JP3739787B2 - 広範囲腫瘍抑制遺伝子、遺伝子産物および腫瘍抑制遺伝子治療 - Google Patents

広範囲腫瘍抑制遺伝子、遺伝子産物および腫瘍抑制遺伝子治療 Download PDF

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Description

本発明は一部、国立衛生研究所(NIH)の助成番号EYO6195による、合衆国政府の研究助成を受けて行われたものである。合衆国政府は本発明に対し一定の権利を有する。
1.発明の背景
1.1.発明の分野
本発明は腫瘍抑制遺伝子(抗発がん遺伝子)の分野のものであり、一般的に種々のヒトのがんの広範囲にわたる(広いスペクトルを持つ)腫瘍抑制遺伝子治療を実践するための製品と方法に関するものである。特に、本発明は(1)約94kDの第2のイン−フレーム(読取り枠内)AUGコドンより始まる網膜芽腫タンパク質をコードする核酸配列を含むベクターを投与するか、または(2)この核酸配列によってコードされるタンパク質の有効な量を投与することにより腫瘍細胞を治療する方法に関するものである。
1.2.がん
がんおよび腫瘍は合衆国で二番目に多い死因であり、毎年45万人の死亡の原因となっている。三人に一人のアメリカ人ががんに罹り、五人に一人ががんで死亡する(Scientific American Medicine,part 12,I,1,section dated 1987)。考え得るがんの環境的および遺伝的な原因のいくつかを同定する上でかなりの進歩がみられるものの、がんによる死亡率の統計は、がんおよび関連する疾患および障害の治療に大幅な改善が必要であることを示している。
1.3.がん遺伝子
数多くのいわゆるがん遺伝子、即ちがんの病因に関係あると考えられている遺伝子は、がんの遺伝的な形態について、および数多くのよく研究された腫瘍細胞について同定されている。がん遺伝子の研究は、腫瘍発生の過程のいくつかの理解を提供する助けとなった。がん遺伝子については学ばなければならない多くが残されているが、今日知られているがん遺伝子は腫瘍発生を理解するための有用なモデルとなっている。
がん遺伝子は、活性化されたときに腫瘍発生を促進する“発がん遺伝子(オンコジーン)”、および傷害をうけたときに腫瘍発生を抑制し損なう“腫瘍抑制遺伝子”の二つに大別される。これらの分類は腫瘍発生を概念的に捉える上で有益な方法を提供する一方で、特定の遺伝子は、その遺伝子の特定の対立遺伝子型、その調節要素、遺伝的背景およびその遺伝子の働く組織環境の如何によって異なる役割を演じていることも考えられる。
1.3.1.発がん遺伝子(オンコジーン)
発がん遺伝子は、野生型の対立遺伝子(当業界ではこれら野生型遺伝子をプロトオンコジーンと呼ぶ)が一定の条件下で腫瘍発生を誘導する能力のある形態に変異した体細胞遺伝子である。今日、既知の、および仮定の発がん遺伝子並びにこれらの発がん遺伝子のさまざまな対立遺伝子について数多くの文献がある。背景となる知識、およびさらに本発明の目的を理解するために、代表的な発がん遺伝子について若干の説明を加える。
例えば、発がん遺伝子rasおよびmycは発がんのプロセス一般を理解するためのモデルであると考えられている。発がん遺伝子rasは細胞質タンパク質をコードすると考えられており、発がん遺伝子mycは核タンパク質をコードすると考えられている。rasオンコジーンもmycオンコジーンのいずれも、単独では正常な細胞から腫瘍細胞への完全なトランスフォーメーションを誘導することはできないが、rasおよびmycの両遺伝子が存在し、同一細胞中で共に発現している場合には完全な腫瘍発生が通常みられる(Weinberg,R.A.1989,Cancer Research 49:3713-3721、3713ページ)。このような協働的な効果は、研究されている数多くの他のオンコジーンの間でも観察されている。
オンコジーンによる腫瘍発生の協働的モデルは、正常細胞にとり囲まれている、rasオンコジーンを発現している細胞は、完全なトランスホーメーションを起こさないという観察によって裏付けられなければならない。しかし、もし周囲の細胞の大多数がrasを発現している場合には、rasオンコジーンは単独で、ras発現している細胞における腫瘍発生を十分に誘導することができる。オンコジーンを宿している細胞の組織環境における変化が第2のヒットであると考えられうることから、この観察は、腫瘍発生の多重ヒット説を裏付けるものである。
別の同様に妥当な仮説は、rasやmycなどのオンコジーンの活性化と協働する出来事は、負の調節因子、すなわち腫瘍抑制タンパク質の不活性化を含む(Weinberg,R.A.,1989,Cancer Research 49:3713-3721,at 3713;Goodrich,D.W.and Lee,W-H.,1992,Nature 360:177-179)。
1.3.2.腫瘍抑制遺伝子
腫瘍抑制遺伝子は、その野生型対立遺伝子が細胞の異常増殖を抑制するタンパク質を発現する遺伝子である。腫瘍抑制タンパク質をコードする遺伝子が変異したり、欠失したりすると、その結果生じる変異タンパク質または腫瘍抑制タンパク質の発現の完全な欠如は、特に細胞の調節機構にあらかじめ欠損が生じているような場合には、細胞増殖を正しく調節を行うことができず、異常な細胞増殖が生じうる。数多くのよく研究されたヒトの腫瘍および腫瘍細胞系は、腫瘍抑制遺伝子を欠いていたり、機能を欠いていたりしていることが示されている。以下に限るものではないが腫瘍抑制遺伝子の例として、網膜芽腫感受性遺伝子またはRB遺伝子、p53遺伝子、大腸がん(DCC)に欠失している遺伝子、および神経原線維腫症(neurofibromatosis)I型(NF−1)腫瘍抑制遺伝子(Weinberg,R.A.Sciense,1991,254:1138-1146)などが含まれる。腫瘍抑制遺伝子の機能の逸失または不活性化は、ヒトのがんのかなりの数の発症および/または進行に中心的な役割を呈しているかもしれない。
腫瘍抑制遺伝子の候補リストは大きく、さらに増えている。以下の腫瘍抑制遺伝子に関する議論は、知られている、または候補と考えられている腫瘍抑制遺伝子のすべての対する完全な総説を提供することを意図したものではなく、当業界が、たとえば腫瘍またはがん細胞などの、異常な細胞増殖によって特徴づけられる疾患および障害の有効な遺伝的治療を提供できるようになる前に、当分野の現況および克服すべき問題を示すための基礎として提供するものである。
1.3.2.1.網膜芽腫遺伝子
RB遺伝子はよく研究された腫瘍抑制遺伝子の一つである。RB遺伝子の相補的DNA(cDNA)の約4.7kbという大きさは、この遺伝子の容易な操作を許し、RB遺伝子の数多くの細胞系統への挿入が図られた。RB遺伝子は大多数の網膜芽腫、軟組織および骨の肉腫、並びに***、肺、前立腺および膀胱のがん腫のほぼ20%から40%に欠失しているか欠陥をもつ(Lee,W-H.,et al.,PCT Publ.No.WO 90/05180,at 38および39ページ、Bookstein,R.and Lee,W-H.,1991 Crit.Rev.Oncog.,2:211-217;Benedict,W.F.et al.,J.Clin.In vest.,1990,85:988-993も参照のこと)。
単離したRBcDNAクローンの研究に基づけば、推定されるRB遺伝子産物は928アミノ酸を持ち、予想される分子量は106kD(Lee et al.,1987,Nature,239:642-645)である。予想されるRB遺伝子発現の産物に対応する天然の因子は、見かけの相対分子量110-114kD(Lee et al.,1987,Nature,329:642-645)または110-116kD(Xu et al.,1989,Oncogene,4:807-812)をもつ、核内のリン酸化タンパク質として同定された。したがって、文献上一般的には、RB遺伝子によってコードされるタンパク質はp110RBと呼ばれる。この点に関して、タンパク質の二次構造のためにSDS−PAGEにより相対的な見かけ分子量を測定するのは不正確であることが多いことは指摘しておくべきであろう。したがって、928アミノ酸をもつRBタンパク質の全長は115KD(Yokota et al.,1988,Oncogene,3:471-475)、または105kD(Whyte et al.,1988,Nature,334:124-129)RBタンパク質とも呼ばれる。RB遺伝子の様々な変異が知られている。これらは一般的に不活性である。しかし、p56RBと名付けられる。p110RBと同様の機能をもつと考えられる56kDの切断型(truncated)RBタンパク質は、活性を保持している(Goodrich et al.,1992,Nature 360:177-179)。
SDS−PAGEでは、正常なヒトの細胞は、下方の分子量110kDの明瞭なバンド、および上方の分子量が110kDから116kDにわたって変化する、より幅広いバンドより成るRBタンパク質のパターンを示す。110kDバンドはリン酸化の程度の小さい(underphosphorylated)BRタンパク質である一方、幅広いバンドはリン酸化されたタンパク質である。分子量の不均一性は、リン酸化の程度の違いによって生じる(Xu et al.,1989,Oncogene,4:807-812)。
RBタンパク質はリン酸化の周期的な変化を示す。大部分のRBタンパク質は、G1期の間リン酸化されていないが、SおよびG2期では大部分(恐らくすべて)のRB分子はリン酸化されている(Xu et al.,1989,Oncogene,4:807-812;DeCaprio et al.,1989,Cell,58:1085-1095;Buchkovich et al.,1989,Cell,58:1097-1105;Chen et al.,1989,Cell,58:1193-1198;Mihara et al.,1989,Science,246:1300-1303)。さらに、リン酸化の程度の小さいRBタンパク質のみがSV40のlargeT抗原に結合する。RBタンパク質のlarge T抗原への結合がlarge T抗原の細胞増殖促進作用にとっておそらく重要であることを考えれば、このことはリン酸化の程度の小さいRBタンパク質がRBタンパク質の活性型であり、SおよびG2期のリン酸化RBタンパク質は不活性であることを示唆している(Ludlow et al.,1989,Cell,56:57-65)。
最初のイン−フレームAUGコドンで始まるRBタンパク質は、ここではまた無傷のRB遺伝子、RB110遺伝子またはP110RBコード遺伝子と呼ぶ。さまざまな抗RB抗体に免疫反応性のある、低分子量(<100kD,98kDまたは98-104kD)の未知の起源のバンドが、免疫沈降およびウェスタンブロットによって検出される(Xu et al.,1989,Oncogenes,4:807-812;Furukawa et al.,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,87:2770-2774;Stein et al.,1990,Science,249:666-669)。
RB110cDNAのオープンリーディングフレームの配列(McGee,T.L.,et al.,1989,Gene,80:119-118)は、ヌクレオチド355-357のエクソン3にあるイン−フレームの第2のAUGコドンの存在を明らかにしたことを考慮すれば、推定される第2のAUGコドンに始まったRBタンパク質は、98kDまたはp110RBタンパク質より12kD小さいものとなる。RBmRNAの第2のAUGコドンから翻訳されるRBタンパク質の、リン酸化の程度の小さい(98kD)ものは低分子量バンドであり、リン酸化されたものは98−104kDバンドであることが提唱されている(Xu et al.,1989,Oncogene,4:807-812)が、この仮説を直接に支持するデータはない。したがって、RB遺伝子が第2のイン−フレームAUGコドンから実際に発現していることを確認する決定的な観察はない。さらに、後述の第4.2.1.節の第5図は、起源が未知の98kDのタンパク質バンドと、第2のAUGコドンで始まるタンパク質産物とは同一のものではないことを示すデータを提供している。
機能的なRB110遺伝子のRB−マイナス腫瘍細胞への導入は細胞を“正常化”するであろうことが提唱されている。もちろん、すでに正常なRB110遺伝子の発現をもつ(“RB+”)腫瘍細胞は、追加のRB発現は非−RB遺伝子欠損を正すことはできないと考えられるから、RB110遺伝子治療に応答することは期待されない。実際、正常なp110RBを発現する骨肉腫細胞系である、U−2OSなどのRB+腫瘍細胞系の場合には、余剰のp110RBコード遺伝子の導入は、そのような腫瘍系の新生物を生ずる表現型に変化を与えないことが示されている(Huang et al.,1988,Science,242:1563-1566)。
報告されているただ一つの例外では、知られているRBまたは他のいかなる遺伝的な欠損ももたない正常なヒトの繊維芽細胞への、p110RBをコードするベクターの導入は、細胞増殖の停止をもたらした(WO91/15580,Research Development Foundation,by Fung et al.,1991年4月10日に提出し、1991年10月17日に公表されたPCT出願、18ページ)。しかし、トランスフェクトされたWS1繊維芽細胞へのRB110発現の効果を比較するため宿主細胞に対してよく知られた増殖促進効果をもつSV40T抗原を産生するプラスミドであるppVUO−Neoが不適切に用いられているため、これらの知見が誤って解釈されたと考えられている(Fung et al.,同上、実施例2参照)。この考え方は、RB+腫瘍細胞を野生型のRB110遺伝子の治療によって“治療不能”であることを明確に特徴づける、以下の実施例によって提供される類似した確認データとともに、多くの文献によって確認される。さらに、WS1細胞系はそれ自体、培養中で細胞***能力が限られている、非腫瘍発生性のヒト二倍体繊維芽細胞系であることが一般的に認められている。したがって、WO91/15580はRB110遺伝子によるRB+腫瘍の有効な治療法を何ら提供しないのである。したがって、あらゆるタイプの遺伝的欠損をもつ異常増殖の治療のための、広いスペクトルをもつ腫瘍抑制遺伝子が必要とされる。
1.3.2.2.神経線維腫症遺伝子
神経線維腫症1型またはレックリングハウゼン(Recklinghausen)氏神経線維腫症は、予め処置された変異対立遺伝子または生殖系の新しい変異によって生じた対立遺伝子の遺伝によって生じる(C.J.Marshall,1991,Cell,64,313-326)。NF1遺伝子と呼ばれる神経線維腫症1型遺伝子は、突然変異率がおよそ10-4である比較的大きな領域である。NF1遺伝子の欠損によって、カフェオーレ斑点から皮膚および辺縁神経の神経線維腫から神経鞘腫および神経線維肉腫にいたるさまざまな臨床症候群をもたらす。
NF1遺伝子は、rasプロトオンコジーンの産物と相互作用する三つのタンパク質と構造上の類似性をもつ、2458アミノ酸より成るタンパク質をコードする(Weinberg et al.,1991,Science,254:1138-1146,1141ページ)。たとえばNF1アミノ酸配列は、p21rasに対するGTPアーゼ−活性化タンパク質であるrasGAPの触媒領域と配列の相同性を示す(C.J.Marshall,1991,Cell,64:313-326,320および321ページ)。
細胞周期の調節におけるNF1の役割は、いまだ十分に解明されていない複雑なものであるとみられる。たとえば、それは酵母において腫瘍発生的に活性化されたp21rasのサプレッサーであるという仮説が出されている(C.J.Marshall,1991,Cell,64:313-326(320から321ページにかけて),およびBallester et al.,1990,Cell,63:851-859に引用)。その一方で、現在利用できるデータから他のNF1相互作用の可能な経路が示唆されている(C.J.Marshall,1991,Cell,64:313-326,321ページ;Weinberg et al.,1991,Science,254:1138-1146,1141ページ)。
現在のところ、NF1座の大きさと複雑さのために野生型のNF1遺伝子によってNF1細胞を治療する企てはまだ試みられていない。したがって、NF1および他のさまざまなタイプのがんまたは腫瘍を治療するための広いスペクトルをもつ腫瘍抑制遺伝子を手に入れることが強く望まれる。
1.3.3.3.p53遺伝子
p53遺伝子の体細胞変異は、ヒトのがんで最も頻繁に変異する遺伝子であると言われる(Weinberg et al.,1991,Science,254:1138-1146,1143ページ)。正常または野生型のp53遺伝子は細胞増殖の負の調節因子であり、これが損傷をうけると、細胞のトランスホーメーションを助ける(Weinberg et al.上述)。RBタンパク質について述べたように、p53の発現産物は核の中に見出され、そこでp110RBと並行し、あるいは協働的に働く。これは例えば、p53およびp110RBタンパク質が結合の標的となるか、またはSV40、アデノウイルスおよびヒトパピローマウイルスの発がん性タンパク質による破壊などの数多くの観察によって示唆される。
p53を欠失した腫瘍細胞系を野生型のp53ベクターによって処理することにより、腫瘍発生を減少させるのに成功した(Baker,S.J.et al.,1990,Science,249:912-915)。しかし、p53またはRB110の、これらの座がまだ欠失していない細胞への導入は、細胞の増殖に影響を与えない(Marshall,C.J.,1991,Cell,64:313-326,321ページ;Baker,S.J.,et al.,1990,Science,249:912-915);Huang,H-J,S.,et al.,1988,Science,242:1563-1566)。腫瘍抑制遺伝子による細胞増殖の抑制に対する細胞の感受性を示唆するそのような実験は、細胞内に生じた遺伝的変化によって左右される。そのような依存性は、ある種のがんではrasオンコジーンの変異による活性化の後に出現するp53腫瘍抑制因子または遺伝子座の変化があるという観察によって、さらに複雑なものとなる(Marshall,C.J.,1991,Cell,64:313-326;Fearon,E.R.,and Vogelstein,B.,1990,Cell,61:759-767)。
したがって、異常な細胞増殖をひき起こすそれぞれの変異遺伝子を特異的に同定することに依存しない広いスペクトルをもつ腫瘍抑制遺伝子への必要性が残される。
1.3.3.4.結腸に欠失したがん遺伝子(DCC)
結腸がんの腫瘍発生の多重段階は、結腸検鏡によりその進行が容易に監視される。関与する組織のバイオプシーと結腸検鏡との組合せは、悪性腫瘍へとつながる数多くの遺伝子変性の経路を明らかにした。一つのよく研究された経路は、60%の細胞がK−rasの変異し、活性化した対立遺伝子をもつ大きなポリープに始まる。これらの腫瘍の多くは、結腸に欠失したがん(DCC)遺伝子と呼ばれる遺伝子の不活性化−変異へと進行し、p53腫瘍抑制遺伝子の不活性化がこれに続く。
DCC遺伝子は、レセプターであると考えられている。(Weinberg et al.,1991,Science,254:1138-1146;1141ページ)190kDの膜を貫通するリン酸化タンパク質をコードする約100万の塩基対以上の遺伝子であり、この欠損は、欠損した細胞の増殖を有利にさせる。またDCCは、神経細胞接着分子と部分的な相同性をもつ(Marshall,1991,Cell,64:313-326)ことが知られており、これはDCCプロト遺伝子が細胞と細胞との相互作用の調節にある役割を果たしていることを示唆するのかもしれない。
K−ras,p53および結腸がんの腫瘍発生に関係するとみられる他の遺伝子の複雑さとともに、DCC遺伝子のサイズの大きさおよび複雑さは、広いスペクトルをもった腫瘍抑制遺伝子、およびDCC遺伝子の操作または結腸がん細胞中で特異的な損傷をうけた他の遺伝子の同定に依存しない結腸がん細胞の治療法を必要としていることを示していることが理解されるであろう。
1.4.遺伝的治療:遺伝子転移法
遺伝子転移によるヒトの疾患の治療は、今や理論の段階から実践の段階へと移行している。ヒトの遺伝子治療の最初の試みは1990年の9月に始まり、免疫不全を生む、アデノシンデアミナーゼの致命的な欠損をもつ患者の白血球に、アデノシンデアミナーゼ(ADA)遺伝子を転移させるものであった。このはじめての試みの結果はきわめて期待のもてるものであり、いっそうの臨床的試験を刺激するきっかけとなった(Culver,K.W.,Anderson,W.F.,Blaese,R.M.,Hum.Gene Ther.1991,2:107)。
ただ一例を除き、ヒトにおけるすべての認可された遺伝子転移は遺伝子導入のためのレトロウイルスベクターを用いるものである。この文脈におけるレトロウイルスとは、すべてのウイルス遺伝子が除去されたかあるいは変化して、このベクターによって感染をうけた細胞中でウイルスタンパク質がつくられなくなったものである。ウイルスの複製機能は、すべてのウイルスタンパク質を生産するが感染性のウイルスを生じさせない、レトロウイルスの“パッケージング”細胞を用いることによって提供される。レトロウイルスベクターDNAのパッケージング細胞への導入は、ベクターRNAをもつビリオンの産生をもたらし、標的細胞を感染させることができるが、感染後、それ以上のウイルスの拡散は起こらない。このプロセスを、ウイルスが複製し伝播する通常のウイルス感染と区別するために、しばしば感染の代わりに導入という用語が用いられる。
遺伝子治療に対するレトロウイルスベクターの主な利点は、複製中の細胞への遺伝子転移の高い効率、転移したDNAの細胞のDNAへの正確な組み込み、および遺伝子導入の後の、導入した配列の拡散の欠如などである(Miller,A.D.Nature,1992,357:455-460)。
レトロウイルスベクターの生産の間に、複製能力のある(ヘルパー)ウイルスが生産される可能性は、実用的な目的のためには、この問題は解決されたとはいえ懸念の対象として残る。今のところ、すべてのFDA認可のレトロウイルスベクターは両性(amphofropic)のPA317レトロウイルスパッケーシング細胞を用いてつくられる(Miller,A.D.,and Buttimore,C.,Molec.Cell Biol.,1986,6:2895-2902)。PA317細胞内でウイルス配列とごくわずかしか重複しないかまったく重複をもたないベクターを使用すると、そのような現象の増幅を許す厳格な検定によってもヘルパーウイルスの生産を排除する(Lynch,C.M.,and Miller,A.D.,J.Viral,1991,65:3887-3890)。他のパッケージング細胞も利用できる。たとえば、異なるレトロウイルスのコード領域を異なるプラスミドへと分離するために設計された細胞系は、組換えによるヘルパーウイルスの生産の可能性を減少させる。そのようなパッケージ細胞系列によって生産されるベクターはまた、ヒトの遺伝子治療の有効な系を提供する(Miller,A.D.,1992,Nature,357:455-460)。
非レトロウイルスベクターを遺伝子治療に用いることが考慮された。そのような例の一つがアデノウイルスである(Rosenfeld,M.A.et al.,1992,Cell,68:143-155,Jaffe,H.A.et al.,1992,Nature Genetics 1:372-378;Lemarchand,P.et al.,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89:6482-6486)。アデノウイルスベクターの主な利点はこれがDNAの大きな断片(36kDゲノム)を運ぶ能力をもつこと、きわめて高い力価(1011ml-1)、非複製細胞に感染する能力、in situで組織、とりわけ肺の感染に適していることなどである。これまでで最も注目すべきこのベクターの使用は、Cottonラットの気道表皮に対し、ヒトの嚢胞性線維症の膜貫通伝導調節因子(CFTR)遺伝子を気管内点滴注入によって投与したことである(Rosenfeld,M.A.,et al.,Cell,1992,63:143-155)。同様に、ヘルペスウイルスもまたヒトの遺伝子治療に有益であり得る(Wolfe,J.H.,et al.,1992,Nature Genetics,1:379-384)。当然ながら、他のいかなる適当なウイルスベクターを本発明に関する遺伝子治療に用いてもよい。
ヒトにおける使用についてFDAによって認可された他の遺伝子転移の方法は、in situにおけるヒトの細胞に、リポソーム中のプラスミドDNAを直接転移することである(Nabel,E.G,et al.,1990,Science,249:1285-1288)。プラスミドDNAは、レトロウイルスベクターとはちがって、均一なものとして精製できるので、ヒトの遺伝子治療の使用に適していることを容易に確認できるはずである。リポソームで媒介されるDNA転移に加えて、プラスミドDNAとタンパク質の複合体をつくり、細胞のレセプターにDNAを命中させるような他のいくつかの物理的なDNAの転移方法は、ヒトの遺伝子治療に有望であることを示している(Wu,G.Y.et al.,1991,J.Biol.Chem.,266:14338-14342;Curiel,D.T.,et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:8850-8854)。
1.5.がんの遺伝子治療のための戦略
ある種の腫瘍細胞は正常細胞と融合させたときに正常な機能に復帰することが観察されており、これは、野生型の腫瘍抑制遺伝子発現産物などの欠失因子の置換が、腫瘍細胞の正常な状態への復帰に役立っていることを示唆している(Weinberg R.A.による総説、1989,Cancer Research 49:3713-3721,3717ページ)。
これらの観察は、腫瘍抑制遺伝子に欠損のある腫瘍細胞の遺伝子治療を提供することを目指した研究へと結びついていた。提案された方法は、損傷をうけた腫瘍抑制遺伝子の同定、および遺伝子産物を発現することのできるレトロウイルスなどのベクターを介して、障害をもつ腫瘍細胞に対応する損傷を受けていない遺伝子(プロモーターおよび完全なコード配列を含む)を導入することを必要とする。とり込まれた機能的遺伝子は、標的細胞を非悪性の状態に転換させることが主張されている。
たとえば、特許協力条約による特許出願(Lee et al.,1989年10月30日付で国際出願が行われ、1990年5月17日に公開されたWO90/05180)中のカリフォルニア大学の試薬は、不活性または欠損腫瘍抑制遺伝子を同定し、次いでそのような欠損遺伝子を機能的に等価な遺伝子で置き換えるための方法を開示している。とくに、WO90/05180出願で、in vitroの研究に基づいて、腫瘍細胞を非悪性にするために、レトロウイルスベクターを用いて機能的なRB110遺伝子をRBマイナス腫瘍細胞に挿入することを提示している。
それに加え、国際出願WO89/06703(Dryja et alによる、1989年1月23日の国際出願日をもち、1989年6月27日に公開されたもの)は網膜芽腫遺伝子発現産物の投与による網膜芽腫欠損腫瘍の治療を提示している。
この関連において、RB110遺伝子のRBマイナスの網膜芽腫、骨肉腫、膀胱、および前立腺がん細胞への導入がヌードマウスにおける腫瘍発生の低下を示すが、おそらく細胞の増殖速度の低下を示さない細胞を生じさせる。結果は親細胞系によって変動した(Goodrich et al.,1992,Cancer Research,52:1968-1973;Banerjee,A,.et al.,1992,Cancer Research,52:6297-6304;Takahashi,R.et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:5257-5261;Xu,H-J.,et al.,1991,Cancer Research.,51:4481-4485;Bookstein et al.,1990,Science,247,712-715;Huang,H-J.S.,et al.,1988,Science 242,1563-1566)。しかしながら、p110RBをコードする遺伝子のRBマイナス腫瘍細胞への導入による腫瘍発生の抑制は不完全である。p110RBで再構成した腫瘍細胞は、ヌードマウスにおいて侵入的な腫瘍を依然として形成した(Xu,H-J.et al.,1991,Cancer Research,51:4481-4485;Takahashi,R.et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:5257-5261;Banerjee,A.et al.,1992,Cancer Research,52:6297-6304)。とくに、orthotopic部位(この場合は眼)に対して接種したp110RBで再構成した網膜芽腫細胞は、一貫して腫瘍を生じたことが示されている(Xu,H-J.et al.,1991,Cancer Research,51:4481-4485)。後に詳細に論ずるこれらの知見は、これまで考えてきた腫瘍抑制遺伝子置換治療は、細胞が単に“治癒”したような外観を呈するにすぎない結果を生むのかもしれないことを警告している。確かに、Xu et al.の知見は、これらの短所を避けた腫瘍に対する改善した遺伝子治療を必要としていることを示している。
遺伝子療法によってがんを治療するもう一つの提案された療法は、オンコジーンに対して逆向きのヌクレオチド配列を持つように構築した人工的な遺伝子を腫瘍細胞中に置くことによる、オンコジーンの機能に拮抗させることである(米国特許4,740,463,Weinberg et al.により1988年4月26日に公表された)。
提案されたこれらすべての解決策は、治療に先立って治療すべき腫瘍の特異的遺伝的欠損を同定する必要があるという欠点を共有する。
p110RBタンパク質産物はリン酸化の程度が小さい状態で活性があり(さきに詳細に論じた)、リン酸化アミノ酸の分析は、RBタンパク質中、ホスホチロシンではなくホスホセリンおよびホスホスレオニンのみを示したので(Shew,J-Y.et al.,1989,Oncogene Research,1:205-213)、セリンまたはスレオニン残基をアラニンまたはバリンで置換した変異RBタンパク質をつくること、またそのような変異体の非リン酸化RBタンパク質の標的細胞への導入は増殖の阻止をもたらすかもしれないことが提案された(Fung et al.による国際出願WO91/15580,Research Development Foundation 20ページ)。残念ながら、分析を行ったすべての場合について、点突然変異をもち、非リン酸化状態を保っているヒトRBタンパク質は一貫して不活性なタンパク質であり、腫瘍の抑制よりむしろ腫瘍発生と結びついていた(Templeton et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.,UAS 88:3033-3037)。
1.6.腫瘍抑制遺伝子耐性
上記の腫瘍細胞における遺伝子変異の議論が示すように、遺伝子のサイズまたは複雑さまたは他の理由のために、すべてのがん遺伝子が野生型遺伝子置換療法の適当な候補となるわけではない。網膜芽腫遺伝子は、容易に研究対象とすることのできる腫瘍抑制遺伝子の一つであり、これまでに知られたがん遺伝子置換療法の他の欠点のいくつかを理解するためのモデルとなる。
網膜芽腫瘍抑制遺伝子のRB−欠損腫瘍細胞への再導入は腫瘍細胞の増殖を阻害し、標的細胞の新生物的表現型を抑制することが知られている(上に引用したWO90/05180,Huang et al.,1988,Science,242:1563-1566;Bookstein et al.,1990,Science,247:712-715;Xu et al.,1991,Cancer Res.51:4481-4485;Takahashi et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:5257-5261;Goodrich et al.,1992,Cancer Res.,52:1968-1973;Banerjee et al.,1992,Cancer Res.,52:6297-6304)。
しかしながら、腫瘍発生の抑制はしばしば不完全である。RB−再構成腫瘍細胞のかなりのパーセンテージが、ヌードマウスの腫瘍発生アッセイにおいて、長い潜伏期の後に小さな腫瘍を依然として形成する。このような腫瘍は、正常なRB発現を保持しているものの、組織学的に悪性であり侵入性である(Xu et al.,1991,Cancer Res.,51:4481-4485;Takahashi et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:5257-5261;Banerjee et al.,1992,Cancer Res.,52:6297-6304)。
さらに、そのようなRB−陽性の腫瘍から由来するいくつかの細胞系はきわめて腫瘍発生性となり、ヌードマウスに注射すると大きな、進行的に成長する腫瘍を形成することが観察されている(Zhou,Y.,Li,J.,Xu,K.,Hu,S-X.,Benedict,W.F.,and Xu,H-J.,Proc.Am.Assoc Cancer Res.,34:3214,1993)。ここで腫瘍抑制遺伝子耐性(TSGR)と呼ぶこの現象は、ヒトのがんの遺伝子治療のいかなる方法を成功させるためにも深刻な障害となる。
TSGR現象の特定の仮説または説明に縛られることなしに、RB遺伝子産物はTSGRの可能な説明を与える好例となる。RBタンパク質は活性型(リン酸化の程度の小さいタンパク質)および非活性型(リン酸化タンパク質)をもつ。したがってRB−陽性の腫瘍細胞はRBタンパク質をリン酸化して不活性な状態にし、腫瘍細胞の増殖が続行することを許す能力を遺伝したかまたは獲得したのかもしれない。したがって、RB−マイナスの細胞を、p110RBタンパク質をコードするプラスミドまたはウイルスベクターに転換することは、単に不完全な抑制、又は、p110RBタンパク質は標的細胞の一部の細胞中ではリン酸化され、不活性化されたままで残るために、悪性細胞のパーセンテージが上昇しさえする結果を招く。
あるいは、RB110遺伝子を発現している腫瘍細胞は、単にRB110遺伝子をその後の細胞***中の変異によって再び不活性化したのかもしれない(Lee et al.,1990,Immunol.Ser.51:169-200,188ページ)。このために、さらなる変異と悪性の復活の可能性を避けるための、遺伝療法による腫瘍細胞の治療の方法への必要が残される。
1.7.がん遺伝子療法への障害の要約
簡単に言って、腫瘍細胞に対する腫瘍抑制遺伝子療法の実用化を達成するために克服しなければならない少なくも三つの大きな障害がある。
1)特定の腫瘍の遺伝子療法を企てる前に、欠損のある各腫瘍抑制遺伝子またはオンコジーンを同定し、配列を決定する必要性。これは研究されている多くの腫瘍細胞に多重の遺伝的な欠損が見出されることを考えると、とくに問題である。
2)ある種の腫瘍抑制遺伝子またはオンコジーンのサイズと複雑さが、これらの遺伝子のあるものの操作を困難にしている。および、
3)RB110モデル系に対して上に述べたTSGRが、はじめの異常細胞が持っていたと同等またはそれ以上の機能障害をもつ腫瘍細胞を生じさせる可能性。
したがって、これらの問題を安全に克服し、治療を行うそれぞれの腫瘍細胞の正確な遺伝的欠損を明らかにすることなしに、またTSGRの復活およびがんの悪化という危険を冒さずに、すべてのタイプの腫瘍細胞に有効な治療を提供する、腫瘍またはがん細胞のための遺伝子療法に対する必要が当業界にはある。
2.発明の要約
がんの腫瘍抑制遺伝子療法の実践を成功させるための障害が本発明によって避けられる。まったく予期せぬ驚くべき発見のなかで、第2のイン−フレームのAUGコドンで始まる約94kD(p94RB)の網膜芽腫抑制タンパク質は広いスペクトルをもつ腫瘍抑制因子であること、また、このタンパク質を発現することのできる遺伝子またはタンパク質自体をがんまたは腫瘍細胞などの異常に増殖する細胞に挿入することは、このような細胞を衰弱状態に入らせ、増殖の停止を引き起こすことが明らかにされた。このような処理を受けた細胞は単に複製を止め、そして死ぬ。細胞は既知または未知の何らかの遺伝的欠損を持つかもしれないので、異常な増殖と結びついた遺伝的欠損の正確な性質を明らかにする必要はない。さらに、治療をうけた細胞集団は、他の腫瘍抑制遺伝子による治療をうけた細胞にくらべてTSGRの再生およびがんの悪化の事例が期待できないほどに大きい。この方法は必要に応じてくり返される。
したがって、本発明は、p94KBをコードするベクターおよびp94KBタンパク質の、腫瘍またはがんの治療への使用と、治療の方法に用いるのに適当なp94KBタンパク質の調製法を提供するものである。
本発明はまた、ヒトなどの哺乳動物に対する治療の方法とともに、がんまたは腫瘍細胞などの異常増殖をみせる細胞の治療方法を提供する。広い意味で、本発明は異常に増殖する細胞または異常に増殖する細胞によって特徴づけられる疾病をもつ哺乳動物を、宿主と共存しうるp94RBをコードするベクターまたはp94KBタンパク質が治療されるべき細胞に入り、増殖の抑制を達成することを許すことが知られている適当な方法のいずれによる治療をも含む。
一つの態様において、本発明は、異常に増殖する細胞により特徴付けられる疾病を有する哺乳動物にp94RBをコードする発現ベクターを投与して、前記発現ベクターを前記の異常に増殖する細胞に挿入し、そして前記の異常に増殖する細胞において、この異常に増殖する細胞の増殖を抑制するのに有効な量でp94RBを発現させることにより、哺乳動物における異常な細胞増殖により特徴付けられる疾病を治療する方法を含む。異常に増殖する細胞に対し、発現ベクターは、ウイルスの感染または形質導入リポソーム媒介トランスフェクション、ポリブレン(polybrene)媒介トランスフェクション、CaPO4媒介トランスフェクションおよびエレクトロポレーションによって挿入される。必要に応じてこの治療は繰り返される。
別の態様では、本発明は、異常に増殖する細胞にp94RBをコードする発現ベクターを挿入し、そこでこれらの細胞の増殖を抑制するのに有効な量のp94RBを発現させることにより、哺乳動物の異常に増殖する細胞を処理する方法を含む。必要に応じてこの処理は繰り返される。
さらに別の態様では、本発明は異常に増殖する細胞の生育を抑制することのできるDNA分子を提供する。DNA分子は、このDNA分子がp110RBタンパク質をもコードしないという条件で、配列番号3に実質的に従ったアミノ酸配列をもつp94RBタンパク質をコードする。より望ましい態様では、このDNA分子は配列番号1のDNA配列をもち、発現ベクターによって発現をうける。発現ベクターは宿主細胞と共存できるどのようなベクターでもよい。ベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびヘルペスウイルスベクターから成る群から選ばれるのが望ましい。
さらに別の態様では、本発明は配列番号3に実質的に従うアミノ酸配列をもつp94RBタンパク質を提供する。
さらに別の態様では、本発明は、p94RBタンパク質をコードする遺伝子を含む宿主と共存できる発現ベクターを宿主細胞に挿入し、宿主細胞にp94RBの発現を行わせるという段階を含む、p94RBタンパク質の製造の方法を提供する。
さらに別の態様では、本発明は、哺乳動物から治療を必要とする組織の標本を除去し、但し、その組織標本は異常に増殖する細胞を含むものであり、処理を必要とする組織標本を有効な投与量のp94RBをコードする発現ベクターと接触させ、p94RBを異常に増殖する細胞中で、異常な細胞増殖を抑制するのに有効な量を発現させる諸段階を含む過程により、哺乳動物の異常に増殖する細胞をex vivoで処理する方法を含む。この処理は必要に応じて繰り返される。また、処理を施された組織標本は組織の起源である哺乳動物個体または他の個体の体内へと戻される。ex vivoで処理を施されるのに望ましい組織は血液または骨髄組織である。
さらに別の態様では、本発明は、細胞の異常な増殖を抑制するのに有効な量のp94RBタンパク質を、異常に増殖する細胞に挿入するような、異常に増殖する細胞によって特徴づけられる疾病をもつ哺乳動物にp94RBタンパク質を投与する過程を含む工程によって、哺乳動物における異常な細胞増殖によって特徴づけられる疾病を治療する方法を含む。望ましい態様においては、処理すべき細胞への挿入のために、p94RBはリポソーム内に封入されている。この処理は必要に応じて繰り返される。
さらに別の態様では、本発明は組織標本が異常に増殖する細胞より成る、処理を必要とする組織標本を哺乳動物からとりだし、処理を必要とする組織標本を有効な量のp94RBタンパク質に接触させる過程を含む工程により、哺乳動物の異常に増殖する細胞をex vivoで処理する方法を含む。この処理は必要に応じて繰り返される。次いで処理を施された組織は組織が由来した哺乳動物個体または他の個体の体内に戻される。
より望ましい態様では、処理される腫瘍またはがん細胞は、一つまたはそれ以上の遺伝的に欠陥のある腫瘍抑制遺伝子をもつ細胞であり、またオンコジーンは、RB、p53、c−myc、N−rasおよびc−yes−1遺伝子から成る群から選ばれる。
より望ましい態様では、腫瘍またはがん細胞は、RB遺伝子およびp53遺伝子から成る群から選ばれた腫瘍抑制遺伝子の検出されうる遺伝的欠損をもたない細胞である。
さらにより望ましい態様では、腫瘍またはがん細胞は肺がん細胞である。
さらに望ましい態様では、p94RBをコードする発現ベクターまたはp94RBタンパク質は、治療を必要とする肺に対し、リポソームに封入したp94RBをコードする発現ベクターまたはp94RBタンパク質のエアゾルの手段によって投与する。
3.発明の詳細な説明
3.1 定義
“癌”または“腫瘍”という用語は、抑制されない異常な細胞増殖を示す細胞によって特徴付けられる無数の疾病を包含する臨床上の記載用語である。“腫瘍”という用語が組織に適用される場合には、一般に、あらゆる異常な組織成長、すなわち、過度の異常な細胞増殖のことをいう。腫瘍は、“良性”でその最初の病巣から広がることができなくても、あるいは、“悪性”でその解剖組織上の部位を越えて他の領域へ宿主体じゅうくまなく広がることができてもよい。“癌”という用語は、悪性腫瘍またはそれから生じる病態を記載するために一般に使用される古い用語である。あるいはまた、当業界では、異常増殖のことを新生物といい、悪性の異常増殖のことを悪性新生物といったりする。
増殖が悪性または良性のいずれに分類されるかに関わらず、腫瘍または癌細胞の過度のあるいは異常な細胞増殖の原因は完全には明らかになっていない。にもかかわらず、異常な細胞増殖は、細胞増殖および***を制御する機構のひとつあるいはそれ以上が働かなくなった結果であるという説得力のある証拠がある。また、今では、細胞増殖および***を制御する機構には細胞増殖、有糸***および分化の遺伝子的および組織仲介調節が含まれると考えられている。これらの機構は、各細胞の細胞核、細胞質、細胞膜および組織特異的環境において働くと考えられている。ある細胞が正常な状態から過度のあるいは異常な細胞増殖の状態にトランスフォーメーションする過程は腫瘍発生と呼ばれる。
腫瘍発生は、通常、正常な細胞状態から、ある場合には、完全な悪性への多工程の進行であることが観察されている。従って、完全な悪性に進展するためには、細胞調節機構への多数の“当たり(hits)”が必要であると考えられている。かくして、多くの場合、過度の増殖のたった一つの原因というものはなく、そういった疾患は一連の累積する事象の最終結果であると考えられている。
身体じゅうくまなく抑制されずに迅速に広がることができる悪性腫瘍すなわち癌は、最も恐れられ、通常致命的なタイプの腫瘍であるが、いわゆる良性な腫瘍または増殖でさえ、不適当に増殖すれば、著しい罹患率および死亡率をもたらすことがある。良性腫瘍は、美容上影響されやすい領域に不適当に増殖したり、中枢または末梢神経組織、血管および他の臨床解剖組織上の構造に圧力を加えることにより、著しい損傷を与えたり、外観を損なうことがある。
広域腫瘍サプレッサー遺伝子(broad-spectrum tumor suppressor gene)は、異常に増殖している宿主細胞、例えば、腫瘍細胞に挿入されて発現したときに、異常な増殖の原因に関わらず、その細胞の異常な増殖を抑制するタンパク質をコードする遺伝子配列である。ここで開示されている第2のフレーム内AUG(DNAではATG)コドン開始網膜芽細胞腫遺伝子はそのような広域腫瘍サプレッサー遺伝子の例であり、ここではp94RBコーディング遺伝子、RB94遺伝子またはpRB94をコードするDNA分子と称される。網膜芽細胞腫罹病性遺伝子のヌクレオチド配列(McGee,T.L.ら,1989,Gene,80:119-128)によれば、p94RBコーディング遺伝子はエキソン3、ヌクレオチド355からエキソン27、ヌクレオチド264までのヌクレオチド配列を含む。従って、p94RBをコードする遺伝子は、当然、RB94遺伝子上流のその部分を第2のフレーム内AUG出発コドンから排除していることになる。図1A-1Fは、ATGコドンがその図のヌクレオチド19で始まっているRB94遺伝子のDNA配列(配列番号1、配列番号2)を示す。
広域腫瘍サプレッサータンパク質(リンタンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質および他のタンパク質をベースとする誘導体を含む。)は、異常に増殖している細胞に注入され、吸収され、あるいは、発現されたときに、異常な細胞増殖を減少させるか、または、完全に抑制する物質である。ここで開示されている第2のフレーム内のAUGコドン開始網膜芽細胞腫遺伝子により発現されるタンパク質は、そのような広域腫瘍サプレッサータンパク質の例である。それは、約94kD相対分子質量のリンタンパク質であり、ここではp94RB(配列番号3)とも称される。
当業者は、腫瘍サプレッサータンパク質の他のフラグメント、例えば、それぞれ、約90kDおよび83kDの第3または第4のAUGコドン開始網膜芽細胞腫タンパク質も異常な細胞増殖を抑制する性質を有するか否かを決定することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
図1A-1F:94kDの治療力のあるRBタンパク質をコードするcDNAフラグメントのヌクレオチド配列(プラス鎖は配列番号1、マイナス鎖は配列番号2)。
図2A-2F:94kDaの治療力のあるRBタンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)。
図3:94kDaの治療力のあるRBタンパク質合成のためのバキュロウイルス発現ベクターの構築。★R.S.は組換え配列。
図4Aおよび4B:昆虫細胞における組換え体バキュロウイルス産生p110RBおよびp94RBの細胞内局在化。図4Aは偽感染(mock-infected)Sf9細胞を示す。図4Bはp110RBを産生する細胞を示し、図4Cはp94RBを産生する細胞を示す。図4Bおよび4Cにおいて、タンパク質が核に局在化していることに注意されたい。タンパク質の位置測定は抗RB免疫化学染色による。
図5:バキュロウイルスで発現され、次いで精製されたp110RBおよびp94RBタンパク質とSV40 T抗原との複合体形成の図。免疫親和性クロマトグラフィー精製タンパク質を等量のT抗原と混合し、その混合物のアリコートをPAB419抗T抗体で免疫沈降させ、次いでウェスタンブロッティングを行った。そのブロットをMAb-l抗RB抗体およびPAB419抗体とともに順次インキュベーションした。レーン1、T抗原不死化W138 VA13繊維芽細胞のライゼートをコントロールとして用いた;レーン2、精製p110RB;レーン3、T-Agとp110RBとの共沈;レーン4、精製p94RB;レーン5、T-Agとp94RBとの共沈。
図6Aおよび6B:サイトメガロウイルスプロモーター/エンハンサーを用いた、ヒト細胞でのp110RB(pCMV-f-RB35)およびp94RB(pCMV-s-RB42)タンパク質の高レベル発現のための組換えプラスミドの構築。図6Aはp110RBコーディングcDNAの説明図である。図6Bは、pCMV-f-RB35がp110RBをコードし、pCMV-s-RB42がp94RBをコードしているp110RBおよびp94RB発現プラスミドの地図を提供している。pCMV-s-RB42が、第2のATGの上流を削除したp110RBコーディング領域の大半を有していることに注意されたい。
図7Aおよび7B:β−アクチンプロモーターを用いた、ヒト細胞でのp110RB(pβA-f-RB33)およびp94RB(pβA-s-RB34)タンパク質の発現のための組換えプラスミドの構築。図Aはp110RBコーディングプラスミドpβA-f-RB33の地図である。図Bは、p94RBコーディングプラスミドpβA-s-RB34の地図である。pβA-s-RB34が、第2のATGの上流を削除したp110RBコーディング領域の大半を有していることに注意されたい。
図8A、8Bおよび8C:RB欠損膀胱癌セルライン5637(ATCC HTB9)に対するp110RBおよびp94RB発現の形態学的効果。図8Aは偽トランスフェクションされた(mock-transfected)HTB9細胞である。図8Bはp110RBを発現するHTB9トランスフェクタントである。図8Cはp94RBを発現するHTB9トランスフェクタントである。矢印はRB陽性の免疫染色された細胞についての例を示す。図8Bのp110RBを発現する細胞が正常であるように見えるが、図8Cのp94RBを発現する細胞が老化していることに注意されたい。
図9:RB再構築された膀胱癌セルライン5637におけるp110RBおよびp94RBタンパク質の半減期分析。この膀胱腫瘍細胞はマルチ皿にてp110RB(pβA-f-RB33)またはp94RB(pβA-s-RB34)発現プラスミドのいずれかでトランスフェクションされた。トランスフェクションの24時間後、細胞を[35S]-メチオニンで標識し、過剰の非標識メチオニンで、0、6、12および24時間後に、それぞれ、追跡した。p110RBおよびp94RBタンパク質は免疫沈降で測定した。図の左側(0〜12時間)はp110RBの半減期が6時間より短いことを示している。図の右側(0〜24時間)はp94RBの半減期が約12時間であることを示している。
図10:p94RBタンパク質の明らかな低リン酸化(underphosphorylation)状態を示す一過性にトランスフェクションされた5637細胞における外因性p110RBおよびp94RBタンパク質のウェスタンブロット分析。レーン1は正常ヒト繊維芽細胞セルラインWI-38を示す。レーン2は親のRBマイナス膀胱癌セルライン5637を示す。レーン3はp110RBを発現するプラスミドでトランスフェクションされた5637細胞を示す。レーン4はp94RBを発現するプラスミドでトランスフェクションされた5637細胞を示す。
図11A-11C:正常(非腫瘍形成性の)マウス繊維芽細胞における、レトロウイルスプラスミドベクターを経由する、ヒト完全長RBタンパク質p110RB(図11B)および広域腫瘍サプレッサータンパク質p94RB(図11C)の発現。p110RBを発現する細胞およびp94RBを発現する細胞(矢印)の両方とも、親細胞(図11A)に類似の正常な生育可能な形態を有している。
図12A-12D:マウス膀胱粘膜における、インビボの、p110RB(図12C)およびp94RB(図12D)タンパク質の発現。p110RBを発現するプラスミドおよびp94RBを発現するプラスミドそれぞれとリポソームを混合し、マウス膀胱にカテーテルを通して直接注入した。明らかに、p110RB(図12C、矢印)またはp94RB(図12D、矢印)を発現する移行上皮は両者とも、未処理マウス膀胱(図12A)またはリポソームのみで処理したマウス膀胱(図12B)におけるそれらの対応物に類似の正常な生育可能な形態を保持していた。
3.3 本発明
本発明は、異常に増殖する標的細胞、例えば、癌または腫瘍細胞において、発現ベクターにより発現されたp94RBが異常な増殖を抑制するという予想できなかった発見に基づくものである。驚くべきことに、この処理は、試験した腫瘍セルラインすべてについて効果があり、RBマイナス腫瘍細胞の処理に限定されない。
特定の仮説や提案されている作用機構に拘泥されることを望むわけではないが、p94RBタンパク質は活性な低リン酸化形態に保持され、標的細胞において、p110RBよりも2〜3倍長い半減期を有すると考えられている。かくして、p94RBの蓄積とそれが低リン酸化した活性な形態に保たれる傾向との相乗的組み合わせにより、標的腫瘍細胞における細胞複製周期が終結される。しかしながら、作用機構が何であれ、細胞増殖を抑制し、老化をもたらすか、あるいは、異常に増殖するいかなる細胞をも殺すこの性質は、その遺伝的欠損にも関わらず、全く予期も予想もできなかったものである。
広域腫瘍サプレッサータンパク質を得るために、バキュロウイルスベクターにより、昆虫宿主細胞において、安定な核リンタンパク質として、第2のフレーム内AUGコドン開始RBタンパク質、すなわち、p94RBをコードする遺伝子を発現させた。得られた非リン酸化形態のp94RBは、SV40 T抗原と特異的な複合体を形成することができたが、このことは、p94RBタンパク質が天然のp110RBタンパク質と共通の多くの機能的性質、すなわち、リン酸化、ウイルスガンタンパク質(oncoprotein)会合および核テザリング(nuclear tethering)(Templetonら,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:3033-3037)を有していることの重要な確証となった。
第1または第2のいずれかのフレーム内AUGコドン開始RBタンパク質発現プラスミドによるトランスフェクションの効果をいくつかの周知のヒト腫瘍セルラインで比較した。試験したセルラインとしては、以下のものが挙げられる:RB欠損ヒト膀胱癌セルライン5637(ATCC HTB9);RB欠損ヒト乳癌セルラインMDA-MB-468(ATCC HTB132);RB欠損ヒト非小細胞肺癌セルラインH2009(Kratzke,R.A.ら,1992,The Journal of Biological Chemistry,267:25998-26003);RB欠損ヒト前立腺癌セルラインDU145(ATCC HTB81);RB欠損ヒト骨肉腫セルラインSaos-2(ATCC HTB85);RB欠損肺転移性ヒト線維肉腫セルラインHs913T(ATCC HTB152);ヒト頸腺癌セルラインHeLa(ATCC CCL2)およびヒト線維肉腫セルラインHT1080(ATCC CCL121)。HeLaとHT1080の両セルラインとも正常なp110RB発現がある。これらのセルラインの各々を、別々に、p110RBコーディングおよびp94RBコーディング発現プラスミドでトランスフェクションした。その結果、第2のフレーム内AUGコドン開始RBタンパク質p94RBは、それらの***する腫瘍細胞を老化させて死に至らしめるので、より効果的な細胞増殖阻害剤であることが実証された。他方、大半の正常ヒト細胞は、インビボで、非***性であるか、長い潜伏期の後、細胞周期へと進行する可能性がある。従って、活性な細胞周期調節因子および治療薬としてのp94RBは、インビボで正常細胞において一過性で発現させたときに、ほとんどあるいは全く毒性を示さないことが予想される。
また、本研究により、第2のフレーム内AUGコドン開始RBタンパク質p94RBを発現するRBマイナス腫瘍細胞は、[3H]-チミジンをDNAへ取り込まなかったことから明らかなように、細胞周期を通して進行しなかったことが実証された。しかしながら、DNA複製を受けている細胞のパーセンテージは、無傷のRBタンパク質(p110RB)を産生する細胞においては、RB陰性の細胞におけるよりもほんのわずか低かった。
とりわけ興味深いことは、ウェスタンブロット分析により示されたように、RB欠損膀胱癌セルライン5637が第2のフレーム内AUGコドン開始RBタンパク質をリン酸化しなかったという事実である。対照的に、トランスフェクションされた5637細胞において発現された無傷のRBタンパク質(p110RB)は完全にリン酸化された。さらに、第2のフレーム内AUGコドン開始RBタンパク質p94RBの半減期は、無傷のRBタンパク質(p110RB)より2〜3倍長いことが示された。従って、非リン酸化(活性)p94RBタンパク質のみの蓄積が、一過性でトランスフェクションされた5637腫瘍細胞がS期へ入らなくなる原因であり、それによってこれらの腫瘍細胞が老化して死に至るのかもしれない。
さらに、p94RBタンパク質には、100RBと比較して、優先的に会合する細胞タンパク質があることが見出された。会合するタンパク質のこの相違が、p94RBタンパク質の唯一無二の広域腫瘍細胞増殖抑制機能に貢献しているのかもしれない。
線維肉腫セルラインHT1080および頸癌セルラインHeLaの両者とも、正常なRB遺伝子発現を有するのであるが、第2のフレーム内AUGコドン開始RBタンパク質(p94RB)発現プラスミドによる処理に成功した。このことは、RB+癌または腫瘍細胞におけるp94RBタンパク質の発現が腫瘍細胞の増殖を有意に抑制したことを実証している。従って、本発明の利点は、特異的な腫瘍サプレッサー遺伝子欠損を有しない腫瘍を治療するために、ここに開示されている方法および生産物を用いることができることであり、これは、ヒト腫瘍サプレッサー遺伝子治療の先の技術よりも大きな利点を提供する。
次の頁の表1は、試験した腫瘍セルラインの同定、それらの腫瘍起源および遺伝的欠損をまとめたものである。
Figure 0003739787
3.3.1. RB94ベクターの調製
3.3.1.1. 治療用ベクター
適当な転写/翻訳調節シグナル、ならびに第一のインフレームのAUGコドンの下流側に位置する所望のRBcDNA配列からなるp94RBコード遺伝子を発現するベクターを構築するにあたっては、DNA断片のベクターへの挿入方法として、当業界で公知である、たとえば、Maniatis,T.,Fritsch,E.F.,and Sambrook,J.(1989):Molecular Cloning(A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York;ならびにAusubel,F.M.,Brent,R.,Kingston,R.E.,Moore,D.D.,Seidman,J.G.,Smith,J.A.,and Struhl,K.(1992):Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New Yorkに記載されている方法のうちの任意のものを使用することができる。このp94RBコード遺伝子発現ベクターは、p100RBはコードしえない。こうした方法は、インビトロでのDNAの組換えおよび合成技術、ならびにインビボでの遺伝的組換えを包含しうるものである。p94RBをコードする核酸配列の発現は、第2の核酸配列によって調節して、p94RBが、組換えDNA分子で感染あるいはトランスフェクションした宿主中で発現されるようにすることができる。たとえば、p94RBの発現は、当業界で公知の任意のプロモーター/エンハンサー因子によって制御することができる。プロモーターの活性化は、組織特異的である場合も、代謝産物あるいは投与物質によって誘導可能である場合もある。
p94RB遺伝子の発現を調節するうえで使用することのできるプロモーター/エンハンサーとしては、未変性のRBプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター/エンハンサー(Karasuyama,H.,et al.,1989,J.Exp.Med.,169:13)、ヒトβ−アンチンプロモーター(Gunning,P.,et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:4831-4835)、マウス乳癌ウイルスの長末端反復(MMTV-LTP)に存在する糖質コルチコイド誘導性プロモーター(Klessig,D.F.,et al.,1984,Mol.Cell Biol.,4:1354-1362)、モロニーマウス白血病ウイルス(MuLV LTR)の長末端反復配列(Weiss,R.,et al.,1985,RNA Tumor Viruses,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York)、SV40初期領域プロモーター(Bernoist and Chambon,1981,Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)の3’長反復末端に存在するプロモーター(Yamamoto et al.,1980,Cell 22:787-797)、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼプロモーター/エンハンサー(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1441-1445)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinster et al.,1982,Nature 296:39-42)、アデノウイルスプロモーター(Yamada et al.,1985,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.82(11):3567-71)、ならびに単純ヘルペスウイルスのLATプロモーター(Wolfe,J.H.,et al.,1992,Nature Genetics,1:379-384)があるが、これらに限定されるものではない。
腫瘍あるいは癌細胞の遺伝子治療に使用する哺乳動物宿主細胞と適合性の発現ベクターとしては、たとえば米国特許第5,174,993号に開示されているような、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ならびに非複製性のアビポックスウイルスがあるが、これらに限定されるものではない。
特定の一実施態様では、p94RBを哺乳動物細胞中で発現させるべく、p94RBのコード配列をヒトβ−アクチン遺伝子プロモーター(Gunning,P.,et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:4831-4835)の調節下におくことによって、pHβAPr−1−neoから誘導したプラスミドベクターを構築した。
別の特定の実施態様では、p94RBを哺乳動物細胞中で発現させるべく、p94RBのコード配列をサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター/エンハンサー配列の調節下におくことによって、pCMV−Neo−Bam(Baker,S.J.,et al.,Science,1990,249:912-915)から誘導したプラスミドベクターを構築した。
別の特定の実施態様では、レトロウイルスベクターであるpLLRNL(Miller,A.D.,et al.,1985,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,5:431)を使用して、哺乳動物細胞の形質導入を行いうるベクターを構築し、MuLV LTRプロモーター、CMVプロモーター、β−アクチンプロモーター、あるいは他の有効なプロモーターの調節下でp94RBタンパク質を発現させた。
さらに別の特定の実施態様では、アデノウイルス5型(Ad5)欠失変異体、Ad−d1324、ならびにプラスミドpTG5955(Rosenfeld,M.A.,et al.,Cell,1992,68:143-155)を使用して、哺乳動物細胞に感染しうるアデノウイルスベクターを構築し、アデノウイルス2型(Ad2)主要後期プロモーター、CMVプロモーター、β−アクチンプロモーター、あるいは他の有効なプロモーターの調節下でp94RBタンパク質を発現させた。
3.3.1.2.p94 RB タンパク質を産生し精製するためのベクター
また、p94RBの産生に適した宿主細胞と適合性の発現ベクターを構築し、こうした適合性の宿主細胞中でp94RBタンパク質を発現させることもできる。こうした細胞としては、ウイルス(たとえば、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、アビポックスウイルス)に感染させた哺乳動物細胞、ウイルス(たとえば、バキュロウイルス)に感染させた昆虫の細胞、微生物、たとえば酵母ベクターを含む酵母、あるいはバクテリオファージDNA、プラスミドDNA,あるいはコスミドDNAで形質転換した細菌があるが、これらに限定されるものではない。ベクターの発現調節要素は、それぞれ、強さならびに特異性が異なっている。使用する宿主−ベクター系に応じて、いくつかの適当な転写ならびに翻訳要素の任意のものを使用することができる。生成したp94RBは、アフィニティクロマトグラフィー、電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、あるいは当業界で公知の他の方法によって宿主細胞から精製することができる。
特定の一実施態様では、オートグラファ・カリフォルニア(Autographa california)多核ポリヘドローシスウイルス(「AcMNPV」)を使用して、培養したヨトウガの幼虫(Fall Armyworm)(スポンドプテラ・フルギペルダ、Spondoptera frugiperda)の細胞(Sf9細胞)中で、その生成物が溶菌感染症の間の細胞タンパク質総量の50%以上をしめるポリヘドロン遺伝子の強力な一時的に調節したプロモーターを用いて、p94RBタンパク質を産生した。バキュロウイルスで発現させたp94RBタンパク質は、その後、免疫親和性クロマトグラフィーで精製した。
3.3.1.3 p94 RB コード発現ベクターの検出
p94RBをコードする挿入断片を含む発現ベクターは、以下の3種の一般的アプローチ、すなわち(a)核酸ハイブリダイゼーション、(b)「マーカー」遺伝子の機能の存否、ならびに(c)挿入配列の発現によって特定することができる。最初のアプローチでは、発現ベクターに挿入したp94RBコード遺伝子を、挿入したp94RBコード遺伝子と相同/相補的な配列を含むプローブを使用した核酸バイブリダイゼーションによって検出することができる。こうしたハイブリダイゼーションは、選択したプローブのサイズならびに配列に応じて、ストリンジェントあるいは非ストリンジェントな条件下で実施することができる。第二のアプローチでは、発現ベクター/宿主系を、発現ベクターの宿主細胞への導入によって生じる特定の「マーカー」遺伝子の機能(たとえば、チミジンキナーゼ活性、抗生物質に対する耐性、バキュロウイルスベクターで感染させた昆虫細胞でのウイルス封入の形成など)の存否にもとづいて特定し、選択することができる。たとえば、優性選択性マーカー遺伝子、たとえば別途適当なプロモーター、たとえばSV40初期プロモーターの調節下にあるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を有するベクターに、p94RBコード遺伝子を挿入した場合には、p94RBコード遺伝子を含む発現ベクターを、マーカー遺伝子機能(ゲネティシン耐性)の存在によって特定することができる。第三のアプローチでは、p94RBコード遺伝子を含む発現ベクターを、ベクターによって発現されるp94RBコード遺伝子産物を検定することによって特定することができる。こうした検定は、たとえば、インビトロあるいはインビボでの検定システム、たとえば、[35S]メチオニンによる、代謝放射線標識、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、特異的抗体との結合、ならびにプロテインキナーゼによるホスホリル化でのp94RB遺伝子産物の物理的特性あるいは機能上の特性に基づいて行うことができる。
3.3.2. p94 RB の発現
適当なp94RBコード発現ベクター、すなわち、p94RBタンパク質コード配列の転写ならびに翻訳に必要な諸要素を含むベクターを、宿主細胞に導入することができる。宿主細胞は、p94RBを発現、産生するベクターと適合性である任意の種類の細胞とすることができる。好適実施態様では、宿主細胞は、治療対象の哺乳動物細胞である。さらに好適な実施態様では、宿主細胞は、治療対象であるヒト腫瘍細胞である。p94RBの宿主細胞での発現は、過渡的、恒久的、あるいは誘導性のものとすることができる。
必要とされる転写ならびに翻訳シグナル、たとえばプロモーター/エンハンサー配列は、未変性のRB遺伝子および/またはそのフランキング領域によって供給することもできる。治療対象である腫瘍細胞中では、各種のベクター/ホスト系を使用して、p94RBタンパク質コード配列を発現することができる。こうした系としては、プラスミドでトランスフェクション、感染、あるいは形質導入を行った哺乳動物細胞系、あるいはウイルス(たとえば、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、アビポックスウイルス)があるが、これらに限定されるものではない。ベクターの発現要素は、それぞれ、強さならびに特異性が異なっている。治療対象である宿主細胞に応じて、いくつかの適当な転写ならびに翻訳要素のうちの1種以上の任意のものを使用することができる。
3.3.3. 治療の方法
本発明のp94RBコードの遺伝子構築物は、当業者に公知の方法によって発現ベクター、たとえばプラスミドあるいはウイルス発現ベクターに、組み込むことができる。プラスミド発現ベクターの腫瘍細胞への導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポソーム(たとえばLIPOFECTIN)媒介トランスフェクション、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーションをはじめとするDNAの細胞への導入方法によって行うことができる。
ウイルス発現ベクターは、感染あるいは形質導入によって、発現可能な形態で標的細胞に導入することができる。こうしたウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ならびにアビポックスウイルスがあるが、これらに限定されるものではない。p94RBを異常増殖細胞で発現させる場合には、細胞複製サイクルに支障をきたし、その結果、老化ならびに細胞死が生じ、最終的には、異常組織、すなわち腫瘍あるいは癌の質量が低減する。標的細胞に遺伝子構築物を導入することができ、標的細胞で細胞増殖抑制量のp94RBを発現することのできるベクターは、任意の有効な方法で投与することができる。
たとえば、有効濃度の活性ベクターを含む生理学的に妥当な溶液を、局所的、眼内、非経口的、経口的、鼻内、静脈内、筋肉内、皮下に投与したり、また、他の有効な手段で投与したりすることができる。特に、ベクターは、標的組織の腫瘍細胞を治療するうえで有効な量を、針によって標的癌あるいは腫瘍細胞に直接注入することができる。
また、体腔、たとえば目、胃腸管、尿生殖器管(たとえば膀胱)、肺気管支系などに存在する癌あるいは腫瘍には、有効濃度の活性ベクターを含む生理学的に妥当な組成物(たとえば、食塩水やリン酸緩衝液のような溶液、懸濁液、あるいは乳液。ベクター以外に関しては滅菌されている。)を、癌あるいは腫瘍に罹患した中空の器官内に載置した針、あるいはカテーテルをはじめとする供給チューブを通して投与することができる。任意の有効な撮像装置、たとえばX線装置、超音波検査装置、あるいは光ファイバー視覚化装置を使用して標的組織を探知し、針あるいはカテーテルチューブを案内することができる。
また別の方法では、有効濃度の活性ベクターを含む生理学的に妥当な溶液を、全身的に循環血液に投与して、直接到達することも解剖学的に分離することもできない癌あるいは腫瘍を治療することができる。
さらに別の方法では、p94RBタンパク質を任意の公知の方法で細胞に導入することによって、標的である腫瘍あるいは癌細胞を治療することができる。たとえば、リポソームは、薬剤、タンパク質、ならびにプラスミドベクターをインビトロとインビボの双方で(Mannino,R.J.et al.,1988,Biotechniques,6:682-690)、標的細胞まで配達することのできる人工的な膜小胞である(Newton,A.C.and Huestis,W.H.,Biochemistry,1988,27:4655-4659;Tanswell,A.K.et al.,1990,Biochmica et Biophysica Acta,1044:269-274;ならびにCeccoll,J.et al.,Journal of Investigative Dermatology,1989,93:190-194)。このように、p94RBタンパク質は、高い効率でリポソーム小胞で封入し、インビトロあるいはインビボで哺乳動物細胞に供給することが可能である。
リポソーム封入p94RBタンパク質は、標的組織の異常増殖細胞を治療するうえで有効な量を局所的、眼内、非経口的、鼻内、気管内、気管支内、静脈内、筋肉内、皮下に投与したり、他の有効な手段で投与したりすることができる。リポソームは、有効濃度の封入p94RBタンパク質を含有する任意の生理学的に妥当な組成物として投与することができる。
3.3.4 治療に適した腫瘍
本発明の遺伝子構築物ならびにベクターは、腫瘍細胞の種類をとわず、その成長または細胞***、あるいはその双方を抑制するうえで有用である。本発明の遺伝子構築物は、癌ならびに肉腫の腫瘍細胞を治療する際に有効性を示した。本発明の遺伝子構築物は、特に、下記の種類、すなわち、膀胱癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、繊維肉腫、骨肉腫、ならびに子宮頚癌の腫瘍細胞で、複製を抑制し、そして細胞の老化をうながして細胞死に至らしめるうえで、有効性を示した。
さらに、本発明の遺伝子構築物は、遺伝上の下記の特定された欠陥、すなわち腫瘍抑制遺伝子RBおよびp53の変異、癌遺伝子mycの活性化、ならびに癌遺伝子N−rasならびにc−yes−1の活性化を有する腫瘍細胞で、複製を抑制し、そして細胞の老化をうながして細胞死に至らしめるうえで、有効性を示した。
さらにまた、本発明の遺伝子構築物は、正常な内在性腫瘍抑制遺伝子RB110および/またはp53が発現している腫瘍細胞で、複製を抑制し、そして細胞の老化をうながして細胞死に至らしめるうえで、有効性を示した。
また、本発明の遺伝子構築物は、リンパ腫、白血病、ならびに腫瘍抑制遺伝子DCCおよびNF1の遺伝的欠陥を有する腫瘍細胞、さらにはその遺伝上の欠陥がわかっていない、すなわち特定されるに至っていない他の種類の腫瘍細胞でも、複製を抑制することができる。
3.3.5. 腫瘍あるいは癌組織のエクスビボでの治療
好適な実施態様では、腫瘍細胞の形質導入を、この腫瘍細胞中でp94RBタンパク質を発現しうるレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、プラスミドベクターをはじめとする任意の適当なベクターを用いて行う。癌細胞は、白血病患者から採取した血液あるいは骨髄試料中に存在している可能性がある。p94RBタンパク質を発現するレトロウイルスベクターあるいはアデノウイルスベクターあるいはプラスミドベクターあるいは他の任意の適当なベクターを、試料中の充分な細胞の形質導入を行って腫瘍細胞数の低減を生じさせるうえで充分な量だけ、血液あるいは骨髄試料に投与する。処置を行ったガン細胞の細胞増殖は、遅滞化あるいは停止し、その後、正常な細胞分化あるいは細胞老化に似た過程が生じることとなる。同様にして、有効用量のリポソーム封入p94RBタンパク質を使用して、血液あるいは骨髄あるいは他の組織をエクスビボで治療する。その後、試料は、提供者に戻すことも、また、他の受容者に輸液として投与することも可能である。
3.3.6. 腫瘍あるいは癌組織の生体内での治療
ウイルスベクターの投与方法は周知である。当業者であれば、通常、p94RBタンパク質を発現しうるレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、プラスミドベクターをはじめとする任意の適当なベクターを、各種の多岐にわたる操作によってインビボで癌に投与しうることを承知しているはずである。こうした操作は、いずれも、ベクターを標的である腫瘍と充分に接触させて、ベクターによる腫瘍細胞の形質導入あるいはトランスフェクションを促すという共通の目標を有している。好適な実施態様では、中空器官の内層の上皮組織に存在する癌を、ベクターの懸濁液を流体で充填された中空の器官に注入するか、空気で充填された中空の器官に噴霧あるいは霧として適用することによって治療することができる。このように、腫瘍細胞は、ベクターと接触しうる肺気管支系の内層、胃腸管の内層、女性生殖管、尿生殖管、膀胱、胆嚢、ならびに他の任意の器官の組織の内層の上皮組織に存在していてもよいのである。
別の好適実施態様では、癌は、中枢神経系、たとえば脊髄、脊髄根、あるいは脳の内層内あるいは内層上に位置していてもよく、その場合、脳脊髄液に注入したベクターがその空間に存在する腫瘍細胞と接触し、形質導入を生じる。
別の好適実施態様では、癌は固形癌である。当業者であれば、ベクター懸濁液を腫瘍に直接注入することによって、ベクターが腫瘍内部の腫瘍細胞と接触して形質導入あるいはトランスフェクションを生じるように、ベクターを腫瘍に投与しうることをを理解できるはずである。
さらに別の好適実施態様では、癌は、血液、造血器官、あるいは血液が直接潅流する任意の器官の癌であってもよく、その場合、血流に注入したベクターが癌細胞と接触し、処置が行われる。このように、癌は、白血病、リンパ腫をはじめとする腫瘍でもよく、腫瘍細胞は、血液、骨髄、脾臓、胸腺、肝臓、ならびに血液が直接潅流する他の任意の器官に存在しうるものである。
当業者であれば、ベクターを、ベクターと、選択したベクターの形質導入あるいはトランスフェクション効率を保持するうえで適当で、なおかつ、安全な注入を可能とするような担体あるいは賦形剤とを含有する組成物として投与しうることを理解できるはずである。こうした担体は、pHを調節した生理緩衝液、たとえばリン酸、クエン酸、あるいは炭酸緩衝液、食塩水、叙放性組成物、ならびにベクターを治療対象である異常増殖細胞と安全かつ効果的に接触させるうえで有用な任意の他の物質とすることができる。
本発明を、以下の実施例でさらに説明する。本発明は、これらの実施例によって、何ら限定されるものではない。
4. 実施例
4.1 昆虫細胞中で第二のインフレームAUGコドンで開始されるRBタンパク質を発現するベクターの製造
オートグラファ・カリフォルニア(Autographa California)多核ポリヘドロシス(Multiple Nuclear Polyhedrosis)ウイルス(「AcMNPV」)の工学的誘導体は、高レベルに正確にプロセッシングされそして生物学的に活性なタンパク質の製造に広く利用されている。このバキュロウイルスは培養したアブヨトウ(Fall Armyworm)スポンドプテラ・フルギペルダ(Spondoptera Frugisperda)細胞(Sf9細胞)中で増殖し、そして溶菌感染中、総細胞タンパク質の50%またはそれ以上を生産するポリヘドロン(polyhedron)遺伝子を強力に一時的に制御するプロモーターを有する。
in vivo組換えにより、外来遺伝子のコード配列をポリヘドロンプロモーターの転写制御下に容易に配置することができ、高レベルの発現を生じさせることができる。さらに、このようなタンパク質を正確に折りたたむことができ、自然界の高等な真核生物のタンパク質のような適切な転写後修飾を含むことができる。
部位特異性突然変異誘発により、2個のBamH1部位をヌクレオチド+7および+3230でRBcDNAに導入した(第二のインフレームAUGコドンのAは+19と名付けられている)。生じたDNA分子は図1のヌクレオチド配列(配列番号:1;配列番号:2)を有し、ここでは第二のインフレームAUGコドンで開始されるRBタンパク質遺伝子またはp94RBをコードする遺伝子とも呼ぶ。コードされるタンパク質は図2の配列(配列番号:3)を有し、そしてここでは第二のインフレームAUGコドンで開始されるRBタンパク質またはp94RBタンパク質と呼ぶ。
バキュロウイルス発現系により第二のインフレームAUGコドンで開始されるRBタンパク質の最大の生産を達成する試みで、p94RB遺伝子をpVL1393プラスミドに挿入して組換え転移ベクターを構築し、p94RB遺伝子をポリヘドロン遺伝子プロモーターの制御下においた。
図3に示すように、生じたpVL-s-RBプラスミドは別のAUG開始コドンを、ヌクレオチド+19のp94RB翻訳開始部位の上流には有さず、そしてそれ故、非融合p94RBタンパク質をコードする。並行して行った研究で、同様の手法を用いてp110 RB発現ベクターを構築し、pVL/第一AUG-RBと名付けた。
組換えベクターからウイルスゲノムへのRBcDNAの転移を、pVL-s-RBプラスミドDNAまたはpVl/第一AUG-RBプラスミドDNAを用いて、野性型AcMNPVウイルスDNAを同時トランスフェクトすることにより達成した。組換えウイルスを三段階のプラーク精製にかけ、RB含有バキュロウイルスの純粋原液を得、それぞれAcMNPV-RB94およびAcMNPV-RB110と名付けた。
4.2 p110 RB およびp94 RB タンパク質の精製
p110RBおよびp94RBタンパク質をバキュロンウイルス感染昆虫細胞からイムノアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。簡単には、昆虫細胞をウイルス感染の24時間後に集め、EBC緩衝液(50mMトリス-HCl、pH8.0、120mM NaCl、0.5% NP-40、50μg/mlアプロチニン(aprotinin))で4℃で溶解した。溶解物を遠心分離により透明にし、そしてP110RBまたはp94RB含有上澄みをビオチン化WL-1ポリクローナル抗-RB抗体(Xu,H-J.,et al.,1989,Oncogene,4:807-812)と4℃で一夜インキュベートした。スクシンイミドエステルを使用するウサギIgGのビオチン化の手順は、バイエル(Bayer)およびウイルケック(Wilchek)(Baylor、E.A.and Wilchek,M.,1980,Methods Biochem.Anal.,26:1-45)により記述された方法に従った。RBタンパク質-IgG-ビオチン複合体をストレプトアビジンアガロースゲルカラムにかけて集めた。精製p110RBまたはp94RBを、100mMグリシン(pH2.2)を使用して分離カラムから溶出し、そして1Mリン酸塩(pH8.0)で中和した。
4.2.1. p94 RB は主要な生化学および生物学的性質をp110 RB と共有する。
網膜芽腫タンパク質の非機能性突然変異体はリン酸化、ウイルス性ガンタンパク質会合および核局在化の欠如により特徴付けられるので(Templeton et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:3033-3037)、人工のp94RBタンパク質の機能面をこれらの特徴について研究した。
最初に、昆虫細胞によりバキュロンウイルスを用いて生産されるRBタンパク質が核と会合するかどうかを測定するために、AcMNPV-RB110およびAcMNPV-RB94感染Sf9細胞を感染24時間後にMAb-1抗-RBモノクローナル抗体で免疫染色した。図4に示したように、AcMNPV-RB110(パネルB)またはAcMNPV-RB94(パネルC)のいずれかで感染している細胞の核において強い染色がもっぱら見られた。
イムノアフィニティークロマトグラフィーによりバキュロウイルス感染昆虫細胞から精製したp110RBおよびp94RBタンパク質を、SV40 T抗原と特異的複合体を形成する能力について試験した。手短かに言えば、等量のp94RBまたはp110RBおよびT抗原を混合し、そして混合物のアリコートをPAB419抗-T抗体と免疫沈降させた。図5に示すように、in vitroでT抗原とp94RB(またはp110RB)を混合すると、低(under-)および次亜(hypo)リン酸化p94RB(5列)、またはp110RB(3列)の両者ともPAB419と同時免疫沈降した。データから、p110RBまたはp94RBタンパク質のいずれかがSV40 T抗原と特異的複合体を形成できることが示された。AcMNPV-RB94ウイルス感染昆虫細胞は次亜リン酸化p94RB(4列)を作るように見え、これはSV40 T抗原と複合体を形成できなかった(4列を5列と比較されたい)。
図5に示したウェスタンブロット法により、第二のインフレームAUGコドンで開始されたRBタンパク質の見かけの相対質量(Mr)94 kDが示された。SDS-PAGEでは、p94RBタンパク質(図5、4および5列)は起源不明の自然発生98kDaタンパク質より小さかった(Xu et al.,1989,Oncogene,4:807-812)(図5、1列)。それ故、本発明の第二のインフレームAUGコドンで開始されたRBタンパク質(p94RB)は、ヒト細胞で自然に発生することが見いだされていない。
組換えウイルス感染昆虫細胞により生産される第二のインフレームAUGコドンで開始されたp94RBタンパク質は人工であるが、自然界で生じるRBタンパク質種、p110RBがそうであるように、SV40 T抗原と特異的複合体に会合することができる、低および次亜リン酸化形態を持つ安定な核リンタンパク質であると結論される。
4.3 哺乳動物細胞についての発現ベクターの構築
4.3.1. 第一および第二のインフレームAUGコドンで開始されたRBタンパク質をコードするRBcDNA断片のサブクローン化
第一および第二のインフレームAUGコドン開始RBタンパク質をコードするRBcDNA断片のサブクローン化を、当分野の標準方法で達成した。DNA操作の方法は、Maniatis,T.,Fritsch,E.F.,and Sambrook,J.(1989):Molecular Cloning(A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York;およびAusubel,F.M.Brent,R.,Kingston,R.E.,Moore,D.D.,Seidman,J.G.,Smith,J.A.,and Struhl,K.(1992):Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York)を修正したものである。
4.3.2. 第二のインフレームAUGコドンで開始されるRBタンパク質をコードするDNA分子の製造
全長の網膜芽腫(RB)遺伝子cDNAを含むプラスミド、p4.95BT(Friend et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:9059-9063)またはF7(Takahashi,R.,Hashimoto,T.,Xu,H-J.,et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:5257-5261)を、制限酵素Hind IIを用いてヌクレオチド+7で、そして制限酵素ScaIを用いてヌクレオチド3,230で消化した(全長のRBcDNAオープンリーディングフレームの第二のインフレームAUGコドンのAはヌクレオチド+19と名付けられている)。生じた3,230bp RBcDNA断片は2つの平滑末端を有していた。制限酵素BamHI部位への平滑末端の転換を、合成BamHIオリゴヌクレオチドリンカー(GGGATCCC)を断片の各平滑末端へ連結し、その後BamHI酵素で消化して実施した。
目的のRBcDNA断片をプラスミドベクター、pUC19のBamHIクローニング部位に挿入し、そして大腸菌(Escherichia coli)株、DH5 α細菌細胞で増殖させた。組換えプラスミドを単一DH5 α形質転換体から精製し、そしてプラスミドpUC-s-RBと名付けた。このプラスミドは816個のアミノ酸から成る第二のインフレームAUGコドン開始RBタンパク質をコードする、目的の3,230bpのRBcDNA断片を含む。
4.3.3. 第一のインフレームAUGコドン開始RBタンパク質をコードするDNA分子の製造
全長のRBcDNAプラスミドを制限酵素、AcyIを用いてヌクレオチド-322で、そしてScaIを用いてヌクレオチド3,230で消化した。AcyI末端(5′-CGオーバーハング(overhang))を、全ての4種のdNTPの存在下で大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノー断片を用いて末端をフィリングイン(filling in)することにより修復し、平滑末端とした。平滑末端の制限酵素BamHI部位への変換を上記のように実施した。生じた3,552bpのRBcDNA断片をプラスミドpUC19に挿入し、そして大腸菌株DH5アルファで増殖させ、その後、単一DH5アルファ形質転換株から精製し、そしてプラスミドpUC-f-RBと名付けた。このプラスミドは928個のアミノ酸から成る第一のインフレームAUGコドン開始RBタンパク質をコードする3,552bpのRBcDNA断片を含む。
4.3.4. ヒトβ-アクチン遺伝子プロモーターを使用するp94 RB 発現プラスミドの構築
816個のアミノ酸から成る第二のインフレームAUGコドン開始RBタンパク質(p94RB)をコードする3,230bpのRBcDNA断片をプラスミドpUC-s-RBから回収し、その後、制限酵素BamHIで消化し、そして発現プラスミド、pHβAPr-1-neo(Gunning,P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,1987,84:4831-4835)のユニークBamHI部位に、p94RBコード配列がβアクチン遺伝子プロモーターの直接の制御下になるような方向で再挿入した。正しい挿入方向のプラスミドベクターを、DH5 α大腸菌宿主細胞で増殖後、制限エンドヌクレアーゼ地図により選択し、pβA-s-RB34と名付けた(図7B)。その後、プラスミドpβA-s-RB34を含む、対応するDH5α株をDHB-s-RB34と名付けた(ATCC 69241、特許寄託、アメリカン タイプ カルチャー コレクション)。
プラスミドベクターpβA-s-RB34は、β-アクチン遺伝子プロモーターとRBコード配列の第二のインフレームAUGコドンの間に別のAUGコドンを有さず、そしてそれ故、非融合p94RBタンパク質をコードする。プラスミドベクターpβA-s-RB34もまた、SV40初期プロモーターの選択制御下でネマイシンホスホトランスフェラーゼ(ネオ)の発現を介して、真核細胞おける優勢な選択マーカー(ゲネチシン(geneticin)耐性)を付与する(図7、sv-neo)。
4.3.5. ヒトβ-アクチン遺伝子プロモーターを使用するp110 RB 発現プラスミドの構築
928個のアミノ酸から成る第一のインフレームAUGコドン開始RBタンパク質(p110RB)をコードする3,552bpのRBcDNA断片をプラスミドpUC-f-RBから回収し、そしてβアクチン遺伝子プロモーターの下流の発現プラスミドpHBAPr-1-neoに再挿入した。生じたプラスミドベクターをpβA-f-RB33と名付けた(図7A)。プラスミドベクターpβA-f-RB33は、βアクチン遺伝子プロモーターとRBコード配列の第一のインフレームAUGコドンの間に別のAUGコドンを有さず、それ故、非融合p110RBタンパク質をコードする。
4.3.6. サイトメガロウイルスプロモーター(CMVp)を使用するp94 RB およびp110 RB 発現プラスミドの構築
別に、発現プラスミド、pCMV-Neo-Bam(Baker,S.J.,et al.,Science,1990,249:912-915)をプラスミドpHBAPr-1-neoの代わりに使用した。ベクターは、BamHI部位での挿入物の発現を促進できるサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター/エンハンサー配列、および細胞での転写挿入物の正確なプロセッシングを確実にする、ウサギβ-グロビン遺伝子に由来するスプライシングおよびポリアデニル化部位を含む。pBR322起源の複製物およびβラクタマーゼ遺伝子は大腸菌によるプラスミドの増殖を促進した。プラスミドは、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーターの制御下でネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(ネオ)の発現を介してゲネチシン耐性(真核細胞の選択マーカー)を付与する。
上記のセクション4.3.4および4.3.5.の記載と同様の戦略を利用して、プラスミドpUC-s-RBおよびpUC-f-RBからの3,230bpおよび3,552bpのRBcDNA断片を、それぞれ、発現ベクター、pCMV-Neo BamのユニークBamHI部位に転移した。生じたプラスミドベクターを、p94RBを発現するものはpCMV-s-RB42と名付け、そしてp110RBを発現するものはpCMV-f-RB35と名付けた(図6)。その後、プラスミドpCMV-s-RB42を含有する、相当する大腸菌DH5α株をDHC-s-RB42と名付けた(ATCC 69240、特許寄託、アメリカン タイプ カルチャー コレクション)。
4.3.7. p94 RB タンパク質発現レトロウイルスベクターの構築
この実験計画のためにレトロウイルスベクター、pLLRNL(Miller,A.D.,Law,M.-F.,Verma,I.M.,Molec.Cell Biol.,1985,5:431)および両種性レトロウイルスパッケージング細胞系、PA317(ATCC CRL9078)(Miller,A.D.,and Buttimore,C.,Molec.Cell Biol.,1986,6:2895-2902)を使用する。
全長のRB遺伝子cDNAを含むプラスミドp4.95BTまたはF7をヌクレオチド+7で制限酵素Hind IIを用いて消化する(全長のRBcDNAオープンリーディングフレームの第二のインフレームAUGコドンのAをヌクレオチド+19と名付けられている)。制限酵素Hind III部位へのHind II部位の転換を、合成Hind IIIオリゴヌクレオチドリンカー(CCAAGCTTGG)を線状プラスミドDNAの平滑末端にライゲーションし、その後Hind III酵素で消化して実施した。線状プラスミドDNAを制限酵素、ScaIを用いてヌクレオチド3,230でさらに消化する。生じた3,230bpのRBcDNA断片は、816個のアミノ酸から成る第二のインフレームAUGコドン開始RBタンパク質(p94RB)をコードする。この断片は5′-Hind III部位(付着末端)および3′-ScaI部位(平滑末端)を有し、レトロウイルスベクター、pLLRNLへの挿入を容易にする。
ベクターpLLRNLを2組の制限酵素:Hind III/ClaIおよびSmaI/ClaIを用いて消化し、ルシフェラーゼ遺伝子を欠失させる。適切な断片を電気泳動後のアガロースゲルから回収し、そして3,230bpのRBcDNA断片とライゲートし、p94RB発現がモロニー(Moloney)マウス白血球ウイルス(MuLV LTR)の長い末端反復配列の制御下にある新しいベクター、pLRB94RNLを形成させる。
レトロウイルスベクター、pLRB94RNLの構築の基本的な実験計画は、Huang,H.-J.S.,et al.,1988,Science,242:1563-1566を修正したものである。
これとは別に、ベクターpLLRNLを単一制限酵素、Hind IIIを用いて消化しルシフェラーゼ遺伝子並びにラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)を欠失させる。適切なDNA断片をp94RB発現プラスミド、pCMV-s-RB42(またはpβA-s-RB34)から回収する。回収したDNA断片は、3,230bpのRBcDNA断片および5′フランキングCMVプロモーター(またはβ-アクチンプロモーター)を含んでいるが、これをレトロウイルスベクターのClaI制限部位に挿入する。制限部位間の変換を上記のセクション4.3.7.に記載されている方法で実施する。
生じたp94RB発現レトロウイルスベクターでは、p94RB遺伝子は内部プロモーター(CMVプロモーターまたはβ-アクチンプロモーター)の制御下にあり、一方Tn5ネオマイシン-耐性遺伝子(Neo)はMuLV LTRに制御下にある。
安全で有効な両種性パッケージ細胞系統はレトロウイルスベクター遺伝子をヒトガシ細胞に移送するのに必要である。ウイルスパッケージング方法はMiyanohara et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,1988,85:6538-6542の方法を修正したものである。この実験計画のためにPA317パッケージング細胞系を使用する。このパッケージング細胞系はヒト遺伝子治療臨床試験での使用のための事前承認を受けていた。
レトロウイルスベクター(pLRB94RNL)DNAを、リポフェクチン(LIPOFECTIN)試薬(GIBCO BRL Life Technologies,Inc.メリーランド州、ガイザースブルグ(Gaithersburg))または以下のセクション4.4.1.に記載するエレクトロポレーション法によりPA317パッケージング細胞にトランスフェクトする。単一コロニーをG418含有培地(400μg/ml)中で選択して単離し、そして大量培養に拡大する。選択したPA317クローンにより生産されたウイルスの力価を検定するために、各PA317クローンの無細胞培地を希釈し、ポリブレーン(POLYBRENE)(シグマ社、4μg/ml)の存在下で208Fラット繊維芽細胞(指示細胞)に適用し、そしてG418選択(400μg/ml)を感染の24時間後に開始する。
2週間後、G418-耐性コロニーをギムザ染色で可視化し、そしてウイルス力価を測定する(ミリリットル当たりのコロニー形成単位、cfu/ml)。その後、高ウイルス力価を生産するPA317クローンを、前記のウエスタンイムノブロッティング法によりヒトp94RBタンパク質発現について検定する(Xu,H.-J.,et al.,Oncogene,1991,6:1139-1146)。その後、高レベルのヒトp94RBタンパク質を発現する選択したPA317クローンの無細胞培地をヒトガン細胞にex vivoまたはin vivoで適用する。
4.3.8 p94 RB タンパク質発現アデノウイルスベクターの構築
アデノウイルス5型(Ad5)欠失変異株Ad-d1324と、ヒトCFTR cDNAがp94RBタンパク質をコードする3230bpのヒトRB cDNAフラグメントで置き換えられたプラスミドpTG5955から、組換えアデノウイルスAd-RB94を構築した。このRB cDNA挿入断片を含むプラスミドpTG5955を、制限酵素ClaI切断により直線状にし、大きな断片であるClaI切断Ad-d1324DNAと共に、293(ATCC CRL1573)細胞にコトランスフェクトして相同的組換えを起こさせ、続いて、組換えアデノウイルスDNAを複製させ、包膜させて感染性ビリオンとし、プラークを形成させる。個々のプラークを単離し、293細胞内で増幅させ、ウイルスDNAを単離し、ヒトRBc DNAを含む組換えアデノウイルスプラーク(Ad-RB94)を制限切断及びサザン分析により同定する。Ad-RB94ウイルスを293細胞内で増殖させ、感染から36時間後に回収する。このウイルス標本を、CaCl密度勾配遠心分離法により精製し、すぐに使用するためにウイルス透析用緩衝液(10mM Tris-Hcl,pH7.4;1mM MgCl2)内に4℃で保存するか、又は使用に先立って−70℃で保存する(10%のグリセロールを添加して)。組換えアデノウイルスAd-RB94の構築のための基本的なプロトコルは、Rosenfeld,M.A.,et al.,Cell,1992,68:143-155を応用したものである。
4.3.9 物理的なDNA転移方法
食物及び薬物の投与によりヒトに使用するために認められてきた別の遺伝子伝達方法は、リポゾーム内のプラスミドDNAをin situで腫瘍細胞に直接移す方法である(Nabel,E.G.,et al.,1990,Science,249:1285-1288)。プラスミドDNAは、レトロウイルスベクターとは異なり、均質に精製しうるので、ヒトへの使用に認めるのが容易である。
p94RB発現プラスミドベクターpCMV-s-RB42又はpβA-s-RB34を使用して、リポゾームとの複合体を形成し、腫瘍細胞をin vivo(又はex vivo)で直接処理する。この方法において、下記の4.4.1節に記載するように、遺伝子治療のためには一時的な発現で十分であるので、トランスフェクトされた腫瘍細胞へのDNAの安定な取り込みは要求されない。
4.4 ヒト腫瘍細胞のp94 RB プラスミドベクターpβA-s-RB34又はpCMV-s-RB42によるin vitroでの処理
公知のRB遺伝子欠失を有するヒト腫瘍細胞を、p94RBプラスミドベクターpβA-s-RB34(又はpCMV-s-RB42)により処理した。これらには、1)ヒト膀胱癌細胞系,5637(ATCC HTB9);2)ヒト乳癌細胞系,MDA-MB-468(ATCC HTB 132);3)ヒト非小細胞non-small cell)肺癌細胞系,H2009(Kratzke,R.A.,et al.,1992,The Journal of Biological Chemistry,267:25998-26003);4)ヒト前立腺癌細胞系,DU145(ATCC HTB81);5)ヒト骨肉腫細胞系、Saos2(ATCC HTB85);及び6)ヒト肺転移線維肉腫細胞系Hs913T(ATCC HTB152)が含まれる。
処理のためには、腫瘍細胞をプラスミドDNA pβA-s-RB34(又はpCMV-s-RB42)で、リポフェクチン(LIPOFECTIN)試薬(GIBCOBRL Life Technologies,Inc.Gaithersberg,MD)を介して一時的にトランスフェクトする。同様の結果がリン酸カルシウム又は電気泳動法を用いたトランスフェクションにより得られる。
リポフェクチンを用いるトランスフェクションについての下記の方法は、製造者の仕様書を応用した。腫瘍細胞を、血清を添加した適当な増殖培地内の100mm皿に接種した。この細胞を、5%CO2環境で、細胞が40-60%の集密度になるまで、37℃で培養した。これには通常18-24時間かかるが、時間は細胞のタイプにより異なる。下記の溶液を17×75mmポリスチレン管内で調製した:溶液A−トランスフェクションを行う細胞の各皿に対して、5−10μgのプラスミドDNAを血清を含まない培地で最終容量が100μlとなるように希釈した;溶液B−トランスフェクションを行う細胞の各皿に対して、30−50mlリポフェクチン試薬を、血清を含まない培地で最終容量が100μlとなるように希釈した。この二つの溶液を合わせ、穏やかに混合し、室温で10−15分間インキュベートした。リポフェクチン試薬は、プラスミドDNAと自発的に反応して脂質−DNA複合体を形成した。脂質−DNA複合体が生成している間、細胞を6mlの血清を含まない培地で二回洗浄した。各トランスフェクションに対して、脂質−DNA複合体を含む各ポリスチレン管に、6mlの血清を含まない培地を添加した。この溶液を穏やかに混合して、培地−複合体を、細胞に塗布した。その後、皿を穏やかに旋回させて均一な分散を図った。その後、各皿を5% CO2インキュベーター中、37℃でインキュベートした。12−24時間後、培地−複合体を10%ウシ胎児血清を含む適当な増殖培地で置き換えた。
平行した研究において、腫瘍細胞をp110RBを発現するプラスミドDNA pβA-f-RB33又はpCMV-f-RB35でトランスフェクトした。RB欠失腫瘍細胞に導入されたp94RBの発現とp110RBの発現の増殖抑制効果を評価するために、下記の分析を用いた。
1) プラスミドベクターで処理された腫瘍細胞におけるDNA合成
プラスミドDNA処理の後、腫瘍細胞を[H3]−チミジンで二時間標識し、その後、ポリリジンを塗布したスライドに移し、固定して、モノクローナル抗RB抗体,MAb-1(Triton Biosciences,Inc.Alameda,CA)で免疫細胞化学的に染色した。RB陽性のトランスフェクトされた細胞を顕微鏡下で数えた。その後、スライドにKodak NTB2オートラジオグラフィックエマルジョンを塗布し、7−10日間露光した。[H3]−チミジン標識及びRBタンパク質免疫細胞化学的染色は、既に記載した方法により行った(Xu et al.,Oncogene,1991,6:1139-1146)。[H3]−チミジン取込みの各測定において、約400-1600のRB陽性及び600のRB陰性腫瘍細胞が評価された。この実験は、p94RBを発現するRB欠失腫瘍細胞が、[H3]−チミジンをDNAに取り込んではいないことから証明されるように、細胞周期が進行していないことを示した(表2)。しかしながら、p110RB産生細胞内では、DNAの複製が起こっている細胞の割合は、RB陰性の細胞に比べて僅かに低いにすぎない(表2)。
Figure 0003739787
2)コロニー形成アッセイ
トランスフェクションから約48時間後に、腫瘍細胞を100mm皿当たり105細胞の濃度で、G418を400-600μg/ml含む選択培地と共に再塗布した。細胞を2ないし3週間培養し、100より多い細胞からなるコロニーを記録した。データを表3に示す。p94RB発現プラスミドベクターで処理された細胞は、p110RBプラスミドベクターでトランスフェクトされたものに比べて、約4倍少ないコロニーを生じさせた。この差は、統計学的に有意であった(t-検定においてp<0.05)。
さらに、p94RBプラスミドDNA処理の後に生じたこれらのコロニーにおいて、p94RBタンパク質の発現はもはや見られなかった。処理された腫瘍細胞において、p94RBタンパク質を発現する長期培養物を単離できなかったことは、p94RBが腫瘍細胞の増殖を抑制したことを示す。対照的にp110RBプラスミドDNAでトランスフェクトされた後の腫瘍細胞から誘導された48の細胞系のうち7(15%)が、p110RBタンパク質を発現することが見出された。この割合は、二つの独立した転写単位を含むベクターでトランスフェクトされたヒト細胞に期待される結果と一致し、従って、p110RB発現の導入は、RB欠失腫瘍細胞における増殖抑制効果を示さない。
Figure 0003739787
3)細胞形態学に関するp94RB発現の効果
トランスフェクションから24時間後に、さらにHTB9トランスフェクタントを、MAb-1抗RBモノクローナル抗体で免疫染色した。染色の結果を図8に示す。
図8に示されるように、大多数のRB陽性p94RB発現HTB9細胞は非常にサイズが大きくなり、核細胞質比が低く、即ち多核細胞になる率が高く(パネルC)、これはしばしば細胞の老化に関連する形態学的変化である。しかしながら、そのような形態学的変化は、グループA,偽トランスフェクションHTB9細胞、及びグループB,p110RB発現RB陽性HTB9細胞では見られなかった(図8,パネルA及びB)。
4.4.2 正常な(p110 RB )RB発現(RB+)を有するヒト腫瘍細胞の処理
二つのRB+ヒト細胞系(即ち、RB+遺伝子欠損を有しない)、例えばヒト線維腫細胞系,HT1080(ATCC CCL121)、及びヒト子宮頸癌細胞系,HeLa(ATCC CCL2)を、前記のリポフェクチン試薬を用いてp94RBタンパク質発現プラスミドpCMB-s-RB42で処理した。平行した研究において、これらの細胞系をp110RBタンパク質発現プラスミド,pCMV-f-RB35でトランスフェクトさせた。上記のようなコロニー形成アッセイを用いて、RB+腫瘍細胞中の外来性のp94RBとp110RBの発現の導入による増殖抑制効果を評価した。表4に示すように、p94RBタンパク質の発現は、HT1080及びHeLa細胞の細胞増殖を劇的に抑制した。p94RBを発現するプラスミドベクターpCMV-s-RB42で処理した後に生じるG418耐性コロニーの数は、2ないし9倍減少したが、pCMV-f-RB35プラスミド(p110RBタンパク質を発現する)によるトランスフェクションでは、そのような効果は見られなかった。この差は統計学的に有意であった(対のt-検定で計算したところ、両側検定のP値は0.03より低かった)。
Figure 0003739787
4.5. 宿主細胞におけるp94 RB タンパク質の半減期及びリン酸化段階:p94 RB の特有の性質
トランスフェクトされた膀胱癌細胞系,5637(ATCC HTB9)において一時的に発現したp94RB及びp110RBタンパク質の半減期を、トランスフェクトされた5637細胞の[35S]-メチオニンによるパルス標識及びそれに続く過剰の非標識メチオニンの追跡により測定した(図9)。
膀胱癌細胞を多数の皿内で、p110RB(図9,左)又はp94RB(図9,右)のいずれかを発現するプラスミドによりトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後に細胞を[35S]-メチオニンで標識し、過剰の非標識メチオニンを各々0,6,12及び24時間後に追跡した。RBタンパク質を免疫沈降により測定した。トランスフェクトされた5637細胞のp94RBタンパク質の半減期は12時間であることが判明した。これとは対照的に、p110RBタンパク質の半減期は4−6時間であった。従って、宿主腫瘍細胞内で発現したp94RBタンパク質は代謝回転が遅く、このことはRB+及びRB-の両方の腫瘍細胞の複製抑制剤としての有効性に寄与すると考えられる。
一時的にトランスフェクトされた5637細胞におけるp110RB及びp94RBの比較されるリン酸化段階をウェスタンブロット分析により調べた:WI-38、親の5637及びpβA-f-RB33(p110RBを発現,4.3.5節)又はpβA-s-RB34(p94RBを発現,4.3.4節)プラスミドでトランスフェクトした5637細胞であってトランスフェクションから約24時間後のものから、細胞溶解産物を作った。ウェスタンブロット分析の基本的なプロトコルは、Xu,H-J.,et al.,1989,Oncogene,4:807-812に記載されている。各レーンに、4×105の培養細胞に相当する40μlの溶解産物を載せた。8% SDS-PAGEによりタンパク質を分離し、PVDF膜に電気ブロットした。TBST(10mM Tris-HCl,pH8.0,150mM NaCl,0.05% Tween 20)中の3%の脱脂乳でブロックした後、該膜を0.1μg/cm2のMAb-1モノクローナル抗RB抗体と共に一晩インキュベートした。その後、ブロットを強化化学ルミネッセンス(Enhanced Chemiluminescence)(ECL)(Amersham Corporation,Arlington Heights,Illinois)免疫検出法で調べた。X線フィルムを2秒間(図10,レーン1)又は30秒間(図10,レーン2-4)露光した。
特に興味深いのは、RB欠失膀胱癌細胞系、5637は、ウェスタンブロット分析によって示されたようにp94RBタンパク質をリン酸化できないが(図10,レーン4)、トランスフェクトされた5637細胞内で発現したp110RBタンパク質は完全にリン酸化された(図10,レーン3)という事実である。従って、リン酸化されていないp94RBタンパク質の存在のみが、トランスフェクトされた5637腫瘍細胞がS期に入れなくなる原因となり得、このことはさらに細胞老化及び細胞の死をもたらし得る。
4.6.ヒト膀胱ガンのin vivo治療
ヒト膀胱ガンは、p94RBタンパク質発現レトロウイルスベクターを膀胱に注入することによる固形腫瘍の腫瘍抑制遺伝子治療を実践するための理想的モデルを表す。ヒト膀胱ガンの最初の実験モデルはPeter A.Jones博士と彼の同僚達によって確立された(Ahlering,T.E.ら,Cancer Res.,1987,47:6660-6665)。表面乳頭状腫瘍(これは通常転移しない)から確立されたRT4細胞系のヒト膀胱腫瘍細胞は、22ゲージのカテーテルで雌ヌードマウスの膀胱に注入すると、限局的にのみ腫瘍を生ずることが示されている。対照的に、より戦闘的なヒト膀胱ガンから最初に単離されたEJ膀胱ガン細胞は、ヌードマウスの膀胱に自然に肺に転移する侵襲性の腫瘍を生じた(Ahlering,T.E.ら,Cancer Res.,1987,47:6660-6665)。それゆえ、このモデルはレトロウイルスベクターを用いたin vivo遺伝子導入による実験的膀胱ガンの治療のために使用できる。
RB-ヒト膀胱ガン細胞系5637(ATCC HTB9)およびRB+ヒト膀胱ガン細胞系SCaBER(ATCC HTB3)由来の腫瘍細胞を、Jonesおよび彼の同僚らによって最初に報告されたように、雌無胸腺症(nu/nu)ヌードマウス(6〜8週齢)にカテーテルで直接注入する(Ahlering,T.E.ら,Cancer Res.,1987,47:6660-6665)。
ヌードマウス膀胱腫瘍の発達と進行をテレビモニターを付けた光ファイバー装置で監視する。次に、p94RBを発現するレトロウイルスベクターを用いて実験的腫瘍を治療する。
ヒトp94RBタンパク質を高レベルで発現する選択されたPA317クローン(第4.3.7節参照)から高いウイルス力価を有する上清を得て、これが複製競合ウイルスを含有しないことを使用前に確認する。次に、腫瘍を治療するため、レトロウイルスベクター懸濁液を4x104から1x107コロニー形成単位(cfu)/mlまたはそれ以上という範囲の高力価で、そしてより好ましくは1x106cfu/ml以上の力価で、カテーテルによりマウス膀胱に直接注入する。当業者はこのような治療が膀胱に挿入したカテーテルにより必要なだけ多数回繰り返しうることを理解するであろう。p94RB遺伝子導入後の腫瘍後退を上記の光ファイバー装置により頻繁に監視する。
ガンを有するヒト膀胱にレトロウイルスベクター懸濁液を注入するという点を除いて、上記と同一の手順がヒト膀胱ガンを治療するのに使用される。
4.7.正常位肺ガンモデルを用いたin vivo試験
正常なp110RB発現を有するヒト大細胞肺ガンNCI-H460(ATCC HTB細胞を無胸腺症(nu/nu)ヌードマウスの右主気管支に注入する(1匹あたり細胞105個)。3日後に、p94RBまたはp110RBレトロウイルス産生細胞由来の上清を毎日3日間続けてマウスの気管支内に接種する。p94RBレトロウイルス上清で治療したマウス群では腫瘍形成は抑制される。対照的に、p110RBレトロウイルス上清で治療した他方の群では、マウスの大半が気管支内腫瘍を発症する。これは、p94RB発現レトロウイルスがRB+非小細胞肺ガン(NSCLC)細胞の増殖を阻止し、他方p110RB発現レトロウイルスはこれを阻止しないことを示す。
4.8.ヒト非小細胞肺ガンのin vivo治療
最初に、気管支鏡で近づける気管支内腫瘍および気管支閉塞を有する非小細胞肺ガン患者をp94RB遺伝子療法のために選択する。局所または全身麻酔のもとに気管支鏡によって治療を施す。手順の始めに、肉眼で見える腫瘍のできるだけ多くを気管支内で切除する。気管支貫通吸引用針(21G)を気管支鏡の生検チャンネルに通す。
残りの腫瘍部位に適切なレトロウイルスベクター上清(第4.3.7節参照)、アデノウイルスAd-RB94懸濁液(第4.3.8節参照)またはp94RB発現プラスミドベクター-リポソーム複合体(第4.3.4節および第4.3.6節参照)を5mlから10ml注入する。5μg/mlの濃度でプロタミンを添加する。1種またはそれ以上のベクターからなる治療的ウイルスまたはプラスミド上清の注入は、腫瘍の周辺及び内部、ならびに腫瘍に隣接する粘膜下組織に対して行なう。この注入は毎日5日間連続して繰り返し、その後は月1回行なう。この治療は腫瘍の進行が全く見られなくなるまで続けることができる。1年後に、患者を評価して治療を続けることが適切かどうかを決定する。
さらに、ウイルス上清の注入後24時間は、用心のため患者は外科用マスクを着用する。全ての医療従事者は気管支鏡検査とウイルス上清注入の間マスクを着用する。必要に応じて鎮咳薬を処方する。
4.9.リポソームでカプセル化した精製p94 RB タンパク質を用いたヒト肺ガンの治療または予防
また別の態様においては、p94RBタンパク質をそのような治療を必要とする細胞中に公知の任意の方法で導入することによって、標的腫瘍またはガン細胞を治療する。例えば、リポソームは薬剤、タンパク質およびプラスミドベクターのin vitroまたはin vivo両方の輸送ビヒクルとしての有用性のために広く研究されてきた人工膜小胞である(Mannino,R.J.ら,1988,Biotechniques,6:682-690)。赤血球陰イオン輸送体(Newton,A.C.およびHuestis,W.H.,Biochemistry,1988,27:4655-4659)、スーパーオキシドジスムターゼ及びカタラーゼ(Transwell,A.K.ら,1990,Biochmica et Biophysica Acta,1044:269-274)、およびUV-DNA修復酵素(Ceccoll,J.ら,Journal of Investigative Dermatology,1989,93:190-194)等のタンパク質がリポソーム小胞を用いて高い効率でカプセル化され、哺乳動物細胞にin vitroまたはin vivoで運ばれている。
さらに小粒子のエーロゾルは呼吸器疾患治療用薬剤のデリバリー方法を提供する。例えば、リポソームをビヒクルとして使用して、薬剤を小粒子エーロゾルの形で投与することができると報告されている。エーロゾルとして投与されると、薬剤は鼻咽頭表面、気管と気管支管系、および肺領域にかなり均一に置かれる(Knight,V.およびGilbert,B.,1988,European Journal of Clinical Microbiology and Infectious Diseases,7:721-731)。
肺ガンを治療または予防するため、治療的p94RBタンパク質を、例えば組換えバキュロウイルスAcMNPV-RB94に感染させた昆虫細胞または他の好都合な供給源から、イムノアフィニティークロマトグラフィー(第4.1および4.2節参照)により精製する。p94RBタンパク質をリポソームと混合し、高効率でリポソーム小胞に組み込む。こうしてカプセル化されたp94RBタンパク質は活性である。エーロゾルによるデリバリー方法は穏やかで、普通のボランティアおよび患者が良く我慢できるので、p94RB含有リポソームは任意の段階の肺ガン患者を治療するため、および/または高リスク集団において肺ガンを予防するために投与しうる。p94RB含有リポソームは鼻吸入または気管内チューブにより小粒子エーロゾルの形で、異常な細胞増殖を抑制するのに十分な用量で投与される。エーロゾル投与治療は患者1人に30分間、1日3回2週間にわたってほどこされ、必要な場合は繰り返される。それによってp94RBタンパク質は気道および肺領域の全体にあまねく運ばれる。この治療は必要なだけ長期間続けることができる。1年後に患者の全般的病状を評価して継続療法が適当かどうかを決定する。
4.10.p94 RB による治療は正常細胞に対しin vitroで非毒性である。
上記第4.3.7節に記述したp94RBタンパク質を発現するレトロウイルスベクターpLRB94RNLをLIPOFECTIN試薬(GIBCO BRL Life Technologies,Inc.,Gaithersburg,MD)を用いて正常マウス繊維芽細胞由来のレトロウイルスパッケージング細胞系PA317(ATCC CRL9078)に導入した。G-18含有培地で選択して単細胞コロニーを単離し、大量培養物に拡大させた。これらのクローン細胞は1年間の連続培養期間にわたって維持され、免疫細胞化学的染色(図11参照)またはウエスタンイムノブロッティングによって測定される高レベルのp94RBタンパク質を安定的に発現した。これらのクローンは、その親である正常マウスPA317細胞またはヒトp100RBタンパク質を発現するPA317細胞と形態(図11参照)および増殖速度の点で区別できなかった。これらの結果は、p94RBタンパク質発現は正常細胞にとってin vitroで非毒性であったことを示す。
4.11.p94 RB による治療は正常組織に対しin vivoで非毒性である。
上記第4.3.7節に記述したp94RBタンパク質を発現するレトロウイルスプラスミドベクターpLRB94RNLをDMRIE/DOPEリポソーム(VICAL,Inc.,San Diego,CA)と混合し、マウス膀胱にカテーテルを用いて直接注入した。この処置の48時間後に、マウスを屠殺し、膀胱を摘出した。マウス膀胱由来のパラフィン包埋組織片中のp94RBタンパク質を免疫組織化学的に染色することにより実証されるように(図12参照)、リポソームによってカプセル化されたp94RB発現レトロウイルスプラスミドベクターはマウス膀胱粘膜に浸透し、移行細胞の圧倒的多数においてp94RBタンパク質を発現した。p94RBを発現する移行上皮は、組織学的に正常であり(図12、パネルD、矢印)、非処置マウス膀胱またはリポソームのみで処置されたマウス膀胱の粘膜と区別できなかった(図12)。このような動物実験の結果は、p94RBによる治療が従来の細胞に有毒なガン治療と異なり、正常組織にin vivoで非毒性であることを強く示唆している。
5.微生物の寄託
以下の微生物は1993年2月10日にAmerican Type Culture Collection,12301 Parklawn Drive,Rockville,Maryland 20852に寄託された:
Figure 0003739787
本発明は本明細書に記述される具体的態様によって範囲を制限されるものではない。実際、これまでの記述及び添付の図より、当業者には本明細書に記述されているものに加えて本発明の種々の変法が明らかとなるであろう。そのような変法は本発明の請求の範囲に含まれるものとする。種々の刊行物がここに引用されている。それらの開示は参照としてその全体を組み入れている。
配列表
(2)配列番号1の情報
(i)配列の特性:
(A)長さ:3232塩基対
(B)型:核酸
(C)鎖の数:二本鎖
(D)トポロジー:関係なし
(ii)配列の種類:DNA
(ix)配列の特徴
(A)特徴を表す記号:CDS
(B)存在位置:19..2469
(xi)配列の記載:配列番号1
Figure 0003739787
Figure 0003739787
Figure 0003739787
Figure 0003739787
Figure 0003739787
(2)配列番号2の情報
(i)配列の特性:
(A)長さ:3232塩基対
(B)型:核酸
(C)鎖の数:二本鎖
(D)トポロジー:関係なし
(ii)配列の種類:DNA
(xi)配列の記載:配列番号2
Figure 0003739787
Figure 0003739787
Figure 0003739787
(2)配列番号3の情報
(i)配列の特性:
(A)長さ:816アミノ酸
(B)型:アミノ酸
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)配列の種類:タンパク質
(xi)配列の記載:配列番号3
Figure 0003739787
Figure 0003739787
Figure 0003739787

Claims (19)

  1. 以下の工程:
    a)哺乳動物から取り出した、異常に増殖している細胞を含む組織試料を、有効投与量のp94 RB をコードする発現ベクターと接触させる工程であって、但しそのp94 RB タンパク質は配列番号3に記載のアミノ酸配列を有しており、かつ、該異常に増殖している細胞は膀胱癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、線維肉腫、骨肉腫および頸癌から成る群より選択される少なくとも1つの腫瘍又は癌細胞である、工程;ならびに
    b)該異常に増殖している細胞において、その異常に増殖している細胞の増殖を抑制するのに有効な量でp94 RB 発現させる工程
    を含む過程により、哺乳動物の異常に増殖している細胞をin vitroで処理する方法。
  2. 哺乳動物から取り出した、異常に増殖している細胞を含む組織試料を、有効投与量の配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するp94 RB タンパク質と接触させる工程を含む過程により、哺乳動物の異常に増殖している細胞をin vitroで処理する方法であって、該異常に増殖している細胞は膀胱癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、線維肉腫、骨肉腫および頸癌から成る群より選択される少なくとも1つの腫瘍又は癌細胞である、前記方法。
  3. 哺乳動物における異常な細胞増殖により特徴付けられる疾病をその細胞増殖を抑制することによって治療するための組成物であって、p94RBをコードする発現ベクターを含み、前記発現ベクターが配列番号1に記載のDNA配列を有するp94RBをコードする遺伝子を含んでおり、かつ、該異常な細胞増殖は膀胱癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、線維肉腫、骨肉腫および頸癌から成る群より選択される少なくとも1つである、前記の組成物。
  4. 哺乳動物における異常な細胞増殖により特徴付けられる疾病をその細胞増殖を抑制することによって治療するための組成物であって、p94RBをコードする発現ベクターを含み、前記発現ベクターが配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するp94RBをコードする遺伝子を含んでおり、かつ、該異常な細胞増殖は膀胱癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、線維肉腫、骨肉腫および頸癌から成る群より選択される少なくとも1つである、前記の組成物。
  5. 発現ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターから成る群より選択される、請求項3または4記載の組成物。
  6. ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびヘルペスウイルスベクターから成る群より選択され、p94RBをコードする遺伝子が、レトロウイルスプロモーター、アデノウイルスプロモーター、CMVプロモーターおよびβ−アクチンプロモーターから成る群より選択されるプロモーターの制御下にある、請求項5記載の組成物。
  7. 発現ベクターが、プラスミドpCMV-s-RB42およびプラスミドpβA-s-RB34から成る群より選択される、請求項6記載の組成物。
  8. 哺乳動物がヒトである、請求項3記載の組成物。
  9. 腫瘍または癌細胞が、癌および肉腫細胞から成る群より選択される、請求項8記載の組成物。
  10. 腫瘍または癌細胞が、RB、p53、c-myc、N-rasおよびc-yes-1遺伝子から成る群より選択される、少なくとも一つの遺伝的に欠損している腫瘍サプレッサー遺伝子またはがん遺伝子を有する細胞である、請求項8記載の組成物。
  11. 腫瘍または癌細胞が、腫瘍サプレッサー遺伝子の検出可能な遺伝的欠損を有さず、該腫瘍サプレッサー遺伝子が、RB遺伝子およびp53遺伝子から成る群より選択される、請求項8記載の組成物。
  12. 癌細胞が膀胱癌細胞である、請求項9記載の組成物。
  13. 哺乳動物における異常な細胞増殖により特徴付けられる疾病をその細胞増殖を抑制することによって治療するための、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するp94RBタンパク質を含む組成物であって、但し該異常な細胞増殖は膀胱癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、線維肉腫、骨肉腫および頸癌から成る群より選択される少なくとも1つである、前記組成物
  14. 哺乳動物における異常な細胞増殖により特徴付けられる疾病をその細胞増殖を抑制することによって治療するための、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するがp110RBではないp94RBタンパク質を含む組成物であって、該異常な細胞増殖は膀胱癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、線維肉腫、骨肉腫および頸癌から成る群より選択される少なくとも1つである、前記方法
  15. 哺乳動物がヒト患者である、請求項13記載の組成物。
  16. p94RBタンパク質がリポソーム担体内に封入されている、請求項15記載の組成物。
  17. 腫瘍または癌細胞が、RB、p53、c-myc、N-rasおよびc-yes-1遺伝子から成る群より選択される、一つまたはそれ以上の遺伝的に欠損している腫瘍サプレッサー遺伝子およびがん遺伝子を有する細胞である、請求項15記載の組成物。
  18. 腫瘍または癌細胞が、RB遺伝子およびp53遺伝子から成る群より選択される腫瘍サプレッサー遺伝子の検出可能な遺伝的欠損を有さない細胞である、請求項15記載の組成物。
  19. 哺乳動物において異常に増殖している細胞を処理して細胞増殖を抑制するための組成物であって、p94RBをコードする発現ベクターを含み、前記発現ベクターは配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するp94RBタンパク質をコードする遺伝子を含んでいるが、但し、該タンパク質はp110RBではなく、かつ、該異常に増殖している細胞は膀胱癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、線維肉腫、骨肉腫および頸癌から成る群より選択される少なくとも1つの腫瘍又は癌細胞である、前記の組成物。
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