JP2004012377A - ガスタービン高温部品の歪推定方法および歪推定装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた等のガスタービン高温部品について、歪量を高精度で推定することを可能とし、熱間等方加圧処理を用いて同部品を再生使用する際の翼の信頼性を、さらに向上させる。
【解決手段】析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該歪量と硬さとの相関データを得ておく。ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品の硬さを計測する。計測した硬さと相関データとに基づいて劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品の歪を推定する。
【選択図】 図1
【解決手段】析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該歪量と硬さとの相関データを得ておく。ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品の硬さを計測する。計測した硬さと相関データとに基づいて劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品の歪を推定する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はガスタービン高温部品の寿命診断を行う場合に好適なガスタービン高温部品の歪推定技術に係り、特に運転中に高温下に曝されることによる材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等を受けた高温部品の歪を精度よく推定するガスタービン高温部品の歪推定方法および同推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガスタービン発電プラントにおいては、ガスタービンと同軸に設けられた圧縮機の駆動によって空気が圧縮され、この圧縮空気が燃焼器に案内されて燃焼器ライナで燃料とともに高温で燃焼される。燃焼器ライナで燃焼により発生した高温の燃焼ガスは、トランジションピースおよび静翼を経てガスタービンの動翼に案内され、この動翼を回転駆動させてガスタービンの仕事をさせるようになっている。
【0003】
この種のガスタービンの高温部品である燃焼器ライナ、トランジションピース、静翼および動翼には、Ni基またはCo基またはNi−Fe基耐熱超合金が用いられているが、ガスタービンの運転とともに種々の損傷がみられる。この損傷について説明すると、まず、各部品は高温の燃焼ガスに曝されるため、材質劣化を生じる。近年の高効率ガスタービンでは燃焼ガス温度が1000℃を超え、この材質劣化の激しさは顕著となってきている。また、動翼については高速回転されるため大きな遠心応力を受け、クリープ損傷が蓄積される。さらに、ガスタービンの起動時には比較的低温環境域から高温環境域に推移する段階で、停止時には逆に高温環境域から低温環境域に推移する段階で、それぞれ熱疲労が生じ、これらの疲労損傷が重畳して蓄積される。
【0004】
従来、このようなガスタービン高温部品の保守管理については、機器の設計段階で決まるクリープあるいは疲労寿命と、実機の運転や立地上の環境により設定される寿命をもとに、同一機種あるいは同一運転形態をとるガスタービンを分類し、分類された各グループの先行機の実績を用いて設計寿命を補正し、後続機の保守管理を行っている。近年では、例えば特開平10−293049号公報により開示されているように、ガスタービン高温部品の劣化、損傷診断を効率的に精度良く予測する保守管理方法がなされつつある。しかし、いずれの保守管理方法を実施する場合においても、これまでは必要に応じて定検毎に補修を繰返し、管理寿命に到達した後には、一律にガスタービン高温部品が廃却され、非常に高価な新品と交換していた。
【0005】
これに対し、高温部品である動翼に関して、運転にて生じた材質劣化とともに蓄積したクリープ損傷、疲労損傷については、主強化相であるγ´相[Ni3(Al,Ti)]が固溶する温度以上で、かつ動翼が溶融しない温度以下で熱間等方加圧処理し、溶体化熱処理、時効熱処理を順に行うことで寿命延伸が可能となっている(例えば特開平11−335802号公報)。
【0006】
このような処理を施すことにより、全ての動翼が寿命延伸できることではなく、使用中に蓄積された損傷量、すなわち歪の量に大きく影響する。歪量が大きいと本処理後に再結晶が生じて材料強度が激減する。この状態にて再使用することになると、強度不足に起因する破壊事故につながる問題がある。従って、本処理前には再結晶化するかどうかを判定するために歪を定量的に推定する手法が必要である。
【0007】
なお、材料の歪を推定する手法としては、測定個所を機械的に切断して、物理的に歪の一部を開放させ、このときの変形量の変化を歪ゲージで推定する切断法あるいはX線を測定個所に照射して、歪による結晶の乱れを測定してX線回折の原理から歪を推定するX線回折法等が知られている。
【0008】
しかし、切断法では測定材料を破壊する必要があり、X線回折法では非破壊で推定する利点はあるが、X線照射装置およびX線検出器等の特殊な装置を必要とする等の問題点がある。
【0009】
なお、このような問題点を伴わない従来技術として、特開平5−79928号公報または特開平8−247914号公報等に示された歪推定法が知られている。これらの技術は、変形抵抗の違いにより変化する硬さと歪との相関関係を予め求めておき、歪を推定したい材料の硬さを測定することにより歪を推定する構成となっている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の方法においては、材質劣化の違いには対応できず、高温の燃焼ガスに曝されて材質劣化も生じる析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品については、高精度の推定が困難である。
【0011】
本発明は前記課題を解決するために、歪を推定する高温部品を破壊せずに、材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品において、歪を高精度で推定するガスタービン高温部品の歪推定手法およびその装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明では機械的な変形および材質劣化も考慮した材料を人工的に作成して種々の硬さ値と歪量との相関をあらかじめ求めておき、材料の硬さから歪を推定する。
【0013】
即ち、析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品は、単なる歪のみではなく、高温に曝されることにより材質劣化を生じ、この材質劣化は析出物の増減により硬さに影響を及ぼすため、材質劣化を考慮しなければ、正確なガスタービン高温部品の歪の推定、ひいては部品の熱処理による再生可否判断が正確に行えないものである。
【0014】
そこで、本発明では、まずガスタービン高温部品材料を人工的に種々の温度で加熱して各種加熱劣化材を作成する。この材料では機械的な変形を受けていないため、歪がない状態の材料となる。さらに、各種材質劣化材を用いてクリープ試験を実施して異なる歪量の歪付加材も作成する。その後、加熱劣化および歪付加材の硬さと組織観察を行う。組織観察においては、析出物の密度をパラメータとするために単位面積当たりの個数を画像処理装置により計算する。
【0015】
以上の硬さ値と析出物のデータをもとに、まず、材質劣化のみを考慮した場合の硬さと析出物の密度の相関を求める。すなわち、歪がない場合の相関となる。
【0016】
次に材質劣化と歪が重畳した場合の硬さと析出物の密度の相関を同様にして求め、各歪量毎に整理する。このようにして歪と硬さとの関係以外の材質劣化も考慮して、予め作成したマスターカーブにより、硬さと析出物の密度とに基づいて歪量が推定できるようにする。
【0017】
即ち、請求項1に係る発明では、析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該歪量と硬さとの相関データを得ておき、ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた前記ガスタービン高温部品の硬さを計測し、この計測した硬さと前記相関データとに基づいて前記劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品の歪を推定することを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0018】
請求項2に係る発明では、析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該劣化により析出する析出物の密度と硬さとの相関および歪量と硬さとの相関を示すデータを得ておき、ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた前記ガスタービン高温部品の硬さと析出物の密度とを計測し、この計測した硬さおよび析出物の密度と歪を推定することを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0019】
請求項3に係る発明では、請求項1または2記載のガスタービン高温部品の歪推定方法において、材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品として動翼、静翼、燃焼器ライナまたはトランジションピースに適用することを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0020】
請求項4に係る発明では、請求項1から3までのいずれかに記載のガスタービン高温部品の歪推定方法において、推定する部品の硬さ計測は、超音波硬さ計測装置またはショア硬さ計測装置を用いることを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0021】
請求項5に係る発明では、請求項2または3記載のガスタービン高温部品の歪推定方法において、推定する部品の析出物の密度は、レプリカにより析出物を転写して求めることを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0022】
請求項6に係る発明では、ガスタービン高温部品における歪を推定したい特定箇所の組織をレプリカで採取する金属組織採取装置と、この金属組織採取装置により採取した組織を画像処理する組織の画像処理装置と、前記組織の採取箇所の硬さを計測する硬さ計測装置と、この硬さ計測装置により計測した硬さ計測値を処理する硬さ計測値処理装置と、この硬さ計測値処理装置により処理したデータに基づいてマスターカーブを作成するマスターカーブ作成装置と、このマスターカーブ作成装置により得られた情報をもとに前記ガスタービン高温部品の歪量の推定を行う歪量表示装置とを備えたことを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定装置を提供する。
【0023】
材料の歪を推定するにあたっては、材質劣化および歪を付加した材料の組織、硬さおよび歪の相関を求め、マスターカーブを作成する。このマスターカーブは、各材料毎に作成することが望ましい。まず、対象となる材料を人工的に種々の温度で加熱して各種加熱劣化材を作成する。この材料では機械的な変形を受けていないため、歪がない状態の材料となる。さらに、各種材質劣化材を用いてクリープ試験を実施して異なる歪量の歪付加材も作成する。その後、加熱劣化および歪付加材の硬さと組織観察を行う。硬さ計測は、ビッカース型の硬度計で行うことが望ましい。組織観察においては、析出物の密度をパラメータとするために単位面積当たりの個数を画像処理装置により計算する。なお、パラメータとして析出物の体積率を用いても有効である。
【0024】
以上の硬さ値と析出物のデータをもとに、まず、材質劣化のみを考慮した場合の硬さと析出物の密度の相関を求める。すなわち、歪がない場合の相関となる。次に材質劣化と歪が重畳した場合の硬さと析出物の密度の相関を同様にして求め、各歪量毎に整理する。
【0025】
このようにして歪と硬さとの関係以外の材質劣化も考慮してあらかじめ作成したマスターカーブより、硬さと析出物の密度から歪量を推定することができる。
【0026】
高温部品の中で動翼を再生して再使用する場合は、熱間等方加圧処理前に本発明の歪量の推定を行い、再結晶する歪量であるかどうかを判定することが望ましい。再結晶化する歪量以上であった場合には、再生処理しても再結晶化により強度低下が生じるため、再使用しないことが望ましい。なお、外表面にコーティングが施されている部品ではコーティング層を除去して歪量を推定することが望ましい。また、静翼、燃焼器ライナおよびトランジションピースについても、各部品に用いられている材料のマスターカーブを作成して歪を推定することが望ましい。
【0027】
以上のように、本発明の歪量の推定手法により、ガスタービン高温部品の劣化と損傷とを共に受けた部材の歪を定量的に推定するが可能となり、再生使用する動翼に関しては、再使用しても問題がない翼を提供することができるようになる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るガスタービン高温部品の歪推定方法およびその装置の実施形態について図面を参照して説明する。
【0029】
第1実施形態(図1,図2)
図1は本実施形態によるガスタービン高温部品の歪推定装置のシステム構成を示している。この歪推定装置は、歪を推定したい特定個所の組織をレプリカで採取する金属組織採取装置1と、採取した組織を画像処理する組織の画像処理装置2と、組織採取した同じ個所の硬さを計測する硬さ計測装置3と、硬さ計測値を処理する硬さ計測値処理装置4とを備える。また、マスターカーブ作成装置5とマスターカーブ作成装置5から得られた情報をもとに歪量の推定を行う歪量表示装置6を備えている。
【0030】
マスターカーブ作成装置5は、実験室的に作成した材質劣化材と歪付加材から得られた歪と組織パラメータ値、一例として析出物の密度および硬さの相関を作成する手段と記憶機能部を備え、組織の画像処理装置2と硬さ計測値処理装置4からの出力値をもとに歪量に演算する機能を有している。歪量表示装置6は、最終出力値として現時点における歪量をマスターカーブ作成装置5で出力された情報をもとに推定および表示する機能を有している。
【0031】
図2は、マスターカーブ作成装置5に記憶されているデータの中で、動翼に用いられている表1に試料No.1として示したNi基超合金IN738LC材(商品名)の相関を示すグラフである。このグラフは、500℃〜1000℃の温度範囲で最大30000時間までの各種加熱材の硬さと析出物の密度の相関をクリープ歪量毎に整理演算したものである。横軸の密度は単位面積当たりの析出物の個数であり、縦軸はビッカース硬度計を用いて計測したビッカース硬さである。
【0032】
この図2に示したマスターカーブの作成に際しては、対象となる表1の材料No.1を人工的に種々の温度で加熱して各種加熱劣化材を作成し、機械的な変形を受けていない歪のない状態の材料と、材質劣化材を用いてクリープ試験を実施して異なる歪量とした歪付加材とを作成した。そして、加熱劣化および歪付加材の硬さと組織観察を行った。硬さ計測は、上述したように、ビッカース型の硬度計で行った。組織観察においては、析出物の密度をパラメータとするために単位面積当たりの個数を画像処理装置により計算した。
【0033】
以上の硬さ値と析出物のデータをもとに、まず、材質劣化のみを考慮した場合の硬さと析出物の密度の相関を求めた。すなわち、歪がない場合の相関である。次に材質劣化と歪が重畳した場合の硬さと析出物の密度の相関を同様にして求め、各歪量毎に整理した。
【0034】
このようにして求めた図2のマスターカーブに、歪%ごとに示したように、本実施形態においては、材質劣化が生じて析出物の密度が減少すると硬さは低下していた。また、同じ析出密度でも歪量が大きいほど硬さは高くなっていた。
【0035】
この点について詳述する。上述したNi基超合金IN738LC材は析出強化型合金であり、主強化相となるγ´相[Ni3(Al,Ti)]が母相上に点在状態で析出した形の組織をなしている。この合金によって構成されたガスタービン高温部品が、1000℃等の高温燃焼ガスに長時間曝されて材質劣化が進行すると、主強化相であるγ´相としての析出物の密度が減少し、これにより硬さが低下するものである。
【0036】
一方、同部品がクリープ損傷、疲労損傷等の損傷を受けた場合には歪が増大し、硬さが高くなる。この硬さを測定することにより単に硬さと歪との相関データに基づいて歪を推定することは、上述したように、従来より行われていた。しかし、上述した析出物の密度によっても硬さは変動するため、硬さと歪との相関に基づくのみでは析出物の密度による硬さ変動要素の欠落分だけ推定精度が低下する。
【0037】
そこで、本実施形態では、特にガスタービン高温部品に適用される析出強化型合金の場合には、析出物の量的変動が硬さに対する寄与が大きいため、単に歪と硬さの相関に基づくのみではなく、析出物の定量的把握を行うことにより、正確な歪を推定するものである。
【0038】
図2においては、このような観点から歪を0,0.2,0.4〜1.2(%)とした場合の硬さを縦軸に表し、材料の強化析出物の量(個数)を横軸に表した特性を示している。この図2に示したように、ガスタービン部品の硬度と歪との相関関係は、強化相の析出物の量的変化に伴って変化するが、単に硬度を特定しただけでは正確な歪を把握することはできないことが理解される。この図2の如く、横軸に表した析出物の量を特定することにより、縦軸に表した硬度と歪との相関を初めて正確に捉えることができる。
【0039】
なお、マスターカーブ作成装置5には他の動翼材および静翼、燃焼器ライナ、トランジションピースに用いられている各種実験室材のデータが記憶されており、推定精度を向上するために追加データの入力も可能になっている。これらの部品材料については、下記の表1にそれぞれ組成とともに示している。
【0040】
【表1】
【0041】
この表1中、試料No.1〜6の材料、即ち、IN738LC(商品名)(以下、同じ。)、U500材、MarM247材、Rene80材、CMSX−2材およびNimonic263が析出強化型合金であり、上述した図2と同様の特性を示す。
【0042】
次に、図3および図4も参照して、さらに詳細に説明する。本実施形態は、材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等を受けた高温部品について、熱間等方加圧処理により再生して再使用することを前提としている。また、熱間等方加圧処理前に歪量の推定を行い、再結晶する歪量であるかどうかを判定することを主眼としている。即ち、再結晶化する歪量以上であった場合には、再生処理しても再結晶化により強度低下が生じ、再使用しないことが望ましいため、予めその判断を行うことが適切だからである。
【0043】
図3は、図2に示した相関図を使用した歪推定を2例示したものである。第1例は、図3に符号7(白丸)で示したように、実プラントで設計寿命内で廃却となった表1の試料No.1と同等材料Ni基超合金製ガスタービン第2段動翼を対象として実施したものである。この場合には、歪量の推定結果は、再結晶化する歪量以下の0.2%であった。
【0044】
また、第2例は、図3に符号8(黒丸)で示したように、前記と同材料により構成され、設計寿命を超えて使用され廃却となった翼を対象として実施したものである。この場合の歪量は、図3に符号9(点線)で示した再結晶化する歪量(1.2%)を超えていた。
【0045】
その後、再使用を目的に熱間等方加圧処理を用いた再生処理を施し、材料の回復度を確認した。図4は、再生処理後の翼から採取した試験片A1,A2,B1,B2のクリープ破断時間を示している。
【0046】
設計寿命内で廃却となった翼の試験片A1,A2のクリープ破断時間は新翼のクリープ破断時間9とほぼ同等以上の値を示していた。これに対し、設計寿命を超えて廃却となった翼の試験片B1,B2については推定通りに再結晶組織が認められ、クリープ破断強度は顕著に低下していた。
【0047】
なお、本発明では前述の析出強化型合金に限らず、表1に試料7〜9として示した固溶強化型合金、例えばHastelloyX(商品名)(以下、同じ)。HS188、FSX414についても実施することができる。
【0048】
このように、本実施形態によれば、精度よく歪の推定が可能となることが確認された。
【0049】
また、本発明では、Ni基、Co基およびNi−Fe基合金を用いた燃焼器ライナ、トランジションピースおよび静翼に対しても適用することができる。
【0050】
第2実施形態(図5)
本実施形態は、劣化と歪とが重畳したガスタービン高温部品の硬さのみを測定し、相関データにより、劣化に対応した歪量を得るようにしたものである。図5は、その相関データを示し、縦軸に硬さを表し、横軸に歪を表している。なお、特性点の符号7,8,9は、第1実施形態で示した図3のものと同一の意味を示し、7は設計寿命時間内の翼、8は設計寿命時間超の翼、9は再結晶する歪量を示す。
【0051】
即ち、本実施形態では、析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該歪量と硬さとの相関データを得ておき、ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた前記ガスタービン高温部品の硬さを計測し、この計測した硬さと図5に示した相関データとに基づいて前記劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品の歪を推定する。
【0052】
図5に示した相関データにおいては、材料を特定して予め材質劣化と硬さとの相関を図3のように求めることができるので、この関係をマスターカーブとして、図5の横軸に歪(%)として表したものである。したがって、横軸に劣化を考慮した歪の値が示されるので、試料については、硬さのみを測定し、レプリカによる観察は不要とすることができる。なお、マスターカーブ製作工程、使用装置等については、第1実施形態と略同様であるから説明を省略する。
【0053】
本実施形態によれば、第1実施形態の効果に加え、推定作用時の操作を、さらに容易化することができる。
【0054】
【発明の効果】
以上で詳述したように、本発明に係るガスタービン高温部品の歪推定方法によれば、材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた等のガスタービン高温部品について、歪量を高精度で推定することが可能となる。そして、熱間等方加圧処理を用いて同部品を再生使用する際の翼の信頼性を、さらに向上させることが可能となる。また、本発明に係る高温部品の歪推定装置によれば、前記方法を的確に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、歪推定装置のシステム構成図。
【図2】本発明の第1実施形態による硬さと析出物の密度および歪の相関を示すグラフ。
【図3】本発明の第1実施形態による再生翼の歪量推定結果を示すグラフ。
【図4】本発明の第1実施形態による再生翼のクリープ破断時間を示すグラフ。
【図5】本発明の第2実施形態による硬さと歪との相関を示すグラフ。
【符号の説明】
1…金属組織採取装置、2…組織の画像処理装置、3…硬さ計測装置、4…硬さ計測値処理装置、5…マスターカーブ作成装置、6…歪量表示装置、7…設計寿命時間内の翼、8…設計寿命時間超の翼、9…再結晶する歪量、10…新翼の値。
【発明の属する技術分野】
本発明はガスタービン高温部品の寿命診断を行う場合に好適なガスタービン高温部品の歪推定技術に係り、特に運転中に高温下に曝されることによる材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等を受けた高温部品の歪を精度よく推定するガスタービン高温部品の歪推定方法および同推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガスタービン発電プラントにおいては、ガスタービンと同軸に設けられた圧縮機の駆動によって空気が圧縮され、この圧縮空気が燃焼器に案内されて燃焼器ライナで燃料とともに高温で燃焼される。燃焼器ライナで燃焼により発生した高温の燃焼ガスは、トランジションピースおよび静翼を経てガスタービンの動翼に案内され、この動翼を回転駆動させてガスタービンの仕事をさせるようになっている。
【0003】
この種のガスタービンの高温部品である燃焼器ライナ、トランジションピース、静翼および動翼には、Ni基またはCo基またはNi−Fe基耐熱超合金が用いられているが、ガスタービンの運転とともに種々の損傷がみられる。この損傷について説明すると、まず、各部品は高温の燃焼ガスに曝されるため、材質劣化を生じる。近年の高効率ガスタービンでは燃焼ガス温度が1000℃を超え、この材質劣化の激しさは顕著となってきている。また、動翼については高速回転されるため大きな遠心応力を受け、クリープ損傷が蓄積される。さらに、ガスタービンの起動時には比較的低温環境域から高温環境域に推移する段階で、停止時には逆に高温環境域から低温環境域に推移する段階で、それぞれ熱疲労が生じ、これらの疲労損傷が重畳して蓄積される。
【0004】
従来、このようなガスタービン高温部品の保守管理については、機器の設計段階で決まるクリープあるいは疲労寿命と、実機の運転や立地上の環境により設定される寿命をもとに、同一機種あるいは同一運転形態をとるガスタービンを分類し、分類された各グループの先行機の実績を用いて設計寿命を補正し、後続機の保守管理を行っている。近年では、例えば特開平10−293049号公報により開示されているように、ガスタービン高温部品の劣化、損傷診断を効率的に精度良く予測する保守管理方法がなされつつある。しかし、いずれの保守管理方法を実施する場合においても、これまでは必要に応じて定検毎に補修を繰返し、管理寿命に到達した後には、一律にガスタービン高温部品が廃却され、非常に高価な新品と交換していた。
【0005】
これに対し、高温部品である動翼に関して、運転にて生じた材質劣化とともに蓄積したクリープ損傷、疲労損傷については、主強化相であるγ´相[Ni3(Al,Ti)]が固溶する温度以上で、かつ動翼が溶融しない温度以下で熱間等方加圧処理し、溶体化熱処理、時効熱処理を順に行うことで寿命延伸が可能となっている(例えば特開平11−335802号公報)。
【0006】
このような処理を施すことにより、全ての動翼が寿命延伸できることではなく、使用中に蓄積された損傷量、すなわち歪の量に大きく影響する。歪量が大きいと本処理後に再結晶が生じて材料強度が激減する。この状態にて再使用することになると、強度不足に起因する破壊事故につながる問題がある。従って、本処理前には再結晶化するかどうかを判定するために歪を定量的に推定する手法が必要である。
【0007】
なお、材料の歪を推定する手法としては、測定個所を機械的に切断して、物理的に歪の一部を開放させ、このときの変形量の変化を歪ゲージで推定する切断法あるいはX線を測定個所に照射して、歪による結晶の乱れを測定してX線回折の原理から歪を推定するX線回折法等が知られている。
【0008】
しかし、切断法では測定材料を破壊する必要があり、X線回折法では非破壊で推定する利点はあるが、X線照射装置およびX線検出器等の特殊な装置を必要とする等の問題点がある。
【0009】
なお、このような問題点を伴わない従来技術として、特開平5−79928号公報または特開平8−247914号公報等に示された歪推定法が知られている。これらの技術は、変形抵抗の違いにより変化する硬さと歪との相関関係を予め求めておき、歪を推定したい材料の硬さを測定することにより歪を推定する構成となっている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の方法においては、材質劣化の違いには対応できず、高温の燃焼ガスに曝されて材質劣化も生じる析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品については、高精度の推定が困難である。
【0011】
本発明は前記課題を解決するために、歪を推定する高温部品を破壊せずに、材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品において、歪を高精度で推定するガスタービン高温部品の歪推定手法およびその装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明では機械的な変形および材質劣化も考慮した材料を人工的に作成して種々の硬さ値と歪量との相関をあらかじめ求めておき、材料の硬さから歪を推定する。
【0013】
即ち、析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品は、単なる歪のみではなく、高温に曝されることにより材質劣化を生じ、この材質劣化は析出物の増減により硬さに影響を及ぼすため、材質劣化を考慮しなければ、正確なガスタービン高温部品の歪の推定、ひいては部品の熱処理による再生可否判断が正確に行えないものである。
【0014】
そこで、本発明では、まずガスタービン高温部品材料を人工的に種々の温度で加熱して各種加熱劣化材を作成する。この材料では機械的な変形を受けていないため、歪がない状態の材料となる。さらに、各種材質劣化材を用いてクリープ試験を実施して異なる歪量の歪付加材も作成する。その後、加熱劣化および歪付加材の硬さと組織観察を行う。組織観察においては、析出物の密度をパラメータとするために単位面積当たりの個数を画像処理装置により計算する。
【0015】
以上の硬さ値と析出物のデータをもとに、まず、材質劣化のみを考慮した場合の硬さと析出物の密度の相関を求める。すなわち、歪がない場合の相関となる。
【0016】
次に材質劣化と歪が重畳した場合の硬さと析出物の密度の相関を同様にして求め、各歪量毎に整理する。このようにして歪と硬さとの関係以外の材質劣化も考慮して、予め作成したマスターカーブにより、硬さと析出物の密度とに基づいて歪量が推定できるようにする。
【0017】
即ち、請求項1に係る発明では、析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該歪量と硬さとの相関データを得ておき、ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた前記ガスタービン高温部品の硬さを計測し、この計測した硬さと前記相関データとに基づいて前記劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品の歪を推定することを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0018】
請求項2に係る発明では、析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該劣化により析出する析出物の密度と硬さとの相関および歪量と硬さとの相関を示すデータを得ておき、ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた前記ガスタービン高温部品の硬さと析出物の密度とを計測し、この計測した硬さおよび析出物の密度と歪を推定することを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0019】
請求項3に係る発明では、請求項1または2記載のガスタービン高温部品の歪推定方法において、材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品として動翼、静翼、燃焼器ライナまたはトランジションピースに適用することを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0020】
請求項4に係る発明では、請求項1から3までのいずれかに記載のガスタービン高温部品の歪推定方法において、推定する部品の硬さ計測は、超音波硬さ計測装置またはショア硬さ計測装置を用いることを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0021】
請求項5に係る発明では、請求項2または3記載のガスタービン高温部品の歪推定方法において、推定する部品の析出物の密度は、レプリカにより析出物を転写して求めることを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法を提供する。
【0022】
請求項6に係る発明では、ガスタービン高温部品における歪を推定したい特定箇所の組織をレプリカで採取する金属組織採取装置と、この金属組織採取装置により採取した組織を画像処理する組織の画像処理装置と、前記組織の採取箇所の硬さを計測する硬さ計測装置と、この硬さ計測装置により計測した硬さ計測値を処理する硬さ計測値処理装置と、この硬さ計測値処理装置により処理したデータに基づいてマスターカーブを作成するマスターカーブ作成装置と、このマスターカーブ作成装置により得られた情報をもとに前記ガスタービン高温部品の歪量の推定を行う歪量表示装置とを備えたことを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定装置を提供する。
【0023】
材料の歪を推定するにあたっては、材質劣化および歪を付加した材料の組織、硬さおよび歪の相関を求め、マスターカーブを作成する。このマスターカーブは、各材料毎に作成することが望ましい。まず、対象となる材料を人工的に種々の温度で加熱して各種加熱劣化材を作成する。この材料では機械的な変形を受けていないため、歪がない状態の材料となる。さらに、各種材質劣化材を用いてクリープ試験を実施して異なる歪量の歪付加材も作成する。その後、加熱劣化および歪付加材の硬さと組織観察を行う。硬さ計測は、ビッカース型の硬度計で行うことが望ましい。組織観察においては、析出物の密度をパラメータとするために単位面積当たりの個数を画像処理装置により計算する。なお、パラメータとして析出物の体積率を用いても有効である。
【0024】
以上の硬さ値と析出物のデータをもとに、まず、材質劣化のみを考慮した場合の硬さと析出物の密度の相関を求める。すなわち、歪がない場合の相関となる。次に材質劣化と歪が重畳した場合の硬さと析出物の密度の相関を同様にして求め、各歪量毎に整理する。
【0025】
このようにして歪と硬さとの関係以外の材質劣化も考慮してあらかじめ作成したマスターカーブより、硬さと析出物の密度から歪量を推定することができる。
【0026】
高温部品の中で動翼を再生して再使用する場合は、熱間等方加圧処理前に本発明の歪量の推定を行い、再結晶する歪量であるかどうかを判定することが望ましい。再結晶化する歪量以上であった場合には、再生処理しても再結晶化により強度低下が生じるため、再使用しないことが望ましい。なお、外表面にコーティングが施されている部品ではコーティング層を除去して歪量を推定することが望ましい。また、静翼、燃焼器ライナおよびトランジションピースについても、各部品に用いられている材料のマスターカーブを作成して歪を推定することが望ましい。
【0027】
以上のように、本発明の歪量の推定手法により、ガスタービン高温部品の劣化と損傷とを共に受けた部材の歪を定量的に推定するが可能となり、再生使用する動翼に関しては、再使用しても問題がない翼を提供することができるようになる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るガスタービン高温部品の歪推定方法およびその装置の実施形態について図面を参照して説明する。
【0029】
第1実施形態(図1,図2)
図1は本実施形態によるガスタービン高温部品の歪推定装置のシステム構成を示している。この歪推定装置は、歪を推定したい特定個所の組織をレプリカで採取する金属組織採取装置1と、採取した組織を画像処理する組織の画像処理装置2と、組織採取した同じ個所の硬さを計測する硬さ計測装置3と、硬さ計測値を処理する硬さ計測値処理装置4とを備える。また、マスターカーブ作成装置5とマスターカーブ作成装置5から得られた情報をもとに歪量の推定を行う歪量表示装置6を備えている。
【0030】
マスターカーブ作成装置5は、実験室的に作成した材質劣化材と歪付加材から得られた歪と組織パラメータ値、一例として析出物の密度および硬さの相関を作成する手段と記憶機能部を備え、組織の画像処理装置2と硬さ計測値処理装置4からの出力値をもとに歪量に演算する機能を有している。歪量表示装置6は、最終出力値として現時点における歪量をマスターカーブ作成装置5で出力された情報をもとに推定および表示する機能を有している。
【0031】
図2は、マスターカーブ作成装置5に記憶されているデータの中で、動翼に用いられている表1に試料No.1として示したNi基超合金IN738LC材(商品名)の相関を示すグラフである。このグラフは、500℃〜1000℃の温度範囲で最大30000時間までの各種加熱材の硬さと析出物の密度の相関をクリープ歪量毎に整理演算したものである。横軸の密度は単位面積当たりの析出物の個数であり、縦軸はビッカース硬度計を用いて計測したビッカース硬さである。
【0032】
この図2に示したマスターカーブの作成に際しては、対象となる表1の材料No.1を人工的に種々の温度で加熱して各種加熱劣化材を作成し、機械的な変形を受けていない歪のない状態の材料と、材質劣化材を用いてクリープ試験を実施して異なる歪量とした歪付加材とを作成した。そして、加熱劣化および歪付加材の硬さと組織観察を行った。硬さ計測は、上述したように、ビッカース型の硬度計で行った。組織観察においては、析出物の密度をパラメータとするために単位面積当たりの個数を画像処理装置により計算した。
【0033】
以上の硬さ値と析出物のデータをもとに、まず、材質劣化のみを考慮した場合の硬さと析出物の密度の相関を求めた。すなわち、歪がない場合の相関である。次に材質劣化と歪が重畳した場合の硬さと析出物の密度の相関を同様にして求め、各歪量毎に整理した。
【0034】
このようにして求めた図2のマスターカーブに、歪%ごとに示したように、本実施形態においては、材質劣化が生じて析出物の密度が減少すると硬さは低下していた。また、同じ析出密度でも歪量が大きいほど硬さは高くなっていた。
【0035】
この点について詳述する。上述したNi基超合金IN738LC材は析出強化型合金であり、主強化相となるγ´相[Ni3(Al,Ti)]が母相上に点在状態で析出した形の組織をなしている。この合金によって構成されたガスタービン高温部品が、1000℃等の高温燃焼ガスに長時間曝されて材質劣化が進行すると、主強化相であるγ´相としての析出物の密度が減少し、これにより硬さが低下するものである。
【0036】
一方、同部品がクリープ損傷、疲労損傷等の損傷を受けた場合には歪が増大し、硬さが高くなる。この硬さを測定することにより単に硬さと歪との相関データに基づいて歪を推定することは、上述したように、従来より行われていた。しかし、上述した析出物の密度によっても硬さは変動するため、硬さと歪との相関に基づくのみでは析出物の密度による硬さ変動要素の欠落分だけ推定精度が低下する。
【0037】
そこで、本実施形態では、特にガスタービン高温部品に適用される析出強化型合金の場合には、析出物の量的変動が硬さに対する寄与が大きいため、単に歪と硬さの相関に基づくのみではなく、析出物の定量的把握を行うことにより、正確な歪を推定するものである。
【0038】
図2においては、このような観点から歪を0,0.2,0.4〜1.2(%)とした場合の硬さを縦軸に表し、材料の強化析出物の量(個数)を横軸に表した特性を示している。この図2に示したように、ガスタービン部品の硬度と歪との相関関係は、強化相の析出物の量的変化に伴って変化するが、単に硬度を特定しただけでは正確な歪を把握することはできないことが理解される。この図2の如く、横軸に表した析出物の量を特定することにより、縦軸に表した硬度と歪との相関を初めて正確に捉えることができる。
【0039】
なお、マスターカーブ作成装置5には他の動翼材および静翼、燃焼器ライナ、トランジションピースに用いられている各種実験室材のデータが記憶されており、推定精度を向上するために追加データの入力も可能になっている。これらの部品材料については、下記の表1にそれぞれ組成とともに示している。
【0040】
【表1】
【0041】
この表1中、試料No.1〜6の材料、即ち、IN738LC(商品名)(以下、同じ。)、U500材、MarM247材、Rene80材、CMSX−2材およびNimonic263が析出強化型合金であり、上述した図2と同様の特性を示す。
【0042】
次に、図3および図4も参照して、さらに詳細に説明する。本実施形態は、材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等を受けた高温部品について、熱間等方加圧処理により再生して再使用することを前提としている。また、熱間等方加圧処理前に歪量の推定を行い、再結晶する歪量であるかどうかを判定することを主眼としている。即ち、再結晶化する歪量以上であった場合には、再生処理しても再結晶化により強度低下が生じ、再使用しないことが望ましいため、予めその判断を行うことが適切だからである。
【0043】
図3は、図2に示した相関図を使用した歪推定を2例示したものである。第1例は、図3に符号7(白丸)で示したように、実プラントで設計寿命内で廃却となった表1の試料No.1と同等材料Ni基超合金製ガスタービン第2段動翼を対象として実施したものである。この場合には、歪量の推定結果は、再結晶化する歪量以下の0.2%であった。
【0044】
また、第2例は、図3に符号8(黒丸)で示したように、前記と同材料により構成され、設計寿命を超えて使用され廃却となった翼を対象として実施したものである。この場合の歪量は、図3に符号9(点線)で示した再結晶化する歪量(1.2%)を超えていた。
【0045】
その後、再使用を目的に熱間等方加圧処理を用いた再生処理を施し、材料の回復度を確認した。図4は、再生処理後の翼から採取した試験片A1,A2,B1,B2のクリープ破断時間を示している。
【0046】
設計寿命内で廃却となった翼の試験片A1,A2のクリープ破断時間は新翼のクリープ破断時間9とほぼ同等以上の値を示していた。これに対し、設計寿命を超えて廃却となった翼の試験片B1,B2については推定通りに再結晶組織が認められ、クリープ破断強度は顕著に低下していた。
【0047】
なお、本発明では前述の析出強化型合金に限らず、表1に試料7〜9として示した固溶強化型合金、例えばHastelloyX(商品名)(以下、同じ)。HS188、FSX414についても実施することができる。
【0048】
このように、本実施形態によれば、精度よく歪の推定が可能となることが確認された。
【0049】
また、本発明では、Ni基、Co基およびNi−Fe基合金を用いた燃焼器ライナ、トランジションピースおよび静翼に対しても適用することができる。
【0050】
第2実施形態(図5)
本実施形態は、劣化と歪とが重畳したガスタービン高温部品の硬さのみを測定し、相関データにより、劣化に対応した歪量を得るようにしたものである。図5は、その相関データを示し、縦軸に硬さを表し、横軸に歪を表している。なお、特性点の符号7,8,9は、第1実施形態で示した図3のものと同一の意味を示し、7は設計寿命時間内の翼、8は設計寿命時間超の翼、9は再結晶する歪量を示す。
【0051】
即ち、本実施形態では、析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該歪量と硬さとの相関データを得ておき、ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた前記ガスタービン高温部品の硬さを計測し、この計測した硬さと図5に示した相関データとに基づいて前記劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品の歪を推定する。
【0052】
図5に示した相関データにおいては、材料を特定して予め材質劣化と硬さとの相関を図3のように求めることができるので、この関係をマスターカーブとして、図5の横軸に歪(%)として表したものである。したがって、横軸に劣化を考慮した歪の値が示されるので、試料については、硬さのみを測定し、レプリカによる観察は不要とすることができる。なお、マスターカーブ製作工程、使用装置等については、第1実施形態と略同様であるから説明を省略する。
【0053】
本実施形態によれば、第1実施形態の効果に加え、推定作用時の操作を、さらに容易化することができる。
【0054】
【発明の効果】
以上で詳述したように、本発明に係るガスタービン高温部品の歪推定方法によれば、材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた等のガスタービン高温部品について、歪量を高精度で推定することが可能となる。そして、熱間等方加圧処理を用いて同部品を再生使用する際の翼の信頼性を、さらに向上させることが可能となる。また、本発明に係る高温部品の歪推定装置によれば、前記方法を的確に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、歪推定装置のシステム構成図。
【図2】本発明の第1実施形態による硬さと析出物の密度および歪の相関を示すグラフ。
【図3】本発明の第1実施形態による再生翼の歪量推定結果を示すグラフ。
【図4】本発明の第1実施形態による再生翼のクリープ破断時間を示すグラフ。
【図5】本発明の第2実施形態による硬さと歪との相関を示すグラフ。
【符号の説明】
1…金属組織採取装置、2…組織の画像処理装置、3…硬さ計測装置、4…硬さ計測値処理装置、5…マスターカーブ作成装置、6…歪量表示装置、7…設計寿命時間内の翼、8…設計寿命時間超の翼、9…再結晶する歪量、10…新翼の値。
Claims (6)
- 析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該歪量と硬さとの相関データを得ておき、ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた前記ガスタービン高温部品の硬さを計測し、この計測した硬さと前記相関データとに基づいて前記劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品の歪を推定することを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法。
- 析出型強化合金または固溶強化型合金からなるガスタービン高温部品について、予め材質劣化と歪とが重畳した場合における当該劣化により析出する析出物の密度と硬さとの相関および歪量と硬さとの相関を示すデータを得ておき、ガスタービンの運用により材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けた前記ガスタービン高温部品の硬さと析出物の密度とを計測し、この計測した硬さおよび析出物の密度と歪を推定することを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法。
- 請求項1または2記載のガスタービン高温部品の歪推定方法において、材質劣化、クリープ損傷、疲労損傷等の劣化・損傷を受けたガスタービン高温部品として動翼、静翼、燃焼器ライナまたはトランジションピースに適用することを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法。
- 請求項1から3までのいずれかに記載のガスタービン高温部品の歪推定方法において、推定する部品の硬さ計測は、超音波硬さ計測装置またはショア硬さ計測装置を用いることを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法。
- 請求項2または3記載のガスタービン高温部品の歪推定方法において、推定する部品の析出物の密度は、レプリカにより析出物を転写して求めることを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定方法。
- ガスタービン高温部品における歪を推定したい特定箇所の組織をレプリカで採取する金属組織採取装置と、この金属組織採取装置により採取した組織を画像処理する組織の画像処理装置と、前記組織の採取箇所の硬さを計測する硬さ計測装置と、この硬さ計測装置により計測した硬さ計測値を処理する硬さ計測値処理装置と、この硬さ計測値処理装置により処理したデータに基づいてマスターカーブを作成するマスターカーブ作成装置と、このマスターカーブ作成装置により得られた情報をもとに前記ガスタービン高温部品の歪量の推定を行う歪量表示装置とを備えたことを特徴とするガスタービン高温部品の歪推定装置。
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