JP2004107386A - ポリフェノール系組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】環境への負荷を低減でき適切な強度を発現できる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系材料に酸を添加し混合して得られるポリフェノール系材料から選択される1種あるいは2種以上の第1のポリマーと、主鎖あるいは側鎖に、酸素原子、窒素原子及び水素原子のうちいずれか1種あるいは2種以上を有する、1種あるいは2種以上の第2のポリマー、とを、前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとを含むマトリックスが、それぞれのポリマーを単独で含有するマトリックスよりも高い強度を発現可能に含有する組成物とする。本組成物によれば、第1のポリマーと第2のポリマーとの相互作用により高い強度を発現させることができる。
【選択図】なし
【解決手段】フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系材料に酸を添加し混合して得られるポリフェノール系材料から選択される1種あるいは2種以上の第1のポリマーと、主鎖あるいは側鎖に、酸素原子、窒素原子及び水素原子のうちいずれか1種あるいは2種以上を有する、1種あるいは2種以上の第2のポリマー、とを、前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとを含むマトリックスが、それぞれのポリマーを単独で含有するマトリックスよりも高い強度を発現可能に含有する組成物とする。本組成物によれば、第1のポリマーと第2のポリマーとの相互作用により高い強度を発現させることができる。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリフェノールと他のポリマーとの複合樹脂組成物に関し、特に、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系物質に酸を添加し、混合して得られるポリフェノールと、その他のポリマーとを含有するポリフェノール系組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、木工用接着剤等の各種用途の接着剤として酢酸ビニル樹脂系エマルジョンが広く用いられている。一般に、このエマルジョンは成膜温度が高い。このため、多くの場合、フタル酸エステル類など可塑剤や有機溶剤などの揮発性を有する成膜補助剤を添加して成膜温度を低下させて、常温でも均一な皮膜を形成させるようにする必要がある。
これらの成膜補助剤は、近年、環境に対して何らかの影響を有する可能性があるとして、できるだけその使用を回避あるいは使用量を抑制しようとする傾向にある。このため、新たな成膜補助剤の検討が試みられている。
【0003】
一方、天然材料であるリグノセルロース系材料に由来するポリフェノールが知られている。このポリフェノールは、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系材料に酸を添加することにより得ることができる(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。
このポリフェノールは、それ自体粘結性を有しており、セルロース系成形材料に添加することによりバインダーとして機能して成形体を構成することができる(例えば、特許文献2参照。)。また、このポリフェノールのアセチル化体がポリエステルに対して可塑剤様として作用することも知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開平2−233701号公報
【特許文献2】
特開平9−278904号公報
【特許文献3】
特開2001−64494号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、酢酸ビニル系エマルジョン型接着剤に適合し、安全性が高く、しかも成膜温度を適切に低下させるような成膜補助剤を見出すことは困難であった。また、上述のポリフェノールはいわゆる接着剤としては未だ用いられておらず、接着剤組成物としての具体的構成については検討されていない。
そこで、本発明では、環境への負荷を低減できて、しかも適切な強度を発現できる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決する組成物を新たに構築するため、種々の樹脂成分を探索、検討した。その結果、上記したポリフェノールとポリアクリル酸とが共存するマトリックスが成膜できること及び両者間にマトリックスの強度を向上させる相互作用が存在することを見出し、さらに、これを利用して上記した課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0007】
(1)フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系材料に酸を添加し混合して得られるポリフェノール系材料から選択される1種あるいは2種以上の第1のポリマーと、
主鎖あるいは側鎖に、酸素原子、窒素原子及び水素原子のうちいずれか1種あるいは2種以上を有する、1種あるいは2種以上の第2のポリマー、
とを含有し、
前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとを含むマトリックスが、それぞれのポリマーを単独で含有するマトリックスよりも高い強度を発現可能にする組成物。
(2)前記第2のポリマーは、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、イミド基、及びエーテル基からなる群から選択される1種あるいは2種以上の基を側鎖及び/又は主鎖に有するポリマーである、(1)記載の組成物。
(3)前記第2のポリマーは、ポリケトン系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーからなる群から選択される1種あるいは2種以上のポリマーである、(1)記載の組成物。
(4)前記第2のポリマーは、(メタ)アクリル酸系ポリマーである、(1)記載の組成物。
(5)前記第2のポリマーは、(メタ)アクリル酸及びその炭素数1〜10のアルキルエステル、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル以外の水酸基含有(メタ)アクリル酸ならびにそのエステル、及び(メタ)アクリル酸の炭素1〜10のヒドロキシアルキルエステルからなる群から選択される1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーである、(4)記載の組成物。
(6)前記第2のポリマーは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル及び(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーである、(4)に記載の組成物。
(7)前記第2のポリマーは、α−ヒドロキシアクリル酸を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーである、(4)に記載の組成物。
(8)前記組成物は、水を含む分散媒を含有する、(1)〜(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)接着剤である、(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)セルロース系材料あるいはリグノセルロース系材料を含む被着体を適用対象とする接着剤である、(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の組成物は、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系材料に酸を添加し混合して得られるポリフェノール系材料及びその誘導体から選択される1種あるいは2種以上の第1のポリマーと、主鎖あるいは側鎖に、酸素原子、窒素原子及び水素原子のうちいずれか1種あるいは2種以上を有し、前記第1のポリマーと相互作用を発現する1種あるいは2種以上の第2のポリマーとを含有することを特徴とする。
また、本発明の組成物は、前記第1のポリマーと、ポリ(メタ)アクリル酸系ポリマーである第2のポリマー、とを含有することを特徴とする。
本発明の組成物は、揮発性を有する可塑剤を用いることなく適用する表面を被覆し膜を形成できる。このため、環境への負荷を小さくできる。また、得られた膜(相)において適切な強度を発現させることができる。このため、当該相を接着用、充填用、耐水、耐候等の保護や装飾のための被覆用等の各種用途への適用が可能となっている。特に、本組成物は、木工用接着剤を始めとして各種接着剤組成物として有用な他、充填剤、コーティング剤等の用途の組成物として用いることができる。
【0009】
(第1のポリマー)
第1のポリマーは、フェノール誘導体のフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位の炭素原子が、リグニンのフェニルプロパンユニットのベンジル位(側鎖C1位)の炭素原子に結合した1,1−ビス(アリール)プロパンユニットを有するポリフェノール系材料(以下、このポリフェノールをリグノフェノールという。)である。使用するフェノール誘導体の種類に応じて、前記ユニット中のフェノール誘導体が変化し、リグノフェノールの種類が異なることになる。また、リグニンはフェニルプロパンユニットを主体とするが、そのユニット組成や結合様式は、植物によって異なるのが一般的である。したがって、基本的には、出発原料となるリグニン含有材料の種類によっても、リグノフェノールの種類は相違することになる。
リグノフェノールは、通常、所定のフェノール誘導体が添加されたリグニン含有材料好ましくはリグノセルロース系材料を酸に接触させることにより得ることができる。なお、リグノフェノールに関するより一般的な記載及びその製造プロセスについては、既に、特開平2−23701号公報、特開平9−278904号公報及び国際公開WO99/14223号公報、2001−64494号公報、2001−261839号公報、2001−131201号公報、2001−34233号公報において記載されている。
【0010】
以下、このリグノフェノールの製造プロセスについて説明する。
本製造プロセスは、特に、リグノセルロース系材料を予めフェノール誘導体で溶媒和、あるいはフェノール誘導体をリグノセルロース系材料に収着させた上で、当該リグノセルロース系材料を酸と接触させることにより、リグノセルロースの複合状態を緩和させ、同時に、天然リグニンのアリールプロパンユニットのC1位(ベンジル位)に選択的に前記フェノール誘導体をグラフティングさせて、リグノフェノールを生成させ、同時にセルロースとリグノフェノールとに分離し、リグノフェノールを得る方法である。
リグノフェノールは、リグニンのアリールプロパンユニットのC1位に、フェノール誘導体がC−C結合で導入された1,1−ビス(アリール)プロパン単位を含む重合体を意味するものである。リグノフェノール体は、それ自体、リグノセルロース系材料から反応、分離して得られるリグニン由来のポリマーの混合物であり、また、得られるポリマーにおける導入フェノール誘導体の量や分子量は、原料となるリグノセルロース系材料および反応条件により変動する。
【0011】
なお、本発明で用いる「リグノセルロース系材料」とは、木質化した材料、主として木材である各種材料、例えば、木粉、チップの他、廃材、端材、古紙などの木材資源に付随する農産廃棄物や工業廃棄物を挙げることができる。また用いる木材の種類としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用するこができる。針葉樹としては、典型的には、ヒノキ、マツなどがある。広葉樹としては、典型的には、ブナ、ナラ、カバなどがある。さらに、各種草本植物、それに関連する農産廃棄物や工業廃棄物なども使用できる。
【0012】
リグノセルロース系物質を溶媒和あるいはリグノセルロース系材料に収着させるフェノール誘導体としては、1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体、または3価のフェノール誘導体などを用いることができる。
1価のフェノール誘導体の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいフェノール、1以上の置換基を有していてもよいナフトール、1以上の置換基を有していてもよいアントロール、1以上の置換基を有していてもよいアントロキノンオールなどが挙げられる。
2価のフェノール誘導体の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいカテコール、1以上の置換基を有していてもよいレゾルシノール、1以上の置換基を有していてもよいヒドロキノンなどが挙げられる。
3価のフェノール誘導体の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいピロガロールなどが挙げられる。
本発明においては1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体及び3価のフェノール誘導体のうち、1種あるいは2種以上を用いることができる。高い導入効率を得る観点からは、1価のフェノール誘導体を用いることができる。また、高い凝集力を発現させようとする場合には、2価以上のフェノール誘導体を用いることが好ましい。
【0013】
1価から3価のフェノール誘導体が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよいが、好ましくは、電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、炭素数が1〜4、好ましくは炭素数が1〜3の低級アルキル基含有置換基である。低級アルキル基含有置換基としては、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)である。また、アリール基(フェニル基など)の芳香族系の置換基を有していてもよい。また、水酸基含有置換基であってもよい。
【0014】
以上のことから、使用するフェノール誘導体の好ましい具体例としては、o−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール、2,6−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2−メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6−ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられる。
特に、p−クレゾール、m−クレゾール、レゾルシノール、及びカテコールを好ましく用いることができる。強度発現の観点からは、レゾルシノール、カテコールなど2個以上の水酸基を有するフェノール誘導体を用いることが好ましい。
【0015】
リグノセルロース系材料に添加する酸としては、特に限定しないが、セルロースを膨潤させる作用を有していることが好ましい。例えば、65重量%以上の硫酸(好ましくは、72重量%の硫酸)、85重量%以上のリン酸、35重量%以上の塩酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができる。好ましい酸は、85重量%以上(好ましくは95重量%以上)のリン酸、トリフルオロ酢酸、又はギ酸である。リグノセルロース系材料を出発原料とする場合における反応系からのリグノフェノールの効率的分離の観点からは硫酸を用いることが好ましい。
【0016】
リグノセルロース系材料中のリグニンを、リグノフェノール誘導体に変換し、分離する方法としては以下の3つの方法を挙げることができる。なお、これらの方法に限定されるものではない。
第1の方法は、特開平2−233701号公報に記載されている方法である。この方法は、木粉等のリグノセルロース系材料に液体状のフェノール誘導体(上記で説明したもの、例えば、p−クレゾール又は2,4−ジメチルフェノール)を浸透させ、リグニンをフェノール誘導体により溶媒和させ、次に、リグノセルロース系材料に濃酸(上記で説明したもの、例えば、72%硫酸)を添加し混合して、セルロース成分を溶解する。この方法によると、リグニンを溶媒和したフェノール誘導体と、セルロース成分を溶解した濃酸とが2相分離系を形成する。フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、フェノール誘導体相が濃酸相と接触する界面においてのみ、酸と接触され、反応が生じる。すなわち、酸との界面接触により生じたリグニン基本構成単位の高反応サイトである側鎖C1位(ベンジル位)のカチオンが、フェノール誘導体により攻撃される。その結果、前記C1位にフェノール誘導体がC−C結合で導入され、またベンジルアリールエーテル結合が開裂することにより低分子化される。これによりリグニンが低分子化され、同時にその基本構成単位のC1位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体がフェノール誘導体相に生成される。このフェノール誘導体相から、リグノフェノール誘導体が抽出される。一次誘導体は、リグニン中のベンジルアリールエーテル結合が開裂して低分子化されたリグニンの低分子化体の集合体として得られる。なお、ベンジル位へのフェノール誘導体の導入形態は、そのフェノール性水酸基を介して導入されているものもあることが知られている。
アリールプロパンユニットを有する天然リグニンに対して相分離処理を行うことにより、本発明における第一のユニットを有する一次誘導体が得られることを示す。
【0017】
フェノール誘導体相からの一次誘導体の抽出は、例えば、次の方法で行うことができる。すなわち、フェノール誘導体相を、大過剰のエチルエーテルに加えて得た沈殿物を集めて、アセトンに溶解する。アセトン不溶部を遠心分離により除去し、アセトン可溶部を濃縮する。このアセトン可溶部を、大過剰のエチルエーテルに滴下し、沈殿区分を集める。この沈殿区分から溶媒留去し、一次誘導体を得る。なお、粗一次誘導体は、フェノール誘導体相を単に減圧蒸留により除去することによって得られる。
【0018】
第2および第3の方法は、リグノセルロース系材料に、固体状あるいは液体状のフェノール誘導体(例えば、p−クレゾール又は2,4−ジメチルフェノールなど)を溶解した溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトン)を浸透させた後、溶媒を留去する(フェノール誘導体の収着工程)。次に、このリグノセルロース系材料に濃酸を添加してセルロース成分を溶解する。この結果、第1の方法と同様、フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、濃酸と接触して生じたリグニンの高反応サイト(側鎖C1位)のカチオンがフェノール誘導体により攻撃されて、フェノール誘導体が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が開裂してリグニンが低分子化される。得られる一次誘導体の特性は、第1の方法で得られるものと同様である。そして、第1の方法と同様にして、フェノール誘導体化されたリグノフェノール誘導体を液体フェノール誘導体にて抽出する。液体フェノール誘導体相からの一次誘導体の抽出も、第1の方法と同様にして行うことができる(これを第2の方法と称する)。あるいは、濃酸処理後の全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、脱酸後、乾燥する。この乾燥物にアセトンあるいはアルコールを加えてリグノフェノール誘導体を抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、一次誘導体を不溶区分として得る(これを第3の方法と称する)。以上、リグノフェノール誘導体の調製方法の具体例を説明したが、これらに限定されるわけではなく、これらに適宜改良を加えた方法で調製することもできる。
【0019】
このようにして、使用したフェノール誘導体のオルト位あるいはパラ位でリグニンのフェニルプロパンユニットのC1位に当該フェノール誘導体がグラフトされた、1,1−ビス(アリール)プロパンユニットを有するリグノフェノールを得ることができる。なお、得られるリグノフェノールにおいては、通常、フェノールがグラフトされていないアリールプロパンユニットも残存している。
【0020】
なお、フェノール誘導体の導入頻度は、導入しようとするフェノール誘導体の置換基の有無、位置、大きさ等によって変動する。したがって、導入頻度を調節することができる。特に、置換基の大きさによる立体障害によって導入頻度を容易に調節することができる。置換基を利用して導入位置などを制御しようとする場合、置換基として低級アルキル基を利用すると、炭素数や分枝形態によって容易に導入頻度を調節できる。置換基をメチル基とすると、導入頻度を高く維持して導入位置を制御できる。
【0021】
以下に、リグノセルロース系材料から得られるリグノフェノールの有する全体的、一般的性質を挙げる。ただし、本発明におけるリグノフェノールを、以下の性質を有するものに限定する趣旨ではない。
(1)重量平均分子量が約2000〜20000程度である。
(2)分子内に共役系をほとんど有さずその色調は極めて淡色である。典型的には淡いピンク系白色粉末である。
(3)針葉樹由来で約170℃、広葉樹由来で約130℃に固−液相転移点を有する。
(4)メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどに容易に溶解する。
本発明において用いる第1のポリマーの重量平均分子量は、樹種により異なるが、上記したように約2000〜約20000のものを用いることができる。
【0022】
(第2のポリマー)
第2のポリマーとしては、主鎖あるいは側鎖に、酸素原子、窒素原子及び水素原子のうちいずれか1種あるいは2種以上を有するポリマーを用いることができる。これらの原子を有するポリマーであると、前記第1のポリマーと共存するマトリックスにおいて、凝集などにより強度を確保することができる。
【0023】
本願発明を必ずしも拘束するものではないが、本発明者らによれば、当該強度向上は、第1のポリマーと第2のポリマーとの間における水素結合によるものであると考える。すなわち、本発明者らは、酸素原子、具体的にはカルボニル基を含有するアクリル酸系ポリマーとリグノフェノールとを混合したとき、これらが凝集して溶媒に対する溶解性が低下することを既に観察している。さらに、これらの配合物について赤外線吸収スペクトルを測定すると、リグノフェノールに対する当該アクリル酸系ポリマーの配合割合が増加するにつれ、カルボニル基の吸収ピークが低波数側にシフトした。カルボニル基が水素結合に関与すると低波数側に吸収がシフトすることが知られている。したがって、この結果は、リグノフェノールに対して当該アクリル酸系ポリマーを配合することで、水素結合が両者間で形成され、全体として水素結合が増大することがわかる。
一方、これらの配合物についてリグノフェノール由来及のガラス転移点と当該アクリル酸系ポリマーのガラス転移点を測定すると、リグノフェノールの配合量が増えるにつれ、当該アクリル酸系ポリマーのガラス転移点が上昇した。これは、リグノフェノールの配合により水素結合が少なくなることを示しており、上記したIR分析の結果と整合している。
【0024】
以上のことから、第2のポリマーとしては、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、イミド基、及びエーテル基からなる群から選択される1種あるいは2種以上の基を側鎖及び/又は主鎖に有するポリマーを用いることができる。特に、好ましくは、カルボニル基、エステル基、カルボキシル基である。
【0025】
かかる官能基を含有する単位を有するポリマーとしては、ポリケトン系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーを使用することができる。これらのポリマーは、ホモポリマーであっても、同系のモノマーのコポリマー、列挙したポリマーに包含される異種モノマーであって共重合が許容される異種モノマーのコポリマー、さらには、列挙されるポリマーに包含されるモノマーと、共重合が許容される前記列挙したポリマーに包含されないモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0026】
このような第2のポリマーの重量平均分子量は特に限定しないが、好ましくは約1,000〜約1,000,000である。1000未満であると、接着強度が得られず、1,000,000を超えると取り扱いが困難になるからである。より好ましくは、約5,000〜約500,000である。
【0027】
これらのポリマーにおいて、(メタ)アクリル酸系ポリマーを用いることが好ましい。このポリマーは、水性溶媒に対する溶解性あるいは分散性を容易に制御することができ、有機溶媒の使用を低減させることができる。当該ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸系モノマーのホモポリマー、コポリマーの他、異種のモノマーとのコポリマーとすることができる。
使用するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル以外の水酸基含有(メタ)アクリル酸ならびにそのエステル、(メタ)アクリル酸の炭素1〜10のヒドロキシアルキルエステル等を用いることができる。
【0028】
(メタ)アクリル酸のアルキルエステルのアルキル基としては、炭素数1〜8程度が好ましく、より好ましくは、炭素数1〜4である。また、アルキル基は、直鎖状アルキル基の他、分岐状アルキル基、環状アルキル基であってもよい。当該(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ターシャリーブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を用いることができる。
【0029】
グリシジル基含有(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸にグリシジル基含有官能基を備える(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。
(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル以外の水酸基含有(メタ)アクリル酸(以下、単に水酸基含有アクリル酸というものとする。)並びにそのエステルとしては、例えば、α位に水酸基含有官能基を有する(メタ)アクリル酸モノマーあるいはそのエステルを挙げることができる。水酸基含有官能基としては、水酸基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等を用いることができる。好ましくは、水酸基である。また、エステルの場合、エステルを構成するのはアルキル基等とすることができ、好ましくは、炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜4程度のアルキル基である。
【0030】
また、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルとしては、アルキル基が炭素数1〜12程度であることが好ましく、より好ましくは、炭素数が1〜4程度のアルキル基である。当該(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルを挙げることができる。
【0031】
(メタ)アクリル酸系ポリマーにおいては、(メタ)アクリル酸系モノマーとして上記したうち、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。水分散性を確保する観点からは、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー、あるいは水酸基含有アクリル酸あるいはそのエステルをモノマーとして配合することが好ましい。このような酸性モノマーを用いたポリマーを使用する場合、当該ポリマーの分散媒は、アルカリ性のものを用いることが好ましい。
また、(メタ)アクリル酸系ポリマーとしては、上記したモノマーの他、これらのモノマーと共重合が許容されるモノマー、例えば、酢酸ビニル、スチレン等のビニル基含有モノマーも用いることができる。
【0032】
第2のポリマーとして、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル及び(メタ)アクリル酸のうち1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーを好ましく用いることができる。
例えば、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステル(好ましくはメチルエステル)、(メタ)アクリル酸の炭素数5〜10のアルキルエステル(好ましくは、6〜8のアルキルエステル、さらに好ましくは、2−エチルヘキシルエステル)、及び(メタ)アクリル酸を組み合わせて用いることが好ましい。さらに、好ましくは、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸とを組み合わせて用いる。
かかるアクリル酸系コポリマーの場合、重量平均分子量が約5,000以上約500,000以下であることが好ましい。
【0033】
また、第2のポリマーとしては、α位に水酸基を含有するアクリル酸あるいはそのエステルのコポリマーあるいはホモポリマーを好ましく用いることができる。主体とするモノマーは、αヒドロキシ(メタ)アクリル酸モノマーであることが好ましく、より好ましくはα−ヒドロキシアクリル酸モノマーである。
かかるアクリル酸系ポリマーの場合、重量平均分子量が約5,000以上約500,000以下であることが好ましい。
【0034】
なお、上記した各種の第2のポリマーは、懸濁重合法、乳化重合法等の従来公知の各種重合法により合成することができる。また、上記各種モノマーは商業的入手が容易であるか、あるいは合成により容易に作製することができる。
【0035】
(組成物)
本組成物は、上記した第1のポリマーと第2のポリマーとを含有している。本組成においては、これらの2種類のポリマーを含有するため、当該組成物を公知の方法で適用対象に対して適用する場合、適用対象をよく濡らすことができる。すなわち、第1のポリマーは、アルコールを含む各種極性溶媒に対して高い溶解性を備えている。また、第2のポリマーは、適宜溶媒に対する溶解性を制御可能である。このため、容易にこれらのポリマーを含有するエマルジョンあるいは溶液を調製することができ、適用対象部位の形状によく密着し、追従させることができる。したがって、適用対象表面をよく被覆し、適用対象部位を充填することができる。また、特に、本組成物は、水系の分散媒によって分散可能であり、当該観点からも環境への負荷を容易に抑制することができる。
さらに、この組成物は、分散媒が蒸発するのに伴い、第1のポリマーと第2のポリマーとの相互作用が発揮され、凝集するようになる。このため、固化により、それぞれ単独の場合よりも高い強度を発現することができる。例えば、高い引張り剪断強度などの引張り強度を発現するようになる。
【0036】
本組成物が、適切な強度を発現するには、既に説明したように、第1のポリマーと第2のポリマーとの凝集力によるものである。したがって、これらのポリマーは、そのような凝集力を発揮する範囲で配合される。すなわち、それぞれの単独で発揮する引張りせん断強度などの強度よりも両者を含むことによりこれらの単独時の強度を超える強度を発現するように配合する。
このような配合比率は、使用する第1のポリマーと第2のポリマーとの組み合わせによっても異なるが、当該配合比率は、第1のポリマーと第2のポリマーとの配合比を変化させた組成物につき、JIS K6851の接着剤の木材引張りせん断接着強さ試験方法などの各種接着強さ試験方法を用いて、接着強度を測定することによって、容易に得ることができる。
【0037】
なお、第1のポリマーと第2のポリマーとの適切な組成は、第2のポリマーの種類によって大きく異なることが多い。多くの場合、組成物による強度発現は、第2のポリマーの強度が寄与しているからである。
例えば、第2のポリマーとして、既に好適な第2のポリマーとして例示した、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル及び(メタ)アクリル酸のうち1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーを用いた場合、第1のポリマー100重量部に対して、第2のポリマーは約70重量部以上140重量部以下であることが好ましい。70重量部未満であると、単独の当該ポリマーよりも高い強度を発現できず、また、同様に140重量部を超えても、単独の強度を下回る。より好ましくは、下限は約80重量部であり、さらに好ましくは、約90重量部である。また、上限は、好ましくは、約120重量部以下であり、さらに好ましくは約110重量部以下である。好ましい範囲としては、約90重量部以上約110重量部以下である。最も好ましくは、約100重量部である。このようなポリマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸からなるモノマー群を用いることができる。
【0038】
また、例えば、第2のポリマーとして、既に好適な第2のポリマーとして例示した、α位に水酸基を含有するアクリル酸あるいはそのエステルのコポリマーあるいはホモポリマー(典型的には、ポリα−ヒドロキシアクリル酸(ナトリウム塩))を用いた場合、第1のポリマー100重量部に対して、第2のポリマーは約90重量部以上含有することが好ましい。90重量部未満であると、当該第2のポリマー単独の強度を下回る強度になる傾向にある。好ましくは、約100重量部以上であり、さらに好ましくは約120重量部以上である。また、上限は、好ましくは、約3000重量部以下であり、より好ましくは、約600重量部以下であり、さらに好ましくは約300重量部以下である。好ましい範囲としては、約100重量部以上約170重量部以下である。
【0039】
本組成物を適用対象に対して適用するには、例えば、適当な分散媒等を選択して、両者の相互作用による凝集を抑制するような分散状態あるいは溶解状態のエマルジョンあるいは溶液を調製することができる。当該分散媒あるいは溶媒としては、特に限定しないが、水、無機アルカリあるいは有機アルカリを用いたアルカリ溶液、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドを単独で、あるいはこれらのうち2種以上の混液を用いることができる。好ましくは、水、アルカリ溶液、エタノール、アセトン、及びこれらの混液などを用いる。さらに好ましくは、水、アルカリ溶液、アセトンを用いる。特に、水、水溶液、あるいはこれらを含む分散媒を用いることにより、適用対象が、セルロース系材料あるいはリグノセルロース系材料を含むなど親水性ないし吸水性の場合には、水の浸透に伴い、これらのポリマーが適用対象の内部に移動し、移動した部位にてアンカー効果を発現させることができる。
なお、必要に応じて、本組成物は、エマルジョン型あるいは溶液型組成物とする他、他の形態、例えば、メルト、粒子形態などとすることができる。メルトないし粒子形態の場合、使用時に懸濁ないし溶解させるようにすることが好ましい。
【0040】
本組成物を適用対象に対して適用するには、特に手法を限定することなく、塗布、噴霧、ディッピング、含浸等の各種手法を、適用対象に応じてあるいは用途に応じて適宜選択して採用する。
本発明の組成物は、適用対象に対して適用後、分散媒等の蒸発に伴い両者の相互作用を発現させることにより、高い強度のマトリックスを構成する。分散媒等の蒸発は、必要に応じて、自然乾燥の他、強制乾燥とすることができる。
【0041】
本組成物は、上記したことから、各種用途に使用することができる。典型的には、接着剤として使用できる他、充填剤、補修剤、コーティング剤等として使用することができる。
接着剤としては、合板用、木工用、包装用、建築用、家庭用の各種接着剤として用いることができる。特に、本発明の組成物は、リグニン由来である第1のポリマーを含有しているため、セルロース材料あるいはリグノセルロース材料を含む被着体を適用対象とする接着剤として好ましい。接着剤として用いる場合、必要に応じて、セルロース誘導体などの水溶性高分子を増粘剤として添加することができる。また、充てん剤、溶剤、顔料、防腐剤、消泡剤なども配合することができる。
なお、充填剤、補修剤、コーティング剤等として使用する場合にも、増粘剤、充てん剤、溶剤、顔料、防腐剤、消泡剤などを適宜配合することができる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を具体例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(試験例1)
ブナ由来リグノフェノールの調製
ブナの木粉(リグノセルロース系材料)の脱脂試料の約10gを、500ml容ビーカーにとり、p−クレゾールのアセトン溶液(リグニンC9単位当たり3モル倍量のフェノール誘導体を含む)を加え、ガラス棒で撹拌し、アルミホイルおよびパラフィルムでビーカーに蓋をし、24時間静置させた。その後、ドラフト内で木粉を激しく撹拌し、アセトンを完全に留去して、p−クレゾール収着木粉を得た。
この木粉に対して、72wt%硫酸100mlを加え、30℃で、1時間激しく撹拌した後、混合物を大過剰の水に投入、不溶解区分を遠心分離(3500rpm、10分、25℃)にて回収、脱酸し、凍結乾燥して、p−クレゾールにより誘導体化した試料1のリグノフェノール(以下、ヒノキ由来リグノクレゾールという。)を得た。
【0043】
(試験例2〜4)
ヒノキ由来リグノフェノールの調製
ヒノキの木粉(リグノセルロース系材料)の脱脂試料の約10gを、500ml容ビーカーにとり、p−クレゾール、レゾルシノール、カテコールの3種類のフェノール誘導体のアセトン溶液(それぞれ、リグニンC9単位当たり3モル倍量のフェノール誘導体を含む)を加え、ガラス棒で撹拌し、アルミホイルおよびパラフィルムでビーカーに蓋をし、24時間静置させた。その後、ドラフト内で木粉を激しく撹拌し、アセトンを完全に留去して、p−クレゾール収着木粉、レゾルシノール収着木粉、カテコール収着木粉をそれぞれ得た。
これらの木粉に対して、72wt%硫酸100mlを加え、30℃で、1時間激しく撹拌した後、混合物を大過剰の水に投入、不溶解区分を遠心分離(3500rpm、10分、25℃)にて回収、脱酸し、凍結乾燥して、p−クレゾール、レゾルシノール、カテコールにより誘導体化した試料2〜4のリグノフェノール(以下、それぞれ、ヒノキ由来リグノクレゾール、ヒノキ由来リグノレゾルシノール、ヒノキ由来リグノカテコールという。)を得た。
【0044】
(実施例1〜14)
組成物の調製
試験例1〜4において得られた4種類のリグノフェノールをそれぞれ第1のポリマーとし、表1に示す配合に基づいて、14種類の組成物を調製した。第2のポリマーとして、実施例1〜5においては、ポリ(メタ)アクリル酸系コポリマーを用いた。このポリ(メタ)アクリル酸系コポリマーは、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸をモノマーとして用いて重合して調製した。重量平均分子量は約10000、固形のフレーク状で、固形分は98%以上であった。また、実施例6〜14では、第2のポリマーとして、ポリα−ヒドロキシアクリル酸(ナトリウム塩)(日本パーオキサイド(株)製ペールプラック(ペールプラックは登録商標である)5000)を用いた。なお、当該ポリα−ヒドロキシアクリル酸は、以下の物性及び性状を備えていた。
重量平均分子量:30000〜70000
外観:水溶液
色調:淡黄色
固形分:30%
pH:9〜11
凝固点:−5℃
粘度(20℃):600〜800mPa・s
【0045】
なお、比較例として、試験例1で調製したブナ由来リグノクレゾール、ポリ(メタ)アクリル酸系コポリマー及びポリα−ヒドロキシアクリル酸(ナトリウム塩)を用いて、表2に示す配合で比較例1〜10の組成物を調製した。
【0046】
ポリ(メタ)アクリル酸系コポリマーを含有する実施例及び比較例の組成物にあっては、表1及び表2に示す所定の比率で両者の総重量が0.5gとなるように量り取り、ナスフラスコに入れて、アセトン10mlを加えて溶解させ、均一な溶液とした後、エバポレータで全体の重量が1g(アセトン残量は約0.5gとなる)となるまでアセトンをアスピレーターで減圧留去した。また、留去後のアセトンの重量を測定した。なお、留去後の溶液は、2層に分離しているが、スパチュラで攪拌して均一な状態を保って、後述する強度試験に供した。
また、ポリα−ヒドロキシアクリル酸は、入手した状態のものをそのまま用い、表1及び表2に示す所定の比率となるように配合し、密閉した状態で攪拌子を用いて約3時間攪拌した。得られたエマルジョンを、そのまま後述する強度試験に供した。
【0047】
(引張り剪断強度試験)
これら実施例1〜14の組成物及び比較例1〜10の組成物につき、JIS K
6851 接着剤の木材引張りせん断接着強さ試験方法の引張り剪断強度試験に準じて試験を行い、各組成物の引張り剪断強度を評価した。
結果を併せて、表1及び2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1に示すように、実施例1〜5の組成物と、これらの組成物に含まれる第1のポリマー単独組成物である比較例1及び第2のポリマーの単独組成物である比較例2とを対比すると、実施例1〜5の組成物は、いずれも、これらの単独組成物の強度よりも高い引張りせん断強度を示している。また、比較例1及び2の組成物の引張りせん断強度と比較例4〜7の組成物のそれとを対比してみると、比較例4〜7の組成物においては、強度発現に至る程度に凝集力が発生していないと考えることができる。以上のことから、実施例1〜5の組成物は、第1のポリマーと第2のポリマーとが凝集力を発現できる範囲内で配合されていることがわかる。同時に、このような配合を容易に実現可能であることもわかる。
【0051】
また、実施例6〜14の組成物と、これらの組成物に含まれる第1のポリマー単独組成物である比較例1及び第2のポリマーの単独組成物である比較例3とを対比すると、実施例6〜14の組成物は、いずれも、これらの単独組成物の強度よりも高い引張りせん断強度を示している。また、比較例1及び3の組成物の引張りせん断強度と比較例8〜10の組成物のそれとを対比してみると、比較例8〜10の組成物においては、強度発現に至る程度に凝集力が発生していないと考えることができる。以上のことから、実施例6〜14の組成物は、第1のポリマーと第2のポリマーとが凝集力を発現できる範囲内で配合されていることがわかる。同時に、このような配合を容易に実現可能であることもわかる。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、第1のポリマーと第2のポリマーとを共存させた固形マトリックスにおいて、両者の相互作用により高い強度を発現させることができ、しかも環境への負荷を低減できる組成物を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリフェノールと他のポリマーとの複合樹脂組成物に関し、特に、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系物質に酸を添加し、混合して得られるポリフェノールと、その他のポリマーとを含有するポリフェノール系組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、木工用接着剤等の各種用途の接着剤として酢酸ビニル樹脂系エマルジョンが広く用いられている。一般に、このエマルジョンは成膜温度が高い。このため、多くの場合、フタル酸エステル類など可塑剤や有機溶剤などの揮発性を有する成膜補助剤を添加して成膜温度を低下させて、常温でも均一な皮膜を形成させるようにする必要がある。
これらの成膜補助剤は、近年、環境に対して何らかの影響を有する可能性があるとして、できるだけその使用を回避あるいは使用量を抑制しようとする傾向にある。このため、新たな成膜補助剤の検討が試みられている。
【0003】
一方、天然材料であるリグノセルロース系材料に由来するポリフェノールが知られている。このポリフェノールは、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系材料に酸を添加することにより得ることができる(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。
このポリフェノールは、それ自体粘結性を有しており、セルロース系成形材料に添加することによりバインダーとして機能して成形体を構成することができる(例えば、特許文献2参照。)。また、このポリフェノールのアセチル化体がポリエステルに対して可塑剤様として作用することも知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開平2−233701号公報
【特許文献2】
特開平9−278904号公報
【特許文献3】
特開2001−64494号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、酢酸ビニル系エマルジョン型接着剤に適合し、安全性が高く、しかも成膜温度を適切に低下させるような成膜補助剤を見出すことは困難であった。また、上述のポリフェノールはいわゆる接着剤としては未だ用いられておらず、接着剤組成物としての具体的構成については検討されていない。
そこで、本発明では、環境への負荷を低減できて、しかも適切な強度を発現できる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決する組成物を新たに構築するため、種々の樹脂成分を探索、検討した。その結果、上記したポリフェノールとポリアクリル酸とが共存するマトリックスが成膜できること及び両者間にマトリックスの強度を向上させる相互作用が存在することを見出し、さらに、これを利用して上記した課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0007】
(1)フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系材料に酸を添加し混合して得られるポリフェノール系材料から選択される1種あるいは2種以上の第1のポリマーと、
主鎖あるいは側鎖に、酸素原子、窒素原子及び水素原子のうちいずれか1種あるいは2種以上を有する、1種あるいは2種以上の第2のポリマー、
とを含有し、
前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとを含むマトリックスが、それぞれのポリマーを単独で含有するマトリックスよりも高い強度を発現可能にする組成物。
(2)前記第2のポリマーは、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、イミド基、及びエーテル基からなる群から選択される1種あるいは2種以上の基を側鎖及び/又は主鎖に有するポリマーである、(1)記載の組成物。
(3)前記第2のポリマーは、ポリケトン系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーからなる群から選択される1種あるいは2種以上のポリマーである、(1)記載の組成物。
(4)前記第2のポリマーは、(メタ)アクリル酸系ポリマーである、(1)記載の組成物。
(5)前記第2のポリマーは、(メタ)アクリル酸及びその炭素数1〜10のアルキルエステル、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル以外の水酸基含有(メタ)アクリル酸ならびにそのエステル、及び(メタ)アクリル酸の炭素1〜10のヒドロキシアルキルエステルからなる群から選択される1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーである、(4)記載の組成物。
(6)前記第2のポリマーは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル及び(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーである、(4)に記載の組成物。
(7)前記第2のポリマーは、α−ヒドロキシアクリル酸を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーである、(4)に記載の組成物。
(8)前記組成物は、水を含む分散媒を含有する、(1)〜(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)接着剤である、(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)セルロース系材料あるいはリグノセルロース系材料を含む被着体を適用対象とする接着剤である、(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の組成物は、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系材料に酸を添加し混合して得られるポリフェノール系材料及びその誘導体から選択される1種あるいは2種以上の第1のポリマーと、主鎖あるいは側鎖に、酸素原子、窒素原子及び水素原子のうちいずれか1種あるいは2種以上を有し、前記第1のポリマーと相互作用を発現する1種あるいは2種以上の第2のポリマーとを含有することを特徴とする。
また、本発明の組成物は、前記第1のポリマーと、ポリ(メタ)アクリル酸系ポリマーである第2のポリマー、とを含有することを特徴とする。
本発明の組成物は、揮発性を有する可塑剤を用いることなく適用する表面を被覆し膜を形成できる。このため、環境への負荷を小さくできる。また、得られた膜(相)において適切な強度を発現させることができる。このため、当該相を接着用、充填用、耐水、耐候等の保護や装飾のための被覆用等の各種用途への適用が可能となっている。特に、本組成物は、木工用接着剤を始めとして各種接着剤組成物として有用な他、充填剤、コーティング剤等の用途の組成物として用いることができる。
【0009】
(第1のポリマー)
第1のポリマーは、フェノール誘導体のフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位の炭素原子が、リグニンのフェニルプロパンユニットのベンジル位(側鎖C1位)の炭素原子に結合した1,1−ビス(アリール)プロパンユニットを有するポリフェノール系材料(以下、このポリフェノールをリグノフェノールという。)である。使用するフェノール誘導体の種類に応じて、前記ユニット中のフェノール誘導体が変化し、リグノフェノールの種類が異なることになる。また、リグニンはフェニルプロパンユニットを主体とするが、そのユニット組成や結合様式は、植物によって異なるのが一般的である。したがって、基本的には、出発原料となるリグニン含有材料の種類によっても、リグノフェノールの種類は相違することになる。
リグノフェノールは、通常、所定のフェノール誘導体が添加されたリグニン含有材料好ましくはリグノセルロース系材料を酸に接触させることにより得ることができる。なお、リグノフェノールに関するより一般的な記載及びその製造プロセスについては、既に、特開平2−23701号公報、特開平9−278904号公報及び国際公開WO99/14223号公報、2001−64494号公報、2001−261839号公報、2001−131201号公報、2001−34233号公報において記載されている。
【0010】
以下、このリグノフェノールの製造プロセスについて説明する。
本製造プロセスは、特に、リグノセルロース系材料を予めフェノール誘導体で溶媒和、あるいはフェノール誘導体をリグノセルロース系材料に収着させた上で、当該リグノセルロース系材料を酸と接触させることにより、リグノセルロースの複合状態を緩和させ、同時に、天然リグニンのアリールプロパンユニットのC1位(ベンジル位)に選択的に前記フェノール誘導体をグラフティングさせて、リグノフェノールを生成させ、同時にセルロースとリグノフェノールとに分離し、リグノフェノールを得る方法である。
リグノフェノールは、リグニンのアリールプロパンユニットのC1位に、フェノール誘導体がC−C結合で導入された1,1−ビス(アリール)プロパン単位を含む重合体を意味するものである。リグノフェノール体は、それ自体、リグノセルロース系材料から反応、分離して得られるリグニン由来のポリマーの混合物であり、また、得られるポリマーにおける導入フェノール誘導体の量や分子量は、原料となるリグノセルロース系材料および反応条件により変動する。
【0011】
なお、本発明で用いる「リグノセルロース系材料」とは、木質化した材料、主として木材である各種材料、例えば、木粉、チップの他、廃材、端材、古紙などの木材資源に付随する農産廃棄物や工業廃棄物を挙げることができる。また用いる木材の種類としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用するこができる。針葉樹としては、典型的には、ヒノキ、マツなどがある。広葉樹としては、典型的には、ブナ、ナラ、カバなどがある。さらに、各種草本植物、それに関連する農産廃棄物や工業廃棄物なども使用できる。
【0012】
リグノセルロース系物質を溶媒和あるいはリグノセルロース系材料に収着させるフェノール誘導体としては、1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体、または3価のフェノール誘導体などを用いることができる。
1価のフェノール誘導体の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいフェノール、1以上の置換基を有していてもよいナフトール、1以上の置換基を有していてもよいアントロール、1以上の置換基を有していてもよいアントロキノンオールなどが挙げられる。
2価のフェノール誘導体の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいカテコール、1以上の置換基を有していてもよいレゾルシノール、1以上の置換基を有していてもよいヒドロキノンなどが挙げられる。
3価のフェノール誘導体の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいピロガロールなどが挙げられる。
本発明においては1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体及び3価のフェノール誘導体のうち、1種あるいは2種以上を用いることができる。高い導入効率を得る観点からは、1価のフェノール誘導体を用いることができる。また、高い凝集力を発現させようとする場合には、2価以上のフェノール誘導体を用いることが好ましい。
【0013】
1価から3価のフェノール誘導体が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよいが、好ましくは、電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、炭素数が1〜4、好ましくは炭素数が1〜3の低級アルキル基含有置換基である。低級アルキル基含有置換基としては、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)である。また、アリール基(フェニル基など)の芳香族系の置換基を有していてもよい。また、水酸基含有置換基であってもよい。
【0014】
以上のことから、使用するフェノール誘導体の好ましい具体例としては、o−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール、2,6−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2−メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6−ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられる。
特に、p−クレゾール、m−クレゾール、レゾルシノール、及びカテコールを好ましく用いることができる。強度発現の観点からは、レゾルシノール、カテコールなど2個以上の水酸基を有するフェノール誘導体を用いることが好ましい。
【0015】
リグノセルロース系材料に添加する酸としては、特に限定しないが、セルロースを膨潤させる作用を有していることが好ましい。例えば、65重量%以上の硫酸(好ましくは、72重量%の硫酸)、85重量%以上のリン酸、35重量%以上の塩酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができる。好ましい酸は、85重量%以上(好ましくは95重量%以上)のリン酸、トリフルオロ酢酸、又はギ酸である。リグノセルロース系材料を出発原料とする場合における反応系からのリグノフェノールの効率的分離の観点からは硫酸を用いることが好ましい。
【0016】
リグノセルロース系材料中のリグニンを、リグノフェノール誘導体に変換し、分離する方法としては以下の3つの方法を挙げることができる。なお、これらの方法に限定されるものではない。
第1の方法は、特開平2−233701号公報に記載されている方法である。この方法は、木粉等のリグノセルロース系材料に液体状のフェノール誘導体(上記で説明したもの、例えば、p−クレゾール又は2,4−ジメチルフェノール)を浸透させ、リグニンをフェノール誘導体により溶媒和させ、次に、リグノセルロース系材料に濃酸(上記で説明したもの、例えば、72%硫酸)を添加し混合して、セルロース成分を溶解する。この方法によると、リグニンを溶媒和したフェノール誘導体と、セルロース成分を溶解した濃酸とが2相分離系を形成する。フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、フェノール誘導体相が濃酸相と接触する界面においてのみ、酸と接触され、反応が生じる。すなわち、酸との界面接触により生じたリグニン基本構成単位の高反応サイトである側鎖C1位(ベンジル位)のカチオンが、フェノール誘導体により攻撃される。その結果、前記C1位にフェノール誘導体がC−C結合で導入され、またベンジルアリールエーテル結合が開裂することにより低分子化される。これによりリグニンが低分子化され、同時にその基本構成単位のC1位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体がフェノール誘導体相に生成される。このフェノール誘導体相から、リグノフェノール誘導体が抽出される。一次誘導体は、リグニン中のベンジルアリールエーテル結合が開裂して低分子化されたリグニンの低分子化体の集合体として得られる。なお、ベンジル位へのフェノール誘導体の導入形態は、そのフェノール性水酸基を介して導入されているものもあることが知られている。
アリールプロパンユニットを有する天然リグニンに対して相分離処理を行うことにより、本発明における第一のユニットを有する一次誘導体が得られることを示す。
【0017】
フェノール誘導体相からの一次誘導体の抽出は、例えば、次の方法で行うことができる。すなわち、フェノール誘導体相を、大過剰のエチルエーテルに加えて得た沈殿物を集めて、アセトンに溶解する。アセトン不溶部を遠心分離により除去し、アセトン可溶部を濃縮する。このアセトン可溶部を、大過剰のエチルエーテルに滴下し、沈殿区分を集める。この沈殿区分から溶媒留去し、一次誘導体を得る。なお、粗一次誘導体は、フェノール誘導体相を単に減圧蒸留により除去することによって得られる。
【0018】
第2および第3の方法は、リグノセルロース系材料に、固体状あるいは液体状のフェノール誘導体(例えば、p−クレゾール又は2,4−ジメチルフェノールなど)を溶解した溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトン)を浸透させた後、溶媒を留去する(フェノール誘導体の収着工程)。次に、このリグノセルロース系材料に濃酸を添加してセルロース成分を溶解する。この結果、第1の方法と同様、フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、濃酸と接触して生じたリグニンの高反応サイト(側鎖C1位)のカチオンがフェノール誘導体により攻撃されて、フェノール誘導体が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が開裂してリグニンが低分子化される。得られる一次誘導体の特性は、第1の方法で得られるものと同様である。そして、第1の方法と同様にして、フェノール誘導体化されたリグノフェノール誘導体を液体フェノール誘導体にて抽出する。液体フェノール誘導体相からの一次誘導体の抽出も、第1の方法と同様にして行うことができる(これを第2の方法と称する)。あるいは、濃酸処理後の全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、脱酸後、乾燥する。この乾燥物にアセトンあるいはアルコールを加えてリグノフェノール誘導体を抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、一次誘導体を不溶区分として得る(これを第3の方法と称する)。以上、リグノフェノール誘導体の調製方法の具体例を説明したが、これらに限定されるわけではなく、これらに適宜改良を加えた方法で調製することもできる。
【0019】
このようにして、使用したフェノール誘導体のオルト位あるいはパラ位でリグニンのフェニルプロパンユニットのC1位に当該フェノール誘導体がグラフトされた、1,1−ビス(アリール)プロパンユニットを有するリグノフェノールを得ることができる。なお、得られるリグノフェノールにおいては、通常、フェノールがグラフトされていないアリールプロパンユニットも残存している。
【0020】
なお、フェノール誘導体の導入頻度は、導入しようとするフェノール誘導体の置換基の有無、位置、大きさ等によって変動する。したがって、導入頻度を調節することができる。特に、置換基の大きさによる立体障害によって導入頻度を容易に調節することができる。置換基を利用して導入位置などを制御しようとする場合、置換基として低級アルキル基を利用すると、炭素数や分枝形態によって容易に導入頻度を調節できる。置換基をメチル基とすると、導入頻度を高く維持して導入位置を制御できる。
【0021】
以下に、リグノセルロース系材料から得られるリグノフェノールの有する全体的、一般的性質を挙げる。ただし、本発明におけるリグノフェノールを、以下の性質を有するものに限定する趣旨ではない。
(1)重量平均分子量が約2000〜20000程度である。
(2)分子内に共役系をほとんど有さずその色調は極めて淡色である。典型的には淡いピンク系白色粉末である。
(3)針葉樹由来で約170℃、広葉樹由来で約130℃に固−液相転移点を有する。
(4)メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどに容易に溶解する。
本発明において用いる第1のポリマーの重量平均分子量は、樹種により異なるが、上記したように約2000〜約20000のものを用いることができる。
【0022】
(第2のポリマー)
第2のポリマーとしては、主鎖あるいは側鎖に、酸素原子、窒素原子及び水素原子のうちいずれか1種あるいは2種以上を有するポリマーを用いることができる。これらの原子を有するポリマーであると、前記第1のポリマーと共存するマトリックスにおいて、凝集などにより強度を確保することができる。
【0023】
本願発明を必ずしも拘束するものではないが、本発明者らによれば、当該強度向上は、第1のポリマーと第2のポリマーとの間における水素結合によるものであると考える。すなわち、本発明者らは、酸素原子、具体的にはカルボニル基を含有するアクリル酸系ポリマーとリグノフェノールとを混合したとき、これらが凝集して溶媒に対する溶解性が低下することを既に観察している。さらに、これらの配合物について赤外線吸収スペクトルを測定すると、リグノフェノールに対する当該アクリル酸系ポリマーの配合割合が増加するにつれ、カルボニル基の吸収ピークが低波数側にシフトした。カルボニル基が水素結合に関与すると低波数側に吸収がシフトすることが知られている。したがって、この結果は、リグノフェノールに対して当該アクリル酸系ポリマーを配合することで、水素結合が両者間で形成され、全体として水素結合が増大することがわかる。
一方、これらの配合物についてリグノフェノール由来及のガラス転移点と当該アクリル酸系ポリマーのガラス転移点を測定すると、リグノフェノールの配合量が増えるにつれ、当該アクリル酸系ポリマーのガラス転移点が上昇した。これは、リグノフェノールの配合により水素結合が少なくなることを示しており、上記したIR分析の結果と整合している。
【0024】
以上のことから、第2のポリマーとしては、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、イミド基、及びエーテル基からなる群から選択される1種あるいは2種以上の基を側鎖及び/又は主鎖に有するポリマーを用いることができる。特に、好ましくは、カルボニル基、エステル基、カルボキシル基である。
【0025】
かかる官能基を含有する単位を有するポリマーとしては、ポリケトン系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーを使用することができる。これらのポリマーは、ホモポリマーであっても、同系のモノマーのコポリマー、列挙したポリマーに包含される異種モノマーであって共重合が許容される異種モノマーのコポリマー、さらには、列挙されるポリマーに包含されるモノマーと、共重合が許容される前記列挙したポリマーに包含されないモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0026】
このような第2のポリマーの重量平均分子量は特に限定しないが、好ましくは約1,000〜約1,000,000である。1000未満であると、接着強度が得られず、1,000,000を超えると取り扱いが困難になるからである。より好ましくは、約5,000〜約500,000である。
【0027】
これらのポリマーにおいて、(メタ)アクリル酸系ポリマーを用いることが好ましい。このポリマーは、水性溶媒に対する溶解性あるいは分散性を容易に制御することができ、有機溶媒の使用を低減させることができる。当該ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸系モノマーのホモポリマー、コポリマーの他、異種のモノマーとのコポリマーとすることができる。
使用するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル以外の水酸基含有(メタ)アクリル酸ならびにそのエステル、(メタ)アクリル酸の炭素1〜10のヒドロキシアルキルエステル等を用いることができる。
【0028】
(メタ)アクリル酸のアルキルエステルのアルキル基としては、炭素数1〜8程度が好ましく、より好ましくは、炭素数1〜4である。また、アルキル基は、直鎖状アルキル基の他、分岐状アルキル基、環状アルキル基であってもよい。当該(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ターシャリーブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を用いることができる。
【0029】
グリシジル基含有(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸にグリシジル基含有官能基を備える(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。
(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル以外の水酸基含有(メタ)アクリル酸(以下、単に水酸基含有アクリル酸というものとする。)並びにそのエステルとしては、例えば、α位に水酸基含有官能基を有する(メタ)アクリル酸モノマーあるいはそのエステルを挙げることができる。水酸基含有官能基としては、水酸基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等を用いることができる。好ましくは、水酸基である。また、エステルの場合、エステルを構成するのはアルキル基等とすることができ、好ましくは、炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜4程度のアルキル基である。
【0030】
また、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルとしては、アルキル基が炭素数1〜12程度であることが好ましく、より好ましくは、炭素数が1〜4程度のアルキル基である。当該(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルを挙げることができる。
【0031】
(メタ)アクリル酸系ポリマーにおいては、(メタ)アクリル酸系モノマーとして上記したうち、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。水分散性を確保する観点からは、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー、あるいは水酸基含有アクリル酸あるいはそのエステルをモノマーとして配合することが好ましい。このような酸性モノマーを用いたポリマーを使用する場合、当該ポリマーの分散媒は、アルカリ性のものを用いることが好ましい。
また、(メタ)アクリル酸系ポリマーとしては、上記したモノマーの他、これらのモノマーと共重合が許容されるモノマー、例えば、酢酸ビニル、スチレン等のビニル基含有モノマーも用いることができる。
【0032】
第2のポリマーとして、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル及び(メタ)アクリル酸のうち1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーを好ましく用いることができる。
例えば、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステル(好ましくはメチルエステル)、(メタ)アクリル酸の炭素数5〜10のアルキルエステル(好ましくは、6〜8のアルキルエステル、さらに好ましくは、2−エチルヘキシルエステル)、及び(メタ)アクリル酸を組み合わせて用いることが好ましい。さらに、好ましくは、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸とを組み合わせて用いる。
かかるアクリル酸系コポリマーの場合、重量平均分子量が約5,000以上約500,000以下であることが好ましい。
【0033】
また、第2のポリマーとしては、α位に水酸基を含有するアクリル酸あるいはそのエステルのコポリマーあるいはホモポリマーを好ましく用いることができる。主体とするモノマーは、αヒドロキシ(メタ)アクリル酸モノマーであることが好ましく、より好ましくはα−ヒドロキシアクリル酸モノマーである。
かかるアクリル酸系ポリマーの場合、重量平均分子量が約5,000以上約500,000以下であることが好ましい。
【0034】
なお、上記した各種の第2のポリマーは、懸濁重合法、乳化重合法等の従来公知の各種重合法により合成することができる。また、上記各種モノマーは商業的入手が容易であるか、あるいは合成により容易に作製することができる。
【0035】
(組成物)
本組成物は、上記した第1のポリマーと第2のポリマーとを含有している。本組成においては、これらの2種類のポリマーを含有するため、当該組成物を公知の方法で適用対象に対して適用する場合、適用対象をよく濡らすことができる。すなわち、第1のポリマーは、アルコールを含む各種極性溶媒に対して高い溶解性を備えている。また、第2のポリマーは、適宜溶媒に対する溶解性を制御可能である。このため、容易にこれらのポリマーを含有するエマルジョンあるいは溶液を調製することができ、適用対象部位の形状によく密着し、追従させることができる。したがって、適用対象表面をよく被覆し、適用対象部位を充填することができる。また、特に、本組成物は、水系の分散媒によって分散可能であり、当該観点からも環境への負荷を容易に抑制することができる。
さらに、この組成物は、分散媒が蒸発するのに伴い、第1のポリマーと第2のポリマーとの相互作用が発揮され、凝集するようになる。このため、固化により、それぞれ単独の場合よりも高い強度を発現することができる。例えば、高い引張り剪断強度などの引張り強度を発現するようになる。
【0036】
本組成物が、適切な強度を発現するには、既に説明したように、第1のポリマーと第2のポリマーとの凝集力によるものである。したがって、これらのポリマーは、そのような凝集力を発揮する範囲で配合される。すなわち、それぞれの単独で発揮する引張りせん断強度などの強度よりも両者を含むことによりこれらの単独時の強度を超える強度を発現するように配合する。
このような配合比率は、使用する第1のポリマーと第2のポリマーとの組み合わせによっても異なるが、当該配合比率は、第1のポリマーと第2のポリマーとの配合比を変化させた組成物につき、JIS K6851の接着剤の木材引張りせん断接着強さ試験方法などの各種接着強さ試験方法を用いて、接着強度を測定することによって、容易に得ることができる。
【0037】
なお、第1のポリマーと第2のポリマーとの適切な組成は、第2のポリマーの種類によって大きく異なることが多い。多くの場合、組成物による強度発現は、第2のポリマーの強度が寄与しているからである。
例えば、第2のポリマーとして、既に好適な第2のポリマーとして例示した、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル及び(メタ)アクリル酸のうち1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーを用いた場合、第1のポリマー100重量部に対して、第2のポリマーは約70重量部以上140重量部以下であることが好ましい。70重量部未満であると、単独の当該ポリマーよりも高い強度を発現できず、また、同様に140重量部を超えても、単独の強度を下回る。より好ましくは、下限は約80重量部であり、さらに好ましくは、約90重量部である。また、上限は、好ましくは、約120重量部以下であり、さらに好ましくは約110重量部以下である。好ましい範囲としては、約90重量部以上約110重量部以下である。最も好ましくは、約100重量部である。このようなポリマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸からなるモノマー群を用いることができる。
【0038】
また、例えば、第2のポリマーとして、既に好適な第2のポリマーとして例示した、α位に水酸基を含有するアクリル酸あるいはそのエステルのコポリマーあるいはホモポリマー(典型的には、ポリα−ヒドロキシアクリル酸(ナトリウム塩))を用いた場合、第1のポリマー100重量部に対して、第2のポリマーは約90重量部以上含有することが好ましい。90重量部未満であると、当該第2のポリマー単独の強度を下回る強度になる傾向にある。好ましくは、約100重量部以上であり、さらに好ましくは約120重量部以上である。また、上限は、好ましくは、約3000重量部以下であり、より好ましくは、約600重量部以下であり、さらに好ましくは約300重量部以下である。好ましい範囲としては、約100重量部以上約170重量部以下である。
【0039】
本組成物を適用対象に対して適用するには、例えば、適当な分散媒等を選択して、両者の相互作用による凝集を抑制するような分散状態あるいは溶解状態のエマルジョンあるいは溶液を調製することができる。当該分散媒あるいは溶媒としては、特に限定しないが、水、無機アルカリあるいは有機アルカリを用いたアルカリ溶液、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドを単独で、あるいはこれらのうち2種以上の混液を用いることができる。好ましくは、水、アルカリ溶液、エタノール、アセトン、及びこれらの混液などを用いる。さらに好ましくは、水、アルカリ溶液、アセトンを用いる。特に、水、水溶液、あるいはこれらを含む分散媒を用いることにより、適用対象が、セルロース系材料あるいはリグノセルロース系材料を含むなど親水性ないし吸水性の場合には、水の浸透に伴い、これらのポリマーが適用対象の内部に移動し、移動した部位にてアンカー効果を発現させることができる。
なお、必要に応じて、本組成物は、エマルジョン型あるいは溶液型組成物とする他、他の形態、例えば、メルト、粒子形態などとすることができる。メルトないし粒子形態の場合、使用時に懸濁ないし溶解させるようにすることが好ましい。
【0040】
本組成物を適用対象に対して適用するには、特に手法を限定することなく、塗布、噴霧、ディッピング、含浸等の各種手法を、適用対象に応じてあるいは用途に応じて適宜選択して採用する。
本発明の組成物は、適用対象に対して適用後、分散媒等の蒸発に伴い両者の相互作用を発現させることにより、高い強度のマトリックスを構成する。分散媒等の蒸発は、必要に応じて、自然乾燥の他、強制乾燥とすることができる。
【0041】
本組成物は、上記したことから、各種用途に使用することができる。典型的には、接着剤として使用できる他、充填剤、補修剤、コーティング剤等として使用することができる。
接着剤としては、合板用、木工用、包装用、建築用、家庭用の各種接着剤として用いることができる。特に、本発明の組成物は、リグニン由来である第1のポリマーを含有しているため、セルロース材料あるいはリグノセルロース材料を含む被着体を適用対象とする接着剤として好ましい。接着剤として用いる場合、必要に応じて、セルロース誘導体などの水溶性高分子を増粘剤として添加することができる。また、充てん剤、溶剤、顔料、防腐剤、消泡剤なども配合することができる。
なお、充填剤、補修剤、コーティング剤等として使用する場合にも、増粘剤、充てん剤、溶剤、顔料、防腐剤、消泡剤などを適宜配合することができる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を具体例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(試験例1)
ブナ由来リグノフェノールの調製
ブナの木粉(リグノセルロース系材料)の脱脂試料の約10gを、500ml容ビーカーにとり、p−クレゾールのアセトン溶液(リグニンC9単位当たり3モル倍量のフェノール誘導体を含む)を加え、ガラス棒で撹拌し、アルミホイルおよびパラフィルムでビーカーに蓋をし、24時間静置させた。その後、ドラフト内で木粉を激しく撹拌し、アセトンを完全に留去して、p−クレゾール収着木粉を得た。
この木粉に対して、72wt%硫酸100mlを加え、30℃で、1時間激しく撹拌した後、混合物を大過剰の水に投入、不溶解区分を遠心分離(3500rpm、10分、25℃)にて回収、脱酸し、凍結乾燥して、p−クレゾールにより誘導体化した試料1のリグノフェノール(以下、ヒノキ由来リグノクレゾールという。)を得た。
【0043】
(試験例2〜4)
ヒノキ由来リグノフェノールの調製
ヒノキの木粉(リグノセルロース系材料)の脱脂試料の約10gを、500ml容ビーカーにとり、p−クレゾール、レゾルシノール、カテコールの3種類のフェノール誘導体のアセトン溶液(それぞれ、リグニンC9単位当たり3モル倍量のフェノール誘導体を含む)を加え、ガラス棒で撹拌し、アルミホイルおよびパラフィルムでビーカーに蓋をし、24時間静置させた。その後、ドラフト内で木粉を激しく撹拌し、アセトンを完全に留去して、p−クレゾール収着木粉、レゾルシノール収着木粉、カテコール収着木粉をそれぞれ得た。
これらの木粉に対して、72wt%硫酸100mlを加え、30℃で、1時間激しく撹拌した後、混合物を大過剰の水に投入、不溶解区分を遠心分離(3500rpm、10分、25℃)にて回収、脱酸し、凍結乾燥して、p−クレゾール、レゾルシノール、カテコールにより誘導体化した試料2〜4のリグノフェノール(以下、それぞれ、ヒノキ由来リグノクレゾール、ヒノキ由来リグノレゾルシノール、ヒノキ由来リグノカテコールという。)を得た。
【0044】
(実施例1〜14)
組成物の調製
試験例1〜4において得られた4種類のリグノフェノールをそれぞれ第1のポリマーとし、表1に示す配合に基づいて、14種類の組成物を調製した。第2のポリマーとして、実施例1〜5においては、ポリ(メタ)アクリル酸系コポリマーを用いた。このポリ(メタ)アクリル酸系コポリマーは、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸をモノマーとして用いて重合して調製した。重量平均分子量は約10000、固形のフレーク状で、固形分は98%以上であった。また、実施例6〜14では、第2のポリマーとして、ポリα−ヒドロキシアクリル酸(ナトリウム塩)(日本パーオキサイド(株)製ペールプラック(ペールプラックは登録商標である)5000)を用いた。なお、当該ポリα−ヒドロキシアクリル酸は、以下の物性及び性状を備えていた。
重量平均分子量:30000〜70000
外観:水溶液
色調:淡黄色
固形分:30%
pH:9〜11
凝固点:−5℃
粘度(20℃):600〜800mPa・s
【0045】
なお、比較例として、試験例1で調製したブナ由来リグノクレゾール、ポリ(メタ)アクリル酸系コポリマー及びポリα−ヒドロキシアクリル酸(ナトリウム塩)を用いて、表2に示す配合で比較例1〜10の組成物を調製した。
【0046】
ポリ(メタ)アクリル酸系コポリマーを含有する実施例及び比較例の組成物にあっては、表1及び表2に示す所定の比率で両者の総重量が0.5gとなるように量り取り、ナスフラスコに入れて、アセトン10mlを加えて溶解させ、均一な溶液とした後、エバポレータで全体の重量が1g(アセトン残量は約0.5gとなる)となるまでアセトンをアスピレーターで減圧留去した。また、留去後のアセトンの重量を測定した。なお、留去後の溶液は、2層に分離しているが、スパチュラで攪拌して均一な状態を保って、後述する強度試験に供した。
また、ポリα−ヒドロキシアクリル酸は、入手した状態のものをそのまま用い、表1及び表2に示す所定の比率となるように配合し、密閉した状態で攪拌子を用いて約3時間攪拌した。得られたエマルジョンを、そのまま後述する強度試験に供した。
【0047】
(引張り剪断強度試験)
これら実施例1〜14の組成物及び比較例1〜10の組成物につき、JIS K
6851 接着剤の木材引張りせん断接着強さ試験方法の引張り剪断強度試験に準じて試験を行い、各組成物の引張り剪断強度を評価した。
結果を併せて、表1及び2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1に示すように、実施例1〜5の組成物と、これらの組成物に含まれる第1のポリマー単独組成物である比較例1及び第2のポリマーの単独組成物である比較例2とを対比すると、実施例1〜5の組成物は、いずれも、これらの単独組成物の強度よりも高い引張りせん断強度を示している。また、比較例1及び2の組成物の引張りせん断強度と比較例4〜7の組成物のそれとを対比してみると、比較例4〜7の組成物においては、強度発現に至る程度に凝集力が発生していないと考えることができる。以上のことから、実施例1〜5の組成物は、第1のポリマーと第2のポリマーとが凝集力を発現できる範囲内で配合されていることがわかる。同時に、このような配合を容易に実現可能であることもわかる。
【0051】
また、実施例6〜14の組成物と、これらの組成物に含まれる第1のポリマー単独組成物である比較例1及び第2のポリマーの単独組成物である比較例3とを対比すると、実施例6〜14の組成物は、いずれも、これらの単独組成物の強度よりも高い引張りせん断強度を示している。また、比較例1及び3の組成物の引張りせん断強度と比較例8〜10の組成物のそれとを対比してみると、比較例8〜10の組成物においては、強度発現に至る程度に凝集力が発生していないと考えることができる。以上のことから、実施例6〜14の組成物は、第1のポリマーと第2のポリマーとが凝集力を発現できる範囲内で配合されていることがわかる。同時に、このような配合を容易に実現可能であることもわかる。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、第1のポリマーと第2のポリマーとを共存させた固形マトリックスにおいて、両者の相互作用により高い強度を発現させることができ、しかも環境への負荷を低減できる組成物を提供することができる。
Claims (10)
- フェノール誘導体が添加されたリグノセルロース系材料に酸を添加し混合して得られるポリフェノール系材料から選択される1種あるいは2種以上の第1のポリマーと、
主鎖あるいは側鎖に、酸素原子、窒素原子及び水素原子のうちいずれか1種あるいは2種以上を有する、1種あるいは2種以上の第2のポリマー、
とを含有し、
前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとを含むマトリックスが、それぞれのポリマーを単独で含有するマトリックスよりも高い強度を発現可能にする組成物。 - 前記第2のポリマーは、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、イミド基、及びエーテル基からなる群から選択される1種あるいは2種以上の基を側鎖及び/又は主鎖に有するポリマーである、請求項1記載の組成物。
- 前記第2のポリマーは、ポリケトン系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーからなる群から選択される1種あるいは2種以上のポリマーである、請求項1記載の組成物。
- 前記第2のポリマーは、(メタ)アクリル酸系ポリマーである、請求項1記載の組成物。
- 前記第2のポリマーは、(メタ)アクリル酸及びその炭素数1〜10のアルキルエステル、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル以外の水酸基含有(メタ)アクリル酸ならびにそのエステル、及び(メタ)アクリル酸の炭素1〜10のヒドロキシアルキルエステルからなる群から選択される1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーである、請求項4記載の組成物。
- 前記第2のポリマーは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル及び(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1種あるいは2種以上を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーである、請求項4に記載の組成物。
- 前記第2のポリマーは、α−ヒドロキシアクリル酸を主たるモノマーとして重合して得られるポリマーである、請求項4に記載の組成物。
- 前記組成物は、水を含む分散媒を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
- 接着剤である、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
- セルロース系材料あるいはリグノセルロース系材料を含む被着体を適用対象とする接着剤である、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
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JP2011219717A (ja) * | 2010-02-10 | 2011-11-04 | Hitachi Chem Co Ltd | 木質系塗料 |
-
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- 2002-09-13 JP JP2002268851A patent/JP2004107386A/ja active Pending
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