JP2004068790A - 内燃機関の空燃比制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】制御対象の出力が停滞した場合にも、該出力を目標値に収束させることのできる制御を実現する。
【解決手段】排気系に配置された排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束することによって空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置は、排ガスセンサの出力の目標値への収束挙動を指定する関数の値をフィードバックする制御を実施する。制御の入力は、該関数値をゼロに収束させる入力とセンサ出力を目標値に収束させる入力の総和として構成される。センサ出力を目標値に収束させる入力を制御入力に含めることにより、センサ出力が停滞して目標値に収束しない状況を防止することができる。
【選択図】図13
【解決手段】排気系に配置された排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束することによって空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置は、排ガスセンサの出力の目標値への収束挙動を指定する関数の値をフィードバックする制御を実施する。制御の入力は、該関数値をゼロに収束させる入力とセンサ出力を目標値に収束させる入力の総和として構成される。センサ出力を目標値に収束させる入力を制御入力に含めることにより、センサ出力が停滞して目標値に収束しない状況を防止することができる。
【選択図】図13
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、内燃機関の排気系に設けられた排ガスセンサの出力に基づいて空燃比を制御する内燃機関の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の排気系には、触媒装置が設けられている。触媒装置は、内燃機関に供給される混合気の空燃比がリーンのとき、排気ガス中に存在する過剰の酸素でHCおよびCOを酸化し、空燃比がリッチのとき、HCおよびCOによってNoxを還元する。空燃比が理論空燃比領域にあるとき、HC、COおよびNoxが同時にかつ効果的に浄化される。
【0003】
触媒装置の下流には、排ガスセンサが設けられる。排ガスセンサは、排気系に排気されたガス中の酸素濃度を検出する。排ガスセンサの出力に基づいて、内燃機関の空燃比のフィードバック制御が実施される。
【0004】
空燃比のフィードバック制御の一例として、特開平11−153051公報には、切換関数を用いる応答指定型制御が提案されている。この制御は、該切換関数の値をゼロに収束することによって、排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させる。排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるための操作量が算出される。該操作量に応じて、内燃機関への燃料供給量が制御される。こうして、空燃比が安定的に制御される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
失火等の理由によって触媒の劣化が過度に進行した状態(以下、NGCAT状態とも呼ぶ)では、切換関数値が収束するにもかかわらず、排ガスセンサの出力が目標値に収束しない状態が生じることがある。排ガスセンサの出力が目標値に収束しないと、空燃比を安定的に制御することができなくなり、排ガスの有害成分が排出されるおそれがある。
【0006】
したがって、触媒が過度に劣化した状態等においても、空燃比を安定的に制御して、触媒の浄化率をできるだけ高く維持し、かつ排ガスの有害成分の排出量を低減することができる制御が必要とされている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明の一つの側面によると、排気系に配置された排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束することによって空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置が提供される。該制御は、排ガスセンサの出力の目標値への収束挙動を指定する関数の値をフィードバックする制御であり、該制御の入力は、該関数値をゼロに収束させる入力と排ガスセンサ出力を目標値に収束させる入力との総和である。
【0008】
この発明によれば、制御入力が、排ガスセンサ出力を目標値に収束させる入力を持つので、排ガスセンサの出力を目標値に収束させることが可能となる。したがって、排ガスセンサの出力が停滞して目標値に収束しない状況を防止することができる。特に、触媒の劣化が過度に進んでいる場合においても、触媒の浄化率をできるだけ高く維持し、排ガスの有害成分を低減させることができる。
【0009】
この発明の他の側面によれば、制御装置は、さらに、排ガスセンサの出力の推定値を算出する。制御入力は、算出された推定値に基づいて決定される。この発明によると、制御対象(プラント)にむだ時間が存在する場合でも、安定的にセンサ出力を目標値に制御することができる。
【0010】
この発明の他の側面によれば、制御装置は、さらに、排ガスセンサの動特性を表現するモデルのモデルパラメータを決定する。制御入力は、該モデルパラメータを用いて決定される。この発明によれば、排ガスセンサの出力の動特性が経時的に変化したり、バラツキを持っている場合でも、運転状態に応じてモデルパラメータを適切に決定することができる。したがって、安定的に排ガスセンサの出力を目標値に収束させることができる。
【0011】
この発明の他の側面によると、排ガスセンサの出力の推定値は、決定されたモデルパラメータに基づいて算出される。運転状態に応じて決定されたモデルパラメータを用いることにより、排ガスセンサの出力を、良好な精度で推定することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
内燃機関および制御装置の構成
次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の実施形態による内燃機関(以下、「エンジン」という)およびその制御装置の全体的なシステム構成図である。
【0013】
電子制御ユニット(以下、「ECU」)という)5は、車両の各部から送られてくるデータを受け入れる入力インターフェース5a、車両の各部の制御を行うための演算を実行するCPU5b、読み取り専用メモリ(ROM)およびランダムアクセスメモリ(RAM)を有するメモリ5c、および車両の各部に制御信号を送る出力インターフェース5dを備えている。メモリ5cのROMには、車両の各部の制御を行うためのプログラムおよび各種のデータが格納されている。この発明に従う空燃比制御を実現するためのプログラム、および該プログラムの実行の際に用いるデータおよびテーブルは、このROMに格納されている。ROMは、EEPROMのような書き換え可能なROMでもよい。RAMには、CPU5bによる演算のための作業領域が設けられる。車両の各部から送られてくるデータおよび車両の各部に送り出す制御信号は、RAMに一時的に記憶される。
【0014】
エンジン1は、たとえば4気筒を備えるエンジンである。吸気管2が、エンジン1に連結されている。吸気管2の上流側にはスロットル弁3が設けられている。スロットル弁3に連結されたスロットル弁開度センサ(θTH)4は、スロットル弁3の開度に応じた電気信号を、ECU5に供給する。
【0015】
スロットル弁3をバイパスする通路21が、吸気管2に設けられている。エンジン1に供給する空気量を制御するためのバイパス弁22が、バイパス通路21に設けられている。バイパス弁22は、ECU5からの制御信号に従って駆動される。
【0016】
燃料噴射弁6は、エンジン1とスロットル弁3の間であって、吸気管2の吸気弁(図示せず)の少し上流側に各気筒毎に設けられている。燃料噴射弁6は、燃料ポンプ(図示せず)に接続され、該燃料ポンプを介して燃料タンク(図示せず)から燃料の供給を受ける。燃料噴射弁6は、ECU5からの制御信号に従って駆動される。
【0017】
吸気管圧力(Pb)センサ8および吸気温(Ta)センサ9は、吸気管2のスロットル弁3の下流側に設けられている。Pbセンサ8およびTaセンサ9によって検出された吸気管圧力Pbおよび吸気温Taは、それぞれECU5に送られる。
【0018】
エンジン水温(Tw)センサ10は、エンジン1のシリンダブロックの、冷却水が充満した気筒周壁(図示せず)に取り付けられる。Twセンサ10によって検出されたエンジン冷却水の温度Twは、ECU5に送られる。
【0019】
回転数(Ne)センサ13は、エンジン1のカム軸またはクランク軸(共に図示せず)周辺に取り付けられる。Neセンサ13は、たとえばピストンのTDC位置に関連したクランク角度で出力されるTDC信号パルスの周期よりも短いクランク角度(たとえば、30度)の周期で、CRK信号パルスを出力する。CRK信号パルスは、ECU5によってカウントされ、エンジン回転数Neが検出される。
【0020】
エンジン1の下流側には排気管14が連結されている。エンジン1は、排気管14を介して排気する。排気管14の途中に設けられた触媒装置15は、排気管14を通る排気ガス中のHC、CO、NOxなどの有害成分を浄化する。触媒装置15には、2つの触媒が設けられている。上流側に設けられた触媒を上流触媒と呼び、下流側に設けられた触媒を下流触媒と呼ぶ。
【0021】
広域空燃比センサ(LAF)センサ16は、触媒装置15の上流に設けられている。LAFセンサ16は、リーンからリッチにわたる広範囲の空燃比を検出する。検出された空燃比は、ECU5に送られる。
【0022】
O2(排ガス)センサ17は、上流触媒と下流触媒の間に設けられている。O2センサ17は2値型の排気ガス濃度センサである。O2センサは、空燃比が理論空燃比よりもリッチであるとき高レベルの信号を出力し、空燃比が理論空燃比よりもリーンであるとき低レベルの信号を出力する。出力された電気信号は、ECU5に送られる。
【0023】
ECU5に向けて送られた信号は入力インターフェース5aに渡され、アナログ−デジタル変換される。CPU5bは、変換されたデジタル信号を、メモリ5cに格納されているプログラムに従って処理し、車両のアクチュエータに送るための制御信号を作り出す。出力インターフェース5dは、これらの制御信号を、バイパス弁22、燃料噴射弁6、およびその他の機械要素のアクチュエータに送る。
【0024】
図2は、触媒装置15の構造を示す。排気管14に流入した排気ガスは、上流触媒25を通過し、その後下流触媒26を通過する。上流および下流触媒の間に設けられたO2センサの出力に基づく空燃比制御の方が、下流触媒の下流に設けられたO2センサの出力に基づく空燃比制御よりも、Noxの浄化率を最適に維持しやすいことがわかっている。そのため、この発明に従う実施形態では、O2センサ17を、上流および下流触媒の間に設ける。O2センサ17は、上流触媒25を通過した後の排気ガスの酸素濃度を検出する。
【0025】
代替的に、O2センサを、下流触媒26の下流に設けてもよい。また、1つの触媒によって触媒装置15が実現されている場合には、該触媒装置15の下流にO2センサは設けられる。
【0026】
図3は、上流触媒および下流触媒の浄化の挙動を示す。ウィンドウ27は、CO、HCおよびNOxが最適に浄化される空燃比領域を示す。上流触媒25において、排気ガス中の酸素が浄化作用に消費されるため、下流触媒26に供給される排気ガスは、ウィンドウ28によって示されるような還元雰囲気(すなわち、リッチ状態)を有している。このような還元雰囲気において、さらなる量のNOxが浄化される。こうして排気ガスは、クリーンな状態で排気される。
【0027】
この発明に従う空燃比の適応制御は、触媒15の浄化性能を最適に維持するため、O2センサ17の出力を目標値に収束させることにより、空燃比がウィンドウ27内に収まるようにする。
【0028】
参照番号29は、適応空燃比制御において空燃比の操作量の限界を規定する許容範囲を例示しており、これについての詳細は後述される。
【0029】
図4は、図2のLAFセンサ16からO2センサ17にいたるブロック図である。LAFセンサ16は、上流触媒25に供給される排ガスの空燃比KACTを検出する。O2センサ17は、上流触媒25によって浄化された排ガスの酸素濃度を、電圧Vo2/OUTとして出力する。LAFセンサ16からO2センサ17までの排気系19が、この発明に従う適応空燃比制御の制御対象(プラント)となる。
【0030】
適応空燃比制御モード
図5は、適応空燃比制御の制御ブロック図を示す。制御対象である排気系19のO2センサ17の出力Vo2/OUTが、目標値Vo2/TARGETと比較される。比較結果に基づいて、制御器31は、空燃比偏差kcmdを求める。空燃比偏差kcmdを基準値FLAF/BASEに加算し、目標空燃比KCMDを求める。目標空燃比KCMDによって補正された燃料噴射量が、エンジン1に供給される。その後、排気系のO2センサ17の出力Vo2/OUTが再び検出される。
【0031】
このように、制御器31は、O2センサ17の出力Vo2/OUTを目標値Vo2/TARGETに収束するよう目標空燃比KCMDを求めるフィードバック制御を実行する。制御対象である排気系19を、出力をVo2/OUT、入力をLAFセンサの出力KACTとして、式(1)のようにモデル化することができる。排気系19は離散時間系モデルとしてモデル化される。離散時間系モデルは、空燃比制御のアルゴリズムをコンピュータ処理に適した簡易なものとする。前述したように、kはサイクルを識別する識別子である。
【0032】
【数1】
【0033】
Vo2は、式(1)に示されるように、O2センサ17の出力値Vo2/OUTの目標値Vo2/TARGETに対する偏差(以下、センサ出力偏差と呼ぶ)を示す。実空燃比偏差kactは、基準値FLAF/BASEに対するLAFセンサの出力KACTの偏差を示す(kact=KACT−FLAF/BASE)。空燃比の基準値FLAF/BASEは、目標空燃比KCMDの中心的な値になるよう設定され、たとえば理論空燃比を示す値(すなわち、1)に設定される。基準値FLAF/BASEは、一定値でもよいし、または運転状態に応じて決めるようにしてもよい。
【0034】
d1は、排気系19が有するむだ時間を示す。むだ時間d1は、LAFセンサ16によって検出された空燃比がO2センサ17の出力に反映されるのに要する時間を示す。a1、a2およびb1はモデルパラメータであり、後述する同定器によって生成される。
【0035】
一方、エンジン1およびECU5からなる空燃比を操作する系は、式(2)のようにモデル化されることができる。目標空燃比偏差kcmdは、基準値FLAF/BASEに対する目標空燃比KCMDの偏差を示す(kcmd=KCMD−FLAF/BASE)。d2は、該空燃比操作系におけるむだ時間を示す。むだ時間d2は、算出された目標空燃比KCMDがLAFセンサ16の出力KACTに反映されるのに要する時間を示す。
【0036】
【数2】
【0037】
図6は、図5に示される制御器31のさらに詳細なブロック図を示す。制御器31は、同定器32、推定器33、スライディングモード制御器34およびリミッタ35を備える。
【0038】
同定器32は、式(1)におけるモデルパラメータa1、a2およびb1を、モデル化誤差をなくすように同定する。同定器32によって実施される同定方法を以下に示す。
【0039】
前回の制御サイクルで算出されたモデルパラメータa1(k−1)、a2(k−1)およびb1(k−1)を用い(以下、これらのパラメータをa1(k−1)ハット、a2(k−1)ハットおよびb1(k−1)ハットと呼ぶ)、式(1)に従って今回のサイクルのセンサ出力偏差Vo2(k)(以下、これをセンサ出力偏差Vo2(k)ハットと呼ぶ)を式(3)に従って求める。
【0040】
【数3】
【0041】
式(4)は、式(3)で算出されたセンサ出力偏差Vo2(k)ハットと、今回の制御サイクルで実際に検出されたセンサ出力偏差Vo2(k)との偏差id/e(k)を示す。
【0042】
【数4】
【0043】
同定器32は、偏差id/e(k)を最小にするように、今回のサイクルにおけるa1(k)ハット、a2(k)ハットおよびb1(k)ハットを算出する。ここで、式(5)に示されるようにベクトルΘを定義する。
【0044】
【数5】
【0045】
同定器32は、式(6)に従い、a1(k)ハット、a2(k)ハットおよびb1(k)ハットを求める。式(6)に示されるように、前回の制御サイクルで決定されたa1(k)ハット、a2(k)ハットおよびb1(k)ハットを、偏差id/e(k)に比例する量だけ変化させることにより、今回の制御サイクルにおけるa1(k)ハット、a2(k)ハットおよびb1(k)ハットを求める。
【0046】
【数6】
【0047】
推定器33は、排気系19のむだ時間d1および空燃比を操作する系のむだ時間d2を補償するため、むだ時間d(=d1+d2)後のセンサ出力偏差Vo2を推定する。
【0048】
まず、排気系のモデル式(1)に、空燃比を操作する系のモデル式(2)を代入すると、式(7)が導かれる。
【0049】
【数7】
【0050】
式(7)で示されるモデル式は、排気系19および上記の空燃比を操作する系を合わせた系を表現している。式(7)を用いることにより、むだ時間d後のセンサ出力偏差Vo2(k+d)の推定値Vo2(k+d)バーが、式(8)のようにして求められる。係数α1、α2およびβjは、同定器32で算出されたモデルパラメータを用いて算出される。目標空燃比偏差の過去の時系列データkcmd(k−j)(ただし、j=1、2、...d)は、むだ時間dの長さの間に取得された目標空燃比偏差を含む。
【0051】
【数8】
【0052】
むだ時間d2以前の空燃比偏差kcmdの過去の値kcmd(k−d2)、kcmd(k−d2−1)、...kcmd(k−d)の値を、上記の式(2)を用いてLAFセンサ16の偏差出力kac(k)、kact(k−1)、...kact(k−d+d2)で置き換えることができる。その結果、式(9)が得られる。
【0053】
【数9】
【0054】
スライディングモード制御器34は、スライディングモード制御を実行するため、切換関数σを式(10)のように設定する。
【0055】
【数10】
【0056】
ここで、Vo2(k−1)は、前述したように前回のサイクルで検出されたセンサ出力偏差を示す。Vo2(k)は、今回のサイクルで検出されたセンサ出力偏差を示す。sは、切換関数σの設定パラメータであり、−1<s<1となるよう設定される。
【0057】
切換関数σ(k)=0とした式は等価入力系と呼ばれ、制御量であるセンサ出力偏差Vo2の収束特性を規定する。σ(k)=0とすると、式(10)は以下の式(11)のように変形することができる。
【0058】
【数11】
【0059】
ここで、図7および式(11)を参照して、切換関数σの特性を説明する。図7は、縦軸がVo2(k)および横軸がVo2(k−1)の位相平面上に、式(11)を線41で表現したものである。この線41を切換直線と呼ぶ。Vo2(k−1)およびVo2(k)の組合せからなる状態量(Vo2(k−1), Vo2(k))の初期値が、点42で表されているとする。スライディングモード制御は、点42で表される状態量を、切換直線41上に載せて該直線41上に拘束するよう動作する。スライディングモード制御によると、状態量を切換直線41上に保持することにより、該状態量を、外乱等の影響されることなく、極めて安定的に位相平面上の原点0に収束させることができる。言い換えると、状態量(Vo2(k−1),Vo2(k))を、式(11)に示される入力の無い安定系に拘束することにより、外乱およびモデル化誤差に対してロバストにセンサ出力偏差Vo2/OUTを目標値Vo2/TARGETに収束させることができる。
【0060】
切換関数設定パラメータsは、可変に設定することができるパラメータである。設定パラメータsを調整することにより、センサ出力偏差Vo2の減衰(収束)特性を指定することができる。
【0061】
図8は、スライディングモード制御の応答指定特性の一例を示すグラフである。グラフ43は、sの値が“1”である場合を示し、グラフ44はsの値が“0.8”である場合を示し、グラフ45はsの値が“0.5”である場合を示す。グラフ43〜45から明らかなように、sの値に従って、センサ出力偏差Vo2の収束速度が変化する。sの絶対値を小さくするほど、収束速度が速くなる。
【0062】
切換関数σの値をゼロにするよう、要求偏差Uslが決定される。要求偏差Uslは、式(12)に示されるように、等価制御入力Ueq、到達則入力Urch、および適応則入力Uadpの和である。
【0063】
【数12】
【0064】
リミッタ35は、要求偏差Uslに対してリミット処理を行い、空燃比偏差kcmdを求める。具体的には、リミッタ35は、要求偏差Uslが許容範囲内にあれば、該要求偏差Uslを空燃比偏差kcmdとする。要求偏差Uslが許容範囲から逸脱している場合は、該許容範囲の上限値または下限値を、空燃比偏差kcmdに設定する。
【0065】
リミッタ35で使用される許容範囲は、図3の参照番号29に示されるように、ウィンドウ27を略中心として、これを含むさらに広い範囲に設定される。この許容範囲は、要求偏差Uslおよび運転状態等に応じてアクティブに移動する。また、この許容範囲は、空燃比の変動によるエンジンの燃焼変動を抑制しつつ、触媒の浄化能力がウィンドウ27の最適な状態から外れた際に速やかに該最適な状態に復帰させるのに十分な幅を持つ。よって、過渡状態での触媒浄化率を高く保つことができ、有害な排ガス成分を低減することができる。
【0066】
具体的には、許容範囲は、算出された要求偏差Uslに応じて可変に更新される。たとえば、要求偏差Uslの許容範囲からの逸脱量に応じて、許容範囲を拡大する。または、要求偏差Uslが許容範囲内にあるとき、該許容範囲を縮小する。こうして、O2センサ17の出力を目標値に収束させるのに必要な空燃比を規定する要求偏差Uslに適した許容範囲が設定される。
【0067】
さらに、許容範囲は、O2センサ17の出力の不安定さが高いほど狭く設定される。また、許容範囲は、始動時、アイドリング運転状態および燃料カットが解除された時等を含め、運転状態に応じて設定されるようにしてもよい。
【0068】
求められた空燃比偏差kcmdを基準値FLAF/BASEに加算して目標空燃比KCMDを求める。該目標空燃比KCMDを、制御対象である排気系19に与えることにより、O2センサの出力Vo2/OUTを目標値Vo2/TARGETに収束させることができる。
【0069】
代替の実施形態においては、空燃比の基準値FLAF/BASEは、リミッタ35によるリミット処理が終了した後、スライディングモード制御器34によって算出される適応則入力Uadpに応じて可変に更新される。具体的には、基準値FLAF/BASEは、初期値として理論空燃比が設定される。適応則Uadpが予め決められた上限値を超えているならば、基準値FLAF/BASEは所定量だけ増やされる。適応則Uadpが予め決められた下限値を下回っているならば、基準値FLAF/BASEは所定量だけ減らされる。適応則Uadpが上限値および下限値の間にあれば、基準値FLAFBASEは更新されない。更新されたFLAF/BASEは、次回のサイクルにおいて用いられる。こうして、基準値FLAF/BASEは、目標空燃比KCMDの中心的な値になるよう調整される。
【0070】
基準値FLAF/BASEの更新処理を上記のリミット処理と組み合わせることにより、要求偏差Uslの許容範囲が正負にバランスされる。基準値FLAF/BASEの更新処理は、O2センサ出力Vo2/OUTが目標値Vo2/TARGETにほぼ収束し、スライディングモード制御が安定状態にあると判断されたときに行われるのが好ましい。
【0071】
制御入力の考察
図6のスライディングモード制御器34によって算出される制御入力について説明する。制御入力Uslには、等価制御入力Ueq、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpが含まれる。
【0072】
1)従来の適応制御における制御入力の算出
本発明の理解を深めるため、最初に、従来の適応制御における制御入力Uslの算出方法について述べる。制御入力Uslは、状態量を切換直線上に拘束するための等価制御入力Ueq、状態量を切換直線上に載せるための到達則入力Urch、およびモデル化誤差および外乱を抑制しつつ、状態量を切換直線に載せるための適応則入力Uadpを含む。
【0073】
等価制御入力Ueqは、状態量を切換直線上に拘束するための入力であるので、式(13)を満たすことが条件となる。
【0074】
【数13】
【0075】
したがって、σ(k+1)=σ(k)とするための等価制御入力Ueqは、式(7)および(10)から、式(14)に従って算出される。
【0076】
【数14】
【0077】
切換関数σの値に応じた値を持つ到達則入力Urchは、式(15)に従って算出される。この実施例では、到達則入力Urchは切換関数σの値に比例した値を持つ。Krchは到達則のフィードバックゲインを示し、これは、切換直線σ=0への収束の安定性および速応性等を考慮して、シミュレーション等に基づいて予め定められる。
【0078】
【数15】
【0079】
切換関数σの積算値に応じた値を持つ適応則入力Uadpは、式(16)に従って算出される。この実施例では、適応則入力Uadpは切換関数σの積算値に比例した値を持つ。Kadpは適応則のフィードバックゲインを示し、これは、切換直線σ=0への収束の安定性および速応性等を考慮して、シミュレーション等に基づいて予め定められる。ΔTは、制御サイクルの周期を示す。
【0080】
【数16】
【0081】
センサ出力偏差Vo2(k+d)およびVo2(k+d−1)と、切換関数の値σ(k+d)は、むだ時間dが考慮された予測値であるので、これらを直接求めることはできない。そこで、推定器33によって求められた推定偏差Vo2(k+d)バーおよびVo2(k+d−1)バーを用い、等価制御入力Ueqを求める。
【0082】
【数17】
【0083】
また、推定器33によって算出された推定偏差を用いて、式(18)に示されるように切換関数σバーが算出される。
【0084】
【数18】
【0085】
切換関数σバーを用いて、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpを算出する。
【0086】
【数19】
【0087】
【数20】
【0088】
こうして、等価制御入力Ueq、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpが算出される。
【0089】
2)NGCAT状態における従来の空燃比制御
発明の理解を助けるため、従来の空燃比制御における制御入力の特性を考察する。
【0090】
図9は、触媒が過度に劣化した状態における、従来の空燃比制御の挙動の一例を示す。グラフ51は、切換関数値σの推移を示す。グラフ52は、切換関数値σの積算値の推移を示す。グラフ53は、排ガスセンサの目標値Vo2/TARGETに対するセンサ出力Vo2/OUTの推移を示す。
【0091】
グラフ51に示されるように、切換関数値σはゼロに収束していく。それに応じて、切換関数値σの積算値もゼロに収束していく。センサ出力Vo2/OUTは、切換関数値σがゼロに収束していくにもかかわらず、目標値Vo2/TARGETに対して定常偏差を呈している。これは、切換関数σをゼロにすることでセンサ出力偏差Vo2を収束させるというスライディングモードが生じていないことを示す。
【0092】
このように、従来の空燃比制御では、触媒が過度に劣化した状態等の特定の状態において、切換関数値σがゼロに収束するにもかかわらず、センサ出力Vo2/OUTが目標値Vo2/TARGETに収束しない場合がある。
【0093】
前述したように、スライディングモード制御は、切換関数値σをゼロとすることで、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させる。切換関数値σをゼロにするための制御入力を考察すると、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpは、切換直線上へ状態量を載せるための入力である。従来の空燃比制御において算出される等価制御入力Ueqは、切換直線上に載った状態量(Vo2(k−1), Vo2(k))を、該切り換え直線上に拘束するための入力である。このように、従来の空燃比制御における制御入力は、センサ出力偏差Vo2を直接的にゼロに収束させる入力を持たない。したがって、上記の3つの制御入力により切換関数σがゼロに収束しているにもかかわらずスライディングモードが生じない場合、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることができない。
【0094】
ここで、従来の空燃比制御における制御入力の挙動を解析する。簡略化のため、むだ時間dを省略すると、等価制御入力Ueqを表す式(14)は、式(21)のように表される。
【0095】
【数21】
【0096】
また、式(1)に示されるモデル式において、簡略化のためむだ時間d1を省略すると、式(22)のように表される。
【0097】
【数22】
【0098】
制御入力Uslは、等価制御入力Ueq、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpの和であることは述べた。図9に示されるような切換関数値σがゼロである状況では、式(15)および式(16)から明らかなように、UrchおよびUadpはゼロである。したがって、制御入力Usl=Ueqとなる。モデル式(1)は、式(23)のように表される。
【0099】
【数23】
【0100】
式(21)を式(23)のUeqに代入すると、式(24)が得られる。
【0101】
【数24】
【0102】
式(24)は、入力の無い2次の離散時間系を表している。(1−s)をα1、sをα2で表すと、式(25)が導かれる。
【0103】
【数25】
【0104】
ここで図10を参照すると、三角形61で表される領域は、式(25)で表される系が理論上安定となる係数α1およびα2の組み合わせを規定している。すなわち係数α1およびα2の組み合わせが三角形61の中にあるとき、センサ出力偏差Vo2が時間と共にゼロに収束し、該系は安定である。
【0105】
ここで、式(24)で表される系を考察する。式(24)および(25)から、式(26)が導かれる。
【0106】
【数26】
【0107】
(1−s)およびsの係数の組み合わせは、三角形61の辺ABで表されることがわかる。
【0108】
一方、離散時間系においては、所与の系について、該系の極が複素平面上の単位円内にある場合、該系は安定である、ということが知られている。すなわち、図10に示される三角形61内に存在する係数α1およびα2の組合せを持つ系の極は、単位円内に存在する。
【0109】
そこで、式(24)で表される系を再び参照すると、該系の極64および65は、それぞれ“1”および“−S”である。ここで、該系の極64は、単位円62の円周上にある(参照場番号63は、式(24)の系の零点を表す)。極64が単位円の円周上にあるので、式(24)の系は安定限界であることがわかる。
【0110】
すなわち、図10の直線ABで表されるパラメータ(1−s)およびsの組合せを持つ系は安定限界にあることがわかる。これは、図11の(b)に示されるようにセンサ出力偏差Vo2が減衰特性を持たないことを意味する。
【0111】
このように、従来の空燃比制御における等価制御入力Ueqは、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させる機能をもたず、該偏差Vo2をホールドする機能を持つことがわかる。
【0112】
図12は、従来の空燃比制御における制御入力のそれぞれの挙動を概念的に示す。到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpは、切換直線71に対して法線方向の作用のみを持ち、状態量72を切換直線に載せようとする。等価制御入力Ueqは、状態量72をその場にホールドする機能を持つ。
【0113】
3)本発明の第1の実施例における制御入力の算出
本発明に従う第1の実施例においては、図9に示されるような触媒が過渡に劣化した場合においても、スライディングモードを発生させてセンサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることのできる制御入力が用いられる。
【0114】
ここで、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpは、切換関数値σに基づいて算出される制御入力である。したがって、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpを操作しても、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることはできない。そこで、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させるため、状態量(Vo2(k−1), Vo2(k))のフィードバック項である等価制御入力Ueqを操作する。
【0115】
第1の実施例による等価制御入力Ueq’は、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させる機能を持つ。この等価制御入力Ueq’を求める方法を説明する。スライディングモードの発生を阻害しないようにするため、等価制御入力Ueq’に、切換関数値σがゼロに向かう方向、すなわち切換直線に対して法線方向の成分を持たせる。したがって、式(27)を満たすことを条件に、等価制御入力Ueq’を求める。式(27)は、切換関数値σが、制御サイクルごとにQ(<1)倍ずつ減少することを表している。
【0116】
【数27】
【0117】
等価制御入力Ueq’は、式(28)に従って算出される。
【0118】
【数28】
【0119】
図13は、式(28)で示される等価制御入力Ueq’の挙動をベクトル73によって概略的に示す。図12と比較して明らかなように、等価制御入力Ueq’は、切換直線71に対して法線方向の成分を持ち、かつ、状態量72をゼロに向かわせる成分、すなわち切換直線71に対して平行な成分を持つ。
【0120】
式(22)のモデル式は、式(29)のように表される。
【0121】
【数29】
【0122】
式(29)に式(28)を代入すると、式(30)が得られる。
【0123】
【数30】
【0124】
ここで、式(30)の係数(Q−S)およびQ・sを、α1’およびα2’とそれぞれ定義すると、式(31)が得られる。
【0125】
【数31】
【0126】
係数α1’およびα2’の組み合わせは、図14に示される三角形61で表される。該三角形61は、図10に示される三角形と同じである。前述したように、係数α1’およびα2’の組み合わせが三角形の中にあるとき、式(31)で表される系は安定である。
【0127】
式(30)および式(31)から、式(32)が導かれる。
【0128】
【数32】
【0129】
Qは、以下の式で表される。Rを決めることにより、Qを求めることができる。
【0130】
【数33】
【0131】
R<1を満たす(Q−s)およびQsの組み合わせは、三角形61の中を横切る直線A’B’で表されることができる。図15の(a)に示されるように、式(30)で示される系の極76および77は、単位円の中に収まる。したがって、センサ出力偏差Vo2は、図15の(b)に示されるようにゼロに収束する。
【0132】
Rは、直線A’B’を三角形の中にどの程度入れるかを示す。R=1のとき、直線A’B’は、三角形61の辺上(図10に示される直線ABと同じ位置)にある。Rの絶対値が大きいほど、センサ出力偏差Vo2の収束速度が大きい。
【0133】
このように、第1の実施例に従う等価制御入力Ueq’は、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させる機能を持つ。第1の実施例において、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpは、第一の実施例と同様にして算出される。
【0134】
等価制御入力Ueq’は、図6を参照して説明した推定器によって算出される推定偏差Vo2バーを用いて、式(34)に従って求められるのが好ましい。
【0135】
【数34】
【0136】
第1の実施例によれば、図9に示されるような状況においても、スライディングモードを発生させて、切換関数値σをゼロに収束させると共に、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることができる。
【0137】
図16は、第1の実施例に従う、触媒が過度に劣化した場合のセンサ出力Vo2/OUTの推移を示す。図9と目盛りのスケールが異なることに注意されたい。図9の(a)においては、定常偏差が約数百mVのオーダー(たとえば、400mV)で現れていたが、図16では、約10mVに低減している。すなわち、第二の実施例によれば、触媒が過度に劣化した場合でも、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることができる。
【0138】
図17は、触媒が正常な場合の、センサ出力Vo2/OUTの挙動を示す。図17の(a)は従来の空燃比制御を実施した場合を示し、図17の(b)は本発明の第1の実施例に従う空燃比制御を実施した場合を示す。グラフ81および83は、センサ出力Vo2/OUTの推移を示し、グラフ82および84は車速の推移を示す。
【0139】
領域85と領域87のセンサ出力Vo2/OUTを比較すると、従来の空燃比制御では、センサ出力Vo2/OUTに大きな変動が現れているのに対し、第1の実施例に従う空燃比制御では、センサ出力Vo2/OUTが安定している。さらに、領域87と領域88におけるセンサ出力Vo2/OUTを比較して明らかなように、第1の実施例に従う空燃比制御では、車速が低くて内燃機関が低負荷の場合においても、良好な制御性を維持することができる。
【0140】
4)本発明の第2の実施例における制御入力の算出
本発明に従う第2の実施例は、第1の実施例の変形形態であり、上記のパラメータα1’およびα2’を、それぞれ、(Q1―s)およびQ2・Sとして、等価制御入力Ueq’を求める。
【0141】
Q1およびQ2は、以下の式を満たすよう決定される。
【0142】
【数35】
【0143】
式(35)を満たすことにより、α1’およびα2’の組合せは、図14の直線A’B’のように表される。したがって、センサ出力偏差Vo2を収束させることができる。
【0144】
等価制御入力Ueq’は、式(36)に従って算出される。
【0145】
【数36】
【0146】
式(36)は、式(37)のように変形することができる。
【0147】
【数37】
【0148】
式(21)と比較して明らかなように、式(36)に示される等価制御入力Ueq’は、従来の空燃比制御における等価制御入力Ueqに対し、“−1{(1−Q1)・Vo2(k)}/b1”の項と、“−1{(S−Q2・S)・Vo2(k−1)}/b1”の項が追加された形となっている。
【0149】
図18に、式(37)で示される等価制御入力Ueq’のベクトル93を概念的に示す。ベクトル93は、Q1に基づくVo2(k)方向の成分と、Q2に基づくVo2(k−1)方向の成分とを持つ。したがって、ベクトル93の方向および大きさを、Q1およびQ2によって細かく調整することが可能となる。これにより、状態量92の収束態様を柔軟に調整することができる。
【0150】
本発明の第1の実施例に従う制御入力算出のフロー
図19は、第1の実施例に従う制御入力Uslを求めるメインルーチンを示す。ステップS101において、切換関数σを算出するルーチン(図20)を実行する。ステップS102において、切換関数σの積算値SUMSGMFを算出するルーチン(図21)を実行する。
【0151】
ステップS103〜S105において、等価制御入力Ueq’、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpをそれぞれ算出する。これらのステップは、並列に実行してもよい。ステップS106において、等価制御入力Ueq’、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpの和を算出し、制御入力Uslを求める。
【0152】
図20は、図19のステップS101で実行される、切換関数算出ルーチンを示す。ステップS111において、前述の式(18)に示されるように、推定器によって算出されたセンサ出力偏差Vo2(k)バーに、Vo2(k−1)バーに設定パラメータsを掛けたものを加算し、得られた値を一時変数sigmf_tmpに格納する。
【0153】
ステップS112〜S116は、切換関数値のリミット処理を示す。一時変数sigmf_tmpが、予め決められた最大値SIGMFHよりも大きければ、切換関数σバーの値に該最大値を設定する(S113)。一時変数sigmf_tmpが、予め決められた最小値SIGMFLよりも小さければ、切換関数σバーの値に該最小値を設定する(S115)。一時変数sigmf_tmpが、最大値SIGMFHと最小値SIGMFLの間にあるならば、一時変数sigmf_tmpの値を切換関数σバーに代入する(S116)。
【0154】
図21は、図19のステップS102で実行される切換関数の積算値SUMSGMFの算出ルーチンを示す。ステップS121において、前回のサイクルで算出された積算値SUMSGMF(k−1)の値が予め決められたリミット値に達しているかどうかを判断する。達していたならば、ステップS122に進み、前回のサイクルで算出された積算値の値(k−1)に、予め決められた値SUMSGMFLをセットする。これは、積算値の値が過剰に大きくなると、適応則入力の値の信頼性が低下するおそれがあるからである。
【0155】
ステップS123において、前回のサイクルで算出された積算値SUMSGMFに、今回のサイクルで算出された切換関数σバーの値を加算し、一時変数ssigmf_tmpに加算する。ステップS124〜S128は、積算値のリミット処理である。具体的には、一時変数ssigmf_tmpが、予め決められた最大値SUMSFHよりも大きければ、積算値SUMSGMFに該最大値を設定する(S125)。一時変数ssigmf_tmpが、予め決められた最小値SUMSFLよりも小さければ、積算値SUMSGMFに該最小値を設定する(S127)。一時変数ssigmf_tmpが、最大値SUMSFHと最小値SUMSFLの間にあるならば、一時変数ssigmf_tmpの値を積算値SUMSGMFに代入する(S128)。
【0156】
図22は、図20のステップS269で実行される、等価制御入力算出ルーチンを示す。ステップS131において、前述した式(33)に示されるQを用いて、Vo2(k)バーの項KUeq1を計算する。ステップS132において、式(33)に示されるQを用いて、Vo2(k−1)バーの項KUeq2を計算する。
【0157】
ステップS134において、ステップS131および132で求められたKUeq1およびKUeq2に基づき、式(33)に従って等価制御Ueq’を求める。ここで、ステップ131および132は、並列に実行してもよい。
【0158】
図23は、図19のステップS104で実行される、到達則入力算出ルーチンを示す。ステップS141において、前述した式(19)に従い、切換関数σバーにフィードバックゲインKrchを乗算し、得られた値を一時変数urch_tmpに代入する。ステップS142〜S146は、到達則入力のリミット処理である。具体的には、一時変数urch_tmpが、予め決められた最大値URCHFHよりも大きければ、到達則入力Urch該最大値を設定する(S143)。一時変数urch_tmpが、予め決められた最小値URCHFLよりも小さければ、到達則入力Urchに該最小値を設定する(S145)。一時変数urch_tmpが、最大値URCHFHと最小値URCHFLの間にあるならば、一時変数urch_tmpの値を到達則入力Urchに代入する(S146)。
【0159】
図24は、図19のステップS105で実行される、適応則入力算出ルーチンを示す。ステップS151において、前述した式(20)に従い、切換関数σの積算値SUMSGMFにフィードバックゲインKadpを乗算し、適応則入力Uadpを求める。
【0160】
この明細書においては、スライディングモード制御を用いて適応空燃比制御を実施する例を説明した。しかしながら、他の応答指定型制御を用いて適応空燃比制御を実施する場合にも、本発明を適用することができる。
【0161】
他の実施形態においては、従来の適応空燃比制御における等価制御入力Ueqと、第1の実施例(または第2の実施例)に従う等価制御入力Ueq’を、運転状態に応じて切り換えてもよい。たとえば、触媒の劣化が検知された場合、等価制御入力Ueqを、第1の実施例(または第2の実施例)に従う等価制御入力Ueq’に切り換える。
【0162】
本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用が可能である。
【0163】
【発明の効果】
この発明によると、制御対象の出力が停滞して目標値に収束しない状況を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例に従う、内燃機関およびその制御装置を概略的に示す図。
【図2】この発明の一実施例に従う、触媒装置および排ガスセンサの配置を示す図。
【図3】この発明の一実施例に従う、空燃比制御の概要を示す図。
【図4】この発明の一実施例に従う、制御対称である排気系を示すブロック図。
【図5】この発明の一実施例に従う、空燃比制御の制御ブロック図。
【図6】この発明の一実施例に従う、制御器の詳細な機能ブロック図。
【図7】この発明の一実施例に従う、応答指定型制御における切換直線を概略的に示す図。
【図8】この発明の一実施例に従う、応答指定型制御における応答特性を示す図。
【図9】触媒の劣化が過度に進んだ状態における切換関数および排ガスセンサ出力の推移の一例を示す図。
【図10】従来の空燃比制御に従う、制御系の係数の組み合わせを示す図。
【図11】従来の空燃比制御に従う、制御系の極および排ガスセンサ出力の特性を示す図。
【図12】従来の空燃比制御に従う、制御入力の挙動を概略的に示す図。
【図13】この発明の一実施例に従う、制御入力の挙動を概略的に示す図。
【図14】この発明の一実施例に従う、制御系の係数の組み合わせを示す図。
【図15】この発明の一実施例に従う、制御系の極および排ガスセンサ出力の特性を示す図。
【図16】この発明の一実施例に従う、触媒が過度に劣化した状態における排ガスセンサ出力の推移の一例を示す図。
【図17】触媒が正常な状態において、従来の空燃比制御による排ガスセンサ出力およびこの発明の一実施例に従う排ガスセンサ出力の比較を示す図。
【図18】この発明の他の実施例に従う、制御入力の挙動を概略的に示す図。
【図19】この発明の一実施例に従う、制御入力を算出するメインルーチンを示すフローチャート。
【図20】この発明の一実施例に従う、切換関数を算出するフローチャート。
【図21】この発明の一実施例に従う、切換関数の積算値を算出するフローチャート。
【図22】この発明の一実施例に従う、等価制御入力を算出するフローチャート。
【図23】この発明の一実施例に従う、到達則入力を算出するフローチャート。
【図24】この発明の一実施例に従う、適応則入力を算出するフローチャート。
【符号の説明】
1 エンジン
5 ECU
14 排気管
15 触媒装置
16 LAFセンサ
17 O2センサ
25 上流触媒
【発明の属する技術分野】
この発明は、内燃機関の排気系に設けられた排ガスセンサの出力に基づいて空燃比を制御する内燃機関の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の排気系には、触媒装置が設けられている。触媒装置は、内燃機関に供給される混合気の空燃比がリーンのとき、排気ガス中に存在する過剰の酸素でHCおよびCOを酸化し、空燃比がリッチのとき、HCおよびCOによってNoxを還元する。空燃比が理論空燃比領域にあるとき、HC、COおよびNoxが同時にかつ効果的に浄化される。
【0003】
触媒装置の下流には、排ガスセンサが設けられる。排ガスセンサは、排気系に排気されたガス中の酸素濃度を検出する。排ガスセンサの出力に基づいて、内燃機関の空燃比のフィードバック制御が実施される。
【0004】
空燃比のフィードバック制御の一例として、特開平11−153051公報には、切換関数を用いる応答指定型制御が提案されている。この制御は、該切換関数の値をゼロに収束することによって、排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させる。排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるための操作量が算出される。該操作量に応じて、内燃機関への燃料供給量が制御される。こうして、空燃比が安定的に制御される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
失火等の理由によって触媒の劣化が過度に進行した状態(以下、NGCAT状態とも呼ぶ)では、切換関数値が収束するにもかかわらず、排ガスセンサの出力が目標値に収束しない状態が生じることがある。排ガスセンサの出力が目標値に収束しないと、空燃比を安定的に制御することができなくなり、排ガスの有害成分が排出されるおそれがある。
【0006】
したがって、触媒が過度に劣化した状態等においても、空燃比を安定的に制御して、触媒の浄化率をできるだけ高く維持し、かつ排ガスの有害成分の排出量を低減することができる制御が必要とされている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明の一つの側面によると、排気系に配置された排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束することによって空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置が提供される。該制御は、排ガスセンサの出力の目標値への収束挙動を指定する関数の値をフィードバックする制御であり、該制御の入力は、該関数値をゼロに収束させる入力と排ガスセンサ出力を目標値に収束させる入力との総和である。
【0008】
この発明によれば、制御入力が、排ガスセンサ出力を目標値に収束させる入力を持つので、排ガスセンサの出力を目標値に収束させることが可能となる。したがって、排ガスセンサの出力が停滞して目標値に収束しない状況を防止することができる。特に、触媒の劣化が過度に進んでいる場合においても、触媒の浄化率をできるだけ高く維持し、排ガスの有害成分を低減させることができる。
【0009】
この発明の他の側面によれば、制御装置は、さらに、排ガスセンサの出力の推定値を算出する。制御入力は、算出された推定値に基づいて決定される。この発明によると、制御対象(プラント)にむだ時間が存在する場合でも、安定的にセンサ出力を目標値に制御することができる。
【0010】
この発明の他の側面によれば、制御装置は、さらに、排ガスセンサの動特性を表現するモデルのモデルパラメータを決定する。制御入力は、該モデルパラメータを用いて決定される。この発明によれば、排ガスセンサの出力の動特性が経時的に変化したり、バラツキを持っている場合でも、運転状態に応じてモデルパラメータを適切に決定することができる。したがって、安定的に排ガスセンサの出力を目標値に収束させることができる。
【0011】
この発明の他の側面によると、排ガスセンサの出力の推定値は、決定されたモデルパラメータに基づいて算出される。運転状態に応じて決定されたモデルパラメータを用いることにより、排ガスセンサの出力を、良好な精度で推定することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
内燃機関および制御装置の構成
次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の実施形態による内燃機関(以下、「エンジン」という)およびその制御装置の全体的なシステム構成図である。
【0013】
電子制御ユニット(以下、「ECU」)という)5は、車両の各部から送られてくるデータを受け入れる入力インターフェース5a、車両の各部の制御を行うための演算を実行するCPU5b、読み取り専用メモリ(ROM)およびランダムアクセスメモリ(RAM)を有するメモリ5c、および車両の各部に制御信号を送る出力インターフェース5dを備えている。メモリ5cのROMには、車両の各部の制御を行うためのプログラムおよび各種のデータが格納されている。この発明に従う空燃比制御を実現するためのプログラム、および該プログラムの実行の際に用いるデータおよびテーブルは、このROMに格納されている。ROMは、EEPROMのような書き換え可能なROMでもよい。RAMには、CPU5bによる演算のための作業領域が設けられる。車両の各部から送られてくるデータおよび車両の各部に送り出す制御信号は、RAMに一時的に記憶される。
【0014】
エンジン1は、たとえば4気筒を備えるエンジンである。吸気管2が、エンジン1に連結されている。吸気管2の上流側にはスロットル弁3が設けられている。スロットル弁3に連結されたスロットル弁開度センサ(θTH)4は、スロットル弁3の開度に応じた電気信号を、ECU5に供給する。
【0015】
スロットル弁3をバイパスする通路21が、吸気管2に設けられている。エンジン1に供給する空気量を制御するためのバイパス弁22が、バイパス通路21に設けられている。バイパス弁22は、ECU5からの制御信号に従って駆動される。
【0016】
燃料噴射弁6は、エンジン1とスロットル弁3の間であって、吸気管2の吸気弁(図示せず)の少し上流側に各気筒毎に設けられている。燃料噴射弁6は、燃料ポンプ(図示せず)に接続され、該燃料ポンプを介して燃料タンク(図示せず)から燃料の供給を受ける。燃料噴射弁6は、ECU5からの制御信号に従って駆動される。
【0017】
吸気管圧力(Pb)センサ8および吸気温(Ta)センサ9は、吸気管2のスロットル弁3の下流側に設けられている。Pbセンサ8およびTaセンサ9によって検出された吸気管圧力Pbおよび吸気温Taは、それぞれECU5に送られる。
【0018】
エンジン水温(Tw)センサ10は、エンジン1のシリンダブロックの、冷却水が充満した気筒周壁(図示せず)に取り付けられる。Twセンサ10によって検出されたエンジン冷却水の温度Twは、ECU5に送られる。
【0019】
回転数(Ne)センサ13は、エンジン1のカム軸またはクランク軸(共に図示せず)周辺に取り付けられる。Neセンサ13は、たとえばピストンのTDC位置に関連したクランク角度で出力されるTDC信号パルスの周期よりも短いクランク角度(たとえば、30度)の周期で、CRK信号パルスを出力する。CRK信号パルスは、ECU5によってカウントされ、エンジン回転数Neが検出される。
【0020】
エンジン1の下流側には排気管14が連結されている。エンジン1は、排気管14を介して排気する。排気管14の途中に設けられた触媒装置15は、排気管14を通る排気ガス中のHC、CO、NOxなどの有害成分を浄化する。触媒装置15には、2つの触媒が設けられている。上流側に設けられた触媒を上流触媒と呼び、下流側に設けられた触媒を下流触媒と呼ぶ。
【0021】
広域空燃比センサ(LAF)センサ16は、触媒装置15の上流に設けられている。LAFセンサ16は、リーンからリッチにわたる広範囲の空燃比を検出する。検出された空燃比は、ECU5に送られる。
【0022】
O2(排ガス)センサ17は、上流触媒と下流触媒の間に設けられている。O2センサ17は2値型の排気ガス濃度センサである。O2センサは、空燃比が理論空燃比よりもリッチであるとき高レベルの信号を出力し、空燃比が理論空燃比よりもリーンであるとき低レベルの信号を出力する。出力された電気信号は、ECU5に送られる。
【0023】
ECU5に向けて送られた信号は入力インターフェース5aに渡され、アナログ−デジタル変換される。CPU5bは、変換されたデジタル信号を、メモリ5cに格納されているプログラムに従って処理し、車両のアクチュエータに送るための制御信号を作り出す。出力インターフェース5dは、これらの制御信号を、バイパス弁22、燃料噴射弁6、およびその他の機械要素のアクチュエータに送る。
【0024】
図2は、触媒装置15の構造を示す。排気管14に流入した排気ガスは、上流触媒25を通過し、その後下流触媒26を通過する。上流および下流触媒の間に設けられたO2センサの出力に基づく空燃比制御の方が、下流触媒の下流に設けられたO2センサの出力に基づく空燃比制御よりも、Noxの浄化率を最適に維持しやすいことがわかっている。そのため、この発明に従う実施形態では、O2センサ17を、上流および下流触媒の間に設ける。O2センサ17は、上流触媒25を通過した後の排気ガスの酸素濃度を検出する。
【0025】
代替的に、O2センサを、下流触媒26の下流に設けてもよい。また、1つの触媒によって触媒装置15が実現されている場合には、該触媒装置15の下流にO2センサは設けられる。
【0026】
図3は、上流触媒および下流触媒の浄化の挙動を示す。ウィンドウ27は、CO、HCおよびNOxが最適に浄化される空燃比領域を示す。上流触媒25において、排気ガス中の酸素が浄化作用に消費されるため、下流触媒26に供給される排気ガスは、ウィンドウ28によって示されるような還元雰囲気(すなわち、リッチ状態)を有している。このような還元雰囲気において、さらなる量のNOxが浄化される。こうして排気ガスは、クリーンな状態で排気される。
【0027】
この発明に従う空燃比の適応制御は、触媒15の浄化性能を最適に維持するため、O2センサ17の出力を目標値に収束させることにより、空燃比がウィンドウ27内に収まるようにする。
【0028】
参照番号29は、適応空燃比制御において空燃比の操作量の限界を規定する許容範囲を例示しており、これについての詳細は後述される。
【0029】
図4は、図2のLAFセンサ16からO2センサ17にいたるブロック図である。LAFセンサ16は、上流触媒25に供給される排ガスの空燃比KACTを検出する。O2センサ17は、上流触媒25によって浄化された排ガスの酸素濃度を、電圧Vo2/OUTとして出力する。LAFセンサ16からO2センサ17までの排気系19が、この発明に従う適応空燃比制御の制御対象(プラント)となる。
【0030】
適応空燃比制御モード
図5は、適応空燃比制御の制御ブロック図を示す。制御対象である排気系19のO2センサ17の出力Vo2/OUTが、目標値Vo2/TARGETと比較される。比較結果に基づいて、制御器31は、空燃比偏差kcmdを求める。空燃比偏差kcmdを基準値FLAF/BASEに加算し、目標空燃比KCMDを求める。目標空燃比KCMDによって補正された燃料噴射量が、エンジン1に供給される。その後、排気系のO2センサ17の出力Vo2/OUTが再び検出される。
【0031】
このように、制御器31は、O2センサ17の出力Vo2/OUTを目標値Vo2/TARGETに収束するよう目標空燃比KCMDを求めるフィードバック制御を実行する。制御対象である排気系19を、出力をVo2/OUT、入力をLAFセンサの出力KACTとして、式(1)のようにモデル化することができる。排気系19は離散時間系モデルとしてモデル化される。離散時間系モデルは、空燃比制御のアルゴリズムをコンピュータ処理に適した簡易なものとする。前述したように、kはサイクルを識別する識別子である。
【0032】
【数1】
【0033】
Vo2は、式(1)に示されるように、O2センサ17の出力値Vo2/OUTの目標値Vo2/TARGETに対する偏差(以下、センサ出力偏差と呼ぶ)を示す。実空燃比偏差kactは、基準値FLAF/BASEに対するLAFセンサの出力KACTの偏差を示す(kact=KACT−FLAF/BASE)。空燃比の基準値FLAF/BASEは、目標空燃比KCMDの中心的な値になるよう設定され、たとえば理論空燃比を示す値(すなわち、1)に設定される。基準値FLAF/BASEは、一定値でもよいし、または運転状態に応じて決めるようにしてもよい。
【0034】
d1は、排気系19が有するむだ時間を示す。むだ時間d1は、LAFセンサ16によって検出された空燃比がO2センサ17の出力に反映されるのに要する時間を示す。a1、a2およびb1はモデルパラメータであり、後述する同定器によって生成される。
【0035】
一方、エンジン1およびECU5からなる空燃比を操作する系は、式(2)のようにモデル化されることができる。目標空燃比偏差kcmdは、基準値FLAF/BASEに対する目標空燃比KCMDの偏差を示す(kcmd=KCMD−FLAF/BASE)。d2は、該空燃比操作系におけるむだ時間を示す。むだ時間d2は、算出された目標空燃比KCMDがLAFセンサ16の出力KACTに反映されるのに要する時間を示す。
【0036】
【数2】
【0037】
図6は、図5に示される制御器31のさらに詳細なブロック図を示す。制御器31は、同定器32、推定器33、スライディングモード制御器34およびリミッタ35を備える。
【0038】
同定器32は、式(1)におけるモデルパラメータa1、a2およびb1を、モデル化誤差をなくすように同定する。同定器32によって実施される同定方法を以下に示す。
【0039】
前回の制御サイクルで算出されたモデルパラメータa1(k−1)、a2(k−1)およびb1(k−1)を用い(以下、これらのパラメータをa1(k−1)ハット、a2(k−1)ハットおよびb1(k−1)ハットと呼ぶ)、式(1)に従って今回のサイクルのセンサ出力偏差Vo2(k)(以下、これをセンサ出力偏差Vo2(k)ハットと呼ぶ)を式(3)に従って求める。
【0040】
【数3】
【0041】
式(4)は、式(3)で算出されたセンサ出力偏差Vo2(k)ハットと、今回の制御サイクルで実際に検出されたセンサ出力偏差Vo2(k)との偏差id/e(k)を示す。
【0042】
【数4】
【0043】
同定器32は、偏差id/e(k)を最小にするように、今回のサイクルにおけるa1(k)ハット、a2(k)ハットおよびb1(k)ハットを算出する。ここで、式(5)に示されるようにベクトルΘを定義する。
【0044】
【数5】
【0045】
同定器32は、式(6)に従い、a1(k)ハット、a2(k)ハットおよびb1(k)ハットを求める。式(6)に示されるように、前回の制御サイクルで決定されたa1(k)ハット、a2(k)ハットおよびb1(k)ハットを、偏差id/e(k)に比例する量だけ変化させることにより、今回の制御サイクルにおけるa1(k)ハット、a2(k)ハットおよびb1(k)ハットを求める。
【0046】
【数6】
【0047】
推定器33は、排気系19のむだ時間d1および空燃比を操作する系のむだ時間d2を補償するため、むだ時間d(=d1+d2)後のセンサ出力偏差Vo2を推定する。
【0048】
まず、排気系のモデル式(1)に、空燃比を操作する系のモデル式(2)を代入すると、式(7)が導かれる。
【0049】
【数7】
【0050】
式(7)で示されるモデル式は、排気系19および上記の空燃比を操作する系を合わせた系を表現している。式(7)を用いることにより、むだ時間d後のセンサ出力偏差Vo2(k+d)の推定値Vo2(k+d)バーが、式(8)のようにして求められる。係数α1、α2およびβjは、同定器32で算出されたモデルパラメータを用いて算出される。目標空燃比偏差の過去の時系列データkcmd(k−j)(ただし、j=1、2、...d)は、むだ時間dの長さの間に取得された目標空燃比偏差を含む。
【0051】
【数8】
【0052】
むだ時間d2以前の空燃比偏差kcmdの過去の値kcmd(k−d2)、kcmd(k−d2−1)、...kcmd(k−d)の値を、上記の式(2)を用いてLAFセンサ16の偏差出力kac(k)、kact(k−1)、...kact(k−d+d2)で置き換えることができる。その結果、式(9)が得られる。
【0053】
【数9】
【0054】
スライディングモード制御器34は、スライディングモード制御を実行するため、切換関数σを式(10)のように設定する。
【0055】
【数10】
【0056】
ここで、Vo2(k−1)は、前述したように前回のサイクルで検出されたセンサ出力偏差を示す。Vo2(k)は、今回のサイクルで検出されたセンサ出力偏差を示す。sは、切換関数σの設定パラメータであり、−1<s<1となるよう設定される。
【0057】
切換関数σ(k)=0とした式は等価入力系と呼ばれ、制御量であるセンサ出力偏差Vo2の収束特性を規定する。σ(k)=0とすると、式(10)は以下の式(11)のように変形することができる。
【0058】
【数11】
【0059】
ここで、図7および式(11)を参照して、切換関数σの特性を説明する。図7は、縦軸がVo2(k)および横軸がVo2(k−1)の位相平面上に、式(11)を線41で表現したものである。この線41を切換直線と呼ぶ。Vo2(k−1)およびVo2(k)の組合せからなる状態量(Vo2(k−1), Vo2(k))の初期値が、点42で表されているとする。スライディングモード制御は、点42で表される状態量を、切換直線41上に載せて該直線41上に拘束するよう動作する。スライディングモード制御によると、状態量を切換直線41上に保持することにより、該状態量を、外乱等の影響されることなく、極めて安定的に位相平面上の原点0に収束させることができる。言い換えると、状態量(Vo2(k−1),Vo2(k))を、式(11)に示される入力の無い安定系に拘束することにより、外乱およびモデル化誤差に対してロバストにセンサ出力偏差Vo2/OUTを目標値Vo2/TARGETに収束させることができる。
【0060】
切換関数設定パラメータsは、可変に設定することができるパラメータである。設定パラメータsを調整することにより、センサ出力偏差Vo2の減衰(収束)特性を指定することができる。
【0061】
図8は、スライディングモード制御の応答指定特性の一例を示すグラフである。グラフ43は、sの値が“1”である場合を示し、グラフ44はsの値が“0.8”である場合を示し、グラフ45はsの値が“0.5”である場合を示す。グラフ43〜45から明らかなように、sの値に従って、センサ出力偏差Vo2の収束速度が変化する。sの絶対値を小さくするほど、収束速度が速くなる。
【0062】
切換関数σの値をゼロにするよう、要求偏差Uslが決定される。要求偏差Uslは、式(12)に示されるように、等価制御入力Ueq、到達則入力Urch、および適応則入力Uadpの和である。
【0063】
【数12】
【0064】
リミッタ35は、要求偏差Uslに対してリミット処理を行い、空燃比偏差kcmdを求める。具体的には、リミッタ35は、要求偏差Uslが許容範囲内にあれば、該要求偏差Uslを空燃比偏差kcmdとする。要求偏差Uslが許容範囲から逸脱している場合は、該許容範囲の上限値または下限値を、空燃比偏差kcmdに設定する。
【0065】
リミッタ35で使用される許容範囲は、図3の参照番号29に示されるように、ウィンドウ27を略中心として、これを含むさらに広い範囲に設定される。この許容範囲は、要求偏差Uslおよび運転状態等に応じてアクティブに移動する。また、この許容範囲は、空燃比の変動によるエンジンの燃焼変動を抑制しつつ、触媒の浄化能力がウィンドウ27の最適な状態から外れた際に速やかに該最適な状態に復帰させるのに十分な幅を持つ。よって、過渡状態での触媒浄化率を高く保つことができ、有害な排ガス成分を低減することができる。
【0066】
具体的には、許容範囲は、算出された要求偏差Uslに応じて可変に更新される。たとえば、要求偏差Uslの許容範囲からの逸脱量に応じて、許容範囲を拡大する。または、要求偏差Uslが許容範囲内にあるとき、該許容範囲を縮小する。こうして、O2センサ17の出力を目標値に収束させるのに必要な空燃比を規定する要求偏差Uslに適した許容範囲が設定される。
【0067】
さらに、許容範囲は、O2センサ17の出力の不安定さが高いほど狭く設定される。また、許容範囲は、始動時、アイドリング運転状態および燃料カットが解除された時等を含め、運転状態に応じて設定されるようにしてもよい。
【0068】
求められた空燃比偏差kcmdを基準値FLAF/BASEに加算して目標空燃比KCMDを求める。該目標空燃比KCMDを、制御対象である排気系19に与えることにより、O2センサの出力Vo2/OUTを目標値Vo2/TARGETに収束させることができる。
【0069】
代替の実施形態においては、空燃比の基準値FLAF/BASEは、リミッタ35によるリミット処理が終了した後、スライディングモード制御器34によって算出される適応則入力Uadpに応じて可変に更新される。具体的には、基準値FLAF/BASEは、初期値として理論空燃比が設定される。適応則Uadpが予め決められた上限値を超えているならば、基準値FLAF/BASEは所定量だけ増やされる。適応則Uadpが予め決められた下限値を下回っているならば、基準値FLAF/BASEは所定量だけ減らされる。適応則Uadpが上限値および下限値の間にあれば、基準値FLAFBASEは更新されない。更新されたFLAF/BASEは、次回のサイクルにおいて用いられる。こうして、基準値FLAF/BASEは、目標空燃比KCMDの中心的な値になるよう調整される。
【0070】
基準値FLAF/BASEの更新処理を上記のリミット処理と組み合わせることにより、要求偏差Uslの許容範囲が正負にバランスされる。基準値FLAF/BASEの更新処理は、O2センサ出力Vo2/OUTが目標値Vo2/TARGETにほぼ収束し、スライディングモード制御が安定状態にあると判断されたときに行われるのが好ましい。
【0071】
制御入力の考察
図6のスライディングモード制御器34によって算出される制御入力について説明する。制御入力Uslには、等価制御入力Ueq、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpが含まれる。
【0072】
1)従来の適応制御における制御入力の算出
本発明の理解を深めるため、最初に、従来の適応制御における制御入力Uslの算出方法について述べる。制御入力Uslは、状態量を切換直線上に拘束するための等価制御入力Ueq、状態量を切換直線上に載せるための到達則入力Urch、およびモデル化誤差および外乱を抑制しつつ、状態量を切換直線に載せるための適応則入力Uadpを含む。
【0073】
等価制御入力Ueqは、状態量を切換直線上に拘束するための入力であるので、式(13)を満たすことが条件となる。
【0074】
【数13】
【0075】
したがって、σ(k+1)=σ(k)とするための等価制御入力Ueqは、式(7)および(10)から、式(14)に従って算出される。
【0076】
【数14】
【0077】
切換関数σの値に応じた値を持つ到達則入力Urchは、式(15)に従って算出される。この実施例では、到達則入力Urchは切換関数σの値に比例した値を持つ。Krchは到達則のフィードバックゲインを示し、これは、切換直線σ=0への収束の安定性および速応性等を考慮して、シミュレーション等に基づいて予め定められる。
【0078】
【数15】
【0079】
切換関数σの積算値に応じた値を持つ適応則入力Uadpは、式(16)に従って算出される。この実施例では、適応則入力Uadpは切換関数σの積算値に比例した値を持つ。Kadpは適応則のフィードバックゲインを示し、これは、切換直線σ=0への収束の安定性および速応性等を考慮して、シミュレーション等に基づいて予め定められる。ΔTは、制御サイクルの周期を示す。
【0080】
【数16】
【0081】
センサ出力偏差Vo2(k+d)およびVo2(k+d−1)と、切換関数の値σ(k+d)は、むだ時間dが考慮された予測値であるので、これらを直接求めることはできない。そこで、推定器33によって求められた推定偏差Vo2(k+d)バーおよびVo2(k+d−1)バーを用い、等価制御入力Ueqを求める。
【0082】
【数17】
【0083】
また、推定器33によって算出された推定偏差を用いて、式(18)に示されるように切換関数σバーが算出される。
【0084】
【数18】
【0085】
切換関数σバーを用いて、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpを算出する。
【0086】
【数19】
【0087】
【数20】
【0088】
こうして、等価制御入力Ueq、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpが算出される。
【0089】
2)NGCAT状態における従来の空燃比制御
発明の理解を助けるため、従来の空燃比制御における制御入力の特性を考察する。
【0090】
図9は、触媒が過度に劣化した状態における、従来の空燃比制御の挙動の一例を示す。グラフ51は、切換関数値σの推移を示す。グラフ52は、切換関数値σの積算値の推移を示す。グラフ53は、排ガスセンサの目標値Vo2/TARGETに対するセンサ出力Vo2/OUTの推移を示す。
【0091】
グラフ51に示されるように、切換関数値σはゼロに収束していく。それに応じて、切換関数値σの積算値もゼロに収束していく。センサ出力Vo2/OUTは、切換関数値σがゼロに収束していくにもかかわらず、目標値Vo2/TARGETに対して定常偏差を呈している。これは、切換関数σをゼロにすることでセンサ出力偏差Vo2を収束させるというスライディングモードが生じていないことを示す。
【0092】
このように、従来の空燃比制御では、触媒が過度に劣化した状態等の特定の状態において、切換関数値σがゼロに収束するにもかかわらず、センサ出力Vo2/OUTが目標値Vo2/TARGETに収束しない場合がある。
【0093】
前述したように、スライディングモード制御は、切換関数値σをゼロとすることで、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させる。切換関数値σをゼロにするための制御入力を考察すると、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpは、切換直線上へ状態量を載せるための入力である。従来の空燃比制御において算出される等価制御入力Ueqは、切換直線上に載った状態量(Vo2(k−1), Vo2(k))を、該切り換え直線上に拘束するための入力である。このように、従来の空燃比制御における制御入力は、センサ出力偏差Vo2を直接的にゼロに収束させる入力を持たない。したがって、上記の3つの制御入力により切換関数σがゼロに収束しているにもかかわらずスライディングモードが生じない場合、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることができない。
【0094】
ここで、従来の空燃比制御における制御入力の挙動を解析する。簡略化のため、むだ時間dを省略すると、等価制御入力Ueqを表す式(14)は、式(21)のように表される。
【0095】
【数21】
【0096】
また、式(1)に示されるモデル式において、簡略化のためむだ時間d1を省略すると、式(22)のように表される。
【0097】
【数22】
【0098】
制御入力Uslは、等価制御入力Ueq、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpの和であることは述べた。図9に示されるような切換関数値σがゼロである状況では、式(15)および式(16)から明らかなように、UrchおよびUadpはゼロである。したがって、制御入力Usl=Ueqとなる。モデル式(1)は、式(23)のように表される。
【0099】
【数23】
【0100】
式(21)を式(23)のUeqに代入すると、式(24)が得られる。
【0101】
【数24】
【0102】
式(24)は、入力の無い2次の離散時間系を表している。(1−s)をα1、sをα2で表すと、式(25)が導かれる。
【0103】
【数25】
【0104】
ここで図10を参照すると、三角形61で表される領域は、式(25)で表される系が理論上安定となる係数α1およびα2の組み合わせを規定している。すなわち係数α1およびα2の組み合わせが三角形61の中にあるとき、センサ出力偏差Vo2が時間と共にゼロに収束し、該系は安定である。
【0105】
ここで、式(24)で表される系を考察する。式(24)および(25)から、式(26)が導かれる。
【0106】
【数26】
【0107】
(1−s)およびsの係数の組み合わせは、三角形61の辺ABで表されることがわかる。
【0108】
一方、離散時間系においては、所与の系について、該系の極が複素平面上の単位円内にある場合、該系は安定である、ということが知られている。すなわち、図10に示される三角形61内に存在する係数α1およびα2の組合せを持つ系の極は、単位円内に存在する。
【0109】
そこで、式(24)で表される系を再び参照すると、該系の極64および65は、それぞれ“1”および“−S”である。ここで、該系の極64は、単位円62の円周上にある(参照場番号63は、式(24)の系の零点を表す)。極64が単位円の円周上にあるので、式(24)の系は安定限界であることがわかる。
【0110】
すなわち、図10の直線ABで表されるパラメータ(1−s)およびsの組合せを持つ系は安定限界にあることがわかる。これは、図11の(b)に示されるようにセンサ出力偏差Vo2が減衰特性を持たないことを意味する。
【0111】
このように、従来の空燃比制御における等価制御入力Ueqは、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させる機能をもたず、該偏差Vo2をホールドする機能を持つことがわかる。
【0112】
図12は、従来の空燃比制御における制御入力のそれぞれの挙動を概念的に示す。到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpは、切換直線71に対して法線方向の作用のみを持ち、状態量72を切換直線に載せようとする。等価制御入力Ueqは、状態量72をその場にホールドする機能を持つ。
【0113】
3)本発明の第1の実施例における制御入力の算出
本発明に従う第1の実施例においては、図9に示されるような触媒が過渡に劣化した場合においても、スライディングモードを発生させてセンサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることのできる制御入力が用いられる。
【0114】
ここで、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpは、切換関数値σに基づいて算出される制御入力である。したがって、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpを操作しても、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることはできない。そこで、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させるため、状態量(Vo2(k−1), Vo2(k))のフィードバック項である等価制御入力Ueqを操作する。
【0115】
第1の実施例による等価制御入力Ueq’は、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させる機能を持つ。この等価制御入力Ueq’を求める方法を説明する。スライディングモードの発生を阻害しないようにするため、等価制御入力Ueq’に、切換関数値σがゼロに向かう方向、すなわち切換直線に対して法線方向の成分を持たせる。したがって、式(27)を満たすことを条件に、等価制御入力Ueq’を求める。式(27)は、切換関数値σが、制御サイクルごとにQ(<1)倍ずつ減少することを表している。
【0116】
【数27】
【0117】
等価制御入力Ueq’は、式(28)に従って算出される。
【0118】
【数28】
【0119】
図13は、式(28)で示される等価制御入力Ueq’の挙動をベクトル73によって概略的に示す。図12と比較して明らかなように、等価制御入力Ueq’は、切換直線71に対して法線方向の成分を持ち、かつ、状態量72をゼロに向かわせる成分、すなわち切換直線71に対して平行な成分を持つ。
【0120】
式(22)のモデル式は、式(29)のように表される。
【0121】
【数29】
【0122】
式(29)に式(28)を代入すると、式(30)が得られる。
【0123】
【数30】
【0124】
ここで、式(30)の係数(Q−S)およびQ・sを、α1’およびα2’とそれぞれ定義すると、式(31)が得られる。
【0125】
【数31】
【0126】
係数α1’およびα2’の組み合わせは、図14に示される三角形61で表される。該三角形61は、図10に示される三角形と同じである。前述したように、係数α1’およびα2’の組み合わせが三角形の中にあるとき、式(31)で表される系は安定である。
【0127】
式(30)および式(31)から、式(32)が導かれる。
【0128】
【数32】
【0129】
Qは、以下の式で表される。Rを決めることにより、Qを求めることができる。
【0130】
【数33】
【0131】
R<1を満たす(Q−s)およびQsの組み合わせは、三角形61の中を横切る直線A’B’で表されることができる。図15の(a)に示されるように、式(30)で示される系の極76および77は、単位円の中に収まる。したがって、センサ出力偏差Vo2は、図15の(b)に示されるようにゼロに収束する。
【0132】
Rは、直線A’B’を三角形の中にどの程度入れるかを示す。R=1のとき、直線A’B’は、三角形61の辺上(図10に示される直線ABと同じ位置)にある。Rの絶対値が大きいほど、センサ出力偏差Vo2の収束速度が大きい。
【0133】
このように、第1の実施例に従う等価制御入力Ueq’は、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させる機能を持つ。第1の実施例において、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpは、第一の実施例と同様にして算出される。
【0134】
等価制御入力Ueq’は、図6を参照して説明した推定器によって算出される推定偏差Vo2バーを用いて、式(34)に従って求められるのが好ましい。
【0135】
【数34】
【0136】
第1の実施例によれば、図9に示されるような状況においても、スライディングモードを発生させて、切換関数値σをゼロに収束させると共に、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることができる。
【0137】
図16は、第1の実施例に従う、触媒が過度に劣化した場合のセンサ出力Vo2/OUTの推移を示す。図9と目盛りのスケールが異なることに注意されたい。図9の(a)においては、定常偏差が約数百mVのオーダー(たとえば、400mV)で現れていたが、図16では、約10mVに低減している。すなわち、第二の実施例によれば、触媒が過度に劣化した場合でも、センサ出力偏差Vo2をゼロに収束させることができる。
【0138】
図17は、触媒が正常な場合の、センサ出力Vo2/OUTの挙動を示す。図17の(a)は従来の空燃比制御を実施した場合を示し、図17の(b)は本発明の第1の実施例に従う空燃比制御を実施した場合を示す。グラフ81および83は、センサ出力Vo2/OUTの推移を示し、グラフ82および84は車速の推移を示す。
【0139】
領域85と領域87のセンサ出力Vo2/OUTを比較すると、従来の空燃比制御では、センサ出力Vo2/OUTに大きな変動が現れているのに対し、第1の実施例に従う空燃比制御では、センサ出力Vo2/OUTが安定している。さらに、領域87と領域88におけるセンサ出力Vo2/OUTを比較して明らかなように、第1の実施例に従う空燃比制御では、車速が低くて内燃機関が低負荷の場合においても、良好な制御性を維持することができる。
【0140】
4)本発明の第2の実施例における制御入力の算出
本発明に従う第2の実施例は、第1の実施例の変形形態であり、上記のパラメータα1’およびα2’を、それぞれ、(Q1―s)およびQ2・Sとして、等価制御入力Ueq’を求める。
【0141】
Q1およびQ2は、以下の式を満たすよう決定される。
【0142】
【数35】
【0143】
式(35)を満たすことにより、α1’およびα2’の組合せは、図14の直線A’B’のように表される。したがって、センサ出力偏差Vo2を収束させることができる。
【0144】
等価制御入力Ueq’は、式(36)に従って算出される。
【0145】
【数36】
【0146】
式(36)は、式(37)のように変形することができる。
【0147】
【数37】
【0148】
式(21)と比較して明らかなように、式(36)に示される等価制御入力Ueq’は、従来の空燃比制御における等価制御入力Ueqに対し、“−1{(1−Q1)・Vo2(k)}/b1”の項と、“−1{(S−Q2・S)・Vo2(k−1)}/b1”の項が追加された形となっている。
【0149】
図18に、式(37)で示される等価制御入力Ueq’のベクトル93を概念的に示す。ベクトル93は、Q1に基づくVo2(k)方向の成分と、Q2に基づくVo2(k−1)方向の成分とを持つ。したがって、ベクトル93の方向および大きさを、Q1およびQ2によって細かく調整することが可能となる。これにより、状態量92の収束態様を柔軟に調整することができる。
【0150】
本発明の第1の実施例に従う制御入力算出のフロー
図19は、第1の実施例に従う制御入力Uslを求めるメインルーチンを示す。ステップS101において、切換関数σを算出するルーチン(図20)を実行する。ステップS102において、切換関数σの積算値SUMSGMFを算出するルーチン(図21)を実行する。
【0151】
ステップS103〜S105において、等価制御入力Ueq’、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpをそれぞれ算出する。これらのステップは、並列に実行してもよい。ステップS106において、等価制御入力Ueq’、到達則入力Urchおよび適応則入力Uadpの和を算出し、制御入力Uslを求める。
【0152】
図20は、図19のステップS101で実行される、切換関数算出ルーチンを示す。ステップS111において、前述の式(18)に示されるように、推定器によって算出されたセンサ出力偏差Vo2(k)バーに、Vo2(k−1)バーに設定パラメータsを掛けたものを加算し、得られた値を一時変数sigmf_tmpに格納する。
【0153】
ステップS112〜S116は、切換関数値のリミット処理を示す。一時変数sigmf_tmpが、予め決められた最大値SIGMFHよりも大きければ、切換関数σバーの値に該最大値を設定する(S113)。一時変数sigmf_tmpが、予め決められた最小値SIGMFLよりも小さければ、切換関数σバーの値に該最小値を設定する(S115)。一時変数sigmf_tmpが、最大値SIGMFHと最小値SIGMFLの間にあるならば、一時変数sigmf_tmpの値を切換関数σバーに代入する(S116)。
【0154】
図21は、図19のステップS102で実行される切換関数の積算値SUMSGMFの算出ルーチンを示す。ステップS121において、前回のサイクルで算出された積算値SUMSGMF(k−1)の値が予め決められたリミット値に達しているかどうかを判断する。達していたならば、ステップS122に進み、前回のサイクルで算出された積算値の値(k−1)に、予め決められた値SUMSGMFLをセットする。これは、積算値の値が過剰に大きくなると、適応則入力の値の信頼性が低下するおそれがあるからである。
【0155】
ステップS123において、前回のサイクルで算出された積算値SUMSGMFに、今回のサイクルで算出された切換関数σバーの値を加算し、一時変数ssigmf_tmpに加算する。ステップS124〜S128は、積算値のリミット処理である。具体的には、一時変数ssigmf_tmpが、予め決められた最大値SUMSFHよりも大きければ、積算値SUMSGMFに該最大値を設定する(S125)。一時変数ssigmf_tmpが、予め決められた最小値SUMSFLよりも小さければ、積算値SUMSGMFに該最小値を設定する(S127)。一時変数ssigmf_tmpが、最大値SUMSFHと最小値SUMSFLの間にあるならば、一時変数ssigmf_tmpの値を積算値SUMSGMFに代入する(S128)。
【0156】
図22は、図20のステップS269で実行される、等価制御入力算出ルーチンを示す。ステップS131において、前述した式(33)に示されるQを用いて、Vo2(k)バーの項KUeq1を計算する。ステップS132において、式(33)に示されるQを用いて、Vo2(k−1)バーの項KUeq2を計算する。
【0157】
ステップS134において、ステップS131および132で求められたKUeq1およびKUeq2に基づき、式(33)に従って等価制御Ueq’を求める。ここで、ステップ131および132は、並列に実行してもよい。
【0158】
図23は、図19のステップS104で実行される、到達則入力算出ルーチンを示す。ステップS141において、前述した式(19)に従い、切換関数σバーにフィードバックゲインKrchを乗算し、得られた値を一時変数urch_tmpに代入する。ステップS142〜S146は、到達則入力のリミット処理である。具体的には、一時変数urch_tmpが、予め決められた最大値URCHFHよりも大きければ、到達則入力Urch該最大値を設定する(S143)。一時変数urch_tmpが、予め決められた最小値URCHFLよりも小さければ、到達則入力Urchに該最小値を設定する(S145)。一時変数urch_tmpが、最大値URCHFHと最小値URCHFLの間にあるならば、一時変数urch_tmpの値を到達則入力Urchに代入する(S146)。
【0159】
図24は、図19のステップS105で実行される、適応則入力算出ルーチンを示す。ステップS151において、前述した式(20)に従い、切換関数σの積算値SUMSGMFにフィードバックゲインKadpを乗算し、適応則入力Uadpを求める。
【0160】
この明細書においては、スライディングモード制御を用いて適応空燃比制御を実施する例を説明した。しかしながら、他の応答指定型制御を用いて適応空燃比制御を実施する場合にも、本発明を適用することができる。
【0161】
他の実施形態においては、従来の適応空燃比制御における等価制御入力Ueqと、第1の実施例(または第2の実施例)に従う等価制御入力Ueq’を、運転状態に応じて切り換えてもよい。たとえば、触媒の劣化が検知された場合、等価制御入力Ueqを、第1の実施例(または第2の実施例)に従う等価制御入力Ueq’に切り換える。
【0162】
本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用が可能である。
【0163】
【発明の効果】
この発明によると、制御対象の出力が停滞して目標値に収束しない状況を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例に従う、内燃機関およびその制御装置を概略的に示す図。
【図2】この発明の一実施例に従う、触媒装置および排ガスセンサの配置を示す図。
【図3】この発明の一実施例に従う、空燃比制御の概要を示す図。
【図4】この発明の一実施例に従う、制御対称である排気系を示すブロック図。
【図5】この発明の一実施例に従う、空燃比制御の制御ブロック図。
【図6】この発明の一実施例に従う、制御器の詳細な機能ブロック図。
【図7】この発明の一実施例に従う、応答指定型制御における切換直線を概略的に示す図。
【図8】この発明の一実施例に従う、応答指定型制御における応答特性を示す図。
【図9】触媒の劣化が過度に進んだ状態における切換関数および排ガスセンサ出力の推移の一例を示す図。
【図10】従来の空燃比制御に従う、制御系の係数の組み合わせを示す図。
【図11】従来の空燃比制御に従う、制御系の極および排ガスセンサ出力の特性を示す図。
【図12】従来の空燃比制御に従う、制御入力の挙動を概略的に示す図。
【図13】この発明の一実施例に従う、制御入力の挙動を概略的に示す図。
【図14】この発明の一実施例に従う、制御系の係数の組み合わせを示す図。
【図15】この発明の一実施例に従う、制御系の極および排ガスセンサ出力の特性を示す図。
【図16】この発明の一実施例に従う、触媒が過度に劣化した状態における排ガスセンサ出力の推移の一例を示す図。
【図17】触媒が正常な状態において、従来の空燃比制御による排ガスセンサ出力およびこの発明の一実施例に従う排ガスセンサ出力の比較を示す図。
【図18】この発明の他の実施例に従う、制御入力の挙動を概略的に示す図。
【図19】この発明の一実施例に従う、制御入力を算出するメインルーチンを示すフローチャート。
【図20】この発明の一実施例に従う、切換関数を算出するフローチャート。
【図21】この発明の一実施例に従う、切換関数の積算値を算出するフローチャート。
【図22】この発明の一実施例に従う、等価制御入力を算出するフローチャート。
【図23】この発明の一実施例に従う、到達則入力を算出するフローチャート。
【図24】この発明の一実施例に従う、適応則入力を算出するフローチャート。
【符号の説明】
1 エンジン
5 ECU
14 排気管
15 触媒装置
16 LAFセンサ
17 O2センサ
25 上流触媒
Claims (4)
- 排気系に配置された排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束することによって空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置であって、
前記制御は、前記排ガスセンサの出力の前記目標値への収束挙動を指定する関数の値をフィードバックする制御であり、
前記制御の入力は、前記関数値をゼロに収束させる入力と、前記センサの出力を目標値に収束させる入力との総和である、内燃機関の空燃比制御装置。 - さらに、前記排ガスセンサの出力の推定値を算出する推定手段を備えており、
前記制御入力は、前記推定手段によって算出された推定値に基づいて決定される、請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。 - さらに、前記排ガスセンサの動特性を表現するモデルのモデルパラメータを決定するパラメータ決定手段を備えており、
前記制御入力は、前記決定手段によって決定されたモデルパラメータを用いて決定される、請求項2に記載の内燃機関の空燃比制御装置。 - 前記推定手段は、前記推定値を、前記決定手段によって決定されたモデルパラメータに基づいて算出する、請求項3に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2002233235A JP2004068790A (ja) | 2002-08-09 | 2002-08-09 | 内燃機関の空燃比制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
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JP2002233235A JP2004068790A (ja) | 2002-08-09 | 2002-08-09 | 内燃機関の空燃比制御装置 |
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ID=32018409
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JP (1) | JP2004068790A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
US8083695B2 (en) * | 2006-06-29 | 2011-12-27 | Honda Motor Co., Ltd. | Walk assistance device |
-
2002
- 2002-08-09 JP JP2002233235A patent/JP2004068790A/ja active Pending
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US8083695B2 (en) * | 2006-06-29 | 2011-12-27 | Honda Motor Co., Ltd. | Walk assistance device |
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