JPWO2019102817A1 - 原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材、ならびに、原油タンカー - Google Patents

原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材、ならびに、原油タンカー Download PDF

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Abstract

原油タンカーの上甲板と、原油タンカーの底板のいずれにも使用することができる、優れた耐全面腐食性と耐局部腐食性とを兼ね備えた原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材を提供する。所定の成分組成にするとともに、鋼材の表層部における固溶Cu量を0.40質量%以下とし、次式(1)の関係を満足させる。〔%固溶Cu〕 / 〔%Cu〕 ≧ 0.35 ---(1)

Description

本発明は、原油タンカーの原油タンク、特には、全面腐食が発生する原油タンクの天井部や側壁部、および、孔食が発生する原油タンクの底部に用いて好適な原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材に関するものである。また、本発明は、上記の鋼材から構成される原油タンカーに関するものである。
なお、本発明の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材には、厚鋼板、薄鋼板および形鋼が含まれる。
原油タンカーの原油タンクの内面、特に上甲板の裏面や側壁上部に用いられている鋼材には、全面腐食が生じることが知られている。この全面腐食が起こる原因としては、
(1) 昼夜の温度差による鋼板表面への結露と乾燥(乾湿)の繰り返し、
(2) 原油タンク内に防爆用に封入されるイナートガス(O2約4体積%、CO2約13体積%、SO2約0.01体積%、残部N2を代表組成とするボイラあるいはエンジンの排ガス等)中のO2,CO2,SO2の結露水への溶け込み、
(3) 原油から揮発するH2S等腐食性ガスの結露水への溶け込み、
(4) 原油タンクの洗浄に使用された海水の残留
などが挙げられる。
これらは、通常、2.5年毎に行われる実船のドック検査で、強酸性の結露水中に、硫酸イオンや塩化物イオンが検出されていることからも窺い知ることができる。
また、腐食によって生成した鉄錆を触媒としてH2Sが酸化されると、固体Sが鉄錆中に層状に生成するが、これらの腐食生成物は、容易に剥離して脱落し、原油タンクの底部に堆積する。そのため、ドック検査では、多大な費用をかけて、タンク上部の補修やタンク底部の堆積物の回収が行われているのが現状である。
一方、原油タンカーの原油タンク等の底板として用いられる鋼材には、従来、原油そのものの腐食抑制作用や原油タンク内面に形成される原油由来の保護性コート(オイルコート)の腐食抑制作用により、腐食は生じないものと考えられていた。しかしながら、最近の研究によって、原油タンクの底板に用いられる鋼材には、お椀型の局部腐食(孔食)が発生することが明らかになった。
かような局部腐食が起こる原因としては、
(1) 塩化ナトリウムを代表とする塩類が高濃度に溶解した凝集水の存在、
(2) 過剰な洗浄によるオイルコートの離脱、
(3) 原油中に含まれる硫化物の高濃度化、
(4) 結露水に溶け込んだ防爆用イナートガス中のO2、CO2、SO2等の高濃度化、
などが挙げられる。
実際、実船のドック検査時に、原油タンク内に滞留した水を分析した結果では、高濃度の塩化物イオンと硫酸イオンが検出されている。
ところで、上記したような全面腐食や局部腐食を防止する最も有効な方法は、鋼材表面に重塗装を施し、鋼材を腐食環境から遮断することである。しかしながら、原油タンクの塗装作業は、その塗布面積が膨大であるだけでなく、塗膜の劣化により、約10年に一度は塗り替えが必要となるため、検査や塗装に膨大な費用が発生する。さらに、重塗装した塗膜が損傷を受けた部分は、原油タンクの腐食環境下では、かえって腐食が助長されることが指摘されている。
そこで、塗装を施さなくとも、上記の全面腐食や局部腐食を防止することのできる、耐食性に優れた鋼材の開発が望まれている。
例えば、特許文献1には、
「質量%で、C:0.01〜0.3%、Si:0.02〜1%、Mn:0.05〜2%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Ni:0.05〜3%、Mo:1%以下、Cu:1%以下、Cr:2%以下、W:1%以下、Ca:0.01%以下、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、B:0.05%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなるカーゴオイルタンク用鋼材。」
が開示されている。
また、特許文献2には、
「質量%で、C:0.01〜0.2%、Si:0.01〜1%、Mn:0.05〜2%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Ni:0.01〜1%、Cu:0.05〜2%、Sn:0.01〜0.2%、Cr:0.1%以下、Al:0.1%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなるカーゴオイルタンク用鋼材。」
が開示されている。
特開2003−82435号公報 特開2007−270196号公報 国際公開2015/087531号公報
ところで、製造管理上は、原油タンカーの上甲板用の鋼材と、原油タンカーの底板用の鋼材とを作り分けることなく、両方に兼用できる鋼材であることが望ましい。
この点、特許文献1および特許文献2ではいずれも、ガスA:体積%で、5%O2−13%CO2−0.02%SO2−残N2と、ガスB:体積%で、5%O2−13%CO2−0.02%SO2−0.25%H2S−残N2とを、2週間間隔で交互に吹き込む条件で、実船のデッキ裏(上甲板裏面)環境を模擬した腐食試験が行われており、この試験結果に基づき、デッキ裏(上甲板裏面)環境での耐食性が評価されている。
しかし、原油タンカーの上甲板裏面の環境では、原油タンク内に原油が貯留されている場合、原油から揮発したH2Sが、常時、含まれることとなる。このH2Sは、重要な腐食因子(化学種)となるところ、上記したガスAにはH2Sが含まれていないため、特許文献1および特許文献2の腐食試験では、実際の原油タンカーの上甲板裏面の腐食環境が十分に模擬されているとは言えない。このため、特許文献1および特許文献2の鋼材を、原油タンカーの原油タンク内面に当たる上甲板の裏面および側壁上部に使用する場合には、十分な耐食性が得られないことが懸念される。
また、特許文献2の鋼材は、原油タンカーの底板の環境を模擬した腐食試験における孔食速度も速く、十分な耐局部腐食性が得られているとは言えない。
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであって、原油タンカーの上甲板と、原油タンカーの底板のいずれにも使用することができる、優れた耐全面腐食性と耐局部腐食性とを兼ね備えた原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の鋼材から構成される原油タンカーを提供することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の課題を解決すべく、種々検討を重ね、先に、特許文献3において、
「質量%で、C:0.03〜0.18%、Si:0.03〜1.50%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.025%以下、S:0.010%以下、Al:0.005〜0.10%、N:0.008%以下およびCu:0.05〜0.4%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材であって、該鋼材の転位密度αが、Cu含有量との関係で、α≦4×1016×〔%Cu〕2.8を満たす原油タンク用鋼材。」
を開発した。
上掲特許文献3の鋼材により、原油タンカーの上甲板裏面環境(以下、上甲板裏面環境ともいう)での耐全面腐食性と、原油タンカーの底板環境(以下、底板環境ともいう)での耐局部腐食性とを両立することが可能となった。
しかし、現在、原油タンカーの原油タンクのさらなる長寿命化が求められており、そのためには、耐食性を一層向上させることが必要となる。
そこで、発明者らは、耐食性の一層の向上を図るべく、さらに検討を行ったところ、以下の知見を得た。
(1)底板の局部腐食(以下、孔食ともいう)は、初期段階の腐食と進展段階の腐食とでそのメカニズムが異なっており、これら両方を同時に抑制することで、耐局部腐食性が大きく向上する。
(2)このうち、孔食の初期段階の腐食(すなわち、孔食の発生のし易さ)には、原油タンク底にたまった海水中の微生物が大きく関与している。
すなわち、海水中に存在する微生物は、鋼材表面に付着し、バイオフィルムを形成する。微生物が鋼材表面で十分に育成されて、安定なバイオフィルムが形成された場合、そのバイオフィルムは、腐食因子の鋼材表面への透過障壁として作用し、孔食の発生を抑制する。ここで、鋼材表面でのバイオフィルム形成には、鋼中へのNbおよび/またはSbの添加が有効であり、これらの元素を含有させることによって、孔食の発生が大幅に抑制される。
(3)また、孔食の進展は、Cuの鋼材中での存在形態に大きく影響を受けており、特に鋼材の表層部において固溶状態で存在するCu(以下、鋼材の表層部における固溶Cuともいう)の量を一定以上の割合とすることで、底板環境での孔食の進展、さらには上甲板裏面環境における全面腐食も、大幅に抑制される。
なお、鋼材の表層部とは、鋼材の表面から、厚さ方向(鋼材の長さ方向(圧延方向)に直角、かつ、幅方向(圧延直角方向)に直角な方向)に5mmの深さまで、または厚さ方向に板厚の1/4の深さまでのうち、いずれか浅い方までの領域を意味する。
(4)さらに、鋼材の表層部における固溶Cuを一定以上の割合とするには、熱間圧延前のスラブの加熱雰囲気、加熱時間および保持温度、ならびに、熱間圧延後の冷却速度を適切に制御することが重要である。
(5)加えて、Niを添加することにより、上甲板裏面環境での耐全面腐食性が一層向上する。
(6)そして、これらを組み合わせることで、耐全面腐食性および耐局部腐食性の両方を同時に一層向上させることが可能となる。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えた末に完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.03〜0.18%、
Si:0.01〜1.50%、
Mn:0.10〜2.00%、
P:0.030%以下、
S:0.0080%以下、
Al:0.001〜0.100%、
N:0.0080%以下、
Ni:0.010〜1.00%および
Cu:0.010〜0.50%
を含有し、さらに
Sb:0.010〜0.50%および
Nb:0.005〜0.300%
のうちから選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
鋼材の表層部における固溶Cu量が0.40質量%以下であり、かつ、次式(1)の関係を満足することを特徴とする原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
〔%固溶Cu〕 / 〔%Cu〕 ≧ 0.35 ---(1)
ここで、〔%固溶Cu〕は、鋼材の表層部における固溶Cu量(質量%)である。また、〔%Cu〕は、上記成分組成におけるCu含有量(質量%)である。
2.前記成分組成が、さらに質量%で、
Sn:0.01〜0.50%、
Mo:0.01〜1.00%および
W:0.01〜1.00%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記1に記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
3.前記成分組成が、さらに質量%で、
Cr:0.01〜1.00%および
Co:0.01〜0.50%
のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする前記1または2に記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
4.前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.001〜0.100%、
Zr:0.001〜0.100%および
V:0.001〜0.100%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
5.前記成分組成が、さらに質量%で、
Ca:0.0001〜0.0100%、
Mg:0.0001〜0.0200%および
REM:0.0002〜0.2000%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
6.前記成分組成が、さらに質量%で、
B:0.0001〜0.0300%
を含有することを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
7.前記1〜6のいずれかに記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材を有することを特徴とする原油タンカー。
本発明によれば、原油タンカーの原油タンクに発生する全面腐食や局部腐食を効果的に抑制することができ、産業上極めて有用である。
全面腐食試験に用いた試験装置を説明する図である。 局部腐食試験(初期段階)に用いた試験装置を説明する図である。 局部腐食試験(進展段階)に用いた試験装置を説明する図である。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の鋼材の成分組成について説明する。なお、成分組成における単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
C:0.03〜0.18%
Cは、鋼の強度確保に必要な元素である。しかしながら、C含有量が0.18%を超えると、溶接性および溶接熱影響部の靭性を低下させる。そのため、C含有量は0.03〜0.18%の範囲とする。好ましくは0.04〜0.16%の範囲である。
Si:0.01〜1.50%
Siは、脱酸のために添加される元素である。しかし、Si含有量が0.01%未満では脱酸効果に乏しい。一方、Si含有量が1.50%を超えると、靭性や溶接性が劣化する。このため、Si含有量は0.01〜1.50%とする。なお、Si含有量の下限は、0.03%が好ましく、0.05%がより好ましい。また、Si含有量の上限は、0.70%が好ましく、0.50%がより好ましい。
Mn:0.10〜2.00%
Mnは、強度および靭性を改善する元素である。しかし、Mn含有量が0.10%未満ではその効果が十分でない。一方、Mn含有量が2.00%を超えると、溶接性が劣化する。このため、Mn含有量は0.10〜2.00%の範囲とする。好ましくは0.40〜1.80%の範囲である。より好ましくは、0.60〜1.60%の範囲である。
P:0.030%以下
Pは、靭性及び溶接性を劣化させる。このため、P含有量は0.030%以下とする。好ましくは0.025%以下である。より好ましくは0.015%以下である。
S:0.0080%以下
Sは、鋼の靭性および溶接性を劣化させる有害元素であるので、極力低減することが望ましい。特に、S含有量が0.0080%を超えると、母材靭性および溶接部靭性の劣化が大きくなる。
このため、S含有量は0.0080%以下とする。好ましくは0.0070%以下、より好ましくは0.0060%以下である。
Al:0.001〜0.100%
Alは、脱酸剤として添加される元素であり、その含有量は0.001%以上とする。しかし、Al含有量が0.100%を超えると、鋼の靭性が低下する。そのため、Al含有量の上限は0.100%とする。
N:0.0080%以下
Nは、靭性を低下させる有害な元素であるので、極力低減することが望ましい。特に、N含有量が0.0080%を超えると、靭性の低下が大きくなる。このため、N量は0.0080%以下とする。好ましくは0.0070%以下である。
Ni:0.010〜1.00%
Niは、上甲板裏面環境での耐全面腐食性を向上させる重要な元素である。すなわち、Niは、上甲板裏面環境で鋼材が腐食するに伴って、さび層中に取り込まれ、さび粒子を微細化する作用を有する。また、さび粒子が微細化されることで、さび層の緻密性(遮蔽性)が向上し、腐食の進行が抑制される。このような効果を得るためには、Ni含有量を0.010%以上とすることが必要である。しかしながら、Niを過剰に含有させると、溶接性や靱性を劣化させ、コストの観点からも不利になる。そのため、Ni含有量は0.010〜1.00%の範囲とする。好ましくは0.02〜0.80%の範囲である。より好ましくは0.03〜0.60%の範囲である。
Cu:0.010〜0.50%
Cuは、上甲板裏面環境での耐全面腐食性と底板環境での耐局部腐食性の両方を向上させる重要な元素である。すなわち、Cuイオンが、低pH環境においてS2-等の腐食性アニオンと結びつき、鋼材表面で難溶性のCu化合物が形成することで、鋼材表面が保護され、全面腐食および孔食が抑制される。このような効果を得るため、Cu含有量は0.010%以上とする。一方、Cu含有量が0.50%を超えると、溶接性や靱性を劣化させ、コストの観点からも不利になる。また、Cu含有量が0.50%を超えると、鋼材の表層部における固溶Cu量が高くなりすぎ、後述するように耐食性の劣化を引き起こすリスクが高まる。
このため、Cu含有量は0.010〜0.50%の範囲とする。好ましくは0.02%以上、より好ましくは0.03%以上である。また、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下である。
Sb:0.010〜0.50%およびNb:0.005〜0.300%のうちから選ばれる1種または2種
SbおよびNbはいずれも、孔食が進展する前の初期段階の腐食の抑制(孔食の発生の抑制)に効果のある重要な元素である。すなわち、SbおよびNbは、腐食による母材の溶解に伴って、鋼材の表面上でそれぞれSb23およびNbO2といった微細酸化物の形態で存在するようになる。Sb23およびNbO2が存在する鋼材の表面は、微生物の好適な生育場となり、鋼材表面において微生物のバイオフィルム形成が促される。その結果、孔食の初期段階の腐食、つまり、孔食の発生が抑制される。また、SbおよびNbはいずれも、上甲板裏面環境での耐全面腐食性の向上にも有効に寄与する。これらの効果を得るため、Sb:0.010%以上および/またはNb:0.005%以上を含有させる。しかしながら、SbおよびNbを過剰に含有させると、溶接性や靱性を劣化させ、コストの観点からも不利になる。このため、Sb含有量は0.010〜0.50%の範囲、Nb含有量は0.005〜0.300%の範囲とする。好ましくはSb:0.02〜0.35%の範囲である。より好ましくはSb:0.02〜0.30%の範囲、さらに好ましくはSb:0.03〜0.25%の範囲である。また、好ましくはNb:0.010〜0.200%の範囲である。
以上、基本成分について説明したが、必要に応じて、以下の元素を適宜含有させることができる。
Sn:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜1.00%およびW:0.01〜1.00%のうちから選ばれる1種または2種以上
Snは、腐食に伴って、鋼材表面からSn2+イオンとして遊離し、腐食因子であるS2-と結びつきSnSを形成する。これにより、鋼材界面へのS2-の透過を抑制する。また、MoおよびWはそれぞれ、MoO4 2-イオンおよびWO4 2-イオンとして遊離し、錆中に取り込まれ、錆にカチオン選択透過性を付与し、鋼材界面へのCl-やSO4 2-、S2-等の腐食性アニオンの透過を電気的に抑制する。これらの効果は、いずれの元素についても、その含有量を0.01%以上とすることで発現する。しかしながら、いずれの元素も過剰に含有させると、溶接性や靱性を劣化させ、コストの観点からも不利になる。
このため、これらの元素を含有させる場合、その含有量はSn:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜1.00%およびW:0.01〜1.00%の範囲とする。
好ましくはSn:0.02〜0.30%の範囲、より好ましくはSn:0.03〜0.25%の範囲である。
好ましくはMo:0.02〜0.70%の範囲、より好ましくはMo:0.03〜0.50%の範囲である。
好ましくはW:0.02〜0.70%の範囲、より好ましくはW:0.03〜0.50%の範囲である。
Cr:0.01〜1.00%およびCo:0.01〜0.50%のうちから選ばれる1種または2種
CrおよびCoはいずれも、腐食の進行に伴って錆層中に移行し、Cl-の錆層への侵入を遮断することで、錆層と地鉄の界面へのCl-の濃縮を抑制し、これによって耐食性の向上に寄与する。また、Zn含有プライマーを鋼材表面に塗布したときには、Feを中心としたCrやCo、Znとの複合酸化物を形成して、長期間にわたり鋼材表面にZnを存続させることを可能とし、これにより、飛躍的に耐食性が向上する。上記の効果は、特に原油タンカーの原油タンクの底板のように、原油油分から分離された高濃度の塩分を含む液と接触する部位において顕著であり、CrやCoを含有する鋼材にZn含有プライマー処理を施すことによって、これらの元素を含有しない鋼材と比較して、格段に耐食性を向上させることができる。このような効果は、これらの元素の含有量が0.01%未満では十分ではない。一方、Cr含有量が1.00%、Co含有量が0.50%をそれぞれ超えると、溶接部の靭性を劣化させる。また、Crは、加水分解反応を生じる元素であり、腐食部でのpHを低下させる。すなわち、Crの過剰な添加は、トータルでの耐食性を劣化させるおそれもある。
このため、これらの元素を含有させる場合、その含有量はCr:0.01〜1.00%およびCo:0.01〜0.50%の範囲とする。好ましくはいずれも0.02〜0.30%の範囲である。より好ましくはいずれも0.03〜0.20%の範囲である。
Ti:0.001〜0.100%、Zr:0.001〜0.100%およびV:0.001〜0.100%のうちから選ばれる1種または2種以上
Ti、ZrおよびVは、所望とする強度を確保するために、このうちの1種または2種以上を含有させることができる。しかし、いずれの元素も多量に含有させると、靱性や溶接性を劣化させる。
従って、これらの元素を含有させる場合、その含有量はいずれも0.001〜0.100%の範囲とする。好ましくは0.005〜0.050%の範囲である。
Ca:0.0001〜0.0100%、Mg:0.0001〜0.0200%およびREM:0.0002〜0.2000%のうちから選ばれる1種または2種以上
Ca、MgおよびREMはいずれも、溶接部の靱性を確保する目的で、このうちの1種または2種以上を含有させることができる。しかし、いずれの元素も多量に含有させると、溶接部の靱性劣化やコストの増加を招く。
従って、これらの元素を含有させる場合、その含有量はCa:0.0001〜0.0100%、Mg:0.0001〜0.0200%およびREM:0.0002〜0.2000%の範囲とする。
B:0.0001〜0.0300%
Bは、鋼材の焼入性を向上させる元素であり、鋼材の強度を確保する目的で必要に応じて含有させることができる。このような効果を得るためには、Bを0.0001%以上含有させることが好ましい。しかし、B含有量が0.0300%を超えると、靱性の大幅な劣化を招く。
従って、Bを含有させる場合、その含有量は0.0001〜0.0300%の範囲とする。
上記以外の成分はFeおよび不可避的不純物である。
そして、本発明の鋼材では、上述したとおり、Cuの鋼材中での存在形態を制御して、鋼材の表層部において固溶状態で存在するCu(以下、鋼材の表層部における固溶Cuともいう)の量を一定以上の割合とすることが極めて重要である。
すなわち、鋼材の腐食は鋼材の表面から進行する点、および原油タンカー上甲板および底板の機能維持の観点より、許容される板厚の腐食減量は数mm程度である(初期板厚からの過度な腐食減量は許容されない)点から、鋼材の表層部における固溶Cu量を一定以上確保することが極めて重要である。
鋼材の表層部における固溶Cu量:0.40質量%以下、かつ、〔%固溶Cu〕 / 〔%Cu〕 ≧ 0.35 ---(1)
上述したように、Cuイオンは、低pH環境においてS2-等の腐食性アニオンと結びつき、鋼材表面で難溶性のCu化合物を形成することで、鋼材の表面を保護し、上甲板裏面環境下での全面腐食および底板環境下での孔食の進展を抑制する。Cuイオンは、母材中に固溶したCuが、腐食反応によって母材が溶解する際に生じる。一方、鋼材中に固溶状態で存在しない非固溶状態のCu、具体的には、Cu析出物は、腐食の発生起点の一つとなるため、鋼材の耐食性を劣化させる。
この点、発明者らが検討を重ねた結果、上甲板裏面環境での耐全面腐食性および底板環境での耐局部腐食性を高めるには、成分組成におけるCu含有量に対する、鋼材の表層部における固溶Cu量の比を0.35以上、すなわち、上掲式(1)を満足させることが重要であることを見出した。好ましくは0.60以上である。
なお、上掲式(1)における〔%固溶Cu〕は、鋼材の表層部における固溶Cu量(質量%)である。また、〔%〕は、上記成分組成におけるCu含有量(質量%)である。
ただし、Cuイオンは抗菌作用を有しているために、鋼材の表層部における固溶Cu量が0.40%を超えると、微生物によるバイオフィルム形成が阻害され、孔食の初期段階の腐食、つまり、孔食の発生を抑制することが困難となる。そのため、鋼材の表層部における固溶Cu量は0.40質量%以下とする。好ましくは0.35質量%以下である。
なお、鋼材の表層部における固溶Cu量は、以下の方法で求める。
すなわち、鋼材の表層部から幅:10mm×長さ:10mm×厚さ:5mm(ただし、鋼材の板厚の1/4が5mm未満の場合、厚さは板厚の1/4とする)の試験片を採取する。ついで、採取した試験片に対し、10体積%アセチルアセトン−1質量%塩化テトラメチルアンモニウム−メタノール系電解液を用いて定電流電解を施して析出物を抽出し、この析出物を孔径:0.1μmのフィルターを用いて捕集する。得られた析出物を、酸により分解・溶液化した後、ICP発光分光分析法により分析し、Cu析出物の量を測定する。その後、成分組成におけるCu含有量から、測定された析出物の量を減ずることにより、鋼材の表層部における固溶Cu量を求める。
なお、成分組成におけるCu含有量に対する、鋼材の表層部における固溶Cu量の比は、成分組成が同じであっても、製造条件によって大きく変化する。そのため、成分組成におけるCu含有量に対する、鋼材の表層部における固溶Cu量の比を適正な範囲に制御するためには、後述するように、製造条件、特に熱間圧延前のスラブの加熱雰囲気、加熱時間および保持温度、ならびに、熱間圧延後の冷却速度を適切に制御することが極めて重要である。
また、耐食性、特に底板環境での耐局部腐食性をより一層向上させる観点からは、鋼材の表面粗さを制御することが好ましい。具体的には、JIS B 0601−2001の規定に準拠して測定される算術平均粗さ:Raを0.02〜100μmとすることが好適である。
さらに、鋼材の好適な板厚は5〜60mm程度である。
次に、本発明の鋼材の好適製造方法について、説明する。
上記した成分組成になる溶鋼を、転炉や電気炉等の公知の炉で溶製し、連続鋳造法や造塊法等の公知の方法でスラブやビレット等の鋼素材とする。なお、溶製に際して、真空脱ガス精錬等を実施しても良い。また、溶鋼の成分調整方法は、公知の鋼製錬方法に従えばよい。
ついで、上記の鋼素材を所望の寸法形状に熱間圧延する。鋼素材を酸素濃度0.02〜18.0体積%の雰囲気で1020℃以上の温度に加熱して20min以上保持したのち、熱間圧延を行うことが極めて重要である。
すなわち、加熱温度が低くなると、鋼素材の表面での酸化速度は遅くなる。このため、鋼素材の表面で液相Cuが、スケール側に排出されることなく残留し、最終的には、オーステナイト粒界に浸透する。オーステナイト粒内の固溶Cuは、オーステナイト粒界に浸透した液相Cuへ容易に拡散するため、最終製品となる鋼材の表層部において、固溶Cuを十分量確保することができなくなる。また、オーステナイト粒界に浸透した液相Cuは、粒界脆化を引き起こすため、後の圧延工程において鋼板割れが生じ、製造コストの増加を招くおそれもある。このため、加熱温度は1020℃以上とする。好ましくは1030℃以上、より好ましくは1040℃以上である。
ただし、加熱温度が1350℃を超えると、表面痕の発生原因となったり、スケールロスや燃料原単位が増加したりする。そのため、加熱温度は1350℃以下とすることが好ましい。より好ましくは1300℃以下である。
また、保持時間を20min未満にすると、液相Cuがオーステナイト粒界に浸透して、最終製品となる鋼材の表層部において、固溶Cuを十分量確保することができなくなる。このため、保持時間は20min以上とする。好ましくは120min以上である。
なお、保持時間の上限は特に限定されるものではないが、生産性などの観点から、900minとすることが好ましい。
また、鋼素材の加熱雰囲気(以下、加熱雰囲気ともいう)における酸素濃度も、鋼材の表層部における固溶Cu量に影響する重要な制御因子である。
すなわち、加熱雰囲気中の酸素濃度が0.02体積%未満では、酸素ポテンシャルが低い環境であるために、酸化プロセスにおいてFe2+イオンの外方拡散が極めて支配的となり、これにより、鋼素材の表面に、スケール化合物として緻密なFeOが生成する。緻密なFeOは、鋼素材表面上での液相Cuの濡れ性を増大させ、オーステナイト粒界への液相Cuの浸透を促進する。上述したように、オーステナイト粒内の固溶Cuは、オーステナイト粒界に浸透した液相Cuへ容易に拡散するため、オーステナイト粒界への液相Cuの浸透が促進されると、最終製品の表層部における固溶Cuの量が低下する。一方、加熱雰囲気中の酸素濃度が18体積%を超えると、鋼素材の内部酸化が過剰に進み、オーステナイト粒界に(鋼素材の表面で生成する液相Cuが浸透するものではなく、)直接液相Cuが生成することで、オーステナイト粒内の固溶Cuが当該液相Cuへ拡散して、固溶Cu量が低下する。また、スケールロスの増加も著しくなる。
そのため、加熱雰囲気中の酸素濃度は18体積%以下とする必要がある。好ましくは16体積%以下、より好ましくは14体積%以下である。
なお、加熱雰囲気における酸素以外のガスは、特に限定されず、不活性ガス、炭化水素類、または燃焼生成ガス等を用いればよく、具体的には、窒素、水素、HO、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、ホルムアルデヒド等があげられる。
また、熱間圧延では、仕上圧延終了温度を適正化、具体的には680℃以上900℃以下とすることが好ましい。仕上圧延終了温度が680℃未満では、変形抵抗の増大により圧延荷重が増加し、圧延の実施に大きな負荷がかかる。また、加工歪部よりCu化合物の析出が開始され、鋼材の表層部における固溶Cu量、ひいては〔%固溶Cu〕 / 〔%Cu〕が減少する。一方、仕上圧延終了温度が900℃を超えると、所望の強度を得られない場合がある。
さらに、熱間圧延後の鋼材の冷却は、鋼材の表層部における固溶Cuを十分量確保できれば、空冷や加速冷却のいずれの方法でもよい。例えば、加速冷却の場合、冷却速度を4〜100℃/s、冷却停止温度を650〜300℃とすることで、鋼材の表層部において所定量の固溶Cuが得られる。
すなわち、冷却速度:4℃/s未満、または、冷却停止温度:650℃超では、Cu化合物の析出が十分に抑制されず、鋼材の表層部において所望とする固溶Cu量が得られない。一方、冷却速度:100℃/s超、冷却停止温度:300℃未満では、鋼材の靭性が低下したり、鋼材の形状に歪が発生する。
なお、熱間圧延後、必要に応じて、再加熱処理、酸性および冷間圧延を施し、所定板厚の冷延鋼板としてもよい。また、上記した以外の製造条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
実施例1
表1に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)の溶鋼を、通常公知の手法により溶製および連続鋳造してスラブとした。このスラブを、表2に示す条件で加熱した後、表2に示す条件で熱間圧延して板厚:40mmの熱延鋼板とし、表2に示す条件で水冷により450℃の冷却停止温度まで加速冷却した。なお、スラブ加熱における加熱雰囲気中、酸素を表2に記載する体積%とし、酸素以外のガスは、体積%で、CO:13%、CHO:14%、N:残部とした。
ついで、得られた鋼材について、表面の黒皮と呼ばれる酸化被膜を除去したのち、後述するサイズの試験片を採取して、以下の方法により、鋼材の表層部における固溶Cu量の測定、および、耐食性の評価を行った。
・鋼材の表層部における固溶Cu量の測定
鋼材の表層部から幅:10mm×長さ:10mm×厚さ:5mmの試験片を採取した。
ついで、採取した試験片に対し、10体積%アセチルアセトン−1質量%塩化テトラメチルアンモニウム−メタノール系電解液を用いて定電流電解を施して析出物を抽出し、この析出物を孔径:0.1μmのフィルターを用いて捕集した。得られた析出物を、酸により分解・溶液化した後、ICP発光分光分析法により分析し、Cu析出物の量を測定した。その後、成分組成におけるCu含有量から、測定された析出物の量を減ずることにより、鋼材の表層部における固溶Cu量を求めた。結果を表2に示す。
・耐食性の評価
(1) 上甲板裏面環境を模擬した全面腐食試験
上甲板裏面環境における耐全面腐食性を評価するため、得られた鋼材の表層部からそれぞれ、幅:25mm×長さ:60mm×厚さ:5mmの矩形の小片を切り出し、腐食試験片とした。ついで、裏面および端面は腐食しないようにテープでシールし、図1に示す腐食試験装置を用いて全面腐食試験を行った。
この腐食試験装置は、腐食試験槽2と温度制御プレート3とから構成されていて、腐食試験槽2には温度が30℃に保持された水6が注入されている。また、その水6中には、導入ガス管4を介して、13体積%CO2、4体積%O2、0.01体積%SO2、0.05体積%H2S、残部N2からなる混合ガスを導入しており、これにより、腐食試験槽2内を過飽和の水蒸気で充満させ、原油タンカーの上甲板裏面の腐食環境を再現している。そして、この腐食試験槽2の上裏面に腐食試験片1をセットし、この腐食試験片1に対して、ヒーターと冷却装置を内蔵した温度制御プレート3を介して25℃×1.5時間+50℃×22.5時間を1サイクルとする温度変化を21、49、77および98日間繰り返して付与し、腐食試験片1の表面に結露水を生じさせて、全面腐食が起こるようにした。図1中、符号5は腐食試験槽2からの排出ガス管を示す。
上記の腐食試験後、各腐食試験片表面の錆を除去し、試験前後の質量変化から腐食による質量減を求め、この値から1年当たりの板厚減少量(片面の腐食速度)に換算した。そして、4試験期間の値から、最小二乗法により、y=axbの腐食曲線(y:板厚減少量、x:腐食日数)におけるa値とb値を算出し、25年後の板厚減少量を求め、以下の基準で耐全面腐食性を評価した。
○(合格):25年後の板厚減少量が2.0mm以下
×(不合格):25年後の板厚減少量が2.0mm超
(2) 底板環境での孔食の初期段階を模擬した局部腐食試験
底板環境での孔食の初期段階の耐食性(孔食の発生のし易さ)を評価するため、得られた鋼材の表層部からそれぞれ、幅:25mm×長さ:60mm×厚さ:5mmの矩形の小片を切り出し、腐食試験片とした。ついで、腐食試験片の表面に模擬オイルコート(組成は質量%にて、パラフィン70%、α−FeOOH 4%、β−FeOOH 3%、γ−FeOOH 1%、Fe34 4%、S 18%)を0.1g/cm2で塗布した。塗布に際しては、5mmφのマスキングを施し、腐食試験片上に5mmφの人工欠陥(模擬オイルコート未塗布部)を設けた。この試験片を用いて、図2に示す腐食試験装置により、局部腐食試験を行った。この腐食試験装置の腐食試験槽7には、温度が30℃に保持された実際の海水8が注入されており、また、その海水8中には、導入ガス管9を介して、13体積%CO2、4体積%O2、0.01体積%SO2、0.05体積%H2S、残部N2からなる混合ガスを導入し、原油タンク底板の腐食環境を再現している。そして、この腐食試験槽7の底部に腐食試験片10をセットし、28日間の浸漬試験を実施した。なお、図2中、11は試験槽からの排出ガス管を示す。
上記の腐食試験後、各腐食試験片表面の模擬オイルコートと錆を除去し、人工欠陥部における腐食深さを測定し、以下の基準で孔食の初期段階の耐食性(孔食の発生のし易さ)を評価した。
○(合格):人工欠陥部における腐食深さが20μm未満
×(不合格):人工欠陥部における腐食深さが20μm以上
(3) 底板環境での孔食の進展段階を模擬した局部腐食試験
底板環境での孔食の進展段階における耐食性(孔食の成長のし易さ)を評価するため、得られた鋼材の表層部からそれぞれ、幅:25mm×長さ:60mm×厚さ:5mmの矩形の小片を切り出し、腐食試験片とした。
ついで、蒸留水とNaClで調整した10質量%NaCl水溶液と、濃塩酸を用いて、pH:0.85に調製した試験溶液を作製した。試験片の上部に開けた3mmφの孔にテグスを通して吊るし、各試験片について2Lの試験溶液中に168時間浸漬する腐食試験を行った。なお、試験溶液は、予め30℃に加温・保持し、24時間毎に新しい試験溶液と交換した。
この試験に用いた装置を図3に示す。この腐食試験装置は、腐食試験槽12、恒温槽13の二重構造の装置で、腐食試験槽12には上記試験溶液14が入れられ、その中に腐食試験片15がテグス16で吊るされて浸漬されている。試験溶液14の温度は、恒温槽13に入れた水17の温度を調整することで保持している。
上記の腐食試験後、試験片表面に生成した錆を除去した後、試験前後の質量差を求め、この差を全表面積で割り戻し、腐食速度(1年当たりの板厚減少量(両面の腐食速度))を求め、以下の基準で、底板環境での孔食の進展段階における耐食性(孔食の成長のし易さ)を評価した。
◎(合格、特に優れる):腐食速度が0.7mm/y以下
○(合格):腐食速度が0.7mm/y超1.0mm/y以下
×(不合格):腐食速度が1.0mm/y超
そして、上記(1)〜(3)の評価結果がいずれも「○」または「◎」である場合を、総合評価で合格、1つでも「×」がある場合を総合評価で不合格と判定した。
これらの評価結果を表2に併記する。
Figure 2019102817
Figure 2019102817
表2に示すように、発明例ではいずれも、上板腐食環境で求められる優れた耐全面腐食性と、底板腐食環境で求められる優れた耐局部腐食性の両方が得られていた。特に、製造条件を適正に制御して、〔%固溶Cu〕 / 〔%Cu〕を0.60以上とした発明例(鋼材No.2、6、7、9〜22、24、25)では、特に優れた耐局部腐食性が得られていた。
一方、比較例ではいずれも、十分な耐全面腐食性および/または十分な耐局部腐食性が得られなかった。
1,10,15 腐食試験片
2,7,12 腐食試験槽
3 温度制御プレート
4,9 導入ガス管
5,11 排出ガス管
6,17 水
8 海水
13 恒温槽
14 試験溶液
16 テグス

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C:0.03〜0.18%、
    Si:0.01〜1.50%、
    Mn:0.10〜2.00%、
    P:0.030%以下、
    S:0.0080%以下、
    Al:0.001〜0.100%、
    N:0.0080%以下、
    Ni:0.010〜1.00%および
    Cu:0.010〜0.50%
    を含有し、さらに
    Sb:0.010〜0.50%および
    Nb:0.005〜0.300%
    のうちから選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、
    鋼材の表層部における固溶Cu量が0.40質量%以下であり、かつ、次式(1)の関係を満足することを特徴とする原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
    〔%固溶Cu〕 / 〔%Cu〕 ≧ 0.35 ---(1)
    ここで、〔%固溶Cu〕は、鋼材の表層部における固溶Cu量(質量%)である。また、〔%Cu〕は、上記成分組成におけるCu含有量(質量%)である。
  2. 前記成分組成が、さらに質量%で、
    Sn:0.01〜0.50%、
    Mo:0.01〜1.00%および
    W:0.01〜1.00%
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
  3. 前記成分組成が、さらに質量%で、
    Cr:0.01〜1.00%および
    Co:0.01〜0.50%
    のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
  4. 前記成分組成が、さらに質量%で、
    Ti:0.001〜0.100%、
    Zr:0.001〜0.100%および
    V:0.001〜0.100%
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
  5. 前記成分組成が、さらに質量%で、
    Ca:0.0001〜0.0100%、
    Mg:0.0001〜0.0200%および
    REM:0.0002〜0.2000%
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
  6. 前記成分組成が、さらに質量%で、
    B:0.0001〜0.0300%
    を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の原油タンカー上甲板および底板用耐食鋼材を有することを特徴とする原油タンカー。
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