JP2000117469A - 肉盛り方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 電子ビームやレーザビームなどの高エネルギ
ービームを熱源とする肉盛り加工において、平らな形状
の肉盛り金属層を得ることができ、材料コストや加工コ
ストの低減が可能で、高い生産性のもとに高品質の肉盛
り加工を行うことができる肉盛り方法を提供する。 【解決手段】 被加工部材１の肉盛り部位に設ける溝２
の底面中央部を側端部よりも盛上がった凸形状となし、
被加工部材１の表面に略平行な線状ないし偏平状に集光
した高エネルギービームＢを肉盛り進行方向の前方側か
ら所定の照射角度θで前記溝２内に照射して肉盛り金属
層３を形成する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、金属部材の表面に
異種金属からなる肉盛り層を形成することにより、当該
金属部材に、例えば耐食性や耐摩耗性など母材金属とは
異なる性質をを付与する肉盛り技術に係わり、より詳し
くは電子ビームやレーザビームなどの高エネルギービー
ムを用いた肉盛り方法に関するものである。

【０００２】

【発明が解決しようとする課題】上記のような肉盛り加
工においては、被覆アーク溶接法、あるいは幅の広い帯
状の消耗電極を溶加材として用いるバンドアーク法など
のように、溶接熱源として主にアークが用いられていた
が、近年、このような肉盛り溶接に加えて、電子ビーム
やレーザビームなどの高エネルギービームを適用した肉
盛り加工も行われるようになって来ている。

【０００３】この場合、図５（ａ）に示すように、被加
工部材である板材１の表面の肉盛り部位に比較的浅い溝
５０を形成し、当該溝５０内に肉盛り材として粉末状の
溶加材ＦをノズルＮを介して供給しながら、高エネルギ
ービーム、例えばレーザビームＢを照射するようにして
いる。なお、前記溝５０は粉末状溶加材Ｆの飛散を防止
し、これによる材料ロスを抑えることにも寄与してい
る。

【０００４】しかしながら、このような肉盛り加工にお
いては、溶融した肉盛り金属が凝固して肉盛り層となる
に際して、溶融金属の中央部が最終凝固部となるため
に、肉盛り金属の中央部から側端部に至る部分の肉厚が
薄くなることから、１回のパスで肉盛り加工を行う場合
には、側端部における肉厚を確保するために応分の量の
肉盛り金属が必要となり、図５（ｂ）に示すように肉盛
り金属５１が中央部の突出した断面形状となる。したが
って、図５（ｃ）に示すような最終仕上げ形状に加工す
るまでの切削量および切削加工時間が増加し、材料およ
び加工コストが無駄になるという問題点があった。な
お、図５（ｄ）に示すように、溶接パス１回当たりの溶
着量を減らし、複数回のパスを重ねることによって幅の
狭い肉盛り金属５２を幅方向に並べて肉盛り加工を行う
方法を採用することも可能であるが、この場合には作業
能率が低下するばかりでなく、各パスの肉盛り金属５２
の間に、融合不良による空孔５３が生じ易くなるという
品質上の難点があり、このような問題の解消が高エネル
ギービームを適用した肉盛り加工における課題となって
いた。

【０００５】

【発明の目的】本発明は、高エネルギービームを熱源と
する従来の肉盛り方法における上記課題に着目してなさ
れたものであって、溶加材や加工費を無駄にすることな
く、高い生産性のもとに高品質の肉盛り加工を行うこと
ができる肉盛り方法を提供することを目的としている。

【０００６】

【課題を解決するための手段】本発明の請求項１に係わ
る肉盛り方法は、高エネルギービームを熱源とする金属
部材の肉盛り加工において、被加工部材表面の肉盛り部
位に溝を設けると共に、溝の底面を側端部に対して中央
部が盛上がった凸形状となし、被加工部材表面に略平行
な線状ないし偏平状に集光した高エネルギービームを肉
盛り進行方向の前方側から所定の照射角度で前記溝内に
照射する構成としたことを特徴としており、肉盛り方法
におけるこのような構成を前述した従来の課題を解決す
るための手段としている。

【０００７】本発明に係わる肉盛り方法の実施態様とし
て請求項２に係わる肉盛り方法においては、溝の幅Ｗと
凸形状をなす溝底面中央部の高さｈの比Ｗ／ｈを５〜５
０の範囲とし、高エネルギービームの照射角度を６０〜
８０°の範囲とする構成、同じく実施態様として請求項
３に係わる肉盛り方法においては、凸形状をなす溝底面
中央部の頂部が溝の幅Ｗの中心から左右にＷ／４の範囲
内に位置している構成、さらに実施態様として請求項４
に係わる肉盛り方法においては、高エネルギービームと
してレーザビームを用いる構成としたことを特徴として
いる。

【０００８】

【発明の実施の形態】図１および図２は、本発明に係わ
る肉盛り方法の一実施形態を説明するものであって、本
発明に係わる肉盛り方法においては、肉盛り加工に先立
って被加工部材１の表面の肉盛り部位に溝２を設けるに
際して、図１（ａ）、および図２（ａ）に拡大して示す
ように、溝２の底面中央部が側端部よりも盛上がった凸
形状となるように、すなわち断面形状が逆Ｍ字形あるい
はＷ字形となる溝２を形成する。そして、図１（ａ）お
よび（ｂ）に示すように、例えば粉末状の肉盛り材Ｆ
（溶加材）をノズルＮから溝２内に供給しながら、例え
ばレーザビームのような高エネルギービームＢを被加工
部材１の表面に略平行な線状ないし偏平状に集光して、
肉盛り進行方向の前方側から所定の照射角度θで前記溝
２内に照射することにより、肉盛り材Ｆと共に、被加工
部材１の溝２の近傍部を溶融して肉盛り金属３を形成す
るようにしている。

【０００９】このとき、高エネルギービームＢは、上記
のように被加工部材１の表面に略平行な線状ないし偏平
状に集光され、しかも所定の照射角度θで肉盛り進行方
向前方側から照射されているので、山形をなす凸形状に
形成された溝２の底面上においては、図１（ａ）に示す
ように高エネルギービームＢがＶ字形ないしは三日月形
に変形されて照射されることになる。

【００１０】したがって、肉盛り加工に際してＶ字形あ
るいは三日月形の溶融プールが形成され、溶融金属の凝
固に際しては、肉盛り加工の進行に伴って肉盛り金属３
の中央部が先に凝固し、両側端部が最終凝固部となるこ
とから、図２（ｂ）に示すように、肉盛り金属３の中央
部から側端部に至る部分の肉厚が増し、比較的偏平な形
状の肉盛り金属３が得られることになる。

【００１１】本発明に係わる肉盛り方法における溝２の
形状としては、請求項２に記載しているように、溝２の
幅Ｗと、溝底部から凸形状をなす溝底面の頂部２ａまで
の高さｈ（図２（ａ）参照）との比、Ｗ／ｈを５〜５０
の範囲とすることが望ましく、高エネルギービームの照
射角度θとしては、同じく請求項２に記載しているよう
に６０〜８０°の範囲とすることが望ましい。

【００１２】これは、Ｗ／ｈ比が５に満たない場合に
は、溝頂部２ａまでの高さｈが高すぎることから溝２の
底部側端側を十分に溶融させることが難しくなり、当該
部分に融合不良が生じ易くなり、逆にＷ／ｈ比が５０を
超えた場合には、高さｈが不足して肉盛り金属３の側端
部における高さ（肉厚）が十分に得られなくなる傾向が
あることによる。また、高エネルギービームの照射角度
θを６０〜８０°の範囲としたのは、照射角度θが６０
°に満たない場合には、凸形状に形成された溝２の底面
上における高エネルギービームの照射面形状が直線状に
近いものとなり、理想的なＶ字形あるいは三日月形とす
ることができなくなって、溶融金属の最終凝固部が肉盛
り金属３の中央寄りの位置となることから、肉盛り金属
３の側端部における高さ（肉厚）が十分に得られなくな
る傾向があり、照射角度θが８０°を超えた場合には、
高エネルギービームの照射面におけるエネルギー密度が
低くなって、肉盛り材Ｆおよび母材１を十分に溶融させ
ることが難しくなる傾向があることによる。

【００１３】また、凸形状をなす溝底面の頂部２ａは、
必ずしも溝幅Ｗの中心に位置している必要はないが、請
求項３に記載しているように、溝幅中心から左右に溝幅
Ｗの４分の１の距離の範囲内に位置させることが望まし
い。これは、頂部２ａが溝幅Ｗの４分の１を超えて一方
側に偏った場合には、肉盛り金属３の断面形状が非対称
となり易くなる傾向があることによる。

【００１４】さらに、本発明に係わる肉盛り方法におけ
る溝２の底面の形状としては、図２（ａ）に示したよう
な三角形のみに限定されず、図２（ｃ）に示すような円
弧状（曲面）、図２（ｄ）に示すような階段状の凸形状
としても支障はない。

【００１５】なお、高エネルギービームとしては、例え
ば電子ビームやレーザビームを用いることができるが、
ビーム成形のし易さの観点からは、請求項４に記載して
いるようにレーザビームを用いることが望ましい。

【００１６】

【発明の効果】本発明の請求項１に係わる肉盛り方法に
おいては、被加工部材の肉盛り部位に形成する溝の底面
を側端部よりも中央部が盛上がった凸形状として、被加
工部材の表面にほぼ平行な線状ないし偏平状に集光した
高エネルギービームを肉盛り進行方向の前方側から斜め
に照射するようにしているので、高エネルギービームＢ
がＶ字形ないしは三日月形に変形されて被加工部材に照
射されることから、溶融金属の最終凝固部が肉盛り金属
の側端部となって、側端部における肉厚が厚く、比較的
偏平な断面形状の肉盛り金属を融合不良などの溶接欠陥
を発生させることなく効能率に得ることができるように
なり、肉盛り材（溶加材）の使用量および仕上げ加工の
切削量が少なくなって、肉盛り加工のコストを大幅に削
減することができるという極めて優れた効果をもたらす
ものである。

【００１７】本発明に係わる肉盛り方法の実施態様とし
て請求項２に係わる肉盛り方法においては溝の幅Ｗと凸
形状をなす溝底面中央部の高さｈの比Ｗ／ｈを５〜５０
の範囲とすると共に、高エネルギービームの照射角度を
６０〜８０°の範囲としていることから、偏平で側端部
の肉厚が厚い理想的な断面形状を備えた肉盛り金属を確
実に得ることができ、同じく実施態様として請求項３に
係わる肉盛り方法においては凸形状をなす溝底面中央部
の頂部が溝の幅Ｗの中心から左右にＷ／４の範囲内に位
置していることから、左右対称形により近い優れた断面
形状の肉盛り金属をより確実に形成することができ、さ
らに実施態様として請求項４に係わる肉盛り方法におい
ては、高エネルギービームとしてレーザビームを用いる
ようにしているので、所望形状ヘのビーム成形をより容
易に行うことができるというさらに優れた効果がもたら
される。

【００１８】

【実施例】以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体
的に説明する。 実施例１ 被加工部材１として、板厚２０ｍｍの炭素鋼Ｓ４０Ｃ
（ＪＩＳ Ｇ ４０５１機械構造用炭素鋼鋼材）を用
い、表１に示すような各種形状の溝２を形成したのち、
ノズルＮから鉄を主成分とする粉末状肉盛り材Ｆを溝２
内に供給しながら、高エネルギービームＢとして、図示
しない集光光学系によって長さ１０ｍｍ、幅０．３ｍｍ
の線状に集光した２ｋＷのＮｄ−ＹＡＧレーザを種々の
照射角度θで肉盛り進行方向の前方側から照射すること
によって、溝２に沿って肉盛り金属３を形成した。そし
て、各被加工部材１からマクロ試験片を採取して、肉盛
り金属３の断面形状および融合不良などの溶接欠陥の有
無について調査した。

【００１９】その結果は表１に併せて示すとおりで、溝
２のＷ／ｈ比を８とし、レーザビームＢの照射角度θを
７０°あるいは８０°とした発明例１，２，３および７
においては、溝２の山形形状が、三角形状，円弧状およ
び階段状と異なるにも係わらず、いずれも欠陥の発生は
認められず、図２（ｂ）に示すように十分な高さと幅を
有する偏平状の肉盛り金属３（肉盛り層）を得ることが
できることが確認された。

【００２０】また、溝幅Ｗに対して溝底面の高さｈが比
較的高い発明例４の場合には、溝の端部に部分的な未溶
着部が発生している箇所が認められたが実用に耐え得る
レベルであった。さらに、溝幅Ｗに対して溝底面の高さ
ｈが比較的低い発明例５、およびレーザビームＢの照射
角度θが比較的小さい発明例６の場合には、いずれも溶
融金属中央部に対する溶融金属側端部の凝固の遅れがや
や不十分となって、側端部の肉厚が薄く中央部の突出し
た断面形状となりやすい傾向があるものの、実用上問題
のないことが確認された。

【００２１】

【表１】 実施例２ 図３は、本発明に係わる肉盛り方法をカムシャフトに適
用し、カムシャフトのカム面に耐摩耗性金属を肉盛りす
る例を示すものであって、図３（ａ）に示すようにカム
シャフト５（被加工部材１）のカム面に、上記発明例１
と同様に三角形状の底面を備えた溝２を形成し、ノズル
Ｎを介して耐摩耗性金属からなる肉盛り材Ｆを供給しな
がら、同様の線状に集光したレーザビームＢをカム面に
立てた法線に対して照射角度θが常に７０°となるよう
に制御しながら照射することによって、上記発明例１な
いし３と同様に、肉盛り部位にＶ字状のレーザビームＢ
を照射して溶融プールをＶ字形に保持しながら肉盛り加
工を進行させることができ、溶融金属の最終凝固部が肉
盛り金属３の側端側となって、図４（ａ）および（ｂ）
に示した従来方法による肉盛り加工の場合に較べて、図
３（ｂ）に示すように十分な高さと幅を有する偏平状の
肉盛り金属３（肉盛り層）を得ることができ、仕上げ加
工の切削量が減り、材料コストおよび加工コストの大幅
な削減が可能であることが確認された。

【図面の簡単な説明】

【図１】（ａ）および（ｂ）は本発明に係わる肉盛り方
法の一実施形態を示す斜視図および側面図である。

【図２】（ａ） 図１の被加工部材に形成した溝の形状
を示す断面図である。 （ｂ） 図１に示した方法によって形成された肉盛り金
属の形状を示す断面図である。 （ｃ） 被加工部材の表面に形成する溝の他の形状例を
示す断面図である。 （ｄ） 被加工部材の表面に形成する溝の別の形状例を
示す断面図である。

【図３】（ａ） 本発明に係わる肉盛り方法の他の実施
形態としてカムシャフトのカム面への肉盛り加工要領を
示す斜視図である。 （ｂ） 図３（ａ）に示した方法によって形成された肉
盛り金属の形状を示すカムリフト部の断面図である。

【図４】（ａ） カムシャフトのカム面への従来の肉盛
り加工要領を示す斜視図である。 （ｂ） 図４（ａ）に示した方法によって形成された肉
盛り金属の形状を示すカムリフト部の断面図である。

【図５】（ａ） 高エネルギービームによる従来の肉盛
り方法を示す斜視図である。 （ｂ） 図５（ａ）に示した方法によって形成された肉
盛り金属の形状を示す断面図である。 （ｃ） 図５（ａ）に示した方法による肉盛り金属の最
終仕上げ形状を示す断面図である。 （ｄ） 従来の他の肉盛り方法による肉盛り金属の形状
を示す断面図である。

【符号の説明】 １ 被加工部材（金属部材） ２ 溝 ２ａ 頂部 Ｂ レーザビーム（高エネルギービーム） Ｆ 肉盛り材

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 加 納 眞 神奈川県横浜市神奈川区宝町２番地 日産 自動車株式会社内 Ｆターム(参考） 4E066 CC04 4E068 BA06 BB00

Claims (4)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 高エネルギービームを熱源とする金属部
   材の肉盛り加工において、被加工部材表面の肉盛り部位
   に溝を設けると共に、溝の底面を側端部に対して中央部
   が盛上がった凸形状となし、被加工部材表面に略平行な
   線状ないし偏平状に集光した高エネルギービームを肉盛
   り進行方向の前方側から所定の照射角度で前記溝内に照
   射することを特徴とする肉盛り方法。
2. 【請求項２】 前記溝の幅Ｗと凸形状をなす溝底面中央
   部の高さｈの比Ｗ／ｈを５〜５０の範囲とし、高エネル
   ギービームの照射角度を６０〜８０°の範囲とすること
   を特徴とする請求項１記載の肉盛り方法。
3. 【請求項３】 凸形状をなす溝底面中央部の頂部が溝の
   幅Ｗの中心から左右にＷ／４の範囲内に位置しているこ
   とを特徴とする請求項１または請求項２記載の肉盛り方
   法。
4. 【請求項４】 高エネルギービームとしてレーザビーム
   を用いることを特徴とする請求項１ないし請求項３のい
   ずれかに記載の肉盛り方法。