその周辺領域を覆うように形成されたことを特徴とする。酵素膜を支持体の表面とも一定面積をもって接触させることにより、膜と基体(過酸化水素電極と支持体を合わせて基体と呼ぶ)との付着力がより向上され、安定性の高いセンサが提供される。
【0017】
請求項10は、請求項9に記載のバイオセンサにおいて、過酸化水素選択透過膜を形成する前または形成した後、少なくとも作用極の周辺領域を含む表面をシランカップリング剤によるシラン化処理を行なうこととした。これにより、シランカップリング剤がリンカーとして少なくとも酵素膜と基体との間の付着力をさらに向上したセンサが提供される。
【0018】
請求項11は、請求項1〜10に記載のバイオセンサにおいて、前記電解重合ポリマーをポリピロールとした。ポリピロールは少なくとも形成された時点において導電性があり、過酸化水素選択透過膜を電解重合によってその場で形成する場合、十分な妨害成分排除力を有する厚さの膜を簡単に形成することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下図面などを用いて本発明を更に詳細に説明する。
【0020】
本発明によるバイオセンサは、図1に示す基本的な膜構造を有する。図1は過酸化水素電極の作用極部分の膜構造を示す断面図である。作用極2の表面に非電解重合高分子と電解重合ポリマーからなる膜1が形成され、その上に酵素膜3が形成されている。ここで非電解重合高分子とは、天然高分子または電解重合以外の方法で合成された高分子であり、主に分子量が1000以上のものを指す。以下本発明における非電解重合高分子を単に高分子という。
【0021】
以下、過酸化水素電極が絶縁性支持体上に形成されたプレーナー型センサを実施例として、さらに詳しく説明する。
【0022】
図2に示す第1実施例のバイオセンサは、過酸化水素電極の作用極2を含む支持体6の表面に、膜1および酵素膜3が順に積層されている。膜1は作用極の表面のみを被覆し、酵素膜3は膜1よりも被覆面積が大きく、膜1を完全に覆い隠し、さらにその周辺領域をも被覆するように形成されている。ここでいう作用極の周辺領域は、作用極2の外周から一定距離以内の範囲を指す。その大きさの下限は、酵素膜と支持体表面との間に必要な付着力が実現されれば、特に限定されないが、一般的な好ましい例として作用極2の外周からの距離が1〜5mmの範囲が挙げられる。また、周辺領域の大きさの上限は特に限定されないが、上記下限を満たす範囲で、センサ製造のしやすさコストなどの状況を勘案して適宜決定される。
【0023】
支持体6は、ガラスやセラミックなどの絶縁基板からなる。過酸化水素電極は、スクリーン印刷や蒸着などの方法で支持体6の表面に形成されたものが例として挙げられる。図9にセラミック基板上にスクリーン印刷で形成された、作用極2、参照極7、および対極8からなる過酸化水素電極の例を示す。それぞれの電極にリード線があり、ポテンシオスタットなどの電気回路に接続できるようになっている。作用極および対極の材料として、周知の電極材料、例えば、白金、金、およびカーボンが用いられる。以下支持体6およびその上に形成された過酸化水素電極を合わせて基体10という。基体10は支持体6と過酸化水素電極の一部(例えば作用極)をも指す。
【0024】
膜1は、作用極表面(図2のように作用極が周辺支持体より突出している場合、その側面を含む)のみ覆う。
【0025】
膜1における高分子の役割は、電解重合ポリマーと良く混合し、選択透過膜としての膜1を強化すること、膜1と酵素膜との間、または膜1と作用極との間の付着力を向上させること、さらにアニオン性高分子の場合、膜1にマイナス荷電をもたらすことにより、特にアスコルビン酸や尿酸などのアニオン性妨害成分に対する排除性能を高めること、などが例としてあげられる。
【0026】
これらの役割について、まず高分子による膜の強化について詳細に説明する。一般的に電解重合ポリマーは枝別れのない一本鎖の分子であり、多くの場合側鎖を持たない。また、分子内部で反応性または極性官能基を持たないか一種類しかないことが多い。これらの分子からなる膜は、水素結合や、イオン結合などによる分子間力が弱いので、強度がよわいことが多い。ポリスチレンなど疎水性が強いポリマーの場合は、疎水性相互作用による分子間力が働き、膜が強いケースはあるが、ポリピロールやポリアニリンなど、疎水性がそれほど強くないか一定の親水性を有する場合においては疎水性相互作用よる膜の強度保持作用も弱い(本発明によるセンサは水溶液に接して使用されることが多いので、膜の親水性は膜の弱さにつながることが多い)。異種高分子をこれらの電解重合ポリマーに混入させることによって分子間相互作用を強めることができる。これにより、膜が強化される。例えば、ポリピロールやポリアニリンなど、極性の水素が含まれる場合、酸素を含む高分子を入れることによって膜内水素結合を形成することができる。別の例として、電解重合ポリマーが荷電している場合、逆荷電の高分子を混入させることにより、イオン結合などの静電的な分子間力を形成することができる。さらに、親水性のある電解重合ポリマーの場合、疎水性の強い高分子が膜に入ることにより疎水性が向上するので、膜が強化される。
【0027】
次に膜の付着力向上について説明する。すでに述べたように、一般的に電解重合ポリマーは反応性官能基または極性官能基を持たないことから、作用極との間または酵素膜との間に付着力が弱いことが多い。したがって、例えば反応性官能基を有する高分子を膜1に入れることにより、膜1と(一般的に反応性官能基が富んでいる)酵素膜との間の付着力を簡単に向上させることができる。同様の理由で、作用極の表面に(シラン化処理等により反応性)官能基が存在していれば、膜1と作用極との間の付着力も向上される。また、膜1を酵素膜とは反対の荷電を持たせるあるいは強化するように高分子を選択することによっても付着力が向上される。
【0028】
ポリピロールやポリアニリンなど荷電しないかプラスの荷電を有する電解重合ポリマーからなる膜の過酸化水素選択透過性は、共存妨害成分に対するサイズ排除によると考えられる。一方、代表的な共存妨害成分である尿酸やアスコルビン酸はマイナス荷電していることから、膜が同様なマイナス荷電を有すると、チャージ反発による排除効果が発生する。したがって、特にアニオン性高分子を膜1に含有させることにより、サイズ排除とチャージ反発との両方のメカニズムが働くことによって、妨害成分に対する排除効果がより一層強化される。
【0029】
次に高分子の材料について説明する。高分子の材料や種類は、電解重合ポリマーの種類や性質、そして高分子の果たすべき役割など、諸般状況を勘案して適宜決定されてよい。高分子と電解重合性化合物とを含む電解質溶液から電解重合により直接作用極2の表面に直接膜1が形成される場合、一般的に電解重合性化合物を溶解している電解質溶液に可溶であることが望ましい。このケースにおいて、高分子が電解重合よる膜成長の過程において膜の中に取り込まれていることから、一般的に電解質溶液中においてネットのマイナス荷電を有することが好ましい。その理由として、電解重合性化合物の電解重合は酸化反応が多いことが挙げられる。すなわち、作用極に正の電位を印加して重合を行なうので、ネットのマイナス荷電を有する高分子は電気的吸引作用により効率的に膜の中に取り込まれる。
【0030】
この視点から、高分子はアニオン性高分子がより好ましい。ここでアニオン性高分子は中性pH環境において一定のマイナス荷電を有するものとして定義される。タンパク質や両性電解質など、両性イオンを有する高分子の場合、そのマイナス荷電の度合いを表わす指標として等電点を用いる事ができる。一般的に等電点がが6以下のものが望ましい。アニオン性高分子は中性pH環境においてもマイナス荷電を有するので、電解質溶液を極端に低いpHに調整しなくてもよいこともメリットの一つである。アニオン性高分子の例として骨格にパーフロロカーボンを有するスルホン酸樹脂などのイオン交換樹脂、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸、DNAなどの核酸、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類、アルブミンなどの酸性タンパク質が挙げられる。これらアニオン性高分子の中で、アルブミンとパーフロロカーボンを有するスルホン酸樹脂がより好ましい。その理由として、タンパク質であるアルブミンは過酸化水素膜の上に形成される酵素膜との親和性をより強くする作用がある。一方、骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂を含む膜は、水溶液において膨潤し難く、またスルホン酸基は強電解質であるため荷電量は多く環境のpHの影響を受けず一定であることから、膜が効率的強化される。アルブミンの例として牛血清アルブミン(BSA)やヒト血清アルブミンが挙げられる。また骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂はナフィオンとの商品名で市販されるものが例として挙げられる。
【0031】
高分子のサイズ(分子量)に関しては特に限定されないが、一般的に分子量が1000〜100000の範囲にあることが望ましい。分子量が小さいと、使用期間中おいて、高分子が膜1から離脱する恐れがある。また、大きいと、拡散抵抗等により膜への取り込みが困難になる、または電解重合ポリマーとの混合が悪くなることにより、膜の強度が弱くなる恐れがある。
【0032】
膜1を構成するもう一方の材料である電解重合ポリマーは、過酸化水素選択透過膜としてのサイズ排除性能を担う主材料である。電解重合ポリマーを合成する電解重合性化合物としてピロール、アニリン、フェニレンジアミン、フェノール、トルイジン、スチレンが好ましい例として挙げられる。中でも膜が形成しても抵抗が上がらず、一定の厚さを有する膜を簡単に合成できるピロールがより望ましい。ポリピロールのもう一つの特徴として一定の疎水性を有し、水溶液中において膜としての安定性がよいことが挙げられる。
【0033】
膜1における高分子と電解重合ポリマーの割合は、材料の種類や要求されるセンサ性能(感度、妨害成分排除性能など)などを勘案して適宜決定されて良いが、一般的に高分子の比率が小さく、電解重合ポリマーのそれが大きいことが望ましい。すでに述べたように、膜1の選択透過膜としてのサイズ排除性能は主に電解重合ポリマーによって成り立っているので、その量が少なくなると、排除される分子サイズの下限が大きくなり、過酸化水素選択透過膜としての性能が落ちる恐れがある。一方、高分子の上記役割を実現させるには、一定量が必要であるが、必要以上に多く含まれると、膜の選択性低下をもたらす恐れがあると同時に、特に親水性高分子の場合、膜の親水性の大幅向上により膜強度および安定性が逆に低下する恐れがある。一般的な好ましい比率の例として、高分子の質量比が5〜30%、電解重合ポリマーの質量比が95〜70%の範囲にあることが挙げられる。一般的に、膜1は電解重合ポリマーの単体および高分子を含有する電解液から作用極2の表面に直接電解重合で形成されるので、膜1における高分子の含量は電解条件、特に電解液中における高分子の濃度によって調整することができる。
【0034】
膜1の構造の望ましい例としては高分子が電解重合ポリマーの中に均一に分散していることが挙げられる。高分子が粒子状(例えばアルブミンなどの球状タンパク質)の場合、膜1の構造として図8に示す例が挙げられる。図8は膜1の断面を拡大したものである。電解重合ポリマー12がほぼ連続した膜になっており、球状構造の高分子14が、電解重合ポリマー12の中に埋まっているように分散している。ポリピロールなどの共役系ポリマーの場合、酸化されている状態(過酸化水素電極は作用極にプラスの電位を印加して作動させているので、使用時は常に酸化環境に置かれている)ではプラス荷電しており、一般的に膜の中にアニオン性ドーパントが結合されていることが多い。したがって、ポリピロール膜だけの場合、センサと接触しているキャリア液や試料中のアニオン性成分を取り入れているが、一般的に低分子のものしか入らないので、酸化状態の変化によりドーパントが膜から離れたり再度結合したりすることにより、膜の性能が変動することがある。この意味においても、アニオン性高分子がより望ましい。アニオン性高分子を予め含有する本発明による膜1では、アニオン性高分子がカチオン性電解重合膜に強く吸着されて、ある意味では移動できないドーパントとして存在するため、膜を強化する役割を果たす。
【0035】
また、膜1の厚みは、膜の材料および組成、要求されるセンサ性能(感度、妨害成分排除性能など)などを勘案して適宜決定されて良いが、ここで膜厚を決定する方法を例示する。単位濃度の被測定成分に対する出力を感度として定義し、妨害成分排除性能の指標として妨害成分と被測定成分に対するそれぞれの感度の比率(選択比)として用いると、一般的に膜厚と感度および選択比との間に、図10に示す関係が成り立つ。すなわち、膜厚が増大するに伴って、感度と選択比がともに低下するが、選択比の低下度合いがだんだん小さくなり、一定の厚さ以上になると、ほとんど低下しなくなるのに対して、感度が持続的に低下する。実際には被測定試料から予想される共存妨害成分の量(濃度)から達成されるべき選択比の上限値を設定し、選択比がその上限値以下になるように、膜厚を決定される。
なお、作用極表面の凹凸などにより、膜厚を直接評価することが困難または精度に欠けるような場合、膜厚の例として、選択比などのセンサ性能を直接膜の製造条件を決めるパラメーターとして用いてもよい。また、電解重合性化合物と高分子とを含む溶液から電解重合により直接作用極2の表面に膜1が形成されるケースにおいては、単位電極面積当たりの電解量(単位は例えばmC/cm2)を膜厚のパラメーターとして用いてよい。なお、電解量で表わす場合、膜密度、モノマーのサイズ(分子量)、および重合時発生する単体ユニット当たりの電子数、そしてアニオン性高分子の含量によって、膜厚への換算係数が異なるが、同種類の膜がある一定条件で形成された場合、電解量と膜厚との間にほぼ直線的な関係が成り立つ。一般的な膜厚の好ましい範囲として、0.1〜10μmが例として挙げられる。
【0036】
また、膜の形成条件により膜密度や構造などに変化があることから、膜厚だけではなく、膜形成条件も膜1を決定する上で検討すべきファクターであることが言うまでもない。
【0037】
次に、酵素膜3について説明する。酵素膜3は少なくとも作用極上の膜1およびその周辺領域の支持体6を覆うように形成されている。
【0038】
酵素膜3は、好ましくは過酸化水素生成酵素および酵素を固定化または安定化させるための高分子を主成分とする。必要に応じてグルタルアルデヒドなどの2官能基をもつ架橋剤が含まれる。GODを利用したグルコースセンサの場合、高分子としてアルブミンなどのタンパク質、およびキトサンのどの糖質が好ましい例としてあげられる。特にアルブミンは酵素を安定化させる働きがあることから、より望ましい。この場合、架橋剤としてグルタルアルデヒドが添加されるとよい。架橋剤は酵素膜内の酵素とアルブミンとを共有結合でつなぎ、不溶化させるだけではまく、例えばアニオン性タンパク質を含む膜1と酵素膜との間に共有結合を形成し、酵素膜と膜1とを密着させる役割をも果たす。なお、酵素膜の具体的組成や厚みは、使用される酵素、センサに対する要求性能、および支持体処理に使用されたシランカップリング剤の種類などにより適宜決定されてよい。
【0039】
図3に示す第2実施例のバイオセンサは、基体10、膜1、および酵素膜3の基本構造は前記実施例と同様であるが、膜1が形成される前に、少なくとも作用極2およびその周辺領域の支持体表面はシランカプリング剤によるシラン化処理が行われ、酵素膜3がシランカップリング剤からなるリンカー層4により支持体上に密着されている。ここでいう作用極の周辺領域は、作用極の外周から一定距離以内の範囲を指す。その大きさの下限は酵素膜3の被覆範囲であり、上限は特に限定されない。
【0040】
シランカップリング剤からなるリンカー層4は、作用極2およびその周辺領域の支持体表面6に形成されている。図3にはその存在を例示するために連続した層として示しているが、支持体6表面と酵素膜3との間をつなぐリンカーとしての役割を果たす限り、必ずしも連続した層になっている必要がない。
【0041】
シランカップリング剤の種類は支持体6および酵素膜3の材質など、状況を勘案して適宜選択されてよいが、一般的好ましい例としてアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、アルケン基、ハロゲン基、ビニル基などの反応性官能基を含むものが望ましく、最も望ましくはアミノ基およびエポキシ基を含むシランカップリング剤である。
【0042】
具体的なシランカップリング剤の例を挙げれば、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメチルシラン、3ー(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3ーアミノプロピルトリメトキシシラン、3ーアミノプロピルトリエトキシシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、クロロメチルトリメチルシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシメチルクロロシラン、ジメチルアミノトリメチルシラン、メチルクロロシラン、エトキシジメチルビニルシラン、エチルジクロロシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ヒドロキシメチルトリメチルシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、メチルビニルジクロロシラン、トリクロロビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリメトキシビニルシラン、およびトリメチルビニルシランからなる群から選択される物質が挙げられる。中でも、3ーアミノプロピルトリエトキシシランおよび3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランがそれぞれ基板表面にアミノ基またはエポキシ基を効率的に導入する安価のシラン化剤として最も好ましい。
【0043】
本実施例においては、作用極2の表面にもシランカップリング剤が結合しているので、その表面におけるシランカップリング剤からなるリンカー層4の存在が膜1の形成を妨げることがないことを確認する必要がある。なお、白金などの金属表面がガラスやセラミックなどからなる支持体表面に比べて、シランカップリング剤が結合するのに必要な水酸基などの官能基が少ないことから、シランカップリングの存在量が支持体表面に比べて少ない。もっとも、作用極表面に存在するシランカップリング剤が膜1と電極との付着力を強める働きがある。
【0044】
また、図4に示す実施例3は、リンカー層4が作用極2の表面を除いた周辺領域の支持体6の表面に存在する。本実施例では、作用極2の表面にシランカップリング剤が結合していないので、前記実施例1のように、シランカップリング剤を選択する際、膜1への影響を考慮する必要がない。
【0045】
図5に示す第4実施例のバイオセンサは、膜1が形成された後シラン化処理が行われるので、作用極2周辺の支持体表面および膜1の表面にシランカップリング剤からなるリンカー層4が存在している。一般的に、膜1が作用極表面に密接していること、および膜1にサイズ排除作用があることから、作用極1の表面にはシランカップリング剤が存在しないか存在しても実施例1に比べてシランカップリング剤の結合量が少ない。一方、特にシランカップリング剤の分子量が小さい場合、シランカップリング剤が膜1の表面だけではなく膜1内部の分子の表面にも結合することがある。この場合、シランカップリング剤は図5に示すような表層のリンカー層になるだけではなく、膜1内部の空隙表面にも分布することになる。このようなケースにおいては、シランカップリング剤は酵素膜3と膜1とを付着させるリンカーとして働くと同時に、膜1の分子鎖同士を架橋させ、その強度を向上させ、膜密度をも向上させる効果がある。なお、電解重合膜の種類によってシランカップリング剤の結合量が異なる。
【0046】
したがって、本実施例においては、シランカップリング剤の材料選択および形成法を検討する際、支持体6や酵素膜3だけではなく、膜1の性能に対する影響も考慮対象に入れる。
【0047】
本発明によるバイオセンサの別の例として、酵素膜3が膜1表面のみ被覆するセンサが考えられる。図5にその一例を示す。すなわち、支持体6の表面に酵素膜が存在しない例である。なお、形成法により酵素膜3が膜1の側面をも被覆してよい。
【0048】
また、本発明によるバイオセンサのさらなる実施例として、酵素膜3の上に、さらに膜5を設けたものが挙げられる。図7にその一例を示す。図7に示す本実施例のバイオセンサは、図2に示す実施例1のバイオセンサの酵素膜3の上に、さらに膜5を設けたものである。図示しないが、図3から図6に示すバイオセンサの酵素膜3の上に、さらに膜5を設けたものであってもよい。
【0049】
酵素膜3の上に形成される膜5の役割として、酵素膜3を外部試料から保護すること、または被測定成分の酵素膜3への到達を制限し、より高濃度の試料の測定に対応すること、などが例としてあげられる。前者の例として、血液中の成分を分析するセンサが考えられる。血液中には酵素膜3の表面への付着によりセンサを劣化させるタンパク質などの高分子が多数含まれるので、膜5を設けてこれらの成分の酵素膜3への到達を阻止することによりセンサの測定精度や安定性を向上させることができる。後者の例として、尿中成分の測定や工業分野における製造プロセスのオンラインモニタリングの際、被検試料を希釈せずまたは低い希釈倍率(例えば5〜10倍)で広範囲の濃度測定に対応するためのセンサが挙げられる。
【0050】
次に、本発明によるバイオセンサの製造方法について上記実施例に基づいて詳細に説明する。
【0051】
まず、基体10を準備する。基体10の形状は問わないが、好ましくは平らな絶縁基板上に作用極を含む過酸化水素電極系を形成したものであり、絶縁基板としてはガラス板、シリコンウェハー、セラミック板などを用いる。
【0052】
絶縁基板上の過酸化水素電極系は作用極が含まれれば良いが、センサの製造コストおよびセンサを利用した測定システムの簡素化の視点から、過酸化水素電極をパターン化して基板上に形成されたものが好ましく、その一例として図9に示す様にセラミック基板上にスクリーン印刷技術で3極系の基体を作成する。
【0053】
次に必要に応じて基体10表面の洗浄および活性化の目的で基体10を前処理する。洗浄に際しては水や酸を用いることができるが、特に酸による洗浄は汚れの除去と同時に、基体10の表面の活性化が図れるので好ましい。酸種の好ましい例としては硝酸、硫酸、塩酸などの強酸、または、リン酸、ぎ酸、クエン酸、酢酸などの弱酸が挙げられる。尚、酸洗浄後の基体10は水で洗浄する必要がある。
【0054】
洗浄を完了した基体10は必要に応じて乾燥させる。乾燥条件は特に限定されないが、好ましい乾燥温度として20〜80℃、乾燥時間として5〜120分が挙げられる。なお、次の工程が水溶液を用いて表面処理する工程の場合、乾燥を省略することが出来る。
次の製造工程は製造されるセンサの構造により多少異なる。図2、図6、および図7に示す実施例の構造を有するセンサの場合、シラン化処理工程がない。一方、図3〜図5に示す実施例の構造を有するセンサの場合、シラン化処理工程が含まれる。図3に示す実施例2の構造を有するセンサの場合、基体10をシラン化処理してから膜1を形成する。また図4に示す実施例3の構造を有するセンサは、シランカップリング剤による処理と膜1の形成をどちらかを先に行なってもよい。一方、図5に示す実施例3の構造を有するセンサの場合、膜1を形成してから、膜1を含む基体10をシラン化処理する。
【0055】
ここでまずそれぞれのセンサの製造工程をフローチャートに基づいて説明し、次に各工程について詳細に説明する。
【0056】
実施例1の構造(図2)を有するセンサは、図11に示すフローにしたがって製造する。すなわち、前処理の後、膜1と酵素膜3を順序形成する。なお、点線で囲まれた工程は省略してもよい工程を示す(以下同)。
【0057】
実施例2の構造(図3)を有するセンサは、図12に示すフローにしたがって製造する。すなわち、前処理の後、作用極2を含む基体表面をシラン化処理する。続いて膜1と酵素膜3を順序形成する。
【0058】
実施例3の構造(図4)を有するセンサは、図13または図14に示すフローにしたがって製造する。図13に示す工程は、前処理の後、必要に応じて作用極の表面をマスクしてからシラン化処理を行い、続いてマスクを除去し膜1を形成する。最後に酵素膜3を形成する。一方、図14に示すフローは、前処理の後、膜1を形成する。続いて膜1の表面をマスクしてからシラン化処理を行い、シラン化処理の後マスクを除去する。最後に酵素膜3を形成する。図13において、作用極表面のマスクおよびその後の除去処理は省略してもよいケースとして、作用極の表面にシラン化処理を行なってもシランカップリング剤が付かないか実質的に付かないケースが例としてあげられる。なお、この場合、センサの製造工程は前記実施例2の構造を有するセンサの製造と同じ工程になる。
【0059】
また、実施例4の構造(図5)を有するセンサは、図15に示すフローにしたがって製造する。すなわち、前処理の後、膜1を形成し、続いて基板のシラン化処理を行ない、最後に酵素膜3を形成する。なお、図6に示す実施例のセンサの製造は図11に示す工程に従う。また、図7に示す実施例のセンサの製造は同様に図11に示す工程に従がって製造する。すなわち、前処理の後、膜1を形成し、続いて酵素膜3を形成した後、さらに膜5を形成する。
【0060】
次に、上記製造フローにおける各工程について詳細に説明する。なお、センサの構造または製造方法により順序や工程数に違いがあるが、同じ名称の付いた工程は、フローによらず処理方法が基本的に同じなので、工程別でまとめて説明する。
【0061】
1)作用極1または膜1の表面のマスクおよびマスク除去:この処理は作用極1または膜1の表面を被覆し、シラン化処理においてこれらの表面をシランカップリング剤から隔離し、マスクされた部分にシランカップリング剤が結合または吸着しないようにすることが目的である。上記目的が達成されれば、具体的な方法には特に制限がない。一般的な好ましい方法として、フォトレジストなどを用いた半導体製造工程で汎用される方法、およびフィルムやパッキンなどの張り付けによる方法、などが例としてあげられる。複数のセンサを有する基板の場合、パターン化されたマスク方法を用いればよい。なお、膜1の表面をマスクする際、マスク処理による膜1への影響を考慮する必要があることは言うまでもない。
【0062】
2)シラン化処理:まず、支持体種類や酵素膜3、膜1などの状況を勘案してシランカップリング剤を選択し、選択されたランカップリング剤を適当な溶媒に溶解して一定濃度のシラン化溶液を作成する。続いて基体10(センサの構造または製造方法によってシランカップリング処理前における作用極表面の状態が異なるが、ここでは便宜上基体10と呼ぶ)の表面をシランカップリング剤溶液に接触させる。表面にシランカップリング剤溶液と接触させる方法として、基体10をシランカップリング剤溶液に浸す方法、またはスピンコーターなどの成膜装置で表面にシラン化溶液を塗布する方法が例としてあげられる。次に必要に応じて基体10を洗浄する。洗浄することによって化学的に結合されていないまたは強く吸着されていない余分なシランカップリング剤が取り除かれる。なお、洗浄しなくてもセンサ性能への影響が許容範囲内であれば、洗浄工程を省略して良い。
【0063】
3)膜1の形成:膜1の形成は予め形成された膜を電極表面に取り付ける方法と、液体等に溶解された膜材料から電極表面に直接膜を形成する方法に大別される。好ましくは膜材料から直接電極表面に形成される方法である。後者の方法の例として、高分子と電解重合ポリマーをとの混合物から電極表面に膜を形成する方法、および電解重合ポリマーを形成するモノマーである電解重合性化合物と高分子とを含む電解重合によって作用極の表面にその場で膜1を形成する方法が挙げられる。溶液から作用極2の表面にその場で電解重合によって形成される方法では、膜と電極との密着性が強いこと、作用極表面以外では膜が形成されないこと、膜が合成されたままの状態で使用され、構造が制御されやすいこと、などのメリットがあることから、もっとも好ましい。。以下この方法について詳細に説明する。まず、高分子および電解重合性化合物が含まれる電解液を調整する。高分子および電解重合性化合物が水溶性の場合、電解液を調整する溶媒として水を用いることが望ましい。この場合、支持電解質として塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの無機塩が例としてあげられる。また、高分子の荷電状態によってはpHを調整する。一方、高分子および電解重合性化合物が水に溶解しにくい場合、有機溶媒を用いる。この場合、高分子および電解重合性化合物だけではなく、支持電解質も有機溶媒に可溶であることが必要である。もちろん、有機溶媒と水との混合溶媒を用いても良い。電解重合性化合物は空気中の酸素によって酸化されることがあり、それが膜1の性能に影響を与えることがある場合、電解液を窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気に保つ。
【0064】
次に基体を、少なくとも作用極と対極が電解液に接触するように適当な電解系にセットする。電解系は基体上の作用極の外に、対極と参照極とを備える。対極と参照極は基体上のものを使用するか、電解系に別途設けたものを使用する。電解系に別途設けた対極と参照極を使用する場合、電解液のオーミック抵抗による影響を押さえるために、作用極と対極および参照極との間の距離を小さくし、また三者の位置関係が常に一定になるようにすることが望ましい。
【0065】
具体的な電解方法として、作用極と参照極との間に一定の電位が印加される定電位電解法、および対極と作用極との間に一定の電流を流す定電流電解法、あるいは印加電位または電流を一定のパターンで変化(走査)させる、例えばサイクリックボルタンメトリー法、などが例として挙げられる。ポリフェノールやポリフェニレンジアミンなど、膜の絶縁性が強く、その成長とともに抵抗が急激に増大する場合は、サイクリックボルタンメトリーなど、電位または電流を走査させる方法が定電位または定電流法よりも厚い膜を形成することができる。一方、ポリピロールなど、膜が形成されても抵抗があまり増大しない場合、方法の簡便さから、定電位または定電流法で形成することが望ましい。いずれの方法においても、膜厚は電解量により制御する。電解量は電流曲線の時間積分で求める。定電流電解の場合は電解時間で電解量を求めることができるので、工程管理が他の方法に比べて簡単である。具体的にはどの方法を採用するか、各方法による膜形成の比較等によって決定されることが望ましい。
【0066】
以下、電解重合性化合物がピロールの場合、定電流電解法を例に、電解条件(電解液中に含まれる高分子の濃度)の実験検討を例示する。
【0067】
電解重合によるポリピロールの形成は、図16に示すスキームで行われる。反応式1)は電解開始反応であり、反応式2)は二量化反応である。反応式3)の脱プロトン化反応により二量体が合成される。反応式4)で二量体がさらに酸化される。反応式5)と反応式6)はさらなる電解反応および重合反応を表わしている。
【0068】
ポリピロール電解重合反応の特徴の一つとして、単体の酸化よりも二量体の酸化が容易であり、さらに高度重合されたポリマーの酸化が二量体のそれよりも容易であることが挙げられる。形成されたポリピロールは導電性を有するので、膜が成長しても電気抵抗があまり上昇しない。例えばアニオン性高分子を含まない電解液を用いて、定電流で重合させると、電解電位は図17に示す電位−時間曲線Aをたどる。電解速度が一定に制御されているので、最初に電解電位が高く、その後低下する。一定時間経過してから安定する。
【0069】
一方、電解液にアニオン性高分子が含まれると、電解電位が異なる経時曲線をたどる。図17に示す曲線BとCはアニオン性高分子がBSAの場合の電位―時間曲線である。曲線Bは濃度が低い場合(例えば0.1%)の電位−時間曲線、そして曲線CはBSA濃度が高い場合(例えば1%)の電位−時間曲線である。なお、本実験におけるその他の電解条件は以下の通りである:基体は図9に示すセラミック支持体に3極式過酸化水素電極が形成されたものであり、シラン化処理はされていない。作用極の面積は約3mm2であった。電解重合時の対極と参照極は支持体上のものを利用した。また、基体はフローセルに装着され、窒素雰囲気に保たれている電解液(pH6.8の10mMのリン酸緩衝液に0.4Mのピロール、50mMの塩化カリウム、および所定濃度のBSAを溶解したもの)を一定速度でフローセルに循環送液していた。室温は約25℃で空調されていた。
【0070】
図17から、電解液中におけるBSAの存在がピロールの電解重合に影響を与え、その濃度が高いほど、定電流電解時の電位を上方シフトさせる。特に濃度が高い場合、電解電位が経時的に上昇する。図示しないが、定電位電解の場合、電解電流が最初は上昇するが、その後経時的に低下する。すなわち、電解液中にBSAが存在している場合、できた電解重合膜は電気抵抗が増大し、しかも増大の程度はBSA濃度との間に正の相関関係がある。ポリピロールが導電性であるのに対して、BSAが非導電性であることを合わせて考えると、抵抗の増大は膜成長過程におけるBSAの膜への取り込みを意味し、しかも取り込み量がBSAの濃度に正比例することが分かる。したがって、膜1中のBSA含量は電解液中のBSA添加量によって制御することができる。もちろん、BSA添加量の他に、電解条件、ピロール濃度、そして支持電解質濃度などのファクターも膜組成に影響を与える。
【0071】
図示しないが、BSA濃度が高い(例えば2%)と、電解時間とともに電位が急速に上昇し、数分間電解を行なっても、均一な膜が形成されていないことが目視で確認できる。これはBSAの大量存在がヒピロールの電極表面への拡散移動、またはピロールの重合を阻害することを意味する。一方、濃度が0.1%以下ではBSAの膜への取り込み量が不十分であった。以上の結果から、BSAの濃度は0.1〜1%の範囲にあることが好ましい。
【0072】
図18はアニオン性高分子がナフィオンの場合の電位―時間曲線である。本実施例の膜形成条件は前記BSAの場合と基本的に同様であるが、膜1を形成する前に、基体表面を3−アミノプロピルトリエトキシシランで処理した。ナフィオンがない場合の電位―時間曲線はEである。曲線Eは前記図17の曲線Aに比べて電位が高いが、これはシラン化処理によって電極表面にシラン化処理剤が付着し、オーム抵抗が上昇することによる。
【0073】
FとGはナフィオン濃度が1%と2%のの場合の電位―時間曲線であり、ナフィオンがない場合に比べて電位が低下している。したがって、BSAの場合と異なり、電解液におけるナフィオンの存在が電解重合反応を促進する役割果たす。しかし、1%よりも2%の方は電位が高いことからも分かるように、濃度が高くなると、BSAと同様な膜形成を阻止する側面が現れてくるものと推測される。なお、ナフィオンの濃度が2%になっても見かけ上均一の膜が形成されるが、3%では膜の不均一さが肉眼で確認できた。
したがって、電解液中におけるナフィオンの濃度は3%以下が好ましく、より好ましくが2%以下である。
【0074】
図19には、ナフィオン濃度の異なる電解液から膜1を形成し、さらに後記滴下の方法でグルコースオキシダーゼを含む酵素膜3を形成したグルコースセンサの性能(選択比)、図20に示すフローインジェクション分析装置で評価し結果を示す。選択比は典型的な共存妨害成分であるアスコルビン酸とグルコースに対する同濃度における出力の比として定義される:
選択比(%)=アスコルビン酸に対する出力/同濃度のグルコースに対する出力*100
【0075】
酵素膜の性能が一定の場合、選択比が過酸化水素選択透過膜の性能を比較する指標として用いることができる。選択比が低いほど、過酸化水素選択透過膜の性能がよい。
【0076】
図19から、ナフィオン濃度が1%以下では選択比がほとんどナフィオンの濃度によらず一定であるが、1%以上では選択比が上昇する傾向にある。なお、図19のデータは4センサからの測定値の平均値である。
上記センサをさらに評価するために、センサをセルから取り出して乾燥させ、再び脱イオン水で濡らして再乾燥する試験を行ない、膜の剥離具合を観察した。その結果を表1に示す。表中の数値は膜が浮きまたは破裂などの剥離したセンサの数である。一般的に、膜が乾燥すると、乾燥ストレス等により、膜を基体から剥離させる力が働くので、膜の付着力または強度が強いほど、膜が剥離しにくくなる。4枚中全部のセンサが膜剥離した場合は4であり、剥離していない場合は1である。したがって、数値が小さいほど、膜の基体付着力もしくは膜強度が強いことになる。
【0077】
表1. 乾燥によるセンサ膜の剥離状況(4枚中の剥離数)
表1から、膜の付着力または膜強度は電解液中のナフィオン添加量と相関しており、ナフィオン濃度が0.5%付近に膜がもっとも剥離しにくいことが分かる。図19に示すセンサの性能データと合わせて考慮すると、ナフィオン濃度範囲は0.2〜1%の範囲にあることがもっとも好ましい。
以上膜1の電解重合条件検討について非電解重合高分子がBSAとナフィオンの場合を例として説明したが、他の高分子についても類義したな方法で検討してよい。
【0078】
なお、膜1の組成や構造はIR、XPS、SEMなど、周知の分析方法で分析可能である。
【0079】
電解重合後、膜1を含む基体10を洗浄し次の工程に移行する。ポリピロールやポリアニリンなど形成された直後の状態では導電性を有し、測定時高いベース電流を生じる膜に対しては、さらに酸化処理を行なう。酸化処理せずセンサとして試料を測定すると、高いベース電流により、特に初期では測定できないか精度が悪くなる。一般的な処理方法として、電極活成分を含まない電解液(例えば、塩化カリウムを含むリン酸緩衝液)中において、作用極に一定の電位を印加した定電位酸化で行なう。酸化処理はベース電流が実際の試料測定に際してベース電流が測定精度に影響を与えないレベルになるまで行なうことが望ましい。具体的な酸化時間は膜厚や電極の状態および印加電位によって異なるが、200−1200mC/cm2のポリピロールの場合、0.6−0.7V(Ag/AgCl)の印加電位では約1ないし6時間が妥当な処理時間である。
なお、酸化処理工程は、膜1を形成した直後ではなく、その後工程の後(例えば酵素膜3の形成後)で行なっても良い。
【0080】
4)酵素膜3の形成:酵素膜3の成膜法は選定される材料および予定構造などを勘案して周知の膜形成法から選定して適宜決定すれば良いが、好ましい成膜方法の例として、酵素膜の材料を一定濃度に調整した溶液(原液)を、膜1が形成された作用極表面を含めた領域に層状に展開し、その後溶媒を蒸発させ、酵素膜3を形成する方法が挙げられる。
原液の調整に用いられる溶媒として水が好ましいが、材料の性質等を勘案して有機溶媒を含ませても良い。また、原液の濃度は膜2の材料、溶液粘度、目標膜厚、塗布方法など、種々の条件を勘案して決定すれば良く、特に限定されないが、膜厚を調整する重要ファクターのひとつとして位置づけるとよい。
【0081】
原液を基体10の表面に層状に展開して酵素膜3を成膜する方法の好ましい例として、基体10が静止した状態での滴下塗布、流延塗布、及びスピンコーターなどの成膜装置による回転塗布、膜原液と接触させた後で基体10を引き上げる方法等が挙げられる。回転塗布法や引き上げ法は薄い酵素膜を有するセンサを大量に製造するのに適しているが、生産量が少ない場合、またはセンサ寿命を確保するために一定量以上の酵素量を作用極の表面に担持させる必要がある場合には、一般的に高価である酵素を節約するために、作用極を中心とする表面に酵素原液をドロップして乾燥させる方法が好ましい。この方法によれば、酵素膜3が作用極及びその周辺領域のみ一定の厚さをもって被覆するので、酵素のロスが無く、酵素使用量を最小限に押さえ安価に製造することができる。被覆される周辺領域の範囲は、原液の使用量および/またはドロップされた直後の液滴操作により調整される。
【0082】
以上、酵素膜3まで成膜したバイオセンサの製造方法について説明したが、更に図4に示す様に酵素膜3の表面に膜5を必要とする場合、後工程で続けて膜5を成膜すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるバイオセンサの基本構造図である。
【図2】本発明による一実施例のバイオセンサの構造図である。
【図3】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図4】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図5】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図6】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図7】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図8】膜1の構造を例示する図である。
【図9】過酸化水素電極をセラミック基板上に作成した基体を示す図である。
【図10】膜厚とセンサの感度および選択比との関係を示す図である。
【図11】本発明による一実施例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図12】本発明による他例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図13】本発明による他例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図14】本発明による他例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図15】本発明による他例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図16】ピロールの電解重合の反応スキームを示す図である。
【図17】ピロールの定電流電解重合における電位−時間曲線を示す図である。
【図18】ピロールの定電流電解重合における電位−時間曲線を示す別の図である。
【図19】電解液中におけるナフィオンの濃度と膜の選択比との関係を示す図である。
【図20】バイオセンサを評価するフローインジェクション評価装置の概略図である。
【図21】従来のバイオセンサの構造図である。
【図22】従来の別のバイオセンサの構造図である。
【符号の説明】
1…膜1
2…作用極
3…酵素膜
4…リンカー層
5…膜5
6…支持体
7…参照極
8…対極
10…基体
12…電解重合ポリマー
14…高分子
20…ポリピロール−GOD複合膜
22…ポリピロール
24…GOD
26…ポリピロール膜
28…GOD膜
【発明の属する技術分野】
本発明は多くの成分が混在する媒体から特定の成分を検出し測定するバイオセンサ、特に電流検出型電気化学的バイオセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
過酸化水素電極と酸化還元酵素とを組み合わせた酵素電極はもっとも多く採用されているバイオセンサのタイプの一つである。
電流測定型トランスデューサの一種である過酸化水素電極は、過酸化水素の他に、尿酸やアスコルビン酸などの還元性物質(以下、妨害成分という)に対しても応答し電流が発生する。このような妨害成分が共存する試料を測定対象とする場合、その影響を押さえる必要がある。電極表面又はその近辺に共存妨害成分を排除し過酸化水素を選択的に或いは優先的に透過させる選択透過膜を設けることがもっともよく利用される手法である。
【0003】
ポリピロール膜を始めとする電解重合膜はそのモノマーから電極上に直接膜を形成することができ、膜形成条件などの調整により低分子物質に対してサイズ排除的な選択透過性がある(例えば、非特許文献1参照)ことから、これらの電解重合膜を利用したバイオセンサが提案されている。
【0004】
例えば、ピロールと酵素を含む溶液を電解液として電極(作用極)上にポリピロールー酵素複合膜を形成したセンサが検討されている(例えば、非特許文献2参照)。グルコース酸化酵素(GOD)を利用したグルコースセンサを例としてその構造を図21に概念的に示す。ポリピロール22−GOD24からなる複合膜20の表面に接した試料に含まれるグルコースが複合膜20に拡散し、GOD24によって過酸化水素に変換される。生成された過酸化水素は複合膜20を透過して電極1表面に達するが、過酸化水素よりも分子量の大きい妨害成分、例えばアスコルビン酸は、複合膜20のサイズ排除作用により大部分が電極表面への到達が阻止される。その結果、センサの標的成分(グルコース)に対する特異性があるとされる。 また、ピロールの代わりに反応性置換基を持つピロール誘導体を使用するセンサが検討された(例えば、非特許文献3参照)。この場合、酵素が共有結合等を通して膜に固定されている。
【0005】
さらに、ポリピロール膜を形成してから、酵素膜をその上に設ける2重膜構造を有するセンサが提案されている(例えば、非特許文献4参照)。図22にその構造を示す。すなわち、酵素を含まないポリピロール膜26とGOD膜28を作用極2の表面に順序積層する。その製造方法を簡単に述べると、まず、硝酸洗浄などにより清浄化された白金電極(直径4mmのディスク)の表面に、定電位(Ag/AgClに対して0.7V)電解法によりポリピロール膜26を形成する。続いて形成された膜26を同電位で過酸化し、乾燥後酵素(GOD)と牛血清アルブミン(BSA)とを含む溶液を膜26の上に適用し乾燥させることによりGOD膜28を形成する。
【0006】
【非特許文献1】J. Electroanal. Chem, 273(1989)231-242
【非特許文献2】Fresenius J. Anal. Chem., 342(1992)729-733
【非特許文献3】Anal. Sci., 15(1989)1175-1176
【非特許文献4】Biosensors & Bioelectronics, 13(1998)103-112
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の技術においては、次のような問題が生じている。図21に示す構造を有するセンサでは、センサの感度が低くさらに妨害成分よる影響を受けやすい。その理由として、例えば被測定成分であるグルコースがアスコルビン酸や尿酸などの妨害成分と同程度の分子サイズを持つため、膜の中に浸透せず、反応が膜の表面に集中することにより、反応量が少なく感度が低くなる。ある程度の感度を維持するには膜を薄くする必要があるが、妨害成分に対する透過性が高くなるので、逆に妨害成分よる影響を受けやすくなる。このタイプのセンサは尿など共存妨害成分が高濃度に存在する試料の測定には適さない。一方、図22に示す2重膜構造を有するセンサでは、酵素膜が基質に対して透過性があり、十分な反応量が確保できることから、感度と選択性の両立ができ、さらに経時安定性も向上できる。しかし、このタイプのセンサでは、膜26の付着力の弱さと膜強度の弱さなどにより、特に選択性の経時的悪化が課題である。
【0008】
かかる現状を鑑み、本発明は妨害成分による影響を受け難く、長期間使用しても選択性が悪化しない高感度のバイオセンサを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段及びその作用・効果】
上記課題を解決するために請求項1によれば、本発明によるバイオセンサは、過酸化水素電極およびその上に積層された過酸化水素選択透過膜と酵素膜とを備えたバイオセンサにおいて、前記過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーと非電解重合高分子からなる複合膜であることを特徴としているので、膜の強度が電解重合ポリマーだけからなるものに比べて強く、また酵素膜との間の付着力が簡単に向上できるので、センサの安定性が高い。
請求項2に記載の本発明によるバイオセンサは、過酸化水素電極およびその上に積層された過酸化水素選択透過膜と酵素膜とを備えたバイオセンサにおいて、前記過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーを形成するモノマーである電解重合性化合物と、非電解重合高分子溶液から、電解重合によって該電極の作用極表面を被覆するように形成されることを特徴としている。このように形成された過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーの中に別の高分子が配合されることによって、膜が強化され、また酵素膜との間の付着力が簡単に向上できるので、センサの安定性が高い。
【0010】
請求項3は、請求項1または請求項2に記載のバイオセンサにおいて、前記高分子はアニオン性高分子であることを特徴とした。一般的に過酸化水素選択透過性を有する電解重合ポリマーは、非荷電かプラス荷電のものが多い。アニオン性高分子はこのような電解重合ポリマーと強く結合することで、膜が効果的に強化される。さらにアニオン性妨害成分に対してサイズ排除の外に、チャージ排除の効果が実現される。
【0011】
請求項4に記載のバイオセンサは、請求項3に記載のバイオセンサにおいて、前記アニオン性高分子はアルブミンであることを特徴とする。タンパク質の一種であるアルブミンは過酸化水素選択透過膜の上に形成される酵素との親和性をより強くする作用がある。
【0012】
請求項5に記載のバイオセンサは、請求項4に記載のバイオセンサにおいて、アルブミンの濃度が0.2〜1%の範囲とした。これによりアルブミンが膜の均一性が阻害される事なく効率よく膜に取り込まれる、良質な膜を有するセンサが提供される。
【0013】
請求項6に記載のバイオセンサは、請求項3に記載のバイオセンサにおいて、アニオン性高分子を骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂とした。骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂は水溶液において膨潤し難く、またスルホン酸基は強電解質であるため荷電量は多く環境のpHの影響を受けず一定であることから、膜が効率的強化される。
【0014】
請求項7に記載のバイオセンサは、請求項6に記載のバイオセンサにおいて、骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂と電解重合性化合物とを含む電解液から過酸化水素選択透過膜を形成するセンサの場合、骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂の濃度を0.1-3%の範囲とした。この濃度範囲は骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂を電解重合中に効率よく膜に取り入れるのに適した範囲であり、濃度が低いと取り込み量が不足し、また高いと電解重合性化合物が分散されることにより電解重合膜の形成がし難くなる。
【0015】
請求項8に記載のバイオセンサは、請求項7に記載のバイオセンサにおいて、ナフィオンの濃度を0.2〜1%の範囲とした。この範囲で形成された膜はその強度がもっとも強化され、過酸化水素選択透過性もよいので、より好ましい。
【0016】
請求項9に記載のバイオセンサは、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のバイオセンサにおいて、過酸化水素電極は絶縁性支持体上に形成されたものであり、前記酵素膜は少なくとも作用極およびその周辺領域を覆うように形成されたことを特徴とする。酵素膜を支持体の表面とも一定面積をもって接触させることにより、膜と基体(過酸化水素電極と支持体を合わせて基体と呼ぶ)との付着力がより向上され、安定性の高いセンサが提供される。
【0017】
請求項10は、請求項9に記載のバイオセンサにおいて、過酸化水素選択透過膜を形成する前または形成した後、少なくとも作用極の周辺領域を含む表面をシランカップリング剤によるシラン化処理を行なうこととした。これにより、シランカップリング剤がリンカーとして少なくとも酵素膜と基体との間の付着力をさらに向上したセンサが提供される。
【0018】
請求項11は、請求項1〜10に記載のバイオセンサにおいて、前記電解重合ポリマーをポリピロールとした。ポリピロールは少なくとも形成された時点において導電性があり、過酸化水素選択透過膜を電解重合によってその場で形成する場合、十分な妨害成分排除力を有する厚さの膜を簡単に形成することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下図面などを用いて本発明を更に詳細に説明する。
【0020】
本発明によるバイオセンサは、図1に示す基本的な膜構造を有する。図1は過酸化水素電極の作用極部分の膜構造を示す断面図である。作用極2の表面に非電解重合高分子と電解重合ポリマーからなる膜1が形成され、その上に酵素膜3が形成されている。ここで非電解重合高分子とは、天然高分子または電解重合以外の方法で合成された高分子であり、主に分子量が1000以上のものを指す。以下本発明における非電解重合高分子を単に高分子という。
【0021】
以下、過酸化水素電極が絶縁性支持体上に形成されたプレーナー型センサを実施例として、さらに詳しく説明する。
【0022】
図2に示す第1実施例のバイオセンサは、過酸化水素電極の作用極2を含む支持体6の表面に、膜1および酵素膜3が順に積層されている。膜1は作用極の表面のみを被覆し、酵素膜3は膜1よりも被覆面積が大きく、膜1を完全に覆い隠し、さらにその周辺領域をも被覆するように形成されている。ここでいう作用極の周辺領域は、作用極2の外周から一定距離以内の範囲を指す。その大きさの下限は、酵素膜と支持体表面との間に必要な付着力が実現されれば、特に限定されないが、一般的な好ましい例として作用極2の外周からの距離が1〜5mmの範囲が挙げられる。また、周辺領域の大きさの上限は特に限定されないが、上記下限を満たす範囲で、センサ製造のしやすさコストなどの状況を勘案して適宜決定される。
【0023】
支持体6は、ガラスやセラミックなどの絶縁基板からなる。過酸化水素電極は、スクリーン印刷や蒸着などの方法で支持体6の表面に形成されたものが例として挙げられる。図9にセラミック基板上にスクリーン印刷で形成された、作用極2、参照極7、および対極8からなる過酸化水素電極の例を示す。それぞれの電極にリード線があり、ポテンシオスタットなどの電気回路に接続できるようになっている。作用極および対極の材料として、周知の電極材料、例えば、白金、金、およびカーボンが用いられる。以下支持体6およびその上に形成された過酸化水素電極を合わせて基体10という。基体10は支持体6と過酸化水素電極の一部(例えば作用極)をも指す。
【0024】
膜1は、作用極表面(図2のように作用極が周辺支持体より突出している場合、その側面を含む)のみ覆う。
【0025】
膜1における高分子の役割は、電解重合ポリマーと良く混合し、選択透過膜としての膜1を強化すること、膜1と酵素膜との間、または膜1と作用極との間の付着力を向上させること、さらにアニオン性高分子の場合、膜1にマイナス荷電をもたらすことにより、特にアスコルビン酸や尿酸などのアニオン性妨害成分に対する排除性能を高めること、などが例としてあげられる。
【0026】
これらの役割について、まず高分子による膜の強化について詳細に説明する。一般的に電解重合ポリマーは枝別れのない一本鎖の分子であり、多くの場合側鎖を持たない。また、分子内部で反応性または極性官能基を持たないか一種類しかないことが多い。これらの分子からなる膜は、水素結合や、イオン結合などによる分子間力が弱いので、強度がよわいことが多い。ポリスチレンなど疎水性が強いポリマーの場合は、疎水性相互作用による分子間力が働き、膜が強いケースはあるが、ポリピロールやポリアニリンなど、疎水性がそれほど強くないか一定の親水性を有する場合においては疎水性相互作用よる膜の強度保持作用も弱い(本発明によるセンサは水溶液に接して使用されることが多いので、膜の親水性は膜の弱さにつながることが多い)。異種高分子をこれらの電解重合ポリマーに混入させることによって分子間相互作用を強めることができる。これにより、膜が強化される。例えば、ポリピロールやポリアニリンなど、極性の水素が含まれる場合、酸素を含む高分子を入れることによって膜内水素結合を形成することができる。別の例として、電解重合ポリマーが荷電している場合、逆荷電の高分子を混入させることにより、イオン結合などの静電的な分子間力を形成することができる。さらに、親水性のある電解重合ポリマーの場合、疎水性の強い高分子が膜に入ることにより疎水性が向上するので、膜が強化される。
【0027】
次に膜の付着力向上について説明する。すでに述べたように、一般的に電解重合ポリマーは反応性官能基または極性官能基を持たないことから、作用極との間または酵素膜との間に付着力が弱いことが多い。したがって、例えば反応性官能基を有する高分子を膜1に入れることにより、膜1と(一般的に反応性官能基が富んでいる)酵素膜との間の付着力を簡単に向上させることができる。同様の理由で、作用極の表面に(シラン化処理等により反応性)官能基が存在していれば、膜1と作用極との間の付着力も向上される。また、膜1を酵素膜とは反対の荷電を持たせるあるいは強化するように高分子を選択することによっても付着力が向上される。
【0028】
ポリピロールやポリアニリンなど荷電しないかプラスの荷電を有する電解重合ポリマーからなる膜の過酸化水素選択透過性は、共存妨害成分に対するサイズ排除によると考えられる。一方、代表的な共存妨害成分である尿酸やアスコルビン酸はマイナス荷電していることから、膜が同様なマイナス荷電を有すると、チャージ反発による排除効果が発生する。したがって、特にアニオン性高分子を膜1に含有させることにより、サイズ排除とチャージ反発との両方のメカニズムが働くことによって、妨害成分に対する排除効果がより一層強化される。
【0029】
次に高分子の材料について説明する。高分子の材料や種類は、電解重合ポリマーの種類や性質、そして高分子の果たすべき役割など、諸般状況を勘案して適宜決定されてよい。高分子と電解重合性化合物とを含む電解質溶液から電解重合により直接作用極2の表面に直接膜1が形成される場合、一般的に電解重合性化合物を溶解している電解質溶液に可溶であることが望ましい。このケースにおいて、高分子が電解重合よる膜成長の過程において膜の中に取り込まれていることから、一般的に電解質溶液中においてネットのマイナス荷電を有することが好ましい。その理由として、電解重合性化合物の電解重合は酸化反応が多いことが挙げられる。すなわち、作用極に正の電位を印加して重合を行なうので、ネットのマイナス荷電を有する高分子は電気的吸引作用により効率的に膜の中に取り込まれる。
【0030】
この視点から、高分子はアニオン性高分子がより好ましい。ここでアニオン性高分子は中性pH環境において一定のマイナス荷電を有するものとして定義される。タンパク質や両性電解質など、両性イオンを有する高分子の場合、そのマイナス荷電の度合いを表わす指標として等電点を用いる事ができる。一般的に等電点がが6以下のものが望ましい。アニオン性高分子は中性pH環境においてもマイナス荷電を有するので、電解質溶液を極端に低いpHに調整しなくてもよいこともメリットの一つである。アニオン性高分子の例として骨格にパーフロロカーボンを有するスルホン酸樹脂などのイオン交換樹脂、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸、DNAなどの核酸、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類、アルブミンなどの酸性タンパク質が挙げられる。これらアニオン性高分子の中で、アルブミンとパーフロロカーボンを有するスルホン酸樹脂がより好ましい。その理由として、タンパク質であるアルブミンは過酸化水素膜の上に形成される酵素膜との親和性をより強くする作用がある。一方、骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂を含む膜は、水溶液において膨潤し難く、またスルホン酸基は強電解質であるため荷電量は多く環境のpHの影響を受けず一定であることから、膜が効率的強化される。アルブミンの例として牛血清アルブミン(BSA)やヒト血清アルブミンが挙げられる。また骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂はナフィオンとの商品名で市販されるものが例として挙げられる。
【0031】
高分子のサイズ(分子量)に関しては特に限定されないが、一般的に分子量が1000〜100000の範囲にあることが望ましい。分子量が小さいと、使用期間中おいて、高分子が膜1から離脱する恐れがある。また、大きいと、拡散抵抗等により膜への取り込みが困難になる、または電解重合ポリマーとの混合が悪くなることにより、膜の強度が弱くなる恐れがある。
【0032】
膜1を構成するもう一方の材料である電解重合ポリマーは、過酸化水素選択透過膜としてのサイズ排除性能を担う主材料である。電解重合ポリマーを合成する電解重合性化合物としてピロール、アニリン、フェニレンジアミン、フェノール、トルイジン、スチレンが好ましい例として挙げられる。中でも膜が形成しても抵抗が上がらず、一定の厚さを有する膜を簡単に合成できるピロールがより望ましい。ポリピロールのもう一つの特徴として一定の疎水性を有し、水溶液中において膜としての安定性がよいことが挙げられる。
【0033】
膜1における高分子と電解重合ポリマーの割合は、材料の種類や要求されるセンサ性能(感度、妨害成分排除性能など)などを勘案して適宜決定されて良いが、一般的に高分子の比率が小さく、電解重合ポリマーのそれが大きいことが望ましい。すでに述べたように、膜1の選択透過膜としてのサイズ排除性能は主に電解重合ポリマーによって成り立っているので、その量が少なくなると、排除される分子サイズの下限が大きくなり、過酸化水素選択透過膜としての性能が落ちる恐れがある。一方、高分子の上記役割を実現させるには、一定量が必要であるが、必要以上に多く含まれると、膜の選択性低下をもたらす恐れがあると同時に、特に親水性高分子の場合、膜の親水性の大幅向上により膜強度および安定性が逆に低下する恐れがある。一般的な好ましい比率の例として、高分子の質量比が5〜30%、電解重合ポリマーの質量比が95〜70%の範囲にあることが挙げられる。一般的に、膜1は電解重合ポリマーの単体および高分子を含有する電解液から作用極2の表面に直接電解重合で形成されるので、膜1における高分子の含量は電解条件、特に電解液中における高分子の濃度によって調整することができる。
【0034】
膜1の構造の望ましい例としては高分子が電解重合ポリマーの中に均一に分散していることが挙げられる。高分子が粒子状(例えばアルブミンなどの球状タンパク質)の場合、膜1の構造として図8に示す例が挙げられる。図8は膜1の断面を拡大したものである。電解重合ポリマー12がほぼ連続した膜になっており、球状構造の高分子14が、電解重合ポリマー12の中に埋まっているように分散している。ポリピロールなどの共役系ポリマーの場合、酸化されている状態(過酸化水素電極は作用極にプラスの電位を印加して作動させているので、使用時は常に酸化環境に置かれている)ではプラス荷電しており、一般的に膜の中にアニオン性ドーパントが結合されていることが多い。したがって、ポリピロール膜だけの場合、センサと接触しているキャリア液や試料中のアニオン性成分を取り入れているが、一般的に低分子のものしか入らないので、酸化状態の変化によりドーパントが膜から離れたり再度結合したりすることにより、膜の性能が変動することがある。この意味においても、アニオン性高分子がより望ましい。アニオン性高分子を予め含有する本発明による膜1では、アニオン性高分子がカチオン性電解重合膜に強く吸着されて、ある意味では移動できないドーパントとして存在するため、膜を強化する役割を果たす。
【0035】
また、膜1の厚みは、膜の材料および組成、要求されるセンサ性能(感度、妨害成分排除性能など)などを勘案して適宜決定されて良いが、ここで膜厚を決定する方法を例示する。単位濃度の被測定成分に対する出力を感度として定義し、妨害成分排除性能の指標として妨害成分と被測定成分に対するそれぞれの感度の比率(選択比)として用いると、一般的に膜厚と感度および選択比との間に、図10に示す関係が成り立つ。すなわち、膜厚が増大するに伴って、感度と選択比がともに低下するが、選択比の低下度合いがだんだん小さくなり、一定の厚さ以上になると、ほとんど低下しなくなるのに対して、感度が持続的に低下する。実際には被測定試料から予想される共存妨害成分の量(濃度)から達成されるべき選択比の上限値を設定し、選択比がその上限値以下になるように、膜厚を決定される。
なお、作用極表面の凹凸などにより、膜厚を直接評価することが困難または精度に欠けるような場合、膜厚の例として、選択比などのセンサ性能を直接膜の製造条件を決めるパラメーターとして用いてもよい。また、電解重合性化合物と高分子とを含む溶液から電解重合により直接作用極2の表面に膜1が形成されるケースにおいては、単位電極面積当たりの電解量(単位は例えばmC/cm2)を膜厚のパラメーターとして用いてよい。なお、電解量で表わす場合、膜密度、モノマーのサイズ(分子量)、および重合時発生する単体ユニット当たりの電子数、そしてアニオン性高分子の含量によって、膜厚への換算係数が異なるが、同種類の膜がある一定条件で形成された場合、電解量と膜厚との間にほぼ直線的な関係が成り立つ。一般的な膜厚の好ましい範囲として、0.1〜10μmが例として挙げられる。
【0036】
また、膜の形成条件により膜密度や構造などに変化があることから、膜厚だけではなく、膜形成条件も膜1を決定する上で検討すべきファクターであることが言うまでもない。
【0037】
次に、酵素膜3について説明する。酵素膜3は少なくとも作用極上の膜1およびその周辺領域の支持体6を覆うように形成されている。
【0038】
酵素膜3は、好ましくは過酸化水素生成酵素および酵素を固定化または安定化させるための高分子を主成分とする。必要に応じてグルタルアルデヒドなどの2官能基をもつ架橋剤が含まれる。GODを利用したグルコースセンサの場合、高分子としてアルブミンなどのタンパク質、およびキトサンのどの糖質が好ましい例としてあげられる。特にアルブミンは酵素を安定化させる働きがあることから、より望ましい。この場合、架橋剤としてグルタルアルデヒドが添加されるとよい。架橋剤は酵素膜内の酵素とアルブミンとを共有結合でつなぎ、不溶化させるだけではまく、例えばアニオン性タンパク質を含む膜1と酵素膜との間に共有結合を形成し、酵素膜と膜1とを密着させる役割をも果たす。なお、酵素膜の具体的組成や厚みは、使用される酵素、センサに対する要求性能、および支持体処理に使用されたシランカップリング剤の種類などにより適宜決定されてよい。
【0039】
図3に示す第2実施例のバイオセンサは、基体10、膜1、および酵素膜3の基本構造は前記実施例と同様であるが、膜1が形成される前に、少なくとも作用極2およびその周辺領域の支持体表面はシランカプリング剤によるシラン化処理が行われ、酵素膜3がシランカップリング剤からなるリンカー層4により支持体上に密着されている。ここでいう作用極の周辺領域は、作用極の外周から一定距離以内の範囲を指す。その大きさの下限は酵素膜3の被覆範囲であり、上限は特に限定されない。
【0040】
シランカップリング剤からなるリンカー層4は、作用極2およびその周辺領域の支持体表面6に形成されている。図3にはその存在を例示するために連続した層として示しているが、支持体6表面と酵素膜3との間をつなぐリンカーとしての役割を果たす限り、必ずしも連続した層になっている必要がない。
【0041】
シランカップリング剤の種類は支持体6および酵素膜3の材質など、状況を勘案して適宜選択されてよいが、一般的好ましい例としてアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、アルケン基、ハロゲン基、ビニル基などの反応性官能基を含むものが望ましく、最も望ましくはアミノ基およびエポキシ基を含むシランカップリング剤である。
【0042】
具体的なシランカップリング剤の例を挙げれば、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメチルシラン、3ー(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3ーアミノプロピルトリメトキシシラン、3ーアミノプロピルトリエトキシシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、クロロメチルトリメチルシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシメチルクロロシラン、ジメチルアミノトリメチルシラン、メチルクロロシラン、エトキシジメチルビニルシラン、エチルジクロロシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ヒドロキシメチルトリメチルシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、メチルビニルジクロロシラン、トリクロロビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリメトキシビニルシラン、およびトリメチルビニルシランからなる群から選択される物質が挙げられる。中でも、3ーアミノプロピルトリエトキシシランおよび3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランがそれぞれ基板表面にアミノ基またはエポキシ基を効率的に導入する安価のシラン化剤として最も好ましい。
【0043】
本実施例においては、作用極2の表面にもシランカップリング剤が結合しているので、その表面におけるシランカップリング剤からなるリンカー層4の存在が膜1の形成を妨げることがないことを確認する必要がある。なお、白金などの金属表面がガラスやセラミックなどからなる支持体表面に比べて、シランカップリング剤が結合するのに必要な水酸基などの官能基が少ないことから、シランカップリングの存在量が支持体表面に比べて少ない。もっとも、作用極表面に存在するシランカップリング剤が膜1と電極との付着力を強める働きがある。
【0044】
また、図4に示す実施例3は、リンカー層4が作用極2の表面を除いた周辺領域の支持体6の表面に存在する。本実施例では、作用極2の表面にシランカップリング剤が結合していないので、前記実施例1のように、シランカップリング剤を選択する際、膜1への影響を考慮する必要がない。
【0045】
図5に示す第4実施例のバイオセンサは、膜1が形成された後シラン化処理が行われるので、作用極2周辺の支持体表面および膜1の表面にシランカップリング剤からなるリンカー層4が存在している。一般的に、膜1が作用極表面に密接していること、および膜1にサイズ排除作用があることから、作用極1の表面にはシランカップリング剤が存在しないか存在しても実施例1に比べてシランカップリング剤の結合量が少ない。一方、特にシランカップリング剤の分子量が小さい場合、シランカップリング剤が膜1の表面だけではなく膜1内部の分子の表面にも結合することがある。この場合、シランカップリング剤は図5に示すような表層のリンカー層になるだけではなく、膜1内部の空隙表面にも分布することになる。このようなケースにおいては、シランカップリング剤は酵素膜3と膜1とを付着させるリンカーとして働くと同時に、膜1の分子鎖同士を架橋させ、その強度を向上させ、膜密度をも向上させる効果がある。なお、電解重合膜の種類によってシランカップリング剤の結合量が異なる。
【0046】
したがって、本実施例においては、シランカップリング剤の材料選択および形成法を検討する際、支持体6や酵素膜3だけではなく、膜1の性能に対する影響も考慮対象に入れる。
【0047】
本発明によるバイオセンサの別の例として、酵素膜3が膜1表面のみ被覆するセンサが考えられる。図5にその一例を示す。すなわち、支持体6の表面に酵素膜が存在しない例である。なお、形成法により酵素膜3が膜1の側面をも被覆してよい。
【0048】
また、本発明によるバイオセンサのさらなる実施例として、酵素膜3の上に、さらに膜5を設けたものが挙げられる。図7にその一例を示す。図7に示す本実施例のバイオセンサは、図2に示す実施例1のバイオセンサの酵素膜3の上に、さらに膜5を設けたものである。図示しないが、図3から図6に示すバイオセンサの酵素膜3の上に、さらに膜5を設けたものであってもよい。
【0049】
酵素膜3の上に形成される膜5の役割として、酵素膜3を外部試料から保護すること、または被測定成分の酵素膜3への到達を制限し、より高濃度の試料の測定に対応すること、などが例としてあげられる。前者の例として、血液中の成分を分析するセンサが考えられる。血液中には酵素膜3の表面への付着によりセンサを劣化させるタンパク質などの高分子が多数含まれるので、膜5を設けてこれらの成分の酵素膜3への到達を阻止することによりセンサの測定精度や安定性を向上させることができる。後者の例として、尿中成分の測定や工業分野における製造プロセスのオンラインモニタリングの際、被検試料を希釈せずまたは低い希釈倍率(例えば5〜10倍)で広範囲の濃度測定に対応するためのセンサが挙げられる。
【0050】
次に、本発明によるバイオセンサの製造方法について上記実施例に基づいて詳細に説明する。
【0051】
まず、基体10を準備する。基体10の形状は問わないが、好ましくは平らな絶縁基板上に作用極を含む過酸化水素電極系を形成したものであり、絶縁基板としてはガラス板、シリコンウェハー、セラミック板などを用いる。
【0052】
絶縁基板上の過酸化水素電極系は作用極が含まれれば良いが、センサの製造コストおよびセンサを利用した測定システムの簡素化の視点から、過酸化水素電極をパターン化して基板上に形成されたものが好ましく、その一例として図9に示す様にセラミック基板上にスクリーン印刷技術で3極系の基体を作成する。
【0053】
次に必要に応じて基体10表面の洗浄および活性化の目的で基体10を前処理する。洗浄に際しては水や酸を用いることができるが、特に酸による洗浄は汚れの除去と同時に、基体10の表面の活性化が図れるので好ましい。酸種の好ましい例としては硝酸、硫酸、塩酸などの強酸、または、リン酸、ぎ酸、クエン酸、酢酸などの弱酸が挙げられる。尚、酸洗浄後の基体10は水で洗浄する必要がある。
【0054】
洗浄を完了した基体10は必要に応じて乾燥させる。乾燥条件は特に限定されないが、好ましい乾燥温度として20〜80℃、乾燥時間として5〜120分が挙げられる。なお、次の工程が水溶液を用いて表面処理する工程の場合、乾燥を省略することが出来る。
次の製造工程は製造されるセンサの構造により多少異なる。図2、図6、および図7に示す実施例の構造を有するセンサの場合、シラン化処理工程がない。一方、図3〜図5に示す実施例の構造を有するセンサの場合、シラン化処理工程が含まれる。図3に示す実施例2の構造を有するセンサの場合、基体10をシラン化処理してから膜1を形成する。また図4に示す実施例3の構造を有するセンサは、シランカップリング剤による処理と膜1の形成をどちらかを先に行なってもよい。一方、図5に示す実施例3の構造を有するセンサの場合、膜1を形成してから、膜1を含む基体10をシラン化処理する。
【0055】
ここでまずそれぞれのセンサの製造工程をフローチャートに基づいて説明し、次に各工程について詳細に説明する。
【0056】
実施例1の構造(図2)を有するセンサは、図11に示すフローにしたがって製造する。すなわち、前処理の後、膜1と酵素膜3を順序形成する。なお、点線で囲まれた工程は省略してもよい工程を示す(以下同)。
【0057】
実施例2の構造(図3)を有するセンサは、図12に示すフローにしたがって製造する。すなわち、前処理の後、作用極2を含む基体表面をシラン化処理する。続いて膜1と酵素膜3を順序形成する。
【0058】
実施例3の構造(図4)を有するセンサは、図13または図14に示すフローにしたがって製造する。図13に示す工程は、前処理の後、必要に応じて作用極の表面をマスクしてからシラン化処理を行い、続いてマスクを除去し膜1を形成する。最後に酵素膜3を形成する。一方、図14に示すフローは、前処理の後、膜1を形成する。続いて膜1の表面をマスクしてからシラン化処理を行い、シラン化処理の後マスクを除去する。最後に酵素膜3を形成する。図13において、作用極表面のマスクおよびその後の除去処理は省略してもよいケースとして、作用極の表面にシラン化処理を行なってもシランカップリング剤が付かないか実質的に付かないケースが例としてあげられる。なお、この場合、センサの製造工程は前記実施例2の構造を有するセンサの製造と同じ工程になる。
【0059】
また、実施例4の構造(図5)を有するセンサは、図15に示すフローにしたがって製造する。すなわち、前処理の後、膜1を形成し、続いて基板のシラン化処理を行ない、最後に酵素膜3を形成する。なお、図6に示す実施例のセンサの製造は図11に示す工程に従う。また、図7に示す実施例のセンサの製造は同様に図11に示す工程に従がって製造する。すなわち、前処理の後、膜1を形成し、続いて酵素膜3を形成した後、さらに膜5を形成する。
【0060】
次に、上記製造フローにおける各工程について詳細に説明する。なお、センサの構造または製造方法により順序や工程数に違いがあるが、同じ名称の付いた工程は、フローによらず処理方法が基本的に同じなので、工程別でまとめて説明する。
【0061】
1)作用極1または膜1の表面のマスクおよびマスク除去:この処理は作用極1または膜1の表面を被覆し、シラン化処理においてこれらの表面をシランカップリング剤から隔離し、マスクされた部分にシランカップリング剤が結合または吸着しないようにすることが目的である。上記目的が達成されれば、具体的な方法には特に制限がない。一般的な好ましい方法として、フォトレジストなどを用いた半導体製造工程で汎用される方法、およびフィルムやパッキンなどの張り付けによる方法、などが例としてあげられる。複数のセンサを有する基板の場合、パターン化されたマスク方法を用いればよい。なお、膜1の表面をマスクする際、マスク処理による膜1への影響を考慮する必要があることは言うまでもない。
【0062】
2)シラン化処理:まず、支持体種類や酵素膜3、膜1などの状況を勘案してシランカップリング剤を選択し、選択されたランカップリング剤を適当な溶媒に溶解して一定濃度のシラン化溶液を作成する。続いて基体10(センサの構造または製造方法によってシランカップリング処理前における作用極表面の状態が異なるが、ここでは便宜上基体10と呼ぶ)の表面をシランカップリング剤溶液に接触させる。表面にシランカップリング剤溶液と接触させる方法として、基体10をシランカップリング剤溶液に浸す方法、またはスピンコーターなどの成膜装置で表面にシラン化溶液を塗布する方法が例としてあげられる。次に必要に応じて基体10を洗浄する。洗浄することによって化学的に結合されていないまたは強く吸着されていない余分なシランカップリング剤が取り除かれる。なお、洗浄しなくてもセンサ性能への影響が許容範囲内であれば、洗浄工程を省略して良い。
【0063】
3)膜1の形成:膜1の形成は予め形成された膜を電極表面に取り付ける方法と、液体等に溶解された膜材料から電極表面に直接膜を形成する方法に大別される。好ましくは膜材料から直接電極表面に形成される方法である。後者の方法の例として、高分子と電解重合ポリマーをとの混合物から電極表面に膜を形成する方法、および電解重合ポリマーを形成するモノマーである電解重合性化合物と高分子とを含む電解重合によって作用極の表面にその場で膜1を形成する方法が挙げられる。溶液から作用極2の表面にその場で電解重合によって形成される方法では、膜と電極との密着性が強いこと、作用極表面以外では膜が形成されないこと、膜が合成されたままの状態で使用され、構造が制御されやすいこと、などのメリットがあることから、もっとも好ましい。。以下この方法について詳細に説明する。まず、高分子および電解重合性化合物が含まれる電解液を調整する。高分子および電解重合性化合物が水溶性の場合、電解液を調整する溶媒として水を用いることが望ましい。この場合、支持電解質として塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの無機塩が例としてあげられる。また、高分子の荷電状態によってはpHを調整する。一方、高分子および電解重合性化合物が水に溶解しにくい場合、有機溶媒を用いる。この場合、高分子および電解重合性化合物だけではなく、支持電解質も有機溶媒に可溶であることが必要である。もちろん、有機溶媒と水との混合溶媒を用いても良い。電解重合性化合物は空気中の酸素によって酸化されることがあり、それが膜1の性能に影響を与えることがある場合、電解液を窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気に保つ。
【0064】
次に基体を、少なくとも作用極と対極が電解液に接触するように適当な電解系にセットする。電解系は基体上の作用極の外に、対極と参照極とを備える。対極と参照極は基体上のものを使用するか、電解系に別途設けたものを使用する。電解系に別途設けた対極と参照極を使用する場合、電解液のオーミック抵抗による影響を押さえるために、作用極と対極および参照極との間の距離を小さくし、また三者の位置関係が常に一定になるようにすることが望ましい。
【0065】
具体的な電解方法として、作用極と参照極との間に一定の電位が印加される定電位電解法、および対極と作用極との間に一定の電流を流す定電流電解法、あるいは印加電位または電流を一定のパターンで変化(走査)させる、例えばサイクリックボルタンメトリー法、などが例として挙げられる。ポリフェノールやポリフェニレンジアミンなど、膜の絶縁性が強く、その成長とともに抵抗が急激に増大する場合は、サイクリックボルタンメトリーなど、電位または電流を走査させる方法が定電位または定電流法よりも厚い膜を形成することができる。一方、ポリピロールなど、膜が形成されても抵抗があまり増大しない場合、方法の簡便さから、定電位または定電流法で形成することが望ましい。いずれの方法においても、膜厚は電解量により制御する。電解量は電流曲線の時間積分で求める。定電流電解の場合は電解時間で電解量を求めることができるので、工程管理が他の方法に比べて簡単である。具体的にはどの方法を採用するか、各方法による膜形成の比較等によって決定されることが望ましい。
【0066】
以下、電解重合性化合物がピロールの場合、定電流電解法を例に、電解条件(電解液中に含まれる高分子の濃度)の実験検討を例示する。
【0067】
電解重合によるポリピロールの形成は、図16に示すスキームで行われる。反応式1)は電解開始反応であり、反応式2)は二量化反応である。反応式3)の脱プロトン化反応により二量体が合成される。反応式4)で二量体がさらに酸化される。反応式5)と反応式6)はさらなる電解反応および重合反応を表わしている。
【0068】
ポリピロール電解重合反応の特徴の一つとして、単体の酸化よりも二量体の酸化が容易であり、さらに高度重合されたポリマーの酸化が二量体のそれよりも容易であることが挙げられる。形成されたポリピロールは導電性を有するので、膜が成長しても電気抵抗があまり上昇しない。例えばアニオン性高分子を含まない電解液を用いて、定電流で重合させると、電解電位は図17に示す電位−時間曲線Aをたどる。電解速度が一定に制御されているので、最初に電解電位が高く、その後低下する。一定時間経過してから安定する。
【0069】
一方、電解液にアニオン性高分子が含まれると、電解電位が異なる経時曲線をたどる。図17に示す曲線BとCはアニオン性高分子がBSAの場合の電位―時間曲線である。曲線Bは濃度が低い場合(例えば0.1%)の電位−時間曲線、そして曲線CはBSA濃度が高い場合(例えば1%)の電位−時間曲線である。なお、本実験におけるその他の電解条件は以下の通りである:基体は図9に示すセラミック支持体に3極式過酸化水素電極が形成されたものであり、シラン化処理はされていない。作用極の面積は約3mm2であった。電解重合時の対極と参照極は支持体上のものを利用した。また、基体はフローセルに装着され、窒素雰囲気に保たれている電解液(pH6.8の10mMのリン酸緩衝液に0.4Mのピロール、50mMの塩化カリウム、および所定濃度のBSAを溶解したもの)を一定速度でフローセルに循環送液していた。室温は約25℃で空調されていた。
【0070】
図17から、電解液中におけるBSAの存在がピロールの電解重合に影響を与え、その濃度が高いほど、定電流電解時の電位を上方シフトさせる。特に濃度が高い場合、電解電位が経時的に上昇する。図示しないが、定電位電解の場合、電解電流が最初は上昇するが、その後経時的に低下する。すなわち、電解液中にBSAが存在している場合、できた電解重合膜は電気抵抗が増大し、しかも増大の程度はBSA濃度との間に正の相関関係がある。ポリピロールが導電性であるのに対して、BSAが非導電性であることを合わせて考えると、抵抗の増大は膜成長過程におけるBSAの膜への取り込みを意味し、しかも取り込み量がBSAの濃度に正比例することが分かる。したがって、膜1中のBSA含量は電解液中のBSA添加量によって制御することができる。もちろん、BSA添加量の他に、電解条件、ピロール濃度、そして支持電解質濃度などのファクターも膜組成に影響を与える。
【0071】
図示しないが、BSA濃度が高い(例えば2%)と、電解時間とともに電位が急速に上昇し、数分間電解を行なっても、均一な膜が形成されていないことが目視で確認できる。これはBSAの大量存在がヒピロールの電極表面への拡散移動、またはピロールの重合を阻害することを意味する。一方、濃度が0.1%以下ではBSAの膜への取り込み量が不十分であった。以上の結果から、BSAの濃度は0.1〜1%の範囲にあることが好ましい。
【0072】
図18はアニオン性高分子がナフィオンの場合の電位―時間曲線である。本実施例の膜形成条件は前記BSAの場合と基本的に同様であるが、膜1を形成する前に、基体表面を3−アミノプロピルトリエトキシシランで処理した。ナフィオンがない場合の電位―時間曲線はEである。曲線Eは前記図17の曲線Aに比べて電位が高いが、これはシラン化処理によって電極表面にシラン化処理剤が付着し、オーム抵抗が上昇することによる。
【0073】
FとGはナフィオン濃度が1%と2%のの場合の電位―時間曲線であり、ナフィオンがない場合に比べて電位が低下している。したがって、BSAの場合と異なり、電解液におけるナフィオンの存在が電解重合反応を促進する役割果たす。しかし、1%よりも2%の方は電位が高いことからも分かるように、濃度が高くなると、BSAと同様な膜形成を阻止する側面が現れてくるものと推測される。なお、ナフィオンの濃度が2%になっても見かけ上均一の膜が形成されるが、3%では膜の不均一さが肉眼で確認できた。
したがって、電解液中におけるナフィオンの濃度は3%以下が好ましく、より好ましくが2%以下である。
【0074】
図19には、ナフィオン濃度の異なる電解液から膜1を形成し、さらに後記滴下の方法でグルコースオキシダーゼを含む酵素膜3を形成したグルコースセンサの性能(選択比)、図20に示すフローインジェクション分析装置で評価し結果を示す。選択比は典型的な共存妨害成分であるアスコルビン酸とグルコースに対する同濃度における出力の比として定義される:
選択比(%)=アスコルビン酸に対する出力/同濃度のグルコースに対する出力*100
【0075】
酵素膜の性能が一定の場合、選択比が過酸化水素選択透過膜の性能を比較する指標として用いることができる。選択比が低いほど、過酸化水素選択透過膜の性能がよい。
【0076】
図19から、ナフィオン濃度が1%以下では選択比がほとんどナフィオンの濃度によらず一定であるが、1%以上では選択比が上昇する傾向にある。なお、図19のデータは4センサからの測定値の平均値である。
上記センサをさらに評価するために、センサをセルから取り出して乾燥させ、再び脱イオン水で濡らして再乾燥する試験を行ない、膜の剥離具合を観察した。その結果を表1に示す。表中の数値は膜が浮きまたは破裂などの剥離したセンサの数である。一般的に、膜が乾燥すると、乾燥ストレス等により、膜を基体から剥離させる力が働くので、膜の付着力または強度が強いほど、膜が剥離しにくくなる。4枚中全部のセンサが膜剥離した場合は4であり、剥離していない場合は1である。したがって、数値が小さいほど、膜の基体付着力もしくは膜強度が強いことになる。
【0077】
表1. 乾燥によるセンサ膜の剥離状況(4枚中の剥離数)
表1から、膜の付着力または膜強度は電解液中のナフィオン添加量と相関しており、ナフィオン濃度が0.5%付近に膜がもっとも剥離しにくいことが分かる。図19に示すセンサの性能データと合わせて考慮すると、ナフィオン濃度範囲は0.2〜1%の範囲にあることがもっとも好ましい。
以上膜1の電解重合条件検討について非電解重合高分子がBSAとナフィオンの場合を例として説明したが、他の高分子についても類義したな方法で検討してよい。
【0078】
なお、膜1の組成や構造はIR、XPS、SEMなど、周知の分析方法で分析可能である。
【0079】
電解重合後、膜1を含む基体10を洗浄し次の工程に移行する。ポリピロールやポリアニリンなど形成された直後の状態では導電性を有し、測定時高いベース電流を生じる膜に対しては、さらに酸化処理を行なう。酸化処理せずセンサとして試料を測定すると、高いベース電流により、特に初期では測定できないか精度が悪くなる。一般的な処理方法として、電極活成分を含まない電解液(例えば、塩化カリウムを含むリン酸緩衝液)中において、作用極に一定の電位を印加した定電位酸化で行なう。酸化処理はベース電流が実際の試料測定に際してベース電流が測定精度に影響を与えないレベルになるまで行なうことが望ましい。具体的な酸化時間は膜厚や電極の状態および印加電位によって異なるが、200−1200mC/cm2のポリピロールの場合、0.6−0.7V(Ag/AgCl)の印加電位では約1ないし6時間が妥当な処理時間である。
なお、酸化処理工程は、膜1を形成した直後ではなく、その後工程の後(例えば酵素膜3の形成後)で行なっても良い。
【0080】
4)酵素膜3の形成:酵素膜3の成膜法は選定される材料および予定構造などを勘案して周知の膜形成法から選定して適宜決定すれば良いが、好ましい成膜方法の例として、酵素膜の材料を一定濃度に調整した溶液(原液)を、膜1が形成された作用極表面を含めた領域に層状に展開し、その後溶媒を蒸発させ、酵素膜3を形成する方法が挙げられる。
原液の調整に用いられる溶媒として水が好ましいが、材料の性質等を勘案して有機溶媒を含ませても良い。また、原液の濃度は膜2の材料、溶液粘度、目標膜厚、塗布方法など、種々の条件を勘案して決定すれば良く、特に限定されないが、膜厚を調整する重要ファクターのひとつとして位置づけるとよい。
【0081】
原液を基体10の表面に層状に展開して酵素膜3を成膜する方法の好ましい例として、基体10が静止した状態での滴下塗布、流延塗布、及びスピンコーターなどの成膜装置による回転塗布、膜原液と接触させた後で基体10を引き上げる方法等が挙げられる。回転塗布法や引き上げ法は薄い酵素膜を有するセンサを大量に製造するのに適しているが、生産量が少ない場合、またはセンサ寿命を確保するために一定量以上の酵素量を作用極の表面に担持させる必要がある場合には、一般的に高価である酵素を節約するために、作用極を中心とする表面に酵素原液をドロップして乾燥させる方法が好ましい。この方法によれば、酵素膜3が作用極及びその周辺領域のみ一定の厚さをもって被覆するので、酵素のロスが無く、酵素使用量を最小限に押さえ安価に製造することができる。被覆される周辺領域の範囲は、原液の使用量および/またはドロップされた直後の液滴操作により調整される。
【0082】
以上、酵素膜3まで成膜したバイオセンサの製造方法について説明したが、更に図4に示す様に酵素膜3の表面に膜5を必要とする場合、後工程で続けて膜5を成膜すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるバイオセンサの基本構造図である。
【図2】本発明による一実施例のバイオセンサの構造図である。
【図3】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図4】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図5】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図6】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図7】本発明による他例のバイオセンサの構造図である。
【図8】膜1の構造を例示する図である。
【図9】過酸化水素電極をセラミック基板上に作成した基体を示す図である。
【図10】膜厚とセンサの感度および選択比との関係を示す図である。
【図11】本発明による一実施例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図12】本発明による他例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図13】本発明による他例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図14】本発明による他例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図15】本発明による他例のバイオセンサの製造工程を示す図である。
【図16】ピロールの電解重合の反応スキームを示す図である。
【図17】ピロールの定電流電解重合における電位−時間曲線を示す図である。
【図18】ピロールの定電流電解重合における電位−時間曲線を示す別の図である。
【図19】電解液中におけるナフィオンの濃度と膜の選択比との関係を示す図である。
【図20】バイオセンサを評価するフローインジェクション評価装置の概略図である。
【図21】従来のバイオセンサの構造図である。
【図22】従来の別のバイオセンサの構造図である。
【符号の説明】
1…膜1
2…作用極
3…酵素膜
4…リンカー層
5…膜5
6…支持体
7…参照極
8…対極
10…基体
12…電解重合ポリマー
14…高分子
20…ポリピロール−GOD複合膜
22…ポリピロール
24…GOD
26…ポリピロール膜
28…GOD膜
Claims (11)
- 過酸化水素電極およびその上に積層された過酸化水素選択透過膜と酵素膜とを備えたバイオセンサにおいて、前記過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーと非電解重合高分子からなる複合膜であることを特徴とするバイオセンサ。
- 過酸化水素電極およびその上に積層された過酸化水素選択透過膜と酵素膜とを備えたバイオセンサにおいて、前記過酸化水素選択透過膜は、電解重合ポリマーを形成するモノマーである電解重合性化合物と、非電解重合高分子とを含む溶液から、電解重合によって該電極の作用極表面を被覆するように形成されることを特徴とするバイオセンサ。
- 前記非電解重合高分子はアニオン性高分子であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のバイオセンサ。
- 前記アニオン性高分子はアルブミンであることを特徴とする、請求項3に記載のバイオセンサ。
- 電解重合性化合物とアルブミンとを含む溶液ににおけるアルブミンの濃度は0.1-1%の範囲にあることを特徴とする、請求項4に記載のバイオセンサ。
- 前記アニオン性高分子は骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂であることを特徴とする、請求項3に記載のバイオセンサ。
- 電解重合性化合物と骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂とを含む溶液ににおける骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂の濃度は0.1-3%の範囲にあることを特徴とする、請求項6に記載のバイオセンサ。
- 電解重合性化合物と骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂とを含む溶液ににおける骨格にパーフロロカーボンをもつスルホン酸樹脂の濃度は0.2-1%の範囲にあることを特徴とする、請求項7に記載のバイオセンサ。
- 前記過酸化水素電極は絶縁性支持体上に形成されたものであり、前記酵素膜は少なくとも作用極およびその周辺領域を覆うように形成されたことを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のバイオセンサ。
- 前記過酸化水素選択透過膜(膜1)を形成する前または形成した後、少なくとも作用極の周辺領域を含む表面をシランカップリング剤によるシラン化処理を行なうことを特徴とする、請求項9に記載のバイオセンサ。
- 前記電解重合ポリマーはポリピロールまたはその誘導体である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のバイオセンサ。
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