JP2022186528A - 微粒子水酸化マグネシウムを含む殺菌性組成物及び破骨細胞分化抑制用組成物 - Google Patents

微粒子水酸化マグネシウムを含む殺菌性組成物及び破骨細胞分化抑制用組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】種々の利点を有する新たな組成物を提供する。【解決手段】下記(A)及び(B)を充足する水酸化マグネシウムを主成分として含有する組成物。(A)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積50%粒子径(D50)が20~1000nmである。(B)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積10%粒子径(D10)と体積基準累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10)が5以下である。【選択図】なし

Description

本発明は、微粒子水酸化マグネシウムを含む殺菌性組成物及び破骨細胞分化抑制用組成物に関する。
細菌は様々な感染症を引き起こすことが知られているところ、その治療には主に抗生物質が使用されている。しかし、抗生物質に対する抵抗性や寛容を獲得した細菌が多数登場し、人類に多大な影響をもたらしている。事実、先進国の感染症の約60%は、多剤寛容になった細菌によって引き起こされるといわれている。細菌の多剤寛容の多くは、抵抗性菌(persister)と呼ばれる、集団の中でもごく一部(0.01%未満)の確率で出現する表現型によって説明できる。抵抗性菌(persister)は自らの増殖を抑制している状態の細菌であり、細胞増殖を標的とする従来の抗生物質に高い抵抗性を示す。この表現型は殺菌が極めて困難であり、消毒処理などを行った場合でも、persisterが生存してしまうために、再増殖し、病気の再発や食品の汚染などが引き起こされる。遺伝子変異による一般的な薬剤耐性菌に対して有効な薬剤に関する種々の試みがなされているが(例えば特許文献1等)、抵抗性菌(persister)に対する有効性等の観点から改善の余地があった。
細菌感染症としては種々知られているが、一例として口腔内細菌感染症について説明する。口腔内細菌感染症は主に歯周病と齲蝕に分類される。歯周病は歯周組織に発生する慢性炎症性疾患の総称であり、齲蝕はいわゆる虫歯を指す。いずれも世界的に高齢者人口の割合が増加するにつれ、罹患率は増加の一途をたどっている。歯周病は歯周組織を破壊するのみならず、細菌性心内膜炎、不顕性肺炎、糸球体腎炎、関節炎などといった全身の疾患の原因にもなり得ることが知られつつある。歯周病は種々の複合的要因によって発生するが、特定の口腔内細菌が形成するバイオフィルムの蓄積が、主な原因の一つであることが判明している。かかる歯周病の原因となる口腔内細菌(歯周病原因細菌)としては、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、ポルフィロモナス・ジンジバリスPorphyromonas gingivalisなどが知られている。また、齲蝕の原因細菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)等が知られている。
斯かる背景の下、歯周病に対する様々な取り組みがなされている。例えば、特許文献2では水不溶性アルカリ化合物を主成分とする歯磨剤、特許文献3では塩化セチルピリジニウムとリポソームを成分とする口腔用組成物、特許文献4では溶融シリカと亜鉛塩を含む口腔ケア組成物がそれぞれ提供されている。また、特許文献5及び6では歯周病原因菌がバイオフィルムを形成し、口腔内へ蓄積することを防ぐ技術が記載されている。しかし、何れの技術も、主成分の安定性や人体への安全性について改良の余地があり、その有効性についても課題が残っている。
また、歯周病における歯槽骨吸収は、破骨細胞の活性化によるものであることが知られている。骨細胞には骨を作る骨芽細胞と骨を壊す破骨細胞とが存在し、これらの細胞の働きが常に繰り返されることで骨が再構築されているが、これらの細胞のバランスが崩れ、骨形成量に比べて相対的に破骨細胞による骨吸収量が上回って骨量が減少すると、歯周病の原因の一つとなるのみならず、骨粗鬆症の発症にもつながることが知られている(非特許文献1)。
斯かる背景の下、破骨細胞分化抑制作用を持つ成分が、骨粗鬆症や歯周病等の骨吸収性疾患に有効な薬剤として検討されている。骨吸収を抑制する薬剤としては、既に経口ビスホスホネート製剤やカルシトニン製剤が用いられているが(非特許文献2)、前者については顎骨の炎症を招くおそれがあり、後者についてはポリペプチド製剤であるためショック症状などの副作用のおそれがある。より安全性の高い食品素材等の中から、破骨細胞分化抑制作用を有し、骨粗鬆症の治療に有効な成分も報告されているが(特許文献7~9)、十分な薬効を発揮するには至っていない。
国際公開第2019-194306号 特開平09-002927号公報 特開2018-115179号公報 特表2012-509895号公報 特開2005-325071号公報 特開2005-232057号公報 特開2009-215250号公報 特開2009-107995号公報 特開2020-172474号公報
禹済等、生物機能開発研究所紀要、2004年、第4号、第11~14頁 佐伯等、日薬理誌、2014年、第144巻,第277~280頁
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、下記の少なくとも1つの利点を有する新たな殺菌性組成物を提供することを、その目的の一つとする。
・広範な種類の細菌に対して殺菌作用を示す。
・抵抗性菌(persister)に対して殺菌作用を示す。
・生体において抗炎症作用を示す。
・生体において破骨細胞形成の抑制作用を示す。
また、本発明は、生体において破骨細胞の分化抑制作用を示す組成物であって、安全性及び有効性に優れた新たな組成物を提供することを、その目的の一つとする。
本発明者等は鋭意検討の結果、所定の粒度分布を有する水酸化マグネシウム微粒子を主成分として用いた組成物が、広範な種類の細菌に対して殺菌作用を示すと共に、種々の利点を有する殺菌性組成物となりうることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の趣旨は、例えば以下に関する。
[項1]下記(A)及び(B)を充足する水酸化マグネシウムを主成分として含有する殺菌性組成物。
(A)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積50%粒子径(D50)が20~1000nmである。
(B)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積10%粒子径(D10)と体積基準累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10)が5以下である。
[項2]前記水酸化マグネシウムの動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積10%粒子径(D10)が10~800nmである、項1に記載の殺菌性組成物。
[項3]前記水酸化マグネシウムの動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積90%粒子径(D90)が40~2000nmである、項1又は2に記載の殺菌性組成物。
[項4]前記水酸化マグネシウムの下記式(I)で表される沈降度が0.3以上である、項1~3の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
・沈降度=H/H0 式(I)
(但し、当該水酸化マグネシウムを10g/Lの割合で水と混合し、10分間撹拌して得られたスラリー100mLをメスシリンダーに入れ、直後に測定される内容物の高さをH0、10分間静置後に測定される内容物の高さをHとする。)
[項5]水酸化マグネシウム濃度が0.0003g/L以上の水性懸濁液である、項1~4の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
[項6]感染症細菌に対する殺菌及び/又は抗菌作用を有する、項1~5の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
[項7]歯周病原因菌に対する殺菌及び/又は抗菌作用を有する、項6に記載の殺菌性組成物。
[項8]生体細胞からの炎症性因子の放出を低減及び/又は抑制する作用を有する、項1~7の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
[項9]破骨細胞の分化抑制作用を有する、項1~8の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
[項10]下記(A)及び(B)を充足する水酸化マグネシウムを主成分として含有する、破骨細胞の分化を抑制するための組成物。
(A)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積50%粒子径(D50)が20~1000nmである。
(B)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積10%粒子径(D10)と体積基準累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10)が5以下である。
[項11]前記水酸化マグネシウムの動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積10%粒子径(D10)が10~800nmである、項10に記載の破骨細胞分化抑制用組成物。
[項12]前記水酸化マグネシウムの動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積90%粒子径(D90)が40~2000nmである、項10又は11に記載の破骨細胞分化抑制用組成物。
[項13]前記水酸化マグネシウムの下記式(I)で表される沈降度が0.3以上である、項10~12の何れか一項に記載の破骨細胞分化抑制用組成物。
・沈降度=H/H0 式(I)
(但し、当該水酸化マグネシウムを10g/Lの割合で水と混合し、10分間撹拌して得られたスラリー100mLをメスシリンダーに入れ、直後に測定される内容物の高さをH0、10分間静置後に測定される内容物の高さをHとする。)
[項14]液体状、スラリー状、ペースト状、粉末状、又は顆粒状である、項1~13の何れか一項に記載の組成物。
[項15]生体及び/又は環境に使用するための、項1~14の何れか一項に記載の組成物。
[項16]医薬品、医薬部外品、動物用医薬品、又は日用製品である、項1~15の何れか一項に記載の組成物。
[項17]洗口剤、歯磨剤、身体用洗剤、洗濯用洗剤、身体用殺菌剤、日用品用殺菌剤、医療機器用殺菌剤、又は環境用除菌・抗菌剤である、項1~16の何れか一項に記載の組成物。
微粒子水酸化マグネシウムを主成分として含む本発明の殺菌性組成物は、下記の少なくとも1つの利点を有する。
・広範な種類の細菌に対して殺菌作用を示す。
・抵抗性菌(persister)に対して殺菌作用を示す。
・生体において抗炎症作用を示す。
・生体において破骨細胞形成の抑制作用を示す。
また、微粒子水酸化マグネシウムを主成分として含む本発明の破骨細胞分化抑制用組成物は、安全性及び有効性に優れる利点を有する。
図1Aは、試験例1の水酸化マグネシウムスラリーの粒度分布を示す図である。 図1Bは、試験例2の水酸化マグネシウムスラリーの粒度分布を示す図である。 図1Cは、試験例3の水酸化マグネシウムスラリーの粒度分布を示す図である。
図2Aは、試験例1の水酸化マグネシウムスラリーの走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)写真である(倍率10,000倍)。 図2Bは、試験例2の水酸化マグネシウムスラリーのSEM写真である(倍率20,000倍)。 図2Cは、試験例3の水酸化マグネシウムスラリーのSEM写真である(倍率20,000倍)。
図3は、粒度分布の異なる試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリー(水酸化マグネシウムのD50は順に57nm、190nm、及び437nm、水酸化マグネシウム濃度は何れも500mg/L)の大腸菌(Escherichia coli)BW25113株に対する殺菌作用を示すグラフである。
図4は、水酸化マグネシウム濃度の異なる試験例1の水酸化マグネシウムスラリー(水酸化マグネシウムのD50は57nm、水酸化マグネシウム濃度は10mg/L、50mg/L、100mg/L、及び500mg/L)の大腸菌(Escherichia coli)BW25113株に対する殺菌作用を示すグラフである。
図5は、試験例1の水酸化マグネシウムスラリー(水酸化マグネシウムのD50は57nm、水酸化マグネシウム濃度は500mg/L)のpersister化した大腸菌(Escherichia coli)BW25113株(薬剤抵抗性大腸菌)及び通常の大腸菌BW25113株(薬剤非抵抗性大腸菌)に対する殺菌作用を示すグラフである。
図6Aは、粒度分布の異なる試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリー(水酸化マグネシウムのD50は順に57nm、190nm、及び437nm、水酸化マグネシウム濃度は何れも500mg/L)の歯周病原因細菌アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)Y4株に対する殺菌作用を示すグラフである。 図6Bは、粒度分布の異なる試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリー(水酸化マグネシウムのD50は順に57nm、190nm、及び437nm、水酸化マグネシウム濃度は何れも500mg/L)の齲蝕原因細菌ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)ATCC10556株に対する殺菌作用を示すグラフである。
図7は、粒度分布及び水酸化マグネシウム濃度の異なる試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリー(水酸化マグネシウムのD50は順に57nm、190nm、及び437nm、水酸化マグネシウム濃度は50mg/L、100mg/L、250mg/L、及び500mg/L)による、歯周病原性細菌AA菌由来リポ多糖(LPS)により誘導されたマウス単球・マクロファージ細胞からの炎症性サイトカイン(IL-1β)発現の抑制作用(抗炎症作用)を示すグラフである。
図8は、試験例1の水酸化マグネシウムスラリー(水酸化マグネシウムのD50は57nm、水酸化マグネシウム濃度は10mg/L及び100mg/L)による、破骨細胞形成及び破骨細胞分化マーカー遺伝子((a)Cathepsin K、(b)DC-STAMP、及び(c)NFATc1)の抑制作用(破骨細胞分化抑制作用)を示すグラフである。
図9Aは、試験例1の水酸化マグネシウムスラリー(水酸化マグネシウムのD50は57nm、水酸化マグネシウム濃度は10mg/L及び100mg/L)による、破骨細胞形成(TRAP陽性細胞数)の抑制作用を示すTRAP染色写真である。 図9Bは、図9AのTRAP染色写真に基づくTRAP陽性細胞数のカウント結果を示すグラフである。
図10Aは、粒度分布及び水酸化マグネシウム濃度の異なる試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリー(水酸化マグネシウムのD50は順に57nm、190nm、及び437nm、水酸化マグネシウム濃度は1mg/L、10mg/L及び100mg/L)による、破骨細胞分化誘導因子(RANKL、M-CSF)により誘導されたマウス骨髄細胞における破骨細胞形成の抑制作用を示すTRAP染色写真である。 図10Bは、図10AのTRAP染色写真に基づくTRAP陽性細胞数のカウント結果を示すグラフである。
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。また、以下に説明する本発明の種々の態様は何ら択一的又は排他的なものではなく、論理的に明らかに矛盾する場合を除き、任意の2つ以上の態様を適宜組み合わせて実施することが可能である。なお、斯かる任意の2つ以上の態様を適宜組み合わせた態様についても、当然ながら本発明の範囲に含まれるものとする。
本発明の一側面は、後述する特定の粒度分布を有する水酸化マグネシウム微粒子を主成分として含有する殺菌性組成物(以下適宜「本発明の殺菌性組成物」という)に関する。
本発明の別の一側面は、後述する特定の粒度分布を有する水酸化マグネシウム微粒子を主成分として含有する、破骨細胞の分化を抑制するための組成物(以下適宜「本発明の破骨細胞分化抑制用組成物」という)に関する。
本発明の殺菌性組成物と、本発明の破骨細胞分化抑制用組成物は、その用途及び一部の好ましい物性を除けば、その他は概ね共通である。よって、以下の記載では、本発明の殺菌性組成物と本発明の破骨細胞分化抑制用組成物の双方を纏めて「本発明の組成物」とし、共通の特徴については纏めて説明するものとする。なお、本発明の組成物には、殺菌作用及び破骨細胞分化抑制作用を併有し、本発明の殺菌性組成物及び本発明の破骨細胞分化抑制用組成物の双方に該当する組成物も存在する。
ある態様によれば、本発明の組成物が主成分として含有する水酸化マグネシウムは、動的光散乱法粒度分布測定により測定される粒度分布に関する以下のパラメータが、以下の特定の条件を満たす。
一態様によれば、動的光散乱法粒度分布測定により測定される水酸化マグネシウムの体積基準累積50%粒子径(D50)は、通常1000nm以下である。一態様によれば、同D50は、例えば800nm以下、又は700nm以下、又は600nm以下、又は500nm以下、又は400nm以下、又は350nm以下である。同D50が前記上限以下であると、例えば、種々の細菌に対する殺菌・抗菌作用の向上、抵抗性菌(persister)に対する殺菌作用の向上、生体細胞に対する抗炎症作用の向上、及び/又は、生体における破骨細胞形成の抑制作用の向上等の利点が得られる場合がある。一方、同D50の下限は制限されないが、一態様によれば、製造効率等の観点から、同D50は、通常20nm以上である。一態様によれば、同D50は、例えば30nm以上、又は40nm以上である。
一態様によれば、動的光散乱法粒度分布測定により測定される水酸化マグネシウムの体積基準累積10%粒子径(D10)は、例えば800nm以下、又は600nm以下、又は400nm以下、又は300nm以下である。同D10が前記上限以下であると、種々の細菌に対する殺菌・抗菌作用の向上、抵抗性菌(persister)に対する殺菌作用の向上、生体細胞に対する抗炎症作用の向上、及び/又は、生体における破骨細胞形成の抑制作用の向上等の利点が得られる場合がある。一方、同D10の下限は制限されないが、一態様によれば、製造効率等の観点から、同D10は、例えば10nm以上、又は20nm以上、又は30nm以上である。
一態様によれば、動的光散乱法粒度分布測定により測定される水酸化マグネシウムの体積基準累積90%粒子径(D90)は、例えば2000nm以下、又は1700nm以下、又は1500nm以下、又は1300nm以下、又は1000nm以下である。同D90が前記上限以下であると、種々の細菌に対する殺菌・抗菌作用の向上、抵抗性菌(persister)に対する殺菌作用の向上、生体細胞に対する抗炎症作用の向上、及び/又は、生体における破骨細胞形成の抑制作用の向上等の利点が得られる場合がある。一方、同D90の下限は制限されないが、一態様によれば、製造効率等の観点から、同D90は、例えば40nm以上、又は60nm以上、又は80nm以上である。
一態様によれば、動的光散乱法粒度分布測定により測定される水酸化マグネシウムの体積基準累積10%粒子径(D10)と体積基準累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10)が5以下である。一態様によれば、同D90/D10は、例えば4.5以下、又は4以下、又は3.7以下、又は3.5以下である。同D90/D10が前記上限以下である。このようにD90/D10が所定上限値以下の水酸化マグネシウム微粒子は、粒子径が小さく且つ均一であることから分散性に優れ、惹いては種々の細菌に対する殺菌・抗菌作用の向上、抵抗性菌(persister)に対する殺菌作用の向上、生体細胞に対する抗炎症作用の向上、及び/又は、生体における破骨細胞形成の抑制作用の向上等の利点が得られる場合がある。一方、同D90/D10の下限は制限されないが、一態様によれば、製造効率等の観点から、同D90/D10は、例えば0.95以上、又は1以上、又は1.5以上である。
ある態様によれば、本発明の組成物が主成分として含有する水酸化マグネシウムは、下記式(I)で表される沈降度が、所定範囲内である。
・沈降度=H/H0 式(I)
なお、当該水酸化マグネシウムを10g/Lの割合で水と混合し、10分間撹拌して得られたスラリー100mLをメスシリンダーに入れ、直後に測定される内容物の高さをH0、10分間静置後に測定される内容物の高さをHとする。
一態様によれば、前記式で求められる水酸化マグネシウムの沈降度は、例えば0.3以上、又は0.4以上、又は0.5以上である。沈降度が前記下限以上であると、種々の細菌に対する殺菌・抗菌作用の向上、抵抗性菌(persister)に対する殺菌作用の向上、生体細胞に対する抗炎症作用の向上、及び/又は、生体における破骨細胞形成の抑制作用の向上等の利点が得られる場合がある。一方、水酸化マグネシウムの沈降度の上限は限定されないが、通常は1以下である。
本発明の組成物における水酸化マグネシウムの濃度は、限定されるものではなく、その用途等に応じて適宜選択することができる。但し、ある態様によれば、本発明の組成物における水酸化マグネシウムの濃度の下限は、例えば0.0003g/L以上、0.0005g/L以上、又は0.001g/L以上である。ある態様によれば、本発明の組成物における水酸化マグネシウムの濃度の上限は、例えば1.5g/L以下、又は1.0g/L以下、又は0.8g/L以下である。特に本発明の組成物を、ヒトに投与される医薬品や医薬部外品、又は、非ヒト動物に投与される動物用医薬品等の製品として提供する場合には、医薬品・医薬部外品・動物用医薬品の安全基準に応じて、水酸化マグネシウムの濃度を所定範囲内に抑える必要がある。実際、本発明者等は、後述する実施例において、本発明の殺菌性組成物に該当する試験例の水酸化マグネシウムスラリーが、極めて低濃度であっても殺菌作用を発揮することを確認している(後記実施例III-2等参照)。一方、例えば本発明の組成物を濃縮型製品として提供し、水や溶剤で希釈することにより所望の最終製品を用事調製することを意図する場合等は、本発明の組成物は濃縮倍率に応じた高濃度の水酸化マグネシウムを含んでいてもよい。
ある態様によれば、本発明の組成物は、水酸化マグネシウムの懸濁液の形態である。懸濁液の形態は限定されないが、ある態様によれば、水や生理緩衝液等の水性媒体に水酸化マグネシウム微粒子が懸濁された水性懸濁液の形態である。なお、水酸化マグネシウムの水に対する溶解度は18℃条件下で0.009g/Lであるので、通常はこれより高濃度とすることで水酸化マグネシウムの懸濁液を調製することができる。
以上説明した、特定の粒度分布を有する水酸化マグネシウムを主成分として含有する本発明の組成物は、以下に説明する種々の利点を有する。
ある態様によれば、本発明の殺菌性組成物は、広範な種類の細菌に対して殺菌及び/又は抗菌作用を示す。ある態様によれば、本発明の殺菌性組成物は、腸内感染症細菌や歯周病原因菌等を含む各種の感染症細菌に対して殺菌及び/又は抗菌作用を示す。ある態様によれば、本発明の殺菌性組成物は、グラム陰性細菌及び/又はグラム陰性細菌に対して殺菌及び/又は抗菌作用を示す。実際、本発明者等は、後述する実施例において、本発明の殺菌性組成物に該当する試験例の水酸化マグネシウムスラリーが、広範な水酸化マグネシウムの粒子径及び濃度において、腸内感染症原因菌(大腸菌)や歯周病原因細菌(AA菌)、齲蝕原因細菌(SS菌)にも殺菌作用を発揮すること、グラム陰性細菌(大腸菌、AA菌)にもグラム陽性細菌(SS菌)にも殺菌作用を発揮することを確認している(後記実施例III-1、III-2、IV等参照)。
ある態様によれば、本発明の殺菌性組成物は、極めて広範な種類の細菌に対する殺菌及び/又は抗菌用途に使用することができる。対象となる細菌は、制限されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
まず、細胞膜の構造に基づく分類では、本発明の殺菌性組成物は、前述のように、グラム陰性細菌にも、グラム陽性細菌にも、更にはその他の細菌にも使用することができる。
グラム陰性細菌としては、限定されるものではないが、例えばナイセリア(Neisseria)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、ボルデテラ(Bordetella)属、エシェリヒア(Escherichia)属、サルモネラ(Salmonella)属、赤痢(Shigella)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、プロテウス(Proteus)属、エルシニア(Yersinia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ブルセラ(Brucella)属、レジオネラ(Legionella)属、クラミジア(Chlamydia)属、クラミドフィラ(Chlamydophila)属、アグリゲイティバクター(Aggregatibacter)属、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属等の細菌が挙げられる。
ナイセリア(Neisseria)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、ナイセリア・エロンガタ(Neisseria elongata)等が挙げられる。
ヘモフィルス(Haemophilus)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、パラインフルエンザ菌(Haemophilus parainfluenzae)、軟性下疳菌(Haemophilus ducreyi)等が挙げられる。
ボルデテラ(Bordetella)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば百日咳菌(Bordetella pertussis)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)等が挙げられる。
エシェリヒア(Escherichia)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば大腸菌(Escherichia coli)等が挙げられる。
サルモネラ(Salmonella)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばサルモネラ菌(Salmonella enterica)の各種血清型、例えば
ブタコレラ菌(serovar Choleraesuis)、チフス菌(serovar Typhi)、パラチフス菌(serovar Paratyphi A, B, C)、腸炎菌(serovar Enteritidis)等が挙げられる。
赤痢(Shigella)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)、フレキシネル赤痢菌(Shigella flexneri)、ボイド赤痢菌(Shigella boydii)、ソンネ赤痢菌(Shigella sonnei)等が挙げられる。
クレブシエラ(Klebsiella)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)等が挙げられる。
エンテロバクター(Enterobacter)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)等が挙げられる。
プロテウス(Proteus)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばプロテウス・インコンスタンス(Proteus inconstans)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、
等が挙げられる。
エルシニア(Yersinia)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば腸炎エルシニア菌(Yersinia enterocolitica)、ペスト菌(Yersinia pestis)、偽結核菌(Yersinia pseudotuberculosis)等が挙げられる。
シュードモナス(Pseudomonas)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等が挙げられる。
ブルセラ(Brucella)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばブルセラ・メリテンシス(B. melitensis)等が挙げられる。
レジオネラ(Legionella)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、レジオネラ・ミクダデイ(Legionella micdadei)等が挙げられる。
クラミジア(Chlamydia)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)等が挙げられる。
クラミドフィラ(Chlamydophila)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばクラミジア肺炎菌(Chlamydophila pneumoniae)等が挙げられる。
アグリゲイティバクター(Aggregatibacter)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばアグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)等が挙げられる。
ポルフィロモナス(Porphyromonas)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)等が挙げられる。
一方、グラム陽性細菌としては、限定されるものではないが、例えばブドウ球菌(Staphylococcus)属、連鎖球菌(Streptococcus)属、腸球菌(Enterococcus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バシラス(Bacillus)属、クロストリジウム(Clostridium)属、等の細菌が挙げられる。
ブドウ球菌(Staphylococcus)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、スタフィロコッカス・サッカロリティカス(Staphylococcus saccharolyticus)、スタフィロコッカス・サプロフィティカス(Staphylococcus saprophyticus)等が挙げられる。
連鎖球菌(Streptococcus)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・アガラクティアエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・アンギノーサス(Streptococcus anginosus)、ストレプトコッカス・コンステラタス(Streptococcus constellatus)、ストレプトコッカス・クリスタタス(Streptococcus cristatus)、ストレプトコッカス・ゴルドニイ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・パラサングイニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)等が挙げられる。
腸球菌(Enterococcus)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばエンテロコッカス・アビウム(Enterococcus avium)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・ガリナルム(Enterococcus gallinarum)、エンテロコッカス・カセリフラブス(Enterococcus casseliflavus)等が挙げられる。
コリネバクテリウム(Corynebacterium)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えばジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、結膜乾燥症菌(Corynebacterium xerosis)等が挙げられる。
バシラス(Bacillus)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)等が挙げられる。
クロストリジウム(Clostridium)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば破傷風菌(Clostridium tetani)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・イノキュウム(Clostridium innocuum)、クロストリジウム・スポロゲネス(Clostridium sporogenes)、クロストリジウム・ラモーザム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ソルデリイ(Clostridium sordellii)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)、クロストリジウム・オロティカム(Clostridium oroticum)、クロストリジウム・インドーリス(Clostridium indolis)、ヒストリチカム菌(Clostridium histolyticum)等が挙げられる。
また、その他の細菌としては、マイコプラズマ(Mycoplasma)属の細菌等が挙げられる。マイコプラズマ(Mycoplasma)属の細菌の具体例としては、限定されるものではないが、例えば肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、マイコプラズマ ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)等が挙げられる。
また、感染症の種類に基づく観点からも、本発明の殺菌性組成物は、種々の感染症の原因菌に対して殺菌・抗菌作用を発揮する。例としては、限定されるものではないが、前述のように、歯周病原因細菌(例えばアグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)等)、齲蝕原因細菌(例えばストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)等)、腸内感染症原因菌(例えば大腸菌(Escherichia coli)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、サルモネラ菌(Salmonella enterica)各種血清型、赤痢(Shigella)属細菌等)、呼吸器感染症原因菌(例えば肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、クラミジア肺炎菌(Chlamydophila pneumoniae)等)、***症・性感染症原因菌(例えばマイコプラズマ ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)等)等が挙げられる。
ある態様によれば、本発明の殺菌性組成物は、抗生物質に対する抵抗性菌(persister)に対して殺菌作用を示す。実際、本発明者等は、後述する実施例において、本発明の殺菌性組成物に該当する試験例の水酸化マグネシウムスラリーが、persister化した大腸菌(Escherichia coli)BW25113株(薬剤抵抗性大腸菌)にも殺菌作用を発揮することを確認している(後記実施例III-3等参照)。
本発明の殺菌性組成物により、広範な種類の細菌に対する殺菌作用や、抵抗性菌(persister)に対する殺菌作用が発揮される理由は定かではないが、特定の粒度分布を有する水酸化マグネシウム微粒子が、細菌の細胞壁を物理的に傷害することで、広範な種類の細菌に対する殺菌作用や、抵抗性菌(persister)に対する殺菌作用を発揮するものと推測される。
ある態様によれば、本発明の組成物は、生体細胞からの炎症性因子の放出を低減及び/又は抑制する作用(抗炎症作用)を示す。実際、本発明者等は、後述する実施例において、本発明の組成物に該当する試験例の水酸化マグネシウムスラリーが、広範な水酸化マグネシウムの粒子径及び濃度において、細菌由来リポ多糖(LPS)により誘導した単球・マクロファージ様細胞による炎症性サイトカイン(IL-1β)発現の抑制作用を発揮することを確認している(後記実施例V等参照)。
ある態様によれば、本発明の破骨細胞分化抑制用組成物は、生体において破骨細胞形成の抑制作用を示す。実際、本発明者等は、後述する実施例において、本発明の破骨細胞分化抑制用組成物に該当する試験例の水酸化マグネシウムスラリーが、広範な水酸化マグネシウムの粒子径及び濃度において、破骨細胞分化誘導因子(RANKL、M-CSF)により誘導された骨髄細胞による破骨細胞形成の抑制作用を発揮することを確認している(後記実施例VI等参照)。
本発明の組成物は、特定の粒度分布を有する水酸化マグネシウムを主成分とすることで、人体への安全性、水や生理緩衝液等の媒体への分散性、及び/又は、保存安定性等にも優れる。
本発明の組成物は、活性成分たる水酸化マグネシウムの他に、1種又は2種以上の任意の補助成分を含有していてもよい。補助成分の例としては、限定されるものではないが、溶剤、等張化剤、緩衝剤、湿潤剤、滑沢剤、着色剤、香味剤、保存剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、抗微生物剤などが挙げられる。これらの補助成分は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。斯かる補助成分は、後述する本発明の組成物の性状・製品用途・施用対象・製品形態等に応じて、当業者であれば適宜選択して実施することができる。
本発明の組成物の性状としては、限定されるものではないが、液体状、スラリー状、ペースト状、粉末状、又は顆粒状等が挙げられる。斯かる本発明の組成物の性状は、後述する本発明の組成物の製品用途・施用対象・製品形態等に応じて、当業者であれば適宜選択して実施することができる。
本発明の組成物の調製方法は、限定されるものではないが、例えば以下の手順で調製することが可能である。即ち、活性成分たる水酸化マグネシウムと、任意により使用される1種又は2種以上の任意の補助成分を、任意により使用される水やその他の各種溶剤と混合し、所望の剤形に製剤化すればよい。また、各成分の粒径・形状の調整や微細化等の前処理や、加熱・濾過等による滅菌等の後処理を適宜加えてもよい。具体的な製剤化手法は種々公知であり、当業者であれば目的とする剤形、用途、製品形態等に応じ、適宜選択して実施することができる。
本発明の組成物の施用対象としては、限定されるものではないが、生体及び/又は環境が挙げられる。本発明の組成物の製品用途としても、限定されるものではないが、医薬品、医薬部外品、動物用医薬品、日用製品等が挙げられる。特に、本発明の組成物を医薬品又は医薬部外品として実施する場合、その投与・施用対象はヒト対象となり、本発明の組成物を動物用医薬品として実施する場合、その投与・施用対象は非ヒト動物(例としては、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ウマ、ウシ、ブタ等の哺乳類や、ニワトリ等の鳥類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。)となる。一方、本発明の組成物を日用製品として使用する場合、その投与・施用対象は制限されず、ヒト又は非ヒト動物等の生体でもよく、環境でもよい。斯かる本発明の組成物の製品用途・施用対象は、本発明の組成物の目的等に応じて、当業者であれば適宜選択して実施することができる。
本発明の組成物をヒト又は非ヒト動物に投与する場合、その剤形や投与経路は特に制限されず、上述した本発明の組成物の使用目的や、施用対象・製品用途等に応じて、当業者であれば適宜選択して実施することができる。例えば、本発明の組成物を殺菌又は抗菌用途に使用する場合、ヒト又は非ヒト動物の皮膚(例えば顔、手、足、首等の他、身体の任意の部位の皮膚に使用できる。)、粘膜(例えば歯肉、口腔内、咽頭部、肛門、尿道口、膣口等)、歯、毛髪等に局所投与することができる。この場合、本発明の組成物の剤形としては、局所投与用の任意の剤形、例えば液剤、スラリー、ペースト、ジェル、クリーム、スプレー等の剤形を選択することが出来る。また、本発明の組成物をインビボでの破骨細胞の分化抑制用途に使用する場合、ヒト又は非ヒト動物の口腔内(歯や歯肉)への局所投与、骨近傍の皮膚又は粘膜への局所投与、各種部位の骨又はその近傍への局所注射等による直接投与等が考えられる。もちろん、生体から分離培養した組織や細胞に対して本発明の組成物を適用することにより、インビトロでの破骨細胞の分化抑制用途に使用することも可能である。
また、本発明の組成物を環境の殺菌又は抗菌用途に使用する場合、その剤形や施用形態は何等制限されず、任意の剤形及び施用形態とすることが可能である。例えば、液剤やスプレーの剤形として、環境中の任意の部位に噴霧又は塗布等することができる。本発明の組成物の施用対象となる部位も何等制限されない。例としては、ヒトの接触可能性がある部位やヒトの滞在領域の近傍部位(例えば部屋の壁面、日用品の表面等)、更には最近等の繁殖可能性がある部位(例えばキッチンのシンクやトイレ等)等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
本発明の組成物の製品形態としては、限定されるものではないが、洗口剤、歯磨剤、身体用洗剤、洗濯用洗剤、身体用殺菌剤、日用品用殺菌剤、医療機器用殺菌剤、又は環境用除菌・抗菌剤等が挙げられる。斯かる本発明の組成物の製品形態は、上述した本発明の組成物の施用対象・製品用途等に応じて、当業者であれば適宜選択して実施することができる。
本発明の一側面によれば、生体又は環境の殺菌又は抗菌を行う方法であって、水酸化マグネシウムを含む上述の本発明の組成物を生体又は環境に施用することを含む方法が提供される。本発明の組成物の詳細、その施用対象となる生体又は環境の詳細、生体又は環境への本発明の組成物の施用態様の詳細等については、上述したとおりである。
本発明の一側面によれば、破骨細胞の分化抑制を行う方法であって、水酸化マグネシウムを含む上述の本発明の組成物を生体に投与することを含む方法が提供される。本発明の組成物の詳細、その施用対象となる生体又は環境の詳細、生体への本発明の組成物の投与用態様の詳細等については、上述したとおりである。
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
[I.水酸化マグネシウムスラリーの合成]
以下の手順により、試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリー(殺菌性組成物)を合成し、その後の各評価に供した。
・試験例1:
0.2mol/Lの塩化マグネシウム水溶液1000mL及び0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液640mLを、それぞれ122mL/分及び78mL/分の流量で、オーバーフローが200mLである連続反応槽に滞留時間が1分間となるように供給し、連続反応を行った。反応期間中、連続反応槽内を攪拌翼を用いて500rpmで攪拌すると共に、常時20℃となるように温度調整を行った。また、反応系のpHが10.2~10.4となるように、水酸化ナトリウム水溶液の流量調整を行った。オーバーフローより得られた反応スラリーを1000mL採取し、5.66gの水酸化マグネシウムを得た。得られたスラリーを、濾紙を用いて吸引ろ過し、得られたケーキを220mLのイオン交換水で洗浄した後、固形分濃度が10g/Lとなるようにイオン交換水を加え、ホモジナイザーを用いて5000rpmで30分間攪拌して再懸濁させることにより、500mLのスラリーを得た。その後、温度を50℃に調節しながら500rpmの攪拌下で4時間熟成させることにより、試験例1の水酸化マグネシウムスラリーを得た。
・試験例2:
2.0mol/Lの塩化マグネシウム水溶液500mLを反応層内で300rpm攪拌下、12.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液150mLを25mL/分の流量で添加するバッチ反応を行った。反応期間中、常時20℃となるように温度調整を行った。この反応により52.76gの水酸化マグネシウムを含む反応スラリーを650mL得た。得られたスラリーを300rpmの攪拌下、90℃で2時間熟成をさせた。熟成後のスラリーを、濾紙を用いて吸引ろ過し、得られたケーキを1055mLのイオン交換水で洗浄した後、固形分濃度が10g/Lとなるようにイオン交換水を加え、ホモジナイザーを用いて5000rpmで30分間攪拌して再懸濁させることにより、試験例2の水酸化マグネシウムスラリーを得た。
・試験例3:
1.8mol/Lの塩化マグネシウム水溶液2825mL及び2.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2553mLを、それぞれ49mL/分及び36mL/分の流量で、オーバーフローが840mLである連続反応槽に滞留時間が10分間となるように供給し、連続反応を行った。反応期間中、連続反応槽内を攪拌翼を用いて600rpmで攪拌すると共に、常時40℃となるように温度調整を行った。オーバーフローより得られた反応スラリーを600mL採取し、32.19gの水酸化マグネシウムを得た。得られたスラリーを、攪拌翼付きオートクレーブを用いて620rpmの攪拌下、170℃で2時間熟成をさせた。熟成後のスラリーを、濾紙を用いて吸引ろ過し、得られたケーキを1600mLのイオン交換水で洗浄した後、固形分濃度が10g/Lとなるようにイオン交換水を加え、ホモジナイザーを用いて5000rpmで30分間攪拌して再懸濁させることにより、試験例3の水酸化マグネシウムスラリーを得た。
[II.水酸化マグネシウムスラリーの物性評価]
・粒度分布測定:
前処理として、試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリー(殺菌性組成物)10mLを0.2重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液60mLで希釈し、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製)を用いて、350μAで3分間超音波処理を行った。前処理後、動的光散乱法粒度分布測定システムEL-SZ2000(大塚電子社製)を用いて粒度分布を測定し、体積基準累積10%粒子径(D10)、同50%粒子径(D50)、及び同90%粒子径(D90)を求めた。
・SEM写真撮影:
試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリーの走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)写真を、日本電子株式会社製SEM(JSM-7600F)を使用して撮影した。SEMによる測定時の倍率は、制限されるものではないが、例えば10,000~50,000倍とすることができる。
・沈降度測定:
試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリーの沈降度を、以下の手順により測定した。即ち、試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリー(濃度10g/L)を10分間撹拌後、100mLをメスシリンダーに入れ、直後の内容物の高さH0及び10分間静置後の内容物の高さHを測定し、下記式(I)から沈降度を求めた。
・沈降度=H/H0 式(I)
・結果:
上記手順で測定された試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリーの粒度分布をそれぞれ図1A~1Cに示し、試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリーのSEM写真をそれぞれ図2A~2Cに示す。また、試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーの体積基準累積10%粒子径(D10)、同50%粒子径(D50)、同90%粒子径(D90)、同90%粒子径(D90)と同10%粒子径(D10)との比(D90/D10)、及び沈降度を以下の表1に示す。
Figure 2022186528000001
[III.水酸化マグネシウムスラリーの殺菌性評価1:大腸菌に対する殺菌性]
(III-1.水酸化マグネシウムの粒度分布に関する検討)
水酸化マグネシウムスラリー(殺菌性組成物)の大腸菌に対する殺菌性を、水酸化マグネシウムの粒度分布の観点から評価した。なお、各群についてn=3で評価した。
・水酸化マグネシウムスラリー
試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液(水酸化マグネシウム濃度500mg/L)を調製して用いた。
・細菌
大腸菌(Escherichia coli)BW25113株(国立遺伝学研究所 NBRPから入手)を用いた。
・培地
以下の2種の培地を用いた。
LB寒天培地:トリプトン(Trypton;BD Bacto社製)10g、酵母エキス(Yeast extract;BD Bacto社製)5g、塩化ナトリウム(NaCl)10g及び寒天(Wako社製)15gを1Lの純水に溶解させ、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌した後、10cmディッシュに20mLずつ分注した。
LB培地:トリプトン(Trypton;BD Bacto社製)10g、酵母エキス(Yeast extract;BD Bacto社製)5g、塩化ナトリウム(NaCl)10gを1Lの純水に溶解させ、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌した。
・菌液の準備
細菌をグリセロールストックからLB寒天培地に白金耳を用いて画線培養し、37℃で24時間培養した。形成したシングルコロニーをLB培地(10mL)に播種し、37℃の条件下で一晩培養した。一晩培養した菌液250μLをLB培地25mLに播種し、600nmの吸光度が0.6(OD600=0.6)になるまで37℃、180rpmで培養した。
・殺菌性の評価方法
菌液を3,500gで10分間遠心し、細菌を回収した。上清を破棄し、1×PBS(リン酸緩衝液:137mmol/L 塩化ナトリウム(NaCl)、8.1mmol/Lリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、2.68mmol/L 塩化カリウム(KCl)、1.47mmol/L リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、pH7.4)を等量加え、再懸濁させた後、3,500gで10分間遠心した。その後、上清の破棄、再懸濁、及び遠心分離という操作をもう一度繰り返した。上清を破棄し、得られた菌体を、試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液(水酸化マグネシウム濃度500mg/L)にそれぞれ再懸濁した。それぞれの菌液を1mLずつ1.5mLのマイクロチューブに移し、37℃の条件下で培養した。0、1、3、6、及び18時間後の菌液を回収し、それぞれ10倍連続希釈(1×PBS)することにより、菌濃度100~109の段階希釈菌液を準備した。すべての希釈菌液を10μLずつLB寒天培地に滴下し、室温で乾燥させた後、37℃の条件下で24時間培養した。形成したコロニーをカウントし、希釈倍率と滴下した液量から1mL中の菌数(細胞/mL)を計算した。
また、比較例として、各水酸化マグネシウムスラリーを含む試験液の代わりに、硫酸マグネシウム(MgSO4)スラリーを1×PBSと混合した試験液(硫酸マグネシウム濃度500 mg/L)を用いると共に、対照例として1×PBS単独を用いて、それぞれ上記と同様の試験を行った。
・評価結果
得られた結果を以下の表2及び図3のグラフに示す。1×PBS単独を用いた対照例を基準として、硫酸マグネシウムスラリーを用いた比較例では、大腸菌に対する殺菌作用は殆ど見られなかったのに対し、試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーを用いた群では、何れも顕著な殺菌作用が認められた。なお、各水酸化マグネシウムスラリーの殺菌作用は、試験例3(水酸化マグネシウムのD50=437nm)→試験例2(同D50=190nm)→試験例1(同D50=57nm)の順に向上しており、水酸化マグネシウムの粒径が小さくなるに従って殺菌性が向上する傾向が認められた。
Figure 2022186528000002
(III-2.水酸化マグネシウムの濃度に関する検討]
水酸化マグネシウムスラリー(殺菌性組成物)の大腸菌に対する殺菌性を、水酸化マグネシウムの濃度の観点から評価した。なお、各群についてn=3で評価した。
・水酸化マグネシウムスラリー
試験例1の水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液(水酸化マグネシウム濃度10mg/L、50mg/L、100mg/L、及び500mg/L)を調製して用いた。
・細菌株
前記III-1と同じく大腸菌(Escherichia coli)BW25113を用いた。
・培地、菌液の準備、細菌の培養方法
前記III-1と同様に実施した。
・殺菌性の評価方法
前記III-1と同様に実施した。
・評価結果
得られた結果を以下の表3及び図4のグラフに示す。水酸化マグネシウム濃度が高くなる(濃度10mg/L→50mg/L→100mg/L→500mg/L)に従い、水酸化マグネシウムスラリーの殺菌作用が向上する傾向が認められた。
Figure 2022186528000003
(III-3.抵抗性菌(Persister)に対する殺菌効果の検討]
試験例1の水酸化マグネシウムスラリー(殺菌性組成物)の大腸菌に対する殺菌性を、Persisterに対する殺菌効果の観点から評価した。なお、各群についてn=3で評価した。
・水酸化マグネシウムスラリー
試験例1の水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液(水酸化マグネシウム濃度500mg/L)を調製して用いた。
・細菌株
前記III-1、III-2と同じく大腸菌(Escherichia coli)BW25113株を用いた。
・培地、菌液の準備、細菌の培養方法
大腸菌(Escherichia coli)BW25113株を用い、前記III-1と同様の操作を実施し、OD600=0.6の菌液を準備した。Persister大腸菌を誘導するために、菌液にリファンピシンを終濃度100μg/mLで加え、37℃、180rpmで30分間培養した。菌液を3,500gで10分間遠心し、細菌を回収した。上清を破棄し、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地で3時間培養することで、非Persister大腸菌を排除した。
・殺菌性の評価方法
Persister化した大腸菌(Escherichia coli)BW25113株及び大腸菌(Escherichia coli)BW25113株を用い、前記III-1と同様に実施した。
・評価結果
得られた結果を以下の表4及び図5のグラフに示す。水酸化マグネシウムスラリーは、persister化した大腸菌(Escherichia coli)BW25113株に対しても、非persister大腸菌(Escherichia coli)BW25113株に対するのと同様の殺菌作用が認められた。
Figure 2022186528000004
[IV.水酸化マグネシウムスラリーの殺菌性評価2:口腔内細菌に対する殺菌性]
口腔内細菌であるアグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans:以下適宜「AA菌」と略す。)及びストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis:以下適宜「SS菌」と略す。)に対する水酸化マグネシウムスラリー(殺菌性組成物)の殺菌性を、水酸化マグネシウムの粒度分布の観点から評価した。なお、各群についてn=3で評価した。
・水酸化マグネシウムスラリー
試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液(水酸化マグネシウム濃度500mg/L)を調製して用いた。
・細菌種
以下の2種の口腔内細菌を用いた。
・アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans:AA菌)Y4株(ATCC43718;ATCCから入手)(以下適宜「細菌種1」とする。)
・ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis:SS菌)ATCC10556株(ATCCから入手)(以下適宜「細菌種2」とする。)
・培地
以下の2種の培地を用いた。
BHI寒天培地:ブレインハートインフュージョン(Brain heart infusion;BHI)培地(BD Bacto社製)37g、酵母エキス(Yeast extract;BD Bacto社製)10g及び寒天(Wako社製)15gを1Lの純水に溶解させ、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌した後、10cmディッシュに20mLずつ分注した。
BHI培地:ブレインハートインフュージョン(BHI)培地(BD Bacto社製)37g、酵母エキス(Yeast extract;BD Bacto社製)10gを1Lの純水に溶解させ、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌した。
・菌液の準備
細菌をグリセロールストックからBHI寒天培地に白金耳を用いて画線培養し、37℃、5%CO2で24時間培養した。形成したシングルコロニーをBHI培地(10mL)に播種し、37℃、5%CO2の条件下で一晩培養した。
・殺菌性の評価方法
細菌種1及び2に対し行った。菌液は16時間培養したものを使用した。菌液を3,500gで10分間遠心し、細菌を回収した。上清を破棄し、1×PBS(リン酸緩衝液:137mmol/L 塩化ナトリウム(NaCl)、8.1mmol/Lリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、2.68mmol/L 塩化カリウム(KCl)、1.47mmol/L リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、pH7.4)を等量加え、再懸濁させた後、3,500gで10分間遠心した。その後、上清の破棄、再懸濁、及び遠心分離という操作をもう一度繰り返した。上清を破棄し、得られた菌体を、試験例1~3の水酸化マグネシウムスラリーを500mg/L含む1×PBSにそれぞれ再懸濁した。それぞれの菌液を1mLずつ1.5mLのマイクロチューブに移し、37℃、5%CO2の条件下で培養した。0、1、2、及び3時間後の菌液を回収し、それぞれ10倍連続希釈(1×PBS)することにより、菌濃度100~109の段階希釈菌液を準備した。すべての希釈菌液を10μLずつBHI寒天培地に滴下し、室温で乾燥させた後、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。形成したコロニーをカウントし、希釈倍率と滴下した液量から1mL中の菌数(細胞/mL)を計算した。0時間目の菌数を100%としたときのそれぞれの時間での細菌の減少率から殺菌効果を検証した。
・評価結果
得られた結果を以下の表5並びに図6A(AA菌Y4株)及び図6B(SS菌ATCC10556株)のグラフに示す。試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーは、AA菌Y4株及びSS菌ATCC10556株の何れに対しても、顕著な殺菌作用を示した。また、各水酸化マグネシウムスラリーの殺菌作用は、試験例3(水酸化マグネシウムのD50=437nm)→試験例2(同D50=190nm)→試験例1(同D50=57nm)の順に向上しており、水酸化マグネシウムの粒径が小さくなるに従って殺菌性が向上する傾向が認められた。
Figure 2022186528000005
[V.水酸化マグネシウムスラリーの炎症応答抑制作用(抗炎症性)評価]
水酸化マグネシウムスラリー(殺菌性組成物)による生体細胞の炎症応答抑制作用(抗炎症作用)を、歯周病原性細菌であるアグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans:AA菌)由来のリポ多糖(LPS)によりマウス単球・マクロファージ様細胞に誘導した炎症性サイトカイン・インターロイキン-1β(IL-1β)発現の抑制作用に基づき、水酸化マグネシウムの粒度分布及び濃度の観点から評価した。なお、各試験の各群についてn=3で評価した。
・水酸化マグネシウムスラリー:
試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液(水酸化マグネシウム濃度50mg/L、100mg/L、250mg/L、及び500mg/L)を調製して用いた。
・細菌株
IL-1産生マウス単球・マクロファージ様細胞J774.1株(RIKEN CELL BANKから入手)を用いた。
・インターロイキン-1β(IL-1β)の発現量の測定:
マウス単球・マクロファージ様細胞J774.1株を6ウェルプレート(CELLSTAR社製)に細胞数1×106個/ウェルとなるように播種した。播種した細胞に、歯周病原性細菌であるAA菌由来リポ多糖(LPS)を濃度2ng/mLとなるよう加えると共に、試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液(水酸化マグネシウム濃度50mg/L、100mg/L、250mg/L、及び500mg/L)となるように添加して2時間の培養を行った。また、対照例としてAA菌由来LPSを加えないと共に、水酸化マグネシウムスラリーを含まない1×PBSを用いた例、及び、未処置例としてAA菌由来LPSを濃度2ng/mLとなるよう加えると共に、水酸化マグネシウムスラリーを含まない1×PBSを用いた例についても、上記と同様の培養を行った。培養後の細胞より、下記の方法を用いて、炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)遺伝子の発現を検出した。
・リアルタイムRT-qPCR法による遺伝子発現検出方法:
RNAの採取:培養2時間後の細胞から、RNA抽出試薬(シカジーニアス(登録商標)、関東化学株式会社製)を用いて、推奨のプロトコールに従い、1.5mLマイクロチューブ(WATSON社製)内にRNAを抽出した。抽出されたRNAの濃度を、超微量分光分析装置NanoDrop2000(Thermo Scientific社製)を用いて計測した。
逆転写反応:RNAの変性は、冷却・加温アルミブロックインキュベーター(プチクール MiniT-C、ワケンビーテック株式会社製)上で、65℃で5分間加熱後、氷冷することにより行った。0.2mLのPCRチューブ(日本ジェネティクス株式会社製)に、変性させたRNA 1μgと、逆転写酵素(ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Master Mix、東洋紡株式会社製)4μLとを入れ、DEPC処理水(ナカライテスク株式会社製)を加えて総量20μLとして、混和させた。混和後のRNAを、サーマルサイクラー(ジーンアトラス、株式会社アステック社製)を用いて、37℃・10分間→50℃・5分間→98℃・5分間→4℃からなる温度変化に供して反応させ、cDNAを合成した。cDNAは4℃で保存した。
Real-time qPCR:PCR反応プレート(Bioplastics社製)の各ウェル内で、合成したcDNA 2μL、増幅ターゲットに対するプライマー0.4μL(Thermo Scientific社製)、Brilliant III Ultra-Fast SYBR(登録商標)Green QPCR Master Mix SYBR(登録商標)用ROX Plus(アジレント・テクノロジー株式会社製)10μL、及びDEPC処理水7.6μLを混和した。PCR反応は、AriaMxリアルタイムPCRシステム(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて行った。95℃・3分間の初期変性の後、95℃・5秒間→60℃・30秒間からなるPCR反応を40サイクル行った。遺伝子の発現量の評価は、Aria MX Real-Time PCR Software(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用い、ハウスキーピング遺伝子をGAPDHとして、相対定量解析を行った。
使用したプライマー(ハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子の増幅用Forward及びReverseプライマー、並びに、IL-1β遺伝子の増幅用Forward及びReverseプライマー)の塩基配列を以下の表6に示す。
Figure 2022186528000006
・結果:
得られた結果を以下の表7及び図7のグラフに示す。AA菌由来LPSを加えない対照群に対して、AA菌由来LPSを加えた未処置群では、AA株由来LPSにより炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)遺伝子の発現量が増加しており、炎症が誘導されたことが示された。これに対し、AA菌由来LPS及び試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーを加えた群では、未処置群と比較してIL-1β遺伝子の発現量が低減されており、何れも顕著な炎症応答抑制作用(抗炎症作用)が認められた。なお、各水酸化マグネシウムスラリーの炎症応答抑制作用は、試験例3(水酸化マグネシウムのD50=437nm)→試験例2(同D50=190nm)→試験例1(同D50=57nm)の順に向上しており、水酸化マグネシウムの粒径が小さくなるに従って炎症応答抑制作用が向上する傾向が認められた。また、各試験例の水酸化マグネシウムスラリーについて水酸化マグネシウム濃度の影響を検討すると、何れも水酸化マグネシウム濃度が高くなる(濃度10mg/L→50mg/L→100mg/L→500mg/L)に従って、炎症応答抑制作用が向上する傾向が認められた。
Figure 2022186528000007
[VI.水酸化マグネシウムスラリーの破骨細胞分化修飾作用評価1]
水酸化マグネシウムスラリー(殺菌性組成物)による破骨細胞の分化修飾作用を、破骨細胞分化誘導因子(RANKL、M-CSF)によりマウス骨髄細胞に誘導した破骨細胞形成及び破骨細胞分化マーカー(Cathepsin K、DC-STAMP、NFATc1)遺伝子発現の抑制作用に基づき評価した。なお、各試験の各群についてn=3で評価した。
・水酸化マグネシウムスラリー:
試験例1の水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液を調製して用いた。
・骨髄細胞
ddYマウス(日本エスエルシー株式会社から入手)の大腿骨、脛骨から採取した骨髄細胞を用いた。
・破骨細胞分化マーカー(Cathepsin K、DC-STAMP、NFATc1)遺伝子の発現量の測定:
マウス骨髄細胞を6ウェルプレート(CELLSTAR社製)に細胞数1×105個/ウェルとなるように播種した。播種した細胞に、破骨細胞分化誘導因子であるRANKL(濃度40ng/mL)及びM-CSF(濃度20ng/mL)を加えると共に、試験例1の各水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液(水酸化マグネシウム濃度10mg/L及び100mg/L)となるように添加して2時間の培養を行った。また、未処置例としてRANKL(濃度40ng/mL)及びM-CSF(濃度20ng/mL)を加えると共に、水酸化マグネシウムスラリーを含まない1×PBSを用いた例についても、上記と同様の培養を行った。培養後の細胞より、下記の方法を用いて、破骨細胞の形成及び破骨細胞分化マーカー(Cathepsin K、DC-STAMP、NFATc1)遺伝子の発現を検出した。
・TRAP染色:
酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)染色は以下の手順で行った。即ち、leukocyte acid phosphatase kit(Sigma-Aldrich製)を用いてメーカーのプロトコールに従い、多核のTRAP陽性細胞を染色し、BZ-9000 fluorescence microscope (Keyance製)で観察した。さらに3核以上のTRAP陽性細胞数を目視でカウントした。
・リアルタイムRT-qPCR法による遺伝子発現検出方法:
リアルタイムRT-qPCR法は、使用したプライマーを除き、前記Vと同様の手順で実施した。使用したプライマー(GAPDH遺伝子の増幅用Forward及びReverseプライマー、並びに、破骨細胞分化マーカー(Cathepsin K、DC-STAMP、NFATc1)遺伝子の増幅用Forward及びReverseプライマー)の塩基配列を以下の表8に示す。
Figure 2022186528000008
・結果:
リアルタイムRT-qPCR法による破骨細胞分化マーカー(Cathepsin K、DC-STAMP、NFATc1)遺伝子の発現抑制効果を図8及び以下の表9及び表10に示す。水酸化マグネシウムスラリーを加えない対照群では、破骨細胞分化誘導因子(RANKL、M-CSF)によりマウス骨髄細胞に破骨細胞形成及び破骨細胞分化マーカー(Cathepsin K、DC-STAMP、NFATc1)遺伝子発現が誘導されたのに対し、試験例1の水酸化マグネシウムスラリーを加えた群では、対照群と比較して破骨細胞形成及び破骨細胞分化マーカー(Cathepsin K、DC-STAMP、NFATc1)遺伝子の発現量が何れも抑制されており、顕著な破骨細胞分化修飾作用が認められた。
Figure 2022186528000009
また、得られたTRAP染色写真を図9Aに示すと共に、本写真に基づくTRAP陽性細胞数(破骨細胞数)の計測結果を下記の表10並びに図9Bに示す。これらの結果からも、試験例1の水酸化マグネシウムスラリーには、顕著な破骨細胞分化修飾作用が認められた。
Figure 2022186528000010
[VII.水酸化マグネシウムスラリーの破骨細胞分化修飾作用評価2]
水酸化マグネシウムスラリー(殺菌性組成物)による破骨細胞の分化修飾作用を、TRAP染色写真に基づき、水酸化マグネシウムの粒度分布及び濃度の観点から評価した。なお、各試験の各群についてn=3で評価した。
・水酸化マグネシウムスラリー:
試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーを1×PBSと混合した試験液(水酸化マグネシウム濃度1mg/L、10mg/L、及び100mg/L)を調製して用いた。
・骨髄細胞
前記実施例VIと同様に、ddYマウス(日本エスエルシー株式会社から入手)の大腿骨、脛骨から採取した骨髄細胞を用いた。
・TRAP染色:
前記実施例VIと同様に、酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)染色は以下の手順で行った。即ち、leukocyte acid phosphatase kit(Sigma-Aldrich製)を用いてメーカーのプロトコールに従い、多核のTRAP陽性細胞を染色し、BZ-9000 fluorescence microscope (Keyance製)で観察した。さらに3核以上のTRAP陽性細胞数を目視でカウントした。
・結果:
得られたTRAP染色写真を図10Aに示すと共に、本写真に基づくTRAP陽性細胞数(破骨細胞数)の計測結果を下記の表11並びに図10Bに示す。即ち、試験例1~3の各水酸化マグネシウムスラリーは、水酸化マグネシウム濃度が高くなる(濃度1mg/L→10mg/L→100mg/L)に従い、破骨細胞形成(TRAP陽性細胞数)が抑制されており、破骨細胞分化作用の抑制効果が認められた。
Figure 2022186528000011
本発明は、口腔内細菌やその他の感染症細菌等の殺菌・抗菌用医薬品・医薬部外品、破骨細胞分化抑制用医薬品・医薬部外品、除菌・抗菌用生活用品など、種々の分野に利用可能であり、その有用性は高い。

Claims (17)

  1. 下記(A)及び(B)を充足する水酸化マグネシウムを主成分として含有する殺菌性組成物。
    (A)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積50%粒子径(D50)が20~1000nmである。
    (B)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積10%粒子径(D10)と体積基準累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10)が5以下である。
  2. 前記水酸化マグネシウムの動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積10%粒子径(D10)が10~800nmである、請求項1に記載の殺菌性組成物。
  3. 前記水酸化マグネシウムの動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積90%粒子径(D90)が40~2000nmである、請求項1又は2に記載の殺菌性組成物。
  4. 前記水酸化マグネシウムの下記式(I)で表される沈降度が0.3以上である、請求項1~3の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
    ・沈降度=H/H0 式(I)
    (但し、当該水酸化マグネシウムを10g/Lの割合で水と混合し、10分間撹拌して得られたスラリー100mLをメスシリンダーに入れ、直後に測定される内容物の高さをH0、10分間静置後に測定される内容物の高さをHとする。)
  5. 水酸化マグネシウム濃度が0.0003g/L以上の水性懸濁液である、請求項1~4の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
  6. 感染症細菌に対する殺菌及び/又は抗菌作用を有する、請求項1~5の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
  7. 歯周病原因菌に対する殺菌及び/又は抗菌作用を有する、請求項6に記載の殺菌性組成物。
  8. 生体細胞からの炎症性因子の放出を低減及び/又は抑制する作用を有する、請求項1~7の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
  9. 破骨細胞の分化抑制作用を有する、請求項1~8の何れか一項に記載の殺菌性組成物。
  10. 下記(A)及び(B)を充足する水酸化マグネシウムを主成分として含有する、破骨細胞の分化を抑制するための組成物。
    (A)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積50%粒子径(D50)が20~1000nmである。
    (B)動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積10%粒子径(D10)と体積基準累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10)が5以下である。
  11. 前記水酸化マグネシウムの動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積10%粒子径(D10)が10~800nmである、請求項10に記載の破骨細胞分化抑制用組成物。
  12. 前記水酸化マグネシウムの動的光散乱法粒度分布測定による体積基準累積90%粒子径(D90)が40~2000nmである、請求項10又は11に記載の破骨細胞分化抑制用組成物。
  13. 前記水酸化マグネシウムの下記式(I)で表される沈降度が0.3以上である、請求項10~12の何れか一項に記載の破骨細胞分化抑制用組成物。
    ・沈降度=H/H0 式(I)
    (但し、当該水酸化マグネシウムを10g/Lの割合で水と混合し、10分間撹拌して得られたスラリー100mLをメスシリンダーに入れ、直後に測定される内容物の高さをH0、10分間静置後に測定される内容物の高さをHとする。)
  14. 液体状、スラリー状、ペースト状、粉末状、又は顆粒状である、請求項1~13の何れか一項に記載の組成物。
  15. 生体及び/又は環境に使用するための、請求項1~14の何れか一項に記載の組成物。
  16. 医薬品、医薬部外品、動物用医薬品、又は日用製品である、請求項1~15の何れか一項に記載の組成物。
  17. 洗口剤、歯磨剤、身体用洗剤、洗濯用洗剤、身体用殺菌剤、日用品用殺菌剤、医療機器用殺菌剤、又は環境用除菌・抗菌剤である、請求項1~16の何れか一項に記載の組成物。
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