JP4461407B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、硬質被覆層を構成する縦長成長結晶組織の炭窒化チタン層(以下、l−TiCNで示す)が一段とすぐれた耐チッピング性を有し、特に鋼や鋳鉄などの断続切削を高速で行った場合にも、切刃にチッピング(微小欠け)などの発生なく、すぐれた切削性能を長期に亘って発揮する表面被覆超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般に、炭化タングステン基超硬合金基体(以下、超硬基体という)の表面に、
(a) いずれも0.1〜5μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する、炭化チタン(以下、TiCで示す)層、窒化チタン(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)層、酸化チタン(以下、Ti2 O3 で示す)層、炭酸化チタン(以下、TiCOで示す)層、窒酸化チタン(以下、TiNOで示す)層、および炭窒酸化チタン(以下、TiCNOで示す)層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層と、
(b) 2〜15μmの平均層厚のl−TiCN層と、
(c) 0.5〜8μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する酸化アルミニウム(以下、Al2 O3 で示す)層と、
で構成された硬質被覆層を3〜25μmの全体平均層厚で化学蒸着してなる被覆超硬工具が知られており、またこの被覆超硬工具が鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられることも知られている。
また、一般に上記の被覆超硬工具の硬質被覆層を構成するAl2 O3 層として、α型結晶構造をもつものやκ型結晶構造をもつものなどが広く実用に供されることも良く知られており、さらに上記l−TiCN層は、例えば特開平6−8010号公報や特開平7−328808号公報などにより公知であり、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物を含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成されるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年の切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、これの硬質被覆層を構成するl−TiCN層が相対的に良好な靭性を具備することから、これによって硬質被覆層も良好な靭性をもつようになり、通常の条件での連続切削や断続切削では切刃にチッピングなどの発生なく、すぐれた切削性能を発揮するものであるが、切削条件が一段と苛酷になる、断続切削を高速で行った場合には、未だ十分な靭性を具備するものでないために、切刃にチッピングが発生するのが避けられず、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の従来被覆超硬工具の硬質被覆層を構成するl−TiCN層に着目し、これの靭性向上を図るべく研究を行った結果、
l−TiCN層の蒸着形成に際して、上面部形成にTiCl 4 ,N 2 ,CH 3 CN,およびH 2 の構成成分からなる反応ガス、下面部形成にTiCl 4 ,N 2 ,CH 4 ,CH 3 CN,およびH 2 の構成成分からなる反応ガスを用い、上面部形成では反応ガス中のN 2 およびCH 3 CN、下面部形成では反応ガス中のN 2 ,CH 4 およびCH 3 CNの含有割合を経時的に無段階あるいは段階的に変化させることにより、l−TiCN層に、これの下面部から上面部に向かって層厚にそってC成分が低く、N成分が高くなる濃度勾配を付与し、この濃度勾配を、上記上面部および下面部を組成式:TiC1-x Nx で現した場合、原子比で、
上記上面部は、x:0.45〜0.60、
上記下面部は、x:0.05〜0.30、
を満足(この場合CおよびNの下面部から上面部への濃度変化は無段階変化あるいは段階的変化となる)するようにすると、この結果のl−TiCN層(以下、濃度勾配l−TiCN層と云う)は、下面部から上面部までCおよびNに濃度変化のない一様な従来l−TiCN層に比して、すぐれた靭性を具備するようになり、したがって前記濃度勾配l−TiCN層が硬質被覆層を構成する被覆超硬工具は、前記濃度勾配l−TiCN層によって前記硬質被覆層自体の靭性がさらに向上するようになることから、断続切削を高速で行うという、苛酷な切削条件でも切刃にチッピングの発生なく、すぐれた切削性能を発揮するようになるという研究結果を得たのである。
【0005】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(a) いずれも0.1〜5μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する、TiC層、TiN層、TiCN層、Ti2 O3 層、TiCO層、TiNO層、およびTiCNO層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層と、
(b) 2〜15μmの平均層厚のl−TiCN層と、
(c) 0.5〜8μmの平均層厚および粒状結晶組織を有するAl2 O3 層と、
で構成された硬質被覆層を3〜25μmの全体平均層厚で化学蒸着してなる被覆超硬工具において、
上記硬質被覆層を構成するl−TiCN層を、
下面部形成にはTiCl 4 ,N 2 ,CH 4 ,CH 3 CN,およびH 2 の構成成分からなる反応ガス、上面部形成にはTiCl 4 ,N 2 ,CH 3 CN,およびH 2 の構成成分からなる反応ガスを用い、かつ、前記下面部形成には前記反応ガス中のN 2 ,CH 4 ,およびCH 3 CNの含有割合を、また前記上面部形成には前記反応ガス中のN 2 およびCH 3 CNの含有割合を経時的に無段階あるいは段階的に変化させて、下面部から上面部に向かって層厚にそってC成分が低く、N成分が高くなり、かつ、前記CおよびNの濃度が無段階変化または段階変化する濃度勾配を具備せしめると共に、前記これの上面部および下面部を組成式:TiC1-x Nx で現した場合、原子比で、
上記上面部は、x:0.45〜0.60、
上記下面部は、x:0.05〜0.30、
を満足するl−TiCN層で構成してなる、高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
【0006】
なお、この発明の被覆超硬工具の硬質被覆層を構成する濃度勾配l−TiCN層の組成式:TiC1-x Nx において、上記上面部のx値を0.45〜0.60、望ましくは0.50〜0.55、下面部のx値を0.05〜0.30としたのは、上面部のx値が0.45未満になったり、下面部のx値が0.30を越えたりすると、層厚方向のCおよびNの濃度勾配が小さくなって、硬質被覆層が高速断続切削で所望の耐チッピング性を発揮するのに十分な靭性向上効果が得られず、一方上面部のx値が0.60を越えても、高速断続切削での耐チッピング性により一段の向上効果が現われず、また下面部のx値が0.05未満になると、均質な縦長成長結晶組織の安定的形成が損なわれるようになるという理由に基くものである。
【0007】
同じく硬質被覆層を構成するTi化合物層のそれぞれには、構成層相互間の層間密着性を向上させる作用があり、したがってその平均層厚が0.1μm未満では、所望のすぐれた層間密着性を確保することができず、一方その平均層厚が5μmを越えると硬質被覆層の摩耗進行が促進されるようになることから、その平均層厚を0.1〜5μmと定めた。
同じくAl2 O3 層には、硬質被覆層の耐摩耗性を向上させる作用があるが、その平均層厚が0.5μm未満では、所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が8μmを越えると切刃にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜8μmと定めた。
さらに同じく濃度勾配l−TiCN層には、上記の通り高速断続切削で硬質被覆層の耐チッピング性を向上させる作用があるが、その平均層厚が2μm未満では、耐チッピング性に所望の向上効果が得られず、一方その平均層厚が15μmを越えると耐摩耗性が急激に低下するようになることから、その平均層厚を2〜15μmと定めた。
また、硬質被覆層の全体平均層厚を3〜25μmとしたのは、その平均層厚が3μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が25μmを越えると、切刃に欠けやチッピングが発生し易くなるという理由からである。
【0008】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、平均粒径:1.5μm有する細粒WC粉末、3.0μmの中粒WC粉末同1.2μmの(Ti,W)CN(重量比で、以下同じ、TiC/TiN/WC=24/20/56)粉末、同1.3μmの(Ta,Nb)C(TaC/NbC=90/10)粉末、同1μmのCr3 C2 粉末、同1.2μmのVC粉末、および同1.2μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、この混合粉末をISO規格CNMG120408に則した形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を10-3torrの真空雰囲気中、1400〜1460℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結することにより超硬基体A〜Fをそれぞれ製造した。
【0009】
ついで、これらの超硬基体A〜Fの表面に、ホーニング加工を施した状態で、通常の化学蒸着装置を用い、表2、3(表2に示される硬質被覆層の構成層は、いずれも層の下面部から上面部まで構成成分に濃度変化のない一様な組成をもつものであり、またl−TiCN層以外はいずれも粒状結晶組織を有するものである)に示される条件にて、表4、5に示される組成および目標層厚(切刃の逃げ面)の硬質被覆層を形成することにより本発明被覆超硬工具1〜8および従来被覆超硬工具1〜8をそれぞれ製造した。
なお、表4における、例えば本発明被覆超硬工具3の「l−TiCN−カ[2段階]l−TiCN−3(4.0)」は、表3の「下面部・l−TiCN−カ(目標x値:0.30)」の反応ガス組成から「上面部・l−TiCN−3(目標x値:0.55)」の反応ガス組成まで反応ガス中のCH3 CN、またはCH3 CNとCH4 の含有割合を経時的に2段階変化させて4.0μmの目標層厚で濃度勾配l−TiCN層を形成した場合を示すものであり、同じく本発明被覆超硬工具7の「l−TiCN−オ[連続]l−TiCN−4(6.6)」は、「下面部・l−TiCN−オ(目標x値:0.25)」の反応ガス組成から「上面部・l−TiCN−4(目標x値:0.60)」の反応ガス組成まで反応ガス中のCH3 CN、またはCH3 CNとCH4 の含有割合を経時的に無段階で変化させて6.6μmの目標層厚で濃度勾配l−TiCN層を形成した場合を示すものである。
この結果得られた本発明被覆超硬工具1〜8の硬質被覆層を構成す濃度勾配l−TiCN層の上面部および下面部のx値について、それぞれの表面から0.2μm内側をオージェ分光分析器を用いて測定したところ、表3に示される目標x値と実質的に同じx値を示した。また、硬質被覆層を構成する構成層もそれぞれ目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
【0010】
つぎに、上記本発明被覆超硬工具1〜8および従来被覆超硬工具1〜8について、
被削材:SCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:10分、
の条件での合金鋼の乾式高速断続切削試験、並びに、
被削材:FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.32mm/rev、
切削時間:10分、
の条件での球状黒鉛鋳鉄の乾式高速断続切削試験行い、いずれの切削試験でも切刃の最大逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
【0011】
【表1】
【0012】
【表2】
【0013】
【表3】
【0014】
【表4】
【0015】
【表5】
【0016】
【表6】
【0017】
【発明の効果】
表4〜6に示される結果から、硬質被覆層中に濃度勾配l−TiCN層が存在する本発明被覆超硬工具1〜8は、いずれも前記濃度勾配l−TiCN層によって硬質被覆層がすぐれた靭性を具備するようになることから、鋼や鋳鉄の断続切削を高速で行なっても切刃にチッピングの発生なく、すぐれた切削性能を発揮するのに対して、硬質被覆層を構成するl−TiCN層のCおよびNに濃度勾配のない従来被覆超硬工具1〜8においては、上記の高速断続切削では硬質被覆層の靭性不足が原因で切刃にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、これを構成する硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を有するので、例えば鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に断続切削を高速で行なった場合にも、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金基体の表面に、
(a)いずれも0.1〜5μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する、炭化チタン層、窒化チタン層、炭窒化チタン層、酸化チタン層、炭酸化チタン層、窒酸化チタン層、および炭窒酸化チタン層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層、
(b)2〜15μmの平均層厚および縦長成長結晶組織を有する炭窒化チタン層、
(c)0.5〜8μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を3〜25μmの全体平均層厚で化学蒸着してなる表面被覆超硬合金製切削工具において、
上記硬質被覆層を構成する縦長成長結晶組織の炭窒化チタン層を、
下面部形成にはTiCl 4 ,N 2 ,CH 4 ,CH 3 CN,およびH 2 の構成成分からなる反応ガス、上面部形成にはTiCl 4 ,N 2 ,CH 3 CN,およびH 2 の構成成分からなる反応ガスを用い、かつ、前記下面部形成には前記反応ガス中のN 2 ,CH 4 ,およびCH 3 CNの含有割合を、また前記上面部形成には前記反応ガス中のN 2 およびCH 3 CNの含有割合を経時的に無段階あるいは段階的に変化させて、下面部から上面部に向かって層厚にそってC成分が低く、N成分が高くなり、かつ、前記CおよびNの濃度が無段階変化または段階変化する濃度勾配を具備せしめると共に、前記上面部および下面部を組成式:TiC1−XNXで現した場合、原子比で、
上記上面部は、X:0.45〜0.60、
上記下面部は、X:0.05〜0.30、
を満足する縦長成長結晶組織の炭窒化チタン層で構成したことを特徴とする高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具。
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