JP3733509B2 - 交走木理を有する単板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、波状木理がいわゆる柾目木取りの単板表面に人工的に現われている単板および単板シートに関する。また、本発明は、かかる波状木理が柾目木取りの単板の表面に人工的に現われるように加工するところの波状木理を有する単板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、単板(突板とも呼ばれる)は、木材(多くは天然の銘木)を切削によって薄肉のシート材(厚さ約0.2〜0.5mm)に加工することにより、作られている。
そして、この切削加工には、通常、スライサー、ロータリレース等の単板切削機が利用されている。これら単板切削機は、木材を切り裂くための部品として、刃型を備えるが、この刃型としては、従来、刃先の先端縁が刃型の長手方向に一直線に延びるところの刃型が一般に使用されてきた。
また、こうして加工された単板は、一般に紙、不織布等で裏打ちして単板シートに仕上げられ、そして、建築用、家具用並びに車両内装用などの表面化粧材としてひろく利用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、天然の樹木の中には、断面(通常、柾目)において木工業界でチヂミ杢目と呼ばれる一種の交走木理を有するものがいくつか存在する。例えば、トチにあってはトチトラチヂミ杢目と呼ばれる一種の交錯木理が見出され、またマホガニーにあっては、ゴザチヂミ杢目と呼ばれる一種の波状木理が見出される。その他、タモ、メープル、カラマツ、アフリカンマホガニー等においても、各種の交走木理が見出される。
そして、かかる交走木理は、一般に一定の種類の樹木であってしかも限られた部位において見出されるものであるため、特に意匠的に優れた交走木理を有する木材は、希少価値として大変尊重されている。
しかし、近年の木材資源の枯渇化により、意匠価値の高い交走木理(とりわけ波状木理、交錯木理など)を生ずる樹種の木材の入手がしだいに困難になっている。このため、意匠的に優れた交走木理を有する単板は、取引市場においてますます珍重される傾向にある。
【0004】
本発明は、かかる事情を背景としてなされたものであって、木材、特に波状木理を生ずる樹種であって実際には波状木理を有していない木材より、適当な加工によって、波状木理が柾目木取りの表面に人工的に現われているところの単板を得ることを最大の課題とするものである。すなわち、本発明の主たる課題は、新規な、波状木理を有する単板(単板シート)および該単板の製造方法を提供することにある。その他の課題は、以下の記載および特許請求の範囲の記載並びに図面を参照することにより理解される。
【0005】
本発明者は、かかる課題を達成するべく鋭意研究を重ね、その結果、まったく意外なことに、波形の刃面が刃型の長手方向に連続して形成された刃先を有する刃型を備えたところの単板切削機を用いて、木材フリッチを切削面が柾目となるように(所謂、柾目木取りで)所望の厚さに切削加工し、次いで、得られた単板を平滑なものに加工することにより、より詳細には、次に述べる条件(a) および(b) の下で切削加工およびその次の加工(平滑化)を行なうことにより、柾目木取りの単板の表面に、波状木理が人工的に現われている単板を、製造することができることを見い出した。
(a) 単板切削機を用いる切削加工において、刃先の先端縁が刃型の幅方向に関して波形状に変位しかつ各波形の谷部が刃型の長手方向に延びる同一の線上に位置するところの波形の刃面を有し、かつ、該波形の刃面は刃型の移動軌跡および/またはバイアス角に対応するように偏向した傾斜面をなすところの刃型を使用する。
(b) その次の加工において、切削加工により得られた起伏する(波打つ)形態の単板を、熱固定または熱圧締によって平滑化せしめる。
本発明者は、これら構成(a) (b) の採用により、波状木理を最もより鮮明に、より確実にそしてより都合良く、柾目木取りの単板の表面に創出することができることを、研究過程の中で確認してきた。従って、以上の知見より、ここに本発明が完成された。
【0006】
より明確には、本発明は、天然木フリッチもしくは人工杢フリッチを切削加工しそして平滑なものに加工することによって人工的に創り出された波状木理が単板の表面に柾目の木理と一体となって鮮明に現われていることを特徴とする、波状木理を有する単板に関する。また、本発明は、上記の波状木理を有する単板を紙、不織布などの繊維質シートまたはポリエチレンフィルムなどの合成樹脂フィルムで裏打ち貼着してなる、波状木理を有する単板シートにも関する。
【0007】
また、本発明は、波形の刃面が刃型の長手方向に連続して形成された刃先を有する刃型を備えたところの単板切削機を用いて、木材フリッチを切削面が柾目となるように所望の厚さに切削加工し、次いで、得られた柾目木取りの単板を平滑なものに加工することにより、波状木理が表面に人工的に現われている単板を製造する方法であって、前記切削加工において、刃先の先端縁が刃型の幅方向に関して波形状に変位しかつ各波形の谷部が刃型の長手方向に延びる同一の線上に位置するところの波形の刃面を有し、該波形の刃面は刃型の移動軌跡および/またはバイアス角に対応するように偏向した傾斜面をなすところの刃型を使用し、また前記次の加工において、得られた起伏する形態(つまり波打つ形態)の単板を熱固定または熱圧締によって平滑化せしめることを特徴とする、波状木理を有する単板の製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、上記の製造方法に使用される刃型、すなわち、単板切削機に備えられる刃型であって、刃型の刃先は、波形の刃面を刃型の長手方向に連続して形成してなり、そして該波形の刃面は、刃先の先端縁が刃型の幅方向に関して波形状に変位しかつ各波形の谷部が刃型の長手方向に延びる同一の線上に位置するところの波形の刃面となっており、さらに前記波形の刃面は、刃型の移動軌跡および/またはバイアス角に対応するように偏向した傾斜面をなすものであることを特徴とする、交走木理を単板の表面に現われ出すための刃型に関する。
【0009】
さらに、本発明は、より好ましくは、以下の特徴(1) 〜(4) のうちいずれかを有する刃型に関する。
(1) 波形の刃面が、波形の間隔もまた波形の高さも一定に保たれるように、規則的に繰り返し形成された刃先を有する。
(2) 波形の刃面が、波形の間隔は一定に保たれかつ波形の高さは不定に保たれるように、繰り返し形成された刃先を有する。
(3) 波形の刃面が、波形の間隔は不定に保たれかつ波形の高さは一定に保たれるように、繰り返し形成された刃先を有する。
(4) 波形の刃面が、波形の間隔もまた波形の高さも不定に保たれるように、不規則に形成された刃先を有する。
【0010】
【発明の実施の形態】
交走木理とは、一般に、木材の断面において木材細胞の配列(木理)が樹軸または木材の軸方向に対して平行でない場合の木理を指し、木理が樹軸または木材の軸方向と平行であるところの通直木理と対比される。交走木理としては、例えば斜走木理、らせん木理(木理が樹軸に対して螺旋状に走っている)、交錯木理(らせん木理が周期的に反対方向になり、木理が交錯する)および波状木理(波状の木理が現われている)などが知られている。
かかる交走木理のうち、意匠的ないし工芸的価値の高い、木工業界でチヂミ杢目(縮み杢目とも表記される)と呼称される一種の交走木理が存在する。この種の交走木理は、カラマツ、トチ、タモ、マホガニー、アフリカンマホガニー、ラワン等の天然の樹木の断面(普通、柾目)において見出される。これは、その樹木の普通の柾目木理とは異なり、濃い色調の部分と淡い色調の部分とが偏って現われ、多くは交互に繰り返されて、年輪模様とは別の濃淡模様(濃淡の縞模様)が、その柾目木理に新たに付加されかつその柾目木理と一体になって現われ出ている特異な木理をなす。
上記の交走木理には、樹種等に依っては立体感のある優れた木理を作り出すものがある。図13に示すような、トチ柾目単板に現われ出た交錯木理(トチトラチヂミ杢目とも呼ばれる)がその例に該当する。図13に示される木理は、立体感に大変あふれ、柾目単板の表面に、あたかも鋭い突条と鋭い溝とが繰り返し形成されているかのごとく見えるものである。
また、上記の交走木理には、看者が単板を見る角度によって、濃淡の縞模様が変化するものが比較的多く存在する。例えば、図14に示すような、タモ柾目単板に現われ出た波状木理(タモゴザチヂミ杢目とも呼ばれる)がその例に挙げられる。
本発明は、以上のような柾目に現われる交走木理を、特に交走木理を生ずる樹種の木材で実際には交走木理を有していないものについて、その柾目単板(柾目木取りの単板)の表面に人工的に現われ出るようにしたものである。
なお、本発明における「交走木理」とは、天然の樹木において生ずる、交錯木理、波状木理など、各種の交走木理の総てを包含する。
【0011】
本発明における木材単板は、天然木の単板でも、また人工杢単板でもよい。つまり、本発明に従う単板の製造方法は、原料の木材として、天然木の丸太、木材フリッチにも、また人工杢フリッチにも適用することができる。従って、本発明は、天然木フリッチもしくは人工杢フリッチの切削加工によって得られ、かつ該切削加工により波状木理または交錯木理が表面に現われ出ている単板を包含するものである。
本発明で使用される木材の樹種については、基本的には任意であるが、より好ましくは、交走木理を生ずる種類の樹木が利用される。例えば、以下に挙げる樹種の中から、単板化粧材の用途、消費者の嗜向等に応じて適宜選択される。国産材として、唐松、檜、楢、欅、桜、楡、黒柿、タモ、栃、翌檜、楓、楠木、桂、槐、黄蘗、潮路;外国産材として、ホワイトシカモア、ローズウッド、チーク、マホガニー、アフリカンマホガニー、ラワン、メランチ、コクタン、シタン、アメリカンブラックウォールナット、カリン、ゼブラウッド、マンガシロ、ブラジリアンローズ、バーシモン、シルバーローズ、パルマ、シルキーオーク、シルバーハート、タイワンクス、チェリー、ミルトル、マグノリヤ、黒レオ、白レオ、サペリ、ブビンカ、マコレ、マドローナ、メープル、クラロウォールナット、アッシュ、ゲロンガン。
特に有利なものとしては、唐松、タモ、栃、翌檜、楠木、ホワイトシカモア、マホガニー、アフリカンマホガニー、ラワン、メランチ、ゲロンガンなどの、相対的に頻繁に交走木理を生ずる種類の樹木が挙げられる。
【0012】
単板は、一般に、上記木材のフリッチ等より、スライサー、ハーフロータリーあるいはロータリレース等の単板切削機を用いて切削加工することにより、即ち単板切削機に備えた刃型によって、厚さ約0.2〜0.5mmの薄肉シート材に切り出すことにより、作られる。この切削加工の一つとして、木材を切削面(切削により作られる単板の表面)が柾目となる方向に切削するところの柾目木取りがある。
本発明は、この柾目木取りの切削加工において、従来に無い特殊な形状の刃型を使用したものである。この種の刃型は一般に、幅(刃先の先端縁から切削機に取付けられる側の端縁までの長さ)約5〜30cm、長さ(刃先が延びる長手方向の長さ)約50〜500cmを有する金属材(鋼材)であるが、本発明の新規な刃型は、波形の刃面が刃型の長手方向に連続して形成された刃先を有する刃型であってかつ請求項に規定される特徴を有するものである。
かように特定された本発明の刃型は、これを備えた単板切削機を用いて木材を柾目木取りで切削加工するとき、刃先が直線状をなす従来一般の刃型を使用した場合とは異なり、木材フリッチ等が切り裂かれる部位に加わる剪断応力について強弱のむら(分布)が生じ、かつ、この応力の強弱むらは刃型の長手方向にわたって広がって発生するものと考えられる。
したがって、これが要因となって、切削された柾目単板の表面に、柾目単板の普通の木理とは異なり、濃い色調の部分と淡い色調の部分とが交互に繰り返されて、年輪模様とは別の濃淡の縞模様が、その柾目木理に新たに付加されかつその柾目木理と一体になって、現われているところの一種の交走木理が創り出されるものと推量される。
なお、非直線状の刃先を有する刃型は、例えば特開平 6-15612号公報に開示されている。しかし、この公報に記載された刃型は、凹刃と凸刃が互い違いになって刃型の長手方向に連続して形成されている刃型であり、刃先の形状に関して、刃先の先端縁が刃型の幅方向に関して波形に変位する形状をなしかつそのような刃面が刃型の長手方向に連続して形成されているところの本発明の刃型とは、まったく異なるものである。上記の公報に記載の刃型を使用して、木材の切削加工を行なっても、交走木理を有する単板は得られない。その上、上記の公報は、交走木理を人工的に付加する技術に関して一切の提案および示唆を与えるものでない。要するに、特開平 6-15612号公報は本発明に対して何らかの契機ないし起因となるものでない。
【0013】
本発明の刃型において、刃面の形態は、波形である限り、基本的には任意であり、作り出そうとする交走木理の種類(例えば交錯木理かあるいは波状木理か)に応じて、または交走木理の形態(例えば、濃淡の縞模様において濃色部分および淡色部分の幅はどれくらいに設定するのか)に応じて、波形の形状および波の間隔などが適宜決定される。
本発明の刃型における波形の刃面は、通常、波形の間隔(波の山部と隣の山部との間隔あるいは谷部と隣の谷部との間隔)が約2〜約10mmの範囲にあり、また、波形の高さ(波の山部と谷部の距離(刃型の幅方向における))が約2〜約15mmの範囲にある。
また、一般に、刃面の波形が鋭い(傾斜が急な)ものは、交錯木理の形成に有利であり、一方、刃面の波形がなだらかな(傾斜が緩やかな)ものは、波状木理の形成に有利である。
【0014】
しかしながら、波形刃面の形態は基本的には任意であるとはいえ、天然の交走木理により近い、つまり商業的に高い評価を得る交走木理(波状木理または交錯木理)を人工的に柾目単板の表面に現われ出すという目的を達成するためには、単板切削機に備える刃型としては、刃先の先端縁が刃型の幅方向に関して波形状に変位し、かつ、各波形の谷部が刃型の長手方向に延びる同一の線上に位置するところの波形の刃面を有する刃型を使用すべきである。
この種の刃型の具体的な例としては、上記した、(1) 波形の間隔および波形の高さが一定に保たれているもの、(2) 波形の間隔は一定に保たれているが、波形の高さは不定に保たれているもの、(3) 波形の高さは一定に保たれているが、波形の間隔は不定に保たれているもの、および、(4) 波形の間隔も波形の高さも不定に保たれているものが挙げられる。
【0015】
また本発明の刃型は、あるバイアス角をもたせてスライサーの刃型台に取り付けられる。そして刃型は、切削時つまりスライサーの運転時、固定された木材フリッチに対して、直進するのでなく、斜めに(一般に角度5°ないし40°の斜め方向に)スライド移動する構成となっている。バイアス角は、普通の横突きスライサーにあっては、5°ないし50°の角度、普通30°ないし40°の角度に設定され、また縦突きスライサーにあっては、普通40°以上の角度、最大限およそ80°の角度に設定される。スライサーは、特定のバイアス角を不変に設定する固定式の構造のものでもよく、また、バイアス角を自由に変更調節しうる可変式の構造のものでもよい。なお、切削される木材フリッチは、単板切削機に刃型の前進方向に対して一般に20°ないし35°、普通25°ぐらいの角度で斜めに固定される。
而して、以上の単板切削機の構造を考慮した上で、本発明の刃型は、波状木理または交錯木理がより鮮明に単板表面に形成されうるようにするために、上記の波形の刃面を有するとともに、その波形の刃面が、上記に記載したところの刃型のバイアス角に対応するように偏向した傾斜面をなす構成となっている。もしくは、例えばスライサーの刃型が直進するのでなく曲線状の軌跡に沿って移動するような場合には、本発明の刃型は、波形の刃面が刃型の移動軌跡に対応するように偏向した傾斜面をなす構成とすることもできる。
【0016】
本発明による交走木理を有する単板の製造方法は、上述の各種の刃型を備えた単板切削機を用いて、木材を切削面が柾目となるように所望の厚さに切削加工することを第一の段階とするものであり、そして、同方法は、第一の段階で得られた起伏する形態(つまり波打つ形態)の単板を、熱固定または熱圧締により平滑に加工することを第二の段階とするものである。
第二の段階の加工における熱固定は、通常、熱ロールを使用して、温度:約100〜約150℃、圧力:約5 kg/cm2 以上、通常約10 kg/cm2 まで、最大限として約12 kg/cm2 までの条件にて、行なわれる。熱ロールは、2本のロール一対でもよいが、カレンダロールのように複数本のロールを組み合わせて、複数回の熱固定を行なうようにしてもよい。
また、第二の段階の加工における熱圧締は、通常、プレス機を用いて、温度:約100〜約150℃、圧力:約5 kg/cm2 以上、通常約10 kg/cm2 まで、最大限として約12 kg/cm2 、および、時間:約1〜2分の条件で行なわれる。
第二の段階の加工において、より好ましくは、熱固定または熱圧締は、温度:約105〜約130℃、圧力:約6 kg/cm2 以上の条件にて行なわれ、また、最も好ましくは、熱固定または熱圧締は、温度:約110〜約120℃、圧力:約6〜約8 kg/cm2 以上の条件にて行なわれる。本発明の単板は、通常、製造の後適当な基材(下記参照)の上に貼着され、次いで、表面研磨等を経て交走木理の単板製品に仕上げられる。熱固定または熱圧締を上述のより好ましい条件で行なうとき、上記の仕上げ過程における単板表面の研磨の後において、本発明の単板の表面上の交走木理が不明瞭になることも無く、また消失することも無く、また特に、上記の単板製品の長期間の使用のうちに本発明の単板が再び起伏する(波打つ)形態に戻ることが抑えられ、単板製品の表面が粗面化することもない。
【0017】
本発明に従い製造された波状木理を有する単板は、単板自体の形態のままでも利用可能であるが、その波状木理を有する単板を紙および不織布等の繊維質シートでまたは合成樹脂フィルムで裏打ち貼着することにより、波状木理を有する単板シートの形態で利用することも可能である。ここで用いられる紙としては、和紙、洋紙(中質紙、上質紙等)、板紙(クラフト紙)および樹脂含浸紙などが挙げられる。また、不織布としては、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビニロン、キュプラ等を原料繊維とする不織布が使用される。合成樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の鎖状ポリオレフィンや環状ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂(共重合体樹脂も含む。)からなるフィルムが使用される。本発明は、かかる各種の単板シートにも関する。
【0018】
また、本発明の交走木理を有する単板は、木質積層体の表面材として利用することも可能であり、本発明の単板は、特に、下記2種の積層体の表面材として利用するのがより好ましい。
−単板/紙または不織布/合成樹脂フィルム/紙または不織布の積層体
合成樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の鎖状ポリオレフィンや環状ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂(共重合体樹脂も含む。)からなるフィルムが使用され、また、紙または不織布としては上記と同様のものが利用される。
−単板/紙または不織布/合成樹脂フィルム/金属箔/合成樹脂フィルム/紙または不織布の積層体
金属箔としては、鉄箔、アルミニウム箔、ステンレススチール箔が使用され、また、紙または不織布、および合成樹脂フィルムとしては、上記と同様のものが利用される。
【0019】
さらに、本発明の交走木理を有する単板および単板シートは、例えば下記の基材の上に貼着して、様々な木質製品に仕上げることも可能である。
−曲げ可能な厚肉の繊維質シート
この繊維質シートは、厚肉の可撓性柔軟材料であって、特にクッション性に富むものが適する。シートの素材としては、例えば洋紙、和紙、板紙、織布、および不織布が使用され得る。
−発泡樹脂シート
発泡樹脂シートとしては、発泡ポリウレタンまたは発泡ポリスチレンが挙げられ、とりわけ好ましくは発泡ポリスチレンである。
−木質合板
木質合板としては、従来より頻繁に使用されている3層合板、5層合板などが利用され得る。
−中質繊維板(medium density fiber board)
中質繊維板は、その厚さ、繊維の種類および集密度などにつき特に制限されない。
−無機質板
無機質板としては、石膏ボード、珪酸カルシウム板、繊維混入珪酸カルシウム板、繊維混入石膏ボード、ガラス繊維混入無機質・フェノール樹脂発泡板またはガラス繊維・水酸化アルミニウム混入フェノール樹脂発泡板、および発泡コンクリート等も利用可能である。
−ガラス板
板ガラスよりなるものは、表面が平坦であるので、より好ましい。
−合成樹脂板
合成樹脂板としては、例えば、メラミン樹脂板、ABS樹脂板、ポリウレタン樹脂板、エポキシ樹脂版、アクリル樹脂板などが利用でき、また、エポキシ樹脂等を木材等に含浸させた板も、同様に利用することができる。
【0020】
こうして製造された本発明の交走木理を有する単板および単板シート、並びにこれらを使用した木質積層体および木質製品は、新規な化粧材であり、木造建築物、コンクリート建造物等の天井、内壁および床の表面に貼着される内装材として、また家具、調度品、什器、家電製品(テレビキャビネット)および事務用品等の表面被覆材として、さらには、自動車のインストルメントパネル等の交通機関の内装材として、あるいは、楽器(例えばギター、ピアノ)の表面材として、有利に利用することができる。
【0021】
【実施例】
以下、本発明の最良の実施形態と思われるいくつかの実施例を説明することにより、本発明をより明らかにする。
【0022】
実施例1
図1は、この実施例の単板(樹種シルバーハート、柾目、厚さ0.3mm)を示し、図2は、この単板の製造に用いられたシルバーハートの木材フリッチの図1に対応する部位の柾目表面を示す。
これらの写真より、図1に示される実施例1の単板は、ゴザチヂミ杢目と呼ばれる波状木理が人工的に創り出され、かつ、その波状木理が本来のシルバーハート柾目の木理と一体になって現われ出ていることがわかる。
【0023】
実施例2
図3は、この実施例の単板(樹種サペリ、柾目、厚さ0.3mm)を示し、図4は、この単板の製造に用いられたサペリの木材フリッチの図3に対応する部位の柾目表面を示す。
これらの写真より、図3に示される実施例2の単板は、実施例1と同様に、交走木理の一種である波状木理が人工的に創り出され、かつ、その波状木理が本来のサペリ柾目の木理と一体になって現われ出ていることがわかる。
【0024】
実施例3
図5は、この実施例の単板(樹種ホワイトシカモア、柾目、厚さ0.3mm)を示す。
この写真より、実施例3の単板は、交錯木理が人工的に創り出され、かつ、その交錯木理が本来のホワイトシカモア柾目の木理と一体になって現われ出ていることがわかる。
【0025】
実施例4
この実施例は、上記のような、各種の交走木理を有する単板の製造法を説明する。
図6は、この方法に使用された単板切削機(スライサー)の刃型の主要部を示す。同図に示すように、刃型1は、波形の刃面2が刃型1の長手方向(図中、X方向)に連続して形成された刃先3を有する。刃先3の先端縁4が刃型1の幅方向(図中、Y方向)に関して波形状に変位することにより、波形の刃面2が形成されている。
刃型1における波形刃面2は、波形の間隔(波の山部5と隣の山部5’との間隔あるいは谷部6と隣の谷部6’との間隔)が例えば約7〜8mmであり、波形の高さ(波の山部5と谷部6の距離)が例えば約5〜6mmである。
ここで、特徴的なことは、その波形の刃面2は刃型1の長手(X)方向に連続して、各波形の谷部6が刃型1の長手(X)方向に延びる同一の線(図6中、鎖線A)上に位置するように、形成されていることである。
さらに、本実施例の刃型1は、その波形の刃面2が、刃型1のバイアス角および刃型1の斜めに移動する曲線軌跡に対応するように、刃型の幅(Y)方向に対して角度αだけ斜めに偏向した傾斜面をなす。従って、先端縁4における波形と基端側の波形とは位相が角度αだけずれている。
なお、同じく実施例のハーフロータリー用刃型は、図示しないが、上記の波形の刃面を刃型の長手方向に形成するとともに、その波形の刃面が刃型のバイアス角に相当する角度(偏向角α)だけ斜めに偏向した傾斜面をなす。
【0026】
そして、本実施例では、最初に、上記の刃型を備えた2種類の単板切削機を用いて、それぞれ、木材を切削面が柾目となるように(所謂、柾目木取りで)所望の厚さに切削加工した。
一つは、図7に示すように、スライサー7を用いて原料の木材フリッチ8(これはノーズバー台10等の上に押さえ付けられている。)を水平に矢印P方向に移動させることにより、刃型1によってフリッチ8を切削面9が柾目となるように切削しそして例えば厚さ0.3mmの単板を得た。
もう一つは、図8に示すように、ハーフロータリー11を用いて、原料の木材フリッチ8(これはチャック12により取付け固定されている。)を矢印Q方向に回転させることにより、刃型1によって、フリッチ8を切削面9が柾目となるように切削しそして例えば厚さ0.3mmの単板を得た。なお、図中、13は、ノーズバーを示す。
次に、本実施例では、得られた、波打つが如く起伏する形態の単板を、3〜4本の熱ロールを用いて温度:約120℃、圧力:約7〜8 kg/cm2 の条件で熱固定することにより、その表面が平滑となるように加工した。
または、プレス機を用いて、上記の起伏する形態の単板を温度:約130℃、圧力:約8 kg/cm2 および時間:約1分の条件で熱圧締することにより、その表面が平滑となるように加工した。
而して、上記の過程を経て作られた単板は、例えば図1および図3に示すような、柾目木理の単板表面に波状木理が現われ出ている単板、または図5に示すような、柾目木理の単板表面に交錯木理が現われ出ている単板であった。これら交走木理を有する柾目単板は、図示するように、いずれも、波状もしくは交錯木理が鮮明、明瞭に現われ出ている。
【0027】
実施例5ないし8
これらの実施例は、実施例4で使用された刃型を備えた単板切削機(スライサー)を用い、次の手順に従って各種の本発明による交走木理を有する単板を製造したところの製造プロセスの例を示す。
実施例5では、上記のスライサーを用いて、木材フリッチ(樹種:シルバーハート)を切削面が柾目となるようにそして木材繊維とほぼ直交する方向から切削加工し、表面が波打っている厚さ0.22mmの単板を得た。続いて、切削された単板を熱風乾燥もしくは減圧乾燥により、単板の含水率が10〜25%となるまで乾燥した。その後、プレス機を用いて、起伏する形態の薄突き単板を次の仕度条件(プレス機の上熱盤と下熱盤との間に差し入れられた材料の積層構成)および圧締条件にて熱圧締することにより、平滑な単板製品に加工した。
仕度条件:上熱盤/0.4mm厚のクッションペーパー/単板5枚重ね/0.4mm厚のクッションペーパー/下熱盤
圧締条件:温度105〜110℃、圧力6 kg/cm2 および時間90秒間。
熱圧締の後、単板が常温に冷却されるまで、同じ圧力を維持したまま圧締を続けた。
本実施例にあっては、波打つ状態の単板が十分平らに伸びて、平滑な単板に仕上げられた。この単板製品は、図1、図3に示すような波状木理が柾目木理の単板表面に現われ出ている単板であって、しかも、表面がサンダー等で研摩されても、表面の波状木理が不明瞭になることも消失することも無く、また、長期間の使用のうちに再び波打つ形態に戻ってしまうことが起きにくいものであった。
また、実施例6では、上記のスライサーを用いて、木材フリッチ(樹種:マコレ)を切削面が柾目となるようにそして木材繊維とほぼ直交する方向から切削加工し、表面が波打っている厚さ0.55mmの単板を得た。続いて、切削された単板を熱風乾燥もしくは減圧乾燥により、単板の含水率が10〜25%となるまで乾燥した。その後、プレス機を用いて、起伏する形態の厚突き単板を次の仕度条件および圧締条件にて熱圧締することにより、平滑な単板製品に加工した。
仕度条件:上熱盤/0.4mm厚のクッションペーパー/単板1枚/0.4mm厚のクッションペーパー/下熱盤
圧締条件:温度120℃、圧力6 kg/cm2 および時間40秒間。
熱圧締の後、単板が常温に冷却されるまで、同じ圧力を維持したまま圧締を続けた。
本実施例にあっては、単板が厚突きのものであるが、波打つ状態の単板が十分に平らに伸びて、平滑な単板に仕上げられた。この単板製品は、波状木理が柾目木理の単板表面に現われ出ている単板であって、その上、表面がサンダー等で研摩されても、表面の波状木理が不明瞭になることも消失することも無く、また、長期間の使用のうちに再び波打つ形態に戻ってしまうことが起きにくいものであった。
また、実施例7では、実施例6と同様に、上記のスライサーを用いて、木材フリッチ(樹種:マコレ)を切削面が柾目となるように切削加工し、表面が波打っている厚さ0.55mmの単板を得た。そして、実施例6と同様に、切削された単板を含水率が10〜25%となるまで乾燥した後、プレス機を用いて、起伏する形態の厚突き単板を温度120℃、圧力8 kg/cm2 および時間35秒間の条件にて熱圧締することにより、平滑な単板製品に加工した(仕度条件は実施例6と同様である。)。なお、熱圧締の後、単板が常温に冷却されるまで、同じ圧力を維持したまま圧締を続けた。
さらに、実施例8では、実施例6と同様に、上記のスライサーを用いて木材フリッチ(樹種:マコレ)を切削面が柾目となるように切削加工し、波打っている厚さ0.55mmの単板を得た。その後、実施例6と同様に、切削された単板の乾燥に続いて、プレス機を用いて起伏する形態の厚突き単板を温度120℃、圧力10 kg/cm2 および時間30秒間の条件にて熱圧締することにより、平滑な単板製品に加工した(仕度条件は実施例6と同様である。)。なお、熱圧締の後、単板が常温に冷却されるまで、同じ圧力を維持したまま圧締を続けた。
これら実施例にあっては、単板が厚突きのものであるが、波打つ状態の単板が十分に平らに伸びて、平滑な単板に仕上げられた。これらの単板製品は、波状木理が柾目木理の表面に現われ出ている単板であって、その上、表面研摩がなされても、波状木理が不鮮明にならず、消失もせず、また、長期間の使用のうちに再び波打つ形態に戻ってしまうことも、殆ど起きないものであった。
【0028】
実施例9ないし12
これらの実施例は、波状木理または交錯木理を柾目木取りの単板の表面に人工的に現われ出すのに適するいくつかの刃型を、図9ないし図12に基づいて説明する。
これらの図に示すように、これら実施例の刃型1aないし1dは、いずれも、波形(つまり、刃先3の先端縁4が刃型の幅(Y)方向に関して波形状に変位する形状)の刃面2が刃型1の長手(X)方向に連続して、かつ各波形の谷部6が刃型1の長手(X)方向に延びる一つの直線A上に位置するように、形成されている。
図9に示す実施例9の刃型1aは、波形の刃面2が、波形の間隔Lも、また波形の高さhも一定に保たれるように、規則的に繰り返し形成された刃先3を有する。この刃型1aは、ゴザチヂミ杢目と呼ばれるような波状木理を人工的に単板表面に現われ出すのに適する。
また、図10に示す実施例10の刃型1bは、波形の刃面2が、波形の間隔Lは一定に保たれかつ波形の高さはh1 、h2 とそれぞれ異なるように、繰り返し形成された刃先3を有する。この刃型1bもまた、上記の波状木理に似た波状木理を人工的に単板表面に現われ出すのに適する。
さらに、図11に示す実施例11の刃型1cは、波形の刃面2が、波形の高さhは一定に保たれかつ波形の間隔はL1 、L2 、L3 とそれぞれ異なるように、繰り返し形成された刃先3を有する。
また、図12に示す実施例12の刃型1dは、波形の刃面2が、波形の間隔はL1 、L2 、L3 、L4 とそれぞれ異なるように、かつ波形の高さはh1 、h2 とそれぞれ異なるように、繰り返し形成された刃先3を有する。
これらの刃型1c、1dは、トラチヂミ杢目と呼ばれるような交錯木理を人工的に単板表面に現われ出すのに適する。
ここで、重要なことは、これら実施例の刃型1aないし1dは、いずれも、波形の刃面2が、刃型のバイアス角に対応するように角度αだけ、例えば15°の角度だけ偏向した傾斜面をなす形状に構成されている点である。
而して、これらの刃型1aないし1dを備えた単板切削機(スライサー、ハーフロータリー)を用いて、実施例4に記載した手順に従い、柾目木取りの、つまり切削面が柾目となるように切削加工を行ない、次いで起伏する形態の単板を熱固定もしくは熱圧締により平滑となるように加工したところ、本来の木理が各々異なるけれども、いずれも、柾目木理の単板表面に波状木理もしくは交錯木理が鮮明に現われ出ているところの平滑な単板が得られた。
なお、上記の実施例の刃型1aないし1dにおいては、波形の刃面2が刃型のバイアス角に対応するように偏向した傾斜面をなす構成となっているが、波形の刃面は、刃型の移動軌跡に対応するように適当な角度だけ偏向した傾斜面あるいは適当な曲線軌跡に沿って偏向した傾斜面をなすものとしてもよい。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、柾目木取りに切削されそして平滑に加工された単板であって、その平滑な表面に、波状木理が柾目木理と一体となって人工的に現われ出ているところの新規な単板が提供される。また、本発明の製造方法によれば、木材フリッチ、特に波状木理を生ずる樹種であって実際には波状木理を有していない木材フリッチより、波状木理が柾目木取りの単板の表面に人工的に現われている平滑な単板を確実に製造することができる。さらに、本発明の刃型によれば、これを用いて切削面が柾目となるように木材フリッチの切削加工を為すことにより、次いで得られた起伏する形態の単板の平滑化加工によって、柾目木取りの平滑な単板であって、その表面に波状木理が人工的に現われている単板を作ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例1の交走木理を有する単板を等倍で撮影した写真である。
【図2】図1の交走木理を有する単板の製造に用いられた木材フリッチを等倍で撮影した写真である。
【図3】 本発明の実施例2の交走木理を有する単板を等倍で撮影した写真である。
【図4】図3の交走木理を有する単板の製造に用いられた木材フリッチを等倍で撮影した写真である。
【図5】 本発明の実施例3の交走木理を有する単板を等倍で撮影した写真である。
【図6】本発明の実施例4の製造方法に使用された単板切削機の刃型を示す斜視図である。
【図7】スライサーを使用して切削加工により柾目単板を作る過程を示す図である。
【図8】ハーフロータリーを使用して切削加工により柾目単板を作る過程を示す図である。
【図9】単板切削機に備えられる一実施例の刃型の一部を、特に刃先を拡大して示す正面図である。
【図10】単板切削機に備えられる他の実施例の刃型の一部を、特に刃先を拡大して示す正面図である。
【図11】単板切削機に備えられるさらに別の実施例の刃型の一部を、特に刃先を拡大して示す正面図である。
【図12】単板切削機に備えられるもう一つ別の実施例の刃型の一部を、特に刃先を拡大して示す正面図である。
【図13】交錯木理を有するトチ柾目単板の表面を描いた模式図である。
【図14】波状木理を有するタモ柾目単板の表面を描いた模式図である。
【符号の説明】
1 刃型
2 波形の刃面
3 刃先
4 先端縁
5 山部
6 谷部
7 スライサー
8 木材フリッチ
9 切削面
11 ハーフロータリー
h(h1 、h2 、h3 ) 波形の高さ
L(L1 、L2 、L3 、L4 ) 波形の間隔
A 谷部を結ぶ線
Claims (1)
- 波形の刃面が刃型の長手方向に連続して形成された刃先を有する刃型を備えたところの単板切削機を用いて、木材フリッチを切削面が柾目となるように所望の厚さに切削加工し、次いで、得られた柾目木取りの単板を平滑なものに加工することにより、波状木理が表面に人工的に現われている単板を製造する方法であって、前記切削加工において、刃先の先端縁が刃型の幅方向に関して波形状に変位しかつ各波形の谷部が刃型の長手方向に延びる同一の線上に位置するところの波形の刃面を有し、該波形の刃面は刃型の移動軌跡および/またはバイアス角に対応するように偏向した傾斜面をなすところの刃型を使用し、また前記次の加工において、得られた起伏する形態の単板を熱固定または熱圧締により平滑化せしめることを特徴とする、波状木理を有する単板の製造方法。
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