次に、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。説明において、同一のものには同一符号を付して重複説明を省略する。
(第1実施形態)
(溶接装置)
実施形態に係わる溶接動作の抽出装置を説明する前に、溶接装置及び溶接装置が行うワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作について説明する。
溶接装置は、例えば2枚以上の鉄板等からなるワーク(母体、被溶接材を含む)の接触部分を加熱及び熔解することにより、ワーク同士を接合する装置である。実施形態に係わる溶接装置には、交流の電気的現象を用いてワークを加熱及び熔解させて接合する装置が含まれる。例えば、実施形態の溶接装置には、抵抗スポット溶接、シーム溶接などの抵抗溶接を行う装置が含まれる。つまり、溶接装置は、溶接したい2枚以上のワークに直接、交流電流を流し、材料の抵抗およびワーク同士の接触面の集中抵抗によるジュール熱を発生させ、ワークを熔解させ、熔解と同時に加圧することによってワークを接合する。実施形態では、抵抗溶接の一例として、抵抗スポット溶接を挙げて説明するが、これに限定されず、シーム溶接、等の他の抵抗溶接であっても構わない。更には、抵抗溶接のみならず、交流の電気的現象の他の例として、空気(気体)中の放電現象(アーク放電)を利用する交流アーク溶接にも適用可能である。
図1を参照して、溶接装置15の構成を説明する。溶接装置15は、作業ロボット31と、ロボット制御部32と、溶接ガン部33と、溶接ガン制御部34とを備える。
作業ロボット31は、生産を行うための設備又は設備の一部を構成する多軸関節型のロボットである。作業ロボット31は、作業ロボット31の動作軸(ロボットアーム)を駆動する駆動機構であるサーボモータと、サーボモータからの駆動力(回転トルク)を高める減速機と、サーボモータ又は減速機の少なくとも一方の動作を制動又は保持する電磁ブレーキと、サーボモータ及び減速機によって駆動されるロボットアームとを備える。
作業ロボット31は、後述のロボット制御部32からの制御信号に基づいて、ロボットアームの動作の速度、ロボットアームの角度、動作の順序を決定し、動作の内容の切り替えを行う。サーボモータには、回転角位置及び回転速度の検出器であるパルスコーダ(パルスジェネレータ又はエンコーダ)が付帯されている。サーボモータからの駆動力が減速機により高められてロボットアームに作用することによりロボットアームが動作し、電磁ブレーキが駆動機構の動作を制動及び保持する。
なお、作業ロボット31は、ロボットアームが回転運動するタイプのロボットのみならず、ロボットアームが直接運動又は曲線の軌跡を描くような運動を行うロボットであってあっても構わない。
ロボット制御部32は、ワークの溶接に係わる溶接装置15の様々な動作に応じて、ロボットアームの位置、回転角度、動作速度、回転速度を指示することにより、作業ロボット31の動作を制御する。この時、ロボット制御部32は、作業ロボット31に制御信号を送信して制御を実行しており、この制御信号によって、ワークの溶接に係わる作業ロボット31の動作(生産作業動作、検査動作を含む)のオン/オフ、動作速度、動作角度、動作順序、動作内容の切り替え、ティーチングなどの制御を行っている。具体的には、ロボット制御部32は、サーボモータ及び電磁ブレーキの状態を監視し、サーボモータの制御及び電磁ブレーキの制御を実行する。
溶接ガン部33は、作業用の作業部位の一例として、作業ロボット31のロボットアームの先端に取り付けられ、溶接されるワークに対して、加圧動作、通電動作、冷却動作、解放動作などの各種の動作を直接行う部材である。溶接ガン部33と作業ロボット31とが連動して動作することにより、ワークの所望の箇所を溶接することができる。溶接ガン部33は、例えば、C型の溶接ガン又はX型の溶接ガンのように、対を成す2つの電極で溶接したいワークの両面から挟み込み、所定の圧力までワークを加圧し、2つの電極を介してワークに電流を流すことによりワークを熔解させて接合する、所謂、ダイレクトスポット溶接を行う。
溶接ガン部33は、ガン本体に固定された固定アームと、可動アームと、可動アームを駆動する駆動モータを備えるガン本体と、ガン本体に固定された溶接トランスと、固定アーム及び可動アームの各々の先端に取り付けられた一対の電極とを備える。溶接トランスは、電源から供給される電流を、ワークの形状、大きさ及び素材等に応じて、熔解に必要な大きさまで増大させるための電気部品である。実施形態では、溶接トランスが、溶接ガン部33と共にアームの先端に取り付けられている例を示すが、取り付けられていなくても構わない。この場合、溶接トランスは、溶接ガン部33にケーブルで接続される。
溶接ガン制御部34は、ワークの溶接に係わる溶接装置15の様々動作に応じて、可動アームの動作、及び一対の電極の間での通電動作を指示することにより、溶接ガン部33の動作を制御する。この時、溶接ガン制御部34は、溶接ガン部33に制御信号を送信して制御を実行しており、この制御信号によって、ワークの溶接に係わる溶接ガン部33の動作の有無、動作の種類、動作順序、動作内容の切り替え、溶接電流の電流値などの制御を行っている。
このように、ロボット制御部32及び溶接ガン制御部34が互いに連携して作業ロボット31の動作及び溶接ガン部33の動作を制御することにより、溶接装置15の動作を制御することができる。ロボット制御部32及び溶接ガン制御部34の各々は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備えるマイクロコンピュータを用いて実現可能である。マイクロコンピュータをロボット制御部32及び溶接ガン制御部34として機能させるためのコンピュータプログラムを、マイクロコンピュータにインストールして実行する。これにより、マイクロコンピュータは、ロボット制御部32及び溶接ガン制御部34が備える複数の情報処理部として機能させることができる。ここでは、ソフトウェアによってロボット制御部32及び溶接ガン制御部34を実現する例を示すが、もちろん、各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、ロボット制御部32及び溶接ガン制御部34を構成することも可能である。専用のハードウェアには、実施形態に記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や従来型の回路部品のような装置を含む。また、ロボット制御部32と溶接ガン制御部34とを異なる部材として説明したが、勿論、1つの部材として構成してもよい。
図7を参照して、溶接ガン部33の固定アーム及び可動アームの各々の先端に取り付けられた一対の電極の構成を説明する。一対の電極は、例えば、シャンク(S1,S2)と、シャンク(S1,S2)の先端にそれぞれ取り付けられた溶接チップ(T1,T2)とを備える。溶接作業の対象となるワーク(W1,W2)を挟み込むように、溶接チップ(T1,T2)が配置される。シャンク(S1,S2)は、固定アーム及び可動アームの各々の先端に取り付けられる。一般に、シャンク(S1,S2)の内部には冷却水が流れる管路が設けられ、冷却水が流れることにより、溶接動作中に発生する熱で高温となったシャンク(S1,S2)及び溶接チップ(T1,T2)を冷却できるよう構成されている。
溶接装置15が行う「溶接動作」とは、ワーク(W1,W2)を加熱及び熔解させて接合する動作である。スポット溶接の場合、「溶接動作」は、一対の電極を介してワークに電流を流す動作(通電動作)に相当する。溶接動作の後には、電極で加圧したワーク(W1,W2)の接触部分には、ワークの一部分が熔解してその後凝固した「ナゲット」と呼ばれる溶接部MRが形成される。
溶接装置15は、溶接動作の他に、ワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作を実行する。ワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作には、例えば、ロボットアームの動作、溶接ガン部33がワークを加圧する動作(加圧動作)、溶接ガン部33がワークに交流電流を流して溶接する動作(溶接動作)、溶接ガン部33が溶接後にシャンク(S1,S2)及び溶接チップ(T1,T2)を冷却する動作、及び、溶接ガン部33からワーク(W1,W2)を解放する動作(解放動作)、が含まれる。
図8は、溶接装置15がワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作を実行した期間において、溶接ガン部33がワークを加圧する圧力(F)、及びワークに流れる交流電流(J)の時間変化を示す。
図8に示すように、溶接ガン部33は、加圧動作期間(P1)において、固定アーム及び可動アームでワークを加圧する圧力(F)を零から所定値まで増加させる加圧動作を行う。この時、シャンクS1は下方に、シャンクS2は上方にそれぞれ移動し、その結果、ワーク(W1,W2)に加えられる圧力Fが増加していく。
そして、圧力Fが所定の大きさに達すると、圧力維持期間P2において圧力Fが所定の大きさ以上で維持される。溶接ガン部33は、圧力維持期間P2のうち、溶接動作期間(P21)において、圧力(F)を所定値に保した状態で、ワークに交流電流(J)を流す溶接動作(通電動作)を行う。この時、ワーク(W1,W2)に対して溶接チップ(T1,T2)を介して電流Jが流れ、ジュール熱によってワーク(W1,W2)のうち接触する領域MRが熔解し、凝固する。
その後、溶接ガン部33は、解放動作期間(P3)において、圧力(F)を所定値から零まで減少させる解放動作を行う。この時、シャンクS1は上方に、シャンクS2は下方にそれぞれ移動し、その結果、ワーク(W1,W2)に加えられる圧力Fが減少していく。
更に、作業ロボット31は、アーム動作期間(P0)において、圧力(F)が零の状態で、ロボットアームを動作させて、同じワークの他の溶接部分まで溶接ガン部33を移動させる。その後、溶接装置15は、同様な動作を繰り返し実施する。
溶接装置15は、ワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作として、ロボットアーム動作P01、加圧動作P1、溶接動作P21、及び解放動作P3を、それらの間に休止期間(T01、TO2、T21、T22)を挟みながら、時間的に連続して実行する。休止期間(T21、T22)において、溶接装置15は、電気的又は機械的な動作を行わず、休止している。ただし、電気的な動作に、作業ロボット31又は溶接ガン部33にそれらを駆動するための電流が流れる動作は含まれるが、制御装置(32、34)に作業ロボット31又は溶接ガン部33を動作させる為の電流が流れる動作は含まれない。
溶接動作期間(P21)の後、解放動作期間(P3)の前において、シャンク(S1,S2)及び溶接チップ(T1,T2)が冷却される。この時、シャンクS1,S2の管路に冷却水が流れることにより、シャンクS1,S2及び溶接チップT1,T2が冷却される。この休止期間T22における冷却動作も、液体の流れに固有な周波数の振動が発生するため、溶接装置15の機械的な動作に含めることは可能である。
上記では、溶接装置40が抵抗溶接を行う場合を例にして、溶接制御部47及び溶接部49の説明をしたが、溶接装置40はこれに限定されない。例えば、溶接装置40は、アーク溶接などのシーム溶接を行うものであってもよいし、溶接作業の機構を有するものであればよい。
(加速度センサユニット)
実施形態において、溶接装置15の溶接動作を抽出するために用いられる振動データを取得する加速度センサユニット14が配置されている。加速度センサユニット14は、溶接装置15に取り付けられた加速度センサ35と、加速度センサ35を制御する加速度センサ制御部36とを備える。ここでは、加速度センサユニット14が溶接装置15に対して後付けされた部品として説明する。しかし、溶接装置15は、その一部分として加速度センサユニット14を備えていても構わない。
加速度センサ35は、溶接装置15に生じる振動を測定し、時系列データとして振動データを出力する。溶接装置15に生じる振動とは、加速度センサ35が取り付けられた溶接装置15の部位の位置、移動速度、加速度、回転角度、回転角速度、回転角加速度などの物理量の時間変化である。加速度センサ35を用いることにより、位置、移動速度、加速度の振動を測定することができる。加速度センサ35の代わりに、ジャイロセンサを用いれば、回転角度、回転角速度、回転角加速度の振動を測定することができる。
加速度センサ35により測定された加速度データの時系列は、加速度センサ35が取り付けられた溶接装置15の部位に生じる加速度の時間変化、即ち、加速度の振動を示し、加速度データを時間で積分した値の時系列は、溶接装置の部位の速度の振動を示し、加速度データを時間で2回積分した値の時系列は、溶接装置15の部位の位置の振動を示す。加速度データ取得部21は、このような様々な振動の少なくとも1つを示す振動データを取得する。
なお、加速度センサ35が取り付けられる溶接装置15の部位は、特に限定されない。加速度センサ35は、接動作時(P21)にワークに交流電流が流れることに起因して溶接装置15に発生する振動を測定することができる溶接装置15の部位であれば、作業ロボット31及び溶接ガン部33の何所に取り付けられていてもよい。例えば、加速度センサ35は、溶接ガン部33の溶接トランスを収納する容器、溶接ガン部33の固定アーム、可動アーム、シャンクS1,S2、溶接チップT1,T2、ガン本体、作業ロボット31の関節部分、又は、ロボットアーム(駆動軸)に取り付けることができる。
加速度センサ制御部36は、加速度センサ35が測定した加速度データの時系列に対して所定の演算処理を施し、処理後のデータを振動データとして、溶接動作の抽出装置へ出力する。具体的には、加速度センサ制御部36は、加速度データの時系列を、時刻をずらしながら繰り返し時間で積分することにより、加速度センサ35を取り付けた部位の速度の振動データを生成する。或いは、加速度センサ制御部36は、加速度データを、時刻をずらしながら繰り返し時間で2回積分することにより、加速度センサ35を取り付けた部位の位置の振動データを生成する。加速度センサ制御部36は、生成した振動データを、溶接動作の抽出装置へ出力する。
また、加速度センサ制御部36は、加速度センサ35の動作のオン/オフや、センサ感度の調整、センサから出力された信号の数値化などの処理を行う。加速度センサ制御部36は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備えるマイクロコンピュータを用いて実現可能である。マイクロコンピュータを加速度センサ制御部36として機能させるためのコンピュータプログラムを、マイクロコンピュータにインストールして実行する。これにより、マイクロコンピュータは、加速度センサ制御部36が備える複数の情報処理部として機能させることができる。ここでは、ソフトウェアによって加速度センサ制御部36を実現する例を示すが、もちろん、各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、加速度センサ制御部36を構成することも可能である。専用のハードウェアには、実施形態に記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や従来型の回路部品のような装置を含む。
1台の溶接装置15に取り付けられる加速度センサ31の数(ここでは、X軸、Y軸、Z軸の計3軸を1つのセンサとして取り扱う)は、特に問わない。上記した溶接装置15の複数の部位に、加速度センサ31或いはその他のセンサをそれぞれ取り付けても構わない。或いは、溶接装置15の同じ部位に、異なる種類のセンナを取り付けても構わない。複数のセンサから取得される振動データを統合して用いることにより、溶接動作を抽出するは可能である。
実施形態では、センサの一例として加速度センサ35を示すが、例えば作業ロボット2のロボットアーム(駆動軸)や、溶接ガン部33の可動アーム又は固定アーム等の溶接装置15の各部の歪レベルを取得する歪みセンサであっても構わない。歪み量の時間変化、即ち歪みの振動データうち、溶接装置15の溶接動作に固有な周波数特性を有する部分を抽出することは可能である。
(溶接動作の抽出装置)
本発明の一実施形態に係る溶接動作の抽出装置は、溶接装置15が実行するワークの溶接作業の中から、ワークを溶接する動作(溶接動作)を抽出する。換言すれば、溶接動作の抽出装置は、図8に示したうように溶接装置が一連の電気的又は機械的な動作を含むワークの溶接作業を実行した期間(P0、P1、P2、P3)の中から、溶接動作を行った期間(溶接動作期間P21)を抽出する。
溶接動作の抽出装置は、図1に示すように、コントローラ11と出力装置13とを備える。コントローラ11は、加速度データ取得部21(データ取得部)と、データ前処理部22と、動作期間抽出部23と、周波数演算部24と、溶接動作特定部25(溶接動作期間特定部)とを備える。
加速度データ取得部21は、溶接装置15がワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作を実行した期間(P0~P3)において、溶接装置15に取り付けられた加速度センサ35により測定された溶接装置15の振動データを取得する。加速度データ取得部21により取得された振動データを、「平滑化前の振動データ」と呼ぶ。
具体的には、コントローラ11と加速度センサユニット14とは、無線又は有線による通信回線(広域通信回線、構内通信回線を含む)を介して接続されている。加速度データ取得部21は、通信回線を通じて、加速度センサ制御部36から出力された平滑化前の振動データを受信する。加速度データ取得部21は、受信した振動データの一部に欠損があるか否か、及び異常値が混入しているか否かを検査し、欠損又は異常値の混入がある場合には、振動データの欠損値又は異常値の補正及び補完を行うことができる。
データ前処理部22は、加速度データ取得部21により取得された平滑化前の振動データを平滑化するための演算処理を施す。具体的には、データ前処理部22は、平滑化前の振動データの移動平均値又は移動分散値を演算する。なお、「移動分散値」とは、時系列データである振動データのバラツキを示す「分散」を、時刻をずらしながら求めた値(時系列データ)である。
演算した移動平均値又は移動分散値を示すデータは、記憶装置12に一時的に記憶される。以後、記憶装置12に記憶された移動平均値又は移動分散値を示すデータを「平滑化後の振動データ」と呼ぶ。また、平滑化前の振動データ及び平滑化後の振動データを、まとめて「振動データ」呼ぶ。
動作期間抽出部23は、期間(P0~P3)を通じて測定された振動データの中から、溶接装置15がワークの溶接に係わる各動作(each of the operations)を実行した期間である動作期間において測定された振動データを抽出する。すなわち、溶接装置15がワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作を実行した期間(P0~P3)の中から、溶接装置15が、ロボットアームの動作、加圧動作、溶接動作、及び解放動作を行った各動作期間(P01、P1、P21、P3)を抽出する。更に換言すれば、動作期間抽出部23は、ワークの溶接に係わる一連の期間(P0~P3)を、溶接装置15がなんらかの電気的又は機械的な動作を行った動作期間(P01、P1、P21、P3)、及び、動作期間同士の間で溶接装置が一時的に休止しているために何ら電気的又は機械的に動作していない非動作期間(T01、T02、T21、T22)のいずれかに分割する。
具体的に、動作期間抽出部23は、移動窓を用いて振動データの基本統計量を算出する。例えば、動作期間抽出部23は、長さがT秒の移動窓で振動データを切り出し、切り出された振動データの平均値、分散値、標準偏差、最大値、又は最小値などの基本統計量を算出する。動作期間抽出部23は、移動窓を△t秒ずつ時刻をずらしながら、前記した基本統計量を繰り返し算出することにより、基本統計量の時系列データを算出する。一例として、動作期間抽出部23は、振動データから移動分散値の時系列データを算出する。
動作期間抽出部23は、移動分散値が所定の閾値よりも大きい場合、加速度の変化が基準よりも大きいため、溶接装置15が何らかの電気的又は機械的な動作を行っていると判断する。つまり、動作期間抽出部23は、移動分散値が所定の閾値よりも大きい期間を、溶接装置15がワークの溶接に係わる各動作を実行した動作期間(P01、P1、P21、P3)として抽出する。
動作期間抽出部23は、移動分散値が所定の閾値以下である場合、加速度の変化が基準よりも小さいため、溶接装置15は何ら電気的又は機械的な動作を行っていないと判断する。つまり、動作期間抽出部23は、移動分散値が所定の閾値以下である期間を、動作期間同士の間で溶接装置15が一時的に休止しているため何も動作していない非動作期間と判定する。このような方法を用いることにより、期間(P0~P3)を通じて測定された振動データから動作期間を抽出するときの時間精度が高く、極めて時間ズレがない状態で動作期間を抽出することができる。なお、時間ズレ量は、移動窓の長さ(T秒)及び移動窓の移動量(△t秒)によって変化する。
このように、基本統計量の時系列データの算出、及び基本統計量の時系列データに基づく閾値判断という、周波数変換処理に比べて演算負荷の少ない簡易な情報処理により、ワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作を実行した期間(P0~P3)の中から、動作期間を抽出することができる。動作期間を示すデータは、動作を開始した時刻(動作開始時刻)を示すデータと動作を終了した時刻(動作終了時刻)を示すデータとの組合せからなる。
なお、動作期間抽出部23は、動作期間又は非動作期間のいずれか一方に分類するが、分類された動作期間の各々について、溶接装置15が行う様々な動作の種類は特定しない。
周波数演算部24は、動作期間抽出部23により抽出された、動作期間において測定された振動データのうち、所定の周波数特性を有する振動データを、溶接装置15がワークを溶接する動作を行った期間である溶接動作期間において測定された振動データとして特定する。具体的には、周波数演算部24は、動作期間において測定された振動データの周波数特性を演算し、振動データの周波数特性が、所定の周波数特性を有するか否かを判断する。周波数演算部24は、動作期間抽出部23により抽出された動作期間の各々について、所定の周波数特性を有するか否かを判断する。
例えば、周波数演算部24は、振動データを周波数スペクトルへ変換する。周波数スペクトルは、振動データの周波数特性の一例である。周波数演算部24は、は、フーリエ変換、ウェーブレット変換などの周波数変換アルゴリズムを用いて、振動データを、周波数域のパワースペクトル(以後、「周波数スペクトル」と呼ぶ)へ変換する。例えば、高速フーリエ変換(FFT)を用いて周波数スペクトルを演算する。周波数演算部24は、動作期間抽出部23により抽出された動作期間毎に、周波数スペクトルへ変換するFFT処理を実行する。
周波数演算部24は、周波数スペクトルの微分値を算出し、微分値が正から負へ変化する周波数スペクトルの極大値(ピーク値)を特定し、周波数スペクトルが極大値となるピーク周波数を特定する。周波数スペクトルの縦軸の値(周波数パワー)が大きい順序でピーク周波数を読み出し、周波数パワーが大きい上位のピーク周波数のリストを作成する。
溶接動作特定部25(溶接動作期間特定部)は、ピーク周波数のリストの中に、抽出対象とする溶接装置15の特定の動作、すなわち溶接動作で発生する特徴的な周波数があるか否かを判断する。「溶接動作で発生する特徴的な周波数」には、溶接動作(溶接通電中)時にワークを加熱及び熔解させるために使用する交流電流(溶接電流)の周波数Wf(Hz)、当該周波数に2以上の正数を乗算した周波数(2Wf、3Wf、4Wf・・・)、これらの周波数(Wf、2Wf、3Wf、4Wf・・・)のサイドバンドが含まれる。
例えば、溶接動作特定部25は、周波数演算部24により作成されたピーク周波数のリストの中に、周波数(Wf、2Wf、3Wf、4Wf・・・)及びこれらのサイドバンドの中の少なくとも1つの周波数と一致する周波数が含まれているか否かを判断する。判断結果が肯定的である場合、溶接動作特定部25は、ピーク周波数のリストの中に、溶接動作で発生する特徴的な周波数が有ると判断する。そして、当該動作期間に対して、「溶接フラグ」を付与する。一方、溶接動作特定部25は、ピーク周波数のリストの中に、溶接動作で発生する特徴的な周波数が無い場合、当該動作期間に対して、「非溶接フラグ」を付与する。
なお、その波形の乱れ又は正弦波からのずれに起因して、溶接動作期間(P21)において、溶接動作で発生する特徴的な周波数及びその整数倍の周波数(Wf、2Wf、3Wf、4Wf・・・)のサイドバンドが発生する場合がある。よって、これらのサイドバンドも、溶接動作で発生する特徴的な周波数の一部として含ませることができる。
このようにして、溶接動作特定部25は、振動データの周波数特性を用いて、溶接動作期間(P21)を特定することができる。換言すれば、溶接動作特定部25は、動作期間抽出部23により抽出された各動作期間について、その動作期間において測定された振動データが、溶接動作に特有な所定の周波数特性を有するか否かを判断することができる。よって、溶接動作特定部25は、動作期間において測定された振動データのうち、所定の周波数特性を有する振動データを、溶接動作期間(P21)において測定された振動データとして特定することができる。
なお、溶接動作特定部25は、溶接動作で発生する特徴的な周波数のみならず、ロボットアームの動作など、その他の溶接装置15の各種動作で発生する特徴的な周波数と一致する周波数が、ピーク周波数のリストの中に含まれているか否かを判断しても構わない。これにより、ロボットアームの動作期間(P01)をも特定することができる。
出力装置13は、作業者や作業監督者、保全員などの関係者が保持するスマートフォン、タブレット端末、ラップトップパソコンなどのモバイル端末であり、ディスプレイ又はスピーカ等の画像又は音声の出力手段、及び携帯電話通信網又は近距離無線通信によりコントローラ11と通信を行う通信手段とを備える。出力装置13は、溶接動作特定部25によって特定された溶接動作期間P21を、振動データ、及びその他の溶接装置に係わる時系列データを示すグラフに対して重ねて表示する。これにより、作業者や作業監督者、保全員などの溶接装置15の関係者は、振動データ、及びその他の溶接装置に係わる時系列データにおける溶接動作期間P21を容易に認識することができる。さらに、記憶装置12には、溶接動作期間P21を示すデータが記憶される。
なお、コントローラ11は、メール送信機能を有している場合、溶接装置15の関係者が保持するモバイル端末に、電子メールやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、SMS(ショートメールサービス)などの通信手段を用いて通知メールを送信してもよい。これにより、溶接装置15の周辺に居ない関係者と、動作期間の抽出結果を共有することとができる。
溶接動作期間を示すデータと共に、振動データの取得日時、取得条件、溶接条件、溶接フラグなどのデータ一式を、出力装置13に出力し、或いは、記憶装置12に記憶してもよい。
(溶接動作の抽出方法)
図2を参照して、第1実施形態に係わる溶接動作の抽出方法として、図1の溶接動作の抽出装置の動作の一例を説明する。ステップS01において、加速度データ取得部21は、溶接装置15がワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作を実行した期間(P0~P3)において、溶接装置15に取り付けられた加速度センサ35により測定された溶接装置15の振動データを取得する。溶接装置15の振動データは、期間(P0~P3)を通じて加速度センサ35により測定されたデータである。加速度データ取得部21は、受信した振動データの一部に欠損があるか否か、及び異常値が混入しているか否かを検査し、欠損又は異常値の混入がある場合には、振動データの欠損値又は異常値の補正及び補完を行う。
ステップS02に進み、動作期間抽出部23は、移動窓を用いて振動データの移動分散値の時系列データを算出する。動作期間抽出部23は、振動データの分散値の代わりに、振動データの平均値、標準偏差、最大値、又は最小値などの他の基本統計量を算出してもよい。
ステップS03に進み、動作期間抽出部23は、移動分散値が所定の閾値よりも大きい期間を、溶接装置15がワークの溶接に係わる各動作を実行した動作期間として抽出する。なお、動作期間抽出部23は、動作期間を抽出するが、動作期間の各々について、溶接装置15が行う様々な動作の種類は特定しない。以下のステップS04~S07を各動作期間について実行する。
ステップS04に進み、周波数演算部24は、フーリエ変換、ウェーブレット変換などの周波数変換アルゴリズムを用いて、振動データを周波数スペクトルへ変換する。ステップS05に進み、
ステップS05に進み、溶接動作特定部25は、ステップS03において抽出された各動作期間について、その動作期間において測定された振動データが、溶接動作に特有な所定の周波数特性を有するか否かを判断することができる。
具体的には、先ず、周波数演算部24は、周波数スペクトルの微分値を算出し、微分値が正から負へ変化する周波数スペクトルの極大値(ピーク値)を特定し、周波数パワーが大きい上位のピーク周波数のリストを作成する。そして、溶接動作特定部25は、ピーク周波数のリストの中に、抽出対象とする溶接装置15の特定の動作、すなわち溶接動作で発生する特徴的な周波数が有るか否かを判断する。
溶接動作特定部25は、ピーク周波数のリストの中に、溶接動作で発生する特徴的な周波数が有る場合(S05でYES)、ステップS06に進み、当該動作期間に対して、「溶接フラグ」を付与する。
一方、溶接動作特定部25は、ピーク周波数のリストの中に、溶接動作で発生する特徴的な周波数が無い場合(S05でNO)、ステップS07に進み、当該動作期間に対して、「非溶接フラグ」を付与する。
ステップS08に進み、出力装置13は、ステップS06で「溶接フラグ」が付与された溶接動作期間を、振動データ、及びその他の溶接装置に係わる時系列データを示すグラフに対して重ねて表示する。さらに、「非溶接フラグ」が付与された非溶接動作期間を重ねて表示してもよい。
ステップS09に進み、溶接装置15の関係者が保持するモバイル端末から「作業動作期間の抽出を終了するか?」に関して入力があったか否かを確認する。終了の入力が行われない場合(S09でNO)、ステップS01に戻り、ステップS01~S08を実施する。終了が入力された場合(S09でYES)、溶接動作の抽出処理は終了する。
(作用効果)
コントローラ11は、溶接装置15が一連の電気的又は機械的な動作を実行した期間において取得された振動データの中から、加圧動作、溶接動作、解放動作などのいずれかの動作を行った期間(動作期間)の振動データを抽出する。換言すれば、コントローラ11は、振動データを用いて、一連の動作の期間を、溶接装置15がなんらかの動作を行った期間(動作期間)、及び、動作期間同士の間で溶接装置が一時的に休止しているため何も動作していない期間(非動作期間)のいずれかに分割する。その後、コントローラ11は、動作期間における振動データのうち、溶接時に使用する電流の交流周期又はその定数倍の周期、サイドバンドなど、所定の周波数特性を有する振動データを、溶接動作期間において計測された振動データとして特定する。このように、コントローラ11は、周波数解析という比較的高度な情報処理を行う前に比較的に簡易な処理によって、一連の動作の全期間の中から動作期間を絞り込み、その後に、動作期間に対して、周波数解析という比較的高度な情報処理を行うことで、溶接動作期間と特定する。よって、溶接動作期間を特定する上で、処理負荷を軽減し、処理速度を向上させることができる。これにより、ワークの溶接に係わる一連の動作から、効率よくワークを溶接する溶接動作を特定することができる。
また、溶接装置15に固有なシステム上の情報(例えば、加工手順及び加工条件を示した加工プログラム、溶接時に溶接ガンに流れる電流値、など)を用いることなく、溶接装置15に取り付けられた加速度センサ31により測定された振動データだけを用いて溶接動作期間を特定することができる。よって、例えば、溶接装置15に予め備えられた、或いは、溶接装置15に内蔵された加速度センサのみならず、溶接装置15に対して後付けされた加速度センサ31であっても、これらのセンサにより測定されたデータから溶接動作期間を特定することができる。
ワークの溶接に係わる各動作には、ワークを加圧する加圧動作、溶接動作、ワークを解放する解放動作が含まれる。これにより、加圧動作、溶接動作、及び解放動作を実行した動作期間の中から、溶接動作期間をより正確に特定することができる。
所定の周波数特性とは、振動データの周波数スペクトルが、溶接に使用する交流電流の周波数、交流電流の周波数に2以上の正数を乗算した周波数、或いは、これらの周波数のサイドバンドの少なくともいずれか1つに極大値を有することである。これにより、動作期間の中から、溶接動作期間をより正確に特定することができる。
加速度データ取得部21は、溶接装置15に発生する振動又は加速度をセンシングするセンサによって測定された溶接装置15の振動データを取得する。振動又は加速度をセンシングするセンサを用いることで、安価で簡便な手段で溶接動作期間を特定することができる。
センサとして、溶接装置15に取り付けられた加速度センサ35を例示したが、加速度センサ35の代わりに、速度センサ、或いは角速度センサを用いてもよい。これらのセンサを用いることにより、回転運動を含む各種の動特性を高精度に数値化してデータとすることができる。
(第2実施形態)
第2実施形態に係わる溶接動作の抽出装置は、溶接動作のみならず、その前後で実施される加圧動作及び解放動作とも抽出する。図3に示すように、第2実施形態に係わる溶接装置15及び加速度センサユニット31の構成及び動作は、第1実施形態のそれらと同じであるため、再度の説明は割愛する。溶接動作の抽出装置のうち、記憶装置12及び出力装置13の構成及び動作は第1実施形態のそれらと等しいが、コントローラ11の機能的構成の一部が相違する。
コントローラ11は、加速度データ取得部21と、データ前処理部22と、動作期間抽出部23と、周波数演算部24と、動作内容特定部26(溶接動作期間特定部)とを備える。コントローラ11は、図1の溶接動作特定部25の代わりに動作内容特定部26を備える。加速度データ取得部21、データ前処理部22、動作期間抽出部23、及び周波数演算部24の機能及び動作は、第1実施形態と同じであるため、再度の説明は割愛する。
動作内容特定部26は、動作期間抽出部23により抽出された各動作期間について、その動作期間において測定された振動データが、溶接動作に特有な所定の周波数特性を有するか否かを判断する。具体的には、動作内容特定部26は、ピーク周波数のリストの中に、溶接動作で発生する特徴的な周波数が有ると判断した場合、当該動作期間に対して「溶接フラグ」を付与する。動作内容特定部26は、ピーク周波数のリストの中に、溶接動作で発生する特徴的な周波数が無いと判断した場合、当該動作期間に対して「非溶接フラグ」を付与する。この溶接動作期間P21を特定する点に関して、動作内容特定部26は、第1実施形態の溶接動作特定部25と同じ機能を有し、同じ動作を行う。
動作内容特定部26は、さらに、時間軸上において溶接動作期間P21よりも所定時間だけ前又は後に位置する動作期間において取得された振動データを、溶接動作とは異なる特定の動作が行われた期間である特定動作期間において取得された振動データとして特定する。つまり、動作内容特定部26は、時間軸上において溶接動作期間P21よりも所定時間だけ前又は後に位置する動作期間を、溶接動作とは異なる特定の動作が行われた特定動作期間として特定する。
ここで、「溶接動作とは異なる特定の動作」とは、ワークを加圧する加圧動作又はワークを解放する解放動作である。
具体的に、動作内容特定部26は、「溶接フラグ」が付与された動作期間の開始時刻から所定時間(Twf秒)前までの間に、「非溶接フラグ」が付与された動作期間があるか否かを判断する。「非溶接フラグ」が付与された動作期間がある場合、動作内容特定部26は、図8に示したように、その動作期間は、加圧動作が行われた期間(加圧動作期間P1)であると判断する。そして、動作内容特定部26は、その動作期間に付するフラグを「非溶接フラグ」から「加圧フラグ」へ変更する。
さらに、動作内容特定部26は、「溶接フラグ」が付与された動作期間の終了時刻から所定時間(Twb秒)後までの間に、「非溶接フラグ」が付与された動作期間があるか否かを判断する。「非溶接フラグ」が付与された動作期間がある場合、動作内容特定部26は、図8に示したように、その動作期間は、解放動作が行われた期間(解放動作期間P3)であると判断する。そして、動作内容特定部26は、その動作期間に付するフラグを「非溶接フラグ」から「解放フラグ」へ変更する。
このようにして、動作内容特定部26は、時間軸上において溶接動作期間P21よりも所定時間だけ前又は後に位置する動作期間を、溶接動作とは異なる特定の動作(加圧動作及び解放動作)が行われた特定動作期間として特定することができる。なお、所定時間(Twf秒及びTwb秒)は、溶接装置15の動作制御プログラムから予め定めることができる。第2実施形態に係わる動作内容特定部26は、加圧動作及び解放動作の少なくとも一方を特定すればよい。
出力装置13は、溶接動作特定部25によって特定された溶接動作期間P21、加圧動作期間P1、及び解放動作期間P3を、振動データ、及びその他の溶接装置に係わる時系列データを示すグラフに対して重ねて表示する。これにより、作業者や作業監督者、保全員などの溶接装置15の関係者は、振動データ、及びその他の溶接装置に係わる時系列データにおける溶接動作期間P21、加圧動作期間P1、及び解放動作期間P3を容易に認識することができる。さらに、記憶装置12には、溶接動作期間P21、加圧動作期間P1、及び解放動作期間P3を示すデータが記憶される。
図4を参照して、第2実施形態に係わる溶接動作の抽出方法として、図3の溶接動作の抽出装置の動作の一例を説明する。図4のステップS01~S09の動作は、図2と同じであるため、再度の説明を割愛する。図4のフローチャートでは、ステップS07とステップS08の間で、ステップS11~S14を実行する点で、図2のフローチャートと相違する。
ステップS11において、動作内容特定部26は、「溶接フラグ」が付与された動作期間から所定時間(Twf秒)前までの間に、動作期間があるか否かを判断する。動作期間があると判断した場合(S11でYES)、ステップS12へ進み、動作内容特定部26は、その動作期間に「加圧フラグ」付与してステップS13へ進む。一方、動作期間がないと判断した場合(S11でNO)、ステップS13へ進む。
ステップS13において、動作内容特定部26は、「溶接フラグ」が付与された動作期間から所定時間(Twb秒)後までの間に、動作期間があるか否かを判断する。動作期間があると判断した場合(S13でYES)、ステップS14へ進み、動作内容特定部26は、その動作期間に「解放フラグ」付与してステップS08へ進む。一方、動作期間がないと判断した場合(S13でNO)、ステップS08へ進む。
なお、図4のステップS08において、出力装置13は、ステップS06で「溶接フラグ」が付与された溶接動作期間、ステップS12で「加圧フラグ」が付与された加圧動作期間、及びステップS14で「解放フラグ」が付与された解放動作期間を、振動データ、及びその他の溶接装置に係わる時系列データを示すグラフに対して重ねて表示する。
以上説明したように、第2実施形態によれば、動作内容特定部26は、時間軸上において溶接動作期間P21よりも所定時間だけ前又は後に位置する動作期間において取得された振動データを、溶接動作とは異なる特定の動作が行われた期間である特定動作期間(P1、P3)において取得された振動データとして特定する。このように、溶接動作期間を特定することにより、その前後の異なる動作期間をも合わせて特定することができる。
溶接動作とは異なる特定の動作は、ワークを加圧する加圧動作又はワークを解放する解放動作である。このように、溶接動作期間を特定することにより、その前後の加圧動作又は解放動作をも合わせて特定することができる。なお、特定された溶接動作期間を基準として、所定時間前又は後に位置する動作期間を特定することにより、ワークを加圧する加圧動作又はワークを解放する解放動作を特定する例を示したが、これに限られない。例えば、特定された溶接動作期間を基準として、溶接動作期間の前又は後の振動データにおいて、所定の周波数を有する期間をワークを加圧する加圧動作又はワークを解放する解放動作として特定することも可能である。
(第3実施形態)
第3実施形態に係わる溶接動作の抽出装置は、動作期間抽出部23により抽出された動作期間において測定された振動データの特徴量を演算して出力する。図5に示すように、第3実施形態に係わる溶接装置15及び加速度センサユニット14の構成及び動作は、第1実施形態のそれらと同じであるため、再度の説明は割愛する。溶接動作の抽出装置のうち、記憶装置12及び出力装置13の構成及び動作は第1実施形態のそれらと等しいが、コントローラ11の機能的構成の一部が相違する。
コントローラ11は、加速度データ取得部21と、データ前処理部22と、動作期間抽出部23と、周波数演算部24と、溶接動作特定部25(溶接動作期間特定部)と、特徴量演算・抽出部27とを備える。コントローラ11は、第1実施形態と比べて、特徴量演算・抽出部27を更に備える点が相違する。加速度データ取得部21、データ前処理部22、動作期間抽出部23、及び周波数演算部24の機能及び動作は、第1実施形態と同じであるため、再度の説明は割愛する。
特徴量演算・抽出部27は、溶接動作特定部25で溶接フラグ又は非溶接フラグが付与された各動作期間において取得された振動データの平均値、分散値、標準偏差、最大値、最小値、ピーク・ツー・ピーク(peak to peak)、歪度、尖度などの基本統計量を算出し、この基本統計量を時系列データ化した特徴量として抽出する。
例えば、特徴量演算・抽出部27は、(1)式及び(2)式を用いて、平均値(μ)及び分散値(v)を抽出することができる。なお、Xiは、特定の動作期間におけるN個の加速度のデータのうちのi番目(iは1~Nの正数)の加速度のデータを示す。
特徴量演算・抽出部27は、これらの特徴量を動作期間毎に計算して、これらをデータセットとして記憶装置12に記憶させる。動作期間毎に計算された特徴量が、溶接装置15が行ったワークの溶接に係わる一連の電気的又は機械的な動作の特徴量となる。例えば、車両の生産ラインに導入された溶接装置15においては、動作期間毎に計算された特徴量が、1台の車両に対する溶接作業のデータセットとなる。記憶装置12には、1台の車両に対する溶接作業のデータセットが、車両台数分、作業時間のタイムスタンプが付与された時系列データとして格納される。
出力装置13は、特徴量演算・抽出部27及び溶接動作特定部25で処理された結果を、振動データ、及びその他の溶接装置15に係わる時系列データを示すグラフと共にグラフや数値などによって表示する。これにより、作業者や作業監督者、保全員などの溶接装置15の関係者は、振動データ、及びその他の溶接装置に係わる時系列データと共に、1台の車両に対する溶接作業に係わる特徴量を容易に認識することができる。
作業期間毎に計算された特徴量のデータと共に、振動データの取得日時、取得条件、溶接条件、溶接フラグなどのデータ一式を、出力装置13に出力し、或いは、記憶装置12に記憶してもよい。
図6を参照して、第3実施形態に係わる溶接動作の抽出方法として、図5の溶接動作の抽出装置の動作の一例を説明する。図6のステップS01~S07及びステップS09の動作は、図1と同じであるため、再度の説明を割愛する。図6のフローチャートでは、図2のステップS08の代わりにステップS21、S22を実行する点で、図2のフローチャートと相違する。
ステップS21において、特徴量演算・抽出部27は、ステップS06又はS07で溶接フラグ又は非溶接フラグが付与された各動作期間において取得された振動データの基本統計量を算出し、この基本統計量を時系列データ化した特徴量として抽出する。
ステップS22に進み、出力装置13は、ステップS06、S07及びステップS21で処理された結果を、振動データ、及びその他の溶接装置15に係わる時系列データと共にグラフや数値などによって表示する。
第3実施形態では、第1実施形態をベースにして説明した。つまり、溶接動作のみを特定し、その前後での加圧動作及び解放動作は特定しない例を説明した。本発明はこれに限定されず、第2実施形態をベースにして、溶接動作、加圧動作、及び解放動作の各動作期間を特定し、各動作期間における特徴量を算出し出力してもよい。
工場内の作業ロボット31に取り付けられたスポット溶接の場合を例にして説明したが、その他の溶接にも適用可能である。例えば、作業ロボット31に取り付けられていないスポット溶接機、又はアーク溶接などの抵抗溶接以外の溶接機など、交流の電気的現象を用いた溶接機に対して幅広く適用可能である。
なお、上述の実施形態は、本発明を実施する形態の例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、これ以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは言うまでもない。
本実施形態で抽出された溶接動作期間に計測された振動データは、例えば、溶接動作の異常判定に利用することができる。具体的には、振動データと異常判定結果又は正常判定結果とを組み合わせた教師データを用いて、異常判定アルゴリズムを学習することができる。なお、溶接動作の異常判定において、溶接装置15から得られるデータ、例えば通電時の電流値等のデータよりも振動データが有利な場合がある。例えば、溶接電流が、ワークW1、S2の溶接部分を介せず、他の部分を流れてしまい、溶接不良が発生した場合、通電時の電流値に変化は生じないため当該異常を判定できないが、振動データには変化が生じるため、当該異常を判定することができる。