JP2004160581A - ダイヤモンドコーティング工具の製造方法およびダイヤモンドコーティング工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】工具本体の少なくとも切刃部において母材表面にダイヤモンドコーティングを施し、次いでこの切刃部によって高脆性材料を切削することによりダイヤモンドコーティング膜の表面を研磨して刃先を形成する。これにより、ダイヤモンドコーティング工具において、切刃部における刃先側のダイヤモンドコーティング膜の膜厚を、他の部分よりも薄くする。
【選択図】 図5
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、工具本体の少なくとも切刃部表面にダイヤモンドコーティングが施されたダイヤモンドコーティング工具の製造方法、およびかかる製造方法により製造されるダイヤモンドコーティング工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種のダイヤモンドコーティング工具としては、例えば特許文献1に、超硬合金よりなる母材の表面に気相合成法によってダイヤモンドコーティング膜を形成したプリント基板穿孔用の小径のドリルが提案されている。また、特許文献2においても、マイクロ加工技術における精密切削加工工具として、タングステン等の高融点金属の炭化物等の母材よりなる芯材に細線材を巻き付けて螺旋溝を形成するとともにこの芯材の先端に切刃部を成形加工した上で、その表面にCVD法によってダイヤモンド膜を被覆した極小サイズのドリルも提案されており、このようなダイヤモンドコーティング膜の有する高い硬度や耐摩耗性、あるいは熱伝導性により、工具のライフサイクルの長寿命化を図るようにしている。
【0003】
【特許文献1】
特開平10−138027号公報
【特許文献2】
特開平8−155947号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このようなダイヤモンドコーティング膜は、その膜厚が薄すぎると容易に剥離を生じてしまうため、このような剥離を抑制するのに通常およそ10μm以上の膜厚を有するように均一にコーティングされ、例えば上記特許文献2においては孔明け加工時の孔径が0.15mmとなるドリルにおいて膜厚0.015mm(15μm)とすることや、加工時の孔径1.0mmとなるドリルにおいて膜厚0.1mm(100μm)のダイヤモンド膜を成膜することが記載されている。
【0005】
しかしながら、このような小径のドリルにおいてダイヤモンドコーティング膜の膜厚を上述のように厚くコーティングすると、切刃が円みを帯びて切れ味が損なわれてしまい、加工時にバリが発生したり仕上げ面粗さの劣化を招いたりするという問題が生じる。すなわち、例えばコーティング前のドリルの切刃が鋭利な刃先を有していたとしても、これに膜厚10μmのダイヤモンドコーティング膜を均一にコーティングしたとすると、この刃先は切刃に直交する断面において半径10μmの円弧状を呈することとなり、しかも実際にはこのような鋭利な刃先部分にはコーティング膜が厚くコーティングされ勝ちとなるため、コーティングをしていないノンコート品に比べて切刃の切れ味が鈍くなってしまうのである。しかるに、一般的なドリルのような切削工具では、このように切刃の切れ味が鈍くなってしまった場合、砥石によって切刃を研削することにより切れ味を回復することが行われているが、ダイヤモンドコーティングが施された工具では上述のようにダイヤモンドコーティング膜が高い硬度や耐摩耗性を有しているが故に、このような砥石による通常の研削では加工がきわめて困難である。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のようなダイヤモンドコーティング膜をコーティングした場合でも容易に鋭い切れ味を切刃に与えることが可能なダイヤモンドコーティング工具の製造方法を提供し、またかかる製造方法によって切れ味の鋭い切刃を有するダイヤモンドコーティング工具を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明のダイヤモンドコーティング工具の製造方法は、工具本体の少なくとも切刃部の表面にダイヤモンドコーティングを施し、次いで上記切刃部によって高脆性材料を切削することによりダイヤモンドコーティング膜の表面を研磨して刃先を形成することを特徴とする。すなわち、例えばグラファイト、アルミナ、SiC、Si3N4、ジルコニア、単結晶シリコン等の高脆性材料は、ダイヤモンドには及ばないものの硬度、耐摩耗性の高い難削材料であって、上述のようなダイヤモンドコーティングが施された切削工具によって加工を行った場合にはダイヤモンドコーティング膜に擦過状の摩耗が発生することが知られている。そこで、本発明の製造方法では、工具本体の切刃部にダイヤモンドコーティングを施した後に、上述した一般的な砥石による研削ではなく、このような高脆性材料を切削することによって意図的に上記擦過状の定常摩耗を発生させてダイヤモンドコーティング膜表面を研磨することにより、擬似的に切刃を研削するようにして鋭利な刃先を形成することが可能となる。
【0008】
ここで、本発明の製造方法において、このように高脆性材料を切削してダイヤモンドコーティング膜表面を研磨する際の送りは0.1〜10mm/minの範囲内であるのが望ましく、送りがこれよりも小さいとダイヤモンドコーティング膜と高脆性材料との接触が不十分となって上述のような擦過状の定常摩耗を確実に発生させることができなくなるおそれが生じる一方、逆に送りがこれよりも大きいとダイヤモンドコーティング膜が高脆性材料に強く押し付けられすぎて剥離を生じてしまうおそれがある。また、ドリルのように工具本体を回転させて上記高脆性材料を切削する場合には、その際の回転数は2000〜40000min−1の範囲内とされるのが望ましく、回転数がこれよりも大きいと工具本体の外周側におけるダイヤモンドコーティング膜の摩耗が内周側よりも促進されすぎ、工具本体の内外周に亙って均一な定常摩耗を発生させることができなくなって安定した切削性能を工具に与えることができなくなるしまうおそれがある一方、逆に回転数がこれよりも小さいと工具本体の内周側においてやはりダイヤモンドコーティング膜が高脆性材料に強く押し付けられるような加工形態となり、剥離が生じたりするおそれがある。
【0009】
一方、このような本発明の製造方法により製造されるダイヤモンドコーティング工具においては、こうしてダイヤモンドコーティング膜に擦過状の定常摩耗を発生させることにより、上記切刃部における刃先側のダイヤモンドコーティング膜の膜厚が、他の部分よりも薄くされることとなり、これによって刃先の円みが削がれて鋭利な切刃を形成することができ、切れ味の向上を図ることができる。ただし、こうして鋭利に削がれた上記刃先の断面における円みの半径は、0.1〜10μmの範囲内とされるのが望ましく、これよりも刃先の円み半径が大きいと切刃に十分鋭い切れ味を与えることができなくなるおそれがある一方、逆にこれよりも円みの半径が小さいと刃先が容易に欠けてしまうおそれが生じる。また、こうして定常摩耗によって研磨された上記ダイヤモンドコーティング膜の表面粗さは、JIS B 0601−2001における最大高さによる表面粗さにおいてRz0.1〜5μmの範囲内とされるのが望ましく、これよりも表面粗さが大きいと、被削材の加工時に切屑や加工面との接触による抵抗が大きくなるとともに、このダイヤモンドコーティング膜上に形成される刃先にも凹凸が残されて剥離や欠け等が生じ易くなるおそれがある一方、逆にこれよりも表面粗さが滑らかになるまでダイヤモンドコーティング膜を研磨しても、抵抗の低減や得られる切刃の鋭さにはそれ以上の向上は期待できず、却って研磨に時間を要して製造効率の低下を招くなどの問題が生じるおそれがある。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、ダイヤモンドコーティング膜をコーティングする工具として、軸線回りに回転される工具本体先端の刃部外周に一対の切屑排出溝が軸線に対して対称かつ後端側に向かうに従い工具回転方向後方側に捩れるように形成され、これらの切屑排出溝の工具回転方向を向く壁面と工具本体先端の逃げ面との交差稜線部に上記軸線に対する径方向に延びる切刃部が形成されたドリル(2枚刃ツイストドリル)に本発明を適用した場合を挙げて説明する。ここで、本実施形態のダイヤモンドコーティング工具(ドリル)は、切刃部の外径(直径)が1.1mm、刃部長さが10mmの超硬合金を母材とする工具本体を備えたプリント基板加工用の小径ドリルであり、本実施形態の製造方法では、まずこの工具本体の上記切刃部を含めた刃部の表面全体に、気相合成法やCVD法等の公知の方法によってダイヤモンドコーティングを施した。このときの切刃部の斜視図(拡大写真)を図1および図2に示す。なお、このときの刃部表面にコーティングされたダイヤモンドコーティング膜の膜厚は20μmであって、コーティング膜を含めた切刃部の刃先の円みの半径も20μmとされるとともに、コーティング膜の表面粗さは最大高さRz10μmであった。ただし、これら刃先の円みおよび表面粗さの測定は、レーザ顕微鏡を用いた非接触式によるものである。
【0011】
そして、本実施形態の製造方法では、こうして得られたダイヤモンドコーティング工具(ドリル)により、高脆性材料を切削加工(穴明け加工)することにより上記ダイヤモンドコーティング膜の表面を研磨して刃先を形成した。ここで、本実施形態において穴明け加工を行った高脆性材料は電極用グラファイトであり、穴明け加工時の工具本体の送りは4mm/min、回転数は20000min−1、個々の加工穴深さは5mmで乾式加工であった。このときの切刃部全体の正面図(写真)および工具本体外周側の切刃部の拡大正面図と拡大率の異なる切刃部の斜視図2つ(拡大写真)を、20穴加工後(加工時間25分)のものを図3ないし図6に、また50穴加工後(加工時間63分)のものを図7ないし図10に、それぞれ示す。
【0012】
しかして、これらの図3ないし図10に示されるように、グラファイトのような高脆性材料に加工を行ったダイヤモンドコーティング工具(ドリル)においては、その工具本体にコーティングされたダイヤモンドコーティング膜の表面、特に切刃部の逃げ面に擦過状の摩耗(定常摩耗)が発生しており、この摩耗は、加工穴数が多くなるほど大きくなっている。そして、このような摩耗によって表面が研磨されることにより、上記切刃部における刃先側のダイヤモンドコーティング膜は、その膜厚が他の摩耗が発生していない部分よりも薄くされ、しかも刃先側に向かうに従い膜厚が漸次薄くなるようにされ、こうして薄くされたダイヤモンドコーティング膜上に切刃部の刃先が形成されることにより、この刃先の円みは、図1および図2示した未加工(未研磨)のものよりは、図3ないし図6に示した20穴加工後のものの方が小さく、またこれよりはさらに図7ないし図10に示した加工穴数の多い50穴加工後のものの方が小さくされて、刃先が鋭利とされている。因みに、20穴加工後の実施形態の刃先の断面における円みの半径は約5μmであり、従って研磨されたダイヤモンドコーティング膜の最薄部の膜厚も約5μmとされ、また50穴加工後の実施形態の切刃の円みの半径は1μm以下であり、研磨されたダイヤモンドコーティング膜の最薄部の膜厚も1μm以下とされていた。
【0013】
また、こうして高脆性材料の穴明け加工によって摩耗したダイヤモンドコーティング膜の表面粗さも、未加工のものや摩耗が発生していない部分より小さく、滑らかとなっており、その表面粗さは20穴加工後、50穴加工後のものとも最大高さRz約1μmであった。なお、ドリルに本発明を適用した本実施形態のダイヤモンドコーティング工具においては、穴明け加工時に加工穴内周と摺接する刃部外周のマージン部においてもダイヤモンドコーティング膜に擦過状の摩耗が発生しており、その表面粗さは上記切刃部の逃げ面におけるダイヤモンドコーティング膜の表面粗さと同じに最大高さRz約1μmであった。さらに、切刃部が軸線に対する径方向に延びるように形成された本実施形態のダイヤモンドコーティング工具(ドリル)では、この切刃部の工具本体内周側(軸線側)よりも外周側(マージン部側)の方が、ダイヤモンドコーティング膜の摩耗量は大きくされている。
【0014】
従って、このような製造方法により製造される本実施形態のダイヤモンドコーティング工具(ドリル)においては、まずダイヤモンドコーティング膜が10μm以上の膜厚で切刃部にコーティングされることにより、このダイヤモンドコーティング膜に剥離を生じたりすることなく高い硬度や耐摩耗性を切刃部に与えることができ、これにより工具寿命の延長を図ることができる。しかして、この切刃部のダイヤモンドコーティング膜がこうして所定の膜厚以上でコーティングされた上で、その表面が予め研磨されて膜厚が他の部分よりも薄くされ、このように膜厚が薄くされたダイヤモンドコーティング膜の上に刃先が形成されることとなるので、この刃先の断面における円みの半径を上述のように小さくすることができて切刃に鋭い切れ味を与えることができ、加工時のバリの発生の低減や仕上げ面粗さの向上を図ることができるとともに、切屑処理性の向上を促すことも可能となる。
【0015】
そして、その一方で、このようなダイヤモンドコーティング工具を製造するための本実施形態の製造方法においては、ダイヤモンドコーティング膜を上述のように研磨して刃先を形成するに際して、コーティング後の工具によって高脆性材料に加工を施すことにより定常摩耗を発生させて研磨を行うようにしており、一般的な工具に切刃を研ぎ付けるときのような砥石による研削では困難な硬質のダイヤモンドコーティング膜の研磨を、効率的かつ容易に行うことが可能となる。すなわち、本実施形態で用いたグラファイトや、アルミナ、SiC、Si3N4、ジルコニア、単結晶シリコン等のセラミックスのような高脆性材料は、それ自体が高硬度で耐摩耗性の高い難削材料であり、このような高脆性材料をさらに高硬度のダイヤモンドコーティング膜がコーティングされた工具によって切削すると、高脆性材料は細かな粉体状の切屑を生じて削り取られる一方、ダイヤモンドコーティング工具は、このような細かな粉体状の切屑によってダイヤモンドコーティング膜が擦り削られたり、あるいは該切屑が削り取られた後の微細な凹凸を有する加工面に上記逃げ面部分のダイヤモンドコーティング膜や、本実施形態のように工具がドリルである場合にはそのマージン部のダイヤモンドコーティング膜が摺接したりすることにより、このダイヤモンドコーティング膜の表面に微細な擦り傷状あるいは擦過状の摩耗が定常的に発生することとなる。しかして、このような定常摩耗による研磨量や形状は、上記実施形態のように高脆性材料を加工する際の加工量や加工条件によって制御可能であるので、このような定常摩耗による研磨によって従来の砥石による刃先の形成と同じようにして擬似的に切刃を研削することにより、上述のような刃先の鋭い切刃部を有するダイヤモンドコーティング工具を効率的かつ容易に製造することが可能となるのである。なお、このような定常摩耗によるダイヤモンドコーティング膜の研磨が可能な高脆性材料としては、上述のようなグラファイト、アルミナ、SiC、Si3N4、ジルコニア、単結晶シリコンの少なくとも1種を用いるのが効果的である。
【0016】
ここで、本実施形態の製造方法においては、このように高脆性材料を切削してダイヤモンドコーティング膜表面を研磨する際の送りを4mm/minとしているが、この送りが小さすぎると、特に上述の高脆性材料の加工面へのダイヤモンドコーティング膜の摺接が不十分となって擦過状の定常摩耗を確実に発生させることができなくなるおそれがあり、逆にこの送りが大きすぎると、この加工面にダイヤモンドコーティング膜が強く押し付けられてしまって剥離が生じてしまったりするおそれがある。このため、高脆性材料を切削加工して定常摩耗を発生させる際の送りは0.1〜10mm/minの範囲内とされるのが望ましく、このうちでも取り分け送りを小さめにした方が単位切削距離当たりにダイヤモンドコーティング膜が加工面と摺接する時間が長くなって研磨速度が速まるため、1〜5mm/minの範囲内とされるのがより望ましい。なお、この高脆性材料の切削の際には切削油剤を供給してもよいが、本実施形態のように切削油剤を供給しない乾式切削とすれば、上述の細かな粉体状の切屑による研磨や細かな凹凸を有する加工面への接触による研磨を一層促進することができる。
【0017】
また、本実施形態のダイヤモンドコーティング工具のようにダイヤモンドコーティング膜がコーティングされるのが、軸線回りに工具本体が回転させられてこの軸線に対する径方向に延びる切刃部によって加工を行うドリルのような工具である場合には、コーティング後に高脆性材料を切削して定常摩耗を発生させるときにも工具本体を回転させて高脆性材料を切削することとなるが、このような工具では、上記切刃部のうち工具本体の外周側では軸線からの径が大きいために回転速度は速く、従って高脆性材料を切削する切削量も多くなって、これに伴い上述のようにダイヤモンドコーティング膜の摩耗量も切刃部の工具本体外周側で増大することになり、この傾向は回転数が大きくなるほど顕著となって切刃部の内外周で定常摩耗の摩耗量が著しく不均一となるおそれがある。ところが、その一方で、逆に工具本体の内周側すなわち軸線に近い側では軸線からの径が小さいために回転速度は遅く、ダイヤモンドコーティング膜が高脆性材料の加工面に摺接するというよりは該加工面を押し潰すような加工形態となるため、回転数が小さくなりすぎるとダイヤモンドコーティング膜をこの加工面に押し付ける力が強くなりすぎて上記と同様ダイヤモンドコーティング膜に剥離が生じたりするおそれがある。このため、こうして工具本体を回転させて高脆性材料を切削する場合の回転数は2000〜40000min−1の範囲内とされるのが望ましく、より望ましくは10000〜20000min−1の範囲内に設定される。
【0018】
一方、このような製造方法によって製造される本実施形態のダイヤモンドコーティング工具においては、上述のように高脆性材料を加工する際の加工量や加工条件によって切刃部のダイヤモンドコーティング膜の研磨量や形状を制御することができ、従ってこの研磨量を大きく設定することにより切刃部の刃先の円みも上述のようにより小さく、すなわち刃先をより鋭利にすることができる。ただし、この刃先の断面における円みの半径が小さすぎて刃先が鋭利になりすぎると、如何に高硬度のダイヤモンドコーティング膜がコーティングされていても刃先に欠けやチッピングが生じ易くなり、逆に刃先の円みが大きすぎると切刃部に鋭い切れ味を与えることができなくなってしまうので、この刃先の円みは0.1〜10μmの範囲内とされるのが望ましい。
【0019】
また、このようにして研磨されることにより、上記ダイヤモンドコーティング膜の表面粗さはコーティングを施しただけの未研磨のものに比べて滑らかとなり、従ってこのダイヤモンドコーティング工具によって切削を行った場合には、被削材の加工面や切屑との接触抵抗を低減して切削抵抗の低減を図ることができる。ただし、この表面粗さについても、これが大きいままであるとこのような切削抵抗の低減効果が得られないのは勿論、凹凸の残されたダイヤモンドコーティング膜上に刃先が形成されることとなって刃先も凹凸してしまい、凸部からダイヤモンドコーティング膜の剥離や切刃の欠け、チッピング等が生じ易くなってしまうおそれがある。その一方で、この表面粗さをあまりに小さくしようとしても、高脆性材料の加工による研磨では上記実施形態のようにダイヤモンドコーティング膜の表面粗さは加工条件に基づく一定の値に達するとそれ以上は研磨を続けても滑らかとなることはなく、従って切削抵抗の低減効果や刃先の鋭さもそれ以上は向上が期待できず、却って多くの時間が費やされて当該ダイヤモンドコーティング工具の製造効率の低下を招くことになるので、研磨されたダイヤモンドコーティング膜の表面粗さは、JIS B 0601−2001における最大高さにおいてRz0.1〜5μmの範囲内とされるのが望ましい。
【0020】
ところで、本実施形態の製造方法およびダイヤモンドコーティング工具においては、この工具として工具本体が軸線回りに回転されることにより被削材に加工を行うドリルに本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、このようなドリル以外でもリーマ等の他の穴加工工具や、同じ工具本体が軸線回りに回転させられるものでもエンドミルやボールエンドミル等の他の転削工具に適用することも可能であり、さらには工具本体が固定されて被削材が回転することにより加工を行うバイトやボーリングバーのような旋削工具や、これらの工具の工具本体に着脱可能に装着されて切刃部を構成するスローアウェイチップに本発明を適用することも可能である。例えば、本発明をエンドミルに適用した場合には、軸線回りに回転される工具本体の先端に形成された径方向に延びる底刃と外周に形成された軸線方向に延びる外周刃との切刃部にダイヤモンドコーティング膜がコーティングされ、この工具本体を軸線回りに回転させつつ該軸線に交差する方向に送り出して高脆性材料の側面加工あるいは溝加工を行うことにより、特にこれら底刃と外周刃の逃げ面部分におけるダイヤモンドコーティング膜の表面が定常摩耗によって研磨され、刃先が形成される。
【0021】
ただし、本実施形態のドリルや上記エンドミルのように工具本体が軸線回りに回転させられて該軸線に対する径方向に延びる切刃部により加工を行う工具に本発明を適用した場合には、上述のように工具本体の外周側に向かうに従いダイヤモンドコーティング膜の摩耗量が増大することになってこれに伴い刃先の円みの半径も小さくなる一方、工具本体の内周側では刃先の円みの半径は大きくなるが、このような工具を被削材の加工に用いた場合には、軸線からの径が大きいために加工時の切削量の多くなる工具本体外周側では切刃部に鋭い切れ味を得ることができて円滑な加工が可能となる一方、内周側では切れ味は外周側に比べて鈍るものの高い刃先強度を確保することができて、上記の被削材を押し潰すような切削形態によって刃先に欠けが生じたりするのを防ぐことができるという効果が得られる。従って、本発明の製造方法およびダイヤモンドコーティング工具は、上述の各種工具のうちでも、これらドリルやエンドミル、あるいはボールエンドミルのような工具に適用してより効果的であるということができる。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、ダイヤモンドコーティングが施された切刃部によって高脆性材料を切削することによって予め定常摩耗を発生させることにより、高硬度のダイヤモンドコーティング膜に対しても効率的かつ容易にその表面を研磨して刃先を形成することができ、従ってこのような製造方法により製造される本発明のダイヤモンドコーティング工具によれば、切刃部の刃先の円みを小さくして鋭利にすることができるので、ダイヤモンドコーティング膜がコーティングされていることとも相俟って、バリの発生防止や仕上げ面粗さの向上を図ることが可能な優れた切削性と長い工具寿命とを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示すダイヤモンドコーティング膜のコーティング後の切刃部の斜視図(倍率500倍の拡大写真)である。
【図2】図1の拡大図(倍率1000倍の拡大写真)である。
【図3】本発明の一実施形態を示す高脆性材料を20穴加工後の切刃部の正面図(倍率100倍の拡大写真)である。
【図4】図3に示す実施形態の工具本体外周側における切刃部の拡大正面図(倍率1000倍の拡大写真)である。
【図5】図3に示す実施形態の切刃部の斜視図(倍率500倍の拡大写真)である。
【図6】図5の拡大図(倍率1000倍の拡大写真)である。
【図7】本発明の一実施形態を示す高脆性材料を50穴加工後の切刃部の正面図(倍率100倍の拡大写真)である。
【図8】図7に示す実施形態の工具本体外周側における切刃部の拡大正面図(倍率1000倍の拡大写真)である。
【図9】図7に示す実施形態の切刃部の斜視図(倍率500倍の拡大写真)である。
【図10】図9の拡大図(倍率1000倍の拡大写真)である。
Claims (7)
- 工具本体の少なくとも切刃部の表面にダイヤモンドコーティングを施し、次いで上記切刃部によって高脆性材料を切削することによりダイヤモンドコーティング膜の表面を研磨して刃先を形成することを特徴とするダイヤモンドコーティング工具の製造方法。
- 上記高脆性材料が、グラファイト、アルミナ、SiC、Si3N4、ジルコニア、単結晶シリコンの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンドコーティング工具の製造方法。
- 上記高脆性材料を切削する際の送りが0.1〜10mm/minの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のダイヤモンドコーティング工具の製造方法。
- 上記工具本体を回転させて上記高脆性材料を切削し、その際の回転数が2000〜40000min−1の範囲内であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のダイヤモンドコーティング工具の製造方法。
- 請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のダイヤモンドコーティング工具の製造方法により製造されるダイヤモンドコーティング工具であって、上記切刃部における刃先側のダイヤモンドコーティング膜の膜厚が、他の部分よりも薄くされていることを特徴とするダイヤモンドコーティング工具。
- 請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のダイヤモンドコーティング工具の製造方法により製造されるダイヤモンドコーティング工具であって、上記刃先の断面における円みの半径が0.1〜10μmの範囲内であることを特徴とするダイヤモンドコーティング工具。
- 請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のダイヤモンドコーティング工具の製造方法により製造されるダイヤモンドコーティング工具であって、研磨された上記ダイヤモンドコーティング膜の表面粗さが最大高さRz0.1〜5μmの範囲内であることを特徴とするダイヤモンドコーティング工具。
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