JP5212126B2 - 深絞り性に優れた冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

深絞り性に優れた冷延鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、特に、自動車部品や絞り缶など、深絞り加工が施される部品や製品に好適な、深絞り性に優れた冷延鋼板およびその素材である熱延鋼板、並びにそれらの製造方法に関するものである。
鋼板に深絞り成形を施す際には、鋼板の面内異方性が大きいと、成形後の自動車部品や、缶などの製品の形状が不均一になる。例えば、製品の耳の高さが大きくなると、板厚の変動や歩留りの低下が問題になる。
従来、鋼板の面内異方性は、Δrで評価されており、これを低減させた鋼板が提案されている(例えば、特許文献1〜4)。Δrは、圧延方向のランクフォード値rと、圧延方向から45°のランクフォード値r45と、圧延方向と垂直な幅方向のランクフォード値r90とより下記式によって求められる。
Δr=(r−2×r45+r90)/2
しかし、Δrを小さくしても、例えば、円筒深絞り成形を施した部品の全周に亘って耳の発生を抑制することができないことがある。したがって、特に、絞り缶などでは、面内異方性を厳格に制御した鋼板が要求されている。
特開平10−81919号公報 特開平10−130780号公報 特開2003−119547号公報 特開2006−219737号公報
本発明は、面内異方性を厳格に制御する必要がある部品、特に、絞り缶に適した、深絞り性に優れた冷延鋼板およびその素材である熱延鋼板、並びにそれらの製造方法の提供を課題とするものである。
本発明者らは、冷延鋼板(冷延板ともいう。)の面内異方性および集合組織と、その素材である熱延鋼板の析出状態との関係について検討を行った。その結果、熱延鋼板に粒界セメンタイトを生成させ、冷延鋼板の焼鈍時に集合組織の制御に活用することにより、極めて深絞り性、特に面内等方性に優れる冷延鋼板が得られるという知見を得た。
熱延鋼板の粒界に析出したセメンタイト(粒界セメンタイト)を活用するには、Ti量を、C量に応じて制御し、さらに、熱間圧延後の冷却速度をC量およびTi量に応じて制御し、巻取温度の上限をTi量、S量およびN量に応じて制御することが重要である。これにより、熱延鋼板の固溶C量を極めて低減させ、好ましくは0にすることが可能になる。さらに、冷間圧延(冷延ともいう。)後、適切な条件で焼鈍を行えば、セメンタイトが分解して、焼鈍中に固溶C量が増加する。そのため、焼鈍時の回復が遅れて、{111}<110>〜<112>方位群を均等に発達させることができる。
面内異方性を厳格に評価するには、Δrよりも、板厚中央部の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)と{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)との差の絶対値や、圧延方向から幅方向まで、5°間隔で測定したランクフォード値(r値)の最大値と最小値の差の方が適している。前記r値の最大値と最小値の差が0.3以下である場合には、面内異方性が十分に小さく良好なものとなる。また、平均塑性ひずみ比rが1.5以上である場合には、深絞り性が良好なものとなる。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.005%超、0.020%以下、Mn:0.05〜1.00%を含有し、さらに、(4C+0.035)≦Ti≦(4C+0.15)を満足するTiを含有し、Si:0.5%以下、P:0.100%以下、S:0.015%以下、Al:0.500%以下、N:0.010%以下に制限し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、板厚中央部の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)および{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)がそれぞれ5以上であり、前記(A)と前記(B)との差の絶対値が4以下であることを特徴とする深絞り性に優れた冷延鋼板。
(2)Cr、Cu、Niの1種または2種以上を合計で0.3質量%未満含むことを特徴とする上記(1)に記載の深絞り性に優れた冷延鋼板。
(3)質量%で、B:0.010%以下を含むことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の深絞り性に優れた冷延鋼板。
(4)圧延方向から圧延方向と垂直な幅方向までの間を5°刻みで測定したランクフォード値の、最大値と最小値との差が0.3以下であり、平均塑性ひずみ比rが1.5以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の深絞り性に優れた冷延鋼板。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の冷延鋼板の中間素材であって、結晶粒界のセメンタイトのサイズが50nm〜2μmであり、該セメンタイトの体積分率が0.03〜0.15%であり、Tiの固溶濃度が0.04%以上であり、時効指数AIが5MPa以下であることを特徴とする熱延鋼板。
(6)上記(5)に記載の熱延鋼板の製造方法であって、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の成分組成を有する鋼片を1200℃以上に加熱し、Ar変態点以上で熱間圧延を終了した後、下記(式1)を満足する冷却速度CR[℃/s]で冷却し、下記(式2)を満足する巻取温度CT[℃]で巻取ることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
66−200(4C+Ti)≦CR≦122−350(4C+Ti) ・・・(式1)
400≦CT≦600−250(Ti−48S/32−48N/14)・・・(式2)
ここで、上記(式1)および/または(式2)におけるC、Ti、S、Nは、各元素の含有量[質量%]である。
(7)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法であって、(6)に記載の方法で製造された熱延鋼板を酸洗した後、圧下率70〜90%の冷間圧延を施し、加熱速度3〜50℃/sで最高到達温度700℃以上Ac変態点以下の温度範囲に加熱する焼鈍を行うことを特徴とする深絞り性に優れた冷延鋼板の製造方法。
本発明によれば、r値の平均値(平均塑性ひずみ比r)が高く、かつr値の面内異方性も極めて小さく、深絞り性に優れた冷延鋼板、その素材である熱延鋼板、並びにそれらの製造方法の提供が可能になり、産業上の貢献が極めて顕著である。
熱延鋼板中の粒界セメンタイトの一例である。 抽出レプリカで観察された熱延鋼板中のセメンタイトの一例である。 熱延鋼板中の粒界セメンタイト体積分率と、冷延鋼板の平均r値との関係を示す図である。 熱延鋼板中の粒界セメンタイト体積分率および固溶Ti濃度と、冷延鋼板のr値の異方性との関係を示す図である。 本発明の結晶方位が表示されるφ2=45°断面のODFを示す図である。
鋼板のr値と集合組織には強い相関があり、板面に結晶の{111}面を揃えるとr値が向上する。また、冷間圧延前の熱延鋼板に固溶Cが残存していると、冷間圧延中にr値を低下させる方位が発達する。そのため、Ti、Nbを添加し、炭化物などの生成により、固溶C量を低減させれば、r値が向上する。
しかし、このような鋼板では主に{111}<112>方位が発達し、r値の平均値(平均r値ともいう。)は高くなるものの、面内異方性が大きくなる。したがって、r値の平均値を高め、さらに、r値の面内異方性を低減させるには、{111}<110>〜{111}<112>方位群を均等に発達させることが重要になる。
なお、r値の平均値とは、JIS Z 2254の平均塑性ひずみ比rであり、圧延方向のランクフォード値rと、圧延方向から45°のランクフォード値r45と、圧延方向と垂直な幅方向のランクフォード値r90とより下記(式3)によって求められる。
=(r+2r45+r90)/4 ・・・ (式3)
本発明者らは、冷延鋼板の{111}<110>〜<112>方位群を均等に発達させるために、検討を行った。冷延鋼板のr値を高めるには、熱延鋼板の固溶Cを低減させることが必要である。一方、冷延鋼板の面内異方性を低減させるには、TiCの活用は好ましくない。そこで、本発明者らは、TiCの析出を抑制して、セメンタイトを活用する方法を検討した。すなわち、熱延鋼板にセメンタイトを生成させて固溶C量を低減し、冷延鋼板の焼鈍(冷延板焼鈍ともいう。)の際にはセメンタイトの一部を再固溶させ、固溶Cを利用して回復を遅延させる方法である。
まず、種々の鋼組成、製造条件にて熱延鋼板を製造し、それらに冷間圧延および焼鈍を施して冷延鋼板を製造した。熱延鋼板中における結晶粒界のセメンタイトの量および存在状態は、抽出残渣法および透過型電子顕微鏡(TEM)による観察によって調査した。なお、TEM観察用の試料は、薄膜法によって作成した。ここで、結晶粒界のセメンタイト(粒界セメンタイト)とは、結晶粒界の位置に膜状あるいは塊状に析出したセメンタイトである。
抽出残渣法により、残渣からTiCとして析出物したC量を求め、全C量から差し引いて、セメンタイトを形成しているC量を求めた。このセメンタイトのC量からFeCの質量を算出し、密度から粒界セメンタイトの体積分率に換算した。
図1に粒界セメンタイトのTEM写真の一例を示す。TEM観察により粒界セメンタイトの存在位置、およびサイズを見積もった。粒界セメンタイトのサイズは、セメンタイト粒の最長の長さとし、10個以上のセメンタイトを観察し平均したものを、その鋼板の粒界セメンタイトサイズとした。
また、抽出レプリカ法により試料を作製し、セメンタイトの形態をTEMによって観察した。更に、制限視野電子回折法とエネルギー分散型X線分光法(EDS)を併用して解析を行い、セメンタイトであることを確認した。図2に、抽出レプリカ法による粒界セメンタイトのTEM写真を示す。薄膜試料では、セメンタイトの向きや位置によっては、実際の長さよりも短く観察されてしまうことがある。一方、抽出レプリカの場合は、セメンタイトの形態を忠実に観察することができる。そのため、セメンタイトのサイズは、抽出レプリカ法で測定した方が、薄膜試料で測定した場合よりも若干大きくなることがある。
例えば、薄膜試料で測定したセメンタイトのサイズが2μmである場合、抽出レプリカ法では3μmとなり、薄膜試料で測定したセメンタイトのサイズが50nmである場合、抽出レプリカ法では100nmとなることがある。しかし、本発明では、セメンタイトが粒界に析出していることを確認することが重要である。したがって、本発明では、上述のように、薄膜試料を用いてセメンタイトのサイズを測定するものとする。
粒界セメンタイトの体積分率を正確に求めることが必要である場合は、鋼中に固溶したC量及び粒界に偏析しているC量を考慮することが好ましい。粒界に偏析しているC量は、三次元アトムプローブ法によって測定した、結晶粒界の単位面積当たりに偏析しているC量と、光学顕微鏡観察によって測定した結晶粒径とに基づいて算出することができる。しかし、粒界に偏析しているC量は、TiCとして析出したC量に比べて極めて少量であり、無視できることがわかった。
一方、鋼中に固溶するC量(固溶C量)は、内部摩擦法によって測定することができる。本発明者らは、製造条件と固溶C量との関係について検討を行い、巻取温度が400℃よりも低い場合には、固溶C量が増加して、粒界セメンタイトの体積分率に影響するという知見を得た。しかし、この場合は、後述する時効指数AIが大きくなり、5MPaを超えることがわかった。
また、熱延鋼板中におけるTiの固溶濃度は、鋼中のTiの全含有量から、抽出残渣法によって求めたTi系析出物のTi量を差し引いて求めた。なお、Ti系析出物の量については、抽出残渣法の結果と、さらに、TEM観察および三次元アトムプローブ法による、微細TiC析出物の有無の確認の結果から、総合的に判断した。
次に、冷延鋼板から、圧延方向を0°とし、圧延方向と垂直な幅方向まで5°刻みで長手方向を変化させた引張試験片を採取し、r値を測定した。引張試験片はJIS Z 2201の5号試験片であり、r値の測定は、JIS Z 2254に準拠して行った。測定されたr値の最大値と最小値との差(最大r値−最小r値)、および平均塑性ひずみ比r(以下、平均r値ともいう。)を求めた。
さらに、X線回折法により、{111}<112>方位および{111}<110>方位のX線ランダム強度比を求めた。なお、X線ランダム強度比とは、特定の方位への集積を持たない標準試料及び供試材のX線強度を同条件でX線回折法等により測定し、得られた供試材のX線強度を標準試料のX線強度で除した数値である。
図3に、熱延鋼板中の粒界セメンタイト量と焼鈍後の冷延鋼板の平均r値との関係を示す。図3に示すように、粒界セメンタイト量が、体積分率にして0.15%以下であるときの平均r値は、1.5以上であった。なお、平均r値が1.5以上の冷延鋼板の、板厚中央部の{111}<112>方位および{111}<110>方位のX線ランダム強度比は、5以上であった。
図4には、冷延鋼板の(最大r値−最小r値)と、熱延鋼板中の粒界セメンタイト量および固溶Ti濃度との関係を示す。図4に示すように、粒界セメンタイト量が、体積分率にして0.03%以上、0.15%以下であり、かつ固溶Ti濃度が0.04%以上であるときの(最大r値−最小r値)は、0.3以下であった。なお、(最大r値−最小r値)が0.3以下である冷延鋼板の板厚中央部の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)および{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)の差の絶対値|(A)−(B)|は4以下であった。
図3および図4に示したように、粒界セメンタイトの量が、体積分率にして0.03%以上、0.15%以下であり、かつ固溶Ti濃度が0.04%以上である熱延鋼板に、適正な条件で冷延および焼鈍を行うことで、高い平均r値を持ち、かつ面内異方性の指標となる最大r値と最小r値の差が小さい冷延鋼板を製造することができる。
ここで、高い平均r値とは、具体的には、平均塑性ひずみ比rが1.5以上であること、および/または、板厚中央部の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)および{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)がそれぞれ5以上であることを意味する。また、最大r値と最小r値との差が小さいとは、具体的には、圧延方向から圧延方向と垂直な幅方向までの間を5°刻みで測定したランクフォード値の、最大値と最小値との差が0.3以下であること、および/または、板厚中央部の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)と{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)との差の絶対値が4以下であることを意味する。
すなわち、冷延鋼板の平均塑性歪み比rを高め、面内異方性を厳格に低減させるためには、熱延鋼板の粒界セメンタイト量およびTiの固溶濃度の確保が重要である。熱延鋼板の粒界にセメンタイトを析出させることで、冷延板焼鈍後の冷延鋼板の面内異方性が改善されるのは以下の理由によるものと考えられる。
冷延鋼板の焼鈍中に粒界セメンタイトが溶解し、加工組織の回復が生じる温度域で固溶Cが適度に供給される。その結果、回復が遅延し、ND//<111>再結晶集合組織が、NDまわりに等方的に発達し、板面に結晶の{111}面が揃った状態で、その面と垂直な軸を回転軸にして、結晶が特定の方位に集積しないように回転する。したがって、板面に結晶の{111}面が揃っているため、r値が向上し、面内異方性を大きくする{111}<112>の発達を抑制し、{111}<110>〜{111}<112>方位群が均等に発達する。しかし、冷延板焼鈍時の固溶Cが過剰になると、{111}全体の核生成が抑制され、他の方位からの再結晶が進行し、平均r値が低下する。
さらに、固溶Tiは、冷延板焼鈍時の固溶Cの供給にも影響する。すなわち、TiとCがTiCになると、回復が生じる温度域では溶解することができない。そのため、回復を遅延させる固溶Cの供給が抑制される。また、固溶Tiが、固溶Cと共存することで、より強く回復が遅延している可能性がある。
本発明の詳細について以下に説明する。まず、本発明の熱延鋼板および冷延鋼鈑の鋼の成分組成について説明する。
Cは、本発明においては、集合組織に影響を及ぼす極めて重要な元素である。熱延鋼板の粒界セメンタイトを確保し、冷延鋼板の集合組織を制御するためには、0.005%超のCを添加することが必要である。一方、C含有量が0.020%を超えると、伸びの低減など加工性の劣化を招くので好ましくない。したがって、C量は、0.005%超、0.020%以下とする。
Tiは、本発明においては、鋼中に固溶して冷延板の焼鈍時の回復を遅延させる極めて重要な元素である。この効果を得るには、C量とTi量とが、
(4C+0.035)≦Ti≦(4C+0.15)
の関係を満足することが必要である。ここで、上記式におけるC、Tiは、各元素の含有量[質量%]である。この式はCとTiのバランスを示しており、熱延鋼板に適正な体積分率の粒界セメンタイトを形成させたときに、熱延鋼板の固溶Tiを0.04%以上とするのに必要なTi量の範囲が、C量によって決まることを意味する。なお、Ti<(4×C+0.035)では、Tiの添加量が少なく、熱延鋼板の固溶Tiを確保することができない。また、Ti>(4×C+0.15)では、Tiが過剰になり、熱延鋼板の粒界セメンタイトを確保することができなくなる。
Nは不純物であり、Tiと窒化物を形成し、固溶Tiを低減させることから、含有量を0.010%以下に制限することが必要である。
Mnは、脱酸元素であり、硫化物を生成してSを固定する元素であり、また固溶強化にも寄与する。これらの効果を得るには、Mn含有量を0.05%以上とすることが必要である。一方、Mn含有量が1.00%を超えると硬化し、延性が劣化する。したがって、Mn含有量は0.05〜1.00%とする。
Siは、脱酸元素であるが、含有量が多くなると加工性が低下し、また、めっきの密着性にも悪影響を及ぼすので、0.5%以下を上限とする。なお、Siは、固溶強化に寄与する元素であり、含有量の好ましい下限は0.10%以上である。
Pは不純物であり、含有量を0.100%以下に制限することが必要である。また、Pの粒界への偏析を抑制して、粒界割れを防止するためには、0.050%以下に制限することが好ましい。
Sは、熱間圧延時に割れを引き起こす不純物であり、0.015%以下に制限することが必要である。特に、熱間圧延時に割れを防止し、加工性を良好にするためには、S含有量を0.010%以下とすることが好ましい。
Alは、脱酸元素であるが、窒化物などの析出物を形成して鋼板の加工性を損なうため、0.500%以下に制限することが必要である。なお、溶鋼の脱酸を十分に行うためには、0.002%以上を添加することが好ましい。
Cr、Cu、Niは、固溶強化元素であり、強度上昇に有効であるので、必要に応じて1種または2種以上を添加してもよい。効果を得るには、Cr、Cu、Niは、それぞれ、0.01%以上を含有させることが好ましい。一方、Cr、Cu、Niを過剰に含有させると、加工性の劣化が問題となるため、これらの合計量を0.3%未満に制限することが好ましい。
Bは鋼材の粒界の強化や高強度化に有効であり、必要に応じて添加してもよい。しかし、Bの添加量が0.010%を超えると加工性が劣化することがあるので、上限を0.010%以下に制限することが好ましい。
本発明の冷延鋼鈑の集合組織について説明する。
{111}<112>方位および{111}<110>方位は鋼板のr値を高める方位であり、本発明の冷延鋼板では、板厚方向の中央部の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)および{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)の双方を5以上とする。これにより、平均塑性ひずみ比rが1.5以上となる。平均r値(平均塑性ひずみ比r)をさらに高めるには、上記(A)及び上記(B)を7以上とすることが好ましく、さらに望ましくは8以上である。上記(A)及び(B)を7以上とすることにより平均r値が1.9以上となり、上記(A)及び(B)を8以上とすることにより平均r値が2.1以上となる。
上記(A)は、圧延方向のr値と、圧延方向から60°のr値とを高め、圧延方向から30°、90°のr値を低下させる方位である。一方、上記(B)は、圧延方向のr値と、圧延方向から60°のr値とを低下させ、圧延方向から30°、90°のr値を高める方位である。すなわち、上記(A)と上記(B)は、逆の傾向を示すため、どちらか一方の方位のみが強く発達するとr値の絶対値は高くなるものの、異方性が大きくなってしまう。
したがって、上記(A)と上記(B)の差の絶対値、すなわち、|(A)−(B)|は4以下とする。これにより、圧延方向から圧延方向と垂直な幅方向までの間を5°刻みで測定したランクフォード値の、最大値と最小値との差が、0.3以下になる。この観点から、|(A)−(B)|は、好ましくは2以下、さらに望ましくは1以下とする。|(A)−(B)|を2以下とすることにより上記最大値と最小値との差が0.15以下となり、|(A)−(B)|を1以下とすることにより上記最大値と最小値との差が0.10以下となる。
{111}<112>方位および{111}<110>方位のX線ランダム強度比は、X線回折によって測定される{110}、{100}、{211}、{310}極点図のうち複数の極点図を基に級数展開法で計算した、3次元集合組織を表す結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function、ODFという。)から求めればよい。なお、X線ランダム強度比とは、特定の方位への集積を持たない標準試料と供試材のX線強度を同条件でX線回折法等により測定し、得られた供試材のX線強度を標準試料のX線強度で除した数値である。
図5に、本発明の結晶方位が表示されるφ2=45°断面のODFを示す。図5は、3次元集合組織を結晶方位分布関数によって示すBungeの表示であり、オイラー角φ2を45°とし、特定の結晶方位である(hkl)[uvw]を、結晶方位分布関数のオイラー角φ1、Φで示している。{111}<112>および{111}<110>方位はいずれも厳密には図5のΦ=54.74°上の点で示される方位である。しかし、試験片加工や試料のセッティングに起因する測定誤差を生じることがあるため、{111}<112>および{111}<110>方位のX線ランダム強度比の最大値はそれぞれ、φ1、Φ、φ2それぞれの軸周りに±5°の範囲内での最大のX線ランダム強度比とする。
ここで、結晶の方位は通常、板面に垂直な方位を[hkl]または{hkl}、圧延方向に平行な方位を(uvw)または<uvw>で表示する。{hkl}、<uvw>は等価な面の総称であり、[hkl]、(uvw)は個々の結晶面を指す。すなわち、本発明においては体心立方構造(body−centered cubic、b.c.c.構造という。)を対象としているため、例えば(111)、(−111)、(1−11)、(11−1)、(−1−11)、(−11−1)、(1−1−1)、(−1−1−1)面は等価であり区別がつかない。このような場合、これらの方位を総称して{111}と称する。
なお、ODFは、対称性の低い結晶構造の方位表示にも用いられるため、一般的にはφ1=0〜360°、Φ=0〜180°、φ2=0〜360°で表現され、個々の方位が[hkl](uvw)で表示される。しかし、本発明では、対称性の高いb.c.c.構造を対象としているため、いずれの軸も0〜90°の範囲で表現され、かつ、このような場合、[hkl](uvw)と{hkl}<uvw>は同義である。したがって、例えば、図5に示した、φ2=45°断面におけるODFの(111)[1−10]のX線ランダム強度比は{111}<110>方位のX線ランダム強度比を表す。また、{111}<110>はODF上のφ1=0°、60°に{111}<112>はODF上のφ1=30°、90°とそれぞれ二箇所に標記されるが、これらも等価の値である。したがって、本発明にはいずれの値を用いても良い。
X線回折用試料の作製は次のようにして行う。鋼板を機械研磨や化学研磨などによって板厚方向に所定の位置まで研磨し、バフ研磨によって鏡面に仕上げた後、電解研磨や化学研磨によって歪みを除去すると同時に、1/2板厚部が測定面となるように調整する。なお、測定面を正確に1/2板厚部とすることは困難であるので、目標とする位置を中心として板厚に対して3%の範囲内が測定面となるように試料を作製すればよい。板厚中心部に偏析などの異常部が見られる場合にはその部分を避け、5/16〜7/16板厚部で試料を作成する。また、X線回折による測定が困難な場合には、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法やECP(Electron Channeling Pattern)法により統計的に十分な数の測定を行っても良い。
次に、本発明の冷延鋼板の製造工程における中間素材である熱延鋼板について説明する。
熱延鋼板の粒界セメンタイト量および固溶Ti濃度は、冷延板焼鈍時に回復を遅らせて、集合組織を制御するために、本発明では極めて重要である。熱延鋼板の粒界セメンタイト量が体積分率で0.03%未満、または熱延鋼板の固溶Ti濃度が0.04%未満であると、冷延板の再結晶焼鈍時に固溶状態で存在するC、Tiが不足し、最大r値と最小r値の差が0.3以下という特性が得られない。一方、熱延鋼板の粒界セメンタイトの量が体積分率で0.15%超になると、焼鈍時に供給される固溶Cが多くなりすぎ、{111}全体の核生成が抑制され、他の方位からの再結晶が進行して、平均r値が低下する。粒界セメンタイト量のさらに好ましい範囲は、体積分率で0.05%以上、0.12%以下である。
粒界セメンタイトのサイズは、セメンタイト粒の最長の長さとする。セメンタイトのサイズが2μmよりも大きいと、冷延時にセメンタイトの周りにひずみが集中し、再結晶焼鈍時に集合組織がランダム化し、平均r値が低下する。一方、セメンタイトのサイズが50nmよりも小さいと、冷延後の焼鈍時に早期に溶解してTiC析出物となり、固溶C量および固溶Ti量が減少し、回復を遅延させる効果が少なくなる。したがって、粒界セメンタイトのサイズは、50nm〜2μmの範囲とする。さらに好ましい粒界セメンタイトのサイズは100nm〜1μmの範囲である。
なお、粒内に析出したセメンタイトは、粒界セメンタイトに比べて高密度で微細なものであるため、これも冷延後の焼鈍時に容易に溶解し、回復を遅延させる効果が少ない。
本発明の熱延鋼板中では、TiC以外のCはセメンタイトとして確保されていることが好ましい。そのため、熱延鋼板では固溶C量を低減させて、時効指数AIを5MPa以下とすることが好ましい。AIが5MPaを超えると、冷間圧延時に固溶Cが多く存在することになり、冷延時にr値を低下させる方位が発達する。熱延鋼板のAIのさらに好ましい範囲は3MPa以下である。下限は特に設定しないが、測定誤差がなければ、0MPa以下にはならない。
なお、時効指数AIは、鋼板を10%引張ったときの流動応力をσ2(MPa)、鋼板を10%引張った後さらに170℃、20分の熱処理を施し再度引張ったときの下降伏点をσ1 (MPa)とすれば、AI=σ1 −σ2(MPa)で表される。
次に、本発明の熱延鋼板および冷延鋼板の製造方法について説明する。
まず、上記の成分組成の鋼を常法によって溶製、鋳造し、得られた鋼片を熱間圧延する。鋼片は、生産性の観点から、連続鋳造設備で製造することが好ましい。熱間圧延の加熱温度は、炭化物形成元素と炭素を十分に鋼材中に分解溶解させるため、1200℃以上とする。鋳造後、鋼片の温度を1200℃以上にして、そのまま熱間圧延を開始しても良い。1200℃以下に冷却された鋼片を加熱する場合は、1時間以上の保持を行うことが好ましい。
熱間圧延の終了温度は、鋼板の特性ばらつきを抑えるために、Ar変態点以上とし、オーステナイト域で熱延を終了することが必要である。Ar変態点は、下記(式4)により計算することができる。
Ar=901−325C+33Si+287P+40Al−92Mn・・・(式4)
なお、上記(式4)におけるC、Si、P、Al、Mnは、各元素の含有量[質量%]である。
熱間圧延終了後は、適量の粒界セメンタイトの形成および固溶Tiの確保のために、CおよびTiの含有量に応じて冷却速度を制御し、Ti、SおよびNの含有量に応じて巻取温度を制御する。
熱延後の冷却中にTiC析出の量をコントロールし、巻取前に適量の固溶Cおよび固溶Tiを残存させるには、冷却速度CR[℃/s]を、下記(式1)を満足する範囲内とすることが必要である。ここで、C、Tiは、各元素の含有量[質量%]である。
66−200(4C+Ti)≦CR≦122−350(4C+Ti) ・・・(式1)
なお、冷却速度の上限および下限を示す(式1)は、冷却速度とセメンタイト量および固溶Tiとの関係を調査して求められた経験式である。上記(式1)は、定性的には、CおよびTiの添加量が少ない場合は冷却速度を速めてTiCの析出を抑制し、CおよびTiの添加量が多い場合は冷却速度を遅くして、適量のTiCを析出させることを意味する。上記(式1)の下限未満の冷却速度では、TiCなどの炭化物が過剰に形成されるため、粒界セメンタイトを形成するC量が減少し、冷延板焼鈍時の固溶Ti濃度が減少する。一方、上限を超える冷却速度では、熱延鋼板の固溶Cが過剰になり、冷間圧延および焼鈍後、r値を低下させる方位が発達する。また、セメンタイトも増加して、冷延時にひずみが集中したり、再結晶焼鈍時に固溶Cが増加し、集合組織がランダム化し、r値の低下を招く。
冷却後の巻取温度CT[℃]は、TiC以外の析出物、Tiの炭硫化物や窒化物の生成を考慮し、下記(式2)を満足する範囲内とすることが必要である。ここで、Ti、S、Nは、各元素の含有量[質量%]である。
400≦CT≦600−250(Ti−48S/32−48N/14)・・・(式2)
巻取温度の上限の式は、定性的には、巻取前に生成したTiの炭硫化物や窒化物を考慮したうえで、残存する固溶Ti量が多いほどTiCが析出しやすくなり、より低温での巻取が必要であることを意味する。上限の温度を超えるとTiCが析出して、固溶Ti量が減少したり、粒界セメンタイトの生成が不十分になる。一方、下限を400℃としたのは、この温度未満では、粒界セメンタイトの確保が難しくなるためである。より好ましくは、セメンタイトのサイズを最適化する観点で500℃〜550℃である。
次に、熱延鋼板を酸洗後、冷間圧延を行う。高いr値を得るための冷延率(圧下率)の範囲は70〜90%である。冷延率が70%未満であると、r値を高める集合組織の発達が不十分になり、焼鈍後の再結晶組織がランダム化し、平均r値が低下する。一方、冷延率が90%を超えると、{111}<112>方位が集積して異方性が大きくなり、最大r値と最小r値との差が大きくなる。
冷間圧延後、3〜50℃/sの加熱速度で焼鈍を行う。加熱速度が3℃/s未満では、加熱中にセメンタイトが溶解して粗大なTiCが析出する。そのため、加工組織の回復および再結晶(回復再結晶という。)が生じる温度域(回復再結晶温度域という。)で固溶Cと固溶Tiを確保することができず、最大r値と最小r値の差が大きくなる。一方、加熱速度の上限は50℃/sとする。加熱速度が50℃/s超になると、回復再結晶時までに十分にセメンタイトが溶解しないため、回復再結晶温度域で十分な固溶Cを確保できない。さらに好ましい加熱速度の範囲は20〜40℃/sである。
最高到達温度は700℃以上Ac変態点以下の範囲とする。最高到達温度が700℃未満では加工フェライトが残存し、成形性が劣化するため、これを下限とする。一方、最高到達温度がAc変態点超になると集合組織がランダム化し、平均r値が低下するため、この温度を上限とする。
また、Ac変態点は、以下の(式5)で計算することができる。
Ac=910−203√C+44.7Si−30Mn+700P
+400Al+400Ti ・・・ (式5)
ここで、C、Si、Mn、P、Al、Tiは、各元素の含有量[質量%]であり、含有量が不純物程度である場合は0とする。
「実施例1」
表1に示した成分組成(化学成分)を有する鋼を溶製し、鋳造して鋼片を製造した。なお、表1には、C、Si、P、Al、Mn、Tiの含有量[質量%]から、下記(式4)〜(式5)により計算して求めたAr変態点およびAc変態点、ならびに、C、Ti、S、Nの含有量[質量%]から、下記(式6)〜(式8)により計算して求めた、熱間圧延後の冷却速度の下限値CRmin[℃/s]および上限値CRmax[℃/s]、巻取温度の上限値CTmax[℃]を示した。
Ar=901−325C+33Si+287P+40Al−92Mn・・・(式4)
Ac=910−203√C+44.7Si−30Mn+700P
+400Al+400Ti ・・・ (式5)
CRmin=66−200(4C+Ti) ・・・ (式6)
CRmax=122−350(4C+Ti) ・・・ (式7)
CTmax=600−250(Ti−48S/32−48N/14) ・・・(式8)
Figure 0005212126
得られた鋼片に、表2に示した製造条件(加熱温度、終了温度、冷却速度CR、巻取温度CT)で熱間圧延を施し、熱延鋼板を製造した。これらの熱延鋼板から、試験片を採取し、抽出残渣法により、セメンタイト量およびTi系炭化物の量を測定した。また、電解研磨法を用い透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の薄膜とし、セメンタイトの存在状態、サイズ、微細TiC析出物の有無を観察した。なお、微細TiC析出物の有無は、電解研磨法によって作製した針状の試料を用いて、三次元アトムプローブ法によって確認した。これらの結果から、熱延鋼板の粒界セメンタイトの体積分率および固溶Ti量を求めた。
なお、粒界セメンタイトのサイズは、セメンタイト粒の最長の長さとし、10個以上のセメンタイトを観察し平均したものとした。
Figure 0005212126
熱延鋼板のAIは、JIS Z 2201の5号試験片を用いて評価した。まず、10%の予歪を付与した時点での流動応力をσ(MPa)を測定し、一旦徐荷し、170℃で20分保持する時効処理を施した後、再度引張試験を行い、下降伏点をσ(MPa)を測定し、σとσとの差をAIとした。
熱延鋼板を用いて、表3に示した条件(圧下率、加熱速度、最高到達温度)で、冷間圧延、連続焼鈍を施し、冷延鋼板とした。冷延鋼板の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)および{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)を、X線回折法によって測定し、前記(A)と前記(B)の差の絶対値|(A)−(B)|を求めた。なお、X線回折用試料は、機械研磨によって板厚方向に所定の位置まで研磨し、バフ研磨によって鏡面に仕上げた後、さらに電解研磨によって歪みを除去し、1/2板厚部が測定面となるように調整し、作製した。
Figure 0005212126
さらに、冷延鋼板から、圧延方向を0°とし、圧延方向と垂直な幅方向まで5°刻みで長手方向を変化させた引張試験片を採取し、r値を測定した。引張試験片はJIS Z 2201の5号試験片であり、r値の測定は、JIS Z 2254に準拠して行った。測定されたr値の最大値と最小値との差(最大r値−最小r値)、および平均塑性ひずみ比r(以下、平均r値ともいう。)を求めた。
表2および表3から明らかなとおり、本発明の冷延鋼板は、適正な粒界セメンタイト量および固溶Ti濃度を有する熱延鋼板を適正な条件で冷延、焼鈍したものであり、板厚方向中央部の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)および{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)が5以上であり、かつ前記(A)と前記(B)の差の絶対値|(A)−(B)|が4以下であり、平均r値が1.5以上、最大r値と最小r値の差が0.3以下の深絞り性に特に優れた鋼板が得られることがわかる。
一方、製造No.17は、C量が少なく、熱延鋼板の粒界セメンタイトの生成が不十分になり、冷延鋼板のr値の異方性が大きく、最大r値と最小r値の差および|(A)−(B)|が大きくなった例である。
これに対して、製造No.18は、C量が多く、熱延鋼板の粒界セメンタイト量が多く、粒界セメントのサイズが大きくなり、冷延鋼板の平均r値、(A)および(B)が低下した例である。
また、製造No.19は、Ti量がC量に対して不足しており、熱延鋼板の固溶Ti濃度が減少し、冷延鋼板の異方性が大きく、最大r値と最小r値の差および|(A)−(B)|が大きくなった例である。
製造No.3は、巻取温度CTが低く、熱延鋼板の粒界セメンタイト量が少なく、粒界セメントのサイズが小さく、熱延鋼板の固溶C量が増加して時効指数AIが高くなり、冷延鋼板の平均r値、(A)および(B)が低下した例である。
製造No.4、16は、巻取温度CTが高く、熱延鋼板にTiCが析出して、粒界セメンタイト量が少なくなり、冷延鋼板のr値の異方性が大きくなった例である。
製造No.7、9は、熱間圧延後の冷却速度CRが遅いため、熱延鋼板にTiCが析出し、粒界セメンタイトの生成が不十分になり、冷延鋼板のr値の異方性が大きくなった例である。
これに対して、製造No.12、15は、熱間圧延後の冷却速度CRが速く、熱延鋼板の固溶C量が増加して時効指数AIが高くなり、また、熱延鋼板の粒界セメンタイト量も過剰になり、冷延鋼板の平均r値、(A)および(B)が低下した例である。
製造No.2は、冷延板焼鈍の加熱速度が遅く、焼鈍時にTiCを生じて固溶Cが減少し、冷延鋼板のr値の異方性が大きく、最大r値と最小r値の差および|(A)−(B)|が大きくなった例である。
製造No.13は、冷延板焼鈍の加熱速度が速く、焼鈍時のセメンタイトの溶解が不十分であり、再結晶回復温度域での固溶Cが不足し、冷延鋼板のr値の異方性が大きくなった例である。
製造No.6は、冷延板焼鈍の最高到達温度が高く、集合組織のランダム化が進み、冷延鋼板の平均r値、(A)および(B)が低下した例である。
「実施例2」
表4に示した成分組成(化学成分)を有する鋼を溶製し、鋳造して鋼片を製造した。なお、表4には、上記(式4)〜(式5)により計算して求めたAr変態点およびAc変態点、ならびに、上記(式6)〜(式8)により計算して求めた、熱間圧延後の冷却速度の下限値CRmin[℃/s]および上限値CRmax[℃/s]、巻取温度の上限値CTmax[℃]を示した。得られた鋼片に、表5に示した製造条件(加熱温度、終了温度、冷却速度CR、巻取温度CT)で熱間圧延を施し、熱延鋼板を製造した。熱延鋼板の粒界セメンタイトのサイズ、粒界セメンタイトの体積分率および固溶Ti量は、実施例1と同様にして求めた。また、熱延鋼板のAIを、実施例1と同様にして評価した。
Figure 0005212126
Figure 0005212126
熱延鋼板を用いて、表6に示した条件(圧下率、加熱速度、最高到達温度)で、冷間圧延、連続焼鈍を施し、冷延鋼板とした。冷延鋼板の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)および{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)は、実施例1と同様にして測定し、前記(A)と前記(B)の差の絶対値|(A)−(B)|を求めた。さらに、r値の最大値と最小値との差(最大r値−最小r値)、および平均塑性ひずみ比rmを実施例1と同様にして求めた。
Figure 0005212126
表5および表6から明らかなとおり、本発明の冷延鋼板は、適正な粒界セメンタイト量および固溶Ti濃度を有する熱延鋼板を適正な条件で冷延、焼鈍したものであり、板厚方向中央部の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)および{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)が5以上であり、かつ前記(A)と前記(B)の差の絶対値|(A)−(B)|が4以下であり、平均r値が1.5以上、最大r値と最小r値の差が0.3以下の深絞り性に特に優れた鋼板が得られることがわかる。
一方、製造No.25は、N量が多く、Tiと窒化物を形成し、熱延鋼板の固溶Ti濃度が減少し、冷延鋼板の異方性が大きく、最大r値と最小r値の差および|(A)−(B)|が大きくなった例である。
製造No.20は、巻取温度CTが高く、熱延鋼板にTiCが析出して、粒界セメンタイト量が少なくなり、冷延鋼板のr値の異方性が大きく、最大r値と最小r値の差および|(A)−(B)|が大きくなった例である。
製造No.24は、巻取温度CTが低く、熱延鋼板の粒界セメンタイト量が少なく、粒界セメンタイトのサイズが小さく、熱延鋼板の固溶C量が増加して時効指数AIが高くなり、冷延鋼板の平均r値、(A)および(B)が低く、最大r値と最小r値の差および|(A)−(B)|が大きくなった例である。

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C:0.005%超、0.020%以下、
    Mn:0.05〜1.00%
    を含有し、さらに、
    (4C+0.035)≦Ti≦(4C+0.15)
    を満足するTiを含有し、
    Si:0.5%以下、
    P:0.100%以下、
    S:0.015%以下、
    Al:0.500%以下、
    N:0.010%以下
    に制限し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
    板厚中央部の{111}<112>方位のX線ランダム強度比(A)および{111}<110>方位のX線ランダム強度比(B)がそれぞれ5以上であり、
    前記(A)と前記(B)との差の絶対値が4以下であることを特徴とする深絞り性に優れた冷延鋼板。
  2. Cr、Cu、Niの1種または2種以上を合計で0.3質量%未満含むことを特徴とする請求項1に記載の深絞り性に優れた冷延鋼板。
  3. 質量%で、
    B:0.010%以下
    を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の深絞り性に優れた冷延鋼板。
  4. 圧延方向から圧延方向と垂直な幅方向までの間を5°刻みで測定したランクフォード値の、最大値と最小値との差が0.3以下であり、
    平均塑性ひずみ比rが1.5以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の深絞り性に優れた冷延鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の冷延鋼板の中間素材であって、
    結晶粒界のセメンタイトのサイズが50nm〜2μmであり、
    該セメンタイトの体積分率が0.03〜0.15%であり、
    Tiの固溶濃度が0.04%以上であり、
    時効指数AIが5MPa以下であることを特徴とする熱延鋼板。
  6. 請求項5に記載の熱延鋼板の製造方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載の成分組成を有する鋼片を1200℃以上に加熱し、Ar変態点以上で熱間圧延を終了した後、下記(式1)を満足する冷却速度CR[℃/s]で冷却し、下記(式2)を満足する巻取温度CT[℃]で巻取ることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
    66−200(4C+Ti)≦CR≦122−350(4C+Ti) ・・・(式1)
    400≦CT≦600−250(Ti−48S/32−48N/14)・・・(式2)
    ここで、上記(式1)および/または(式2)におけるC、Ti、S、Nは、各元素の含有量[質量%]である。
  7. 請求項1〜4のいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法であって、請求項6に記載の方法で製造された熱延鋼板を酸洗した後、圧下率70〜90%の冷間圧延を施し、加熱速度3〜50℃/sで最高到達温度700℃以上Ac変態点以下の温度範囲に加熱する焼鈍を行うことを特徴とする深絞り性に優れた冷延鋼板の製造方法。
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