以下、本発明の一側面に係る媒体搬送装置について図を参照しつつ説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
図1は、イメージスキャナとして構成された媒体搬送装置100を示す斜視図である。媒体搬送装置100は、原稿である媒体を搬送し、撮像する。媒体は、用紙、厚紙又はカード等である。媒体搬送装置100は、ファクシミリ、複写機、プリンタ複合機(MFP、Multifunction Peripheral)等でもよい。なお、搬送される媒体は、原稿でなく印刷対象物等でもよく、媒体搬送装置100はプリンタ等でもよい。
媒体搬送装置100は、上側筐体101、下側筐体102、載置台103、排出台104、操作装置105及び表示装置106等を備える。
上側筐体101は、媒体搬送装置100の上側に配置され、媒体つまり時、媒体搬送装置100内部の清掃時等に開閉可能なようにヒンジにより下側筐体102に係合している。
載置台103は、搬送される媒体を載置可能に下側筐体102に係合している。載置台103は、下側筐体102の媒体供給側の側面に、略鉛直方向A1に移動可能に設けられる。載置台103は、媒体を搬送していないときは媒体が容易に載置されるように下端の位置に配置され、媒体を搬送するときは載置された媒体が給送されるように媒体搬送路と略同一の高さまで上昇する。排出台104は、排出された媒体を保持可能に上側筐体101上に形成されている。排出台104は、必要な場合に排出台104から引き出されて媒体を保持する補助排出台104aを有する。
操作装置105は、ボタン等の入力デバイス及び入力デバイスから信号を取得するインタフェース回路を有し、利用者による入力操作を受け付け、利用者の入力操作に応じた操作信号を出力する。表示装置106は、液晶、有機EL(Electro-Luminescence)等を含むディスプレイ及びディスプレイに画像データを出力するインタフェース回路を有し、画像データをディスプレイに表示する。
図2は、媒体搬送装置100内部の搬送経路を説明するための図である。
媒体搬送装置100内部の搬送経路は、第1媒体検出センサ111、ピックローラ112、給送ローラ113、ブレーキローラ114、移動距離検出センサ115、第2媒体検出センサ116、第1~第8搬送ローラ117a~h、第1~第8従動ローラ118a~h、第1撮像装置119a及び第2撮像装置119b等を有している。なお、ピックローラ112、給送ローラ113、ブレーキローラ114、第1~第8搬送ローラ117a~h及び/又は第1~第8従動ローラ118a~hのそれぞれの数は一つに限定されず、複数でもよい。その場合、複数のピックローラ112、給送ローラ113、ブレーキローラ114、第1~第8搬送ローラ117a~h及び/又は第1~第8従動ローラ118a~hは、それぞれ媒体搬送方向A2と直交する方向に間隔を空けて並べて配置される。
上側筐体101の、下側筐体102と対向する面は媒体の搬送路の第1ガイド101aを形成し、下側筐体102の、上側筐体101と対向する面は媒体の搬送路の第2ガイド102aを形成する。図2において矢印A2は媒体搬送方向を示し、矢印A3は媒体排出方向を示す。以下では、上流とは媒体搬送方向A2又は媒体排出方向A3の上流のことをいい、下流とは媒体搬送方向A2又は媒体排出方向A3の下流のことをいう。
第1媒体検出センサ111は、載置台103に、即ち給送ローラ113及びブレーキローラ114の上流側に配置され、載置台103における媒体の載置状態を検出する。第1媒体検出センサ111は、媒体が接触している場合、又は、媒体が接触していない場合に所定の電流を流す接触検知センサにより、載置台103に媒体が載置されているか否かを判別する。第1媒体検出センサ111は、載置台103に媒体が載置されている状態と載置されていない状態とで信号値が変化する第1媒体検出信号を生成して出力する。
ピックローラ112は、上側筐体101に設けられ、媒体搬送路と略同一の高さまで上昇した載置台103に載置された媒体と接触して、その媒体を媒体搬送方向A2に向けて給送する。
給送ローラ113は、上側筐体101内に、媒体搬送方向A2においてピックローラ112の下流側に設けられ、ピックローラ112により給送された媒体を、さらに媒体搬送方向A2に向けて給送する。
ブレーキローラ114は、下側筐体102内に、給送ローラ113と対向して配置される。給送ローラ113及びブレーキローラ114は、媒体の分離動作を行い、媒体を分離して一枚ずつ給送する。
ブレーキローラ114の回転中心にはシャフト114aが接続され、シャフト114aは不図示のギア、プーリ等の伝達機構を介して後述する駆動装置と接続される。シャフト114aはブレーキローラ114の回転軸の一例であり、駆動装置により発生された駆動力はシャフト114aを介して駆動装置からブレーキローラ114に伝達される。
また、シャフト114aとブレーキローラ114との間にはトルクリミッタ114bが設けられる。トルクリミッタ114bは、CPUからの制御信号に応じて、ブレーキローラ114に媒体給送方向の反対方向A6にかかるトルクのリミット値が変更可能に設けられている。トルクリミッタ114bとして、例えば、ロータと、コイルにより励磁される磁極を含むステータとを有する公知のヒステリシスブレーキが使用される。ヒステリシスブレーキでは、コイルに供給される電流の大きさに応じて、ロータとステータとの間に発生する磁界の大きさが変化し、ロータが回転したときに発生する磁気摩擦の大きさが変化することにより、ロータのブレーキ力が変化する。
図3は、ヒステリシスブレーキにおける電流値とトルクの関係の一例を示す模式図である。図3の横軸は電流値を示し、縦軸はトルクを示す。図3に示すように、コイルに供給される電流が大きい程、ヒステリシスブレーキにおけるトルクが大きくなる。媒体搬送装置100は、トルクリミッタ114bとしてヒステリシスブレーキを使用し、トルクリミッタ114bに供給する電流の大きさを変更することにより、ブレーキローラ114に媒体給送方向の反対方向A6にかかるトルクのリミット値を変更できる。
移動距離検出センサ115は、給送ローラ113及びブレーキローラ114の下流側且つ第2媒体検出センサ116の上流側に、特に給送ローラ113及びブレーキローラ114の近傍に配置され、給送される媒体の移動距離を検出する。移動距離検出センサ115は、光学式のロータリエンコーダを含む。ロータリエンコーダは、多数のスリット(光の透過穴)が形成され且つ給送される媒体に従って回転するように設けられた円板と、その円板を挟んで対向するように設けられた発光器及び受光器とを有する。受光器は、発光器と受光器の間にスリットが存在する状態と、スリットが存在せずに円板により遮られている状態との変化回数に応じて、ロータリエンコーダの外周面の移動距離、即ち給送される媒体の移動距離を示す移動距離信号を生成して出力する。
なお、移動距離検出センサ115は、媒体搬送路に対して一方の側に設けられた発光器及び受光器を用いて、給送される媒体の移動距離を検出してもよい。発光器は、LED(Light Emitting Diode)等であり、媒体搬送路に向けて光を照射する。一方、受光器は、一定期間毎に受光した光に応じた画像を撮像し、最新の画像と直前の画像とから共通部分を検出する。受光器は、検出した共通部分の画像内の位置の変化に基づいて、搬送された媒体の媒体搬送方向の移動距離を検出し、検出した移動距離を示す移動距離信号を生成して出力する。
第2媒体検出センサ116は、移動距離検出センサ115の下流側且つ第1搬送ローラ117a及び第1従動ローラ118aの上流側に、特に給送ローラ113及びブレーキローラ114の近傍に配置され、その位置に給送された媒体を検出する。第2媒体検出センサ116は、発光器116a及び受光器116bを有する。発光器116a及び受光器116bは、媒体搬送路の近傍に、媒体搬送路を挟んで対向して設けられる。発光器116aは、LED等であり、媒体搬送路に向けて光を照射する。媒体搬送路に媒体が存在しないときは、受光器116bは発光器116aから放射された光を検出する。一方、媒体搬送路に媒体が存在するときは、発光器116aから照射された光は媒体搬送路に存在する媒体により遮られ、受光器116bは発光器116aから照射された光を検出しない。受光器116bは、受光する光の強度に基づいて、第2媒体検出センサ116の位置に媒体が存在する状態と存在しない状態とで信号値が変化する第2媒体検出信号を生成して出力する。
なお、発光器及び受光器は、媒体搬送路に対して同じ側に設けられてもよい。その場合、発光器が照射した光を受光器が受光するまでの時間は、その光が媒体搬送路に存在する媒体によって反射した場合と、下側筐体102の第2ガイド102aによって反射した場合とで異なる。受光器は、発光器が光を照射してからその光を受光器が受光するまでの時間に応じて第2媒体検出信号を生成する。また、第2媒体検出センサ116は、媒体が接触している場合、又は、媒体が接触していない場合に所定の電流を流す接触検知センサ等により、媒体の存在を検出してもよい。また、媒体搬送装置100は、第2媒体検出センサ116の代わりに、移動距離検出センサ115を用いて、媒体の存在を検出してもよい。その場合、移動距離検出センサ115は、媒体の移動を検出したときに媒体が存在すると判定し、媒体の移動を検出していないときに媒体が存在しないと判定する。
第1撮像装置119aは、主走査方向に直線状に配列されたCCD(Charge Coupled Device)による撮像素子を備える縮小光学系タイプの撮像センサを有する。さらに、第1撮像装置119aは、光を照射する光源と、撮像素子上に像を結ぶレンズと、撮像素子から出力された電気信号を増幅してアナログ/デジタル(A/D)変換するA/D変換器とを有する。第1撮像装置119aにおいて、撮像センサは、搬送される媒体の表面を撮像してアナログの画像信号を生成して出力し、A/D変換器は、このアナログの画像信号をA/D変換してデジタルの入力画像を生成して出力する。
同様に、第2撮像装置119bは、主走査方向に直線状に配列されたCCDによる撮像素子を備える縮小光学系タイプの撮像センサを有する。さらに、第2撮像装置119bは、光を照射する光源と、撮像素子上に像を結ぶレンズと、撮像素子から出力された電気信号を増幅してA/D変換するA/D変換器とを有する。第2撮像装置119bにおいて、撮像センサは、搬送される媒体の裏面を撮像してアナログの画像信号を生成して出力し、A/D変換器は、このアナログの画像信号をA/D変換してデジタルの入力画像を生成して出力する。
なお、第1撮像装置119a及び第2撮像装置119bを一方だけ配置し、媒体の片面だけを読み取るようにしてもよい。また、CCDの代わりにCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)による撮像素子を備える等倍光学系タイプのCIS(Contact Image Sensor)が用いられてもよい。以下では、第1撮像装置119a及び第2撮像装置119bを総じて撮像装置119と称する場合がある。
載置台103に載置された媒体は、ピックローラ112、給送ローラ113がそれぞれ媒体給送方向A4、A5に回転することによって、第1ガイド101aと第2ガイド102aの間を媒体搬送方向A2に向かって搬送される。一方、ブレーキローラ114が媒体給送方向の反対方向A6に回転することによって、載置台103に複数の媒体が載置されている場合、載置台103に載置されている媒体のうち給送ローラ113と接触している媒体のみが分離される。
媒体は、第1ガイド101aと第2ガイド102aによりガイドされながら、第1~第3搬送ローラ117a~cがそれぞれ矢印A7~A9の方向に回転することによって、第1撮像装置119aの撮像位置L1に送り込まれる。その後、媒体は、第4搬送ローラ117dと第4従動ローラ118dの間に送り込まれ、第4搬送ローラ117dが矢印A10の方向に回転することによって第2撮像装置119bの撮像位置L2に送り込まれる。各撮像装置119により読み取られた媒体は、第5~第8搬送ローラ117e~hがそれぞれ矢印A11~A14の方向に回転することによって排出台104上に排出される。
図4は、媒体搬送装置100の概略構成を示すブロック図である。
媒体搬送装置100は、前述した構成に加えて、駆動装置131、インタフェース装置132、記憶装置140、CPU(Central Processing Unit)150及び処理回路160等をさらに有する。
駆動装置131は、1つ又は複数のモータを含む。駆動装置131は、CPU150からの制御信号によって、ピックローラ112、給送ローラ113、ブレーキローラ114及び第1~第8搬送ローラ117a~hを回転させて媒体の搬送動作を行う。
インタフェース装置132は、例えばUSB等のシリアルバスに準じるインタフェース回路を有し、不図示の情報処理装置(例えば、パーソナルコンピュータ、携帯情報端末等)と電気的に接続して読取画像及び各種の情報を送受信する。また、インタフェース装置132の代わりに、無線信号を送受信するアンテナと、所定の通信プロトコルに従って、無線通信回線を通じて信号の送受信を行うための無線通信インタフェース回路とを有する通信部が用いられてもよい。所定の通信プロトコルは、例えば無線LAN(Local Area Network)である。
記憶装置140は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置等を有する。また、記憶装置140には、媒体搬送装置100の各種処理に用いられるコンピュータプログラム、データベース、テーブル等が格納される。コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶装置140にインストールされてもよい。可搬型記録媒体は、例えばCD-ROM(compact disk read only memory)、DVD-ROM(digital versatile disk read only memory)等である。また、記憶装置140には、データとして入力画像等が記憶される。
CPU150は、予め記憶装置140に記憶されているプログラムに基づいて動作する。なお、CPU150に代えて、DSP(digital signal processor)、LSI(large scale integration)等が用いられてよい。また、CPU150に代えて、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等が用いられてもよい。
CPU150は、操作装置105、第1媒体検出センサ111、トルクリミッタ114b、移動距離検出センサ115、第2媒体検出センサ116、撮像装置119、駆動装置131、インタフェース装置132、記憶装置140及び処理回路160等と接続される。CPU150は、これらの各部を制御する。CPU150は、駆動装置131の駆動制御、撮像装置119の媒体読取制御等を行い、入力画像を取得する。また、CPU150は、移動距離検出センサ115又は第2媒体検出センサ116により生成された各信号に基づいて、トルクリミッタ114bのトルクのリミット値を変更する。
処理回路160は、撮像装置119から取得した読取画像に所定の画像処理を施す。処理回路160は、画像処理が施された読取画像を記憶装置140に格納する。なお、処理回路160として、LSI、DSP、ASIC又はFPGA等が用いられてもよい。
図5は、記憶装置140及びCPU150の概略構成を示す図である。
図5に示すように、記憶装置140には、制御プログラム141、画像取得プログラム142、算出プログラム143及び検出プログラム144等の各プログラムが記憶される。これらの各プログラムは、プロセッサ上で動作するソフトウェアにより実装される機能モジュールである。CPU150は、記憶装置140に記憶された各プログラムを読み取り、読み取った各プログラムに従って動作することにより、制御部151、画像取得部152、算出部153及び検出部154として機能する。
図6は、媒体読取処理の動作の例を示すフローチャートである。
以下、図6に示したフローチャートを参照しつつ、媒体搬送装置100の媒体読取処理の動作の例を説明する。なお、以下に説明する動作のフローは、予め記憶装置140に記憶されているプログラムに基づき主にCPU150により媒体搬送装置100の各要素と協働して実行される。
最初に、制御部151は、利用者により操作装置105を用いて媒体の読み取りの指示が入力されて、媒体の読み取りを指示する操作信号を操作装置105から受信するまで待機する(ステップS101)。
次に、制御部151は、第1媒体検出センサ111から第1媒体検出信号を取得し、取得した第1媒体検出信号に基づいて、載置台103に媒体が載置されているか否かを判定する(ステップS102)。載置台103に媒体が載置されていない場合、制御部151は、処理をステップS101へ戻し、操作装置105から新たに操作信号を受信するまで待機する。
一方、載置台103に媒体が載置されている場合、制御部151は、駆動装置131を駆動する(ステップS103)。制御部151は、ピックローラ112、給送ローラ113、ブレーキローラ114及び第1~第8搬送ローラ117a~hを回転させ、載置台103に載置された媒体を給送及び搬送させる。
次に、画像取得部152は、搬送された媒体を撮像装置119に撮像させて、入力画像を取得する(ステップS104)。
画像取得部152は、媒体の搬送を開始してから所定時間経過したか否かにより、媒体の先端が第1撮像装置119aの撮像位置L1又は第2撮像装置119bの撮像位置L2に到達したか否かを判定する。なお、媒体搬送装置100は、撮像位置L1又は撮像位置L2の近傍に媒体検出センサを設けて、各媒体検出センサから受信する媒体検出信号に基づいて、媒体の先端が撮像位置L1又は撮像位置L2に到達したか否かを判定してもよい。各媒体検出センサは、第2媒体検出センサ116と同様のセンサである。媒体の先端が撮像位置L1に到達したと判定した場合、画像取得部152は、第1撮像装置119aに媒体の撮像を開始させる。一方、媒体の先端が撮像位置L2に到達したと判定した場合、画像取得部152は、第2撮像装置119bに媒体の撮像を開始させる。媒体の撮像が完了した場合、画像取得部152は、撮像装置119から入力画像を取得する。
次に、画像取得部152は、取得した入力画像を、インタフェース装置132を介して不図示の情報処理装置へ送信する(ステップS105)。
次に、制御部151は、第1媒体検出センサ111から受信する第1媒体検出信号に基づいて、載置台103に媒体が残っているか否かを判定する(ステップS106)。
載置台103に媒体が残っている場合、CPU150は、トルク制御処理を実行し(ステップS107)、処理をステップS104へ戻し、ステップS104~S107の処理を繰り返す。トルク制御処理の詳細については後述する。
一方、載置台103に媒体が残っていない場合、制御部151は、駆動装置131を停止して、各ローラの回転を停止させ(ステップS108)、一連のステップを終了する。
図7は、トルク制御処理の動作の例を示すフローチャートである。
図7に示す動作のフローは、図6に示すフローチャートのステップS107において実行される。
最初に、算出部153は、給送ローラ113と給送される媒体との間のスリップ率を算出する(ステップS201)。スリップ率は、給送ローラ113の外周面上で媒体が滑ってしまい、給送ローラ113を回転させたにも関わらず媒体が移動しなかった度合いを示す。
算出部153は、制御部151が給送ローラ113を回転させた時間と、給送ローラ113の周速度とを乗算することにより、給送ローラ113の外周面の移動距離を算出する。なお、算出部153は、制御部151が駆動装置131を駆動したパルス数と、1パルスあたりの給送ローラ113の外周面の移動距離とを乗算することにより、給送ローラ113の外周面の移動距離を算出してもよい。また、算出部153は、移動距離検出センサ115から移動距離信号を受信し、受信した移動距離信号から、給送される媒体の移動距離を特定する。算出部153は、給送ローラ113の外周面の移動距離と、給送される媒体の移動距離とに基づいて、以下の式(1)に従ってスリップ率を算出する。
(スリップ率)=1-(給送される媒体の移動距離)/(給送ローラ113の外周面の移動距離) (1)
次に、制御部151は、算出されたスリップ率が所定率以上であるか否かを算出する(ステップS202)。所定率は、媒体搬送装置100が保証する媒体読取速度(処理速度)等に基づいて事前に設定され、例えば0.3に設定される。
スリップ率が所定率以上である場合、制御部151は、トルクリミッタ114bのトルクのリミット値を減少させるようにトルクリミッタ114bを制御し(ステップS203)、一連のステップを終了する。制御部151は、トルクのリミット値の減少を指示する制御信号をトルクリミッタ114bに送信することにより、トルクリミッタ114bを制御する。例えば、トルクリミッタ114bにおいてトルクのリミット値が五段階で設定可能な場合、制御部151は、トルクのリミット値を一段階減少させる。なお、トルクのリミット値には下限値が設定されており、現在のトルクのリミット値が下限値である場合、制御部151は、トルクのリミット値の変更処理を省略してもよい。
一方、スリップ率が所定率未満である場合、制御部151は、今回搬送された媒体が二つ目以降の媒体であるか否かを判定する(ステップS204)。今回搬送された媒体が最初の媒体である場合、制御部151は、一連のステップを終了する。
一方、今回搬送された媒体が二つ目以降の媒体である場合、検出部154は、給送ローラ113によって連続して給送される媒体の媒体間距離を検出する(ステップS205)。
検出部154は、第2媒体検出センサ116から定期的に第2媒体検出信号を受信し、第2媒体検出センサ116の位置を、直前に搬送された媒体の後端が通過してから、今回搬送された媒体の先端が通過するまでの非搬送期間を検出する。検出部154は、第2媒体検出信号の信号値が、直前の媒体の搬送時に媒体が存在することを示す値から存在しないことを示す値に変化してから、再度、媒体が存在することを示す値に変化するまでの期間を非搬送期間として検出する。検出部154は、非搬送期間の長さと給送ローラ113の周速度とを乗算することにより、媒体間距離を算出する。なお、算出部153は、非搬送期間に制御部151が駆動装置131を駆動したパルス数と、1パルスあたりの給送ローラ113の外周面の移動距離とを乗算することにより、媒体間距離を算出してもよい。
次に、制御部151は、検出された媒体間距離が所定距離以上であるか否かを算出する(ステップS206)。所定距離は、媒体搬送を繰り返す事前の実験により、重送が発生したときに検出された媒体間距離と重送が発生しないときに検出された媒体間距離との間の距離に設定され、例えば73mmに設定される。
媒体間距離が所定距離未満である場合、制御部151は、トルクリミッタ114bのトルクのリミット値を増大させるようにトルクリミッタ114bを制御し(ステップS207)、一連のステップを終了する。制御部151は、トルクのリミット値の増大を指示する制御信号をトルクリミッタ114bに送信することにより、トルクリミッタ114bを制御する。例えば、トルクリミッタ114bにおいてトルクのリミット値が五段階で設定可能な場合、制御部151は、トルクのリミット値を一段階増大させる。なお、トルクのリミット値には上限値が設定されており、現在のトルクのリミット値が上限値である場合、制御部151は、トルクのリミット値の変更処理を省略してもよい。
一方、媒体間距離が所定距離以上である場合、制御部151は、スリップ率が所定率未満である媒体の連続数が所定回数以上であるか否かを判定する(ステップS208)。
スリップ率が所定率未満である媒体の連続数が所定回数以上である場合、制御部151は、トルクリミッタ114bのトルクのリミット値を増大させるようにトルクリミッタ114bを制御し(ステップS207)、一連のステップを終了する。制御部151は、媒体間距離が所定距離未満である場合と同様にして、トルクリミッタ114bを制御する。
一方、スリップ率が所定率未満である媒体の連続数が所定回数未満である場合、制御部151は、トルクリミッタ114bのトルクのリミット値を変更せずに(ステップS209)、一連のステップを終了する。
このように、制御部151は、媒体間距離及び/又はスリップ率に基づいて、トルクリミッタ114bのトルクのリミット値を変更するように、トルクリミッタ114bを制御する。これにより、制御部151は、給送中の媒体の挙動に従って、以降に給送する媒体に対するトルクのリミット値を、自動的に、より適切な値に設定でき、媒体をより良好に搬送できる。
特に、制御部151は、スリップ率が所定率以上である場合、媒体間距離に関わらず、リミット値を減少させるようにトルクリミッタ114bを制御する(ステップS202、S203)。
これにより、制御部151は、以降の媒体の給送時に、ブレーキローラ114により媒体にかかる搬送負荷を低減させることができ、給送ローラ113が媒体に対してスリップすることを抑制できる。給送ローラ113のスリップが抑制されることにより、給送ローラ113の摩耗が進行することが抑制される。また、給送ローラ113のスリップが抑制されることにより、媒体の搬送速度が低下することが抑制される。さらに、ブレーキローラ114により媒体にかかる搬送負荷が低減されつつ給送ローラ113のスリップが抑制されることにより、媒体が給送ローラ113とブレーキローラ114の間に進入せずに媒体の給送が失敗することが抑制される。これにより、媒体搬送装置100は、トータルとして処理速度が低下することを抑制し、処理性能が低下することを抑制することができる。また、利用者は、給送に失敗した媒体を再セットする必要がなくなり、媒体搬送装置100は、利用者の利便性を向上させることが可能となる。
また、制御部151は、媒体間距離が所定距離未満である場合、リミット値を増大させるようにトルクリミッタ114bを制御する(ステップS206、S207)。
給送中の媒体の先端が給送ローラ113及びブレーキローラ114によって分離されてニップ位置を通過した時点で、次に給送される媒体の先端がそのニップ位置の近傍まで進入する場合がある。媒体搬送を繰り返す実験を行った結果、給送中の媒体の先端がそのニップ位置を通過した時点において、次に給送される媒体の先端位置がそのニップ位置に近い程、以降に重送が発生する可能性が高いことがわかった。また、その時点において、次に給送される媒体の先端位置がそのニップ位置に近い程、給送中の媒体と次に給送される媒体との媒体間距離が短い傾向にあった。制御部151は、媒体間距離が所定距離未満である場合、媒体の重送が発生する予兆があるとみなし、トルクリミッタ114bのリミット値を増大させる。これにより、制御部151は、以降の媒体の搬送時に、ブレーキローラ114により媒体にかかる搬送負荷を増大させることができ、媒体の重送が発生することを抑制できる。
また、制御部151は、複数の媒体の前記スリップ率に基づいて、リミット値を増大させるようにトルクリミッタ114bを制御する。特に、制御部151は、スリップ率が所定率未満である媒体の連続数が所定回数以上である場合、媒体間距離に関わらず、リミット値を増大させるようにトルクリミッタ114bを制御する(ステップS208、S207)。これにより、制御部151は、以降の媒体の搬送時に、ブレーキローラ114により媒体にかかる搬送負荷を増大させることができ、ブレーキローラ114により媒体にかかる搬送負荷が小さすぎることによって媒体の重送が発生することを抑制できる。
なお、制御部151は、給送される媒体のスリップ率が一回でも所定率以上であった場合は即時にトルクリミッタ114bのリミット値を減少させるため(ステップS202、S203)、媒体のスリップの発生をより確実に防止することができる。一方、制御部151は、複数の媒体のスリップ率が連続して所定率未満である場合にトルクリミッタ114bのリミット値を増大させるため(ステップS208、S209)、リミット値の変更が頻繁に実行されることを抑制できる。
なお、制御部151は、ステップS201~S203及び/又はS208の処理を省略し、スリップ率を使用せずに、媒体間距離のみに基づいて、リミット値を変更するようにトルクリミッタ114bを制御してもよい。
また、制御部151は、ステップS208において、スリップ率が所定率未満である媒体の連続数が所定回数以上である場合に、リミット値を増大させるのでなく、直近の所定回数のスリップ率の平均値が所定率未満である場合に、リミット値を増大させてもよい。これにより、制御部151は、媒体の重送が発生しにくくなるように、トルクリミッタ114bを制御することができる。
また、制御部151は、ステップS206において、一つの組合せに係る媒体の媒体間距離が所定距離未満である場合にリミット値を増大させるのでなく、直近の複数の組合せに係る媒体の媒体間距離が所定距離以上である場合にリミット値を増大させてもよい。これにより、制御部151は、より精度良くリミット値を適切な値に変更することができる。
以上詳述したように、媒体搬送装置100は、連続して給送される媒体の媒体間距離に基づいて、ブレーキローラ114に媒体給送方向と反対方向にかかるトルクのリミット値を変更し、重送の発生を抑制する。これにより、媒体搬送装置100は、媒体をより良好に給送することが可能となった。
図8は、他の実施形態に係る媒体搬送装置の駆動機構について説明するための模式図である。図8は、媒体搬送装置の駆動機構を媒体搬送方向A2の上流側から見た模式図である。
図8に示すように、媒体搬送装置は、給送ローラ113及びブレーキローラ114の代わりに、給送ローラ213及びブレーキローラ214を有する。給送ローラ213は、媒体搬送方向と直交する方向A15に間隔を空けて並べて配置された複数の給送ローラ213a、213bを含む。ブレーキローラ214は、媒体搬送方向と直交する方向A15に間隔を空けて並べて配置された複数のブレーキローラ214a、214bを含む。
また、媒体搬送装置は、第1~第4ギア221a~d、第1~第3シャフト222a~c及び第1~第2トルクリミッタ223a~b等を有する。
第1ギア221aは第1電磁クラッチを含む駆動機構を介して第1モータ(不図示)と接続され、第2ギア221bと係合される。第2ギア221bは第1シャフト222aの一端に取り付けられ、第1シャフト222aの他端には第1トルクリミッタ223aを介してブレーキローラ214aが第1シャフト222aの回転に従って回転するように取り付けられている。一方、第3ギア221cは第2電磁クラッチを含む駆動機構を介して第2モータ(不図示)と接続され、第4ギア221dと係合される。第4ギア221dは第2シャフト222bの一端に取り付けられ、第2シャフト222bの他端には第2トルクリミッタ223bを介してブレーキローラ214bが第2シャフト222bの回転に従って回転するように取り付けられている。
ブレーキローラ214aとブレーキローラ214bは、各ブレーキローラが他方のブレーキローラの回転に従って回転するように、第1、第2トルクリミッタ223a、223bを介さずに且つ第3シャフト222cを介して接続されている。第1トルクリミッタ223aのトルクのリミット値は第1リミット値であり、第2トルクリミッタ223bのトルクのリミット値は第1リミット値より大きい第2リミット値である。第1モータは、第1ギア221aを回転させるための第1駆動力を発生させ、第2モータは、第3ギア221cを回転させるための第2駆動力を発生させる。
制御部151は、第2モータに第2駆動力を発生させている状態で、図7のステップS203でリミット値を減少させる場合、第2モータによる第2駆動力の発生を停止させ且つ第1モータに第1駆動力を発生させる。第1駆動力は、第1トルクリミッタ223aを介して且つ第2トルクリミッタ223bを介さずに各ブレーキローラ214に伝達されるため、各ブレーキローラ214に媒体給送方向の反対方向A6にかかるトルクのリミット値は減少する。なお、この場合、制御部151は、第2電磁クラッチをOFFにして、第2モータと第3ギア221cの間の駆動力の伝達を遮断する。
一方、制御部151は、第1モータに第1駆動力を発生させている状態で、図7のステップS207でリミット値を増大させる場合、第1モータによる第1駆動力の発生を停止させ且つ第2モータに第2駆動力を発生させる。第2駆動力は、第2トルクリミッタ223bを介して且つ第1トルクリミッタ223aを介さずに各ブレーキローラ214に伝達されるため、各ブレーキローラ214に媒体給送方向の反対方向A6にかかるトルクのリミット値は増大する。なお、この場合、制御部151は、第1電磁クラッチをOFFにして、第1モータと第1ギア221aの間の駆動力の伝達を遮断する。
以上詳述したように、媒体搬送装置は、駆動機構を切り替えてトルクのリミット値を変更する場合においても、媒体をより良好に給送することが可能となった。
図9は、さらに他の実施形態に係る媒体搬送装置の処理回路260の概略構成を示す図である。
処理回路260は、媒体搬送装置100の処理回路160の代わりに使用され、CPU150の代わりに、媒体読取処理を実行する。処理回路260は、制御回路261、画像取得回路262、算出回路263及び検出回路264等を有する。なお、これらの各部は、それぞれ独立した集積回路、マイクロプロセッサ、ファームウェア等で構成されてもよい。
制御回路261は、制御部の一例であり、制御部151と同様の機能を有する。制御回路261は、操作装置105から操作信号を、第1媒体検出センサ111から第1媒体検出信号を、算出回路263からスリップ率を、検出回路264から媒体間距離をそれぞれ受信する。制御回路261は、受信した各情報に基づいて、駆動装置131を制御するとともに、トルクリミッタ114bを制御する。
画像取得回路262は、画像取得部の一例であり、画像取得部152と同様の機能を有する。画像取得回路262は、撮像装置119から入力画像を受信し、受信した入力画像を記憶装置140に記憶し、又は、インタフェース装置132に出力する。
算出回路263は、算出部の一例であり、算出部153と同様の機能を有する。算出回路263は、移動距離検出センサ115から移動距離信号を受信し、移動距離信号に基づいてスリップ率を算出し、制御回路261に出力する。
検出回路264は、検出部の一例であり、検出部154と同様の機能を有する。検出回路264は、第2媒体検出センサ116から第2媒体検出信号を受信し、第2媒体検出信号に基づいて媒体間距離を検出し、制御回路261に出力する。
以上詳述したように、媒体搬送装置は、処理回路260によって媒体読取処理を実行する場合も、媒体をより良好に給送することが可能となった。