JP2004038075A - 摺動部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】長時間の摺動に耐え得る耐久性を有し、且つ弾性体の弾性が良好に維持された摺動部材、および該摺動部材を用いた画像定着装置を提供する。
【解決手段】多孔質摺動シートの背面に弾性体を装着してなる摺動部材であって、前記多孔質摺動シートは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが少なくとも2枚厚み方向に積層されてなるものであるか、またはポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに融着して形成されたものであることを特徴とする摺動部材と、該摺動部材を用いた画像定着装置である。
【解決手段】多孔質摺動シートの背面に弾性体を装着してなる摺動部材であって、前記多孔質摺動シートは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが少なくとも2枚厚み方向に積層されてなるものであるか、またはポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに融着して形成されたものであることを特徴とする摺動部材と、該摺動部材を用いた画像定着装置である。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像定着装置などに好適な摺動部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像定着装置には、一対の加熱定着ロールと加圧ロールを用いるロール定着方式が採用されてきた。このロール定着方式では、加熱定着ロールおよび加圧ロールに弾性層を設け、これらの少なくとも一方の弾性層の変形を利用してニップ部を得ている。記録シートへのトナーの定着は、未定着のトナーを表面に有する記録シートが上記ニップ部を通過する際に、圧力を受けると共に加熱定着ロールから熱が付与されることで達成される。
【0003】
よって、記録シートの搬送スピードを大きくしたり、トナーに十分な熱を与えるという観点からは、ニップ幅を大きく取ることが好ましい。しかしながら、ニップ幅を大きく取るには上記弾性層の厚みをある程度大きくする必要があり、加熱定着ロールや加圧ロールの小型化には限界があった。加圧ロールが大きいと、これに吸収される熱量も大きいため、加熱定着ロールの熱容量を十分に大きくする必要がある。よって、加熱定着ロールを室温から定着可能温度にまで上昇させる時間(所謂立ち上げ時間)が長くなるため、効率の低下を引き起こすといった問題があった。
【0004】
こうした問題を解決する技術として、実開昭63−62861号には、上記加圧ロールに代えて、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂などの耐熱性樹脂製シートで外周面を被覆した断面略半円形状の耐熱性弾性部材を用いる定着装置が開示されている。この技術では、従来の加圧ロールに比べて小型の耐熱性弾性部材を用いても、大きなニップ幅を確保することができる。よって、耐熱性弾性部材に吸収される熱量も,従来の加圧ロールに比べて小さくなるため、加熱定着ロールの昇温時間(立ち上げ時間)の短縮化が可能となる。しかし、上記耐熱性弾性部材の、記録シートと接触する部分である外周面の被覆に用いられているフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂は、通常、摩擦抵抗が大きく、記録シートの搬送トラブルの原因となる場合があった。
【0005】
上記のような記録シートと、上記耐熱性弾性部材の如き摺動材の摩擦抵抗の低減を目的として、種々の技術が提案されている。
【0006】
例えば、特開平8−120096号には、上述の加圧ロールに代えて、弾性体上に補強材を介して多孔質ポリテトラフルオロエチレン層を設けてなる摺動材を用いる技術が開示されている。ここで使用されている多孔質ポリテトラフルオロエチレン層は、摩擦抵抗が小さいため、上述の如き記録シートの搬送トラブルは回避できる。
【0007】
上記特開平8−120096号の技術では、記録シートが摺動移動する際の多孔質ポリテトラフルオロエチレン層のクリープ変形を防止するため、弾性体と多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの間に、補強材を介在させている。よって、この補強材の存在により、多孔質ポリテトラフルオロエチレンが本来有する柔軟性が損なわれ、延いては、弾性体の弾性が損なわれることになる。弾性体の弾性が損なわれると、上記ニップ部の幅が小さくなるため、トナー定着のために、十分な熱量を記録シートに供給することが困難となり、記録シートの搬送スピードが高速化できないといった問題があった。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムと補強材を積層するため、加工コストが高くなるといった欠点もあった。
【0008】
他方、上述の立ち上げ時間短縮化の観点から、ロール定着方式に代えて、エンドレスベルトを用いるベルトニップ方式による画像定着装置も提案されている。
【0009】
例えば、特開平8−262903号には、表面が弾性変形する回転可能な加熱定着ロールと、加熱定着ロールに接触したまま走行可能なエンドレスベルトと、エンドレスベルトの内側に非回転状態で配置されて、エンドレスベルトを加熱定着ロールに圧接させ、エンドレスベルトと加熱定着ロールとの間に記録シートが通過させられるベルトニップを設けると共に、加熱定着ロールの表面を弾性変形させる圧力パッドとを具備する画像定着装置が開示されている。
【0010】
特開平8−262903号の技術では、圧力パッド−エンドレスベルト間も摺動部となる。よって、圧力パッドの表層に、低摩擦シートとしてポリテトラフルオロエチレンを含浸させたガラス繊維シート(ポリテトラフルオロエチレン含浸ガラスクロス)が用いられている。しかしながら、このような低摩擦シートを用いても、圧力パッド−エンドレスベルト間の耐磨耗性は不十分であった。すなわち、長期間の使用によって、圧力パッド表面の低摩擦シートのポリテトラフルオロエチレンが摩耗してガラスクロスが露出し、圧力パッド−エンドレスベルト間の摩擦抵抗が急激に増大するといった現象が起こり、これが記録シートの搬送トラブルの原因となるといった問題があった。
【0011】
特開平10−213984号は、上記特開平8−262903号の技術の上記問題を解決すべく提起されたものであり、押圧パッド(上記圧力パッドに相当)とエンドレスベルトの間に潤滑剤である変性シリコーンオイルを介在させる技術を開示している。この技術によれば、押圧パッド−エンドレスベルト間の摩擦抵抗は、ある程度低減される。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレン含浸ガラスクロスを押圧パッド表面の低摩擦シートに用いた場合、ポリテトラフルオロエチレンの表面エネルギーが小さいことから、シリコーンオイルが弾かれてしまい、エンドレスベルト−低摩擦シート界面にシリコーンオイルを保持することが困難となる。よって、シリコーンオイルを用いる効果が十分に得られず、特開平8−262903号の場合と同様にガラスクロスが露出して、記録シートの搬送トラブルの原因となる現象を完全に抑制することは困難であった。
【0012】
特開平2001−228731号には、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムと多孔質ポリテトラフルオロエチレン繊維織布を積層してなる低摩擦シートで弾性体を被覆した加圧部材(上記圧力パッドに相当)を用いた定着装置が開示されている。この低摩擦シートにおける多孔質ポリテトラフルオロエチレン繊維織布は、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの補強材として機能するものである。この低摩擦シートでは、長時間の使用により多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが摩耗したとしても、多孔質ポリテトラフルオロエチレン繊維織布は柔軟であるため、エンドレスベルトを傷つけることは無い。
【0013】
しかし、上記特開平8−120096号の技術と同様に、弾性体の弾性が損なわれる点に問題がある。また、織布の折り目が記録シートの画質に影響を及ぼす恐れもある。さらに、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムと多孔質ポリテトラフルオロエチレン繊維織布を積層するため、材料コストおよび加工コストが高くなるといった欠点も有している。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情の下でなされたものであり、その目的は、長時間の摺動に耐え得る耐久性を有し、且つ弾性体の弾性が良好に維持された摺動部材、および該摺動部材を用いた画像定着装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明の摺動部材の第1の態様は、多孔質摺動シートの背面に弾性体を装着してなる摺動部材であって、前記多孔質摺動シートは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが少なくとも2枚厚み方向に積層されてなるものであるところに要旨を有する。なお、上記多孔質摺動シートは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが、MD方向(延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム製造時の長手方向)の延伸軸が交差するように順次積層されてなるものであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の摺動部材の第2の態様は、弾性体上に多孔質摺動シートを積層してなる摺動部材であって、前記多孔質摺動シートは、ポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに融着して形成されたものであるであるところに要旨が存在する。
【0017】
上記第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、上記多孔質摺動シートは、該シートの任意の方向X、および該Xに直交する方向Yについて、呼び応力を0.49MPaとして得られる100℃、100時間後の引張クリープひずみのうち、少なくともいずれか一方の値が、20%以下であることが望ましい。また、上記第1の態様、第2の態様を問わず、多孔質摺動シートの厚みは0.05〜2mmが好ましく、多孔質摺動シートの摺動面の表面粗さRaは5μm以下であることが推奨される。
【0018】
上記第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、上記弾性体は、厚みを20mmとした場合に測定される日本ゴム協会標準規格SRIS 0101に規定のアスカーC硬度の値H1が35度以下であり、且つ上記多孔質摺動シートは、厚みが20mmの前記弾性体と重ね合わせた場合に、該多孔質摺動シート面において測定される前記アスカーC硬度をH2(度)とするとき、下式(1)を満足するものであることが推奨される。
H2 − H1 ≦ 17(度) (1)
また、上記本発明の摺動部材を用いた画像定着装置も、本発明に包含される。
【0019】
【発明の実施の形態】
既述の通り、複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像定着装置に用いられる上記加圧部材などに適用される摺動部材においては、長期間の摺動による摺動面の変形抑制と、該摺動部材を構成する弾性体の弾性維持の両立が課題となる。本発明者らは、上記摺動部材において、摺動面に適用される多孔質摺動シートを特定のものとすることで、かかる課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させたのである。
【0020】
本発明の摺動部材に用いられる弾性体は、弾性を有するものであれば特に限定されないが、画像定着装置に用いられる場合は、耐熱性を有するものが好ましい。耐熱性を有する弾性体の例としては、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられるが、中でもシリコーンゴムが、弾性に優れ、コストも比較的安いため好ましい。上記シリコーンゴムとしては、例えば、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。弾性体の形状・構造は、特に限定されず、摺動部材が適用される装置などに応じて適宜決定される。例えば、上述の特開平8−262903号に記載の圧力パッドや、特開平10−213984号に記載の押圧パッド、特開平2001−228731号に記載の加圧部材などのように、ベルトニップ方式の画像定着装置に使用されている弾性体と同様の形状・構造が採用可能である。
【0021】
本発明の摺動部材に係る多孔質摺動シートでは、長期間摺動を受けた場合に、変形の少ないことが要求される。例えば、摺動部材が、ベルトニップ方式の画像定着装置にベルトニップ部を形成するための加圧部材として適用された場合、エンドレスベルトとの摺動による変形が大きいと、該画像定着装置を長期間使用した際、ニップ圧の不均一化が起こり、これに起因して定着画像に縦筋やムラが発生してしまう。
【0022】
本発明者等は、多孔質摺動シートの引張クリープひずみをある値以下に抑えることにより、上記多孔質摺動シートの変形に起因した問題を解決できることを見出した。
【0023】
具体的には、第1の態様、第2の態様に関わらず、本発明の摺動部材に係る多孔質摺動シートの引張クリープひずみ(JIS K 7115の規定に従い、呼び応力を0.49MPaとして得られる100℃、100時間後のクリープひずみで、シートの任意の方向X、および該Xに直交する方向Yについて、少なくともいずれか一方の値)が20%以下であることが好ましい。例えば、多孔質摺動シートにおいて、上記方向Xが縦方向、方向Yが横方向である場合に、上記引張クリープひずみを測定した場合、いずれか低い方の値が20%以下であることが好ましい、という意味である。より好ましい引張クリープひずみは、15%以下である。
【0024】
多孔質摺動シートの変形に起因した上記問題は、多孔質摺動シートの摺動方向の変形量に大きく影響され、摺動方向と直交する方向の変形量による影響は比較的小さいため、多孔質摺動シートを摺動部材に取り付ける際は、多孔質摺動シートの縦方向または横方向でクリープひずみの低い方の方向が摺動方向となるように配置するのが好ましい。多孔質摺動シートの縦方向または横方向で引張クリープひずみの低い方の方向が摺動方向となるように配置する場合、摺動方向と直交する方向(縦方向または横方向でクリープひずみの高い方の方向)の引張クリープひずみは特に制限されないが、100%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。
【0025】
本発明の摺動部材の第1の態様で用いられる多孔質摺動シートは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムが少なくとも2枚積層されてなるものである。
【0026】
延伸多孔質PTFEフィルムは、一軸方向のみに延伸して製造する一軸延伸多孔質PTFEフィルムと、二軸方向に延伸して製造する二軸延伸多孔質フィルムに大別される。二軸延伸多孔質PTFEフィルムは、一軸延伸多孔質PTFEフィルムと比較して、MD方向とTD方向(延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム製造時の幅方向)の特性値の差が小さい(異方性が小さい)という特徴がある。
【0027】
本発明に係る多孔質摺動シートは、前記引張クリープひずみを抑える観点から、等方的な特性を有するものであることが好ましい場合がある。その場合は、延伸多孔質PTFEフィルムのMD方向の延伸軸が、交差するように順次積層されていることが好ましい。より好ましくは、延伸多孔質PTFEフィルムのMD方向の延伸軸を、90°毎に交差させて順次積層したものである。この際、延伸多孔質PTFEフィルムのMD方向の延伸軸を、1枚ずつ90°交差させて積層してもよいし、複数枚ずつ規則的に、またはランダムに90°交差させて積層してもよい。このようにして積層されて得られる多孔質摺動シートは、より等方的な特性を有する多孔質摺動シートとなる。また、このように等方的な特性が要求される場合には、二軸延伸多孔質PTFEフィルムを用いるのが好ましい。
【0028】
等方性が高い多孔質摺動シートを用いた場合、摺動方向だけでなく、摺動方向と直交する方向の引張クリープひずみも小さく抑えられるため、多孔質摺動シートの摺動方向のみならず、摺動方法と直交する方向の引張クリープひずみに起因する変形も低減できる。
【0029】
上記のクリープ特性を有する延伸多孔質PTFE積層体としては、以下の積層体が挙げられる。
【0030】
積層に用いられる延伸多孔質PTFEフィルムは、PTFEのファインパウダー(結晶化度90%以上)を成形助剤と混合して得られるペーストを成形し、該成形体から成形助剤を除去した後、高温[PTFEの融点(約327℃)未満の温度、例えば300℃程度]高速度で延伸、さらに必要に応じて焼成することにより得られるものである。
【0031】
上記ペーストには、必要に応じて、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、石綿、シリカ、ガラス、雲母、酸化クロム、酸化チタン、顔料などの充填剤を添加してもよい。カーボンブラックのような導電性材料を充填剤として添加すると、得られる延伸多孔質PTFEフィルムに導電性が付与されるため、摺動部材の静電気を除去することが可能となり、静電気に起因するトラブルを防止することができる。
【0032】
延伸の際、MD方向またはTD方向の一軸方向のみに延伸すれば、一軸延伸多孔質PTFEフィルムが得られ、MD方向およびTD方向の二軸方向に延伸すれば二軸延伸多孔質PTFEフィルムが得られる。以下に、二軸延伸多孔質PTFEフィルムについて詳述する。
【0033】
二軸延伸多孔質PTFEフィルムでは、フィブリル(折り畳み結晶が延伸により解けて引き出された直鎖状の分子束)が放射状に広がり、フィブリルを繋ぐノード(折り畳み結晶)が島状に点在していて、フィブリルとノードとで画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている。
【0034】
上記二軸延伸多孔質PTFEフィルムは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察面積330μm2当たり、直径または長軸が3μmを超えるノードが実質的に存在しないものが特に好ましい。これは、換言すれば、ノードの98%以上は直径または長軸が3μm以下の二軸延伸多孔質PTFEフィルムである。以下、直径または長軸が3μmを超えるノードが実質的に存在しない二軸延伸多孔質PTFEフィルムを「小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルム」という。
【0035】
この小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルムはノードを限りなく小さくしたもので、既に折り畳み結晶の大部分は伸び切った状態となっている。ただし、ノードはフィブリル結節部(複数のフィブリルが繋がった塊)として、SEM観察でフィブリルと区別することができる。
【0036】
上記の小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルムは、例えば、PTFEのペースト押出によって得られたシートを未焼成のまま延伸するに際し、延伸方向を二軸とし、延伸速度を100%/秒以下、好ましくは50%/秒以下、より好ましくは20%/秒以下で行い、且つ、二軸方向の伸張面積倍率を50倍以上とすることにより得られる。その詳細は、特開平7−196831号に記載されている。また、未焼成体に代えて半焼成体を用いてもよい(特開平5−202217号など)。
【0037】
なお、ここでいう「延伸速度(%/秒)」は、相対するピンフレームを離反させることにより延伸する場合において延伸前のフレーム間距離に対するフレームの離反速度の割合をいい、速度の異なる相対する1対のロール間で延伸する場合においてはロール間距離に対するロールの回転速度差の割合をいう。また、「伸長面積倍率」とは、MD方向の延伸倍率(λM)とTD方向の延伸倍率(λT)の積(λM×λT)として表される倍率をいう。「延伸倍率」は、相対するピンフレームを離反させることにより延伸する場合において、延伸前のフレーム間距離に対する延伸後の最終のフレーム間距離の比(倍)、または延伸前の初期のフレーム間距離に対する成形体が引き伸ばされた距離(延伸後の最終フレーム間距離から延伸前の初期フレーム間距離を差し引いた値)の割合(%)でもって定義され、速度の異なる相対する1対のロール間で延伸する場合においては、1対のロールの回転速度の比(倍)、または第1ロールの回転速度に対する成形体が引き伸ばされた距離(1対のロールの回転速度差)の割合をもって定義される。従って、例えば延伸倍率5倍は400%に相当する。
【0038】
このような小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルムは、折り畳み結晶部分がほとんど残っていないので、例えば上記エンドレスベルトなどとの摺動によってノードが解けて引き出されることがほとんど無い。したがって、クリープ特性が良好なものとなる。
【0039】
上記の小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルム積層体の詳細は、特開平11−80705号に開示されている。
【0040】
延伸多孔質PTFEフィルムの厚みは通常5〜200μm程度であり、空孔率は40〜98%の範囲で、延伸倍率によって適宜選択できる。なお、ここでいう多孔質PTFEフィルムの厚みは、ダイヤルゲージ(例えば、テクノロック社製1/1000mmダイヤルシックネスゲージ)で測定した平均厚さ(本体バネ荷重以外の荷重をかけない状態で測定した値)である。多孔質PTFEフィルムの空孔率は、JIS K 6885の見掛け密度測定に準拠して得られる見掛け密度ρから、PTFEの比重「2.2」を用いて、下式(2)によって求めた値である。
空孔率(%) = 100×(2.2−ρ)/2.2 (2)
また延伸多孔質PTFEフィルムの最大細孔径も、延伸倍率により適宜設定できるが、0.05〜10.0μmであることが好ましく、0.1〜5.0μmであることが特に好ましい。なお、ここでいう最大細孔径は、ASTM F−316の規定に準拠して測定した値である。
【0041】
このような延伸多孔質PTFEフィルムを少なくとも2枚積層して、本発明に係る多孔質摺動シートとする。積層には、接着剤を用いてもよいが、未焼成の延伸多孔質PTFEフィルムを積層した後、焼成して一体化させることが好ましい。焼成は、PTFEの融点以上の温度(例えば350〜380℃程度)で行うことが推奨される。焼成する際に延伸多孔質PTFEフィルムの厚み方向に加える圧力は、積層された延伸多孔質PTFEフィルム同士が密着される程度以上の圧力であればよく、積層枚数や焼成温度などの条件によって適宜設定すればよい。
【0042】
また、例えば、図1に示すように、延伸多孔質PTFEフィルムをマンドレルに巻回積層し、これを1ヶ所[図1(a)中、一点鎖線A]でカットして積層円筒体を展開して大判の積層体を得たり、積層円筒体の周面を螺旋状[図1(b)中、一点鎖線B]にカットして、長尺の積層体を得るようにしてもよい。積層円筒体から多孔質摺動シートを得るに当たっては、積層円筒体を展開後行ってもよいが、取り扱い性や、延伸多孔質PTFEフィルム同士の密着性を考慮すると、積層円筒体の状態でマンドレルと共に焼成することが好ましい。マンドレルの材質、サイズは特に限定されないが、焼成が積層円筒体の状態でマンドレルと共に行われる場合では、マンドレルの材質には、鋼やステンレス鋼など、焼成に耐え得る程度の耐熱性を有するものを用いることが望ましい。
【0043】
延伸多孔質PTFEフィルムのMD方向の延伸軸を、90°毎に交差させて順次積層させる方法としては、テンターピン付きの治具に、未焼成の延伸多孔質PTFEフィルムを、弛みや皺が入らないようにして、MD方向の延伸軸を90°毎に交差させて一枚一枚、あるいは複数枚ずつ規則的に、またはランダムに重ね合わせた後、治具と共に焼成することにより製造できる。
【0044】
後述するように、本発明に係る多孔質摺動シートの厚みは、0.05mm以上2mm以下であることが好ましい(より好ましくは0.1mm以上1mm以下)。したがって、延伸多孔質PTFEフィルムの積層枚数は、通常、2〜400枚が好ましく、5〜125枚がより好ましい。
【0045】
本発明の摺動部材の第2の態様で用いられる多孔質摺動シートは、PTFE粒子が互いに融着して形成されたものである。このような多孔質摺動シートは、PTFE粒子が部分的に融合または焼結して一体の多孔質網状組織を形成するように焼成することで得られる。以下、本発明の摺動部材の第2の態様で使用される多孔質摺動シートを「粒子融着型多孔質PTFEシート」という。
【0046】
上述のクリープ特性を有する粒子融着型多孔質PTFEシートは、例えば以下のようにして製造できる。
【0047】
未焼結のPTFE粒子は、一般に、例えば示差走査熱量測定法や赤外線測定法により求められる結晶化度が95%を超えるものであり、焼結(すなわち焼成)することにより、その結晶化度は低下する。粒子融着型多孔質PTFEシートの製造に用いるPTFE粒子は、未焼結のものであっても、焼結したものであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0048】
粒子融着型多孔質PTFEシートの製造には、上述のPTFE粒子のみを用いることが好ましいが、例えば充填剤などの添加剤を、必要に応じて少量混合して用いてもよい。PTFE粒子は、平均粒度が1μm以上500μm以下(好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下)のものを用いるのが一般的である。また、実質的に同じ粒度を有するPTFE粒子のみを用いてもよく、異なる粒度のPTFE粒子を混合して用いてもよい。例えば、重量平均粒度20〜50μmのPTFE粒子と、同30〜60μmのPTFE粒子を混合して用いることができる。こうしたPTFE粒子は、粉砕品でなくてもよく、粉砕品であっても差し支えない。
【0049】
粒子融着型多孔質PTFEシートは、例えば、上記のPTFE粒子を含む懸濁液を調製し、該懸濁液をセラミックやガラス、金属などの基板に吹き付け、これを乾燥後焼成することで製造できる。なお、懸濁液の吹き付けに代えて、公知の塗布方法で懸濁液を基板に塗布してもよい。特に使用するPTFE粒子の粒度が大きい場合には、吹き付けが困難となる場合があるため、塗布方法の採用が好ましい。
【0050】
上記懸濁液は、通常、界面活性剤や増粘剤、沈殿防止剤などを含む水性のものである。界面活性剤、増粘剤、沈殿防止剤などは、公知のものの中から好適なものを適宜選択すればよい。また、懸濁液には、必要に応じて、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、石綿、シリカ、ガラス、雲母、酸化クロム、酸化チタン、顔料などの充填剤を添加してもよい。カーボンブラックのような導電性材料を充填剤として添加すると、得られる粒子融着型多孔質PTFEシートに導電性が付与されるため、摺動部材の静電気を除去することが可能となり、静電気に起因するトラブルを防止することができる。上記の焼成条件は、PTFE粒子の粒度や、懸濁液の組成および塗布量などの条件に応じて適宜決定すればよいが、温度:335〜350℃、時間:0.5〜3時間とすることが一般的である。
【0051】
粒子融着型多孔質PTFEシートの比重は0.8〜1.8が好ましく、1.00〜1.54がより好ましい。なお、非多孔質PTFEの代表的な比重は2.2である。よって、粒子融着型多孔質PTFEシートは、上記範囲の比重となる程度の空孔率を有することが望ましい。
【0052】
上記の粒子融着型多孔質PTFEシートの詳細は、特開平6−93123号に開示されている。
【0053】
本発明の摺動部材に係る多孔質摺動シートは、第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、複数の素材を複合したり、異なる形態のシートを貼り合わせてなる従来の摺動シート(低摩擦シート)とは違い、摺動によって摩耗が生じた場合でも、その摩擦抵抗の変化がほとんど生じない。よって、本発明の摺動部材は、長期間に亘って安定した摺動特性を発揮し得るものである。
【0054】
なお、本発明の摺動部材に係る多孔質摺動シートでは、第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、必要に応じ、その摺動性を高めるために、潤滑剤を含浸させることができる。この潤滑剤には、オイルやグリースが包含されるが、潤滑性の点からオイルを用いるのが好ましい。オイルの場合、シリコーンオイルやフッ素オイル等が用いられるが、安全性の点からシリコーンオイルが好ましく用いられる。
【0055】
上記の延伸多孔質PTFEフィルム積層体や粒子融着型多孔質PTFEシートを、弾性体に積層して本発明の摺動部材となる。積層の際の積層方法は、多孔質摺動シートを弾性体上に固定できる方法であれば特に限定されないが、例えば、機械的に固定する方法、接着剤または粘着剤により接着固定する方法、熱融着により融着固定する方法などが挙げられる。
【0056】
機械的に固定する方法とは、多孔質摺動シートを該シートに弛みや皺が生じない程度の張力をかけた状態で弾性体上に配置し、該シートの端部をクランプや留め具などにより固定する方法である。この方法によれば、多孔質摺動シートと弾性体の間に接着剤などの物質が介在しないため、摺動部材の弾性を損なうことがないため好ましい。
【0057】
接着剤または粘着剤により接着固定する場合は、接着剤または粘着剤として、弾性体の弾性を損なわない、柔軟性の高い材料であれば適宜用いられるが、画像定着装置に用いられる場合は、シリコーン系、アクリル系、ゴム系などの接着剤または粘着剤が、耐熱性に優れているため好ましい。接着固定する場合には、接着性を向上させるためにプライマーを用いることも好ましい方法である。
【0058】
熱融着により融着固定するには、多孔質摺動シートと弾性体を重ね合わせて、弾性体の融点以上の温度で加熱圧着すればよい。融着方法としては、従来公知のヒートロールやヒートプレスを用いる方法が適宜用いられる。
【0059】
本発明の摺動部材では、第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、上記弾性体は、厚みを20mmとした場合に測定される日本ゴム協会標準規格SRIS0101に規定のアスカーC硬度の値H1が35度以下であり、且つ上記多孔質摺動シートは、厚みが20mmの前記弾性体と重ね合わせた場合に、該多孔質摺動シート面において測定される前記アスカーC硬度をH2(度)とするとき、上式(1)を満足するものであること、すなわち、H2とH1との差(以下、単に「硬度差」と言う場合がある)が17度以下であることが推奨される。H1が35度以下である弾性体と、上記硬度差が17度以下となるような多孔質摺動シートを組み合わせてなる摺動部材の場合には、弾性体の弾性が良好に維持されるため、例えばベルトニップ方式の画像定着装置に、ベルトニップ部を形成するための加圧部材として用いられた場合には、ニップ部の幅を大きくすることが可能となり、記録シートへのトナー定着処理速度を向上させることが可能となる。より好ましい上記硬度差は、10度以下である。
【0060】
本発明の摺動部材においては、第1の態様、第2の態様に関わらず、多孔質摺動シートの厚みが0.05mm以上2mm以下であることが好ましい。このような厚みの多孔質摺動シートであれば、摺動部材に係る弾性体の弾性を必要な程度に維持し得ると共に、例えば画像定着装置に適用された場合、加熱定着ロールから付与される熱の該多孔質摺動シートによる損失を低減することができ、記録の高画質化や省エネルギー化を図ることが可能となる。
【0061】
すなわち、多孔質摺動シートの厚みが上記範囲を超えると、摺動部材に用いられる弾性体の弾性が損なわれる傾向にあり、例えば画像定着装置に用いられた場合、上記ニップ部の幅が小さくなるなどの不具合が生じる可能性がある。また、多孔質摺動シートによる熱損失も大きくなる傾向にある。また、多孔質摺動シートの厚みが上記範囲を下回ると、該シートの耐摩耗性が不十分となる場合がある。多孔質摺動シートのより好ましい厚みは0.1mm以上1mm以下である。
【0062】
また、本発明の摺動部材においては、第1の態様、第2の態様に関わらず、多孔質摺動シートの摺動面の表面粗さが小さいことが好ましく、具体的には、JIS B 0601で規定される算術平均粗さRaが5μm以下であることが推奨される。最近の複写機などに用いられるカラートナーでは、従来のモノクロトナーと比べて、小さい粒径のもの(例えば、モノクロトナーの平均粒径:8〜20μm程度に対し、カラートナーの平均粒径:5〜10μm程度)が使用されているが、多孔質摺動シートの摺動面の表面粗さRaが0.5μm以下であれば、こうした小径のカラートナーを用いた高画質複写機などにも対応できる。より好ましい摺動面の表面粗さRaは2μm以下である。
【0063】
本発明の摺動部材は、面接触する他の部材との界面の摩擦抵抗を低減させ得るものである。よって、本発明の摺動部材は、他の部材と面接触する機構を有する各種装置、例えば、複写機、プリンター、ファクシミリなどに配置されている画像定着装置や、摺動面に押圧して用いられる各種センサーやクリーニング部材などに適用可能である。
【0064】
画像定着装置としては、上記の通り、加熱源を有する回転可能な加熱定着ロールと、該加熱定着ロールに圧接し、従動走行するエンドレスベルトと、該エンドレスベルトの内側に配設され、該エンドレスベルトを加熱定着ロールに向けて押圧して該エンドレスベルトと前記加熱定着ロールとの間にニップ部を形成する加圧部材とを備えた構造のものが知られている(特開2001−228731号公報など)。本発明の摺動部材は、上記加圧部材の、上記エンドレスベルトと面接触する部分の構成部材として好適に用いることができる。
【0065】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
多孔質摺動シートNo.1
PTFEファインパウダー(旭硝子社製「CD−123」)に潤滑剤としてソルベントナフサを混合したペースト状物を押し出した後、ロール圧延し、潤滑剤を乾燥除去して、厚み200μmの未焼成テープを得た。このテープを300℃に保持しつつ延伸速度100%/秒、延伸倍率4倍の条件でMD方向に延伸した後、次いで、300℃に保持しつつ延伸速度100%/秒、延伸倍率7.5倍の条件でTD方向に延伸し、二軸延伸多孔質PTFEフィルムを得た。
【0067】
上記フィルムの厚みは65μmで、空孔率が87%、最大細孔径が1.0μmであった。
【0068】
上記のフィルムを10枚積層し、365℃で60分焼成して、多孔質摺動シートNo.1を作製した。なお、積層は、フィルムのMD方向が常に同じ方向になるように重ねて行った。得られた多孔質摺動シートの厚みは0.35mmであった。
【0069】
多孔質摺動シートNo.2
実施例1と同じ二軸延伸多孔質フィルムを10枚積層し、365℃で60 分焼成して、多孔質摺動シートNo.2を得た。なお、積層は、フィルムのMD方向が90°に交差するように、一枚一枚重ねて行った。得られた多孔質摺動シートの厚みは0.35mmであった。
【0070】
多孔質摺動シートNo.3
343mlの水に、約40μmの重量平均粒度(粒度範囲2〜100μm)に粉砕されたDuPont社の粒状PTFE(グレード9B)を500g、ZonylFSN 100界面活性剤(非イオン性ペルフルオロアルキルエトキシレート混合物)を13ml、PluronicL 121界面活性剤(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体)を41ml、ナトリウムカルボキシ−メチル−セルロースの1重量%水溶液(増粘剤)を114ml加え、ウェアリング(Waring)ブレンダーで5分間混合し、未焼結の粒状ポリテトラフルオロエチレンの懸濁液を調製した。
【0071】
ついで、上記の懸濁液を、ビンクス(Binks)BBRスプレーガンとL88圧力カップを使ってセラミックタイルの上へ吹付けて、塗膜厚み670μm(湿潤状態)の塗膜を形成し、次いで65℃のオーブンで1時間乾燥させた。次に、温度を数時間かけて最高350℃まで漸進的に上昇させ、45分間保持した。その後、冷却して、乾燥、焼成された塗膜をセラミックタイルから剥し、厚み0.35mm、空孔率50%、表面粗さRa2.6μmの粒子融着型多孔質PTFEシートを得た(多孔質摺動シートNo.3)。
【0072】
多孔質摺動シートNo.4
ポリエステル製不織布(日本バイリーン社製「H8004」、厚み110μm、目付43g/m2)に、二軸延伸多孔質PTFEフィルム(ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」、厚み50μm、空孔率80%、最大細孔径0.5μm)を重ね合せて加熱ロール間を通過させることで、熱融着によって積層し、厚み140μmの積層シートを得た(多孔質摺動シートNo.4)。
【0073】
多孔質摺動シートNo.5
二軸延伸多孔質PTFEフィルム(ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」、厚み200μm、空孔率80%、最大細孔径0.5μm)を、多孔質摺動シートNo.5とした。
【0074】
上記の多孔質摺動シートNo.1〜No.5について、クリープ特性および表面粗さを測定した。
【0075】
クリープ特性は、JIS K 7115に従い、呼び応力を0.49MPaとし、100時間後の引張クリープひずみで評価した。なお、サンプル形状は2号形試験片を用いた。
【0076】
表面粗さは、算術平均粗さRa(JIS B 0601)で評価した。
【0077】
多孔質摺動シートNo.1〜No.5の厚み、クリープ特性、表面粗さRaを表1に示す。なお、表1において、多孔質摺動シートNo.4の厚みは、「ポリエステル製不織布の厚み(mm)/二軸延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの厚み(mm)」を意味する。また、表1において、クリープ特性のうち、「摺動方向」は、後述する摺動部材としたときに、摺動方向に配置される方向において測定した値であり、「直交方向」は、前記摺動方向に直交する方向において測定した値を意味する。
【0078】
【表1】
【0079】
上記多孔質摺動シートNo.1〜No.5を、φ50mm、高さ20mmの円柱状の弾性体(素材:シリコーンゴム)の高さ方向を厚みとした上平面に、夫々重ね合せた状態で、多孔質摺動シート面について、日本ゴム協会標準規格SRIS 0101に規定するアスカーC硬度(H2)を測定した。また、上記弾性体の上平面についても、同様にアスカーC硬度(H1)を測定し、硬度差(H2−H1)を算出した。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
次に、Japan Hardcopy 2001論文集第57頁〜第60頁「省エネルギー・カラー定着技術」(2001)の中で開示されているベルト式定着システムを採用したフルカラーレーザービームプリンター(富士ゼロックス製DC−C2220)を用い、該プリンタのベルト内面と加熱ロールに押し当てられる加圧パッドの、ベルト内面との摺動部を構成する弾性体上に機械固定された低摩擦シートに代えて、多孔質摺動シートNo.1〜No.5を取り付けて、弾性部材No.1〜No.5を構成し、画像定着装置評価を行った。なお、上記加熱ロールは、厚み30μmのテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体製のスリーブが表層に設けられた1.5mm厚の弾性層を有している。
【0082】
定着装置評価は、加熱ロールとベルトのニップ幅が2mmとなるように調節し、定着温度:150℃、加熱ロール回転数125mm/秒の条件で、モノクロトナー(平均粒径12μm)、およびカラートナー(平均粒径7μm)を用い、A4紙に面積比5%で覆う文字を配置した画像を連続印刷して行った。A4紙には、目付け:64g/m2の再生紙(コクヨ製「KB−K39N」)を用いた。評価は、モノクロトナー、カラートナー共、印刷初期と、5000枚印刷時について、またモノクロトナーについては、さらに10000枚印刷時について、印刷後の画像状態および10000枚印刷終了時の多孔質摺動シートの外観を目視観察することで行った。結果を表3に示す。なお、表3において、「直交方向」とは、摺動方向に直交する方向を意味する。
【0083】
【表3】
【0084】
【発明の効果】
本発明の摺動部材は、上記所定の多孔質摺動シートを弾性体の摺動面側に積層してなるものである。上記多孔質摺動シートは、摩擦抵抗が低く、摺動による変形が小さく、且つ弾性体の弾性を良好に維持することができるものである。また、複数の素材を複合などしてなる従来の低摩擦シートとは異なり、長期間の摺動によって摩耗が生じても、摩擦抵抗の変化がほとんど生じない。よって、本発明の摺動部材は、長期間の摺動に対する劣化が極めて小さく、他の部材と面接触する機構を有する各種装置に好適である。
【0085】
また、本発明の画像定着装置は上記摺動部材を有している。よって、本発明の画像定着装置を用いた複写機、プリンター、ファクシミリなどでは、省スペース化、立ち上げ時間の短縮化、記録速度の向上、高画質化、および長期間に亘り安定した画質の確保が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の摺動部材の第1の態様に係る多孔質摺動シートの製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
1 延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム積層円筒体
2 マンドレル
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像定着装置などに好適な摺動部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像定着装置には、一対の加熱定着ロールと加圧ロールを用いるロール定着方式が採用されてきた。このロール定着方式では、加熱定着ロールおよび加圧ロールに弾性層を設け、これらの少なくとも一方の弾性層の変形を利用してニップ部を得ている。記録シートへのトナーの定着は、未定着のトナーを表面に有する記録シートが上記ニップ部を通過する際に、圧力を受けると共に加熱定着ロールから熱が付与されることで達成される。
【0003】
よって、記録シートの搬送スピードを大きくしたり、トナーに十分な熱を与えるという観点からは、ニップ幅を大きく取ることが好ましい。しかしながら、ニップ幅を大きく取るには上記弾性層の厚みをある程度大きくする必要があり、加熱定着ロールや加圧ロールの小型化には限界があった。加圧ロールが大きいと、これに吸収される熱量も大きいため、加熱定着ロールの熱容量を十分に大きくする必要がある。よって、加熱定着ロールを室温から定着可能温度にまで上昇させる時間(所謂立ち上げ時間)が長くなるため、効率の低下を引き起こすといった問題があった。
【0004】
こうした問題を解決する技術として、実開昭63−62861号には、上記加圧ロールに代えて、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂などの耐熱性樹脂製シートで外周面を被覆した断面略半円形状の耐熱性弾性部材を用いる定着装置が開示されている。この技術では、従来の加圧ロールに比べて小型の耐熱性弾性部材を用いても、大きなニップ幅を確保することができる。よって、耐熱性弾性部材に吸収される熱量も,従来の加圧ロールに比べて小さくなるため、加熱定着ロールの昇温時間(立ち上げ時間)の短縮化が可能となる。しかし、上記耐熱性弾性部材の、記録シートと接触する部分である外周面の被覆に用いられているフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂は、通常、摩擦抵抗が大きく、記録シートの搬送トラブルの原因となる場合があった。
【0005】
上記のような記録シートと、上記耐熱性弾性部材の如き摺動材の摩擦抵抗の低減を目的として、種々の技術が提案されている。
【0006】
例えば、特開平8−120096号には、上述の加圧ロールに代えて、弾性体上に補強材を介して多孔質ポリテトラフルオロエチレン層を設けてなる摺動材を用いる技術が開示されている。ここで使用されている多孔質ポリテトラフルオロエチレン層は、摩擦抵抗が小さいため、上述の如き記録シートの搬送トラブルは回避できる。
【0007】
上記特開平8−120096号の技術では、記録シートが摺動移動する際の多孔質ポリテトラフルオロエチレン層のクリープ変形を防止するため、弾性体と多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの間に、補強材を介在させている。よって、この補強材の存在により、多孔質ポリテトラフルオロエチレンが本来有する柔軟性が損なわれ、延いては、弾性体の弾性が損なわれることになる。弾性体の弾性が損なわれると、上記ニップ部の幅が小さくなるため、トナー定着のために、十分な熱量を記録シートに供給することが困難となり、記録シートの搬送スピードが高速化できないといった問題があった。また、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムと補強材を積層するため、加工コストが高くなるといった欠点もあった。
【0008】
他方、上述の立ち上げ時間短縮化の観点から、ロール定着方式に代えて、エンドレスベルトを用いるベルトニップ方式による画像定着装置も提案されている。
【0009】
例えば、特開平8−262903号には、表面が弾性変形する回転可能な加熱定着ロールと、加熱定着ロールに接触したまま走行可能なエンドレスベルトと、エンドレスベルトの内側に非回転状態で配置されて、エンドレスベルトを加熱定着ロールに圧接させ、エンドレスベルトと加熱定着ロールとの間に記録シートが通過させられるベルトニップを設けると共に、加熱定着ロールの表面を弾性変形させる圧力パッドとを具備する画像定着装置が開示されている。
【0010】
特開平8−262903号の技術では、圧力パッド−エンドレスベルト間も摺動部となる。よって、圧力パッドの表層に、低摩擦シートとしてポリテトラフルオロエチレンを含浸させたガラス繊維シート(ポリテトラフルオロエチレン含浸ガラスクロス)が用いられている。しかしながら、このような低摩擦シートを用いても、圧力パッド−エンドレスベルト間の耐磨耗性は不十分であった。すなわち、長期間の使用によって、圧力パッド表面の低摩擦シートのポリテトラフルオロエチレンが摩耗してガラスクロスが露出し、圧力パッド−エンドレスベルト間の摩擦抵抗が急激に増大するといった現象が起こり、これが記録シートの搬送トラブルの原因となるといった問題があった。
【0011】
特開平10−213984号は、上記特開平8−262903号の技術の上記問題を解決すべく提起されたものであり、押圧パッド(上記圧力パッドに相当)とエンドレスベルトの間に潤滑剤である変性シリコーンオイルを介在させる技術を開示している。この技術によれば、押圧パッド−エンドレスベルト間の摩擦抵抗は、ある程度低減される。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレン含浸ガラスクロスを押圧パッド表面の低摩擦シートに用いた場合、ポリテトラフルオロエチレンの表面エネルギーが小さいことから、シリコーンオイルが弾かれてしまい、エンドレスベルト−低摩擦シート界面にシリコーンオイルを保持することが困難となる。よって、シリコーンオイルを用いる効果が十分に得られず、特開平8−262903号の場合と同様にガラスクロスが露出して、記録シートの搬送トラブルの原因となる現象を完全に抑制することは困難であった。
【0012】
特開平2001−228731号には、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムと多孔質ポリテトラフルオロエチレン繊維織布を積層してなる低摩擦シートで弾性体を被覆した加圧部材(上記圧力パッドに相当)を用いた定着装置が開示されている。この低摩擦シートにおける多孔質ポリテトラフルオロエチレン繊維織布は、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの補強材として機能するものである。この低摩擦シートでは、長時間の使用により多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが摩耗したとしても、多孔質ポリテトラフルオロエチレン繊維織布は柔軟であるため、エンドレスベルトを傷つけることは無い。
【0013】
しかし、上記特開平8−120096号の技術と同様に、弾性体の弾性が損なわれる点に問題がある。また、織布の折り目が記録シートの画質に影響を及ぼす恐れもある。さらに、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムと多孔質ポリテトラフルオロエチレン繊維織布を積層するため、材料コストおよび加工コストが高くなるといった欠点も有している。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情の下でなされたものであり、その目的は、長時間の摺動に耐え得る耐久性を有し、且つ弾性体の弾性が良好に維持された摺動部材、および該摺動部材を用いた画像定着装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明の摺動部材の第1の態様は、多孔質摺動シートの背面に弾性体を装着してなる摺動部材であって、前記多孔質摺動シートは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが少なくとも2枚厚み方向に積層されてなるものであるところに要旨を有する。なお、上記多孔質摺動シートは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが、MD方向(延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム製造時の長手方向)の延伸軸が交差するように順次積層されてなるものであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の摺動部材の第2の態様は、弾性体上に多孔質摺動シートを積層してなる摺動部材であって、前記多孔質摺動シートは、ポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに融着して形成されたものであるであるところに要旨が存在する。
【0017】
上記第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、上記多孔質摺動シートは、該シートの任意の方向X、および該Xに直交する方向Yについて、呼び応力を0.49MPaとして得られる100℃、100時間後の引張クリープひずみのうち、少なくともいずれか一方の値が、20%以下であることが望ましい。また、上記第1の態様、第2の態様を問わず、多孔質摺動シートの厚みは0.05〜2mmが好ましく、多孔質摺動シートの摺動面の表面粗さRaは5μm以下であることが推奨される。
【0018】
上記第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、上記弾性体は、厚みを20mmとした場合に測定される日本ゴム協会標準規格SRIS 0101に規定のアスカーC硬度の値H1が35度以下であり、且つ上記多孔質摺動シートは、厚みが20mmの前記弾性体と重ね合わせた場合に、該多孔質摺動シート面において測定される前記アスカーC硬度をH2(度)とするとき、下式(1)を満足するものであることが推奨される。
H2 − H1 ≦ 17(度) (1)
また、上記本発明の摺動部材を用いた画像定着装置も、本発明に包含される。
【0019】
【発明の実施の形態】
既述の通り、複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像定着装置に用いられる上記加圧部材などに適用される摺動部材においては、長期間の摺動による摺動面の変形抑制と、該摺動部材を構成する弾性体の弾性維持の両立が課題となる。本発明者らは、上記摺動部材において、摺動面に適用される多孔質摺動シートを特定のものとすることで、かかる課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させたのである。
【0020】
本発明の摺動部材に用いられる弾性体は、弾性を有するものであれば特に限定されないが、画像定着装置に用いられる場合は、耐熱性を有するものが好ましい。耐熱性を有する弾性体の例としては、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられるが、中でもシリコーンゴムが、弾性に優れ、コストも比較的安いため好ましい。上記シリコーンゴムとしては、例えば、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。弾性体の形状・構造は、特に限定されず、摺動部材が適用される装置などに応じて適宜決定される。例えば、上述の特開平8−262903号に記載の圧力パッドや、特開平10−213984号に記載の押圧パッド、特開平2001−228731号に記載の加圧部材などのように、ベルトニップ方式の画像定着装置に使用されている弾性体と同様の形状・構造が採用可能である。
【0021】
本発明の摺動部材に係る多孔質摺動シートでは、長期間摺動を受けた場合に、変形の少ないことが要求される。例えば、摺動部材が、ベルトニップ方式の画像定着装置にベルトニップ部を形成するための加圧部材として適用された場合、エンドレスベルトとの摺動による変形が大きいと、該画像定着装置を長期間使用した際、ニップ圧の不均一化が起こり、これに起因して定着画像に縦筋やムラが発生してしまう。
【0022】
本発明者等は、多孔質摺動シートの引張クリープひずみをある値以下に抑えることにより、上記多孔質摺動シートの変形に起因した問題を解決できることを見出した。
【0023】
具体的には、第1の態様、第2の態様に関わらず、本発明の摺動部材に係る多孔質摺動シートの引張クリープひずみ(JIS K 7115の規定に従い、呼び応力を0.49MPaとして得られる100℃、100時間後のクリープひずみで、シートの任意の方向X、および該Xに直交する方向Yについて、少なくともいずれか一方の値)が20%以下であることが好ましい。例えば、多孔質摺動シートにおいて、上記方向Xが縦方向、方向Yが横方向である場合に、上記引張クリープひずみを測定した場合、いずれか低い方の値が20%以下であることが好ましい、という意味である。より好ましい引張クリープひずみは、15%以下である。
【0024】
多孔質摺動シートの変形に起因した上記問題は、多孔質摺動シートの摺動方向の変形量に大きく影響され、摺動方向と直交する方向の変形量による影響は比較的小さいため、多孔質摺動シートを摺動部材に取り付ける際は、多孔質摺動シートの縦方向または横方向でクリープひずみの低い方の方向が摺動方向となるように配置するのが好ましい。多孔質摺動シートの縦方向または横方向で引張クリープひずみの低い方の方向が摺動方向となるように配置する場合、摺動方向と直交する方向(縦方向または横方向でクリープひずみの高い方の方向)の引張クリープひずみは特に制限されないが、100%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。
【0025】
本発明の摺動部材の第1の態様で用いられる多孔質摺動シートは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムが少なくとも2枚積層されてなるものである。
【0026】
延伸多孔質PTFEフィルムは、一軸方向のみに延伸して製造する一軸延伸多孔質PTFEフィルムと、二軸方向に延伸して製造する二軸延伸多孔質フィルムに大別される。二軸延伸多孔質PTFEフィルムは、一軸延伸多孔質PTFEフィルムと比較して、MD方向とTD方向(延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム製造時の幅方向)の特性値の差が小さい(異方性が小さい)という特徴がある。
【0027】
本発明に係る多孔質摺動シートは、前記引張クリープひずみを抑える観点から、等方的な特性を有するものであることが好ましい場合がある。その場合は、延伸多孔質PTFEフィルムのMD方向の延伸軸が、交差するように順次積層されていることが好ましい。より好ましくは、延伸多孔質PTFEフィルムのMD方向の延伸軸を、90°毎に交差させて順次積層したものである。この際、延伸多孔質PTFEフィルムのMD方向の延伸軸を、1枚ずつ90°交差させて積層してもよいし、複数枚ずつ規則的に、またはランダムに90°交差させて積層してもよい。このようにして積層されて得られる多孔質摺動シートは、より等方的な特性を有する多孔質摺動シートとなる。また、このように等方的な特性が要求される場合には、二軸延伸多孔質PTFEフィルムを用いるのが好ましい。
【0028】
等方性が高い多孔質摺動シートを用いた場合、摺動方向だけでなく、摺動方向と直交する方向の引張クリープひずみも小さく抑えられるため、多孔質摺動シートの摺動方向のみならず、摺動方法と直交する方向の引張クリープひずみに起因する変形も低減できる。
【0029】
上記のクリープ特性を有する延伸多孔質PTFE積層体としては、以下の積層体が挙げられる。
【0030】
積層に用いられる延伸多孔質PTFEフィルムは、PTFEのファインパウダー(結晶化度90%以上)を成形助剤と混合して得られるペーストを成形し、該成形体から成形助剤を除去した後、高温[PTFEの融点(約327℃)未満の温度、例えば300℃程度]高速度で延伸、さらに必要に応じて焼成することにより得られるものである。
【0031】
上記ペーストには、必要に応じて、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、石綿、シリカ、ガラス、雲母、酸化クロム、酸化チタン、顔料などの充填剤を添加してもよい。カーボンブラックのような導電性材料を充填剤として添加すると、得られる延伸多孔質PTFEフィルムに導電性が付与されるため、摺動部材の静電気を除去することが可能となり、静電気に起因するトラブルを防止することができる。
【0032】
延伸の際、MD方向またはTD方向の一軸方向のみに延伸すれば、一軸延伸多孔質PTFEフィルムが得られ、MD方向およびTD方向の二軸方向に延伸すれば二軸延伸多孔質PTFEフィルムが得られる。以下に、二軸延伸多孔質PTFEフィルムについて詳述する。
【0033】
二軸延伸多孔質PTFEフィルムでは、フィブリル(折り畳み結晶が延伸により解けて引き出された直鎖状の分子束)が放射状に広がり、フィブリルを繋ぐノード(折り畳み結晶)が島状に点在していて、フィブリルとノードとで画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている。
【0034】
上記二軸延伸多孔質PTFEフィルムは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察面積330μm2当たり、直径または長軸が3μmを超えるノードが実質的に存在しないものが特に好ましい。これは、換言すれば、ノードの98%以上は直径または長軸が3μm以下の二軸延伸多孔質PTFEフィルムである。以下、直径または長軸が3μmを超えるノードが実質的に存在しない二軸延伸多孔質PTFEフィルムを「小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルム」という。
【0035】
この小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルムはノードを限りなく小さくしたもので、既に折り畳み結晶の大部分は伸び切った状態となっている。ただし、ノードはフィブリル結節部(複数のフィブリルが繋がった塊)として、SEM観察でフィブリルと区別することができる。
【0036】
上記の小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルムは、例えば、PTFEのペースト押出によって得られたシートを未焼成のまま延伸するに際し、延伸方向を二軸とし、延伸速度を100%/秒以下、好ましくは50%/秒以下、より好ましくは20%/秒以下で行い、且つ、二軸方向の伸張面積倍率を50倍以上とすることにより得られる。その詳細は、特開平7−196831号に記載されている。また、未焼成体に代えて半焼成体を用いてもよい(特開平5−202217号など)。
【0037】
なお、ここでいう「延伸速度(%/秒)」は、相対するピンフレームを離反させることにより延伸する場合において延伸前のフレーム間距離に対するフレームの離反速度の割合をいい、速度の異なる相対する1対のロール間で延伸する場合においてはロール間距離に対するロールの回転速度差の割合をいう。また、「伸長面積倍率」とは、MD方向の延伸倍率(λM)とTD方向の延伸倍率(λT)の積(λM×λT)として表される倍率をいう。「延伸倍率」は、相対するピンフレームを離反させることにより延伸する場合において、延伸前のフレーム間距離に対する延伸後の最終のフレーム間距離の比(倍)、または延伸前の初期のフレーム間距離に対する成形体が引き伸ばされた距離(延伸後の最終フレーム間距離から延伸前の初期フレーム間距離を差し引いた値)の割合(%)でもって定義され、速度の異なる相対する1対のロール間で延伸する場合においては、1対のロールの回転速度の比(倍)、または第1ロールの回転速度に対する成形体が引き伸ばされた距離(1対のロールの回転速度差)の割合をもって定義される。従って、例えば延伸倍率5倍は400%に相当する。
【0038】
このような小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルムは、折り畳み結晶部分がほとんど残っていないので、例えば上記エンドレスベルトなどとの摺動によってノードが解けて引き出されることがほとんど無い。したがって、クリープ特性が良好なものとなる。
【0039】
上記の小ノード二軸延伸多孔質PTFEフィルム積層体の詳細は、特開平11−80705号に開示されている。
【0040】
延伸多孔質PTFEフィルムの厚みは通常5〜200μm程度であり、空孔率は40〜98%の範囲で、延伸倍率によって適宜選択できる。なお、ここでいう多孔質PTFEフィルムの厚みは、ダイヤルゲージ(例えば、テクノロック社製1/1000mmダイヤルシックネスゲージ)で測定した平均厚さ(本体バネ荷重以外の荷重をかけない状態で測定した値)である。多孔質PTFEフィルムの空孔率は、JIS K 6885の見掛け密度測定に準拠して得られる見掛け密度ρから、PTFEの比重「2.2」を用いて、下式(2)によって求めた値である。
空孔率(%) = 100×(2.2−ρ)/2.2 (2)
また延伸多孔質PTFEフィルムの最大細孔径も、延伸倍率により適宜設定できるが、0.05〜10.0μmであることが好ましく、0.1〜5.0μmであることが特に好ましい。なお、ここでいう最大細孔径は、ASTM F−316の規定に準拠して測定した値である。
【0041】
このような延伸多孔質PTFEフィルムを少なくとも2枚積層して、本発明に係る多孔質摺動シートとする。積層には、接着剤を用いてもよいが、未焼成の延伸多孔質PTFEフィルムを積層した後、焼成して一体化させることが好ましい。焼成は、PTFEの融点以上の温度(例えば350〜380℃程度)で行うことが推奨される。焼成する際に延伸多孔質PTFEフィルムの厚み方向に加える圧力は、積層された延伸多孔質PTFEフィルム同士が密着される程度以上の圧力であればよく、積層枚数や焼成温度などの条件によって適宜設定すればよい。
【0042】
また、例えば、図1に示すように、延伸多孔質PTFEフィルムをマンドレルに巻回積層し、これを1ヶ所[図1(a)中、一点鎖線A]でカットして積層円筒体を展開して大判の積層体を得たり、積層円筒体の周面を螺旋状[図1(b)中、一点鎖線B]にカットして、長尺の積層体を得るようにしてもよい。積層円筒体から多孔質摺動シートを得るに当たっては、積層円筒体を展開後行ってもよいが、取り扱い性や、延伸多孔質PTFEフィルム同士の密着性を考慮すると、積層円筒体の状態でマンドレルと共に焼成することが好ましい。マンドレルの材質、サイズは特に限定されないが、焼成が積層円筒体の状態でマンドレルと共に行われる場合では、マンドレルの材質には、鋼やステンレス鋼など、焼成に耐え得る程度の耐熱性を有するものを用いることが望ましい。
【0043】
延伸多孔質PTFEフィルムのMD方向の延伸軸を、90°毎に交差させて順次積層させる方法としては、テンターピン付きの治具に、未焼成の延伸多孔質PTFEフィルムを、弛みや皺が入らないようにして、MD方向の延伸軸を90°毎に交差させて一枚一枚、あるいは複数枚ずつ規則的に、またはランダムに重ね合わせた後、治具と共に焼成することにより製造できる。
【0044】
後述するように、本発明に係る多孔質摺動シートの厚みは、0.05mm以上2mm以下であることが好ましい(より好ましくは0.1mm以上1mm以下)。したがって、延伸多孔質PTFEフィルムの積層枚数は、通常、2〜400枚が好ましく、5〜125枚がより好ましい。
【0045】
本発明の摺動部材の第2の態様で用いられる多孔質摺動シートは、PTFE粒子が互いに融着して形成されたものである。このような多孔質摺動シートは、PTFE粒子が部分的に融合または焼結して一体の多孔質網状組織を形成するように焼成することで得られる。以下、本発明の摺動部材の第2の態様で使用される多孔質摺動シートを「粒子融着型多孔質PTFEシート」という。
【0046】
上述のクリープ特性を有する粒子融着型多孔質PTFEシートは、例えば以下のようにして製造できる。
【0047】
未焼結のPTFE粒子は、一般に、例えば示差走査熱量測定法や赤外線測定法により求められる結晶化度が95%を超えるものであり、焼結(すなわち焼成)することにより、その結晶化度は低下する。粒子融着型多孔質PTFEシートの製造に用いるPTFE粒子は、未焼結のものであっても、焼結したものであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0048】
粒子融着型多孔質PTFEシートの製造には、上述のPTFE粒子のみを用いることが好ましいが、例えば充填剤などの添加剤を、必要に応じて少量混合して用いてもよい。PTFE粒子は、平均粒度が1μm以上500μm以下(好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下)のものを用いるのが一般的である。また、実質的に同じ粒度を有するPTFE粒子のみを用いてもよく、異なる粒度のPTFE粒子を混合して用いてもよい。例えば、重量平均粒度20〜50μmのPTFE粒子と、同30〜60μmのPTFE粒子を混合して用いることができる。こうしたPTFE粒子は、粉砕品でなくてもよく、粉砕品であっても差し支えない。
【0049】
粒子融着型多孔質PTFEシートは、例えば、上記のPTFE粒子を含む懸濁液を調製し、該懸濁液をセラミックやガラス、金属などの基板に吹き付け、これを乾燥後焼成することで製造できる。なお、懸濁液の吹き付けに代えて、公知の塗布方法で懸濁液を基板に塗布してもよい。特に使用するPTFE粒子の粒度が大きい場合には、吹き付けが困難となる場合があるため、塗布方法の採用が好ましい。
【0050】
上記懸濁液は、通常、界面活性剤や増粘剤、沈殿防止剤などを含む水性のものである。界面活性剤、増粘剤、沈殿防止剤などは、公知のものの中から好適なものを適宜選択すればよい。また、懸濁液には、必要に応じて、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、石綿、シリカ、ガラス、雲母、酸化クロム、酸化チタン、顔料などの充填剤を添加してもよい。カーボンブラックのような導電性材料を充填剤として添加すると、得られる粒子融着型多孔質PTFEシートに導電性が付与されるため、摺動部材の静電気を除去することが可能となり、静電気に起因するトラブルを防止することができる。上記の焼成条件は、PTFE粒子の粒度や、懸濁液の組成および塗布量などの条件に応じて適宜決定すればよいが、温度:335〜350℃、時間:0.5〜3時間とすることが一般的である。
【0051】
粒子融着型多孔質PTFEシートの比重は0.8〜1.8が好ましく、1.00〜1.54がより好ましい。なお、非多孔質PTFEの代表的な比重は2.2である。よって、粒子融着型多孔質PTFEシートは、上記範囲の比重となる程度の空孔率を有することが望ましい。
【0052】
上記の粒子融着型多孔質PTFEシートの詳細は、特開平6−93123号に開示されている。
【0053】
本発明の摺動部材に係る多孔質摺動シートは、第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、複数の素材を複合したり、異なる形態のシートを貼り合わせてなる従来の摺動シート(低摩擦シート)とは違い、摺動によって摩耗が生じた場合でも、その摩擦抵抗の変化がほとんど生じない。よって、本発明の摺動部材は、長期間に亘って安定した摺動特性を発揮し得るものである。
【0054】
なお、本発明の摺動部材に係る多孔質摺動シートでは、第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、必要に応じ、その摺動性を高めるために、潤滑剤を含浸させることができる。この潤滑剤には、オイルやグリースが包含されるが、潤滑性の点からオイルを用いるのが好ましい。オイルの場合、シリコーンオイルやフッ素オイル等が用いられるが、安全性の点からシリコーンオイルが好ましく用いられる。
【0055】
上記の延伸多孔質PTFEフィルム積層体や粒子融着型多孔質PTFEシートを、弾性体に積層して本発明の摺動部材となる。積層の際の積層方法は、多孔質摺動シートを弾性体上に固定できる方法であれば特に限定されないが、例えば、機械的に固定する方法、接着剤または粘着剤により接着固定する方法、熱融着により融着固定する方法などが挙げられる。
【0056】
機械的に固定する方法とは、多孔質摺動シートを該シートに弛みや皺が生じない程度の張力をかけた状態で弾性体上に配置し、該シートの端部をクランプや留め具などにより固定する方法である。この方法によれば、多孔質摺動シートと弾性体の間に接着剤などの物質が介在しないため、摺動部材の弾性を損なうことがないため好ましい。
【0057】
接着剤または粘着剤により接着固定する場合は、接着剤または粘着剤として、弾性体の弾性を損なわない、柔軟性の高い材料であれば適宜用いられるが、画像定着装置に用いられる場合は、シリコーン系、アクリル系、ゴム系などの接着剤または粘着剤が、耐熱性に優れているため好ましい。接着固定する場合には、接着性を向上させるためにプライマーを用いることも好ましい方法である。
【0058】
熱融着により融着固定するには、多孔質摺動シートと弾性体を重ね合わせて、弾性体の融点以上の温度で加熱圧着すればよい。融着方法としては、従来公知のヒートロールやヒートプレスを用いる方法が適宜用いられる。
【0059】
本発明の摺動部材では、第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、上記弾性体は、厚みを20mmとした場合に測定される日本ゴム協会標準規格SRIS0101に規定のアスカーC硬度の値H1が35度以下であり、且つ上記多孔質摺動シートは、厚みが20mmの前記弾性体と重ね合わせた場合に、該多孔質摺動シート面において測定される前記アスカーC硬度をH2(度)とするとき、上式(1)を満足するものであること、すなわち、H2とH1との差(以下、単に「硬度差」と言う場合がある)が17度以下であることが推奨される。H1が35度以下である弾性体と、上記硬度差が17度以下となるような多孔質摺動シートを組み合わせてなる摺動部材の場合には、弾性体の弾性が良好に維持されるため、例えばベルトニップ方式の画像定着装置に、ベルトニップ部を形成するための加圧部材として用いられた場合には、ニップ部の幅を大きくすることが可能となり、記録シートへのトナー定着処理速度を向上させることが可能となる。より好ましい上記硬度差は、10度以下である。
【0060】
本発明の摺動部材においては、第1の態様、第2の態様に関わらず、多孔質摺動シートの厚みが0.05mm以上2mm以下であることが好ましい。このような厚みの多孔質摺動シートであれば、摺動部材に係る弾性体の弾性を必要な程度に維持し得ると共に、例えば画像定着装置に適用された場合、加熱定着ロールから付与される熱の該多孔質摺動シートによる損失を低減することができ、記録の高画質化や省エネルギー化を図ることが可能となる。
【0061】
すなわち、多孔質摺動シートの厚みが上記範囲を超えると、摺動部材に用いられる弾性体の弾性が損なわれる傾向にあり、例えば画像定着装置に用いられた場合、上記ニップ部の幅が小さくなるなどの不具合が生じる可能性がある。また、多孔質摺動シートによる熱損失も大きくなる傾向にある。また、多孔質摺動シートの厚みが上記範囲を下回ると、該シートの耐摩耗性が不十分となる場合がある。多孔質摺動シートのより好ましい厚みは0.1mm以上1mm以下である。
【0062】
また、本発明の摺動部材においては、第1の態様、第2の態様に関わらず、多孔質摺動シートの摺動面の表面粗さが小さいことが好ましく、具体的には、JIS B 0601で規定される算術平均粗さRaが5μm以下であることが推奨される。最近の複写機などに用いられるカラートナーでは、従来のモノクロトナーと比べて、小さい粒径のもの(例えば、モノクロトナーの平均粒径:8〜20μm程度に対し、カラートナーの平均粒径:5〜10μm程度)が使用されているが、多孔質摺動シートの摺動面の表面粗さRaが0.5μm以下であれば、こうした小径のカラートナーを用いた高画質複写機などにも対応できる。より好ましい摺動面の表面粗さRaは2μm以下である。
【0063】
本発明の摺動部材は、面接触する他の部材との界面の摩擦抵抗を低減させ得るものである。よって、本発明の摺動部材は、他の部材と面接触する機構を有する各種装置、例えば、複写機、プリンター、ファクシミリなどに配置されている画像定着装置や、摺動面に押圧して用いられる各種センサーやクリーニング部材などに適用可能である。
【0064】
画像定着装置としては、上記の通り、加熱源を有する回転可能な加熱定着ロールと、該加熱定着ロールに圧接し、従動走行するエンドレスベルトと、該エンドレスベルトの内側に配設され、該エンドレスベルトを加熱定着ロールに向けて押圧して該エンドレスベルトと前記加熱定着ロールとの間にニップ部を形成する加圧部材とを備えた構造のものが知られている(特開2001−228731号公報など)。本発明の摺動部材は、上記加圧部材の、上記エンドレスベルトと面接触する部分の構成部材として好適に用いることができる。
【0065】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
多孔質摺動シートNo.1
PTFEファインパウダー(旭硝子社製「CD−123」)に潤滑剤としてソルベントナフサを混合したペースト状物を押し出した後、ロール圧延し、潤滑剤を乾燥除去して、厚み200μmの未焼成テープを得た。このテープを300℃に保持しつつ延伸速度100%/秒、延伸倍率4倍の条件でMD方向に延伸した後、次いで、300℃に保持しつつ延伸速度100%/秒、延伸倍率7.5倍の条件でTD方向に延伸し、二軸延伸多孔質PTFEフィルムを得た。
【0067】
上記フィルムの厚みは65μmで、空孔率が87%、最大細孔径が1.0μmであった。
【0068】
上記のフィルムを10枚積層し、365℃で60分焼成して、多孔質摺動シートNo.1を作製した。なお、積層は、フィルムのMD方向が常に同じ方向になるように重ねて行った。得られた多孔質摺動シートの厚みは0.35mmであった。
【0069】
多孔質摺動シートNo.2
実施例1と同じ二軸延伸多孔質フィルムを10枚積層し、365℃で60 分焼成して、多孔質摺動シートNo.2を得た。なお、積層は、フィルムのMD方向が90°に交差するように、一枚一枚重ねて行った。得られた多孔質摺動シートの厚みは0.35mmであった。
【0070】
多孔質摺動シートNo.3
343mlの水に、約40μmの重量平均粒度(粒度範囲2〜100μm)に粉砕されたDuPont社の粒状PTFE(グレード9B)を500g、ZonylFSN 100界面活性剤(非イオン性ペルフルオロアルキルエトキシレート混合物)を13ml、PluronicL 121界面活性剤(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体)を41ml、ナトリウムカルボキシ−メチル−セルロースの1重量%水溶液(増粘剤)を114ml加え、ウェアリング(Waring)ブレンダーで5分間混合し、未焼結の粒状ポリテトラフルオロエチレンの懸濁液を調製した。
【0071】
ついで、上記の懸濁液を、ビンクス(Binks)BBRスプレーガンとL88圧力カップを使ってセラミックタイルの上へ吹付けて、塗膜厚み670μm(湿潤状態)の塗膜を形成し、次いで65℃のオーブンで1時間乾燥させた。次に、温度を数時間かけて最高350℃まで漸進的に上昇させ、45分間保持した。その後、冷却して、乾燥、焼成された塗膜をセラミックタイルから剥し、厚み0.35mm、空孔率50%、表面粗さRa2.6μmの粒子融着型多孔質PTFEシートを得た(多孔質摺動シートNo.3)。
【0072】
多孔質摺動シートNo.4
ポリエステル製不織布(日本バイリーン社製「H8004」、厚み110μm、目付43g/m2)に、二軸延伸多孔質PTFEフィルム(ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」、厚み50μm、空孔率80%、最大細孔径0.5μm)を重ね合せて加熱ロール間を通過させることで、熱融着によって積層し、厚み140μmの積層シートを得た(多孔質摺動シートNo.4)。
【0073】
多孔質摺動シートNo.5
二軸延伸多孔質PTFEフィルム(ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」、厚み200μm、空孔率80%、最大細孔径0.5μm)を、多孔質摺動シートNo.5とした。
【0074】
上記の多孔質摺動シートNo.1〜No.5について、クリープ特性および表面粗さを測定した。
【0075】
クリープ特性は、JIS K 7115に従い、呼び応力を0.49MPaとし、100時間後の引張クリープひずみで評価した。なお、サンプル形状は2号形試験片を用いた。
【0076】
表面粗さは、算術平均粗さRa(JIS B 0601)で評価した。
【0077】
多孔質摺動シートNo.1〜No.5の厚み、クリープ特性、表面粗さRaを表1に示す。なお、表1において、多孔質摺動シートNo.4の厚みは、「ポリエステル製不織布の厚み(mm)/二軸延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの厚み(mm)」を意味する。また、表1において、クリープ特性のうち、「摺動方向」は、後述する摺動部材としたときに、摺動方向に配置される方向において測定した値であり、「直交方向」は、前記摺動方向に直交する方向において測定した値を意味する。
【0078】
【表1】
【0079】
上記多孔質摺動シートNo.1〜No.5を、φ50mm、高さ20mmの円柱状の弾性体(素材:シリコーンゴム)の高さ方向を厚みとした上平面に、夫々重ね合せた状態で、多孔質摺動シート面について、日本ゴム協会標準規格SRIS 0101に規定するアスカーC硬度(H2)を測定した。また、上記弾性体の上平面についても、同様にアスカーC硬度(H1)を測定し、硬度差(H2−H1)を算出した。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
次に、Japan Hardcopy 2001論文集第57頁〜第60頁「省エネルギー・カラー定着技術」(2001)の中で開示されているベルト式定着システムを採用したフルカラーレーザービームプリンター(富士ゼロックス製DC−C2220)を用い、該プリンタのベルト内面と加熱ロールに押し当てられる加圧パッドの、ベルト内面との摺動部を構成する弾性体上に機械固定された低摩擦シートに代えて、多孔質摺動シートNo.1〜No.5を取り付けて、弾性部材No.1〜No.5を構成し、画像定着装置評価を行った。なお、上記加熱ロールは、厚み30μmのテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体製のスリーブが表層に設けられた1.5mm厚の弾性層を有している。
【0082】
定着装置評価は、加熱ロールとベルトのニップ幅が2mmとなるように調節し、定着温度:150℃、加熱ロール回転数125mm/秒の条件で、モノクロトナー(平均粒径12μm)、およびカラートナー(平均粒径7μm)を用い、A4紙に面積比5%で覆う文字を配置した画像を連続印刷して行った。A4紙には、目付け:64g/m2の再生紙(コクヨ製「KB−K39N」)を用いた。評価は、モノクロトナー、カラートナー共、印刷初期と、5000枚印刷時について、またモノクロトナーについては、さらに10000枚印刷時について、印刷後の画像状態および10000枚印刷終了時の多孔質摺動シートの外観を目視観察することで行った。結果を表3に示す。なお、表3において、「直交方向」とは、摺動方向に直交する方向を意味する。
【0083】
【表3】
【0084】
【発明の効果】
本発明の摺動部材は、上記所定の多孔質摺動シートを弾性体の摺動面側に積層してなるものである。上記多孔質摺動シートは、摩擦抵抗が低く、摺動による変形が小さく、且つ弾性体の弾性を良好に維持することができるものである。また、複数の素材を複合などしてなる従来の低摩擦シートとは異なり、長期間の摺動によって摩耗が生じても、摩擦抵抗の変化がほとんど生じない。よって、本発明の摺動部材は、長期間の摺動に対する劣化が極めて小さく、他の部材と面接触する機構を有する各種装置に好適である。
【0085】
また、本発明の画像定着装置は上記摺動部材を有している。よって、本発明の画像定着装置を用いた複写機、プリンター、ファクシミリなどでは、省スペース化、立ち上げ時間の短縮化、記録速度の向上、高画質化、および長期間に亘り安定した画質の確保が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の摺動部材の第1の態様に係る多孔質摺動シートの製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
1 延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム積層円筒体
2 マンドレル
Claims (8)
- 多孔質摺動シートの背面に弾性体を装着してなる摺動部材であって、
前記多孔質摺動シートは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが少なくとも2枚、厚み方向に積層されてなるものであることを特徴とする摺動部材。 - 延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムは、MD方向の延伸軸が交差する方向に順次積層されてなるものである請求項1に記載の摺動部材。
- 多孔質摺動シートの背面に弾性体を装着してなる摺動部材であって、
前記多孔質摺動シートは、ポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに融着して形成されたものであることを特徴とする摺動部材。 - 上記多孔質摺動シートは、該シートの任意の方向X、および該Xに直交する方向Yについて、呼び応力を0.49MPaとして得られる100℃、100時間後の引張クリープひずみのうち、少なくともいずれか一方の値が、20%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材。
- 上記多孔質摺動シートの厚みは、0.05〜2mmである請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材。
- 上記多孔質摺動シートの摺動面の表面粗さRaは、5μm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材。
- 上記弾性体は、厚みを20mmとした場合に測定される日本ゴム協会標準規格SRIS 0101に規定のアスカーC硬度の値H1が35度以下であり、且つ
上記多孔質摺動シートは、厚みが20mmの前記弾性体と重ね合わせた場合に、該多孔質摺動シート面において測定される前記アスカーC硬度をH2(度)とするとき、下式(1)を満足するものである請求項1〜6のいずれかに記載の摺動部材。
H2 − H1 ≦ 17(度) (1) - 請求項1〜7のいずれかに記載の摺動部材を用いたことを特徴とする画像定着装置。
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