以下、本発明の積層体基板、導電性基板、積層体基板の製造方法、および導電性基板の製造方法の一実施形態について説明する。
(積層体基板、導電性基板)
本実施形態の積層体基板は、透明基材と、透明基材の少なくとも一方の面側に形成された積層体とを備えることができる。そして、積層体が、酸素と、窒素と、銅と、ニッケルとを含有する黒化層と、銅層とを有し、黒化層に含まれる銅、及びニッケルのうち、ニッケルの含有率を15質量%以上60質量%以下とすることができる。
なお、本実施形態における積層体基板とは、透明基材の表面に、パターニングする前の銅層や黒化層を有する基板である。また、導電性基板とは、透明基材の表面に、パターニングして配線の形状にした銅配線層や黒化配線層を有する配線基板である。
ここでまず、本実施形態の積層体基板に含まれる各部材について以下に説明する。
透明基材としては特に限定されるものではなく、可視光を透過する高分子フィルムや、ガラス基板等を好ましく用いることができる。
可視光を透過する高分子フィルムとしては例えば、ポリアミド系フィルム、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、シクロオレフィン系フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリカーボネート系フィルム等の樹脂フィルムを好ましく用いることができる。
透明基材の厚さについては特に限定されず、導電性基板とした場合に要求される強度や光の透過率等に応じて任意に選択することができる。透明基材の厚さとしては例えば10μm以上250μm以下とすることができる。特にタッチパネルの用途に用いる場合、20μm以上200μmm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上120μm以下である。タッチパネルの用途に用いる場合で、例えば特にディスプレイ全体の厚さを薄くすることが求められる用途においては、透明基材の厚さは20μm以上100μm以下であることが好ましい。
次に積層体について説明する。積層体は、透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、黒化層と、銅層とを有することができる。
ここではまず銅層について説明する。
銅層についても特に限定されないが、光の透過率を低減させないため、銅層と透明基材との間、または、銅層と黒化層との間に接着剤を配置しないことが好ましい。すなわち銅層は、他の部材の上面に直接形成されていることが好ましい。
他の部材の上面に銅層を直接形成するため、スパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等の乾式めっき法を用いて銅層を形成することが好ましい。
また銅層をより厚くする場合には、乾式めっき後に湿式めっき法を用いることが好ましい。すなわち、例えば透明基材または黒化層上に、乾式めっき法により銅薄膜層を形成し、該銅薄膜層を給電層として、湿式めっき法により銅めっき層を形成することができる。この場合、銅層は銅薄膜層と、銅めっき層とを有することとなる。
上述のように乾式めっき法のみ、又は乾式めっき法と湿式めっき法とを組み合わせて銅層を形成することにより透明基材または黒化層上に接着剤を介さずに直接銅層を形成できるため好ましい。
銅層の厚さは特に限定されるものではなく、銅層をパターニングして配線として用いた場合に、該配線の電気抵抗値や配線幅等に応じて任意に選択することができる。特に充分に電気が流れるように銅層は厚さが50nm以上であることが好ましく、60nm以上とすることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましい。銅層の厚さの上限値は特に限定されないが、銅層が厚くなると、配線を形成するためにエッチングを行う際にエッチングに時間を要するためサイドエッチングが生じ、エッチングの途中でレジストが剥離する等の問題を生じ易くなる。このため、銅層の厚さは5000nm以下であることが好ましく、3000nm以下であることがより好ましい。なお、銅層が上述のように銅薄膜層と、銅めっき層とを有する場合には、銅薄膜層の厚さと、銅めっき層の厚さとの合計が上記範囲であることが好ましい。
次に、黒化層について説明する。
銅層は金属光沢を有するため、透明基材上に銅層をパターニングして配線を形成したのみでは上述のように銅が光を反射し、例えばタッチパネル用の配線基板として用いた場合、ディスプレイの視認性が低下するという問題があった。そこで、黒化層を設ける方法が検討されてきたが、黒化層がエッチング液に対する反応性を充分に有していない場合があり、銅層と黒化層とを同時に所望の形状にエッチングすることは困難であった。
これに対して、本実施形態の導電性基板に配置した黒化層は、酸素と、窒素と、銅と、ニッケルとを含有している。このため、本実施形態の積層体基板に配置した黒化層のエッチング液に対する反応性は、銅層のエッチング液に対する反応性とほとんど差がなくエッチング性も良好である。従って、本実施形態の積層体基板においては、銅層と、酸素と、窒素と、銅と、ニッケルとを含有する黒化層と、を同時にエッチングすることができる。
本実施形態の積層体基板に配置した黒化層が、銅層と同時にエッチングできる点について以下に説明する。
本発明の発明者らは当初、銅層表面の光の反射を抑制できる黒化層として、銅層の一部を酸化した酸化銅の層を形成する方法について検討を行った。そして、銅層の一部を酸化して黒化層とした場合、係る黒化層には不定比の銅酸化物や、酸化されていない銅が含まれている場合があることを見出した。
銅層、及び黒化層を備えた積層体基板の、銅層、及び黒化層を同時にエッチングする場合、エッチング液としては、例えば銅層をエッチング可能なエッチング液を好適に用いることができる。そして、本発明の発明者らの検討によれば、黒化層が不定比の銅酸化物を含有する場合、黒化層を構成する材料は銅層をエッチング可能なエッチング液に溶出しやすい。
このように、黒化層がエッチング液に対して溶出しやすい不定比の銅酸化物を含有する場合、黒化層はエッチング液に対する反応性が高く、銅層と比較して、黒化層のエッチング速度が大幅に速くなる。このため、銅層と黒化層とを同時にエッチング処理した場合、黒化層はアンダーカットになりやすかった。
そこで、本実施形態の積層体基板においては、アンダーカットを抑制する為に、黒化層は、酸素、窒素、及び銅に加えて、エッチング液で溶解しにくいニッケル成分を含有することができる。このように、本実施形態の積層体基板の黒化層が、酸素、窒素、銅、及びニッケルを含有することで、エッチング液への反応性を銅層と同等にすることができ、黒化層と、銅層とを同時にエッチングすることが可能になる。
黒化層に含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの含有率は、15質量%以上60質量%以下であることが好ましい。なお、銅及びニッケルのうち、ニッケルの含有率とは、上述の様に、黒化層中の銅と、ニッケルとの含有量の合計を100質量%とした場合の、黒化層中の銅と、ニッケルとのうちのニッケルの含有率を示している。
これは、黒化層に含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの割合が15質量%未満では、ニッケルの添加による黒化層のエッチング液への反応性を抑制する効果が十分ではなく、アンダーカットが発生しやすいからである。すなわち黒化層のエッチング液への溶解速度が銅層と比較して速く、銅層と同時にエッチングできる黒化層とすることができなくなるためである。
一方、黒化層に含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの割合が60質量%を超えて配合されるとニッケルが過剰で、黒化層のエッチング液に反応性が過剰に抑制され、黒化層のエッチングが困難になるからである。すなわち黒化層のエッチング液への溶解速度が銅層と比較して遅く、銅層と同時にエッチングできる黒化層とすることができなくなるためである。
また、黒化層に含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの含有率を15質量%以上60質量%以下とすることで、積層体基板、及び該積層体基板から形成した導電性基板の波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均を50%以下とすることができる。このため、係る導電性基板をタッチパネル等の用途に用いた場合でも、ディスプレイの視認性の低下を抑制でき、この点でも好ましい。
さらに、積層体基板においては、後述のように透明基材上に、黒化層、及び銅層を積層した構成とすることができ、積層体基板の黒化層、銅層をパターニングすることで導電性基板とすることができる。そして、黒化層に含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの割合が60質量%を超えると、黒化層や銅層をエッチングして開口部を形成した際に、エッチングによる除去が十分にできずに、透明基材の表面が黄色に変色したように見える場合がある。このため、上述の様に黒化層に含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの割合は、60質量%以下であることが好ましい。
黒化層は金属種として銅及びニッケルを含有することができ、黒化層が含有する金属種は、銅及びニッケルのみから構成することもできるが、銅、及びニッケルのみに限定されるものではない。例えば黒化層は、金属種としてさらに1重量%以下の不可避不純物が存在していてもよい。
また、黒化層は、酸素、窒素、銅、及びニッケルを含有していればよく、各成分がどのような状態で含まれているかは特に限定されるものではない。例えば少なくとも一部の銅や、ニッケルは酸化され、不定比の銅酸化物、銅窒化物、ニッケル酸化物及びニッケル窒化物を形成し、黒化層に含まれていても良い。
これは、本実施形態の積層体基板の黒化層はニッケルを含有しているため、黒化層が不定比の銅酸化物を含有していても、エッチング液に対する反応性を銅層とほぼ同様とすることができるからである。このため、本実施形態の積層体基板においては、銅層と黒化層とを同時にエッチングすることができる。
なお、黒化層が含有する酸素や窒素の量は特に限定されるものではない。ただし、黒化層が含有する酸素や窒素の量は、積層体基板や、該積層体基板を用いて作製した導電性基板の光の反射率に影響を与える場合がある。このため、積層体基板や、該積層体基板を用いて作製する導電性基板において要求される光の反射率の程度や、黒化層の色調等に応じて、黒化層が含有する酸素や窒素の量、さらには黒化層を成膜する際に添加する酸素や窒素の量を選択することが好ましい。
本実施形態の積層体基板から得られる導電性基板の銅配線層と黒化配線層とはそれぞれ、本実施形態の積層体基板の銅層と黒化層との特徴が維持される。
本実施形態の導電性基板に配置する黒化層の成膜方法は特に限定されるものではない。黒化層は、スパッタリング法等の乾式成膜法により形成することが好ましい。
黒化層をスパッタリング法により成膜する場合、例えば銅−ニッケル合金のターゲットを用い、チャンバー内にスパッタリングガスとして用いられる不活性ガス以外に、酸素ガスおよび窒素ガスを供給しながらスパッタリング法により成膜することができる。
スパッタリング時に銅−ニッケル合金のターゲットを用いた場合、銅−ニッケル合金中に含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの割合は15質量%以上60質量%以下であることが好ましい。これは成膜する黒化層に含まれる銅及びニッケルのうちの、ニッケルの割合と、該黒化層を成膜する際に用いた銅−ニッケル合金のターゲットの、銅−ニッケル合金中に含まれる銅及びニッケルのうちのニッケルの割合が同じになるためである。
スパッタリング法により黒化層を成膜する際、チャンバー内に供給する酸素ガス及び窒素ガスの供給量を調整する方法は特に限定されるものではない。例えば予め所望の分圧となるように窒素ガス、酸素ガス、及び不活性ガスを混合した混合ガスを用いることもできる。また、チャンバー内に不活性ガス、酸素ガス、及び窒素ガスをそれぞれ同時に供給し、各ガスの供給量を調整することで、チャンバー内の酸素ガス、及び窒素ガスの分圧を調整することもできる。特に後者の方が必要に応じてチャンバー内の各ガスの分圧を調整できることから好ましい。
なお、黒化層を成膜する際の不活性ガスとしては特に限定されるものではなく、例えばアルゴンガスやキセノンガスを用いることができるが、アルゴンガスを好適に用いることができる。また、黒化層は、金属成分以外の成分として酸素、及び窒素以外に、水素、炭素から選ばれた1種類以上の成分もあわせて含有することもできる。このため、黒化層を成膜する際のガスは、酸素ガス、窒素ガス、及び不活性ガス以外に、水蒸気、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスから選択される1種類以上のガスを含んでいてもよい。
上述のように不活性ガスと、酸素ガスと、窒素ガスとを、チャンバーに供給しながらスパッタリング法により黒化層を成膜する際、チャンバー内に供給する不活性ガス、酸素ガス、窒素ガスの比は限定されるものではない。積層体基板や導電性基板に要求される光の反射率や、黒化層の色調の程度等に応じて任意に選択することができる。
本実施形態の積層体基板において形成する黒化層の厚さは特に限定されるものではなく、例えば銅層表面での光の反射を抑制する程度等に応じて任意に選択することができる。
黒化層の厚さは、下限値は例えば10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい 。上限値は例えば70nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下である。
黒化層は上述のように銅層表面における光の反射を抑制する層として機能するが、黒化層の厚さが薄い場合には、銅層による光の反射を充分に抑制できない場合がある。これに対して、黒化層の厚さを10nm以上とすることにより、銅層表面における光の反射をより確実に抑制できる。
黒化層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、必要以上に厚くしても成膜に要する時間や、配線を形成する際のエッチングに要する時間が長くなり、コストの上昇を招くことになる。このため、黒化層の厚さは70nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがより好ましい。
次に、本実施形態の積層体基板の構成例について説明する。
上述のように、本実施形態の積層体基板は透明基材と、銅層、及び黒化層を有する積層体と、を有することができる。この際、積層体内の銅層と黒化層とを透明基材上に配置する順番や、その層の数は特に限定されるものではない。つまり、例えば透明基材の少なくとも一方の面側に、銅層と黒化層とを一層ずつ任意の順番に積層することもできる。また、積層体内で銅層および/または黒化層は複数層形成することもできる。
ただし、積層体内で銅層と、黒化層とを配置する際、銅層表面での光の反射の抑制のため、銅層の表面のうち光の反射を特に抑制したい面に黒化層が配置されていることが好ましい。
特に積層体は、黒化層が銅層の表面に形成された積層構造を有することがより好ましい。具体的には例えば、積層体は、黒化層として、第1の黒化層及び第2の黒化層の2つの層を有し、銅層は第1の黒化層と、第2の黒化層との間に配置されていることが好ましい。
具体的な構成例について、図2、図3を用いて以下に説明する。図2および、図3は、本実施形態の積層体基板の、透明基材、銅層、黒化層の積層方向と平行な面における断面図の例を示している。
例えば、図2(a)に示した導電性基板10Aのように、透明基材11の一方の面11a側に銅層12と、黒化層13と、を一層ずつその順に積層することができる。また、図2(b)に示した導電性基板10Bのように、透明基材11の一方の面11a側と、もう一方の面(他方の面)11b側と、にそれぞれ銅層12A、12Bと、黒化層13A、13Bと、を一層ずつその順に積層することができる。なお、銅層12(12A、12B)、及び、黒化層13(13A、13B)を積層する順は、図1(a)、(b)の例に限定されず、透明基材11側から黒化層13(13A、13B)、銅層12(12A、12B)の順に積層することもできる。
また、例えば黒化層を透明基材11の1つの面側に複数層設けた構成とすることもできる。例えば図3(a)に示した導電性基板20Aのように、透明基材11の一方の面11a側に、第1の黒化層131と、銅層12と、第2の黒化層132と、をその順に積層することができる。
このように黒化層として、第1の黒化層131及び第2の黒化層132を有し、銅層12を第1の黒化層131と、第2の黒化層132との間に配置することで、銅層12の上面側、及び下面側から入射する光の反射をより確実に抑制することが可能になる。
この場合も透明基材11の両面に銅層、第1の黒化層、第2の黒化層を積層した構成とすることができる。具体的には図3(b)に示した導電性基板20Bのように、透明基材11の一方の面11a側と、もう一方の面(他方の面)11b側と、にそれぞれ第1の黒化層131A、131Bと、銅層12A、12Bと、第2の黒化層132A、132Bと、をその順に積層できる。
なお、第1の黒化層131(131A、131B)と、第2の黒化層132(132A、132B)とは、共に酸素と、窒素と、銅と、ニッケルとを含有する黒化層とすることができ、同じ製造方法により製造することができる。
透明基材の両面に銅層と、黒化層と、を積層した、図2(b)、図3(b)の構成例においては、透明基材11を対称面として透明基材11の上下に積層した層が対称になるように配置した例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば、図3(b)において、透明基材11の一方の面11a側の構成を図2(a)の構成と同様に、銅層12と、黒化層13と、をその順に積層した形態とし、もう一方の面(他方の面)11b側を第1の黒化層131Bと、銅層12Bと、第2の黒化層132Bと、をその順に積層した形態として、透明基材11の上下に積層した層を非対称な構成としてもよい。
本実施形態の積層体基板の光の反射の程度は特に限定されるものではないが、例えば波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均は50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。これは波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均が50%以下の場合、例えば本実施形態の積層体基板を、タッチパネル用の導電性基板として用いた場合でもディスプレイの視認性の低下を特に抑制できるためである。
なお、積層体基板の正反射率の測定は、黒化層に光を照射するようにして測定を行うことができる。すなわち、導電性基板に含まれる銅層及び黒化層のうち、黒化層側から光を照射して測定を行うことができる。具体的には例えば図2(a)のように透明基材11の一方の面11aに銅層12、黒化層13の順に積層した場合、黒化層13に光を照射できるように、黒化層13の表面Aに対して光を照射して測定できる。また、図2(a)の場合と、銅層12と黒化層13との配置を換え、透明基材11の一方の面11aに黒化層13、銅層12の順に積層した場合、黒化層13に光を照射できるように、透明基材11の面11b側から黒化層に対して光を照射して正反射率を測定できる。
また、波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均とは、400nm以上700nm以下の範囲内で波長を変化させて測定を行った際の測定結果の平均値を意味している。測定の際、波長を変化させる幅は特に限定されないが、例えば、10nm毎に波長を変化させて上記波長範囲の光について測定を行うことが好ましく、1nm毎に波長を変化させて上記波長範囲の光について測定を行うことがより好ましい。
なお、後述のように導電性基板は銅層及び黒化層をエッチングして配線加工することにより金属細線を形成して導電性基板とすることができる。導電性基板における光の正反射率とは、透明基材を除いた場合に、最表面に配置されている黒化層の、光が入射する側の表面における正反射率を意味している。
このため、エッチング処理を行った後の導電性基板であれば、銅層及び黒化層が残存している部分での測定値が上記範囲を満たしていることが好ましい。
次に、本実施形態の導電性基板について説明する。
本実施形態の導電性基板は、透明基材と、透明基材の少なくとも一方の面側に形成された金属細線とを備えることができる。そして、金属細線が、酸素と、窒素と、銅と、ニッケルとを含有する黒化配線層と、銅配線層とを備えた積層体であり、黒化配線層に含まれる銅、及びニッケルのうち、ニッケルの割合を15質量%以上60質量%以下とすることができる。
本実施形態の導電性基板は、例えば既述の積層体基板を配線加工して得ることができる。そして、本実施形態の導電性基板においては、透明基材上に銅配線層と、黒化配線層と、を設けているため、銅配線層による光の反射を抑制することができる。従って、黒化配線層を設けることにより、例えばタッチパネル等に用いた場合に良好なディスプレイの視認性を有することができる。
本実施形態の導電性基板は例えばタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。この場合、導電性基板は既述の積層体基板における銅層、及び黒化層に開口部を設けることで形成した配線パターンを有する構成とすることができる。より好ましくは、メッシュ状の配線パターンを備えた構成とすることができる。
開口部を備えた配線パターンが形成された導電性基板は、ここまで説明した積層体基板の銅層及び黒化層をエッチングすることにより得ることができる。そして、例えば、二層の金属細線によりメッシュ状の配線パターンを有する導電性基板とすることができる。具体的な構成例を図4に示す。図4はメッシュ状の配線パターンを備えた導電性基板30を銅配線層、及び黒化配線層の積層方向の上面側から見た図を示している。なお、図中には、透明基材11を介して見えている銅配線層31Bも示している。
図4に示した導電性基板30は、透明基材11と、図中X軸方向に平行な複数の銅配線層31BとY軸方向に平行な銅配線層31Aとを有している。なお、銅配線層31A、31Bは、既述の積層体をエッチングして形成することができる。そして、銅配線層31A、31Bの上面および/または下面には図示しない黒化層が形成されており、黒化層は銅配線層31A、31Bとほぼ同じ形状(パターン)となるようにエッチングされている。
透明基材11と銅配線層31A、31Bとの配置は特に限定されない。透明基材11と配線との配置の構成例を図5に示す。図5は図4のA−A´線での断面図に当たる。
例えば、図5に示したように、透明基材11の上下面にそれぞれ銅配線層31A、31Bが配置されていてもよい。なお、図5に示した導電性基板の場合、銅配線層31A、31Bの透明基材11側には、銅配線層31A、31Bとほぼ同じ形状にエッチングされた第1の黒化配線層321A、321Bが配置されている。また、銅配線層31A、31Bの透明基材11と対向する面とは反対側の面には、第2の黒化配線層322A、322Bが配置されている。
すなわち、図5に示した導電性基板においては、金属細線は、黒化配線層として第1の黒化配線層321A、321B及び第2の黒化配線層322A、322Bの2つの層を有しており、銅配線層31A、31Bは、第1の黒化配線層321A、321Bと、第2の黒化配線層322A、322Bとの間に配置されていることとなる。
なお、ここでは第1の黒化配線層、及び第2の黒化配線層を設けた例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば第1の黒化配線層、または第2の黒化配線層いずれか一方のみを設けることもできる。
図4に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は例えば、図2(b)、図3(b)のように透明基材11の両面に銅層12A、12Bと、黒化層13A、13B(131A、132A、131B、132B)と、を備えた積層体基板から形成することができる。
なお、例えば図5に示した第1の黒化配線層と第2の黒化配線層とを備えた導電性基板は、図3(b)に示した積層体基板から形成することができる。
そこで、図3(b)の積層体基板を用いて形成した場合を例に説明する。
まず、透明基材11の一方の面11a側の銅層12A、第1の黒化層131A、及び第2の黒化層132Aを、図3(b)中Y軸方向に平行な複数の線状のパターンが、X軸方向に沿って所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングする。なお、図3(b)中のY軸方向とは、紙面と垂直な方向を指す。また、図3(b)中のX軸方向とは各層の幅方向と平行な方向を意味している。
そして、透明基材11のもう一方の面11b側の銅層12B、第1の黒化層131B、及び第2の黒化層132Bを図3(b)中X軸方向と平行な複数の線状のパターンがY軸方向に沿って所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。
以上の操作により図4、図5に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板を形成することができる。なお、透明基材11の両面のエッチングは同時に行うこともできる。すなわち、銅層12A、12B、第1の黒化層131A、131B、及び第2の黒化層132A、132Bのエッチングは同時に行ってもよい。
図4に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は、図2(a)または図3(a)に示した積層体基板を2枚用いることにより形成することもできる。図3(a)の導電性基板を用いた場合を例に説明すると、図3(a)に示した導電性基板2枚についてそれぞれ、銅層12、第1の黒化層131、及び第2の黒化層132を、X軸方向と平行な複数の線状のパターンがY軸方向に沿って所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。そして、上記エッチング処理により各導電性基板に形成した線状のパターンが互いに交差するように向きをあわせて2枚の導電性基板を貼り合せることによりメッシュ状の配線を備えた導電性基板とすることができる。2枚の導電性基板を貼り合せる際に貼り合せる面は特に限定されるものではない。
例えば、2枚の導電性基板について、図3(a)における透明基材11の銅層12等が積層されていない面11b同士を貼り合せることで、図5に示した構成とすることができる。
なお、図4に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板における金属細線の幅や、金属細線間の距離は特に限定されるものではなく、例えば、金属細線に必要な電気抵抗値等に応じて選択することができる。
ただし、透明基材と、金属細線とが十分な密着性を有するように、以下のアンダーカット量比率が所定の範囲にあることが好ましい。
ここで、図6を用いてアンダーカット量比率について説明する。図6は、透明基材11上に、黒化配線層61、銅配線層62がその順に積層された導電性基板の、黒化配線層及び銅配線層の積層方向に沿った面における断面図を示している。なお、図6においては黒化配線層が1層と、銅配線層が1層とにより金属細線が構成された例を示している。
導電性基板を構成する層のうち、透明基材に接する層が、透明基材に接する層の上面に形成された層よりもエッチング速度が速い場合、透明基材に接する層のパターン幅が、透明基材に接する層上に形成された層のパターン幅よりも狭くなる場合がある。すなわち、アンダーカットが発生する場合がある。
図6に示した構成例において、透明基材に接する黒化層のエッチング速度が、黒化層の上面に形成された銅層のエッチング速度よりも速い場合、アンダーカットが発生する場合がある。図6に示した構成例においてアンダーカットが発生した場合、金属細線の底部幅(W2)となる透明基材11に接する黒化配線層61の幅が、金属細線のパターン幅(W1)となる黒化配線層61上に形成された銅配線層62の幅よりも狭くなる。
この場合、アンダーカット量比率は、金属細線の底部幅(W2)と、金属細線のパターン幅(W1)とにより、(W1−W2)/2W1の式で表される。
そして、アンダーカット量比率は(W1−W2)/2W1≦0.075の関係を有することが好ましい。これはアンダーカット量比率が上記関係を充足することで、黒化層と、銅層とを同時にエッチングし、所望のパターンにパターニングできているといえ、透明基材11と金属細線との密着性を高める観点からも好ましいからである。
本実施形態の導電性基板は、既述の積層体基板を配線加工し、積層体基板における銅層、及び黒化層に開口部を設けることで形成した配線パターンを有する。このため、配線パターンに含まれる金属細線間には透明基材を露出する開口部が設けられている。
そして、該開口部の波長400nm以上700nm以下の光の透過率の平均の、透明基材の波長400nm以上700nm以下の光の透過率の平均からの減少率は、3.0%以下であることが好ましい。
これは、上記開口部の波長400nm以上700nm以下の光の透過率の平均の、積層体基板に供する透明基材の波長400nm以上700nm以下の光の透過率の平均からの減少率が3.0%を超えると、透明基材を目視で観察すると黄色に変色して見える場合があるからである。上記減少率が3.0%を超えるのは、黒化層、及び銅層をエッチングする際に黒化層のエッチング速度が遅く黒化層と銅層とを同時にエッチングできていないためである。このため、既述のように、黒化層に含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの割合を60質量%以下とすることが好ましい。
また、本実施形態の導電性基板の光の反射の程度は特に限定されるものではないが、例えば波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均は50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。これは波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均が50%以下の場合、例えばタッチパネル用の導電性基板として用いた場合でもディスプレイの視認性の低下を特に抑制できるためである。
ここまで説明した本実施形態の2層の配線から構成されるメッシュ状の配線を有する導電性基板は、例えば投影型静電容量方式のタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。
(積層体基板の製造方法、導電性基板の製造方法)
次に本実施形態の積層体基板の製造方法の構成例について説明する。
本実施形態の積層体基板の製造方法は、以下の工程を有することができる。
透明基材を準備する透明基材準備工程。
透明基材の少なくとも一方の面側に積層体を形成する積層体形成工程。
そして、上記積層体形成工程は以下のステップを含むことができる。
銅を堆積する銅層成膜手段により銅層を形成する銅層形成ステップ。
酸素と、窒素と、銅と、ニッケルとを含有する黒化層を堆積する黒化層成膜手段により黒化層を成膜する黒化層形成ステップ。
そして、黒化層形成ステップは減圧雰囲気下において実施することが好ましい。また、黒化層に含まれる銅、及びニッケルのうち、ニッケルの割合が15質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
以下に本実施形態の積層体基板の製造方法について説明するが、以下に説明する点以外については上述の積層体基板の場合と同様の構成とすることができるため説明を省略している。
上述のように、本実施形態の積層体基板においては、銅層と、黒化層と、を透明基材上に配置する際の積層の順番は特に限定されるものではない。また、銅層と、黒化層と、はそれぞれ複数層形成することもできる。このため、上記銅層形成ステップと、黒化層形成ステップと、を実施する順番や、実施する回数については特に限定されるものではなく、形成する積層体基板の構造に合わせて任意の回数、タイミングで実施することができる。
透明基材を準備する工程は、例えば可視光を透過する高分子フィルムや、ガラス基板等により構成された透明基材を準備する工程であり、具体的な操作は特に限定されるものではない。例えば後段の各工程、ステップに供するため必要に応じて任意のサイズに切断等を行うことができる。なお、可視光を透過する高分子フィルムとして好適に用いることができるものについては既述のため、ここでは説明を省略する。
次に積層体形成工程について説明する。積層体形成工程は透明基材の少なくとも一方の面側に積層体を形成する工程であり、銅層形成ステップと、黒化層形成ステップとを有する。このため、各ステップについて以下に説明する。
まず、銅層形成ステップについて説明する。
銅層形成ステップでは透明基材の少なくとも一方の面側に銅を堆積する銅層成膜手段により銅層を形成することができる。
銅層形成ステップでは、乾式めっき法を用いて銅薄膜層を形成することが好ましい。また銅層をより厚くする場合には、乾式めっき法により銅薄膜層を形成後に湿式めっき法を用いてさらに銅めっき層を形成することが好ましい。
このため、銅層形成ステップは、例えば乾式めっき法により銅薄膜層を形成するステップを有することができる。また、銅層形成ステップは、乾式めっき法により銅薄膜層を形成するステップと、該銅薄膜層を給電層として、湿式めっき法により銅めっき層を形成するステップと、を有していてもよい。
従って、上述の銅層成膜手段としては1つの成膜手段に限定されるものではなく、複数の成膜手段を組み合わせて用いることもできる。
上述のように乾式めっき法のみ、又は乾式めっき法と湿式めっき法とを組み合わせて銅層を形成することにより透明基材または黒化層上に接着剤を介さずに直接銅層を形成できるため好ましい。
ここでまず、乾式めっき法により銅薄膜層を形成するステップについて説明する。
乾式めっき法としては特に限定されるものではないが、減圧雰囲気下において、スパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等を好ましく用いることができる。
特に、銅薄膜層の形成に用いる乾式めっき法としては、厚さの制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。すなわちこの場合、銅層形成ステップにおける銅を堆積させる銅層成膜手段はスパッタリング成膜法(スパッタリング成膜手段)であることが好ましい。
銅薄膜層は、例えば図7に示したロール・ツー・ロールスパッタリング装置70を用いて好適に成膜することができる。以下にロール・ツー・ロールスパッタリング装置を用いた場合を例に銅薄膜層を形成する工程を説明する。
図7はロール・ツー・ロールスパッタリング装置70の一構成例を示している。ロール・ツー・ロールスパッタリング装置70は、その構成部品のほとんどを収納した筐体71を備えている。図7において筐体71の形状は直方体形状として示しているが、筐体71の形状は特に限定されるものではなく、内部に収容する装置や、設置場所、耐圧性能等に応じて任意の形状とすることができる。例えば筐体71の形状は円筒形状とすることもできる。ただし、成膜開始時に成膜に関係ない残留ガスを除去するため、筐体71内部は1Pa以下まで減圧できることが好ましく、10−3Pa以下まで減圧できることがより好ましく、10−4Pa以下まで減圧できることがさらに好ましい。なお、筐体71内部全てが上記圧力まで減圧できる必要はなく、スパッタリングを行う、後述するキャンロール73が配置された図中下側の領域のみが上記圧力まで減圧できるように構成することもできる。
筐体71内には、銅薄膜層を成膜する基材を供給する巻出ロール72、キャンロール73、スパッタリングカソード74a〜74d、前フィードロール75a、後フィードロール75b、テンションロール76a、76b、巻取ロール77を配置することができる。また、銅薄膜層を成膜する基材の搬送経路上には、上記各ロール以外に任意にガイドロール78a〜78hや、ヒーター79等を設けることもできる。
巻出ロール72、キャンロール73、前フィードロール75a、巻取ロール77にはサーボモータによる動力を備えることができる。巻出ロール72、巻取ロール77は、パウダークラッチ等によるトルク制御によって銅薄膜層を成膜する基材の張力バランスが保たれるようになっている。
キャンロール73の構成についても特に限定されないが、例えばその表面が硬質クロムめっきで仕上げられ、その内部には筐体71の外部から供給される冷媒や温媒が循環し、一定の温度に調整できるように構成されていることが好ましい。
テンションロール76a、76bは例えば、表面が硬質クロムめっきで仕上げられ張力センサーが備えられていることが好ましい。また、前フィードロール75aや、後フィードロール75b、ガイドロール78a〜78hについても表面が硬質クロムめっきで仕上げられていることが好ましい。
スパッタリングカソード74a〜74dは、キャンロール73に対向して配置することが好ましい。スパッタリングカソード74a〜74dのサイズは特に限定されないが、スパッタリングカソード74a〜74dの銅薄膜層を成膜する基材の巾方向の寸法は、対向する銅薄膜層を成膜する基材の巾より広いことが好ましい。
銅薄膜層を成膜する基材は、ロール・ツー・ロール真空成膜装置であるロール・ツー・ロールスパッタリング装置70内を搬送されて、キャンロール73に対向するスパッタリングカソード74a〜74dで銅薄膜層が成膜される。
ロール・ツー・ロールスパッタリング装置70を用いて銅薄膜層を成膜する場合の手順について説明する。
まず、銅ターゲットをスパッタリングカソード74a〜74dに装着し、銅薄膜層を成膜する基材を巻出ロール72にセットした筐体71内を真空ポンプ70a、70bにより真空排気する。
そしてその後、不活性ガス、例えばアルゴン等のスパッタリングガスを気体供給手段81により筐体71内に導入する。なお、気体供給手段81の構成は特に限定されないが、図示しない気体貯蔵タンクを有することができる。そして、気体貯蔵タンクと筐体71との間に、ガス種ごとにマスフローコントローラー(MFC)811a、811b、及びバルブ812a、812bを設け、各ガスの筐体71内への供給量を制御できるように構成できる。図7ではマスフローコントローラーと、バルブとを2組設けた例を示しているが、設置する数は特に限定されず、用いるガス種の数に応じて設置する数を選択することができる。
そして、気体供給手段81によりスパッタリングガスを筐体71内に供給した際、スパッタリングガスの流量と、真空ポンプ70bと筐体71との間に設けられた圧力調整バルブ82の開度と、を調整して装置内を例えば0.13Pa以上1.3Pa以下に保持し、成膜を実施することが好ましい。
この状態で、巻出ロール72から基材を例えば毎分1m以上20m以下の速さで搬送しながら、スパッタリングカソード74a〜74dに接続したスパッタリング用電源より電力を供給してスパッタリング放電を行う。これにより基材上に所望の銅薄膜層を連続成膜することができる。
なお、ロール・ツー・ロールスパッタリング装置70には上述した以外にも必要に応じて各種部材を配置できる。例えば筐体71内の圧力を測定するための圧力計83a、83bや、ベントバルブ84a、84bを設けることもできる。
次に、銅薄膜層を給電層として、湿式めっき法により銅めっき層を形成するステップについて説明する。
既述のように銅層の厚さによっては、乾式めっき後に湿式めっき法を用いてさらに銅層(銅めっき層)を成膜することができる。
湿式めっき法により銅めっき層を成膜する場合、上述した乾式めっきにより成膜した銅薄膜層を給電層とすることができる。そしてこの場合、銅層形成ステップにおける銅を堆積させる銅層成膜手段として、電気めっき成膜手段を好ましく用いることができる。
銅薄膜層を給電層として、湿式めっき法により銅めっき層を形成するステップにおける条件、すなわち、電気めっき処理の条件は、特に限定されるものではなく、常法による諸条件を採用すればよい。例えば、銅めっき液を入れためっき槽に銅薄膜層を形成した基材を供給し、電流密度や、基材の搬送速度を制御することによって、銅めっき層を形成できる。
次に、黒化層形成ステップについて説明する。
黒化層形成ステップは既述のように、透明基材の少なくとも一方の面側に、酸素と、窒素と、銅と、ニッケルとを含有する黒化層を成膜する黒化層成膜手段により黒化層を成膜するステップである。黒化層形成ステップにおける酸素と、窒素と、銅と、ニッケルとを含有する黒化層を堆積する黒化層成膜手段は特に限定されるものではないが、例えば減圧雰囲気下におけるスパッタリング成膜手段、すなわちスパッタリング成膜法であることが好ましい。
黒化層は例えば図7に示したロール・ツー・ロールスパッタリング装置70を用いて好適に成膜することができる。ロール・ツー・ロールスパッタリング装置の構成については既述のため、ここでは説明を省略する。
ロール・ツー・ロールスパッタリング装置70を用いて黒化層を成膜する場合の手順の構成例について説明する。
まず、銅−ニッケル合金ターゲットをスパッタリングカソード74a〜74dに装着し、黒化層を成膜する基材を巻出ロール72にセットした筐体71内を真空ポンプ70a、70bにより真空排気する。そしてその後、不活性ガス、例えばアルゴンと、酸素と窒素とからなるスパッタリングガスを気体供給手段81により筐体71内に導入する。この際、スパッタリングガスの流量と、真空ポンプ70bと筐体71との間に設けられた圧力調整バルブ82の開度とを調整して筐体71内を例えば0.13Pa以上13Pa以下に保持して成膜を実施することが好ましい。
なお、不活性ガス、酸素ガス、窒素ガスは予め混合したガスを筐体71内に供給することもできるが、それぞれ個別に筐体71に供給し、筐体71内でそれぞれのガスが所望の分圧となるようにその供給量、圧力を調整することもできる。また、スパッタリングガスは、既述のように不活性ガスと、酸素と窒素とからなるガスに限定されるものではなく、水蒸気、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスから選択される1種類以上のガスをさらに含んでいてもよい。
この状態で、巻出ロール72から基材を例えば毎分0.5m以上10m以下程度の速さで搬送しながら、スパッタリングカソード74a〜74dに接続したスパッタリング用電源より電力を供給してスパッタリング放電を行う。これにより基材上に所望の黒化層を連続成膜することができる。
ここまで、本実施形態の積層体基板の製造方法に含まれる各工程、ステップについて説明した。
本実施形態の積層体基板の製造方法により得られる積層体基板は、既述の積層体基板と同様に、銅層は厚さが50nm以上であることが好ましく、60nm以上とすることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましい。銅層の厚さの上限値は特に限定されないが、銅層の厚さは5000nm以下であることが好ましく、3000nm以下であることがより好ましい。なお、銅層が上述のように銅薄膜層と、銅めっき層を有する場合には、銅薄膜層の厚さと、銅めっき層の厚さとの合計が上記範囲であることが好ましい。
また、黒化層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば10nm以上であることが好ましく、15nm以上とすることがより好ましい。黒化層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、70nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがより好ましい。
さらに、本実施形態の積層体基板の製造方法により得られる積層体基板は、波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均は50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の積層体基板の製造方法により得られる積層体基板を用いて、銅層及び黒化層に開口部を備えた配線パターンが形成された導電性基板とすることができる。導電性基板は、より好ましくは、メッシュ状の配線を備えた構成とすることができる。
係る本実施形態の導電性基板の製造方法は、上述の積層体基板の製造方法により得られた積層体基板の銅層と、黒化層と、をエッチングし、銅配線層と、黒化配線層とを備えた積層体である金属細線を有する配線パターンを形成するエッチング工程を有することができる。そして、係るエッチング工程により、銅層及び黒化層に開口部を形成できる。
エッチング工程では例えばまず、エッチングにより除去する部分に対応した開口部を有するレジストを、積層体基板の最表面に形成する。例えば、図2(a)に示した積層体基板の場合、積層体基板に配置した銅層12の露出した表面A上にレジストを形成することができる。なお、エッチングにより除去する部分に対応した開口部を有するレジストの形成方法は特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィー法により形成することができる。
次いで、レジスト上面からエッチング液を供給することにより、銅層12、黒化層13のエッチングを実施することができる。
なお、図2(b)のように透明基材11の両面に銅層、黒化層を配置した場合には、積層体基板の表面A及び表面Bにそれぞれ所定の形状の開口部を有するレジストを形成し、透明基材11の両面に形成した銅層、黒化層を同時にエッチングしてもよい。また、透明基材11の両側に形成された銅層及び黒化層について、一方の側ずつエッチング処理を行うこともできる。すなわち、例えば、銅層12A及び黒化層13Aのエッチングを行った後に、銅層12B及び黒化層13Bのエッチングを行うこともできる。
本実施形態の積層体基板の製造方法で形成する黒化層は、銅層と同様のエッチング液への反応性を示す。このため、エッチング工程で用いるエッチング液は特に限定されるものではなく、一般的に銅層のエッチングに用いられるエッチング液を好ましく用いることができる。
エッチング工程で用いるエッチング液としては例えば、硫酸、過酸化水素水、塩酸、塩化第二銅、及び塩化第二鉄から選択された1種類を含む水溶液、または上記硫酸等から選択された2種類以上を含む混合水溶液をより好ましく用いることができる。エッチング液中の各成分の含有量は、特に限定されるものではない。
エッチング液は室温で用いることもできるが、反応性を高めるため加温していること好ましく、例えば40℃以上50℃以下に加熱して用いることが好ましい。
上述したエッチング工程により得られるメッシュ状の配線の具体的な形態については、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
また、図2(a)、図3(a)に示した透明基材11の一方の面側に銅層、黒化層を有する2枚の積層体基板をエッチング工程に供して導電性基板とした後、2枚の導電性基板を貼り合せてメッシュ状の配線を備えた導電性基板とする場合、導電性基板を貼り合せる工程をさらに設けることができる。この際、2枚の導電性基板を貼り合せる方法は特に限定されるものではなく、例えば光学接着剤(OCA)等を用いて接着することができる。
なお、本実施形態の導電性基板の製造方法により得られる導電性基板は、波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均は50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。
これは波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均が50%以下の場合、例えばタッチパネル用の導電性基板として用いた場合でもディスプレイの視認性の低下を特に抑制できるためである。
以上に本実施形態の積層体基板、導電性基板、積層体基板の製造方法、及び導電性基板の製造方法について説明した。係る積層体基板、または積層体基板の製造方法により得られる積層体基板によれば、銅層と黒化層とがエッチング液に対してほぼ同じ反応性を示す。このため、同時にエッチング処理を行うことができる銅層と、黒化層とを備えた積層体基板を提供することができる。そして、銅層と黒化層とを同時にエッチングすることができるため、容易に所望の形状の銅配線層、及び黒化配線層を形成することができる。
また、本実施形態の導電性基板、及び導電性基板の製造方法により得られる導電性基板では、黒化配線層を設けることで銅配線層による光の反射を抑制することができ、例えばタッチパネル用の導電性基板とした場合に、視認性の低下を抑制することができる。このため、黒化配線層を設けることで良好な視認性を有する導電性基板とすることができる。
以下に、本発明の実施例、比較例、及び参考例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって、なんら限定されるものではない。
(評価方法)
まず、得られた導電性基板の評価方法について説明する。
(1)正反射率
以下の各実施例、比較例において作製した積層体基板について正反射率の測定を行った。
測定は、紫外可視分光光度計(株式会社 島津製作所製 型式:UV−2600)に反射率測定ユニットを設置して行った。
各実施例で図3(a)の構造を有する積層体基板を作製したが、反射率の測定は図3(a)における第2の黒化層132の外部に露出した表面Cに対して入射角5°、受光角5°として、波長400nm以上700nm以下の範囲の光を照射して実施した。なお、積層体基板に照射した光は、波長400nm以上700nm以下の範囲内で、1nm毎に波長を変化させて各波長の光について正反射率の測定を行い、測定結果の平均を該導電性基板の正反射率の平均とした。
(2)金属細線のアンダーカット量比率
アンダーカット量比率は、各実施例、比較例で作製した導電性基板の配線の断面をSEMで観察し、金属細線のパターン幅W1及び金属細線の底部幅W2を求めて算出した。なお、金属細線のパターン幅W1、金属細線の底部幅W2については図6を用いて既に説明した通りである。
(3)開口部の全光線透過率の減少率
各実施例、比較例で作製した試験片の開口部について、全光線透過率の測定を行った。
測定は、上記の紫外可視分光光度計に積分球付属装置を設置して行った。照射した光は、波長400nm以上700nm以下の範囲内で、1nm毎に波長を変化させて各波長の光について透過率の測定を行い、測定結果の平均を該導電性基板の全光線透過率の平均とした。
また、予め積層体基板を製造する際に用いた透明基材について、同様にして全光線透過率の平均を測定しておいた。
そして、各実施例、比較例で作製した導電性基板の開口部の全光線透過率の平均の、透明基材の全光線透過率の平均からの減少率を算出した。
(試料の作製条件)
実施例、比較例として、以下に説明する条件で導電性基板を作製し、上述の評価方法により評価を行った。
[実施例1]
図3(a)に示した構造を有する導電性基板を作製した。
まず、透明基材準備工程を実施した。
具体的には、幅500mm、厚さ100μmの光学用ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)製の透明基材を準備した。
次に、積層体形成工程を実施した。
積層体形成工程として、第1の黒化層形成ステップ、銅層形成ステップ、及び第2の黒化層形成ステップを実施した。以下に具体的に説明する。
まず第1の黒化層形成ステップを実施した。
準備した透明基材を図7に示したロール・ツー・ロールスパッタリング装置70にセットした。また、スパッタリングカソード74a〜74dに、85質量%銅−Ni合金ターゲット(住友金属鉱山(株)製)を装着した。
そして、ロール・ツー・ロールスパッタリング装置70のヒーター79を100℃に加熱し、透明基材を加熱し、基材中に含まれる水分を除去した。
続いて筐体71内を1×10−4Paまで排気した後、アルゴンガスを240sccm、酸素ガスを40sccm、窒素ガスを10sccmで導入した。そして、透明基材を巻出ロール72から毎分2mの速さで搬送しながら、スパッタリングカソード74a〜74dに接続したスパッタリング用電源より電力を供給し、スパッタリング放電を行い、基材上に所望の第1の黒化層を連続成膜した。係る操作により透明基材上に第1の黒化層131を厚さ20nmとなるように形成した。
続いて、銅層形成ステップを実施した。
銅層形成ステップでは、スパッタリングカソードに銅ターゲット(住友金属鉱山(株)製)を装着し、筐体71内を排気後、ロール・ツー・ロールスパッタリング装置70の筐体71内にアルゴンガスのみを導入した点以外は第1の黒化層の場合と同様にして第1の黒化層の上面に銅層を厚さ200nmとなるように形成した。
なお、銅層を形成する基材としては、第1の黒化層形成工程で、透明基材上に第1の黒化層を形成した基材を用いた。
そして次に第2の黒化層形成ステップを実施した。
第2の黒化層形成ステップでは、第1の黒化層131と同条件で、銅層12の上面に第2の黒化層132を形成した。
作製した積層体基板の第2の黒化層132の露出している表面C(図3(a)を参照)、すなわち、第2の黒化層132の銅層12と対向していない面に光を照射して、上述の手順により波長400nm以上700nm以下の光の正反射率の平均を測定したところ、正反射率の平均は50%であった。
得られた積層体基板について正反射率測定を行った後、エッチング工程を行い、導電性基板を作製した。
エッチング工程ではまず、エッチングにより除去する部分に対応した開口部を有するレジストを、作製した積層体基板の図3(a)における表面C上に形成した。そして、塩化第二鉄10重量%と、塩酸10重量%と、残部が水と、からなるエッチング液に1分間浸漬して導電性基板を作製した。
作製した導電性基板について、金属細線のアンダーカット量比率、及び開口部の全光線透過率の測定を行った。
評価結果を表1に示す。
[実施例2〜実施例6]
各実施例について第1の黒化層131、及び第2の黒化層132を成膜する際に用いたスパッタリングターゲットの組成、及び酸素の供給量を表1に示したように変更した点以外は実施例1と同様にして積層体基板を製造し、評価を行った。
また、作製した積層体基板から実施例1と同様にして導電性基板を作製し、評価を行った。
結果を表1に示す。
[比較例1、2]
第1、第2の黒化層を成膜する際に用いたスパッタリングターゲットの組成を表1に示したように変更した点以外は実施例1と同様にして積層体基板を作製し、評価を行った。
また、作製した積層体基板から実施例1と同様にして導電性基板を作製し、評価を行った。
結果を表1に示す。
表1に示した結果によると、実施例1〜実施例6については、金属細線のアンダーカット量比率が0.075以下、開口部の全光線透過率の減少率が3.0%以下となった。すなわち、銅層と、第1、第2の黒化層を同時にエッチングすることができた。
これは、第1、第2の黒化層を成膜する際に用いたスパッタリングターゲットに含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの割合が15質量%以上60質量%以下であり、成膜した黒化層においても同様の組成であったためと考えられる。すなわち、黒化層のエッチング液に対する反応性を銅層と同等にすることができたためと考えられる。
なお、実施例6においては、アンダーカットしていなかった。すなわちアンダーカット量比率は0以下となる。
これに対して、比較例1は、金属細線のアンダーカット量比率が0.09と、0.075を大きく超えており、銅層と比較して黒化層のエッチング速度が速かったことが確認できた。また、比較例2は、開口部の全光線透過率の減少率が3.0%を超えており、銅層と比較して黒化層のエッチング速度が遅かったことが確認できた。
これは、第1、第2の黒化層を成膜する際に用いたスパッタリングターゲットに含まれる銅及びニッケルのうち、ニッケルの割合が15質量%未満、または60質量%を超え、成膜した黒化層においても同様の組成であったためと考えられる。