JP2004108871A - X線検査装置、x線検査方法およびx線検査制御プログラム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】X線発生器とX−Yステージとの間に配設されたセンサによってリアルタイムにX線強度の経時的変動を検出する。また、所定のタイミングで面上に配設された複数のCCDによってX線照射方向の経時的変動を検出する。検査対象を透過したX線を検出する際には、上記X線強度および照射方向の経時的変動を補償しながら透過X線の強度を検出する。従って、X線の経時的変動に影響を受けずに対象試料の厚みを計測することができる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、X線検査装置、X線検査方法およびX線検査制御プログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、この種のX線検査装置では対象試料にX線を照射し、エネルギーサブトラクション処理等を行い、当該処理で得られる厚み相当値から特定物質の厚み等を定量化している(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、エネルギーサブトラクション処理では、特定物質の吸収係数の吸収端前後に強いピークを有する異なるフォトンエネルギー分布のX線を対象試料に対して照射し、それぞれの透過X線を検出する。透過X線IはI=I0exp(−μt)と表現(I0は試料透過前のX線強度,μは透過物質の吸収係数,tは透過物質の厚み)される。ここで、(−μt)は透過物質の厚みによって変動するので、厚みに相当する値と言える。
【0003】
一般に複数の物質を透過したX線については上記(−μt)が(−μ0t0−μ1t1−μ2t2・・・)と表現される(0,1,2は物質の番号)。すなわち、異なる物質の影響は上記吸収係数と厚みの線形結合として表現される。エネルギーサブトラクションにおいては上記特定物質の吸収係数の吸収端近傍に他の物質の吸収端が存在せず、なだらかに変化するような特定物質を計測対象とする。上記(−μ0t0−μ1t1−μ2t2・・・)において、0番を特定物質としたときに、吸収端前後でμ0の値は大きく変動するが、μ1,μ2等はほとんど変動しない。
【0004】
従って、上記吸収端前後に強いピークを有する異なるエネルギー分布のX線にて得られた厚み相当値同士の差分値を取得すると、特定物質以外から透過するX線からの寄与については相殺し、特定物質の寄与のみを抽出することができる。この原理に基づいて、例えば錫のk吸収端前後にピークを有するフォトンエネルギー分布のX線ではんだを撮像すると、錫の様子のみを抽出した厚み相当値を取得することができる。また、この厚み相当値に応じた画像を生成する等の処理によって、はんだ(錫と鉛の合金)の検査を行うことができる。
【0005】
一方、この厚み相当値から生成した画像等によって特定物質の様子を定性的に把握することができるものの、はんだ等の検査に際しては、はんだが定量化できると好ましい。すなわち、はんだの厚みや面積,体積等を定量化することができれば、はんだを3次元的に映像化したり、はんだ周囲のチップと基板との関係からはんだが適正量存在するか否かを把握することができる等、より正確にはんだの検査を行うことができる。そこで、従来の技術では、特定物質を定量化するために厚みが既知の標準試料を予め測定し、厚みと厚み相当値との対応関係を規定したテーブルデータを作成しておく。そして、当該テーブルデータを参照し、特定物質について得られた厚み相当値に該当する実際の厚みを算出する。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−249532号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来のX線検査装置においては、検査対象が小さくなると測定精度が相対的に低下し、十分な測定精度が確保できないという問題があった。すなわち、上記はんだ検査装置を例にすると、はんだの大きさが数百μmであれば測定誤差に大きな影響を受けずに定量化することができたが、はんだの大きさが数10μmになるとはんだの大きさに対する誤差の割合が大きくなり、測定誤差が無視できなくなってしまう。特に、近年のICでは集積度が急速に向上しており、これに伴ってそのBGA(Ball Grid Array)のはんだバンプも小さくなっている。この小さなはんだバンプを精度良く測定するためには、X線の経時的変動に影響を受けないように測定を行う必要がある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、X線の経時的変動に影響を受けずに検査を実行可能なX線検査装置、X線検査方法およびX線検査制御プログラムの提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記目的を達成するため、請求項1にかかる発明ではX線の経時変化を検出し、経時変化を補償しながらX線強度を検出し、厚み相当値を算出するための元のデータとする。すなわち、一般のX線源,例えば加速電子をターゲットに衝突させてX線を発生させるX線管においては、X線管に対する印加電圧等の条件を変えなくてもターゲットの熱膨張等によって照射X線の強度や照射方向が時間的に変動する。そこで、本発明においては、X線照射機構と厚み相当値算出手段によって厚み相当値を算出するに当たり、この時間的な変動による影響を受けないようにするため、経時変化検出手段とX線強度検出手段とを備える構成とした。
【0009】
経時変化検出手段では、X線照射機構から照射されるX線強度の経時変化を検出する。ここでは、経時変化によるX線の変動を精度良く検出するため対象試料その他の物質が透過しない状態でX線を検出することが好ましい。また、経時変化を検出するためには種々の構成を採用可能であり、ある基準時点での強度とX線を対象試料に透過させる時点でのX線の強度とを検出し、両者の差異を上記X線強度検出手段での検出に反映させることができればよい。
【0010】
X線強度検出手段においては、入射X線の強度を検出し、上記経時変化検出手段による検出結果を反映させて経時変化分を補償することができればよい。例えば、経時変化検出手段において上述のように基準時点とX線を対象試料に透過させる時点とのX線の強度を検出する際には、これらの検出結果によって経時変化分が把握される。経時変化分が判明すれば、X線検出手段で検出した透過X線について経時変化による強度変動を補償することができる。
【0011】
また、X線強度検出手段は、X線の照射方向に配設されていればよい。すなわち、照射されるX線がX線強度検出手段方向に配向していれば、X線照射機構で対象試料を照射経路内外に対象試料を移動させることにより、X線強度検出手段によって透過X線と非透過X線とのいずれをも検出することができる。むろん、照射経路と対象試料との位置関係は相対的なものであり、対象試料を移動させても良いし、X線の照射口とX線強度検出手段とを組で移動させても良いが、本発明では、X線の微妙な変動をも補償して高精度の検査を目的としている関係上、対象試料を移動させる構成が好ましい。
【0012】
X線強度を検出する構成としては、種々の構成を採用することが可能である。例えば、X線をシンチレータで受け止め、可視化した後にCCDで可視光を受光する構成(X線イメージインテンシファイア)等を採用可能である。この場合、CCDを構成する各画素での検出電圧が強度に相当する。また、CCDを平面状に並べる構成は厚み相当値算出手段での算出結果を視覚化するために好ましい構成である。すなわち、CCDの各画素での検出電圧がX線の強度に相当し、当該強度から厚み相当値を算出すれば、当該厚み相当値の数値の大小に応じてドットマトリクス状の画素からなる画像の明度を決定することにより、厚み相当値に応じて明度が変化する2次元画像を容易に生成することができる。従って、厚み相当値を容易に視覚化することができる。
【0013】
厚み相当値算出手段においては、対象試料内の特定物質を抽出してその厚みに相当する値を生成することができれば良く、X線が対象試料を透過して得られる透過X線強度から厚み相当値を算出することができればよい。すなわち、上記従来の技術に示すexpの指数部分は透過X線を減衰させた物質の厚みに相当するので、当該指数部分を算出しても良いし、吸収係数にて除して厚みの次元にした値を算出しても良い。本発明によって厚み相当値を算出すると、当該特定物質の厚みを定性的に把握することができ、はんだ検査装置等に利用することができる。
【0014】
対象試料を透過したX線を検出すると上述のexpの指数部分から厚み相当値を算出することができるが、検査対象の厚みをより正確に把握するためにエネルギーサブトラクション処理を行っても良い。すなわち、請求項2に記載した発明のように、X線照射機構にて異なるフォトンエネルギー分布のX線を照射し、厚み相当値算出手段は、それぞれのX線を対象試料に透過させて検出した検出値から透過物質の厚み相当値を算出するとともにその差分値を取得する。
【0015】
この結果、対象試料内の特定物質による寄与を抽出して当該特定物質の厚み相当値を算出することができる。特定物質による寄与を抽出して算出した厚み相当値を利用すれば、X線の検出値として対象試料以外の影響も含むような検査対象、例えば、はんだによって基板上にチップを実装する場合のはんだにおいて導電線の銅やなど他の寄与を排除して正確にはんだの寄与を抽出することができる。
【0016】
はんだ等、X線検査装置の検査対象試料について検査を行うためには特定物質を定量化するとより便利である。そこで、請求項3に記載の発明のように、標準試料について得られた厚み相当値をリファレンスにして任意の対象試料における厚み相当値から当該対象試料の実際の厚みを算出しても良い。すなわち、標準試料の厚みは既知であり、その厚み相当値を算出すれば厚み相当値が示す実際の厚みが判明する。
【0017】
そこで、厚みが既知の標準試料について単一のフォトンエネルギー分布のX線あるいは異なるフォトンエネルギー分布のX線によってX線を透過させ、得られた厚み相当値をリファレンスにすれば、任意の対象試料の厚みを定量化することができる。リファレンスにする構成としては種々の構成が採用可能であり、例えば、複数の厚みの標準試料について予め測定して厚み相当値と既知の厚みとを対応づけたテーブルを作成しておけば、任意の対象試料の厚みは当該テーブルを参照した補間演算等を実行することにより算出することができる。
【0018】
経時変化検出手段においては、X線照射機構から照射されるX線強度の経時変化を検出することができれば良く、種々の構成を採用可能である。その構成例として請求項4に記載の発明のようにセンサを利用し、当該センサをX線照射機構におけるX線の照射口と上記対象試料の配設位置との間に配設しても良い。すなわち、X線の照射口と上記対象試料の配設位置との間にてセンサによってX線の強度を検出すれば、線源から照射された直後のX線を検出することができる。従って、対象試料その他の物質の透過等、他の影響を排除してX線強度の経時的変動を精度良く検出することができる。
【0019】
尚、このセンサを一つ配設しておけば、X線強度の経時的変動を精度良く検出することができるが、さらに、複数のセンサを配設してリアルタイムにX線照射方向の変動を補償する構成にすることもできる。すなわち、X線は開口部を頂点とした略円錐状に放射され、その照射方向の中心の強度が最大であるとともに同心円状に強度が弱くなる。従って、中心から同距離にある複数のセンサにて検出強度が同等であるか否かによって重心位置を算出することができ、この結果、重心位置の変動を補償することができる。例えば、二つのセンサを対面させつつ配置すれば、両センサでの強度の変動によって当該二つのセンサを結ぶ直線方向への重心位置の変動を補償することができるし、三つのセンサを同一平面内に配置すれば、各センサでの検出強度から重心位置を算出し、リアルタイムに重心位置の変動を補償することが可能になる。
【0020】
センサの配設位置として好適な構成例として請求項5に記載の発明では、上記センサを配設するに際し、X線の照射経路内であるが対象試料へ向かうX線の経路の外に配設してある。すなわち、X線を透過させる対象試料とX線照射機構との間にセンサを配設する構成において、対象試料を透過するX線とセンサとが干渉しないので、透過X線の検出と経時変化の検出とを同時に実施することができる。この結果、透過X線を計測しながら経時変化分の補償を逐次実施することが可能になり、リアルタイムに補正を行うことができる。
【0021】
さらに、このようなセンサを利用して経時変化分を補償する構成の一例として請求項6に記載の発明のように、基準時点と検査対象の測定時点とにおける透過X線強度を比較する構成としても良い。すなわち、ある時点での透過X線強度を基準と考えれば、検査対象の測定時点での透過X線強度が当該基準時点からどの程度変動したのか、すなわち、経時的変動を容易に把握することができ、両者の比を無試料時のX線強度に乗じたり、両者の差分を無試料時のX線強度から増減するなどして容易に経時変化分を補償することができる。
【0022】
さらに、経時変化検出手段の構成例として請求項7に記載した発明のように、X線強度検出手段を利用するとともに当該X線強度検出手段によって対象試料を透過させずに所定タイミングでX線強度を検出し、当該検出強度を基準強度とする構成を採用可能である。すなわち、透過X線の強度は上述のようにI=I0exp(−μt)と表現され、I0は試料透過前のX線強度である。
【0023】
また、X線照射機構から照射されるX線はX線源の発熱度合い等に応じて経時的に変動する。そこで、対象試料を透過させずに無試料の状態でX線強度検出手段によって検出したX線強度を基準強度としてI0とするとともに、照射X線の発熱による影響を補償するため、所定のタイミングでこのI0を更新する。所定のタイミングとしては予め決められたタイミングであればよく、定期的に上記対象試料を透過しない状態でのX線強度の検出を実行しても良いし、ある検出タイミングから次回の検出タイミングまでの時間間隔を徐々に長くしていく構成等を採用しても良い。照射X線の経時的な変動の原因が主に発熱によるものである場合には、時間の経過とともに線源が熱平衡に達すると考えられるので、ある検出タイミングから次回の検出タイミングまでの時間間隔を徐々に長くすることができ、この構成では検出回数をなるべく減らしつつも検査精度を維持することができる。
【0024】
さらに、所定のタイミングにて対象試料を透過させずにX線を検出して基準とするための具体的な構成として、請求項8に記載した発明のように、平面状に配設された複数のCCD素子にてX線強度に応じた電圧を取得してその検出値から厚み相当値を取得する構成において、所定のタイミングでCCD素子とX線源との間から対象試料を退避させ、無試料状態で照射X線を検出するようにしても良い。すなわち、X線源から照射されるX線の経時的変動には、X線の強度変動の他、X線照射方向の変動も含まれ、平面状に配設された複数のCCD素子にてX線を検出することによってX線照射方向の変動をも検出してこの変動を補償することができる。
【0025】
具体的には、X線はX線照射方向の小さな開口部から照射方向に進行するとともに進行方向に対して略垂直方向に円状に広がる。平面状に配設された複数のCCD素子によれば、強度の検出値がある位置にて大きくその位置から放射状に弱くなることを示すデータを取得することができる。従って、これらのCCDによって所定のタイミングで対象試料未透過のX線を検出すれば、各タイミング間でのX線照射方向の変動や強度変動を把握することができる。
【0026】
この結果、各タイミング間でのX線照射方向の変動や強度変動を補償してX線強度を検出することができる。例えば、各画素での検出電圧に対応するX線強度を基準強度としてI0とするとともに、照射X線の発熱等による強度および照射方向の変動を補償するため、所定のタイミングでこのI0を更新すればよい。以上のような構成によれば、所定のタイミング毎にX線強度の変動と照射方向の変動とを補償することができるが、むろん、上記センサと併用してリアルタイムにX線強度の変動を補償しつつ所定のタイミング毎にX線の照射方向の変動を補償する構成としても良い。
【0027】
以上は、本発明が装置として実現される場合について説明したが、かかる装置を実現する方法においても本発明を適用可能であることはいうまでもない。その一例として、請求項9にかかる発明は、請求項1に対応した方法を実現する構成としてある。むろん、その実質的な動作については上述した装置の場合と同様である。また、請求項2〜請求項8に対応した方法も構成可能である。このようなX線検査装置は単独で実現される場合もあるし、ある方法に適用され、あるいは同方法が他の機器に組み込まれた状態で利用されることもあるなど、発明の思想としてはこれに限らず、各種の態様を含むものである。従って、ソフトウェアであったりハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。
【0028】
発明の思想の具現化例として上記方法を制御するためのソフトウェアとなる場合には、かかるソフトウェアあるいはソフトウェアを記録した記録媒体上においても当然に存在し、利用される。その一例として、請求項10にかかる発明は、請求項1に対応した機能をソフトウェアで実現する構成としてある。むろん、請求項2〜請求項8に対応したソフトウェアも構成可能である。
【0029】
また、ソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。一次複製品、二次複製品などの複製段階については全く問う余地無く同等である。その他、供給装置として通信回線を利用して行なう場合でも本発明が利用されていることにはかわりない。さらに、一部がソフトウェアであって、一部がハードウェアで実現されている場合においても発明の思想において全く異なるものではなく、一部を記録媒体上に記憶しておいて必要に応じて適宜読み込まれるような形態のものとしてあってもよい。
【0030】
【発明の実施の形態】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)本発明の構成:
(2)エネルギーサブトラクション処理:
(3)X線の空間変動補正:
(4)厚み算出テーブルの作成:
(5)はんだの検査処理:
(6)他の実施形態:
【0031】
(1)本発明の構成:
図1は本発明にかかるX線検査装置の概略ブロック図である。同図において、このX線検査装置は、X線撮像機構部10とX線撮像制御部20とから構成されている。X線撮像機構部10は、X線発生器11とX線検出器13とX−Yステージ15とセンサ17とを備えている。X線撮像制御部20は、X線制御部21とセンサ信号処理部22とステージ制御部23と検出信号処理部24とCPU25と出力部26aと入力部26bとメモリ27とを備えている。
【0032】
メモリ27はデータを蓄積可能な記憶媒体であり、予めデフォルトデータ27aが記録されるとともに、X線検査の実施に際して生成される逐次データ27bが記録される。メモリ27はデータを蓄積可能であれば良く、RAMやROM,HDD等種々の記憶媒体を採用可能である。X線制御部21は、X線発生器11を制御して所定のX線を発生させることができ、上記デフォルトデータ27aとして記録された撮像条件データを参照してX線管に対する印加電圧,撮像時間等を取得することにより、予め決められた撮像条件で駆動するようにX線発生器11を制御する。尚、本実施形態においては、後述するエネルギーサブトラクション処理を実施するため、異なる2つの撮像条件によってX線を発生させる。
【0033】
センサ信号処理部22はセンサ17と接続されており、同センサ17が出力する検出値によって逐次X線の強度を検出する。この検出強度は逐次データ27bとしてメモリ27に保存される(I01ref,I02ref,I01mon,I02mon)。ステージ制御部23はX−Yステージ15と接続されており、同X−Yステージ15を移動させる。X−Yステージ15は後述するように標準試料の測定,対象試料の測定,無試料での測定を実現するためにX−Yステージ15を移動させることができ、それぞれ標準試料測定位置座標データ,対象試料測定位置座標データ,無試料位置座標データをメモリ27から取得して、データで示される座標にX−Yステージ15を移動させる。
【0034】
検出信号処理部24はX線検出器13と接続されており、X線検出器13が出力する検出値によって、標準試料を透過したX線,対象試料を透過したX線,試料を透過していないX線(無試料時のX線)のいずれかの強度を検出する。この検出値は逐次データ27bとしてメモリ27に保存される(それぞれ、I1sta,I2sta,I1,I2,I01,I02)。尚、上記センサ17やX線検出器13の検出値に基づく計測データに付した番号1,2は、上記異なる撮像条件で発生したX線のいずれかに対応している。
【0035】
出力部26aはCPU25での処理結果等を表示するディスプレイであり、入力部26bは利用者の入力を受け付ける操作入力機器であり、利用者は入力部26bを介して種々の入力を実行可能であるし、CPU25の処理によって得られる種々の演算結果や計測データ、はんだバンプの良否判定結果等を出力部26aに表示することができる。CPU25は、メモリ27に蓄積された各種制御プログラムに従って所定の演算処理を実行可能であり、利用者が入力部26b等によって検査指示等を行うことによって各種制御プログラムを実行し、はんだバンプの良否判定を行う。
【0036】
X線発生器11は、上記X線制御部21の制御に従ってX線管に対する印加電圧を制御し、また、指示された時間X線を照射する。図2にはX線管11aの概略構成を示している。同図に示すようにX線管11aはアノード11bとカソード11cと電子レンズ11dとターゲット11eを備えている。X線管11aに対する印加電圧によってカソード11cから飛び出した電子はアノード11b方向に進行し、コイルからなる電子レンズ11dで絞られてターゲット11eの微小位置に衝突する。
【0037】
ターゲット11eに電子が衝突すると当該ターゲット11e内の電子が励起され、励起された電子が低準位の軌道に遷移する際のエネルギーがX線として放射される。X線管11aの所定位置には図示しないシャッターが備えられており、X線をX線管11aの外部に照射する際にはシャッターが開いて開口部を形成し、当該開口部からX線が外部に進行する。このとき、X線は進行方向に略垂直な方向に広がりながら、すなわち、開口部を頂点とした略円錐状に照射される。
【0038】
図3は、X線管11aに対する各印加電圧(30,40,50kV)にて開口部から照射されるX線のX線フォトンエネルギー分布を示す図である。尚、縦軸は相対的なX線の強度であり、横軸をX線フォトンエネルギーとして示している。同図に示すように、X線管11aから照射されるX線は印加電圧によってピークを与えるフォトンエネルギーが異なるとともにフォトンエネルギー分布に広がりを有している。以上のように印加電圧を変更すれば強度ピークを与えるフォトンエネルギーおよびフォトンエネルギー分布が異なるX線を生成することができ、本発明においては錫のk吸収端(29.4keV)の前後に強度ピークを有する異なるフォトンエネルギー分布のX線を利用してエネルギーサブトラクション処理を行う。すなわち、上記撮像条件データはこのような異なる2つのフォトンエネルギー分布のX線を照射するための設定データである。
【0039】
本実施形態において、X線の照射方向にはX線検出器13とX−Yステージ15とが配設されている。X−Yステージ15は、検査対象試料となるはんだバンプを備えるチップを実装した基板31を載置可能であり、基板31を載置した状態でX線の照射方向と略垂直方向にステージを移動させる。このとき、上記ステージ制御部23が指示する任意の座標値によって正確に位置を制御しつつステージを移動させることができる。また、X−Yステージ15には、上述の標準試料も載置可能であり、また、X線の照射範囲を基板31の載置範囲外にすることもできる。従って、X−Yステージ15によるステージの移動によって、X線の照射範囲内に対象試料あるいは標準試料を配設可能であるし、X線が試料に照射されない状態にすることもできる。尚、基板31には、部品が実装される。図1においてはBGAを形成する複数のはんだバンプ30が接点となって基板31に実装されるチップ32を模式的に示している。
【0040】
X線検出器13は、入射X線の強度に相当する検出信号を出力するイメージインテンシファイアである。具体的には、X線検出器13の下部にシンチレータが備えられており、入射X線は同シンチレータにて可視光に変換される。シンチレータの上方には平面状に並べられた複数のCCDが備えられており、上記可視光が各CCDに到達すると各CCDにて同可視光の強度に応じた電圧が検出される。この検出電圧が上記検出信号処理部24に入力されることにより、X線の強度が各CCDの電圧として検出される。すなわち、X線検出器13は複数の画素によって平面上に照射されるX線の強度を検出する。
【0041】
センサ17は、上記X線検出器13と同様の構成を備えるイメージインテンシファイアであるが、そのCCD画素は1つである。同センサ17は上記X−Yステージ15とX線発生器11との間に配設されており、X線発生器11から照射されたX線がX−Yステージ15に到達する以前にそのX線強度を検出することができる。また、センサ17は照射X線の端でそのX線強度を検出するように位置が調整されている。
【0042】
すなわち、図1に示すようにX線発生器11とX線検出器13との間に基板が配設されている状態において、対象試料となるはんだバンプ30を透過するX線の照射経路(図1実線部分)の外にセンサ17が配設されている。かかる構成により、X線検出器13にてはんだバンプ30を透過したX線の強度を検出すると同時にセンサ17にてX線発生器11から照射されるX線を検出することができる。尚、本発明において、センサ17のCCD数が一つに限定されるわけではない。例えば、複数個のCCDによって検出された強度の平均値を採用する構成にしても良い。
【0043】
(2)エネルギーサブトラクション処理:
本実施形態においては、上述の構成において検出したX線の強度についてエネルギーサブトラクション処理を実施することによって特定物質による寄与を抽出しており、以下エネルギーサブトラクション処理について説明する。尚、本実施形態において当該特定物質は、はんだバンプ30に含まれる錫であるが、むろん特定物質として鉛を採用しても良い。図4は、錫(Sn)と銅(Cu:プリント配線の主成分)のX線吸収係数を示す図であり、横軸はX線のフォトンエネルギーである。
【0044】
同図に示すように、各元素のX線吸収係数にはフォトンエネルギーに対する依存性があり、さらに、錫のX線吸収係数のk吸収端は29.4keVであるとともに銅のX線吸収係数は当該29.4keV近辺でほぼリニアに変化する。エネルギーサブトラクション処理は、このk吸収端を利用してX線撮像画像から錫の寄与を抽出する処理である。すなわち、k吸収端前後に強い強度ピークを有する異なるフォトンエネルギー分布のX線を対象試料に対して照射し、それぞれの透過X線を検出すると、銅を透過したX線については2つのフォトンエネルギー分布のそれぞれにおいて検出強度にほとんど差異を生じないが、錫の場合は大きな差異を生じる。
【0045】
この差異を利用すると、銅の寄与を排除して錫の寄与を抽出しながら厚み相当値を算出することができる。尚、基板に実装されるチップの主成分であるシリコンのX線吸収係数も上記錫のk吸収端前後でリニアに変化し、シリコンの寄与を排除することができる。但し、シリコンの吸収係数は錫の吸収係数と比較して非常に小さいので実質上無視することもできる。ここでは、簡単のためX線が透過する物質を錫と銅に限定して説明するが、むろん、他の元素が含まれていても錫のk吸収端の前後に他の元素の吸収端が存在しない限り同様の処理で寄与を排除することができる。より具体的には、以下の式変形によってX線強度から厚み相当値を算出することができる。
【0046】
一般に、物質を透過したX線の強度は以下の式(1)にて表現することができる。
【数1】
ここで、IはX線検出器13によって検出されるX線の強度であり、I0はX線が試料を透過しない場合にX線検出器13によって検出されるX線の強度であり、μ0は錫のX線吸収係数,μ1は銅のX線吸収係数であり、t0は錫の厚み,t1は銅の厚みである。また、expの指数部分に相当する値は厚み相当値である。尚、以下では簡単のため各X線のエネルギーに広がりがあることは無視して説明する。
【0047】
本実施形態においては異なる2つのフォトンエネルギー分布のX線について透過X線を検出するのでそれぞれに1,2と番号を付すると、以下の式(2)(3)のように表現することができる。
【数2】
すなわち、異なるフォトンエネルギーについて透過X線を検出するとX線検出器13での検出強度が異なる。また、これらの式では、異なるフォトンエネルギーにて同一の対象を測定することを想定しているので、錫と銅の厚みは番号1,2で同一である。さらに、上記図2に示すようにX線吸収係数にはフォトンエネルギー依存性があるので、両式で区別される。
【0048】
しかし、図2に示すように銅のX線吸収係数は錫のk吸収端の前後でリニアに変化するので、当該k吸収端の直前および直後でほとんど値が変わらない。従って、エネルギーサブトラクション処理においてμ11とμ12とは同値と考えることができる。一方、錫のX線吸収係数は錫のk吸収端の前後で大きく変化する。そこで、式(2)(3)のそれぞれについて自然対数をとりその結果同士の差分値を算出すると、以下の式(4)になる。
【数3】
同式(4)の左辺は錫の厚みに比例してその大きさが変化するので、錫の厚み相当値である。また、右辺の値はX線の強度によって算出可能な値であるので、上記X線検出器13の各画素についてこの値を算出し、各画素の明度をこの算出値に対応した値にして画像を形成すると、錫の寄与のみを視覚化した画像を得ることができる。
【0049】
本実施形態においては、標準試料を透過したX線,対象試料を透過したX線のそれぞれについて上記式(4)に示す厚み相当値を算出することによって、対象試料における錫の厚みを算出しているが、ここで、より正確にX線強度を検出するためにX線の経時的な空間変動補正と強度変動補正を実施している。以下、各段階での処理について詳細に説明する。
【0050】
(3)X線の空間変動補正:
まず、X線の空間変動補正を行うための処理を説明する。図2においては、照射X線の照射方向が経時的に変動する様子も示している。X線管11aにおいては、上述のようにターゲット11eに対して電子を衝突させることによってX線を発生させているが、この電子のエネルギーのうち大半は熱エネルギーとなりアノード11bに伝達される。アノード11bは熱によって膨張するので、ターゲット11eの位置は変動し、これによりX線の照射方向も変動する。
【0051】
図2の上部にはX線検出器13を示しており、X線の照射方向が変動する様子を実線および破線にて模式的に示している。同図においてX線検出器13の上部には各CCDによる検出強度を1次元的に示している。すなわち、照射X線の中央ではX線の強度が大きいが、その周縁部では徐々に強度が小さくなる。このように、X線検出器13にて検出されるX線の強度は本来的に空間的変動を備えているが、上述のように熱によってX線の照射方向が変動すると、照射方向の変動に応じてX線検出器13での検出強度がCCD面上でシフトするように変動する。
【0052】
本実施形態においては、このシフトによる影響を補償するためにX線の空間変動補正を行っており、このために20分に一回の割合で無試料状態のX線強度検出を行う。この検出値は次回の無試料状態での強度検出まで無試料状態における強度の基準値とされ、後述する対象試料の検査処理に際して20分毎に上記式(4)内のI01,I02が更新されることになる。
【0053】
従って、X線の照射方向が変動した場合であっても20分毎には修正され、初期値と現在値の差異が蓄積することが無く、強度測定に与える影響を非常に小さくすることができる。むろん、この無試料状態での測定は所定のタイミング毎に実施されればよく、20分間隔に限定されることはないし、時間の経過とともに計測間隔を長くするなど種々の構成を採用可能である。
【0054】
図5は、上記CPU25が空間変動補正用のデータを取得する際の処理を示すフローチャートである。CPU25はメモリ27に記録された図示しないプログラムに従って各部に指示を出し、この処理を実施する。ステップS100ではまずメモリ27に記録された無試料位置座標データを取得し、ステージ制御部23に受け渡す。ステージ制御部23はこの無試料位置座標データに従ってX−Yステージ15を移動させ、X線発生器11とX線検出器13との間に試料が存在しないようにする。
【0055】
ステップS110ではCPU25がメモリ27に記録された撮像条件データのうち第一のフォトンエネルギー分布のX線を出力させるためのデータを取得し、X線制御部21に受け渡す。X線制御部21はこの撮像条件データに従ってX線発生器11での条件設定を行い、錫のk吸収端直前にピークを有するフォトンエネルギー分布のX線を照射させる。このX線は試料を透過することなくX線検出器13に入射する。
【0056】
ステップS120ではCPU25が検出信号処理部24を制御してX線検出器13の検出値を取得する(第一基準画像の撮像)。(ここでは2次元的に並べられた複数のCCDにて各画素の強度を検出するので、この検出値の取得を画像の撮像と呼ぶ。以下同じ。)すなわち、入射X線に応じてX線検出器13から出力される検出信号は検出信号処理部24に入力され、当該検出信号処理部24は当該検出信号に応じて各画素でのX線強度を示すデータを出力する。ステップS130ではCPU25が当該データを取得し、第一基準画像データI01として上記メモリ27に記録する。
【0057】
ステップS140〜S160においては、錫のk吸収端直後にピークを有するフォトンエネルギー分布のX線にて撮像を行う。すなわち、ステップS140にてCPU25がメモリ27に記録された撮像条件データのうち第2のフォトンエネルギー分布のX線を出力させるためのデータを取得し、X線制御部21に受け渡す。ステップS150では、この結果照射されるX線によって第二基準画像を撮像し、得られたデータを第二基準画像データI02としてメモリ27に保存する(ステップS160)。以上のようにしてメモリ27に保存されたデータは後の検査処理で利用される。
【0058】
(4)厚み算出テーブルの作成:
上述の厚み相当値は厚みに比例した値であるものの実際の厚みではない。本実施形態では、はんだバンプ30の良否判定を行うために厚み相当値から実際の厚みを算出しており、このために予め標準試料を計測し、厚み相当値を実際の厚みに変換するための厚み算出テーブルを作成しておく。図6は当該厚み算出テーブルを作成する際の処理を示すフローチャートであり、図7はX−Yステージ15上に載置された標準試料40をステージ側面から眺めた状態を示す図である。
【0059】
標準試料40は矩形板状のはんだが積層されることによって形成されており、各層の厚みは予め正確に測定してある。この標準試料40としては、本発明にて検査対象となるはんだと同成分のものが好ましいが、厳密に同成分であることが必須になるわけではない。標準試料40はX−Yステージ15の所定位置に載置されており、ステップS200ではまずメモリ27に記録された標準試料測定位置座標データを取得し、ステージ制御部23に受け渡す。ステージ制御部23はこの標準試料測定位置座標データに従ってX−Yステージ15を移動させ、X線発生器11とX線検出器13との間に標準試料40を配設させる。
【0060】
ステップS205ではCPU25がメモリ27に記録された撮像条件データのうち第一のフォトンエネルギー分布のX線を出力させるためのデータを取得し、X線制御部21に受け渡す。X線制御部21はこの撮像条件データに従ってX線発生器11での条件設定を行い、錫のk吸収端直前にピークを有するフォトンエネルギー分布のX線を照射させる。この設定条件は上記ステップS110での設定条件と同様である。
【0061】
ステップS205の設定によって照射されたX線の一部は上記センサ17に到達し、当該X線の大半は標準試料40を透過してX線検出器13に到達する。ステップS210ではCPU25がセンサ信号処理部22を制御してセンサ17の検出値を取得するとともにセンサ検出値I01refとしてメモリ27に保存する。このセンサ検出値I01refは、後述する検査処理にてX線の強度変動を補正する際に利用されるデータである。
【0062】
ステップS215ではCPU25が検出信号処理部24を制御してX線検出器13の検出値を取得する(第一標準画像の撮像)。標準試料40は一定の面積を有しているが、X線検出器13では所定の面積内に到達する透過X線を検出可能であり、当該標準試料40を透過したX線を一度に検出することができる。そこで、ステップS220では、CCDの各画素にて検出した強度を第一標準画像データI1staとして上記メモリ27に記録する。
【0063】
標準試料40の測定においても第二の条件設定で同様の処理を行う。すなわち、ステップS225〜S240において、第二撮像条件を設定することによって錫のk吸収端直後にピークを有するフォトンエネルギー分布のX線を照射させ、上記センサ17での検出値をセンサ検出値I02refとしてメモリ27に保存し、上記X線検出器13の検出値を第二標準画像データI2staとしてメモリ27に保存する。
【0064】
以上のようにして取得した第一標準画像データI1sta,第二標準画像データI2staと上述の第一基準画像データI01,第二基準画像データI02とを利用すれば、上記標準試料40の厚み相当値を算出することができる。すなわち、厚み相当値を算出する上記式(4)におけるI01,I02は無試料時のX線強度であるので上記第一基準画像データI01,第二基準画像データI02に相当する。また、式(4)におけるI1,I2は透過X線の強度であるので標準試料40の透過X線強度を示す第一標準画像データI1sta,第二標準画像データI2staをそれぞれ代入すると、式(4)の左辺に相当する厚み相当値を算出することができる。
【0065】
ステップS245においては、CPU25が上記複数のCCDの各画素についての各データを読み出しつつ、式(4)の演算を実施して各画素についての厚み相当値を算出する。図7の下部においてはCCDの各画素による検出結果を、厚み相当値が大きいほど濃い色にして示している。標準試料40は、図7に示すように階段状に厚みが変化するので同図下部に示すように厚み相当値に対応した濃度も段階的に変化する。すなわち、同程度の濃度(厚み相当値)であれば同じ厚み相当値になるので、各段階毎に濃度(厚み相当値)を平均化して既知の厚みと比較することによって厚み相当値と実際の濃度とを対応づけることができる。
【0066】
そこで、ステップS250では当該既知の厚みと厚み相当値とを対応づけた厚み算出テーブルを生成し、メモリ27に記録する。この厚み算出テーブルを利用すれば、任意の対象試料の厚み相当値から実際の厚みを算出することができる。すなわち、厚み算出テーブルに定義された2つの厚み相当値とこれらに挟まれる任意の厚み相当値について、当該2つの厚み相当値に対応する実際の厚みを利用して補間演算により任意の厚みを算出すればよい。むろん、上記厚み算出テーブルで定義された厚み相当値と実際の厚みとから任意の厚み相当値に対する厚みを算出する補間関数を定義し、対象試料について算出された厚み相当値を当該補間関数に代入することで厚みを算出しても良い。
【0067】
当該対象試料の厚みを算出する際には内挿/外挿のいずれをも行うことができるし、補間関数としても1次関数の他,スプライン補間関数等を利用しても良い。さらに、上述のように一度に標準試料40を測定する構成が必須というわけではなく、X−Yステージ15を逐次移動させて標準試料40の各段を最大強度のX線が透過するように制御し、各段毎に厚み相当値を算出しても良い。さらに、この場合、上記式(4)のI01,I02に対して、上記ステップS210,S230で取得したセンサ検出値I01ref,I02refを代入しても良い。
【0068】
また、本実施形態では、標準試料40の計測時にセンサ検出値I01ref,I02refを取得しているが、むろん、このタイミングでの検出値をリファレンスにすることが必須となるわけではなく、上記空間変動補正用データ取得処理を実行する際にセンサ検出値を取得しても良い。
【0069】
(5)はんだの検査処理:
本実施形態では、以上のように空間変動補正用データ取得処理および厚み算出テーブル作成処理を行った後に、リアルタイムでX線の強度変動を補償しながら図8に示す検査処理を実行する。上記空間変動補正用データ取得処理は、はんだ検査中に所定のタイミングで実施されれば良く、厚み算出テーブル作成処理ははんだ検査を行うに際して少なくとも最初に一回実施されればよい。はんだの検査処理は、X−Yステージ15上にチップがはんだ付けされた基板が載置された状態で実施される。
【0070】
基板上でのチップの実装位置は、上記メモリ27に記録された対象試料測定位置座標データから特定される。すなわち、対象試料測定位置座標データは、基板のCADデータ等から取得されるデータであってチップのX−Y位置を示すデータである。ステップS300ではまずメモリ27に記録された対象試料測定位置座標データを取得し、ステージ制御部23に受け渡す。ステージ制御部23はこの対象試料測定位置座標データに従ってX−Yステージ15を移動させ、X線発生器11とX線検出器13との間に所定のチップ32を配設させる。
【0071】
ステップS305ではCPU25がメモリ27に記録された撮像条件データのうち第一のフォトンエネルギー分布のX線を出力させるためのデータを取得し、X線制御部21に受け渡す。X線制御部21はこの撮像条件データに従ってX線発生器11での条件設定を行い、錫のk吸収端直前にピークを有するフォトンエネルギー分布のX線を照射させる。この設定条件は上記ステップS110,S205での設定条件と同様である。
【0072】
ステップS305の設定によって照射されたX線の一部は上記センサ17に到達し、当該X線の大半は所定のチップ32を透過してX線検出器13に到達する。ステップS310ではCPU25がセンサ信号処理部22を制御してセンサ17の検出値を取得するとともにセンサ検出値I01monとしてメモリ27に保存する。
【0073】
ステップS315ではCPU25が検出信号処理部24を制御してX線検出器13の検出値を取得する(第一対象画像の撮像)。所定のチップ32は一定の面積を有しており、当該チップ32を実装するために複数のはんだバンプが利用されるが、X線検出器13では透過したX線を複数のCCDによって複数のはんだバンプを一度に検出する。ステップS320では、CCDの各画素にて検出した強度を第一対象画像データI1として上記メモリ27に記録する。所定のチップ32の測定においても第二の条件設定で同様の処理を行う。すなわち、ステップS325〜S340において、第二撮像条件での照射X線でセンサ検出値I02monおよび第二対象画像データI2をメモリ27に保存する。
【0074】
ステップS345においては、X線検出器13の検出値に基づいて厚み相当値を算出するが、このとき、以下の式(5)によって厚み相当値を算出することによってX線の空間変動補正と強度変動補正とを同時に実行している。
【数4】
ここで、log内の分子には上記ステップS320,S340で取得された第一対象画像データI1,第二対象画像データI2とを代入する。log内の分母の各データには上記ステップS130,S160で取得した第一基準画像データI01,第二基準画像データI02と上記ステップS210,S230で取得したセンサ検出値I01ref,I02refと上記ステップS310,S330で取得したセンサ検出値I01mon,I02monを代入する。
【0075】
この式(5)の分母は上記式(4)からもわかるように、無試料時のX線強度に相当する。はんだバンプの検査時にてこの分母に上記第一基準画像データI01,第二基準画像データI02を代入することにより、無試料時のX線強度を20分ごとに更新することができる。上述のように第一基準画像データI01,第二基準画像データI02とはX線検出器13での全CCDについてのデータであり、X線管11aから照射されるX線の照射方向が時間的に変動したとしても各CCDでの検出強度は20分毎に基準強度になるように補正される。従って、X線照射方向の空間的な変動を補償しながら式(5)の左辺である厚み相当値を算出することができる。
【0076】
一方、これらの第一基準画像データI01,第二基準画像データI02に対して(I0xmon/I0xref)を乗じる(xは1又は2)ことにより、無試料時のX線強度変動をリアルタイムに補正することができる。すなわち、(I0xmon/I0xref)部分において、I0xmonははんだバンプ検査時のセンサ17の検出値であり、この強度が基準とされるI0xrefより小さい場合には(I0xmon/I0xref)が小さくなり、I0xrefより大きい場合には(I0xmon/I0xref)が大きくなる。
【0077】
従って、検査中に照射X線の強度が変動したとしてもX線強度が基準より小さくなれば上記第一基準画像データI01,第二基準画像データI02の値をその分小さくし、X線強度が基準より大きくなれば上記第一基準画像データI01,第二基準画像データI02の値をその分大きくして、変動分を補償することができる。本実施形態においては、X線検出器13のCCDにて透過X線を検出しており、CCDの全画素について試料透過前のX線強度をリアルタイムで計測しようとすると、対象試料とX線管11aとの間にCCDの画素数分のセンサを備える必要がある。
【0078】
また、この構成であればリアルタイムに試料透過前のX線強度を検出できるものの、X線が対象試料に到達しないのでX線検出器13ではX線を検出できない。そこで、本発明においては、透過X線の妨げにならないようにセンサ17を配設し、当該センサ17にてリアルタイムにX線の強度を検出する構成にしてある。これにより、X線管11aから照射される強度の変動はリアルタイムに検出することができる。一方、試料を透過しないでCCDの各画素に到達するX線の強度は20分毎に検出されており、20分ごとにCCDの全画素について基準値を更新する。
【0079】
この後に行う上述のリアルタイム補正は全画素の補正について適用される。すなわち、本実施形態では所定のタイミングで無試料時のX線を検出することによってCCDの各画素についてX線の空間変動によって生じる経時的なX線の変動を補償しながらも、無試料時のX線の検出タイミング間では透過X線の妨げにならないセンサ17によってリアルタイムにX線の強度を補正している。従って、X線の照射方向変動(空間変動)とX線の照射強度変動との双方を補償してエネルギーサブトラクション処理を実行することができる。
【0080】
以上のように式(5)によって経時的変動を補償しながら厚み相当値を算出すると、ステップS350ではCPU25が上記メモリから厚み算出テーブルデータを読み出して補間演算を実施し、各画素について算出された対象試料の厚み相当値に対応した実際の厚みを算出する。この結果、対象試料としてのはんだバンプ30の厚みを取得することができる。本実施形態では、さらにはんだバンプ30の厚みからその物理的なはんだ量に関する各種の値をステップS355で算出し、ステップS360ではんだの良否判定(チップ32が基板31に対して的確に実装されているか否かの判定)を行う。
【0081】
はんだ量に関する各種の値としては種々の値を算出することができる。すなわち、複数のCCDによって各画素毎にはんだバンプ30の実際の厚みを算出しているので、各画素の厚みを積分することによってはんだバンプ30の体積を算出することができる。他にも特定位置で厚み方向と略垂直に切断した場合の切断面の面積や平均の厚み,中央の厚み,厚みムラ等種々の値を算出することができる。CPU25はこれらの値を算出し、はんだ量計測データとして上記メモリ27に記録する。
【0082】
ステップS360では、CPU25が予めメモリ27に記録された良否判定データを参照して、はんだバンプ30の良否を判定する。すなわち、良否判定データは上記各種はんだ量に関する値およびそれらの組み合わせがどのような値であるときにはんだバンプ30がチップ32と基板31とを確実に実装されているかを示すデータであり、これによって良否判定を実施する。良否判定結果は上述の出力部26aから出力される。
【0083】
本実施形態においては、上述のようにしてX線の空間変動補正と強度変動補正とを実施していることによって、非常に高精度にはんだバンプの厚みを計測することが可能である。図9は、X線の空間変動補正と強度変動補正とを補正せずにエネルギーサブトラクション処理を行ってはんだバンプの体積を算出した場合とX線の空間変動補正と強度変動補正を行った場合とを比較するための説明図である。
【0084】
同図においては同じはんだバンプについてその体積を100回計測した場合について示しており、横軸が測定回数であり、縦軸が体積である。縦軸においては、本発明で1回目に計測したはんだバンプの体積を100として相対値によって示している。同図に示すように従来の技術では、同じ体積のはんだバンプであっても値が変動し、また、計測回数の少ないときには相対体積が一旦小さくなり、20回を超える当たりから相対体積が徐々に大きくなると言う傾向を有している。これは、X線の空間変動および強度変動が特定の傾向になることを示しており、実際にはアノード11bの熱膨張による影響が大きい。
【0085】
これに対して、本発明では、はんだバンプの体積値が変動するものの、傾向的な変動は生じておらず、また、変動幅が小さく、経時的変動による影響を受けずに正確に体積を計測可能であることがわかる。尚、同図には100回の計測結果についてその標準偏差σを3倍し、平均値で除して得られる変動係数を示している。従来の技術の変動係数が3.10%であるのに対して本発明では1.20%であり、この変動係数からも本発明によって非常に高精度に体積(あるいは厚み)を計測可能であることがわかる。
【0086】
(6)他の実施形態:
本発明においては、X線の経時的変動を補償することができれば良く、上記第1実施形態のような構成が必須となるわけではない。例えば、上記第1実施形態のように空間変動補正と強度変動補正とを併用することが必須ではなく、上記式(5)において分母に基準画像データI0x(xは1又は2)のみを代入して(I0xmon/I0xref)を省略し、空間変動補正のみを実施可能である。むろん、上記式(5)において分母に(I0xmon/I0xref)のみを代入して基準画像データI0xを省略し、強度変動補正のみを実施しても良い。
【0087】
さらに、リアルタイムに空間変動補正を行う構成を採用することもできる。例えば、上記センサ17のように透過X線を妨げない位置に複数のセンサを配設し、各センサでの検出強度によって照射X線の最強強度位置を推定すれば照射方向の変動を把握することができる。そこで、この照射方向の変動を補償するようにCCDによる検出値を補正する構成を採用することも可能である。
【0088】
さらに、上記実施形態においてはエネルギーサブトラクション処理を行って厚み相当値を算出していたが、エネルギーサブトラクション処理を行わずに厚み相当値を行うX線検査装置を構成することも可能である。この場合も装置構成としては上記実施形態と同様である。処理としては、上記図5に示す空間変動補正用データ取得処理にてステップS140〜S160を省略し、図6に示す厚み算出テーブル作成処理にてステップS225〜S240を省略し、図8に示す検査処理にてステップS325〜S340を省略する。
【0089】
そして、上記厚み算出テーブル作成処理のステップS245および検査処理のステップS345においては厚み相当値を算出するが、X線のフォトンエネルギー分布は1種類であるから上記式(1)のlogをとることによってその指数部分から厚み相当値を算出する。このとき算出式は上記式(5)の右辺第1項のみのような形となる。むろんエネルギーサブトラクション処理を行わないので厚み相当値は式(5)の左辺でなく式(1)の指数部分になるが、検査対象がシリコンウエハ上のはんだのようにはんだ以外の物質が透過X線強度にほとんど影響を与えない場合には有効である(シリコンの吸収係数が小さいため)。
【0090】
すなわち、式(5)の右辺第1項のI1として第一標準画像データI1staや第1対象画像データI1を代入し、式(5)の右辺第1項のI01として第一基準画像データI01を代入する。ステップS345の場合には、センサ検出値I01ref,I01monを利用して経時的変動を補償しながら厚み相当値を算出する。その他は上記実施形態と同様の処理によって実際の厚みを算出し、はんだの良否判定を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるX線検査装置の概略ブロック図である。
【図2】X線管の概略構成を示す図である。
【図3】X線のX線フォトンエネルギー分布を示す図である。
【図4】錫と銅のX線吸収係数を示す図である。
【図5】空間変動補正用のデータを取得する際の処理を示すフローチャートである。
【図6】厚み算出テーブルを作成する際の処理を示すフローチャートである。
【図7】X−Yステージ上に載置された標準試料を示す図である。
【図8】検査処理のフローチャートである。
【図9】本実施形態での測定精度を説明する説明図である。
【符号の説明】
10…X線撮像機構部
11…X線発生器
11a…X線管
11b…アノード
11c…カソード
11d…電子レンズ
11e…ターゲット
13…X線検出器
15…X−Yステージ
17…センサ
20…X線撮像制御部
21…X線制御部
22…センサ信号処理部
23…ステージ制御部
24…検出信号処理部
25…CPU
26a…出力部
26b…入力部
27…メモリ
27a…デフォルトデータ
27b…逐次データ
30…はんだバンプ
31…基板
32…チップ
40…標準試料
Claims (10)
- X線を照射可能であるとともに所望の対象試料を当該X線の照射経路に配設可能なX線照射機構と、
上記X線照射機構から照射されるX線強度の経時変化を検出する経時変化検出手段と、
上記X線の照射方向に配置されるとともに、上記経時変化分を補償しながら入射X線の強度を検出するX線強度検出手段と、
上記X線照射機構によって対象試料をX線の照射経路に配設しつつX線を照射し、上記X線強度検出手段における透過X線の検出値から透過物質の厚み相当値を算出する厚み相当値算出手段とを備えることを特徴とするX線検査装置。 - 上記X線照射機構は異なるフォトンエネルギー分布のX線を照射可能であり、上記厚み相当値算出手段は上記X線照射機構によって対象試料をX線の照射経路に配設しつつ上記異なるフォトンエネルギー分布のX線を照射して得られたそれぞれの透過X線の検出値から透過物質の厚み相当値を算出するとともにその差分値を取得することにより上記対象試料内の特定物質による寄与を抽出して当該特定物質の厚み相当値を算出することを特徴とする上記請求項1に記載のX線検査装置。
- 上記厚み相当値算出手段は、厚みが既知であるとともに上記特定物質を含む標準試料を対象試料として算出した厚み相当値と既知の厚みとを対応づけた対応データを予め所定の記憶媒体に記憶しており、当該データを参照することによって任意の対象試料についてその厚み相当値から実際の厚みを算出することを特徴とする上記請求項1または請求項2のいずれかに記載のX線検査装置。
- 上記経時変化検出手段は、上記X線照射機構におけるX線の照射口と上記対象試料の配設位置との間に配設されるセンサであることを特徴とする上記請求項1〜請求項3のいずれかに記載のX線検査装置。
- 上記センサは、上記X線照射機構から照射されるX線の照射経路内かつ対象試料へのX線の経路外に配設されることを特徴とする上記請求項4に記載のX線検査装置。
- 上記センサによって所定基準時点のX線強度と上記対象試料へX線を透過させているときのX線強度とを検出し、両者を比較することによって上記X線強度の経時変化を検出することを特徴とする上記請求項4または請求項5のいずれかに記載のX線検査装置。
- 上記経時変化検出手段は、上記対象試料を透過しないでX線強度検出手段に到達したX線強度を所定のタイミングで検出してこの検出強度を次回の検出タイミングまでの基準強度とすることを特徴とする上記請求項1〜請求項6のいずれかに記載のX線検査装置。
- 上記X線強度検出手段は上記X線照射機構から照射されるX線の照射方向と略垂直の平面内でドットマトリクス状に形成された複数のCCD素子を備え、上記X線照射機構は上記所定のタイミングにて上記対象試料をX線の照射方向に配設しない状態として上記複数のCCD素子の略全素子に対象試料を透過しないX線を到達させることを特徴とする上記請求項7に記載のX線検査装置。
- 所定のX線源からX線を対象試料に照射してその透過X線の強度から透過物質の厚み相当値を算出するX線検査方法であって、
上記X線源から照射されるX線強度の経時変化を検出し、当該経時変化分を補償しながら上記透過X線の強度を検出することを特徴とするX線検査方法。 - X線を照射可能であるとともに所望の対象試料を当該X線の照射経路に配設可能なX線照射機構と、
上記X線照射機構から照射されるX線強度の経時変化を検出する経時変化検出手段と、
上記X線の照射方向に配置されるとともに、入射X線の強度を検出するX線強度検出手段とを備えるX線検査装置を駆動するコンピュータにおいて、
上記X線強度検出手段が検出したX線強度に上記経時変化検出手段が検出した経時変化分の補正を施してX線強度を取得するX線強度補正機能と、
上記X線照射機構を制御して対象試料をX線の照射経路に配設しつつX線を照射するX線照射機構制御機能と、
同X線照射機構制御機能によって上記X線を対象試料に透過させ、その透過X線を上記X線強度補正機能にて補正して得られたX線強度から透過物質の厚み相当値を算出する厚み相当値算出機能とを実現させることを特徴とするX線検査プログラム。
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