以下、発明を実施するための最良の形態としての本発明の実施形態に係る収差補正装置及び光ピックアップについて順に説明する。
本実施形態に係る収差補正装置は、上述の課題を解決するために、光ディスクから反射される光ビームの波面収差を補正する収差補正装置であって、印加される電圧の大きさに応じた位相差を前記光ビームに付与することで、前記波面収差を補正する収差補正手段と、前記収差補正手段を狭持すると共に前記収差補正手段に対して電圧を印加するためのパターン電極によって構成されている第1及び第2電圧印加手段と、前記印加される電圧を、前記補正すべき波面収差の種類に応じて制御する制御手段とを備え、前記第1電圧印加手段のパターン電極は、前記光ビームが通過する領域の中心部と外周部に分割され、更に前記外周部は前記中心部を中心とした点対称に複数に分割されており、前記複数に分割された外周部のパターン電極は、非点収差補正及び球面収差補正に兼用され、前記中心部のパターン電極は、前記外周部のパターン電極と共に、球面収差補正に用いられる。
本実施形態に係る収差補正装置によれば、上述の課題が、次のように解決される。すなわち、収差補正装置は、光ディスクから反射される光ビームの波面収差を補正する。ここで、「波面」とは、所定の点光源からの光路長が一定の点を集めてできる曲面のことをいい、「波面収差」とは、理想的な波面と実際の波面との幾何光学的なズレのことをいう。波面収差には、非点収差、球面収差、及びコマ収差等がある。
収差補正手段は、印加される電圧の大きさに応じた位相差を光ビームに付与することで、波面収差を補正する。収差補正手段は、例えば、印加される電圧の大きさに応じて屈折率が可変な液晶であるが、光ビームに位相差を付与することが可能な限り、液晶に限られない。「位相差を光ビームに付与する」とは、発生する光ビームの位相差をキャンセルするような位相差を当該光ビームに付与するという意である。
第1及び第2電圧印加手段は、収差補正手段を狭持すると共に、収差補正手段に対して電圧を印加するためのパターン電極によって構成されている。第1及び第2電圧印加手段は、例えば、光ビームが透過可能なように透明電極であり、収差補正手段を光ビームの光路に沿って前後から狭持する。電極パターンは、後述する通りに構成されている。
制御手段は、例えば、制御器、液晶ドライバ、振幅変調器、及びスイッチを備え、印加される電圧を、補正すべき波面収差の種類に応じて制御する。「補正すべき波面収差の種類に応じて」とは、波面収差の種類に応じて発生する光ビームの位相差の平面分布が異なるので、その分布に対応するように、という意である。
ここで、第1電圧印加手段のパターン電極は、光ビームが通過する領域の中心部と外周部に分割され、更に外周部は中心部を中心とした点対称に複数に分割されている。例えば、中心部は略円形であり、その外側に略環状であり8分割された外周部が位置する。ただし、ここでいう「点対称」とは、分割される外周部の各々が、非点収差に起因する波面分布に合わせて、中心部を対称点として対称に位置する意であり、言い換えれば、厳密に点対称である必要はなく、非点収差を所望の程度補正可能な限り若干のマージンは許容される趣旨である。
そして、複数に分割された外周部のパターン電極は、単に非点収差補正に用いられるだけではなく、非点収差補正及び球面収差補正に兼用される。中心部のパターン電極は、他の球面収差補正に用いられる。これは、上述のように複数に分割された外周部のパターン電極に対して、一様に電圧を印加すれば、外周部のパターン電極を、分割されていない略環状の電極パターンとみなせることによる。このようにして、この分割されていない略環状の電極パターンと、中心部のパターン電極との組合せによって、一組の球面収差補正用のパターン電極が得られる。
以上により、第1電圧印加手段だけでも、非点収差、及び球面収差の双方を補正することが可能になるので、第2電圧印加手段も併せれば、コマ収差にも対応することが可能となる。したがって、本実施形態に係る収差補正装置によれば、比較的簡易な構成でありながらも、非点収差、球面収差、及びコマ収差といった比較的多種類の収差を好適に補正することが可能となり、実践上非常に有利である。
本実施形態に係る収差補正装置の一態様では、前記制御手段は、前記複数に分割された外周部のパターン電極のうち非点収差の方向に対応した位置の電極に対して、非点収差補正用の電圧を印加し、加えて、前記複数に分割された外周部のパターン電極に対して、球面収差補正用の電圧を一様に上乗せして印加するように、前記印加される電圧を制御する。
この態様によれば、制御手段による制御下、複数に分割された外周部のパターン電極のうち非点収差の方向に対応した位置の電極に対して、非点収差補正用の電圧が印加される。「非点収差の方向」とは、非点収差に起因して、波面が方向性をもって変形することに鑑みて、該変形した波面を元に戻すような方向乃至その方向に若干のマージンを許容した方向である。このとき、非点収差補正用の電圧は、変形した波面を元に戻すように、複数に分割された外周部のパターン電極のうち非点収差の方向に対応した位置の電極に対して、印加される。このようにして、非点収差の方向性に応じて非点収差を好適に補正することができる。これに加えて、複数に分割された外周部のパターン電極に対して、球面収差補正用の電圧が、一様に上乗せして印加される。「一様に」とは、球面収差に方向性が殆ど無いことに鑑み、複数に分割された外周部のパターン電極を一の環と見立て、複数に分割された外周部のパターン電極の各々に対して略同様に、という意である。ただし、球面収差が所望の程度補正できる限りにおいて、複数に分割された外周部のパターン電極の全てに対して、完全に同じ電圧を印加することまでは要さない。「上乗せして」とは、非点収差補正用の電圧と、球面収差補正用の電圧とを重ね合わせた結果の電圧を、各パターン電極に対して印加する意である。以上により、第1電圧印加手段の一部に対しては非点収差、及び球面収差補正用の電圧が印加され、もって第1電圧印加手段だけでも、非点収差、及び球面収差の双方を補正することが可能になる。
本実施形態に係る収差補正装置の他の態様では、前記第2電圧印加手段のパターン電極は、前記ラジアルチルト方向又は前記タンジェンシャルチルト方向のうち少なくとも一方に対応したコマ収差補正に用いられる。
この態様によれば、第1電圧印加手段だけでも、非点収差、及び球面収差の双方を補正することが可能である上に、第2電圧印加手段によって、コマ収差にも対応することが可能となる。したがって、本実施形態に係る収差補正装置によれば、比較的簡易な構成でありながらも、非点収差、球面収差、及びコマ収差といった比較的多種類の収差を好適に補正することが可能となり、実践上非常に有利である。
本実施形態に係る収差補正装置の他の態様では、前記第1電圧印加手段の前記中心部は更に、円状の第1中心部と、その外側で前記第1中心部と前記外周部との間に位置する、環状の第2中心部とに分割されており、前記第2中心部のパターン電極は、前記ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向のうち何れか一方に沿った直線を対称軸とした線対称に複数に分割されており、更に前記ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向のうち他方に対応した位置に配置され、前記複数に分割された外周部のパターン電極のうち前記他方に対応した位置に配置された電極と共に、前記他方に対応したコマ収差補正に用いられる。
この態様によれば、第1電圧印加手段の中心部は更に、円状の第1中心部と、その外側で中心部と外周部との間に位置する第2中心部とに分割されている。言い換えれば、第1電圧印加手段のパターン電極は、内側から外側にかけて、第1中心部、第2中心部、及び外周部に分割されている。このうち、第2中心部のパターン電極は、ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向のうち何れか一方に沿った直線を対称軸とした線対称に複数に分割されており、更に前記ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向のうち他方(すなわち前記対称軸と略直交する方向)に対応した位置に配置されている。例えば、第2中心部のパターン電極が、ラジアルチルト方向に沿った直線を対称軸とした線対称に複数に分割されている場合、第2中心部のパターン電極は、その対称軸と直交するタンジェンシャルチルト方向に対応した位置に配置されることになる。ここで、「線対称に複数に分割」とは、分割後の各部が線対称に配置されるように分割する意である。ただし、厳密な意味での線対称のみならず、後述のように対象とする収差を所望程度補正できる限りにおいて、若干の配置ズレは許容される。「ラジアルチルト方向」とは、光ディスクのラジアル方向におけるチルトに対応した、第1及び第2電圧印加手段における光ビームの通過面上での方向であり、「タンジェンシャルチルト方向」とは、光ディスクのタンジェンシャル方向におけるチルトに対応した、第1及び第2電圧印加手段における光ビームの通過面上での方向である。また、「ラジアルチルト方向に対応した位置」とは、光ディスクのラジアル方向におけるチルトに起因して生じるコマ収差を低減することが可能な位相差を前記光ビームに付与しうる電極の位置であり、「タンジェンシャルチルト方向に対応した位置」とは、光ディスクのタンジェンシャル方向におけるチルトに起因して生じるコマ収差を低減することが可能な位相差を前記光ビームに付与しうる電極の位置である。このような位置に配置された第2中心部のパターン電極は、複数に分割された外周部のパターン電極のうち前記他方に対応した位置に配置された電極と共に、前記他方に対応したコマ収差補正に用いられる。例えば、先の例であれば、タンジェンシャルチルトに対応したコマ収差補正に用いられる。以上により、第1電圧印加手段だけでも、非点収差、及び球面収差に加えて、コマ収差をも補正することが可能となり、実践上非常に有利である。尚、第1中心部、及び第2中心部の外径は、球面収差を補正可能な限り必ずしも正円である必要はなく、略円であれば足りる。また、第1中心部、及び第2中心部の外径の半径は、これらのパターン電極を通過する光ビームのビーム径、及び生じる球面収差の半径を、実験又はシミュレーションにより求めておき、該球面収差の補正が必要な領域を必要程度覆うことが可能なように予め定められうる値である。
この態様では、前記第2電圧印加手段のパターン電極は、前記ラジアルチルト方向及び前記タンジェンシャルチルト方向のうち前記第2中心部のパターン電極が対応している前記他方に沿った直線を対称軸とした線対称に複数に分割されており、前記複数に分割された第2電圧印加手段のパターン電極は、前記ラジアルチルト方向及び前記タンジェンシャルチルト方向のうち前記第2中心部のパターン電極が対応していない前記一方に対応したコマ収差補正に用いられる。
この態様によれば、第2電圧印加手段のパターン電極は、ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向のうち、上述した第2中心部のパターン電極が対応している一方に沿った直線を対称軸とした線対称に複数に分割されている。このように複数に分割された第2電圧印加手段のパターン電極は、ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向のうち上述した第2中心部のパターン電極が対応していない前記一方に対応したコマ収差補正に用いられる。例えば、第1電極において上述した第2中心部のパターン電極が、タンジェンシャルチルト方向に対応した位置に配置されている場合、複数に分割された第2電圧印加手段のパターン電極は、ラジアルチルト方向に対応した位置に配置される。以上により、第1電圧印加手段だけでも、非点収差、及び球面収差の双方を補正することができ、更に、第1電圧印加手段と第2電圧印加手段との組合せによって、ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向のコマ収差を共に補正することが可能となり、実践上非常に有利である。
本実施形態に係る光ピックアップ装置は上述の課題を解決するために、前記光ディスクから情報の読み出し又は書き込みを行う光ピックアップであって、請求項1から5の何れか一項に記載の収差補正装置を備え、前記収差補正装置により前記収差を補正しつつ前記情報の読み出し又は書き込みを行う。
本実施形態に係る光ピックアップ装置によれば、上述した本実施形態の収差補正装置を備えるので、上述した本実施形態の収差補正装置の場合と同様に、比較的簡易な構成でありながらも、非点収差、球面収差、及びコマ収差といった比較的多種類の収差を好適に補正することが可能となり、もって、光ディスクから情報の読み出し又は書き込みを好適に行うことが可能となる。
尚、本実施形態の光ピックアップ装置に備わる収差補正装置も、上述した本実施形態の収差補正装置における各種態様と同様の各種態様を採ることが可能である。
本実施形態の作用及び他の利得は次に説明する実施例から明らかにされよう。
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
(1)第1実施例
第1実施例に係る収差補正装置を備える光ピックアップの構成及び動作処理を図1から図9を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施例に係る、光ピックアップ装置の基本構成を概念的に示す構成図である。
図1に示すように、光ピックアップは、レーザ光源1と、偏光ビームスプリッタ2と、液晶パネル3と、1/4波長板4と、対物レンズ5と、集光レンズ6と、受光器7と、液晶パネル制御部8を備えて構成される。光ピックアップにより光ビームを照射される光ディスク10は、スピンドルモータ9により回転駆動される。液晶パネル制御部8にはチルトセンサ11から検出信号が入力される。
図1において、レーザ光源1から出射された光ビームは、偏光ビームスプリッタ2を通過した後、液晶パネル3に入射する。この液晶パネル3を通過する際に、後述するように非点収差、球面収差、及びラジアルチルト又はタンジェンシャルチルトに起因したコマ収差等の波面収差(図2を参照)が補正され、その後、1/4波長板4を通って、対物レンズ5によって光ディスク10の情報記録面に集光される。
光ディスク10は情報記録面の記録トラックが光ビームに対して線速度を一定に保つように、適宜の回転数でスピンドルモータ9により回転駆動される。このとき、光ディスク10は、照射される光ビームの光軸に対しラジアル方向又はタンジェンシャル方向に傾いて、ラジアルチルト又はタンジェンシャルチルトを生じる場合がある。チルトセンサ11は、例えば、1つの発光部と2つの受光部を有し、チルトの検出が可能な位置に配置されている。このとき生じたラジアルチルト又はタンジェンシャルチルトは、チルトセンサ11により検出され、このチルトに対応する検出信号が液晶パネル制御部8に出力される。液晶パネル制御部8は、この検出信号に基づいて、コマ収差の補正を行う。
一方、光ディスク10の情報記録面にて反射された光ビームは、再び対物レンズ5、1/4波長板4を通過して、偏光ビームスプリッタ2によって光路を変更されて、集光レンズ6を介して受光器7上に集光される。この受光器7では、光信号が電気信号に変換されて出力される。このとき、液晶パネル制御部8は、光ビームのデフォーカス状態を変化させて得た複数のビームスポット像に基づいて、非点収差の度合いを検出することができ、受光器7で検出された読み取り信号(いわゆるRF信号)のエンベロープ振幅に基づいて、球面収差の度合いを検出することができる。
続いて、受光器7における光ビームの代表的な波面収差について、図2を参照して説明する。
図2は、受光器7における光ビームの代表的な波面収差を概念的に示す模式図である。ここで、図2(a)は非点収差、図2(b)は球面収差、図2(c)はコマ収差が発生しているときの光ビームの波面を夫々示す。図2の各図において、縦横軸からなる底面は受光器7の受光面に相当し、高さ軸は、光ビームの光路に沿っている。
図2の各図に示すように、収差の種類に応じて波面の形状は異なる。図2(a)に示すように、「非点収差」とは、光ビ−ムの進行方向に垂直な平面内の一方向とそれと交わる他方向との間で、結像位置が互いに異なる現象をいい、そのときの波面は、円柱側面状に窪む。図2(b)に示すように、「球面収差」とは、光ビ−ムが、その中心から離れるにしたがって手前の位置で結像する現象をいい、そのときの波面は、球面状に窪む。図2(c)に示すように、「コマ収差」とは、対物レンズと光ディスクの基板とのラジアル方向又はタンジェンシャル方向の相対的な傾きに起因して、実際の波面が理想的な波面に対して傾く現象をいい、そのときの波面は、平面状に傾いている。実際には、光ビームにおいてこれらの収差が、個別又は複合的に発生するので、上記のように各収差を検出し、液晶パネル3によって適切な収差補正を行う必要がある。
液晶パネル3を用いた収差補正の基本原理について、図3を参照して説明する。
図3は、本発明の第1実施例に係る、液晶パネル3の断面構造を示す断面図である。ここで、図3(a)から図3(c)は、印加電圧e1に応じて液晶分子34Mの向きを水平方向から垂直方向まで段階的に変化させ、その向きに応じた位相差を光ビームに付与する様子を夫々示す。
図3の各図に示すように、液晶パネル3は、液晶分子34Mを含む液晶24を挟んで、液晶24に所定の分子配向性を与えるための配向膜33A,33Bが形成され、各配向膜33A、33Bの外側にITO等よりなる透明電極32A,32Bが蒸着されている。そして、最外部には保護層としてのガラス基板31A,31Bが形成されている。
液晶24は、いわゆる複屈折効果を有し、液晶分子34Mの光学軸方向とこれに垂直な方向とで屈折率が異なっている。そして、透明電極32Aと透明電極32Bとの間に印加する印加電圧e1を変化させることにより、図3(a)から図3(c)に示すように、液晶分子34Mの向きを水平方向から垂直方向まで自在に変えることができる。透明電極32A,32Bへの印加電圧e1は、液晶パネル制御部8により設定され、透明電極32A,32Bの各パターン電極に印加する電圧を調整することにより、各パターン電極により形成される領域ごとに異なる位相差を付与するものである。
図4は、本発明の第1実施例に係る、液晶パネル3に対する印加電圧e1と、光ビームに与える位相との関係を示す特性図である。
図4に示すように、透明電極32A,32Bの各パターン電極への印加電圧e1に応じて、当該パターン電極を通過する光ビームに与えられる位相差は、S字カーブを描く。基準電圧Vcの前後所定範囲においては概ね直線的に変化する。印加電圧e1が基準電圧Vcに対応する場合には、基準位相φcが与えられる。印加電圧e1が基準電圧Vcを上回る場合には、基準位相φcよりも進んだ位相であるφaが与えられる。一方で、印加電圧e1が基準電圧Vcを下回る場合には、基準位相φcよりも遅れた位相であるφbが与えられる。例えば、正負が対称的となる波面収差の補正を行うためには、付与する位相差、すなわち負の位相差φb−φcと正の位相差φa−φcとの絶対値が等しく符号が異なる関係にすればよい。そのためには、負の位相差φb−φcを付与すべきパターン電極に対して、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ減算した電圧を印加し、一方で、正の位相差φa−φcを付与すべきパターン電極に対して、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ加算した電圧を印加すればよい。
図5は、本発明の第1実施例に係る、透明電極のパターン電極の配置を示す平面図である。ここで、図5(a)は透明電極32Aを構成するパターン電極の配置を、図5(b)は透明電極32Bを構成するパターン電極の配置を夫々示す。
図5に示すように、それぞれの透明電極32A,32Bは、所望の収差を補正するために適切な形状に分割されており、それぞれ複数のパターン電極を設けて構成され、個別に駆動制御できるようになっている。
図5(a)に示すように、透明電極32Aは、光学系の非点収差、及び球面収差を補正するために用いられる。そのため、透明電極32Aは、光ビームが通過する領域の中心部32A1,32A2と外周部とに分割され、更に外周部は中心部を中心とした点対称に複数のパターン電極32A3,32A4,32A5,32A6に分割されている。そして、複数に分割された外周部のパターン電極32A3,32A4,32A5,32A6は、非点収差補正及び球面収差補正に兼用され、中心部のパターン電極32A1,32A2は、外周部のパターン電極32A3,32A4,32A5,32A6と共に、球面収差補正に用いられる。
図5(b)に示すように、透明電極32Bは、ラジアルチルト方向に対応したコマ収差を補正するために用いられる。透明電極32Bは、5つのパターン電極32B0,32B1,32B2,32B3,32B4に分割されている。ラジアルチルトによる波面収差の分布に対応して、中心部にはパターン電極32B0が設けられ、これに囲まれてパターン電極32B1,32B2が、直線mを対象軸として線対称に配置されている。一方で、パターン電極32B0の上部と下部には、パターン電極32B3,32B4が直線mを対象軸として線対称に配置されている。
因みに、対物レンズ5の瞳面に対応して光ビームの入射範囲32B5が示され、光ビームがこの入射範囲32B5を通過するように、光ピックアップ内での液晶パネル3の配置が定められる。液晶パネル3を通過する光ビームに対しては、透明電極32Aと、透明電極32Bとから重複して位相差が付与されることになり、すなわち、両電極間の電位差に対応した位相差が付与されることになる。
続いて、各パターン電極の各々に対して駆動用の電圧を印加するための液晶パネル制御部8の構成について、図6を参照して説明する。
図6は、本発明の第1実施例に係る、液晶パネル制御部8の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、液晶パネル制御部8は、CPU等の制御器801と、液晶ドライバ802,803と、反転器804,805と、振幅変調器806,807と、選択スイッチ808とを備えている。そして、液晶パネル3に対し、振幅変調器806から選択スイッチ808を経由して透明電極32Aの各パターン電極に電圧を印加できるように接続されると共に、振幅変調器807から透明電極32Bの各パターン電極に電圧を印加できるように接続されている。
続いて、図7から図9を参照して、透明電極32A,32Bの各パターン電極に対する印加電圧の波形パターンについて、詳述する。
図7は、本発明の第1実施例に係る、透明電極32Aに対する印加電圧を示す、平面的な電圧分布図、及び波形パターンの一例である。
図7(a)は、図2(a)に示したような非点収差を補正するための、透明電極32Aの平面図、及び印加電圧の波形パターンを夫々示す。図2(a)に示したように、非点収差には方向性がある。具体的に例えば、非点収差が生じた波面は、円柱側面状に窪んでいるので、その外周部のうち、該円柱の伸長方向の端と、その直行方向の端とでは、波面の高さが逆相である。そこで、図7(a)に示すように、外周部のパターン電極32A3,32A4,32A5,32A6のうち、非点収差の方向に対応した位置の電極に対して、非点収差補正用の電圧が印加される。具体的には、基準電圧Vcとした場合に、中心部のパターン電極32A1,32A2に対して、基準電圧Vcが印加される。そして、正の位相差φa−φcを付与すべきパターン電極32A3,32A4に対して、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ加算した電圧が印加される一方で、負の位相差φb−φcを付与すべきパターン電極32A5,32A6に対して、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ減算した電圧が印加される。このようにして、非点収差の方向性に応じて非点収差を好適に補正することができる。尚、図7(a)に示す印加電圧の波形パターンあくまで一例であり、非点収差の方向性に応じて適宜変わる。
図7(b)は球面収差を補正するための、透明電極32Aの平面図、及び印加電圧の波形パターンを夫々示す。図2(b)に示したように、球面収差には方向性が殆ど無い。具体的に例えば、波面は、球面状に窪んでいる。ここで、パターン電極32A2に相当する環状領域の波面に対して、負の位相差φb−φcを付与したいとする。この場合、パターン電極32A2に相当する環状領域の波面に対して、負の位相差φb−φcを付与することに代えて、残りのパターン電極32A1,32A3,32A4,32A5,32A6に相当する領域の波面に対して、正の位相差φb−φcを付与してもよい。そこで、図7(b)に示すように、外周部のパターン電極32A3,32A4,32A5,32A6を、一の環と見立て、これらのパターン電極に対して、正の位相差φa−φcを付与すべく、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ加算した電圧が、一様に上乗せして印加される。また、中心部のパターン電極32A1に対しても、正の位相差φa−φcを付与すべく、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ加算した電圧が印加される。これにより、パターン電極32A2に相当する環状領域の波面に与えられる位相差は、他の領域に比べて相対的に負となり、球面収差を補正することができる。
以上の図7(a)及び図7(b)を重ね合わせることによって、図7(c)に示すような印加電圧の波形パターンが得られる。この波形パターンによると、片方の透明電極32Aだけでも、非点収差及び球面収差を共に補正することが可能となる。より詳しくは、図7(b)に示したような波形パターンが、パターン電極32A1,32A3,32A4,32A5,32A6に対して一様に上乗せして印加されても、図7(a)に示したような、パターン電極32A3,32A4とパターン電極32A5,32A6との間に付与される位相差の相対的な関係は維持されるので、非点収差及び球面収差を共に好適に補正することが可能である。
続いて、図7に示す波形パターンとは異なる他例について、図8を参照して説明する。
図8は、本発明の第1実施例に係る、透明電極32Aに対する印加電圧を示す、平面的な電圧分布図、及び波形パターンの他例である。
図8(a)は、図7(a)と同様に、図2(a)に示したような非点収差を補正するための、透明電極32Aの平面図、及び印加電圧の波形パターンを夫々示す。
図8(b)は、図7(b)と異なる、球面収差を補正するための、透明電極32Aの平面図、及び印加電圧の波形パターンを夫々示す。図8(b)では、図7(b)と異なり、パターン電極32A2に相当する環状領域の波面に対して、負の位相差φb−φcを直接的に付与するべく、パターン電極32A2に対して、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ加算した電圧が印加される。これにより、球面収差を補正することができる。因みに、パターン電極32A3,32A4,32A5,32A6に印加される電圧は、パターン電極32A1における基準電圧Vcに対して上下互い違いに印加されることによって平均化されるので、球面収差補正用成分としては略零とみなすことができる。
以上の図8(a)及び図8(b)を重ね合わせることによって、図8(c)に示すような印加電圧の波形パターンが得られる。この波形パターンによると、片方の透明電極32Aだけでも、非点収差及び球面収差を共に補正することが可能となる。
続いて、図9を参照して、透明電極32Bのパターン電極に対する印加電圧の波形パターンについて、詳述する。
図9は、本発明の第1実施例に係る、透明電極32Bに対する印加電圧を示す、平面的な電圧分布図、及び波形パターンである。
パターン電極32B0には、図9の上から2段目〜4段目に示す波形パターンを有する駆動用の電圧Vcが印加される。このVcを基準電圧として、パターン電極32B1,32B4には、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ加算した電圧が印加され、パターン電極32B2,32B3には、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ減算した電圧が印加される。これら駆動用の電圧はそれぞれ同相になっている。これにより、図9の最上段の電圧分布図に示すように、透明電極32Bを通過する光ビームには、パターン電極32B1,32B4の部分、及びパターン電極32B2,32B3の部分の各々に対して、パターン電極40において付与される基準位相φcとは大小異なる位相差が付与される。これにより、ラジアルチルト方向に対応したコマ収差を補正することが可能となる。
以上示したように、第1実施例では、透明電極32Aだけでも、非点収差、及び球面収差の双方を補正することが可能である。加えて、透明電極32Bによって、ラジアルチルト方向(又はタンジェンシャル方向)に対応したコマ収差にも対応することが可能となる。したがって、比較的簡易な構成でありながらも、非点収差、球面収差、及びコマ収差といった比較的多種類の収差を好適に補正することが可能となり、実践上非常に有利である。
(2)第2実施例
第2実施例に係る収差補正装置を備える光ピックアップの構成及び動作処理を図1から図4に加えて、図10及び図12を参照して説明する。尚、第1実施例と同様の構成については、同一の参照符号を付し、説明を適宜省略する。
図10は、本発明の第2実施例に係る、透明電極のパターン電極の配置を示す平面図である。ここで、図10(a)は透明電極32Aを構成するパターン電極の配置を、図10(b)は透明電極32Bを構成するパターン電極の配置を夫々示す。
図10に示すように、第2実施例に係る透明電極32Aは、第1実施例に係るパターン電極の中心部32A2が更に分割されてできた、パターン電極32A7,32A8を備える。そして、透明電極32Bにおいて、パターン電極32B1,32B2が、ラジアルチルト方向に対応した位置に配置される一方で、透明電極32Aにおいて、パターン電極32A7,32A8が、タンジェンシャルチルト方向に対応した位置に配置される。このように、パターン電極32B1,32B2と、パターン電極32A7,32A8とが、ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向に対応した位置に、相補的に、配置されている。
図11は、本発明の第2実施例に係る、液晶パネル制御部8の構成を示すブロック図である。図11に示すように、振幅変調器806から、透明電極32Aのパターン電極32A7,32A8に対しても、電圧を印加できるように接続されている。
図12は、本発明の第2実施例に係る、透明電極32Aに対する印加電圧を示す、平面的な電圧分布図、及び波形パターンである。
図12(a)は、第1実施例に係る図7(c)と同様の、非点収差及び球面収差を共に補正するための、透明電極32Aの平面図、及び印加電圧の波形パターンを夫々示す。
図12(b)は、第2実施例特有のパターン電極32A7,32A8を用いて、タンジェンシャルチルト方向におけるコマ収差を共に補正するための、透明電極32Aの平面図、及び印加電圧の波形パターンを夫々示す。パターン電極32A1〜32A6には、図12(b)の上から2段目〜4段目に示す波形パターンを有する駆動用の電圧Vcが印加される。このVcを基準電圧として、パターン電極32A5,32A7には、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ加算した電圧が印加され、パターン電極32A6,32A8には、基準電圧Vcから所定電圧変位ΔVだけ減算した電圧が印加される。これら駆動用の電圧はそれぞれ同相になっている。これにより、図12(b)の最上段の電圧分布図に示すように、透明電極32Aを通過する光ビームには、パターン電極32A5,32A7の部分、及びパターン電極32A6,32A8の部分の各々に対して、パターン電極40において付与される基準位相φcとは大小異なる位相差が付与される。これにより、タンジェンシャルチルト方向に対応したコマ収差を補正することが可能となる。
以上の図12(a)及び図12(b)を重ね合わせることによって、図12(c)に示すような印加電圧の波形パターンが得られる。この波形パターンによると、片方の透明電極32Aだけでも、非点収差及び球面収差、並びにタンジェンシャルチルト方向に対応したコマ収差を同時に補正することが可能となる。
尚、第2実施例でも、透明電極32Bについては、第1実施例に係る図9と同様の波形パターンを適用するとよい。
以上示したように、第2実施例では、透明電極32Aだけでも、非点収差及び球面収差、並びにタンジェンシャルチルト方向に対応したコマ収差を同時に補正することが可能である。加えて、透明電極32Bによって、ラジアルチルト方向に対応したコマ収差にも対応することが可能となる。したがって、比較的簡易な構成でありながらも、非点収差、球面収差、及びコマ収差といった比較的多種類の収差を好適に補正することが可能となり、実践上非常に有利である。
尚、以上説明した各実施形態で示した分割数以外の分割数で複数のパターン電極を設けるようにしてもよい。この場合には、分割数を多くすると高精度に非点収差や球面収差を補正することが可能となるが、構造及び制御が複雑になり調整に時間を要するので、適度な範囲で分割数を定める必要がある。
また、以上説明した実施形態では、透明電極32Bによって、ラジアルチルト方向に対応したコマ収差を補正する場合について説明を行ったが、透明電極32Bによって、タンジェンシャルチルト方向に対応したコマ収差を補正する構成にしてもよい。
上述した各実施例において、「液晶24」が、本発明に係る「収差補正手段」に相当し、「透明電極32A」が、本発明に係る「第1電圧印加手段」に相当し、「透明電極32B」が、本発明に係る「第2電圧印加手段」に相当し、「液晶パネル制御部8」が、本発明に係る「制御手段」に相当し、「パターン電極32A3,32A4,32A5,32A6」が、本発明に係る第1電圧印加手段における「複数に分割された外周部のパターン電極」に相当し、「パターン電極32A1,32A2」が、本発明に係る第1電圧印加手段における「中心部のパターン電極」に相当し、そのうち「パターン電極32A1」が、本発明に係る「円状の第1中心部」に相当し、「パターン電極32A2」が、本発明に係る「環状の第2中心部」に相当し、「パターン電極32A2,32A7,32A8」が、本発明に係る「複数に分割された第2中心部」に相当し、「パターン電極32B0,32B1,32B2,32B3,32B4」が、本発明に係る「複数に分割された第2電圧印加手段のパターン電極」に相当する。
尚、本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う収差補正装置及び光ピックアップもまた、本発明の技術的範囲に含まれるものである。