本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は第一発明の第1実施例の光走査装置の構成を示す斜視図、図2はその光学系の主走査断面図、図3は光軸を含み主走査断面に直交する副走査断面図を示している。即ち、半導体レーザー11より射出されたレーザービームはコリメータレンズ21により略平行なビーム断面形状に整形される。この整形されたビームはシリンドリカルレンズ22によって回転多面鏡31の偏向面32上に走査方向に平行な線像を結ぶように結像する。回転多面鏡31により偏向された光束は走査レンズ51によって集束ビームとなる。この偏向された集束ビームは折り返しミラー61で反射され、方向を変えて被走査面81上に所定のスポット形状に結像する。この走査レンズ51は従来技術で述べたようにfθ特性を有している。
また、偏向されたビームは被走査面の走査に先立ち、同期検出用ミラー72で反射され、同期検出器71に入射して走査毎の信号処理に必要な同期信号を発生する。これらの構成要素は光学ベース91に固定されている。この光学ベース91はプラスチックで一体に成形されている。上記走査レンズ51は2枚のレンズ51a、51bで構成されており、レンズ51aは光学ガラス、レンズ51bはプラスチックを材料として形成されている。これはレンズ51bの光束を射出する面にトーリック面S9を有しており、プラスチックを用いて成形した方が製作が容易であるからである。
次に、表1に各レンズの各面S1〜S9の軸上面間隔d、近軸半径R、屈折率nとしたときの具体的な光学系の構成を示す。なお、(x)は副走査断面内での近軸半径を示し、(y)は主走査断面内での近軸半径を示す。
半導体レーザー11から放射されるレーザービームの拡がり角は、半導体素子の接合面に平行な面内で10°前後、同じく垂直な面内で30°〜40°もあるため、このビームを有効径の小さなレンズで効率よく取り込むためにはコリメータレンズ21の焦点距離が数mmから20mm程度までのものが一般的である。なお、上記レーザービームの拡がり角の表示は半値全角である。このようにコリメータレンズ21は光走査装置に用いられるレンズの中では光学パワーが一番大きくなっている。従って、レンズの曲率半径をあまり小さくしないために屈折率の大きな光学材料を選んで形成されている。
また、半導体レーザー11との結合効率を高めるためにコリメータレンズ21の開口数を大きくする場合には、コリメータレンズ21の球面収差が結像性能に影響を及ぼすことになる。そこで、面形状を単純な球面でなく非球面形状とすることがある。非球面形状をガラス材料を研磨することで製作することはコスト的に不利であるので、ガラスモールドレンズがよく用いられる。その場合も屈折率とモールドでの成形性(軟らかさ)のため高屈折率のガラス材料が用いられる。この実施例では硝種としてSF8(以下、ガラスの材料名はドイツSHOTT社の商標による)を用いている。非球面形状を与える非球面係数の定義を下記数1に示す。ただし、光学特性の温度による変化を検討するためには近軸半径を用いて計算すればよい。
シリンドリカルレンズ22は通常の光学ガラスで十分特性を満足することができるので、最も一般的な光学ガラスであるBK7を用いる。走査レンズ51aもBK7を用いる。走査レンズ51bは先に説明したように、プラスチック製レンズであり、アクリル樹脂(PMMA)で形成されている。
次に、上記で説明した半導体レーザーや各レンズへの温度の影響について説明する。まず最初に、半導体レーザーの温度による発振波長の変化について説明する。半導体レーザー11は温度によって共振器の長さが変化するため発振波長が変化する。一般的なGaAlAsの半導体レーザーでは温度が1℃上昇すると波長は0.23nm〜0.26nm増加する。この数値を「dλ/dT」と表す。本実施例では代表的な値としてdλ/dT=0.25(nm/℃)を採用して以下の計算を行う。
一方、レンズに用いられる材質の屈折率は波長に依存する。上記の半導体レーザーの発振波長の中心値として780nmを用いる。波長による屈折率の変化(分散)はアッベ数νで表されるが、波長780nm付近を表示するには適当でない。従って正確には多項式で表される分散式に波長を代入して屈折率および波長による屈折率変動(以下、「dn/dλ」と表示する)を求める。一般には波長が長くなるに従い屈折率は低下する。
従って、半導体レーザーの波長変動の影響は、
と表され、温度1℃当りの屈折率の変化で表すことができる。この値を下記に説明する材料自身の温度による屈折率変動と区別するため、「dn´/dT」と表示する。
次に、レンズ材料の屈折率と温度の関係について説明する。一般に光学材料の屈折率は温度によって変動する。レンズ材料の屈折率も変化するが、周囲の空気自身の屈折率も変化する。従って、屈折率の温度による変動率(以下、「dn/dT」と表示する)は同じ温度の空気を基準にした値を用いる。また、レンズ材料が温度上昇により膨張し密度が変化することによる屈折率の変動を含んで表示されている。
屈折率が温度の上昇に伴って上昇するか低下するかはレンズ材料によって異なる。例えば、SFL6のガラスでは他のガラス材料(例えばBK7)に比べて温度による屈折率変動は1桁小さい。逆に走査レンズ51bに用いているアクリル樹脂(PMMA)ではBK7等に比べて1桁以上も大きい。これらのガラス材料は温度が上昇すれば屈折率が大きくなる。これに対して、一般にプラスチック材料では温度が上がれば屈折率が低下する方向にある。
最後に、レンズ材料の温度による体積の変化について説明する。レンズ材料も通常の工業材料と同様に温度によって体積が膨張する。この比率を1次元の量とし、温度1℃当りの寸法の変動率として表したものが線膨張率βである。本発明では、レンズ以外の例えば光学ベース等の部材の熱膨張も考慮している。線膨張率はガラスでは大差はないが、プラスチック材料はガラスに比べて1桁近く大きい。これらの波長による屈折率変化dn´/dλ、材料の屈折率変動dn/dT、線膨張率βの値を代表的な材料について表2に纏めて示す。
さて、ここで、図2、図3に示したこの第一発明の第1実施例で、全体の温度が1℃上昇したときの像面の移動量を検討してみる。各レンズ材料の屈折率変動(dn/dT)、分散と波長変動から生じる屈折率変動(dn´/dT)、レンズの膨張(β)による像面の移動量への寄与の割合と、それら全てを加えたときの像面の移動量を主走査断面および副走査断面の各々において計算すると、次の表3のようになる。
この表において、温度が変化しても各レンズおよび光源(半導体レーザー)、被走査面の位置は変化しないものとして計算してある。符号は像面が光源から遠ざかる方向を正としている。表3に示されるように走査レンズ51bの光学材料の屈折率変動による像面の移動量が他の要因によるものと比べて大きくなっている。また、他の要因もおおむね像面を遠ざける方向に向かっていることが分かる。
さらに詳細に見ると、コリメータレンズ21において、波長変動と分散による屈折率の変動に伴う像面の移動量に比べて、レンズ自身の温度による屈折率の変動による像面の移動量は約半分で移動方向は逆である。
また、コリメータレンズ21はガラス製であるが、レンズ自身の膨張による像面の移動はプラスチック製である走査レンズ51bのレンズ自身の膨張による像面の移動量とほぼ同等であり、ガラスレンズの場合でも光学パワーが大きい場合には温度による膨張も考慮しなければいけないことが分かる。
これら温度による波長変動、材料の屈折率変動、レンズ自身の熱膨張による像面の移動を総称して「光学特性の温度変化による像面の移動」と呼ぶ。上述した従来の技術で説明したように、いままでガラスレンズの熱膨張までを考慮に入れて補正した光走査装置はなかったが、この発明ではこのように像面の移動に影響を及ぼす各要因を正当に評価した上で補正の方法を提案している。
表3に見るように、このまま何らかの補正手段を設けない場合、像面は副走査断面内では温度1℃当たり約0.56mm移動する。また、光走査装置の使用温度範囲15℃での温度差では約8.5mm移動してしまう。波面の揃ったレーザービームはガウシアンビームとしての特性を有しており、ビームの直径が一番小さくなるビームウエストから光軸方向に沿った距離zにおけるビーム直径dは以下の式で表される。また、ビーム直径はビームの断面の強度がピーク強度の1/e2 となるような直径と定義している。
ここで、λは波長、d0 はビームウエストでのビーム直径である。この第1実施例のような光学系ではビームウエストの位置はほぼ幾何学上の結像点に一致する。
上記式によれば、レーザービームのスポットサイズがビームウエストで100μmのとき、温度変動による像面が8.5mm移動すればビーム直径は131μmまで大きくなってしまうことになる。例えば、スポットサイズの変動を+20%、即ち120μmまで抑えようとすれば、像面の移動の許容量は6.7mmとなる。
同様に主走査断面内でも、15℃の温度差のとき像面は約3.2mmだけ移動するが、この量は副走査断面に比べて小さい。これは先に述べたように、本実施例の光学系において、温度変動に対して支配的な走査レンズ51bが主走査断面内より副走査断面内においてパワーが強いためである。このように一般にアナモフィックな光学系では、温度変動に対する光学特性の変化も光軸を含む直交する断面内で異なる場合が多い。言い換えれば、非点収差量が温度によって変化することになる。
このように、光学特性の温度変動によって生じる像面の移動を補正するためには、像面の位置を何らかの方法で検出し、レンズの位置などを微小に変化させて制御する方法も考えられる。このような制御を行えば、非常に精密に像面の位置を望ましい被走査面に一致させることが可能となるが、その構造が複雑で高価なものとならざるを得ない。
そこで、光源やレンズの保持部材の熱膨張を利用してレンズ間隔を変化させ、前記の光学特性の温度変化による像面の移動量を相殺するように像面を移動させればよい。ところが、温度による部材の線膨張率は、通常の機械材料では大まかに言って1×10-4程度の数値であるので、像面の移動量そのものに相当する大きな変位だけ走査レンズを動かすような部材の膨張を得ることは難しい。勿論、機械的な拡大機構を設ければ可能であるが、コストが増大するとともに摩擦や変形による変位量の誤差などで信頼性も低下してしまう。そこで、レンズの僅かな移動が大きな像面の移動を生じさせるような位置にあるレンズを選んで温度による移動量を設定することが望ましいことになる。
この第1実施例に挙げた光学系では、他の部分に比べて光源(半導体レーザー11)とコリメータレンズ21の間隔の変化が最も像面の移動に影響を与えている。よって、この二つを結合している部分の材質を適切に選択するだけで特別な機構あるいは制御装置を設けなくとも光学特性の温度変化による像面の移動を許容値以下に収めることができる。
なお、この半導体レーザー11とコリメータレンズ21の間隔の変化を除いた他のレンズの光学ベースの熱膨張による温度1℃当りの像面の移動量は、主走査断面内で約0.001mm、副走査断面内で0.015mmとなる。これは前記の表3に記載された各要因による移動量の和に比べて遥かに小さく、実質的には考慮しなくてもよい。
上記の温度変化によるレンズの移動の計算においては、各レンズは入射側の面で光学ベース91に取り付けられているとし、半導体レーザー11は発光点位置で光学ベース91に固定されているとした。
この第1実施例のコリメータレンズ周辺の構成の詳細を図4に示す。即ち、半導体レーザー11はLDホルダ12に挿入されており、コリメータレンズ21はコリメータ鏡筒23に取り付けられている。光学ベース91に対してLDホルダ12はねじ止めで、コリメータ鏡筒23は接着剤で固定されている。
前記の温度の変化による各断面内での像面の移動の第1の補正の例として、副走査断面内での像面の移動量がほぼ相殺されるような半導体レーザー11とコリメータレンズ21の距離の変化量を求めると、温度1℃当り約0.35μmとなる。なお、符号は半導体レーザー11がコリメータレンズ21から遠ざかる方向を正としている。このとき主走査断面内では像面は−0.15mmだけ移動する。即ち、この0.35μmの移動量に対しては、主走査断面内では0.36mm、副走査断面内では0.56mm像面が移動している。この光学系では、光学特性の温度変化による像面の移動量が副走査断面の方が主走査断面より大きく、半導体レーザー11とコリメータレンズ21の距離の変化による像面の移動も副走査断面の方が大きい。
つまり、各レンズの光学特性の温度変化による像面の移動量の大きい方の断面が、光源(半導体レーザー11)とコリメータレンズ21の相対距離変動による補正効果も高い。このように温度によって半導体レーザー11とコリメータレンズ21の距離が所定の変化をするように機構部の構造、材質を選定することで光走査装置としての温度による像面の移動を最小限に留めることができる。
上記第1の補正の例では、副走査断面内において温度による像面の移動がほぼ相殺されるように半導体レーザー11とコリメータレンズ21の距離を変化させたが、第2の補正の例として、主走査断面で像面の移動が相殺されるようにすることも可能である。その場合、半導体レーザー11とコリメータレンズ21の温度1℃当りの膨張量を0.21μmとすると、主走査断面では温度変動による像面の移動がほぼ相殺され、逆に副走査断面内では0.22mmの像面移動が補正されずに残る。
さらに、第3の補正の例として、主走査断面、副走査断面とも像面の移動を若干量残し、その絶対量を小さくするように設定することが可能である。例えば、上記の実施例において、半導体レーザー11とコリメータレンズ21の温度による距離の変化(膨張)を温度1℃当り0.29μmとすると、主走査断面内では0.09mm光源側に移動し、副走査断面では0.10mm遠ざかる方に移動する。
このように、上記第1〜第3の補正の例のいずれの補正方法を採っても、補正を行わない場合に比べて主走査断面、副走査断面とも温度1℃当りの像面の移動量は小さくなっている。上述のように、主走査断面、副走査断面いずれの断面で像面の移動量を幾つ以下にするかは、主走査断面、副走査断面のいずれの方向の解像度が要求されるかによって決まる。
次に、この第1実施例に対して具体的に補正方法を検討してみると、光源(半導体レーザー11)からコリメータレンズ21までの距離は約4.76mmであるので、例えば上記の第3の補正方法の条件を満たすためには0.00029/4.76で約61×10-6となる。従って、光源からコリメータレンズ21までが全て同一の線膨張係数の部材で構成される場合、この値の材料を用いればよい。この線膨張率の値は金属材料では困難であるが、プラスチック材料で補強材を用いないか、ガラス入りのプラスチック材料で繊維の流れ方向と直角に用いれば実現可能な値である。あるいはまた、コリメータ鏡筒23の線膨張率をLDホルダ12、光学ベース91に比べて小さくしてもよい。さらに、コリメータ鏡筒23の長さを大きくとったり、他の部材を介在させることでも上記のような半導体レーザー11とコリメータレンズ21との距離の変動を得ることができる。
いままで説明した第1実施例とは逆に、もし光源とコリメータレンズの距離の変化による像面の移動が副走査断面より主走査断面の方が大きい場合に、光学特性の温度変化による副走査断面での像面の移動が生じないように前記の構造、材料を選択しても、今度は逆に主走査断面の像面位置が大きくずれて、そのずれ量は補正を行わない場合の副走査断面の像面の移動量より大きくなってしまう。
この発明ではこのような問題点を解決するために、光源とコリメータレンズの距離の変動により主走査断面より副走査断面においてより大きく像面が移動するように光学系を設定することで、温度による像面の移動に対する補正効果を高めている。そしてこのことは、光軸を含んだ直交断面内での光源から結像点(被走査面)までの縦倍率の比が、温度によるレンズ特性(波長変動を含む)の変化による像面の移動量の比により近い方が補正効果が高くなることを意味している。
また、光学系の構成においては、光源の像の結像点が被走査面にはないがビームウエストが被走査面に一致するような場合もある。このような場合には、必ずしも光源とコリメータレンズの距離の変化に縦倍率を掛けた値だけ像面が移動するわけではない。この場合には、ガウシアンビームの性質を考慮して光源とコリメータレンズの距離の変化に対する像面の移動量を主走査断面および副走査断面の両方について求める必要がある。
この第1実施例では、コリメータレンズ21の後にシリンドリカルレンズ22が配置されている。このシリンドリカルレンズ22を光軸方向に微小移動させても主走査断面内では像面の移動は殆どないが、副走査断面内では像面の位置を移動させることができる。従って、このシリンドリカルレンズ22を単独で温度によって光軸方向に移動させるようにしても、主走査断面について補償を行えば主走査断面および副走査断面いずれについても温度による像面の移動をほぼ完全に相殺することができる。
例えば、この第1実施例では、上記第2の補正の例のように半導体レーザー11とコリメータレンズ21との温度1℃当り相対移動量を0.21μmとし、シリンドリカルレンズ22を温度1℃当り27μm光源側に移動する機構にすれば上記の条件に合致し、主走査断面および副走査断面とも常に被走査面に像面を一致させることができる。
このような機構は非常に精度の高い光走査装置には必要であるが、主として個人ユーザー用のレーザービームプリンターなどさほど解像度が要求されない装置に用いるには構造が複雑で高価である。この発明では既に述べたように光源とコリメータレンズの距離の変化のみを管理するという低価格で簡素な構造にもかかわらず、温度変動が生じても比較的に良好な結像性能を得ることを目標としている。
図4に示した半導体レーザー11およびコリメータレンズ21周辺の構成は、この発明を説明するための一例であって、上記のように半導体レーザー11およびコリメータレンズ21との距離が温度変動によって所要の変化をするものであればどのような構成のものであっても適用することが可能である。
また、この第1実施例では、温度変動による像面の移動が主走査断面内より副走査断面内の方が大きい場合であったが、光学系の構成によっては主走査断面の方が副走査断面より像面の移動が大きい場合もあり得る。そのような場合には、光源とコリメータレンズの距離の変化により副走査断面内より主走査断面内の方が像面の移動が大きくなるようにすればよい。また、第1実施例では、主走査断面および副走査断面とも温度による波長の変動、屈折率の変動、レンズ膨張による像面の移動方向は同じであったが、これは異なる方向であっても同様の観点から補正をすることが可能である。
以上で述べたように、この発明の第一発明によれば、光源とコリメータレンズ間に介在する機構部品の線膨張率を適切に選ぶことのみで、温度による像面の移動量を主走査方向および副走査方向の両断面において実用上十分な範囲に納めることができる。この「実用上十分な範囲」とは、製品の使用される温度範囲や製品の解像度にもよるよるが、この第1実施例で既に述べたとおり約6.7mmとしている。
次に、この第一発明の第2実施例を図面に基づいて説明する。図5は光走査装置の構成を示す斜視図、図6はその光学系の主走査断面図、図7は光軸を含み主走査断面に直交する副走査断面図である。即ち、光源である半導体レーザー11より射出されたレーザービームはコリメータレンズ12によりやや集束光となるようなビーム形状に整形される。この整形されたビームはシリンドリカルレンズ22によってレンズミラー41の反射面S6上に走査方向に平行な線像を結ぶように結像する。
この第2実施例では、コリメータレンズ12の開口数を比較的小さく設定することが可能のためコリメータレンズ12を光学ガラスであるSFL6を用いた球面の平凸レンズである。また、シリンドリカルレンズ22にはBK7を用いている。偏向ユニットには、本件特許出願人の先に出願した特開平6−75162号で提案したレンズミラースキャナを用いている。図5に示したスキャナモータ35の回転部に取り付けられたレンズミラー41は、図6に示すように入射面S5、反射面S6、射出面S7の三つの光学面を有し、内面反射で偏向を行う。この入射面S5、射出面S7は後で述べる結像レンズ81と共に被走査面でのスポットの等線速走査機能、平面結像(光学特性では像面湾曲、非点収差の補正)機能を担っている。
レンズミラースキャナは反射面内に回転軸Oを位置させたとき、最も良い光学特性を得ることができる場合が多い。従って、スキャナモータ35にはレンズミラー41を反射面S6で背中合わせに二つ取り付けることができる。このようなレンズミラー41は通常の回転多面鏡に比べれば外形を小さくすることが可能となるので慣性モーメントも小さく、回転による空気抵抗(風損)の影響も受けにくい。また、慣性2次モーメントが小さいため短い時間に高速な回転数まで達することができ、スキャナモータ35が回転を始めてから走査が可能になるまでの時間が短くてすむことになる。
レンズミラー41のような形状の光学素子はプラスチックで一体成形することが可能でありコスト的にも好ましい。また、プラスチックの密度は小さいためレンズミラー41の質量は小さくなり、レンズミラーの取り付け位置誤差などによるアンバランスを受けにくくなる。さらに、慣性2次モーメントも少なくてすむ。その上、プラスチックの射出成形で製作する場合、入射面S5、射出面S7の形状は球面や円筒面以外に複雑な形状を安価に形成することができるため容易に結像性能を改善することが可能になる。あるいはレンズミラー41の入射面S5、射出面S7をシリンドリカル面で構成することにより、通常のシリンドリカルレンズと同様な方法で加工が可能となり、ガラスを材料として用いる場合でも比較的に安価に製作することができ、かつ、高度の表面精度を得ることが容易である。さらに、光学ガラスはプラスチックに比べて屈折率の高い材料を得ることができる。このため、これらの円筒面の曲率半径を大きくすることが可能となり、一度の工程でより多くのレンズミラーを研磨することで一層のコストダウンが可能である。また、射出面S7を平面としたり、入射面S5を凸面とすることも可能である。この場合には一層製作が容易となり、さらに部品単価を削減することができる。この第2実施例においても、レンズミラー41にはSFL6を円筒面に研磨したものを用いている。
一般の回転多面鏡では1回転に反射面の面数(通常2〜6面)分だけ走査が可能であるに比べて、既に述べたようにレンズミラースキャナではレンズミラーを二つきり使用しないため1回転の走査数が少ない。そのため、その分だけスキャナーモータ35を高速に回転させる必要がある。しかし、レンズミラースキャナでは、上記のように慣性モーメントが小さく、風損、アンバランスも少ないのでこのような走査数の少ない欠点を十分に補うことができる。このレンズミラー41は反射面S6の手前に負の光学パワーの要素を持つため、射出面S7より射出される光束の偏向角速度は走査中央付近では速く、周辺では遅い特性を持っている。これに対して、回転多面鏡では偏向される光束の偏向角速度は一定である。従って、最終的に被走査面上において結像したスポットが等線速で移動するためには好ましいものとなる。
レンズミラー41で偏向されたビームは、次に図6に示す結像レンズ81に入射する。上記のようにレンズミラー41で偏向される光束の角速度は、等角速度ではなく走査両端に行くにしたがって角速度が小さくなる特性を有している。従って、結像レンズ81の特性も通常の回転多面鏡を偏向器として用いた走査装置と異なり、いわゆるfθ作用は持たない。このため、従来の走査レンズのようにfθ特性と平面結像特性の両方を満たす必要がなくなり、それだけレンズ設計の自由度が向上したものとなる。
一般に複数の偏向面を回転させて光束を走査する場合には、各偏向面の回転軸に対する傾きが加工誤差などにより相互に僅かづつ異なる。従って、偏向された光束が被走査面上に描く走査線も使用される偏向面によって副走査方向に変位を生じる。この状態で画像の記録、読取りを行うと、走査線ピッチの誤差を生じ画像の記録、読取りに好ましくない。そこで、副走査断面で光学系を見たときに、偏向面と被走査面が光学的共役関係かあるいはそれに近い状態となるように設計することで、偏向面の面倒れ誤差による光束の副走査方向の角度変位を補正することができる。
この第2実施例においては、結像レンズ81の入射面S8は主走査断面内では高次の非球面係数をもつ非球面(非円弧)であり、副走査断面内では直線となる。また、射出面S9も主走査断面内では高次の非球面係数をもつ非球面(非円弧)であり、副走査断面内では光軸からの距離により曲率が連続的に変化する凸円弧である。この副走査断面の曲率の定義式は下記の数4に示してある。即ち、副走査断面内では像面側に凸面を向けた平凸断面になっている。
先に説明したとおり、このような形状の結像レンズ81をガラスで作ることは困難であるのでプラスチックを用いて製作される。この例では、例えば日本ゼオン社の商標である「ZEONEX」などのアモルファス、ポリオレフィン樹脂を用いている。この樹脂は先の第1実施例に用いたアクリル樹脂(PMMA)に比較して湿度(吸湿)による屈折率あるいは形状の変動を殆ど生じないため、高精度な光学系に適している。また、次の表4に各レンズの軸上面間隔d、近軸半径R、屈折率nの値を示す。なお、(x)は副走査断面内での近軸半径を示し、(y)は主走査断面内での近軸半径を示している。結像レンズ81の射出面の副走査断面での曲率の変化式は上記数4で示す式で与えられる。
ここで、図6、図7に示したこの第一発明の第2実施例において、全体の温度が1℃上昇したときの像面の移動量を検討してみる。まず、各レンズの材料の屈折率変化(dn/dT)、分散と波長変動から生じる屈折率変動(dn´/dT)、レンズでの膨張(β)による像面の移動量への寄与の割合と、それらを全てを加えたときの像面の移動量を主走査断面および副走査断面の各々において計算すると、次の表5に示すようになる。
この表において、温度が変化しても各レンズおよび光源、被走査面の位置は変化しないものとして計算してある。符号は像面が光源から遠ざかる方向を正としている。この表に示されるように、副走査断面内では結像レンズ81の材料の屈折率変動による像面の移動量が他の要因によるものに比べて大きい。また、他の要因もおおむね像面を遠ざける方向に向かっている。
さらにこれを詳細に見ると、コリメータレンズ21においてガラスSFL6を用いているため波長変動と分散による屈折率の変動に伴う像面の移動量に比べて、レンズ自身の温度による屈折率の変動による像面の移動量は非常に小さい。また、レンズの膨張による像面の移動も、波長変動による移動量に比べて約半分程で移動方向は同じである。このまま何らかの補正手段を設けない場合、像面は副走査断面内では温度1℃当たり約0.22mm移動する。また、光走査装置の使用温度範囲15℃の温度差では約3.3mm移動することになる。
同様に主走査断面内でも、温度差15℃のとき像面は約0.8mm移動するが、この量は副走査断面に比べて小さい。これは先に説明したように、この第2実施例の光学系において温度変動に対して支配的な結像レンズ81が主走査断面内より副走査断面内においてパワーが強いためである。
この第2実施例に挙げた光学系でも、他の部分に比べて光源(半導体レーザー11)とコリメータレンズ21の間隔の変化が最も像面の移動に影響を与えている。従って、この二つを結合している部材の材質を適切に選択するだけで特別な機構あるいは制御装置を設けなくとも光学特性の温度変化による像面の移動を許容値以下に収めることができる。なお、この半導体レーザー11とコリメータレンズ21の間隔の変化を除いた他のレンズの光学ベースの熱膨張による温度1℃当たりの像面の移動量は、前記の表5に記載された各要因による移動量の和に比べて遥かに小さく、実質的には考慮しなくてよい。
この数値を前提に、第1の補正例として、副走査断面内での像面の移動量がほぼ相殺されるような半導体レーザー11とコリメータレンズ21の距離の変化量を求めると、温度1℃当たり約1.53μmとなる。なお、符号は半導体レーザー11がコリメータレンズ21から遠ざかる方向を正としている。このとき主走査断面内では像面は−0.1mmだけ移動する。即ち、この1.53μmの移動量に対しては主走査断面内では0.15mm、副走査断面内では0.22mm像面が移動している。この光学系では、光学特性の温度変化による像面の移動量が副走査断面より大きく、光源とコリメータレンズの距離の変化による像面の移動も副走査断面の方が大きい。つまり、各レンズの光学特性の温度変化による像面の移動量の大きい方の断面が、光源とコリメータレンズの相対距離変動による像面の補正効果も高い。このように、温度によって光源とコリメータレンズの距離が所定の変化をするように機構部、材質を選定することで光走査装置としての温度による像面の移動を最小限に留めることができる。
上記第1の補正の例では、副走査断面内において温度による像面の移動がほぼ相殺されるように光源とコリメータレンズの距離を変化させたが、第2の補正の例として主走査断面で像面の移動が相殺されるようにすることもできる。その場合、光源とコリメータレンズの温度1℃当たりの膨張量を0.56μmとすると、主走査断面では温度変動による像面の移動がほぼ相殺され、逆に副走査断面内では0.14mmの像面移動が補正されずに残る。
さらに、第3の補正の例として、主走査断面、副走査断面とも像面の移動を若干量残し、その絶対量を小さくするように設定することも可能である。例えば、上記第2実施例において、光源とコリメータレンズの温度による距離の変化(膨張)を温度1℃当たり1.13μmとすると、主走査断面内では像面は0.057mm光源側に移動し、副走査断面では0.057mm遠ざかる方に移動する。この第2実施例においては、半導体レーザー11とコリメータレンズ21の間に介在する部材が全て前記のガラス50%入りポリカーボネイド樹脂であり、その線膨張率を約1.65×10-5とすると、その距離は温度1℃当たり約0.19μm変化する。これは前記の第1〜第3のいずれの補正の例よりも小さい値である。この場合、温度変化1℃当たりの像面の移動は主走査断面では0.037mm、副走査断面では0.193mmとなり、光走査装置の使用温度範囲±15℃では各々約0.6mmと約2.9mmとなる。
一方、この第2実施例においては、レーザービームのスポットサイズが主走査断面においてビームウエストで70μmのとき、温度変動による像面の移動によるビーム径の拡大を+30%までを許容するとすれば、像面の移動の許容量は4.1mmとなる。従って、いずれの断面でも許容値内であるので、先の第1から第3の補正の例のように大きな補正を加える必要がなく、コリメータレンズ21の周辺の構造が大変簡素になる。また、全て同一の材料で構成することができるため、部品相互の結合において線膨張率の差による歪みや結合部のずれが生じることがなく、信頼性の高い光走査装置を得ることができる。その上、上記に示した1.65×10-5という線膨張率は金属の線膨張率とも比較的に近い値にあるので、半導体レーザー11あるいはコリメータレンズ21を保持する部材に金属を用いることもできる。これは、放熱や加工精度の点でも有利なものとなる。
このように、この発明の第一発明によれば温度による主走査、副走査両断面の像面の移動量を最少にすることも可能であるし、像面の許容の移動量が比較的に大きい場合には補正量を小さめにして機構部の構造を簡素化することも可能である。即ち、どのように補正を行うかは、光走査装置の応用分野や要求される解像度によって変わってくる。しかし、既に説明したとおり、この発明の第一発明によれば温度変化による像面の移動の補正を任意に設定することができ、かつ、この発明の第一発明によらない場合に比べれば、主走査断面および副走査断面の補正を高い次元で両立させることができる。
さらに付け加えるならば、この実施例の実際の結像特性においては、主走査断面内では走査両端(周辺部)では光軸付近より許容の像面の移動量が小さくなる傾向にあり、上記のように許容値に対して主走査断面の余裕を副走査断面の余裕より大きくする方が好ましい。
以上説明した第1、第2の二つの実施例では、走査光学系に温度による屈折率の変化や大気の変化での大きいプラスチックレンズを含んでいたが、ガラスレンズのみで構成されている場合においてもプラスチックレンズを用いた場合に比べれば影響は少ないものの温度変化により光学特性が変化するので、特に高解像度が要求される光走査装置には同様の方法により温度変化に対する像面の移動を少なくすることができる。
以上説明したとおり、この発明の第一発明によれば、偏向器に入射するレーザービーム、あるいはコリメータレンズから射出されるレーザービームの特性(拡がり角)を温度により変化させることで最終的な像面の移動を小さく抑えるものであり、従来技術に示されたコリメータレンズ(あるいはレーザーユニット)から射出されるレーザービームの特性を温度変化によらず一定に保つことを目的とする技術とは根本的に異なるものである。また、半導体レーザーの波長変動による屈折率の変化、レンズ材料の屈折率変化、レンズの膨張、レンズあるいは光源の間隔の温度による変化を全て考慮に入れた補正を行っているこの第一発明は、従来のもののようにこれらの特性のうちある部分にのみ着目した技術とも相違している。なお、この発明の第一発明の光走査装置は、小型のレーザービームプリンターに好適であるが、それに限らず画像読取り用、あるいは物体の検出センサー、バーコードスキャナなどにも応用することが可能であることは勿論である。
次に、この発明の第二発明の第3実施例を説明する。先の第一発明の第1実施例の光学系の主走査断面図である図2および光軸を含み主走査断面に直交する副走査断面図である図3において、像面湾曲量と温度による像面移動の関係を説明する。一般に光走査装置では、その走査幅の全てに亘って像面を被走査面81に一致させることは難しい。いわゆるザイデルの5収差のうち、像面湾曲と非点収差が像面の移動を表し、歪曲収差が線速誤差(fθ誤差)となるからである。
これらを完全に両立させて補正することは難しく、設計上なにがしかの像面湾曲あるいは非点収差が残存することになる。また、設計上において完全に取り除けたとしても、レンズ製造上の誤差や光学系の組立誤差によって像面湾曲あるいは非点収差が生じてしまう。従って、被走査面と像面のずれは前記第一発明の温度変動による像面の移動に、上記の像面湾曲あるいは非点収差を加えたものになる。先に説明したとおり、この発明の第一発明による温度による像面の移動の補正方法では、必ずしも主走査断面および副走査断面の像面の移動を同時に完全には補正することができるようにはなっていない。そこで、各断面における像面移動の許容量を温度変動によるものと像面湾曲あるいは非点収差によるものに配分しなければならない。
前記の第1実施例における光学系全体の像面湾曲と非点収差の収差曲線図を図8に示す。この図から明らかなように、像面湾曲量は破線で示す主走査断面の方が実線で示す副走査断面より大きくなっている。また、走査中心(光軸付近)では主走査断面と副走査断面の像面は一致していない。これは先に説明したとおりシリンドリカルレンズ22の位置を調整することで一致させることもできるが、装置が使用される中心的な温度において、主走査断面の像面湾曲範囲のほぼ中心に副走査断面の像面湾曲範囲の中心をもってくることで平均的な像面の誤差を小さくするためにこのような設定になっている。
主走査断面の像面湾曲量は約8.1mm、副走査断面の像面湾曲量は約2mmあるので、副走査断面の像面湾曲量が約6.1mm少ないことになる。つまり、その分を余分に副走査断面内で温度による像面の移動に振り向けることができる。
この第3実施例では、主走査断面と副走査断面の像面の許容ずれ量がほぼ同じとすれば、半導体レーザー11とコリメータレンズ21の距離の温度による変化を温度1℃当たり0.23μmとすると、温度変化による像面の移動は主走査断面では0.05mm、副走査断面では0.19mmとなり、光走査装置の使用温度範囲±15℃での像面の移動量を上記の像面湾曲量と足し合わせると像面の位置は主走査断面、副走査断面ともほぼ同じ範囲に入ることになる。
次に、この発明の第二発明の第4実施例を説明する。先の第一発明の第2実施例の光学系の主走査断面図である図6および光軸を含み主走査断面に直交する副走査断面図である図7において、像面湾曲量と温度による像面移動の関係を説明する。
前記の第2実施例における光学系全体の像面湾曲と非点収差の収差曲線図を図9に示す。即ち、破線で示される主走査断面の像面湾曲量は約3.8mm、実線で示される副走査断面の像面湾曲量は約0.2mmである。この図から明らかなように、上記第3実施例と同じく像面湾曲量は主走査断面の方が副走査断面より大きくなっている。また、上記第3実施例と同様な理由で走査中心(光軸付近)では主走査断面と副走査断面の像面は一致していない。
この第4実施例では、半導体レーザー11とコリメータレンズ21の間に介在する部材が全て前記のガラス50%入りポリカーボネイト樹脂であり、その線膨張率を約1.65×10-5とすると、その距離は温度1℃当たり約0.19μm変化する。これは前記の第2実施例における第1〜第3のいずれの補正の例よりも小さい値である。この場合、温度変化1℃当たりの像面の移動は主走査断面では0.037mm、副走査断面では0.193mmとなり、光走査装置の使用温度範囲±15℃では各々約0.6mmと約2.9mmとなる。
この像面の移動量を上記の像面湾曲量と足し合わせると、主走査断面では3.8/2+0.6で約2.5mm、副走査断面では0.2/2+2.9で約3mmとなる。一方、この第4実施例においては、レーザービームのスポットサイズが主走査断面においてビームウエストで70μmのとき、温度変動による像面の移動によるビーム径の拡大を+30%まで許容するとすれば、像面の移動の許容量は4.1mmとなる。従って、いずれの断面においても許容値内であるので、先の第2実施例の第1〜第3の補正の例のように大きな補正を加える必要がなく、コリメータレンズ周辺の構造が大変簡素になる。また、全て同一の材料で構成することができるため、部品相互の結合において線膨張率の差による歪みや結合部のずれが生じることがなく、信頼性の高い光走査装置を得ることができる。
その上、上記に示した1.65×10-5という線膨張率は金属の線膨張率とも比較的近い値にあるので、半導体レーザー11あるいはコリメータレンズ21を保持する部材に金属を用いることができ、放熱や加工精度の点でさらに有利なものとなる。
このようにこの発明の第二発明によれば、温度による主走査断面および副走査断面の像面の移動量を最少にすることも可能であるし、像面の許容の移動量が比較的大きい場合には補正量を小さめにして機構部の構造を簡素化することも可能である。即ち、どちらの補正を行うのかは、光走査装置の応用分野や要求される解像度によって変わってくることになる。しかし、既に説明したようにこの発明の第二発明によれば、温度変化による像面の移動の補正を任意に設定でき、かつ、この発明によらない場合に比べれば、主走査断面、副走査断面両断面の補正を高い次元で両立させることができる。さらに、この第4実施例の実際の結像特性においては、主走査断面内では走査両端(周辺部)では光軸付近より許容の像面の移動量が小さくなる傾向にあり、上記のように許容値に対して主走査断面の余裕を副走査断面の余裕がより大きくする方が好ましい。
以上説明した第3実施例および第4実施例の二つは、走査光学系の温度による屈折率の変化や大気での変化の大きいプラスチックレンズを含んでいたが、ガラスレンズのみで構成される場合においてもプラスチックレンズを用いた場合に比べれば影響は少ないものの、温度変化による光学特性が変化するので、特に高い解像度が要求される光走査装置には同様の手法により温度変化に対する像面の移動を少なくすることが可能となる。
このように、この発明の第二発明では、主走査断面および副走査断面の各々の断面において、光走査装置の光学系の設計による、あるいは組立、加工誤差に起因する像面湾曲、非点収差による像面の誤差の小さい方の断面について、温度変動による像面の移動量を多く許容することが出来る。言い換えれば、温度変動による像面の移動量の小さい方の断面については、走査光学系の許容の像面湾曲量を大きくでき、より廉価で生産性の高い方法でレンズを製作することができる。このように、両断面について、像面と被走査面のずれの量の許容値を有効に活用することで、いたずらに各光学部品の精度を上げたり、高精度な組立、調整を行うことなく、走査範囲の全ての幅にわたって、かつ、全ての温度領域で良好な結像特性を得ることができる。
さらに、この発明の第二発明の方法は、偏向器に入射するレーザービーム、あるいはコリメータレンズから射出されるレーザービームの特性(拡がり角)を温度により変化させることで、最終的な像面の移動を小さく抑えるものであり、従来技術に示されたコリメータレンズ(あるいはレーザーユニット)から射出されるレーザービームの特性を温度変化によらず一定に保つことを目的とする技術とは、根本的に異なるものである。
また、この発明の第二発明では、半導体レーザーの波長変動による屈折率の変化、レンズ材料の屈折率の変化、レンズの熱膨張、レンズあるいは光源の間隔の温度による変化を全て考慮にいれた補正を行っており、従来もののようにこれらの特性のうちのある部分にのみ着目した技術とも相違している。なお、この発明の光走査装置は小型のレーザービームプリンターに好適であるが、画像読み取り用、あるいは物体の検出センサ、バーコードスキャナ等にも応用可能である。
11 半導体レーザー 12 LDホルダー 21 コリメータレンズ 22 シリンドリカルレンズ 23 コリメータ鏡筒 31 回転多面鏡 32 反射面 35 スキャナモータ 41 レンズミラー 51 走査レンズ 61 折り返しミラー 71 同期検出器 72 同期検出ミラー 81 被走査面 91 光学ベース