JP2021003733A - 抵抗スポット溶接方法および溶接部材の製造方法 - Google Patents
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Description
この溶接法は、重ね合わせた2枚以上の鋼板を挟んでその上下から一対の電極で加圧しつつ、上下電極間に高電流の溶接電流を短時間通電して接合する方法であり、高電流の溶接電流を流すことで発生する抵抗発熱を利用して、点状の溶接部が得られる。この点状の溶接部はナゲットと呼ばれ、重ね合わせた鋼板に電流を流した際に鋼板の接触箇所で両鋼板が溶融し、凝固した部分である。このナゲットにより、鋼板同士が点状に接合される。
例えば、特許文献1には、高張力鋼板への通電電流を漸変的に上昇させることによりナゲット生成を行なう第1ステップと、上記第1ステップの後に電流下降させる第2ステップと、上記第2ステップ後に電流上昇させて本溶接すると共に、漸変的に通電電流を下降させる第3ステップとを備えた工程によりスポット溶接を行なうことで、通電初期のなじみ不良に起因する散りを抑制しようとする高張力鋼板のスポット溶接方法が記載されている。
例えば、分流の影響が大きな場合に累積発熱量を合わせようとすると、鋼板間ではなく電極−鋼板間近傍での発熱が著しくなり、鋼板表面からの散りが発生しやすくなるという問題がある。
「複数枚の金属板を重ね合わせた被溶接材を、一対の電極によって挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法において、
通電パターンを2段以上の多段ステップに分割して、溶接を実施するものとし、
まず、本溶接に先立ち、各ステップ毎に、定電流制御により通電して適正なナゲットを形成する場合の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化および単位体積当たりの累積発熱量を目標値として記憶させるテスト溶接を行い、
ついで、本溶接として、該テスト溶接で得られた単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線を基準として溶接を開始し、いずれかのステップにおいて、瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線から外れた場合に、その差を当該ステップの残りの通電時間内で補償すべく、本溶接の累積発熱量がテスト溶接で予め求めた累積発熱量と一致するように通電量を制御する適応制御溶接を行うことを特徴とする抵抗スポット溶接方法。」を開発し、特許文献6において開示した。
また、本発明は、上記の抵抗スポット溶接方法により、重ね合わせた複数枚の金属板を接合する、溶接部材の製造方法を提供することを目的とする。
まず、発明者らは、特許文献6の技術において、通電パターンを分割することなくテスト溶接を行い、このテスト溶接で得られた単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を基準として適応制御溶接を行うことを試みた。
しかし、外乱の影響が大きい場合には、やはり適応制御が追随できず、本溶接の発熱の形態、つまり溶接部の温度分布の時間変化が、目標とする良好な溶接部が得られる熱量パターンから外れ、必要とするナゲット径が得られなかったり、散りが発生したりするという問題が生じた。
・テスト溶接条件を見直す、具体的には、
実際の溶接で想定される外乱のある状態を模擬したうえでテスト溶接を行うとともに、
テスト溶接および本溶接において、それぞれ本通電の前に予通電を行い、
本溶接の予通電および本通電では、テスト溶接の予通電および本通電時に記憶させた瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を基準とした適応制御溶接を行う、
ことが有効であり、
・これにより、より広い範囲の外乱の状態に対して、適応制御溶接時における溶接部の熱量パターンを、テスト溶接における熱量パターンに沿わせることが可能となり、その結果、通電パターンを分割するタイミングを決定するための予備試験に係る工数を低減することが可能となる、
・また、特に、自動車の製造などの実作業においては、次々と流れてくる被処理材を連続的に溶接するが、施工条件や被処理材の寸法誤差などによって、通常、溶接位置や被処理材ごとに外乱の状態は変動する、
・この点、上記の溶接方法によれば、外乱のない状態でのテスト溶接により得られた時間変化曲線等を基準とした場合に比べ、より広い範囲の外乱の状態に対して適応制御が有効に働くので、外乱の状態の変動に有効に対応して所望のナゲット径を安定的に確保することが可能となって、実作業での作業効率や歩留まりの向上という点からも有利になる、
との知見を得た。
すなわち、
(a)テスト溶接を、上掲した特許文献6のように外乱のない状態で行う場合、外乱の影響が特に大きい状態で適応制御を有効に働かせるには、テスト溶接条件を非常に厳密に設定する必要があり、このテスト溶接条件を導出するには、多くの予備試験を行う必要がある。
(b)この点、テスト溶接において、実際の溶接で想定される外乱のある状態を模擬すれば、外乱の影響が大きい場合でも、適応制御を有効に働かせることが可能となる。
(c)しかし、本溶接における実際の外乱の影響が小さい場合に、厳しい外乱を模擬して得たテスト溶接の熱量パターンに沿って適応制御溶接を行うと、通電初期に溶接電流が過大となり易く、散り発生のリスクが高まる。
また、本溶接における実際の外乱の影響が、テスト溶接で想定した外乱の影響よりも著しく大きい場合には、なおも溶接電流が不十分となって、十分なナゲット径が得られない場合がある。
(d)この点、テスト溶接および本溶接において、それぞれ本通電の前に予通電を行い、本溶接の予通電および本通電では、テスト溶接の予通電および本通電時に記憶させた瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を基準とした適応制御溶接を行うことにより、予通電の開始時点で、本溶接における実際の外乱の状態と、テスト溶接で想定した外乱の状態との間に差があったとしても、本通電の開始時点では、被溶接材である金属板間の通電経路の状態が近くなって、その差が大幅に緩和される。
(e)そのため、実際の溶接で想定される外乱のある状態を模擬したうえでテスト溶接を行うとともに、テスト溶接および本溶接において、それぞれ本通電の前に予通電を行い、本溶接の予通電および本通電では、テスト溶接の予通電および本通電時に記憶させた瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を基準とした適応制御溶接を行うことにより、より広い範囲の外乱の状態に対して、適応制御溶接時における溶接部の熱量パターンを、テスト溶接における熱量パターンに沿わせることが可能になる、
と発明者らは考えている。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
1. 複数枚の金属板を重ね合わせた被溶接材を、一対の電極によって挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法であって、
本溶接と、該本溶接に先立つテスト溶接とを行うとともに、該本溶接および該テスト溶接ではそれぞれ予通電および本通電を行うものとし、
前記テスト溶接では、
外乱のある状態を模擬したうえで、予通電および本通電を定電流制御により行い、
また、該予通電および該本通電においてそれぞれ、適正なナゲットを形成する場合の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を記憶させ、
前記本溶接では、
予通電および本通電をそれぞれ、前記テスト溶接の予通電および本通電で記憶させた単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を基準として溶接を行い、
該予通電または該本通電において、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線から外れた場合には、その外れ量を残りの該予通電または該本通電の通電時間内で補償すべく、該予通電または該本通電での単位体積当たりの累積発熱量がそれぞれ、前記テスト溶接の予通電または本通電で予め求めた単位体積当たりの累積発熱量と一致するように通電量を制御する、
抵抗スポット溶接方法。
また、本発明によれば、自動車の製造などの実作業において次々と流れてくる被処理材を連続的に溶接する(溶接位置や被処理材ごとに外乱の状態が変動する)場合であっても、散りの発生なしに適切な径のナゲットを安定して得ることができるので、実作業における作業効率や歩留まりの向上という点でも有利となる。
本発明の一実施形態は、複数枚の金属板を重ね合わせた被溶接材を、一対の電極によって挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法であって、
本溶接と、該本溶接に先立つテスト溶接とを行うとともに、該本溶接および該テスト溶接ではそれぞれ予通電および本通電を行うものとし、
前記テスト溶接では、
外乱のある状態を模擬したうえで、予通電および本通電を定電流制御により行い、
また、該予通電および該本通電においてそれぞれ、適正なナゲットを形成する場合の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を記憶させ、
前記本溶接では、
予通電および本通電をそれぞれ、前記テスト溶接の予通電および本通電で記憶させた単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を基準として溶接を行い、
該予通電または該本通電において、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線から外れた場合には、その外れ量を残りの該予通電または該本通電の通電時間内で補償すべく、該予通電または該本通電での単位体積当たりの累積発熱量がそれぞれ、前記テスト溶接の予通電または本通電で予め求めた単位体積当たりの累積発熱量と一致するように通電量を制御するものである。
テスト溶接では、外乱のある状態、具体的には、本溶接で想定される外乱のある状態を模擬したうえで、予通電および本通電をそれぞれ定電流制御により行い、該予通電および該本通電においてそれぞれ、適正なナゲットを形成する場合の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を記憶させる。
なお、ここでいう溶接位置と既溶接点との距離は、それぞれの中心間距離である。
なお、金属板同士の合わせ面の隙間とは、電極により加圧される前の溶接位置での金属板同士の合わせ面の隙間(合わせ面間の距離)である。
というのは、実際の溶接で想定される外乱のある状態を模擬したうえでテスト溶接を行うとともに、テスト溶接および本溶接において、それぞれ本通電の前に予通電を行い、当該本溶接の予通電および本通電ではそれぞれ、テスト溶接の予通電および本通電時に記憶させた瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を基準とした適応制御溶接を行う、ことにより、
本溶接の予通電の開始時点で、本溶接における実際の外乱の状態と、テスト溶接で想定した外乱の状態との間に差があったとしても、本溶接の本通電の開始時点では、被溶接材である金属板間の通電経路の状態が近くなって、その差が大幅に緩和される。
その結果、より広い範囲の外乱の状態に対して、適応制御溶接時における溶接部の熱量パターンを、テスト溶接における熱量パターンに沿わせることが可能になるからである。
また、予通電条件については特に限定されるものではないが、予通電時の定電流制御による溶接電流I1は2〜13kA、通電時間は20〜400msとすることが好ましい。
なお、通電時間は20〜1000msとすることが好ましい。
なお、本願でいう定電流制御には、図7のように溶接電流を一定とする場合だけでなく、図8のように、予通電および/または本通電において溶接電流を直線的(連続的)に増加・減少させる場合も含むものとする。なお、溶接電流を直線的(連続的)に増加・減少させる場合、各通電における溶接電流はその平均値を基準として、I1<I2の関係を満足させることが好ましい。
上記のテスト溶接後、本溶接を行う。本溶接では、予通電および本通電をそれぞれ、前記テスト溶接の予通電および本通電で記憶させた単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を基準として溶接を行い、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線に沿っている場合には、そのまま溶接を行って溶接を終了する。
ただし、該予通電または該本通電において、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線から外れた場合には、その外れ量を残りの該予通電または該本通電の通電時間内で補償すべく、該予通電または該本通電での単位体積当たりの累積発熱量がそれぞれ、前記テスト溶接の予通電または本通電で予め求めた単位体積当たりの累積発熱量と一致するように通電量を制御する。
(すなわち、予通電時に、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線から外れた場合には、その外れ量を残りの該予通電の通電時間内で補償すべく、該予通電での単位体積当たりの累積発熱量が、前記テスト溶接の予通電で予め求めた単位体積当たりの累積発熱量と一致するように通電量を制御する。
また、本通電時に、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線から外れた場合には、その外れ量を残りの該本通電の通電時間内で補償すべく、該本通電での単位体積当たりの累積発熱量が、前記テスト溶接の本通電で予め求めた単位体積当たりの累積発熱量と一致するように通電量を制御する。)
これにより、電極先端が摩耗したり、分流や板隙などの外乱の影響が大きい状態であっても、必要な累積発熱量を確保して、適正なナゲット径を得ることができる。
被溶接材の合計厚みをt、被溶接材の電気抵抗率をr、電極間電圧をV、溶接電流をIとし、電極と被溶接材が接触する面積をSとする。この場合、溶接電流は横断面積がSで、厚みtの柱状部分を通過して抵抗発熱を発生させる。この柱状部分における単位体積・単位時間当たりの発熱量qは次式(1)で求められる。
q=(V・I)/(S・t) --- (1)
また、この柱状部分の電気抵抗Rは、次式(2)で求められる。
R=(r・t)/S --- (2)
(2)式をSについて解いてこれを(1)式に代入すると、発熱量qは次式(3)
q=(V・I・R)/(r・t2)
=(V2)/(r・t2) --- (3)
となる。
以上、特許文献5記載の方法によって、累積発熱量Qを算出する場合について説明したが、その他の算出式を用いても良いのは言うまでもない。
なお、実施例の条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用したものであり、本発明は、これら実施例の条件に限定されるものではない。また、本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
表1に示す2枚重ねまたは3枚重ねの金属板の板組みについて、表2に示す条件で抵抗スポット溶接を行い、溶接継手を作製した。
ここで、テスト溶接は、図1〜4に示すような外乱を模擬した状態、または図5および6のような外乱のない状態で行った。図中、符号11〜13は金属板、14は電極、15はスペーサ、16は既溶接点である。なお、図1および図2に示すように、既溶接点16は2点とし、溶接位置(電極間中心)が既溶接点同士の中間(既溶接点との距離Lがそれぞれ同じ)となるように調整した。なお、既溶接点の金属板間におけるナゲット径(ただし、3枚重ねの板組みでは、板組みのうち最も薄い金属板とそれに接する金属板との間(例えば、表1の板組No.Fの場合、金属板11−12間)におけるナゲット径)は、4√t´(t´:隣り合う2枚の金属板のうち薄い方の金属板の板厚(mm)。ただし、3枚重ねの板組みの場合は、板組みのうち最も薄い金属板の板厚(mm))とした。
また、図3および図4では、各金属板11〜13間にスペーサ15を挿入し、上下からクランプすることで(図示せず)、種々の板隙厚さtgとなる板隙を設けた(3枚重ねの板組みの場合、金属板11、12の間の板隙厚さtgと、金属板12、13の間の板隙厚さtgとは、同じ値である)。なお、板隙間距離はいずれも60mmとした。
さらに、テスト溶接は、表2に示す条件で、本通電のみ、または、予通電および本通電を定電流制御により行い、その際の単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を記憶させた。また、一部の条件では、予通電と本通電の間の通電休止時間を設けた。
なお、溶接機にはインバータ直流抵抗スポット溶接機を用い、電極にはDR形先端径6mmのクロム銅電極を用いた。
また、ナゲット径が4.5√t´以上5√t´未満、かつ散りが発生しなかった場合を○と評価した。一方、ナゲット径が4.5√t´未満であるか、散りが発生した場合を×と評価した。
一方、比較例では、外乱の状態によっては、散りの発生を招いたり、十分な径のナゲットを得ることができず、種々の外乱の状態に対して、本溶接の適応制御溶接時における溶接部の熱量パターンを、テスト溶接における熱量パターンに沿わせることはできなかった。
14:電極
15:スペーサ
16:既溶接点
Claims (3)
- 複数枚の金属板を重ね合わせた被溶接材を、一対の電極によって挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法であって、
本溶接と、該本溶接に先立つテスト溶接とを行うとともに、該本溶接および該テスト溶接ではそれぞれ予通電および本通電を行うものとし、
前記テスト溶接では、
溶接位置から6〜20mm隔てた箇所に既溶接点がある状態、または、前記被溶接材となる金属板同士の合わせ面において0.2〜2.0mmの隙間がある状態で、予通電および本通電を定電流制御により行い、
また、該予通電および該本通電においてそれぞれ、適正なナゲットを形成する場合の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を記憶させ、
前記本溶接では、
予通電および本通電をそれぞれ、前記テスト溶接の予通電および本通電で記憶させた単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量を基準として溶接を行い、
該予通電または該本通電において、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線から外れた場合には、その外れ量を残りの該予通電または該本通電の通電時間内で補償すべく、該予通電または該本通電での単位体積当たりの累積発熱量がそれぞれ、前記テスト溶接の予通電または本通電で予め求めた単位体積当たりの累積発熱量と一致するように通電量を制御する、
抵抗スポット溶接方法。 - 前記テスト溶接の予通電の溶接電流をI1、前記テスト溶接の本通電の溶接電流をI2としたとき、I1<I2の関係を満足する、請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
- 請求項1または2に記載の抵抗スポット溶接方法により、重ね合わせた複数枚の金属板を接合する、溶接部材の製造方法。
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