JP2560422B2 - 断熱ピストンの構造 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 この発明は、断熱ピストンの構造に関する。

〔従来の技術〕

従来、セラミック材料を断熱材又は耐熱材として利用
した断熱ピストン等のエンジン部材は、例えば、特開昭
61−66848号公報に開示されている。該特開昭61−66848
号公報に開示された断熱ピストンについて、第４図を参
照して概説する。第４図において、断熱ピストンが符号
30によって全体的に示されている。この断熱ピストン30
については、セラミックスから成るピストン冠部31と対
向するスカート部32の端面にセラミックスから成るコー
ティング層33を備えたものである。また、ピストン冠部
31には燃焼室34が形成され、ピストン冠部31とスカート
部32とはガスケット36を介してボルト35によって結合さ
れている。更に、ピストン冠部31とスカート部32との間
にはシールリング37が配置されている。

〔発明が解決しようとする課題〕

しかしながら、上記のようなセラミック材料を断熱材
又は耐熱材として利用するピストン等の断熱エンジン部
材において、断熱特性を十分に得ることは極めて困難な
ことである。セラミック材料が燃焼室側の高温に晒され
る状態であり、そのため熱ショックを受け、セラミック
材料の強度上の問題がある。また、断熱のため壁面のセ
ラミック材料の厚さを厚くすると、熱容量が大きくな
る。そのため吸入工程時に吸入空気が燃焼室から多く受
熱して高温になり、その熱が吸気に影響し、吸入効率が
低下して空気が吸入されなくなるという現象が生じると
いう問題がある。例えば、前掲特開昭61−66848号公報
に開示された断熱ピストン30については、セラミックス
から成るピストン冠部31の厚さは厚く構成されており、
上記と同様の問題点を有している。

ところで、シリンダライナ上部を一体構造に構成した
シリンダヘッドにのみ水ジャケットを設け、シリンダボ
ディ側から水ジャケットを排除して冷却系を縮小する場
合に、ピストンを断熱構造に構成することが好ましい
が、その場合に、シリンダライナが配置されたシリンダ
ボディには水ジャケットが無いから、ピストン及びピス
トンリングとシリンダライナとの摺動特性を向上させる
ため、ピストンヘッド部で受熱した熱エネルギーがシリ
ンダライナ及びピストンスカート部へ少しでも熱伝導さ
れないように構成し、適度な温度に維持されるようにし
なければならないという課題がある。

この発明の目的は、上記の課題を解決することであ
り、ピストンヘッドを構成する燃焼室に晒される面とな
る薄板部材で受熱した熱をピストンスカート部へ熱伝導
されないように構成し、シリンダライナ下部の冷却を不
要にし、また極めて高度の断熱性を得ると共に、燃焼ガ
スに晒されて高温になる燃焼室側に面するピストンヘッ
ドの表面部の熱容量を可及的に小さく構成し、吸入効率
及びサイクル効率を向上させ、しかも熱ショックを受け
ても強度上の問題が生じることなく、耐熱性、耐腐食
性、耐変形性を向上させ、しかも安定した取付状態を得
ることができ、更に爆発時にピストンヘッドに作用する
圧力を好ましい状態で受けることができる構造に構成し
た断熱ピストンの構造を提供することである。

〔課題を解決するための手段〕

この発明は、上記の問題点を解消し、上記の目的を達
成するために、次のように構成されている。即ち、この
発明は、外周部にセラミック製筒部材を接合したピスト
ンヘッド部を断熱層を介してピストンスカート部に固定
し、前記筒部材に形成した押圧部分で断熱ガスケットを
介してセラミック製薄板部材の周囲部分を押圧すること
によって前記ピストンヘッド部の上面に断熱材を介して
前記薄板部材を固定したことを特徴とする断熱ピストン
の構造に関する。

また、前記筒部材の内面と前記薄板部材の表面との間
には隙間が形成されていることを特徴とする。

〔作用〕

この発明による断熱ピストンの構造は、以上のように
構成されており、次のように作用する。即ち、この断熱
ピストンの構造は、外周部にセラミック製筒部材を接合
したピストンヘッド部を断熱層を介してピストンスカー
ト部に固定し、前記筒部材に形成した押圧部分で断熱ガ
スケットを介してセラミック製薄板部材の周囲部分を押
圧して前記ピストンヘッド部の上面に断熱材を介して前
記薄板部材を固定したので、燃焼室に晒される面となる
前記薄板部材で受熱した熱は前記断熱ガスケットによっ
て断熱され、前記薄板部材から外周部に配置された前記
筒部材へは熱伝導されることがなく、しかも前記薄板部
材と前記ピストンヘッド部との間には前記断熱材によっ
て同様に断熱されているので、中間部に位置する前記ピ
ストンヘッド部及び前記ピストンスカート部への熱伝導
もない。また、燃焼ガスに晒されて高温になるピストン
ヘッドの表面部に位置する前記薄板部材の厚さを可及的
に薄く構成でき、その熱容量を可及的に小さく構成する
ことができ、吸入効率及びサイクル効率を向上させる。
即ち、前記薄板部材の厚さを薄く構成する程、ガス温度
への追従性がよくなり、そして、燃焼室内の高温時と低
温時との壁温振幅は厚さが厚い場合に比較して大きくな
り、結果的に燃焼ガスと前記薄板部材との温度差が小さ
くなり、熱伝達量が減少するため、吸入空気の受熱を減
少させる。

また、前記筒部材の内面と前記薄板部材の外面との間
には隙間が形成されているので、前記薄板部材から前記
筒部材への熱伝導は遮断される。

〔実施例〕

以下、図面を参照して、この発明による断熱ピストン
の構造の実施例を詳述する。

第１図はこの発明による断熱ピストンの構造の一実施
例を示す断面図、及び第２図は第１図の符号Ａの部分の
拡大断面図である。この断熱ピストンは、主として、ピ
ストンヘッド部１、ピストンスカート部２、断熱材３、
薄板部材５、筒部材６及び断熱ガスケット７から構成さ
れている。ピストンヘッド部１は中央部に取付ボス部10
を備えており、また、ピストンスカート部２は、金属材
から成り、ピストンリング溝23及びピストンピン孔14を
備えていると共に上端壁部４を備えている。ピストンス
カート部２の上端壁部４の中央部には、ピストンヘッド
部１を取付けるため、取付孔16が形成されている。従っ
て、ピストンヘッド部１の取付ボス部10をピストンスカ
ート部２の取付孔21に嵌合し、取付ボス部10の外周面に
形成した嵌合溝と取付孔21の内周面に形成した嵌合溝と
に跨がって金属リング17をメタルフロー即ち変形収容す
ることによって、ピストンスカート部２にピストンヘッ
ド部１を固定することができる。この場合に、ピストン
ヘッド部１の下面24とピストンスカート部２の上端壁部
４の上面25との間には、断熱材である断熱ガスケット11
及び外周部に断熱シール材22が介在されると共に、断熱
空気層16が形成されている。

また、ピストンヘッド部１の燃焼室15側の構造につい
ては、ピストンヘッドそのものには燃焼室が形成されて
おらず、ピストンヘッド部１の燃焼室15側の面及びピス
トンヘッド部１に断熱材３を介して取付けられた薄板部
材５は、フラットな形状に構成されている。従って、燃
焼ガスに晒される面が上記のようなフラットな形状のピ
ストンでは、燃焼室15をシリンダヘッド側に形成するこ
とが好ましいものである。ピストンヘッド部１の上面18
全体に渡って断熱材３が配置されており、該断熱材３の
上面には窒化珪素等のセラミック材から成る薄板部材５
が配置されている。この薄板部材５は燃焼室15側に面
し、燃焼ガスに晒される面となる。そこで、薄板部材５
については、熱容量を小さくするためできるだけ薄く形
成したものである。この薄板部材５は、窒化珪素、炭化
珪素等のセラミック材料から平らな円板状に形成され、
例えば、厚さ約1mm前後、或いは1mm以下に製作されてい
る。また、ピストンヘッド部１の外周面13に接合される
筒部材６は、窒化珪素（Si₃N₄）等のセラミック材から
製作されている。この筒部材６は、断面Ｌ字型であり、
上端部に半径方向内向きに伸びる押圧部分となるフラン
ジ部12を備えている。このフランジ部12は、断熱ガスケ
ット７を介して薄板部材５の周囲部分を押圧する押圧部
分である。断熱ガスケット７については、第２図に示す
ように、チタン酸カリウムウイスカー、或いはチタン酸
カリウムウイスカーとアルミナファイバーとの混合材19
をステンレスチールの薄板９で包み込んだものである。
また、燃焼室15に臨む筒部材６のフランジ部12の長さ
は、断熱ガスケット７を押圧して薄板部材５をピストン
ヘッド部１に対して固定できる程度でよく、できるだけ
短い方が好ましいものである。一般に、エンジンの燃焼
室15では、シリンダライナ周面付近はガス流速が小さく
熱伝導量は小さいもので、周囲部分の温度は低く、中央
部分の温度は高くなっている。従って、筒部材６が位置
する燃焼室15に面する周囲部分を、できるだけ小さな面
積にすることによって、その部分の熱伝導を小さくする
ことができる。

ところで、これらの部材の取付け工程として、例え
ば、ピストンヘッド部１の上面に断熱材３、薄板部材５
及び断熱ガスケット７を順次重ね、次いで筒部材６のフ
ランジ部12を断熱ガスケット７上に載せ、薄板部材５及
び断熱材３を筒部材６内に収容した状態で、筒部材６の
内周面をピストンヘッド部１の外周面13に接合すること
によって、ピストンヘッド部１に断熱材３、断熱ガスケ
ット７、薄板部材５及び筒部材６を固定してピストンヘ
ッドを構成することができる。この場合に、薄板部材５
と筒部材６との間には、隙間20を形成して両者が直接的
な接触をするのを防止する。それ故に、薄板部材５と筒
部材６との間には断熱ガスケット７が介在するのみであ
り、薄板部材５から筒部材６への熱伝導を遮断状態に構
成する。従って、燃焼ガスに晒される薄板部材５の熱
は、筒部材６に熱伝導されず、シリンダライナ下部へ流
れる熱流は、筒部材６で受熱した熱量のみとなり、熱伝
導を極めて小さく抑えることができ、ピストンスカート
部２の温度上昇を抑えることができる。また、ピストン
ヘッド部１は、窒化珪素等のセラミック材で形成されて
もよいが、窒化珪素等のセラミック材と熱膨張係数がほ
ぼ等しい炭化珪素、金属等の材料でもよい。筒部材６と
ピストンヘッド部１との接合については、同一材料であ
れば、例えば、化学蒸着（CVD）で達成できるが、異種
材料であれば、その材料に適合した接合法により接合
し、例えば、金属−セラミック材では、該結合部をメタ
ライズ接合、或いはメタルフロー等によって強固に結合
することができる。

第３図は、この発明による断熱エンジンの構造の別の
実施例を示しており、第１図の符号Ａの部分の別の構造
を示す拡大断面図である。燃焼室15側に面する薄板部材
５とピストンヘッド部１に接合された筒部材６のフラン
ジ部12との間に介在した断熱ガスケット８は、チタン酸
カリウムウイスカーとアルミナファイバーとの混合材で
製作したもの、これらの断熱材ペーパを積層して構成し
たもの、或いはジルコニアファイバー等を用いたもの等
である。

筒部材６について、上記では窒化珪素等のセラミック
材で製作されたものについて説明したが、例えば、この
筒部材６は、セラミック材料と線膨張係数、言い換えれ
ば、熱膨張係数がほヾ等しい金属材料、例えば、ニッケ
ルクロム合金等の耐熱合金で形成することもできる。こ
の場合には、筒部材６の下部内周面にピストンヘッド部
１の雄ねじに螺合する雌ねじを形成し、筒部材６をピス
トンヘッド部１に螺入すると共に螺合部即ち結合部13を
レーザビーム溶接、メタルフロー等によって結合し、該
結合部13を極めて強固に結合することができる。更に、
断熱材３及び断熱ガスケット7,8については、チタン酸
カリウムウイスカーとアルミナファイバーとの混合材で
製作したものに限らず、例えば、チタン酸カリウムウイ
スカー、ジルコニアファイバー、ポロシティの大きい耐
熱材等で製作することができる。また、この断熱材３
は、断熱機能を果たすと共に、爆発時に薄板部材５に作
用する圧力を受け止める構造材としても機能する。この
断熱ピストンの構造については、爆発による圧縮力を、
チタン酸カリウムウイスカー、ポロシティの大きい耐熱
材等の断熱材３によって均等に受ける必要があり、その
ため、ピストンヘッド部１の燃焼室15側の面18及び薄板
部材５は、平らな形状即ちフラットな形状に構成されて
いる。

〔発明の効果〕

この発明による断熱ピストンの構造は、以上のように
構成されているので、次のような特有の効果を奏する。
即ち、この断熱ピストンの構造は、外周部にセラミック
製筒部材を接合したピストンヘッド部を断熱層を介して
ピストンスカート部に固定し、前記筒部材に形成した押
圧部分で断熱ガスケットを介してセラミック製薄板部材
の周囲部分を押圧して前記ピストンヘッド部の上面に断
熱材を介して前記薄板部材を固定したので、燃焼室に晒
される面となる前記薄板部材で受熱した熱は前記断熱ガ
スケットによって断熱され、外周部に配置された前記筒
部材には熱伝導されることがなく、しかも前記薄板部材
と前記ピストンヘッド部との間には前記断熱材によって
同様に断断されているので、前記ピストンスカート部へ
の熱伝導が抑えられ、それ故に、燃焼ガスに晒される前
記薄板部材で受熱した熱量が前記ピストンスカート部に
流れることを防止でき、シリンダライナ下部の冷却が不
要になる。従って、この断熱ピストンは、例えば、シリ
ンダライナの外周部のシリンダボディから水ジャケット
を排除した構造のものに適用して極めて好ましいもので
ある。また、燃焼ガスに晒されて高温になるピストンヘ
ッドの表面部に位置する前記薄板部材の厚さを薄く構成
でき、その熱容量を可及的に小さく構成することがで
き、吸入効率及びサイクル効率を向上させる。即ち、前
記薄板部材の厚さを薄く構成する程、ガス温度への追従
性がよくなり、そして、燃焼室内の高温時と低温時との
壁温振幅は厚さが厚い場合に比較して大きくなり、結果
的に燃焼ガスと前記薄板部材との温度差が小さくなり、
熱伝達量が減少するため、吸入空気の受熱を減少させ
る。しかも、燃焼室側の高温になる前記ピストンヘッド
部について前記薄板部材が直接晒される状態に構成され
ており、断熱性、耐熱性、耐変形性、耐腐食性等を向上
させることができ、熱ショックを受けても強度上の問題
が生じることがなく、安定した取付状態を得ることがで
き、更に爆発時に前記薄板部材に作用する圧力を、前記
断熱材が介在され、前記薄板部材及び前記ピストンヘッ
ド部の面が平らに形成されるので、均等に好ましい状態
で受け止めることができる。

また、前記筒部材の内面と前記薄板部材の外面との間
には、隙間が形成されているので、前記薄板部材から前
記筒部材への熱伝導は確実に遮断される。

【図面の簡単な説明】

第１図はこの発明による断熱ピストンの構造の一実施例
を示す断面図、第２図は第１図の符号Ａの部分の一例を
示す拡大断面図、第３図は第１図の符号Ａの部分の別の
例を示す拡大断面図、及び第４図は従来の断熱ピストン
の一例を示す断面図である。 １……ピストンヘッド部、１……ピストンスカート部、
３……断熱材、５……薄板部材、６……筒部材、7,8…
…断熱ガスケット、12……フランジ部（押圧部分）、15
……燃焼室、18……ピストンヘッド部の上面、20……隙
間。

Claims (2)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】外周部にセラミック製筒部材を接合したピ
   ストンヘッド部を断熱層を介してピストンスカート部に
   固定し、前記筒部材に形成した押圧部分で断熱ガスケッ
   トを介してセラミック製薄板部材の周囲部分を押圧して
   前記ピストンヘッド部の上面に断熱材を介して前記薄板
   部材を固定したことを特徴とする断熱ピストンの構造。
2. 【請求項２】前記筒部材の内面と前記薄板部材の表面と
   の間には隙間が形成されていることを特徴とする請求項
   １に記載の断熱ピストンの構造。